柔軟なロボットハンドを用いた揉み動作による物体...

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柔軟なロボットハンドを用いた揉み動作による物体識別 Haptic object recognition by a robot hand covered with soft skin with tactile sensors ◯学 ( 大院) ( 大院) Takeshi ANMA, Graduate School of Eng., Osaka University, 2-1 Yamadaoka, Suita, Osaka Koh HOSODA, Graduate School of Eng., Osaka University Haptic object recognition by a robot hand is essential for adapting to human environment because of its role in multimodal sensing and detecting affordance. An intrinsic difficulty of such recognition is due to its locality. Tactile information is local compared to vision, and slight difference in contact condition dramatically changes the sense. We hypothesize that the structure of the human hand is the key for avoiding the difficulty. The robot hand with the adaptive design of the human hand, covered with soft skin with multiple tactile receptors, is developed. The hand performs robust haptic recognition through repetitive grasping by virtue of its adaptive design. Key Words: robot hand, object recognition, haptics, grasping, artificial skin 1 緒言 サポート して多く ロボッ トが されている.こ よう ロボットが するに が扱う をする がある. 体に ほかに があり, これら るに 覚が ある. による ために ,ロボットハンド 体に をし けれ い.また,大 センサを したロボットハンド センサ に大き 違い って れ, る. があり, がアーチ っている. アーチ 握り おす による し, させる きがある えられる.ま た, 体に し,握 を変 させるこ する きる. そこ それら したロボット ハンドを する.そして, して え,ロボットハンド によっ し, するこ す.また, によって あるか する. 2 揉み動作を実現するロボットハンド ここ したロボットハンド (Fig.1) につ いて する. して,Alejandro et al. 1) した ハンドを した. Fig.1 ロボットハンド 2.1 空気圧人工筋を用いた駆動 Alejandro et al. 1) してサーボモータを していた.一 2) してマッキベン いるこ した.そ マッキベン (以 )を いる. 2.2 柔軟な人工皮膚の構造 した Fig.2 す.ロボットハン 域を確 しつつ, 体をしっかり するた め, らかく する. ロボットハンド メンテナンス めるため,各 け,それを げる.ただし, について パーツ っている.また,センサ して ひずみゲージをポリ レタン む. Fig.2 2.3 掌及び母指 ロボットハンド について してい く, ため CMC から かれていた.一 アーチ に大きく している. かき により 央にくぼみ き, する.そこ MP 一体 ている (Fig.3)3 揉み動作による物体姿勢の収束 したロボットハンド った に,ロ ボットハンド によって させる

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柔軟なロボットハンドを用いた揉み動作による物体識別

Haptic object recognition by a robot hand covered withsoft skin with tactile sensors

◯学 安間 健 (阪大院) 正 細田 耕 (阪大院)Takeshi ANMA, Graduate School of Eng., Osaka University, 2-1 Yamadaoka, Suita, OsakaKoh HOSODA, Graduate School of Eng., Osaka University

Haptic object recognition by a robot hand is essential for adapting to human environmentbecause of its role in multimodal sensing and detecting affordance. An intrinsic difficultyof such recognition is due to its locality. Tactile information is local compared to vision,and slight difference in contact condition dramatically changes the sense. We hypothesizethat the structure of the human hand is the key for avoiding the difficulty. The robot handwith the adaptive design of the human hand, covered with soft skin with multiple tactilereceptors, is developed. The hand performs robust haptic recognition through repetitivegrasping by virtue of its adaptive design.

Key Words: robot hand, object recognition, haptics, grasping, artificial skin

1 緒言現在,人間のサポートなどを目的として多くのロボッ

トが開発されている.このようなロボットが人間と環境を共有するには,人間が扱う様々な物体の識別をする必要がある.物体には形状のほかに弾性などの特性があり,これらの特性を得るには触覚が必要である.物体の触覚による識別のためには,ロボットハンドは物体に馴染む把持をしなければならない.また,大量のセンサを配置したロボットハンドでは,物体の姿勢が少しでも異なるとセンサ出力に大きな違いとなって表れ,物体の識別には工夫が必要となる.人間の場合,皮膚や筋肉に柔軟性があり,掌がアーチ構

造となっている.特に皮膚の柔軟性や掌のアーチ構造は,握りなおす動作による物体の姿勢の収束を助長し,形状の識別の精度を向上させる働きがあると考えられる.また,筋肉の柔軟性は,物体に馴染む把持を実現し,握力を変化させることで物体の弾性の識別を実現すると期待できる.そこで,本研究ではそれらの特徴に着目したロボット

ハンドを開発する.そして,単純な制御として揉み動作を考え,ロボットハンドの持つ特性及び揉み動作によって物体の姿勢が収束し,識別の精度が向上することを示す.また,皮膚の柔軟性によって物体の形状や弾性の識別が可能であるか検証する.

2 揉み動作を実現するロボットハンドここでは,製作したロボットハンド (Fig.1)の構成につ

いて説明する.駆動機構として,Alejandro et al.1) が開発した義手ハンドを使用した.

Fig.1 ロボットハンドの概観

2.1 空気圧人工筋を用いた駆動Alejandro et al.1) は駆動源としてサーボモータを利用

していた.一方,山野ら 2)は駆動源としてマッキベン型空気圧人工筋を用いることで,可変剛性を実現した.そこで本研究ではマッキベン型空気圧人工筋(以下空気圧人工筋)を用いる.2.2 柔軟な人工皮膚の構造製作した人工皮膚の構造を Fig.2に示す.ロボットハン

ドの可動域を確保しつつ,物体をしっかりと把持するため,内部の層は柔らかく外部の層は硬い層構造を持つ皮膚を製作する.ロボットハンドのメンテナンス性を高めるため,各指

ごとに人工皮膚を取り付け,それを取り付け具に固定し組み上げる.ただし,掌と母指については母指の構造上ひとつのパーツとなっている.また,センサ素子としてひずみゲージをポリウレタン内部に埋め込む.

Fig.2 指部の人工皮膚の構造

2.3 掌及び母指従来のロボットハンドで掌の形状について考慮してい

るものは少なく,母指の可動域の確保のため掌と母指がCMC関節付近から分かれていた.一方人間の場合,掌の皮膚の形状が手のアーチ構造に大きく関与している.特に母指球・指間水かき及び小指球により掌の中央にくぼみができ,適応的な把持を実現する.そこで,掌の皮膚は人間と同様に掌と母指が母指のMP関節まで一体となっている (Fig.3).

3 揉み動作による物体姿勢の収束製作したロボットハンドで揉み動作を行った際に,ロ

ボットハンドの柔軟性によって物体の姿勢を収束させる

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Fig.3 掌及び母指の人工皮膚

ことができることを示す.福田ら 3)は,繰り返し把持において手を完全に広げ物体を放し,次に閉じなおすことで,物体にかかる重力を利用して物体を収束させていた.本研究では,手を完全に広げない揉み動作により物体を収束姿勢に移動させる.これにより,重力による方法では収束が困難であった物体の姿勢の収束が可能になると期待できる.3.1 実験手順本実験で用いる物体を Fig.4 に示す.これらの物体を

ロボットハンドに対してランダムな姿勢に配置し,初期把持を行わせる.その後,揉み動作を 10回行う.揉み動作時の様子を Fig.5に示す.小指及び環指から順に手を広げ,示指及び母指が手を広げると同時に小指及び環指から手を閉じ始める.手を広げ始めてから示指及び母指を閉じるまでを揉み動作の 1ステップとする.なお,1ステップは 1sである.給気時にアクチュエータ内の圧力が0.3MPaとなるようフィードバック制御がされている.

Fig.4 実験で使用する物体 (左から cylinder,prism-a,prism-b)

(a) 揉み動作 0-0.2s

(b) 揉み動作0.2-0.4s

(c) 揉み動作0.4-0.6s

(d) 揉み動作0.6-0.8s

(e) 揉み動作0.8-1.0s

Fig.5 実験の様子

3.2 実験結果と物体識別の検証揉み動作前後における物体の様子を Fig.6に示す.初

期把持時において物体の姿勢が異なる状態でも,揉み動作後には収束していることがわかる.

(a) 状態 1:揉み動作前 (b)状態 1:揉み動作後

(c) 状態 2:揉み動作前 (d)状態 2:揉み動作後

Fig.6 揉み動作前後の物体の姿勢

prism-aと prism-bについて,それぞれ 2種類の姿勢に収束した (Fig.7,8).prism-bについては,福田ら 3) の行った手を広げてからの繰り返し把持の場合には不安定で困難な把持姿勢であり,物体の重力による収束ではなくロボットハンドの持つ柔軟性や形状を利用したことによって,このような物体の姿勢をとることができたと考える.

(a) (b)

Fig.7 揉み動作後の物体の姿勢:prism-a

(a) (b)

Fig.8 揉み動作後の物体の姿勢:prism-b

3.2.1 自己組織化写像による評価自己組織化写像 (Self-Organizing Map,SOM)4) を用

いて,揉み動作前後の把持時 (それぞれ 4.0s,18.0s 時)

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におけるセンサ出力をサンプリングデータとして各時間ごとのクラスタリングを行う.サンプリングデータはセンサ数と同じ 33次元であり,これを SOMを用いて 2次元に圧縮する.クラスタリングには SOM PAK(Version3.1)5) を用いる.SOMの大きさは 32× 32とする.結果を Fig.9に示す.同じ物体が繋がった領域を形成し

ていれば,識別が可能となっていることを表す.揉み動作前 (Fig.9(a))は物体ごとに領域を形成しておらず識別ができていないが,揉み動作後 (Fig.9(b))は物体ごとに分かれ,識別が可能になっていると考えられる.ただし,prism-a及び prism-bについては収束姿勢によってセンサ出力が異なったため,別の物体として識別された.

(a) 揉み動作前 (4.0s) (b) 揉み動作後 (18.0s)

Fig.9 SOMによるクラスタリング

3.2.2 クラス内分散・クラス間分散比による評価各物体において揉み動作前後のセンサ出力の分散を比

較し,実際にセンサの出力として物体が収束しているのか定量的に検証する.また,識別のしやすさの指標としてクラス内分散・クラス間分散比 (within-class variancebetween-class variance ratio)を利用し,その大きさにより検証する.なお,2種類の収束姿勢が確認された prism-a及び prism-bについては,3.2.1同様それぞれの場合に分けて検証する.それぞれの計算結果を Fig.10に示す.どの物体につい

ても揉み動作後にセンサ出力の分散が小さくなっていることから,揉み動作により物体の姿勢が収束することが証明された.また,揉み動作後にクラス内分散・クラス間分散比が大きくなっていることから識別が容易になったといえる.

Fig.10 揉み動作前後における各物体の分散の比較とクラス内分散・クラス間分散比の比較

4 物体の形状及び弾性の識別本節では,物体の形状及び弾性の識別を目指す.具体

的には,形状が同一の物体についてそれを識別し,かつ弾性が異なることを識別することを目指す.ロボットハンドの握力が小さいとき,柔らかい物体は潰さずに形状を保ったまま把持できるため,形状の識別が可能になると考える.一方,握力が大きくなると物体の変形とともに人工皮膚も変形する.そのひずみが物体の弾性によっ

て異なり,センサの出力に違いが出ることで弾性の識別が容易にできると考える.4.1 実験手順本実験で用いる物体を Fig.11 に示す.第 3 節で用い

た物体の他に,人工皮膚と同じポリウレタンで製作したprism-a-soft,prism-b-mid及び prism-b-softを用意した.ここで,prism-a-hardと prism-a-soft,ならびに prism-b-hardと prism-b-mid及び prism-b-softは厚さと幅が等しい.なお,prism-b-midはポリウレタンの主剤と硬化剤の重量比が人工皮膚の外部層と同じ 2:1,prism-a-soft及び prism-b-softは 2.5:1である.

Fig.11 実験で使用する物体 (左から cylinder,pris-m-a-hard,prism-a-soft,prism-b-hard,prism-b-mid,prism-b-soft)

これらの物体をロボットハンドに対してランダムな姿勢に配置し,初期把持を行わせる.第 3節と同様揉み動作を 10回行った後,0.3MPa,0.35MPa,0.4MPaと順に給気圧力を上げて握力を大きくする.各物体について 5回ずつ試行した後,各物体について識別が可能か検証する.なお,第 3節において prism-a及び prism-bは収束姿勢が複数存在することが確認されたが,本実験ではひとつの収束姿勢についてのみ検証し,他のパターンについては考慮しない.4.2 実験結果と物体の識別の検証揉み動作後の 0.30MPa,0.35MPa,0.4MPaの把持時

(それぞれ 18.0s,22.0s,26.0s時)におけるセンサ出力をサンプリングデータとして,主成分分析を用いて評価を行う.第 1主成分と第 2主成分及び第 3主成分の関係を時間

ごとに表したグラフを Fig.12から Fig.14 に示す.第 1主成分-第 2主成分の座標系では,物体の形状によって識別されていることがわかる.また,第 3主成分について,柔らかい物体を大きな握力で把持したときに値が小さくなり,硬い物体とは異なる集合を形成している (Fig. 14(b)).よって弾性についても識別が行われていると考えられる.

5 結言本論文では,柔軟なロボットハンドを用いて,揉み動

作による物体の姿勢の収束及び物体の形状・弾性の識別を目指した.その結果,アクチュエータの柔軟性及び手のアーチ構造を利用し,揉み動作によって様々な物体の姿勢を収束させ,物体の識別が可能となることを示した.繰り返し把持では困難であった姿勢での収束が揉み動作では可能であることから,従来手法では困難であった形状や姿勢における物体の識別に非常に有効であることを示したと考える.これはひとつの物体について様々な姿勢で識別してより識別精度を高めたり,より多くの物体を識別できるようになるために必要となると考える.また,握力が小さい場合には形状ごとに物体を識別し,

その後徐々に握力を大きくするにつれて弾性の違いによってセンサの出力に違いが生じるようになり,結果として別の物体であると識別することが可能となった.また,物体の弾性についても識別が可能であることを示した.こ

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(a) 第 1 主成分-第 2 主成分

(b) 第 1 主成分-第 3 主成分

Fig.12 主成分分析の結果:0.3MPa把持時 (18.0s)

れは人工皮膚の持つ柔軟性によって物体の弾性に応じて皮膚のひずみが変化したためであると考える.この研究は科学研究費基盤 (B)「柔軟なバイオニックハ

ンドによる適応的マニピュレーションの獲得」(19300068)の援助を受けている.ここに感謝を表する.

参考文献[1] Alejandro Hernandez Arieta, Wenwei Yu, Masaharu

Maruishi, Hiroshi Yokoi, and Yushinori Kakazu. In-tegration of a Multi-D.O.F Individual Adaptablewith Tactile Feedback for an EMG Prosthetic Sys-tem. In Intelligent Autonomous Systems 8, pp. 1013–1021, 2004.

[2] 山野直哉, 高椋慎也, 細田耕. 馴染み把持を実現する劣駆動人間型ロボットハンドの開発. ロボティクス・メカトロニクス講演会予稿集,1A1-A11, 2008.

[3] 福田敦史, 細田耕, 安間健. 触覚受容器を内蔵した柔軟な皮膚を持つバイオニックハンドの開発と物体認識.ロボティクス・メカトロニクス講演会予稿集,2A1-E20,2008.

[4] H. Ritter and T. Kohonen. Self-organizing semanticmaps. In Biological Cybernetics, Vol. 61, pp. 241–254. Springer, 1989.

[5] Teuvo Kohonen, Jussi Hynninen, Jari Kangas, andJorma Laaksonen. Som pak: The self-organizingmap program package, 1996.

(a) 第 1 主成分-第 2 主成分

(b) 第 1 主成分-第 3 主成分

Fig.13 主成分分析の結果:0.35MPa把持時 (22.0s)

(a) 第 1 主成分-第 2 主成分

(b) 第 1 主成分-第 3 主成分

Fig.14 主成分分析の結果:0.4MPa把持時 (26.0s)