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国有林の森林リソースマップの作成プロセスについて 上川南部森林管理署 西梅 慶臣 山本 政治 山本 1 課題の目的と背景 新たな「森林・林業基本計画」の中で、「国有林野の活用による地域産業の振興と地域住民の福祉の向上に 寄与すること」が求められています。その方針に沿って国有林の有する森林資源を活用した地域貢献策を描い ていく必要があります。 また、それを具体化するためにモデル地域において地域貢献策を描き、その作成プロセスを標準化し、他の 地域にも適応させることが出来れば、地域貢献策の作成を効率的に進められるのではないかと考えました。 地域貢献策の作成に当たっては、既存の文献・資料、地域住民からの情報を基に多様な森林リソースを把握 して、その森林リソースマップを基に地域貢献策の切り口を見つける方法を取ることとしました。 本取組みでは、当署管内で国有林面積比率が高い占冠村を対象としました。 なお、本取組みにおいて森林リソースとは、単に木材や土石などの有形資源だけではなく、景観などの無形 の資源、森林情報を持つヒューマンリソース(人材資源)も含めたリソース(資源)という意味で用いています。 2 取組みに当たっての視点 本取組みを進めるに当たっては、以下の3つの視点を考慮しながら進めました。 ①住民参加:地域の森林リソースについては、職員だけではなく、むしろ地元住民の方々のほうが日々森林 に接しています。また、今後の国有林の活用に当たっては、住民のニーズを出来るだけ反映して いくことが重要です。このようなことから、住民の方々が実際に国有林をどのように活用してい るのか、何に魅力を感じているのかなどの情報や意見を広く聞くために、住民参加に留意しまし た。 ②情報の視覚化:得られた情報等は、多くの方々に情報を共有していただくため、見てすぐに理解できるよ う、情報を出来るだけ視覚化するよう心がけました。 ③仕組みの体系化:企画から地域貢献策作成までの全体の流れを把握しやすくするため、また体系化するこ とにより、標準化を進めて他地域への応用が出来るように心がけました。 3 取組みの方法 森林リソースマップと、さらに地域貢献策の作成の全体の流れを把握するために、その流れをフロー図にし ました(下図)。 取組企画 ・目的 ・方法 ・対象 ・… 情報収集方法 ・インタビュー ・ワークショップ ・アンケート ・… インタビューの記録メモ (箇条書きの文書) インタビューの結果等を キーワード化 キーワードをグループ化 地域貢献策の切り口 ( トピック案) 地域貢献策( 案1) 占冠の街道と地質 を訪ねる 森林リソースマップ作成・地域貢献策作成フロー図 既存資料・文献・パンフレッ トなど 地域貢献策 ( 案2) 分析 地域貢献策マップ (案1) 森林リソースマップ (全分野のデータ) 地域貢献策マップ (案2) 視覚化 情報の補充 分類

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国有林の森林リソースマップの作成プロセスについて

上川南部森林管理署

西梅 慶臣

山本 政治

山本 剛

1 課題の目的と背景

新たな「森林・林業基本計画」の中で、「国有林野の活用による地域産業の振興と地域住民の福祉の向上に

寄与すること」が求められています。その方針に沿って国有林の有する森林資源を活用した地域貢献策を描い

ていく必要があります。

また、それを具体化するためにモデル地域において地域貢献策を描き、その作成プロセスを標準化し、他の

地域にも適応させることが出来れば、地域貢献策の作成を効率的に進められるのではないかと考えました。

地域貢献策の作成に当たっては、既存の文献・資料、地域住民からの情報を基に多様な森林リソースを把握

して、その森林リソースマップを基に地域貢献策の切り口を見つける方法を取ることとしました。

本取組みでは、当署管内で国有林面積比率が高い占冠村を対象としました。

なお、本取組みにおいて森林リソースとは、単に木材や土石などの有形資源だけではなく、景観などの無形

の資源、森林情報を持つヒューマンリソース(人材資源)も含めたリソース(資源)という意味で用いています。

2 取組みに当たっての視点

本取組みを進めるに当たっては、以下の3つの視点を考慮しながら進めました。

①住民参加:地域の森林リソースについては、職員だけではなく、むしろ地元住民の方々のほうが日々森林

に接しています。また、今後の国有林の活用に当たっては、住民のニーズを出来るだけ反映して

いくことが重要です。このようなことから、住民の方々が実際に国有林をどのように活用してい

るのか、何に魅力を感じているのかなどの情報や意見を広く聞くために、住民参加に留意しまし

た。

②情報の視覚化:得られた情報等は、多くの方々に情報を共有していただくため、見てすぐに理解できるよ

う、情報を出来るだけ視覚化するよう心がけました。

③仕組みの体系化:企画から地域貢献策作成までの全体の流れを把握しやすくするため、また体系化するこ

とにより、標準化を進めて他地域への応用が出来るように心がけました。

3 取組みの方法

森林リソースマップと、さらに地域貢献策の作成の全体の流れを把握するために、その流れをフロー図にし

ました(下図)。

取組企画

・目的

・方法

・対象

・…

情報収集方法

・インタビュー

・ワークショップ

・アンケート

・…

インタビューの記録メモ

(箇条書きの文書)

インタビューの結果等を

キーワード化

キーワードをグループ化

地域貢献策の切り口

(トピック案)

地域貢献策(案1)

占冠の街道と地質

を訪ねる

森林リソースマップ作成・地域貢献策作成フロー図

既存資料・文献・パンフレッ

トなど

地域貢献策

(案2)

分析

地域貢献策マップ

(案1)

森林リソースマップ

(全分野のデータ)

地域貢献策マップ

(案2)

視覚化 情報の補充 分類

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(1) 取組企画

まず、全体の取組の企画を行います。ここでは、取組みの目的、情報収集方法、対象者、分析方法等を大ま

かに決めておきます。

(2) 情報収集

情報収集には、既存の文献・資料、ヒューマンリソースからの情報などがあります。前者は村史、パンフレ

ットなどがあり、後者は、ワークショップ、アンケート、インタビューなどがあります。今回は、主要な情報

を効率よく収集できること、直接的な参加型を模索すること、時間が制限されていたことからキーパーソンへ

のインタビューを行いました。インタビューの対象者は3組で、多様な観点からの情報を得ることを勘案して、

占冠出身・村外出身、若者・年配者などを考慮しました。インタビューで得た情報は、箇条書きに文章として

記録しました。

なお、インタビュー対象者の属性は下表の通りです。

インタビュー対象者の属性インタビュー対象者の属性

60~70歳代60歳代30歳代年齢

占冠村占冠村東京都出身地

林業元教員アウトドア・インストラクター職歴

林業・村の歴史教育・自然アウトドア・自然関心・主要情報

生まれてから青年、定年時7年前から定住占冠村在住

5人の方々A 氏K 氏

林業情報

自然情報

占冠村在住期

間が長い

占冠村在住期

間が短い

5人の方々

A氏

K氏

A氏

(3) 情報整理

既存の文献・資料やインタビューから得られた情報のうち、その位置が把握できたものは森林リソースマッ

プ上に表示しました。

また、情報を効率的に分析していくため、文章の情報をキーワード化し、それらをポストイットに書き写し

ました。

(4) 森林リソースマップの作成

占冠村の森林リソースを一瞥するために、占冠流域森林位置図(50,000 万分の1)をベースに上記で得られ

た位置の確認できる情報を落とし込み、簡単なキーワードで示しました。より詳細な情報を示すためには、施

業実施計画図(25,000分の1)などに落とすこととしています。

(5) キーワードのグループ化

キーワード化されたポストイットの情報を、同類の情報同士を集めていくつかのグループに分けます。集め

られた情報グループについて、そのグループにふさわしいタイトルを付けます。ここでのグループ分け、タイ

トル付けは個人・ワークショップ参加者の協力した感性で行ってもかまいません。

(6) 結果の分析

上記で作っておいた森林リソースマップとキーワードグループを基に分析を行います。キーワードグループ

のタイトルをいくつか組み合わせたり、森林リソースマップ上の情報の地域偏在を考慮したりしながら地域貢

献策の切り口(トピック案)を見つけ出します。

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(7) 地域貢献策の企画

上記で地域貢献策の切り口(トピック案)を見つけ出したら、その地域貢献策企画案を作成します。企画案

では、地域貢献策マップと地域貢献策企画案の2種類を作ります。前者は森林リソースマップから企画案に必

要な情報を抜き出して地図に点を落としたり、実施ルートなどを書き込みしたりして、情報の視覚化をします。

また、後者の地域貢献策企画案では、誰に対する企画かを意識しながら、対象者に合った内容、スケジュー

ルなどを書き出していきます。

4 取組みの結果

(1) インタビューによる情報

A氏へのインタビュー(写真1)は、2回ほど行いましたが、1回目は村役場の会議室で行ったため、ど

ちらかというとくつろいだ雰囲気で行うところまではいきませんでした。2回目は、我々がA氏の御自宅に

お邪魔させて頂き、ざっくばらんな雰囲気でコーヒーなどをいただきながら、暖炉の前で地図を広げつつA

氏から進んで話をして頂くようなインタビューとなりました。2回目のインタビューで得た情報のほうが数

も多く、我々の気づかないような観点の情報も得ることが出来ました。

写真1 A氏宅でのインタビュー

今回の3組の方達のインタビューから、10ページほどの箇条書文書情報が得られました。このうち、地

域貢献に関係する情報をキーワード化したところ、以下のような110個のキーワードが得られました。

①K氏:15 個のキーワードで、主に道外からの観光客などが占冠の自然をどう感じているかなどの情

報でした。

②A氏:57個のキーワードで、主に自然関係の情報。数が多かったのは、元教師として情報も具体的で

キーワード化しやすかったためです。

③5人の方:38個のキーワードで、主に林業関係の情報でした。特に、かつて鵡川で行われていた流送

などの情報が特異でした。

(2) 森林リソースマップ

位置を確認できた情報を地図に落とし込んだときに、情報が地域によって偏っていたり、アクセスの良い

箇所に多かったりしていました。地域の情報の偏りとしては、比較的村の歴史が古く、住民の多くが住む占

冠中央に近い仁々宇地区で多くの情報を集めることが出来ました。一方で、村の東に位置するトマム地区で

はそれほど多くはありませんでした。これは、村の歴史、情報提供者の活動空間などが反映されているもの

と思われます(写真2)。

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写真2 森林リソースマップ

(3) キーワード情報のグループ化

我々がキーワード情報のグループ化を行ったところ、今回は10グループに分けられました(写真3)。

具体的には、①林業・樹木(17)、②流送(9)、③鉱山・鉱物(15)、④草花(15)、⑤景観(11)、⑥街道(7)、

⑦アウトドア(13)、⑧動物(4)、⑨川の生物(8)、⑩村外の人達の関心事(11)の10グループでした。なお、

括弧内の数値はキーワードの数です。

写真3 グループ化されたキーワード

以上のグループのうち、①、②及び③のほとんどは占冠出身で林業に携わってきた5人の方達からの情報

でした。一方で、⑩は道外出身のK氏や現在喫茶店を経営し道外客とも接触のあるA氏からの情報でした。

やはり当初の予想通り、個人の情報の種類に偏りが見られました。

(4) 地域貢献策の切り口

上記で整理した森林リソースマップとキーワード情報のグループタイトルを勘案して、地域貢献策の切り

口を考えました。

地域貢献策のひとつの例を示します。グループタイトルを組み合わせつつ、マップ上のルートを勘案して、

かつ一定の実現性があるものとして、「占冠の街道と地質を訪ねる」というイベント案を考えました。

占冠にはトマム街道や仁々宇街道などの旧道があり、これを利用して高齢者を対象に「街道を行く」とい

うことで実際に行われているイベントを参考にしました。また、占冠は昔砂金が採れたり、アンモナイトや

化石・木石・亀甲石などが出た場所があるということでしたので、それらの情報を利用して街道を歩きなが

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ら、その付近にある地質に関するものも探索したり出来ないかと考えました。対象としては、小中学生の森

林教室や地元住民の生涯学習などに活用出来るのではないでしょうか。

5 考察

(1) 森林リソースマップ作成と情報キーワードのグループ化による視覚化で、欠けている情報が容易に把握

できるようになり、情報補充に役立つことも分かってきました。今後、地元住民のワークショップ等でそ

れらの情報を補充する必要があります。

(2) 地域貢献策のための森林リソースマップ作成を体系的にしたことで、他地域にも適応できる可能性も

あり、そのため更なる標準化が必要であることがわかってきました。さらなる標準化のためには、事例

を増やしていくことが必要となります。

(3) 森林情報のグループ化を変えたり、複数のグループの組み合わせを変えたりすることなどにより、地域

貢献策の切り口も変わってくることが分かってきました。今後は、住民参加のワークショップ等で住民自

らがグループ化を行うことにより、住民ニーズもより把握できる可能性が分かってきました。