Jass26
-
Upload
masato-yoshikawa -
Category
Documents
-
view
683 -
download
3
Transcript of Jass26
吉川 正人 [email protected]
慶應義塾大学大学院 / 日本学術振興会特別研究員吉川 正人 [email protected]
慶應義塾大学大学院 / 日本学術振興会特別研究員吉川 正人 [email protected]
慶應義塾大学大学院 / 日本学術振興会特別研究員
言語を社会知と看做すとはどういうことか
新たな理論的枠組み構築のための整理
社会言語科学会 第 26 回研究大会 (JASS 26)
2010 年 6 月 27 日 於 大阪大学
1. はじめに
JASS 26 @ 阪大2
言語を再び社会にチョムスキー革命以来
( 理論 ) 言語学 = 認知科学 言語 = 認知的対象
– 言語 ( 学 ) の個人化 しかし : 社会言語学・言語 / 文化人類学の存在
言語 = 社会・文化的対象 / 現象
このような “認知 – 社会 / 文化” のギャップ 以下の「住み分け」により解消
認知 = 個 = 基本社会 = 個の集まり (= 集団 ) = 応用
それでいいのか??
JASS 26 @ 阪大
3
それではよくない本当に社会は ( 単なる ) 個の集まりか ?
不完結な個の集合 : 個には無い特性を個に「与える」
(Cf. 三宅・宮川・田村 2001)
従って重要な問い : 言語知識に関して個は完結しているか?
しかし、だとしたら? 言語知識 = 社会 as 複雑適応系 の持つ知識
= 社会知 (Beckner et al. 2009) この可能性を追求する
特に「社会統語論 (Sociosyntax) 」
JASS 26 @ 阪大
4
. . . 否。( と考えてみよう )
本発表の構成2節 : 社会知とは何か
社会知の定義 ( 暫定 )3節 : 個人における社会知の利用可能性
個人知の不完全性 社会知利用の動機 社会知利用を可能にするメカニズム
4節 : 「社会統語論」の可能性 個人知の社会的制御 入力頻度の再解釈
5節 : 結語
JASS 26 @ 阪大
5
2. 社会知とは何か
JASS 26 @ 阪大6
社会知の定義社会知の性質
社会 (e.g., 言語コミュニティ ) (≠ 個人 ) が所有する知識 「誰かと共有していること」によって初めて意味を成す
– Cf. ヒトの脳における個々のニューロンとネットワークの関係 当該社会の成員なら等しく利用可能
「利用」というところが重要 ( 次節 ) 条件が整えば「部外者」のも継承可能
垂直・水平の双方の意味での継承
以上のような性質をもつもの ≝ 社会知 当然ながら厳密な定義にはなっていない 未定義の要素も多い
JASS 26 @ 阪大
7
3. 個人における社会知の利用可能性
JASS 26 @ 阪大8
ここで問題ヒトはニューロンとは違う
ニューロン : ネットワーク表現は利用不可能 ( 低知能 )
ヒト : ネットワーク表現 (= 社会知 ) を利用可能= 個人による社会知の利用が可能
従って : “ 脳 - ニューロン”とのアナロジーは破綻ネットワーク表現 & 個体にも利用可能 ??
そんなことは可能なのか ? . . .
その辺りがヒトがヒトたる所以 言ってしまえば「メタ認知」の成せる業ということになろ
う
JASS 26 @ 阪大
9
( と考えよう )
可能。
個人知の不完全性大前提
どの個人も、社会知の全体像を知らない。 ( 不可知論 ) 言ってしまえばそんなもの存在しなくてもよい
– e.g., 任意の言語 L における可能な表現の境界 ( 条件 )
従って : 個の利用する知識 ≠ 社会知全体 これによって先の問題は (疑似 ) 解決
個は何をやっているか 社会知の部分的利用 & 社会知全体の推察
重要 : 自分の知らないことの存在は知りようがない 「みんなが何を知っているか」 ( と思うか ) が重要
e. g., 規範・ステレオタイプの優位性 (Cf. Johnson 2006)– 権威の弱い自分の経験より「他人の経験の利用」を優先
JASS 26 @ 阪大
10
社会知利用の動機新たな問題 :
そんな面倒な知識をなぜ敢えて利用する? かなり強力な動機が必要
社会知利用の動機 ( 有力候補 ) 社会的圧力
= 「みんなと同じように振る舞わないとヤバそう」感 (Batali 2002; 吉川 2010) 「とりあえず模倣」の原則を生む (Keller 1994) 意識的・無意識的双方あり
– 前者 = 適応理論 (Accommodation Theory)後者 = 同化の本能 ? (Trudgill 2004:28, 2008: 252)
「知ったかぶる」ことから始まると言ってもいい 言語は常に他者からやってくる
JASS 26 @ 阪大
11
社会知利用のメカニズムでもどうやって ?
これに関しては多くは語れない が : 意図読み系の社会認知能力は有効なはず
(e.g., Tomasello & Rakoczy, 2003)
エピソード想起の関連もありそう (e.g., Klein et
al. 2009)加えて
ヒトは「他人同士のやり取り」が理解可能 これにより :
他との関係において「自分が何をしているのか」が理解可能
JASS 26 @ 阪大
12
4. 社会統語論の可能性
JASS 26 @ 阪大13
統語論と社会統語論統語とはなんぞや
有限の資源から無限の表現を作り出す仕組み 有限な資源 = {形態素 , 語 , 構文 , 機能範疇 , etc.} ( なんで
もよし ) 作り出す仕組み = { 厳密なルール , 一般認知 , 制約の束 , etc}
では 「社会」統語論 (Sociosyntax) とは
有限な資源 = 社会・文化資源たる表現の (断片の )目録 作り出す仕組み = 「社会的な」何か
と考えた上で統語の働きを分析する試み 特に重要なのは後者
Cf. 前者 : 定型表現 (e.g., Wray 2002)や構文の研究 ( 構文文法 )
JASS 26 @ 阪大
14
個人知の社会的制御ただし : 以下を否定する訳ではない
「作りだす仕組み」 = 計算 (or 演算 ) = 認知的営み
要点 : ( 個に閉じた ) 認知的営み「だけ」では不十分で
しょう それじゃあきっと「文法」 (≈ 統語論 ) の姿は見えてきま
せん– e. g., 言い間違え , 正用と誤用の境界 (黒田・寺崎 2010), 個
人差 「文法」の姿を捉えるには社会的な制御が不可欠
一個人の「中」には文法は無いと考える= 文法の外在化 (externalization) ⇔ 内在化 (internalization)– この点で例えば Tomasello (2003) の主張とも食い違う
JASS 26 @ 阪大
15
社会統語論のモデルJASS 26 @ 阪大
16
e … e … e e … e … e ….
e
表現の集積 (事例記憶 )
計算システム
社会的制御
フィードバック
社会
個( 認知 )
社会性認知
??
??
?
?
( 吉川 2010)
入力頻度の再解釈文法獲得において入力頻度は重要 ?
入力に基づく強化学習としての言語習得 用法基盤モデル (Usage-based Model) の重要な主張
しかし : 頻度は “ 1” でも表現は記憶されねばならない
(e.g., Bybee 2010, Arnon & Snider 2010) 思い出しは条件が整えば可能
それならばなぜ頻度が重要? 頻度 = 社会的な強化要因 ≠ 学習に必要な認知的要因= 他者利用の履歴 頻度 1 or 低頻度でも「人気者」の使用なら思い出せる
JASS 26 @ 阪大
17
5. 結語
JASS 26 @ 阪大18
まとめ本発表では
言語を社会知と看做す言語モデルを提案し その構想にあたっての問題点を検討しモデルの基礎づけを行ったうえで 「社会統語論 (Sociosyntax) 」の可能性を論じた
重要な点 従来 : 文法 = 「個」の中に閉じた認知システム 本発表の主張 : 文法 = 社会知 ( と個人知の相互作
用 ) 文法の姿を決定するステレオタイプ・規範 = 社会知
JASS 26 @ 阪大
19
課題社会的であるとはどういうことか ?
「社会性」を規定する要因は未検証 社会 (心理 ) 学の知見を取り入れる必要アリ
研究プログラム ( の青写真 )止まり実証的な研究にどう落とし込むか 可能性 1: 「社会的」タグを駆使した構造記述
可能性 2: 言語変化の記述 or シミュレーション Cf. 発話淘汰モデル (e.g., Baxter et al. 2006)
JASS 26 @ 阪大
20
参考文献と謝辞
JASS 26 @ 阪大21
謝辞NLP2010 のテーマセッション「言語表現と言
語のあいだ」の関係者の皆様座長
影浦 峡氏 (東京大学 ) 発表者
黒田 航氏 (情報通信研究機構 NICT)小橋 洋平氏 ( 東京工業大学大学院 )丸山 岳彦氏 ( 国立国語研究所 )那須 川哲哉氏 ( 日本 IBM)
フロアからの参加者 玉城 伸仁氏 ( 京都大学大学院 )
JASS 26 @ 阪大
22
追加参考文献 Batali, J. 2002. The negotiation and acquisition of
recursive grammars as a result of competition among exemplars. In Briscoe, T. (ed.) Linguistic evolution through language acquisition: Formal and computational models (pp. 111–172). Cambridge: Cambridge University Press.
Baxter, G., Blythe, R. A., Croft, W., & McKane, A. J. 2006. Utterance selection model of language change. Physical Review E, 73, 046118.
Bybee, J. 2010. Language, usage and cognition. Cambridge: Cambridge University Press.
JASS 26 @ 阪大
23
ご清聴有難うございました。
JASS 26 @ 阪大24