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症例解析1 胃潰瘍 臨床薬物情報学研究室 修士1佳修

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症例解析1 胃潰瘍

臨床薬物情報学研究室

修士1年 楠 佳修

Page 2: 症例解析1 胃潰瘍 - Kanazawa Universitydruginfo/ikaiyou(kusu).pdf症例5 62歳男性 [診断:胃潰瘍] [主訴]みぞおち部の痛み [現病歴]2年前から右膝痛があり、変形性関節炎の診断を受けた。鎮

症例5 62歳 男性[診断:胃潰瘍]

[主訴]みぞおち部の痛み[現病歴]2年前から右膝痛があり、変形性関節炎の診断を受けた。鎮痛薬の処方を受け、症状悪化時に服用していた。2週間ほど前から、右膝痛が悪化したため服薬を開始した。その後、食後1~2時間に増強する心か部痛が出現し、ここ数日食欲不振も認めるため外来を受診した。便通は正常で黒色便もない。体重に変化なし。嘔気・嘔吐なし。立ち上がる時にふらつきを感じない。家庭血圧は不変。

[既往歴]60歳より変形性関節炎、58歳より高血圧[家族歴]特記事項なし[生活歴]喫煙(20歳から20本/日) 飲酒(日本酒1合/日)[薬歴]ジクロフェナク(ボルタレン)錠25 ㎎ 1回1T 毎食後(2週間前より)サクロン

(OTC薬)1回1包 食間又は就寝前の空腹時(4-5日前から)

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症例5 62歳 男性[診断:胃潰瘍]

[身体所見]身長165cm 体重70kg 体温36.4℃血圧135/82mmHg 起立性低血圧認めず 脈拍76/分・整 腹部腫瘍なし。心か部痛に軽度の圧痛はあるが、腫瘍は認めない。眼瞼結膜に貧血・黄疸なし。

[検査所見]白血球数9200/mm3 血色素(Hb)12.5g/dL 血小板数180×103/mm3 AST18IU/mL ALT12IU/L BUN16mg/dL Cr0.9mg/dL 便潜血(+)

上部消化管内視鏡検査:胃角部に活動期(A2)潰瘍活動性出血なし 迅速ウレアーゼ試験(-)

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図解

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症例5 62歳 男性[診断:胃潰瘍]

[主訴]みぞおち部の痛み[現病歴]2年前から右膝痛があり、変形性関節炎の診断を受けた。鎮痛薬の処方を受け、症状悪化時に服用していた。2週間ほど前から、右膝痛が悪化したため服薬を開始した。その後、食後1~2時間に増強する心か部痛が出現し、ここ数日食欲不振も認めるため外来を受診した。便通は正常で黒色便もない。体重に変化なし。嘔気・嘔吐なし。立ち上がる時にふらつきを感じない。家庭血圧は不変。

[既往歴]60歳より変形性関節炎、58歳より高血圧[家族歴]特記事項なし[生活歴]喫煙(20歳から20本/日) 飲酒(日本酒1合/日)[薬歴]ジクロフェナク(ボルタレン)錠25 ㎎ 1回1T 毎食後(2週間前より)サクロン

(OTC薬)1回1包 食間又は就寝前の空腹時(4-5日前から)

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[主訴]みぞおち部の痛み

みぞおちに痛みがある時、みぞおち付近にある臓器(胃、十二指腸、胆嚢、膵臓、肝臓など)の病気が原因である。

「みぞおち部の痛み」だけでは病気の特定は困難である。

そのため患者の症状について以下のことを聞くことが望ましい。

<症状の把握>

1.痛みの位置:「みぞおちだけ」、「みぞおちと腹部の上下左右の

痛み」、「背中などの他の部分」

2.いつ痛みはおきたのか?:急激、食後、空腹時。

3.痛みの特徴:痛みの長さや強さ。

4.その他の症状;発熱、嘔吐、下痢など。

5.女性の場合は月経周期:この期間に腹痛を伴うことが多い。

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症例5 62歳 男性[診断:胃潰瘍]

[主訴]みぞおち部の痛み[現病歴]2年前から右膝痛があり、変形性関節炎の診断を受けた。鎮痛薬の処方を受け、症状悪化時に服用していた。2週間ほど前から、右膝痛が悪化したため服薬を開始した。その後、食後1~2時間に増強する心か部痛が出現し、ここ数日食欲不振も認めるため外来を受診した。便通は正常で黒色便もない。体重に変化なし。嘔気・嘔吐なし。立ち上がる時にふらつきを感じない。家庭血圧は不変。

[既往歴]60歳より変形性関節炎、58歳より高血圧[家族歴]特記事項なし[生活歴]喫煙(20歳から20本/日) 飲酒(日本酒1合/日)[薬歴]ジクロフェナク(ボルタレン)錠25 ㎎ 1回1T 毎食後(2週間前より)サクロン

(OTC薬)1回1包 食間又は就寝前の空腹時(4-5日前から)

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[現病歴]についてPoint:(1)ジクロフェナクの連続服用

(2)食後に増強する心か部痛(3)出血性の所見はみられない。(黒色便がない事、起立性低血圧や血圧低下がみられない事。)(4)食欲不振(5)体重に変化なし(胃潰瘍の場合、通常は減少)(6)嘔気・嘔吐なし(胃潰瘍の場合、通常はあり)

(1)~(3)より⇒変形性関節症による右膝痛の治療ため、ジクロフェナクの連続服用した。その結果胃の粘膜保護作用の低下し、慢性胃潰瘍(出血性のない)が発症した可能性がある。<参考>上記の症状に加え、吐血や下血の症状がある場合は「慢性」で

はなく「急性」の可能性がある。(4)より⇒消化性潰瘍の主症状。*以上のことから「胃潰瘍」の可能性が高いが断定は出来ない。そのためこれらの症状が出た患者に対して「上部消化管内視鏡検査」を速やかに行うことが重要である。

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症例5 62歳 男性[診断:胃潰瘍]

[主訴]みぞおち部の痛み[現病歴]2年前から右膝痛があり、変形性関節炎の診断を受けた。鎮痛薬の処方を受け、症状悪化時に服用していた。2週間ほど前から、右膝痛が悪化したため服薬を開始した。その後、食後1~2時間に増強する心か部痛が出現し、ここ数日食欲不振も認めるため外来を受診した。便通は正常で黒色便もない。体重に変化なし。嘔気・嘔吐なし。立ち上がる時にふらつきを感じない。家庭血圧は不変。

[既往歴]60歳より変形性関節炎、58歳より高血圧[家族歴]特記事項なし[生活歴]喫煙(20歳から20本/日) 飲酒(日本酒1合/日)[薬歴]ジクロフェナク(ボルタレン)錠25 ㎎ 1回1T 毎食後(2週間前より)サクロン

(OTC薬)1回1包 食間又は就寝前の空腹時(4-5日前から)

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[既往歴]について

変形性関節症(右膝) 変形性関節症は「関節軟骨なら

びに関節構成体の退行性変化」と「それに続発する軟骨、骨の破壊」の結果、関節の機能障害や疼痛の原因となる(非炎症性疾患)。発症要因は「年齢・性別・外傷など」

である。

治療薬は疼痛軽減のために、NSAIDsが第一選択薬なるが、ジクロフェナクはCOX-1とCOX-2の両方を阻害する。そのため胃粘膜保護作用のあるPGI2の生成を抑制するため、胃潰瘍が発症した可能性が高い。

高血圧症 血圧と胃潰瘍との明確な因果関係はない。この患者の

診察室血圧が135/82なので高齢者の降圧目標(140/90未満)の範囲内なので特に問題がないと思われる。<慢性高血圧ガイドライン2009より>

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症例5 62歳 男性[診断:胃潰瘍]

[主訴]みぞおち部の痛み[現病歴]2年前から右膝痛があり、変形性関節炎の診断を受けた。鎮痛薬の処方を受け、症状悪化時に服用していた。2週間ほど前から、右膝痛が悪化したため服薬を開始した。その後、食後1~2時間に増強する心か部痛が出現し、ここ数日食欲不振も認めるため外来を受診した。便通は正常で黒色便もない。体重に変化なし。嘔気・嘔吐なし。立ち上がる時にふらつきを感じない。家庭血圧は不変。

[既往歴]60歳より変形性関節炎、58歳より高血圧[家族歴]特記事項なし[生活歴]喫煙(20歳から20本/日) 飲酒(日本酒1合/日)[薬歴]ジクロフェナク(ボルタレン)錠25 ㎎ 1回1T 毎食後(2週間前より)サクロン

(OTC薬)1回1包 食間又は就寝前の空腹時(4-5日前から)

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[生活歴]について喫煙喫煙により胃粘膜膜の血流が減少したり、胃酸分泌が過多になる。ピロリ菌の感染率も非喫煙者と比べて高い。喫煙は胃癌の発症危険性を高める。また、非喫煙者を1とした一日20本喫煙する者の相対危険度は三倍以上となる調査結果(健康日本21より)もあり、「喫煙」がこの患者の胃潰瘍の成因である可能性がある。

飲酒アルコール(エタノール)には粘膜障害作用がある。

健康のための飲酒の量として、例えば一日量の目安は「日本酒2合まで」や「ビール大瓶一本まで」となっている。この患者の場合、一日の飲酒の量が「日本酒1合」なので飲酒が胃潰瘍の成因であるとは考えにくい。

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症例5 62歳 男性[診断:胃潰瘍]

[主訴]みぞおち部の痛み[現病歴]2年前から右膝痛があり、変形性関節炎の診断を受けた。鎮痛薬の処方を受け、症状悪化時に服用していた。2週間ほど前から、右膝痛が悪化したため服薬を開始した。その後、食後1~2時間に増強する心か部痛が出現し、ここ数日食欲不振も認めるため外来を受診した。便通は正常で黒色便もない。体重に変化なし。嘔気・嘔吐なし。立ち上がる時にふらつきを感じない。家庭血圧は不変。

[既往歴]60歳より変形性関節炎、58歳より高血圧[家族歴]特記事項なし[生活歴]喫煙(20歳から20本/日) 飲酒(日本酒1合/日)[薬歴]ジクロフェナク(ボルタレン)錠25 ㎎ 1回1T 毎食後(2週間前より)サクロン

(OTC薬)1回1包 食間又は就寝前の空腹時(4-5日前から)

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[薬歴]についてジクロフェナク(NSAIDS)

解熱・鎮痛作用<機序>シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することでプロスタグランジン合成を抑制するため、解熱・鎮痛効果があると考えられている。しかし胃の上皮でも同様に作用が起こるため、胃酸によって胃炎を起こす可能性がある。(⇒胃潰瘍)<使用目的>変形性関節症による関節炎の痛みの緩和。

OTC薬 サクロン胃酸分泌抑制作用・胃粘膜修復、保護作用

<成分>銅クロロフィンカリウム:胃粘膜保護作用・修復促進作用

無水リン酸水素カリウム:胃酸中和作用沈降炭酸カルシウム:胃酸中和作用水酸化マグネシウム:胃酸中和作用

ロートエキス:胃酸分泌抑制作用<目的>ジクロフェナクの副作用によって荒れた胃の状態を改善、緩和。

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症例5 62歳 男性[診断:胃潰瘍]

[身体所見]身長165cm 体重70kg 体温36.4℃血圧135/82mmHg 起立性低血圧認めず 脈拍76/分・整 腹部腫瘍なし。心か部痛に軽度の圧痛はあるが、腫瘍は認めない。眼瞼結膜に貧血・黄疸なし。

[検査所見]白血球数9200/mm3 血色素(Hb)12.5g/dL 血小板数180×103/mm3 AST18IU/mL ALT12IU/L BUN16mg/dL Cr0.9mg/dL 便潜血(+)

上部消化管内視鏡検査:胃角部に活動期(A2)潰瘍活動性出血なし 迅速ウレアーゼ試験(-)

Page 16: 症例解析1 胃潰瘍 - Kanazawa Universitydruginfo/ikaiyou(kusu).pdf症例5 62歳男性 [診断:胃潰瘍] [主訴]みぞおち部の痛み [現病歴]2年前から右膝痛があり、変形性関節炎の診断を受けた。鎮

[身体所見]について身長が167cm、体重が70kg:この患者のBMIは25.7なので肥満の状態である。しかし胃潰瘍との因果関係はない。

眼瞼結膜について:白目の部分のまぶたの裏側の膜のことを眼瞼結膜と言う。・貧血なし⇒動脈硬化や出血性素因、腎機能に問題がないことを示す。・黄疸なし⇒肝機能に異常がないことを示す。

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症例5 62歳 男性[診断:胃潰瘍]

[身体所見]身長165cm 体重70kg 体温36.4℃血圧135/82mmHg 起立性低血圧認めず 脈拍76/分・整 腹部腫瘍なし。心か部痛に軽度の圧痛はあるが、腫瘍は認めない。眼瞼結膜に貧血・黄疸なし。

[検査所見]白血球数9200/mm3 血色素(Hb)12.5g/dL 血小板数180×103/mm3 AST18IU/mL ALT12IU/L BUN16mg/dL Cr0.9mg/dL 便潜血(+)上部消化管内視鏡検査:胃角部に活動期(A2)潰瘍活動性出血なし 迅速ウレアーゼ試験(-)

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[検査所見]について

便潜血:消化器官にポリープや腫瘍があると、そのどこからか出血したため、便に混入した。

主に大腸に原因があることが多い。

陽性の場合は必ず内視鏡検査を行う。

活動期(A2)潰瘍

粘膜欠損が明らかな潰瘍で、潰瘍縁の線は明確にふちどられている時期。

初期の症状。

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崎田分類(ステージ分類)による各ステージの内視鏡写真

A1:潰瘍辺縁は浮腫状であり潰瘍底は黒苔で覆われている(左上図)

A2:辺縁と浮腫は改善し潰瘍底は白苔に覆われている(左下図)

H1:浮腫辺縁に再生上皮の出現(中央上図)

H2:白苔は薄く縮小し再生上皮が拡大してる(中央下図)

S1:赤色瘢痕(右上)、S2:白色瘢痕(右下

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まとめ1 <胃潰瘍の定義>

胃潰瘍(いかいよう)は、胃から分泌される胃酸と、胃酸から胃壁を守る粘液の分泌とのバランスが崩れ、胃酸によって胃壁に穴(潰瘍)が空き、痛みを感じたり、場合によっては出血を起こす病気である。重度の胃潰瘍の場合は、胃壁の穴が胃の外側にまでつながる場合もある。

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まとめ2<胃潰瘍の診断プロセス>

(1)問診(臨床症状):主訴、現病歴、既往歴、生活歴、薬歴より

(2)身体所見

(3)基本的検査:血液検査、X線撮影

(4)確定診断:上部消化管内視鏡検査

(5)ヘリコバクター・ピロリ菌(H.pylori)の感染診断

以上のプロセスを経て、「胃潰瘍」と診断出来る。

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症例解析に関する質問(Q1)

Q1この患者でみられる胃潰瘍に関係する自覚症状(S)は?

<解答>

・食後1~2時間後に増強する心か部痛・ここ数日食欲不振

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症例解析に関する質問(Q2)

Q2この患者で観察される胃潰瘍に関連する他見所見(O)と検査所見は?

<解答>

・身体(他見)所見から直接胃潰瘍に関連する

所見はなし。

・検査所見:胃角部に活動期(A2)潰瘍あり。

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症例解析に関する質問(Q3)

Q3この患者の胃潰瘍発症のリスク因子は?

<解答>

・喫煙(20歳から20本/日)・飲酒(日本酒1合/日)

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症例解析に関する質問(Q4)

Q4迅速ウレアーゼ試験が陽性の場合は何を意味する?

<解答>・この患者の胃潰瘍の原因が「ヘリバクター・ピロリ菌(H.pylori)」の感染により発症したと判断できる。

・「迅速ウレアーゼ試験」はH.pylori感染の診断には現在最も有用な検査と考えられている。

・特徴は感度と特異性が非常に高い。実施が容易で比較的低コストで迅速に

結果が得られる。

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治療に関する問題<処方>

セレコキシブ(セレコックス)錠100 mg 2錠1日2回 朝夕食後

⇒選択性COX-2阻害薬

オメプラゾール(オメプラール)20 mg 1錠1日1回 寝る前

⇒プロトンポンプ阻害薬(PPI)

ミソプロストール(サイトテック)200 μg錠 4錠1日4回 毎食後と就寝前

⇒粘膜再生・分泌促進薬(プロスタグランジンE1誘導体)

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治療に関する問題(Q1)

Q1消炎鎮痛薬としてセレコキシブの選択の理由?

<解答>

最初に処方されたNSAIDSジクロフェナクナトリウムは非選択性COX阻害薬である。そのため「胃粘膜の恒常性の維持に重要であるCOX-1」と「炎症や疼痛に関与するCOX-2」の両方を阻害するため胃粘膜障害をおこし胃潰瘍を発症させる。

変更されたNSAIDSセレコキシブは膝関節炎症部位に作用するCOX-2を選択的に阻害するので、胃粘膜を障害が少ないので処方されたと考えられる。

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治療に関する問題(Q2)

Q2ミソプロストールが処方された理由?(この患者の潰瘍発生機序を関連させて。)

<解答>プロスタグランジンE1(PGE1)誘導体で、胃酸分泌抑制作用に加えて、粘膜保護作用がある。非選択性COX阻害薬のジクロフェナクナトリウムで胃粘膜の障害が起こった。セレコキシブは選択性COX-2阻害薬であるが、念のために胃粘膜の保護が目的で処方されたと考えられる。

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治療に関する問題(Q3)

Q3この患者の潰瘍予防と治療の観点から生活習慣の改善のアドバイスは?

<解答>

・胃潰瘍の発症と再発のリスクファクターである「喫煙」と「飲酒」は治療上の

観点から避けるべきである。

・ストレスによって胃潰瘍が再発する場合もある。

「ストレス潰瘍」は急性の経過をとることが多く、胃に潰瘍を発生させること

が多い。

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治療に関する問題(Q4)

Q4OTC薬のサクロンの内容物の点から、治療上障害になるものはないか?

<解答>

サクロンにはMgが含まれている。またミソプロストールと併用すると、この薬物の副作用である下痢を発現し易くなるので併用しない。

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薬剤師として考えるべきこと(服薬指導や注意点)

PPIを服用後、症状が消失しても必ず1週間は連続服用を徹底させる。

潰瘍治癒後も再発を抑制するために1年間維持療法を行う。<H2受容体拮抗薬(H2RA)やスクラルファートを使用>

PPIを服用しているので、胃癌による症状を隠蔽する恐れがあるので、悪性でないことを確認する。

この患者のBMIは25.7であり、肥満の状態である。肥満は変形性関節症の増悪因子であるので肥満の改善を指導する。

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参考資料

新・病態生理できった内科学 8消化器疾患

総監修 村川裕二 医学教育出版社

胃酸関連疾患の病態と治療

監訳 中沢三郎 医学書院

消化管の病理学 第2版

藤盛孝博 医学書院