日本冷凍空調学会賞 学術賞 枝管付きループ管型熱音響冷凍機に ... · 2014....

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10  冷凍 2014 年 6 月号第 89 巻第 1040 号 364  日本冷凍空調学会賞 1. は じ め に 近年,未利用エネルギーの有効利用が重要な課題と なっている.微細流路内での気体の圧縮と膨張のサイク ルによる温度変化を利用して熱輸送を行う熱音響冷却シ ステムは,廃熱や太陽光などの多用な熱源に対応可能 で,しかも冷媒が不要でかつ可動部が無い簡単な構造で 実現できることから,環境調和型の冷却システムとして 注目されている.しかし,冷却性能は十分ではなく,流 路形状,スタック構造,熱交換器の構造などシステム形 状の工夫が性能向上の有力な方策となる.このような課 題に対応するためには,音波による熱輸送機構の一層の 理解と,様々なシステム形状に対応できる数値計算モデ ルの構築が重要となる. そこで本論文では,進行波音波による高い冷却性能が 期待される枝管付きループ管型熱音響冷凍機を対象に, 時間領域差分法(finite-difference time-domain method: FDTD 法)を用いた音場解析と,差分法による温度場解 析を連成した数値計算モデルを構築した.また,定在波 と進行波が複合するループ管内の音波による熱輸送効果 をスタック構造と関連づけて検討を行った. 2. 熱音響冷却の原理 熱音響冷却の原理をに示す.音波がスタックと呼 ばれる狭い流路を伝播する場合,流体は断熱的に変化せ ず,スタックの流路壁と流体の間で熱交換が行われる. すなわち,膨張過程では流体要素の温度が低下し,ス タック壁面から流体へ熱が移動する.上方へ移動した流 体要素は圧縮されて温度が上昇し,スタック壁面へ熱を 放出する.このようにして,熱がバケツリレー式に移動 し,冷却が可能となる. 3. 数値計算モデルの概要 数値計算モデルの概要をに示す.熱音響冷 凍機として,ループ管,枝管共鳴管,スタックか らなる系を対象とした.まず,音場解析は図2 (a) に示す 2 次元流路について行う.本計算では,ス タック流路内部については音場を厳密に解くので はなく,スタックに相当する流れ抵抗をスタック 領域に設定することでスタックによる音波減衰を 仮想し,流路内の音場を求めた.解析は,圧力と 粒子速度を用いた連続の式と運動方程式を連立し *富山高等専門学校 Toyama National College of Technology **金沢大学 Kanazawa University 原稿受理 2014 年 3 月 24 日 経田僚昭 Tomoaki KYODEN 瀧本 昭 ** Akira TAKIMOTO 大西 元 ** Hajime ONISHI 多田幸生 ** Yukio TADA L B B s 枝管付きループ管型熱音響冷凍機の数値計算モデル 熱音響冷却の原理 日本冷凍空調学会賞 学術賞 枝管付きループ管型熱音響冷凍機における 冷却性能の数値シミュレーション Numerical Simulation of Thermoacoustic Cooling in Loop-Tube-Type Cooler with Branch Resonator

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10  冷凍2014年6月号第89巻第1040号

364  日本冷凍空調学会賞

1. は じ め に

近年,未利用エネルギーの有効利用が重要な課題となっている.微細流路内での気体の圧縮と膨張のサイクルによる温度変化を利用して熱輸送を行う熱音響冷却システムは,廃熱や太陽光などの多用な熱源に対応可能で,しかも冷媒が不要でかつ可動部が無い簡単な構造で実現できることから,環境調和型の冷却システムとして注目されている.しかし,冷却性能は十分ではなく,流路形状,スタック構造,熱交換器の構造などシステム形状の工夫が性能向上の有力な方策となる.このような課題に対応するためには,音波による熱輸送機構の一層の理解と,様々なシステム形状に対応できる数値計算モデルの構築が重要となる.

そこで本論文では,進行波音波による高い冷却性能が

期待される枝管付きループ管型熱音響冷凍機を対象に,時間領域差分法(finite-difference time-domain method:FDTD 法)を用いた音場解析と,差分法による温度場解析を連成した数値計算モデルを構築した.また,定在波と進行波が複合するループ管内の音波による熱輸送効果をスタック構造と関連づけて検討を行った.

2. 熱音響冷却の原理

熱音響冷却の原理を図1に示す.音波がスタックと呼ばれる狭い流路を伝播する場合,流体は断熱的に変化せず,スタックの流路壁と流体の間で熱交換が行われる.すなわち,膨張過程では流体要素の温度が低下し,スタック壁面から流体へ熱が移動する.上方へ移動した流体要素は圧縮されて温度が上昇し,スタック壁面へ熱を放出する.このようにして,熱がバケツリレー式に移動し,冷却が可能となる.

3. 数値計算モデルの概要

数値計算モデルの概要を図2に示す.熱音響冷凍機として,ループ管,枝管共鳴管,スタックからなる系を対象とした.まず,音場解析は図2(a)に示す 2 次元流路について行う.本計算では,スタック流路内部については音場を厳密に解くのではなく,スタックに相当する流れ抵抗をスタック領域に設定することでスタックによる音波減衰を仮想し,流路内の音場を求めた.解析は,圧力と粒子速度を用いた連続の式と運動方程式を連立し

*富山高等専門学校 Toyama National College of Technology**金沢大学 Kanazawa University原稿受理 2014 年 3 月 24 日

経田僚昭*

Tomoaki KYODEN瀧本 昭**

Akira TAKIMOTO大西 元**

Hajime ONISHI多田幸生**

Yukio TADA

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図2 枝管付きループ管型熱音響冷凍機の数値計算モデル

図1 熱音響冷却の原理

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枝管付きループ管型熱音響冷凍機における 冷却性能の数値シミュレーションNumerical Simulation of Thermoacoustic Cooling in Loop-Tube-Type Cooler with Branch Resonator

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冷凍2014年6月号第89巻第1040号  11

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て行い,数値計算には FDTD 法を用いた.次に,温度場は音場の計算結果のうちスタック周辺領

域(図2(a)中の点線の領域)の結果を図2(b)の領域に逐次移行して解析する.本研究では,メッシュ積層体をメッシュ線径 d の厚みを有する平板が配列した構造体でモデル化した.数値計算は,音場計算で求めた音圧,気相のエネルギー式,スタック壁面内の熱伝導方程式を連立して行った.これにより,スタック壁面と気相の熱交換を考慮した音波による熱輸送効果の検討が可能となった.

4. 音場と熱輸送機構

FDTD 法による音場解析を行い,ループ管内の音圧と粒子速度の経時変化を捉えることが可能になった(図3).また,スタック流路径が小さくなるにつれて両者の位相差が変化し,進行波成分が増加することが明らかになった.次に,スタック内の気体と流路壁面間の熱交換を考慮した温度場の非定常数値シミュレーションを行い,振動周期中の気相およびスタック壁面の温度変化と熱輸送の様子が明らかとなった(図4).

5. 熱音響冷却性能の予測

熱音響冷却性能を予測する指標として,第 1 周期の間のスタック下方の領域における総吸熱量 Q

に注目した.Q・

の計算結果をスタックの熱的応答性を表すωτ(ωは音波の角振動数,τはスタック流路の熱緩和時間)との関係で図5(b)に示す.また,熱音響冷却装置を製作し,スタック両端の冷却温度差ΔT を計測した結果を図 5(a)に示す.両者の値はどちらも #16 ~ #30 メッシュのスタックで高い値が得られ,ωτが 1 付近で冷却性能が最大となる.すなわち,#16 ~ #30 メッシュでは定在波成分が支配的であるため,ωτ= 1 付近で吸熱・放熱のタイミングと変位のタイミングが適度にずれる結果,熱輸送量が増加したと考えられる.図 5(a)と(b)の比較から,本手法を用いて冷却性能を最大とするスタックの熱的応答性を定量的に推定できることが示された.

6. お わ り に

枝管付きループ管型熱音響冷凍機を対象に,音場およびスタック内の熱輸送現象を解析する数値計算モデルを構築し,その有効性を明らかにした.本モデルを用いることで,様々な流路形状の熱音響冷凍機に対して冷却性能の予測が可能となり,ループ管構造を含めた新たな熱音響冷凍機の開発につながることが期待される.

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図3 音圧分布の経時変化(p0=0.8 kPa,f=110 Hz)

図4 スタック下端における温度分布の経時変化   (16番メッシュ)

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図5 熱音響冷却性能とスタックの熱的応答性の関係   (a)スタック両端の冷却温度差(実験値)   (b)スタック下端領域の冷却熱流束(数値計算結果)

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