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318
IS

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IS 月は出ているか?

ドロイデン

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【注意事項】

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じます。

  【あらすじ】

 少年は神より新たな命を得た。そして、少年は戦いという日常へと

進むのだった。

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  目   次  

─────────────────────

 プロローグ 

1

─────────────────────

 主人公設定 

4

第一章 始まり

──────────

 Episode1 神様のバカ野郎!! 

8

──────────────

 Episode2 月下銃士 

13

───

 Episode3 ウサミミの指名手配犯が………… 

17

──────────────

 Episode4 あれから 

22

────────────

 Episode5 それでも俺は 

26

────────────

 Episode6 嘘……だろ? 

31

───────────

 Episode7 兄妹なんだから 

35

─────────────

 Episode8 フリーデン 

39

第二章 フリーデンにて

──────────────

 Episode9 若社長!! 

46

────────────

 Episode10 疾風の革命 

51

───────────

 Episode11 パパ//// 

56

────────────

 Episode12 女は度胸!! 

60

────────

 Episode13 O☆NE☆GA☆I 

63

─────────────

 Episode14 最低だな 

68

───────────────

 Episode15 襲撃 

73

─────────────

 Episode16 亡国機業 

78

────────────

 Episode17 月が見えた 

82

─────────

 Episode18 ガミル・ローラン 

89

─────────────

 Episode19 オータム 

93

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第三章 日本と事件と……

────────

 Episode20 楽しんでいきますか 

100

────────

 Episode21 お話ししませんか? 

104

────────

 Episode22 大丈夫だ、問題ない 

109

───────────

 Episode22.5 幕間 ① 

114

─────────

 Episode23 出てこれるかな? 

120

────────────

 Episode24 救うために 

126

─────────────

 Episode25 俺の本質 

131

───────────

 Episode26 一人じゃない 

136

───

 Episode27 ニュージェネレーションの狂気 

141

────────────

 Episode27.5 幕間② 

149

──────────

 Episode28 アスワン・ラー 

154

─────────────────

 Episode29  

159

────────────

 Episode30 大好きだよ 

164

────────────

 Episode31 そして…… 

172

─────────

 Episode32 本音を言ってくれ 

178

───────────

 Episode33 動き出す者達 

186

第四章 原作開始

───────────

 Episode34 お約束の…… 

190

─────────────

 Episode35 きっとな 

195

─────────────────

 Episode36  

200

─────────────

 Episode37 適性検査 

205

───────

 Episode38 クロトvs春秋 前編 

210

───────

 Episode39 クロトvs春秋 後編 

214

──────

 Episode40 クロトvsシャルロット 

219

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──────────

 Episode41 この世界は…… 

225

────────────

 Episode42 アハハ…… 

229

─────────────

 Episode43 料理対決 

234

────────────

 Episode43.5 幕間③ 

242

──────

 Episode44 セシリアvs一夏 前編 

248

───────────────────

 ハロウィン特別編 

252

──────

 Episode45 セシリアvs一夏 後編 

259

─────────

 Episode46 強いですわね…… 

264

─────────────

 Episode47 織斑一夏 

269

─────────

 Episode48 昔話をしてやろう 

274

──────────

 Episode49 300人委員会 

278

────────

 Episode50 どうすればいい…… 

283

──────────

 Episode51 平穏をくれ…… 

289

─────────

 Episode52 火にガソリン…… 

294

──────────

 Episode53 学ばせて貰うぜ 

298

──────

 Chaos;childアニメ放送特別座談会 

303

───────────────

 Episode54 親友 

310

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プロローグ

  ……ここはどこだ?

 気がついて目を明けてみれば、そこは白一色に覆われた場所にい

た。

「ここはいわゆるこの世とあの世の狭間の、詰まる所死者の待機所み

たいな所かな?」

 後ろを振り返ると、そこには某アニメのマッドサイエンティストの

ような無精髭と白衣を纏った男がいた。

「ついでに僕は神様なんだけど、僕の部下の不始末で、君、死んじゃっ

たのね?」

 ……なんで疑問系なんですか?

「まぁそこは気にしないでね。ともかく、部下の不始末は上司の不始

末ってことで、君を別の世界へ転生させてあげることになったわけ。

そこはOK?」

 …………色々と突っ込みたいですけど、まぁだいたいは。

「なら上場、一応行ける世界はリスト化したから、ここから選んでね」

 ……どれどれ

『トータル・イクリプス』……あのストレスマッハな世界で死んでこい

と?転生する意味無いよね?

『とある魔術の禁書目録』……これはこれで絶対にレベル5とかに殺

されかけるの請け合いだよね?

『ブラック・ブレッド』……トータルよりはマシだけど、これもこれで

ストレスマッハだわ、転生とか死んでも勘弁だ。もう死んでるけど

『BLEACH』……転生して死神になるってどういうこっちゃ?ア

ホなのか?ある意味作品の設定通りだけどよ

『魔法少女リリカルなのは』……SLB怖い、魔王様怖い

「君なにげに要求高すぎないかい?ていうかリリカルはそれなりに人

気なんだけどね」

 ……アホか、どれもこれも戦闘介入待ったなしじゃねぇか!!そんな

ところに敢えて行く俺じゃあないよ

1

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「ならジョジ……」

 ……それだけは絶対に嫌だ!!スタンドなんてやってられるか!!

「じゃあ何が良いんだい?言っとくけど戦闘は何処かしろに少なから

ず入るよ?」

 …………なら、せめてISの世界にお願いします。

「ISって、それはそれで別の意味でストレスマッハなんじゃないか

い?」

 ……良いですよ、元々ロボット好きでしたからね。ついでに好きな

作品の一つでしたし。

「ふむ……ならば特典をあげよう」

 ……あー、転生特典ってやつですか?

「そうそう。今回は……そうだな……3つまでなんでもバッチコイだ

よ」

 ……ん?いまなんでもって言った?

「うん、言ったぞ」

 ……なら、一つ目に専用機を『ガンダムX』にしてくれ

「それまたどうして?ガンダムを専用機にとかいうのは何度も別ので

あったけど、どれもこれもフリーダムとかユニコーンとかウィングガ

ンダムとかばっかりだったのに」

 ……ほっとけ、良いんだよ好きな機体なんだから。二つ目に、俺と

一夏を原作開始まで会わせるな。ついでに同じクラスにもするな

「う〜ん、それまたどうしてかい?」

 ……変に関わって原作解離とかしたくないし、何よりそれじゃあつ

まらない。

「なら三つ目は?」

 ……これは個人的なんだが、自分自身の肉体を強化したい。出来る

なら頭脳面で

「どういうことだい?」

 ……こんな神様特典な機体を、それとビット兵器どころかビーム兵

器さえまだ未発達なのに、そんなものを、それも高火力決戦兵器を搭

載してるこいつを、誰が整備できる?

2

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「な、なるほど……」

 ……それに、こんな機体を持っていれば少なからず『ウサギ』の介

入を受ける。そうなったら面倒だからな、最低でもシュナイゼル以上

ルルーシュ以下の頭脳は欲しい。整備とかの技術は反復練習で何と

かなる。

「まぁそれはそれで結構な無茶苦茶言ってるけど……」

 ……なんでもバッチコイなんだろ?

「まぁ二言したら、それこそ天界の信用問題だからね。分かったよ。

だけど一つ目、少なくとも機体名は変わっちゃうけど、大丈夫?」

 ……その程度なら、まぁ、仕方ない、か

「了解、なら……いってらっしゃーい!!」

 ……なんかノリが軽いな〜って床が開いてノォォォォォォ!!

 こうして、俺の新たな人生が幕を開けるのだった。

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主人公設定

  クロト・D・フェブリエ

 キャライメージ:アレルヤ(オールバック姿)

 CV:佐藤拓也(『Gレコ』マスク他)

 趣味:料理、ウサギのシバき方を考えること

 好きなもの:家族、家庭料理、ドクペ、ロボットアニメ

 嫌いなもの:烏龍茶、高級料理、ウサギ

 説明

 神様によって転生させられることになり、仕方なくIS世界に転生

した。(他の候補として、色んな意味で鬱作品で有名な『マブラブ』、

『ブラック・ブレット』などが候補にされた)

 基本的に原作乖離を良しと思わず、できるならば至って普通に何も

問題ない生活したい人間。だが、転生してさっそくヒロインの双子の

兄になる、どこかしらで原作キャラと絡むなど思い通りに事が進むこ

とが余りない。そのせいかかなりストレスが溜まるらしい。

 家族は双子の妹であり、原作ヒロインのシャルロットと、父親であ

るカルロス・デュノア、そして亡くなった母のアディール。基本的に

家族内では突っ込み担当で、シャルロットとカルロスの天然ボケを

突っ込む事もしばしば。シャルロットとは至って普通の兄妹として

接しており、一時期シャルロットがクロトに恋してしまった際には自

分自身を最低と評するくらいに思った事がある。

 趣味の料理はプロ級で、シャルロット曰く、二ツ星は取れるのでは

というレベルらしい。ジャンルは和食以外ならば肉、魚、スイーツを

問わずなんでも作れる。

 転生者特有の、誰かを助けて転生という人間ではなく、生前のこと

を余り思い出そうとしないタイプの人間だが、少なくとも日本に居た

ことは確かで、ロボットマニアであり、かなりのドクペ好きでもある。

 生前は『chaos:head』の世界線に存在していたらしく、『h

ead型ギガロマニアックス』の能力者であり、現在もディソード及

び能力を使え、IS操縦に応用しているらしい。

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 専用機1

 機体名 『ルナーク』

 型式番号 GX─9900

 待機状態 十字型のロケット

 基本武装

 ・バスターライフル

 ・ビームサーベル

 ・シールド

『GXパック』特殊武装

 ・リフレクターユニット

 ・サテライトキャノン

『ディバイダーパック』特殊武装

 ・19連装ハモニカ砲内蔵シールド

『魔王パック』特殊武装

 ・特殊リフレクターユニット

 ・サテライトキャノン

『0024パック』特殊武装

 ・バスターシースライフル

 ・ゲネイオンシールド

 特殊システム

『サテライトシステム』

『フラッシュシステム』

 説明

 クロトが特典として手に入れた機体。正式名称は『ガンダムX』な

のだが、IS世界でガンダムの名前は目立つと改名された結果、月を

意味する『ルナーク』という名前になった。また二つ名として『月下

銃士』といわれて有名になっている。

 基本武装はバスターライフルとビームサーベル、シールドとオード

ソックスなものの、4種類のパッケージを入れ換えることで様々な戦

況、戦術を可能としている。

全身装甲

 また見た目は

タイプの第一世代だが、その能力は原作通り

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戦略級、出力30%のサテライトキャノンですらIS数機を消滅させ

られるほどの出力を持つ。

 今作のサテライトシステムは、ウサギこと篠ノ之束が作り、生み出

した人工特殊衛星である『BATEN』を使うことによってシステム

を稼働できるようにしてある。フラッシュシステムに関しては、未だ

Gビットの作成が出来てないため、使用不能に陥っている。

 専用機2

 機体名『ラファール・イノベイク KC』

 型式番号 FD─02─KC

 基本装備

 ・ビームライフル×2

 ・実弾装マシンガン×2

 ・アサルトライフル×2

 ・その他重火器

『ノワールパック』装備

 ・ビームライフルショーティー×2

 ・フラガッハ対艦刀×2

 ・レールガン×2

 ・特殊ケーブルアンカー×2

『ヴェルデパック』装備

 ・6連装ミサイルポッド×2

 ・ガンランチャー

 ・高エネルギービーム砲

 ・複合バヨネット装備型ビームライフル×2

『ガンバレルパック』装備

 ・ガトリング機関砲

 ・有線式ガンバレル×4

 内蔵火器(レールガン・ミサイル×2)

 第三世代特殊システム

『パッケージチェンジャー』

 説明

6

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 クロトが『ルナーク』のパイロットだとバレないようにフリーデン

社が開発した第三世代量産試作機であり、クロト専用にカスタマイズ

された機体。

 原作と違い、シャルロットが近接型になってしまい、またクロトが

遠・中距離が得意な事もあって、武装は殆どが射撃武器を中心となっ

ていて、実弾、レーザー問わず高性能な機体になっている。また、『ル

ナーク』の装備もサテライトキャノンを用いるものを除いて殆どが使

用可能なため、実質パッケージは5種類以上存在する。

 特殊システム『パッケージチェンジャー』は、機体を解除せずとも

別のパッケージへと変更が可能になるシステムであり、他のパッケー

ジの武装を一部だけ展開する事が可能になるシステムであり、『ラ

ファール・イノベイク』の共通のシステムである。そのため機体自体

が『ラピットスイッチ』をマスターしてるパイロットに有利な機体で

はあるが、その分癖が強く、機種転換をしてもしばらく慣れが必要に

なる。

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第一章 始まり

Episode1 神様のバカ野郎!!

 「えぇと……どうしてこうなった?」

 俺は現在の環境に憂鬱としていた。いや、まさかの神様転生という

事が起きたのがもう数年くらい前、恐らく機体だと思われる十字のロ

ケットもあった。で、現在、俺は、

「クロト〜!!早く起きて〜!!」

シ・

ャ・

ル・

「……おう、

 シャルロットと、その母親と三人で生活していた。

 いや、確かに一夏とは関わりたくないとは言ったが、だからといっ

てシャルロットと関わったらどっちにしろ原作解離待ったなしやな

いかい。この神様のバカ野郎!!

 というわけで、現在俺はフランスにある、それなりに大きなジュニ

アスクールにシャルと通う生活をしていた。

「まったく〜双子だってのにどうしてお兄ちゃんはこうものんびり屋

さんなのかな?」

「ほっとけ、それより早くしないと学校に遅れるぞ」

「それはクロト兄もでしょ。ほら、早く朝ごはん食べよう!!」

「二人とも仲が良いわね〜」

 母さん……アディール・フェブリエはニコニコと笑ってそう言う。

因みに原作で出てこなかったが、シャルルの旧姓はフェブリエだった

らしい。

「そりゃ兄妹だもん、仲が良いのは当然だよ」

「そうだな。…………でだ、シャル、お前確か昨日、定期テストの結果

返ってきた筈だろ?母さんに見せたのか?」

「う、それは…………」

「シャル?どういうことかな?お母さん聞いてないわよ?」

 笑顔なのにどこか怖い表情の母さんに、シャルは冷や汗と共に顔を

背ける。どうやら見せてないうえにだいぶ危ない点数だったようだ

8

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な。

「うう……500人中200位だった」

「だいぶ微妙だな〜、ていうか、今回のテストは俺も勉強教えてやった

よな?」

「別にいいでしょ!!お兄ちゃんは常に50位以内じゃん!!」

「まぁな……」

 確かに現在50以内には入っているが、もしルルーシュクラスの頭

脳を貰ってなかったら、絶対にシャルル以上に壊滅的になってたか

も、だ。

「って、シャル時間時間!!」

「え?ってうわ!!遅刻する!!」

「いってらっしゃ〜い!!」

「「行ってきます!!」」

 俺たちは急いで準備を済ませ、田舎道をせっせと走るのだった。

 「つ、疲れた……」

 昼休み、俺は項垂れるように教室の机に突っ伏していた。クラス

メートは大方食堂の方へ向かったらしく、回りには同じクラスで妹の

シャルルと、俺の友人であるディオ(ジョジョは関係ないぞ)がお弁

当を食していた。

「あのドS教師め……なんで俺にばかり答えさせるんだよ」

「そりゃ、クロトが授業中寝てる癖に、まるで分かってるかのように受

け答えするからじゃね?」

「…………そうなのかシャル?」

「う〜ん、そうなんじゃないかな?」

「疑問を疑問で返すなよ……」

 俺はため息を付きながら、スマホでテレビを見始める。今日はあの

日…………ウサギがアレを世界に発表する日だ。

『ハロハロ〜私の名前は篠ノ之束だよ〜!!』

 と、いきなりテレビ画面がジャックされたように、目の前の問題の

ウサギが姿を現した。

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『──IS……インフィニット・ストラトスの開発目的は、宇宙開発を

目的としていて…………』

 と、進んでいくうちに真っ白な機体……多分『白騎士』かな?それ

が映し出された。

「ねぇクロト、この人なんて言ってるの?」

 シャルが疑問に思ったのか、俺に対してどういうことか聞いてく

る。まぁ確かにこの時の日本語は世界共通語扱いになってないから、

わからないのも無理はないか。

「うーん、多分新しいロボットが出たとかなんとか言ってるんだと思

う」

「そうなのか?まぁ、この学校唯一の日本語が分かるのはお前だけだ

しな」

 ディオが首をかしげながらそういう。

「でもロボットか〜!!どんな物なのかな〜!!」

「ディオってホントにロボット好きだよな。確かこの間も日本のロ

ボットアニメのプラモデルをネットで買ってたよね」

「おうよ!!墨入れ、艶消し、塗装まで完璧にやったぜ!!」

「そこまで聞いてないよ……でも……」

 個人的に、あのウサギと白騎士がどう動くのか、少しだけ気になっ

たのも事実だった。

  そしてその日の夜、自室に入った俺は自分のパソコンで監視衛星の

事を調べていた。

 家でもあのウサギのニュースの話題が出たが、ニュースでは袋叩き

な内容ばかりだった。そのうち、それのせいで世界が色々と変わるな

んて、絶対に思わないだろうな…………

 そして今夜…………日本だと昼間か?恐らくそろそろ白騎士事件

のためにウサギがハッキングするのは目に見えてる。

「…………やっぱり、な」

 俺は静かにパソコンを閉じると、母さんとシャルルの部屋を確認す

る。二人とも既に寝ていて、恐らく俺が居なくなってもバレないだろ

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う。

 そして俺は静かに靴を履き、家の裏にある納屋に向かい……

「…………『GX』起動」

 ブレスレットは光輝き、俺は自らのISを身に纏った。

「さてと……」

二・

 俺は始めて扱うそれのマニュアルと拡張領域を調べると、何やら

つ・

のパッケージが入っていた。って、

「こりゃ『X魔王』のバックパックじゃねぇか、なんであるんだ?」

 というのも、今搭載してる通常の『GXパック』、ハモニカ砲とビー

ムマシンガンを中心とした『ディバイダーパック』、さらには『ガンダ

ムX』違いの『X魔王パック』と、どういうわけか三つもパックを内

蔵していた。さらに

「って、あと手紙?」

 何故か入ってあった手紙を取り出してそれを読んでみる。

『クロトくんへ

 これを読んでる頃には、白騎士事件になってるかな?

 さて、機体についてだけど、名前は『ルナーク』。意味は承知の通り

月を関してるよ

 あと、これは僕からの贈り物として『X魔王』のパッケージをイン

ストールしておいたよ。サテライトシステムは暫く使えないだろう

し、何より実践だと昼間が中心だからね。『GXパック』はあんまり使

えなさそうだしね。

 じゃあそういうことだからね、頑張ってね〜

  神様より』

 ……詰まる所、あの駄神様の仕業だった。まぁ書いてることも然り

なので悪いとは思ってないが……

『Ps. シャルちゃんと一緒だからって、夜にオイタしたらダメだ

よ?』

「誰がするか!!誰が!!」

 その文を見た瞬間に、俺は手紙をビームサーベルで焼き付くした。

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「……さて、さっさと行くか」

 燃えつき、灰になるのを確認し、俺は『X魔王パック』に換装して

夜の空を飛び出した。

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Episode2 月下銃士

 「さて……日本に最高速でもかなりの時間がかかるから……な!!」

 現在、俺はアメリカ方面から射ち上がる核弾頭を相手にチマチマと

破壊活動を行っていた。領空侵犯だとか何とか五月蝿かったが、とり

あえずビームライフル一発を直撃すれすれで牽制し、追い返した。

 実際、2千発以上ある核弾頭を全部消し飛ばせるとは思って無い

が、それでも世界やあのウサギに存在をアピールしておけば、何かし

らのアクションを起こしてくるに決まってる。

 それに、いくら原作で白騎士が一人で解決できたといって、目の前

で一人だけ孤軍奮闘させるには忍びないしな。

「くそったれ!!どんだけアメリカは核を作ってやがったんだよ!!」

 悪態を付きながらも、その実ライフルの照準は外さない。誘爆も含

めてかなりの数を撃ち落としたはずだが、それでもまだ視界には30

0近くの核が射ち上がってくる。

「あのウサギめ、会う機会があったらゼッテェにサテキャをぶちこん

でやる」

 まぁもっともあのウサギはそれさえ耐えてケロリとしてそうだが

な。ていうかあれは本当に人間なのだろうか?

 と言ってるうちに全ての核を撃ち落とし、俺はそのまま反転、祖国

に戻ろうとする。機体自体にジャミング装置は無いから監視衛星に

引っ掛からず、なおかつシャルと母さんにバレないように戻るには、

もう移動を始める他ない。

「……って、何か飛んできた?」

 だいたい数十分過ぎた辺りで、何かしらの物体が高速で、しかも俺

の『ルナーク』に追い付く勢いで飛んでくる。まぁだいたい予想はで

きるけどね。

 仕方なく止まると、数分経って『それ』は来た。

「…………」

 白い剣に鎧、まるで中世の騎士のような姿をしたそれは、正しく、昼

間に見たそれとまったく同じだった。

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(白騎士…………後のブリュンヒルデ、か。厄介極まりないな)

 白騎士は何も言わず、ただ剣を構えるだけ、俺はライフルを構えて

わいるが、それでも冷や汗は止まらない。

「…………!!」

(来た!!)

 白騎士は一気に加速して此方の間合いを詰めてくる。俺も後退し

つつ銃で牽制する。が、やはり白騎士のスピードは早く、まるで

ニュータイプなのかというほどに正確に避けてくる。

(ライフルじゃ追い付けない!!だったら!!)

 俺は拡張領域からパッケージを『ディバイダー』へと換装し、マシ

ンガンをぶっ放す。

「……!?」

 白騎士もそれに反応して避けてくる。が、それでもマシンガンの弾

速にじわりじわりと、しかし確実にダメージが入ってるようだった。

 俺はそれに追い討ちを掛けるように、ブレストバルカン含めて攻撃

する。一発一発は弱いが、それでも数当たればなんとやらだ。

「…………!!」

 と、いきなり白騎士は自身の剣を投げてくる。まさかの行動に驚い

て俺は体勢を崩しながらも回避する。が、奴はそれを狙ったかのよう

に高速で剣を回収するや否や再び此方へ急接近してくる。

「…………!!」

 迎撃にバルカンを放つが、それさえも避けながら接近し、なおかつ

一瞬にして間合いへ入ってくる。そして右手の剣を降り下ろしてく

る。

(させるかっての!!)

 迫り来る剣をディバイダーで受け止め、俺はマシンガンをしまって

ビームサーベルを抜く。

(こいつで!)

 下段切り上げの太刀筋を、白騎士は平然と自身の剣で防ぎ、鍔ぜり

合いへと持ち込まれる。が、それこそが狙いだった。

 シールドとして使っていたディバイダーを、白騎士の体ギリギリ、

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奴が油断するギリギリまで持っていく。鍔迫り合いに夢中なのか、白

騎士はそれに気付いていない。

(今なら、こいつで!!)

 俺はディバイダーの中央部の砲口を一瞬で開く。まさかの事に白

騎士は驚いて引こうとするが、時既に遅しだ。

(くらいやがれってんだよ!!)

 俺は一気に引き金を引いた。19連装のビームの熱線に、白騎士は

右肩と右足を直撃し、さらに自慢の聖剣も真ん中からへし折れる。

「…………」

 白騎士は自身の状態を確認するかのように沈黙し、やがて此方に背

を向けて撤退していった。

(なんとか……か……)

 不本意だが、またこいつを相手にISで戦う事になるかもしれない

と思うと、俺はため息と共に頭痛がしてくるような錯覚をおぼえるの

だった。

 余談だが、この戦闘のせいでフランスに戻るのにだいぶ時間がかか

り、帰ってくる頃には母さんが既に起床していて誤魔化すのに苦労し

たのは、また別のはなしだ。

  ???side

ア・

レ・

「束どういうことだ!?ISは今は

だけではなかったのか!!」

 私は憤慨しながら目の前の友人に問いかける。アレが発表された

のは昨日の夕方頃、そして核弾頭が発射されたのは数時間前、そんな

短時間でアレと、いやアレ以上に強力なISが出てくるなんて誰が思

おうか。

「ちーちゃん落ち着いて!!私もあんな機体が出てくるなんて知らな

かったもん!!」

「お前の知らないISだと?そんなものが存在するのか?」

 友人は戯けるようにそういった。が、それでも私は訝しんで聞き返

す。

「それも分からない。そもそもビーム兵装なんて理論上でも製造が難

15

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しいんだよ、それこそ、ISでもレーザー兵装が限界かな〜ってくら

いに。私でも今時点じゃ絶対に造れないかな」

 私にはそういった知識は皆無だったが、目の前の友人は物理学やら

機械工学に関しては天才的な才能と知識を持っているの。その彼女

ですら無理だというのだ、しかもおふざけ抜きで、だ。詰まる所そう

いうことなのだろう。

「そうか…………因みに今のところ奴の機体の呼称はなんてなってい

るのだ?」

「そうだね〜、こっちの機体は白騎士だから…………」

                   「『月下銃士』、そんな感じかな?」

16

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Episode3 ウサミミの指名手配犯が

…………

 「はぁ…………頭痛い」

 翌日、俺はため息混じりに昼食のお弁当をいつものメンバーで食し

ていた。というのも

「いや〜何度見ても凄いよなこれ!!」

 ディオが夢中ながらにスマホで動画を見てる。しかもその動画と

俺・

と・

白・

騎・

士・

と・

の・

戦・

闘・

の・

ワ・

ン・

シ・

ー・

ン・

いうのが

というのだから、頭痛も

待ったなしだ。

「この『白騎士』って奴の剣の動きもだけどさ、特に『月下銃士』とか

いう奴のビームなんて、男心擽られるぜ!!なぁクロト!!」

「あ、あぁそうだな(言えねぇ、まかり間違ってもそれが俺だなんて絶

対に言えねぇ)」

「クロト兄、なんか表情硬いよ?」

 シャルが心配そうに聞いてくるが、俺は何でもない、と返す。

(はてさて……いったい何日ぐらい俺の平和は続くのかね〜)

 一ヶ月ぐらいかな、と思いつつ、俺は弁当のサンドイッチを完食す

るのだった。

  月日は数年ほど流れ、俺とシャルは相も変わらず母さんと三人で

ゆったりと生活していた。

 ハイスクールの中等部の生活にも慣れ始め、色んな意味で世界は原

作通りに変わっていった。そして現在、俺とシャルは家の畑で野菜の

収穫をしている。

「シャル、そっちのトマトを収穫頼む。こっちのジャガイモはもうす

ぐ終わるから」

「分かったクロト兄」

 といってもシャルは女尊男卑の影響を全く受けず、男の俺やディオ

とも相も変わらない日常を送っていた。

17

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「うん、取れた取れた!!」

「お疲れシャル、悪いな、日曜の朝方だってのに」

「ううん、私はクロト兄とお母さんがいれば全然大丈夫だから。むし

ろ家族の役にたてて嬉しいくらいだもん」

「そっか……」

 そういうシャルに、俺はよしよしと頭を撫で、シャルはそれに顔の

頬を少し緩ませている。とその時、何やら不思議な気配が背後を襲っ

た。

「……シャル、俺はちょっと用事があって少しここを離れるから、野菜

を家に運んでくれないかな?」

「ん、分かったよ」

 シャルはなんの疑いもせずに野菜を持って家の方へと向かってい

く。そして俺は畑の中からニンジン何本か房抜いてその場を離れる。

 近くの森まで来ると、俺はISのハイパーセンサーだけを起動し、

辺り一帯を確認する。そして、

「必殺!!キャロットミサイル!!」

 手元のニンジンを一気に投げ飛ばした。すると、

「ニンジンさ〜ん!!」

 なんとウサミミを着けてアリスの格好をした変人が、蛙跳びで四つ

ほどなげたそれをいとも簡単に両手と口でキャッチして見せた。て

いうかウサミミならせめてうさぎ跳びにしろよ。

「…………」

「ニンジンさ〜ん…………ってあれ?」

「……えっとFBIですか?今目の前にニンジン泥棒してるウサミミ

の指名手配犯が…………(迫真の嘘)」

「あわわ!!それだけは勘弁してぇ!!」

 ウサギの悲鳴は森のなかに大層響き、小鳥たちが一斉に飛び立って

いった。

  「で、アンタは確か数年前にISを発表した、天災で頭のネジが一本

どころか全部抜けてて、なおかつ指名手配犯の篠ノ之束でいいんだよ

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な?」

「はい、その通りです」

 まさかの敬語に俺は驚きながらも、目の前でひれ伏してる残念美女

にジト目を向ける。

「その指名手配犯様が、いったいぜんたい、一健全な男子学生になんの

ご用ですか?自分とはなんの関わり合いもないと自覚してますが」

「いや〜君の持ってるISについて、ちょっちO☆HA☆NA☆SH

Iしたいな〜なんて」

「何をふざけた事を言ってるんですか?そのウサミミは飾りなんで

引っこ抜いて良いですよね?良いんですか?良いんでしょう?」

「三段活用上手すぎ!!え、君ってホントにフランス人?」

 驚くところそこかよと思いつつ、俺はため息をついて後ろを振り

返った。

「ともかく、俺はアンタみたいな変人と付き合う義理は毛頭ないから、

さっさとこっから消えて日本に戻りやがれ」

 まぁ実際、俺の予想に反して数年もウサギさんが来るのが遅かった

のは正直驚きだが、干渉してくるのならば逃げるだけのスタイルであ

る。

「そうは…………いかないよ!!」

 さて、ウサギさんの人間場馴れした跳躍を確認すると、俺は手元の

スイッチを躊躇いなく押した。すると突然地面と木々の上からトリ

モチ弾と網が発射され、敢えなくウサギは文字通り確保された。

「ちょっと!!なにこれ!!」

「ISの開発会社が売ってる、対テロリスト用の強化トリモチ弾と、漁

師とかが使う網ですよ。暫くそこで大人しくしておいてください」

 俺はそういって家の方に歩き進める。途中ネットを引っ張ったり

するような音が聞こえたが、とりあえず放っておく。

(なんせ、女性の小指すら入らないほどに網目の小さいうえに、芯材に

タングステン使った最高クラスに丈夫な網だからな。あれは)

 もっとも、それを破壊しかねないのがあの変態ウサギだということ

も含めると、俺の頭痛の種が増えるのだった。

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 「あ、クロト兄お帰り!!」

 家に戻ると、既に朝食の準備を終えたシャルが出迎えてくれた。最

近は母さんが病気で寝込むことが多く、俺とシャルの二人で家事炊事

をするのが日課だった。

「ワリィなシャル、今日は俺が料理の当番だったのに」

「気にしなくて大丈夫。用事があったんだから仕方ないよ」

 素直にシャルに謝るが、彼女は笑ってそれを返す。

「でも、今度ショッピングに連れてってね。クロト兄の奢りで」

「おいおい、家族でそれはキツいって」

「冗談だよ。さ、お母さんを起こしに行こ」

「おう……」

 冗談に聞こえない冗談を笑いつつ、俺はシャルを追って母さんの部

屋に入ると、そこには

                 

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                   ベットで肌が異常に白くなって、息をしなくなっていた母親がそこ

にいた。

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Episode4 あれから

  あれから数日が経った。

 母さんの葬儀を終えた俺達は、いつも通り家で過ごしていた。だ

が、そこに日溜まりのような雰囲気は存在しない。

 死因は急性心筋梗塞、詰まる所突然死というものだったそうだ。母

さんが死んで、シャルは崩れるように毎晩泣き通した。俺が作った料

生・

き・

る・

目・

的・

を・

無・

く・

し・

た・

あ・

の・

頃・

の・

俺・

と・

同・

じ・

目・

理すら喉に通らず、まるで

を・

し・

て・

い・

た・

 家の畑も、花も、まるで主人が居なくなって悲しむように、それぞ

れが萎れていた。

(くそ…………なんでだよ)

 俺自身、どうシャルに接していいか分からなかった。唯一無二の母

親が、目の前で、何もできずに死んでいた。その現実を直視できない

ほど、俺達はかなりマイッていた。

 と、その時、玄関のインターホンが空気を壊すかのように鳴り響く。

宅配とかだろうが、俺たち二人は居留守を決め込んで無視をする。

が、二度目のインターホンが鳴ると、どうやら俺達自身に用があるみ

たいなのだろう。

「…………はい」

『…………アディール・フェブリエさんのお宅で、間違いないでしょう

か』

 声の主はそれなりに歳をとったおっさんのそれだった。

「…………母さんは死にましたよ」

『あぁ……その事で話をしたいと思ってね、済まないが中に入れても

らえないかな?』

「…………」

 仕方ないと思いつつ、俺は玄関に向かって歩いていき、鍵を開けて

目の前の人物と対峙する。その人はスーツを着こみ、正しくモダンと

いう姿の男性だった。

「……クロト・フェブリエ君、でいいのかい?」

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「そういう貴方は?こっちは葬儀が終わってすぐなもんで色々と大変

なんだけど」

「それは済まないことをした。とりあえず、失礼しても?」

 男性の言葉に渋々ながら中にいれる。男は玄関で靴を脱ぐところ

を見て、母さんがそういう質だった事を知ってるように思えた。

 椅子に座らせ、俺は冷蔵庫に冷やしておいた紅茶をマグに分け、彼

の前に置く。

「茶菓はありませんから、これで勘弁してくださいね」

「いや、別に構わないさ。ともかくこちらは本題に入りたいのだか?」

「えぇ、かまいませんが」

 俺は対面になるように座り、彼の目を見詰める。

「先ずは自己紹介とさせてもらいます。私の名はカルロス、カルロス・

デュノアと言います」

「デュノア…………確かフランスのISの大手製造会社の名前もデュ

ノア社でしたよね?」

「はい、私はそのデュノア社の社長になります」

 男はそう名乗ると、懐から名刺を取り出して此方へと渡す。確かに

デュノア社の名前と自身の名前が明記されていた。

「…………社長とはいえ無用心だと思いますけど、SPどころか部下

の一人も連れずにこんなところに来るなんて、こんなところで闇討ち

やらされたら、それこそ大変な迷惑だ」

「まぁ、今日はプライベートだからね。流石にそこまでの事にはなら

ないよ」

 彼は平然と言ってのけるが、社長と呼ばれる人間にプライベートな

んてものは殆どが無いに等しい。それも世界規模の大企業となれば

さらにだ。

「それで、用件の方は」

「そうだな、簡潔に言おう……私の養子になるつもりはないかい?」

 彼は事無げにそういってきた。って、おい、

「……ちょっと待ってください、養子に?いったいどういう事かサッ

パリ分からないんですけど?」

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「ふむ、なら最初から話すべきかな。まず彼女、アディと私は昔恋仲

だった。君達が産まれてくる5年以上も前の話だ」

 彼は一口紅茶に口をつけると、彼は少しずつ話始めた。

 彼曰く、母さんとカルロスさんは昔に1度付き合っていて、二人と

も将来を近いあう程の仲だったそうだ。が、運命とはそう易々と上手

くいかず、当時のデュノア社の社長だった先代が事業に失敗し、多額

の負債を抱え込むことになってしまった。そのショックからか先代

は首を吊って自殺、株式制の会社じゃなかった為に、訳も分からぬま

まカルロスさんが社長にさせられてしまった。

 当然カルロスさんは負債の解消の為に奔走した。事業の大幅な縮

小、社員の削減、土地の売却など、出来る限りの手は尽くしたが、そ

れでもまだ数千万の負債が残されていた。

 その時、後の現社長妻となる人の実家がお金の融資をしてくれると

いう話が出てきた。そしてその条件として、自分の家の娘を妻にしろ

と。

 カルロスさんは苦悩した。好きでもない女の人と結婚し彼女を捨

ててしまうか、大切な人と結婚して社員たちを路頭に迷わせるか、そ

の二つで大きく揺れ動いていた。

 その時、すでに母さんは俺達の事を身ごもっていたようで、彼の重

圧は酷いものだった。

 だが母さんは、彼に『自分の事よりも社員の人達の方が大切だ』と

言い、彼に会社を救うべきだといった。

 その結果、カルロスさんは現社長妻となる人と結婚し、会社は小規

模ながらもとても結束のあるものとなったそうだ。

「でも、それなら俺達を養子にするメリットなんて無いんじゃ?」

「そうかもしれないね。けど、私はもう社長という立場を捨てたいと

思ってるんだ」

 俺の疑問に、彼は苦笑を交えてそう呟く。

 というのも、ISが発表されて以来会社は変わったからだ。それま

では弱小企業の一つでしかなかったデュノア社だが、発表されて2年

後、自社が開発したIS『ラファール』が爆発的にヒットしたのだ。

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 その使いやすさ、安定性、さらに拡張領域の多さが幸いし、世界各

国から、『ラファール』を専用機にしたいとかなりのオーダーが入るよ

うになったのだ。

 それに伴い、会社は急成長を果たし、世界規模の大企業へと変貌し

た。が、それが全ての始まりだったそうだ。

「妻が…………会社で秘書官をしてるのだが、彼女は自分こそが社長

だというように、事業を勝手に始めていたんだ」

「女尊男卑の風潮……ですか?」

「そうだ、最初は小規模な部品製造の事業だった。だが、彼女の勢いに

会社は呑まれていき、今ではIS部門でさえ彼女の息がかかった女た

ちがトップに来るようになってしまった」

「けど、それだけじゃなかった、ですか?」

「そうだ、彼女は遂に人事部にまで手を伸ばし、少しでも自分の派閥に

逆らった男性社員を悉くクビにしていった。誰も彼も、昔から会社の

ために必死に頑張ってきてくれた人達ばかりを……」

 彼はそれが許せなかった。だが、彼女の一派にほぼ会社を乗っ取ら

れている現状、自分達にできるのは殆ど何もなかった。

「…………それでよく社長を続けていられますね」

「まぁ株の六割は私が保持してるからね。彼女達と言えど、私の許可

なく株式の増加発券はできないさ。けど、もう私は疲れてしまった

よ」

「だから、僕達と共に会社を捨てて、新しい生活を始めたい、と?」

「そうだ。もちろん君達の意見を尊重したいし、何より嫌ならば嫌と

はっきり言ってくれて構わない。何せ僕は、君達を捨てた最低の大人

だからね」

 彼はそういうと、名刺に何かを書き込み始める。

「僕のプライベート用のメールアドレスだ。二週間以内に君達が決め

たなら、それに連絡を寄越してくれ」

 そういって彼は、ゆっくりと立ち上がってドアを出ていく。今に降

りだしそうな雨が、彼の悲しげな心を表してるようだった。

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Episode5 それでも俺は

  デュノア社長が来てから二、三日経って、俺とシャルは久し振りに

学校へ来ていた。

「……であるからして──」

 が、俺もシャルも授業はどうしても上の空になってしまう。

 ──養子にならないか。

 その言葉に俺はどう返事していいのかサッパリ分からなかった。

 実際シャルの事も考えればあの人の話を聞くのが一番なのだろう。

だが、だからといってそんな大切な決断を簡単に決めていいのか、そ

う思うと何も言えなかった。

「──じゃあ今日の授業はここまでだから、あまり教室に居残るなよ」

 と、いつのまにか授業が終わってしまったようで、回りは少しざわ

ざわしてる。

「……帰るか、シャル」

「……うん、そうだね」

 俺達はそれだけの言葉で教室を後にするのだった。

 「…………シャルは、どうするのがいいと思う?」

 帰り道、重苦しい雰囲気に耐えられなくなって俺はそんなことを口

にした。

「どうするって、養子のこと?」

「あぁ……」

「……私は、クロト兄がいれば……どっちでもいいよ」

「そうは言うけどな……、実際養子になるって簡単なことじゃないん

だぜ」

 俺はそういいながらシャルの表情を伺い見る。顔こそ笑ってはい

たが、それでも何処か無理をしてるのは見え見えだった。

「…………シャル、アイスでも食べに行くか」

「え、ホント?」

「……都合の良いところは現金なんだからな、シャルは」

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 俺がそういうと恥ずかしいのか、かなり赤くなって俯いている。そ

んな姿も愛らしいと思った。

「じゃ、早速行くか」

「うん!!」

 俺達は近くのアイスショップに向けて進路を返る。だが、それは起

きた。

 突如として目の前に黒い高級車らしきものが止まったかと思うと、

中から大勢の女達が降りてきてこちらを囲んできた。

「な、なんだよ!!お前らは!!」

「ふん、アンタみたいな坊やには用はないのよ、私達はそこの女の子に

用があるの」

「シャルにだと!!てめぇら、いったいなんのつもりだ!!」

「煩い坊やだこと、やっちまいな!!」

 女のリーダーらしき奴がそういうと、それぞれが金属バットやら鈍

器やらを取り出して、一気に襲い掛かってくる。こんな場所では自慢

のISも使えるわけがなく、ごく普通の一般人の俺は後頭部に喰らっ

てしまい昏倒する。

「ガハッ!!」

「クロト兄!!」

「シャ……ル…………」

 俺は妹の名前を呼ぶが、朦朧とした意識がプツリと途切れた。

 「…………ん、…………くん、クロト君!!」

「んぐ……」

 気がついて目を開いた俺の前には、どういうわけかカルロスさんと

ウサギがいた。

「俺は…………いったい…………」

「目が覚めたようだな、クロトくん」

「ここは……確か俺は……シャルと」

「今はこのカルくんの付き人が運転する車の中だよ、漸く私があの

ネットやらトリモチやらから出てきて追ってみれば、くーくん、道の

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真ん中でボロボロに倒れてたんだから」

「…………シャル……シャルが!!ッ!!」

「シャルロット?シャルロットに何があったんだい?」

 ウサギから状況を聞いた俺は、シャルが何者かに連れ去られたこと

を二人に話す。

「そんな…………く、まさかあの女が既に手を回していたとは!!」

「あの女……もしかして現妻の」

「そうだ。恐らくシャルロットの存在を知って、自分の思い通りにな

る駒にするつもりだ!!」

「しかも、今調べてみたらその女、かなりイケないことに手を出してた

みたいだよ」

 カルロスさんの言葉に、ウサギは自分のパソコンからそんなことを

口にした。

「イケないこと?」

「精神制御、いわゆる人体実験だよ。ISは脳の神経操作によってま

るで手足のように動かすことができるんだけど、あの女、束さんのI

Sのシステムを使って人の脳を人工的に操作しようとしてるんだ」

「な!!それって犯罪行為じゃ!!」

「普通ならね、けど、あの女は女性権利団体のトップクラスの重鎮でも

ある、奴等は世界政府にまで侵食してるから、こういうことも揉み消

したりなんか普通にあるのさ」

 ウサギはイライラしながらそういう。いつものウサミミは怒りの

模様でかなりピシッと立ってる。

「それで、今は何時ですか!!」

「今はフランス時間で午後七時だよ」

「な!!四時間以上も気を失ってたのか、俺は!!」

 まさかの事態に、俺は愕然とした。四時間なんて研究所に持って

いって精神操作するなんていうのはやってお釣りが出る程の時間だ。

「くそ!!アイツらが何処に行ったのかさえ分かれば!!」

「分かったら、君はどうするの?」

 ウサギは真剣な顔で聞いてくる。

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「君は男の子なんだよ?ISなんて乗れないし、相手は少なからずI

Sを持ってる。それにもしかしたら、君は」

                      「その妹と戦うことになるかもしれないんだよ?」

      

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        「!?」

 その言葉に、俺は何も言い返せなかった。

「…………」

「私はあの『月下銃士』の姿を見ることができればそれでいい。私に

とっては他人事だし、助ける義理もない」

「…………」

「そもそも私は今や国際指名手配犯だからね。自分のやりたいように

動くし、やりたいようにやる、それだけなんだよ」

 ウサギの容赦のない言葉が、俺の心に突き刺さる。

「…………それでも」

「?」

「それでも、俺はシャルの兄貴なんだ。兄貴が妹を助けないで、どうす

るってんだよ!!」

 俺は無理矢理走行中の車の扉を開けると、転がるように飛び降り

た。

「な!!クロトくん!!」

 カルロスさんが驚いてこちらを見るが関係ない、俺は自らの機体

を、『ルナーク』を解放した。

「な!!『月下銃士』!!」

お・

父・

さ・

ん・

『すみません、

、俺はシャルを連れ戻してきます』

 既に『魔王パック』へと換装した俺は、駆け抜けるように空へ上が

る。失うのは、もうこりごりだった。

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Episode6 嘘……だろ?

 「…………ここか」

 俺は監視衛星をハッキングし、奴等の居場所を突き止めると、上空

から奴等の基地を確認する。

 レーザー圏外から見たところ、どうやらかなりの大きな建物のよう

だったが、それでも警備はかなりザルだった。

(一発サテキャを射つか?いや、あれは威力が高すぎるし何よりシャ

ルを巻き込みかねない。それにまだあれと交信してないからそもそ

も使えない)

 そう考えると、『Xパック』も『魔王パック』も使用は不可能、もし

『0024タイプ』のパッケージがあれば、『ディバイダー』込みで少

なからず余裕があっただろうが、無い物ねだりは出来る分けない。

「仕方ない、か」

 換装して『ディバイダーパック』になると、シールドをバックパッ

クに取りつけ、そして、

「突貫じゃあぁぁぁ!!」

 一気に急降下を敢行する。当然ながら警報がなるわけだが、そんな

もん関係ない。ビームマシンガンをぶっ放し、周辺の車やら壁などを

一気に破壊する。

 着陸すると、どうやら相手方のIS……デュノア社製第二世代型量

産機、『ラファール・リヴァイブ』が数機、姿を現した。

『貴様、ここがどこだか分かってるのか!!』

『我々、女性権利団体の活動拠点を良くも!!』

 相手はアサルトライフルやらキャノン砲を構えているが、俺にはど

うでもよかった。

「…………死ね」

 俺は左手にビームサーベルを抜き、一気にスラスターを吹かせて斬

りかかる。

 当然ながら相手はそれを避けようとするが、右手に持ったビームマ

シンガンの牽制によって思うように動けず、こちらの間合いへと詰め

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る。

 そして一気に逆袈裟に切り上げると、パイロットは絶対防御がある

と高を括っていたのか、何もせずにそれを受ける。が、ビームの刃に

そんなちゃちなシステムが効くわけもなく、肉体ごと切り裂かれ、女

は何が起こったか分からないまま機体と共に爆破された。

『リザ!!リザァァァ!!』

『そんな、いくらレーザー兵器とはいえ、絶対防御が聞いてないなんて

!!』

「…………ビーム兵器を舐めすぎだ、テメェらは」

 俺は聞こえないようにそう呟いた。

 元々、武器としてのレーザーとビームは同じ光熱線を圧縮して使わ

れるのだが、その二つは威力に大きな違いがある。

 レーザーは交信用などに応用が効くほど、熱源としてはそこまで高

くなく、高くても鉄を焼ききる位だ。

 だがビームは、熱源としてはかなりの温度を持ち、『08小隊』で

凍った湖を一瞬にして温泉ほどの温度へ変え、MSの装甲さえも焼き

きるどころか溶かしてしまう。それほどに違う兵器なのだ。

 そうこうしてるうちに、残った機体も順々にスクラップにしてい

き、女どもは一人を除いて、何も言わない肉塊へと変貌した。

「…………貴様らが奪った女の子はどこだ」

 ボイスチェンジャーを使い、ビームサーベルで脅しながらそう聞

く。女は冬場の寒さと、死への緊張感からがくがくと震えていた。

「お、奥の、だ、第三セクター!!お、恐らくあの方と一緒にいる筈よ!!」

「……嘘じゃないな?」

 俺が脅しを込めて確認すると、女は頭をかなりの早さで上下する。

どうやら嘘は付いてないようだ。

「…………死にたくないなら、さっさとここから離れることだな」

「ひ、ヒィィィ!!」

 俺がサーベルを退けると、女はISスーツのまま、町の方へと走っ

ていく。俺はそれを見届けると、格納庫らしきところから機体と共に

侵入する。途中何度かISが出てきたが、どれもこれも武器とスラス

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ターを壊して戦闘不能にし、目的の場所の入口へと到着する。

 そこはまさしく、人体実験の結果というべき存在がうようよと、檻

にたくさんの少女達が、光の無い目で何処かを見つめていた。

(これが人のやることか…………)

 少女達はどれもこれも、まだ自分と変わらない年齢の少女ばかり

で、なかにはジュニアスクールに通う前の子供の姿さえあった。

「…………シャル」

 俺は彼女達に祈りを捧げ、大きな扉へと近づく。途端、扉は唸りを

あげて開かれ、中の姿が暴かれる。そこにあったのは……

 「…………嘘……だろ?」

 白いフォルムに特徴的な鋏のような両腕、特徴的な胸部装甲と、冑

のようなその頭部、それはまさしく前世で、それも何度も見たことの

ある機体のそれと、全く酷似していた。

 そして、その頭部ユニットから流れるブロンドの髪は、見間違える

なんてあり得ないほどに、その現実を物語っていた。

               

33

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        「シャル…………なのか?」

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Episode7 兄妹なんだから

 「シャル…………なのか?」

 目の前の白亜の機体…………『ガンダムベルフェゴール』を纏った

妹を見て、俺は驚きの声をあげた。それはシャルの姿もあったと思う

けど、それ以上にその機体の姿が一番だったからだ。

 ガンダムベルフェゴール…………『ガンダムX』の作品において、

『Gジェネ』と呼ばれるゲームシリーズから初登場し、外伝にて猛威を

振るったMSだ。

 その能力は簡潔に言えば『ニュータイプを殺すためのニュータイプ

専用機』、矛盾するようなコンセプトだが、それこそがこの機体の特徴

だ。

 作品内でニュータイプを異端視する勢力が、毒には毒を以て制する

という意味で建造され、後の『ガンダムヴァサーゴ』、『ガンダムアシュ

タロン』の礎となったもの。

 しかしこの世界に『ガンダム』という概念は存在しない。前に『ガ

ンダム』についてネットで調べてみたが、それらしき情報は一切な

かった。

(……こいつの情報を知ってる奴がいるのか?俺以外の『転生者』が

?)

 と、呆然と考えていた俺に、シャルの操るベルフェゴールが一気に

接近してくる。

「く!!」

 慌ててビームサーベルを抜き、迫りくるストライククローを弾き返

す。アシュタロンの元になった機体なだけに、かなりのパワーで降ら

れるそれは、正しく悪魔の名を関するに相応しいものだった。

 実の妹を相手に銃口を向けるわけにもいかず、かといって下手に受

け身に回れば此方が絶対的に不利だ。

「くそ!!シャル!!目を覚ませ!!」

 俺が叫ぶ言葉に、シャルは一切反応しようとせず、その目は虚ろに

何も見つめていなかった。

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「……………………」

 そして両手を構えると、再びクローを、今度は連続でぶつけてくる。

パワーと殲滅を主体の機体に、強襲型のルナークでは相性が悪く、鍔

迫り合いどころか弾くのが精一杯だった。

「シャル!!目を覚ませって!!俺はお前と戦いたくなんか!!」

 再び声を掛けるが、やはり一向になんの反応もない。まるで洗脳さ

れたかのよう──

(待てよ?

洗脳…………確かベルフェゴールを操るためには

…………)

 と、一瞬見せた隙をシャルは見逃すことなく、今まで閉じていたク

ローを開いて、此方の腕を掴みこんだ。

「しまっ!!」

 慌てて外そうともがくが、そのパワーに外れるわけもなく、ギリギ

リと嫌な音がなるだけだった。

「シャル!!気づけシャル!!」

 目の前に近づいて大声をあげるも、シャルは一考に反応を示さな

い。それどころか胸部のリアクターを展開すらしてきて、ソニック・

スマッシュ砲の銃口が目の前に肉薄していた。

「くそ!!シャル!!シャル!!俺だ!!クロトだ!!」

 こんな砲撃を喰らってしまえば、いくらISといえど絶対防御なん

て合ってないに等しい。慌てて叫ぶが、シャルの表情は一考に変わる

ことがない。それどころか

「……………………スル」

「は?」

「敵ノ殲滅ヲ最優先トスル。敵ノ殲滅ヲ最優先トスル。敵ノ殲滅ヲ

…………」

 小さい声だが、ハッキリと聞こえたそれは、どう捉えてもベルフェ

ゴールのリミッターが解除されてる事を示すに十分だった。

(くそ、このままじゃシャルを…………大事な妹を……)

 その時だった。シャルの冑に妙なものが付いてるのに気づいたの

は。

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(これは……何かの……傷?)

 その瞬間だった。俺は漸くベルフェゴールの唯一無二とも言える

弱点に気づいたのは。

 俺はブレストバルカンとショルダーバルカンを一斉に吹かし、銃口

と冑に向けて一斉に発射した。

「…………!!」

 まさかの毎に驚いたのか、シャルのベルフェゴールの腕が自然と剥

がれ、少しずつ後退していく。そして

 パキン!!

 冑が突然割れて、それは崩れるように地面に落ちた。

「──敵ノ殲滅ヲ…………あれ?」

 途端、シャルの虚ろだった目が光を取り戻し、まるで憑き物が落ち

たようにいつものシャルに戻る。

「やっぱり…………その冑が弱点だった、か」

 俺は痛む体を支えながら、そう呟いた。

 ベルフェゴールはニュータイプ専用機、だが、開発した勢力は

ニュータイプを異端視し、尚且つ危険視もしていた。

 それ故に、ベルフェゴールはニュータイプを乗せなくてもニュータ

イプと同じような働きを出来るシステム、所謂『Nシステム』を開発

したのだ。

 その名を関する通り、それは人間を洗脳し、擬似的なニュータイプ

としての能力を使えるようにした代物だが、それ故に不完全な代物

で、作中では使用者の細胞が死滅していくとい障害を起こしてしまっ

たほど、強力且つ、ベルフェゴールを最凶最悪と言わしめるに相応し

いそれになったのだ。

 そして今回、Nシステムの媒介となった冑も例外ではあらず、破壊

されれば洗脳も解けてニュータイプとしての力を使えなくなるとい

うわけだった。

「私は……ク、クロト兄!!」

 ISの状態のまま、シャルは慌てて此方の方に寄ってくる。

「大丈夫!!クロト兄!!」

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「あ、あぁ、何とかな。シャルこそ、平気か?」

「もう!!わ、私の心配より自分の事を大事にしてよ!!」

 シャルは憤慨したようにクローを肩に乗せ、腕の状態で抱き締め

る。

「ごめん……私……お兄ちゃんを…………」

 今にも泣きそうな顔のシャルを見て、俺は左手だけを部分解除し、

彼女の頭をそっと撫でる。

「バァカ。妹が兄貴に迷惑かけるのは当然なんだよ、ヘッポコシャル」

「ヘ、ヘッポコ!?」

「お前はいつも気負いすぎなんだよ。そんな調子だから、今回みたい

にちょっとしたことで大変なことに繋がるんだよ」

「ひ、酷いよ、クロトn」

 シャルが何かを言いたげだったが、それを胸に抱き締めることで言

わせないようにする。

シ・

「も少し、俺のことも頼れよ。俺たちは大事な兄妹なんだからさ。

ャ・

ル・

ロ・

ッ・

ト・

 その言葉を聞いた途端、シャルは思いっきり俺の胸に顔を埋め、こ

の空間いっぱいに響く声で鳴き始めるのだった。

(シャルにこんなことをしたやつらを……俺は絶対に許さない……

!!)

 俺は密かにそう誓い、今は彼女の事を大事に思うのだった。

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Episode8 フリーデン

 「さて……と、」

 とりあえず泣き止んだシャルをだっこした俺は、一先ずここを出る

ことを優先することにした。

 因みにどういうわけか、あのあとベルフェゴールは待機状態になっ

てしまい、現在シャルの髪に白い飾りとしてくっ付いてる。

「とりあえず、ここからどうやって出ようか?」

「え、来た道を真っ直ぐ戻れば良いんじゃないの?」

 シャルは不思議そうに言うが、俺個人としては勘弁してほしかっ

た。

 というのも、通ってきた道には屑鉄と肉塊となったISと、恐らく

ベルフェゴールの餌食となった少女達が入ってる檻の目の前を通ら

なければならないのだ。そんな状況は可能な限り避けたい。

「(エネルギーはギリギリ……か)……仕方ない、シャル、少し俺にピッ

タリとくっ付いててくれ」

「?」

 シャルは不思議そうな顔で言われた通りにすると、俺は背中のディ

バイダーを右手に持つ。

「照射じゃ崩れると大変だから……な!!」

 俺は砲口を展開すると、それをカッター状に形成して天井へ発射す

る。当然天井には一直線に貫通し、大きな傷が入る。

「そりゃ!!もう一丁!!」

 確認すると同時に、俺は少しだけ移動して、さっきつけた傷に垂直

になるように二本の傷を入れる。

「これで、お終いっと!!」

 最後にもう一本発射すると、それはまさしく四角形を象り、天井板

が支えを無くして落ちてきた。

「…………凄い」

「といってもエネルギーが限界なんだけどな、何せさっきの戦闘でS

Eごと持ってかれたし」

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 軽口を叩きつつ、シャルをお姫様だっこして開けた穴から脱出す

る。と、その時だった。

『クーく〜ん!!』

 今、一番聞きたくない声を聞いた気がした。

「……ねぇクロト兄?」

「聞いたら敗けだ、あれは幻聴だ」

「それって認めてるような物だよ」

 シャルの鋭い指摘にため息一つ付くと、声のした方向を振り向く。

 そこにはつい数時間前に俺が乗っていた、カルロスさんの付き人の

車が、此方に向かって走ってきていた。ついでにボンネットには、見

たことのあるウサミミを付けた変態の姿も確認できる。

「お兄ちゃん……あれって」

「……篠ノ之束、ISの産みの親で、天災で変態な残念美女だ」

「……もう私は驚かないよ」

 シャルは何処か諦めたように言うが、それは全くもって同感だっ

た。エネルギーも残り少ない為、仕方なくウサギの方へ進み、着陸す

ると共に機体を解除した。

「いや〜やっぱりクーくんがあの『月下銃士』のパイロットだったんだ

ね〜!!」

「もう、隠すのも面倒なんで、但し機体スペックは見せませんよ」

 途端にウサギがブーブー言いながら覗き込むように近づいてきて、

ふむふむとこっちを観察してくる。ていうか無駄に存在感ある爆弾

の谷間が見えそうなんだが…………。しかしそれにムッとしたのか、

シャルの表情が何処か怖い。

「クロト兄、明日のご飯抜きね」

「シャルさん、一応俺命の恩人なんだけど」

「ドスケベなお兄ちゃんに食べさせるご飯はありません」

「横暴だ!!断固、抗議する!!」

 そんなコントにカルロスさんはにこりと笑って見ている。どこを

どう見ても我が子を見守る親のそれの表情だった。

「……たく、それでこれからどうするんだ?」

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 俺はため息と共に父さんにその事を聞いた。今回は事なきを得た

……のかは分からないけど……から良いものの、何も手を打たなけれ

ばおんなじ事が繰り返されかねない。

「まずはあの女を捕まえる事にするかな。ここにはどうやら、人体実

験のデータやら被験者もいる、使えるカードはこれで充分だ」

「そりゃ、確かにあそこには…………まぁ、居たけどさ、それでどう繋

げるつもり?」

 IS部隊の奴等は脅した奴を除いて全て肉塊になってるし、研究員

達には恐らく既に逃げられてる可能性が高い。

「ま、そこは色々と……ね?」

 明らかに黒い笑いで父さんはそう言った。うん、聞かない方がいい

かもしれないね。

「まぁ、その後は……何処か田舎で人知れずゆっくりと暮らすのもア

リだが、まぁその点はクロトくんに任せるよ」

「おいおい、一応父さんが家長なんだから、父さんが決めてくれよ」

「いや、僕は保護者にはなるけど基本的には放任主義だからね。ちゃ

んとやることをやってさえいれば後は何も言わないよ」

 無責任なと思うも、母さんもそういえばそういった感じだった。結

婚はしてなかったとはいえ、愛し合ったものは似るものなのだろうか

?「ま、とりあえず俺が『ルナーク』のパイロットだって事はバレてそう

だからな……」

「その点ならモーマンタイだよ!!この天才束さんがハッキングして映

像が外部に漏れないようにセーフティしたからね!!」

 妙にご都合主義な塊のウサギはそう宣う。ていうか一々跳び跳ね

たりしてアピールするな、目のやり場に困る。

「お兄ちゃん、一週間にしようか?」

「断じて俺は疚しい気持ちはないぞ、シャル」

 自然に心を読んでくる妹に驚きながらも、ポーカーフェイスで突っ

込む。

「どっちにしろ、今のままじゃ第二、第三のシャルが出てきかねないか

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らな……可能なら何処かに所属してるって事にするのが一番なんだ

けど」

「僕のデュノア社なら可能だろうけど、結局はあの本妻を何とかしな

いことには…………」

「あと、出来るだけバレないようにとなると……」

 ふむ…………俺とシャル、父さんはう〜んと唸りこむ。実際こんな

条件を簡単に受け入れられるほどの起業など聞いたことがない。

「はいはーい!!この束さんの頭にアイデアがナウプリーディング!!」

「……ダメもとで聞くけど、ちゃんとしたアイデアなんだよな?」

「もちろん!!というのも…………」

                 数週間後、俺達三人はまさかウサギの作戦がうまく行くとは思わ

ず、少し唖然としていた。

「しかし、流石は篠ノ之束というべきか……突拍子のないように見え

て、その実本質を見てるというかなんというか……」

「「アハハ……」」

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 ウサギの作戦、それは簡単に言えば、企業合併というなんともシン

プルかつビックリな手段だった。

 簡単に言うと、まずはウサギが独自のIS開発企業『ラビット社』な

るものを設立、そして社長である父さんと束さんが秘密裏に(正確に

はデュノア社の男性重役社員と古くから支えてる人間にだけ、重要極

秘案件として伝えていたそうだが)それを纏める。

 そして纏めた次の日には社長が社員一同を集めてそれを発表し、さ

らにその際の人事で現妻及びその傘下の派閥女性陣を一気にリスト

ラしたのだ。

 当然ながら妻及び傘下の女性陣は一斉蜂起、抗議活動をしようとし

たが、数少ない束さんに対して好意的なFBIの一人が研究所に関し

て捕縛、逮捕され、彼女達は現在取り調べの真っ最中、恐らく釈放さ

れる事は無いだろうという見解だそうだ。

 これに伴い父さんは現妻を元妻とし、はれて俺達二人を養子として

迎え入れたのだった。

「しかし、後は彼らがだが…………」

 社長椅子に座りながら、父さんはため息混じりに空を見る。

「大丈夫だって父さん、ちゃんと話はしたんでしょ?」

「そうだよ。お父さんのこと、ちゃんと分かってくれると思うよ?」

「……だといいがな……」

 とその時だった。ノック音が三回鳴り、父さんは慌ててネクタイを

締め直す。

「どうぞ」

「…………失礼します」

 ドアが開き、入ってきたのは十数人ばかりの大人達だった。それぞ

れが中々に引き締まった顔で、まるで歴戦の猛者という風格がある。

「…………来てくれたか、ジルダさん、皆」

「…………ええ」

 ジルダさん……父さんがまだ社長に就任して間もない頃から、事務

として、また一技術者として、父さんを支えてきた一人だった。そし

て、元妻に一番最初に邪魔だと会社から追い出された一人でもあっ

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た。

 他の人たちも、父さんを最初期から支え、デュノア社を盛り上げ、そ

して元妻達の一派に追い出された優秀な技術者達だ。

「我々は……最初は乗り気でなかった。あの女達に再び会うことなん

て、例え社長、あなたの言葉でも断るつもりだった」

「そう……だろうな。人事をあの女達に任せた、私にも落ち度はあっ

たからな。信じられないのも無理はないだろう」

「ですが、貴方の息子さんや娘さん達の言葉を、貴方の本心を知ったか

らこそ、私は、いえ私達はここに戻ってきました」

 そういってジルダさんたちは、自分達の鞄から一枚の紙を取りだ

し、それを社長である父さんに渡す。

 それは、まさしく彼らの血と、努力と、そして社長達に対する思い

を形にした、次期第三世代型ISの設計図だった。

「我々は、貴方のもとをついていきます。今度は、定年過ぎても、この

会社に残るつもりですよ」

「そうか…………」

 そういうと、父さんは椅子から立ち上がり、彼らの前に出た。

「これからは忙しくなるぞ?」

「覚悟のうえです。社長」

            

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 デュノア社という会社は終わった。しかし、ただでは終わらなかっ

た。

 新たな結束、クロトやシャル、さらにはIS生産部門顧問となった

束の参戦により、フランスのIS技術は飛躍的に上昇した。

 『フリーデン』そう新しく名付けられたその会社から発表された機

体は、後に世界大会、モンドグロッソの優勝をすることになるのは、い

まはまだ、遠い話。

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第二章 フリーデンにて

Episode9 若社長!!

 「さて、これから作る第三世代型ISの検討会に入りたいと思います」

 日曜日、一応フリーデンの専属パイロット(秘密裏だが)兼技術部

の一人となった俺は、ジルダさん含め多数の技術者と協議することと

なった。

「まずテーマですが、重要なのは大きく分けると二つです」

「二つ?どういうことですか?」

 ジルダさんが疑問に思って聞いてくる。回りも同様に首を傾げた

り、他の人と喋ったりと少なからず動揺しているようだ。

「まず一つ目、試作機を作るにして、いずれはそれを量産化するわけな

ので、可能な限り扱いやすく、尚且つうちのトップ商品『ラファール・

リヴァイブ』のような動きが可能であること」

 これは言わずもがな、ISのコア数には限度がある。うちにはコア

の開発者であるウサギがいるが、彼女はおそらく追加でコアは造らな

いだろう。

 そうなると、第三世代量産機が主流になったときに、第二世代のう

ちの機体は真っ先に売れなくなる。つまりは会社がトブ可能性だっ

てあるのだ。

 そうならないためにも、『ラファール・リヴァイブ』を乗ってる人間

に、それと同じ感覚で動かせ、尚且つ他の第三世代型に負けないス

ペックが必要になる。

「二つ目、これは第三世代型の特徴になるともいえる特殊武装だ」

「特殊武装…………最近で聞くところの、イギリスの『BT兵器』のよ

うなものですか?」

「そうです。それを量産でも使える、低コストで効果的なものが必要

になります」

 その言葉に、開発陣は一斉に黙ってしまう。そりゃそうだ。そんな

画期的なシステムを簡単に考えられたら苦労なんてしない。

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「とりあえず、今回は例として自分が考えたものをあげたいと思いま

す」

「よ、四代目が自らですか!?」

「なんだよ、その四代目って。まぁともかくこれだ」

 俺はホロディスプレイで企画書をそれぞれの目の前にオープンす

る。

「機体名は……あー、便宜上『アタッカー』とさせてもらいます。様々

なパッケージをその場その場で換装し、近接、中距離、遠距離での戦

闘を瞬時に入れ換えることをコンセプトにしました」

 思いっきり『ストライク』ですね、うん。ていうか、ラファール系

に近いっていったらこれしか思い付かないし。

「なるほど……ですがパッケージが無いと随分とシンプルですな」

「ええ、ですが今現在考えてるのは、武装をシンプルにして高機動戦を

中心としたもの、大型の剣を一本とブーメランなどを搭載したもの、

高火力レーザー砲とミサイルなどを装備するもの、その三つを構想し

ているつもりです。」

 俺の言葉に社員達はそれぞれがなるほど、と称賛の言葉をあげてい

る。が、

「パッケージについては構わないでしょうが、そのパッケージだけで

は使うに不十分なのでは?」

 当然ジルダさんが疑問点をあげてくる。父さんも言ってたけど、こ

の人、すごい有能すぎる。

「そこは追々、新しいパッケージを皆で考えれば良いんでは無いで

しょうか?ここには優秀な技術者が沢山居るんですし、技術力こそ

が、自分達の、フリーデン社の持ち味だと思いますし」

「なるほど…………そういうことなら、私からは何もありませんね」

 熟考したのち、彼はとりあえず認めてくれた。

「勿論、この機体は私が、まだ学生の私が考えたものです。私より長く

技術を磨いてきた皆さんなら、もっと良い機体を考えてくれると、私

は考えてます」

 そう締め括ったところで、会議はお開きとなった。そのあと暫く賛

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辞の雨霰を頂いて、俺は少し形見が狭い思いをしたのだった。

  午後になって、俺はウサギに呼び出されて研究室まで足を運んでい

た。

 普段なら死んでも近付かないだろうが、今回ばかりは仕方ないと割

りきってドアの前に立つ。

「ウサギ、入るぞ」

「え、クロト兄!?ちょっとま」

 開けた途端、中からシャルの声が聞こえたと思って入ってみると、

そこには下の下着以外は生まれたままの美少女がそこに…………っ

て、

「…………」

「……………………(汗」

「キャァァァァァァ!?」

 当然の叫び声と共に、彼女の投げたスパナの直撃を受け、俺は暫く

意識を宙へと飛び立たせるのだった。

「(…………白かったな……)」

 何がとかは突っ込むべからず、下手な興味は身を滅ぼすからね。こ

れ絶対。

  「もう!!なんでお兄ちゃんがこんなところにくるのさ!!」

 十分位経って漸く目を覚ました俺は、目の前の修羅に正座させられ

ていた。ていうかここフランスだよね?なんで正座?

「仕方ないだろ。今日はウサギに呼ばれてたんだからさ」

「だからってあのタイミングで来る!!ていうか、ちゃんとノックぐら

いしてよ!!」

「いや、ウサギの研究室だからノックなんて要らないと思いまして」

「なんでさ!?」

 シャルが某正義の味方みたいな事を言ってるが、気にしたら負け

だ。

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「それで、問題のウサギは何処だ?」

「こっこだよ〜!!」

 突然魔王の声が聞こえたかと思うと、背中にどういうわけか不思議

な感触が現れる。うん、シャルさん目が怖いよ、顔が黒いよ(意味深)

「……おいウサギ、真面目にやるつもりないなら俺とシャルは帰らせ

て貰うが?」

「にゃはは〜いや〜シャルるんの顔が面白いからね〜ついつい弄り

……遊びたくなっちゃうんだよね〜」

「今弄るって言いかけたよ!!完璧確信犯だよ!!」

 シャルが憤慨したままに言ってくる。うん、ここは賢者になって何

も言わぬが吉、か。

「まぁとりあえず離れるとして〜、お久だね〜クーくん」

「俺は出来ることなら関わりたくないんだけどな」

 恨みがましくそういうと、ウサギはまたまた〜とかなんとか言って

ハイテンションだ。

「ハァ…………で、頼んでたシャルの検査結果はどうだったんですか

?」

 俺がそういうと、ウサギは珍しく真剣な顔になる。

「うん、結果から言うと、あの『ベルフェゴール』とかいう機体からの

シャルるんの副作用はなかった。細胞、遺伝子にもね」

「本当か?Nシステムの影響が何もなかったのか?」

「うん、束さんが自ら調べてみたけど、そういう反応はなかったよ。

…………脳波以外は」

「脳波?」

 あまりに不思議な言葉に、俺は思わずそう聞き返す。

「うん、普通に調べたら何の異常も無いんだけどね、なんていうか……

嫉妬?そういったマイナスの感情になると一定の感脳波を発してる」

「感脳波って、一卵性双生児が互いに考えてることが分かるみたいな

もんか?」

「簡単な例だとそれだね。けど、シャルるんの場合はその範囲が大き

いんだ」

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 ウサギの言葉に、俺はもしかしたらと思う。

「シャルるんの感脳波は、さっきクーくんがあげたそれの数倍、いや数

十倍の影響力がある。良い意味でも悪い意味でもね」

「……具体的には」

「そうだね……死んだ人間の心をダイレクトに受け取ってしまう程に

強力だね」

 その事を聞いた俺は真っ先に頭を抱えた。まさしくそれは『ティ

ファ・アディール』並のニュータイプ能力だ。それを持ってるという

ことはつまり、

「…………」

「…………」

「えっと、二人とも、いったいどういうこと?」

 シャルは分からないように聞いてくる。

「……最悪、この前みたいな誘拐が起こりかねないってことだよ」

「え?」

「クーくんの言う通り、知られれば今度は色々な人間が狙ってきても

おかしくないんだよ」

 俺達二人の言葉に、シャルは驚いて口をパクパクしてる。

「まぁ、俺がいるうちはそんなことさせないけどな。とりあえずは安

心しとけ」

「うん…………」

 シャルにそうは言ったものの、俺は見えない敵を思って緊張するの

だった。

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Episode10 疾風の革命

 「さてシャルるん!!このまま専用機を作っちゃおうか!!」

「おいウサギ、何言ってるこの野郎」

 雰囲気をぶち壊すようなウサギの言葉に、俺は部分展開した右腕の

アイアンクローで頭を握りこむ。

「イタタタ!!クーくん流石にISの腕はダメだって!!もっとやって

!!」

「まさかのご褒美!?どんな性癖してるの!?」

 シャル、それがこの変態MSだから仕方ない(諦め

「そ、それに何の考えなしに言った訳じゃないよ!!ちゃんと理由ある

よ!!」

「へぇ〜?どんな?」

「イダダダ!!また強くなってるよ!!私イッちゃうって」

 俺はそう聞くが腕は離さない。離すなんて言ってないから当然だ。

「別に良いよ、逝きながら話してください」

「話すから、離してくださいお願いします!!」

「え、やだ」

「まさかの即答!?クロト兄ストップストップ!!」

 シャルに止められ、仕方なく俺は腕を離す。ホントに仕方なくだけ

ど。

「う〜、クーくん酷いよ!!束さんの素敵な頭が真っ二つになっちゃう

よ!!」

「良かったですね。そうなったら物事を二つ同時に考えられますよ」

「おお〜、クーくんって頭良い!!」

「…………この展開に着いていけない私はおかしいのかな……」

 シャルは何処か遠いところを眺めていた。うん、とりあえずボケる

のはここまでにしとかないと、シャルが黒シャルになっちゃうから

な。

「それで、どんな理由なんだ?」

「理由ね。まず一つに、シャルるんの自己防衛のため。これは言わず

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もがな、シャルるんの強力な感脳波を狙う組織が、いつどこで出てく

るか分かったものじゃないからね」

 確かにシャルの感脳波を狙う可能性が少なくないというのは正論

だ。感脳波を突き詰め、研究すれば、最悪の場合だと、人間の脳を操

作して自分の思い通りにさせることが出来る。

 前世で知ってる作品の中に『SAO』と呼ばれるものがあった。そ

の作品ではフェイスヘルメット型の機械を通して、ある一人の科学者

が、人の完全洗脳という技術を確立させてしまった。それは結局のと

ころ封印されたが、それも結局は脳内の電気信号によるシナプスを媒

介に技術を展開していった。

 電気信号と脳波は少なからず密接な関係がある。つまり今言った

技術は、応用さえしてしまえば脳波でも可能な技術であると言える。

「二つ目、これは会社的な問題なんだけど、そろそろ第三世代型試作機

をEU内でコンペしなきゃならないから」

「なるほど、ISは核となるコアが有限、だからこそコンペをしてそれ

ぞれの国が……でもって会社が委員会から補助金をもらわなきゃな

らない、と」

「そういうこと。詰まるところ二つの理由があるって訳なのね」

 ウサギにしては至極まっとうすぎる理由に、少しだけがっかりしな

がらも俺はとりあえず部分展開した腕をもとに戻す。

「そんなわけで、シャルるんの機体を造るんだけど、何か要望はある

?」

「えっと……」

 突然話を振られたせいで、シャルはどう答えて良いか分からないと

いう表情を浮かべる。

「とりあえず、この機体じゃダメなんですか?」

「あー、クーくんが言ってたシャルるんを操ってた機体だっけ?それ

でも良いんだけど、流石にコンセプトがガラリと変わりすぎてるし、

それに」

 ウサギはチラリとこちらを見る。どうにかしただろうか?

「クーくんの機体ですら圧倒する機体なうえに、解析して出たスペッ

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ク見たけど、あんなのを調整せずに使ったら、最悪一生ベットの住人

になっちゃうよ?」

「でも…………なんか使ってあげないと可哀想だし」

「可哀想って……その機体がか?」

 俺は不思議そうに聞き返す。

「うん。この機体、色んな子と触れあってきたみたいだけど、みんな狂

暴すぎるこの機体に恐怖したんだと思う。けど、この機体自体にはそ

ういう気持ちは無いと思うし、少なくとも私はそう思う」

「シャル…………」

「だってそうでしょ。機体がそう思ってるなら、リミッターなんて掛

けないもん。この子は独りになるのが寂しくて、自分自身を抑えてる

と思う」

「なら、俺と戦ったときのあれは?」

 俺はシャルにそう問いかける。あの時、ベルフェゴールは完全にリ

ミッターを解除して、俺を殺す気満載だった。

「それは確かにあの子が嬉しかったんだとおもうし、それに多分、あれ

はNシステムが機体にも影響してたんだと思う」

「システムが機体に影響してた?」

「う〜ん、コアにも人格みたいな個性が存在するからね、それは無きに

しもあらずだけど」

 ウサギが唸るようにそういう。実際造ったのは彼女なんだから、こ

ういうのも不思議じゃない。

「それにこの子、凄い寂しがり屋なんだよ。数週間一緒に居たけど、

時々この子の悲しみが流れてくるみたいだった」

「悲しみ…………」

「自分を扱える人間が居なくて、それでいて乗っても体や精神を壊し

ちゃう。そんなのが続けば悲しくもなるよ」

 シャルは撫でるように機体へ触れる。

「だから、出来るならこの子を使ってあげたい。この子が寂しい思い

をしないためにも、ね」

「…………」

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 俺は何も言えずに口を閉ざす。前までの俺なら原作乖離を恐れて

止めろと反対しただろう。けど、

「…………分かったよ」

「!!クロト兄!!」

 彼女の、大の妹の願いを断れる筈がなかった。それが、実の兄の弱

点なのかもしれないが、そんなの知ったことじゃない。

「ただし、機体自体に大幅な改修をする。流石に今のまま使わせるの

は、機体性能的な問題でシャルの体を壊しかねない」

「うん!!大丈夫だよ!!」

「それとシャル、今回はコンペもある。だから、機体は第三世代試作機

のデータを組み込んで、尚且つこの機体のコアと武装を可能な限り使

う。それで良いか?」

「うん。この子が一緒なら、私は大丈夫だよ!!」

「なら名前だな……一応試作機の名前も付けなきゃいけないし

…………」

「それならこの束さんの頭に既にあるよ〜!!」

「おいおい」

 俺は半分呆れながらそういうが、内心この人のネーミングに期待し

て聞いてみる。

「デュノア社がフリーデンとなって、機体が新しい風を運ぶ。だから」

           

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         「『疾風の革命』『ラファール・イノベイク』なんてどうかな?」

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Episode11 パパ////

  はてさて、シャルのIS兼フリーデンの第三世代試作機の作成プロ

ジェクトが始動してはや数十日、事態はかなり進むことになった。

 まず試作機の方だが、ウサギが命名した『ラファール・イノベイク』

の名は予想以上に開発陣営からも高評価だった。というのも第二世

代『ラファール・リヴァイブ』が『疾風の再来』という意味だった事

から、そのシリーズの発展機というのが一目瞭然となるとわかるから

だろう。

 そして俺があげたパッケージ換装、まぁそこまで新しいのは考え付

かないとたかを括ってた俺には、予想の斜め上を行くこととなった。

 というのも、それぞれが考えてきたのというのが、背部にミサイル

ポットとスラスターを組み合わせたパッケージだとか、収束レーザー

砲を二門肩に付けたものだとか、はたまた収束ビーム砲と対艦刀をそ

れぞれ二つ装備した大型のウィングスラスターだとか、個人的にはど

こからそんなのを思い付いたというようなものばかりだ。

 しかめそれが、どれもこれも『SEED DESTINY』のザフ

ト関連のパッケージだというのだから質が悪い。ていうか、『GX』の

戦艦の会社名なのに機体らパッケージが『SEED』関連ってどうい

うこっちゃ!?それに俺が例に上げたの『ストライク』だぞ、ストライ

クがザフトのシルエット着けてるってシュールすぎだろ!?

 とりあえず最初の二つは量産するに吝かじゃない性能だから何も

言わなかったが、最後の『デスティニーシルエットモドキ』だけは先

送りになることが決定した。だってあれ燃費悪いし。

 また、他にも珍しいのでは『Vガンダム』と『V2』のパッケージ

を考えてくる奴までいた。ていうかこの世界にガンダムって無いは

ずだよね?そうだよね?と突っ込みたくなったのは心のうちに秘め

ておく。

 そんなこんなで試作機の開発は開始され、コンペのある四月前には

完成する予定だ。多分ウサギの頑張りでもっと早く完成するだろう

けど。

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 そしてシャルの機体だが、これはウサギによる先行試作を独自カス

タマイズする形式で了承をとった。ついでに俺の分も。

 シャルの機体はコンペでの模擬戦用に造るという事なので、現在ウ

サギが設計図を見ながらほぼ徹夜で敢行してる。

 ちなみになぜ俺の分もかというと、俺の機体『ルナーク』は『二人

の騎士事件(原作の白騎士事件が、俺の介入でこう呼ばれるように

なったらしい)』映像にはっきりと映り込んでいる。そんな機体を

堂々と人前で出すわけにもいかず、かといってシャルを守るため、仕

方なくこうするに落ち着いた訳だ。

 そもそも今の第二世代も第三世代も装甲は絶対防御に頼りきって

薄いからね。俺の機体みたいに全身装甲タイプの(見た目だけだか)

第一世代型はお呼びじゃない。かのブリュンヒルデが乗ってくるな

ら話は別だが。

 そんなわけで、あと約一年と数ヵ月で原作が開始されるので、俺は

不自然が無いようにということだ。

 そして現在、俺とシャルは機体操作の練習を兼ねて、第二世代『ラ

ファール・リヴァイブ』で、互いに模擬戦をしていた。

「ほらほらシャル!!逃げてばかりだと蜂の巣になるぞ!!」

「クロト兄こそ、射ちすぎると後々苦しくなるよ!!」

 俺は右手のサブマシンガンを射ちながら、シャルは両手のアサルト

ライフルを撃ち込みながらそういう。

 シャルの原作での戦術、『ラピット・スイッチ』による『砂漠の逃げ

水』は、やはりというべきか、まだ実際に動かして数日だというのに、

かなり手こずることになった。これがあと数ヵ月ちゃんと訓練すれ

ば、少なくとも一線級のパイロットになるだろう。

 対して此方の戦術は、サブマシンガンによる牽制を主体とした、所

謂追い込み漁をベースにしている。簡単に言えば、相手をマシンガン

など連射系の武器で牽制し、その実相手をフィールドの隅へと追い込

む。そしてそこから肉弾戦や近接戦に持ち込むスタイルだ。ボクシ

ングで相手に攻撃されてるのに、むしろ自分が追い詰めてるというの

に近いことから、『威圧する暴風』……『プレッシング・トルネイク』

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とウサギに命名された。

 俺もシャルも、相手を追い込むことに特化した戦術を使うものの、

シャルの戦術が撹乱を主体とした技巧派の技なら、俺のは相手をとこ

とん追い込み、圧迫し、何もできないようにする圧倒型のもの。どち

らが上手と言われれば判断は難しいが、少なくとも有利となるのは俺

の方だろう。

 といってるうちにシャルの機体のSEが0になり、プシューと音を

立てながらシャルのリヴァイブが固まってしまう。

「う〜、また負けた!!」

「これで俺の18連勝〜!!いやー、黒星無いとは味気ないもんだな〜」

「こっちの弾も当たってるはずなのに……どうしてダメージが少ない

の〜」

「経験だ、経験」

 俺はにべもなくいうが、内心、いつ負けるか分かったものじゃない

とハラハラしていた。

(このままいけば、もしシャルの専用機が出来たらと考えると……)

 最悪ゾッとする。あんな機体で今と同じような戦法をしてこられ

たら、まだ負けはしないだろうけど、少なくともギリギリのそれは免

れないだろう。

「二人とも頑張ってるみたいだね」

「「父さん!!」」

 と、いつの間にか現れた父さんが、俺らにペットボトルとタオルを

投げると、自分も床に座るのだった。

 さらに今日の模擬戦をモニタリングしてたウサギとジルダさんも

フィールドに降りてきてる。

「珍しいね、父さんがこっちに降りてくるなんて」

「なに、偶々仕事に暇が出来てね。ついでに息子たちの試合を観戦し

てたというわけさ」

「おいおい、まるで出歯亀してるみたいだぜ。別に見るものでも無い

だろ」

 俺はスポドを飲みながらそう聞く。上司と部下(一応テストパイ

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ロットだし)以前に親子であるゆえに、俺やシャルは普段父さんとフ

ランクに会話してる。

「それに、実の息子と娘が切磋琢磨して頑張ってるんだ。それを見守

るのも親の務めさ」

「そう……、ありがとう……パ…………パパ////」

「!?シャルロットォ!!」

 シャルのパパ発言に、父さんは滝のような涙を流して彼女を抱き締

める。

「パ、パパ!!恥ずかしいって!!皆が見てるって!!」

「ウォォォ!!シャルロットォ!!」

「「「アハハ…………」」」

 俺、ウサギ、ジルダさんの和やかな笑い声と、シャルの恥ずかしがっ

てる悲鳴、そして父さんの号泣がフィールド内を木霊する。

 こんな日常が毎日続けばいいな、俺達はそれぞれがそんなことを思

いうのだった。

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Episode12 女は度胸!!

 「さ〜、シャルるんの専用機が完成し〜たよ〜!!」

 さらに数週間の朱鷺が流れ、フラフラと千鳥足になりながら、ウサ

ギはそう口にした。

「あーお疲れ。とりあえず、今日まで何徹したんだ?」

「えっとね〜、まともに眠ったのは二週間ぐらい前かな〜……もうテ

ンションがおかしくて、今ならどんなことでも出来そうだよ〜」

「そ、そうですか……」

 はっきりいって酷い状況だった。別にウサギが何徹しようと勝手

だが、寝惚けて倒れたり、変なことをさせられたんでは話にならない

し。

「ウサギ、とりあえず寝てろ。そんな状態じゃすぐにでも失神しちま

うぞ」

「アハハ、大丈夫大丈夫、目の前にお花畑が見えるくらい絶好調なの〜

全力全壊なの〜」

「それ絶好調違う!!とにかく寝ろ!!」

 半分死にかけてるウサギをソファーに無理矢理横たわらせ、俺はと

りあえず完成したシャルの機体を目に見る。

 その姿は、基本的なフレームは『リヴァイブ』のそれに、まるで『ガ

ンダムアリオス』のフレームを組み合わせたような、独特なシルエッ

トをしており、またそれぞれが少しずつ特異な姿をしていた。

 オレンジ色のカラーリングに、白をアクセントにした両腕に取り付

けられた二つのシールドは、まるで『ゲイツ』のようなシールドクロー

へと様変わりし、攻防一体の複合装備へと変貌してる。

 『リヴァイブ』の特徴的な非固定ユニットもなくなり、その代わりに

コネクターらしきものが装備されている。

「これが…………私の機体」

「機体名は『ラファール・イノベイク V・Cカスタム』だそうだ」

「V・C?」

「『ベルフェゴール』のVと『シャルロット』のCだよ。ウサギも粋な

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ことをするよ」

 既に気絶したように意識を手放したウサギを見ながら俺はいう。

「とりあえず初期設定するから、さっさと着替えてこい」

「うん、わかっ…………」

 シャルはそう言いかけた途端、何かを思い付いたように、少しだけ

口角を吊り上げて笑う。うん、何かやるつもりだな。

「ねぇ、今日もクロト兄との模擬戦なんだよね?」

「お、おう…………」

「だったらクロト兄も着替えないとだよね〜」

 嫌な予感しかしない。とてつもなく嫌な予感しかしない。

「だったらここで着替えても…………」

「良いから早く着替えに行けぇ!!この変態が!!」

 俺は怒鳴りながら、シャルの言葉の続きを遮り、そのまま首根っこ

つかんでぶん投げた。

 シャルはブーブー言ってきたが、俺は睨んでそれを黙らせる。いっ

たいどこでシャルの教育を間違えたのか、俺は堪らずにそう思った。

  シャル視点

 う〜、私は唸るように肩を落とす。いや、別に面白そうだからやっ

てみただけで、深い意味は無かったのだが、クロト兄は面白いように

怒鳴ってきた。

(私って……やっぱり妹として見られてるんだよね)

 私、シャルロット・フェブリエは兄が好きだ。家族愛とかの好きで

なく、LIKEでもなく、LOVEの好きだ。

 いつからといわれたら多分、あの誘拐事件のあとぐらいだと思う。

まさか兄さんがISを動かしてまで私を助けてくれた、それは家族

だったからという理由もあるだろうけど、それでも私がLOVEの意

味で好きになったきっかけなんだと思う。

 それ以来、クロト兄と二人っきりだったりすると、どこか顔がニヤ

けちゃったり、心が高鳴ったりと、私は変に緊張してしまった。

 束さんにそれを聞いてみたら、やっぱりあの人にも、私がクロト兄

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に対して恋愛感情を抱いてるんだってきっぱりと言われた。しかも

冷やかし混じりで。そのときは私自身がティーポットになったみた

いに顔が熱くなってた。

 けど、これはイケない恋だ。近親恋愛はどこの国でも御法度だし、

何より堅物な兄が認める訳がない。

(あ〜!!どうしたら良いんだよ〜私!!)

 顔を真っ赤にさせ、頭をブンブン振り回して考えを無理矢理に飛ば

させる。そして胸に手を当て……

(あれ、もしかしたら…………)

 私は思い付いた。こんな気持ちにさせた兄に、責任を取らせる方法

を。しかしそれは、

(だ、大胆過ぎるよね、でもこれくらいやらないと……うん、女は度胸

!!)

 私は心にそう誓い、とりあえずは自分のISスーツに着替える私

だった。

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Episode13 O☆NE☆GA☆I

  なんとかシャルの機体のフィッティングを終えた俺は、自分の機体

(今回ばかりは『ルナーク』を使ってるが)を展開して地下アリーナに

いた。目の前には同じく専用機を纏ったシャルもいる。

「とりあえずシャル、まずは自分の機体に馴れることだな」

「それは確かにだね。でも、『リヴァイブ』の時と比べて全然違和感が

ないんだけど」

「まぁ『ベルフェゴール』のコアを使って、尚且つ『リヴァイブ』の時

の運動データを組み込んでるらしいからな。違和感もさほどないん

だろ」

 そんなものかな、シャルはそう言いながら腕を握って開いてを繰り

返す。

「それとシャル、機体をVモードにしな」

「うん、機体転換、Vモード!!」

 音声認識と共に、機体の頭部ユニットから突然バイザーらしきもの

が降りてくる。さらに今さっきまでシールドだったそれが両腕に籠

手のように装着され、さらに大型のクローが二本、それもエネルギー

体で出来たそれが、それぞれのシールドの下から牙のように現れる。

「うぉぉ!!カッコいい!!」

「(カッコいい?)それが『ベルフェゴール』の能力を活かした『Vモー

ド』、主に近接格闘戦と近距離射撃戦を主だった武装にしてある」

「射撃戦?でもこの機体に射撃武器なんて」

「クローに内臓されてる。試しに射ってみろ」

 そういって俺は仮想の的をフィールドに多数展開する。シャルは

不思議がりながらも、的に腕を向けてみる。

「……ねぇ、どういう感じで射てば良いの?」

「そらお前、銃じゃないんだから、掌から見えないエネルギーを放つ、

みたいな感じじゃねぇの?」

 なるほど、とシャルは頷くと再び視線を的へと向ける。そして、

「……!!」

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 クローから一筋のオレンジ色の光が発射された。それはまさしく

ビームであり、一瞬にして的のど真ん中を貫いた。

「スゴ!!っていうか威力高!!」

「(そら最初に搭載されてたビーム砲を、本来収束砲か散弾砲で使うメ

ガソニック砲改良したやつを片手に一門ずつにしたら、そら威力高い

わな……)」

 ウサギから拝借したマニュアルを見ればのまさかであり、俺の頭痛

の種は酷くなる。なんという無駄にハイスペックな機体を作るんだ

よ、アイツは。

 しかも良く見てみれば、マニュアルには『Vモード』展開時に、下

のクローが展開装甲による特殊ブレードになってるというのだから

尚更だ。

「とりあえず射撃は要練習ということだな。あと接近戦だけど……」

「そこはクロト兄が一緒に模擬戦でなんとかなるでしょ?」

 シャルは簡単に言ってくるが、そうするしか手がないのもまた事実

だった。

「それじゃ、とりあえず俺もサーベルと盾の打撃だけでやるから、お前

もとりあえずクローとかの打撃(?)だけな?」

「了解。それじゃあ、少し賭けをしよう?」

「賭け?」

 俺の言葉に、シャルは笑顔で頷く。

「私がクロト兄に勝ったら、何でも一つだけ、言うことを聞く。逆にク

ロト兄が勝ったら、私になんでも一つだけ、言うことを聞かせられ

る。っていうのだけど」

「ふーん……まぁ無いよりは面白そうだな。模擬戦とはいえ、本気に

なれるし」

「(よかった!!これで作戦第一段階成功!!)じゃあそういうことでいく

よ!!」

 そういうとシャルはまるでボクサーのようにピョンピョンと軽く

跳ねる。俺もここの所属になってから自作した新型パッケージ『00

24モデル』へと切り替え、ビームサーベルとゲネイオンシールドを

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構える。

「…………」

「…………」

 少しの緊張感が、俺たちの間に流れる。互いに睨み合い、そして─

─「「……!!」」

 一斉に地を蹴った。シャルは左手のクローでまずはストレート気

味に殴りかかるが、俺はそれをシールドで受け流し、かつ右手のビー

ムサーベルを降り下ろす。が、それを右手のクローのシールドで防

ぎ、こちらの攻撃を跳ね返す。

 さらに流されて落ちていくクローを地面に突き刺すとそれを軸に

急速な回し蹴りを飛ばしてくる。さすがにシールドで受け流せず、俺

は少し体を宙に飛ばされてしまった。

「なんの!!」

 俺はすぐに体勢を建て直し、かつシールドで上から殴りかかる。

シャルめ驚いた表情をするが、すぐに状況を読んで一歩下がる。そし

てシールドは地面に突き刺さり、そして、

「オラァ!!」

 シールドに内蔵した隠し腕を展開、それをシャルのように軸にし

て、俺は踵落しの要領で蹴り下ろす。当然ガードされるが、それでも

かなりのダメージが機体に負荷として掛かってるのは明白だった。

「く、『モードC』に以降!!」

 シャルはまるで仕方ないというように音声認識をかける。すると

籠手のシールドの部分だけがパージされ、それはまるで自由に宙を浮

いている。手には先程までの実体刃のクローが装着され、シールドに

は展開装甲による刃が浮かんでいる。

「ち、大型のビットクローか!!」

「その通りだよ!!僕の感脳波を媒介にして、BT兵器のように自由自

在に攻撃する攻防一対武装!!実質私の腕が四本になったみたいなも

のだ、よ!!」

 そう言いつつ、身軽になった体で先程以上のスピードで仕掛けてく

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る。一発一発のパワーや重さはさっきより軽くなってるけど、それ以

上に早く打ち込んでくる。

 しかもこっちがシャル本体に気を取られてしまったら、シールドに

よる背後からの攻撃、逆もまたしかりの攻撃を仕掛けてくる。

(マニュアル読んだだけでも思ったが、ウサギのやつとんでもない化

け物ISを産み出しやがったな!!)

 内心愚痴りながら、俺はシャルの攻撃を去なし、躱し、かつ防御す

る。格闘戦オンリーとは言ったが、まさか初起動でこんな本気で来ら

れるなんてのを誰が予想しようか。

「ほらほら!!クロト兄が負けちゃうよ!!」

「うっせぇ!!ここからだここから!!」

 そう言い返すものの、実際後がないのも事実で、俺のSEも限界値

に近づいてきてる。

「(仕方ない!!)うぉぉぉ!!」

ビ・

ー・

ム・

 俺は一瞬だけバックステップの要領で後ろに下がり、そして

サ・

ー・

ベ・

ル・

を・

投・

げ・

つ・

け・

た・

。あの時、白騎士がやったのと同じ戦法だ。

「うそ!!」

 流石に不意を突かれたシャルは慌てて避ける。籠手でなくなった

腕で防御すれば、一気に落とされるのは自明だった。

 が、俺はそれを狙って瞬時加速を使い一気に目の前に躍り出る。そ

して再びシールドで殴りかか──

「甘いよ!!」

 突然横からのダメージが襲い、俺は一気に吹っ飛ばされた。確認し

てみると、どうやらビットクローを予め来る方向に配置していたらし

い。

「これで私の勝ちだね!!」

「くそぉ、もう少しで勝てたのにな〜。59連勝で終わりか」

 残念そうに項垂れる俺を、シャルは笑顔で見つめてきた。

「ふふーん、これでクロト兄に対してなんでもO☆NE☆GA☆Iで

きるね〜」

「お、おう……(何だろう、とてつもなく嫌な予感しかしない)」

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 俺は何をされるのかわからない恐怖心のまま、笑顔のシャルを見続

けるのだった。

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Episode14 最低だな

 「はぁ、」

 俺は今、とてつもなくため息を付きたくなってきた。目の前には

鏡、後ろにはにっこりと笑うシャル。ここまではまだ健全な内容だろ

う。うん、間違いない。問題は場所、そして俺たち二人の格好だ。

「やっぱり、クロト兄のって大っきいよね〜////」

「読者に間違われるような事を言うんじゃないよ!!しかも照れながら

言うな!!」

「ほら動かないで!!ちゃんとできないでしょ」

 はい、読者の方々、スゴいメタい話だが、ここでどうしてこうなっ

たかを回想しよう。

 まず俺とシャルは模擬戦をした。そこで一種の賭けをした。そこ

までは今までの話を読んでくれていれば分かるだろう。

 そして俺はあと一歩のところで負けた。そこまでは至って普通だ

し、賭けに負けたんだから四の五の言うのは男としてみっともないか

らできない。それを知ってか知らずか、シャルはある命令をしてき

た。それは

             

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      今・

日・

残・

り・

の・

時・

間・

だ・

け・

、・

絶・

対・

、・

ず・

っ・

と・

一・

緒・

に・

行・

動・

し・

ろ・

 

というものだっ

た。聞いたときはそれぐらいならという軽い気持ちで請け負ったの

シ・

ャ・

ワ・

ー・

ル・

が後の祭り、今現在、その権限を行使され、俺はシャルに

ー・

ム・

へと連行されてしまったのだ。

 流石にマズいと抗議したのだが、ずっと一緒に行動することを承諾

したよね?と迫られ為す術なく、現在俺はシャルに背中を洗っても

らってる真っ最中である。うん、静まれ煩悩待ったなしな状況だ。

 ちなみにさっきのシャルの台詞は「クロト兄の(背中)って大っき

いよね〜////」と「ちゃんと(洗うことが)できないでしょ」、だ。

別に疚しいことをしてるつもりはないからな、本当だからな!!

「しかしシャルさん?体を洗ってくれるのは嬉しいのですけど、背中

に当たってるんですけど?」

「当ててるんだよ〜クロト兄////」

 うん、この作品はR─18じゃないぞ。なんでこんな状況になって

るのさ!!なんでさ!!

 セルフ突っ込みは内心に空しく響くだけで、ギコチないながらも一

生懸命に体を洗ってくれるシャルを鏡越しに見ないように気を付け

る俺だった。

(…………発育が良すぎるのも考えものだな)

 どこがと思ったやつ、とりあえずサテキャ3発ぐらい打ち込んでや

るから目の前に出なさい。

 「今度は料理、か」

 生殺しの一時間を終えた俺は、今度はシャルと共にキッチンへと来

ていた。

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「うん!!クロト兄の料理って美味しいから、作り方教えてもらおうか

な〜って」

「別にそんなんじゃねぇよ。俺より美味しい料理作れる奴なんてごろ

ごろといるだろ」

 俺の平然といい放った言葉に、シャルは引き攣った笑みを浮かべて

る。

(どこの世界に、二ツ星は確定なレベルの料理を作れる十代が居るの

さ)

  ────────日本

「は、はっくしゅん!!」

「ん?どうしたんだ一夏兄さん」

「どこかで噂をされたような気が…………気のせいか?」

「とりあえず、兄貴は料理に集中してろって、妹の勉強は俺がきっちり

と見るから」

「ぶー!!ぶー!!」

  ────────フランス

「それで、覚えたいのってなんだ?」

「ブイヤベースだよ!!クロト兄の料理の中でも特に美味しいんだもん

!!」

「へいへい」

 俺は言われた通り、得意料理の一つであるブイヤベースの食材を調

理していく。魚介類、スパイス、トマトをベースに作っていき、そし

て隠し味に──

「トマトジュース?」

「そ、トマトだけじゃ少し味が尖ってる時があるし、それに余計な調味

料を使わなくて棲む、何より魚介の味を引き立ててくれるんだ」

 そういって味を確認しながら少しずつトマトジュースを加えなが

ら煮詰めていき、そして

「ほい完成!!」

70

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 見た目も鮮やかな特製のブイヤベースが完成する。さらにパンと

バターをテーブルに置けば、夕飯にピッタリなメニューの出来上がり

だ。

 さらに時を見計らったように父さんもやって来て、テーブルに座っ

た。

「それじゃあ、いただきます!!」

「おう!!召し上がれ」

「いただきます」

 食事の挨拶を交わし、俺たちはテーブルの料理を口に入れる。そこ

からは、ゆっくりとした家族の時間が流れ、家には笑い声が響くの

だった。

 「さて、今日という日も終わりに近づいてる訳なのですがシャルロッ

トさん?」

「どうかしたの?」

「どうして私はシャルの部屋のベットに居るのでしょうか?」

 食後、自分の部屋に戻ろうとした所をシャルに捕まり、今に至る俺

は、シャルに今日何度目かの質問を投げ掛ける。

「今日はずっと一緒にって言ったでしょ?だから寝るときも一緒にだ

よ」

「サイデスカ……ハイ」

 もう完全に諦め、俺はベットに横になる。そしてシャルも抱きつく

ようにベットに横たわる。

「…………クロト兄?まだ起きてる」

「…………おう」

 半分寝かけてる時、彼女がか細く聞いてくる。

「私、今日楽しかったよ。久しぶりにお兄ちゃんとふざけて、料理し

て、笑って、ホントに楽しかった」

「…………毎日続くさ、これからは……いや、これからもな」

「そうだね……」

 彼女は微笑と共に俺の服を摘まむ。

71

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「……私ね、お兄ちゃんのことが好きだよ」

「俺もだよ、シャル。家族として、妹として、大好きさ」

「…………ううん、私の好きは、違うんだよ」

 そういった途端、シャルは再び抱き締めるように俺の背中に手を回

す。

「……私ね、お兄ちゃんの事を、一人の女の子として好きなんだ」

「…………冗談は」

「冗談じゃないよ。私は本気でお兄ちゃんの事が一人の女の子として

大好きなの」

 シャルの声音は、全くもって真剣すぎて、俺は何にも言えなくなっ

た。

「こんな気持ち、抱いちゃダメなのはわかってる。けどね、心はそう

じゃないんだ。クロト兄に触れたり、喋ったり、見たりするだけで、私

ドキッとしちゃうの」

「…………」

「束さんにも言われたんだ。私はお兄ちゃんに恋してる。許されない

恋をしてるって、わかってるよ。そんなこと、思っちゃダメだって」

「シャル…………お前」

「だから、今日だけは…………一緒に寝よう?そしたら、もうこんな気

持ちにならないで済むから」

「…………そうか」

 俺は何も言えなかった。シャルの兄として転生した時から薄々は

感じていたそれが、今まさに起きてしまったということに、心が追い

付いていかなかった。

 シャルを原作とは違った形で助けてしまえば、いずれこうなってし

まうと、わかってはいた。けど────

(……最低だな)

 その独り言は、誰に言ったのか、自分に言ったのか、それとも、自

分に転生という機会を与えた神に言えば良いのか、知るものは誰にも

いない。

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Episode15 襲撃

  ────あれから、また暫く時間が過ぎた。

 時は3月中旬、原作開始がちょうど一年後となった今日、俺とシャ

ルはISヨーロッパコンペの発表会に来ていた。

「す、凄いね、クロト兄」

「まぁな、イギリスやドイツ、イタリアやスペインっていったIS関連

のトップやその機体のテストパイロット、さらにはその婦人なども来

てるくらいの大イベントだからな。これくらいは常識の範囲内だよ」

 少し緊張ぎみのシャルに、俺は落ち着かせるように言った。

 あの日以来、シャルがあんな過激なスキンシップをすることはなく

なったけど、それでも俺たちの関係が少しだけ、ギクシャクしてるの

は誰が見ても明らかだった。

 多分、父さんもそれが分かってて今回、俺がシャルの護衛役として

同行させたんだろう。

(しかし、やっぱりというか……)

 俺やシャルも当然だが、誰も彼も、皆がドレスアップしているのに、

その全員が自分の私利私欲を心のうちに持ってることを考えると、少

しだけため息を付きたくなる。

「…………少し、よろしくて?」

「ん?」

 突然声をかけられて振り返ると、そこにはモデルかと思うほどに綺

麗なブロンドのふわりとしたロングヘアーに、自己主張するような女

性特有の部分、そして少しタレ目の少女が声をかけてくる。

「えっと、確かセシリア・オルコット嬢でよろしかったですか?オル

コット家ご息女にして現当主の?」

「まぁ、男の癖によく覚えていらっしゃることですわね。少しだけ誉

めて差し上げます」

「ええ、最近イギリスの方で貴女が代表候補生になったと、父、カルロ

ス・F・デュノアが申しておりましたから」

 彼女の言い方に少しイラっとしながらも、父さん達から叩き込まれ

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た営業スマイルを崩さずに話す。

「デュノア…………ということは、あなた方がフリーデン・ファクト

リーの方でよろしいのですか?」

「はい、自分はクロト・F・デュノア、こっちが妹のシャルロット・F・

デュノアです」

「はじめまして、セシリアさん。私はシャルロット・F・デュノアって

いいます」

「妹…………なるほど、あなた方がフリーデン社が誇るツートップと

いうわけですか」

「「ツートップ?」」

 俺たちは訳がわからずに、セシリアにどういうことか聞いてみる。

「ヨーロッパのIS連盟の各国では有名ですわよ。まだ学生にしてフ

リーデン社の第三世代システム『ウィザードシステム』を開発した双

子の兄と、そのシステムを遺憾なく使いこなして、尚且つシミュレー

ションとはいえ、世界大会の三回戦までは無傷で勝ったという双子の

妹、と」

「そんな風に…………」

 確かにウィザードシステムというか元ネタのストライカーシステ

ムを提案したのは俺だけど、それも結局のところ、技術者達みんなの

努力のおかげだと思ってる。

 シャルの方も、偶々一回だけ仮想のランダムマッチングして一回だ

けそこまで戦えただけなのに、そこまで言われるのは驚きだった。

「ところで、聞いたところによりますけど、フリーデン・ファクトリー

のウィザードシステムの中には、有線式のBT兵器を開発した、と聞

きましたけど」

「あー、それは一応企業秘密ですので、詳細は模擬線の時にでも、ご自

分で拝見なさった方がよろしいのでは?」

「まぁ……それもそうですわね。しかしいったいどうやって有線式B

T兵器を作ったのか、そこは少し疑問に残りますけど」

 なかなか食い下がる彼女に、原作でのチョロさをイメージしてた俺

は少しだけ見直した。

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「別にそんな凄いことでもありませんよ。BT兵器は詰まる所、IS

のイメージインターフェイスを利用した無線型自動追尾兵器、でした

よね?」

「ええ、よくご存じのようですわね。今までの男の方とはやはりどこ

か違いますわね」

「お褒めにいただきありがとうござ──二人とも伏せて!!」

 俺はシャルとセシリアを無理矢理に伏せさせる。途端にそれは起

こった。

 突如、複数のISが会場を襲ってきたのだ。しかも機体はどれも

『ラファール』、『テンペスタ』といった、世界シェアで有名な機体ばか

りだ。

「く!!二人とも怪我は!!」

「私は大丈夫ですわ。シャルロットさんも」

「それよりあいつらは?こんなところを襲うなんて、正気の沙汰じゃ

ないよ」

 二人の無事を確認すると、俺はそれぞれを連れて非常経路へと入

り、とにかく出口へ向けて走る。

亡国機業

ファントム・タスク

「恐らくありゃ『

』だな」

「『亡国機業』?」

「なんですの?それは」

 二人は分からないと首を傾げるが、まぁそれも無理はない。

「ここ最近、各国でISを使った盗難、テロを起こす連中だ。恐らくあ

れも裏ルートで手に入れたISだろう」

「よ、よくご存じですのね」

「父さんからシャルの護衛に着かされた時に聞いたのさ。まさか本当

にここを襲撃してくるとは思ってもみなかったけどな」

「ク、クロト兄は知ってたの!!ここが襲われるって」

 シャルは驚いたように聞いてくるが、俺とセシリアは少し呆れてい

た。

「シャルロットさん、ここはISのコンペディションを目的とした催

しですのよ。つまり各国の最新型のISや、さらには各国政府の要人

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も来ます」

「そんなところ、テロ屋が狙わない訳がない。寧ろ狙わないならド三

流にも等しいからな」

 それに騒ぎに乗じてISパイロットを殺せば、コアとしさIS、そ

の両方を奪うことが出来る。こんな突然の襲撃だ、何もできずに殺さ

れたパイロットもいるだろうから尚更だ。

「セシリア、お前連れは?」

「チェルシー……専属のメイドが外の車で待ってますわ!!後の方々は

要人関連でしたので」

「そうか、済まない」

 俺は軽く彼女に詫びを入れる。既に俺たちはあと一回曲がれば出

口というところまで来ていた。

「よし、もうすぐ──!!」

 俺は不自然な殺気に気付き、二人を手で征する。二人も何かあった

のを考えてか、壁に張り付いて息を殺す。

(二人とも、絶対にこの場を動くなよ?)

((わかりましたわ(わかった)))

 俺は聞かれない程度に合図すると、壁ギリギリで奥を見る。

 そこには一人の女がいた。ブロンドをカールさせた髪をしたそい

つは、まるで何かを狙ってるかのように出口の側に立っている。

「…………ふぅ、そこの坊や達、バレてるから出てきなさい」

「「「!!」」」

 俺たちは驚いた。俺の視線に気づくだけならまだしも、隠れて気配

を消してたシャルとセシリアにも気づくとは思いもしなかった。

「あんた、いったい何もんだ」

 俺は姿を隠したまま、奴に聞こえるように口にする。

「そうね……良いわ、名乗っておいてあげる

    

76

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元・

 私の名前はスコール・ミューセル。『

亡国機業』幹部の一人よ」

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Episode16 亡国機業

 「元……亡国機業だと?」

 俺は奴の言葉に驚きながら聞き返す。

「そうよ。今はMs.シノノノの直属の部下として行動してるわ」

「ウサギのだと!!」

 俺はあり得ないと思いつつ、シャルにウサギへの連絡を頼む。そし

て数十秒経たないくらいに連絡が来る。

「束さんからも、自分直属の部下だって言ってるみたい」

「マジかよ……あの変態ウサギめ」

「ちょ、お待ちになってください!!束?それはISを産み出した篠ノ

之束博士ですわよね!!いったいどういう繋がりを!!」

 セシリアが訳がわからないように聞いてくる。まぁ確かに、こんな

こと知ったらこうなるのは当然か。

「……とりあえず三人とも、今は急を要する事態よ。私に着いてきて」

「お、おう」

 俺はとりあえず彼女の前に出て危険が無いかを確認し、二人を先に

行かせる。

「坊や、君も早く!!」

「わかってるよ。けど、その前にやることがあるだろ?」

 俺は警護の際に念のために支給されていたプラスチック爆弾を壁

に二つほど、90秒後にタイマーをセットする。

 それの起動を確認すると、俺はすぐに彼女達の方向へ走る。そして

ドアを出て数十秒ぐらい経って爆発し、壁が崩壊。瓦礫で進路を塞い

でしまった。

「あなた、随分と手慣れた扱いだったわね」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!あの瓦礫だって、ISが

来たら何分と保つか分かったもんじゃないんだからよ!!」

 俺はそう言って国道方面へと走り出す。と、そこに大きめのリムジ

ンが2台やって来る。

「セシリアお嬢様!!」

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「チェルシー!!無事でしたのね!!」

 どうやらセシリアの専属メイドであるチェルシーさんが運転する

リムジンが一つ、そして、

「悪いわね、オータム」

「良いってことよスコール。とりあえずここは危ねぇから、さっさと

嬢ちゃん達を乗せな!!」

「オ、オータム!?」

 これまたビックリ、原作で白式のコアを盗もうとしたオータムまで

も、まさか運転手として現れたのだった。

「セシリア、とりあえずここはそれぞれが別れて脱出することにしよ

う」

「…………無事に戻れたなら、10時間後に此方からフリーデン社の

方へ連絡させて貰いますわ」

「いや、別にISの通信回線使えば分かるだr「ISは携帯ではありま

せんのよ!!」……はい、すみませんでした」

 俺氏、産まれて(転生前も含めて)始めて台詞の途中に割り込まれ

たし。しかもウサギとか変態の部類じゃなくてチョロイ…………も

といセシリアにという、少しだけ悲しい事態に陥った。

「ともかく、此方から連絡いたしますので、きっちりご返事をください

な!!」

「セシリア嬢がメアドをちゃんと残しておいてくれてればな」

 俺がにべもなくそういうと、憤慨しながらセシリアは暴れていた

が、チェルシーさんに宥められてリムジンに乗せられる。

 そしてセシリアを乗せたリムジンはすぐさま会場駐車場を後にし、

すぐに見えなくなってしまった。

「とりあえず俺たちも……って訳にはいかないようだな」

 俺はため息を付きながら振り返ると、既にあの瓦礫を突破してきた

機体や、さらには上空から現れたIS、総計13機もの敵が現れてき

た。

『そちらのISを寄越せ!!さもなければこちらは武力を用いてでも奪

わせてもらう!!』

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 なんともお約束の台詞を吐く敵さんにため息を付きながら、

「はぁ……仕方ない、やるぞシャル」

「了解!!」

 シャルが自分の機体、『ラファール・イノベイク V・C』を展開し、

そして俺も、

「いくぞ、ルナーク!!」

『な!!男がISを!!』

 やはりというか、俺がISを展開しただけで驚かれている。

「やれやれ、それじゃあ私たちも戦う他ないようね、オータム?」

「いいぜ、スコール!!私も久々に戦いたくてうずうずしてたんだ!!」

 そしてスコール、さらにオータムもリムジンから降りて機体を展開

……って、

「な!?」

 スコールのそれは、まるで巨人のような黄色のボディーに、特徴的

な手持ちのライフル、さらに特徴的な角のような兜を持ったそれは、

『Zガンダム』に出てきた『ジ・O』のフォルムと酷似していた。

 さらにオータムの方は、白と紫のフレームに掌のような4対8本の

非固定ユニットの鉤爪、さらにアサルトライフル型の銃を持ったその

姿は、まさしく『Gのレコンギスタ』に出てくる『ジャイオーン』に

これまたそっくりだった。

「へ?は?嘘だろ!?」

「何を驚いてんだ?私にとっては男のお前がIS動かしてる方がビッ

クリなんだが?」

「い、いや…………(どういうことだ?スコールの本来の機体は『ゴー

ルデン・ドーン』、オータムは『アラクネ』だったはず……いったいど

うしてガンダムの機体を専用機にしてるんだ?)」

 俺は驚きながらも平静を保とうとする。とりあえず敵の方を向き、

自分の機体のサーベルを抜く。

『ち、たかがIS4機だ!?さっさと奪っちまうよ!!』

『そ、そうね!!あっちが元幹部いるからって、私たちには数があるし

!!』

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「やれやれ、私達が居なくなっただけで亡国機業も堕ちたものね……」

「こりゃ、私達がどんなに強かったか、再教育してやらねぇとな!!」

 オータムはポキポキと拳を鳴らしながら、さらに首をコキコキと鳴

らしてる。顔の怖さも相まってなおのこと恐い……って、こっちに

サーベル向けないでくれません!!

「なんか失礼なこと考えてそうだからな」

「普通に心読むのやめて!!」

『アンタら……いい加減にしなよ!!この状況をわかってるのかい!!』

 怒り心頭の敵が、全くもって緊張感の欠片もない俺たちに叫んでく

る。すでに機体数は30近くおり、完全に囲まれていた。

「うちの『リヴァイブ』にイタリアの『テンペスタ』、日本の『打鉄』に、

はたまた『メイルシュトロム』まで、か。全くISなら見境なしかい」

「これじゃ、女権のやつらと大差ねぇじゃねぇか。……まあ今はどっ

ちも同じか」

「とりあえず、一人頭7〜8って感じですね」

 呆れる大人二人に、シャルが冷静に分析する。

「そんじゃ、お仕事といたしますかね」

 俺もディバイダーとビームサーベル構えて首を回す。久々の実戦

に、少しだけ心が踊っていた。

「あ、坊や。ウサギから連絡預かってるよ」

「?ウサギから?」

「『星は予定通り空へと登った』って。どういう意味かしら?」

「……いや、分かったよ」

 そう言って俺は装備を『Xパック』へと換装した。さらに『002

4モデル』も展開し、再びシールドを構える。

「さて、ここからがこいつの……ルナークの本当の初舞台だ。景気よ

く行こうか!!」

 俺は叫び、スラスターを吹かせて敵めがけて突っ込むのだった。

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Episode17 月が見えた

  スコール視点

「はてさて、選り取り見取りといったところだが……」

 それぞれ別の方向へ別れた私は、とりあえずライフルを構えて敵を

見る。

(『リヴァイブ』が3体、『テンペスタ』、『打鉄』が二体ずつか……)

 しかも厄介なことに、リヴァイブはどれもがアサルトカノンを装備

した遠距離型、テンペスタはアサルトライフルの中距離、打鉄は言わ

ずもがな、ブレードを装備した近距離型と、随分とバランスの取れた

布陣だった。

「まったく…………腐っても亡国機業ね」

『元幹部のアンタに言われると嬉しいんですが、戻っては来てくれな

いんでしょ?』

 私の呟きに、亡国機業の一人が確認するように言ってくる。

「当然ね。そんなことより、そっちの方こそ弾とかは大丈夫なのかし

ら?」

 私は不敵な笑みと共に彼女達に聞き返す。こちらは弾やエネル

ギーはほぼ満タン、対して彼女達は襲撃の際にエネルギーやら弾を多

かれ少なかれ消費してる状況、さらにはSEだってそれなりに減って

る可能性だってある。

『敵の心配なんてね、すぐに後悔させてあげるわ!!』

 その言葉と共に、打鉄の二人がいっせいに、しかも左右反対から攻

めてくる。それも上段と下段のそれぞれでだ。普通の人間なら、片方

は止められても、どうしても片方は防ぐことはできない、が、私は

ちょっと違った。

「ふぅ!!」

 上段からくるブレードを、ビームサーベルで受け止める。流石は日

本の技術というか、近距離用ブレードはビームサーベルの熱に溶ける

ことなく、堂々と鍔迫り合いをしている。

『もらった!!』

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 が、当然ながら下段の方が残ってる。絶対防御があるとはいえ、さ

すがの近距離、普通に食らえば一発でかなり持っていかれるだろう。

普・

通・

な・

ら・

ば・

「甘いんだよ、小娘!!」

 私は機体のレッグスカートのあるものを展開し、ブレードを止め

た。それどころか寧ろ蹴りをいれて吹き飛ばす。

『な!!』

『隠し腕だと!!』

 それは隠し腕……補助アームと呼ばれる武装で、簡易なアームと

ビームサーベルがそれには握られている。

「やれやれ、亡国機業なら分かってるとは思ってたんだけどね」

 私は少しだけがっかりしながら彼女達に言葉を走らせる。

「『敵の武器がシンプルな時ほど、特異な技術を持ってる可能性が高

い』、私は抜ける前に何度も口うるさく言ってたはずなんだけどね」

『く!!』

 やられた仲間を見ながら、彼女達は各々の得物を再び構える。

「やれやれ、私とこのIS、『ゴールデン・キング』の肩慣らしになる

か、試してあげるわよ!!」

   オータム視点

「ヒャハハ!!オラオラどうした!!逃げてばっかじゃ勝てねぇぞ!!」

『く!!このぉ!!』

 段幕を射ちながら、アタシは敵に向かって少し派手な八つあ……練

習をしていた。

(ちっ、やっぱりマドカの野郎じゃねぇからBT系の動きが悪いな

……)

 元々、アタシにはBT適正は殆どない。こうして動かせているの

は、単にマドカに別れる前、少しだけ恥を忍んで頼んだからだ。それ

がなかったらこんな機体を扱いきれなかっただろう。

(ま、マドカのやつに貸せって言われても貸すつもりはねぇけどな)

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 今はすでに裏抜けしたうちらの妹分の事を思い出しながら、アタシ

は逃げようとする機体をサーベルで推進機関だけを切り裂く。

「ほらほら!!アタシと、この『アリアドネ』の餌になりたくなかったら、

無様に踊っりやがれぇ!!」

 大型のビームサーベルを4本構え、さらに6本のティアーズを宙に

浮かべ、私は高らかに宣言するのだった。

  シャル視点

「なんか、前回も今回も、凄く影薄かったよ……私」

 私はため息を吐きながら凄い勢いで落ち込んだ。

 まぁそりゃね、クロト兄と一緒に寝ちゃった話がその前にあったか

ら、仕方ないとは思うんだけどね、それでもやっぱり影薄くなっ

ちゃってるよね……トホホ。

「……まぁ、でも」

 私はとりあえず、掴んでいたISをギリギリとこれでもかとクロー

を締め上げる。腹部にちょうど挟んでたから、相手はまるで蟹のハサ

ミに挟まってる状況だ。

「こういうときは、こんなお邪魔な人達をストレスの捌け口にすれば

いいんだよね〜」

『や、やめて!!もうSEが、SEが0になっちゃうわよ!!』

「ふふふ、貴女達は運が悪かっただけだよ。僕たちが相手じゃなかっ

たら、もっと長くは生き延びれたもんね〜」

 締めるクローの強さをさらにあげる。やがてSEの抵抗感は一切

無くなり、そして、

「えい♪」

『いやぁぁぁぁぁ!』

 ブチャ、そう聞こえるような音と共に、パイロットだった女の人の

体が上から下から真っ二つに裂けちゃった。

 驚愕の顔のまま息絶えたそれを、私は無造作に放り捨てる。息しな

いISを纏った肉塊をちょっと眺めるだけながめ、

「あーあ、こんな簡単に壊れちゃったら、ストレス解消にならないよ

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〜」

 さて次は、と探してみるが、既にこっちに回ってきた敵は全て真っ

二つになっており、辺りはまさしく血だらけだった。

「もう、ちょっとリミッター外したらこれなんて、も少し歯ごたえ欲し

かったよ〜」

 その言葉は誰に言ったのかは分からない、けど、私のなかに少しだ

け虚しい気持ちが残るだけだった。そして思った。

 私は、もしかしたら既に、あのときから既に狂わされていたのでは

ないか、と。

  クロト視点

「よし、これでおおかた終了っと」

 とりあえず、倒した敵を縄で縛っていた俺は、それぞれの戦況を見

渡す。

(シャルは全員潰しちまった……こっちと、もと幹部側の二人のとこ

ろは三、四人ぐらいずつ離脱されたか)

 正直、シャルがあそこまで暴走するとは思ってなかったが、まぁ話

の限り、リミッターを少し外したらしいから仕方ないと言えば仕方が

ない。

「さて、と……俺も準備しますかね……」

 俺は再びISを展開する。そして俺はホロモニターを展開し、ある

ことを確認した。

「…………よし、いけるな」

「……アンタがまさかあの『月下銃士』だったとわね」

 俺が満足そうに頷くと、捕虜状態の女一人が聞いてくる。

「まぁね。でもあと一年くらい内緒にしててくれれば、俺はお前らに

何かするつもりは無いけどな」

「……ふん、どうせ捕まったのよ?ブタ箱でもなんにでも送っちゃえ

ば良いでしょうが」

 女は拗ねたようにそういう。

「まぁお前が、離脱した味方守りたくて話しかけてきたことは分かっ

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た」

「ふん、分かってて受けるなら本当のバカね。まだ空中だろうけど、既

に味方は貴女達の射撃の範囲外から抜けてるのよ」

 女は笑うようにそういった。

「貴方は強いのかも知れないけど、それでも貴方の射程は数十メート

ル前後!!どうやったって私達の──」

「…………知ってるか?奥の手ってのは、最後まで隠しておくもの

だって」

 女はへ?とでも言いたいような面をしてこちらを見つめる。そし

バ・

ッ・

ク・

パ・

ッ・

ク・

の・

リ・

フ・

レ・

ク・

タ・

ー・

を・

ま・

さ・

し・

く・『・

X・

字・

』・

に・

展・

開・

し・

た・

て俺は、

「サテライトシステム起動…………受信コード『BATEN』を入力

……システム、オールグリーン……」

「な、なんだ、何をするって言うんだ!!お前は」

 女は驚き、恐怖し、訳がわからず聞いてくるが、俺はそれを無視し、

天高く舞い上がった。丁度月が空へと浮かぼうとしていて、俺の顔は

笑みが溢れる。

月・

が・

見・

え・

た・

「さぁ、

!!」

 俺は右肩の砲身のグリップを握る。そして狙ったように宇宙から

一本の光の筋が流れ、胸部のユニットに当たり、染み込んでいく。

 それと共にリフレクターは銀色に光輝き、機体全体も白く光ってい

る。

「『サテライトキャノン』…………フルバースト!!」

 その言葉と共に、俺は引き金を引いた。

   ???視点

「く、私達が!!くそ!!」

 仲間の一人が吐き捨てるように怒鳴り散らす。回りには既に、あれ

だけいた仲間が10数人程度まで落ち込んでいる。

「まだよ、私たちには、奪った機体を本部に届けるという任務があるの

だから」

86

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「そうね、機体さえあれば、あとはどうにでも──」

 そのときだった。後方からロックされたと機体がアラートを鳴ら

す。慌ててモニターで確認してみると、そこには一度噂になった『月

下銃士』が銃口を構えてこちらを向いていた。

「は、やけにでもなったのか!?あんな距離じゃ射ったって当たるわけ

ねぇだろ!!」

 仲間の一人がそういう。確かに普通に考えれば当たるわけがない。

そのはずだ、なのに、どうしてだろう、私の体はがくがくと震えてい

た。

 モニターには依然としてこちらをやつがロックしてる。次第にど

ういうわけか機体が白く輝き、砲口もどういうわけか白くなって……

 そして驚愕した。私の震えは間違いではなかったからだ。なぜな

ら、

                  

87

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   機・

体・

エ・

ネ・

ル・

ギ・

ー・

を・

凌・

駕・

す・

る・

ほ・

ど・

の・

高・

出・

力・

の・

巨・

大・

ビ・

ー・

ム・

が・

私・

 

、それも

た・

ち・

全・

員・

を・

飲・

み・

込・

む・

に・

は・

充・

分・

す・

ぎ・

る・

ほ・

ど・

巨・

大・

な・

そ・

れ・

が・

迫・

っ・

て・

き・

た・

らだ。

「あ、ああ……」

 全員、逃げようと思った。が、体は言うことを聞かない、動きたく

ても、まるで石になったように固くなってしまったからだ。

「い、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 私達が最後に言えたのは、そんな恐怖からの言葉だけだった。

 機体の外装が飛び、フレームが消え、SEも消滅し、そして、私た

ちの存在さえ居なくなった。

88

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Episode18 ガミル・ローラン

 「ふぅ、目標完全鎮圧っと」

 砲身から未だに出る煙を息で飛ばしながら、俺は射ち落とし……も

とい、消滅させたやつらの方向をセンサーで確認する。

「な、なんなのよ……あの砲撃は……」

 捕虜の女がたまらずに聞いてくる。彼女の他にもオータムもポ

カーンと口を広げ、スコールは天を仰ぐようにして、シャルはシャル

で俺の砲撃を見て寧ろ目をキラキラとさせてる。

衛・

星・

を・

軽・

く・

破・

壊・

す・

る・

だ・

け・

の・

威・

力・

「……サテライトキャノン、文字通り

を・

持・

つ・

砲・

身・

に・

し・

て・

、・

俺・

の・

機・

体・

の・

最・

終・

兵・

器・

だ」 

「な!?」

 女は絶句する。当然だ、こんな兵器、ISの能力を遥かに凌駕して

る。あのウサギでさえ、こんな武装は簡単に造ることなんて出来ない

だろう。

「そんな……そんなISと戦うなんて……自殺行為じゃないの!!」

「…………」

 脅えるように言ってるが、内心、そうでもないと一人ごちる。

 というのもこの機体、これさえ決まれば大抵なら勝負がつくが、そ

れと同時に、これがなかったらただビームライフルとビームサーベル

もった初期のガンダムと同じなのだ。

 しかも、一発射つのにちょっとした溜めの時間がいる上に、射って

る最中は身動きひとつ取れない、体をずらすくらいならまだなんとで

もなるが、それ以外、防御なんてもちろん、ビームサーベルで自衛す

ることすらできないのだ。

 オマケに月……サテライトシステムの特殊レーザーを受信しない

と射てないという欠点すらあるが、今回は少しだけ裏技を使った事で

何とかなった。

 この点からも、『GX』や『DX』は人気はそれなりなのに、原作再

現しすぎてゲームでは使いにくい機体の位置付けに収まってしまっ

ているのだ。もっとも、生前やっていたゲームではGXは基本的に

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ディバイダーだったし、DXも支援機と変形した姿の方が優秀だった

ので、基本的にこのサテライトキャノンはお蔵入り武装にしてる面々

も多いという話も少なくなかった。

「……ま、とりあえずなんだ、アンタらは大人しく捕まっておいてくれ

ないか?」

 俺は展開していたリフレクターと砲身を収納し、陸地に降りてそう

問いかける。女達は当然のように頭を上下させ、中には自分の機体と

奪ったものをこっちに渡してくるのもいた。まぁもちろん、丁重に機

体を解析したあと、持ち主の国に変換するけどね。

「さて、と……」

 ISをしまい体を少し伸ばしたら、俺は手持ちの携帯である番号に

連絡する。

『…………こちらFBI特殊犯罪捜査部のガミルだ』

「お久し振りです、ガミルさん。今大丈夫ですか」

 相手は前にシャル誘拐事件の時に知り合ったガミル・ローランとい

う人だった。なんと顔の見た目がサングラスと傷がないジャミルさ

んという風貌で、初めてあった時は心底驚いたものだ。

『その声はクロトか!!そっちの状況は!!いったいどうなってる!!』

「落ち着いて下さい。とりあえず事情を説明するので、何人かFBI

所属の捜査員をこっちに呼んできてくれませんか」

『分かった。俺も何とか急いで向かうから、少なくともFBIのIS

鎮圧部隊が到着するあと15分はその場で待機しててくれ。俺もも

うすぐそっちに着くからよ』

   そしてきっかり15分後、FBI所属のIS機動部隊が到着した。

俺たちは捕虜にした女達と、さらにIS(最新鋭機以外)を引き渡す。

 それらの一連が終わると、ちょうどガミルさんも車でこっちへ来た

ようで、俺たちを見て手を振る。

「久しぶりだなクロト。もう3ヶ月以上経つのか」

「ええ、ガミルさんもおかわりないようで」

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 俺達は互いに社交辞令の後に少し笑いあう。

「しかし今回の襲撃……やはり目的はISか?」

「そうみたいですね。うちのシャルも危なく殺される所でしたよ」

「ふむ……で、お前は最新鋭の機体をいつまでちょろまかしてるつも

りなんだ?」

 どうやらこの御仁は俺が最新機だけ提出しなかった事を知ってる

ようだった。

「なんの事ですか?俺はちゃんと渡しましたよ?あいつらが使ってた

機体と奪われた奴は」

「ダウトだ。頭のなかで何を考えてるのか分からない奴は、大抵自分

力・

を・

持・

っ・

て・

る・

の・

が有利になるように進めたがる。特にお前みたいに、

に・

隠・

し・

て・

る・

奴・

は尚更だ」

「…………はぁ、どこからお見通しなんですか?」

 俺は呆れるように聞き返す。この人にはどうやら俺の手札を知り

尽くしてるみたいだ。

「ん〜、シャルの嬢ちゃんのために篠ノ之束が連絡してきた時からだ

な。あの他人を全く信用しない変人天災が他人のために行動すると

なると、それなりに興味がある出来事がない限り有り得ないからな」

「ごもっともで……」

 仕方なく、俺は懐から回収した第三世代機をガミルさんに引き渡

す。

「これが第三世代機ね〜」

「どこの所属かは分からないので、そこはそちらでお願いします」

「おう…………ところでよ、さっきの砲撃もお前さんなんだろ?」

 ガミルさんは疑うように聞いてくる。まぁあれだけ高出力のビー

ム射ったなら、否が応でもバレるに違いない。

「…………今騒ぎになりたくないんで、とりあえず黙ってて貰えれば

幸いなんですけど……」

男・

が・

I・

S・

動・

か・

し・

て・

る・

「まぁ最初期の機体とはいえ、

となればな、しかも

フ・

リ・

ー・

デ・

ン・

社・

お・

抱・

え・

の・

専・

属・

テ・

ス・

ト・

パ・

イ・

ロ・

ッ・

ト・

なんて、口が裂けても言

える分けねぇか」

91

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 ほんとこの人何者なんだ?、俺は転生した時に貰った頭脳をフル回

転して考えるが、途中で諦めた。

「……ま、バレないように程ほどに頑張っては見るさ。あんまりあの

派手なビーム射たなければな」

「……次からは気を付けます」

 俺が素直にそう言うと、ガミルさんは仕事の顔に切り替えてドーム

内へ入っていった。

 翌日、ヨーロッパ各第三世代試作ISのパイロット約30名、企業

幹部及び政府重役150以上が死亡するというニュースがテレビに

流れることになったのだった。

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Episode19 オータム

 「……で、結局のところ教えてもらおうかウサギィ?」

「いや怖い、顔が物凄く怖いよクーくん……」

 あの後、数時間以上にも及ぶ取り調べを終えて会社に戻ってきた俺

は、少しばかりウサギとO☆HA☆NA☆SHIをしていた。

「いったいどこがどうしてどうなったら、元だか何だか分からねぇけ

ど、亡国機業の幹部を部下にしてるんですか?しかも俺らにそのこと

を何も言ってなかったですよね?」

「アハハ……言わなきゃダメ?」

「……シャル、リミッター全解除しても良いぞ」

「え?クロト兄良いの?ホントに?」

「ちょ、ちょっと!!それはマズイって!!私の体が真っ二つどころか肉

塊になっちゃうよ!!」

 ウサギは大慌てで縋り付いてくる。

「え〜、束さん、折角ボクと楽しめると思ったのにな〜」

「シャルちゃん目が座ってるから!!ていうか一人称が変わってるよね

!?」

「束さ〜ん、一緒に遊ぼうよ〜!!ボクもベルフェも疼いて疼いて……」

「イーヤー!!私がシャルちゃんに頂かれちゃうぅ!!クーくんヘルプ!!

ヘルプゥ!!」

 シャルの顔を見たら、目からハイライトが消え、顔色は真っ黒、し

かも怪しい笑みをしていて……

「ヒィ!!」

 俺は溜まらずウサギを引き剥がしてシャルに向かって投げ飛ばす。

「イーヤー!!なんで投げちゃうのクーくん!!」

「大丈夫だウサギ……後で墓穴ぐらいは掘ってやる」

「私死ぬこと前提!?ていうか逃げないでよ!!」

 俺は何も聞こえない。そう思って俺はウサギの研究室から逃げ出

した。

 その日、哀れな一人の研究者の悲鳴と一人の病んだ美少女の喜声

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と、そしてとても派手な爆発音がフリーデン地下に響き渡るのだっ

た。

   「…………ということがありまして、こっちに来た次第です」

「そ、それはヤベェな…………」

「ホントね……」

 地下から一変、社員寮らしき一画へ逃げ込んだ俺は二人の居る部屋

へと上がっていた。

 二人は今さっきの悲劇を聞いて顔を引き攣らせているものの、その

表情はどこか馴れたような雰囲気だった。

「しかしシャルロットだっけ?あの嬢ちゃん?なんか見た目の割にス

ゲェえげつない攻撃ばかりするよな……」

「……俺としては、顔の見た目が怖いオータムさんが、こんなプロ顔負

けのお好み焼きを作ってる方が意外なんですがね」

「見た目が怖いは余計ぇだ!!」

 いや、実際目の前にあるのだから仕方ないよ。キャベツも豚バラも

良い感じに焼けてあるし、粉もパサパサしてなくてふんわりしてる

し、ソースなんか市販でこれか?と突っ込みたいほどの完成度だっ

た。…………見た目が怖いけど。

「フフ、オータムは見た目はちょっとおっかないかもしれないけど、こ

うした料理とか掃除とか、凄く得意なのよ」

「スコール……///」

「おーい、百合モードに入るのはいっこうに良いけど、俺も居るんです

よ〜」

 少しだけ居心地の悪さを感じつつ、目の前のお好み焼きを口にす

る。

「……で、どうしてウサギの部下になんかなってるんですか?」

「ん〜、端的に言えば切り捨てよ、切り捨て」

 スコールは自分のヘラでお好み焼きを口にしつつそう言った。

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「切り捨て?」

「そ、元々は私は地位で言えば三番目くらいの幹部だったんだけどね、

突然変な男にその座を奪われて、しかも部下だったMっていう子を人

体実験に使おうとしてたのよ。たしか、『第一次脳量子力学とISコ

アにおける感応実験』……だったかしら」

「脳量子……それってもしかして!!」

 俺はシャルが誘拐、洗脳された事件の際に見た少女達を思い出し

た。現在フランスの大きな国立病院にて未だ意識不明で入院してい

る彼女達は、ガミルさんの話によると肉体や遺伝子情報に何ら不思議

な事は起こってないが、脳波だけ、まるで全員が一つの個体に集まる

ように、全員が全く同じ波形を永遠と繰り返しているらしい。

 そんな事は素人から見ても絶対にあり得ない。医学の知識を持た

ない俺でも、人間が全員、同じ行動をしたら同じ脳波を出すかと言わ

れたら違うと知っているからだ。それは個人によってばらつきがあ

り、似たような波形になることはあれど全く同じには絶対的にならな

い。

「おそらくクロト、貴方が予想してる事は正しい。恐らく貴方が救い

だした少女達も実験の被験体……モルモットだったはずよ」

「……じゃあ、その脳波はいったい何処に集まってるんだよ」

「流石に私でもそれは分からないわ。私はISパイロットであっても

科学者じゃない。私にできたのは、オータムとMを連れて逃げる事し

かできなかった。今持ってる機体は、私の座を奪った女が開発した機

体をチョロまかして、自分の元の機体と組み合わせただけなの」

「そう……ですか……」

 俺はスコールの話を聞きながら自分のグラスに注がれたドリンク

を口にして、勢いよく吹き出した。

「オ、オータム!!これ烏龍茶じゃなくて烏龍ハイじゃねぇか!!」

「かはは!!気にすんな!!男ならたかが酒の一つや二つ!!」

「自分まだ未成年ですって!!ていうかなんですかこの缶ビールとウィ

スキーボトルの山は!!自分来たときこんなに散らかって無かったで

すよ!!」

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「あ、それの半分は私よ。さっき話ながら飲んでたのよ〜、三本くら

い」

「そんなに飲むなぁ!!」

 俺はツッコミスキルを使いながら散らばっている空き缶と空き瓶

を袋に放り込んでいく。と、

「アヒャヒャ〜!!タァ!!」

「ちょ、オータムさん!!抱きつかないでくださいよ!!当たってる!!当

たってますって!!」

「良いんだよ〜当ててるんだから〜」

「こんな何とも思ってない酔っぱらいに言われるとは思わなかったよ

!!ほら、さっさと離れて……」バシュン!!

 言う前に、彼女の機体『ジャイオーン』……もとい『アリアドネ』の

ファンネルのビームが後ろから耳元すれすれで発射され、目の前の空

き缶五つくらいがそれのせいで消滅した。

  〜数時間後〜

「アハハ!!どうだいどうだい!!アタシが注いだ酒の味わよぉ!!」

「あ、はい、大変美味しいです、はい……」

 俺は泣く泣く、オータムの酒の相手をすることになってしまった。

そりゃ前世では20ちょい過ぎだったし、酒の味はそれとなく知って

るが、まさか転生してから原作始まる前に酒を飲むことになるなど誰

が予想しようものか……。

 ちなみにスコールさんはついさっきシャワールームに行ってし

まった。そのためこの場には俺とオータムさんの二人だけである。

何のお楽しみもあるわけないが。

「アハハ!!それでよォ!!マドカの野郎、アタシが料理作ったところ見

てさ、『人は見かけに依らないものだな』、なんて言いやがったんだぜ

!!そんなにアタシが料理得意で悪いのかっての!!」

「はぁ…………」

「しかもさ、最初アタシが作ったって言わないで食わせてネタバラシ

したらさ、アイツ何も言わずにトイレに行きやがったんだぞ!!アタシ

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が何をしたんだってんだよ!!」

 話を聞いてて解る通り、どうやらオータムはM……もとい織斑マド

カに対する愚痴を延延と言ってきてる。ちなみにこの話は既に五回

目だ。

「オータムさんって、マドカの事を良く見てたんですね」

「そりゃそうだ!!なんたってアイツは私の妹分だからな。マドカって

名前も、実はアタシが着けた奴だし」

「へぇ……」

 意外な事実に、俺は手元のビールをオータムさんのグラスに注ぐ。

「元々アイツは織斑千冬のクローンでよ……Mっていうのはアイツの

クローンとしての番号だった。初めて出会ったのは……アタシ達が

アイツの居た施設を破壊した時だった。当時のアイツはよ、織斑千冬

のクローンのなかで唯一の成功例で、まだ専用機すら持ってなかった

アタシやスコールが、素手とはいえ二人がかりでギリギリ勝てたくら

いの強さだった。ついでにかなり脆かった」

 オータムは自分のビールを飲みながら語るように喋り続ける。

「アタシ達はアイツを連れて帰って、人間らしく振る舞わせようとそ

りゃ必死に頑張ったさ。アイツの生まれが生まれだからよ、戦いなん

かに巻き込みたくなんかなかった、アタシ達みたいなテロリストにな

らないように精一杯努力した……けど、アイツは私たちに負担を掛け

たくないって言って亡国機業に入った」

「そしたら皮肉なもんにアイツは私たちなんかより圧倒的に強かっ

た。昔は二人がかりとはいえ勝てたのに、ナイフ戦でアタシら二人に

無傷で勝ちやがった。恐らくは織斑千冬の細胞のお陰なんだろうけ

どね……」

「そんなこんなでスコールが漸く幹部にまで昇格して、アタシら三人

で部隊を組んで、マドカのやつ仏頂面な癖に顔を赤くして喜んでや

がったよ。多分、今までで一番良い笑顔だった」

「けどあの女にスコールが下ろされて、マドカがモルモットにされそ

うになって、アタシは居てもたってもいらんなかった。実験される前

日に、アタシらは逃げ出した。当てなんか無かった。とにかくアイツ

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らから逃げられるんなら何処にだって逃げた」

「そんな時だよ、あの篠ノ之束と出会ったのは。アイツはアタシらが

亡国機業から逃げてきたのをどういうわけか知ってた。マドカを救

える方法を知ってた。アタシらはそれに頼るしか無かった。……た

とえ離れ離れになると分かっていても……」

 オータムは最後の一滴まで飲み干して、グラスをテーブルに叩きつ

ける。

「それでもよぉ……アイツが……普通の女の子として、普通に平和な

生活を送ってくれる事の方が、アタシにとっては嬉しかった。アイツ

には辛く言っちまったけどよ……アタシゃぁ、マドカが幸せでいてく

れるなら……それで…………」 

 そのままスコールさんは突っ伏すように寝てしまった。顔は酒の

せいで赤く、しかし表情は安らかなほど穏やかだった。

 そして、タイミングを見計らったようにスコールさんがバスローブ

姿で戻ってきて、オータムさんにタオルケットを掛ける。

「…………」

「…………ふふ、意外でしょ。オータム」

「ええ、まぁ、少しは」

「まぁオータムも、元々は戦災孤児だったからかしらね、マドカの事を

ずっと気にしてたのよ……。ホント、似た者同士っていうか……」

 スコールさんはそういうとオータムさんの髪を優しく撫でる。

「表では悪ぶって見えるけど、裏では誰よりも仲間思い、だからこそ、

オータム自身は嫌がってたけど、亡国機業内ではかなりの人望があっ

た……」

「そう……だったんですか……」

「ええ、そうよ。さ、クロト君もシャワー浴びてらっしゃい。バスロー

ブぐらいなら用意しておいてあげるから」

 スコールさんの言葉に従って、俺はシャワールームへと歩いていっ

た。

(現実は小説より奇なり……か……)

 オータムとスコール、原作では敵だった二人の過去を垣間見た気が

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した俺は、フッと少しだけ笑みを浮かべるのだった。

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第三章 日本と事件と……

Episode20 楽しんでいきますか

 「日本に行くぅ?」

 俺は突然の父さんの宣言に面食らって聞き返す。

「なに、私が三週間後に日本のIS企業と会談があってね。ここ最近

色々とバタバタしてたし、今から準備すれば一週間の家族旅行に丁度

良いと思ってね」

 父さんはニコニコと掴み所の無い笑顔でそう宣う。

「とかいって、実際は日本のサブカルチャーを満喫したい……とかな

んとか思ってるんじゃ無いよね?」

「ギクリ……そんなわけ無いだろ。何を証拠に……」

「なら父さんの部屋から見つけた日本の食べ歩き雑誌は処分しても

「分かった!!認める!!認めるからそれだけは!!」変わり身早いよ!!」

 まさか雑誌一つで言の葉を違える父にドン引きしながらも、俺は父

さんのプランに乗ることにした。

「でも今からシフト変更するの大変なんだよな……俺の『イノベイク』

の最終調整もあるし……」

「なんだ、お前は専用機があるじゃないか……と、流石に有名すぎる

か」

 父さんは仕方ないとでも言う風に肩をすくめる。

「で、お前のはどんな武器を積むつもりなんだ?」

「シャルの機体がどちらかと言えば近距離肉弾戦だから、俺はそれの

サポートができるように射撃支援型の武器が多いかな。流石に

サテライトキャノン

』は搭載しないけど」

 俺がそういうと当然とばかりに頷く。実際あの時射ったのでさえ

出力30%程度であの威力だ、競技用のリミッターなんて付けても対

して威力が変わるわけがない。

「ていうか、なんでうちの企業って変態的と言うか……独走的と言う

か……凄い武装作るよね……」

100

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「多分デュノア社時代にできなかった武器を作りたかったんだろうね

……あの女達、予算管理だけはまともにやってたし」

「だからってな……」

 俺は試作段階の武器の一覧を確認していく。やれレンチメイスや

ら、やれルガーランスモドキやら、あげくの果てにはアブソーブシス

テムモドキまで、お前ら変態じゃねぇのかとツッコミたいほどの武器

ばかりだ。最後のはシステムだが。

 そんな中で俺が選んだのは寧ろまとも(?)な部類のもので、試作

されていた『ノワール』、『ヴェルデ』、そして『ガンバレル』という、

複合兵装の『ノワール』を除いて全てが射撃重視のパッケージなのだ。

 他にもビーム、実弾を問わずマシンガンやアサルトライフル、

ショットガン等の射撃武器を拡張領域にこれでもかと詰め込み、まさ

しく原作でのシャルのポジションのようになっていた。

 おかげで接続テストやら、加速度実験、エネルギー効率化テストな

ど、様々な事がありすぎて未だに完成に漕ぎ着けていないという状況

だった。

「…………一応聞くが、ホントにこれを技術者組が考えてるのか?」

「そうだよ。俺個人の要望も少しはあるけど、それでもだいたいは技

術者連中が試行錯誤して造り出した物ばかりだよ」

「いや、そっちじゃない。この色物武装の数々だ。何故レンチを武器

のようにする?なぜ剣なのに銃みたいに使えるようになる?どう

やったらレーザーや衝撃エネルギーを吸収して自分のエネルギーに

出来るようになる?」

 それな……と、俺も思った。まぁ確かに、どれもこれもそれぞれの

作品で重要な武器にはなってたけど、ISと組み込むには無理だろ

……と言いたい。というかこの世界にガンダムアニメ無いのによく

こんなパクリ武装を思い付くなと感心させられる。一つはガンダム

作品じゃないけど。

「…………ちょっと技術者と話をしてくる」

「…………ちなみにどういった内容の話?」

「もっとロマンを詰め込めって…………ハ!!」

101

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「十中八九、親父の考え方のせいだろうがぁぁぁぁ!!」

 俺は叫びながら、機体の拡張領域にしまっていたハリセンで父さん

の頭を叩き飛ばすのだった。

   …………そんなこんなで三週間後、

「「つ、着いた〜!!日本!!」」

 俺とシャルは日本の成田空港で盛大に叫んでいた。周りのお客さ

んが何事かとこちらを注目してるが、気にしたらいけない。

「しっかし、アタシらまで日本に来て良かったんかね〜。しかもス

イートなんかで」

「大丈夫よオータム、ちゃんと正規のパスポートを使って入国したん

だし、一応デュノア社長の警護役だしね」

 こちらは普段だったら乗らないような席にのってから調子が少し

おかしいオータムと、どういうわけか乗り慣れてるスコール。警護役

なのにスーツを着てないのはご愛敬だ。

「そういやウサギは?」

「束さんなら、自分の人参ロケットで妹に会いに行くとか言ってたか

ら別行動。明後日には合流するらしいよ」

 なんともフリーダムだな、そう思いながら自販機でドクペを買い、

一気に飲む。

「かぁはぁ!!やっぱり日本のドクペは最高だなぁ!!」

「ドクペって、フランスも日本もあんまり変わらないと思うけど」

「いや、全然違う!!フランスのは炭酸がすげぇキツいんだよ!!それに

比べて日本のはだなぁ」クドクド

 俺はシャルにドクペの素晴らしさをこれでもかと語る。うん、日本

のドクペの配合を考えた奴はマジで神だな。生産工場ごと買いたい

くらいだ。

「あはは、クロトもなんだかんだで日本をエンジョイしてるみたいだ

ね」

「まぁ……そりゃ、世界最高峰のオタクカルチャーの聖地にして、こん

102

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な旨いドクペがある国だからな。はっちゃけないほうが無理ってこ

とだ」

「それはいいけどクロト兄、自分のトランク持ってよ〜!!ていうか無

駄に重いし〜!!」

 シャルはそういうと俺のトランクを転がしてくる。俺はそれを軽

く受けとり、飲み終えたドクペの缶をゴミ箱へ放る。

「さて、じゃあさっそく楽しんでいきますか!!」

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Episode21 お話ししませんか?

 「……それで、日本のどこの企業と話をしにいくんだ?」

 俺はオータムの運転する車で、大量に買ったドクペを飲みながら父

さんに聞く。ちなみに買ったやつはISの拡張領域に飲み終わった

やつ含めてぶちこんでる。

「なんていうISの無駄使いを…………、ごほん、今回の取引先は『倉

持技研』……『打鉄』というISを製造してる会社であり、束氏が少

しばかり目を置く研究者が所属してる会社だ」

 父さんの説明に俺はなるほど、と思いつつ原作でのあそこの行動を

思い返してみる。

 『倉持技研』……確かに父さんが言うとおり日本製第二世代量産機

『打鉄』を製作し、かつ、原作主人公『織斑一夏』の専用機『白式』を

設計した会社だ。だが、織斑一夏の登場によって日本代表候補生『更

識簪』の専用機であり、前々より設計されていた『打鉄弐式』の開発

を途中で投げ出した会社でもある。

 そのせいで原作で、更識簪の負の感情が悪化する要因になり、元よ

り溜め込みやすい性格のせいで周りを拒絶し、周囲と深い溝を作って

しまった、個人的にはあまり関わり合いになりたくない企業だ。

「こらこら、露骨に嫌そうな表情をするな…………」

「だってよ……軽く調べたけど倉持技研に、うちと取引する意味って

あるのかなって思ってさ……技術力だけならうちのほうが何枚も上

手だし」

「それはそうだろうな。何せうちの会社にはまだ他国で開発の目処が

立っていないビーム技術まであるくらいだからね」

「でもビーム技術はクロト兄が持ってる『ルナーク』と、束さんの天災

技術があってこそだけどね…………」

 シャルはにべもなくそういうと、父さんの隣にいたスコールが苦笑

を浮かべる。

「けど、倉持技研が最近開発し始めたマルチロックシステム……あの

技術は第三世代用といえど、目を見張るものがある。例えばイギリス

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の『BT型』やうちの『イノベイク』の『ガンバレルパッケージ』に

も搭載させれば…………」

「そりゃそうだけどさ、結局のところ第三世代機はどれもこれも機密

だらけなんだし、欠片の情報も手に入れられないと思うよ」

「まぁそこは私の交渉の腕次第だな……っと、もうすぐホテルだ。一

応予約はしてあるし、今日はもう昼過ぎだ、今日は自由に行動してい

いからね。二人とも」

「は〜いパパ!!」

「シャルロットォ!!」

「父さん!!車の中なんだから暴れるな!!」

「グハァ!!」

 親馬鹿を発動しようとした父さんを肘打ちで黙らせ、俺は再びドク

ペを飲むのだった。

      ──────────

 「さて、どこに行こうかな……」

 ホテルの自室に到着し荷物を下ろした俺は街を散策しようと外に

出ていた。シャルをを誘おうかとも思ったが、あいにく妹は自分が行

きたいところへさっさと行ってしまったらしい。一応夕飯の時間ま

でには帰ってくるだろう。

「やっぱり秋葉かな〜生前以来にメイドカフェとか行ってみたいし

……もしくはゲーセンとか……よし!!そうするか!!」

 軽い気持ちにて、俺は秋葉原へと向かう。休日の既に3時過ぎ、や

はりというか電車は超満員、中には某白米好きのアイドルや、コミケ

後なのか凄い荷物を持ったメガネフェチ女子高生の姿があったが気

にしたら負けだ。負けと言ったら負けだ。

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 そんなこんなで電車は秋葉原へと到着し、俺はゲームセンターのあ

る側から降りる。

「さて、まずは……ってあれは……」

 降りて早々に目的地へと向かおうとするが、そこで思わぬものを見

つける。

「なぁ、俺達と遊びにいこうぜ〜」

「一人なんだろ?少しぐらい良いじゃねぇか〜」

「そうそう、せっかくの休日なんだからよ〜」

 なんともはや、呆れるくらいに定番なナンパ連中を見つけため息を

付きたくなる。しかも三人で女の子一人を囲んでるというお約束展

開、ここまでは納得できる。が、その女の子が問題だった。

 短いショートカットを左右で一つずつに纏め、トロンというような

タレ目、しかも袖がちょっと大きすぎる服を着て両腕が隠れているそ

の姿、当然見に覚えがあった。

「(布仏本音……なんでこんなところに……)」

 彼女……布仏本音こそが後に原作で織斑一夏と更識簪を繋ぎ、リア

ルで新党のほほんとヒロイン第八勢力と呼ばれる少女だ。

「(おおかた、主人である簪のロボオタに疲れて休憩してるか何かして

たらナンパ野郎に捕まったというわけか……)」

 もう神様に頼んだ特典その二の意味ないよね、と思いながらも知り

合い(一方的な)がナンパされてるのを見捨てるのはどうかと思い、俺

は彼女達のいる方向へ歩き出す。

「いた!!」

「うわ!!なんだよ!!」

 俺は自然な足運びでナンパ野郎の一人にわざとぶつかり倒れる。

当てられた男は何事かと驚き此方を見る。

「すみません、歩いていたらぶつかってしまいまして……」

「ぶつかってしまいまして、じゃねぇよ!!勝手にぶつかっておいて!!」

 案の定、男は良いところを邪魔されて腹が立ってるのか此方へ怒鳴

り散らす。その間に俺は彼女に向かって隠れてハンドサインをする。

『少しこの人たちに注意をこっちに向けるから、その間にどこかに逃

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げて』

 本音さんは少し驚いているが、何も言わずに軽く頷く。

「だから謝ってるじゃないですか……」

「んだと!!」

「まあまあお前も落ち着けって、日本語は上手いけど見たところ相手

は外国人だし、こっちだってぶつかってしまったという落ち度がある

んだからさ」

「それに、見たところ外国人の中でもそれなりの家の人間みたいだぜ、

服が良いとこのやつばっかりだ。しかもフランスの有名なブランド

の腕時計までしてるし」

 どうやら相手の三人のうち二人はこっちの素性を冷静に見定めら

れる目を持ってるらしい。と、三人がこっちに集中してる間に本音さ

んは移動したらしく、遠目でショッピングセンターの中へと入って

いった。

「(任務完了ってな)ちょっと日本に観光しに来まして、知人から『日

本に来たら秋葉原は確実に行くべき』って太鼓判を押されまして」

「で、観光して歩いてたら偶々俺達とぶつかってしまった、と」

「そういうわけです。……って、貴殿方は何を?」

「ん?見りゃわかるだろ、ナンパだよ、ナンパ…………」

 男が当たり前のように言って振り返ってみると、当然のごとく目的

の少女は居なくなっている。

「あぁ!!逃げられたぁ!!」

「あぁ、なんかすみません…………」

「ハハハ、まぁ成功するとは思ってなかったから別に良いよ。少しは

楽しめたし」

「…………個人的に、このバカが女の子に叩かれて逆上して警察のお

世話になるのだけは嫌だったし」

「なんでそうなること前提なんだよ!!」

 男の突っ込みに俺を含めた三人は軽く笑う。

「それじゃぁ僕はこれで、先程はすみませんでした」

「良いよ良いよ、あ、連絡先を教えてくれない。悪いことには使わない

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から」

「構いませんけど、いったいどうして?」

「そりゃこの世の中、女尊男卑が地をいく情勢だからね。男が生きて

いくには技術か情報を得るのが一番、そう考えたら、例え外国人でも

情報を共有できる事ができれば少しでもなにか上手く活用できるだ

ろ?」 

「…………とかいって、実際はお金持ちの奴と知り合いになっておけ

ば良いことあるかもって考えてるんだろ?」

「失礼だな〜。言っとくけど僕は情報に関して言えばそれなりにネッ

トワークがあるから」

 男はそういうとなんの気無しにスマホを此方に向けてくる。俺も

スマホを取りだし、メアドを交換した。

「ありがとう。……クロト・D・フェブリエか……じゃあ何か知りたい

ことがあったらメールで聞いてくれ」

「はい、ありがとうございました」

 俺はそういうと三人から離れてショッピングセンターの方へ足を

向ける。

「あの……」

「ん?」

 ふと呼び止められ振り返ってみると、そこには本音さんともう一人

の少女が立っていた。

 水色の特徴的な髪型に垂れた紅い瞳、休日だからかメガネは掛けて

無いが、その独特な雰囲気に少しだけ呑まれる。

「さっきは……友達がありがとうございました……」

「ありがとうございます」

「あぁ、良いよ良いよ、別に気にしないで。ナンパに絡まれて大変だっ

たのは君のほうだからね」

「いえ、その……」

 俺は彼女の言葉を待つと少し間が生まれ、そして、

「少し……お話ししませんか?」

 少女のほうからお茶の誘いを受けるのだった。

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Episode22 大丈夫だ、問題ない

 「ホントに、さっきは本音がありがとうございました」

 とりあえず近くの喫茶店へと場所を移した俺達は奥側のテーブル

一つ陣取る

「……」

「…………」

「………………」

 うん、予想はしてたけどやっぱり無言になるよね。そりゃ原作で強

烈なキャラの中で唯一といっていいほどの弱気キャラ……しかもか

なりの癒し要因。IS世界において彼女以上の癒し系キャラは存在

お姉さん

しないね。

が干渉してこなければ毎日でも愛でたいくらい

だ。うん。

閑話休題

それはともかく

 数分の沈黙のあと、俺が頼んでいたコーヒーと二人が頼んだ紅茶と

ケーキが運ばれ、各々が頼んだものを口に含める。

「…………とりあえず自己紹介しとくか、俺はクロト・D・ファブリエ。

フランスのフリーデン社の技術者だ」

「……えっと、クロト君「クロトで良いよ」……クロト、貴方は本当に

あのフリーデンの技術者なの?」

「そ、ちなみに君のことは知ってるよ、日本代表候補生の更識簪さん」

 俺がそういうと少し彼女は驚いたが、すぐにコクりと頷く。

「……以外、普通他国の代表候補生なんて覚えてる人居ないと思うの

に……」

「そりゃ今回の交渉で行く会社の関係者の名前くらいは覚えるよ。君

の機体、『打鉄弐式』の予想スペックデータもね」

 ホントは原作で知ってるとは言えず、俺は当たり障り無い情報を口

にする。

「……あえて聞くけど、そのスペックを見てどう思った?」

 簪はおどおどしながらも真剣に聞いてくる。

「……はっきり言っていいか?」

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「…………うん」

 簪は少し間を開けたが了承する。

「まず開発連中が何を考えてるのかさっぱり分からん。確かに『マル

チロックオン』システムは有効なシステムだが、はっきり言ってミサ

イルだけに運用するなんてシステム効率が悪すぎるし、機体が中・遠

距離なのに射撃武装が足りなさすぎ、せめてハンドガンとか小型の

レーザーライフルを装備すべきだ。しかも装甲は確かに強度は高い

が、その分スピードが遅すぎる。装甲が厚い=動きが鈍重になるのは

仕方ないにしてもメイン、サブのスラスターの最大値が第二世代並み

だ。それじゃあ的にしてくださいといってるようなものだ。さらに

…………etc.」

 俺ははっきりとそう言う。元々鎧武者をイメージしてある外見の

機体ゆえに、装甲と格闘系の性能はうちの『ラファール』より優れて

はいるものの、はっきり言ってそれだけ、RPGだと壁役が関の山な

機体だ。はっきり言って欧州の機体の方がよっぽど優れてる。

 イギリスの『メイルシュトロム』はレーザー銃による高速射撃と機

動性に優れ、かつエネルギーバランスを考えた実剣ナイフやミサイル

を基本装備にしてる。ラファール程の汎用性は無いけど、それでも全

体スペックだけなら『ラファール・リヴァイブ』にそう劣らない性能

を持ってる。

 イタリアの『テンペスタ』はとにかくスピードが早い。

ラファール

こっ

テンペスタ

あっ

』が『疾風』なら、『

』は正しく『嵐』に相応

しい、加速性能と速度を持つ。動きが難しい機体だが、慣れれば『ラ

ファール』以上にスピードがある故に、世界大会で上位に食い込んで

くる人間もかなりいる。

 さて、これに対して本家『打鉄』はというと、はっきり言って癖だ

らけ。防御性能と格闘、瞬間加速度だけみればそれなりの機体なのだ

が、如何せん最高速度、射撃性能、センサー性能がずば抜けて悪い。基

本装備が刀だけな所を見ても、火縄銃が伝来する前までの武士かと

突っ込みたい程の、所謂脳筋仕様な機体なのだ。

 まぁ元がブリュンヒルデの愛機の『暮桜』のデッドコピーだから当

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然と言えば当然なのだが、それにしてももう少し汎用性に目を向けろ

と言いたい。

「…………やっぱり、分かる人には分かるんだね……」

「まぁ同い年ぐらいとはいえ、一応は技術者だからな。師匠が色々と

とち狂ってる変人だし……」

  〜〜〜〜〜〜〜

「へ、へくち!!」

「大丈夫ですか、姉さん……」

「大丈夫大丈夫!!どうせ誰かさんが噂してるだけだろうしね〜。しか

し箒ちゃんのお料理上手になったね〜だから色々と成長して……」

「紫電一閃!!」

「アギャバ!!」チーン……

「む、少し加減を間違えてしまったか……まぁ姉さんだから問題ない

か」

(((箒(ちゃん)がおっぱい魔神さんに見える/の/わ)))

 〜〜〜〜〜〜〜

「まあとりあえず、開発からも少しまともにやりなさいというところ

かな。俺から見たら」

「ふーん……ならどんな武器を搭載すればいいと思う?」

 そうだなぁ……と俺は呟く。ガンダム系列で似た機体はと少し考

える。

「……俺個人からいえば、設計上、折角攻撃用のエネルギーが余分な程

に余るから、レーザーライフルとか、高出力ビーム砲とかを搭載する

かな。どうせ競技仕様になるなら、ミサイルを囮にして弾速の早い

レーザー射撃なら、相手の隙をつけるし、何より手数が増える」

 とっさに思い付いた『Ξガンダム』の装備を話してみると、彼女は

唸るように考え出す。

「っと、それで俺がさっき助けてあげたのが……」

「布仏本音だよ〜。さっきはありがとね〜クロー君」

「……なんか毎回貧乏くじ引いて借金になる男のようなイントネー

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ションと渾名だなオイ……」

 俺はニヒルに笑いながら手招きしてる男を思い浮かべ、慌てて頭を

振った。

「ところで、なんで本音は一人で?簪と一緒に来てたなら一緒に行動

してればあんな風にならなかったんじゃね?」

「それはね〜、かんちゃんが年代物のアニメ見つけちゃって〜、店員の

交渉長

人と10分以上

してて退屈になっちゃったから〜、クレープを買

いに行こうとしたんだ〜そのあとはクロー君も知ってる通りだよ〜」

「つまりは友達を置いてその場から離れたら、運悪くナンパに捕まっ

た、と」

「ごめんね〜」

 本音はテヘッと笑いながらこちらを見る。しかも上目遣いでだ。

そんなことされたら、はっきり言って俺は…………

                  『新党のほほん』兼『更識妹党』だからはっきり言ってめっちゃ弱い。

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ていうかぶっちゃけリアルで見ると眼鏡の無い簪も、私服姿の本音も

出血多量

可愛すぎて、

で死ぬ!!うん、キモいって?良いだろたまには

俺がボケたって!!まわりボケキャラばかりなんだよ!!俺は某週刊漫

画の眼鏡じゃないんだよ!!たまにはボケにまわってもバチは当たら

んだろうが!!

「ク、クロト!!鼻血が滝のように出てるよ!!」

「わぁわぁ!!ティッシュ!!ティッシュ!!」

 しまった、この二人はどちらかと言えば突っ込みキャラじゃなかっ

た!!二人ともどちらかと言えばまったり系のキャラだった。

「おっとすまない、本音があまりにも可愛すぎてゴファ!!」

「「今度は吐血したぁ!?」」

「大丈夫だ、問題ない」タラタラ

「問題しかない!!…………目から血の滝が流れてるし」

「ホントに大丈夫だ。ドクペ飲めばすぐに治るし」ゴクゴク

「クロー君、ドクペは医療薬品じゃないよ……ってどこから取り出し

たの!?」

「……………………まぁ、どこでも良いだろ?」

「良くない……普通におかしいから」

「気にするな、俺は気にしない」

「気にするよ〜!!」

 とりあえずしばらく和やかに過ごした俺は、二人と連絡先を交換し

てその場を後にした。あと、なんか帰る途中に一人のメイドさんを女

子高生が追いかけるというシュールな状況を見たが、うん、気にした

らまけだ!!

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Episode22.5 幕間 ①

  本音side

「なんか色々と凄かったね〜かんちゃん」

 私はクロー君と別れてかんちゃんと一緒に家への帰路へ着いてい

た。

「そうだね……でも本音」

「ん〜どうしたの〜?」

「クロト君の渾名、どうしていつもみたいにゆったりしたのじゃな

かったの?」

 私はそれを聞かれ少し動揺する。

「それは……クロー君は私を助けてくれたし、何となくゆったりした

のを着けても喜ばないかな〜と」

「本音、嘘は良くないよ」

 かんちゃんの指摘に私は喉を詰まらせる。さすがは幼馴染みとい

うべきか、やっぱりかんちゃんは私の考えを読むのは得意みたい。

「本音が渾名つけたら、相手が積極的に断らない限りずっと言い続け

るから……私の経験論」

「あはは〜……」

 流石にこれにはなにも言えない。

「でも半分くらいはホントだよ。クロー君が他の渾名を気に入らない

と思ったのは本当だもん」

「ふ〜ん…………あれ?半分は本当って事は……」

 かんちゃんがジトりとした目で睨んでくる。うん、下手に隠したら

お姉ちゃんの刑になりそうだね。

「うん、私ね…………

     

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      クロー君の事、好きになったのかもしれないんだ」

 私がそう言うと、かんちゃんはため息をついて「やっぱり」と呟く。

「本音…………意外と分かりやすいんだね」

「むぅ…………その言葉には少しだけ悪意を感じるんだよ〜かんちゃ

ん」

「常の行いを考えたらね。……それで、どこが好きになったの?」

 なんか、かんちゃんが刀奈様みたいな性格になってる気がするよ

……そんなところは似なくていいのに。

「う〜ん……どこがっていうか……いつの間にか気になってた……っ

ていうか」

 これは本当だ。最初はクロー君がナンパから助けてもらったから

……ただその事をお礼したかっただけだからかんちゃんと話して

待ってただけ。それだけだった。

 でも改めてお礼を言って姿を注視すると、フランス人とは思えない

ぐらいに端正な顔に、頬に着いた切り傷の跡、けれど顔はどこか優し

い表情で、あかの他人の私の事を覚えていてくれた。

 喫茶店に入っても、クロー君は優しい表情を崩さないでくれて、か

んちゃんの機体についてあれこれとアドバイスをくれてた。整備士

志望の私も聞いてて納得するような内容で、ホントに詳しいんだなっ

て余計に思った。……まぁあの鼻血は予想外だったけどを

「ふーん、てことは本音、一目惚れしたの?」

「う〜ん、そう言われるとそうなんだけど……でも何て言うか……か

んちゃんに似てる風に思えたんだ」

「私に?」

 かんちゃんは不思議そうに首を傾げる。まぁこれは仕方ないのか

もしれないけど。

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「クロー君の目、普通に笑ってたけど……少しだけ何かに堪えてるよ

うな気がしたんだ」

「堪えてる?」

「うん、一人で抱えて、誰にも頼らない人の目をしてた。かんちゃんと

同じくね」

 私の言葉にかんちゃんは少し目線をずらす。自覚はあるらしいけ

ど、一応従者なんだから頼ってほしいんだよ?

「……話を戻すけど、クロー君が何かを堪えてるのは間違いないよ、だ

から私はね、クロー君の添え木になってあげたいんだ……」

「そっか…………」

「あ〜あ、クロー君が来年IS学園に来てくれれば万々歳なんだけど

ね〜。片想いで終わる人生なのかな〜」

「大丈夫、明後日辺りに倉持技研に来るらしいから、その時にでもお話

しすればいいと思う」

 そうだね〜、と私が言うと同時に屋敷に着いた。

「クロト…………私、頑張るよ」

 その小さい決意を胸に、私は従者の職に切り替えた。

   ウサギside

「姉さん……」

 やぁやぁ皆、世界のどこでも這いよる天災こと篠ノ之束だよ〜。今

私は実の妹の箒ちゃんと久々に一緒に喫茶店に来ていた。

「ん〜どうしたの〜箒ちゃん」

 私はマスターの入れる紅茶を飲みながら聞き返す。コーヒーじゃ

ないのは、私の格好がアリスだからね、察してほしい。

「姉さんはどうして、まともに戻ったんですか?」

「む、酷い言い種だね。確かにこの束さんは天災だからね。マトモ

じゃないって言われるのには慣れてるつもりだけど」

「そうでしたね……では聞き直します。姉さんはどういうきっかけ

で、他人を信じられるようになったんですか?」

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 なるほど、箒ちゃんの言い分は最もだ。確かに私はちーちゃんや

いっくん、箒ちゃんといった知り合い関係にしか基本的に心を開かな

いし、他人を覚えるつもりもなかった。

「う〜ん、そう言われると、原因というかきっかけは彼かな?」

「彼?誰ですそれは?」

「箒ちゃんと同い年のフランス人の男の子だよ。もう半年以上前にな

るのかな〜」

 そう、それはクーくんが妹のシャルちゃんを助けに行ったあの日

だった。

「その子ね、とある女性権利団体の奴等に妹を連れ去られてね……体

一つで助けに向かったんだ」

「な!!それは自殺行為だ!!」

自・

分・

の・

事・

よ・

り・

妹・

の・

事・

を・

優・

先・

に・

し・

「私もそう言ったよ〜、けど彼はね、

た・

自・

分・

の・

命・

を・

捨・

て・

て・

で・

も・

守・

る・

っ・

て・

誓・

っ・

て・

ね・

 いや、誓ってはいなかったな〜、でもそう言う雰囲気はあったし、似

たようなことは言ってたしね。

「その結果、彼は厳重な警備をなんとか破って妹の元に辿り着いた」

「…………妹は?」

「…………権利団体はその妹を精神制御して、それ専用の機体に乗せ

ていた。彼は当然彼女の事を助けようとした。けど精神を犯された

うえにISに乗ってる。文字通りボロボロにされた」

 ホントは彼もISに乗ってたから肉体的には無事だったけど、多分

精神はかなりボロボロになってても可笑しくなかったと思う。

「彼はボロボロになりながらも妹を助けようとした。結果として彼女

は彼の力と自分の意思で精神制御を打ち勝って見せた。私もそれを

見て鳥肌が立ったよ」

「人の意思が……機械すらをも上回った、ということですか?」

「そうだね。そう思うと、私も思い出したんだ……私がホントに作り

たかったものと、守りたかったものを」

 そう言って私はいつもの笑みを浮かべる。

「私が作りたかったのは、宇宙を、この果ての無い宇宙の世界の先を見

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てみたかった。争いの無い、暗くて、けれどうっすらと光がある、あ

の空の向こうを……」

「そして守りたかったもの……それはね、ちーちゃんや箒ちゃん達、私

が大切だと思った人達をできる限り守りたい。偽善と、悪魔って呼ば

れても、目の前で大切なものを奪われるのはもう嫌だからね……」

「そうですか…………」

 そう言うと箒ちゃんは立ち上がり、後ろを向く。

「…………姉さん、姉さんはあの日を覚えていますか?」

「勿論、箒ちゃんといっくん、そしてあーくんを守ろうとしたあの日で

しょ?不良連中がまだ子供だった三人に暴力を振って、私が身を呈し

て守ったあの日でしょ?」

 覚えてないわけがなかった。私の中で唯一守るためにプライドを

捨てて三人を守ったのだ。そのときの背中の傷跡は、天災である私で

も消せなかった。栄誉の負傷だった。

「そうです。……姉さんはあの日のあと、私に言ってくれましたよね

……」

「『目の前で大切なものを守るためなら、自分の事を全て捨ててでも守

り抜く。力を力で捩じ伏せるだけでは永遠に続く』……だったよね?

合ってる自信無いけど」

「一言一句間違わずに言ってるので大丈夫です」

 そう言うと箒ちゃんは私の後ろに立つと、

「…………」

「ふぇ!?」

 いきなり抱きついてきた。え、どういうこと、流れがさっぱり分か

らないよ!!

「……私はあの時、その言葉の意味を理解できませんでした。守るた

めなら力は不可欠、力は使うためにあるのだと、今まで思っていまし

た」

「箒ちゃん……」

「けどこの街に来てから、漸く姉さんがあの時言ってた言葉の意味が

分かりました。力を力で抑えるだけでは、結局どこかで別の力が生ま

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れる。そうならないための、正しい力が要るのだ、と」

 …………私は嬉しかった。私のせいで、箒ちゃんが好きだったいっ

くん別れるきっかけを作り、そのせいで荒んだ生活になったのは知っ

ていた。箒ちゃんの好きだった剣道にすらそれが現れる程だった。

 けど箒ちゃんは、正しい答えを見つけてくれた。私が教えてあげら

れず、むしろ不正解を強要してしまったことを自分で気づき、直した。

その事に喜ばないわけがない。

「箒ちゃん……私、少しだけ泣いても良いかな……」

「普段なら木刀で弾き飛ばすところですが……今日だけは」

 私は妹の胸の中で踞り、しばらく嗚咽した。悲しみではなく嬉しさ

のその滴は、まさしく私たちの関係を直してくれた証だと思えたから

…………

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Episode23 出てこれるかな?

  それは、朝のニュースが始まりだった。

 転生する前ぶりの日本の時間差に戸惑いながらも、何時ものように

6時に起きた俺は、ルームサービスに今日の朝刊と紅茶を頼み、届く

までにシャワーを浴びる。一人部屋だからか、何時ものようにシャル

が夜這いしてくることもなく清々しい朝を向かえたというのに、何故

か心に不信なものを感じた。

 そして何事もなく紅茶と朝刊が届き、俺はニュースを付けながら新

聞を読む。久し振りの日本の活字に心が踊り、内容が政府の汚職やら

何やらといった不穏なものばかりとはいえあまり気にならなかった。

 そのときだった。ニュース画面のアナウンサーが突然表情を曇ら

せて、さらにテレビの中の他のアナウンサー達も不穏な表情を浮かべ

る。

 どうしたのかと思いながらも紅茶を手にもって飲もうとするが、次

の瞬間、俺は無意識にコップを離し、それは割れるが、今の俺にはど

うでもよかった。

              

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   『今入ったニュースです。つい30分ほど前、東京都郊外にある倉持

技研の研究所が、突然の襲撃と爆発により全焼、さらに研究者達計2

0数名全てが、焼死体で発見されました』

「なん……だと!?」

 俺の呟きに応えるように、倉持技研があった場所の風景映像が

ニュースで流れる。壁は無惨にも爆破され、大きめの弾痕が残ってい

た。明らかにISの実弾銃の弾痕のそれと酷似している。

『また、倉持技研にて研究、及び保管されていた第三世代IS試作機

『打鉄弐式』、『白式』の2体とISコア計14個が盗まれており、警察、

及び国際IS委員会はISを狙うテロリストによる犯行だと考えて

おり、現在捜索を…………』

「『打鉄弐式』と『白式』をだと!!いったいどうしてだ!!」

 どちらも原作の機体であり、尚且つ『白式』は主人公である織斑一

夏の専用機となる機体だ。だが、『白式』にはウサギが原作開始少し前

に細工した展開装甲採用型ブレード『雪片弐型』のせいで、テクニッ

クがなければまともに戦闘な戦いができない機体だ。

 しかも現段階だとまだ『雪片弐型』は搭載してないうえに、欠陥機

として御蔵入りされていた筈だ。それなのにいったい……

『くーくん!!今大丈夫!!』

「!!ウサギか!!」

 突然ISの通信ネットワークからウサギの顔がどアップで映し出

る。

「いったいどういうことだ!!なんでこのタイミングでISの研究施設

が襲われる!!しかも第三世代試作機を!!」

『私にも良く分からないんだよ!!オーちゃんやスコールに通信で聞い

てみたけど、二人とも亡国機業が関係してるとは思えないって言って

る』

「……それはどうしてだ?」

121

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「単純に性能だよ、性能」

 突然ドアが開いたかと思うと、オータム、スコール、シャルの三人

が部屋へと入ってきた。

「スコール、父さんは?」

「今、日本政府に詳しい現状とかを電話で聞いているわ。今回、正式に

商取引するつもりだったから、現状を聞く義務があるって」

「そうですか、それとオータム、今の台詞はあれか?スペック的な問題

か?」

「そうだ。アタシらも奪われた二機のスペックデータはそれなりに

知ってる。が、アイツらが奪うにしてはかなり物足りない、寧ろ捨て

置いてもかまわないくらいだ」

 オータムは淡々という。彼女の言うことは最もで、その場の全員が

押し黙る。

「でも束さん、コア14って、かなりの数じゃないのかな?」

『そうだねシャルちゃん、コア一つだけですら世界的にはかなりの価

値を持ってるのに、それを二桁も一つの研究施設が所有してる、これ

は明らかにおかしいね』

「でも日本のISの開発元って『倉持技研』だけなんだろ?それならあ

り得ない話じゃ……いや、どっちにしろ国で管理してる筈だから、あ

り得ないか……」

 どっちにしろ二機を奪う理由が全くもって分からない。いったい

なんの意味が──

「──いや、違う」

 俺はある仮説を思いついた。しかしそれはまずあり得ない、でもも

しそうだとしたら。

「…………ウサギ、奪われたコアのナンバーを今すぐに調べろ」

『コアナンバー?それって…………あ!!』

 どうやらウサギも気付いたようで急いでキーボードを叩く音が聞

こえる。

「ねぇ、クロト兄、どうしてコアナンバーなんかを?」

「…………これは仮説なんだが、俺は以前自分の『ルナーク』とシャル

122

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の機体のベースになった『ベルフェゴール』のコアについてウサギに

調べて貰ったことがあった。結果は至って普通のそれだったが、ナン

バーだけが違った」

「ナンバーだけ?」

「俺のは『CN─470』、シャルのは『CN─469』……469番

目と470番目に作られたコアだった」

 俺の発言に、オータムとスコールが目に見えて驚愕の表情を浮かべ

る。シャルの方は何が何だか分からないようで首を傾げてるが、まぁ

問題はない。

「ちょ、ちょっと待て!!ISコアの数は467個の筈だ!!例え束が一、

二個余分に作り置きしてたにしても、二人はウサギとは一切合切無関

係だった筈だ!!」

「そうだ。けど俺は実際には第一世代機の型だから二桁番号になって

もおかしくないし、シャルの方は出自が出自だからな。けど、今はそ

れについてはどうでもいい。問題なのはコアの特性だ」

「特性だと?」

「ウサギ曰く、コアには人間の感情にも似た、それぞれの象徴みたいな

のがある。俺のは『月』、シャルの『悪魔』、オータムの『蜘蛛』、そし

てスコールの『金』といった風に、二次移行すると機体にその象徴が

顕著になって表れるらしい」

 実際、ウサギ曰く、ブリュンヒルデである織斑千冬の『暮桜』のコ

アの象徴は『桜』で、遠距離斬撃などは桜の花が風で飛ぶのを象徴と

唯一無二の特殊能力

ティー

しているらしい。最も、

に関しては個人の能力の

最適化によって発現するものらしいが。

「そして、俺が予想してるなかで一番含まれて欲しくないのは、1番、

そして467番だ」

「?どういう意味だ?」

「俺が予想してるなかで、一番最悪なナンバー特性を持つ可能性があ

るのが、その二つなんだ」

『クーくん、ネットワーク解析終わったよ……』

 と、ウサギが漸く画面に戻ってくる。

123

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「それで……」

『うん、クーくんの予想通り、奪われたのは18、27、29、53、

105、206、233、248、299、303、361、400、

そして……1と467』

「やっぱり……テロリストの狙いはそれだったか」

「おい、クロト、一体どういう……」

『それはねオーちゃん、コアナンバー1は白騎士に使われた『創成』の

特性を、コアナンバー467は『破滅』の特性を持つ可能性があるか

らだよ』

「「「「!!」」」」

 流石にこの言葉には、予想してた俺や、今まで言ってる意味が分か

らなかったシャルですら驚いた。

「……コアの特性は機体にも、下手をすれば使用者にすら影響をもた

らす」

「てことは何か、敵はそのコアを使って戦争でもおっ始めようってい

うのか?」

『そうだね。もともとその二つは対になるコアだから、上手く使えば

永久機関になりかねないし、悪く使えば……』

 そこでウサギは言葉を詰まらせる。いや、言えないと言うのが本音

だろう。もしそうなるとしたら、それこそ核被害より甚大なことにな

りかねない。

「…………とりあえず、俺は少し電話してくる」

「電話?」

「あぁ、恐らく、俺たち以上に大変な立場になってるだろうからな

……」

 そして俺は自室から出て、携帯を取り出しつつ人気のない場所へと

やってくる。

「…………」

『…………もしもし』

 電話の相手は、俺が昨日助けた少女…………布仏本音だった。

 

124

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 「すまない……今から簪と一緒に出てこれるかな?」

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Episode24 救うために

 「…………」

 俺は電話で指定された公園へとやってくる。まだ朝なうえに、あれ

から数十分しか経ってない為、やはり人通りは少ない。

「…………」

「お待たせ〜クロくん」

 と、噴水の近くで待っていると、聞き覚えのあるゆったりした声が

聞こえる。そこにいたのは、電話で呼び足した相手、布仏本音だった。

が、簪の姿はない。

「簪は…………やっぱり無理だったか」

「うん……かんちゃん、あの機体を少しでも良くしようと頑張ってた

から……奪われて凄いショックを受けてるみたい」

「そっか…………」

 本音の悲痛な声に、俺は何も言えなくなる。

「本音は……簪の友達なんだよな」

「友達だよ。あと幼馴染み」

「ならさ、今の簪……見ててどう思った?」

 俺は直接見れないし会いに行けない。行けば会社に迷惑を掛ける

かもしれないし、今だって本音に無理を言って来てもらった。

「…………今まで見てたなかで最悪な状態だった。まるで心を奪われ

たみたいに無感情で、辛いのに泣きもしないでね。たっちゃんに『ア

レ』を言われたとき以上だと思う」

「…………そっか」

 仕方ないとは思う。もうすぐ完成するという自分の機体を、寸前で

他人に奪われる。それはどんなに形容し難いものだろう。

「それにかんちゃん、クロくんと会うの少し楽しみにしてたんだよ」

「へ?そうなのか?」

 意外だと思い俺は聞き返す。

「かんちゃんがね、機体にちゃんとした意見をくれる人と初めて会え

たからだと思う。かんちゃんがどんなに意見を言っても、他の人たち

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から一蹴されて、いつもそれで苦しんでた」

 本音のその言葉を示すかのように語尾がだんだん小さくなってい

く。

「かんちゃん、時々言ってたんだ。ISは研究者の玩具じゃないって。

乗る人と機体が本当に心を一つにすることで、自分の未来を開ける道

具なんだって」

「…………まるで、コアと実際に話してるみたいな言い方だね」

「多分、『みたい』じゃないんだと思うよ」

 その言葉に、俺はまさかと目を開かせる。

「かんちゃん、偶に機体に触って変なことを言ってた」

「…………ちょっと待て、本音、そのときの事を覚えてるか?」

「うん、確か二週間ぐらい前だけど、かんちゃん、自分の機体になるは

ずだった『打鉄弐式』を自分の手で掃除してたんだよ。ISには自動

修復と自動洗浄の機能があるから、そんなことしなくても良いんだ

よって、私が言ったんだ。そしたら」

 『それでも、この娘は私と同じで寂しがりだから……少しでも一緒に

居て、気持ちを解してあげないとって思って』

 「私はそれを聞いたときはなんとも思わなかったけど、今思ってみた

ら、かんちゃんには自分の専用機の声が聞こえてたのかもしれない

ね」

「…………シャルと同じだ」

 俺は今のを聞いて、確信した。簪はシャルと同じ、自分のISコア

と同調する事が出来るのだと。

 別にそれ自体は、二次移行した機体と熟練したパイロットにとって

は至って普通の事だ。けど、シャルはまだ素人と同じぐらいの練度、

簪は機体がまだほぼ未完成だった状態でそれを成してる。まるで、

「…………ニュータイプ」

異分子

イレギュラー

 予想してないことはなかった。寧ろ俺という

が存在する以

上、ニュータイプやSEED、Xラウンダーやイノベイターだって居

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ても仕方ない。けど、だがそれでも、その存在を認めるのは少しだけ

嫌だった。

(まるで、あの時みたいに……)

「クロくん、なんか怖い目をしてるよ?」

 本音の言葉に、俺は苦笑いを浮かべる。

「まぁ俺の事は良いとして、、簪の機体はどうなるんだ?日本の最大手

は倉持技研だったんだ。正直、他にISを組み立てあげられる程の技

術を持ってるところは無いだろ?」

「かんちゃんはそこまでは何も言ってなかったけど、多分かんちゃん

なら、訓練機を一つ貰って自己改修するんじゃないかな」

 さもありなんだと思う。実際、簪はほぼ一人でISを半年ぐらいで

完成間際まで作り上げたほどだ。その技術力なら、現存機を改修する

のも容易だろう。

「…………それで、何時まで俺らに黙って聞いてるつもりだ?」

「へ?」

完・

璧・

過・

ぎ・

る・

ほ・

ど・

に・

隠・

さ・

れ・

て・

た・

気・

配・

 俺は今まで

の持ち主に向かって

声をかける。

「…………あらら、やっぱり気づいてたのね〜」

「そんな分かりやすいぐらいに気配を消してたら、否が応でも気づく

ぞ、しかも、その位置だと噴水の水が鏡の役割をしてくれるから見つ

けやすいたらありゃしねぇ」

「いや流体する水を鏡代わりなんて普通無理だから……って、ここの

噴水って線じゃなくて幕なんだった……」

 かなり項垂れながら現れたのは、簪と同じ水色の髪にデザインが少

し微妙な扇子を右手に持った、IS学園の制服を纏った変態こと、更

識楯無がそこにいた。

「ちょっと地の文!!誰が変態よ!!」

「メタ発言は控えてください、シスコンさん」

「あら?妹を大事に思うことはいけないのかしら?」

「いえ、自分にも妹が居るのでわかりますけど?」

 俺たちはそう言うと互いに少し睨みあう。

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「へぇ、でも私の簪ちゃんの方が可愛いわよ。おどおどしてて守って

あげたいって気持ちになるもん!!」

「いえいえ、うちのシャルの方が可愛いですよ。笑ったときなんか向

日葵どころか太陽さえ跳ね返すほど輝いてますし!!」

(二人とも充分にシスコンだよね、これ?)

「「本音、シスコンの何が悪い!!」」

「認めちゃったよ!?ていうか勝手に心読んだよね!!」

 本音の突っ込みはいざ知らず、俺と楯無はにらみ合いを続ける。も

うこれは意地と意地のぶつかり合い。どちらの妹が可愛いか、それが

全てを物語っていた。

「簪ちゃんはお菓子作りが得意なんだから!!前に焼いてくれたカップ

ケーキなんかもうお店に出してもおかしくなかったんだから!!」

「うちのシャルは服を着せたらなんでも似合うからな!!ワンピースど

ころか、前に来てたドレスなんか鼻血ものだったぞ!!」

「何よ!!」

「やるか!!」

「とりあえず、どっちもどっちだと思うよ〜」↑妹代表

「ぐは!!」

 まさかの本音の一言に楯無は吐血した。が、俺にはそんなものは効

かん。

「ふ、楯無、どうやら自分の勝ちのようですね」

「クロくんも調子に乗らない方が良いよ〜」

「ハイ、モウシワケアリマセン」

「まさかの片言とわね……」

 俺の片言ボイスに残念姉二号はひき攣った笑みを浮かべる。

「ちょっと待って!!なんで二号!?え、他に誰か居るわけ!?」

「世界最強さん」

「…………あ(察し」

 納得した表情を浮かべ、なるほどと頷いている。

「まぁ、とりあえずだ。簪はお前から見てどうなんだ?」

「急に真面目になったわね……、まぁなんていうか、今の簪ちゃんはあ

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れね、静かに荒れてるって所かしら」

「荒れてるのに静かなのかよ……一番厄介なところじゃねぇか……」

 実際問題、荒れて暴れてたり、部屋の隅で泣いていた方がまだ対処

のしようがある。けどこのパターンの場合、荒れているにはそうなの

だろうが、それが相手に対して解りづらいという面を孕んでいる。

 そんな奴がどうなっていくか、それは『溜め込む』というのが一番

の最適解だろう。あるはずだった物がない、それはかなりのストレス

だ。特に自分が大切に築き上げ、作り上げ、心血を注いだものとなれ

ば尚更だ。しかもそれを発散できないから溜まりに溜まり、ついには

人格すら歪める事に成りかねない。

「となると、一番はさっさと簪の奴を安心させてやらねぇとな」

「安心って、いったいどうするつもりなの?」

「俺に出来ることをやるだけです。今はそれが、簪を救うこと」

 そうして俺は再び携帯を取り出してある人物に連絡を入れる。そ

して数分が経って返信されてくると、俺はそれを確認しニヤリと笑っ

てしまう。

「さて、楯無、俺を簪のところに案内してくれないか」

 一人の女の子を救うために

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Episode25 俺の本質

 「ここが簪達が暮らしてる家……か」

 俺は楯無さんと本音の案内のもと連れてこられたのは、なんという

か、fa○eの衛宮邸もかくやというような大きな建物で、白塗りの

壁に覆われたそれと門に、初めて見るという事を抜きにしてもかなり

立派な建物だった。

「……なんか、凄い場違い感が……」

「でもクロくんも一応、フリーデンの社長の子息なんだから、場違い

じゃないと思うよ〜?」

「言っとくが俺の自宅はあまり人が居ないところの一軒屋だからな。

こんな大物政治家やら極道やらが住んでそうな所に住んでないから」

 実際フリーデン社から自宅までは車で1時間前後掛かるし、少し移

動すれば、時期ならばジビエ用の狩猟場となってる森林もあるが、時

期じゃなければそれこそ人数はめっぽう少ない。

「ていうか、確か更識って暗部家業の家元だろ?こんな立派な建物で

良いのかよ」

「一応表では色々とやってるのよ?まぁそれでもIS関連の事業を展

開してる所には負けるでしょうけど」

「表でって、確か親父達曰く、更識で楯無という名前を聞いたら諦めろ

……とかなんとか言われたんだけど」

「それは多分先代の楯無ね。私は去年襲名したから、そこまで極悪人

では無いわよ」

 失礼しちゃう、と言いながら開かれた扇子には『憤慨』と異様な達

筆で書かれていた。

「それで、俺はこの中に入って大丈夫なのか?こんな裏の情報がたん

まりある所に」

「あら、あなたは簪ちゃんと本音の大切な友人よ?そんな人を入れて

ダメなわけないじゃない」

「さいですか……」

 もう仕方ないと割りきって俺は服装を軽く整える。そしてかなり

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大きな自動門が横に開き、最初に見たのは。

                   凄く柄の悪そうなサングラスに黒スーツの大男達の大群が、どうい

うわけか道幅に沿って立ち尽くしていたのだ。

「…………」

「あら?どうしたのかしら?」

 どうしたじゃない。幾らなんでもこんなにも強面の男が多く居た

ら怯まないわけがない。どこの仁侠映画だこれは?

「大丈夫よ、ちゃんと話はしてあるし、こう見えて皆楽しい人たちよ」

「どこが楽しいのかはあえて聞きませんけど、ていうか、ここはどこぞ

の組の頭首の家ですか」

「一応暗部の本家だからね。むしろ今日は少ない方よ」

「いつもはこの倍近くは並ぶもんね〜」

 本音のその言葉に俺は少しだけ表情を暗くする。

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「…………簪の為か?」

「そうね。日本政府の命令っていうのもあるけど、何より大事な簪

ちゃんのためよ、動かない道理はないわ」

 やはりというべきか、俺の周りには良い意味でシスコンが多いと思

う。あのウサギでさえ、最近では妹のために何かを開発してるらしい

し(とはいえ経費を勝手に使われるのは問題だが)

「……んで、とりあえず簪の所に案内してくれ」

「あ、その前にちょっと来てもらう場所があるわ」

 着いてきて、と楯無が行く。仕方なく俺と本音も着いていくと、そ

こはかなり広めの武道場だった。畳が綺麗に敷き詰められ、壁には木

刀や竹刀といった有名どころや、薙刀や槍といった物まで掛けられて

いる。

「……いったい何を」

「まずは腕試しって所よ。私を相手にね」

 そう言われ振り向くと、既に彼女は胴着に着替えていて、その目は

かなり鋭い。

「……実力を図るって事ですか?」

「簡単に言ったらそうね。柔道や剣道、なんでも良いから私と勝負し

て勝ちなさい。それが出来なきゃ、話にならないわ」

「…………」

 少なからず予想はしていた。簪を救うには、俺自身にもそれなりの

実力と覚悟が居るということを。それをこいつは図ろうとしてる。

あ・

の・

力・

を・

使・

わ・

な・

け・

れ・

ば・

い・

け・

な・

い・

日・

が・

来・

る・

の・

は・

仕・

方・

な・

 そして同時に、

い・

と・

思・

っ・

て・

い・

た・

の・

だ・

か・

ら・

「…………楯無さん。対戦とは別の形で、俺の実力を見てもらえませ

んかね……できれば一人稽古するときなんかに使うサンドバッグと

かにしてもらいたいんですけど」

「?別に構わないわ。いったい何をする気かしら?」

 俺はそれに答えず、少し目を瞑る。頭のなかである物をイメージす

る。

(それは俺の本質……願望……望み、それを全て一つの物にした、俺だ

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転・

生・

す・

る・

前・

の・

俺・

の・

唯・

一・

無・

二・

の・

本・

質・

けの……

 そして目を再び開くと、既に目の前にはサンドバッグがあって、そ

して視界の左端に少しだけボヤけてはいたが確かに、先程までは存在

しなかったそれは存在した。

「楯無さん……いきます!!」

 俺はそう宣言し、思いっきりサンドバッグに右ストレートを打ち付

サ・

ン・

ド・

バ・

ッ・

グ・

は・

一・

瞬・

に・

し・

て・

反・

対・

側・

の・

面・

か・

ら・

砂・

けた。そしてその瞬間、

を・

吹・

き・

出・

し・

た・

「「!!」」

 当然ながら、楯無さんと本音は息を飲んで驚いている。当然だろ

う、これは人間の所業ではあり得ない。

「どういうこと……パンチの瞬間的なパワーもスピードも、至って平

均男子のそれと対して差はなかった。しかもサンドバッグがインパ

クトで破けるなんて普通あり得ない!!」

 そりゃそうだろう。俺の筋力はそこそこだし、スピードも普通のそ

れだ。確かにISのテストパイロットはしてるが、それとこれは別問

題。絶対にあり得ない現象だ。だが、

「これが、俺の実力です」

「貴方の実力……いえ、あり得ない……ISに乗った人間が同じこと

をすれば似たような結果にはなるかもしれない。けど、貴方は男の

子、なのに……なんで!!」

 楯無さんはまるで訳が分からないという表情をしている。俺自身、

初めてこの能力を現実で使ったときは受け入れられなかったしな。

「……いったい、貴方は何者なの」

「…………俺は、ある精神疾患を患っています。その事は、妹も、親父

も、あのウサギでさえ知らないと思います」

 そして俺はさっき出現したそれを手に掴み、それを現実へと召喚し

た。

 それは剣だった。しかしどこか悍ましく流麗、無機的なのに人のよ

うな存在感、そして緑色の目のようなシルエット、まさしく俺自身の

本質といって変わりない姿をしていた。

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「「!!」」

 二人はさっきのような驚きを浮かべる。当然だろう、何故ならそれ

何・

も・

な・

い・

空・

間・

か・

ら・

突・

然・

と・

し・

て・

現・

れ・

た・

の・

だ・

か・

ら・

は彼女達からすれば

「…………これが、俺の正体であり、精神疾患による副作用みたいなも

のです」

 俺はそう言って剣を再び空間に戻す。再びそれが無くなったこと

で、二人はなにも言えなくなった。

「…………本音、さっきのを確認したわよね」

「う、うん」

「クロトくん、いえ、クロト・D・フェブリエ、貴方はいったい何者な

のかしら?」

「…………」

 言いたくない、いや、言えなかった。彼女が暗部であるから尚更に、

彼・

女・

達・

に・

奴・

等・

の・

事・

を・

知・

っ・

て・

欲・

し・

く・

な・

か・

っ・

た・

「…………2009年の9月から11月」

「…………え?」

「それを調べれば、もしかすれば分かるかもしれませんよ……」

 俺はそう言うと、自分一人この場所から離れた。彼女と話すため

に。

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Episode26 一人じゃない

  いつでもそうだった。私が何かを得ようとすると、結局誰かに奪わ

れるということに。

 私がそう思ったのはもうずっと前からだった。私がどんなに努力

して両親に喜んで貰おうとしても、二人はそれが当然のように何も

言ってくれない、褒めてくれない。むしろお姉ちゃんと比べられてば

かりだった。

 日本の国家代表候補生になったときも、周りからは家柄のおかげだ

と私を貶すばかりだった。一度も家に頼ったことはなかったのに。

全て自分の努力で勝ち取ったのに。

 そして自分の専用機も、私は設計の時から、開発者の人達と意見を

言い合って完成を目指してきたのに、それさえも奪われてしまった。

(私って……ここに居て良いのかな……)

 そう思ったときは何度もあった。私はどうせ暗部の次女だ、暗部と

しての訓練は然程させて貰えなかったし、多分成人になったら家の名

を語ることは無くなる。結局私には何も残っていないんだ。

 その時だった。私の部屋のドアにノックの音が少し荒く鳴った。

「…………」

 私は誰だろうと思った。お姉ちゃんだったらノックしなくても天

井裏から勝手に入ってくるし、本音や虚さんならもう少し丁寧にして

くる。

 そして再びノックが鳴った。私はそれを無視できずゆっくりとド

アを開けた。そこにいた人物に私は驚いた。

「……クロ……ト……君?」

 本音の想い人でつい昨日私の友人になってくれた彼、クロト・D・

フェブリエが目の前に居たのだ。

「昨日ぶりだな、簪」

「なんで……ここに居るの?」

 私は当然のように聞いた。本音が会いに行くとは言ってたけど、ま

さか連れてくるとは思ってもなかった。

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「本音から簪がスゲェショック受けてるって聞いてさ、一応知らない

仲じゃないからさ、様子を見に来たわけ」

「そう……ありがと」

 素直にお礼を言うけど、私は少しだけジトリとした目を浮かべた。

とりあえず立ったままだと落ち着かないから、私は部屋のなかに彼を

入れる。

(部屋……そこまで汚くないよね?)

 私は自分の部屋を軽く見なおす。服とかもちゃんとしまってある

し、うん、大丈夫だ。

「まぁ女の子の家に勝手に来たのは悪いとは思ってるけどさ、なんか

簪って、一人で溜め込んじゃいそうだからさ」

 それを聞いて少しだけムッとした。確かに一人で溜め込んじゃう

のは自分なりにも認めてるけど、まさか会って一日二日の人に言われ

るとは思ってみなかった。しかも笑顔で言ってくるんだから少しだ

け腹が立つ。

「……簪、お前自分がここに居なくても良いって、そんなこと考えてる

訳じゃねぇよな?」

「ッ!!」

 まさか、どうしてその事に気づいたんだろう。

「……お前の目、俺の知ってる日本の女の子のそれと同じなんだよ」

「日本の……?でもクロトって……」

「あぁ、歴としたフランス人だよ。でもそいつがフランスに来てて、

偶々同じ場所で遊んでいたんだ」

 その目はかなり悲しくなっていて、見てるこっちが憂鬱になりそう

だった。

「…………そいつは、ある団体に両親がどっぷり嵌まっちまって、とあ

る科学者達によって人体実験をされていたんだ」

「人体……実験」

 その言葉に、私は半年前のフランスでの少女人体実験のニュースを

思い出した。確か噂だとそれがきっかけでデュノア社がフリーデン

社に合併されたはずだった。

137

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「俺も詳しくは知らないけど、その友人はまるで囚人のような格好に

させられてた。薬なんて当たり前、酷いときには脳を弄られたりして

きたそうだ」

「酷い……どうして……そんな……」

「そいつにはな、ある特殊な才能の片鱗があった。その力は、下手した

ら現実を別の現実へ変化させる事ができる。事象の干渉なんてレベ

ルじゃない、物事自体が物理法則を無視してそうなるってなっちま

う」

 物理法則の無視、それを聞いて私は驚愕した。私はどちらかと言え

ば理論派の人間だから、彼の言うそれは私にとってはあり得ないとい

う言葉しか思い付かない。

「…………その女の子は?」

「さぁな……俺が知ってるのは、フランスに来たのは偶々そういった

施設がフランスにもあったからということと、五年前、東京での巨大

地震で死んだってことだけだ」

「五年前…………澁谷……もしかして」

 私はその事件の事を知っていた。というよりも

「…………澁谷地震」

「!!知ってるのか!!」

「知ってる……というよりも、私もその時に澁谷の近くに居たから」

 それは渋谷で突然起こった原因不明の大地震、謎の光とともに大規

模震動が起こり、200人以上の死傷者を出したという今でも謎とさ

れている事件。

 しかも渋谷以外でほとんど地震は起こらず、街の被害も無かったが

故に、その前に起こっていたあの事件と含めて最悪な事件とされてい

る。

「!!……簪、変なことを聞くようで悪い、その事件の時に、何か心の底

から願ったことはないか?もしくは最近身の上で何か変なことが起

こったとか?」

「…………願ったことは……ある」

 それは私が一番思っていたこと、自分自身の劣等感だったこと。

138

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「私は……誰でも良いから自分の事を認めてほしいって、誉めてほし

いって願った……とおもう」

「…………簪、正直に答えてほしい。俺の右手に何があるか」

「右手?」

 私は少しだけ疑問に思ったそのとき、彼の右手に突然巨大な剣が握

られていた。しかも何もない空間から、まるではじめからそこにあっ

たような存在感があった。

「何…………それ……剣……なの?」

「ッ!!やっぱり…………簪にも……見えちまうのかよ……」

 クロト君は心底嫌そうにそう呟いた。というよりも、その剣自体が

存在して欲しくないというような顔をしている。

「簪、はっきり言う……お前はこれから絶対に、渋谷には行くな」

「…………どうして?」

こ・

れ・

「お前は『

』が見えた。俺の友人だった女の子を被験体にしてたや

つも、渋谷を活動の拠点にしていたらしい」

「ッ!!」

 彼の言葉に私は驚きを越えて恐怖を覚えた。その言葉が確かなら、

渋谷は確かに危険なのかもしれない。

「……簪、気休めにしかならないかもしれないけど、自分を一人だと思

うな。お前には姉や親友がそばに居るんだから」

 彼はそう言って私の部屋から出ていこうとする。

「……待って」

「ん?どうした?」

「その女の子の名前……教えて」

 私は自分でも何を言ってるのか分からなかった。けど、何故か聞か

なければならない、そんな気がしていた。

「…………南沢」

「?」

「南沢……泉里……確かその子は……そう言っていた……と思う」

 彼はそう言って部屋から出ていった。

「南沢泉里……さん」

139

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 私は彼の事を知りたい、そう思ったときにはお姉ちゃんを呼んでい

たのだった。

140

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Episode27 ニュージェネレーションの狂

気 「今回のISコア強奪にお前達が関わっているのか?」

 俺は電話の相手にそう聞いた。相手の方は憤っているのか、電話越

しにですら殺気が飛んでくる。

『…………恐らく、私達とは別のセクションの人間だろうな。私達の

組織は一枚岩ではない、それは貴様も分かっているのだろ?』

向・

こ・

う・

側・

あ・

の・

組・

織・

に・

造・

「そりゃあな、俺は

であの組織に所属……いや、

ら・

れ・

た・

存・

在・

だ・

か・

ら・

な・

『貴様……やはりアイツの……』

「おっと、その先は言いっこなしだ。俺もお前も、こっちじゃ赤の他

人、よっぽどのことが起きない限り此方からコンタクトを取ろうとは

思ってもないからな」

『そうか……ならば別にいい』

 電話相手はほぼほぼ平淡に、口調の波が一切無い言葉でそう言っ

た。

「それじゃあ済まなかったな。とりあえずお前を作り出したやつの親

父に言っとけ、『俺はお前達が何をしようと感知しないが、そっちから

俺に仕掛けてきたらすぐにでも殺りにいく』ってな」

『了解した。確かに伝えておいてやろう』

 俺はそれを聞くと電話を切ろうとした。

『そうだ、貴様に少しだけ良いことを教えてやる』

「んあ?」

『南沢泉里についてだ』

 俺はその言葉に眉をピクリと動かす。

「……」

『そいつは今も生きている。お前とは別の人間に成り変わってな』

「お前の能力は電話越しでも発動できるのかよ……そうか、名前は

……いや、アイツは俺の事を知ってるわけ無いか」

141

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 何せ俺が転生前に知り合った人間だ。彼女が俺の事を覚えてるは

ずがない。というか転生した人間が生前の人間と関わるのはあまり

よろしくないだろう。

あ・

『ついでにそいつは来年、IS学園に行くことになる。そうなれば、

の・

能・

力・

でISを動かしてるお前にとっては、色々とお前も楽しめるの

ではないのか』

「…………なら何としても、彼女がIS学園に来るのをとめろ。何が

あっても、絶対にだ」

『引き受けた。貸し一つとしておこう』

 そう言うと相手は電話をきってしまい、後には特有のピー音が聞こ

えるだけだった。

「…………さて、盗み聞きとは本当に失礼ですね、楯無さん」

 俺はポケットにスマホをしまうと、うんざりするように後ろに隠れ

ている少女に声をかけた。

「あら?まるで私に聞いてほしいみたいな感じがしてたけど?」

「……なら俺の能力がなんであるか、あんたにも分かったのか?」

「ええ、といってもほんの少し程度だけどね」

 そう言ってる彼女の目は、かなり殺気の籠っていて恐ろしかった

が、俺にはそこまでではない。

「まず貴方が私に見せたあのサンドバッグの出来事、あそこでも言っ

たけど、普通あんな現象は狙っても出来るものではない。それはまず

良いわよね?」

「ええ、続けてどうぞ」

「そして私と本音ちゃんに剣を見せたあと、簪ちゃんにも同じ剣を見

せた。私も本音も簪ちゃんの部屋の天井裏から見てたけど、そこで不

可思議な現象を見た」

 楯無さんはそう言うと目を鋭くしてこちらを見据えてくる。

二・

回・

目・

は・

私・

に・

は・

そ・

の・

存・

在・

を・

見・

る・

こ・

と・

ど・

こ・

ろ・

「あの剣、どういうわけか

か・

そ・

の・

存・

在・

を・

認・

知・

す・

ら・

出・

来・

な・

か・

っ・

た・

「……少し待ってください。ということは、本音には二回目も剣は見

えた、ということで良いんですか?」

142

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 俺は大事なことなので聞いてみる。

「ええ、本音にはちゃんと見えていたけど、私にはさっぱり、影も形も

見えなかったわ」

「そうですか…………」

「続けるわよ、ここから導き出されるのは、その能力……というか剣は

特殊な素養又は状況下でのみ見ることができるということ。違うか

しら?」

「正解です。厳密に言えば少し違いますけど、まぁ同じでいいでしょ

う」

「そして貴方が言った2009年の9月から11月……この時期が示

す事象はたった一つだけあった。それは

                    

143

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   『ニュージェネレーションの狂気』という、最悪な連続事件だけ、ね」

 俺は覚悟はしてたが、再びその言葉を聞くことになるとは思わな

かった。

「ニュージェネレーションの狂気……別名ニュージェネ事件、七件の

連続した殺害、自殺を含めた怪奇事件。そのどれもが犯人も動機も分

かっていない、そしてそんな事件の後に起こった12月の渋谷地震を

含めて、東京は未曾有の危機に陥った」

「…………」

「そして渋谷地震にはある噂があった。それはある秘密結社が謎の機

械を動かす過程に起こってしまった、人為的災害であるということ

が、ね」

 よくもまぁそんな噂を聞いたものだ。そんなもの、他のやつらが聞

いたら眉唾ものだ。

「今私に分かるのは、貴方の能力がその時に有名になったある人物と

妄・

想・

を・

現・

実・

へ・

と・

変・

換・

さ・

似た力を持っていること、そしてその能力が、

せ・

て・

し・

ま・

う・

という、突拍子もない代物であること……それだけよ」

「そうですか…………なら、貴方にはこの力の事を教えておいた方が

いいかもしれませんね。ついでにお願いしたいこともありますし」

 そう言うと俺は彼女に完全防音の個室があるか聞いた。彼女も事

の重大さが分かっているからか、素直に案内される。

 連れてこられたのは地下の一室、まるで取調室のような作りをした

白い部屋に俺は来た。鍵を掛け、盗聴機の有無を確認し、俺は再び彼

女に俺の剣を見せた。

「まずこの能力……というより能力を持った人間の事をギガロマニ

アックスと呼びます」

「ギガロマニアックス……誇大妄想狂という意味ね」

「そうです。能力は簡単に言えば二種類あって、まず楯無さんが言っ

たように妄想を現実化させること。能力者達はこれをリアルブート

144

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と呼んでいます」

 俺は実際に机に花瓶が現れるという妄想を浮かべると、何もなかっ

た机の上に本当に花瓶が出現した。

「こういう風に、俺が起こしたい現象を強く妄想することによって、世

界の物理法則やらなんやらを一切合切無視して事実として現実へと

変換させてしまう事ができます」

「ということは『もし○○が死ね』という妄想を貴方がすれば、その対

象は本当に……」

「ええ、ただしこの能力は目撃する他人がいなければ発動しない。ギ

ガロマニアックスの能力といっても結局は妄想、その妄想を視覚で共

有しなければ能力は発動できない」

「つまり完全に一人じゃ使えない……さっき言った妄想なら、被害者

及び第三者がその死を視覚によって知覚しなければならないという

ことね?」

「いいえ、そこがこの力の最も嫌らしいところで、この能力の厄介な所

例・

え・

監・

視・

カ・

メ・

ラ・

と・

か・

映・

像・

視・

覚・

で・

も・

リ・

ア・

ル・

ブ・

ー・

ト・

が・

可・

能・

だというこ

とです」

 しかも楯無さんが言ったような『○○が死ね』等と言った抽象的な

妄想では発動しない。発動させるには強固な妄想が必要となり、どう

やって死ぬか、そこまで強く妄想しなければならないというデメリッ

トもある。

「つまり、リアルブートの発動条件は『人及びカメラ等の視覚がある他

それ妄

人が、起こす現象の側に居て発動する

を目撃しなければならな

い』……ということかしら?」

「まぁ少し大雑把ですけど、だいたいそんなものです。そしてその能

力を発動させるための鍵となるのが、この剣です」

 そう言って俺は手元のディソードを彼女の前の地面に突き刺す。

「この剣…………俺達はディソードと呼んでいます。今は俺のリアル

ブートで楯無さんにも知覚できますけど、本来なら適正を持ってる特

殊な精神状況下の人間にしか視覚することができない代物です」

「そうみたいね。けど、いったいどこにそんなものをしまってるのか

145

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しら?例え妄想だとしても、それをいつでも視界に入れておけるわけ

じゃないんでしょ?」

「…………ディラックの海という言葉を知っていますか?」

 俺は試すように聞いてみると、楯無さんは難しい顔をしている。

「えっと…………確か量子力学だったかしら?真空状態が負のエネル

ギーで占められているとか……なんとか……」

「いえ、そこまで分かっていれば充分です。ディソードはその存在自

体は今言ったところの負のエネルギー、リアルブートを使えば使うほ

ど自分の肉体を滅ぼしかねないうえに暴走の危険性もあります」

「え……ということは、あなた……今日だけで少なくとも三回はリア

ルブートしてるわよね?それって」

 確かに俺は今日、サンドバッグ相手に一回、楯無さんと本音に見せ

るために一回、そして今もう一回使った。が、

「……まぁ俺は少し特別なんで、あと数年は能力を使っても問題ない

ですよ。それでさっきの質問ですけど、ディソードは本来剣ではな

く、リアルブート用の端末でありさっき話したディラックの海でいう

ところの負のエネルギーの集合体だ。それは普段は妄想という名の

ディラックの海にしまってあるということ」

「ならつまり、そのディソードっていうのは自由自在に取り出し可能

なわけね……厄介なこと……」

「それでお願いがあるんですけど、この能力は、簪と本音以外には絶対

に誰にも喋らないでください」

 そういうと彼女はなるほどと呟いて頷く。

「まぁ当然ね。このISが幅を利かせてる世の中で、その超能力は天

敵といっても過言ではないもの」

「ええ。この力は男女どちらでも発現可能な力です。しかもやろうと

思えば、能力で男がISに乗ることができたり、最悪、絶対防御を無

視してISパイロットを乗ったまま殺すことさえできてしまう」

「その言い方……やっぱり貴方はISに乗ってるわけね……」

「隠しても仕方ないんで否定はしないですけど、ともかく、この能力を

知られれば科学者達はモルモットにしようと、能力者探しに躍起にな

146

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る。そしたら簪や本音にも危険が及ぶ事になる」

「そうね。とりあえずその事については了承するわ。それで、貴方は

これからどうするつもりなの?」

 その言葉に俺は苦笑を浮かべる。それを見た彼女はジトリとした

目を浮かべる。

「どうせ、『自分の専用機とか使って奪った奴等を探しにいく』……と

かなんとか言うつもりなんでしょ?」

「まぁ取引先で起こった事件だからな。探しにいくのは当然じゃない

のか」

「そんなわけないでしょ。というか、あなたは自分の能力で寿命を削

りかねないんだからやめなさい。本音ちゃんが悲しむわよ?」

「いやなんでそこで本音の名前が…………あぁ……いや、何でもない

です」

 俺が聞こうとしたときに楯無さんからのジト目を向けられた為に

どういう意味か悟った。うん、いつ俺フラグ立てたっけ?

「まぁそれは置いといて、ともかく俺は自分なりに探してみるさ。

奴・

等・

どっちにしろ、

が関わってるなら見つかる可能性は少ないだろう

けどな」

「そういえばさっきから気になっていたけど、貴方が言ってる奴等っ

てなに?」

「あぁ、簡単に言えば、ギガロマニアックスを研究してるマッドサイエ

ンティストが所属してる組織であり、

         

147

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             俺・

と・

い・

う・

存・

在・

を・

造・

り・

出・

し・

た・

連・

中・

だ・

よ・

 

148

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Episode27.5 幕間②

  ???

「クロト・フェブリエが何者か、そう聞かれたらどう答えれば言いと思

う?見習いくん」

 ここは神界、クロトが第二の生を為すために強制的に連れてこされ

た空間、そして今、一人の神見習いが転生させた神……つまり私に問

われていた。

 事の発端は数刻前だった。彼が転生した世界が謎の異常を示した

ことを見習いが見つけた事が始まりだった。

 当然私はすぐに異常の原因を探し始めた。そして浮かび上がった

結果が、彼……クロト・フェブリエという存在だった。

「……私は直接会ったことはありませんが、彼も人間、その世界で凡百

な人間のようにハーレムだのを作りたい等ということを考えてるよ

うな人間なのでは」

 見習いはまるで当たり前とでも言うかのように聞き返すが、私はそ

の答えに苦笑を浮かべるだけだった。戦・

い・

を・

極・

力・

避・

け・

た・

が・

る・

タ・

イ・

プ・

の・

人・

「残念ながら不正解だ。寧ろ彼は、

間・

だ・

。当然仕方ないとなれば割りきるだろうが、それでも普通の人間

ならあり得ない」

「と、いいますと?」

「まずクロト……いや、ここは彼と呼ぼう。彼は転生のリストを見た

ときこう言った、『どれもこれも死亡フラグ満載じゃないか』ってね」

「それは仕方ないのでは、私もそのリストは拝見させて貰いましたが、

どれもこれも下手すれば一発退場しかねないものばかりです」

 見習いは苦笑ながらにそう言うが、私にとってはその答えこそ苦笑

ものだった。

「なら聞くが、『Muv─Luv』世界や『ブラック・ブレット』の世

と・

あ・

る・

世・

界・

や・

リ・

リ・

カ・

ル・

世・

界・

も・

あ・

っ・

た・

の・

に・

な・

ぜ・

そ・

界なら兎も角、『

れ・

を・

選・

ば・

な・

か・

っ・

た・

の・

か・

い・

?」

「?それは、『とある』世界は魔術師やら超能力者による事件に巻き込

149

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まれる事を恐れたとか、『リリカル』世界なら戦争クラスの事件に巻き

込まれたくないとか……」

「いや、『とある』にしろ『リリカル』にしろ、確かにシナリオには絡

むことになるのは転生者の運命のようなものだ。だがね屁理屈を言

えば、特に『リリカル』なんかは、アニメなどでスポットライトの当

たりづらいサブキャラと行動すれば、シナリオには絡むことにはなる

が戦いの方とは極力避けることが出きるかもしれないと考えること

だってできたはずだ」

 まぁそんなことになる確率は少ないだろうがね、と私は言う。

「さて、そこで彼が選んだ特典を確認してみよう。まず『機体』、これ

機・

体・

だ・

け・

な・

ら・

な・

ん・

で・

も・

良・

か・

っ・

た・

については然程関係はないね。寧ろ、

んだろうが、まぁそこは趣味の問題だ。

 次に『織斑一夏と別のクラスにさせること』、これは原作乖離を嫌い

としてるという性格ならば問題ないでしょうが、実際は違う

 そして『頭脳の強化』、一番おかしいのはここだ。ISの世界に行く

のならば、確かに頭脳面でも強化はそれなりに必要だろうが、それ以

上に肉体面も強化しなければならない筈だ。ISがいくらイメージ

インターフェーズで動かしてるとはいえ、結局は肉体……体力が必要

になる。なのに彼はそれを要求しなかった」

 さて、ここから分かることは色々ある。

「まずISの世界に行く者は、特典として『自分もISを動かせるよう

になる』という特典を付ける。例えISを持っていても、動かせる能

そ・

ん・

な・

特・

典・

を・

選・

ば・

な・

く・

て・

力が無ければ意味がない。つまり、彼には『

も・

I・

S・

を・

動・

か・

せ・

る・

、・

ま・

た・

は・

動・

か・

す・

こ・

と・

が・

で・

き・

る・

と・

知・

っ・

て・

い・

た・

』事にな

る」

「そんな馬鹿な、至って普通の人間がそんなことを事前に知ってるは

ずがないです!!」

「その通りだ見習いくん。だが彼はついさっき、自分の能力をこう

言っていた、『妄想を現実に変革させる力』だとね。そう考えると、三

つの特典にも辻褄があう。

自・

分・

は・

I・

S・

を・

 彼の転生前の能力『ギガロマニアックス』を使えば、『

150

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動・

か・

せ・

る・

』という妄想を現実にできるんだ」

「ですが、他の二つは!!二つとどういう関係が!!」

 見習いは苛立つように聞いてくる。

「見習いくん、もしもの話だが、君が科学者だとして、彼のような能力

者の存在を知ったら、君ならどうするかい?」

「それは……他にも同じような能力を持った人間が居ないか調べて

…………ッ!!」

「気付いたようだね」

 私は笑いながら彼を見つめる。

人・

工・

的・

に・

そ・

の・

能・

「そう、同じ能力を持った人間が居るか探し、そして、

力・

を・

生・

み・

出・

す・

こ・

と・

が・

で・

き・

る・

か・

を・

人・

体・

実・

験・

す・

る・

のだよ」

 人間とは浅ましく、強欲な生き物だ。例え一人でも普通と違う、異

端な人間が存在すれば、親しき者達はその存在に恐怖し、第三者から

は奇異の目で見る。

 そしてその奇異の目を向ける人間は、ある時からこう思うようにな

るのだ。

そ・

れ・

を・

研・

究・

す・

れ・

ば・

、・

別・

の・

人・

間・

も・

同・

じ・

よ・

う・

な・

存・

在・

に・

出・

き・

る・

の・

で・

は・

無・

い・

 の・

か・

、と。

「結果、その浅ましい程の探求によって、それは人間達の教育、医学、

科学として発展していき、人間で言うところの、予備校などの教育施

設や、理論的にだが人クローンの作成等を可能にした」

「ということは、彼はその異端側の人間だと?」

「うん、僕も最初はそう思った。けどね、真実は逆なんだよ」

 私はそう言うと、彼の基本データを映し出した。

「これは?」

肉・

体・

が・

1・

3・

歳・

ぐ・

ら・

「彼が転生する前の過去のデータだよ。彼の体は、

い・

か・

ら・

の・

活・

動・

記・

録・

し・

か・

な・

い・

肉・

体・

が・

死・

を・

迎・

え・

た・

の・

は・

約・

んだよ。しかも、

5・

年・

前・

後・

……どういうことか、分かるよね?」

「まさか……遺伝子操作による人クローンですか!!」

 あり得ないと見習いくんは言ってるが、そう考えれば辻褄があうの

だ。

151

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「そうだ。そして彼のベースとなった人間……それこそが、真のギガ

ロマニアックスとしての能力を持っているということだ」

「真の…………ギガロマニアックス……」

「そうだ。もしも、彼が最高レベルのギガロマニアックス能力使えた

のだとしたら、最悪私達と出会った瞬間に、私達は存在を無に消され

る可能性だってあったからね」

 その事を想像すると、ホントに自分達は幸運だったと思えるくらい

だ。

「…………それで、彼の残った二つの特典は……」

「ん?簡単な話さ。二つ目は確かに原作乖離を嫌うという理由があっ

原・

作・

キ・

ャ・

ラ・

を・

自・

分・

の・

能・

力・

の・

ゴ・

タ・

ゴ・

タ・

に・

たのかもしれないが、その実、

巻・

き・

込・

み・

た・

く・

な・

い・

って所かな。

 三つ目は、これは単純に自分の能力を強化する為だろうね」

「能力の強化……ですか?」

 見習いくんは分からないように言ってる。

「良いかい、『ギガロマニアックス』というのは妄想……つまり脳の海

馬やらなんやらをフル稼働させて使う、いわば禁断の業。そんなも

の、何のデメリットが無いというわけがない。寧ろデメリットのオン

パレードだ」

「そ、そんなにですか?」

「そう。彼がついさっき説明してたみたいに、第二者が居ないと発動

できないという点もあるけど、もう一つ、かなり重大な見落としがあ

るんだよ」

 寧ろこれを説明しなかった彼は何を考えてるのか、私にはさっぱり

分からないがね。

「ギガロマニアックスの能力を使うと、脳はかなり肥大してしまうの

さ。数ミリとかそんなレベルじゃない。酷ければ自分自身が狂気の

妄想に取り憑かれてしまう程のね」

「な!!そ、そんなことになれば」

「あぁ、当然寿命は縮むだろうし、何より使う度に強烈な頭痛が肉体を

襲うだろう。だからこそ、脳の処理能力等を特典によって強化させた

152

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んだろう」

 最も、それも精々雀の涙だろうがな。

「ですが、白騎士のコア等が紛失してしまっては、原作はかなりずれる

可能性が……」

彼・

一・

人・

じ・

ゃ・

な・

い・

「もとより転生者がいる世界だ。それも

。これぐらい

のイレギュラーは然るべき、自然体さ」

「ですが……いえ、神がそう言うなら仕方ありませんか……」

 見習いくんはもう何も言わないと言った表情で頷くと、軽く頭を下

げて部屋から出ていった。

「…………さて、世界はこれでどう動くのかな」

153

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Episode28 アスワン・ラー

 「……今の状況を確認するか……」

 更識邸から出た俺は、とりあえずウサギと連絡を取ることにした。

既に事件発生から数時間は経ってる状況で、探すにもまず専門家に話

を聞く必要がある。

『…………もしもしクーくん!!』

「ウサギ、今の状況は」

『今、ISコアのマスターアカウントとコアネットワークを使ってる

んだけど、はっきり言って成果はこれといって……』

 やはりというか、映像通信で映っていたウサギの頭とウサミミが

シュンと下がってる事から予想はしていたし、アイツから聞いていた

のもあったから、然程ガッカリはしなかった。

「……なら、現在時刻で奪った奴らが移動したであろう距離の範囲の

ピックアップは?」

『それなら……うん、しておいたけど……範囲内にあるフェリーター

ミナルと空港には、そんな貨物を運んだ映像はなかったよ』

「それでもいい、範囲内にある、事件発生から今までに出発した船と飛

行機のリストをピックアップしてくれ」

 俺がそう言うと、ウサギはすぐにスマホにそのリストを送ってき

た。

(相手が奴らなら、少なからずおかしなものが入ってる可能性がある

……)

 俺はすぐにリストへ目を通すが、どれもこれもいたって普通の旅客

機や貨物船ばかりで、あまり目立った物は……

「…………あれ?」

 と、俺はあるものに気がついた。そしてそれの行き先を確認し……

!!(ちょっと待てよ……おい、これってもしかしたら)

 頭に浮かんだ可能性を頭に浮かべ思案して数十秒、そして、その答

えが示すのはつまり……

154

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「ウサギ!!親父に急いで連絡!!至急ある飛行機と連絡を取るように日

本政府へ!!」

『あ、ある飛行機?』

「今その飛行機の情報を教える。いいか、便名は…………」

       ???視点

「やれやれ、今回は上手くいって良かったものだ」

 私は目の前にいる仲間にそう声をかけ、私達が手に入れたそれが

入った鞄の一つを目に止める。

「そうだな……しかし、よくもまぁあれだけのコアを幾つも手に入れ

たものだ」

「まぁ私らにはISもあったし、それに……この力もあるしな……」

 私はそういうと真横に置いておいた剣を手に取る。

「しかし、私には信じらんねぇな……そんなふざけた形の剣……ディ

ソードだっけ?その劣化コピーを使っただけで、あんなに効果が出る

とはな」

「まぁな、私のISに積まれた特殊装置と、この専用の剣……ディソー

ドの力があれば、あれくらい序の口さ」

 今回の襲撃、簡単に言えば手段は概ね簡単なものだった。まず、

ディソードを使い、私と味方のISを監視カメラやセンサーに反応し

ないように改変し、近くまで近づく。

 そして、ISを使い科学者達を殺して口を封じ、ディソードの能力

で通報されないようにした。そして目的のコアを手に入れた。

 そして、我々の目的がバレないように、開発途中の機体を奪い、他

のコアもダミーとして複数奪う。そうすることで警察や自衛隊は機

体とコアを乱雑に奪ったとして認識した。

155

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 最後に、再びディソードの能力を使って私達がISを使って上空を

移動して、予め用意していたこれに乗り込んで逃亡、という簡単なも

のだった。

「しかし、よくそんな突拍子もない武器を襲撃の要に使おうと思った

な」

「まぁ、私も疑い半分だったがな。使えるものは使わないと」

 その時だった。いきなり揺れるような振動と共に私達は吹っ飛ば

された。

「な!!敵か!!」

「確かにその可能性はあるけど……でもここは太平洋のど真ん中、し

かも上空よ。いくら戦闘機を使って追いかけてきても追い付けるわ

けが」

 ない、と言おうした瞬間にまた中が揺れる。間違いない、どう考え

ても襲われていた。

「ち!!おい、コア持って逃げるぞ!!」

「けどここは空の上よ!!私達のISは、最低限の補給はしたけど、それ

でもディソードはもう使えない!!」

「こんなところでお陀仏になるよかマシだ!!とにかく逃げるんだよ

!!」

 彼女はそう言ってIS『ラファール・リヴァイブ』を纏い、私も同

じく『リヴァイブ』を纏い、奪ったものをそれぞれの機体にしまう。そ

して彼女の機体のアサルトライフルが火を吹き、床に抜け穴を作り、

揃って飛び降りる。

 だが、襲ってきたのは戦闘機ではなかった。いや、ある意味では戦

闘機なのだろうが。

 上空、高度2500mで見たのは、白と黒のカラーリングをした大

型の機体だった。まるでスキーボードのような細長いものを四つも

機体に取り付け、真ん中二つには銃口が見える。

「な!!あれか、攻撃を仕掛けてきやがったのは!!」

「戦闘機なの?でもあんな戦闘機、見たことがない!!」

 私達は思わずそう思いながらも、敵には違いない機体に向かってア

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サルトライフルを射ち放つ。秒速10発前後の弾幕を、戦闘機は難の

ことなくかわし、機関銃で応戦してきた。

「ちぃ!!こんな奴にぃ!!」

「ちょ不用意に近づいたら!!」

 彼女の『リヴァイブ』が中々当たらない事に痺れを切らし、内蔵し

ていた長刀を抜いて叩き落とそうと斬りかかる。が、その時見たのは

驚くべき物だった。

 なんと戦闘機は一瞬のうちに変形し、それは人型の兵器の姿へと変

貌したのだ。白い前身のカラーリングに、後ろが黒に塗られ、手には

大型の砲門を両手に構えたその全身装甲の機体は、間違いなく……I

Sだった。

「そんな!!」

「変形したところで、全身装甲の第一世代如き!!」

 しかし、彼女のその言葉は、一撃の光の斬撃によって貫かれる事で

否定された。

「…………え?」

 まるであり得ないとでも言うように、彼女は一瞬で、まさしく焦げ

た肉塊へと変貌し、力なく墜ちていった。そして間もなく水中へと落

ちる音が聞こえた。

「こ、このぉぉぉぉ!!」

 私は彼女を、仲間を殺された怒りに身を任せて、ディソードを展開

して剣を振り上げた。が、それも一瞬にして切断され、敵の蹴りが私

の腹部に突き刺さる。

「かはっ!!」

 重い一撃に機体のバランスを崩し、墜落しかける。なんとか急静動

を掛けて奴を見ると、その砲口がこちらに向かれ、そして、最後に見

たのは、私を飲み込む桃色の光だけだった。

  「……ふう、とりあえずこんなもんかな」

 俺は機体のフェイスカバーの中で安堵を浮かべ、とりあえず目的の

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ものを回収する。

 墜落した機体二機を浜辺へと持っていき、軽く操作すると、目的の

代物……ISコア八個と仮組の専用機のアクセサリーが入ったア

タッシュケースを確認した。

「……こちら『ハイゼンスレイ』より『アスワン・ラー』へ、目的の物

は手に入れた。これより帰投する。」

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Episode29 

 「そうですか……いえ、分かりました。わざわざすみません、それでは

……」

「親父、どうだった?」

 ホテルに戻ると、どうやらちょうど連絡をし終えたらしい父さんに

現状を聞いてみる。部屋にはシャル、スコール、オータム、そしてウ

サギも揃っている。

「クロトの言う通りだった。相手はIS二機だったらしいが、無事に

撃破、奪われたものも取り返したようだ」

「そうか……」

 とりあえずの安堵に俺を胸を撫で下ろした。

輸・

出・

用・

飛・

行・

機・

「しかしクロト、どうしてあの飛行機……それも

が怪し

いと睨んだんだ?」

 そう、今回の犯人が使っていた飛行機、それは小型精密機器を輸出

するための飛行機だったのだ。

「う〜ん、正確には確信は無かったんだけどな。それでもあれは何か

あると思ったんだ」

「?どういうこと?」

 シャルは分からないようで俺に聞き返す。

「普通、精密機器の輸出入ってのは基本的に深夜とかにやるんだ。他

の旅客機みたいに人を乗せるわけでも無いから、日中にも時差の関係

で出る便はあるけど、主には関係者以外は残ってない深夜に送る規則

になってるんだ」

 実際、今回の事件で使われた貨物機の発着場である羽田も、基本的

に深夜の時間帯に貿易関係の輸入便を受け入れてるらしい。

「けど、今回相手が行き先に指定していた国はオーストラリア……日

本とオーストラリアの時差は約2〜3時間だから、普通に考えれば昼

の今出発するのはおかしいんだ」

 夕方に送れば充分に深夜には到着するし、何より

「しかも今回、相手が使った便の前にもう一つ貨物便が、アメリカにも

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あった。アメリカと比べて距離が雲泥の差なのに今回の輸出……恐

らくアイツらはダミーの貨物便を装って出発したんだろうな」

「なるほどね。貨物便は文字通り貨物を運ぶための飛行機、人が隠れ

て入るのには充分すぎるし、何より中でISを纏うことができる程の

スペースも確保できる」

「こりゃ日本政府に貸し一つだなw」

 オータムは笑いながらそう言ってるが、俺の表情は寧ろ厳しいもの

になった。

「あれ?浮かない顔だね〜クーくん?どうかしたの?」

「……ウサギ、今回の事件で俺達は日本政府に貸しを作ったことにな

る。つまり、逆に言えば日本政府は俺達の事をマークすることにな

る」

 そう言われ全員がハッと驚いた表情を浮かべる。

「マークされるって、クロト兄や私達は……」

「大人って言うのは、そう簡単じゃないんだシャル。今回の事件、一応

ISの家本である国で、ISを使った強奪事件が起こって、尚且つそ

れを外国の一企業の助けで解決した。これはある意味最悪な状況を

生むかもしれないんだ」

 俺のその言葉にシャルは納得できず唸っているが、実際問題、これ

が現実なのだ。

「だろうな。日本は世界的に言えばISの本家本元、それだけにIS

関連によるシステムレベルは世界でもトップだ。それを、つい最近吸

収合併した一企業がそれを上回る、しかも世界初の第三世代量産試作

機までほぼ完成してる。詰まる所、日本はどうやってでもアタシらの

技術を手に入れようと躍起になる」

「加えて各国のパワーバランスも崩れるわ。日本のIS製作会社は、

今回潰された倉持以外ほぼ小規模なパーツ加工会社ばかり、例え機体

は存在しても設計図がない以上、これから新しい機体を造るのにはか

なりの時間を必要とする」

 そうなれば日本のIS技術はかなり出遅れる事は必死だ。

「……はぁ、父さん、フランスに戻ったら緊急会議だね」

160

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「そう……だな。ついでに新しいテストパイロットを探さねばならん

しな……」

 そう、技術以前に俺達の会社にはテストパイロットがシャル以外に

居ないのが現状なのだ。勿論俺もテストパイロットじゃないのかと

言われればそうなのだが、男の俺がISのテストパイロットというの

は現実的に大変なことになりかねないのだ。

「あ、その事なら二人だけ当てがあるよ〜」

「ん?ウサギが推すって事は、妹さんか?」

 うん、俺もオータムと同じことを考えたが、まずそれはないと頭を

振った。

「箒ちゃんでも良いんだけど、流石に政府の監視を掻い潜って持ち帰

るのは無理だよ〜」

「……てことはあれか?お前があかの他人を推すって事か?珍しい」

「そうね。明日は槍かしら?」

「そんな雨かなみたいなノリで済んじゃうんだね……」

 元幹部コンビ二人の言葉にシャルが苦笑をし、対するウサギは無問

題といった状況だった。

「でも、そのうち一人はまだ分からないんだけどね」

 そう言うと、何故かウサギは俺の顔を見つめてきた。

「?」

「多分、クーくんは知ってるはずの人間だよ」

「俺が?」

 ますます分からなくなる。女性関係の知り合いで、尚且つISを乗

りこなせそうな人物なんて、全く心当たりがない。

「正確に言うと、あの事件関連なんだ〜」

「あの事件って……」

 ウサギが言う事件は恐らくシャルの誘拐事件の時だろう。けどあ

の時居たのは、俺が『ルナーク』で殺ったバカ女と、実験の被験体に

なっていた少女たちだけ。

 前者は生き残りは居ない筈だし、被験体の少女達は少数がここ最近

自我を取り戻しつつあるものの、未だにICUから出られないものば

161

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かりだ。とてもではないが……

「あ……」

 いや、確かに居た。俺が知ってるなかで、ISを動かせるうえに、尚

且つ今フリーになってる奴が。

「いや、でもアレをか?報復とかされたら嫌なんだけど」

「大丈夫大丈夫、私お手製の監視カメラによると、そいつはまだISは

持ってるみたいだけど、裏からは足を洗ったみたいだよ」

「……そうは言うがな……」

 何せあんなのをフリーデンに入れたら、それこそ『ガンダムX』第

三話のオルバみたいな事になりかねない。いや、ならないわけがな

い。

「とにかく、会えばどうなってるかわかると思うからね〜。面接はよ

ろしくね♪」

「いやいや、そもそもどうやって引っ張ってくるんだよ……」

 俺の突っ込みは何のその、ウサギは持ち前の天災さで場を和ませて

いる姿に、どこかほっこりする気がしていた。

   ???視点

「…………もしもし」

『……まさか、貴方が転生者だったんですね』

「ふ、そうだね……『ガンダムX』のパイロット、クロト・D・ファブ

リエくん」

 僕は電話の相手が彼であることを確認すると、彼は通話越しにため

息を着いていた。

『…………いつから、自分の事を気づいてたんですか?』

「そうだね、はっきりとではないけどあの日、君が布仏本音と接触した

あの時かな?」

『趣味が悪いですね……まさかナンパを装ってお近づきになろうとで

も考えたんですか?』

「まさか、そんなことをすれば逆に自分の首を絞めるだけだよ。長い

162

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ときを過ごしたと言うのに、踏み台で脱落したくは無いさ」

 僕の言葉に彼は唸ってるものの、事実なため追求はしないようだ。

「それよりも君の異常性には驚いたよ。まさか君があの世界の人間

……それもこの世界に出来事がリンクしてると来たものだ」

剣・

『ということは、貴方は自分の『

』を視認したということですか?』

設定機体

ペーパープラン

「それこそまさかさ。僕の機体ははっきり言って

な機体だ。

その分、先進的な技術を幾分か内蔵してるのさ、はっきり言えば、Z

ガンダムのそれと同じさ」

第三世代機二次移行機

サードステージ・セカンドシフト

 事実、僕の専用機……正確には

『ハイゼン・

スレイ』は神のお陰で貰った機体だが、設計図通りそのままだったら

一次移行の時の『ヘイズル・ラー』では、スペックで他の専用機に勝

てない可能性もある。

 だからこそ、僕は更なる特典として機体の一部に『バイオセンサー』

を取り付け、自分自身をニュータイプ能力者にした。そうでなけれ

ば、僕のように転生した人間を相手にしたとき、機体スペックで負け

るかもしれないからだ。

剣・

『……つまり、貴方のニュータイプとしての力で、自分の

を感じ取っ

た、と?』

あ・

の・

日・

「そうなるな。っと、言っとくが僕も

までは君や君の妹に干渉

する事は一切ないから安心してくれ」

 僕はそう言って電話を切ろうとするが、相手は電話越しに殺気を飛

ばして威圧してきた。

『……一つ聞かせろ、お前は剣を持ってないんだな?』

「うん、当然。あんな物騒な剣と能力、酔狂な奴でもない限り絶対あり

得ない。下手したら頭イカれて死ぬからね」

あ・

の・

日・

『そうか、だったら良い……次に会うのは、多分

だろうな』

「そうだろうね。ではその日に……クロトくん」

藤原総士

ふじはらそうし

『……あぁ、『ハイゼン・スレイ』の

163

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Episode30 大好きだよ

 「……しかしクロトよ、オマエ日本に行ってから色々と交遊関係増え

てねぇか?」

 突然飛行機の隣の席でそんなことをいうオータムに、俺は苦笑と共

に首を傾げる。

「そうですか?」

「いやよ、なんでたった数日であの更識んとこの姉妹とその従者と仲

良くなれるんだよ。普通なら天地ひっくり返ってもあり得ないから

な」

「そうだよね〜、クロト兄、いつの間にか可愛い女の子の友達作ってる

しね〜」

 まるで底冷えするような、それでいてかなり重いトーンの妹の言葉

は、室内環境最適な筈のファーストクラスの周りが文字通り凍りそう

になってる。ていうかはっきり言って怖すぎる。

「えっと……シャルロットさん?俺が何か悪いことしましたか?」

「べっつに〜、ただクロト兄は妹のボクじゃなくても、女の子なら誰で

も優しくするんだね〜って思ってる訳じゃないよ?それにあんなこ

とになっちゃうしね〜」

(なら口にするなよ……ていうか若干闇シャルモードに入ってるし)

 というものの実際、帰りの飛行機の前に起こったそれを思い出すと

仕方ないという他がないのだろうが……

  数時間前

「さて、手続きも終わったし、皆準備は良いかな?」

 父さんの言葉に、勝手に個人ロケットでどっかに行ってしまったウ

サギ以外の俺達は疲れた表情をしながら集まる。

「しっかし、あんまりにも拍子抜けだったな。アタシらが事件後に滞

在してた数日間、今もフランスに戻るっていうのに日本政府は何もア

クションを起こしてねぇとはな」

「そうね……幾ら何でも少しゆっくり過ぎるわね」

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 元幹部コンビの言う通り、あのコア強奪事件のあと、日本政府はこ

ちらに文書によるお礼報告のみという、まぁどこにでもありそうな形

だけを採ってきた。

 それ自体に俺は特に何とも思わなかったが、残りの滞在してた最中

も、公安やらが時偶こっちを尾行してるぐらいで、何にもアクション

を起こしてこず、寧ろ気付いていたこっちが、夜一緒に個室の飲み屋

で共に宴会騒ぎをしたほどだった。

 後の話によると、日本政府は俺達フリーデン社の情報を元に、俺と

同じ転生者『藤原総士』が所属する傭兵部隊、通称『アスワン・ラー』

にコア回収を依頼、結果として傭兵にかなりの額を支払ったことに

よって、こちらをマークする人員も絞られてしまったらしい。やはり

日本の懐事情は常に世辞面い物らしい。

「まぁまぁ、何にも無かったんだから良いんじゃないのかな?常に事

件が周りにあるなんておかしいんだよ、うん」

「そう言うが、この中で一番事件に巻き込まれてる比率が高いシャル

が言っても説得力皆無だぞ」

「ウグ!!……折角の出番なのにこんなのって……」

 若干メタ発言な気がするが、それを気にしてたらやっていけないの

でとりあえず無視……と、その時、スマホに電話が掛かってきた。

「?誰だ?」

 確認してみると、そこにはあの扇子を持ったプチ悪女こと、更識楯

無の名前が浮かんでいた。

「…………」

 時間も時間なため電話を受けずに切ってしまおうとするが、再び彼

女から電話が掛かってくる。どうやら出るまで掛け続ける腹積もり

のようだ。

 仕方なく、俺は親父に電話が来たことを話して少しその場から離れ

る。

「…………はい、なんですかシスコンさん?」

『開口早々酷い言葉ね。貴方だって充分にシスコンじゃない』

「否定はしませんよ。それより、態々こっちが飛行機に乗る搭乗手続

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きの前に電話を寄越すとか、いったい何を考えてるんです?」

『それはね……』

 次の瞬間、この人がなんで掛けてきたのかが容易に分かった。

「クロくん!!」

 その聞いたことのある言葉は、間違いなく彼女の知り合いにして、

自分の友人。

『簪ちゃんと本音ちゃんがそっちに挨拶に行ったから、少しだけ足止

めさせて貰ったわ』

 あとはごゆっくり〜、とふざけたボイスと共に電話は途切れ、後に

はツー音のみが耳に入る。

「……そう言うことなら、メールとかLI○Eで良かったじゃないで

すかね……」

 何とも定番なネタをと思いつつも、とりあえずここへ来た友人の方

へ向かう。

「二人とも……」

「いきなりごめん……でも、挨拶ぐらいしたいと……思ったから……」

「もう、かんちゃん、クロくんは友達なんだから固くなっちゃダメだよ

〜」

 いつもの調子の二人にとりあえず安心し、俺達は近くのベンチに腰

を掛ける。途中シャルやオータム等の視線が突き刺さったが、とりあ

えず今は無視しよう。

「……ありがとな、態々挨拶に来てくれて」

「ううん、お礼を言うのは私の方、クロトくんが頑張ってくれたから、

私の機体は戻ってきた」

 本当にありがとう、と恥ずかしそうに言う彼女を見て、俺は最初に

会ったときのように鼻血が出そうになるが、そこは気合で我慢した。

うん、凄い可愛い。

「別に俺はなにもしてないよ。俺はただ自分達の情報網で日本政府に

助言しただけだし」

「そんなことない。そういうことができるだけで凄いよ……私には、

そんな取り柄なんて無いし」

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 そう言いながら簪は俯いてしまう。が、

「はい、ダウト」

「あう!!」

 俺は軽く手刀を彼女の頭にポンと叩く。

「簪には俺にはない取り柄があるだろ。俺は技術者だけどよ、はっき

り言ってまだまだ素人に毛が生えた程度だけどさ、簪は同い年なの

に、ISのOSのプログラム、一人でほとんど完成させたんだろ?」

「なんで知って……本音!?」

「アハハ……」

 まさか従者から話されていたとは思ってもみなかった簪は、唯でさ

え赤くなった顔をさらに赤くして、まるでぬいぐるみのような本音の

頬を引っ張り摘まむ。

イハイ

イハイオハンヒャン

ちゃ

ハラヒヘ

〜」

「ダメ、人のことを勝手に喋ったから、これはお仕置きだよ」

「ハハハ」

 この何気ない雰囲気が愛おしく、俺は二人のことを見守りたいと

思った。

「そういや……簪の専用機はどうなるんだ?」

 と、俺は思い出したように聞くと、当の本人はまるで絶望したかの

ように縮こまってしまった。

「……」ズーン

「……もしかして、開発放棄になったのか?」

「……」コクコク

 まぁあり得ない話じゃない。何せ戻ってきたとはいえ奪取されて

しまった機体だ。俺ならそういった機体は色々と問題になりそうだ

から、後のために開発を中止してもおかしくはない。

「でも簪は日本の代表候補生なんだろ?専用機がないってのは……」

「……大丈夫、自分で造るから」

 は?と言い返したくなったが、ここで俺は原作を思い出した。確か

に簪なら半分は造れるだろうし、何より経緯が本来より時期が早い。

そこをかんまみれば可能と言えばそうなのだが、

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「……はぁ、簪って理論派だと思ってたけど、時々抜けてるよな」

「む、どういうこと?」

「あのな、お前は代表候補生で、俺はフリーデンの技術者、しかも俺達

は友人だ」

「……?ちょっと意味が……」

 首を傾げてくる簪に、焦れったくなって頭を掻き毟る。

「だ〜か〜ら〜!!俺がお前の専用機を、一から造ってやるって言って

んの!!」

「…………え?」

 彼女はあり得ないとでもいうような顔にジト目という、少しだけ失

礼極まりないそれを向けてきた。

「専用機は何も自国の会社の機体を使わなければならないなんてルー

ルはない。何せ日本の元代表候補生の……山田真耶さんだっけ?あ

の人の専用機も『ラファール・リヴァイブ』のカスタムだしな」

「で、でも……専用機はかなりの額の費用が掛かるし……それに……

いくら友人でも頼ってばっかりじゃ……」

「…………本音」「ラジャー!!」

「へ?ムヘ!!」

 マイナス発言連発の簪に、俺と本音は揃って手刀と頬引っ張りを敢

行する。あ、簪のほっぺって少しモチッとしてる。気持ちいい……

「簪、マイナス発言禁止。なんでも後ろ暗く考えてると、自分自身に嘘

を着くだけの人間になっちまうぞ」

「そうだよかんちゃん、かんちゃんは少し私とか、皆に頼った方が良い

んだよ〜」

「で、でも」

「でもじゃねぇよ。良いか簪、人ってのは自力だけじゃ全てを出来る

わけがないんだよ。皆、誰かに頼って、頼られて、支え合って生きて

るんだよ」

 俺はそう言って頬から手を放し、その手で彼女の頭をくしゃくしゃ

になで回す。

「お前が何に怯えてるのか、何をそこまで自分を卑下するのかは知ら

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ねぇよ。けどさ、お前は一人じゃないだろ?」

「クロトくん…………うん」

 そう言って見上げてきた彼女の顔は、今まで見た笑顔のなかで一番

のものだった。

  簪が恥ずかしがってお手洗いに向かったあと、俺と本音は和やかに

談笑していた。

「本音は凄いな、あの簪といつも一緒なんだろ?」

「そうだね〜私は更識のメイドだから、かんちゃんとは同い年だから、

馴れちゃったっていうのかな〜」

 本音の笑顔は、正しく太陽のようだったが、どこか作られたように

感じてしまった。

「……なぁ、本音、本音は将来の夢ってあるか?」

「う〜ん、私はメイドっていう職が確定してるからね。特に大きなも

のは無いかな〜」

「……ホントにか?」

 俺があえてそう聞くと、本音は笑顔を向けていたが段々表情が暗く

なっていく。

「……ほんと、クロくんって人を見る目があるんだね」

「てことは、やっぱり無理してたのか?」

「そうだね〜。ホントの事を言うとね、メイドっていう役が最初から

あったから、他に何をして良いのか分からないんだ。勿論メイドとし

ての自分に不満は無いし、それに満足もしてる。

 けど、けどね、なんだか最近は、その仕事にやりがいを持てないん

だ。メイドの仕事が当たり前、まるで人じゃなくて、人の形をした機

械に感じちゃう時があるんだ」

 詰まる所、自分自身が何をしたいのか、その目標が見つからないと

いう事か。

「特に……かんちゃんと一緒に渋谷地震に合ったときからね、時々他

の人の声が聞こえるんだ。その人が何を思っているのか、文字通り本

音が聞こえるときがね」

169

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「……『アレ』の能力か」

俺・

の・

オ・

リ・

ジ・

ナ・

ル・

 俺は転生前の、

の側にいた一つ年下の少女の能力を

思い出した。彼女も本音では無いが、他人の言葉の真偽を知ることが

出来る能力を持っていた。

 似たような物なら、『コードギアス』の『マオ』というキャラクター

能力ギアス

も、自分の

によって、他人の心を知り続けてしまい、自分の人格

を歪めてしまった。恐らく本音も

「ここ最近は特になんだ。楯無様やお姉ちゃん、他の使用人やメイド

の声が、相手の目を直視したらすぐに分かっちゃうんだ。どうしてか

クロくんやかんちゃんの声は聞こえないけどね」

「……だから、本音はいつも目を細めてるのか?」

「そうだよ。目を細めていれば、ある程度は聞こえなくなるし、コンタ

クトレンズを使えば、目を細めなくても同じ位の効果にはなる。いつ

もゆっくりした動きや言動をしてるのも、その事を相手にばれないよ

うにするため」

 まぁかんちゃんにはバレてるみたいなんだけどね。という彼女の

言葉に、どこか自虐的な表情が見てとれた。

「……本音は、それで良いのか?」

「良いか悪いかっていう話じゃないよ。布仏の人間は個性はあって

も、当主に服従する事が第一、そのためなら私は心を殺してでも」

「ふざけるな……」

 俺の放った殺気を物ともせず、本音は表情を少しも変えない。

「本音、お前は勘違いしてるぞ。人間は個性もあれば、どうしたいって

思う心もある。本心から支えてるならまだしも、自分の意思を大切に

しなきゃならないんだ!!」

「それでも……私は布仏の人間だから……」

「だからじゃねぇよ!!お前は本当にそれで良いのかよ!!自分自身に嘘

楽・

し・

い・

の・

か・

よ・

をついてばかりで、お前は本当に

!!」

 その時、彼女の顔から一滴の滴が垂れた。その滴は頬を伝い、やが

て床へと落ちていく。

「だったら……クロくんは私を受け入れてくれるの?」

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「言ったろ、俺はお前の友達なんだよ。友達の秘密の一つや二つ、背

負ってやるよ」

「私、何にも取り柄ないよ?」

「本音は周りを和ませてくれるだろ?それだけで充分に取り柄さ」

「足を引っ張っちゃうかもしれないよ?」

「それがどうした。そんぐらい幾らでもカバーしてやる」

 言って言い返して、友達だからこそできるその言葉が、彼女にとっ

ては一番大切なものだった。

「……クロくん」

「おう」

 俺の返事と共に、彼女は自分の体を俺に差し出してきた。その顔は

涙で歪んでいたが、それでもさっきの笑顔より輝いていた。

「クロくん、私の正直な言葉を言わせて」

「……おう」

「私ね、クロくんの事……大好きだよ」

「……!!……あぁ、俺もだよ、本音」

 今、互いに闇を抱える二人が、本当の意味で交わることになった。

171

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Episode31 そして……

  現在

「いや〜、まさかクロトがガールフレンドを作るたぁ思ってもみな

かった」

 ゲラゲラと笑いながら言うオータムに、少し恥ずかしくなってIS

アームで軽く(?)チョップして黙らせる。

 まぁ実際昔から好きなキャラだった事も要因の一つだが、それより

も彼女を支えてあげたいという部分が大きいのだろう。うん。

「でもクロト兄、あの本音っていう子のどこが好きになったの?」

「(闇シャルは消えてくれたか……)まぁ、何て言うか……にてるっつ

うか……主に苦労してるという意味で」

 実際、俺はウサギの相手やら闇シャルの安静化などで結構苦労して

るし、本音もIS学園でメカニックコースに進むらしいので、技術者

としての道を選んでいるという意味でもおんなじだ。……最も俺は

パイロットが本業なのだが。

「でも良かったのか?お別れのキスはしなくてよw」

「キ、キス!!い、いや……幾らなんでもそれは……」

「クロト兄って意外とウブなんだね」

 意外とは失礼な話だが、まぁ本当のことなので言われても仕方ない

のかもしれない。

「あのなシャル、幾ら付き合うことになったからってたった数十分だ

ぞ?幾らなんでもがっつきすぎだし、何より俺のキャラじゃない」

「クロト兄…………」

 なんか残念な目を此方に向けてきたし。ていうか父さんは会話に

入ってこないけど爆笑してるの分かってるからな、分かってるんだか

らな。大事なことだから二回言ったぞ。

「それでお兄ちゃん、簪さんの機体ってどうするの?はっきり言って

そんなに試作してる時間は無いんじゃないかな」

「急に話題変えるなよ……いや、まぁ素体自体はあることにはあるん

だかけどさ、どうカスタムしたらいいのやら……」

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 一応、簪から『打鉄弐式』のコアと機体は預かってるのだが、機体

自体が半分完成してる状態のため、一から改修するという方法でさえ

かなり難しいのだ。

 しかも面倒なのが搭載してる『マルチロックシステム』だ。このシ

ステムを上手く扱えるように改修するとなると、かなりの調整が必要

になってくる。

「とりあえず機体のスピードとミサイルの総弾数を増やして……あと

ビームライフルとかハンドガンといった手持ち射撃武器を搭載する

くらいか?でも……それだと……」

「……クロト兄、飛行機のなかで考えるのはどうかと思うけど」

 シャルはそう言ってくるが、はっきり言って時間が足りないのだ。

遅くても今年の冬には完成させなければ、簪と機体のチェックが出来

なくなる。しかも今は既に四月中旬に差し迫ろうとしてる。はっき

り言ってかなりのハードワークだ。

「困ったときのウサギ……っていう手もあるけど……あの変人が快く

受けてくれるかも微妙だし……」

「束さん、基本的に興味ある人間にしか心を開かないタイプの人だか

らね……」

 それもそうだ。まぁ俺がO★HA★NA★SHIすれば可能かも

しれないが、それは基本的に奥の手だしな、うん。

「ミサイル……高機動性……汎用的にも使える……う〜ん……」

 ガンダムや色々な作品の機体をモチーフにも出来なくなはいのだ

が、どれもこれも汎用性に向かない機体ばかりだ。

 例えば『ZZ』、火力や見た目の巨大性から考えられないスピードを

有してはいるが、全体的に射撃より過ぎるうえにエネルギー消費が半

端ではない。

 例えばマクロスの『バルキリー』、高機動性とやミサイル、ビームラ

イフルなどを装備してるものの、あれは変形した状態でこそ真価を発

揮する。常時バトロイドのISでははっきり言って死に機体だろう。

 例えばスパロボZでおの『ブラスタ』、機動性やミサイル装備、さら

には超電磁ライフルを装備した優良物件だが、はっきり言って器用貧

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乏なうえに、加速が一般人じゃ死亡レベルなため、簪には向かないだ

ろう。

 前に上げた『Ξガンダム』をベースにしても良いのだが、ファンネ

ルミサイルなんてシステムを半年そこらで造り上げるなんて土台無

理な話だ、当然それに伴って『ペーネロペー』も同じ理由で不可能。

「う〜む、どうすればいったい……」

「いっそのこと、『打鉄』ベースじゃなくて『イノベイク』ベースにす

れば?」

「あのな、まだ正式に量産されてないのにそういうのは無理だ……」

 シャルの言葉に冗談と返した直後、俺はピタリと止まった。

(あれ?そういやSEED系で確か……!!)

 そう、俺は漸く思い出した。確かに存在していたのだ。ミサイルを

有していながら、射撃、格闘戦、機動性のどれもがバランス良くなっ

ている機体が……少しマイナーだが確かに存在していた。

「……シャルナイス!!」

「え!!」

 俺はシャルにグッとサムズアップし、パソコンを立ち上げてひたす

らに機体の情報を打ち込む。思い出したその機体は、上手くいけば

『打鉄弐式』を遥かに上回るスペックを叩き出せる。そう思った。

(あの機体なら……『ブルデュエル』なら武装とか構造自体はかなりシ

ンプルだし、何より『打鉄弐式』のスペックと合わせれば、装甲も充

分!!行ける!!)

 形式番号GAT─X1022……機体名称『ブルデュエル』、『ガン

ダムSEED Destiny STARGAZER』に登場する

『アクタイオン・プロジェクト』に関連する機体。主兵装はビームガン

と右肩のリニアキャノン『スコルピオン』、さらに両肩に装備されたミ

サイルを有した汎用型MS。

 原作では序盤であっという間に殺られてしまった機体だが、その汎

用性は同作品の『ストライクノワール』、『ヴェルデバスター』をも上

回り、戦局が選局なら、もしもあの『イザーク・ジュール』が乗って

いれば、『スウェン・カル・バヤン』にも負けないほどの戦闘データを

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叩き出す事は間違いないだろう。

「あとはそれをどうやって第三世代専用機まで進化させるかだな

……」

 当然ながら、汎用性が高い故に機体の武装自体はかなりシンプルな

もので、主武装がビームライフルではなくビームガンという火力が少

し弱い機体なため、改造は必要不可欠になる。

「うちのパッケージシステムを搭載したら?」

「確かに性能は上がるだろうけど、はっきり言ってマルチロックシス

テムとのシステムウェイトを考えると厳しいな」

 実際俺の『ノワール』パッケージはそれなりに相性が良いのだが、

レールガンが被るうえに、『打鉄弐式』のマルチロックシステムを組み

合わせても然程火力は上がらないだろう。

「ていうかクロト兄、なんでレールガンに拘るの?別にビーム砲でも

良いんじゃないかな?」

「……はぁ、シャルロット、なんでイギリスのレーザーライフルが基本

的に一丁しか持ってないのか知ってるか?」

「へ?」

 俺の質問に首を傾げるシャルに、一応企業のテストパイロットなん

だから覚えておけと少しだけ思った。

「レーザー兵器はとにかく威力は高いが、その分燃費がかなり悪い。

レーザーライフル一発射つエネルギーで、『ラファール・リヴァイブ』

の実弾アサルトライフルのマガジン一つ分くらい燃費が悪い」

「そっか……ビーム砲はレーザーよりもさらに威力が高いから、その

分レーザー以上に燃費が悪くなっちゃうのか……」

「そういうことだ。手持ち武装に連射型のビームガンを搭載するつも

りだから、その分コスパが安いレールガンを使わなきゃいけないわ

け」

 俺がそこまで言うと、今度はシャルが不思議に思ったのか、自分の

頤に指を当てている。

「でも僕やクロト兄の『イノベイク』もビーム砲とか結構入れてるよね

?」

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「シャルのは元々あった機体をイノベイクに改造移植しただけだか

ら、俺のはパッケージ換装ごとにエネルギーがそれなりに回復するか

ら問題ないの。しかも俺の奴はどっちかと言ったらビームより実弾

武器の方が多いからな」

 もっとも、シャルの『イノベイク・V・C』は兎の改造込みで成り

立ってる機体だからか、使用エネルギー量が高火力なソニック砲なの

にビームガンモードやら拡散砲等に切り替えることで変化するとい

うチート付きだ。さすがは悪魔の凶機体をベースにしただけはある。

「だったらいっそのこと、ミサイルを除いて武器全部レールガンにす

れば?」

「レールガンは実弾だから射ちきったら何も射てなくなるぞ?」

「え?そうなの?」

 いや、レールガンってのは金属の弾丸を音速やらの速度で打ち出す

兵器なんだから、エネルギー攻撃と思われがちだが意外と実弾兵器な

んだなこれが。

「だったらいっそのこと、非固定ユニットに取り外し可能なブレード

を装備するとか!!」

「非固定ユニットに武器を搭載ね……」

 良い案だが、ブレードとなると少し問題も出てくる。

「……下手にユニットに装備を増やすと、機動性を落とすことになる

からな……」

腕部アーム

脚部レッグ

腹部

ボディコア

頭部

ヘッドギア

 そう、ISはパーツで分けると

、そして

非固定ユニット

第三世代機はそこに

が追加されて、全部で五つに別れる。その

中で脚部と背面の非固定ユニットはスラスターを装備するため、あま

り重量のあるものにするとスピードが下がってしまうのだ。

 シャルはそういうと作りかけの設計図を眺めながら聞いてくる。

「でもミサイルユニットって、見た感じ肩に着けるんでしょ?てこと

は、第三世代特有の背面武装が無いよね?」

「そうなんだよな……複合兵装をつけるのが一番良いんだけど……」

 本心を言うなら、『フォビドゥン』の『ゲシュマイデッヒパンツァー

シールド』とか、『ハイペリオン』の『フォルファンクトリー』とか、

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そういったものを造りたいのだが、如何せん技術力が無さすぎる。

「そこはやっぱり……技術屋みんなで考えないとな……」

「そうだね。せっかく良い人達が揃ってるんだから」

 俺たちはそういって笑いあうと、時差ぼけしないように眠りへと入

る。

  そして、時は夏を、秋を越え、運命の冬へと進む。

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Episode32 本音を言ってくれ

  あの日本旅行からはや半年、それだけの時間が経って色々なことが

起こった。

 まず探していたテストパイロット、これは帰って約一ヶ月で決まっ

てしまった。

 一人は束さんのお手伝いとして原作にいたクロエ・クロニクル。ど

うやら出生は銀髪黒兎と同じくデザインベイビーとして生まれなが

らも、ISと過剰にシンクロしてしまう為に暴走が絶えず、廃棄され

たところをウサギが拾ってきたらしい。感情を表さないことが多く、

常に目が据わってるので時々怖く感じるが、まぁ悪いやつではないは

確かだ。……もっとも絶対にキッチンには立たせないがな。

 そしてもう一人……こちらの方は俺とシャルは最初とてつもなく

『・

シ・

ャ・

ル・

誘・

拐・

事・

件・

』・

の・

唯・

一・

の・

生・

き・

残・

り・

の・

女・

嫌だった。ていうかアレだ、

権・

だ・

っ・

た・

奴だからだ。ていうか、俺が見逃した奴。

 しかも名前を聞けば、なんとビックリ『シオニー・レジス』と名乗っ

たからもう俺はビックリ。どこかで聞いたことがある声だと思った

らまさかのスパロボZ破壊編のボスキャラの女性だとは思いもよら

なかった。

 もっとも彼女自身、既にIS離れようとしていたらしく、会ったと

きには小学校の教師をしていて、持っていた『リヴァイブ』もあれか

ら殆ど弾丸の補給をしてなかった。言葉遣いも高圧的ではなく、寧ろ

オドオドと頼りなく、俺と再開した時は生徒の前だというのに恥もな

く土下座を慣行してくるという、なんか俺の方が悪人に思えてしまっ

た。

 まぁそんなこんなでテストパイロットが揃って、かつ機体の運動

データが採れたことによって第三世代量産機のコンペでは他国を圧

倒、デュノア社の頃から『リヴァイブ』を使ってる国から支持され、数

年以内にEU内の主力量産機になることと相成った。

「……それで、なんで私達がフランスに来てるんでしょうか?」

 と、フリーデン地下研究室……通称ウサラボにて、簪と本音、そし

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て楯無の三人が、俺とシャル達を前に聞いてきた。

「いや専用機頼まれてたからさ、殆ど完成したから最終調整に本人を

呼ばないと……って思いまして。ついでにもうすぐクリスマスだし

一緒にと考えまして」

「……だったら、データにして私に送ってくれれば、仮想空間で幾らで

もテストできたのに……」

 頬を脹らませてジト目を向ける簪を可愛いと思うが

「痛い痛い!!シャル、本音、つねるな脛を蹴るな!!」

「「彼女が居るのに鼻の下伸ばしてるクロト兄(クロ君)が悪い」」

「確かにそうね〜、でもこんなに女の子に囲まれてるなんて、君も幸福

者ね〜w」

 俺たちの何気無い会話に、それぞれが少しずつ笑いあう。

「それで、できはどうなの?技術者としては」

「そうだな……はっきりと自信作っては言えないけど、それでも並み

の機体なら負けないっていう自負はある」

「それって、私の専用機を相手にしても?」

 楯無さんが扇子で口を隠しながら聞いてくる。

「……流石にロシア代表の貴女と戦ったら無事じゃないでしょうけ

ど、スペックデータならうちの『イノベイク』をも上回りますね」

「む、そこは可能性はあるとか言うところよ?」

「技術者が技術師向きの人間に嘘を言っても仕方ないもんで」

 にべもなくいう俺にシスコンさんは苦笑いをしてるが、事実だから

仕方ない。

「……そういえば、なんでここウサラボなんて呼ばれてるの?」

「天災ウサギの住み処だから」

「「「天災ウサギ?」」」

「そ、今世紀最大の天災の住み処なんだよ、ここヌァ!!」

 そう言おうとした瞬間、頭の上にとてつもなく固い物体が落ちてき

おった。しかもご丁寧に旋毛というとても痛い部分に突き刺さるよ

うな形で。

「こらウサギ!!いきなりスパナなんて投げんな!!怪我したらどうすん

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だよ!!」

 頭を抑えながら犯人に文句を言うと、当の本人はギロリとかなり鋭

い目で睨んで向かってきた。

「クー君の紹介が酷すぎるんだもん!!こう見えても私はクー君達より

も体のスペックが一回りも二回りも上なんだからね!!」

「だったら人にスパナとか物を投げちゃいけないって事ぐらい分かる

だろうが!!見ろ!!三人が驚き通り越して目を回してるだろうが!!」

 グヌヌ……と互いに意地を張り合い、間には激しい火花が弾ける。

「はいはい、二人ともいい加減にしないと……ボクと一緒に遊ぶこと

になっちゃうよ♪」

「「ビクッ!!すみませんシャルロット様!!どうかお怒りをお沈めくだ

さい!!」」

「うん、よろしい♪」

(((なんか……ここのヒエラルキーの格差が分かったような気がする

……)))

 なんか変なことを思われたけど……実際黒シャルモードになった

ら簡単には止まらないんだって。え、どうなるって?……あのウサギ

が二、三日精神崩壊したほどだ。つまりそういうことだ。

「とりあえず、この三人に一応自己紹介頼む」

「う〜ん。とりあえず私が篠ノ之束、知っての通りISの産みの親に

して大天才科学者なのだ〜!!よろしくね〜」

「「「あ、はい……よろしくお願いします」」」

 流石のハイテンションに三人とも呆然としてるが、これくらいで驚

いていたら心臓が幾つあっても足りない。

「それで……そこの茶髪っぽいのがクー君の彼女さんで良いのかな

?」

「え、そうです……」

 いきなり話題を振られるとは思ってなかったのか、本音はいつもの

のほほん節じゃなくて、普通の言葉になってる。

「ふむふむ……」

 と、いつのまに移動したのか、ウサギは本音の体を舐め回すように

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じっくり観察すると、何を思ったのかうん、と頷いた。

「決めた!!えっと……君の名前は?」

「えっと……布仏本音です……他の人はのほほんさんとか本音って呼

んでます」

「じゃあのほほんちゃん、君にね──

                      ──私特製の専用機を作ってあげよう」

    

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            「「「「「はい?」」」」」

 うん、今ウサギは何と言った?専用機?しかもウサギお手製?直々

に造る?……うん

「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」」

 俺たち全員の心が一つになった瞬間だった。

「おいウサギ!!お前何言ってるんだ!!」

「だってクー君の彼女さんだよ?私が気に入ったクー君の彼女さんに

なら、私の機体をあげても差し障りないもん」

「いやいや!!というかコアは!?束さん、はっきり言って自前のコアそ

んなにありませんよね!?」

「だいじょーぶ!!あと予備のコアは30個近くあるから問題なし!!」

「「大有りだ(です)!!」」

 とりあえずおれはウサギに逆海老に固め、さらにシャルがヘッド

ロックを決める。

「イダダダダダダ!!ギブギブ!!ちょ、それは洒落にならないって!!」

「黙れウサギ!!というかなんで本音にIS渡すんだよ!!本音は代表候

補でもないんだぞ!?」

「話すから!!理由を話すから!!とにかく関節が色々と逝っちゃうから

離して〜!!」

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 仕方なく離してやると、ウサギは曲げられた関節に手をやって擦っ

ている。

「う〜、クー君やっぱり容赦無いよ。初めてあった時からそうだよね」

「んなことはどうでもいい。さっさと理由を話せ」

「そうですね、でないとまた……」

「分かってるからシャルちゃんは黒くならないで!!」

 なんでかこの作品だとウサギが突っ込みだったり犠牲担当だった

りするが、まぁ基本的に自業自得な面が多いから関係なし。

「それで理由だけどね、ほらクー君って男の子じゃん、けど今は女尊男

卑だよね」

「……お前のせいでな」

「まぁそこはいいから。それでね、もしクー君とのほほんちゃんが

デートなんかしてるときに、女権のテロ行動に巻き込まれたら何もで

きずに殺られちゃうでしょ?」

「……確かにな」

 俺自身、女権のテロ活動に何度か巻き込まれており、その度にシャ

ルに展開して貰ってから、隠れて『ルナーク』になるというのが毎度

だった。

「そうならない為にも、クー君の彼女であるのほほんちゃんには専用

機を持ってもらって、何かあったとき助けてあげて欲しいんだよ〜」

「……つまり、クロト君の彼女である本音ちゃんに、ボディーガードを

兼任してもらおうって、事で良いのかしら?」

「その通りだよ、確か17代目の楯無だっけ?先代さんはお元気?」

「ええ、母さんなら暗部の最前線からは抜けましたが、今でも元気で

す」

 ウサギがまともに言葉を交わしてるのに若干驚きながらも、とりあ

えずさっきの言葉の意味は分かった。

「それでどうかな、のほほんちゃん?受けてくれる?」

「……私なんかで大丈夫なんですか?」

 彼女の弱気な声が俺に伝わる。当然だろう、今まで知ってはいたも

のの乗る気はなく、寧ろ自分の主のための技術師となろうとしていた

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本音だ。当たり前に戦闘経験も無いし操縦もあくまで素人だ。

 俺自身、最初に機体を動かしたときは凄いと思うと同時に怖いと感

じた。もし絶対防御が効かなかったら、もし相手を自分の引き金で殺

してしまったら、そう考えるだけでびくびくした。だが、

「……本音、自分がどう思ってるのかはっきり言った方がいい」

「クロ君……」

「俺は、本当の事を言えば本音に無理をしてほしくはない。俺も男だ

からな、男なら彼女は何がなんでも自分の手で守るって思ってるし、

絶対に本音を傷つけないって誓える。

 ……けど、世界はそんな綺麗事を許してはくれない。俺もシャル

も、一度女権のせいで運命を狂わされそうになった。その時凄い悔し

かった、自分には何もできないのか、って。だから俺はシャルを助け

たあと、シャルを守るために技術者になろうと思った」

 だけど、

「だけど、本当に辛いのは、本音が、シャルが、望まない機体を持って、

それで自分を傷つけてしまう事だ。自分の事を偽って、他人からどう

思われたいからって嘘の仮面を被って、それで誰かに傷つけられる

……そんなのは一番嫌だ」

「クロ君……」

「だから本音、正直に言ってくれ。自信がない、上手くできるか分から

ない、本音を語ってくれ。そんで、自信がないなら俺や簪を頼ればい

い、怖いなら俺が慰めてやる。だから……」

 ──素直に、自分の言葉を言って欲しい。

 俺のその言葉が響いたのか、本音の目から溢れる涙が流れていた。

「クロ君……私、大丈夫だよ。クロ君の為なら、私は何時だって側に居

たいし、クロ君が私を守ってくれるように、私がクロ君を支えてあげ

たいって思うから」

「本音……」

「だからね、束さん。その話、受けさせてください」

 その時の本音の顔は、涙で濡れて、目は赤くなっていたが、彼女の

本心を漸く皆に話せた瞬間で、俺の心は、目は、彼女以上に染みてい

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た。

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Episode33 動き出す者達

 「あー、暇だな〜」

 クリスマス近くから既に約一ヶ月、日本ではそろそろ高校受験の二

次試験の真っ最中だろう。各言う俺も、ハイスクールの受験勉強をし

てる連中を見ながらホットドッグをかじる。

「珍しいな、クロトがそんなことを言うなんてよ」

 目の前には友人のディオが、難しい参考書片手にエッグマフィンを

食べてる。

「そりゃあよ、俺は他の連中と違って内定が決まってるからな。やる

勉強も無いから暇で暇で」

「あー、そういやお前の親父さんフリーデン社の社長だもんな。良い

よな〜自分の親の会社に就職なんて、しかも旧デュノア社から続く大

企業だし」

「お前だって、国立の偏差値高い大学の推薦貰ってるじゃないか」

 そうは言うがよ〜、とディオは溜め息を付きながら言う。

「推薦は推薦でも一般推薦だからな。良いよな〜お前は、しかもシャ

ルっちは春から日本のIS学園に通うんだろ?」

「それな、ほんとそれ。まぁフランスの代表候補生だし、うちのテスト

パイロットもやってるから妥当な所なんだけど」

 最近では愛機の『C・Vカスタム(シャル自身はベルフェって呼ん

でるが)』と一緒に、現フランス代表と戦って互角に渡り合った為に代

表になるのではと言われてる。

「しかもお前は日本で彼女作ってと、リア充だなぁオイ!!」

「ほっとけ。っとメールだ」

 慌ててメール内容を確認すると、送り主は親父だった。

「なになに……急いでテレビのニュースを見ろ?」

「なんだ?何が起こった?」

 俺たちは何事かと思ってスマホのテレビモードを起動させる。数

秒経ってニュース画面にすると、親父の言う内容がよく分かった。

『再びお伝えします。日本時間で15時近く、世界初の男性IS操縦

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者が見つかりました。名前は織斑一夏、及び織斑春秋の2名で、あの

ブリュンヒルデである織斑千冬の弟であるそうです。日本政府はこ

れにより──』

「ま、マジかよ……」

 ディオはまるであり得ないとでも言うような表情で震えてる。

「そういうことか……(原作の開始はこの日だったのか……)」

「おいおい、何をボンヤリしてるんだよクロト、こんな大ニュース、世

界中探してもそんなにねぇぞ!!」

「あ、あぁ……ていうか、驚きが凄すぎて……」

 まぁ確かにな、というディオはまるで世界が変わるといった表情を

してる。

「もしこれを期にISを使える男が現れたら、今の女尊男卑を言って

る奴等は暴走する。下手すりゃ世界戦争に成りかねねぇ!!」

「……まぁ、大袈裟じゃないからな」

 実際フランスでも多かれ少なかれテロ活動が行われ、その度に一般

人が女権の連中によって殺されてる。ICPOとか政府組織も問答

無用で壊滅させたいと言ってるのだが、女権の中にはテロではなく、

男性によって心理的外傷を負った女性を保護する団体まであるため

に、中々強制摘発できないのが現状らしい。

「それに、日本に居たなら俺たちのいるフランスにも居る可能性だっ

て否定できない。つまるところ……」

「あぁ……確かにな」

 現に原作には居なかった俺や『織斑春秋』、さらに『藤原総士』とい

うイレギュラーが存在するということは、他にも転生した人間が居な

いとも限らない。

「始まった……始まっちまったんだ」

 そう、世界は止まることはない。常に加速していく……それが希望

か絶望かは、人類には未だに分からない。

  フリーデン社

「オーちゃん!!急いでIS学園にいく準備をしてくれない!!私はクー

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君の方で色々とやらなくちゃいけないから」

「分かってる、今回の騒動で恐らくアイツらも動いてくる……そう

なったら」

「そうね、私の方から千冬に連絡しておくわ。学園も腕のたつ人材が

欲しいところでしょうしね」

 裏に身を置いていた三人も動き始める。自分達の理想を守るため

に「……そういや久し振りに会うことになるな……マドカ」

  日本 海鳴市

「そうか、一夏達が……」

 篠ノ之箒は驚いた。そして同時に嬉しくも思った。

「もうすぐ会えるな……そうだろ?」

『Yes. My lord!!』

  中国

「一夏達が!!」

 凰鈴音は驚愕した。たった数年の友達がまさかISを動かすなん

て思っても見なかったからだ。

「そういえば国から学園に行けって言われてたっけ……いい機会ね!!

今度こそ……」

  イギリス

「日本で初のIS乗り……しかもあのブリュンヒルデの実弟ですの」

 セシリア・オルコットは微笑んでいた。それは格下を見下すそれで

はなく、どれ程の実力かを知りたいと見る目をしていた。

「……恐らく彼も来ますわよね……クロトさん」

  ドイツ

「学校……ですか?」

「ふむ、ボーデビッヒ少佐、君は先程のニュースを見ただろ?君には日

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本のIS学園に行き、我が国の第三世代機のテストをしてもらいた

い」

 ラウラ・ボーデビッヒは嗤っていた。まさか目的の方から来てくれ

るとは思っても見なかったからだ

「分かりました。ラウラ・ボーデビッヒ、これよりその任を受けさせて

もらいます」

  更識家

「へぇ……織斑千冬の弟が……」

「てことは、クロ君も来るかもしれないね〜かんちゃん」

「そうだね、本音」

 彼女達も動き出そうとしていた。親友と、そして大事な人が来るか

もしれないという事実によって

「私、頑張るから……」

「かんちゃん、私達、だよ?」

「そうだね……私達のタッグなら、誰にも負けないから」

  それぞれが、それぞれの目的の為に動き出す。しかしそれは──

 ???

「──そう、もうあの日になったのね」

「ええ、ええ分かってるわ。だからこそ、私はこの世界を……」

  闇も同時に動き出す。

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第四章 原作開始

Episode34 お約束の……

 「「「「「……」」」」」ジ〜〜〜〜〜〜〜

(ヤバイ、滅茶苦茶視線が……)

 さて、あの事件から約二ヶ月が過ぎ、俺は今、世界最高峰のハーレ

ム空間……否、地獄に居た。

 いや実際四十人近い人数でその中に男が俺と、もう一人の『織斑』こ

と織斑春秋だけとか地獄以外何物でもないから。隣に居るシャルは

苦笑いだし、後ろの方に座ってる本音なんか同情の目を向けてくる

し。そんでもって

「さて、お前ら良くIS学園に入学してきた。まずはおめでとうと言

おうか!!」

 担任が何をとち狂ったか分からないが、なんでオータムなんだよ!!

それでいいのか元亡国機業幹部!!

「アタシがこのクラス、一年三組の担任のオータム・ミューセルだ。副

担は今用事があって来れねぇが、まぁ問題はねぇだろ」

((いや大有りでしょ))

「とりあえずホームルームだしな……簡単に自己紹介からやってもら

おうか。まぁ最初は当然、ブリュンヒルデの弟の一人にやってもらお

うか」

「……はい」

 もうどうにでもなれという表情で立った春秋の顔を良く観てみる。

原作の一夏よりは長いが、それでも長髪とは言えない黒髪に、千冬似

の鋭い目、IS以外でもそれなりに武術をやっていたような貫禄は同

い年ながら存在していた。

「皆さん知っての通り、姉さん……織斑千冬の弟の織斑春秋です。趣

味は柔術と読書で、目標は二人の兄と姉を超すこと……ですかね。以

上です」

 なるほど、紹介を聞いただけで良く分かる。こいつは紛れもなく

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『転生者』だということが。

 織斑千冬は紛れもなくISでは自他共に認める天才であることは

有名だ。ブリュンヒルデと唄われた第一回モンドグロッソでは、その

当時第一世代型の愛機『暮桜』を使って、相手の当時第二世代専用機

だったイギリスのチェルシーさんが操った遠距離型の『ブルー・ロー

ズ』を剣一本で互角の勝負を繰り広げ勝った事からも良く分かる。

 さらに織斑一夏、これもまた別の意味で天才だろう。原作では戦闘

経験こそ少ないものの、他人の行動を短時間で予測したり、少ない時

間で高難度の『瞬間加速』を覚えたことからそうわかる。

 それを超すということを目標としてる。つまりは自分は負けない

という自負を持ってるからこそ言える台詞なんだろう。

 ってあれ?なんか女子が一斉に黙ってるしって……このパターン

は!!

「「「キャァァァァ!!」」」

「「ウギャ!!」」

 出ました。ISお約束の黄色い声ソニックウェーブ!!つうか窓ガ

ラス普通に振動してるし!!

「真面目系のイケメンよ!!」

「しかも織斑先生の実の弟!!」

「今年に入学できて良かった!!」

「今年の本は兄×弟で決まりね」

「違うわ、もう一人このクラスに男の子が居るということは」

 おう、自己紹介一つでここまで女子がトリップするなんてな……こ

りゃ俺の時は確実にヤバイ……。あとお願いだから俺を薄い本の題

材にするな!!

「OK、ならその事を千冬のやつに伝えとくからな」

「ちょ!!流石にやめてください!!俺が酷い目に会うんで!!」

 ……なんだか良く分からないが、まぁ良いだろう。

「じゃあ男子繋がりで俺も紹介良いですか?」

「お?良いぞ。サクッと頼むぞ」

 なんだかぞんざいに扱われてる気がするな……。今度スコールに

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頼んで給料カットしてもらおうかな。

「とりあえず、自分はクロト・D・フェブリエ。フランスのフリーデン

社の所属で、一応社長の実子です。趣味は料理と機械弄り、目標は平

穏無事な生活です」

 それを言った瞬間に周りが再び静まる。あ、このパターンはあれだ

な、耳をふさg「「「「キャァァァァァ!!」」」」

「ぬぉぉ、またか!!」

 まさか行動する前に発動するとは思わなかった。あれか、ミラフォ

か!!俺の耳を塞ぐという行動に対して発動するものなのか!!

「爽やか系のイケメンよ!!」

「しかも御曹司!!」

「グフフ……これで春×クロ、いえクロ×春ネタは描けるわ!!」

 だから最後の女子!!俺をネタに薄い本を作ろうとするな!!こりゃ

釘を刺しておかないとな。

「一応言っておきますけど、既に彼女持ちですから薄い本とか止めて

くださいね、妹の教育にも悪いですし」

「「「な、ナンダッテー!!」」」

 まさかそう返されるとは思ってなかった俺は逆にたじろぐ。個人

的にはガッカリされるのが一番良かったのにこの対応なんだ、逆に悲

しくなってきた。

「カッカッカ!!残念だったな餓鬼ども、出会いが一つ頓挫してな!!」

「えっと……先生?そこは納める立場なんじゃ」

「いや、むしろこの状況を肴に酒でも飲みたいくらいなんだがなw」

((人の不幸をなんだと思ってんだ!!))

 もうこの一年近くで馴れたが、やられる方は堪ったもんじゃない。

「まぁ他の女子達の紹介は後で良いだろうな。ともかく、これから少

なくとも一年はこのクラスで過ごすことになる、全員仲良く殺れよ」

「「「はい!!」」」

((((なんか文字が物騒なんですけど!!))))

  

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  休み時間、俺は漸く休めると思って体を倒してる。

「ちょっといいか?」

 と、テンプレのように春秋が近付いてくる。

「……これで大丈夫に見えるならまず眼科へ行け」

「言ってくれるなぁ……とりあえず二人で話をしたいんだが」

「……良いだろう」

 そう言って俺は席を立つ。次の時間までそれなりにあるため、俺た

ちは揃って屋上の方へと向かう。途中女子からの視線が怖かったが、

気にしても仕方ないと割りきる。

「……で、話ってのは?」

「ま、互いに分かってるだろうけどさ、お前もだろ?転生者」

 やっぱり、というべきか予想は当たっていた。ということはつま

り、

「……俺がそれだっていうその根拠は?」

「一つ、お前がフリーデン社の社長の息子だから。あそこは社名は変

わったけど、人事のほぼ全ては旧デュノア社の人間がそのまま残って

る。ということは社長はデュノア社の社長だった人物、つまりシャル

ロット・デュノアの父親だ」

「……」

「二つ、フリーデン社の名前だ。俺の覚えてる限り、フリーデンっての

は戦艦だ。しかもあるアニメのな。そして第三に去年の冬に起きた

『EUISコンペ強襲事件』の際に、巨大なレーザー兵器が射たれたっ

ていう目撃情報がある。つまりは──」

「OK、隠しても無駄だな」

 まさかそこまで思慮深いとは思ってなかった。こいつはもしかし

て頭脳担当系の転生者なのか?

「想像の通り、俺も転生者だ。機体は想像の通り『ガンダムX』こと『月

下銃士』、正式名称は『ルナーク』だ。もっとも、そっちは有名すぎて

ここではあまり使う気がないがな」

「そうしてくれ、あんな出力のエネルギーを戦闘で使われたら為す術

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無いからな」

 おどけて言ってるが、その目は確実に獲物を狙うハンターの目だっ

た。

「それで、お前の機体は……いや、聞かないでおこう。楽しみが減るか

らな」

「そうしてくれ、というつもりはない。そっちの機体はあれだろ?『イ

ノベイク』とかいうやつ。内容がバレてたら詰まらないからな」

 ヒントをやる。といってやつはあるものを取り出してきた。それ

は金色に輝く鳥のような……ってまさか!!

「おいおい……まさかのあの作品からかよ」

「といっても外伝の機体だがな。そういうわけだ、戦いの時は正々

堂々殺らせてもらうよ」

 そう言って春秋は離れていく。が、俺は未だに動き出せない。まさ

か──

「……どんだけここに来る転生者はティターンズ寄りなんだよ」

 俺は苦笑を浮かべる他がなかった。

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Episode35 きっとな

 「「「「……」」」」ジー

(どうしてこうなった?)

 俺、織斑一夏は今現在かなり疲れていた。肉体的ではなく精神的

に、いや、もしかしたら両方かもしれない。

 そもそもの発端は二ヶ月ほど前のあの日、春秋と共に藍越学園の受

験に行った際に、何故か会場で迷ってしまい、適当にドアを開けたら

ISが鎮座してて、それに見惚れて触ったのが運の尽き、結果が今こ

の場所、IS学園にマドカも揃って三人仲良く放り込まれた。

(助けてくれ箒!!)

 もう自棄になって幼馴染みの少女にアイコンタクトをしてみると、

逆に今は耐えろと切り捨てられ肩透かし、もうドン底だった。

「大丈夫、一兄さん」

「マドカ……お前が唯一の救いだよ」

 隣で心配してくれる妹に心で涙を流す。弟の方はどうやら三組に

なってしまったので、昼休みと放課後以外で顔を合わせる事が出来な

いのだ。

「全員そろってますねー。それじゃあSHRを始めますよー」

 と、漸く先生が入ってきたと思って前を向くと、少しだけ眼を瞑っ

た。別に半袖にカーディガンというのは構わないんですが、もう少し

自己主張の少ないものに出来ないんですか。どことは言わないけど。

「兄さん?」

「……いえ、何でもないです」

 マドカからの冷たい目線を受けて俺は身を縮ませる。何故だ?

「このクラスの副担任の山田真耶です。皆さんよろしくお願いしま

す」

 と、ありがたいお言葉を戴いてるというのに、クラス全員が全くの

無反応。というか先生の言葉より俺に対する視線の方が興味の対象

は上なのか?

「えっと……よろしく……お願いします」

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 先生の方も無反応とは思ってなくて、再び言うもまた無反応、これ

には流石に同情する。ていうか俺への視線をいい加減にやめてくれ

ないですかね。無理だろうけど

「……グスッ……と、とにかくみんなの自己紹介からしましょう!!」

(教師ってのも苦労するんだな……)

 まぁその理由のもとが自分なんだから何とも言えないんだが。

「それじゃあ織斑君、自己紹介お願いします」

「あ、はい……」

 とまさかこんなに早く来るとは思ってなかったので、とりあえず

立ったは良いものの、内容なんて一切思いついていない。

「えっと……織斑一夏です……以上です」

「「「「ズコッ!!」」」」バタン!!

 言った瞬間にクラス全員がずっこけた。え、俺なんかやった?

 と、その時頭に鋼鉄のような何かが振り落とされた。

「いってぇ!!」

「全く、自己紹介すらまともにできんのかお前は」

 聞きなれた声にまさかと振り返ってみると、そこには

「げ、モノ○マ!!」

「誰が超高校級の絶望だ。しかも中の人ネタはするな馬鹿者!!」

「いやそれもメタイタ!!」

 俺の突っ込みに再び先程の得物……いや出席簿という名の破壊兵

器が振り落とされた。地味どころか普通に痛いんだけど!!

「やれやれ……すまんな山田先生」

「い、いえ、それよりもう終わったんですか?」

四・

人・

「あぁ、何せ今年は男子操縦者が

も居るからな。それに関する話

で時間が掛かってしまった」

 ……あれ?なんかさらっと重要発言しなかったか?四人?俺と春

秋と……他に二人も居るのか!?

「さて、私が担任の織斑千冬だ。お前らをこの一年でまともな操縦者

にするつもりだ。返事ははい、イエスしか認めん。嫌でもイエスと言

え、いいな」

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 いやそれ横暴でしょ。そんなこと言われたって誰も

「「「「キャァァァァァァァァァァァ!!」」」」

 と思ったらまさかの黄色いソニックウェーブ!?そうだった、千冬姉

はブリュンヒルデとして世界中にファンが居るから、こうなるのは目

に見えてた。

「本物の千冬様よ!!」

「私、千冬様に会うために北九州から来ました!!」

「御姉様!!もっと私たちを罵って!!」

 あぁ……これが所謂千冬信者ってやつなんだな……ドンマイ。

「やれやれ、私の受け持つクラスは毎回こうなのか?」

「アハハ……」

 あ、これが毎回なのね……ホント、ドンマイ千冬姉。ていうか未だ

にマドカ以外の女子からの千冬姉へのラブコールが鳴り響いてるん

だけど?

「とにかく、自己紹介はあとは自由にやれ。授業は明日から本格的に

行われる。今日はゆっくりするといい」

  「はぁ……疲れた」

「大丈夫、一兄さん」

 休み時間、もう回りからの視線に疲れ果てて机に突っ伏す。クラス

内だけでなく、二年生達上級生まで集まってるのだから、俺は客寄せ

パンダかと言いたくなった。

「もうやだ……お家帰りたい」

「どうどう、大丈夫だよ。一兄さんには私が居るんだからね」

「……ちょっといいか?」

 と声をかけてきた人物に頭を上げると、そこには先程アイコンタク

トして見捨てた箒が目の前に居た。

「箒……」

「久しぶりだな一夏、ところでそっちのは?」

「織斑マドカ、俺の義理の妹」

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「……また姉さんが原因か?」

 もう諦めたというように箒はガックリと肩を落とす。

「えっと、あなたが篠ノ之箒さん……ですよね?」

「あぁその通りだ。少し一夏と二人で話をしたいんだが……いいか

?」

「あ、はい……別に構いませんよ」

 すまないと箒は言うと、俺も仕方なしに立ち上がり廊下へ向かおう

とした瞬間、彼女に襟首を掴まれる。

「何処へいく?」

「いや、屋上に行こうと……」

「恐らく屋上に行くまでに女子に捕まるだろ。そんなくらいなら」

 そう言って掴まれたまま窓際に移動すると、少し嫌な予感が生まれ

た。いやまさかありえないだろ、そんなこと──

 そんなことを思っていると、お約束通り箒は窓から俺を連れて飛び

降りた。うん、

「嘘だぁぁぁ!!」

「────飛燕、飛行魔法をステップに」ボソ

『Yes.Lord』

 死んだな、そう思っていると突然空気抵抗が無くなり、やがてゆっ

くりと足から地に降りる。

「さて、これで邪魔は入らないな」

「……箒、もう少し常識を考えろよ」

「すまないな、私が居たところではこれくらいできなければ、精神的に

やっていけないのでな」

「どんな環境だよ……」

 千冬姉も束さんも何処かずれてたけど、まさか箒までこうなるなん

て……あれ?これ俺もなるフラグ?

「兎も角、久しぶりだな一夏」

「……そうだな箒」

 とりあえず挨拶を交わすも、そこから互いに言葉が出なくなる。と

いうか何を話していいのか分からないというか……

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「……災難だったな一夏」

「え?」

「なに、一夏はISに関する事件に事欠かないからな、昔から」

「あー、もしかして箒も知ってるのか?あの事件」

 日本では新聞に一切載ってなかったが、第二回モンドグロッソの際

に、俺は女性権利団体の連中に誘拐された。弟の春秋を逃がせたお陰

で、俺が誘拐されたことを通報してもらえて何とかなったが、それで

も結果として千冬姉を決勝を辞退することになってしまった。

「まぁな、姉さんに会った際に、教えてもらった」

「まぁ、確かにな……今回の事といい、前の事といい、ISと関わって

良いことなんか無かったかもな」

「……なら、一夏は今……」

「そこまでだ箒」

 彼女の続く言葉を無理矢理止める。

「俺は後悔してないさ。確かに巻き込まれたのは不幸だったかもしれ

ないけどさ、それも何かの運命かもしれないなら割りきれるよ」

「運命……か」

「あぁ、きっとな」

 俺はそう言って微笑みかける。箒は少し驚いた顔を見せるが、やが

て苦笑を浮かべた。

「さて、じゃあ授業もあるし戻るか」

「そうだな。では先ほどとは逆のやり方を」

「……ごめん、それだけは勘弁してくれ」

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Episode36 

 「あー、これからクラスの代表を決めようと思うんだが、自薦他薦問わ

ずさっさと言いな」

 何とも疲れたような声でオータムは言うが、これを適当に言われる

のはかなり困る。俺の精神衛生上特に。

「誰でも良いから名前を上げてみな?ほれほれ」

 だから煽らないでくれよ!!

「クロト君が良いです!!」

「私も!!」

「うんうん!!」

 はいやっぱり来ましたね分かります。なら、

「……俺は春秋に一票」

「げ!!逃げれると思ったのに!!」

 どうやらアイツは俺に擦り付けるつもりだったようだ。全くもっ

て許しがたい。

「悪いな、男がもう一人いるんだから使わない手はないしな」

「ぐぅ……面倒ごとは嫌いなのによ……」

「カッカッカ!!なら男二人だけで良いのか?他に推薦するやつは居な

いか?」

「……なら私も!!」

 と、手を上げたのはシャルロット……ってヤバイヤバイ!!

「あのぉ、シャルロットさん?本気で仰有ってるのでしょうか?」

生徒人

「大丈夫だよクロト兄、少なくともここにいる

たちよりも強いっ

て自負はあるから」

 その言葉に回りに居た女子達がピクリと頬をひきつらせる。まぁ

そりゃ彼方からしたらどこぞの誰とも知らない馬の骨が自分達より

も強いと平然と言ってのけたんだ、当然ながらいい反応をするわけが

ない。

「あのシャルロットさんでいいのかな?」

「うん、大丈夫だよ。君は?」

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「私は相沢亜香里、それでシャルロットさん?それって私達が弱いっ

て言いたいの?」

 その質問をした少女に俺はため息を付きたくなった。が、それに答

えたのは俺にとっても意外な別の人物だった。金

色の悪魔

オル・ドゥ・デビル

「そりゃそうだろ。何せそいつはフランスの『

』って呼ばれ

る奴なんだからな」

 そう、まさかの春秋だった。しかもこの世界のシャルの公式の二つ

名まで知ってやがった。

「オル……ドゥ……?」

「オル・ドゥ・デビル、日本語では『金色の悪魔』、ついたのは最近だ

けど、その専用機の破壊力とパイロットの操縦センスに、現役のフラ

今まで操縦したことない

ンス代表と互角に渡り合ったって話だ。

操縦になれてる奴

お前らが、

に敵うわけないだろ」

 奴の説明に相沢さん含めシャルを見てたメンバーが一斉にシャル

を再び見る。しかしその目は寧ろ驚愕という色が大きかった。

「ついでに言えば、そこのクロトはその金色の死神の実兄だ。少なく

ともIS使わない体術や剣術とかなら、軍人相手でもないかぎり勝て

目・

立・

ち・

た・

が・

り・

ど・

も・

るわけない。言いたいこと分かるか、

?」

 まさかかのブリュンヒルデの実弟にそんなことを言われるとは

思ってなかったのか、相沢さん達は苦虫を噛むように席へ座る。

「お前……」

「なに、同じ境遇の奴の妹が周りから浮くのは忍びないと思っただけ

だ」

 まぁこいつが言わなかったら俺が言ってたとこだから問題はない

んだが、少し毒が強いんじゃねぇか。

「んじゃ、うちのクラスから候補者は三人か……クロトもシャルロッ

トも専用機は持ってるみたいだが……春秋、お前は?」

「もうあります。つい最近兄と一緒に渡されましたから」

「ならよし、だったら明日早速使えるように手配しておく。ルールは

……うん、一対一のソロマッチでいいな?」

「「「はい!!」」」

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   一夏side

「まずクラス代表を決める。クラス代表は文字通りクラスのリーダー

となる生徒だ、自薦他薦は問わない」

 千冬姉のその言葉に、大半の女子が俺に一斉に目を向けてきた。

「織斑くんが良いです!!」

「私も!!」

「同じく!!」

 はい、やっぱり来たよ。予想はついてたけどホントに言うんだな女

子って。

「待ってくれ千冬姉!!アギャ!!」

「織斑先生だ、言っとくが推薦を受けたんだ、拒否権は無いぞ」

「そんな……」

 ガックリと項垂れる俺を見もせず、女子達は一層俺が良いと騒いで

る。うん、もうどうにでも……

「……私も自薦というか、意見をしたいのですが、よろしいですか?」

 と、一人の女子生徒が手を上げる。殆ど決まりかけてた空気の中で

まさかの事に皆驚いてる

「ふむ、イギリスのセシリア・オルコットか。自薦というんだから、そ

れなりに理由はあるんだろうな?」

「はい。その前に質問を、織斑……一夏さんはまだ殆どISを動かし

たことが無いんですわよね」

 その質問に俺はコクりと頷く。実際ISを動かしたのは二、三回ぐ

らいだし、時間も一時間そこらぐらいだ。

「私自身、一夏さんがクラス代表になる事じたいは賛成してますが、そ

れでもやはり素人、学校内でクラスの代表として戦うには実力不足だ

と思います」

「……つまり、一兄さんが弱いって言いたいの?」

 これには流石にキレたのか、マドカが睨み付けている。

「そうではありません、ですが学校のイベントスケジュールには、数週

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間後に一年生のクラス代表トーナメントがあります。そこまでに勝

ち上がる実力を付けるのは難しいといってるのです」

「それって、つまりは一兄さんが何もできずに負けるって言いたいだ

けだよね」

「なら教えておいてあげます。少なくとも三組……代表がフランスの

クロト・D・フェブリエないしシャルロット・D・フェブリエがなれ

ば、運が悪ければ間違いなく……」

 死にますわ……、彼女のそこ言葉に全員が押し黙った。

「死ぬって……ISには絶対防御があるじゃん」

 女子生徒の一人があり得ないとでもいうが、セシリアの目は冷やか

だった。

テ・

ロ・

と・

い・

う・

実・

戦・

「言っておきますが、彼らは少なくとも既に

を経験し

てるんです。その中でテロリストを倒し、中には殺しもしてます。そ

んな人間に勝てると思いますか?代表候補生の私でも五分に持ち込

めれば良いところでしょう」

 俺を含め、全員が想像してみる。が、誰も彼も暗い表情を浮かべる

だけだった。

「分かりましたか、はっきり言って実力が無ければ負けるんです。そ

して負けは戦場では死を意味する……それでも」

「そこまでだオルコット」

 そこで千冬姉が待ったをかけた。その表情も疲れたそれと同じで、

厄介になったとでも言いたいようなそれだった。

「つまりはまず、その二人の実力に追随できる実力へ押し上げるのが

先決……そう言いたいのか?」

「ええ、ですので織斑先生、私と一夏さん、二人で試合をさせてもらい

たいんです。実力を付けさせる為に」

「……織斑、お前はどうする」

 千冬姉が俺に聞いてくるが、俺の中の答えは決まっていた。

「……拒否できないって言ったの、千冬姉……織斑先生だろ?」

「よろしい、なら一週間後に試合を行う。ついでに今しがた、例の三組

の方で明日試合をすると来たからな。メンバーは、織斑春秋、そして

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──」

 ──フェブリエ兄妹だ。

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Episode37 適性検査

 「……なぁ、ここは俺の部屋だよな?」

 放課後、オータムから渡された寮の鍵を受け取って荷物整理をしよ

うとしてたんだが、

「なんで男組全員がここにいるんだよ!!」

 そう、一夏、春秋、そしてどうやら二組の代表になったらしい総士

がなぜかここに集合してた。

「まぁ同じ境遇なんだし、自己紹介含め親睦を深めようと思って」↑一

夏「俺は一夏兄さんに無理矢理連れられて、」↑春秋

「僕はただ単に部屋が一緒だから」↑総士

 総士はともかく織斑兄弟、お前らはプライベートタイムという言葉

を知らんのか。まぁ近々俺も似たようなことをしようと思ってたか

ら別に構わないが。

 流石にお茶とかは用意してないから、織斑兄弟には机の椅子にとり

あえず座ってもらって、俺も窓際のベッドに腰を掛ける。

「……で、だ。誰から自己紹介するんだ?」

「そこは言い出しっぺの一夏兄さんじゃね?」

「当然の流れだよね」

 そうして俺ら三人がジトリと睨むと、奴はため息を一つ付いた。

「あー、もう分かってるとは思うけど、織斑一夏、日本生まれ日本育ち、

クラスは一組で、趣味は料理……こんなんでいいか?」

「良いと思うよ、じゃあ続いて俺が一夏兄さんの弟の春秋、趣味は柔術

とか武術、暇なときはサイクリングとかもしてるな。クラスは三組」

「じゃあ続いて、俺はクロト・D・フェブリエ。フランスの田舎町出身、

趣味は料理と機械いじりだ。クラスは春秋と同じく三組」

「なら最後は僕だね。名前は藤原総士、名前の通り日本出身、趣味は釣

りとサバゲーかな。クラスは二組で、成り行き上クラス代表になって

ます」

 総士はそれはもうどんよりとした空気を醸し出しており、事情とい

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うか原作を知ってる俺と春秋は軽く同情した。

「それで、とりあえず自己紹介はすんだけど、これからどうする?」

「う〜ん、まだ夕食にも早いからな……あ、そういや部屋割りって春秋

達って同室なのか?」

 俺は原作を思い出して聞いてみると、これまた春秋の方はどんより

としてる。

「あー、いや。残念なことに俺と兄さんの部屋は別で、俺は一人部屋な

んだよ……」

「「あ……(察し」」

 今度は俺と総士が同情した。これまた暫くしたら彼女がやって来

るのを知ってるため、色々と大変な予感がした。

「それじゃ、僕のちょっとした適性検査でもやってみる?」

「「「適性検査?」」」

 総士の言葉に俺達は異口同音で聞き返す。

「うん、僕の知り合いから教えてもらったやつでね、ちょっとしたゲー

ムでの立ち回りに関する質問で戦闘スタイルとか個人の治すべきと

ころがそれなりに分かるんだ」

「ふーん、面白そうだな」

 俺が若干興味をもつと、総士はこれ幸いと笑顔を向ける。実際こう

いった質問で適正を図るやり方は結構存在してるから、かなり面白そ

うだ。

「それじゃあ簡単に五つ、選択肢のある質問をするから、三人は直感で

答えてね」

「「「おう/あぁ/いいぜ」」」

「じゃあ一つ目、ドラ○エみたいなRPG系ゲームで、自分が選ぶとし

たら三つのうちどれをえらぶ?①戦士、②魔法使い、③僧侶」

 一つ目の質問はある意味オードソックスな質問だった。

「俺は魔法使いだ。呪文とか唱えるの面白そうだし」↑俺

「戦士だな。やっぱ剣で戦いたいから」↑一夏

「俺は僧侶。戦士も良いけど、回復やバフは必要不可欠だし」↑春秋

(以下同じ順番)

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 と、初っぱなから三つに別れた。まぁ一夏が戦士を選ぶのはだいた

い予想は出来てたけど。

「じゃあ次、今度は対人FPS……つまりシューティングゲームで自

分が使いたい得物は?①ハンドガン、②、アサルトライフル、③スナ

イパーライフル」

 今度は少しだけマニアックな質問をしてきやがった。

「……俺はアサルトライフルだな。ハンドガンより弾保ちが良いし、

スナイパーライフルみたいに扱いが難しく無いからな」

「俺もアサルトライフル、ハンドガンも良いけどあれって一発で倒す

のは難しいって聞くし」

「俺はスナイパーライフルだな。無防備な相手をヘッドショットした

ときなんかスゲェ快感があるし」

 今度は春秋だけが別の方向へ行ったが、まぁ予想の範囲内だろう。

「そんじゃ次だ。今度はポケ○ンとかそういうので、最初に選ぶのは

どれだ?①炎、②水、③草」

 これまた王道、しかしこの質問は結構人によってばらつきがあるた

め、結構別れやすいものだ。

「俺は草だ。火力は火に劣るし応用では水に負けるけど、草は連続攻

撃とか自己回復系の技を覚えるのが多いからな」

「俺は炎!!一発の火力が文字通り大きいし、何より映像が格好いいし

!!」

「俺は水だな。確かにそこまでの派手さは無いけど、そのぶん堅実な

戦い方ができるし」

 そして予想通り三人とも別れる。まぁ元々俺は絶対草を選ぶって

決めてるし、草タイプサイコー主義だし。

「じゃあ四つ目、今度は謎解きゲームで、問題に行き詰まった時どう行

動する?①直感で行動する、②ヒントにすがる、③自力で解き明かす」

 うわ、これはこれで面倒な質問だ。どれもプレイヤーなら必ずはや

る行動だし、結構これも別れやすい質問だ。

「俺はヒントを使う。あるものは使うし、使わなきゃ損だろ?」

「俺は自力だ。ヒントを使うかもしれないけど、その前に自分で解け

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ないか考えるのが醍醐味だし」

「俺はヒントを使うよ。理由はクロトと同じ、あるのは使ってこそだ

し」

 ……どうやら一夏は直感で行かないようだった。原作通りなら直

感に頼って行動すると思ったが、それと同時に、一夏は結構観察力と

か洞察力が高かった事を思い出した。

「んじゃ最後だ。最後は格ゲー、自分が使うならどれだ?①癖は強い

が当たれば大きいパワー型、②全体的に平均的なバランス型、③パ

ワーはそこまでだがコンボを繋ぐスピード型」

 最後、これもまた王道、故に自分の性格が一番よく現れるとされて

る。

「俺はスピード型だな。パワー型は隙が大きいし、バランス型は決め

手に掛ける時があるし」

「俺はパワー型。格闘ゲームなんだからパワーのぶつかり合いこそ花

形だろ」

「俺はバランスだね。決め手に掛けるけど、その分癖がないから扱い

やすいし」

   質問を終えた俺達は総士の事をみる。肝心の主は成る程と少し考

えると、フッと笑った。

「うん、皆の適正がよくわかったよ」

「そうか、なら早速判定してもらってもいいか?」

 春秋がそう聞くと、彼はコクりと頷いてまず俺を見る。

「まずはクロト、君は中遠距離主体の射撃型だね。魔法使い、アサルト

ライフル、この二つから特に射撃ないし遠距離での戦い、それも短期

決戦を好む。違うかい?」

「……当たってる」

 実際俺はスピードを活かした攪乱&奇襲を主体としてるつもりだ

し、『イノベイク』の武装も射撃武器を主体にしてる。

「しかも場が混乱してれば尚の事、自分が使えるのは例え敵が捨てた

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ものでも使う。けどその分、組織だった相手は苦手で、長期戦を持ち

込まれたら即アウト……でしょ?」

「正鵠を射過ぎてて逆に気持ち悪いわ、認めるけど」

「そりゃどうも、だからクロトは正攻法でも勝てる戦い方を覚えるの

が重要になるよ、今後は特にね」

 胸に留めておく、と言って俺は肩を落とした。

「次に一夏、君は完全な近接格闘型、それもパワー主体のね。一撃一撃

が高パワーな攻撃を好むけど、それ以上に周りが見えないタイプだ

ね。クイズでの要素が特にそう」

 言われてる一夏はそうか?と首を傾げてるが、これに関しては俺も

そうだと思ってた。

「戦士、炎、自力、そしてパワーと近接型の四拍子揃ってるからね。だ

から一夏の場合はタイマンとかならまだチャンスはあるけど、それ以

外なら真っ先に落ちるタイプ。周りを見て、自分が何をするべきか考

えることが一番重要だね」

 ここまで言われて漸く分かったのか、一夏は成る程と頷いてる。

「それで最後は春秋だけど、君は完全な遠距離支援型、自衛はできるけ

ど基本的に他人のサポートに回ってるって感じかな。けど潜在的に

はバランス型で、どれも鍛え上げれば一級品クラスにはなる」

「まぁ一夏兄さんの学校での後処理やらなんやらで、色々と大変だっ

たからな……」

 弟の呟きに兄の方はなんの事かさっぱりといった表情で、俺個人と

してはその苦労に少しだけ頭が下がる思いだった。

「けど他人をもり立てすぎて自分の事をおざなりにしてる。というか

自分自身を卑下してるのかな?だから春秋の場合は自分に自信を持

つことを始めたほうがいいよ」

「……おう」

 春秋は何かを考えるそぶりをすると、丁度良く時計が六時の音を鳴

らした。

「……そんじゃ、夕飯に行くとしますかね」

「「「賛成!!」」」

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Episode38 クロトvs春秋 前編

 「ひゃぁ……観客多いなおい」

 俺はピットからスタジアムの様子を見てそう呟いた。どうやら一

年の全クラスの生徒が居るらしく、これでもかと満員になっていた。

「クロ君、機体のチェックしたけど、これで大丈夫?」

 と、心配した本音が声を掛けてくる。現場での臨時メカニックとし

て連れてきたのだが、どうやら俺以上に緊張して見えた。

「今のところは問題ない。本音の実力なら俺が疑う必要は無いから

な」

「そっか〜、ありがとうクロ君」

 ぎこちなく微笑む本音に微笑を浮かべながら、俺は少しだけ息を整

える。そして目をつぶり、再び開いて自らの分身の剣を抜く。

「(……まだディソードは抜けるし振るえる。けど……)」

「クロ君、もしかしてアレを確かめてるの?」

 本音は俺の僅かな手の動きを見てそう呟いた。シャルにこそ話し

てはいないが、俺がISを動かせる理由を本音や楯無さん、簪は知っ

ている。そういう意味で聞いたのだろう。

「……まぁな、俺がISを動かせるのはこの力の恩恵だ。だからもし

使えなくなったら……」

 その時を考えると少しだけ体が震える。だが、そればかり考えてた

らいけない。

「ま、今はそんなこと無いからな、存分に蹴散らしてくるさ」

「クロ君、程ほどにね」

 分かってる。俺はそう言って『ラファール・イノベイク カスタム』

を展開してカタパルトに足をつける。バックパックにはノワールを

装着させてる。

「そんじゃ……クロト・D・フェブリエ、『イノベイク・カスタム』発

進する!!」

 そして黒く塗られた革新の疾風はスタジアムへ飛び出した。

 

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 どうやら同じタイミングで発進したらしい春秋の機体を確認して

少しだけ驚いた。全身が蒼く塗られたカラーリングに肩の特徴的な

四角い箱、そして白いVアンテナ、ティターンズ系とは予想していた

がまさかこれが来るとは思っても見なかった。

「……『markⅤ』か」

「正解だ。もっともこいつはファーストシフト前だから、本来の特典

の姿とは違うんだがな」

「なるほど、どちらにしろインコム装備の機体なわけか、面倒な事で」

 ため息を付きたくなったが、まぁ言っても仕方ない。俺はビームラ

イフルショーティーを両方抜いて構える。相手も手持ちのライフル

を構える。

 そして、戦いのブザーがなった。

「いけ!!インコム!!」

 先に動いたのは春秋、背中に装備されたインコムを二つ全てを射出

した。さらに肩のミサイルを開いて弾頭を約10近い数を撃ち込ん

できた。

 俺もショーティーのビームを連射させミサイルを迎撃し、フラガ

ラッハを抜いて持ち前の機動性で爆発の煙のなかを突っ込む。これ

には予想外だったのか、春秋はすぐにビームサーベルを抜いて鍔迫り

合う。

「いきなり奇襲たぁどんだけだよ!!」

「インコム相手なら近寄れば不用意に射てないからな!!」

「ふざけんなっての!!」

 春秋の叫びと共に放たれた頭突きに俺は怯んで距離を取る。その

瞬間、後ろと横から円盤からの射撃が飛んできた。

「チィ!!」

 慌てて機体を操作して射撃を避けるものの、春秋自身のビームライ

フルも飛んできて肩を被弾する。その瞬間1000あったSEが8

80までさがった。

 俺も負けじとショーティーを乱射し春秋に弾幕をぶつけるが、半分

くらいが手持ちのシールドに防がれ、SEも890までしか下がって

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ない。

「だったら!!」

 俺はバックパックを変更し、重火力のヴェルデ、さらに背中にガン

バレルを二重展開させ、四つの移動砲台を組み合わせた集中砲火を放

つ。

「ちょ!!二つ同時とかねぇだろ!!」

「だったらさっさと落ちろ!!」

「やなこった!!」

 春秋はそう言ってその場から離れて回避運動にはいる。幾らシー

ルドがあるとはいえ、ヴェルデの火力を防ぎきれるかは微妙なところ

だし、何よりガンバレルを相手に足を止めるのは自殺行為だ。

 さらに俺はガンバレル二つと右肩に装備されてるミサイルポット

を開放し、大量のミサイル弾頭を飛ばす。これには春秋もギョッとし

ており、回避しようと逃げまくるも、やがて一発当たった所で雪だる

ま式に大爆発。その結果SEは半分どころか残り200まで落ちる。

「くそ!!あのミサイルはウザすぎだろ!!」

「喋ってる暇があるのか!!」

 そして俺は残りのガンバレルと左肩のポットを開放する。

「グッ!!冗談きついって!!」

 そう言って春秋もビームライフルとインコム、さらにミサイルを開

放し迎撃するが、如何せん火力が足りない。

「うぉぉぉぉ!!」

 四分の三ほど撃ち落とされたが、そこで迎撃が足りずに被弾しよう

とした瞬間、奴の機体が光輝きだし、全てのミサイルを弾き飛ばし、辺

りに爆風が吹き荒れる。

「……一次移行か」

 俺はその事に瞬時に気づいてバックパックをノワールに切り換え

る。

 そして現れたのは、青いショルダーパーツに先程より長くなった

ビームライフル、さらにヘッドギアには特徴的なVアンテナと赤い

パーツ、さらにレッグパーツのビーム砲。

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「おいおい……勘弁してくれよ……」

 その機体……いやガンダムの名は語るまでもない。それほどに強

大な機体なのだ。

            「さぁ、ここからが本番だぜ!!」

 「織斑春秋……いや……スペリオルガンダム!!」

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Episode39 クロトvs春秋 後編

 「……厄介な機体ですね」

 僕、藤原総士は春秋が使う専用機を見て内心冷や汗を掻いていた。

個人的に彼の戦闘スタイルは昨日のうちに知ってはいたものの、まさ

かあそこまでスタイル特化した機体を特典にしてくるとは思っても

見なかった。何より、

(僕の機体と相性が悪い……)

 スペリオルガンダム……コアなガンダムマニアなら知らぬものは

殆どいないが、その理由は機体の異質さにある。人工知能『ALIC

E』を搭載し、尚且つ武器は高火力な遠距離重視、さらにはその発展

型が持つIフィールドを展開できるリフレクターインコム、射程距離

内なら死角など全く無いとも言える絶対防衛範囲、故にこう呼ぶもの

までいる。

ガ・

ン・

ダ・

ム・

至・

上・

存・

在・

し・

て・

は・

い・

け・

な・

い・

M・

S・

『ある意味で

だ』と。

  スタジアム内

「スペリオルガンダム……まさかとは思ってはいたが、そんなのを持

ち出すとはな」

 俺は春秋のことを見ながら、内心冷や汗を掻いていた。

他・

の・

転・

生・

「まぁな。俺が一番好きな機体っていうのもあるが、何より、

者・

に・

ア・

ン・

チ・

す・

る・

こ・

と・

が・

で・

き・

る・

だ・

ろ・

?」

「……あぁ、ほんと、その通りだよ!!」

 アンチ……その意味はガンダムという作品を知っていればすぐに

分かることだ。試しに俺はライフルショーティーで弾丸を一発放っ

てみるが、それは大腿部……人間で言う膝の辺りから現れたインコム

によって別方向へ弾き飛ばされた。

「やっぱり、特典に既にリフレクターインコムを搭載させていたか」

飛・

ん・

で・

き・

た・

ビ・

ー・

ム・

全・

て・

を・

「当然、操作は少し難しいけど、上手く使えば

跳・

ね・

返・

せ・

る・

か・

ら・

ね・

 俺はその言葉にいよいよ冷や汗が頬を伝い始めた。奴の言うアン

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チによって、俺の打てる手が半分近く減ったからだ。

 仕方なくショーティーをしまい、俺はフラガラッハを抜いて、さら

にバックパックをガンバレルに変化させる。いや、そうでなければ勝

ち目が少ないからだ。

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!いけ!!ガンバレル!!」

「いけ!!インコム!!」

 戦いの第二の火蓋が切って下ろされる。しかしそれは、俺がピンチ

という状況を物語っていた。

  観客席(side一夏)

「春秋……あいつすげぇよ」

 俺は弟とクロトの戦いを見て素直にそう思った。見た感じ重武装

な春秋の機体が、機動性が高いクロトと互角に張り合ってる。けど、

「クロトのやつ、どうしてビームを射たないんだ?」

 そう、春秋が一次移行してから、クロトは射撃武器を全く使ってな

い。機動性を生かした接近戦、しかもブレード二本だけで戦ってい

る。

「……一夏、おそらくあれは射たないんじゃない、射てないんだ」

「射てない?」

 と、隣にいる箒は冷静に分析してそう言った。

「クロトは先程ビームを一発射っただろ?」

「あ、あぁ、けど春秋の機体の武器で跳ね返されたけど……」

「恐らくだが、あれはビームを跳ね返すんじゃなく弾く事ができる武

器だ」

 その言葉に俺は頭に?を浮かべる。

「それって同じなんじゃ」

「馬鹿者、似てるようで違うんだ、弾くということは自分が射ったビー

ムさえ弾いて、別方向から当てることができる。恐らく、クロトはそ

れを警戒してるんだ」

「?」

「……はぁ、つまり、今の春秋に対してビーム射撃は殆ど効かないうえ

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に、逆に利用される危険性もあるということだ」

 そこまで言われて漸く分かった。その話が本当なら、クロトの武器

は大半が使えないことになる。

 見た感じ、クロトの武器はビームライフルや重火力ビームを主体と

した中・遠距離が多い、しかしそれが効かないとなれば自ずと実弾、な

いし近接戦闘に持ち込まなければいけなくなる。

「……あれ?でもクロトの武器にミサイルもあったよな?それに実弾

のアサルトライフルだって……」

「ミサイルは恐らく一次移行前のあれで殆ど使いきったのだろう。そ

れにクロトはそれでかなりバカスカ射っていた、残りのエネルギーも

少ない状況で、少なからずエネルギーを使う射撃武器は使えないん

だ」

「そっか……でも凄いな箒、そんなことすぐに分かるなんて」

 俺が素直に褒めると、箒は頬を紅くして俯く。

「ま、まぁな。知り合いに似たようなスタイルの人が昔住んでた所に

居たからな」

「へぇ〜」

 俺は軽く納得すると再びスタジアムを見る。戦況はかなり動いて

いて、今、春秋がクロトの機体を蹴り飛ばした。

  スタジアム

「ハァ……ハァ……ホントに厄介極まりねぇなおい」

 互いにSEは100前後、しかし春秋の方はビームをまだまだ使え

るほどエネルギーが残ってるはず、対して俺はミサイルは底をつき、

エネルギーすら殆ど限界に近い、もうビーム砲はワンチャンスあるか

ないかだろう。

「へ、こっちはさっきまでドカスカ射ってくれた仕返しができて嬉し

いくらいだ」

「言ってろ、最後には俺が勝つ」

「やれるもんなら……な!!」

 春秋はそう言ってビームサーベルで斬りかかってくる。

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「大体、俺はお前が気にくわない!!」

 と、突然プライベート通信を春秋は俺に掛けてくる。

「はぁ?なんでだよ」

             「俺はシャルロットが一番好きだからだよ!!」

         「知るかだぁほ!!」

 あまりにも理不尽な理由に俺は少しだけキレた。

「俺が好きだったシャルロットの兄で、幼い頃から一緒だったとか、マ

ジでモゲロ!!」

「るせぇ!!俺だって好きでこうなったわけじゃねぇよ!!」

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「んだと!!あの可愛いシャル様と一緒に入れて嬉しくないとかふざけ

るな!!」

「俺は簪&本音だからな!!」

「片方お前の恋人じゃねぇか!!ガチでふざけんなマジモゲロ!!」

 ……こうまで白熱した試合で観客は盛り上がってるが、当の俺たち

はしょうもない理由でキレあってた。記録に残んなきゃ良いけど

……。

「つうかお前を義兄さんとか呼ばなきゃいけないとかガチでふざけん

な!!」

「誰が義兄さんだ!!俺の目の黒いうちはシャルロットは渡さん!!シャ

ルロットが許してもやらん!!」

「横暴だなおい!!」

 うん、もうキレた。俺は一回距離をとり、ノワールに一瞬で換装し

てブレードをアンカーに取り付けぶん投げる。当然、アイツはそれを

一本目は避けるが二本目はタイミングが悪くビームサーベルの柄に

当たって落としてしまう。

 さらに俺は一本目のアンカーからブレードを遠隔パージし、アイツ

の機体にフックを引っ掻ける。そしてライフルショーティーを抜い

てレギルスと戦うダークハウンド宜しく、回転しながら撃ち込んでき

たワイヤーを絡ませる。

「うぉぉぉぉぉ!!」

 そして最後は奴の顔面に拳を叩き込む。その瞬間、春秋の機体SE

が全損したらしく、試合終了のアラートが鳴った。

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Episode40 クロトvsシャルロット

 「はぁ……疲れた」

 試合後、ピットに戻った俺は機体を本音に預けて備え付けのベンチ

に腰を下ろしていた。

「おい、クロト」

 と、いつのまにやって来たのかオータムが俺の前に現れて、とても

いい笑顔をしていた。

「オマエ、ダブルパッケージは基本的にやるなって言っておいたよな

?というか自分で基本的にやらないって言ってたよな?」

「うぐ……」

 その追求に俺は目を泳がせた。オータムはそれを見てため息と共

に……『アリアドネ』のアームで頭をぶん殴った。ヤバイ、滅茶イタ

イ!!

「オマエは自分で言ったことも守れない屑なのか!?機体に異常なほど

負荷が掛かるって分かってるんだろうが!!」

「分かってるって、でも相手の本気を引き出すにはこっちも掛け値な

しの本気を出さないと」

「それでもだな!!」

 ガミガミと怒るオータムに俺はただただ身を小さく頷く。シャル

ロットしかり楯無さんしかり、女性を怒らせたら普通に俺ら男は死

ぬ。

「たく……時間もねぇからもう言わねぇがよ、あまりやり過ぎるとア

タシがスコールやカルロスの旦那にどやされるんだからな」

「分かったって……それで、シャルロットの方は?」

「アイツなら反対側のピットに簪が一緒に居るから安心しろ。ただ、

絶対スタジアム壊すなよ?」

 俺はそれを言われて再び目を剃らす。シャルも俺も本気じゃない

とはいえ、高火力高パワーなシャルの『ベルフェ』と、遠距離火力ば

かりに重視した俺の『イノベイク』、つまり予想するまでもなくだ。

「おい、なんか答えろ」

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「いや……ねぇ?」

「ねぇ?じゃないだろ……たく、一応シャルロットの方は競技用リ

ミッタープラスさらにパワーの方面のリミッター付けてるんだよな

?」

 呆れつつ確認するオータムに俺は軽く頷く。

「競技用リミッターは父さんの認証プラス俺の許可認証が必要だから

基本は外れないと思う。けどパワーリミッターの方は、やろうと思え

ばシャルの感応波で解除されちまうからな……」

「おいおい、そんなんで大丈夫なのか?」

「まぁ大丈夫でしょ、パワーリミッターはよっぽどシャルの精神がマ

イナスに傾くか、もしくはシャルが興奮でもしない限りは」

 もっとも競技用リミッターのおかげでそこまで大惨事になること

は無いだろうが、もしテロリストとかが来たら少なくともリミッター

を付ける意味は皆無になる。

「さて本音、補給は終わった?」

「今ちょうど終わったよ〜エネルギー、弾装共にオールオッケ〜」

 そう言われ機体の待機状態である時計を腕に巻き、機体を再び展開

する。

「さて……それじゃあ行くか!!」

  スタジアムに降り立った俺を、シャルロットは通常モードで待ち構

えていた。

「遅いよクロト兄」

「悪いな、こっちは補給やらなんやらがあったからな」

 悪びれもなくそういうと、シャルも仕方ないというように肩を下ろ

す。

「別にそういうのはどうでもいいよ。ただ、本気で殺り合おうね?兄

さん」

「はぁ……何時からシャルはこんな戦闘狂になったんやら」

 もう戦うときの発言が某蒼の魔導書のヤンデレ弟みたいな感じ

なってるのを遠い目で虚空を見る。まぁそれは別にどうでもいい。

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 互いに何も言わずにそれぞれの得物を抜く。俺はフラガラッハ二

本を、シャルは漫画版ベルフェゴールが持っていた大剣に似た大型剣

を取りだし、そして、

「「……!!」」

 互いに無言で切り抜いた。ぶつかった衝撃波は観客用の防護シー

ルドをも震わせ、最前列にいた生徒でさえ軽く仰け反った。

「ッラ!!」

「ハァ!!」

 そして俺たちは切り結ぶ。二本の剣を自由自在に操る俺と、大剣で

それを器用に弾くシャル、お互いの手を知ってるが故に一進一退の攻

防が続く。

「オラァ!!」

 俺は二本の剣を上段から降り下ろす。シャルロットはそれを大剣

の腹で防ごうとするが、一瞬でそれを止めて後へ下がる。空を切って

好きが生まれた俺に横降りの大剣が迫るが、俺は両手の剣を捨て、

バックスラスターを吹かせて避ける。

「危ないな〜、今防いだら絶対にレールガン飛ばしてたでしょ?」

「ちっ、やっぱりバレたか……」

 俺はライフルショーティーを抜きながら舌打ちする。シャルの言

う通り、あの場面、もし防がれればレールガンを発射して大剣に皹で

も入れようと思っていた。

「それやられたら修理が大変だからね、まぁもっとも、ここからは

……」

 そう言ってシャルは無言で剣を格納し、Vモードのバイザーと大型

クローを展開させた。

ボ・

ク・

の本気で行かせて貰うよ!!」

「……当然だ」

 俺は自然とライフルショーティーを握り直す。そうしなければ、恐

らく一瞬で負ける。

「ハァ!!逝くよ!!」

「来い!!」

221

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 そう言って動いたシャルは接近しながら右腕のクローを振り上げ

る。当然反対の左腕は自身を守るシールドとして構えてる。

 俺はライフルショーティーを乱射しつつ、スラスターを吹かせて後

方へジグザグと避ける。大型シールドに阻まれ対したダメージは与

えられないが、それでも時間稼ぎにはなる。

「もう!!弾幕煩い!!」

「へ!!近づかれたらこっちは終わりなんだ……!!」

 俺が言いきる前にまさかクローをビットモードにして飛ばしてき

やがった、しかも真正面で。流石に不意を突かれたせいで避けきれる

訳がなく、俺はあえなく吹っ飛ばされ、SEは一気に800から60

0まで吹き飛んだ。

「油断大敵だよ、クロト兄」

「チィ!!そういや前もそれで吹っ飛ばされたっけな」

 とりあえず立ち上がり、フィールドを確認する。

(シャルとの距離は約4メートル前後離れたスタジアム中央付近、俺

が手放したフラガラッハはその後側に落ちてる。クローはシャルの

両手の隣に浮遊してて、SEは俺が600、シャルは711……まだ

何とかなる)

 俺はガンバレルへとチェンジし、ビームサーベルを抜く。シャルも

再び大剣を抜いて構える。

「逝け!!ガンバレル!!」

「行って!!ビット!!」

 俺とシャルの遠隔兵器が宙を舞う。恐らくこの試合、このビットを

すべて落とされた方に軍配が上がる。

「ぜりゃぁ!!」

「うぉぉぉぉ!!」

 俺達は序盤同様に己の剣で切り合いに準じる。スピード早く切り

抜ける俺のビームサーベルを、シャルは大剣の刃で切り結び、やがて

再び鍔迫り合いへと移る。が、俺はそれを狙っていた。

「ぜりゃぁぁぁぁぁ!!」

 俺は無理矢理ビームサーベルを気合いでシャルの剣へ押し込む。

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すると、やがて大剣は溶けるかのように斬れていくのだ。

「ッ!!」

 これには驚いたシャルはすぐに剣を手放すが既に遅い。放した直

後に大剣は真っ二つに両断され、そこで小さな熱爆発が起こった。当

然俺にはダメージが入ったが、シャルは自らの得物を失ってしまっ

た。

「クロト兄、もしかしなくても狙ってたよね?」

「?何をだ?」

「ビームで剣を切断すること、だからあの場面で押し込んできた」

 正解だった。シャルの大剣は漫画の中にあったものの、いわばレプ

リカのようなものだ。当然ながら対ビームコーティングなんてもの

はこの世界にあるわけもなく、宇宙世紀のような赤熱化なんて、軍事

利用が禁止されてるなかで作れるわけもない。俺はそこに漬け込ん

だ。

「まぁでも、クロト兄のガンバレルもそろそろ全部落ちる頃だし、こん

なんじゃ勝つことにはならないよ?」

「──本当にそうなら、な」

 シャルは怪訝な表情を浮かべるが、次の瞬間驚愕に変わった。

「……エネルギー総残量が……残り二桁!?どうして!!」

「そりゃそうだろ、なんせ」

 すると、タイミングを見計らったようにシャルのクローが彼女の側

に落ちてきた。そしてその装甲は、いやと言うほど凹んでいた。

「ガンバレルのレールガンを受け続けて、さらに落とすために、クロー

攻撃じゃなくて態々ビーム使ってるんだからよ」

「!!」

 そう、観客は見ていた。遠距離兵器のガンバレル四機が、シャル

ロットのクローを巧みに翻弄し、さらには持ち前のレールガンで度々

攻撃を仕掛けていたのを。

「シャルロット、確かにお前の遠距離クロー捌きは卓越してる。瞬時

にクローで攻撃するか、飛ばしてビットで攻撃するかすぐに決められ

るんだからよ」

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 けど、

オ・

ー・

ル・

マ・

ニ・

ュ・

ア・

ル・

「それでもシャルロット、お前は

でビットを操れな

い、闇モードの感応波マックスならまだしも、シャルロット、お前は

常時ビットを完全に操ることはできない。だからこそ、お前の『ベル

フェ』のビットは半分オートで動いてる」

 そこにこそ付け狙う余地はあった。オートということはつまりA

I操作、思考による手動操作ではなく自動操作だ。AIは倒すための

最善の方法を取ろうとするが、結局のところ相手が規定のアルゴリズ

ムに無い攻撃を仕掛けられた場合に、想定外の行動をしてしまう。今

回のように。

「つまり、クロト兄の手のひらで踊らされたわけ……か」

「そういうことだ。それで、まだやるか?」

 俺がそう聞くと、妹は無理といって降参した。

「じゃ、あとは頑張れよ。俺は辞退するけど」

「あ、ズルい!!」

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Episode41 この世界は……

 「ふぁーあ……ヤバイな……」

 着替えを終えて観客席……には行かず屋上へとやってきた俺はあ

くびをかきながら床に座る。が、その右手は頭の横に置かれている。

(……ディソードの反動が来たなこりゃ)

 俺個人が元々有するギガロマニアックスとしての力にはデメリッ

トが幾つかある。一つは脳細胞の異常な肥大化、こっちはまぁ然程今

は気に止めなくても大丈夫だろう。これはどちらかと言えばじわじ

わとやって来る癌みたいなもんだし。

 そしてもう一つは、使いすぎることによる脳及び肉体の過剰疲労

だ。今回俺は約1時間近くディソードを使ってISを動かしていた。

そこにガンバレルを使った脳の複雑演算も含めると、かなりの疲労が

頭に来る。

 その結果、今俺は酷い頭痛と眠気を患っているというわけだ。しか

も(……最近、ISに乗るたびに少なからず眠気が現れるよな……)

 そう、俺がルナークを使ってミサイルを迎撃したときや、シャルを

助けにいったとき、さらにセシリアと最初に出会ったテロ事件の際に

は無かった眠気が現れるようになった。詰まる所……

「……睡眠障害……いや、違うか、ディソードで脳が潰れかかってるの

か」

 いっそギガロマニアックスを使わないという手段ならばこの障害

も消えるだろうが、何分今の立場があるせいでそれもままならない。

「さてさて、いったいどうしたものか」

「……ここにいたのか」

 と、いきなり現れた声に俺は少しだけ身を構える。その声の主は黒

いスーツに黒い髪、何よりつり上がった両目……

「織斑千冬……先生ですか?」

 確認すると彼女はコクりと頷く。どうやら俺が頭を押さえてるの

を見て大声はあげないようだ。

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「……先程の試合二つ見せてもらった。中々に素晴らしい動きをして

いた」

「そりゃどうも……少なくとも妹も先生の弟もかなり手強かったっす

けどね」

「だろうな、春秋はまだしも、貴様の妹の方はまるで鬼神でも取りつい

たような近接パワー型としてのスタイルを確立させていたようだ、現

役時代の私ですら、貴様の妹と戦えといわれて、負けはせずとも引き

分けにできれば充分だろうな」

「へぇ……かの絶対王者ことブリュンヒルデがそこまで言いますか

……」

「私は少なくとも、自分が常に最強とは傲っていない。この教師とし

ての職務もまだ馴れないことだらけだしな」

 自嘲するように言うが、その目は強者を望む野獣のような鋭さが

あった。

「……貴様のことは束から聞いている。あの時は少なからず世話に

なった」

「あー、もしかして『双騎士事件』すか?」

 もう懐かしくなったあの事件、白騎士こと織斑千冬と、俺のルナー

クこと月下銃士によるミサイル迎撃事件だろう。

「もしあの時協力してもらえなかったと思うと、今更ながら震えが止

まらない」

「それは別にいいですけど、けどあの時俺を攻撃してきたのはマジで

ヤバかったですよ。何せ操縦に殆ど馴れてないのに、後の世界最強と

戦わされたんですから」

「そうだな、しかしそれでもかなり胸踊る戦いではあった」

「戦闘狂ですかアンタは……」

 まさかの出来事に俺はため息を付きたくなった。シャルロットと

いいオータムといい、そしてブリュンヒルデといい、俺の回りには戦

闘狂しかいないのか?戦闘狂のバーゲンセールか?

「それで、貴様はどうしてここにいる?試合中とはいえ、今は授業中

だ」

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「……俺はIS使うと、最近酷い眠気と頭痛がするんで軽い睡眠休憩

をしようと思いまして」

「そうか……病院には……行ける分けないな」

 済まない、と世界最強は素直に謝る。今のご時世、俺や春秋といっ

た男の操縦者が外に出歩くだけでテロが起こるといって過言じゃな

い状況へ陥っている。

 学園に来る前にも一度風邪を引いて病院に行ったら、行った病院で

診察中に病院内で女権によるテロ騒ぎという事件が起こった。まぁ

一緒に来ていたオータムとシャルによって軽く捻られ女権どもは御

用と相成ったが、病院から理不尽だが出禁を喰らってしまったのだ。

「ホントですよ。……折角日本のドクペを買いだめ出来ると思ったの

に買い物にも行けやしない……」

「そんなものは通販やらで購入しろ、馬鹿者」

 それを言われたら元も子もないが、事実だから仕方ない。

「んで、先生はなぜここへ?」

「なに、授業中に屋上へ行く馬鹿者を見かけたのでな、注意をしてやろ

うとな」

「そうですかい」

 うまくはぐらかされた気がするが、まぁ言ってもせんなきことだか

らどうでもいい。

「……月下銃士は使わないのか?」

「逆に聞きますけど、使っていいなら使いますよ?勿論アレも含めて」

「そういうことではない、貴様は一人でコアを二つも所有してる……

その事がバレれば大変なことになるぞ」

「ご心配しなくとも、月下銃士……ルナークは使いませんよ。もしも

使うとすれば、それは貴女と全力で戦うか、もしくは──」

 そこで俺は言葉を止めた。言ってしまえば実現してしまう、そんな

気がしたからだ。

「そうか、ならもう一つ聞こう……お前は、この世界をどう思う」

「どう思う……ですか」

 その答えなら俺は決まってる。

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「俺はこの世界が……歪んでると思います」

「……そうか」

 そう言って織斑千冬は少し微笑んで去っていく。俺はただ一人、誰

もいない屋上に取り残される。

「……あぁ、この世界は歪んでるよ……だってさ」

             ──歪んでなきゃ、俺という存在は生まれなかったんだからな

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Episode42 アハハ……

 「……」

 放課後、織斑一夏は自分の部屋で物思いに耽っていた。

「(春秋もクロトも……あのシャルロットって子も、みんな凄い動きを

してた)」

 昼間に見たスタジアムでの模擬戦、俺はそれを見て鳥肌がたった。

 あのインコムとかいうビームを反射する武器と、ロングレンジの

ビームライフルを巧みに使いこなし、相手を翻弄していた弟の春秋。

 大型のクローを自由自在に操り、格闘戦や大剣を使った近接戦で他

の二人を圧倒していたシャルロット。

 そして、その二人を下し、かつ、様々なパッケージを使いこなして

いたクロト。三人とも、今の俺に勝てるのかと言われたら多分無理だ

と思う。

「一夏」

 と、部活の見学を終えたらしい箒が部屋に戻ってきたようで俺に声

を掛けてくる。

「あぁ、箒か……」

「あぁ、じゃない。どうした、そんな浮かない顔をして」

「いや……」

 心配してくれたようだが、今の俺にはそれが一番辛かった。

「……もしや、あの試合を思い出していたのか?」

「……三人とも、俺でもはっきり分かるくらいに強いと思う。多分、今

の俺じゃ三人の誰に対しても勝てないと思う」

 いや、三人だけならまだいい。あのシャルロットという子はセシリ

アの話だと自分と同じ代表候補生とか言っていた。つまり、セシリア

もシャルロットと同じぐらいの実力を持っていても不思議じゃな

かった。

 そして妹のマドカ、千冬姉のクローンであり、暗部としてISの実

働部隊として行動していたということらしく、多分彼女も少なくとも

シャルロットクラスの実力を持っているはずだ。

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「……そうか、つまり一夏は三人を見て萎縮した……そういうことか

?」

「……」

「一夏……恐らくそれは正しいことだと思うぞ」

 無言の俺に、箒は諭すようにそう言った。

「正しいこと?」

「一夏、お前は初めて動かしてきたときから、ずっと流されて行動して

きたんだろ?ここに来ることも、セシリアと戦うことも。自分の意見

も全く言わないで」

「…………」

「一夏、多分お前は今本当の意味で試されてるんだ。自分がどうした

いのか、何をしたいのか……その答えを」

「……箒は、その答えを出したのか?」

 なんとなしに聞き返すと、箒は苦笑いを浮かべた。

「どうだろうな、少なくともその機会はもう一度は来ていたがな」

「そっか……」

「それに……いや、なんでもない」

 箒はそう言うと何故か木刀を取り出してきた。え?どういうこと

?「えっと?箒さん?」

「なに、すぐに考えが纏まるでもないだろう。少し外で久しぶりに一

緒に素振りでもどうだ」

「……そうだな。最近竹刀とか振ってないし、丁度いいかもな」

 俺は木刀を受けとると、とりあえず後ろを向いた。

「?どうした一夏」

「い、いや……軽装に着替えなきゃだし……その……な?」

「……!!///」

 その言葉で分かったのか、箒はさっと自分の着替えを持ってシャ

ワールームへと駆けていった。

「……マドカに注意されといてよかった」

 

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 本音side

「む〜!!」

「グヌヌ……!!」

「ピクピク!!」

 みんなこんばんわ、視点でははじめましての本音だよ〜。さて、私

は今、再び修羅場の中にいる。というのも

「第二回!!どっちの兄(姉)が凄い論争!!」

 そう、前のオマケであったこの論争がまた起こってるのだ〜。しか

も今回はマドマド(マドカ)の部屋で、同室の子はあまりの負のオー

ラに食堂へ退散しちゃった。え?私は逃げないのかって?だって

「本音、さっさと司会進行」

「かんちゃんが怖いよ〜」

 ということである。私にもお姉ちゃんはいるけど、こんな風にシス

コンとかの部類じゃないんだけど……。

「じゃあマドマドから」

「うん!!姉さんは言うまでもなくブリュンヒルデで強いし、何より姉

さんが居なかったら私は居ないんだ〜。それに一兄さんは料理も掃

除も得意で、織斑家の主夫なんて異名もあるんだよ!!春兄さんは勉強

が凄い得意でね、常に学年トップで、良く私の勉強を親身になって教

えてくれたんだよ」

 ……マドマドの話を聞くと、流石は織斑家、どこか人外化してるん

だね〜ていうか三人で戦略級な気がするよ。

「じゃあシャルるん」

「クロト兄は皆も知ってるけど、ISの操縦が凄く上手いんだよ!!私

がどう考えてるか言う前に分かってるし、本音には悪いけどクロト兄

の為なら私はなんでも……」

「それ以上はだめ!!」

 シャルるんはもうシスコンを超えてヤンデレになってるよ〜!!私、

結婚したらシャルるんに刺されそうで怖いんだけど……。

「じゃあ最後はかんちゃん」

「お姉ちゃんはその……ロシアの代表だし……料理も武術も勉強も得

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意なんだよ……この前のクリスマスに、私のために苦手な編物でセー

ターを編んでくれたんだ……」

 ……もう、なんだろ、これってただののろけ話な気がしてきた。

はぁ……少し頭が痛くなってきた。

「で、本音はどうなの?」

「そうだよ。本音にもお姉さんが居るんだよね?」

 マドマドとシャルるんの言葉に私は少し固まった。かんちゃんは

訳を知ってるために少しビクリとする。

「……ふふふ」

「あ、あれ?」

「ほ、本音?目が据わってない?」

 二人も漸く気づいたようで若干震えてる。

「うん、お姉ちゃんは凄いよ。私よりメイドの仕事上手だしお茶を入

れるのも上手だし、料理なんか楯無様と一緒にやってるから私なんか

より随分上だし、洗濯だって流石従者ってレベルだしね。うん、私な

んかより凄いんだから……どうせ私はマスコット扱いなんだよ、料理

も一般人レベルだし裁縫も編物もできないし、従者としてなんか不適

合なんて他の人たちから言われるし、アハハ……そっか、私ってメイ

ドとして失格なんだね、いつも失敗ばかりで何をしてもマイナスにし

か働かないし、こんな私なんて存在しちゃダメなんだよね、私は無価

値なんだよね……アハハ……アハハハハ……」

 そうして私は暫く小声で、まるで呪詛のように続き、聞いてるマド

マドとシャルるんは互いに抱き合ってガタガタ震えてる。

「……二人とも、本音にお姉さんの事を聞いたらダメ」

「ほ、本音のお姉さんってそんな……」

「うん、絶妙な仕事人間、それと周りから毎日のように比べられてたか

ら、本音は本当の意味でシスターコンプレックスなの」

「……本音ってもとに戻るの?」

「……多分大丈夫、でも」

 かんちゃんの言葉に二人が首をかしげる。

「……本音がこの状態になったら、もとの本音に戻るまで逃げられな

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い。前に一度なったときは……」

「「……」」ゴクリ

「居た部屋の襖が突然閉まって、どんなに引っ張っても開かなくなっ

て、窓もピクリとも動かなくなった。」

 その言葉に二人は言葉を失った。試しにマドカが窓を開けようと

するが、まるでコンクリートで固められたように一切合切開かなく

なっていた。

「アハハ……アハハハハ……」

 周りに私の狂ったような嗤い声が恐ろしく響く。そして

「「イ、イヤァァァァァァァァ!!」」

 数十分後、漸く元に戻った私が見たのは部屋の隅でガタガタ震えて

るマドマドとシャルるん、かんちゃんの姿だけだった。

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Episode43 料理対決

 「んじゃ、うちのクラスの代表は織斑春秋に決定だ。全員異論はねぇ

な?」

 翌日、ホームルームでの担任の言葉に春秋は困惑していた。

「えっと……オータム先生、俺の聞き間違いですかね?俺ですか?」

「おう、ちゃんと聞こえてるようで何よりだ」

 スコールのニヤニヤとした言葉に春秋は絶望の表情を浮かべた。

対して俺は想定通りとほくそえんでいた。

「おいクロト!!なんでお前降りるんだよ!!」

「理由は大きく二つ、一つは俺がフリーデンの正規の開発者だから。

本社での仕事が度々来る可能性があるし、クラス代表になったら時間

が足りなくなる。」

 半分は事実だ。一応俺はフリーデンのテストパイロットであり、正

規のメカニックとして会社の方で登録されている。流石にこちらに

仕事が回ることは然程無いだろうが、それでも大変になる可能性は否

めない。

「第二に、お前俺とシャルロットに負けただろ?つまりこのクラスの

専用機持ちで現在最弱なんだ。お前はそれでいいのか?」

「うぐ……それは」

 これまた事実のため彼はたじろぐ。今現状の序列で言えば俺↑

シャルロット↑春秋だ。もし春秋が代表にならなければ恐らく追い

付けないだろう。

「それに何より……」

「何より?」

「兄弟対決になったら色々と稼げるだろ?」

「「「「た、確かに!!」」」」

 女子達はまるで水を得た魚のように騒ぎだした。この学園にとっ

て俺たちは、自分でいうのも何だがそれなりにイケメンだ。その中で

対決……しかも兄弟対決となればオッズが跳ね上がること間違いな

しだ。

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「俺は賭け馬か!!」

「何を言ってる。ここじゃ俺たち男はだいたいそんなもんだぞ?」

「「「「然り!!」」」」

 女子達の合唱に春秋は崩れ落ちた。……なんか少しだけ可哀想だ

しあとでアメでもあげるか。

「そんじゃ、クラス代表は決まりだ!!」 

「「「はい!!」」」

  放課後、部活見学も特に面白そうなのは無く、仕方なく自室に戻る

と何故かシャルロットがそこにいた。

「ん?どうしたシャル」

「クロト兄……少し着いてきて」

 シャルがそう言うので、荷物をすぐに置いて一緒に向かうと、そこ

は何故か食堂で、周りにはどういうわけか人だかりが多い。

「……なんだこれ?」

「クロト兄はこっち」

 と、襟を掴まれて引っ張られてきたのは、何故か厨房内で、さらに

一夏と楯無さんの二人も居た。

「お、クロトも来たのか」

「あぁ、二人もここに連れてこられたのか?」

「ええ、私は簪ちゃん、一夏くんはマドカちゃんに連れてこられたわ。

というか……」

 楯無はチラリとキッチンを見る。そこには大量の肉、野菜、魚介等

がズラリと並んでいて、中には高級食材のヒラマスや地鶏などもあ

る。

「これだけ見たら、まぁ内容は分かるけど」

「同じく」

「あぁ……まぁ、確かにそうだな」

 というかここに連れてこられた時点でそれ以外無いだろう。俺達

がそう確信してると、そこに織斑先生が姿を現した。

「揃ってるようだな。まぁここに呼び出した時点で分かっているだろ

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うが、三人にはこれから料理対決をしてもらう」

「「「やっぱりか」」」

 俺、一夏、楯無さんの三人はガックリと項垂れていた。いや、別に

それ自体は特に個人的にはなにもないし、別段OKなのだが……。

「まさかギャラリー全員分とか言いませんよね?」

「安心しろ。審査員は私と真耶とオータム、そしてここの料理長と副

料理長の五人だけだ」

「それならまぁ……」

 俺は何とか納得すると、一夏は何を考えたのか野菜の一部を眺め始

めた。

「織斑、何をやっている」

「いや、材料の鮮度を確認しようと思って……」

「うちの学校は一応元々全寮制のお嬢様学校だからな、食材は全て新

鮮なものだけだ」

「さ、流石IS学園……食材にまでこだわってるのか……」

「クロト君、結構今さらよ」

 楯無さんの突っ込みがあったが、とりあえず無視する。

「それでお題は?千冬姉」

「織斑先生……いや、今は一応プライベートの時間だから許そう。そ

れでお題だが、食堂の新メニューに加えられる品、だそうだ」

「食堂の……」

「新メニュー……」

「これはまた大変なのを選んできたな……」

 食堂の新メニュー、それはつまるところお手軽かつ短時間で作れる

うえに、作りおきが楽な品ということになる。

「予め出汁等は用意されているから、そこは安心しろ。制限時間は一

応二時間、それだけあれば五人分は作れるだろ?」

「当然!!」

「まぁ何とか……」

「即興か……少し厳しいか」

 俺は少し頭を悩ませるが、まぁ何とかはなる。

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「それでは……スタート!!」

 次の瞬間、俺たちはそれぞれ食材のところまで移動した。

  簪視点

「始まったね」

 私がそう言うと、シャルとマドカは微笑んだあと睨みあった。とい

うのも事は数十分前に遡る──

 ──数十分前

「「「一番料理が美味しいのは私のお兄ちゃん(お姉ちゃん)だ!!」」」

 もう放課後のお約束となった女子会ならぬ妹会、そこで私たちは自

分の兄(姉)の料理の凄さを語っていた。そんなときだった。

「だったら〜、三人で料理対決したらどうかな〜」

 なんと本音がそんなことを言ってきたのだ。それに対して私たち

は「「「それだ!!」」」

 餌を見つけた魚のように食い付いた。そしてそこからは早かった。

マドカがお姉さん……織斑先生に頼み込んだ結果、なんとすぐに了承

をもらい、シェフの方々も、新作に息詰まっていたらしくすぐに了承

してもらえた。

 ──現在

「一兄さんの和食が一番!!」

「クロト兄のフレンチだ!!」

「お姉ちゃんの料理が最強……譲らない」

 私達女の戦い(妹?)はメラメラと火花を散らしていた。と、その

時「「「完成!!」」」

 なんと三人揃って完成した。しかもまだ一時間と半分しか経って

ないのに

「いったい、どんなメニューかな……」

 私たちはすぐに観客の最前列へと向かった。

 

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 クロト視点

「では、最初は一夏だ」

「おう!!俺の料理はこれだ!!」

 そういって一夏がテーブルに置いたのは、

「これは……」

「お好み焼き……か?」

 そう、なんと熱々のステーキプレートに乗せられたお好み焼きだっ

た。しかも生地の上には特大の目玉焼きが置かれている。つまりは

「チーズ入り広島風お好み焼きだ」

「なるほど……そう言うので来たか」

 お好み焼きも和食の一つ。男性は勿論、最近では女子でもよく食べ

る人がいるほどの人気メニュー。しかも日本のお祭りなどで見ない

ことは絶対ないとまで言えるソウルフードでもある。

「ふむ、目玉焼きは半熟、生地ももっちりとしていてふわふわしてる

……これは山芋か?」

「はい。すりおろした山芋とジャガイモ、そして揚げ玉を入れること

でふんわりもっちりした感触にしました」

 一夏のその言葉に料理長と副料理長は驚きを隠せない。お好み焼

きに山芋と揚げ玉はよく聞くが、まさかジャガイモを入れるとは思っ

てなかったのだろう。

「焼きそばもよく縮れてる。充分お店に出してもおかしくないレベル

だ」

「あ、ありがとうございます」

「次は楯無」

 呼ばれた楯無さんが審査員の前に出て品を出す。俺もそれを見た

途端に仰天した。というのも

「ほう、あんかけ焼きそばか」

「これまた意外なメニューだな……」

 あんかけ焼きそば……中華料理の一つで揚げた麺に五目あんかけ

をかけた定番のメニュー。中には五目だけでなく剥き海老などの海

鮮メニューを使うものもある、アレンジに事欠かないメニューの一つ

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だ。

「麺は結構固いが食べ安く細かく揚げてやがる……」

「でもあんかけと絡まって凄い美味しいです」

 スコールと真耶先生はそれぞれ高評価をもらい、料理長達もコクり

と頷きあっている。

「あんかけはシーフードを入れない定番の五目……」

「それだけにシンプル、故に美味しいです」

「ありがとうございます」

 さて、最後は俺なのだが、ここまで二回連続で麺を使った料理な訳

なのだが、

「さて、最後はクロト」

「はいよ……」

 俺も料理を乗せた皿を持って審査員の前に置く。そしてそれを見

た料理長は目を見開いた。というのも、

「……スープパスタですか」

 そう、俺も麺料理なのだ。しかもパスタの中でもマカロニを使った

トマトベースのスープパスタ。

「トマトスープのマカロニパスタです」

 その言葉に審査員が全員が驚き、それぞれ口に入れる。

「このスープのベースはトマトとコンソメかい?」

「はい。さらに具材には賽の目にしたニンジンと、細かく刻んだパセ

リ、一口大に切ったベーコンを入れました」

「なるほど、さっきの二つが重たいメニューだった分、あっさりとした

スープメニューだから喉にすぐ通るな」

 ありがとうございます、と頭を下げると、俺はとりあえず他の二人

に並ぶ。

「さて審査だが……まさかここまで高レベルの品が出るとは思ってな

かったな」

 料理長の男性が溜まらずそう言ったのを聞いて俺達はそれぞれ肩

を下ろす。そういって貰える分、どこかうれしい気分だ。

「それではまず織斑先生から、どの料理が一番か答えて貰おう」

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「……少し癪だが、私は楯無の品だ」

 その言葉に一夏が少しだけ驚いた。

「意外ですね、織斑先生なら一夏くんのを言うと思ってましたが?」

「まぁそう言いたいのだが、味はともかく食堂の新メニューとなると

いささか重たいメニューだと考えた結果だ。逆にクロトのは軽すぎ

る、そう思うと楯無のが丁度良いと思えた」

 詰まる所、女子生徒たちの食の量を考えた結果ということなのだろ

う。まぁそう言われれば納得はする。

「次は山田先生ですね」

「そうですね〜、私はクロト君の品がよかったと思いますよ」

 それを聞いた俺は少しだけ頬が緩む。経緯はどうあれ、認めて貰え

るのはうれしいもんだ。

「山田先生、その理由を」

「そうですね、敢えて挙げるとするなら味ですかね。織斑君も更識さ

んのも美味しかったですが、二人とも味付けが少し濃かったので、女

の子には……その」

 これまた女子の食に関するといった感じなのだろう。まぁ女子の

場合はダイエットに夢中になるからな。

「それじゃあオータム先生は?」

「んー、アタシは一夏だな」

 なんとここでオータムが一夏に入れて、それぞれ一票入った事にな

る。

「オータムはあれか?量ですか?」

「そうだな。当然それもあるが、お好み焼きは量がありながらその実

コストも安い、多分一皿の金額だけなら他の二つに比べてリーズナブ

ルなはずだ」

 オータムの言い分はつまり、料理のコストゆえだろう。幾らIS学

園と言えど経費は有限、そう考えた故だろう。

「さて、最後は私と副料理長だが……副料理長はどう思ったかい?」

「……私はあんかけ焼きそばですね」

 副料理長は迷わずにそう言った。

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「メニューで見て、和食と洋食はそれなりにありますが、中華料理はそ

こまでバリエーションが少ないですから」

 それについては何となくわかった。昨日も見たが、全体的にメ

ニューが和食か洋食に片寄っている。中華料理は麻婆系とエビチリ

ぐらいしかなかった。

「さて、最後は料理長ですけど……」

「ふむ……私はそうだな……」

 料理長は少し頤に手を当てると考え始め、そして

「うん、私もあんかけ焼きそばだね」

 この瞬間、俺と一夏を抜いて楯無さんが優勝となった。

「量もそれなりに充実してるし、何より栄養もしっかり採れる。何よ

り美味しい」

 料理長のその言葉に俺は少しだけ悔しくなる。まぁ一票入ったし、

次は負けないと個人的に闘志を燃やすことにした。

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Episode43.5 幕間③

 「…………」

 アタシは寮の屋上にて煙草を吹かしながら空を見上げる。上には

瞬く星が光っている。

「…………」

「…………オータム」

 と、突然ドアが開かれて聞こえてきたのは、懐かしく、それでいて

多分会うことは無いだろうと思った奴の声だった。

「……久しぶりだな、マドカ」

 煙草を携帯灰皿にしまい、娘同然の少女に向き直る。

「……そうだな、時間でいったら……既に二年近くなるのか?」

「そうだな、少なくともアタシらが組織から抜け出してからはそれぐ

らい経ってるな」

「…………」

「…………」

 互いにそう言い、やがて言葉が無くなっていく。

「……スコールは元気か?」

「そうさな……少なくとも組織に居たときよりしがらみが無くなって

イキイキはしてるな」

「それはお前のほうだろ?」

「ハハ、ちげぇねえな」

 ケラケラ笑う私に、マドカは少し笑みを浮かべる。

「……悪かったな、お前を手放す事になっちまって」

 その突然の言葉に驚いたのか、マドカは目を見開いて驚いた。

「幾らアタシらが全員助かるためとはいえ、結果としてお前を一人で

日本に行かせちまった」

「……その事ならもう時効だろ。第一、お前が私を助け出さなかった

ら今ここに居ない」

 マドカの台詞はもっともだが、アタシにはそれでも悔やみきれない

気持ちがあった。

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「それでも、アタシは何も出来なかった……お前を助けるって言いな

がら、組織ではお前より実力が劣って、抜け出した後も、生き残るた

めにお前をこの手から手放した……」

「…………オータム」

「情けねぇよな、大の大人が、たった一人の子供に負けて、自分の気持

ちすら満足に貫けねぇ……ほんと、ダメな大人だよ」

「…………それは違う」

 マドカは首を振って答えた。

「オータム、お前が私を始めて見つけてくれた日を覚えているか?」

「あぁ?そりゃ当然だろ」

「……私は、その日まで何をすれば良いのか分からなかった。ただた

披検体

モルモット

として同類を殺し、殺し、殺し続けて、ただそれだけの為に

生きていた。人ではない存在として」

 知っている。マドカは元々織斑千冬の細胞から産み出された生体

複製素体……詰まる所はクローンだ。当然ながら世界政府が研究を

禁止している非合法な存在であり、もし存在がバレれば……モルモッ

トのように殺される危険性がある。

 助けたときのマドカの目には、それはもう感情のかの字も見て取れ

ず、虚無感というものに押し潰された曇った目をしていた。

「けど二人が助けてくれたから、私に色んな世界を見せてくれた、私に

色んな事を教えてくれた。怒ったり、泣いたり、呆れたり、そんな感

情が生まれるなんてその時まで考えもみなかった」

「……だが、」

「それに私は一つも後悔はしていない。オータムのおかげで、私はた

だの肉でできたマシーンから、心を持った人間に変われた」

 だから、マドカはそういって直立する。

「……オータム・ミューセル!!いや、オータム・レイン!!」

 突然の大声に私はびくりとした。マドカの目を見ると、その中には

敬意や喜びといった、助けたときと違い紅水晶のような煌めきがあっ

た。

「私は、貴女の……娘でいられて、とても楽しかった!!貴女の娘でいら

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れて、とても幸せでした!!」

 その宣言になんとなく、だが少しだけ肩の荷が下りるような気分に

なれた。今まで壊し、奪い、それだけでしか事を現せなかった私に、彼

女は始めて私に『直す』という選択肢を与えてくれた。

「……バカ野郎」

 アタシにとって、お前のほうが──。そう言いたい気持ちを言葉に

表そうとするが、

「……誰がお前みたいなお転婆が私の娘だ。お前には、私なんかより

も充分に家族がいるだろ」

 元来の不器用さが、その言葉を出させない。いや、出すことを許さ

なかった。

「ほら、さっさと戻りな、寮管の姉貴が五月蝿くなる前にな!!」

「…………うん」

 私は再び煙草に火をつけ、元同僚に背を向ける。彼女も何か言いた

そうだったが、ただそう言って振り変える。

「…………オータム」

「んぁ?」

「確かに今、私には千冬姉さんも一兄さんも、春兄さんも居るし、それ

に不満は無いよ。でもね

            

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兄・

弟・

家・

族・

 私にとっては、オータムは

じゃなくて、

だと、ずっと思っ

てるから」

                        

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  そう言ってマドカは去っていった。

「…………」

「……全く、貴様はあの時から全く変わってないな」

 と、まるで今までのを全部見てたような事を言ってくる奴が現れ

た。

「……んだよ、千冬。つか、何時から見てた」

「なに、『久しぶり』の所からしか聞いていない」

「全部じゃねぇか……たち悪いぞホント」

 まるであの駄ウサギみたいなスペックだな、と軽口を叩くと、千冬

も側によってきて手もとから缶ビールを二つ取りだし、一つを此方に

渡してきた。

「……サンキュ」

「ふん」

 有りがたく受け取ったそれを片手で開けて、グビッと一口喉に入れ

る。何時もなら美味しく感じるそれが、どういうわけか今日はやけに

薄く感じた。

「……お前のことも、マドカの事もほぼ知っている。だからこそ言っ

ておく。オータム、お前は過去を振り切ったのではないのか?」

「……」

「今までがどうだ、生まれがどうだなど関係ない。私達も親が居ない

からな。お前は今、亡国機業の実働エージェントのオータムではな

く、IS学園の教員オータム・ミューセル何だからな」

「……分かってる、分かってるだよ。過去は変えられねぇ、どんなに

願ったって、どんなにすがりついったって変わらないってことはよ」

 それでも、ただアタシは──

「──アタシは、アイツを守ることができるのか?」

「ふ、愚問だろ──」

 世界最強は飲み干した缶ビールを床に置いて立ち上がる。

「守るのではなく、守り抜く……だろ?」

「!!……けっ、お前の単純さも大概だなぁ、おい」

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 やれやれと立ち上がると、私は吸っていた煙草を灰皿に入れて、

残っていたそれも握りつぶす。

「やってやるよ。学園がどうだとか、ISがどうだとか関係なしに、ア

タシは、アタシの守りたいものの為に戦う」

「ふ、そうだな」

 過去も因縁も、捨て去ることも変えることも出来ない。けど、それ

でも、未来を変えることはできる。そう思った夜だった。

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Episode44 セシリアvs一夏 前編

  原作通りの約一週間後、俺と本音、シャルの三人はスタジアム内の

観客席に居た。近くには春秋と総士、さらに簪の姿もある。

「ついに一夏のデビュー戦か……」

 総士が顎に手を当てながらふざけてそう言ってるが、目はどう見て

も狩人やそれと同じ目をしていた。

「実際のところ、一夏の腕はどうなんだ春秋」

「俺は一夏兄さんの練習には手伝って無かったから……でもマドカの

話だと反射神経と直感、洞察力なら俺たちより上らしい」

 それを聞いて少しだけ苦笑いを浮かべる。これはセシリアにとっ

ては、原作よりもハードルが上がってるな。機体性能も含めて。

「そういうクロトはセシリアの実力は分かってるのか?」

「おおよそはな。それでも一年くらい前だから、今の実力は予想ぐら

いしかな……シャルは?」

「一応セシリアがチェルシーさんに師事して貰ってるって聞いてたか

ら、多分狙撃なら春秋と大差はないんじゃないかな?」

 妹の言葉に全員がなるほどと頷く。俺が知ってる限り、織斑一夏の

専用機の『白式』はブレオンの純粋な格闘機、スペックはスピードと

格闘性能にほぼ全振りしていて、射撃武器は一切無い。

 が、その白式はこの前の盗難によって白式は確か解体されている。

となると恐らく……

「一角獣かな……」

「だな」

 俺と総士ははっきりと言う。一角獣……詰まる所中の人ネタのユ

ニコーンだろうと俺たちは予想するが、しかし春秋は苦笑いを浮かべ

ていた。

「……残念だけど、一夏の機体はユニコーンじゃない」

「へ?マジか?」

 その言葉に少しだけ驚く。世界の修正というものがあるなら、ここ

に三人もオリジナルのMSの力を持った人間が居るのだ、皺寄せとし

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て一夏もそうなるものだと思っていたが。

「ま、機体が何かはお楽しみにということで……っと、出てくるみたい

だぞ」

 そう言われ釈然としなかったがとりあえずフィールドに視線を直

す。先に現れたのはセシリアで、パフォーマンスなのか地面に降りる

浮遊歩方

ホバーステップ

と、軽く基礎技術の

を応用して観客に挨拶してる。

「やっぱセシリアは動きにムラがないな……」

「確かに、(原作では)他の面々が特徴的なせいで、アイツ自身がそこ

まで目立ってないしな……」

「それな、ホントそれ」

 実際、原作のセシリアのBTとか容姿がストフリに似てたせいでそ

こまで特徴的とは言えなかったんだよな……。それに中国娘のよう

なパワー型でもなければ、ドイツ娘みたいな強力な第三世代兵装もな

い、シャルロットのようにオールラウンダーでもないと、どこまで

行っても微妙だった。

「けど、慢心してないセシリアは普通に強いがな」

 そう、今のセシリアには原作のような女尊男卑の風潮に呑まれてな

い、詰まり実力の差という問題での傲りはあっても、自分が強いとい

う慢心はない。それだけでだいぶかわる。

主人公

「さぁ……お前は何をどうする、

?」

  一夏視点

「なぁ箒、俺、結局ISの操作殆ど教えてもらってないんだけど?」

「…………」

「顔を背けるなよ……」

 俺はガックリと項垂れながら旧来の幼馴染みにそう言った。

 というのもあの日から、少しでも動けるように箒に練習相手を頼ん

だものの、中学時代、新聞配達のアルバイトをしていたせいで体力が

落ちすぎてしまっていたのだ。まぁその結果箒に呆れられ体力作り

と剣術を教わったのは、それなりに理解できる。

 しかし、それなのにIS関連は箒自身もあまり得意ではなかったた

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め、教科書に出てくる基礎運用範囲ぐらいしか教わらなかったのだ。

しかも箒はどうやら感覚で動くタイプだから、それも微妙だった。

「し、仕方ないだろう!!私は代表候補生でもテストパイロットでもな

いんだからな!!」

「それでももう少し教え方というものがあるんじゃ……」

「…………」

「だから顔を背けるな!!」

 俺がそう突っ込むと何故か後頭部に重たい一撃が飛んできた。何

事かと振り返ってみると、

「喧しいぞ織斑兄」

 出席簿を構える担任の実姉の姿があった。

「千冬姉アダッ!!」

「織斑先生だ馬鹿者、まったく公私の分別ぐらいつけろ」

 呆れ顔で言ってるが、俺としてはだったら目に隈を着けるなと言い

たい。どんだけ俺の試合が楽しみなんだよ……遠足前の小学生かよ。

 そんな事を思っていたら再び出席簿が頭に振り下ろされる。

「痛!!」

「なにか余計なことを考えていただろ?……まぁいい、それよりも織

斑兄、一次移行は済ませてあるんだろうな?」

「いってぇ……一応届いた日にフィッティングとかは済ませたけど

……それよりも千冬……織斑先生、聞きたいことが」

「?」

 千冬姉は少し首を傾げると、俺は自分の専用機のガントレット(普

通はアクセサリーになるはずなのに、何故か防具なんだよな……)で

ホロモニターを浮かび上がらせる。

「?…………!!??」

 それを見た途端驚愕に顔を歪めている千冬姉を見た。

「……まぁ、何とかなる……だろう?」

「いや、そんな疑問系で言われても困るんだけど……」

「五月蝿い、幾らなんでもこんな機体を渡すなど私が知るわけあるか

!!」

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 なんかむしろ逆ギレされたし……まぁ……でも、

俺・

達・

「俺なら……

ならやれるよな……」

「?」

 千冬姉が首を傾げるのを傍目に、俺はガントレットを右手で触る。

「行くぞ……『白獣』!!」

 その言葉と共に、俺はフィールドへと飛び出した。

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ハロウィン特別編

 「トリックオアトリート!!」

 IS学園も既に秋、季節はタイトル通りの時期になっていた。当然

というべきか、楯無さんがハロウィーンパーティーを開催しており、

俺達もまた仮装をしていた。

「おう、シャル……随分ときわどいのを選んだな」

「そういうクロト兄もシンプルなのだね」

 シャルロットはどうやら小悪魔を選んだのか、黒い小さな羽付きの

チューブトップの上着に、黒いフリルのついたショートスカート……

もう小悪魔じゃなくてサキュバスなのではという際どい衣装だった。

 かくいう俺の方もヴァンパイア……吸血鬼で、黒いマントに燕尾

服、そして髪を一時的に逆立たせている。

「お〜クロ君、シャルるん、トリックオアトリート〜!!」

「あ、本音、トリックオアトリート!!」

 本音……多分魔法使いをイメージしたのか、黒いとんがり帽子に黒

いローブ、そして手には長ったらしい気の杖を持った姿をしていて、

やはりというかローブの長袖がダボダボになっていた。

「似合ってるぞ本音」

「えへへ〜ありがとうクロ君♪」

「む〜、二人とも私を忘れてないよね〜」

 シャルが不満そうに言ってくるので、俺は軽く頭を撫でてあげる

と、シャルはまるで猫のような鳴き声で顔をにやけている。

「あら。クロトさん、Trick or Treat!!」

「おっすセシリア……」

 流暢な英語で言われ気づいた俺が彼女を見て少しだけ驚いた。プ

リンセスモチーフなのか、淡い蒼のロングドレスに、カボチャをモ

チーフにした手提げ鞄を持っている。なんというか、

「派手だな」

「派手だね」

「セッシーは派手だね〜」

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「揃って異口同音ですの!?いえ、それは構わないのですが、もう少し他

に何か……」

 セシリアは残念そうに頭をガックリと下げると、それにつられてド

レスにて強調されていた部分も一緒に動くわけで、

「「……」」ジー

 我が妹と彼女は同時に自分の同じ部分に視点を当てる。二人とも

俺から見たらそれなりに成長しているのだが、如何せん、目の前にそ

れ以上の存在がいるため

「「……セシリアは私の敵だ」」

「なんでですの!?どうしてですかクロトさん!!」

 あまりのことに驚いて俺に泣きついてくるが、これに関して俺が

言ってしまえばはっきり言って事故案件になってしまうため、軽く苦

笑いを浮かべるに留まることにした。

  パーティー会場の中にはいると、それぞれの衣装に身を包んだクラ

スメイトや学友達がいた。というか、少し露出高くないか女性陣?

「お、四人とも来たな!!凄い似合ってるぜ!!」

 と、声をかけてきた一夏にとりあえずトリックオアトリートと挨拶

する。一夏はどうやら狼男のようで、少しワイルド系な衣装に身を

纏っている。

「おう一夏、馬子にも衣装といった感じか?」

「やっぱりか……マドカにどうしても着てくれって頼まれてさ……」

「大丈夫だよ一兄さん!!ちゃんと似合ってるから!!」

「うぉ!!どこから湧いて出た!!」

 一瞬で現れたマドカに驚きながらも、定型文のようにトリックオア

トリートと挨拶する。

 マドカは定番中の定番、ジャックオーランタンといった感じで、頭

にはカボチャの被り物を、体は黒いローブにカンテラと妙に拘ってい

る。

「兄さん達が居るところにマドカあり!!話題に出れば地の果てだろう

と一瞬で這い寄る混沌なんです!!」

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「どこのクトゥルフだ。そだ、春秋達は?」

「あぁ、春秋と総士なら……」

 一夏が視線をずらし、俺達もつられて見ると

「「Trick or Treat!!」」

「「「「キャァァァァァァァァァ!!」」」」

 何故か仮装しながら二人でギターを引いてやがった。後ろには軽

音部らしき少女ドラマー、ベース、キーボードの子達もいて、中々に

しっかりとしてる。

 しかし問題があるとすれば外見だ。どちらもソンビ系のテーマな

のだが、そこまではまだいい、問題は姿だった。

 総士の方は白い薄汚れたローブにエクステでも使ったのか長くボ

サボサの髪、さらにメイクで色白だった顔と肌がさらに白くなってい

て、あきらかに遊○王の『ゾ○ビ・マス○ー』である。

 対して春秋はこちらはドクロ系のゾンビで、紫色のローブに仮面で

出来たドクロフェイス、さらに王冠まで被って……こちらもまた遊○

王でお馴染みの『ワ○ト○ング』だ。

 まぁ確かにハロウィンだし、ゾンビも定番と言えばそうなのだけど

……もう少し何とか成らなかったのだろうか?

「あんな感じ」

「なんだろ……曲聞いてないから何とも言えないけど、なんか嫌な予

感が……」

『おい一夏兄さん!!クロト来たならさっさと連れてこい!!』

「……やっぱりか」

「そういうことだ、んじゃ行くぞ」

「あぁ、もう、分かったよ!!」

 俺は彼女たちから暫く離れ、バンドスペースに上がると、一夏がド

ラムを、俺は総士からギターを受け取って真ん中に立ち、その総士は

ベースへ、春秋もキーボードへと移動する。

「そんじゃ……一曲目」

「「「俺達の歌を聴けぇ!!」」」

「!!」タンタンタン↑一夏

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  シャルロット視点

「クロト兄達、やっぱり凄いね」

 四人の即興ライブを聴きながら私はそう思った。右手にはマカロ

ンを持っていて、隣ではマロングラッセを美味しそうに食べる本音も

いる。

「そうだね〜クロ君ってフランスでギターとかやってなかったの?」

「一時期の趣味で少しはやってたみたいだよ。友達とバンドやってた

みたいだし」

「それでもやっぱり凄いね〜」

 私達が納得していると目の前に知り合いが二人通り掛かった。鈴

とラウラである。二人とも自分の属性というか、鈴はチェシャ猫モ

チーフ、ラウラは純粋なバニーガール姿だった。

「あ、二人ともトリックオアトリート!!」

「トリックオアトリートね。しかし一夏も春秋も、私が日本に居たと

きより上手くなってるわね……」

「ほう、鈴は嫁と同じ学校に通っていたと言っていたな。その頃の嫁

の話を聞かせてくれ」

 それには私も少しだけ興味があった。クロトも総士も春秋もそれ

なりに過去について話してくれたけど、一夏に関してはあまり話して

くれないのだ。

「う〜ん、昔から一夏はあんな感じだった。無自覚に女の子にフラグ

立てまくって、そのくせ一方的にへし折る。噂じゃ、毎日誰かしらが

枕を濡らしてたって噂まであったし」

「それはなんというか……鈍いんだね?」

「ホントそう!!そのくせ料理になったら異常なほど鋭くなって、隠し

味をバラすどころか手抜きの一切合切を食べただけで分かるんだか

ら、それなりに苦労したわ」

 あー、それに関しては納得する。以前の料理対決でもクロト兄と楯

無さん含めて三人で私達女子の心を完膚無きまでに破壊し尽くした

し。

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「けどあいつ、こうと決めたら一直線で、そんなところが……ね?」

「ふむ……なるほど」

「あら?四人ともトリックオアトリート♪」

 ラウラが納得していると、今度は楯無さんと簪さん、そしてどうし

てか箒と三人がやって来た。

 楯無さんはどういうわけかキョンシーのようで、額にはお札が貼り

付けられている。というかヨーロッパの文化で中国妖怪なんだ……。

チョイスがなんというか……

 簪はそれと変わってミイラ男ならぬミイラ女。これはどちらかと

いえばラウラがなりそうなイメージだったんだけど……まぁ意外性

があって面白いね。

 そして箒は……これまた意外というか魔女で、白いベレー帽に金色

の杖、さらに白と青をベースにしたドレスローブのような姿をしてい

て、ダーク系なイベントでは珍しい白色系の姿をしていた。

「トリックオアトリート。三人も楽しんでるようですね」

「わ、私はただこの人に連れられてだな……」

「箒、アンタそんなガチなコスプレ衣装するなんて思ってもみなかっ

たわ……」

「いや、これは知り合いの服を裁縫で真似たものでな……コスプレで

は……だんじて…………ない」

 いや、誰がどう見てもコスプレです。私達全員がそう思った。

「……ところで楯無さん、そのお札……」

「あら?シャルロットちゃん、これがどうかしたの?」

「いえ……これを外したらどうなるのかな……と、思いまして」

 すると楯無さんは脱兎の如く逃げようとするが、箒とラウラの物理

系ほぼ最強コンビに取り抑えられる。

「分かりやすすぎますよ……それで、外したらどうなるんですか?」

「……生徒会の仕事10倍、おこずかい全額カット」

「…………」

 それを聞いた私たちは一瞬黙った後、思いっきりそれをひっぺがし

た。

256

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「イヤァァァァァァァァ!!」

「お嬢様、書類が溜まりに溜まってますので、さっさと行きますよ」

「ギャァァァァァァァ!!みんなのブワァァァァァァァァカァァァ!!」

(((今までの行動の結果です)))

 全員が全員、またそう思ったようだ。

  パーティー終了後、俺は本音の部屋へとやって来ていた。部屋には

俺と本音の二人きりで、簪はどういうわけかシャルロットの部屋へと

行っているらしい。

「パーティー楽しかったね〜クロ君」

「そうだな」

 個人的にはああいったイベントを事前予告抜きでやるのは勘弁し

てほしいが、まぁ本音が楽しめたならそれはそれで問題ない。

「……ねぇ、クロ君」

「ん?どうした本音?」

「これからも、こんな日常が続けばいいのにね」

 俺はその言葉に、彼女の心の悲しみを感じ取った。

「そうだな……この半年は特に酷かったし」

「謎の襲撃に、ラウラウの暴走事件、臨海学校の襲撃に学園祭テロ……

私達一歩間違えば死んでたんだよね」

「……死なないさ」

 俺はそういって本音の後ろから軽く抱き締める。

「本音は俺が守る。前からそう言ってるだろ?」

「うん……でも」

「……はぁ、仕方ない」

 俺は柄にもなく彼女を振り向かせると、その唇を無理矢理重ねる。

本音も最初は驚いたが、すぐに腕を俺の首裏に絡ませる。

「俺は口約束でも、約束は絶対に反故にはしない。分かってるよな?」

「……そうだね。クロ君は、絶対に約束を守ってくれるもんね」

「おう。命を懸けてでも守ってやるから、大船に乗った気で安心しろ」

「うん♪」

257

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 本音の笑顔に、俺は少しだけドキリとした。

「ねぇ、クロ君」

「ん?」

「……かんちゃんなら、今夜はシャルるんの部屋から戻って来ないか

ら安心だよ?」

「……へ?」

 突然のその言葉に俺は少し思考を止めた。え、簪が今晩戻ってこな

いって……え、つまり……え?

「だ、だから……私に……トリックオアトリート……して欲しいな/

//」

「!!///」

 漸く理解して俺は瞬時に赤くなる。しかも惚れた彼女の上目使い

のおねだりという最強コンボ……つまるところ……

「……言っとくけど、加減は出来ないからな?」

「うん、クロ君の思うがままに……イタズラして?」

「おう……」

 そして俺たちは一つのベットに潜り込み、そして一つとなった。

258

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Episode45 セシリアvs一夏 後編

  私の世界観が変わったのは、あのテロの事件の日でした。

 それまでの私は、亡き父様と母様が残した会社や家を守るために、

他人を省みず、それだけの為に生きてきました。

 ISのパイロットになったのも、政府の方がそうすれば遺産の保護

をするという契約のもと、そのために私はなお一層に努力をし、それ

ゆえに自分自身を見失いかけていました。あの日までは──

  対戦相手……一夏さんの機体がやって来てまず思ったのは、その異

常性でした。

 白く塗られたフレームに、まるで円盤のような非固定ユニット、頭

部には金色のV型のアンテナという、そこまで見ればクロトさん達の

機体と然程変わりませんでしたが、その機体から発せられる……雰囲

気というか……そう言ったものが別のものに感じられました。

「待たせちまったな!!」

淑女レディー

紳士

ジェントル

「全くですわ……

を待たせるなんて、

にあるまじきです」

 軽口を言うが、内心私はいつ射っても言いようにライフルを自然な

形に構える。

 一夏さんもそれに気付いたのか、腰に装備された……恐らく

シングルエッジアックスのようなものを構える。

「……」

「…………」

 互いに沈黙が流れ、管制からスタートの合図が鳴り響いた。

「!!」

 先手を取ったのは一夏さん、手に持っていた斧を下段に構えて寄っ

てくる……が、あまりにも

「直線的過ぎですわ!!」

 持っていたライフルのレーザーで迎撃する。一夏さんはそれを斧

の腹でガードしながら、それでも近付いてくる。どうやら対レーザー

加工がされてるようでした。

259

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「でしたら……ティアーズ!!」

 私は背面の四基を飛ばして、さらに火線を増やす。が、その瞬間に

驚きの光景を目にしました。

「白獣!!モード‘ビースト’」

獣・

 その言葉と共に一夏さんの機体が……文字通り

に為りました。

フレームが一部紅い色と共に展開し、まるで狼のような姿へと変貌し

てレーザーを紙一重で避けていきます。

「そんな!!」

 さらに移動も狼らしく四足歩行でいながら、空中を踏み鳴らすかの

ように飛んで来ます。

「ぐ!!ティアーズ!!」

 私はライフルを射ちながらティアーズを動かして牽制を仕掛けま

す。最初の頃は中々出来ませんでしたが、今なら余裕で出来るこの芸

当には流石に不味いと判断したのか、一夏さんは機体を人形へ戻して

距離を離して斧の柄頭からレーザーを放って迎撃してきます。

「くそ……やっぱり遠距離とは相性が悪すぎだろ……」

「ティアーズの火線を避けておきながら良く言いますわ!!」

 というよりも一夏さん自体が射撃がそこまでなのか、サブマシンガ

ン程度の連射でも掠りもしません……というより、どうやったら斧に

銃口なんて組み込めるんですの?

「だったら……白獣、モード‘アイズ’!!」

 その言葉と共に、今度は非固定ユニットが禍々しい水色をベースに

したカラーの光と共に翼のように展開され、フレームも同じカラーの

装甲が現れる。

「そんな小手先の技で!!」

 私はただ機体が変形しただけと思ってティアーズを含めてレー

ザー攻撃を仕掛ける。狙いは抜群、一夏さんは動いてすらいない、当

然直撃する。

S・

E・

が・

 しかし、一夏さんの機体はダメージを受けるどころか、寧ろ

回・

復・

し・

て・

い・

ま・

し・

た・

「な!!なんですの!?その機体は!!」

260

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「──白獣ってのは、こいつの本当の正式名称じゃない」

 私の言葉に、一夏さんは語るようにそう言った。

「こいつは状況に応じて四つの形態へ変化することで、どんな相手と

でも互角に渡り合う為に産み出された」

「四つの……形態変化!?」

 つまり、あの『ビースト』と『アイズ』……そして通常形態の三つ

の他にあと一つ変形するというんですの!?

「ビーストは文字通り、機体を人から獣へと変形することで攻撃の予

知及び地上戦闘で優位に立つ。アイズは非物質要素……レーザーや

エネルギー攻撃を吸収し、それを自分の力へと変換する」

「っ!!だから……」

 その言葉で漸く、当たるはずの攻撃を一瞬にして避けたり、SEを

回復するという不可思議な現象に納得が言った。

死敗北

「だから本来の名前は……四つの獣が敵を

へと呼ぶことから……

『死獣』、そう呼ばれた」

 死獣……まさしくその能力に相応しいとは思いますが、それ以上に

不可解すぎる機体でした。ですが、

「ならミサイルで!!」

 それでも対処のしようはあります!!レーザー等のエネルギーがダ

メなら、物質で攻めるだけ!!ライフルもしまい、拡張領域にしまって

いたコンバットナイフ……インターセプターで攻める!!

ま・

だ・

機・

体・

の・

説・

明・

を・

終・

え・

て・

い・

な・

い・

ん・

だ・

ぜ・

「──セシリア、俺は

?」

 そう言った瞬間、妙な悪寒を感じて慌てて下がりました。次の瞬

間、私が今さっきいた場所で突然爆発が起こりました。

 何事かと思いましたが、すぐにその正体は分かりました。何故なら

私・

が・

放・

っ・

た・

ミ・

サ・

イ・

ル・

それは、

なのだから。

「そんな!?なぜミサイルが私を狙って!!」

「……死獣の最後の姿……モード‘デストロイ’の能力だ」

 その声と共に一夏さんの方を見ると、その姿に息を呑みました。

『アイズ』の時みたいに装甲が開かれてはいましたが、その色は揺れる

ような真紅……さらに非固定ユニットもまるで炎のように紅く染

261

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まっていました。

「‘デストロイ’は、遠隔操作されているもの全てを、自分の支配下へ

と乗っ取る力を持ってる」

「遠隔操作されているものの乗っ取りですって!?」

 それが本当ならば私にとっては最悪ですわ。何故なら

「お前が放ったミサイルも遠隔操作されているもの……ならば乗っ取

テ・

ィ・

ア・

ー・

ズ・

の・

全・

て・

を・

奪・

う・

こ・

と・

さ・

え・

で・

き・

る・

る事は可能だし、何より、

 その通りです。私のIS『ブルー・ティアーズ』は第三世代遠距離

用機体として、脳波遠隔操作兵装『ティアーズ』を有していて、何よ

りそれを中心とした戦術をプランニングされています。

 ですが、逆に『ティアーズ』を全て落とされたり、または今回のよ

うに操作系統を奪われてしまったら、それこそレーザーライフルを

持っただけの第一世代機体までグレードダウンしてしまいます。

 そうなれば一瞬にして殺られるのは受け合い……非常にピンチで

す。

「だから……ウグ!?」

 一夏さんが何かを言おうとした次の瞬間、一夏さんが突然左手で頭

を押さえ始めました。

「い、一夏さん?」

「ハァ……ハァ……セシリア!!すぐにここから……離れろ!!」

「そんなことを言われましても!!と、とにかく一夏さん!!ISを解除

してくださ……ッ!!」

 私がそう言おうとした瞬間、私に向かって一夏さんが銃を射ってき

一・

発・

が・

即・

死・

に・

繋・

が・

る・

ました。しかも先程までのマシンガンではなく、

よ・

う・

な・

高・

火・

力・

レ・

ー・

ザ・

ー・

でした。もし一瞬避けるのが遅ければ、競技用

リミッターが掛けられてるとはいえ死んでいたかもしれません。

「いち……!!」

 再び声を掛けようとしましたが、私はそこで口を閉ざしてしまいま

す。何故なら……

  

262

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               そこには真紅ではなく、深紅の装甲を持った堕天使がそこにいたの

ですから。

263

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Episode46 強いですわね……

 「おいおいおい……チート過ぎだろうが一夏の野郎!!」

 俺は思わずそう言いながら席を立ってカタパルトのある場所へと

走り出す。

「一夏のやつ……中の人ネタが多すぎです」

「そりゃ同感……つか、あれが一夏兄さんの人格なのかすら分かりま

せんけど」

 後では同じく走ってる総士と春秋がそう言っている。何せあの

モード変換機構……どう見ても中の人の演じている別キャラの性質

に酷似しているのだ。

 恐らくはビーストはアクエリオンEVOLのカグラの『ミスラ・グ

ニス』、アイズは遊戯王のカイトのエースの『銀河眼の光子龍』、そし

てデストロイは言わずもがな……

「どこがユニコーンじゃないだよ春秋!!もろ踏襲してんじゃねぇか

!!」

「仕方ないだろ!!俺だってあんな能力なんて寝耳に水なんだよ!!」

「いい争いしてる場合か!!それよりも織斑千冬との連絡は!?」

 喧々囂々に言い合うが、三人とも悠長には構えてはいない。何せい

まの状況は文字通りデストロイ……危険真っ只中だ。

 何せ一夏の機体が極端に紅くなった途端、まるで別人のようにセシ

リアへ攻撃し始めたのだ。ティアーズを使えない状況で、セシリアは

インターセプターというナイフ一本で戦うしかなく、状況は最悪に近

い。

「というより、俺ら三人でアレを止められると思うか?」

「さぁな?良くて五分五分だろ」

 実際のところ、まともに相手できるのは恐らく実弾を使える俺ぐら

いだろう。ビームは恐らく吸収されるから、ビーム砲もインコムも役

に立たないだろうし、かくいう俺も有線とはいえ、遠隔操作のガンバ

レルが使えないから、ヴェルデ装備で何とかするしかない

「というより、なんでシャルロットを呼ばなかったんだ?」

264

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 と、春秋が聞いてくるが、理由を知ってる俺と総士は溜め息を付き

たくなってくる。

「お前もシャルのISと戦ってるなら分かってるだろ?」

「シャルロットのIS?……確かに原作とは180度以上に変わって

たけど……それが?」

「春秋、あの機体のベースはね……ベルフェゴールなんだよ」

 総士のその言葉に春秋は言葉を失い、マジ?、と聞き返してきた。

まさかの気づいてすらいなかったようだ。

「マジもマジ、大真面目だよ」

「いやいやいや!!ちょっと待てって!!え、ベルフェゴールってアレだ

ろ?ガンダムX外伝の!?SDガンダムの!?」

「そのベルフェゴールだ」

 そう言うと、マジかぁ……と、遠い目をしていた。

「まぁ……確かにそれなら今の一夏と戦わせるのは無理だわな……」

 ……さて、読者の方々覚えているだろうか?ガンダムベルフェゴー

ルがどんな存在なのか。覚えている人は少しばかり退屈になるかも

しれないが復習の時間とさせてもらおう。

 ガンダムベルフェゴール……それはガンダムXの世界において、

『アシュタロン』と『ヴァサーゴ』の元になった機体だ。『アシュタロ

ン』のようなクローアームを搭載し、『ヴァサーゴ』のように『メガソ

ニック砲』を搭載している。単純な火力だけなら、『ヴァサーゴCS』

にも引けを取らないだろう。

 そして製造目的……これが重要なのだが、ガンダムベルフェゴール

対・

ニ・

ュ・

ー・

タ・

イ・

プ・

殲・

滅・

用・

ニ・

ュ・

ー・

タ・

イ・

プ・

M・

S・

は『

』というコンセプトで造

られている。何やら言ってることが矛盾してる用だが、そこは別にど

うでもいい。問題は『ニュータイプキラー』という点だ。

 『ニュータイプキラー』、それが意味するのは文字通り、ニュータイ

プを殺すための機体ということになる。そしてユニコーンにも、本来

の意味とは違うが、同じようにニュータイプ殲滅用システム『ニュー

タイプ・デストロイヤー・システム』……通称『NT─D』というも

のが存在している。

265

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 さて、仮に一夏の機体が現在、その『NT─D』によって暴走して

いるのだとしよう。その状態で、ニュータイプキラーのベルフェゴー

ルをベースにしているシャルロットと、今の一夏を戦わせた場合どう

なるか?

 答えは地獄絵図、互いに暴走しあい、互いが壊れるまで戦い続ける

事になってしまい、最悪、二人とも死ぬ可能性がある。

 さらに言うと、その戦闘の余波で他の生徒が怪我をする危険性があ

る。そうなれば一夏は少年院……いや、女権の手によって人体実験の

モルモットにされかねない。それだけは防がなければならない。

「そういうわけだから、さっさと行くぞ」

「分かったよ!!だが、勝算は?はっきり言ってあの状態の一夏を大人

しくさせる手段なんてねぇぞ?」

「そこは、傭兵部隊のリーダーに任せるさ、な?総士?」

「それは別に構いませんけど、とりあえず前提条件としてトリモチ弾

は装備ですよ?」

   セシリア視点

「この!!」

 インターセプターを目の前の目標へと切りつける。が、暴走してる

彼はそれをいとも簡単に避けたうえに、私のお腹に蹴りを容れてきま

した。

「カハッ!!」

 あまりの威力に、絶対防御の上からなのにかなりのノックバックが

発生して、呼吸が一瞬できなくなり、そこを一夏さん(?)は畳み掛

けるように手持ちのアックスで切りつけてきます。

 が、それを何とかインターセプターでガードしますが、圧倒的なパ

ワー差と筋力的な差でそれを弾き飛ばされてしまい、首を掴まれ、今

度は斧の柄頭を頭に殴り付けてきます。それによって額から血が流

れて、正直頭がぼうっとし始めました。

「い……ちか……さん……」

266

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 正気に……と言うことすらできず、私は意識を失いかけたところ

を、彼は叩きつけるかのようにお腹を蹴り飛ばしました。

 土煙から現れた私はISを強制解除され、ISスーツの至るところ

が破けとんで……正直他人からしたら見るに耐えない姿でした。

「はぁ…………はぁ…………カハッ!!」

 息絶え絶えに立ち上がろうとした途端に、口から大量の血が吹き出

てしまいます……。正直、口の中の味なんか考えてられないほど、今

の自分はダメージが大きすぎました。

(やっぱり……一夏さんは強いですわね……)

 私はそんなふうに言いながら、フラフラと、まるで亡霊のように立

ち上がる。

こ・

う・

 なぜ立ち上がるのか、と聞かれれば私はこう答えるだろう……

す・

る・

よ・

う・

に・

一・

夏・

さ・

ん・

に・

頼・

ん・

だ・

の・

だ・

か・

ら・

、と

 本来ISの暴走はシステムに組み込まれているか、そうなるように

他人がハッキングするかの二択しか存在しない。確かに一夏さんは

旗から見れば暴走しているようにしか見えませんが、実際は真逆、彼

は寧ろ精神的には冷静なはずです。

私・

が・

死・

に・

急・

い・

で・

る・

か・

ら・

 ならなぜか、それは

でしょうね。

 両親が事故で無くなったあと、私はひたすらに家を守ることだけを

目的として生きていました。他人なんかどうでもいい、家を、両親が

残したものを守るためなら他人なんて、そういう生き方をしていまし

た。

 ですがあの襲撃事件の時以来、私の中にある感情が生まれました。

 ──私は、なんのために生きているのか、と

 実際、私がいくら頑張っても、ISを動かしても、ほとんど何も変

わらない、進んでいるのか、後退しているのか、全然分からない日々

に、私はある種の諦めを持ちました。

 ──私が存在する意味がないのだ、と

 事実、イギリス政府は保護と言う名目でオルコット家から資産を取

り上げ、それを時刻の女性政治家が横領する。毎年のように資産は少

しずつ消え始め、五年間で私が継いだ時の八割にまで資産が消えてい

267

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ました。

 ISに関しても、ただBT適正が他よりも高かっただけ、そうでな

いならすぐにでも使い捨ての扱いを受けてた可能性だってある。そ

う考えると、私の存在意味なんてはなから無かったと考えた方が気が

楽でした。

 それでも、やはりオルコット家の当主として、イギリスの代表候補

I・

S・

の・

暴・

生として勝手をすることはできない。だからこそ、私は彼に

走・

に・

見・

せ・

か・

け・

た・

殺・

人・

を依頼しました。

 当然ながら彼は猛反発し、たった数日程度の付き合いである私の事

を心配しました。でも、私の事を話して、何を思ったのか彼は件を了

承してくれました。

 理由は聞きませんでした。それを聞けば、私に意味ができてしまう

から……存在しなくてはいけない責任が出てしまうから……そんな

気がしてなら無かったのです

 そして、彼は手元の大斧をブレード……ビームサーベルのように展

開しました。

(あぁ、お母様……お父様……セシリアも今…………そちらに……)

 私の心の中の遺言を聞いたのか、一夏さんはその剣を私に向かって

振り下ろしました。

268

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Episode47 織斑一夏

  ……

 …………

 ………………

 おかしい、幾らなんでも切り裂かれる感覚が一向に来ない……そう

思って私は瞑った目を開くと、一夏さんの機体の剣は私の真横に突き

刺さっていました。

「生き……てる?」

 なんで、私はそう思って一夏さんの機体の顔を見る。全身装甲で頭

部も特殊な装甲で被われたその顔を

「セシリア……俺はお前を殺さない」

「!!なん……」

「お前が欲しかったものが、気づいたからだよ」

 欲しかったもの?そんなものは…………

「お前は俺に、自分を殺してくれと言った。その理由も、それに至った

訳も聞いて……その上で気づいたんだよ」

「なに……を」

純・

粋・

に・

誉・

め・

て・

も・

ら・

い・

た・

か・

っ・

た・

「お前は

んだろ?親が死んで、家を守る

ために必死になって、それを誰かに認めてもらいたかったんだろ?」

「そ、そんなこと……」

 ない、と言いたい口が途中で強ばってしまいます。まるでその言葉

を言わせないかのように、声が出なくなる……そんな感じに。

「けど、お前は頑張れば頑張るほど、誉めてもらうどころか、それを当

然として受け止められたり、もしくは他人から利用されたりしたから

……俺にあんな事を言った」

「……!!」

「オルコット家の当主として出来て当然……一緒にいるメイドにまで

そんな風に言われたら、俺がお前の立場でも確かにそうなると思う、

けど」

 彼はそういった途端右腕だけを部分解除した。何を──そう思っ

269

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た瞬間に、彼はその掌を頭に乗せました。

「俺には、俺達兄弟には両親が居ないから……両親にどうされたいっ

てのも少し分からない……けど、俺はお前が努力したことを、誉めて

やりたいって思ったんだ」

「あ……!!」

 その言葉は、いえ、その姿はまるで幼い頃に見て、そして憧れたお

父様の影と、良く似ていました。

 お父様はISが出てからも、その風潮に負けず会社を守り続け、お

母様はそれを影から何時も支えていた。その事を幼い私に何度も教

えてくれ、家で私の成長を一番喜んでくれたのもお父様でした。

 それを彼は、私に教えてくださいました。たった数日の関係だった

私に、自分が捕まるかもしれない状況になるかもしれなくても……彼

は「う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 そして私は崩れました。今まで背負ってきたものを下ろすかのよ

うに、彼に抱きつき、その胸のなかで嗚咽を漏らします。

  千冬視点

「まったく、下手な茶番をしおって……」

 管制室でそんなぼやきをしながら、私はため息を着きたくなった。

なにかやらかすとは思ってはいたが、まさかあんな事をするとはな

……

「さて、どう思うお前ら?」

 私は振り返らずにそう聞くと、男三人衆は唖然とした表情でフィー

ルドを見ていた。

「なんていうか……一夏って演技力ありますね?」

「藤原、恐らくアイツにそんなものは全くない。寧ろあそこまで演技

に見えたのはただ単に全身装甲と機体特性との二つがあったからこ

そだ」

 そうでないなら、いや、私の考えすぎだな。

「それで、一夏兄さんには罰はあるんですか?」

270

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「いや、機体はモニタリングしていて正常値だったし、何よりオルコッ

トによる自作自演だ、注意こそすれ罰するには値しないさ」

「そうっすか…………」

 それだけ言うと、ファブリエはさっさと出ていってしまった。それ

を追うように、残り二人も退室していく。

 それを確認すると、私は再びため息をはいた。

「……山田先生、オルコットの治療に行って貰えるか?」

「はい!!織斑先生、そういうの苦手ですも……「摩耶、あとで少し模擬

戦をしようか?」ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!すみませんでし

たぁぁぁぁ!!」

 そういうと摩耶は逃げるように走っていく。その速度は普段の彼

女の雰囲気からは考えられないほどに速かった。

「…………やれやれ」

 私はそういうと今の試合の映像をディスプレイに表示する。

「…………」

 改めて見直してみると、一夏の動きはおかしく感じた。

 まず武器の動かし方、刀や似たような剣は元々アイツも篠ノ之流の

剣術をかじる程度だが学んでいる。だが斧となると動きはかなり変

わるはず……それを一夏はまるで手足のように自然に動かしていた

……ブリュンヒルデなどと周りから云われている私でも不可能だろ

う。

 そして口調、試合中の一夏の声は別人のようにトーンと勢いが低

く、さらにアイツにはない鋭さが感じられた。

「(一夏……お前はいったい……)」

  一夏視点

「…………」

 廊下を歩いていた俺は、ひたすら無言で、背中から感じる刺すよう

な視線に耐えていた。

「「…………」」ジー……

 後の二人……恐らく箒とマドカからの視線は、多分じゃなくて確実

271

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に嫉妬なんだろうな……まぁ、でも、

「…………久しぶりに会いたいな……鈴」

 俺は今は中国で頑張っているであろう友人……いや、それ以上の存

在を思い出す。

 もしも彼女がさっきの状況を見ていたら、多分嫉妬どころの話じゃ

なくなる。下手したら……

「」ゴクリ

 まぁ、アイツも近々こっちに転入するって話らしいし、俺にとって

俺・

が・

俺・

で・

あ・

る・

証・

拠・

アイツは必要な存在なんだ。……

として

「なあ……そうだろ、俺?」

俺・

だ・

け・

に・

見・

え・

る・

剣・

 そして俺は天に向かって手を伸ばし……それを、

を掴んだ。

「……何をやっているんだ?一夏?」

 と、俺の行動に気づいた箒が声をかけてくる。そして、俺は少しだ

け、唇を歪めた。

「……何でもない。それよりマドカは……さっきまで一緒にいたんだ

ろ?」

「アイツなら御手洗いに行ったぞ……それで、いったい何をしている

?」

お・

前・

に・

も・

見・

え・

て・

る・

ん・

だ・

ろ・

「いや、別に……

?」

 その言葉を聞いた途端、箒は顔を歪め、一歩だけ後ろへ下がった。

「…………なんの事だ?」

「惚けなくていい、ここには今は誰もいないし監視カメラもない。安

心していいぜ、なぁ……」

       

272

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南・

沢・

泉・

理・

 ──

273

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Episode48 昔話をしてやろう

 「一夏…………」

 箒はまるで睨み付けるように此方を向いている。

「…………なぜ、私が彼女だと思う」

「…………俺は……いや、俺達三人はあの日も一緒だったからだ」

 俺が真剣にそういうと、箒は探るような表情だったが、仕方ないと

いうように肩を下ろした。

「…………案外、誰にもバレてないと思ってたんだけどね」

 そういうと箒……いや、南沢泉理は自分の右手を出して、彼女の分

身足る剣を召喚した。

 鮮やかな桃色で、指を思わせる五本の刃、それを腕に嵌めている彼

女は諦めたような表情で、その正体を現した。

 流れるような漆黒のポニーテールは、剣と同じ桃色のツインテール

へと代わり、身長も頭一つ下がって、さらに目も鋭さはあるが垂れ目

気味に変わっていて、あの頃の彼女を引き伸ばした姿の少女が姿を現

した。

「……この姿では久しぶりね、一夏。いったい何時から気付いていた

の?」

「……そうだな、泉理。何時からと言われれば、あの窓からの飛び降り

の時から、だな」

 俺の知ってる限り、箒は真っ直ぐ過ぎてああいった突拍子のない行

動を嫌う質があった。それは成長しても変わらないであろう、篠ノ之

箒の本質だ。

「そっか……そんなに早くから気づいてたんだね」

「…………なぁ泉理、お前が箒に姿を変えてるのは……つまり」

「…………うん、一夏の思ってる通りで間違いないよ。最後に見たの

は……私だったから」

「……!!……そっか」

 俺は力なく体をへたらせ、悔しく笑う。それが意味するのは、悲し

くも、仕方のない現実だったのだから。

274

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最・

後・

の・

顔・

「…………なぁ、箒の……

はどんな表情だった?」

「…………笑ってたよ、何時も私達を支えてくれていた時みたいに

……」

「…………そっか」

 俺はそれだけ知ると、幼い頃の彼女を思いだし、涙を浮かべる。

「…………やっぱり、お前も能力者だったんだな」

「「!!」」

 突然聞こえた声に、俺達二人はすぐにそれぞれの剣を構える。あり

得ない、監視カメラは無かったけどここには俺と泉理の二人が着けた

人・

払・

い・

というリアルブートをしていた筈なのに。

 そして姿を現したのは、意外な人物であった。しかしそいつも手に

デ・

ィ・

ソ・

ー・

ド・

は俺達と同じ剣を……端末を……

を持っていた。

「クロト!?お前も……」

「その通りだよ一夏、そして……初めましてか久しぶりかは分からな

いが、君が南沢泉理で良いんだよな?」

「!!一夏、こいつ凄い危険かもしれない」

 泉理が恐れるように下がる。正直俺も、こいつと戦って勝てるかと

聞かれれば多分無理だと思う。それぐらいに強力な雰囲気を放って

いた。

「クロト……泉理はお前とは会ったことは無いはずだ、なぜ知ってる

?」

「……そうだな、少しだけ昔話をしてやろう。

 昔、ある少年と少女が居ました。二人は知り合いどころか、顔も会

わせたことの無い他人同士、しかし二人はある場所で出会ったので

す。

 当時、少年は友人だったもう一人の少女と一緒に病院を探索してい

ました。薄暗く、灯りもない病院を二人は進み、そして見てしまった

のです。拘束服を着させられ、人体実験されているその少女を。

 少年たちは声が出なかった。そのこの世とはあり得ない光景に恐

怖し、そして彼女から向けられた視線に怯え、二人は逃げ出しました。

 一方彼女は、両親のカルト宗教に呑まれたせいで受けたこの地獄か

275

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ら逃げ出したいと願い続け、彼に気づいたとき言いました……助け

て、と。しかしそれによって彼女の事に怯えてしまった彼は逃げてし

まい、少女は一人で地獄を耐えていきました。

 そして数週間後、二人にある転機が訪れました。突如として起こっ

た謎の地震が、二人の住んでいた街を壊滅させたのです。

 そして少年と少女は新たな力を手に入れました。少年はもう一人

の少女……いえ、妄想の友人だった少女を現実へと呼び出し、少女は

研究者から逃れるために他人の姿へと変わる能力を得ました。

 そして二人は孤児として一緒に暮らし始め、正しく兄弟のように生

活しましたとさ」

 クロトの昔話を聞いていた俺達は戦慄を覚えた。その話の彼女は

……ここにいる南沢泉理の事で間違いないだろうからだ。

 だが、クロトの語りは終わらなかった。寧ろここからが本番とでも

言いたいような目をしていた。

「しかしこの昔話には裏話がありました。

 少年と少女が初めて出会ったその日、彼は一本の毛髪を落としてし

まいました。

 研究者は不審がりました。表だっては病院とはいえ研究する場所、

しかも披検体である少女のいる場所の近くは無菌室のような場所、髪

の毛など落ちてるはずもない。

 そこで研究者はその髪の毛を調べてみました。するとどうでしょ

う、その髪の毛の主はその病院で『イマジナリーフレンド』という精

神病を患う少年の者であり、何より、研究者が所属していた部署で『ギ

ガロマニアックス』の適正が最大値に近いと、マークしていた人間

だったのですから

 そこで研究者は思い付きました。自分の手にはマークしていた少

年の遺伝子細胞の詰まった髪の毛と、ギガロマニアックスの研究のた

めの披検体である少女……その二人の細胞を使って、最高の『ギガロ

マニアックス』を産み出せるのでは、と」

 そこでクロトは言葉をとめた。だが、俺達はその今までの台詞で全

てを悟ってしまったのだ。

276

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 泉理も同じくなのか、かなり顔が青ざめていて見ただけでも大変な

ことになっている。

「まさか……クロトお前は……」

「クロト……確かにそれはこの世界での名前だ。けど、実際の名前は

違う……」

                   

南沢拓哉

みなみさわ たくや

「俺の本当の名前は『

』、南沢泉理と宮代拓留の遺伝子細胞に

遺伝子強化研究用素体

ヴァ

ド・チャ

よって産み出された

、それが俺という存在だ」

277

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Episode49 300人委員会

  さて、俺の言葉を聞いてか否か、目の前の泉理さんは体を緊張させ

ている。まぁそりゃね、同い年の男が実は自分の息子……便宜上は

……であるなんて聞かされたら驚かない方がおかしい。

「…………クロト、いや拓哉」

「クロトで良いぜ一夏、それに南沢拓哉は一度死んだ人間だ、その名前

で呼ばれるのは癪に触る」

「ならクロト、お前がISを動かしてるのは、ディソードによるリアル

ブートのお陰なのか?」

「へぇ、察しが良いな。その通りだ」

「…………だとしたら、お前はあとどれ位生きられる」

 その質問に、俺と泉理は驚く。そして俺はある意味感心した。

「なんだ……お前も知ってるのか」

「……ギガロマニアックスの能力を使い過ぎれば肉体を……自分の脳

を壊す。たった一回でも深刻なダメージを受けかねないのに、お前は

……」

正・

真・

正・

銘・

の・

や・

つ・

「なに、その点なら問題ないさ。一夏、俺もお前と同じ

だからな」

 その言葉に、今度は一夏が驚いた。まぁ半分嘘なのだが信じてるみ

たいだな。

「……なんで、俺がそうだと知っている」

「そりゃ、お前が人払いのリアルブートを使ってるから」

 もし一夏のディソードが正真正銘のやつでないなら、そんなことは

絶対にできない。確実に、な。

「はっきり言えば、泉理のディソードは劣化版……模倣品だ。ギガロ

マニアックスの適正を後付けで手に入れたせいか、本来のリアルブー

トは一定の一つの事にしか発動できない」

「…………その通りよ。私のリアルブートは『他人から自分の姿を他

人の姿へと誤認させる』こと、それ以外にリアルブートはできない」

 泉理は俺の言葉に肯定し、こくりと小さく頷いた。

278

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「しかも一夏、お前自分で言ってたよな『俺がISをリアルブートで動

かしてるのか』って、それはつまり一夏、お前はそうじゃないと分かっ

副作用

デメリット

てるような口だ。その

まで知ってやがる」

 事実、ディソードの副作用は本来ならば殆ど誰も知らない。ていう

かギガロマニアックス自体が妄想の産物だから、医学的に証明されて

もいない。

 だからこの事を知ってるのは恐らく……組織を潰そうと躍起に

なってるあの嫌みったらしい黒髪ロングの研究者ぐらいだろうな

……。

副作用

デメリット

「本来ならばお前にも幻聴なり視覚の乱れなりの

があるはずな

んだが……まぁそれは別にどうでもいい。ギガロマニアックスの事

も、箒の正体もバラすつもりも無いからな」

「…………信じていいのか?それは」

「なら信用ついでに教えておいてやる。今この学校にいるギガロマニ

アックス……劣化版込みでディソードを顕現してるのは俺達以外に

は居ない。素養があるのは二人で、知識があるのも二人、どっちも俺

の知り合いだから問題なしだ」

 勿論素養持ちってのはそれは簪と本音だ。知識持ちってのも楯無

さんと転生者の総士、春秋はどうかは知らないがなんとも言えない

が、全員信頼に足る人物だということには違いない。

「……泉理は大丈夫か?」

「うん、私は別に……でも束さんになんて言えば……」

「そういやウサギも騙してるんだったな……はぁ、仕方ない、そっちは

あとで策を考えとくよ」

 それでもあのシスコンウサギが暴れない確率は万に一つの確率で

も高い方だが。

「それじゃ俺はこれで、人が来る前に元の姿に戻っておけよ」

 俺はそう言って二人から別れた。が、俺の心の中は結構イライラし

ている。それはもうぶつけようが無いくらいに……。

「…………」

 屋上へやって来た俺は、誰も回りに居ないことを確認すると、携帯

279

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を取り出してあるアドレスを開く。そしてその人間の電話番号を押

して耳に当てる。

「…………」

『…………私だ』

 電話の相手は抑揚のない、まるで一本調子のような平坦な声で応じ

る。

尾・

上・

世・

莉・

架・

「一年ぐらいぶりだな、…………

『貴様……南沢拓哉だな?』

「その通りだ、ついでに言えば今はクロト・D・ファブリエって名前だ

からその名で呼ぶな」

 俺が苛つきを隠しながらそう言うと、尾上はため息をついている。

『貴様、自分からこちらには関わらないと言ってなかったか?』

「テメェが約束を守ってたならな。南沢泉理がIS学園に来ないよう

にしたんじゃ無かったのか?」

 そう、俺はこいつに彼女をこの学校に来ないように頼んでいた。そ

れなのに彼女は現にここにいる。

『私も、私の共犯者もそのつもりだった……が、別のセクターの人間に

邪魔をされてな、どうしようも無かった』

「別のセクターだと?あの地震以来、ギガロマニアックス研究をして

るのは…………まさか」

 俺は自分で言って一人だけ思い出した。そいつは恐らくオリジナ

ギ・

ガ・

ロ・

マ・

ニ・

ア・

ッ・

ク・

ス・

ルの

の使い手であり、組織……300人委員会の

監視役に抜擢されてる男……。

「和久井の野郎か……」

『そうだ。奴はディソード使いでありギガロマニアックスとしての素

養を持つ大人だ。劣化版の私と模造品の協力者では太刀打ちなどで

きない』

「ち…………それで、そいつの目的は?」

 俺は奴の目的を聞き出す。和久井は監視役といったがそれ以上に

知識欲が高い。アイツが目的もなく地震の要因となった因子を持つ

彼女をみすみす何処かへと送ろうなどと考える訳がない。

280

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『奴曰く、ISとギガロマニアックスを組み合わせると何かしらが起

こるからと言っていたが……詳しくは知らん』

「そうか……それで、お前はオリジナルの為に事件の下準備か?」

『…………私にとっては、アイツが面白いと感じればそれでいいから

な』

 まるで会話のドッジボールのようだが、尾上世莉架という少女の本

質を知ってる俺からしたら納得の言葉だ。……かなり狂気を孕んで

いるが。

「そうかよ。悪いが俺もその事を確認したかっただけだ。今回のは

しょうがないと見過ごしておいてやる」

『そうか……『尾上!!取材に行くぞー!!』あ、待ってよタク〜!!』

 そう言って奴は電話を切った。最後の最後で俺のもう一人のオリ

ジナルの声が聞こえて、打って変わって天然系少女の顔になる彼女を

思い浮かべ苦笑する。

「…………ISとギガロマニアックスの組合わせ……か」

 それが何を意味するのかは、俺には正直分からない。けど、

「テメェらの好き勝手にはさせねぇぜ……和久井修一、委員会のくそ

野郎ども……」

         ──その時はまだ気づいていなかった。歯車は噛み合い始め、やが

て動き出す時を待っていることを……。

   

281

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妄想の使者

ギガロマニアックス

無限の成層圏

インフィニット・ストラトス

宇宙の戦士の象徴

 ──

、そして

、その全

てが交わり、世界の変革が始まる

282

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Episode50 どうすればいい……

  さて、あんな一夏とセシリアの対戦から一日が経った昼休み、俺は

屋上で昼寝と洒落こんでいた。

「えへへ……クロ君の寝顔可愛いね……」

 と、こんなことを言ってるのはクラスメイト兼恋人の本音だ。ちな

みに今の俺の状況は、本音の脚に膝枕させてもらってるという、新党

のほほんの奴等に異端審問会を開かれてもおかしくないが、はっきり

言って恋人権限だバカ野郎と言ってやる。

「ん、本音の笑顔よりは劣るよ」

「もうクロ君ってば〜///」

「……本音は一回地獄に堕ちればいい」

 なんか物騒な事を呟いてるのは本音の幼馴染み兼ご主人様(間違い

にあらず)の簪である。どうやら今は眼鏡じゃなくて裸眼らしく、何

時もより瞳が細い為に睨んでるようにも見える。

「え〜かんちゃんヒドイ〜!!」

「食事中に隣でイチャイチャされてたら誰でもそう思う。むしろ思わ

ない方が少ない」

 バッサリと切り捨てる簪に、本音はシュンと頭を下げる。まぁ別に

それはいいんだが顔にふくよかな感触が気持ちいい具合に当たって

るわけで、それなりに幸福である。うん。

「…………本音、あとで模擬戦ね」

「なんでさ!?」

 それは正義の味方の口癖だぞ?

  さてそんなこんなで放課後になった訳なんだが、なんかちみっこい

のが校門の近くでうろうろしてる。

「えっと……ああもう!!事務局ってどこよ!!ホント無駄に広いわね

!!」

 …………なんか聞いたことのある声だよ。しかもツインテールに

ちみっこい体に凹凸のない肉体……うん、原作ヒロインの一人だっ

283

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た。

「えっと……君誰?」

「へ?あぁ丁度良かったわ、実はちょっと道に迷ってね、事務局ってど

こにあるか分かる?」

「事務局は校舎の東側の教職員入り口の近くだ。なんなら案内しよう

か?」

 そう言うと彼女は任せた、と言って俺のあとを着いてくる。そして

数分ぐらい歩いて到着すると彼女は感慨深そうにため息をついた。

「こんな近くなんて……敷地広すぎよ」

「それに関しては全くもって同感だな。人工島を丸々一つ敷地にして

るくらいだし」

「どんだけよ……それより、アンタ日本語上手すぎない?」

 と、彼女は不思議そうに聞いてくる。まぁそりゃ今はフランス人の

容姿だし、髪も顔も日本人とは全く違うからな。

「実家がISの生産会社だからな。俺もそれの技術者だし」

あ・

の・

「なるほどね、つまりアンタが

クロトなんだ」

 少女の発言に少しだけムッとしたが、とりあえず営業スマイルは崩

さない。

「そういう貴女の事も知ってますよ、中国の代表候補生の凰鈴音さん

?」

「へぇ、私もそれなりに有名ってことね」

「ええ、なんでも本国では対戦相手を尽く蹂躙して、その中華剣術は眼

を見張るに値するとか。暴れ始めたら容赦の一切の無いことから、つ

凶戦猫

バーサーキャット

いた二つ名が『

』……」

「蹂躙ってそこまではやってないわよ!!ただアイツらがチビだの鉄板

だの言ってきたからO★HA★NA★SHIしただけよ!!」

 フシュー、と行き荒くしていて、もし猫耳と尻尾があればピンッ、と

立ってること請け合いだろう。

「それで、そちらは自分のことを知ってるんですか?」

「あー、とりあえず敬語は良いわよ同い年だし、アンタのことは一夏か

色・

々・

と・

面・

白・

い・

同・

類・

だ・

ら昨日メールがあってね、言ってたわよ…………

284

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っ・

て・

、ね」

 その言葉を聞いた瞬間、俺は思わずディソードを抜いて構えようと

右・

手・

に・

した。が、その前に彼女の

持っていたそれによって阻まれる。

 外見だけ見れば青竜刀のそれと良く似ているが、その刃は波のよう

にうねっていて、柄頭には鎖のような物に繋がれた左手の対照的なも

う一本と繋がってる。…………明らかにディソードのそれだった。

「お前…………」

「そうね、改めて自己紹介するわ、私の名前は凰鈴音、中国から来た転

一・

夏・

を・

救・

う・

た・

め・

に・

産・

ま・

れ・

た・

存・

在・

校生であり、

。私の行動理念は一夏の

ため、彼の為なら命だって投げ出すわ」

 彼女のその言葉に、俺は少しだけ納得した。

「なるほど、ね……つまるところあの腹黒然少女と似たような存在

……ってわけか」

「ふーん、なんだ、聞いても驚かないのね」

「ある程度は予想していたからな。ていうか、一夏がギガロマニアッ

クスだって分かったときから、可能性は感じてた」

 そう、俺はこの少女の事をある意味で感付いていた。

「……どういうこと?」

「この世界には尾上世莉架が存在していた……そしてあの地震も、つ

まりこのIS世界の中でもアイツらの存在は確認できてたし、彼らの

ストーリーも現存する」

 だとすれば、おかしなことが二つある。

「ならなぜ南沢泉理が篠ノ之箒に化けていたのか……本来なら彼女は

一夏とは知り合わず、別の人間に化けているはず、なのに彼女は箒と

いう少女に化け、一夏とも知り合ってる」

 詰まる所物語のキャラクターの破綻、本来居るはずの人間が存在せ

ず、別の人間と交わる……これを破綻と呼ばずに何とするか。そして

「そもそもの話、お前が一夏の学校に転校してくるってのもおかしい

と思った。別に中国から日本に移住するってのは良く聞く話だし、疑

地・

震・

の・

半・

年・

うつもりはないが、余りにもタイミングが良すぎる。何せ

後・

に・

や・

っ・

て・

来・

る・

なんてな」

285

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 そう、あのウサギがISを発表したのは丁度六年くらい前、そして

地震が起こったのもそれから半年ぐらい、当時は地震の影響で本国に

戻る外国人が多く、逆に移住する外国人なんて0に近いはずだ。

 それなのに彼女は一夏に出会った……となれば考えられるのは二

つ、本当に中国から来たのかだが、これは彼女のさっきの言葉から違

うと判断できる。つまり残るは──

織・

斑・

一・

夏・

の・

妄・

想・

の・

友・

人・

イ・

マ・

ジ・

ナ・

リ・

ー・

・・

フ・

レ・

ン・

ド・

……

ってわけか」

 俺の導きだした答えに、彼女はフッと笑うとその手の剣を引いてし

まった。

「そうね……それだけなら良かったのにね」

「それだけなら?どういうことだ?」

「…………そうね、どうせなら誰かには話しておくべきかしらね、アイ

ツには絶対に言えないし」

 そう言うと彼女は俺に向き直る。

「確かに私はアイツの……ギガロマニアックスとしてのリアルブート

によってこの世界に存在してる……けど、それももう時間がないの

よ」

「……時間がない?」

 どういうことだ?そう思った瞬間に彼女の次の言葉に思わず眼を

見開いてしまった。

           

286

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           限・

界・

な・

の・

よ・

……良くて三年……早ければ半年で私は、この世界の存

在出来なくなる」

             「なん…………だと?」

 その言葉は衝撃的過ぎた。存在が消滅?残り半年から三年?意味

が分からなかった。

「リアルブートで存在してる私は、一夏のギガロマニアックスが無く

なっても、多分生きていられる。けど、それでもアイツが……一夏が

287

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私を産み出す存在理由が無くなれば、私はこの世から消滅しちゃう」

「な!!」

 存在理由……宮代拓留にとっての尾上世莉架の存在理由が『宮代拓

留に面白い事を与える』だったが、彼女は再来によって彼をヒーロー

にすることで、自分が捕まることで再来事件を幕引きにするつもり

だった……。そして彼女はその後に消滅するはずだったらしい。恐

らく鈴にもそれと同じような現象に陥ってるのだ。

「……お前の……お前の存在理由は……」

「私?私はね────」

 彼女はそれを告げると、さっさと事務局へと行ってしまった……。

「鈴……お前……」

 彼女の言葉が本物だとしたら、彼女が真の意味で消滅してしまうの

は恐らく…………。

「俺は……どうすれば良いんだ」

 その呟きだけが、夕焼けに染まる空に冷たく響いた。

288

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Episode51 平穏をくれ……

 「…………はぁ」

 鈴と別れてすぐ、俺は寮に戻ってベットに倒れ混むと物思いに耽っ

ていた。

 別段、彼女の事を憐れだと思ったとかそういうことじゃない。それ

は彼女の存在理由の冒涜だし、何よりもある意味彼女らしいとは思う

からだ。

「けど……な……」

 それでも考え込んでしまうのは、俺自身がまだまだ未熟なのか、そ

れとも単なるお人好しなのか……

「お、いたいた!!クロト!!」

「ん?」

 と、慌てた様子でやって来たのは同室の友人である総士だ。

「なんだよいきなり」

「いきなりじゃねぇって、一夏のクラス代表パーティそろそろ始まる

ぞ?」

「いや、俺三組だし、それに人多いの苦手だから別に行かなくても

……」

「番外編でノリノリに仮装してた奴が人多いの苦手とか嘘だろ。それ

とそういう空気壊す発言はダメだからな〜」

 と、まるで引きずるように襟首を掴まれドナドナされる。とりあえ

ずお願いだから気管が塞がるからやめてくれ〜!!

 「「「織斑君!!クラス代表決定おめでとう!!」」」

「えっと……ありがとう……ございます?」

「なんで疑問系なんだよ一夏兄さん……」

 途中普通に歩いて、会場である一年生寮食堂に到着した俺が見たの

は、たった数時間足らずで普通にパーティーらしい雰囲気満面だっ

た。

「クロト兄遅いよ〜」

289

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「そうかよシャル、つか普通に他クラスの連中多いな……」

 見た限り、俺や春秋といった三組の生徒や、総士に簪といった別ク

ラスの代表まで、各々勢揃いという感じになっている。

「まぁパーティーは楽しんだもの勝ちって言うしね。あ、これクロト

兄のドリンクだよ」

「そうかい、……ところでこのジュースなんかヤバイものとか入って

たりするのか?」

「なんでさ!!そんなことしないから!?」

 シャルは不満そうに言ってるが、我が妹はかなり質の悪いヤンデレ

系ブラコンだからな。前にスポーツドリンクに媚薬なんてもん入れ

てきたから、後の処理が大変なことになった(最も、それを渡したの

がやっぱりウサギだったから、後日減給+腕ひしぎ逆十字を食らわせ

た)

「ホントに大丈夫だから!!普通に市販のジュースをそのまま紙コップ

に注いだだけだから」

「…………とりあえず今回は信用しようか。それで、セシリアは……

まだ病室か?」

 俺がそう聞くと、シャルは苦笑いを浮かべる。

「うん。怪我は元よりなんだけど、この間のがセシリアの自作自演

だったから織斑先生達に怒られてね、今ごろは病室で反省文でも書い

てるんじゃないかな?」

「そうかよ……あとでお菓子でも持ってお見舞いにでも行ってこい」

「そういうのはクロト兄が行ってきてね。知ってるよ、セシリアのお

見舞い、行ってないんだってこと」

 ジト目で睨んでくる妹に、俺はため息混じりに頭を引っ掻く。

「お見舞いつってもまだ一日しか経ってないからな、それに今日は

ちょっと色々あったしで無理だったし……」

「色々って、まさかまた無茶とかしようってのじゃ無いよね?」

「それはない。今回に限っては全くない」

 寧ろ今回の件は一夏が解決するべき事だ。部外者で良く知らない

人間が関わるには重たすぎるし辛すぎる。

290

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「それなら良いけどさ……クロト兄ってどこかうちのウサギさんと同

じで突拍子もないことするからね」

「余計なお世話だっつうの」

 軽くデコピンを食らわせて俺は隅っこの方に向かう。個人的に騒

がしいのは好きじゃないし、できるなら原作キャラとブッキングした

くない…………もう手遅れだが。

「あ、クロトくんだよね!!私、二年生で新聞部の黛薫子っていうんだけ

ど、少し取材しても良いかな?」

「……別に構いませんけど」

 はい、やっぱり捕まったよね。原作キャラ……一夏達と近づけばこ

うなることは明白なのに……

「じゃあ一つ目!!フリーデン社のテストパイロットらしいけど、やっ

ぱりフランスでも女性主義の人が多いのかな?」

「……珍しい質問をしますね。まぁ確かにうちは合併前のデュノア社

だった人員が半数ぐらいいますから、国中にはそういったカテゴリー

の女性達も居ますけど、うちはそういった偏見を持つ人間はシャット

アウト……雇わないスタイルなんで男女間の摩擦は少ないですよ」

「へぇ〜。世界シェア第二位の会社にしては意外だね」

「意外というか、そもそもIS自体女性だけじゃ造れない事を分かっ

てるんで、武器や機体の企画を俺達男や技術者が綿密に造って、それ

を実際に動かして調整、意見をするのがテスターの女性達ってしてる

だけです。実際俺も実家で技術者としても採用してもらってるんで、

そういった現場は良く見てましたから」

 実際に動かす女性テストパイロット達の意見は技術者面々にはか

なり有益だし、女性陣もその意見をすぐに解釈したうえで改良する技

術者を見習ってる部分もあるからか、テストパイロットの中には造る

側に転向する人も少なくないと聞いたことがあるくらいだしな。

「じゃあ二つ目、とある女子生徒からクロト君って彼女が居るって聞

いたんだけど?マジ?」

「マジですよ……別に言いふらすもんでも無いんで自分からは言わな

いですけど」

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 俺が無難にそういうと、パーティ会場に静けさが舞い降りた。……

え?俺なんか不味いこといった?と思った次の瞬間

「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」

「「☆*○◎〓%?△□!?」」

 いつ以来かのソニックウェーブが俺と黛先輩の鼓膜をつんざいた。

ていうかうるせぇよ!!

「だ、大丈夫っすか?先輩?」

「う、うん……いや〜耳栓の上から鼓膜震わせるほどとはね(汗)」

「いつの間に……」

 そう思って見てみると、彼女の耳には10円玉が挟まっていて、即

席の耳栓が完成していた。

「なんで10円玉?」

「ほら、耳の穴の近くって溝みたいになってるから、10円硬貨が一番

大きすぎず小さすぎず、何より普段から持ち歩けるから、なにげにこ

う言うときに重宝するのよ?」

「さいですか……」

 どうでもいい豆知識みたいなのを教えてもらうが、多分実践する日

は来ないだろうな、うん。

「じゃあ最後にもう一つだけ、クロト君の意気込みというか、目標を教

えてくれないかな?」

「そうですね……個人的には平和に過ごしたいというのが切実な願い

ですね」

「平和にって……まるで年寄りみたいね」

「ここ最近、何かとテロだったり誘拐だったりと物騒な事件にフラン

スで巻き込まれてきたんで」

戦闘狂

 思い返すと原作の白騎士事件の手伝いをしたら

に剣を向け

られたのから始まり、母親の病死に養子&シャル誘拐洗脳騒動、第三

世代コンペの襲撃に、日本に行ったら行ったでコア盗まれ取引先が壊

滅してと、さらに出掛けた先で尽く女権のテロに襲われと、平穏無事

という言葉を知ってるかと問いかけたくなりたいくらいだ。

「い、色々と大変なのね」

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「同情するなら平穏をくれだよ、全く」

「そっか、じゃあ織斑兄弟や他の代表候補生も集まってるみたいだし、

専用機持ちで写真とろうか」

 集合写真ね……まぁ別に構わないけどさ。

 というわけで俺は簪の隣に左隣に立つと、右側から本音も現れて、

その、右腕に抱きついてきたんだよ……。

「あの〜本音さん、これはいったい?」

「う〜ん、虫除けかな?」

「…………深くは聞かないでおくか」

 そんな会話をしてるうちに先輩のシャッターが押される。それに

便乗して女子生徒の一部が横だったりに乱入してきたのは別の話で

ある。

 

293

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Episode52 火にガソリン……

  修羅場というのを知っているだろうか?よく昼ドラやらラノベ業

界ではもはやテンプレ、お約束となったそれの起こる理由は大抵が男

を巡る女同士と相場が決まっている。それは今回も同じだったが、そ

の規模が違う。

「「…………」」ゴゴゴッ

((どうしてこうなった?))

 俺と一夏は目の前で起こっている剣撃に、たまらずそう言いたく

なった。

  事の始まりはパーティの翌日の放課後だった。概ね学校時には原

作通りの展開だった。そこまでは別段変わったことはなかったし、

至って平穏だった。

 が、放課後に鈴が一夏が部屋一人部屋なのか聞いてきて、一夏はそ

れを否定し、それにより奴は……弾けた。

 部屋に戻った一夏と箒の元に再びやって来た鈴が、なんと箒……泉

理に部屋替えを要求してきたのだ。当然泉理は反発しあしらうのだ

が、

「へぇ、姿を偽ってるヘタレの癖に」

 と、鈴が泉理を挑発したのだ。これには仏のように心の広い泉理の

琴線に触れてしまったのだ。

 さて、読者の皆さん、カオスチャイルドを知ってる方は分かってい

るだろうが、泉理……もとい彼女が変化してた少女は大分キレやす

い。それはもう、義弟の友人の下世話な発言に絶対零度の微笑みを向

けるくらいにキレやすい。

 さらには今現在、姿を変えている箒もかなり血が昇りやすい質で、

彼女になりきる演技のために性格もそちらに寄っているため、そのキ

レやすさに拍車が掛かっている。つまり何が言いたいのかというと

「自分勝手に一夏の意見も聞かないで……それで一夏の理解者なんて

言えるね、あ、そっか、一夏の理解者(笑)なんだね」

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 と、火に油……いやガソリンをぶちまけたのだ。これは酷い、いく

らなんでも酷すぎる。そして二人とも睨み合うとディソードを一瞬

で抜いて現在に至るというわけだ。

「……おい、一夏、これお前が原因だろ?何とかして止めろよ」

「冗談だろ!?あんな人外染みた切り合いの中に突っ込んだら確実に巻

き添え食らってミンチだろ!!それにそっちの方がリアル戦闘の経験

あるだろうが!!」

「俺だって死にたくねぇよ!!」

 いやだってよ、まだ二人の剣撃が始まって二分と経ってないが、既

に部屋は傷だらけ、机は真っ二つで窓ガラスも粉々。もし俺が人払い

のリアルブート掛けて無かったら千冬さんのお説教じゃあ済まない

から。

「……というより、寮管が織斑先生だから素直に言えば良いのか?」

「あぁ多分それ無理だぞ」

「それはどういう?」

 俺の提案に、一夏はガックリと肩を下げながら答える。

「鈴のディソード……お前が言うところの劣化版なんだけどさ、その

能力があるから」

「…………聞きたくないけど、内容は?」

「思考強制、鈴が言葉にして言ったことを相手はしなければならない

と強制させる。多分千冬姉でも引っ掛かるな」

「orz」

 そりゃ確かに無理だな。ていうか尾上の思考盗撮より有能で、うき

さんの思考誘導の上位互換とかチートだろおい。

「……これを止める手ってあるのかな?」

「……多分本人達が納得するまで止まらないかな?」

「「……はぁ」」

 もうどうにでもなれと自棄になった俺達は再びため息を吐いた。

「あれ?どうしたのいっちーにクロ君」

「ん?本音か、あーいやな」

「女同士の修羅場を傍観してるっていうかなんというか……」

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「ふーん?」

 と、声をかけてきた本音に状況を伝えると、彼女は面白そうに笑っ

ていて……ってあれ?

「ほ、本音!?なんでここに!?」

「ほえ〜普通に来ただけだよ〜?」

「いや、確かにそうなんだけどさ!?そうなんだけれどもよ!!」

 俺と一夏はあり得ないと驚いた。俺達は人払い……生徒が現状に

誰も来ないようにリアルブートしてるのだ。当然今ここに居るはず

のない本音にも同様に掛かってる筈なのに、彼女は平然と歩いてやっ

てきたのだ。

「ねぇ、二人を止めなくて良いの?」

「そりゃ止めなきゃだけどさ……どうやって?」

 今も二人はまるで互いに仇を見る目で切りあってるため、もうつい

数分前まで綺麗だったのに今ではボロボロの廃部屋みたいになって

る。

「大丈夫大丈夫……ちょっとこれを読んでくれればクロ君といっちー

は部屋からすぐ出るだけで済むから」

「お、おう……えっと……本音のお姉さんって凄いよな〜、家事とか

色々できて、流石メイドって感…………じ?」

 何となく読んだそれの途中、とてつもない悪寒が背筋を走った。た

まらず本音の方を向くと、どこか黒いオーラを出しながら右手にとて

つもない巨大な灰色の大斧のようなものを持ってる本音の姿が

……ってちょっと待てこれって!?

「い、一夏!!全力退避!!」

「お、おう!!なんか分からんけど了解!!」

 たまらず俺と一夏は逃げ出した。以前、簪が話していたアレが本当

なら間違いなく巻き込まれる!!

 幸いまだドアの近くに居たおかげで部屋から出た俺達は扉を開け

たまま窓際の壁にもたれ掛かる。

「な、なぁ?なんか本音の雰囲気おかしくなってなかったか?」

「お、俺も友人から聞いた話なんだがな、本音はお姉さんに酷いコンプ

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レックスを持っててな……話題にした途端雰囲気がダークネスに

なってな、周りにいる人間を恐怖のどん底に叩き込むとかなんとか

……」

「よ、良く逃げ出さないな巻き込まれた人間……」

 一夏がドン引きしながら聞き返してくる。

「…………そうなったら近くのドアも窓もいっさいがっさいしまっ

て、鍵を掛けてないのに絶対に開かなくなるらしい」

「…………」

 俺の遠い目に一夏はまたドン引きしながら出てきた部屋の扉を見

ると、まるで見えない手に引っ張られるようにゆっくり動いていき

……そして完全にしまった。

「」ガタガタ…………シーン

((あ、沈んだ))

「そ、それで、大体どれくらいで元に戻るんだ?」

「さ、さあ?少なくとも最低で30分は戻らないとか言ってたな……」

「……食堂行くか?」

「…………そうだな、そうしよう」

 俺達は逃げた。もしこの場にいれば間違いなく巻き込まれる可能

性があったのだ、当然の行動だった。

 一時間後、一夏の部屋に戻った俺達が見たのはガタガタと震えなが

ら床にへたりこんで号泣してる少女二人と、いつも通りののほほんと

した俺の彼女がいた。

 この日以降、二人が本音に頭が上がらなくなる姿が良く見られるよ

うになったのだが、事実を知らない生徒からは不思議がられ、知って

る人間達からは哀れみを向けられたという。

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Episode53 学ばせて貰うぜ

  それはとある放課後のことだった。

「そういや春秋、お前代表戦勝てんのか?」

 男四人で『IS/EXVS』……転生前にあったガンダムゲームに

似た奴……をしながら唐突に聞いた俺に春秋はギクリとしながら固

まっている。ちなみに今は俺と春秋でのシングルマッチで、俺が使っ

てるのはつい最近アプデで追加された妹のシャルの『イノベイク・C

2(コスト3000)』だ。

「一応お前、このクラスの代表だろ?けど、最近お前が機体の練習をし

てるところを全然見てないんだが?……っとマシンガン怖!!」

「えっと……今は狙撃の反射練習をしてて……ゲロビウゼェなオイ

!!」

 春秋は代表候補生時代の山田先生の『リヴァイブ・カスタム』で、コ

ストは2500の癖に実弾の段幕が地味にウザイからおまいうなん

だけどな。

「それってインコムのだろ?んなもんシステムアシストで何とかなる

だろ……いけ、クロービット!!」

「システムアシストだけだと機械的だから読まれやすいんだよ。だか

らそれに頼らないようにしないと……グレネード食らえや!!」

「けど狙撃もセシリアから教えてもらってるんだろ?だったら勝てよ

……っと体力黄色だからリミッター解除な」

「マジか!!半覚貯まってるのに常時リミッター解除とかチートやめい

!!」

 ふふふ、世の中チートばかりなんだから、これぐらい勝てなきゃ荒

波は超えられないぞ!!

「なんか内心でムカつくこと言われたような……と、受け覚貯まった

!!と、ついでにファイア!!」

「おま!?射程範囲極大の覚醒技のクアファラをブッパかよ!?しかも近

くだからまともに食らってるし!?」

「当たれば良かろうなのだ!!よし、漸く一機落とした!!」

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「よーし怒ったぞ、もう覚醒尽きたよな?ついでにこっちはフル覚貯

まってるしねっぷねぷにしてやんよ!?」

「それ違う!!使い方は間違ってないけどなんか違う!!ってすぐに落ち

た!?」

「よし、リミッター解除のゲージ貯まったから……一気に行こうか?」

殴り上げ

高速乱舞

「ちょ、

からの

は逝っちゃうから!?」

「そして覚醒技の締めは……」エイ!!パッキン!!

「うわぁ!!クローに捕まって真っ二つにされた!?」

「よし、俺の勝ちだ!?」

 さすが第三世代というだけの性能をゲームでも遺憾なく発揮した

シャルのポーズは、何故か機体に着いた血を嘗めるような恐ろしいも

のだったが、実際に見たことのある仕草なためそこまで驚くことはな

い。

「これでクロトの二連勝だな」

「ドンマイ春秋」

「くそぉ……どうして一夏兄さんやクロトさんの機体はアプデされて

るのに……自分の機体ならまだ……」

 春秋が悔しそうに呟く。というのも一夏と俺の『イノベイク』は2

500でシャルと一緒にゲームに登場しており、一夏のは機体変形で

能力が変わる玄人向けに、俺のも装備変更はあるものの、どれも射撃

よりの中堅レベルとなっている。

 さらに言うとシャルのはまだアプデから二週間と経ってないのに、

既にSランク機体にまで上り詰めているのだから機体性能は馬鹿に

できない。余談だが千冬さんの暮桜もコスト3000のSランク機

体なのだが、その能力が射撃がデスヘルのように斬撃を飛ばし、特射

が高速ダッシュと、鞭と『ゼロシステム』がなくて変わりに中距離射

撃(?)が付いた皇帝なガンダムというものだった。

「仕方ないだろ、一夏は知らんけど俺はラビット社の息子で、総士は傭

兵部隊出身だからな、一般人でそこまで特殊な武器持ってないから

ピックアップされないんだろ」

「インコムも十二分に特殊だろ……」

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「ま、そのうち何とかなるだろ。さて、次は一夏な?」

「お、なら俺は……これだ!!」

 と、一夏が何やらランダム画面からスティックを動かすと……って

おい!?

「な、なんで『月下銃士』!?」

 そう、まさか俺の『月下銃士』が突然として姿を現しやがった。し

かもコスト3000とかどういうこっちゃ!?

「これの隠しコードだよ。白騎士と月下銃士は特殊なコマンド入れで

使えるんだぜ。機体ボイスは無いけど」

「マジかよ……!!(ホントは俺なんだけど……)」

 驚きもつかぬ間、あっという間に俺の操るシャルロットは木っ端微

塵にされたのだった。……とりあえずサテキャ無いだけマシか……。

 「あー、負けた負けた!!一夏の野郎ガチ勢みたいな動きしやがって

……」

 夜、夕食を食べ終えた俺は自分のベットでのたうち回る。あのゲー

ムはそこそこやっていたつもりだが、まさか一夏にハンデ(コスト1

500残機一機オンリー)でさえ無傷で倒された時には軽く絶望し

た。どんな廃ゲーマーだよ

「……なぁクロト、明日の放課後にちょっと手伝ってほしいんだが」

「ん?珍しいな、総士がそんなこと言うなんて」

 と、本当に珍しく頼み事をする総士に首を傾げながら聞き返す。

「実はお前、または簪のどちらかと模擬戦をしたい、可及的速やかに」

「模擬戦?……あぁ、もしかして鈴か?」

 俺は思い出すように言うと、彼は苦虫を噛み潰して濃縮ゴーヤ

ジュースを飲み干したような顔で頷く。

「クラス代表の交換で……面倒だから二つ返事で了承しようとしたら

……クラスの女子連中がな?」

「あー、俺らって貴重な客寄せパンダだからな……男子クラス代表っ

てだけでかなりクラスネームのアドバンテージになるし」

「そういうこと。で、クラス代表戦が二週間後だから、その前に決着を

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つけちまおうとなって、三日後に俺と鈴で代表決定戦ってわけ」

 つまるところ、原作の一夏VSセシリアと似たような状況だと言い

たい訳ね。

「……それで、勝つつもりなのか?」

「まさか、寧ろ原作通りになるように上手く負けるつもりだよ」

「はぁ?ならなんで模擬戦?」

「上手く負けるには、敵の実力を予測した上で、その一歩手前の実力で

負けるのが後腐れ遺恨なく終わらせる目印だ。つまるところ、似たよ

うな武器を持ってる人間と戦う必然性がある」

 なるほど、確かに最もらしいことを言ってるが、

「本音は?」

「誰も模擬戦に付き合ってくれる人間が居ないんだよコンチクショー

!!」

「あー、そういうこと」

 ちなみに学園内一年生での専用機持ち事情だが、一夏は箒……もと

い泉莉とマドカが調整と模擬戦をほぼ毎日してるらしく、暫くはそっ

ちに集中とのこと。

 セシリアは今のところ一夏戦で専用機が木っ端微塵になってしま

い、現在D判定で修理に出してるため、少なくとも一ヶ月は国から代

替機の第二世代『メイルシュトロム』をカスタムした物を使うらしい。

まぁ本人も怪我があるから暫くは入院生活だが。

 シャルは言うまでもなく、楯無さんから模擬戦禁止令を出されてし

まっている。理由はシャルが模擬戦する度にスタジアムの修繕費が

馬鹿にできないらしく、これには俺もシャルも何も言えなかった。

 ならば春秋……と言いたい所だが、アイツは多分実力なら俺達の中

で多分最弱だし、能力もセシリアの二番煎じがギリギリだ。ついでに

実体剣持ってないからセシリアとそろって名目から除外される。

「で、実体剣持ってるうえで、実力も互角だから俺か簪と模擬戦した

い、と?」

「そういうこと。無論強制はしないし、嫌なら嫌と言ってく「別にいい

よ」……早いなおい」

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I・

S・

唯・

「実際俺も訓練の相手が居なくて退屈してたからな。それに、

一・

の・

可・

変・

型・

な『ハイゼンスレイ』と戦ってみたかったしな」

 俺はそういうとオータムに明日の放課後のスタジアム使用の許可

をメールで頼むと、数分後には第四スタジアムを貸しきりにしてくれ

た。なんとも気前のいい話である。

「んじゃ、明日よろしくな」

「おう!!IS唯一の可変型の実力、学ばせて貰うぜ!!」

「それレオスじゃないか!!まぁ良いけどよ」

 俺らはそんな軽口を叩きながら談笑しあう。まるで昔からの友人

かのように……。

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Chaos;childアニメ放送特別座談会

  クロト(以降ク)「始まりました!!『IS 月は出ているか』座談会

!!進行は俺、クロト・D・ファブリエと」

 一夏(以降一)「原作では主人公、唐変木オブ唐変木、織斑一夏と」

 ドロイデン(以降作)「作者ことドロイデンでお送りします!!」

 一「……ところで、なんか俺の紹介だけすげぇ悪意を感じるんだが

……」

 ク「原作でそうなんだから諦めろ」

 一「……ちきせう」

 作「ハハハ!!さて、お約束の一夏弄りは置いといて、今回はアニメ

『Chaos;child』のアニメ放送開始にちなんで、今作でも絡

んでる以上、番外編やっても良いよね?という私の独断と偏見で勝手

に作りました〜ぶっちゃけ今回に関してはプロットすら作ってませ

んw」

 一・ク「おいおい……それで良いのか?」

 作「それで良いのだ。さて、座談会とは言ったものの、今回のメイ

ンはうちの作品のギガロマニアックス能力者と他者との人間関係を

メインに話していこうと思っています。」

 ク「そういや、作品でのギガロマニアックス能力者ってそれなりに

居たよな」

 ク「まだディソードを発現させてない奴も含めると……俺達を含め

て六人か?」

 作「そうですね〜、ついでに言うと原作メンバーでこれ以上ギガロ

マニアックス能力者は作らないつもりだから、他に出てくるとしたら

敵のオリキャラだろうね」

 一「そっか、じゃあ早速一人目のメンバーに行こう!!最初は当然、こ

の作品での主人公のクロトだ」

 作「今作の主人公であり、もとは『Chaos;child』の時

空で産まれた存在、その正体は南沢泉莉と宮代拓留の遺伝子によって

人工的に産み出された遺伝子強化クローン。こっちの世界ではディ

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ソードの改編能力でIS乗りとして行動してる……。ディソードの

モチーフは『目』らしいが、その姿は拓留、尾上、泉莉の三人のをミッ

クスして一つにした形である」

 ク「自分で言うのもなんだけどさ、ここまでハードな組み合わせも

珍しいよな……」

 一「確かにな、作者としてはどうなんだ?」

 作「そうですね。まずクロトのキャラを作ろうと思ったときに、普

通の転生でオレツエー系にしたらつまらないし、折角ISにも裏があ

るんだから、主人公を軽く裏に足を突っ込ませても良いよね?的なノ

リで書いたのが始まりですね」

 一「確かに、ISに関わらずなんかオレツエー……ってやつってな

んだかマンネリ化してる気がするしな」

 作「はい、そこでオレツエー系でも闇寄りの……複雑な事情を組み

込もうと考えて思い付いたのが『ギガロマニアックス』の存在でした」

 ク「作品でも言及してるけど、俺はギガロマニアックスの改編の能

力でISを操縦してるに過ぎなくて、もしギガロマニアックスの能力

が使えなくなったらISを動かせなくなる……って感じで良いんだ

よな?良くここまで上手く繋げられる作品をガンダム以外で見つけ

たな。」

 作「そうだね、しかもクロトのギガロマニアックスはオリジナル

……本物の能力だから使えば使うほどに、脳細胞が肥大化して精神異

常を引き起こしかねないんだけどね。まぁそれは転生特典という形

で回避させたけど、少しは弊害が残ってるから、それも完全ではない」

 一「てことはクロトは爆弾抱えながらIS動かしてるようなものか

よ……大丈夫なのか?それ?」

 ク「そうなったらそうなっただ、幸い俺はメカニックの方もやって

るから、要らなくなったからポイ……はまず無い」

 作「私も最初にクロトのキャラを作ってて躓いたところです。もし

使えなくなったらどうするか、例え技術者としての能力があっても利

用できる場が無ければ意味がない……そこで思い付いたのがシャル

ロットの存在でした」

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 一「確かに原作のシャルはISの最大手の一つ、デュノア社の令嬢

だったしな。そう考えると強ち人選は間違ってないな」

 ク「それでもな……どうしてシャルがあんな風に……」

 作「あれは書いてるうちに、『シャルって闇落ちした方がキャラの個

性出るよね?』てな感じな事を思ってしまって……酔った勢いとはい

えどうしてこうなった……」

 一「とりあえず作者は酒弱いんだからそこまで飲むなよ……さて、

次は俺か?」

 作「そうだね。……コホン、織斑一夏、原作の主人公でありオリジ

ナルギガロマニアックスの能力者、原作では唐変木と呼ばれている

が、此方ではかなり勘が鋭く、箒に化けた泉莉をすぐに看破するほど

だ」

 ク「そこに加えて家族に千冬さん、転生者弟の春秋、そして原作で

は千冬さんのクローン疑惑が濃厚なマドカの四人で暮らしてたんだ

よな?実際、ギガロマニアックスの事がバレそうになったことあるの

か?」

 一「無いとは言えないけど……俺は寧ろギガロマニアックスの能力

を使わないように生活してきたからな、というかなんで俺がオリジナ

ルのギガロマニアックスになれてるのか、そっちの方が不思議だし」

 ク「あとは交遊関係……というか恋愛関係だな、今のところフラグ

が掛かってるのは泉莉(箒)、セシリア、あと鈴の原作一巻組だな」

 一「でも改めて考えてみると、泉莉と鈴がギガロマニアックスって

どうしてだって考えたんだが?」

 作「それは二人の枠で話しましょう。さて、セシリアに関しては、彼

女の心の闇を救いだした事がフラグになりましたね」

 ク「けど、この作品のセシリアはある意味で正解だと思うぞ?両親

を早くに無くして、家を守るためだけに生きてきて、自分の事を見る

暇も無ければ、あんな風に思い詰めても仕方ないさ」

 一「確か作者の意見だと、原作ではその闇を女尊男卑という仮面を

被らなければならないほどに追い詰められてたのが、今作だとそれが

テロ事件のせいで影を潜めた結果なんだっけ?」

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 作「はい、元々セシリアはプライドが高い人間で、周りの環境が環

境ですから、悩んでも誰にも頼れないという悪循環のせいでアレに

至ったわけです」

 ク「それを見事打ち払って落とすんだから、一夏も大概タラシだよ

な〜」

 一「ほっとけ、ほら尺も無いんだから次だ次」

 作「はいはい、では次は本音、今作でのヒロインであり、かつクロ

トの精神的支えになるであろう少女です」

 ク「本音は恐らくまだ自分ではディソードを発現させてないけど、

恐らくはchild型……つまり劣化型なんだろうけど、多分そのス

ペックはオリジナルに迫るものだと思う」

 一「確かに、前の泉莉と鈴の喧嘩の時、なんか斧みたいなものを取

り出してたしな〜」

 作「はい、あれは半分中の人ネタというか、中の人が出てるアニメ

の手駒の武器をイメージしたのですが、それと同時に、本音は無自覚

でギガロマニアックスを使ってるパターンと考えました」

 一「無自覚で?」

 ク「もしかして、本音が黒くなるとドアとかが完全に開かなくな

るってのも……」

 作「はい、ギガロマニアックスの能力を無自覚で使ってますね。本

人は自覚がないので、まだ操れては無いようですが」

 一「それでも凄すぎるくらいだけどな……そういや、ギガロマニ

アックスって、確か劣等感とかそういった負の感情がなんたらかんた

らで……」

 ク「それはディソードの発現のきっかけの一つだな。肉体と精神の

苦痛のなかから、自分自身のディソードを見つけ出すことで漸く手に

入れられるんだが、多分本音は無意識的な姉との劣等感で発言してる

んだと思う」

 作「ちなみに現状本音のギガロマニアックス……劣化型ですが、そ

の能力は既に決まってたりします」

 ク「へぇ?どんな?」

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 作「妄想による劣等感の強制的伝搬、本音自身の劣等感を、自分及

びその周辺に掛かる事象の力を一切無効にして押し付ける。本音の

場合劣等感というより、姉というコンプレックスを押し付けるから、

必要以上に受ける側は精神的にヤバイことになる」

 一「う〜ん、確かにのほほんさんのアレはインパクトがあったけど

……想像ができないというか……」

 作「簡単に説明すると、本音と同じギガロマニアックス能力を持っ

てるAと、持ってないギガロマニアックス能力者Bが居るとする。例

えばBがA、AがBに対してリアルブートしようとする。そうすると

BのリアルブートはAに対して改編されず、Aのかけたリアルブート

でBは改編されて何らかの精神的なダメージを追うことになるとい

うわけだ」

 ク「つまり、一方的にギガロマニアックスの改編を相手に与えられ

るってこと?」

 作「それだけじゃない、事象だから『ドアが開く』、『物が壊れる』と

いった物理事象も無効にする。本音のギガロマニアックス発動で窓

とか襖が開かなくなるのはこれの影響だな」

 一「……なんていうか、聞くだけなら劣化型最強な気がする」

 作「まぁ確かに最強クラスだけど、ギガロマニアックスの能力の発

動に自分の精神と周辺をマイナスにリアルブートするから、反動も大

きいし、精神汚染も半端じゃない。しかもトリガーとなる言葉を他人

に言って貰わなきゃならないというデメリットがあるから、リターン

とリスクが見事に釣り合わないんだな、これが」

 一「それでも強力なのには変わりないけどな……それじゃあ次は箒

だ!!」

 ク「篠ノ之箒、あの天災ウサギの実妹であり、海鳴にて某三人娘の

師事を受けた、原作とはある意味斜め上を進んでいる。けどその正体

は『Chaos;child』のヒロインの一人であり、『他人の姿、

声音を模倣する』ギガロマニアックス能力者、南沢泉莉その人。ここ

では一夏と泉莉、箒は確か同じ研究施設で実験させられてたんだっけ

?」

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 一「そうだ、そんで二人と俺は渋谷地震で離れ離れになって、泉莉

が箒の最後を確認してるんだ……だから世間一般的には泉莉=箒で、

泉莉の姿も鈴や俺、その他信頼できる人間にしか見せてないんだな」

 作「実際のところ、箒の泉莉化は当初から考えてたんです。理由と

しては、ヒロインである本音やその近くにいる楯無さん及び簪以外の

同年代の日本人メインキャラ……となると箒だけだよね?ってな感

じで」

 ク「そういや、感想でとある人が『箒闇落ちして亡国側で原作マド

カポジになるんじゃね』……的な事書かれてたけど?」

 作「……まぁそれは読んでいけば分かるとは思います。ただ一つ言

えるのは、原作キャラを全員出さない訳がない……です」

 ク「それって……いや、ここではなにも言うまい」 

 一「じゃあ次は鈴だな。多分この中では一番重たいキャラかもしれ

ないな」

 ク「原作通り中国人ヒロイン、快活で人当たりも良く、自他共に認

める一夏と波長が合う人間の一人。その正体は一夏のギガロマニ

アックスによるリアルブートによって生み出されたイマジナリーフ

レンド……カオチャでいう尾上のポジションになるな」

 作「けど二人の行動原理は似てるようでまるで真逆、尾上は拓留に

目的を与えるために自分すらを犠牲にする。鈴は一夏の事を

…………いや、これ以上は今は語るまいです」

 一「そうだな……これは鈴の存在猶予期間にも関係するから、これ

以上は言えないな」

 ク「そっか……じゃあ最後は簪だな。というか、簪に関してはまだ

どんなリアルブートを起こせるのかすら分かってないんだよな……」

 作「劣化型の能力はその本人が心の底の願いや思いを体現するもの

だからね。泉莉なら『研究者達から逃げたい』、本音は『姉という存在

に対する劣等感』ってな感じで」

 ク「そして簪の願いは『誰かから誉められること』……だったな。あ

る意味優秀な姉の影に埋もれて、あまり誉めてもらえなかった簪らし

いといえばそうなんだが、そう考えるとどんな感じになるのか想像も

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できないな」

 一「確かに、カオチャの面々のギガロマニアックス能力を含めて見

ると少し異質だからな……、願いや思いがマイナス方向じゃなくてあ

る意味プラスの方向だし、そう考えるとカオチャのうきが一番近いの

か?」

 作「そこまででは無いけどね。けど、まだ何か分からないという意

味では一番のジョーカーだな」

  ク「さて、ここまで紹介してきたけど、作者的に何か言いたいこと

は?」

 作「そ、そうですね……ラブチュッチュ早く欲しい」

 一「まさかのリアル話かよ!?」

 ク「おいおい……ちなみに推しキャラは?」

 作「一に泉莉こと来栖、二に雛絵だな、異論は認めるが反論はさせ

ない!!」

 ク「……まぁ雛絵は分かるけど……泉莉は基本来栖モードが普通だ

から、泉莉モードでラブチュッチュには出れないかと……」

 作「言うな!!あのマッドサイエンティストですら攻略対象に含まれ

てるのに……何故だ!!」

 一「中の人同じだからじゃね?」

 作「メタいのヤメテ!?……まぁそれはさておき、アニメ放送から三

日ほど経ってしまいましたが、まだまだ始まったばかり!!ということ

でアニメカオチャを見つつ、ゆっくり確りと更新していきたいと思い

ます!!ということでまた次回!!」

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Episode54 親友

 「さて始まりました、放課後専用機持ち同士による模擬戦!!実況は私、

放送部二年の黛薫子と」

「解説の一年一組、フランス出身のクロト・D・ファブリェでお送りし

たいと思います……というか、なんでこんなことに?」

 本来なら俺は今ごろ模擬戦の相手になってるはずなのに……

  事は一時間前ほど遡る。

「は?機体を一時回収する?」

 突然ウサギからの通信が来たかと思って開いた矢先に言われたの

はそんなことだった。

『そう!!クー君、最近試合で『ガンバレル』と『ヴェルデ』のパッケー

ジをダブル展開したでしょ?流石にパッケージ二つを同時使用する

なんて前代未聞過ぎて、機体の負荷がどうなってるのか分からないっ

てことでね』

「あー……そういやスラスター周りの磨耗が確かに酷かったかもしれ

ないな」

 覚えが有りすぎて頷くしか行動できない自分に少し恥ずかしくな

る。

『勿論この束さんには劣るけどクー君や一緒にいる我が弟子の

ほんちゃん

も技術者だから修理ならできるだろうけど、それでも最新

鋭の量産型だから予備パーツも少ないし、それなら一時的に回収し

て、ついでに新型パッケージと、クー君の戦闘データを機体に反映さ

せる改修をしちゃおうって事にね』

「……まぁ分かりました。それで、それまでは訓練機の『リヴァイブ』

を?」

『それでも良いけど、クー君にはあれがあるし使えば「学園で『ルナー

ク』を使ったら大変なことになるので」……別に今さらだと思うけど

ね〜』

 ほっといて欲しい。俺としては確かに使いたいけどさ、パワーバラ

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ンス考えると、そんな簡単にルナークを使えないんだよ。

『というより、あの衛星砲がなければルナークって基本的に武器少な

いよね。ビームライフルとマシンガンとビームサーベルとシールド

ぐらいだし』

「そりゃ確かにね、それだけ見たら第二世代相当でしょうけど、仮にあ

れを使うとなったら、リミッター付きでさらき出力10%ですら多

分、防護シールドを粉砕しちゃいますよ」

 まぁ本音を言うと、ルナークの武器はどれもこれも足が止まる武装

が多いのだ。サテライトキャノンしかりハモニカ砲しかり。

(つーか、二次移行してDXの原形保ってられるのか……)

「とりあえず、何時来るんです?それによっては色々と準備が──」

『大丈夫大丈夫、もう後ろにいるから」

 はい?そう思って振り向くと、そこにはなぜか何時ものアリス&ウ

サミミではなく、カジュアルな白い清楚系ワンピースを身に纏ったウ

サギの姿があった。

「…………とりあえず、何があったんです?それ?」

アリス

「いや〜、試作品作ってたら爆発しちゃって、

が真っ黒煤だらけ

でさ〜、仕方なくスコっちにコーディネートしてもらったわけよ。ど

うどう?似合う〜?」

 そう言ってくるくると回るウサギの、主に女性特有の膨らみが際限

なく自己主張し、思わず鼻血が出そうなのを寸でで我慢する。

「おやおや〜?クー君もしかして興奮しちゃッギャァァァ!?アイアン

クローやめてぇ!!割れる!!この天才束さんの脳ミソぐちゃぐちゃに

なっちゃうから!!」

「はぁ、とりあえず機体は渡しますから、千冬さんが来るまえにさっさ

と会社に戻ってくださいね。あとスコールさんに今度少し高めのス

コッチウイスキー送るって言っておいてください」

 俺がそれだけ言うと、『イノベイク』の待機状態のチョーカーを渡

し、それを受け取ったウサギはじゃあね〜、という言葉と共に去って

いった。

「……さて、仕方ないから簪に頼むか」

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   そして現在、簪に頼んだのまでは良かったものの、どこから嗅ぎ付

けたのか楯無さんがそのことを拡散して広めてしまい、俺は俺でなぜ

か一緒にいた黛先輩に引きずられるように実況席に座らされてし

まったのだ。

「さていきなりだけどクロト君、二人の対決についてどう思うかな?」

「そうですね……総士は同じ男子だし、簪は俺が設計したようなもの

ですからね、どっちにも頑張ってほしいというのが本音ですね」

「おおなるほど!!それじゃあ二人の機体なんだけど、どういう感じの

機体なのか教えてくれると嬉しいな〜なんて」

「まぁ俺もある程度しか知りませんけど、総士の方は多分俺ら男子組

の中なら最強クラスの実力者だと思います、機体についても高火力高

軌道を重視した……イタリアのテンペストに近いヒット&ヒットを

重視してます」

 まぁ『ハイゼンスレイ』は変形機能があるんだが、それは実際に見

た方が早いしとりあえず置いておく。

「続いて簪は、こちらは寧ろ弾幕で相手を無理矢理打ち落とすスタイ

ルですね。機体自体は近中遠どれをとっても万能なマルチスタイル

で、うちのウェポンシステムも搭載してるうえに、本人が得意とする

薙刀を主体とした近接戦を含めて、まさしく日本とフランスのハイブ

リッドという感じですね」

 しかも簪はマルチロックオンシステムを採用してるから、単純な物

量火力ならハイゼンスレイのそれをも上回る事ができる。

「なるほど、ならクロト君ならこの二人と戦うときに気を付けたい所

とかあるかな?」

「そうですね……これはどちらにも言えますが単純に使用武器の弾数

と必要エネルギーの消費が激しいという所ですかね?総士は重ビー

ム砲、簪はミサイルと射ち所を見極めないと後半になって何も出来な

くなるので、やるとしたら、被弾を極力抑えた長期戦をできるように

心掛けたいですかね」

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 まぁもっとも、『イノベイク』でそれが限界なのだから、まともに戦

うとしたら『ルナーク』でないとまず無理だ。つか『ルナーク』です

ら厳しいかもしれない。

「なるほど!!そういえばなんですが、男子組の実力順ってどんな感じ

なのかな?」

「う〜ん、状況によりけりですが、単純に技量という意味では総士が一

番、俺と一夏がその次で、最後に春秋ですが、射撃の精密精なら逆に

春秋がワントップで、次に総士、俺、一夏の順、瞬間的な判断力と観

察力なら一夏が一番で、俺ら三人はタイですかね?」

 俺?指揮能力とオールラウンダーという意味なら多分ワンチャン

だな。寧ろ指揮能力ないとサテキャ使うとき味方に誤射したら堪っ

たもんじゃない。ビスケットが死んだときのオルガ並みに落ち込む

ぞ俺。

「ほうほう……お、どうやら先に出てくるのは総士君のようだ!!」

 黛先輩のその言葉に会場中がいろんな意味で盛り上がる。黄色い

声援もあれば、中には女尊男卑極まりない言葉で罵ってる者まで……

つか女尊男卑連中、実力ないのに口だけ出すんじゃねぇよカスが」

「クロト君、口に出てるよ」

 そう言われハッとするが、どうやら会場中はこちらの味方をしてる

ようで、だいぶ女尊男卑組の連中は身を小さくしていた。

「おっほん……さて総士君の機体ですが……なんか見た目ゴツくない

?というかたっちゃんの最終兵器装備並みに大きいけど?」

「まぁその分、背部は当然ながら、脚部、肩部にも高軌道スラスターが

設置されてますからね。武装に関しても、二丁の高出力ビーム砲と

ビームサーベル、そしてミサイルとある程度は全距離対応してますか

らね」

 さて、あとは簪だな。折角の初陣だ、頑張れ親友!!

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