エネルギーデータ戦略 - 東京大学 · 実現に向けて」から 吉村 忍...

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© Hitachi-UTokyo Lab.. 2018. All rights reserved. 0 エネルギーデータ戦略 日立東大ラボの議論「Society5.0を支える電力システムの 実現に向けて」から 吉村 東京大学副学長、大学院工学系研究科教授 日立東大ラボ・エネルギー分野コーディネータ 東京大学政策ビジョン研究センターシンポジウム データ利活用のための政策と戦略 ー より良きデータ利活用社会のために ー 2018年11月19日

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エネルギーデータ戦略日立東大ラボの議論「Society5.0を支える電力システムの

実現に向けて」から

吉村 忍東京大学副学長、大学院工学系研究科教授

日立東大ラボ・エネルギー分野コーディネータ

東京大学政策ビジョン研究センターシンポジウムデータ利活用のための政策と戦略 ー より良きデータ利活用社会のために ー

2018年11月19日

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目次

1. 日立東大ラボの活動紹介と提言(第1版)の概要

2. 地域社会で挑戦すべき新しい方向性

3. 基幹システムの変革を支える枠組み

4. 挑戦と変革に向けた制度・政策

5. 広域系統シミュレータとその活用事例

6. 社会全体のエネルギーシステムを評価するプラットフォーム

及びデータの概念設計

7. まとめ

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1-1. 「日立東大ラボ(2016.6.20創設)」の取り組み~ 日立と東大の産学協創 ~

●幅広い分野での共同研究 ●研究成果の取りまとめ●オープンフォーラムなどによる社会への情報発信

ハビタット・イノベーションPJ

【日立の強み】:高度インフラ技術の蓄積(スマートシティー事業など)、OT✕IT技術【東大の強み】:先端研究、人文知、様々な研究実証フィールド、国・自治体との政策連携

2016.6~テーマ 「まちづくり」

・大学の多様な学知、人材の育成・活用

・新たな学術研究の創出

・新産業創出による経済駆動

・新たなビジネスモデルの構築

2016.11~テーマ 「エネルギーシステム」

・データ駆動型社会を支えるエネルギーシステム

・技術的、政策・制度的検討

◇知識集約型社会システムの実現◇リアルタイムなデータ利活用の基盤整備

・ものづくりとまちづくりの統合的アプローチ

・未来都市ビジョン形成

フォーラム・提言

Society 5.0の実現に向けて

◆Society 5.0(超スマート社会)の実現に向けたビジョン創生

◆社会課題解決モデルの発信(技術開発、法制度・政策提言)

2017.4~

日立製作所 東京大学

共同研究・フォーラム・書籍

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Society 5.0を支える電力システムの将来に関して

国内外の情勢を踏まえつつ、技術的課題や政策・制度的課題を抽出し、

関係者と問題意識を共有して、その成果を提言として公開する

新しい電力システム再生可能エネルギー導入拡大、

分散化、デジタル化、電化/電動化などの取り込み

従来の電力システム

大規模電源が主体

不可避的な移行

Society 5.0を支えるエネルギーシステムのビジョン・ゴ-ルを提言

1-2. 提言(第1版)の目的

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•2030年/2050年を見据えた中長期ビジョンの実現に向けた、複数のシナリオによる議論の推進と多様な技術的選択肢の準備

•日本の高い信頼性・技術力・人財を活かす

•中長期シナリオの技術開発に対する国家的視点の継続的な投資

•確立した技術で国際社会に貢献

ビジョンの立案

•エネルギーシステムのあるべき姿を共有するために、オープンで、かつ定量的・客観的な情報発信・共有を行うためのプラットフォームとそれを踏まえた意思決定の枠組みを構築

•オープンな議論のもとで、エネルギーシステムの健全な競争を促進

•社会的合意形成のためのデータや解析ツールをできる限り共有

オープンな社会的

意思決定の枠組み

•新しいインフラ産業の創生には、科学イノベーション、社会システム、経済メカニズムを一体で捉えることが重要であり、多面的な価値を論じられる人財を育成

•産学官が連携した業界・部門・世代の枠を超える取り組み

横断的人財の

育成

1-3. 議論の方向性

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1-4. フォーラムによる議論の活性化

■ エネルギーフォーラム(クローズ会議)

■ 2017/09/19

■ 東京大学 伊藤国際学術研究センター

■「超スマート社会の実現に向けた

電力システムの将来を考える」

■ 参加人数 約50名資源エネルギー庁、電力会社、電力中央研究所、

電力広域的運営推進機関、IEA他

■ オープンフォーラム

■ 2018/04/18

■ 東京大学 伊藤謝恩ホール

■「Society5.0を支える

電力システムの実現に向けて」

■ 参加人数 約400名資源エネルギー庁、電力会社、電力中央研究所、

電力広域的運営推進機関、三井不動産、

住環境計画研究所、CIGRE他

クローズド会議による詳細な議論と、提言書の公開

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1-5. Society 5.0を支えるエネルギーシステムの全体像

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•産学官の協力で社会全体のエネルギーシステムを評価するプラットフォームを構築し、あるべき姿を議論(解析ツール・標準データの開発と共有)

•基幹システムと地域社会をデジタルでつなぐ新しい制御技術を組み込み、実践し、その技術と経験をグローバル展開

•短・中・長期のマルチタイムスケールの戦略立案と人財と技術を育成のための継続的な投資

•工学分野に加えて、経済学・経営学・金融工学、社会学などがクロスオーバーする研究と教育の仕組みを構築

•貴重な人財であるシニア人財の積極的活用

•エネルギーの価値が多様化する中、独自の価値を創造/流通/取引するための技術革新と制度整備

•電力/ガス/水道/ICT/自動車などの各種インフラ情報を公共的なものとして共有する仕組みを構築

•社会価値を軸に、都市・街区のエネルギー性能、環境性能を指標化、共有

•多くの不確実性を抱える時代に対し、日本の社会にとっての大きな変化要因を評価軸とし、複数のシナリオや選択肢で制度・政策を議論

•日本で確立した先進的なエネルギーシステムをグローバル展開して、国際社会に貢献

•サプライチェーン全体としてのサイバーセキュリティ確立

エネルギーシステムを支える人財・技術の育成

地域社会で挑戦すべき新しい方向性 基幹システムの変革を支える枠組み

挑戦と変革に向けた制度・政策

1-6. 具体的な論点

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分散リソース運用の監視制御プラットフォーム

デジタル技術の適用

多様なエネルギー価値の流通環境性、利便性・快適性、品質・調整力などの価値化

地域社会

基幹システム

各種インフラ間でのデータ共有促進電力・ガス・水道、 ICT・自動車・物流などの連携

都市・街区全体のエネルギー性能・環境性能評価生活の在り方や産業構造の観点からめざす社会価値の指標化

基幹システムとの連携広域での地域資源活用、長期需給変動の補償

大規模なエネルギー貯蔵(二次エネルギー利用)

モビリティの電化

地域間や送配電間など従来領域を超える設備形成

地域社会の新たな電力ネットワーク

個人の生活が主役となって、地域社会ごとに特色あるエネルギーシステムを構築急増する分散リソースを統合する協調メカニズムを具現化するための取組み

2-1. 地域社会で取り組むべき施策2. 地域社会で挑戦すべき新しい方向性

事例 1

マウイ島実証における分散リソースの活用

事例 2

コペンハーゲンCity Data Exchange

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2-2. 変化する地域社会の例

• ハワイ州目標:RE100% @2040(マウイ島 36.9% @2016)

• 太陽光「ダックカーブ」をDR/VPPで対策

データを活用した新しい社会の創出

事例 1 事例 2マウイ島実証における分散リソースの活用 コペンハーゲン City Data Exchange

RE: Renewable Energy, DR: Remand Response, VPP: Virtual Power Plant, DMS: Distribution Management System,DLC: Direct Load Control, AMS: Advanced Metering Infrastructure, PCS: Power Conditioning System

• コンソーシアムCLeanコペンハーゲンで

「エコシステム」を実証• 多様な組織がデータを販売・購入・共有する

マーケットプレイスで都市経済を全体最適化 自由なデータの流れ

2. 地域社会で挑戦すべき新しい方向性

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連携

基幹システム

再生可能エネルギー

モビリティ

水道

送配電設備

大規模電源

分散電源

需要家機器

地域社会 地域ごとに特色のあるエネルギーシステムを構築

3E+S: Energy Security, Economic Efficiency, Environment, and Safety, VPP: Virtual Power Plant

需要家と協業し、全体最適で「3E+S」を向上

3. 基幹システムの変革を支える枠組み

3-1. 連携が進む基幹システムと地域社会

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エネルギー自給率向上を視野に、社会コストミニマムでビッグイシューに挑戦

経済性安定性

•グリッドパリティに向けたVREのコストダウン•FIT負担の増加(4兆円 in 2030)

アジャイルなコストダウンが重要

•VREの急速な出力変動に対応する調整力の確保

•軽負荷/晴天時にVRE発電量が80%を超えるケースあり

軽負荷期(5月)需要 3.1

再エネ導入量 2.2

7.9

12.67.9

10.3

北海道

東北

九州

(GW)

環境性

•VREの導入増加に伴い、北海道/東北/九州の余剰電力の送電ニーズが高まるも、連系容量不足がネックになる恐れあり

43

811

28

15

3

135

161

11

1

111

2

11

PV風力

GW

GW 1

4

2 3

5

1

1

2030

2015

10

(¥/kWh)

20

30

0

2010 2020 2030

1k

2k

3k

4k

(B¥)

14

7

23

Cost of VRE

Purchase price of FIT

(year)

Rapid reductionis important

VRE: Variable Renewable Energy, FIT: Feed-in Tariff

3. 基幹システムの変革を支える枠組み

3-2. VRE大量導入に向けた課題 in 日本

2030年(目標15%)以降の更なる普及促進に向けた3つのチャレンジ

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エネルギーシステムが変革する中、基幹システムは社会全体の「3E+S」を向上する重要な役割を担う

地域システムの連携

複数の地域社会でエネルギーの需給や価値の授受が行われる中、基幹システムがこれらをつなぐ役割を果たす

kWh以外の価値の担保

各地域の垂直統合型の電力会社で担保されているkWh以外の価値(安定供給や環境性など)に対し、発送電分離後は、定量化および指標化してエネルギーシステム全体として担保する

技術・制度等の多面的評価

費用対効果を現時点のコストだけでなく、公平性や福祉も鑑みた長期的事業の持続可能性や、環境価値やエネルギー安全保障の観点などを多面的に評価し、技術・制度・政策を構築する

国際社会への貢献・展開

日本は再エネ大量導入に対する周波数、電圧、安定性の問題が、他国に先駆けて顕在化する課題先進国であり,課題を国内で迅速に解決し、グローバルに技術やノウハウを展開する

3. 基幹システムの変革を支える枠組み

3-3. 基幹システムの新たな役割

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3. 基幹システムの変革を支える枠組み

3-4. 論点

•基幹システムは、複数の地域社会をつなぐ役割を果たし、地域社会は、多様な分散リソースから柔軟性を提供する必要がある

•基幹システムと地域社会をデジタルでつなぐ新しい制御技術を組み込み、実践していく必要がある

地域社会が持つ

制御体系の

デジタル連携

•個別のシミュレーションツールが連結してリアルデータを取り込み、サイバー空間上で運用まで可能とするCPS(Cyber-Physical System)を構築する

サイバーフィジカルが融合する

評価プラットフォームへの進化

•基幹システムに期待する役割を具現化するために、社会全体のエネルギーシステムを分析・評価できる環境を整える必要がある

•産学官が協力し、解析ツールや標準データを開発・共有して、プラットフォームを構築する

基幹システムの

評価環境

基幹システムの解析ツール参考事例

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3. 基幹システムの変革を支える枠組み

3-5. エネルギーシステムを評価するプラットフォームの構築

公開データを活用して、各種施策に関する技術の実現性および社会便益を評価

再エネ導入時の電力需給の柔軟性について需給バランスの対応を解析評価

需給シミュレーションシステム* 広域安定度シミュレータ(詳細5章)

指数関数的に増える分散リソースの協調メカニズム確立に向けて、基幹システムと地域社会をデジタルでつなぐ新しい制御技術に挑戦

さらなる展開

エネルギーシステムのあるべき姿を議論するためには、オープン、かつ定量的・客観的に情報交換して討論する枠組みが必要

問題意識

産学官が協力し、散在するデータやツールを共有してステークホルダー間でシナリオを議論

実現に向けた課題

(東京大学、電力中央研究所、東京電力、東光高岳)

*NEDO電力系統出力変動対応技術研究開発事業

(日立製作所)

UC: Unit Commitment, EDC: Economic load Dispatching Control, LCF: Load Frequency Control,

GF: Governor Free

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4. 挑戦と変革に向けた制度・政策

4-1. 制度・政策に関する4つの論点

•日本にとって重要な社会価値を評価軸に設定し、複数の選択肢で制度・政策を議論し、長期の不確実性に柔軟に対応(2050年)

•地政学リスクを評価軸に、国際連系線、カーボンプライシングなど、さまざまな可能性を科学的知見で評価し、意思決定につなげる

複数シナリオの

制度・政策検討

•国家的な視点で投資とイノベーションを実行する枠組み

•「3E+S」の観点で目標を設定し、その達成に向けて社会を円滑に誘導するような仕組みを導入して、継続的な改善を図る

•費用便益の評価方法確立

パフォーマンス

駆動型政策

•確立した先進的システムをグローバルに展開

•ビジョンの提示とグローバルスタンダードを見据えたルールの構築

•産学官が共通プラットフォームを活用し、幅広い可能性を追求して、真に必要な技術の選別と育成を図る

エネルギーシステム

再構築と

グローバル展開

•すべてが繋がる社会では、サイバーセキュリティが安全保障に直結

•サプライチェーン全体にわたるセキュリティ対策や、セキュリティ・バイ・デザインの考え方を適用するとともに、組織ガバナンスを確立する

サイバー

セキュリティ

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4. 挑戦と変革に向けた制度・政策

4-2. エネルギーシステムの再構築に向けた課題

• 中・長期(~2050)を見据えた議論

• 社会的意思決定のための共通プラットフォームでオープンな議論

• Society5.0では、あらゆるシステムが繋がり、

バリュークリエーションネットワーク全体にわたるセキュリティ対策が必要

• 企画・設計段階からシステム全体を考慮するセキュリティ・バイ・デザイン

産学官によるシナリオの議論 サイバーセキュリティ

企業大学政府

長期(-’50)

R&D・

技術競争

国際金融CO2クレジット標準化戦略

データ共有など

ルール作り

ビジョン提示

凡例 主体 協調,サポート

共通PF

シナリオ分析

都市・街区性能評価シミュレータ

パフォーマンス駆動型政策

データ利活用人財育成・活用

国内投資・

グローバル展開

需要家

分散電源物流事業者

新たな侵入口

リアルタイムな需要予測

リアルタイムな発電量予測

設備製造者

サプライチェーン

リスクの空間的/時間的拡大

燃料事業者

エネルギーバリューチェーン

従来の侵入口

発電所

(*)バリュークリエーションネットワーク:エネルギー設備のサプライチェーンやエネルギー転換・

輸送のバリューチェーンなどの総体

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5. 広域系統シミュレータとその活用事例

5-1. 広域系統シミュレータ

発電機出力/エリア間送電量

タイムバー

安定(青)/不安定(赤)

CO2排出量増分

再エネ出力

安定化のため再エネ発電を抑制

火力機焚き増しでCO2増、発電コスト増

再エネ導入拡大に向けた各種施策に関し、技術の実現性および便益を評価

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2030年エネルギー基本計画の先を見据えた、更なるVRE導入も検討

シナリオ1(~’30) シナリオ2(~’40) シナリオ3(~’50)

VRE電源の構成割合

経産省目標 導入拡大 大量導入

VRE14%(RE22%) VRE24%(RE32%) VRE31%(RE39%)

VRE電源容量

PV 64GW(新築住宅14%に設置)

104GW *1)

(新築住宅の58%に設置)104GW *1)

(新築住宅の58%に設置)

風力 10GW(5MW×2,000台)

16GW(5MW×3,200台)

42GW *2)

(5MW×8,400台)

想定される電源分布

東北の需要曲線5月 平日(快晴)

PV出力100%風力出力40%

*1)JPEA(太陽光発電協会)試算,*2)JWPA(日本風力発電協会)試算RE: Renewable Energy, VRE: Variable Renewable Energy, PV: PhotoVoltaic

-8

-4

0

4

8

12

0 6 12 18 24

需要曲線

(GW

)

時刻

全需要 需要-(PV+WT)

-8

-4

0

4

8

12

0 6 12 18 24

需要曲線

(GW

)

時刻

全需要 需要-(PV+WT)

余剰分

ダックカーブ対応

(GW)PV

風力

需要 需要ー新エネ発電

需要

(GW)

時刻

需要

(GW)

時刻

需要

(GW)

時刻

2 2

5 7

17

92

8

7

310

1

11

1

4 3

8 11

28

15

3

135

161

11

1

111

10 3

19 11

28

15

3

135

163

122

2

2

11

11

東京・東北エリアの新エネ出力:38.2GW(12時)

東京・東北エリアの新エネ出力:23.7GW(12時)

東京・東北エリアの新エネ出力:46.7GW(12時)

5. 広域系統シミュレータとその活用事例

5-2. VRE導入の検討シナリオ

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需給バランスとともに、系統安定性を考慮したシミュレータで各種対策を定量評価

狙い

【東北】風力 8GWPV 11GW

シミュレーション手法

過負荷解消約440箇所の線路・変圧器

安定性維持約130箇所の地絡故障評価

系統やVREの進化に対応するため、実際の系統構成をできるだけ忠実にモデル化

# 項目 前提・制約条件

1 発電 •原子力/石炭火力は、常時並列運転•予備力(LFC3%)を条件に運転火力を決定(最低出力30%)•AVR/PSS/ガバナは電気学会・電協研モデルを適用

2 VRE •FRT:系統連系規程で模擬•ならし効果/晴れ・曇りなどの天候を考慮した出力(右表)

3 系統 •2030年を想定し(OCCTO計画)、275kV以上をモデル化•66kV以下は縮約し、負荷の20%をIMで模擬*1)

4 揚水 •全13.2GWをVRE対策に使用

5 故障 •主要幹線での3LG-Oを想定(約130ヶ所)

UC: Unit Commitment , AVR: Automatic Voltage Management, PSS: Power System Stabilizer,

IM: Induction Motor, WECC: Western Electricity Coordinating Council, FRT: Fault Ride Through

UC•需給バランス•予備力

便益評価•経済性•環境性

電力余剰解消原子力 12台

火力 29台揚水 12台送電線 440区間需要33~63 GW

【東京】風力 1GWPV 28GW

再エネ 出力抑制量の算出

※北海道の取り扱い需要3~5.5GWに対して、余剰電力2~4GWが発生(0.9GW分は本州に送電)

→ 需要地へのHVDC送電、または出力抑制が必要

*1)北米WECC系統解析モデルを参照

風力 PV

東北 71% 93%

東京 34% 79%

晴れ 18%

晴れ/曇り 32%

曇り・雨 50%PV発電確率18+32/2=34%→

5. 広域系統シミュレータとその活用事例

5-3. 解析モデル

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© Hitachi-UTokyo Lab.. 2018. All rights reserved. 20DR: Demand Response, EV: Electric Vehicle, HVDC: High Voltage Direct Current

複数のVRE導入シナリオのもと、実績ある系統対策によるVRE出力抑制量を試算

対策項目 概要系統制約

余剰 熱容量 安定性

(a)系統増強 東北-東京間の連系線容量増強(OCCTO計画に基づく) ✔ ✔

(b)火力機の低出力・多並列運転

出力を30%まで低減し、並列発電台数を増加して系統慣性を向上 ✔

(c)需要家DR 需要の5%(東日本1.6~3.1GW)を限度に消費増加が可能と仮定し、余剰電力を吸収 ✔ ✔ ✔

(d)EV/蓄電池 EV130万台(全国)の20%(全国1.6GW)が充放電制御可能と仮定し、余剰電力を吸収 ✔ ✔ ✔

(e)HVDC VRE電力を消費地に送電して余剰を解消✔ ✔

5. 広域系統シミュレータとその活用事例

5-4. 系統対策

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広域運用でエリア間の融通を最大化し、各エリアの需要増加で再エネ抑制量を低減

3. DR+EVで東北の抑制削減: 31.1GW 4. 揚水活用でPV発電を吸収: 35.9GW

北本 0.9

PV 17.4風力 0.3揚水 4.2DR+EV 1.8

PV 6.7風力 1.3DR+EV 0.3

北本 0.9

PV 6.7風力 1.3DR+EV 0.0

PV 3.4風力 2.0DR+EV 0.5

PV 3.4風力 2.0DR+EV 0.3

PV 22.2風力 0.3揚水 11.2DR+EV 0.0

3.9

DR/EVで風力抑制低減 揚水/DR/EVでPV発電を吸収

10.0

3.9

VRE: Variable Renewable Energy, DR: Demand Response, EV: Electric Vehicle, PV: Photovoltaic

10.6

1. 需給バランスで評価: VRE 30.8GW 2. 安定度を考慮: 28.2GW

PV 3.4風力 4.3

北本 0.9

6.6

PV 14.8風力 0.3揚水 6.6 PV 6.7

風力 1.3

北本 0.9

PV 14.8風力 0.3揚水 4.0

PV 6.7風力 1.3

PV 3.4風力 1.7 G脱調

系統事故

13.2

東北の風力抑制

3.9

10.6

5. 広域系統シミュレータとその活用事例

5-5. 11/12 12:00の潮流状態:シナリオ2

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0

20

40

60

0 100 200 3000

20

40

60

0 100 200 300

(2-1)系統増強、火力100%出力運転

0

20

40

60

0 100 200 300

既設揚水のフル活用でVRE抑制量を低減可能

(1-1)系統増強、火力100%出力運転 (1-2)揚水活用50→100%

日需要

, V

RE抑制

(GW

)

抑制ゼロ

需要

, V

RE抑制

(GW

)

出力抑制量

再エネ発電量

(2-2)揚水活用50→100%

シナリオ1

シナリオ2

抑制回避にはさらに大型蓄電システムが必要

8/92/10

3/29 11/125/1

需要

, V

RE抑制

(GW

)

出力抑制量

再エネ発電量

需要

, V

RE抑制

(GW

)

VRE: Variable Renewable Energy

抑制電力量3058 GWh

抑制電力量568 GWh

抑制電力量0 GWh

抑制電力量231 GWh

5. 広域系統シミュレータとその活用事例

5-6. 系統対策とVRE抑制量

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5. 広域系統シミュレータとその活用事例

5-7. エネルギーシステム評価環境の進化

価値の進化

産業創出による経済拡大

全体最適による経済性向上

規制強化による環境性向上

個別最適化によるコスト削減

単体システム(基幹系統・大電源)

複数の同一システム(広域・再エネ)

異種システム連携(配電・需要家)

システム共生(クロスインダストリ)

システムの複雑化

個別運用から広域運用へ、さらに他産業融合まで視野に入れた仕掛けが必要

統合エネルギーシミュレータ発電/系統/需要家の

統合制御

システム凡例

各エリアの個別評価

クロスインダストリエネルギーシミュレータモビリティ/アーバン/製造の余剰電力活用を評価

DR: Demand Response

広域安定度シミュレータ

DR/VPPシミュレータ需要家・再エネ挙動の模擬

NEDO需給シミュレーション

システム*

*NEDO電力系統出力変動対応技術研究開発事業

本報告

"つなぐ"コンセプトで新エネ大量導入を実現

全国規模の融通を視野に入れた運用

ローカル系統

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6. おわりに

⚫再エネ大量導入の実現には、エリアごとの対策では困難であり、

揚水などを含めてグリッドの運用を日本全体で考えることが重要

⚫社会便益を指標に系統対策への投資を客観的に評価する

仕組みが必要であり、シミュレータの開発に着手

⚫得られた情報・知見を産官学で共有し、グリッド問題に対する

国民理解の醸成に向けた活動を継続的に推進