空間的応用一般均衡モデル「RAEM-Light」を用いた...

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空間的応用一般均衡モデル「RAEM-Light」を用いた道路ネットワーク評価 ~地域間公平性の視点からの実務的アプローチ~* Expressway Network Evaluation Using Spatial Computable General Equilibrium model RAEM-Light-An Empirical Approach from the View Point of Spatial Equity -* 小池淳司**・佐藤啓輔***・川本信秀**** By Atsushi KOIKE**Keisuke SATO****Nobuhide KAWAMOTO**** 1.はじめに 道路ネットワークをはじめとした社会資本整備は,本 来,社会的効率性と地域間公平性の両視点を考慮した上 で計画される必要がある.しかし,一般的には財政的な 制約条件に加えて,わが国のような東西に細長く山地が 多い地形条件下では,上記の両視点を考慮したネットワ ークを一度に整備することは現実的に不可能である.そ のため,わが国では,戦後の経済復興および国力増強を 目的に社会的効率性の高い事業を優先的に行ってきた. その結果,国全体としては経済的に目覚しい発展をとげ ることができたものの,経済規模の小さな地域において は,道路ネットワークが不十分な地域があるなど,地域 間公平性の観点からは,必ずしも望ましい状況にあると は言えない状況にある. このような整備の背景として,わが国では道路ネット ワーク整備の必要性を議論するにあたって費用便益分析 マニュアルに基づく社会的効率性の評価が求められてき た.公共経済学的には,社会的効率性と地域間公平性の 議論を切り離し,仮説的補償原理を前提とした場合,現 在の評価体系は理論的には許容される.しかし,上述し たようにわが国では地域間の整備格差は広がっており, 現在の社会的効率性に偏重した評価体系は計画論の視点 からは必ずしも許容されるべきものではない.一方,実 務レベルでは,地域間公平性の視点からの整備必要性を 訴える際にはアウトカム指標などを用いた事例分析的な アプローチに終始しており,理論的かつ定量的なアプロ ーチを行うに至っていない. *キーワーズ:公共事業評価法,交通ネットワーク分析 **正員,工博 鳥取大学工学部社会開発システム工学科 准教授 (鳥取市湖山町南4-101 TEL0857-31-5313FAX0857-31-0882 ***正員,工修,技術士(建設部門) 復建調査設計()地域経済戦略チーム 主任研究員 (広島市東区光町2-10-11TEL082-506-1853 FAX082-506-1893****正員,工修 復建調査設計()地域経済戦略チーム 研究員 (広島市東区光町2-10-11TEL082-506-1853 FAX082-506-1893そこで,本研究では,道路ネットワーク整備における 地域間公平性の議論を客観的かつ科学的に支援するため のツールとして,空間的応用一般均衡分析(Spatial Co mputable General Equilibrium; SCGE)モデルのひ とつであるRAEM-Light モデルを提示するとともに,中 国地方を対象とした実証分析を通して,モデルの実務的 有効性について検証を行う.SCGEモデルの一般的な特 徴は,帰着ベースの便益を計測することにより整備効果 の地域分布を定量的に把握可能な点にある.しかし,従 来のSCGEモデルは産業連関表に依存したモデル体系で あることからゾーニング単位が県レベルとなり地域レベ ルのミクロな分析を行うことは不可能であった.それに 対してRAEM-Light モデルは,ロジット型の地域間交易 モデルを定式化することで市町村レベルなどの小ゾーン 分析が可能となり,ブロック単位での政策評価分析など において有効なツールであると言える. 2.RAEM-Light(ラーム・ライト)モデルの概説 RAEM-Light は,先行研究である Mun 1)2) による SCGE モデルから人口移動および集積の経済を除いた構 造を想定し,人口分布,各企業の生産技術を外生変数と した多地域多部門の SCGE モデルである.なお,従来 RAEM-Light 3)4) では,中間投入財が考慮されていな かったため,社会構造の一部(最終消費財の取引のみ) を対象とした便益計測となっていた.そのため,本研究 では中間投入財を考慮したモデルを構築することで,り精緻化したモデル構造へと改良を行う. (1)モデルの前提条件 RAEM-Light は,社会経済に対して主に以下の仮定 を設ける. ①多地域多産業で構成された経済を想定する. ②財生産企業は,家計から提供される生産要素(資本・ 労働),他の財生産企業が生産した生産物を投入して, 新たな生産財を生産する. ③家計は企業に生産要素(資本・労働)を提供して所得 を受け取る.そして,その所得をもとに財消費を行う. ④交通抵抗を Ice-berg 型で考慮する.

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空間的応用一般均衡モデル「RAEM-Light」を用いた道路ネットワーク評価

~地域間公平性の視点からの実務的アプローチ~*

Expressway Network Evaluation Using Spatial Computable General Equilibrium model “RAEM-Light”

-An Empirical Approach from the View Point of Spatial Equity -*

小池淳司**・佐藤啓輔***・川本信秀****

By Atsushi KOIKE**・Keisuke SATO****・Nobuhide KAWAMOTO****

1.はじめに

道路ネットワークをはじめとした社会資本整備は,本

来,社会的効率性と地域間公平性の両視点を考慮した上

で計画される必要がある.しかし,一般的には財政的な

制約条件に加えて,わが国のような東西に細長く山地が

多い地形条件下では,上記の両視点を考慮したネットワ

ークを一度に整備することは現実的に不可能である.そ

のため,わが国では,戦後の経済復興および国力増強を

目的に社会的効率性の高い事業を優先的に行ってきた.

その結果,国全体としては経済的に目覚しい発展をとげ

ることができたものの,経済規模の小さな地域において

は,道路ネットワークが不十分な地域があるなど,地域

間公平性の観点からは,必ずしも望ましい状況にあると

は言えない状況にある.

このような整備の背景として,わが国では道路ネット

ワーク整備の必要性を議論するにあたって費用便益分析

マニュアルに基づく社会的効率性の評価が求められてき

た.公共経済学的には,社会的効率性と地域間公平性の

議論を切り離し,仮説的補償原理を前提とした場合,現

在の評価体系は理論的には許容される.しかし,上述し

たようにわが国では地域間の整備格差は広がっており,

現在の社会的効率性に偏重した評価体系は計画論の視点

からは必ずしも許容されるべきものではない.一方,実

務レベルでは,地域間公平性の視点からの整備必要性を

訴える際にはアウトカム指標などを用いた事例分析的な

アプローチに終始しており,理論的かつ定量的なアプロ

ーチを行うに至っていない.

*キーワーズ:公共事業評価法,交通ネットワーク分析 **正員,工博 鳥取大学工学部社会開発システム工学科 准教授 (鳥取市湖山町南4-101、TEL0857-31-5313、FAX0857-31-0882)

***正員,工修,技術士(建設部門) 復建調査設計(株)地域経済戦略チーム 主任研究員

(広島市東区光町2-10-11、TEL082-506-1853、FAX082-506-1893)

****正員,工修 復建調査設計(株)地域経済戦略チーム 研究員

(広島市東区光町2-10-11、TEL082-506-1853、FAX082-506-1893)

そこで,本研究では,道路ネットワーク整備における

地域間公平性の議論を客観的かつ科学的に支援するため

のツールとして,空間的応用一般均衡分析(Spatial Co

mputable General Equilibrium; SCGE)モデルのひ

とつであるRAEM-Lightモデルを提示するとともに,中

国地方を対象とした実証分析を通して,モデルの実務的

有効性について検証を行う.SCGEモデルの一般的な特

徴は,帰着ベースの便益を計測することにより整備効果

の地域分布を定量的に把握可能な点にある.しかし,従

来のSCGEモデルは産業連関表に依存したモデル体系で

あることからゾーニング単位が県レベルとなり地域レベ

ルのミクロな分析を行うことは不可能であった.それに

対してRAEM-Lightモデルは,ロジット型の地域間交易

モデルを定式化することで市町村レベルなどの小ゾーン

分析が可能となり,ブロック単位での政策評価分析など

において有効なツールであると言える.

2.RAEM-Light(ラーム・ライト)モデルの概説

RAEM-Light は,先行研究である Mun1)2)による

SCGE モデルから人口移動および集積の経済を除いた構

造を想定し,人口分布,各企業の生産技術を外生変数と

した多地域多部門の SCGE モデルである.なお,従来

の RAEM-Light3)4)では,中間投入財が考慮されていな

かったため,社会構造の一部(最終消費財の取引のみ)

を対象とした便益計測となっていた.そのため,本研究

では中間投入財を考慮したモデルを構築することで,よ

り精緻化したモデル構造へと改良を行う.

(1)モデルの前提条件

RAEM-Light は,社会経済に対して主に以下の仮定

を設ける.

①多地域多産業で構成された経済を想定する.

②財生産企業は,家計から提供される生産要素(資本・

労働),他の財生産企業が生産した生産物を投入して,

新たな生産財を生産する.

③家計は企業に生産要素(資本・労働)を提供して所得

を受け取る.そして,その所得をもとに財消費を行う.

④交通抵抗を Ice-berg 型で考慮する.

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⑤労働市場は地域で閉じているものの,資本市場は全地

域に開放されているものとする.

なお,モデル式内のサフィックスは,以下のとおりと

する.

地域を表すサフィックス: 1,2, , , ,i II

財を表すサフィックス: 1,2, , , ,m MM

資本市場資本市場

地域 i j地域

家計家計

財市場財市場

労働市場労働市場

企業企業 家計家計

財市場財市場

労働市場労働市場

企業企業

資本市場資本市場

地域 i j地域

家計家計

財市場財市場

労働市場労働市場

企業企業 家計家計

財市場財市場

労働市場労働市場

企業企業

図-1 モデル構造

(2)企業行動モデル

各地域には生産財ごとに1つの企業が存在すること

を想定し,地域 i において財 m を生産する企業の

生産関数をレオンチェフ型で仮定すると以下のように

なる.

Nm

i

Nm

i

nm

i

nm

i

lm

i

lm

i

m

i

m

im

ia

x

a

x

a

x

a

vY ,,,,,.min

0 (1)

ただし,m

iY :地域 i 財m の生産量,m

iv :地域 i 財m の付加価値,nm

ix :地域i の産業n から産業m への中間投入, nm

ia :地域i の産

業n から産業m への投入係数, m

ia0

':地域i 財m の付加価値比率

さらに,付加価値関数をコブダグラス型で仮定する

と以下のようになる.

mi

mi m

i

m

i

m

i

m

i KLAv

1

(2)

ただし,m

iL :地域i 財m の労働投入,m

iK :地域i 財m の資本投

入, m

i :分配パラメータ,m

iA :効率パラメータ

付加価値生産に関する最適化問題は以下のように費

用最小化行動となる.

mi

mi m

i

m

i

m

i

m

i

m

i

m

ii

KLAvts

rKLw

1..

.min (3)

ただし,iw :地域i の賃金率,r :資本レント

上式より,生産要素需要関数 m

iL 、m

iK と付加価値m

icv が超過利潤ゼロの条件から平均費用として得られる.

m

i

m

i

m

oi

i

m

im

i Yqaw

L

(4)

m

i

m

i

m

i

m

im

i Yqar

K 0

1 (5)

mi

mi

mi

mi

m

i

m

i

m

i

im

i

A

rwcv

1

1

1

(6)

ただし, m

icv :地域i 財m の1単位生産あたりの付加価値

(3)家計行動モデル

各地域には家計が存在し,自己の効用が最大になる

よう自地域と他地域からの財を消費するとする.このよ

うな家計行動が以下のような所得制約下での効用最大化

問題として定式化できる.

Mm

m

i

m

iii

Mm

m

i

mM

iiii

dpT

Krwlts

ddddU

..

ln,,,.max 21

(7)

ただし,iU :地域 i の効用関数, m

id :地域 i 財m の消費水準,

m

ip :地域i 財m の消費者価格, m :財m の消費の分配パラメータ

1Mm

m,K :資本保有量,

i

iNT :対象地域全体の総人口,

il :一人当たりの労働投入量

i

Mm

m

ii NLl /

上式より,消費財の最終需要関数 m

id が得られる.

T

Krwl

pd iim

i

m

i

m

i

1 (8)

(4)地域間交易モデル

Harker4)モデルに基づいて,各地域の需要者は消費者

価格(c.i.f. price)が最小となるような生産地の組み合

わせを購入先として選ぶとする.地域 j に住む需要者

が生産地i を購入先として選択したとし,その誤差項が

ガンベル分布に従うと仮定すると,その選択確率は,次

式のロジット型のモデルで表現できる.なお,次式で表

現する地域間交易モデルは,従来の SCGE モデルの枠

組みに対して小地域のゾーニングに対応可能となるよう

定式化したものである.

Ik

kj

mm

k

mm

k

ij

mm

i

mm

im

ijtqY

tqYs

1exp

1exp (9)

ただし,ijt :交通抵抗(費用), m :ロジットパラメータ, m :価

格にしめる輸送費率

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また,消費者価格は次の式を満たしている.

Ii

ij

mm

i

m

ij

m

j tqsp 1 (10)

ただし, m

iq :地域i 財m の生産者価格

(5)市場均衡条件式

本モデルでは、以下の市場均衡条件が成立する.

労働市場 i

Mm

m

i LL

(11)

財市場(需要)

M

i

m

i

i

M

ii

m

ii

ii

MN

i

m

i

N

ii

X

X

X

dN

dN

dN

aa

aa

11

1

1

111

10

01 (12)

m

ij

m

j

m

ij sXz (13)

財市場(供給)

Jj

m

ij

m

ij

mm

i ztY 1 (14)

生産者価格体系

ij

n

Mm Ii

n

i

n

ij

mn

j

n

j

n

i

n

j tqsacvaq

10 (15)

ただし,m

ijz :財m の地域i から地域 j の交易量,m

jX :地域i 財

m の消費量,mn

ja :地域 j の産業m から産業n への投入係数

(6)便益の定義

本モデルでは,施策の効果を計測する指標として経

済的効果を等価変分(EV: Equivalent Variation)を

用いて以下のように定義した.

0

01

000

i

ii

U

UU

iii

i

e

eerKLwEV (16)

ただし, 1,0 :道路整備の有り無しを表すサフィックス

(7)パラメータの設定

基準均衡データとして,表1で示す労働・資本投入量,

付加価値,人口分布,地域間所要時間を用いた.

表-1 基準均衡データ

基準均衡データ 設定方法

m

iL , m

iK (労働と資本) 各県産業連関表および市町村民経済計

算よりゾーン別に設定

m

iv (付加価値) 市町村民経済計算よりゾーン別に設定

iN (人口) 国勢調査よりゾーン別に設定

m

ijt (地域間所要時間)

Digital Road Map 1900をベースにダイクストラ法によるゾーン間最短経路

探索により算出

※各リンクの旅行速度は H17 道路交通センサスにおける混雑時旅行速度を使

用.新規路線については各事業の設計

速度を使用.

企業,家計のモデルに関するパラメータの推計方法を

表2に示す.生産要素分配パラメータ m

i ,効率パラメ

ータ m

iA および消費分配パラメータ m

i については,産

業連関表を用いたキャリブレーションにより各県別・産

業別に設定し,地域間交易モデルにおけるパラメータに

ついては,交易状況が県内でも大きくことなる地域が存

在することから地域別・産業別に推定した.なお,推計

にあたっての産業分類は,第 1 次産業,2 次産業,3 次

産業の 3 分類とし,第 3 次産業については,交易に関す

る統計データが存在しないことから本研究では,地域間

交易を行わないものとして設定した.パラメータの推定

結果は表3および4に示す.

表-2 パラメータ推計法

パラメータ 推計方法

生産要素分配パラメー

タ; m

i

mm i ii m m

i i i

w L

w L rK

効率パラメータ; m

iA

1m m

i i

mm ii

m m

i i

yA

L K

消費分配パラメータ;m

i

最終需要額に占める各財のシェア

として設定.

地域間交易モデルのパ

ラメータ; m

i

m

i ,

グリッドサーチ 6)により推定.実測値の地域間交易量は付加価値に

m

i を乗じて各財の消費額を算出

し,その消費額に各財の交通 OD

シェアを乗じることで地域間交易

量を算出している.なお,各財の

交通 OD は,施設間流動データである H17 道路交通センサスの積載

品目別 OD を活用している.しか

し,本来,経済データと整合性のある交通データは純流動ベースの

データであることから,本稿では

施設間流動データを補正し活用している.具体的には,内々率の補

正として各県の産業連関表の産業

別の自給率を各財の交通 OD の内々率におきかえることで交通

OD データを作成している.

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以下に,パラメータの推計結果を示す.

表-3 生産要素分配・効率・消費分配パラメータ

1次 2次 3次 1次 2次 3次 1次 2次 3次

鳥取県 0.188 0.708 0.661 1.621 1.830 1.897 0.015 0.373 0.611島根県 0.282 0.722 0.608 1.812 1.806 1.953 0.027 0.340 0.632岡山県 0.193 0.759 0.622 1.632 1.737 1.940 0.003 0.465 0.532広島県 0.200 0.716 0.596 1.649 1.817 1.963 1E-09 0.370 0.630山口県 0.282 0.707 0.615 1.812 1.830 1.947 0.003 0.465 0.533徳島県 0.237 0.643 0.553 1.729 1.919 1.989 0.024 0.387 0.589香川県 0.195 0.781 0.624 1.638 1.691 1.939 0.017 0.406 0.577愛媛県 0.276 0.631 0.595 1.803 1.932 1.964 0.026 0.420 0.553高知県 0.307 0.632 0.653 1.852 1.931 1.907 0.047 0.241 0.712兵庫県 0.242 0.713 0.597 1.740 1.821 1.963 1E-19 0.431 0.569大阪市 0.685 0.756 0.657 1.864 1.743 1.903 1E-19 0.101 0.899その他大阪府 0.425 0.756 0.663 1.978 1.743 1.894 1E-19 0.267 0.733福岡県 0.204 0.761 0.632 1.658 1.733 1.931 0.008 0.330 0.663

生産要素分配パラメータ 効率パラメータ 消費分配パラメータ

表-4 交易モデルのパラメータ

山陰 山陽 四国 近畿 九州

第1次 4.14 5.02 3.94 5.82 9.89産業 0.12 0.10 0.10 0.09 0.09第2次 6.10 2.29 6.77 4.76 7.31産業 0.11 0.15 0.10 0.26 0.53

mmmm

※第3次産業は地域間交易しないものとして設定

(8)現況再現性の確認

図2および表5に,産業別および全産業(GRP;

Gross Regional Product)の生産額の現況再現結果を示

す. 本モデルでは,各地域別の総生産(GRP)の需給

バランスが均衡するよう計算していることから,GRP

ベースの再現性は非常に高くなっていることが分かる.

産業別にみると,生産規模のシェアが高い第 2 次産業及

び第 3 次産業の再現性が高くなる一方で,シェアが低い

第 1 次産業の再現性は全体的にシミュレーション値が過

大になる傾向にある.ただし,本モデルのアウトプット

は with-without の変化量を対象として便益算出および

そのほか産業生産変化などを算出するため,算出結果の

妥当性を低下させるほどの要素ではないと考える.

GRP(地域内総生産)

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 300,000

実測値(百万円)

シミュレーション値(百万円)

第1次産業

0

200

400

600

800

1,000

1,200

0 200 400 600 800 1,000 1,200

実測値(百万円)

シミュレーション値(百

万円)

第2次産業

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000

実測値(百万円)

シミュレーション値(百万円)

第3次産業

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000

実測値(百万円)

シミュレーション値(百万円)

図-2 現況再現性

表-5 現況再現性(相関係数と%RMS)

相関係数 %RMS

GRP(地域内総生産) 1.00 0.04 第1次産業 0.99 0.69 第2次産業 0.98 0.69 第3次産業 1.00 0.23

3. シナリオ分析

(1)対象範囲・ゾーニング

分析対象範囲は中・四国地方を中心とした地域とし2

次生活圏レベルを基本にゾーニングした.(図3参照)

図-3 対象範囲・ゾーニング

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(2)対象道路ネットワーク

本稿で分析の対象とする道路ネットワーク体系を図4

および表6に示す.ネットワーク体系は,Without,

With0,With1,With2の4段階を設定している.

現況ネットワーク

将来ネットワーク

その他のネットワーク

姫路鳥取線

山陰道 尾道松江線

東広島呉道路

山陰道

図-4 対象ネットワーク

表-6 想定するネットワーク体系

ネットワーク体系 内容

Without

(過去のネットワー

ク体系)

現況道路ネットワーク(With0)に対して全ての

高速道路ネットワーク(高規格幹線道路網,図

4の黒実線)を削除した道路ネットワーク体系

With0

(現在のネットワー

ク体系)

現況道路ネットワーク体系

※H19年度時点(DRM1900の基本道路網を

対象)のネットワーク

With1

(将来のネットワー

ク体系)

現況道路ネットワーク体系(With0)に対して

・姫路鳥取線

・尾道松江線

・東広島呉自動車道

の3路線を追加した道路ネットワーク体系

With2

(将来のネットワー

ク体系)

現況道路ネットワーク体系(With0)に対して

・姫路鳥取線

・尾道松江線

・東広島呉自動車道

・山陰道

の4路線を追加した道路ネットワーク体系

(3)シナリオ設定

本稿で構築している RAEM-Light は,一時点の経済

状況をベースに政策実施ケースと未実施ケースを比較す

る静学モデルである.

そこで,シナリオ分析にあたっては,比較基準を

Without として With0,With1,With2 のそれぞれの

効果を分析するシナリオ(分析シナリオ①;表7参照)

と,比較基準を With0 として,With1,With2 のそれ

ぞれの効果を分析するシナリオ(分析シナリオ②;表8

参照)の検討を行う.考察にあたっては,シナリオ①と

②の結果を比較することで,ネットワークの比較基準の

違いが結果の表現にどのような影響を及ぼすかを明確化

する.さらに,分析シナリオ①をベースに生活圏ベース

の便益の帰着状況についてネットワーク体系変化が及ぼ

す影響を考察する.

表-7 分析シナリオ①(比較基準;Without)

ケース 内容

With0の効果分析 With0-Withoutを比較することで,現況道路ネッ

トワークの効果を分析

With1の効果分析

With1-Withoutを比較することで,現況道路ネッ

トワーク+3路線(姫路鳥取線,尾道松江線,東

広島呉自動車道)の効果を分析

With2の効果分析

With2-Withoutを比較することで,現況道路ネッ

トワーク+4路線(姫路鳥取線,尾道松江線,東

広島呉自動車道,山陰道)の効果を分析

表-8 分析シナリオ②(比較基準;With0)

ケース 内容

With1の効果分析

With1-With0を比較することで,3路線(姫路鳥

取線,尾道松江線,東広島呉自動車道)の効果を

分析

With2の効果分析

With2-With0を比較することで,4路線(姫路鳥

取線,尾道松江線,東広島呉自動車道,山陰道)

の効果を分析

(4)分析結果

まず既存資料 7)を用いて当該地域の交通アクセスの現

状について概観する.当該地域の道路整備状況を,時間

距離図を用いて示したものが図5である.この図からは,

日本海側の「山陰地方」と瀬戸内海側の「山陽地方」と

を結ぶ南北の時間距離および「山陰地方」の東西方向の

時間距離が,「山陽地方」の東西方向の時間距離よりも

相対的に非常に大きくなっていることが分かる.つまり,

当該地域の現在の交通アクセスの状況は「山陰側」と

「山陽側」を比較すると,格差が存在する状況になって

いることが分かる.

図-5 中国地方の時間距離図 7)

以上の現状を踏まえて,With0(現況道路ネットワー

ク)を基準とした便益(人口当たり便益)比較を図6に

示す.この結果からは,将来のネットワーク体系である

With1 および With2 ともに,山陰側に大きな便益が帰

着しており,両シナリオともに,山陰側にとって非常に

現在の高速道路ネットワーク

将来の高速道路ネットワーク

その他のネットワーク

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効果のある高速道路ネットワークであることを示してい

る.

しかし,本分析のみでは,効果を確認することは出来

るものの,地域間公平性の観点から,With1 の整備でよ

いのか,もしくは,With2 の整備まで行うべきかを判断

することは難しい.

1.4 1.3

3.9

6.5

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

With1の効果 With2の効果

人口あたり便益分布(万

円/人

山陰地方 山陽地方

図-6 With0のネットワーク体系を

基準とした便益比較

そこで,基準時点を Without(全ての高速道路ネット

ワークが未整備の状況)とした分析結果を図7に示す.

図7からは,With0 の時点で生じていた山陰地方のマイ

ナスの便益が With2 の時点では,プラスに転じている

ことが分かる.仮に,地域間公平性の判断基準を各地方

単位でマイナスの便益が帰着しない状況とすれば,

With2 のネットワーク体系は,地域間公平性の視点から

は望ましい状況にあると言える.

以上のことからは,ネットワーク体系の比較基準をど

のように設定するかで,結果の意味合いが異なってくる

ことから,特に,広域的かつ長期的なネットワーク効果

の帰着状況を確認する際には,比較基準に留意した分析

が必要となる.

0.9

22.3 23.7 23.6

-5.5 -1.6

-10.0

0.0

10.0

20.0

30.0

With0の効果 With1の効果 With2の効果人口あたり便益分布(万

円/人

) 山陰地方 山陽地方

図-7 Withoutのネットワーク体系 を基準とした便益比較

次に,図7の帰着便益の状況を地区別に詳細に整理し

たものを図8~10に示す.図8の With0 の効果をみ

ると,やはり山陰側の多くの地区にマイナスの便益が帰

着していることが分かる.山陰側の地区の中でも,松江

地区,浜田地区,米子地区においては,既に南北軸の高

速道路ネットワークが整備されているものの,山陰側東

西軸の道路ネットワークの多くの区間が未整備であるこ

とから,山陽側に比べて相対的に地域間の市場競争力が

劣ってしまうため,マイナスの便益が帰着する結果とな

っている.

これに対して,With1 および With2(図9・10)の

効果をみると,道路整備による市場競争力の強化により,

各ネットワーク体系下で除々に山陰側の地区のマイナス

便益が緩和されていることが分かる.例えば,鳥取地区

では,With0 の時点で 7.2 万円/年・人のマイナス便益

が帰着しているのに対して,With2 においては 8.5 万円

/年・人のプラス便益が帰着していることが分かる.そ

の他にも益田地区などでもマイナスの便益が大きく緩和

されていることは確認できる.しかし,必ずしも山陰地

方の全地区にプラスの便益が帰着しているわけではない

結果となっている.これらの結果を図7の結果と比較す

ると,ゾーニングの設定(空間軸の設定)次第で結果の

見え方が異なることが分かる.

以上の結果をふまえて,次項において本稿で構築した

モデルにより表現できる便益の帰着構造と地域間公平性

の議論の際の留意点について整理する.

88888.....444442222244444.....22222

-----33333.....3333366666.....55555

-----00000.....4444466666.....44444

44444.....33333

1111188888.....66666

-----1111177777.....44444

-----66666.....33333

00000.....99999

-----1111100000.....22222

-----1111133333

-----77777.....99999

-----1111100000.....33333

99999.....77777

-----77777.....22222

1111111111.....55555

99999.....44444

2222266666.....888881111199999

2222233333.....88888

1111188888.....22222

2222266666.....66666

55555.....88888

111112222222222.....55555 55555.....22222

2222266666.....44444

22222.....22222

2222211111.....55555 2222200000.....88888

2222244444.....88888

4444400000.....66666

-----88888.....77777

-----33333.....22222

22222.....55555

-----44444.....88888-----88888.....44444

22222.....44444

77777.....22222

44444.....88888

-----33333.....44444

-----44444

-----33333.....55555

-----77777.....22222

-----44444.....3333322222.....33333

1111133333.....77777

88888.....22222 2222266666.....33333

2222255555.....88888

-----2222222222.....11111

3333344444.....33333 2222233333.....333332222222222.....11111

55555.....44444

2222299999.....66666

55555.....33333

豊岡地区

神戸地区

大阪地区

その他大阪地区

姫路地区

鳥取地区

英田地区津山地区

倉吉地区

真庭地区

高松・小豆地区

米子地区松江地区

阿新地区

高梁地区

井笠地区

出雲地区

庄原地区

三次地区

福山地区

大田地区

浜田地区

益田地区 広島地区 三原地区

東広島地区

竹原地区呉地区岩国地区

柳井地区

萩地区

長門地区

徳山地区防府地区

山口地区

宇部地区下関地区

北九州地区

久留米地区

福岡地区

丸亀・坂出地区

三豊地区

徳島地区脇地区

三好地区

新居浜・西条地区

今治地区

松山地区

久万地区

南部地区

安芸地区

中央地区

高幡地区

大洲地区

八西地区

宇和島地区

中村地区

宿毛地区

岡山地区

豊岡地区

神戸地区

大阪地区

その他大阪地区

姫路地区

鳥取地区

英田地区津山地区

倉吉地区

真庭地区

高松・小豆地区

米子地区松江地区

阿新地区

高梁地区

井笠地区

出雲地区

庄原地区

三次地区

福山地区

大田地区

浜田地区

益田地区 広島地区 三原地区

東広島地区

竹原地区呉地区岩国地区

柳井地区

萩地区

長門地区

徳山地区防府地区

山口地区

宇部地区下関地区

北九州地区

久留米地区

福岡地区

丸亀・坂出地区

三豊地区

徳島地区脇地区

三好地区

新居浜・西条地区

今治地区

松山地区

久万地区

南部地区

安芸地区

中央地区

高幡地区

大洲地区

八西地区

宇和島地区

中村地区

宿毛地区

岡山地区

シナリオ①現況

図-8 シナリオ①

With0(現況ネットワーク)の効果

77777.....888882222233333.....77777

-----44444.....4444466666.....22222

-----00000.....5555566666.....33333

44444.....33333

1111199999.....33333

-----1111166666.....88888

-----66666.....55555

00000.....99999

-----88888.....88888

-----77777.....55555

-----44444

-----1111100000.....99999

99999.....33333

66666.....55555

1111111111.....77777

99999.....55555

2222277777.....111111111199999.....33333

2222244444.....11111

1111188888.....44444

2222266666.....88888

55555.....88888

1111122222.....1111122222 55555.....11111

2222277777.....88888

2222255555.....11111

2222211111.....99999 2222222222.....77777

2222244444.....77777

4444411111.....88888

-----99999.....22222

-----33333.....22222

22222.....22222

-----55555.....33333-----88888.....33333

22222.....22222

77777.....11111

44444.....66666

-----33333.....44444

-----44444

-----33333.....66666

-----77777.....44444

-----44444.....7777711111.....66666

1111188888.....33333

1111188888 2222266666.....11111

2222266666.....99999

-----2222222222.....33333

3333333333.....55555 2222222222.....999992222211111.....99999

55555.....11111

2222299999.....11111

55555.....22222

豊岡地区

神戸地区

大阪地区

その他大阪地区

姫路地区

鳥取地区

英田地区津山地区

倉吉地区

真庭地区

高松・小豆地区

米子地区松江地区

阿新地区

高梁地区

井笠地区

出雲地区

庄原地区

三次地区

福山地区

大田地区

浜田地区

益田地区 広島地区 三原地区

東広島地区

竹原地区呉地区岩国地区

柳井地区

萩地区

長門地区

徳山地区防府地区

山口地区

宇部地区下関地区

北九州地区

久留米地区

福岡地区

丸亀・坂出地区

三豊地区

徳島地区脇地区

三好地区

新居浜・西条地区

今治地区

松山地区

久万地区

南部地区

安芸地区

中央地区

高幡地区

大洲地区

八西地区

宇和島地区

中村地区

宿毛地区

岡山地区

豊岡地区

神戸地区

大阪地区

その他大阪地区

姫路地区

鳥取地区

英田地区津山地区

倉吉地区

真庭地区

高松・小豆地区

米子地区松江地区

阿新地区

高梁地区

井笠地区

出雲地区

庄原地区

三次地区

福山地区

大田地区

浜田地区

益田地区 広島地区 三原地区

東広島地区

竹原地区呉地区岩国地区

柳井地区

萩地区

長門地区

徳山地区防府地区

山口地区

宇部地区下関地区

北九州地区

久留米地区

福岡地区

丸亀・坂出地区

三豊地区

徳島地区脇地区

三好地区

新居浜・西条地区

今治地区

松山地区

久万地区

南部地区

安芸地区

中央地区

高幡地区

大洲地区

八西地区

宇和島地区

中村地区

宿毛地区

岡山地区

シナリオ②将来

図-9 シナリオ①

With1(現況および将来ネットワーク)の効果

人口当たり便益分布(試算値)

■ ~-20

■-20~-10

■-10~-5

■ -5~5

■ 5~10

■ 10~20

■ 20~

(単位:万円/年・人)

人口当たり便益分布(試算値)

■ ~-20

■-20~-10

■-10~-5

■ -5~5

■ 5~10

■ 10~20

■ 20~

(単位:万円/年・人)

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77777.....666662222233333.....66666

-----44444.....6666666666.....22222

-----00000.....5555566666.....44444

44444.....33333

1111199999.....22222

-----1111166666.....99999

00000

55555.....88888

-----33333.....55555

-----66666.....44444

-----22222.....66666

-----1111111111

99999.....11111

88888.....55555

1111111111.....88888

1111199999.....66666

2222266666.....999991111199999

2222233333.....88888

1111188888.....33333

2222277777

1111100000.....22222

1111122222.....6666611111.....88888 55555

2222277777.....66666

2222244444.....77777

2222211111.....77777 2222222222.....44444

2222244444.....66666

4444411111.....55555

-----99999.....11111

-----33333.....33333

22222.....11111

-----55555.....44444-----88888.....33333

22222.....11111

77777

44444.....66666

-----33333.....44444

-----44444.....11111

-----33333.....66666

-----77777.....55555

-----33333.....1111133333.....44444

1111188888

1111177777.....77777 2222266666

2222266666.....66666

-----2222222222.....55555

3333333333.....33333 2222222222.....888882222211111.....88888

55555

2222299999

55555.....11111

豊岡地区

神戸地区

大阪地区

その他大阪地区

姫路地区

鳥取地区

英田地区津山地区

倉吉地区

真庭地区

高松・小豆地区

米子地区松江地区

阿新地区

高梁地区

井笠地区

出雲地区

庄原地区

三次地区

福山地区

大田地区

浜田地区

益田地区 広島地区 三原地区

東広島地区

竹原地区呉地区岩国地区

柳井地区

萩地区

長門地区

徳山地区防府地区

山口地区

宇部地区下関地区

北九州地区

久留米地区

福岡地区

丸亀・坂出地区

三豊地区

徳島地区脇地区

三好地区

新居浜・西条地区

今治地区

松山地区

久万地区

南部地区

安芸地区

中央地区

高幡地区

大洲地区

八西地区

宇和島地区

中村地区

宿毛地区

岡山地区

豊岡地区

神戸地区

大阪地区

その他大阪地区

姫路地区

鳥取地区

英田地区津山地区

倉吉地区

真庭地区

高松・小豆地区

米子地区松江地区

阿新地区

高梁地区

井笠地区

出雲地区

庄原地区

三次地区

福山地区

大田地区

浜田地区

益田地区 広島地区 三原地区

東広島地区

竹原地区呉地区岩国地区

柳井地区

萩地区

長門地区

徳山地区防府地区

山口地区

宇部地区下関地区

北九州地区

久留米地区

福岡地区

丸亀・坂出地区

三豊地区

徳島地区脇地区

三好地区

新居浜・西条地区

今治地区

松山地区

久万地区

南部地区

安芸地区

中央地区

高幡地区

大洲地区

八西地区

宇和島地区

中村地区

宿毛地区

岡山地区

シナリオ③将来

図-10 シナリオ①

With2(現況および将来ネットワーク)の効果

(5) 便益帰着構造と地域間公平性

本研究で構築しているモデルは,ゼロサムゲームの社

会を想定していることから,空間的な市場間競争の結果,

取引を増大させる地区と減少させる地区が生じる構造に

なっている.具体的には,ある区間における所要時間短

縮により各地区の取引先がシフトされることで,取引需

要が増大する地区では生産増加に伴いプラスの便益が帰

着し,取引需要が減少する地区では生産減少に伴いマイ

ナスの便益が帰着する構造になっている.このような表

現は,地域間公平性の議論をする上では,以下で示す点

において有効であると考える.

①従来の情緒的な地域間公平性の議論に対して,地域間

の競争力(競争機会)の変化をモデル化することで効

果のバランスに関する客観的な情報を提供できる.

②従来の地域間公平性の議論では主に所得水準などの空

間的な統計指標を活用した検証・分析がなされている

が,これらの情報は様々な社会的要因が複雑に関係し

た結果を示すものであることから現状認識という意味

においては有効であるものの,政策分析という視点か

らは必ずしも十分ではない.それに対して,本稿では

道路整備と経済構造変化の「因果関係」を明示的にモ

デル化することで政策分析を可能にしているため,政

策間の比較検討が可能であり,優先順位の決定などの

意思決定段階において有効な情報を提供できる.

一方で,前項で示したように,本モデルによる結果を

活用する際には,比較基準および空間軸の設定次第で結

果の見え方が異なってくることから議論の前提条件を明

確に提示することが求められる.さらに,これらの情報

をふまえて地域間公平性の視点から政策を「判断(評

価)」する際には,「どのような状態を地域間公平性が

担保されていると判断すべきか?」の視点が重要となっ

てくる.地域間公平性の議論は,価値観の異なる主体が

複雑に関与することから,一律の基準・指標を設けるこ

とは難しい.しかし判断が難しいからこそ,議論を重ね

ることで社会的にコンセンサスの得られた政策を実施し

ていく必要があると考える.本結果で示した情報は,そ

のような議論の土台となる情報(共通認識)として有効

であると考えている.今後は,モデルの精緻化もさるこ

とながら,実務的な観点から地域間公平性の議論を行う

上での問題点等を考慮した上でモデルの前提条件・構造

を改善し判断情報としての有効性を高めていきたいと考

えている.

(6) 算出結果の留意点

以上で示した算出結果には,以下の特徴(前提条件)

がある点に留意する必要がある.

①道路ネットワーク整備による物流活動の変化を表現し

ているため,人流の変化(例えば通勤行動・ビジネス

の打ち合わせ行動の変化など)は考慮していない.今

後は適宜人流のモデル化を行うことで計測対象範囲を

拡大していくことが必要である.

②第1 次産業および第 2 次産業の交易変化のみを対象に

しており,第 3 次産業の交易変化による影響は考慮し

ていないため,便益が過少になっている可能性がある.

特に,中国地方の産業特性を考えた場合,山陽側が山

陰側より第 3 次産業の集積度合いが高い為,第 3 次産

業の交易を考慮しないことによる影響は山陽側に大き

くでているものと思われる.今後は第 3 次産業のうち

交易性の高い業種については,別途細分化することで

交易データを与えるなど改善を図る必要がある.

③本稿では,道路整備による所要時間短縮は,所要時間

最短ルート探索による求めているため料金抵抗および

交通混雑の変化が考慮されていない.より現実性の高

い結果を算出するためには交通量推計を用いることで

料金抵抗および交通混雑両方を考慮した所要時間変化

をインプットする必要がある.

④労働者の就業先は,すべて地区内としており,通勤移

動は加味していない.つまり,居住地と従業地は同地

区内にあるものとしている.しかし,生活圏単位で地

区をゾーニングしていることから,地区を越えた通勤

行動は多くないものと考えられる.

⑤本モデルは,静学モデルであるため,ある一時点での

政策実施・実施の比較分析であり,経済成長,人口変

化・移動などの動学的な要素は考慮していない.つま

り,算出結果は,動学的な社会経済変化の影響を排除

した各道路ネットワーク体系別の整備効果である.

⑥本研究での政策シナリオは,道路ネットワーク整備の

みであるため,その他の社会資本整備(港湾施設な

ど)との複合的な関係性は明示化していない.

4. まとめ

本研究では,中間投入財を考慮した RAEM-Light を

人口当たり便益分布(試算値)

■ ~-20

■-20~-10

■-10~-5

■ -5~5

■ 5~10

■ 10~20

■ 20~

(単位:万円/年・人)

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活用することで,道路ネットワーク体系別の効果のバラ

ンス変化を計測した.本モデルにより算出された結果を

用いて,地域間公平性をどのように判断していくべきか

については,今後も継続的に検討していく必要があるも

のの,本結果は議論の土台となる客観的な情報としては

有効であることを示した.ただし,本研究では事業費の

データを取得出来なかったため,社会的効率性の観点か

らの検討は行っていない.そのため,今後は上述の課題

検討に加えて,事業費を考慮に入れた費用対便益費の評

価を加えることで社会的効率性および地域間公平性の両

視点からの総合的な評価分析の検討を行う必要があるも

のと考える.

謝辞

本研究に対して,匿名の査読者から有益なコメントを

多数頂いた,記して感謝する.なお,本研究に対する一

切の責任は著者らが負うものである.

参考文献

1)Mun S.I.: Transport network and system of

cities, Journal of Urban Economic, pp.205-

221, 1997.

2)文世一:地域幹線道路網整備の評価 -集積の経済にもとづく多地域モデルの適用,土木計画学ワンデーセミナー・シリーズ 15,応用一般均衡モデルの公共投資評価への適用,1998.

3)小池淳司・川本信秀,集積の経済性を考慮した準動学 SCGE モデルによる都市部交通渋滞の影響評価,土木計画学研究・論文集,Vol.23,pp.179-186,2006.

4 ) Atsushi KOIKE, Keisuke SATO, Lori

Tavasszy, Research reports ”Uddevalla

Symposium 2008”, pp.457-470, 2008.

5) Harker, P. T.: Predicting Intercity Freight

Flows, VNU Science Press BV, 1987.

6 ) Christian G, A. Monfort, Q. Vuong,

Statistics and Econometric Models,

Cambridge University Press, P458, 1995

7)国土交通省中国地方整備局「中国地方のみちづく りビ ジョ ン」, 平成 16 年 3 月,( http://www.cgr.mlit.go.jp/chiki/doyroj/visi

on/visionhonpen/visionhonpen09-10.pdf)

空間的応用一般均衡モデル「RAEM-Light」を用いた道路ネットワーク評価

~地域間公平性の視点からの実務的アプローチ~*

小池淳司**,佐藤啓輔***,川本信秀****

社会資本の整備にあたっては,本来,「効率性」と「公平性」の両視点から評価することが望ましい.しかし,

わが国においては,伝統的な費用便益分析による効率性の視点からの評価は多くなされているものの,公平性の視

点からの評価は十分になされていない.そのため,投資効率性が相対的に低い地方部の社会資本整備の必要性は疑

問視されるケースが多い.今後,わが国は,人口減少社会に突入し,地方都市の地域経済は今以上に衰退すること

が予想される.そのような中で,都市部も地方部も含めた地域全体が格差を抑制しながら発展していくためには,

従来の投資効率性の視点に加えて公平性の視点からの社会資本整備評価を行うことが重要な視点であるといえる.

そこで,本論文では,高速道路ネットワークを対象に,SCGE モデルのひとつである「RAEM-Light」を用いた便

益帰着分析を行い,地域間公平性の議論に寄与する客観的情報の提供を行う.

Expressway Network Evaluation Using Spatial Computable General Equilibrium model “RAEM-Light”

-An Empirical Approach from the View Point of Spatial Equity -*

By Atsushi KOIKE**, Keisuke SATO*** and Nobuhide KAWAMOTO****

In order to evaluate the infrastructure development, It is required the analysis about “Social Efficiency” and

“Spatial Equity”. Although traditional cost benefit analysis has been applied as theoretically and quantitatively

methodology from the view point of social efficiency, the comprehensive methodology on spatial equity has not

applied yet in Japan. Therefore, The RAEM-Light model is applied to analyze the social benefits incidence due to

expressway network projects from the viewpoint of spatial equity. The RAEM-Light model has some innovative

features. The spatial behavior of producers and consumers is explicitly described and is endogenously determined

by using econometric production and consumption functions. As a result, the effect of the network structures from

the viewpoint of spatial equity was cleared by deriving benefit incidence.