サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

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サササササササササ 分分分分分分分分分分分分分分 ササササ CRDS-JST 分分分分分分 分分分分 分分分分分分分分分分分分分分分分分分 「・」 分分分 分分分分分分分分 :3.11 Sustainability 分分分分分分分分分分 分分 分分 分 分 、2012310 分分分分分分分 分分分分 分分分 分分分 1(2)

description

サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性. 吉川弘之 CRDS-JST シンポジウム「人文知・社会知からサステナビリテ ィ を考える」 テーマ:3.11以降の危機の中で Sustainability と 人文 知プロジェクト、2012年3月10日 東京 大学文学部  1 大教室 (法文2号館). 1.持続性 時代の科学 研究 福島の事故と持続性. 科学者・専門家の社会的貢献. 科学者 は、研究によって知識を生み出し、対応する専門家に提供する。. 医学. 法学. 教育者. 医師. 司法官. 政治学. 生命科学. 看護師. 経済学. 政治家 . - PowerPoint PPT Presentation

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Page 1: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

サステナビリティ学分析思考と構成思考の不可逆性

吉川弘之CRDS-JST

シンポジウム「人文知・社会知からサステナビリティを考える」テーマ:3.11以降の危機の中でSustainability と人文知プロジェクト、2012年3月10日

東京大学文学部 1大教室(法文2号館)

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1.持続性時代の科学研究福島の事故と持続性

Page 3: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

科学者・専門家の社会的貢献

医師教育者

報道者作家 芸術家

技術者 産業経営者

組織管理者

政治家

政策立案者行政者

司法官

意匠家

農業者

看護師

介護師

統計専門家

演劇家

社会

社会は、様々な専門家がそれぞれの“役割”を果たすことによって、維持され、発展してゆく。

科学者は、研究によって知識を生み出し、対応する専門家に提供する。法学

政治学

統計学

文学

美学

心理学

医学

工学

経営学

農学

設計学

生命科学

政策科学

数学言語学

危機管理者危機管理学

【行動者】【専門家】 臨床心理師

経済学

【科学者】

3

Page 4: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

福島原子力発電所の事故(危機)への対応

危機においては、平常時において別行動しているものが協力しなければならない。

医師教育者

報道者作家 芸術家

技術者 産業経営者組織管理者

政治家

政策立案者行政者

司法官

意匠家

農業者

看護師介護師

統計専門家

演劇家

社会

【科学者はそれぞれの専門分野の知識を持ち寄り、対応への助言をまとめて行う】

法学

政治学

統計学

文学

美学

心理学

医学

工学

経営学

農学

設計学生命科学

政策科学

言語学

危機管理者危機管理学

数学

4

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危機( Fukushima )における現実の協力

事故現場

対応統括

【危機対応】 【一般】

科学者(一般)技術者(一般)

評者

報道者

日本学術会議

【科学者の合意した声】

科学者(原子力)技術者(原子力)

【情報】

首相官邸

電力会社

原子力安全・保安院原子力安全委員会

官邸参与

自衛隊消防庁

発電所製造企業

医師

一般社会(国内)

推測・ばらばらな解説想像・採用されない      評論

提言(情報不足)

国際社会(政府) 不安・風評

過剰反応・風評(政府・即刻協力)

外国アカデミー 協力要請待ち現実の情報の流れ

実現しなかった情報の流れ

現場作業員

5

Page 6: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

持続的開発( SD )に向かう様々な動き

6

政治

持続性科学の創出(社会のための科学)

資源(負)問題における国際協調の仕組み

新経済制度:排出権取引、気候変動経済学

新エネルギー適応技術、軽減技術持続的開発のための教育( UNESCO-ESD )

Cool Earth( 2007 )

排出権取引( 2002,UK )セクトラルアプローチ ( 2007 )

京都議定書( 1997 )

人間と環境会議 ( UN,1972)

地球サミット ( UN 1992 )

ファクター 4( Club of Rome,A.Lovins, 1995 )

石油危機( 1971, 1979 )

沈黙の春(Rachel Carlson,1962 )成長の限界( Club of RomeD. Meadows,1972 )

G8- サミットGleneagles(2005)St. Petersburg (2006)Heiligendamm (2007)Tooyako(2008)COPCopenhagen(2009)Cancun(2010)

UNFCCC   1992~

気候変動研究 ( 1950~ )

哲学・思想 科学 経済 産業・技術

IPCC(1988~)

IPCC(3rd2001)

IPCC(4th2007)

高度に領域化を達成した教育(20th century)

省エネルギー

再生エネルギー

二酸化炭素隔離

教育教育における領域の完成 (19th century)

知識の急激な増加

国連持続可能な開発のための教育ESD(2005)

適応技術、軽減技術

持続性製品

Brundtland 報告 (UN 1987)

S.RowlandS.ManabeJ.HansenR.Watson etc

Stern Review (2007)

生物多様性研究

持続性科学

エネルギー学

Tbilisi 宣言 (1977)

Page 7: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

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持続性社会実現のために必要な、様々な行動( 現代の邪悪なるものとの戦い )

気候変動抑制

生物多様性保護

衛生確保

化学リスク制御

エネルギー政策

飲料水確保食糧確保

平和とガバナンス

災害軽減

貧困の追放

予防医療

汚染抑制

廃棄物最小化 持続性産業

国土保全

要素 部品、 器官、 分子、 原子など

システム

個体 人、 機械など

社会

ローカル グローバルナショナル

資源エネルギー確保

環境変動適応

食糧政策

医療制度

持続的経済

持続可能な開発のための教育

世界遺産保存

設備保全

研究協力機関企業工場など

国家自治体など

エネルギー研究開発

生活様式保存

人間の安全保障

核不拡散

パンデミック阻止

プラント事故対応 原発事故対応

先進医療

行動対象(範囲)  Reach of Action (行動によって実現すべき実現体)

行動要素(レベル)Scale of Action(行動者*、または構成(設計)における原子体)

*行動決定者は、レベルの上位に存在することがある。

Page 8: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

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持続性社会実現のために必要な、様々な行動( 現代の邪悪なるものとの戦い )

気候変動抑制

生物多様性保護

衛生確保

化学リスク制御

エネルギー政策

飲料水確保食糧確保

平和とガバナンス

災害軽減

貧困の追放

予防医療

汚染抑制

廃棄物最小化 持続性産業

国土保全

要素 部品、 器官、 分子、 原子など

システム

個体 人、 機械など

社会

ローカル グローバルナショナル

資源エネルギー確保環境変動適応 食糧政策

医療制度

持続的経済

持続可能な開発    のための教育

世界遺産保存設備保全

研究協力機関企業工場など

国家自治体など

エネルギー研究開発

生活様式保存

人間の安全保障

核不拡散

パンデミック阻止

プラント事故対応 原発事故対応

先進医療

行動対象(範囲)  Reach of Action (行動によって実現すべき実現体)

行動要素(レベル)Scale of Action(行動者*、または構成(設計)における原子体)

*行動決定者は、レベルの上位に存在することがある。

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持続性課題の多様性多様な課題解決のために多様な学問領域を必要とする行動者

方法 / 知識〈領域〉

各国政府

実現体(機能体)〈問題の範囲〉

世界 政治学

個人

企業法人

医者

原子体〈構成要素〉

社会

家族

自治体

医学農業者

人文学

科学者

自然科学

社会学

持続性問題

原子

国家

地域

個人

地方

組織

9領域 :  自然科学~工学~社会科学~精神科学

多様性 構成要素(大きさ) : Nano ~ Micro ~Meso~ Macro

問題の範囲(広がり) : 局所~大域 (個人 ~ 社会)

行動者 :個人~組織~政府~国連

実現のために、どんな人材と、どんな知識が必要か(教育・研究)

国家

地域

地方

国連

経営者NPO 法人

技術者

経済学

工学抽象科学

教育学

農学法律家

作家

実際に課題が定められたとき、問題解決のために選出される対象は特定された以下のようなものである。

(特定の)個体、集団、組織制度、装置、システム、社会基盤など

平和

生物多様性

健康

------

--- 指定要素 *

* 特定の変化を目的として特に人為的に定める構成要素(物質、生体などはここに入れておく。実は多様である)

方法 /知識〈臨時領域〉

研究

研究領域

取り上げられた課題に固有の変数とその変数間の関係によってつくられる課題固有の領域、臨時領域と呼ぶ

研究課題

臨時領域は一般に複数の基本領域を含む。基本領域に従って課題は分節され、要素課題群となる。従って研究は異なる領域研究者の協力が不可欠である。

組織

(自然、人工物)

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   中世における知識創出の動機は邪悪なるものとの戦いであった

     邪悪なるもの

人類

いかに戦うか

 領域知識の発生

さまざまな戦いを通じて蓄積した領域的知識

現代の領域科学/工学へ

Page 11: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

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過去の邪悪なるもの

これらは可視的な敵、あるいは不安であり人類社会の外部から攻撃をかけてくるものである。

貧困(食料、衣服、住居の不足)

疫病(病原菌)害虫猛獣

嵐旱魃洪水地震

海賊強盗専制邪悪な欲望

未知(理解できないもの)

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学問領域の自立と応用の拡大

戦いの相手

邪悪なる欲望

専制

病原菌

地震

対抗技術  /  学問領域

裁判制度  /  法律学

弁論  /  論理学

予防・消毒  /  微生物学

防風技術  /  気象学

耐震構造  /  構造力学

貧困 生産技術  /  生産工学

領域が自立して応用が拡大する

気象予測

製薬

振興法

計算機

自動車

機械

拡大した応用

未知 探索、研究  /  物理学 科学技術一般

Page 13: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

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Proliferation of Disciplines and Divisions of Labour

Realworld

Engineering science

Medical science

Economics

Political science

Law

Engineers

Medical doctors

Economists

Politicians

Lawyers

Mechanical engineers

Electrical engineers

Chemical engineers

Material engineers

Doctor of internal medicine

SurgeonPsychiatrist

----------

----------

Worsening of naturalenvironment by humanactions

Local diagnosiswithout recognition of whole human

Natureincludinghumans

成熟した学問領域(=教育領域)と社会的分業との比例的増加

人間活動による地球環境の劣化

人間の全体性を忘れた局所的治療

技術者

医者

経済学者

政治家

法律家

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現代の邪悪なるもの人口爆発と飢餓、貧富の格差、巨大都市の中の貧困、

地球環境の悪化、人工システムの事故の巨大化新種の感染症 ( HIV 、鳥インフルエンザ、 BSE )

民族間紛争、テロリズム、

都会の中の孤独、電子犯罪

今、現代の邪悪なるものが出現しつつある。そしてそれらは過去の邪悪なるものと異質である。そこには可視的な外敵がいない。しかし恐らく敵は人々の意図や行動の中にあり、それが人々が気づかぬうちに攻撃をかけてくるのだ。これは可視的な外敵よりも戦うのが難しい。我々はそれと戦う方法をもっていない。

Page 15: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

2.持続性科学の輪郭

Page 16: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

現代科学と持続性科学相補的な知識現代科学  

宇宙に存在するもの全て 地球上の個々のもの研究対象

目的すべてを理解し個々を制御する

すべてを理解し関係を制御する

検証 現実世界の進化

期待される効果 人類の繁栄 地球の持続性

研究成果 理解のための知識 行動のための知識 分析 / 構成確実 / 不確実

個別 / 全体抽象 / 具体

観察対象 不変な存在物 *ゆっくりとした変化(過去、現在、未来)

存在 / 変化

相違点

繁栄 / 持続* 変化は存在の性質に基づいて推測できる 16

実験室での実験

知るべきもの宇宙の各現象の背後にある普遍的法則

地球の長期的な変動と現在の状態 普遍性 / 唯一性

持続性科学

Page 17: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

事実+使用=意味

自然科学 社会科学

現実世界での統合知識 (伝統的土着知識)

抽象世界での分離知識    (科学)

抽象世界での統合知識   (統合科学) 統合科学

統合的知識:抽象世界での知識統合

設計科学

抽象化

統合

意味使用事実

持続性科学は統合科学の一つである 

知識

Page 18: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

変化の科学View of Nature by Greek Philosophers

When scientists were interested in unchangeable existence (Democritus),they investigated properties of substance, and consequently created disciplines such as solid state physics, elementary particle physics, bioscience etc. Quite successfully completing.

When scientists were interested in changing phenomena (Heraclitus),they investigated the existence as a whole, and consequentlycreated disciplines such as geology, archaeology, paleontology, theory of evolution, climate change etcStill far from completion.

Panta Rhei70million years ago, an atom in my nose was in the tail of a dinosaur.

Page 19: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

4 次元レンズ:未来の“観測”

スーパーコンピューター Cray-1 ( 1976 )250MFLOPS

電子顕微鏡 E.Ruska(1933)

反射望遠鏡国友藤兵衛( 1778-1840 )

Robert Hooke( 1665 )

Babbage1791-1871

すばる反射望遠鏡  1999

2次元

3次元

4次元(予測)

TERA →PETA→EXA flops?

X線粒子線重力波ニュートリノ- - - - - -

観測

加速器放射光中性子線核磁気共鳴- - - - -

観測

観測法の展開

Page 20: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

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研究対象と観測法不変存在における法則を探求するための観察手段

     できるだけ小さな領域を観察するための顕微鏡(2次元)     できるだけ遠くの状況を観測するための望遠鏡(3次元)

巨視的変化の法則を探求するための観察手段           多数の領域を観測する顕微鏡     広域を観測するための望遠鏡     変化をシミュレーションによって推測するスーパーコンピューター

      スーパーコンピューターは第三の観測手段(4次元レンズ)である

Page 21: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

構成のための科学:思考の非対称性

現実( 自然 )

現実(人工物)

分析のための科学演繹 =常に正しい

構成のための科学アブダクション =誤りうる

領域における法則(知識)

領域1

2

3n

構成:設計、計画、イノベーション、    経営、立法、政策   ----分析:仮説―理論―実験―検証

知識創出のための現実に関する研究 現実創出のための知識利用

法則1法則2法則3法則n

体系的な方法によって正当性が保障される

体系的でない分野ごとのノウハウに従うしかない

21

?

Page 22: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

22

多くの専門領域の交差領域での思索

自分の専門領域内における思索

構成研究に必要なディシプリンの統合と他者検証

仮説提出 検証

仮説提出 検証他領域、一般社会

Page 23: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

3.思考の不可逆性

Page 24: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

土着知識

種を蒔く

芽が

出る

実が

なる

収穫す

煎じ

る(

成分抽

出)

薬を

作り

保存

し、

分配す

る(

成型

と瓶詰

服用す

事実 使用 意味

統合的な土着知識(“科学技術”)

24

土着的知識は、一度獲得すればいつでも行動を再現できる。これは観察と構成の抽象化水準が等しい(観察の道と構成の道、行き帰り、が等しい)からである。しかし新しい行動を創り出すことはできない。

例:病気を克服し生き延びるために(目的を持つ知識)

Page 25: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

科学(科学知識)の成立第一の分割:対象の類似性によるコレクション

種を蒔く

芽が

出る

実が

なる

収穫す

煎じ

る(

成分抽

出)

薬を

作り

保存

し、

分配す

る(

成型

と瓶詰

服用す

植物学

農学

化学、工学 工学、

経済学

医学、社会学、法学

統合的な土着知識(“科学技術”)

分科的な科学知識

25

“分科”され、相互関係を拒否した領域群として成立した科学は、領域を再構成して意味のある結果を持つ行動を生み出すために人工物科学を必要とする。

Page 26: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

A Design by Bricoleur(H.Yoshikawa, Introduction to General Design Theory, IFIP 1981)

26

An animal that runs fast, sings nicely and swims well

Run-fast=hind legs

Sing-nicely=bill/head

Swim-well=forelegs

Functional requirement

Knowledge

Selection of pieces by using knowledge function→entity

Integration of pieces by using knowledge of connection between entities

Solution

Frog-dog-bird

Maquette

Page 27: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

A Design by Engineer(H.Yoshikawa, Introduction to General Design Theory, IFIP 1981)

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Selection of functions(abstracted entities)by using knowledge function→entity

An animal that runs fast, sings nicely and swims well

Run-fast=hind legs

Sing-nicely=bill/head

Swim-well=forelegs

Functional requirement

Knowledge

Realisation by calculation

Solution

Frodird

Maquette

Page 28: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

工学における概念の関係(未完)

collection

design

abstraction

taxonomy

Selection(integration)

similarity

detailing

calculation

実体概念集合(部分集合系)と抽象概念集合(点集合)

 実体概念集合(点集合)と抽象概念集合(部分集合系)

simplification

A property

An entity

S = { s }: 実体概念集合

T = { t }:抽象概念集合

s: 実体概念

t: 抽象概念Connotation(ある概念に含まれる属性)

S = { s }: 実体概念集合

s: 実体概念 .

T = { t }:抽象概念集合

t: 抽象概念Denotation(明示的意味)

Categorized entities obtained by synthesis (disciplinary knowledge)

Categorized functions obtained by analysis (requirement)

Entity (solution)

Maquette (provisional discipline)

(複数の要素工学の合成領域:合成方法が多様)

display (synthesis) (Analysis)

Page 29: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

推移の詳細と推移に必要な知識 要素実体(機能の実体表現)

解(一つの実体)

模型(機能の属性表現)要求機能

臨時領域での計算

接続の実体化

構造知識(土着的)

F-S 設計知識(土着的)

S-F認識知識(科学的) 機能位相を持つ実体集合

臨時領域(ある一つの実体の機能の定量表現)

領域科学知識(科学的)

機能の実体への置き換え

臨時領域の作成

機能集合から実体集合への準同型写像

ともに経験した機能と実体を通じ、機能→実体と実体→機能のそれぞれ準同型写像を知識としても持つが、ここでは機能→実体の知識を使う。

(模型としてメタモデルを採用する)

Page 30: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

設計(構成)問題の本質①基本領域が属性に従って作られる。言い換えれば整合的な領域を作れるという条件だけで属性が選ばれる。この選択の非制限的な随意性により、領域の共約不可能性(incommensurability) を生む。(材料力学では、電気抵抗は意味を持たない)

②それに対して、臨時領域は機能に従って作る、すなわち整合性よりも人間にとっての意味で作られる。この成立の外部性によって、領域の整合性が期待できない。(しかし共約不可能性は解消されている可能性がある。解消の条件は何か?共約不可能性と整合性の関係)

1.基本領域の共約不可能性と臨時領域の不整合性

2.思考の不可逆性

①学問(領域知識)の進展は抽象化に誘導されて起こる( Peirce )。抽象化は、言語的記述、分類、法則、定量化などの順で進む。すなわち領域が次第に体系的な性質を向上する。このことは、体系性向上のために抽象化が進むと言った方がよい。結果として、体系化が進むことによって、関連する諸性質を捨てる(捨象)のであり、このことにより、元の領域の点(事実)と進展した領域の点(性質)との間の写像が準同型となって(複数の事実が一つの性質へ:鉄の棒と木の棒が同じ強さに移される)、事実から知識への移動はできるが知識から事実への移動が一意でなくなるという不可逆性 (irreversibility) を生む。②不可逆性を解消するものとしてシステム科学がある。システム科学を可逆性という見地から整理することは、設計の第二のパス(メタモデル)にとって重要である。

この二者が設計問題を難しくしている。これを克服して“設計学”を樹立するためには、これらの困難性の本質を理解することから始めなければならない。

Page 31: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

パースによる科学の分類(抽象化)Charles Sanders Peirce (1839-1914)

法則科学

分類科学記述科学現実世界の個別知識理解と行動を組として持つ土着的知識

科学の進化(抽象化、領域化)

数学形而上学

技術(社会的規則 / マナー) (材料・製造技術)

対象の性質をあるがままに記述

対象の性質を階層的に分類

対象の性質間の関係の法則(多くは定量的関係)

*抽象化は知識の内容を捨象して行われるものであるから、上位の科学は下位の科学で扱う概念の一部しか含まない。一方、下位の科学は上位の科学と矛盾してはならない。

また、抽象化の高度化により、背後の仕組みが明らかとなり、それを作動させることによって望み通りに属性を発現する可能性が増大する。しかし一方で、発現することのできる属性の種類が抽象化の進行によって減少する。

ナイフとフォーク:テーブルマナー政策(存在物の使用に関する知識とスキル)

ナイフとフォーク:成形し仕上げる技術(存在物を製造する知識とスキル)

材料・加工データベース

材料工学・製造工学

物性論

生活の歴史

文化様式論

社会心理学

Page 32: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

分析科学と設計科学の非対称性

32

文化製品 (精神科学)

  観察(分析)(抽象化、領域化)

構成(設計) (物質化)

工業製品  (物理科学)

制定 製造

精神科学(対象は思考・行動)物理科学(対象は物質的存在物)

数学形而上学

心理学言語学、人類学

社会学技術(社会的規則 /マナー)

力学化学

地質学、地理学、天文学、水文学技術(材料・製造技術)

  観察(分析)(抽象化、領域化)構成(設計) (制度化)

土着的習慣 土着的道具

非対称 非対称

言語学を学んでも、話せるようになるわけではない。一本の木の化学成分と組織生成過程とを知ってもその木を再現できることはない。これを非対称と呼ぶ。(真に根源的な原理、すなわち“本当の真理”を知れば再現できると信じる向きもあるが、それは今のところ現実的でない夢想である)。科学の抽象化により、対象の理解が抽象化されるが(いずれも概念)、対象の理解である概念が対象そのものより抽象的であり、対象の全部(質料・形相)を含まないのが一般である。抽象の程度差により、対象と概念との 1 対 1 の対応が失われて、理解はできるが構成はできないという非対称を生む。

Page 33: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

 数学的表現による思考の可逆性の回復

33特定の技術を選ぶと、記述、分類、法則科学それぞれに相当する分野が定まる。

ひとつの例

  観察(分析)(抽象化、領域化)

構成(設計) (物質化)

工業製品  (物理科学)

ナイフとフォーク:テーブルマナー政策(存在物の使用に関する知識とスキル)

ナイフとフォーク:成形し仕上げる技術(存在物を製造する知識とスキル)

制定 設計製造

文化製品 (精神科学)

精神科学(対象は思考・行動)物理科学(対象は物質的存在物)

材料・加工データベース

  観察(分析) (抽象化、領域化)

構成(設計)(制度化)

材料工学・製造工学

物性論

生活の歴史

文化様式論

社会心理学

   技術(材料・製造技術)

     技術(社会的規則 /マナー)

輸送、配置、保存、使用、診断、保全、改良、廃棄

順問題逆問題 順問題 逆問題

マナーを数学的に表現できたとき、新しい場面でのマナーを数学的に表現できる

製法を数学的に表現できたとき、新しい目的の食器を数学的に表現できる

数学

形而上学

Page 34: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

システム科学による対称性回復

34

  科学の進化 (抽象化、領域化)

  設計 (物質化)

工業製品  (物理科学)

物質の法則

物質の分類

ナイフとフォーク:テーブルマナー政策

ナイフとフォーク:成形し仕上げる技術

制定 設計製造

物質の記述行動の記述

行動の分類

行動の法則

文化製品 (精神科学)

精神科学(対象は思考・行動)物理科学(対象は物質的存在物)

材料・加工データベース

  科学の進化 (抽象化、領域化)

 設計(制度化)

材料工学・製造工学

物性論

生活の歴史

文化様式論

社会心理学

   技術(材料・製造技術)

     技術(社会的規則 /マナー)

システム表現 システム表現

Peirce は形而上学を法則科学の上に置いた。 形而上学が、すべての学問が扱う事項を対象としてその成立の根拠を問うものであるならば、それは領域を超え、可逆でなければならない。とすれば形而上学は、ここで議論している思考の可逆性問題と知識の分断問題を解決するものである。しかし、それはあまりに抽象的で、我々が必要としている、現実問題を解く“道具”としては使えない。そこでそれに置き換わるものとしてシステム科学を考える。

システム科学

数学

Page 35: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

4.科学的知識の“進化”現在の科学が持続性に対して十分な知識を提供できないことと、福島の事故を引き起こしてしまったこととは、同じことに起因するのであって、その原因を克服するための計画が必要である。それは、科学の対象限定、領域化、検証法などの科学自身の構造の検討とともに、科学の目標、科学研究の担い手、検証の社会化などの、科学の社会における位置づけをも含む検討の計画である必要がある。

ここでは言語の進化と科学知識の進化との類比を考える。

Page 36: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

36

進化:情報循環による言語の進化

話す *(個人の選択)

採択と記憶(社会提起選択)

発話

言語

小林英夫訳 一般言語学講義(岩波、1972) p.29の文より作図

Ferdinand de Saussure (1857 – 1913)

聴覚像と概念の連合

社会的結晶(言語系)

*話す:聞き、考え、そして話す

Page 37: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

土着知識(経験知)の進化

知識の創出者

知識の使用法考案者

知識の使用者

使用対象

知識

使用法 使用行為

対象変化

言語も土着知識も堅固( robust )で自発的( emergent )である

Page 38: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

社会の中の科学 :  災害・事故からの教訓

大震災の予測や災害の最小化のために科学はどんな貢献ができたのか、と考えるとき、それは不十分であったといわざるを得ない。政府事故調査・検証委員会、国会事故調査委員会など、 6 つあるといわれる委員会の調査が科学の貢献の不十分な点を明らかにしてくれることを期待したいが、今のところそれがいつになるかわからない。

科学者の立場で災害・事故から教訓を学び、それにより災害軽減、事故防止のための科学のこれからの在り方、そしてまた復興への科学の寄与を考える。(ここで科学とは、人文、社会、自然を対象とする科学、およびそれぞれについて分析科学、構成科学を含むものとする。)

この二つの問題は、一見独立の問題のように思えるが、実は深く関係している。それは、いずれも現実の課題から離れて問題は解けないという点である。この場合現実の課題は、震災と事故である。これらと科学の状況との関係が、災害軽減や事故防止の可能性を決めるのであるが、同時にその関係は復興の可能性をも決める。

ここでは調査とは別の、我々の科学についての一般的な考え方を、やや本質的に考える。これからの災害軽減と事故防止のための科学の在り方と、災害地の復興に対する科学の貢献とを、従来の科学を分析し反省しつつ考える。

このように、“社会に中の科学”といった時、科学には従来と違う複雑な要請が寄せられていることがわかる。簡単な答えはないが、どのような方向に進むべきかが問題である。まず科学を、社会の中にどのように組み込むかを考える。

Page 39: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

 科学の孤立化の阻止: 言語との類比

「科学が面白い」と感じることは、人々が科学知識を利用したり、若者が科学者になりたいと思うことの必要条件にすぎず、それだけでは理解や動機には不十分である。科学者になろうと思うための十分条件は、科学が文化、知性、生存、社会の安定、異種社会の共存、多様性の維持、豊かさ、持続性そして国家の繁栄などの、現在の人間にとって失ってはならない重要なものを維持し発展させることに、科学が本質的に必要であることを、人々が自ら感受することである。しかしその感受は、科学についての面白い解説や、論理的な説明で達成されるわけではない。解説などによらず自ら獲得していくものに言語がある。それは言語(自国語)が、人間にとって基本的なものを維持し発展させることに本質的に必要であることを疑うこともなく感受するからである。言語と同等な感受が、科学に対して起きるとき、人々は自ら科学を理解し、若者は科学者になることに矛盾を感じなくなるであろう。

科学は今、人間にとって本質的に重要なものになり、科学なしには繁栄や安全の維持はおろか、基本的な生命の維持すら困難になったといわなければならないであろう。人間活動の多様化により、さまざまな部分で科学的知識が必要であり、あらゆる科学的知識の使用が求められる。さらに持続性時代を迎えて新しい困難が次々と生起し、新しい科学的知識の産出が必要である。広範な知識使用と必要な新知識の創出は、科学者が閉じた世界で行うものでなく、科学が社会の中で、一般の人々に理解され、また若者が科学の世界に積極的に参入する状況が必要である。しかし、理解と参入の状況は悪くなる傾向にあり、おそらくそのことが今回の災害・事故と関係すると考えられるから、その是正は緊急の課題である。

Page 40: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

HY 40

持続的進化のための科学者の役割

(社会の中の

科学者)

構成型科学者

 行動者知識提供(科学的助言技術的助言)

評価(個々の行動が現象全体に及ぼす影響についての分析にもとづく評価)

現象(行動者の行動結果として生じる現象)観察型

科学者

社会、地球環境

行動(専門知識に裏付けられた行動)

教育者報道者作家芸術家技術者 経営者管理者政治家 政策立案者行政者司法官科学者等

社会の中の行動者

Page 41: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

循環のない現在の科学科学的知識の使用は壁の外の人たちによって行われる 

厚い壁

科学コミュニティ 社会= 俯瞰的視点を持たない人々による       個別的な知識使用

= 領域別研究

科学論文の知識

41

Page 42: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

42

地球温暖化問題における情報循環構造循環的な進化の構造により世界の協調的行動が可能となった

    集合的知性( collective intelligence )のテーゼ“ループをなすネットワークが持続性に必要な知識を創出する”

構成型科学者

知識提供・勧告

評価・警告

現象

行動

観察型科学者

UNFCC(1992)排出権取引 (2002)低炭素技術、再生エネルギー省資源・省エネルギ―技術

J.Fourier(1827)

IPCC(1988)Researchers(1950~ )

AR4 (2007)Stern Review(2006)

各国政府・製造業・サービス・交通・家庭

気候変動、環境劣化、資源エネルギー危機経済危機、貧富格差拡大地域紛争                               

持続性劣化

行動者

社会、地球環境

京都プロトコル (1997) -COP15 ( 2009 )新産業・省エネルギー・国際技術協力

Page 43: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

現代の科学

入力に対応する出力

科学論文

質問-答え(教育学)刺激-反応(心理学)場-現象(物理学)伝達関数(工学)個別課題の入出力関係による対象の同定

構成型科学者

 行動者

観察型科学者

(社会)、自然

計画された入力

物質科学:物質現象の観察精神科学:精神現象の観察社会科学:社会現象の観察

観察:

43対象(自然、社会)の性質の解明を主目的としていて、現在の状態にはあまり興味を持たなかった。

Page 44: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

現代の工学

行動者

構成型科学者

観察型科学者

社会、自然

行動の根拠情報

科学論文

知識使用の基礎研究構成研究設計プロトタイプ工学分析標準試験

44

領域ごとに構成の方法を経験的に積み重ねることに終始し、一般的方法を求めることに成功していない。

Page 45: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

科学的根拠に基づく行動者の行動(科学に立脚する政治・行政・経営、製造技術、産学連携 --- )

行動者

構成型科学者

観察型科学者

社会、自然

行動の根拠情報

助言(根拠情報)を選択した専門家の行動

専門家:政治家、政策立案者、行政者、事業家、      技術者、教育者、作家、芸術制作家、      報道者、など個別行動

45

助言が届かない、届いても耳を貸さない、聞いてもその選択が恣意的であるなど、関係が不確定である。

Page 46: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

社会技術社会における行動と同化

行動者

構成型科学者

観察型科学者

社会、自然

個別の行動・効果

社会、自然の行動受容による変化

この推移は社会科学の研究対象の一つであり、その推移を構成(デザイン)するのが社会技術である。

46

Page 47: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

 循環の阻害要因

構成型科学者

観察型科学者

行動者

社会、自然

行動間の関係性不問

変化の全体性の視点欠如

研究課題選択の恣意性

連携の不十分性

方法の未成熟

交流の不足 社会の顕在要求への過度の従属

変化の現実観察の不足

47

社会的期待発見の看過

科学コミュニティ 社会

社会技術未熟

Page 48: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

5.社会的期待

Page 49: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

社会  持続性を理解するための社会・自然の記述

構成型科学者

観察型科学者

社会、自然

行動者Actors*

概念的に作ったループ構造は静的表現にすぎない。これが持続性へ向かう進化を実現するためには、このループ上に物質及び情報の有効な動的流れが実現されなければならない。このループの中で、研究開発を進める主役は科学者と行動者である。しかし持続性の鍵となるのは“社会・自然”である。なぜならその変化こそ持続性を決めるものだから。ところが、私たちはこの部分についての知識を十分に持っていない。そこで、持続性に向かって社会・自然が重心移動を起こす要因を抽出することによってループの動的流れについての理解をさらに進めることが必要である。この作業においては、すでに社会において人々が求めている顕在的課題だけでなく、まだ指摘されていない課題も抽出しなければならない。それをここで“社会的期待( social wish)” と呼ぶ。

社会的期待が科学者の全体観察によって把握されるために必要なものは何か?

Page 50: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

 科学者が、自治を持つコミュニテイの中で知的好奇心に駆動されて研究を行うことが科学研究である、とされてきた科学の長い歴史は、知的好奇心に基づく科学研究が人類にとって貴重な客観的知識を獲得するための基本的条件であることを、その成果を通じて立証している。 しかし、環境や国際関係などの、新しく生起しつつある課題を解決して人類が生き残るための知識が緊急に求められるようになり、上記の歴史的基本条件に加え必要な科学的知識を許された時間内に得るための行動が必要とされる状況に、今人類がおかれたことを認識しなければならない。 問題は、生き残るために必要な知識を人々が望んだとしても、その前提として生き残るとはどのような課題群を解決することなのかについて、抽象的であいまいな理解しかないという状況に我々がおかれていることにある。課題が明確に把握されていない以上、必要な知識とは既存の知識の組み合わせだけでなく、新しい基礎的知識である可能性が大きい。したがってそれをどのようにして見出すかが持続性時代といわれる現代の大きな課題であり、科学研究にとっても最大の課題であるといわなければならない。 解決すべき課題、それは社会的に認知されたものだけではなく、人々の心の中で不確定な輪郭を持つにすぎないもの、社会的に浮遊しているもの、それだけでなくまだ人類に感知すらされていないものまで含め、「発見」されなければならないものである。 それをここで社会的期待と呼び、政策・課題提言の出発点であると定める。持続性時代においては、この社会的期待を出発とする研究や政策の重要性が増しているのである。

社会的期待の発見(1)(観察型科学者の使命)

Page 51: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

社会的期待の発見(2)(全体観察について) 社会のすべての要素、それが現象にせよ、事象にせよ、行動にせよ、それらを同時に観察しようとすることは現実的でない。したがって、全体観察といっても観察行為は個々の対象に対して行うしかない。しかしながら全体の理解は、個別観察の単純な積み重ねで得られるわけではない。したがって、一つ一つの観察行為は、二つ以上の対象の“関係”に対して行われることが必要である。 例えば社会に対して施行されたひとつの法律の効果を観察することは、個別観察である。そして、別の法律の施行結果を観察すればそれはまた個別観察である。しかしながらこれら二つの観察を足し合わせたところで全体観察の要素にはならない。そうではなく、この場合は二つの法律の施行における関係を観察することが必要で、その関係についての観察が全体観察の最小要素なのである。この例の場合、その関係とは二つの法律の論理的整合性、現実的施行の場での調和、それを知った人が矛盾なく行動することを勇気づけることなどである。それらが達成されれば観察結果に良い評価が与えられるが、整合性、調和、勇気づけなどに対して障害となることが分かれば、全体観察結果に悪い評価を与え、その法律の再考を要請することになる。 このことは、法律の施行に限らず、製品の市場への投入、新医療の実施など、すべてにわたって行われるべきであり、そこには膨大な作業が待っているのであるが、その出発として、要素関係の観察法を開発することから始めることが必要である。

Page 52: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

 社会的期待の発見(3)(社会的期待の水準)

1) 前提・与件(調査・分析:対象とする課題に関係するが、政策によっては変えられない条件である)

2) 顕在する社会的期待(調査による発見:文献、委託調査、外国調査など) 3) 潜在する社会的期待(観察・分析的研究による発見、仮説と分析:観察型科学者 *の主体的研究) 

 社会的期待には多くの水準があり、その区別を明示しておくことがのちの課題設定において重要となる。 第一は、期待という表現からは若干はずれるが、最も重要なものとして、与件がある。これは動かしがたい条件で、どんな研究課題を作るにしても無視できないものである。たとえば、我が国の場合、与えられた地理条件、気象条件がある。また人口減も条件である。その他、国際関係などもある。何を与件とするかは判断によって変わる部分があるが、それを明示しておくことが必要である。この与件のもとで行動すること、それは基本的な期待である。 第二はすでに社会で明示されているものである。現在では、科学技術基本計画で述べられているような、環境持続、人々の健康・豊かさの向上、日本の独自文化の維持、世界の持続性への貢献などがある。 一方、社会において必ずしも明示的に示されていない期待があり、それを第三の水準とする。この発見は、観察型科学者によって行われることが期待され、この潜在する社会的期待の発見研究はおそらく今後最も重要な課題になると思われる。 これらは以下の三つの水準にまとめられる。

* 観察型科学者の観察対象 人:人文科学、心理学、医学 ---; 社会:社会科学; 自然:自然科学

Page 53: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

伝統的調和と科学政策研究動機は知的好奇心であり、社会的期待は考慮されなかった

基礎研究 目的基礎研究 目的研究

担い手

研究資金

大学研究開発法人

大学研究開発法人

企業研究開発法人大学

公的研究費(科研費)

公的研究費(科研費、戦略基礎研究費)

公的研究費(各省研究費)私的研究費(企業委託)

配分機関 文科省日本学術振興会

文科省科学技術振興機構

省庁(経産省、厚生省、農水省、総務省など)企業

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成果 成果 成果知的好奇心

社会の繁栄産業、公共 サービスなど

Page 54: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

伝統的な基礎研究における研究動機(領域内知的好奇心)内在因(研究者個人)

“知的好奇心”新しい存在、現象の発見存在・現象関係の新理論創出領域内理論の不整合解決-----

外在因(社会の要請、学界の関心)

学界(学問領域)の問題解決

知識の均衡(矛盾除去)

自己の概念体系の矛盾除去領域結合理論知識の可逆性-----

公知の課題私秘的な課題  -----

社会の均衡(矛盾除去)持続性と繁栄の両立文化の共存不平等の除去 -----

全体的(超領域)

個別的(領域内)

54研究の自治:課題選択・研究実施・発表の自由

Page 55: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

持続性時代の研究動機(超領域的な社会の要請)

内在因(研究者個人)

“知的好奇心”新しい存在、現象の発見存在・現象関係の新理論創出領域内理論の不整合解決-----

外在因(社会の要請、学界の関心)

学会(学問領域)の関心

知識の均衡(矛盾除去)

自己の概念体系の矛盾除去領域結合理論知識の可逆性-----

公知の課題私秘的な課題  -----

社会の均衡(矛盾除去)持続性と繁栄の両立文化の共存不平等の除去 -----

全体的(超領域)

個別的(領域内 )

55研究の自治:?

Page 56: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

伝統的パラダイムの危機

持続性時代では、社会からの要請が大きくなり、目的が定められた政策主導の研究が主流になり、研究の自由が狭められてしまうのであろうか。その結果科学者の自由(恣意性)を根拠とする科学の中立性が失われていくのであろうか。 それを阻止する責任が科学者にある。そのための方法を考える。

政策により指定された社会的要請を充足するために必要である特定の科学領域、技術領域の課題に基づく研究

政策的に定められた社会的期待を充足する製品やシステムなどを実現するため研究

目的研究(社会的要請〈グリーンなど〉にこたえる研究)目的基礎研究(社会的要請に対応する領域研究)

知的好奇心に基づいて自ら主体的に定めた課題に基づく研究

基礎研究(社会の要請とは独立に行われる研究)

政策化された社会的要請の実現

政策により重点化された領域の拡大科学の進歩

(自由度大)

調和の喪失

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Page 57: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

科学に課題解決が求められる時の基礎研究科学者自身による課題の発見

研究者の内因的、すなわち自発的な動機で研究を行うのが基礎研究の条件であるとすればこれは基礎研究とはいえないが、仮に与えられた課題でも、研究者が自らの動機といえるほどに咀嚼したうえで選択すれば、基礎研究だと言えるかもしれない。しかしこの咀嚼は、主観的であり、異なる判断がありえて、一般的に定義することはできない。

この条件を主観的でなく、外形的にも保証するためには、別の条件が必要である。自己の領域における内因的な動機に基づく研究課題は、外部から見れば恣意的であったとしてもその選択は許される。なぜなら、人々は領域の専門性における研究者の判断を信頼するからである。しかしながら、社会の問題など、その研究者の専門以外の言葉で書かれた課題は、それを選択した動機を外部に対しても説明可能でなければならない。この場合説明可能には次の二つが考えられる、第一に課題の必然性が科学的に確認されていることである。科学的確認は、課題が外因的である場合にはその正当性を科学的に証拠立てる必要がある(たとえばエビデンスに基づく政策提案)。そして第二に、科学者自身が社会的課題を発見する場合がある。そこで課題を科学的研究を通じて発見する研究を一つの研究分野とする。この場合、課題解決型イノベーションにおいて課題とイノベーションとに等しい重要性を置いて研究することになる。

Page 58: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

課題設定と研究自治研究課題正当化と研究自治維持の同時実現

 これは“課題の科学”が必要であることを意味している。すなわち、課題解決型研究においては研究の実施のみならず、課題の選定も科学的行為でなければならないということである。

 実はこのことは、外在因による科学研究の増大によって起きうる伝統的な科学研究の自治の危機の解決の可能性を示唆している。言い換えれば、課題解決型研究が持つ二つの問題、すなわち社会が発する課題の恣意性による誤った課題設定の可能性と、研究動機が外在化することによって基礎研究の伝統が失われる危険とを、社会的期待を充足するための課題を科学的に導出することで同時に解決する可能性があるということである。

 たとえば現在科学技術基本計画などでいわれてる課題解決型イノベーションにおける課題とは、社会的に生起している困難(地球環境劣化、貧困、文明衝突など)あるいは社会的な願望(平等、安心生活、疾病追放、経済的繁栄など)であり、イノベーションなしには達成が容易でない課題を意味している。

まず社会的期待を明確にするとともに、それを満たすための研究課題とは何かについての社会と科学者の間の合意が必要となる。それは課題の恣意性を排除することである。

上記の困難や願望は、いずれも解決が期待されているものであるから、まとめて社会的期待( social wish) と呼ぶ。社会的期待は、個人や特定の集団に固有のものではなく、広く世界において共有される期待であるとする。このような社会的期待が存在し、その解決に必要な知識が科学に求められるなら、科学はそれにこたえる責任がある。その時次のことが必要条件である。

Page 59: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

社会科学者主導の社会的期待発見研究

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 このループに見られるように観察型科学者が観察するべきものは、社会及び自然環境の変化であるが、自然環境の変化も人の行動の結果として起こる変化が主題である。したがって、社会的期待の発見研究の主な課題は人類の社会的行動によって何が起こったかを全体観察によって同定するという研究である。その意味で、この研究の主役は社会科学研究者でなければならない。 しかし、行動の結果としての変化には、人や社会の変化だけでなく自然の物理的変化もある。しかも、その対応、適応、緩和などには、自然科学を基礎とする技術の適用を必要とする場合がおおい。したがって、自然科学系の研究者の協力は不可欠であろう。 そこでここでは、社会的期待発見研究は社会科学系研究者が主導し、自然科学系研究者がそのもとで研究を行うプロジェクトを提案する。

Page 60: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

持続性時代における基礎研究のパラダイム

社会的期待の発見研究によって課題を創出し、それに基づく研究

発見された社会的期待実現に必要な科学領域、技術領域などを戦略的に進歩させるための課題に基づく研究

目的基礎研究持続性時代の基礎研究

発見された社会的期待を実現するシステム・製品などの開発研究

開発研究

社会的期待の実現

その領域の応用可能性の拡大

科学の進歩

(自由度大)

持続性時代においては、研究動機が外在因となり、しかも全体的であるから、「課題が与えられた共同研究」の形式となり、現在の分類では自由度の低い研究であるように見える。しかし、社会的期待の発見により課題を自ら定め、ネットワークオブエクセレンスを主体的に構成することにより、それは自由度の高い研究として、中立的知識を生み出す基礎研究となる。これが持続性時代の基礎研究である。

一体化による調和

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Page 61: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

まとめ

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持続性問題---私たちは過去の邪悪なるものとは違う多様な現代の邪悪なるものに直面している。  それらは、個々の戦いでは打倒することができない。なぜならこれらの現代の邪悪なる      ものは相互に複雑に関係しあっているからである。--- それらは人間活動の直接的あるいは間接的結果である。--- 現代の人間活動の多くは科学的知識を使用している。

方法:問題に対処するために必要な知識変化あるいは知識の使用法変化(1)知識--- 人類は膨大な知識を持っている。--- 知識の多くは、それ自身の内では矛盾のないディシプリンとして保存されている。--- しかしながら、異なるディシプリン間に調和があるとは言えない。                →異なるディシプリン間の調和を向上させることが必要である。(2)知識使用---私たちは、知識使用についての体系的な知識を持っていない。                →知識使用の体系的方法論を創出することが必要である。

これらの二つの、ディシプリン間の調和と、使用の体系的知識とは、理念的考察から導出することはできない。したがって、実際の行為を通じて求めていくしかない。

Page 62: サステナビリティ学 分析思考と 構成 思考の不可逆性

持続性科学の構造(再帰的構造)

行動

設計

理解抽出

行動

助言

警告

対象状態

選択

聴取

同化

この再帰的構造は、科学者が各自の役割を認識するとともに、役割によって生じる協力の相手と協力方法を要請している。その要請は、他者によって与えられるものでなく、科学者が自ら見出してゆくものであると考える。