知的財産に関する判例紹介 産学連携デザイン開発プ …DIC277 K 3D modeling...

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(1)概要 今回は、人気のある携帯電話端末向けゲーム作品の模 倣 性 が 争 点となった 判 例をご 紹 介します。本 件 は、( 株 ) ディー・エヌ・エー(以下、「Y社」)の制作した「釣りゲータウン 2」(以下、「被告作品」)が、グリー(株)(以下、「X社」)の制 作した「釣り★スタ」(以下、原告作品)の著作権や著作者人 格権を侵害しているとし、X社がY社のゲームソフトに対し公 衆送信権の差し止め及び著作権侵害に対する損害賠償請 求を求めた事件です。 (2)争点 被 告 作 品の「 魚を引き寄せる」画 面 が 、原 告 作 品の同 画 面の著作権及び著作者人格権を侵害しているかどうかにつ いて争われました。 (3)裁判経緯 【東京地裁(第1審)判決:平成24年2月23日】 第1審では、下記の点より、Y社がX社の著作権及び著作 者人格権を侵害していると認められ、X社が勝訴しました。 ①創作性 原告作品は、「魚の引き寄せ画面」の三重の同心円、黒 い魚影と釣り糸、水中の真横表現、針に掛かった魚の水 中での動き回り方、引寄せのタイミングを計っている点な どにおいて制作者の個性が強く表れている。 ②共通性 双方の作品には、三重の同心円、黒い魚影と釣り糸、 水中の真横表現などの同一性がある。 ③侵害性 被告作品に接するユーザーは、原告作品の特徴及び類 似性を感じることができるため、原告作品を侵害している と云える。 【知財高裁(第2審)判決:平成24年8月8日】 第1審の判決を不服としたY社は控訴をし、第2審で勝訴 を収めます。その理由は下記の通りです。 ①創作性 双方の魚の引き寄せ画面の共通する部分は、他の釣り ゲームの水中影像と比較しても、ありふれた表現と言え る。また、釣りゲームに三重の同心円を採用することは ダーツや射的の的のように一般的に誰でも思いつくアイ ディアの範疇であり、表現上の創作性はない。 ②相違性 原告作品は長方形で同心円の上下両端が画面からは み出ている。被告作品は水中画像がほぼ全体を占め同心 円が画面端と接することなく、配色や同心円内の画像が 変化する等の相違がある。 ③侵害性 原告作品の創作性がない部分で同一性があるものの、 双方の異なる部分を加味すると、被告作品に接するユー ザーが受ける全体の印象は、原告作品から受ける印象と 異なるため、侵害性はない。 【最高裁の判断】 X社は判決を不服として最高裁へ上告しましたが、最高裁 は平成25年4月16日付でX社の上告を棄却しました。よって X社敗訴の知財高裁判決が決定されました。 (4)まとめ 著作物と認められるためには、「創作性のある表現」が必 要で、誰でも思いつくありふれた「アイディア」をそのまま表 現しただけでは著作物とはいえません。 今回の事件は、釣りゲーム画面の創作性において、第1 審は創作性が認めらましたが、第2審では釣りゲームとして はありふれた表現と判断され、第1審と第2審で真逆の判断 がされた点が注目されます。 ゲームソフトのクリエーターにとって、他 社との差 別化に おいてより独創的な画面表現が求められる判決と云えます。 (知財戦略アドバイザー 田島英行) 知的財産に関する判例紹介 ~裁判事例から学ぶ知的財産のイロハ~ 第5回「釣りゲーム事件」~魚の引き寄せ画面の模倣性~ 知財高裁平成24年8月8日判決 平24(ネ)第10027号 東京都知的財産総合センター TEL 03-3832-3656 E-mail [email protected] 公社トップページ 知的財産 知的財産 X社「原告作品」 Y社「被告作品」 No.421 平成25年12月10日 アーガス21 A r g u s 21  7

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KDIC277

3D modeling

自社商品を開発したい中小企業とデザイン系大学が互いの技術や発想を活かし、共同で新たな商品開発を行う本プロジェクト。中小企業、学生デザイナーの双方にとって、大きな力・貴重な体験となっています。このページでは、平成24年度の成果事例をご紹介していきます。

産学連携デザイン開発プロジェクト産学連携デザイン開発プロジェクト

事業戦略支援室 事業化支援係 TEL:03-3832-3660問い合わせ先 公社トップページ → 公社からのお知らせ一覧

Case3 東京造形大学 × 株式会社iMottハサミプロジェクト「手にしたくなる未来形」にチャレンジ 美容はさみの世界では、機能と形の関係に基づいた寸法のデータベースがない。これまでは、個々の美容師やはさみ職人の経験値により作られてきた。現存する美容はさみは男性を基準にして開発されており、女性専用の美容はさみの開発は今回初めての試みである。 このプロジェクトを進めるにあたり構成されたメンバーは、インダストリアルデザイン(工業デザイン)を学ぶ有志21名。学年の壁を取り払ったグループ制作は、授業の課題とは違い実践の場として緊張感を持ち、今までに培った知識と技術を駆使し、個々に持っている能力を遺憾なく発揮するためコミュニケーションを大切にした。デザインを進めるにあたり、機能と基準となる寸法を求めるため美容師へのヒヤリングや、主なはさみの採寸、女性の指の形状や動きの調査など、人間工学からのアプローチにより基本となる寸法の割り出しをした。同時に、女性美容師の特徴を3つのデザインカテゴリーにまとめ、最終的に18点のモデルとドローイングによるプレゼンテーションをおこなった。われわれの提案は(株)iMottからも高い評価をいただき、今後7点の試作サンプルの製作を進めることとなり、その中からより評価の高い数点を商品化に向けて展開できるように取り組んでいく。 (東京造形大学 教授 森田 敏昭)

参加企業の声 東京造形大学森田研究室の皆さんに未来の鋏-女性美容師さん用-のデザイン開発について、「手にしたくなる未来形の鋏を」という要求をしました。その結果、手で使う道具であり、正解の無いものですが、過去に囚われず斬新なデザインを数多く出して戴きました。スッキリしたモノを具現化していこうと考えています。(株式会社iMott 代表取締役 松尾 誠)

<本プロジェクトは他にもこんな企業様におすすめです>・将来的に新しい分野に進出するための商品開発をしたい・既存商品と全く異なる、斬新で面白い商品を作りたい

・これまで下請けで部品を製造してきたが、自社技術を活かしてエンドユーザー向けの商品を作りたい

公社では、この成果が同社の経営戦略に大きく貢献することを期待し、引き続きフォローしていきます。

❶ イメージスケッチ❷ 美容師用ハサミの実測❸ 工場見学❹ 3D modeling❺ ラピットモデルによる検討❻ プレゼンテーション

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(1)概要 今回は、人気のある携帯電話端末向けゲーム作品の模倣性が争点となった判例をご紹介します。本件は、(株)ディー・エヌ・エー(以下、「Y社」)の制作した「釣りゲータウン2」(以下、「被告作品」)が、グリー(株)(以下、「X社」)の制作した「釣り★スタ」(以下、原告作品)の著作権や著作者人格権を侵害しているとし、X社がY社のゲームソフトに対し公衆送信権の差し止め及び著作権侵害に対する損害賠償請求を求めた事件です。

(2)争点 被告作品の「魚を引き寄せる」画面が、原告作品の同画面の著作権及び著作者人格権を侵害しているかどうかについて争われました。

(3)裁判経緯【東京地裁(第1審)判決:平成24年2月23日】 第1審では、下記の点より、Y社がX社の著作権及び著作者人格権を侵害していると認められ、X社が勝訴しました。 ①創作性  原告作品は、「魚の引き寄せ画面」の三重の同心円、黒 い魚影と釣り糸、水中の真横表現、針に掛かった魚の水 中での動き回り方、引寄せのタイミングを計っている点な どにおいて制作者の個性が強く表れている。 ②共通性  双方の作品には、三重の同心円、黒い魚影と釣り糸、 水中の真横表現などの同一性がある。 ③侵害性  被告作品に接するユーザーは、原告作品の特徴及び類

 似性を感じることができるため、原告作品を侵害している と云える。【知財高裁(第2審)判決:平成24年8月8日】 第1審の判決を不服としたY社は控訴をし、第2審で勝訴を収めます。その理由は下記の通りです。 ①創作性  双方の魚の引き寄せ画面の共通する部分は、他の釣り ゲームの水中影像と比較しても、ありふれた表現と言え る。また、釣りゲームに三重の同心円を採用することは ダーツや射的の的のように一般的に誰でも思いつくアイ ディアの範疇であり、表現上の創作性はない。 ②相違性  原告作品は長方形で同心円の上下両端が画面からは み出ている。被告作品は水中画像がほぼ全体を占め同心 円が画面端と接することなく、配色や同心円内の画像が 変化する等の相違がある。 ③侵害性  原告作品の創作性がない部分で同一性があるものの、 双方の異なる部分を加味すると、被告作品に接するユー ザーが受ける全体の印象は、原告作品から受ける印象と 異なるため、侵害性はない。

【最高裁の判断】 X社は判決を不服として最高裁へ上告しましたが、最高裁は平成25年4月16日付でX社の上告を棄却しました。よってX社敗訴の知財高裁判決が決定されました。

(4)まとめ 著作物と認められるためには、「創作性のある表現」が必要で、誰でも思いつくありふれた「アイディア」をそのまま表現しただけでは著作物とはいえません。 今回の事件は、釣りゲーム画面の創作性において、第1審は創作性が認めらましたが、第2審では釣りゲームとしてはありふれた表現と判断され、第1審と第2審で真逆の判断がされた点が注目されます。 ゲームソフトのクリエーターにとって、他社との差別化においてより独創的な画面表現が求められる判決と云えます。

(知財戦略アドバイザー 田島英行)

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第5回「釣りゲーム事件」~魚の引き寄せ画面の模倣性~知財高裁平成24年8月8日判決 平24(ネ)第10027号

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