地域資源を活用した観光戦略を語る · 2019. 7. 5. ·...

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9 J 2 TOP June 2019 June 2019 J 2 TOP 8 地域資源を活用した観光戦略を語る 持続可能なまち・地域をめざして 内外情勢調査会 南房総支部 特別懇談会 2019 年 5 月 8 日 開 催 18 15 沿18 使使調1964 年埼玉県生まれ。87年上野学園大学音楽 学部卒業。同年 4月音楽教諭となり君津市に赴 任。2003年9月君津市議会議員選挙で当選。 07年4月千葉県議会議員選挙で当選(3期)。 18 年11月君津市長就任。 1964 年木更津市生まれ。87年日本大学理工学 部建築学科卒業。93年木更津商工会議所青年 部第 37 代部長、98 年( 一社 )かずさ青年会議 所第 33 代理事長、2000 年( 公社 )日本青年会 議所関東地区千葉ブロック協議会会長就任。 05 年千葉県議 会 議員当選(3 期 )。2014 年木 更津市長就任。

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地域資源を活用した観光戦略を語る

| 持続可能なまち・地域をめざして |

内外情勢調査会南房総支部特別懇談会2019年5月8日開催

抄録

講演

石井宏子

君津市長

豊かな自然や歴史・文化を

気軽に楽しめるまち

君津 

〜農・商・工・観・連携で

新たな魅力と価値を創造しつづける〜

ニューもある。また、君津は歴史と文

化の体験も行っており、久留里城の

別名を冠した楊枝づくりができる「雨

城楊枝づくり体験教室」や、本物さな

がらの甲冑を試着して武者気分を味

わえる「甲冑着付け体験」を実施し

ている。さらに、世界に誇る日本製鉄

の工場見学で、鉄鋼製品の製造過程

を見学することもできる。

 また、自然を生かした取り組みと

して、サイクルツーリズムなどを始

めている。こうした取り組みに際し

ては、近隣市との連携が重要と考え

ており、市原市、大多喜町といった中

房総地域などとの連携による取り組

みも進めている。観光というものは、

農業、商業、工業など、さまざまな業

種を巻き込んで、地域の経済発展に

取り組む総合産業と考えている。

 君津市には多くの可能性があり、

これらの総合力を高めていくことで

好循環を創造し続けていくことが

キーポイントになってくると思って

いる。そのために、政策推進室と広報

部門を一体化して、横断的な重要施

策とシティプロモーションを行う「政

策推進課」を企画政策部に新設した。

こうしたことによって、交流人口、関

係人口を増やしていきながら持続可

能なまちづくりに取り組んでまいり

たい。

房総の新たなゲートウェイとして

渡辺芳邦

木更津市長

 テーマの「房総の新たなゲートウェ

イとして」は、房総の玄関口というだ

けの意味ではなくて、都市や農村な

どの違ったところをつなげようとい

う意味合いもある。空と海による世

界と房総が融合する結節点を目指す

意味も込めている。観光入込客数は、

2017年が1792万人で、18年

に2000万人を突破した。

 現行の木更津市観光振興計画は15

年度から今年度までのもので、「東京

湾リゾートと房総リゾートのジャン

クション〝木更津〟」という理念に沿っ

て進めている。大型集客施設からの

回遊、ブルー・グリーンツーリズム

などの七つの柱を立てている。

 ブルーツーリズムでは、「パークベ

イフェスティバル」の開催や、最大の

観光資源である「潮干狩り」、また「海

苔すき」などの体験学習も都内の教

育関係者にアプローチしている。

 グリーンツーリズムでは、道の駅

を「オーガニックツーリズム」の発

信基地とし、「里山体験」、「サイクル

ツーリズム」を展開しているほか、ブ

ルーベリー狩り、とうもろこしなど

の収穫体験もやっていただいている。

 インバウンド観光の推進は、千葉

県の観光ミッションに同行して、マ

レーシア、フィリピン、タイ、ベトナ

ム等で誘致活動を行った。18年度に、

ベトナム農業視察団をはじめ、スリ

ランカ、インドネシア、韓国、ベトナ

ム等から来ていただくなど、アジア

地域との友好関係を広げている。

 クルーズ船誘致については、オリ

ンピックのときにホテルシップを誘

致できないかということで努力して

いる。秋には東北・三陸クルーズが

ある。

 スポーツによる観光振興では、ア

クアラインマラソンやトライアスロ

ンに加え、今秋には「ツール・ド・

ちば」が木更津市をスタート・フィ

ニッシュ地点として開催することと

なっている。6月には江川総合運動

場陸上競技場が完成するが、ここを

中心に、スポーツによる交流を進め

ていきたい。

 DMOの取り組みでは、体験型観

光の推進やレンタサイクル、千葉大

学との連携、インバウンド事業のほ

か、ブルーベリーなどの木更津の特

産品を使った商品開発なども進めて

いる。和ハーブの一種「橘

たちばな」を使った

プロジェクトもその一つだ。

 君津市は1970年に5町村が

合併してできた千葉県第2位の面

積と人口8万4322人の市だ。都

 

内外情勢調査会南房総支部は5月8日、君津、木更津、袖ケ浦、富津の4市長を

招き、「地域資源を活用した観光戦略を語る

持続可能なまち・地域をめざして

をテーマにした特別懇談会を開催、4市長がそれぞれに地域の特性を挙げながら観

光戦略などを詳解した。君津市は、地域資源を生かした体験型観光メニューを紹介、

近隣自治体との連携について報告し、木更津市はアジア地域との交流事業に積極的

に取り組んでいるほか、地域の特産品を生かした商品開発に取り組んでいる実情を

解説した。袖ケ浦市は、季節ごとの収穫を体験してもらう「袖ケ浦魅力発見バスツ

アー」などの成功事例を披露した。富津市は、鋸山に対する外国人の関心の高さに

驚かされたことなどを挙げながら、観光の魅力アップに努める決意を表明した。各

市長は、講演後に再び登壇し、質疑にも応じた。(文責・編集部)

1964年埼玉県生まれ。87年上野学園大学音楽学部卒業。同年 4月音楽教諭となり君津市に赴任。2003 年 9月君津市議会議員選挙で当選。07年 4月千葉県議会議員選挙で当選(3 期 )。18年11月君津市長就任。

1964年木更津市生まれ。87年日本大学理工学部建築学科卒業。93年木更津商工会議所青年部第37代部長、98年(一社)かずさ青年会議所第33代理事長、2000年(公社)日本青年会議所関東地区千葉ブロック協議会会長就任。05 年千葉県議会議員当選(3 期 )。2014 年木更津市長就任。

心近くにある観光地として、年間約

300万人の観光客が訪れている。

観光産業の推進を図ることによる地

域経済の活性化や税収確保などを図

るための指針の基本理念は「多様な

情報発信が展開され、訪れた観光客

が心温まるおもてなしに感動できる

まち」だ。ドローンを活用した動画で

君津の魅力を発信するなどしている。

スーパームーンの月明かりの写真が

撮影された清水渓流広場(濃溝の滝・

亀岩の洞窟)には5000人以上の方

が来てくれる日もある。君津にはこ

れらの資源を生かした体験型観光メ

Page 2: 地域資源を活用した観光戦略を語る · 2019. 7. 5. · その隣に「ダチョウ王国」という施その3分の2以上が「東京ドイツ村」。 袖ケ浦公園は、

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 おいしさで言えば、市の特産品の

蜂蜜を使った料理レシピを開発し、

市内の店舗でメニューとして出して

いる。落花生くず餅は、特産品の一つ

である落花生を加工したくず餅で、

これも好評だ。米も特産品なのだが、

業者と2年かけて米粉を開発した。

小麦を使わないということで、アレ

 袖ケ浦市の観光の状況だが、入込

客数は18年が177万人くらいで、

その3分の2以上が「東京ドイツ村」。

その隣に「ダチョウ王国」という施

設があって、これもなかなか面白い。

ダチョウの卵も、実際に食べるとお

いしいし、すごい量がある。肉もバー

ベキューで食べられるので、家族連

れで大にぎわいだ。「東京ドイツ村」

には約110万人、「ダチョウ王国」

は1万9000人が来られる。

 袖ケ浦公園は、「水と緑と花の公園」

ということで、冬の梅に始まり、菜

の花、桜、花菖蒲、あじさいと続く。

特に花菖蒲の時期には観光バスが連

なって来る。その隣の「直売所

ゆり

の里」は、観光施設というより、新鮮

で生産者の顔が見える野菜の販売施

設だが、年間約31万人が訪れる。そ

のゆりの里にあるアイスクリーム店

「MILK

HOUSE」は、昨年のリ

ニューアルで屋外に移設したところ、

一気に売り上げが3倍ぐらいになっ

た。季節の野菜や果物を使ったアイ

スクリームやクレープが好評である。

袖ケ浦海浜公園は景観的な要素もあ

る。そこから見るアクアライン、海

ほたる、富士山とそこへ沈むダイヤ

モンド富士は人気で、そこでのバー

ベキューも予約は必要だが賑わって

いる。イベント的には、「ガウラフェ

スタwithマルシェ」という農業・

商業・工業・観光業が連携して、袖

ケ浦市の食を中心に楽しんでいただ

くイベントもある。

 袖ケ浦市は農業が盛んで、さまざ

まな野菜や果物等が栽培されている。

その味覚狩り・収穫体験は地域資源

の有力な一つで、「袖ケ浦魅力発見バ

スツアー」というものをやっている。

いちご、さつまいも、落花生、大根や

キャベツ、レタスも加えると一年中

収穫物があるので、季節ごとの収穫

を体験していただき、昼食は市の特

産品を使ったおいしいお弁当を食べ

てもらう。最初は年6回やって見事

に当たった。

来て

見て

知って

食べて

好きになる

袖ケ浦!

地域資源を活用した観光戦略 

〜鋸山・海堡の新たな資源としての有効活用〜

出口

袖ケ浦市長

高橋恭市

富津市長

 富津市は、面積約205平方キロ

メートルという大きな自治体で、海

岸線から見える東京湾越しの富士山

は大きな魅力だ。人口は、1985年

の5万6777人から減り続けてい

る。こうした状況を打破していくた

めにも「交流人口から定住人口へ」

京、大阪、名古屋、京都、富士山・箱

根を中心とした五つの地域だという。

それらの地域を訪れた経験のあるア

メリカとオーストラリアの方に「次

はどこに行きたいか」調査したとこ

ろ、富津の鋸山が高野山の奥の院に

次いで第2位になった。鋸山は富津

市と鋸南町の境界エリアにあるので、

鋸南町とも協議しながら観光の魅力

アップに努めている。

 テーマの一つとした海か

堡ほう

は、首都

防衛のために明治時代につくられた

軍事遺構で、富津市沖に三つあった。

第一海堡の管理は財務省が行ってお

り、立ち入りは禁止されている。第二

海堡は、第一海堡の西方約2・6キロ

にあり、ここへの上陸ツアーを横須

賀市と協力して進めている。第三海

堡は、航路の安全が保てないという

ことで国が撤去した。いま注目が集

まっている遺跡を観光につなげてい

こうということで、国がインフラツー

リズムを推進している。候補地とし

て第二海堡が注目されているので、

今は横須賀市としっかりタッグを組

んで進めているところだ。ただ、海堡

単独ではツアーを組むのは難しいと

いうことでもあるので、富津公園に

手つかずで数多く残っている軍事遺

跡などで歴史を感じながら観光につ

なげていくメニューを旅行会社につ

くっていただいているところだ。

ルギーに対応できるクレープとお好

み焼きに利用されている。

 私どもの市は、いい食材などはあ

るのだが、発信力が足りない。そこで、

商業施設が今夏に開業されるので、

その一角に観光情報や市の食材を用

いた食を取り扱えるようなコーナー

を設ける計画にしている。

佐々木昌巳 (時事通信社千葉支

局長) インバウンド客をさらに

呼び込むための方策について伺い

たい。

高橋(富津市長) 鋸山のある金

谷地域も、外国のお客さまに慣れ

ていない部分もある。また、観光

案内板とか、フリーWi

Fiの

整備など、先行している観光地に

比べて整備されていないものが

あるのは行政の課題だと思ってい

る。外国の方は日本人よりも「お

もてなし」の評価の高いところを

訪れることもあるかなと感じてお

り、言葉や、外国の方が好む食べ

物などの研究もしていく必要があ

ると思っている。

佐々木 JR袖ケ浦駅の新しいま

ちづくりに際して、どんな人の流

れをつくっていこうと考えている

のか。

うし、木更津市全体のブランディ

ングにつなげていきたいと思って

いる。

佐々木 観光資源として、これは

一押しと言えるものをお聞きした

い。

石井(君津市長) 強いて言えば

鹿野山だ。九十九谷からの「初日

の出」は素晴らしく、各地からこ

れを見に来てくれる。近くには神

野寺もあり、鹿野山の魅力をもっ

と広めていきたい。また、当市に

とっていわゆる体験型というもの

は重要だと思っており、オンリー

ワンのまちづくり「君津モデル」

ということをキーワードにやって

いきたいと思っている。

出口(袖ケ浦市長) 袖ケ浦駅の

海側の地区についてだが、商業施

設もこの夏にはオープンするの

で、市内外の方々に地域資源とか、

観光に来た際に、どこに何がある

か分かるように情報発信したり、

地域資源である新鮮な農作物を

売ったり、加工して野菜ジュース

や市の特産推奨品などの販売もで

きるような施設をつくっていく。

シティプロモーションも昨年から

少し変えて、東京全体ではなくて、

例えば大田区だけといった拠点的

なアプローチもしていく。

佐々木 さらなる観光資源の創出

について、今後の展望・展開をお

聞きしたい。

渡辺(木更津市長) 本市に進出い

ただく民間施設、企業に、木更津

が進めている「オーガニック」と

いうテーマについてお話すると、

大概がそれに賛同いただき、「食」

や「自然との調和」という部分に

気を使っていただけるというお話

をいただいている。オーガニック

のベースに「食」というものがあ

るが、最終的には「食」を通して、

それぞれがオーガニックという

テーマでつながっていければと思

という目標を定めていかなければい

けないし、これからのまちづくりの

大きな部分を観光が占めると考えて

いる。

 鋸山の名前の由来は諸説あるが、

江戸時代から昭和初期まで建設資材

として使われた石の採掘跡の形が鋸

に見えるということから呼ばれ始め

たといわれている。鋸山から切り出

された石は「金谷石」と呼ばれ、東京

のお台場や、靖国神社、早稲田大学

にも使われていたことが分かってき

ている。鋸山に登るルートの一つに、

富津の観光の目玉でもある鋸山ロー

プウエーがあり、そのロープウエー

からは、東京湾の素晴らしい景色も

眺められる。いま多くの外国人の方

が鋸山に注目している。外国人が日

本を訪れるゴールデンルートは、東

講演抄録内外情勢調査会南 房 総 支 部特 別 懇 談 会

1946 年袖ケ浦市生まれ。65 年 4月東京電力株式会社千葉支店入社。92年11月~ 2007年 9月まで袖ケ浦市議会議員。07年11月に袖ケ浦市長就任(現在3期目)。

1969年富津町( 現・富津市)生まれ。帝京大学法学部法律学科卒業。衆議院議員浜田靖一氏の政策秘書を務めたのち、2013年に富津市副市長に就任。16年10月富津市長就任。

質疑応答

佐々木昌巳(時事通信社千葉支局長)