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であった。 オランダがバルト海貿易で使用していた船舶はフライト船とよばれる非武装商業船で,輸送コストがけたはずれに低かった。さまざまな国がフライト船に輸送をゆだねたことがそれを証明する。フライト船の積載スペースはほぼ正方形であったため積載量は多く,しかも軽かった。地中海地方と異なり,バルト海地方には海賊はおらず,したがって武装商業船の必要はなかったからである。 オランダ船の多くは,ダンツィヒからアムステルダムに向かい,さらにそこから他地域に輸送された。穀物の時代の西欧は,貿易面からみれば,この「ダンツィヒ-アムステルダム枢軸」を中心に動いたといって過言ではない。 オランダは穀物をバルト海地方からの輸入にたよっていたが,むろん,再輸出することも多かった。アムステルダムには巨大な穀物庫がつくられており,ヨーロッパの穀物貿易の中心であった。再輸出先は北方ヨーロッパ諸国のみならず,イタリアにまで及び,その輸送をほぼ一手に握っていたのがオランダ船であった。バルト海地方の穀物相場の変動は,一般にオランダの経済変動のパターンと一致していたとさえいわれている。 「穀物の時代」においてヨーロッパ諸国に経済の安定をもたらしたのは,オランダの海運業であったとさえいえるのである。オランダのバルト海貿易で使用される船舶の多くは,アムステルダム船であった。●長く続くバルト海貿易の重要性──「母なる貿易」 「原材料の時代」になるとヨーロッパ経済に占めるオランダ船の比率は低下し,その一方でイギリス船の数が増加する。さらに18世紀になるとオランダ船はアムステルダムに立ち寄らず,西欧の港とバルト海地方の港を直接行き来する「通過貿易」をするようになる。そのためには,航行に必要な食料,航行する航路,取引相手などに関する正確な情報が必要とされる。アムステルダムには,そのような情報を管理する機能が備えられるようになっていった。 さらに金融面においても,アムステルダムが

ヨーロッパ有数の金融センターであった。18世紀半ばになると,アムステルダムは物流に関しては重要性を低下させていたものの,為替市場の中心であった。とくに,西ヨーロッパ諸国とロシアの貿易の多くがアムステルダムで決済された。 このように,18世紀オランダ経済にとって重要なものは,穀物輸送,金融,商業情報であった。そしてそのすべてが,さらにはオランダ経済の多くの分野が,バルト海貿易と密接に関係していた。だからこそバルト海貿易は,オランダの「母なる貿易」とよばれるにふさわしい貿易だったのである。●イギリスの台頭とオランダのバルト海貿易 オランダは,バルト海貿易で巨額の富を得た。その金は,オランダにとどまることなく,国外に投資された。オランダの利子率は低かったため,より有利な投資先を外国に求めたオランダ人は,イギリスに投資をすることになった。正確には,イギリスの国債を購入したと考えられている。その理由として,イギリスは議会が国債の償還の保証をしたため,投資家に安心感を与えたということがいえる。さらに,近世は戦争が続いた時代であり,島国であるイギリスは,国土が戦場になる可能性がきわめて低く,最も有利な投資先だったと考えられる。  オランダは分権的な国家であり,それに対してイギリスは金融財政面では,中央集権的な国家であった。オランダの勢力範囲はヨーロッパ内部にとどまったが,それに対しイギリスは,世界的な帝国を築いた。17世紀のヘゲモニー国家オランダと,19世紀のヘゲモニー国家イギリスには,このような差異があった。しかし,最初のヘゲモニー国家オランダが,次のヘゲモニー国家イギリスをつくりあげたとさえいえるのである。オランダからイギリスへと覇権が移り変わっていった背景が,オランダのバルト海貿易からみえてくるのである。

【参考文献】(いずれも玉木俊明著)『近代ヨーロッパの誕生─オランダからイギリスへ』(講談社,2009年)『近代ヨーロッパの形成─商人と国家の近代世界システム』(創元社,2012年)『海洋帝国興隆史─ヨーロッパ・海・近代世界システム』(講談社,2014年)

− 5 − 世界史のしおり 2015③