スナップエンドウに対する窒素施肥の違いが生育・収量に ...53...

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─ 53 ─ スナップエンドウに対する窒素施肥の違いが生育・収量に及ぼす影響 ○長友 誠・中島 純・樋口康一・古江広治 (鹿児島農総セ) 【目的】 スナップエンドウについては,最近の急速な 需要の高まりから栽培面積が急増するなか,供 給の増加に向けた新作型開発が期待されている。 産地では,着莢負担増による草勢低下のため頻 繁に施肥を行う事例など,産地ほ場の土壌養分 過剰の課題があり,作型に対応した施肥管理技 術確立の必要がある。 そこで,既存の「夏まき」および「秋まき」, 新作型として主に4~5月に収穫する「冬まき」 の3作型について窒素施肥量の違いが生育,収 量,養分収支に及ぼす影響について検討した。 【方法】 試験は,夏まき作型および冬まき作型ではセ ンター内露地ほ場(表層腐植質黒ボク土),秋 まき作型では指宿市山川の露地ほ場(淡色黒ボ ク土)で行った。供試品種は ニムラサラダス ナップ を用い,仕立て法は主枝1本仕立て, 栽植密度は畦幅 150cm,株間 6 7.5cm の1条 植えとした。試験区の構成及び窒素施肥量は, 無窒素区,基肥窒素 5kg/10a(以下/10a )+追肥窒 5kg 区,基肥窒素 10kg 区,基肥窒素 15kg の4区を設定した。 【結果】 ①窒素施用量 10 15kg/10a の範囲内では,各 作型の収益性を考慮した目標収量(夏まき 0.5t/10a,秋まき 1.8t/10a,冬まき 1.4t/10a)は達 成した。②莢収量については,夏まきおよび冬 まき作型では,窒素施用量増加に伴い増加する 傾向がみられたが,秋まき作型では立ち枯れ症 状による欠株がみられ,基肥窒素 15kg 区の莢総 収量は基肥窒素 10kg 区に比べ少なくなった。③ 夏まきおよび秋まき作型では,追肥施用によっ て茎葉重増加はみられたが,収量増加はみられ なかった。冬まき作型では,追肥施用による茎 葉重および収量の増加はみられなかった。④養 分収支では,各作型とも施肥窒素量に比べて窒 素吸収量が多く,窒素収支はマイナスであった。 無窒素区の窒素吸収量は,秋まき作型では 35kg/10a,夏まき作型および冬まき作型では 14 kg/10a と大きく,根粒菌の関与がうかがわれる とともに作型あるいは栽培地でその量は大きく 異なった。 大豆根粒菌の活性は,土壌 pH や土壌消毒, 在来の根粒菌や連作などに影響されることが明 らかになっているが,エンドウの根粒菌が生産 性に及ぼす影響について明らかでなく,今後, これらがエンドウの根粒菌着生や活性等に及ぼ す影響についての検討が,窒素施肥法確立のた めに必要と考える。 kg/10a kg/10a 指数 kg/10a 指数 kg/10a 無窒素 - 1,326 ( 85 ) 853 ( 61 ) 13.9 基肥窒素5kg+追肥窒素5kg 10 1,743 ( 111 ) 1,261 ( 91 ) 22.6 基肥窒素10kg 10 1,568 ( 100 ) 1,389 ( 100 ) 18.6 基肥窒素15kg 15 1,235 ( 79 ) 1,516 ( 109 ) 18.0 4.5 無窒素 - 3,249 ( 98 ) 2,758 ( 93 ) 35.2 基肥窒素5kg+追肥窒素5kg 10 3,872 ( 117 ) 2,890 ( 98 ) 35.5 基肥窒素10kg 10 3,318 ( 100 ) 2,956 ( 100 ) 36.0 基肥窒素15kg 15 3,462 ( 104 ) 2,805 ( 95 ) 36.1 9.4 無窒素 - 479 ( 91 ) 1,201 ( 82 ) 14.0 基肥窒素5kg+追肥窒素5kg 10 424 ( 81 ) 1,434 ( 98 ) 15.3 基肥窒素10kg 10 525 ( 100 ) 1,460 ( 100 ) 16.1 基肥窒素15kg 15 583 ( 111 ) 1,608 ( 110 ) 17.4 冬まき (南さつま市) 作型 (栽培地) 区名 表1 生育・収量および窒素吸収量の関係(2014年) 吸収量 注)1.茎葉重,莢総収量および窒素吸収量は,欠株率を考慮し計算した。 2.耕種概要:堆肥無施用,苦土石灰100kg/10a施用,リン酸およびカリは各区とも15kg/10a施用 栽植密度:夏まき作型 畦幅1.5m,株間6cm,1条植,秋まきおよび冬まき作型 畦幅1.5m,株間7.5cm,1条植 試験規模:夏まき作型 6m 2 /区,66株/区,2反復 秋まき作型および冬まき作型 6m 2 /区,53株/区,2反復 栽培 期間 8/23 ~1/30 9/25 ~3/27 11/15 ~5/31 欠株率 秋まき (指宿市) 夏まき (南さつま市) 莢可販品収量 施肥量 茎葉重

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Page 1: スナップエンドウに対する窒素施肥の違いが生育・収量に ...53 スナップエンドウに対する窒素施肥の違いが生育・収量に及ぼす影響 長友

─ 53 ─

スナップエンドウに対する窒素施肥の違いが生育・収量に及ぼす影響

○長友 誠・中島 純・樋口康一・古江広治

(鹿児島農総セ)

【目的】

スナップエンドウについては,最近の急速な

需要の高まりから栽培面積が急増するなか,供

給の増加に向けた新作型開発が期待されている。

産地では,着莢負担増による草勢低下のため頻

繁に施肥を行う事例など,産地ほ場の土壌養分

過剰の課題があり,作型に対応した施肥管理技

術確立の必要がある。

そこで,既存の「夏まき」および「秋まき」,

新作型として主に4~5月に収穫する「冬まき」

の3作型について窒素施肥量の違いが生育,収

量,養分収支に及ぼす影響について検討した。

【方法】

試験は,夏まき作型および冬まき作型ではセ

ンター内露地ほ場(表層腐植質黒ボク土),秋

まき作型では指宿市山川の露地ほ場(淡色黒ボ

ク土)で行った。供試品種は ” ニムラサラダス

ナップ ” を用い,仕立て法は主枝1本仕立て,

栽植密度は畦幅 150cm,株間 6 ~ 7.5cm の1条

植えとした。試験区の構成及び窒素施肥量は,

無窒素区,基肥窒素 5kg/10a(以下/10a 略)+追肥窒

素 5kg 区,基肥窒素 10kg 区,基肥窒素 15kg 区

の4区を設定した。

【結果】

①窒素施用量 10 ~ 15kg/10a の範囲内では,各

作型の収益性を考慮した目標収量(夏まき

0.5t/10a,秋まき 1.8t/10a,冬まき 1.4t/10a)は達

成した。②莢収量については,夏まきおよび冬

まき作型では,窒素施用量増加に伴い増加する

傾向がみられたが,秋まき作型では立ち枯れ症

状による欠株がみられ,基肥窒素 15kg 区の莢総

収量は基肥窒素 10kg 区に比べ少なくなった。③

夏まきおよび秋まき作型では,追肥施用によっ

て茎葉重増加はみられたが,収量増加はみられ

なかった。冬まき作型では,追肥施用による茎

葉重および収量の増加はみられなかった。④養

分収支では,各作型とも施肥窒素量に比べて窒

素吸収量が多く,窒素収支はマイナスであった。

無窒素区の窒素吸収量は,秋まき作型では

35kg/10a,夏まき作型および冬まき作型では 14kg/10a と大きく,根粒菌の関与がうかがわれる

とともに作型あるいは栽培地でその量は大きく

異なった。

大豆根粒菌の活性は,土壌 pH や土壌消毒,

在来の根粒菌や連作などに影響されることが明

らかになっているが,エンドウの根粒菌が生産

性に及ぼす影響について明らかでなく,今後,

これらがエンドウの根粒菌着生や活性等に及ぼ

す影響についての検討が,窒素施肥法確立のた

めに必要と考える。

kg/10a kg/10a 指数 kg/10a 指数 kg/10a %

無窒素 - 1,326 ( 85 ) 853 ( 61 ) 13.9

基肥窒素5kg+追肥窒素5kg 10 1,743 ( 111 ) 1,261 ( 91 ) 22.6

基肥窒素10kg 10 1,568 ( 100 ) 1,389 ( 100 ) 18.6

基肥窒素15kg 15 1,235 ( 79 ) 1,516 ( 109 ) 18.0 4.5

無窒素 - 3,249 ( 98 ) 2,758 ( 93 ) 35.2

基肥窒素5kg+追肥窒素5kg 10 3,872 ( 117 ) 2,890 ( 98 ) 35.5

基肥窒素10kg 10 3,318 ( 100 ) 2,956 ( 100 ) 36.0

基肥窒素15kg 15 3,462 ( 104 ) 2,805 ( 95 ) 36.1 9.4

無窒素 - 479 ( 91 ) 1,201 ( 82 ) 14.0

基肥窒素5kg+追肥窒素5kg 10 424 ( 81 ) 1,434 ( 98 ) 15.3

基肥窒素10kg 10 525 ( 100 ) 1,460 ( 100 ) 16.1

基肥窒素15kg 15 583 ( 111 ) 1,608 ( 110 ) 17.4

冬まき(南さつま市)

作型(栽培地)

区名

表1 生育・収量および窒素吸収量の関係(2014年)

窒 素吸収量

注)1.茎葉重,莢総収量および窒素吸収量は,欠株率を考慮し計算した。  2.耕種概要:堆肥無施用,苦土石灰100kg/10a施用,リン酸およびカリは各区とも15kg/10a施用        栽植密度:夏まき作型 畦幅1.5m,株間6cm,1条植,秋まきおよび冬まき作型 畦幅1.5m,株間7.5cm,1条植

        試験規模:夏まき作型 6m2/区,66株/区,2反復 秋まき作型および冬まき作型 6m

2/区,53株/区,2反復

栽培期間

8/23 ~1/30

9/25 ~3/27

11/15 ~5/31

欠株率

秋まき(指宿市)

夏まき(南さつま市)

莢可販品収量窒 素施肥量

茎葉重

諫早湾干拓地の半促成長期どりアスパラガスにおける pH 矯正による収量の回復

○平山裕介

(長崎農林技開セ)

【目的】 諫早湾干拓地の土壌は元来,陽イオンや塩素イ

オンが高く,下層にはグライ層を有している。干

拓直後の pH は 9.0 前後のアルカリ土壌で,硫安を

主体とする施肥体系がとられてきた。中でもアス

パラガスの窒素施肥量は 50kg/10a と非常に高く,

硫安を連用することで,土壌 pH は 4.0 前後まで低

下し,収量低下の要因と考えられた。そこで,永

年性の品目である半促成長期どりアスパラガスの

pH 矯正法を検討するとともに収量を調査した。 【材料および方法】

供試材料は 2005 年 10 月に長崎県農林技術開発

センター干拓営農研究部門のハウス内に定植した

「UC157」(ウェルカム)を使用し,6 年生(2011年)~9 年生(2014 年)株にかけて調査した。

試験区は同じハウス内の 1.5m×5.75m(8.625㎡)とし,施肥体系は表 1 の通りで,施肥以外の

管理は同じとした。各区 2 反復とした。

試験区 年窒素肥料

石灰資材

硫安区2011-2013

硫安 無し

2011 硫安 立茎中に苦土石灰100kg/10a×6回

2012 尿素保温開始前に消石灰200kg/10a×1回立茎中に苦土石灰100kg/10a×2回

2013 尿素 保温開始前に消石灰200kg/10a×1回

2014 - 保温開始前に消石灰200kg/10a×1回

※いずれの区も保温開始前に牛ふん堆肥2t/10a(現物)施用

矯正区

※窒素肥料は窒素成分で50kg/10aで統一。

※窒素肥料は4~9月に月1回分施(計6回)。春肥の施用なし。

表1 試験区の施肥体系

土壌サンプリングは畝上から深さ 10-15cm(堆

肥の層を除き 5-10cm:根が分布する層)の土壌を

採取し分析した。測定項目は,pH(H2O),EC,交換性陽イオン,CEC とし,分析方法は「土壌,

水質及び植物体分析法(日本土壌協会)」に準じた。 【結果および考察】

矯正開始前(2010 年)は硫安連用区の pH は 3.9,年間収量が 2,817kg/10a,矯正区の pH は 4.7,年間

収量は 2,446kg/10a であり,いずれも石灰飽和度は

20%以下であった。 立茎中に畝上から苦土石灰を施肥した 2011 年

は矯正区の pH は 4.1 であり,pH の矯正効果は見

られず,年間収量も 1,959kg/10a に低下した。 保温開始前の堆肥投入時に消石灰 200kg/10a を

土壌と混和し,窒素肥料を尿素に変更した 2012年は,矯正区の pH は 5.5 に矯正され,収量も

2,216kg/10a とやや回復した。 同様の施肥体系の 2013 年の矯正区の pH はアス

パラガスの適正範囲である 6.7 に回復し,年間収

量も 3,254kg/10a と回復した(表 2,図 1)。

また,多量の消石灰と堆肥を同時に施用するこ

とから,若茎への障害を調査したが,矯正区の異

常茎割合は硫安区より低かった(表 3)。 以上より,窒素肥料を硫安から尿素に変え,保

温開始前に消石灰 200kg/10a を土壌と混和し 2 年

間施用することでアスパラガスの適正 pH に矯正

できた。また異常茎割合は増加せず,春芽・夏芽

共に収量が回復した。

異常茎 商品 異常茎 商品

矯正 172 1,239 12% 矯正 39 769 5%

硫安 262 1,119 19% 硫安 79 807 9%

矯正 332 1,338 20% 矯正 102 1,139 8%

硫安 412 977 30% 硫安 104 802 12%

矯正 550 2,215 20% 矯正 97 810 11%

硫安 411 875 32% 硫安 101 589 15%

表3 異常茎の収量と総収量に占める割合

2012

2013

2014

2011

2012

2013

異常茎割合夏芽

収量(kg/10a)春芽

異常茎割合

収量(kg/10a)

図1 若茎の収量変化

1,072 1,207720 693 769 808

1,139802 810

589

1,3741,610

1,239 1,1191,447

977

2,115

875

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

矯正前 硫安 矯正 硫安 矯正 硫安 矯正 硫安 矯正 硫安

2010 2011 2012 2013 2014

収量(kg/10a)

春芽 夏芽

表2 夏芽収穫期間中の土壌分析結果

pH EC Ca/Mg Mg/K

(H2O) (mS/cm) CaO MgO K2O 当量比 当量比

矯正区 4.7 0.2 202 74 127 2.0 1.4 18.0%硫安区 3.9 0.3 97 35 48 2.0 1.7 8.7%矯正区 4.1 0.4 263 114 133 1.7 2.0 23.4%硫安区 3.6 0.6 75 66 84 0.8 1.8 6.7%矯正区 5.5 0.2 449 123 124 2.6 2.3 40.0%硫安区 3.8 0.3 94 57 78 1.2 1.7 8.3%矯正区 6.7 0.2 555 109 118 3.6 2.2 49.4%硫安区 3.9 0.2 75 39 62 1.4 1.5 6.7%矯正区 2.0 0.0 353 35 -9 1.7 0.8 31.4%硫安区 0.1 -0.2 -22 4 14 -0.6 -0.3 -2.0%県基準 6.0~6.5 220 30 15-40 4-8 2以上

交換性陽イオン(mg/100g乾土)

矯正前との差

試験区石灰

飽和度

矯正前 2010

矯正開始

2011

2012

2013

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