前足部変形(外反母趾や足趾変形)に対する手術方...

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前足部変形(外反母趾や足趾変形)に対する手術方針 変形した足趾の矯正には、小切開による経皮的手術、小侵襲手術( MIS : Minimally Invasive Surgery )を心がけています。 経皮的手術は、靴文化の先進国である欧米を中心に開発された方法ですが、 アジア諸国ではまだあまり行われておらず、 2015 年現在、日本では私以外は 行っていません。 2011 年にこの手術を開始し、 2014 年までに、海外で行われた手術実習に 合計 7 回参加しています(バルセロナ大学病院 4 回、ブライトン・サセックス 大学病院 2 回、ルイジアナ大学病院 1 回)。 具体的には、小型のメスと特殊な骨切り用の器械を使い、幅 2 10mm (平 4 5mm )ほどの小切開を組み合わせることで、様々な足趾変形に対応し ます。 外反母趾および内反小趾を手術した例(無断転載を禁じます。) 長 所:小切開 原則として止血帯(ターニケット)を使用しない 手術時間が比較的短い 術後の痛みが少ない 早期リハビリが可能 短 所:症例によって、従来法でないと対応できない場合があります。(この 場合も、可能なら部分的に経皮的手術を活用することで、切開を最小限にして います。) 適応となる症例: 母趾:外反母趾、強剛母趾など 他趾:槌趾、ハンマー趾、鷲爪変形、内反小趾、中足趾節間(MTP) 関節の

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前足部変形(外反母趾や足趾変形)に対する手術方針 変形した足趾の矯正には、小切開による経皮的手術、小侵襲手術(MIS : Minimally Invasive Surgery)を心がけています。 経皮的手術は、靴文化の先進国である欧米を中心に開発された方法ですが、

アジア諸国ではまだあまり行われておらず、 2015 年現在、日本では私以外は

行っていません。 2011 年にこの手術を開始し、 2014 年までに、海外で行われた手術実習に

合計 7 回参加しています(バルセロナ大学病院 4 回、ブライトン・サセックス

大学病院 2 回、ルイジアナ大学病院 1 回 )。 具体的には、小型のメスと特殊な骨切り用の器械を使い、幅 2 〜10mm(平

均 4 〜 5mm )ほどの小切開を組み合わせることで、様々な足趾変形に対応し

ます。 外反母趾および内反小趾を手術した例(無断転載を禁じます 。)

長 所:小切開 原則として止血帯(ターニケット)を使用しない 手術時間が比較的短い 術後の痛みが少ない 早期リハビリが可能 短 所:症例によって、従来法でないと対応できない場合があります。(この

場合も、可能なら部分的に経皮的手術を活用することで、切開を最小限にして

います 。) 適応となる症例: 母趾:外反母趾、強剛母趾など 他趾:槌趾、ハンマー趾、鷲爪変形、内反小趾、中足趾節間(MTP)関節の

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亜脱臼、中足骨頭部痛、胼胝形成など 適応にならない、またはなりにくい症例: 経皮的手術では矯正しきれないほどの重度の変形 →他の術式の適応になります。 すでに著しい変形性関節症や関節破壊を生じている場合 →関節固定術や骨頭切除術などの適応です。関節固定術だけなら、 経皮的手術で可能な場合があります。 扁平足など、他疾患によって生じた外反母趾、足趾変形など →前足部の矯正だけでなく、後足部の矯正も必要になること があります。この場合も、前足部の部分については、経皮的手術 で対応可能なことがあります。 中足趾節間( MTP )関節の完全脱臼 →他の術式になります。高齢者など特殊なケースでは経皮的手術を 行なうことがあります。 喫煙、糖尿病、重度の肥満など→従来の術式でも注意が必要です。 ***すべての外反母趾及び足趾変形に適応があるわけではありませんので、

ご注意下さい。最終的な術式は、実際に診察・検査をさせていただいた上で決

めています。*** 合併症:基本的に従来の術式と同じで、以下のような合併症の恐れがあります。 感染、神経・血管・腱損傷、熱傷、縫合不全、骨癒合不全、中足骨頭壊死、 内固定材による刺激症状、内反母趾、再発、変形性関節症の進行、疼痛部 位の変化、関節可動域制限、麻酔や抗生剤・鎮痛剤などによる副作用、深 部静脈血栓症、肺塞栓症など 術後のリハビリ:外反母趾または足趾変形の手術だけ行った場合、麻酔方法に

もよりますが、手術当日または翌日から、靴型装具を付けて歩行訓練を開始し

ます。 ただし、当初は腫れるので、足部の冷却と挙上が大事で、短時間の訓練から

始めます。他の足趾手術と同様、術後3ヶ月くらいはむくむことが多いですが、

個人差があります。 術式によって、主に2つの靴型装具を使い分けます。装着期間は 6 週間くら

いですが、術式や骨癒合等によって変わることがあります。 ***痛みや併用した術式等により、リハビリは変わることがあります*** ***疾患や併用した術式等により、装具は変わることがあります*** 入院期間:抜糸は術後平均2週ですが、経過が順調なら早期退院も可能です。

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ただし、併用した術式などによって、変わることがあります。 仮固定に鋼線を使った時には、 1 か月くらいで鋼線を抜く場合が多いです。

内固定のスクリューは、トラブルがなければ抜かないことも多いです。抜く場

合は、局所麻酔または足関節ブロックで、日帰り手術のことが多いです。 疾患と実際の手術例(無断転載を禁じます 。) A. 外反母趾 外反母趾の手術法は200種類以上あるとも言われますが、重症度等によっ

て、主に下記の方法を使い分け、または組み合わせます。 (1) 経皮的 DLMO 法 軽度から中等度の外反母趾に行います。

(2)MICA法( Minimally Invasive Chevron & Akin 法) 中等度から重度の外反母趾に行います。 術前 術後 術前 術後

(3) 第1中足骨近位 colsing wedge 骨切り & Akin 法 中等度から重度外反母趾に行います。

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(4)Lapidus法(関節固定術) 超重度外反母趾や、不安定性のある場合に行います。

B. 強剛母趾 主に、 cheilectomy という、背側の骨棘を削る手術を行います。確認や洗浄

のため、関節鏡を併用することもあります。経皮的な楔状骨切り(基節骨また

は中足骨の矯正骨切り)を追加することもあります。 より重症な場合には、関節固定術を行います。

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C. 内反小趾 タイプによって、いくつかの術式があります。この例では、外反母趾も同時

に経皮的に手術しています。

D. 第2MTP関節亜脱臼 外反母趾や関節リウマチに合併することが多く、この例では足趾の長さを調

整するため、第3趾も短縮しています。

E. 第2MTP関節完全脱臼

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経皮的手術だけでは矯正が不十分な場合があるので、症例を選んで行ないま

す。写真の例は高齢者で、第3MTP関節も脱臼していたため、侵襲と手術時間

を減らすために経皮的手術を行いました。

F. ハンマー趾 関節の硬さに応じて、いくつかの手術法があります。写真は、選択的短趾屈

筋腱切離を行った例です。

G. 鷲爪変形 関節の硬さなどに応じて、いくつかの手技を組み合わせます。

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***当科で手術を希望される方へ*** すでに受診されている病院がある場合には、紹介状をお持ち下さい。病診連

携室経由ですと、初診の方でも、よりスムースに受診できます。 受診されている病院がない場合には、直接初診の手続きを行なって下さい。

倉茂が外来をしていない日は、まず初診医が診察し、その後に足の外科外来を

受診していただきます。