ナノ構造制御金属酸化物薄膜における光機能の開発 ….4 ZnO...

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B-01 (研究コード番号:2002BR061ナノ構造制御金属酸化物薄膜における光機能の開発 研究代表者 ○川崎 雅司 東北大学:日本 [email protected] 研究分担者 Jean-Marc Triscone ジュネーブ大学:スイス Harold Y. Hwang 東京大学:日本 Mikk Lippmaa 東京大学:日本 研究期間:2002 4 月~2005 3 概要 新しい光機能を持つ酸化物へテロ構造を開発するため、原子スケールで制御された 界面において非線形光学、強誘電性、磁気光学効果などの探索を行なった。まず、Cu の一次元鎖と二次元面での非線形光学効果の違いを明らかにし、非銅系人工物質にお いて大きい非線形感受率を得た。また、ZnOp型化に成功し、ZnO pn接合発光ダイオ ードを世界で初めて実証した。さらに、特異な誘電性で知られる SrTiO 3 の超薄膜強誘 電体の物性を詳細に研究し、ドメインウォールのダイナミクス、酸素欠損やキャリア 生成を詳しく調べ、光デバイスへの基礎を固めた。さらに、電界効果やナノ細線化を 利用し、電界効果超伝導や特異な光応答を検出しつつある。非線形光学効果や青色発 光以外にも、さまざまな整流特性や抵抗変化メモリ特性、界面磁性の光検出によって 明確なデバイス化の工程を示した。 キーワード: 酸化物、界面、LED、キャリア数制御 1.はじめに 本研究はナノスケール超薄膜を用いて光機能を開発することを目的としている。光機能は金 属酸化物ではこれまで強調されることが少なかった機能であるが、非線形光学応答、強誘電性、 強磁性など、光機能の基礎となる物理現象についてはこれまで基礎科学的見地から精力的に研 究が進められてきた。本研究では、さまざまな光学特性を持つ物質を素材としてナノスケール デバイス構造を作成し、発光素子や光スイッチ、変調素子といった素子の開発を行った。同時 に、将来的に光学素子に発展する可能性のある新素材の特性探索も行ってきた。 2.実験方法 酸化物薄膜構造はパルスレーザー堆積法やスパッタリング法を用いて作製した。人工構造 を高い精度で作製するためには、薄膜成長のその場観察と、精密な成長速度制御が最大の決め 手となる。特に、p 型にドープした ZnO 薄膜の合成や、原子層スケールでの急峻なヘテロ構 造の作製においてこのような高精度製膜技術が重要な役割を果たした。

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  • B-01

    (研究コード番号:2002BR061)

    ナノ構造制御金属酸化物薄膜における光機能の開発

    研究代表者

    ○川崎 雅司 東北大学:日本 [email protected]

    研究分担者

    Jean-Marc Triscone ジュネーブ大学:スイス

    Harold Y. Hwang 東京大学:日本

    Mikk Lippmaa 東京大学:日本

    研究期間:2002 年 4 月~2005 年 3 月

    概要 新しい光機能を持つ酸化物へテロ構造を開発するため、原子スケールで制御された

    界面において非線形光学、強誘電性、磁気光学効果などの探索を行なった。まず、Cuの一次元鎖と二次元面での非線形光学効果の違いを明らかにし、非銅系人工物質にお

    いて大きい非線形感受率を得た。また、ZnOのp型化に成功し、ZnO pn接合発光ダイオードを世界で初めて実証した。さらに、特異な誘電性で知られる SrTiO3の超薄膜強誘電体の物性を詳細に研究し、ドメインウォールのダイナミクス、酸素欠損やキャリア

    生成を詳しく調べ、光デバイスへの基礎を固めた。さらに、電界効果やナノ細線化を

    利用し、電界効果超伝導や特異な光応答を検出しつつある。非線形光学効果や青色発

    光以外にも、さまざまな整流特性や抵抗変化メモリ特性、界面磁性の光検出によって

    明確なデバイス化の工程を示した。

    キーワード: 酸化物、界面、LED、キャリア数制御

    1.はじめに

    本研究はナノスケール超薄膜を用いて光機能を開発することを目的としている。光機能は金

    属酸化物ではこれまで強調されることが少なかった機能であるが、非線形光学応答、強誘電性、

    強磁性など、光機能の基礎となる物理現象についてはこれまで基礎科学的見地から精力的に研

    究が進められてきた。本研究では、さまざまな光学特性を持つ物質を素材としてナノスケール

    デバイス構造を作成し、発光素子や光スイッチ、変調素子といった素子の開発を行った。同時

    に、将来的に光学素子に発展する可能性のある新素材の特性探索も行ってきた。

    2.実験方法

    酸化物薄膜構造はパルスレーザー堆積法やスパッタリング法を用いて作製した。人工構造

    を高い精度で作製するためには、薄膜成長のその場観察と、精密な成長速度制御が最大の決め

    手となる。特に、p 型にドープした ZnO 薄膜の合成や、原子層スケールでの急峻なヘテロ構造の作製においてこのような高精度製膜技術が重要な役割を果たした。

  • 3.実験結果

    3.1 非線形光学効果を示す層状ペロブスカイト型酸化物

    巨大非線形応答の起源を明らかにするた

    めにCu, Ni, Co 酸化物において線形・非線形光学応答を調べた [1] 。さらにK2NiF4 構造をとる Sr2MO4(M = Ti, V, Cr, Mn, Co)薄膜を LaSrAlO4 基板上に作製し(図1)、その光学伝導度を調べた [2]。これらの物質は天然では不安定であり、特殊な基板上にエ

    ピタキシャルに堆積させてはじめて形成さ

    れる。遷移金属元素を変えていくことで、

    モットハバード型絶縁体から電荷移動型絶縁体へクロスオーバー

    してゆく様子が現れた(図2)。特に、Co系において、金属強磁性を二次元物質を用いて実現したことが大きな成果である。E//b スペクトルには金属性を示すドゥルーデピークが現れたが、E//c スペクトルにはギャップが現れた。強磁性キュリー温度は 250 K と二次元強磁性体としては異常に高い温

    度であった。低温での飽和磁気モーメント

    は 1.8 μB であり、Co は中間スピン状態を 取 っ て い る こ と が わ か っ た 。

    (Sr

    図1 K2NiF4 構造のヘテロ界面(左)および Sr2CoO4/LaSrAlO4 界面(右)の模式図

    図2 Sr2MO4 (M = Ti, V, Cr, Mn, Co) 薄膜の光学伝導度

    図 3 (SrxCa1-x)2CuO3 における第三高調波

    信号の Sr 量依存性

    B

    磁性

    xCa1-x)2CuO3 についてはCu-O 結合距離が短くなると電荷移動ギャップが広く

    なる様子を観察した。Sr 量の増加にともなって光学的非線形性が大きくなってゆ

    く様子を第三高調波発生法により観察し

    た(図3)。

    3.2 Ti1-xCoxO2 における強図4 A: さまざまな酸素雰囲気下で作製した Ti0.97Co0.03O2 薄膜の300 K における吸収スペクトル。酸素圧と抵抗率の関係も表の形で載

    せている。最も金属的な試料(#1)では明らかなブルーシフトが現れた。

    B: 300 K、1 T において測定した MCD スペクトル。金属的な試料(#1、#2)ではバンド間遷移に対応する構造(マークをつけた点)が現れ

    ているが、絶縁体的である試料(#3)では観測されていない。

  • 磁気-光デバイス開発を目指し、強磁性

    半導体である Ti1-xCoxO2の特性を調べた。磁気光学効果および異常ホール効果を利

    用し、誘電率の非対角項を測定した。いず

    れの測定手段を用いても、キャリアの存在

    により磁化が発生することが明らかにな

    った。図4はTi1-xCoxO2薄膜の吸収および MCD スペクトルであ

    る。強磁性

    を 示 す

    MCDのピーク構造(吸収スペクトルの微分形のような構造)が、酸素欠損由来のキャリアが導入された試料(#2)におい

    て現れ、絶縁体試料(#3) においては現れなかったということ

    は、この系においてキャリア誘起強磁性が実現していること

    を如実に示している [5]。図5(a)に示すように、異常ホール効果は最も金属的な試料でのみ観察された [6]。図6において明らかなように、すべての試料について MCDシグナル、ホール抵抗、磁化の磁場依存性は一致し、これらの試料において

    intrinsic なキャリアが強磁性を引き起こしていることは明ら

    かである。

    図5 Ti1-xCoxO2-δ (x = 0.03) 薄膜のホール抵抗(ρxy)の磁場依存性。 製膜時酸素圧は 10-7 Torr (a) および 10-6 Torr (b)。見積もったキャリア数も各データに書き添えている。

    図 6 300 K で のTi0.90Co0.10O2 −δ 薄膜における MCD、ホール抵抗、磁化の磁場依存性。

    2×1020cm-3

    300K

    図 7 (a) Fe0.1Co0.9 / AlOx / Ti1-xCoxO2-δ 磁気トンネル接合 (MTJ)の模式図。(c) 15 K、30 K、60 K に お け る TMR 比 (ΔR/R(1T)) の磁場依存性(ΔR = R(μ0H) - R(1T))。

    Co10%

    さらに、トンネル磁気抵抗 (TMR) を観察するために、図ネル接合を作製した。具体的には、Nb をドープしたルチル単結晶を基板として使用する

    0.1Co0.9 多結晶をトンネルバリた のの、この結果はTiO2 系においてはじめて見出された

    7(a) に示すようなトン

    と同時に、下部電極としても利用している。アモルファスのアルミニウム酸化物、あるいは

    Fe アとした。トンネル磁気抵抗の様子は図7(c) のようになっ。TMR は 200 K 付近で消滅するも

    トンネル磁気抵抗効果である。

    .3 ペロブスカイト酸化物の界面

    学:スピントロニクスおよび不揮発

    抵抗メモリー開発

    非線形磁気光学効果を用い、半金

    属であるLa0.6Sr0.4MnO3 を素材としたスピントンネル接合における界面

    磁性を調べた [7,8]。この場合、電気双極子と磁化が共存するため、両者

    の外積であるトロイダルモーメント

    が発生する。我々は二次高調波発生

    法により図8 (b) に示したさまざ

    (b)

    図8 (a) MSHG 測定の概念図 (b) 本実験で用いたさまざまな人工界面構造(上)と MSHG シグナルの温度依存性(下)

    (a)

  • まな界面の磁性を調べた。価数が不連続性となるLa0.6Sr0.4MnO /SrTiO 界面では磁性の劣化が/ LaAlO3 界面や、LaMnO3 層を挿入した界面では

    温と繰り返し変化させることで、高い結晶性を保ったま

    pn ダイオードは図10(a) の通りである。図10(b) の写注入により発光

    図9(a) 製膜時の温度制御の様子。(b) 挿入画像はT = TL (左)、T = TH(右)で見られる典型的な RHEED 像。 画像中に点線で定

    3 3

    見られたが、この問題がないLa0.6Sr0.4MnO3きな磁化が観測された。

    .4 ZnO を素材とした発光ダイオード p 型にドープした ZnO の良質な薄膜作製に成功し、n

    型の ZnO と組み合わせることで青色発光ダイオードを開発した [9]。1996 年に励起子発光を青色領域で我々が発見してから ZnO は光デバイスの材料として注目を集めてきた。我々は図9に示すような周期的温度変調法を

    用い、光デバイス化において最も困難なステップであっ

    た p 型ドープを実現した。高品質の薄膜を得るためには製膜温度を高く設定する必要があるものの、その場合ア

    クセプターである窒素は ZnO 内に取り込まれなくなる。逆に、低温では窒素の取り込みは行なわれるものの、膜

    の結晶性は大幅に低下する。我々は、製膜温度を低温-高

    真で明らかなように、直径 0.3 mm のデバイスが電流

    義したストリーク長を時間の関

    数でプロットした。

    (a)

    (b)

    ま膜中に窒素を取り込むことに成功した。作製した ZnO

    した。440 nm に中心を持つ発光スペクトルの様子を図10(c) に示している。

    (c) T=293K

    (a)

    (b)

    .5 Nb ドープ SrTiO3 薄膜における超伝導状態の制御 Pb(Zr0.2Ti0.8)O3 (PZT) と Nb ドープ SrTiO3 (Nb-STO) か

    ら超構造を作製した。Nb-STO は超伝導体の中で最もキャリア濃度の少ない物質として注目を集めてきた [10]。図11

    (d) T=293K

    および p 型 ZnO (500 nm) の発光スペクトル(点線)。破線は p 型 ZnO の

    図10 (a) ZnO p-i-n ホモ接合ダイオードの断面図。p 型 ZnO に対しては半透明の Au/Ni 電極を用いた。(b) ダイオードの光学顕微鏡像。直流電流を流して発光さ

    せている様子が下図である。(c) 8 mA、12 mA、16 mA の直流電流を流して発光させた時の 293 K における発光スペクトル。矢印は p 型 ZnO の吸収端のエネルギーを表している。(d) ドープをほどこしていない ZnO (1 μm)

    透過スペクトルである。

    図11 Nb:SrTiOB3 B 薄膜の抵抗率の温度および磁場依存性

  • はNb-STO 薄膜の電気抵抗の様子である。Tc はキャリア濃度に大き

    く依存することが知ら

    れている。強誘電体で

    ある PZT と Nb-STO から作製したヘテロ構

    造の電気抵抗の温度依

    存性は図12のように

    なった。P+、P- は c 軸方向に対して平行、反

    平行を向いた PZT 層の分極を表している。抵抗率は分極反転に

    より大きく変化した。低温領域の

    様子は挿入図に示した通りであ

    る。超伝導状態が極低温において

    実現し、分極の反転による Tc のシフトが観察された。抵抗率が 0.4 K での値の 50 % まで下がった状態を Tc と定義すると、P- 状態における Tc は 0.30 K であり、P+ 状態では 0.24 K とな

    る(20 % の変化である)。挿入図中で矢印で示したように、0.27 K 付近では分極の反転により、これまで報告されたことのない常伝導状態(P+ 状態)と超伝導状態(P- 状態)のスイッチングが実現していることがわかる [11]。電界効果によって局所的にPZT分極ドメインを反転して得たPZT/STO2層構造アレー(図13)は、低キャリア密度のピニングセンターアレーと見なせる。ドットの間隔は超伝導可干渉距離の10倍以上にも関わらず

    図12 PZT/Nb-STO 構造の電気抵抗の温度依存性(左側の軸)。

    P+ は Nb-STO 層からキャリアを減少させ、P- は増加させる方向の分極を表している。同時に、二

    つの分極状態での電気抵抗の差 ΔR/R = [R(P+) – R(P-)]/R(P-)もプロットしている(右側の軸)。挿

    入図は低温での電気抵抗である。

    矢印で示したように、0.27 K 付近では超伝導-常伝導の分極によるスイッチングが実現している 。

    ΔR/R

    P+

    P-

    P-/+ dots

    図13 ドット状に配列させた強誘電体ドメイン(左)とP+、P-、および P-/+ドットにおける電気抵抗の温度依存性

    Tcシフトが観キャリア密度の揺らぎにより変調可

    ド 侵入長が重要であると考えている。 3

    る中心対称性の破れは、24 Å の試料においても観測された。X 線回折の結果を詳細に検討することで、3 原子層(12 Å)が強誘電性が現れるし

    察された。我々の見解では、2次元薄膜のTcは局所的な能で、 ット間隔よりも大きな磁場

    .6 PbTiO3 超薄膜の強誘電性 強誘電性が薄膜化によってどのように失われてゆくかは、物理学の観点からも工学の観点

    からもきわめて重要な問題である。我々は 500 Å から 24 Å までの厚みの PbTiO3 超薄膜をNb-SrTiO3 基板上にスパッタ法で作製し、c 軸長を高分解能 X 線回折により調べた。膜厚が 200 Å 以下で c 軸長は系統的に短くなり、分極が超薄膜において小さくなっていく様子が明らかになった。分極の起源と言え

    きい値であることがわかった [12]。

    .7 強誘電体ドメインウォールのナノスケール観察

    (100) Nb-SrTiO3 基板上にスパッタ法で堆積させた c 軸配向の Pb(Zr0.2Ti0.8)O3 単結晶薄膜を素材として、強誘電ドメインのスイッチングの様子を原子間力顕微鏡 (AFM) を用いて調べた。金属的である基板、AFM のチップを通じて誘電体薄膜にパルス状の電圧を与えること

  • で、強誘電性のドメイン配列を書き込んだ。そのような配列は、再び AFM チップの局所的なピエゾ応答を利用して読み取ることができる。ドメインの大きさは、書き込み時の電圧の

    大きさには比例し、電圧を与える時間に対しては対数的に増加した。このような結果から、

    Pb(Zr0.2Ti0.8)O3 において、強誘電ドメインの形成は、「核形成+分極と直交する方向へのドメォ 。

    印加して、強誘電体薄膜上に表面

    期が、このデバイス

    の動作波長を決定し、我々のデバイスはその値を非常に

    酸素欠損量に差をつけた酸化物界面の

    れた。このような酸素欠損プロ

    インウ ールの移動」の2段階で進むことが明らかになった

    .8 強誘電ドメインを利用した高周波音響波フィルタ

    表面音響波デバイスとは、高周波電圧信号を入力端子に

    音響波を起こし、出力端子でその波を再び電気信号に変

    換するというデバイスである。このような波の速さは媒

    体の音速で決まり、デバイスの特性周波数は入力、出力

    端子の形状(と音速)で決まる。我々は AFM チップを用いたドメイン構造のナノスケール反転操作を利用する

    ことで、入力、出力端子構造を強誘電薄膜上に形成し、

    全く新しい形の表面音響波フィルターを開発した。この

    デバイスの新しい点は、従来の金属製の入出力端子の代

    わりにピエゾ素子を用いた点である。具体的には、図1

    4の上図に示したように、分極が短い周期で反転したド

    メイン構造を Pb(Zr

    0.2Ti0.8)O3 薄膜上に作製した。ピエゾ効果を用いて端子の周期的分極構造の様子を見たものが

    図14の下図である。分極構造の周

    小さくできることが特徴である。

    3.9 チタン酸化物における酸素欠損 分布と拡散

    安定性と酸素の拡散の様子を調べた。具体的には、

    走査型電子顕微鏡と電子損失分光を用い、SrTiO3-δ 薄膜と SrTiO3 基板との界面を調べた。界面が化学組成の観点から急峻である場合においても、電荷の分布

    はナノメートルスケールで広がっていることが分か

    った(図15)。このスケールは、3d 電子の分布に現れる最小のスケールである可能性がある。また、4~5 単位格子程度の化する様子が観察さ

    ファイルの安定性

    を利用し、金属(酸

    素欠損あり)-絶縁

    体(酸素欠損なし)

    超構造を作製した

    (図16)。この構

    造では、ドープ量を

    ナノスケールで制

    御できているとい

    大きさで酸素欠損がクラスター

    Substrate = ground platePZT film

    λ

    Input and output elec estrod

    0 60μm

    図14 上:高周波表面音響波デ

    バイスの模式図。下:ピエゾ素子

    で見たデバイスの画像。使用して

    いる信号は 5 GHz である。

    SrTiO3substrate

    LaTiO3marker

    Growth direction

    SrTiO3-δSrTiO3substrate

    LaTiO3marker

    Growth direction

    SrTiO3-δ

    図16 酸素量を変調した SrTiO3-δ 超構造の電子顕微鏡像。超格子の単位がペロブス

    カイト何層分かを画像の下に

    書き添えてある。

    図15 電荷分布プロファイル(上)、電子顕微鏡で見たチタン酸化物超構

    造(中)および SrTiOB3-δB (25 層) 作製時のRHEED 振動(下)。

  • う点が、最も驚くべき特徴であると言える [15]。

    3.10 界面における分極とスクリーニング効果

    酸素欠損を導入する以外に、バンド絶縁体である SrTiO3 の空の d バンドに電子をドープする方法としては La-Sr 置換がある。LaTiO3 はモット絶縁体であり、低温で反強磁性絶縁体となることが知られている。モット絶縁体LaTiO3 とバンド絶縁体SrTiO3 のバルクの混晶系

    (La, Sr)TiO3 では金属相が現れるため、SrTiO3/LaTiO3 界面においてどのような電子状態が実現しているか

    は興味深い問題である。我々は界面においてTi の価数がどのように 4 価から 3 価へと変化するかを調べるために、界面や超格子での元素種の分布と価数、

    電荷分布の変化の様子を走査型電子顕微鏡により観

    察した [16]。作製した超格子は図17に示すようなものであり、原子層レベルで急峻な人工構造が実現

    できている。LaTiO3 層をSrTiO3 層で挟んだ場合、5 単位格子以上の LaTiO3 層において、はじめてバルク的な LaTiO3 の電子状態がその層の中心付近に現れることがわかった。SrTiO3/LaTiO3 界面においては、4 価から 3 価への価数変化は、酸素欠損超格子の場合と同様、ナノメートルスケールで起こっているこ

    とが分かった。

    図17 下:SrTiO3/LaTiO3 超格子の電子顕微鏡像。明るい線がLaTiO3 層に対応する。像の大きさは 400 nm である。上:5 x 1 超格子の拡大図。

    3.11 ダイオード構造における強相関効果

    強相関電子系の界面におけるふるまい、特にスピン-電荷結合の様子をプローブする目的

    でLa0.7Sr0.3MnO3-δ/Nb:SrTiO3 接合の特性を調べた。図18 (a) のような接合をレーザーアブレーションにより作製したところ、10 K から 400 K という広い温度領域において整流作用が現れ、この界面において空乏層が形

    成されていることが分かった。さらに、

    電気容量の大きな磁場依存性から、空

    乏層の厚みが磁場により制御できる

    ことが分かった。電流電圧特性には磁

    場の効果は指数関数的に影響する。こ

    のように、強磁性体―絶縁体バリア―

    強磁性体3層構造を持たない単純な

    ダイオード構造で、大きな磁場依存性

    が現れるのはきわめて興味深い。基礎

    研究の観点からは、本接合はモット絶

    縁体-バンド絶縁体界面の特異な電

    子状態をプローブする構造として興

    味深く、応用上は、強相関電子系を用

    いて磁場依存性を持つ新しい光デバ

    イス開発の可能性を示すものである

    という点で重要な接合である。

    図18 (a) La0.7Sr0.3MnO3-δ/Nb:SrTiO3 接合の模式図と極性。(b) 電流電圧特性の磁場依存性。(c) 微分接合伝導度の磁場依存性。(d) ゼロバイアスでの電気容量の磁場依存性。

    4

    3

    2

    1

    0

    Cur

    rent

    Den

    sity

    (10-

    2 A/c

    m2 )

    1.00.90.80.70.60.5

    Bias Voltage (V)

    8T 7T 6T 5T 4T 3T 2T 1T 0.5T 0T

    10K

    (b)

    0.001

    0.01

    0.1

    1

    10

    dJ/d

    V (S

    /cm

    2 )

    -8 -4 0 4 8Magnetic Field (T)

    100K 40K 10K

    (c) 1.8

    1.6

    1.4

    1.2

    1.0

    0.8

    Cap

    acita

    nce

    (μF/

    cm2 )

    -8 -4 0 4 8Magnetic Field (T)

    100K 40K 10K

    (d)

    Nb doped SrTiO3 crystal

    La0.7Sr0.3MnO3-δ

    Gold electrode

    aluminumelectrode

    VFIF

    H(a) 4

    3

    2

    1

    0

    Cur

    rent

    Den

    sity

    (10-

    2 A/c

    m2 )

    1.00.90.80.70.60.5

    Bias Voltage (V)

    8T 7T 6T 5T 4T 3T 2T 1T 0.5T 0T

    10K

    (b)

    0.001

    0.01

    0.1

    1

    10

    dJ/d

    V (S

    /cm

    2 )

    -8 -4 0 4 8Magnetic Field (T)

    100K 40K 10K

    (c) 1.8

    1.6

    1.4

    1.2

    1.0

    0.8

    Cap

    acita

    nce

    (μF/

    cm2 )

    -8 -4 0 4 8Magnetic Field (T)

    100K 40K 10K

    (d)

    Nb doped SrTiO3 crystal

    La0.7Sr0.3MnO3-δ

    Gold electrode

    aluminumelectrode

    VFIF

    H(a)

    Nb doped SrTiO3 crystal

    La0.7Sr0.3MnO3-δ

    Gold electrode

    aluminumelectrode

    VFIF

    H(a)

  • 3.12 界面における分極の不連続性

    e/2e/2e/2e/2

    e/2

    e/2

    e/2e/2

    e/2e/2e/2e/2

    e/2

    e/2

    e/2e/2

    図19 n 型(上)および p 型(下)のLaAlO3/ SrTiO3ヘテロ界面

    LaAlO3/SrTiO3 へテロ構造を用い、界面における分極の不連続性の効果を調べた。ペロブスカイト構造

    (ABO3)は [100] 方向に関してはAO 層と BO2 層の積層構造であると見なすことができる。SrTiO3 の場合はいずれの層も(Sr2+O2-)0 および (Ti4+(O2-)2)0 のように電気的に中性であるが、LaAlO3 の場合は正負に帯電した (La3+O2-)+ および (Al3+(O2-)2)- 層からなる。したがって、 LaAlO3/SrTiO3 (001) ヘテロ界面には異なる符合の電荷を持つ (LaO)+/(TiO2)0 界面(n 型)と (AlO2)-/(SrO)0 界面(p 型)が存在することになる(図19)。光電子分光の結果、さらに第一原理計算の結果

    から、界面における LaAlO3、SrTiO3 の価電子帯の上端のずれは高々 0.25 eV であることが分かっているため、両者のバンドギャップの差は( 2 eV)、ほとんどそのまま伝導電子帯の下端のオフセットとなってい

    る。実際にこのような界面を作製したところ、ホール

    がドープされた(p 型)界面は絶縁体的であるが、電子がドープされた(n 型)界面は金属的であり、10,000 cm2/Vs を越すホール移動度が実現していることがわかった。2種類の絶縁体間の界面において、このよう

    な良質な金属状態が現れることはきわめて興味深い [17]。

    図20 BaTiO3 薄膜の逆格子マッピング図。シングルドメイン形成 (a)、 格子の緩和 (b)、マルチドメイン形成 (c) の様子が見える。

    3.13 BaTiO3 におけるドメイン構造の制御

    独自に開発したプロセスによりc 軸方向が完全にそろった BaTiO3 薄膜を作製し、そのドメイン構造を調べた [18]。まず SrTiO3 基板上に BaTiO3 薄膜を一層ずつ比較的低温(600-700 °C)で堆積させた。得られた薄膜は多くの欠陥を含むが、引き続いて 1350 °C でアニールすると、これらの欠陥が動くことで格子が緩

    和していく。電子顕微鏡で基板-薄膜間の界面を観察

    すると、周期的に欠陥が並んでいることが分かった。

    この周期は、SrTiO3 と BaTiO3 の格子定数の差(2.5 %)にぴったり対応している。薄膜内には欠陥が存在しないことは、我々のプロセスの大きな特徴であ

    る。このようなBaTiO3 薄膜の構造は基板の影響をほとんど受けず、ほぼ完全に緩和した状態となっている

    ため、バルクの単一ドメイン結晶と同様の強誘電特性

    が期待できる。 400 nm 以上厚みを持つ試料については、温度を下げた時にマルチドメイン構造となってしまうことが分か

    った。X 線回折により逆格子マッピングを行い、200

  • nm から 1000 nm まで膜厚が大きくなるにつれて、完全に c 軸が一方向にそろった状態から、最終的に c 軸方向が完全にランダムになるまでの様子が明らかになった(図20)。したがって、この方法では c 軸方向を 200 nm までは完全に制御できているが、従来の layer-by-layer モードでの結晶成長だけを用いた方法での値より 50 倍大きい値であり、導波路へも十分応用できる厚みとなっている。

    3.14 SrTiO3 基板の終端面制御と La ドープ SrTiO3 薄膜におけるキャリア濃度制御

    SrTiO3 基板上に LaTiO3 超薄膜を堆積させた。界面の特性は、基板の終端面の組成に大きく左右されることが分かった。現在、エッチングにより終端面を TiO2 にそろえた SrTiO3 基板が市販されているが、この表面は高温で不安定であり、950 °C でアニールすると表面に Sr が析出してくることが分かっている。我々は、高温で析出した Sr を、さらに酸(あるいは純水)でエッチングしてやることで、原子層レベルで平坦な表面構造を保ったまま Sr を取り除くことに成功した。得られたTiO2 終端面は熱的に安定であり、少なくとも 700 °Cまでは Sr の析出は起こらないことを確かめている [19]。このような基板を用いることで、(La, Sr)TiO3 固溶相の混入を排除した界面状態の研究が可能となった。

    3.15 金属的な伝導を示す LaTiO3 ナノワイヤの輸送特性

    酸化物光素子をデバイス構造に取り込む際、どのよ

    うに電気的な配線を行うかは重要な問題である。一般

    に、酸化物薄膜作製には 1000 °C を超す高温が必要となるため、通常の金属を用いることは不可能である。

    我々は、元素置換や酸素欠損によって金属的伝導を示

    すことで知られている LaTiO3 に着目し、ステップフローと呼ばれる特殊な結晶成長モードを用いてSrTiO3 中に埋め込んだLaTiO3 のナノワイヤ構造を作製した(図21)。この構造のワイヤ方向、ワイヤと直交する

    方向の電気抵抗の様子を図22に示している。電気抵

    抗の異方性は、100-1000 に及んでいる。低温においては、ワイヤに直交する方向に関しては強い局在の効果

    が現れている。一方、ワイヤに沿った方向の電気抵抗

    は、微量ドープしたバルクの LaTiO3 にきわめて類似したふるまいを示し、擬一次元強相関電子系の輸送特

    性として興味深い。

    図21 SrTiO3 中に埋め込んだLaTiO3 ナノワイヤの模式図

    102

    103

    104

    105

    106

    107

    She

    et re

    sist

    ance

    (Ω/s

    q.)

    3002001000Tempreture (K)

    10-5

    10-4

    10-3

    10-2

    10-1 R

    esistivity (Ω·cm

    )

    //

    図22 埋め込まれた LaTiO3 ナノワイヤのワイヤ方向およびワイヤと直交する方向の電気抵抗

    4.まとめ 本研究での成果は、Nature 誌 4 報、Science 誌 3 報、Nature Materials 誌 2 報、Physical

    Review Letters 誌 4 報を含む多数の原著論文の形で報告され、国際会議での招待講演数は 65 件に及んでいる。当該分野で最も重要な会議は、研究代表者である川崎が設立者の一人であ

    る“酸化物エレクトロニクス研究会”である。本研究期間内には米国、ドイツ、日本におい

    てこの研究会は開催され、本研究の成果は高く評価されてきた。

  • 本研究テーマによる発表論文は 120 報、口頭発表は 72 件、特許は 20 件である。

    代表的な発表論文:

    1. H. Kishida, M. Ono, K. Miura, H. Okamoto, M. Izumi, T. Manako, M. Kawasaki, Y. Taguchi,

    Y. Tokura, T. Tohyama, K. Tsutsui, and S. Maekawa, Phys. Rev. Lett. 87, 177401 (2001)

    2. J.Matsuno, Y.Okimoto, Z.Fang,X.Z.Yu, Y.Matsui,N.Nagaosa, M.Kawasaki, Y.Tokura, Phys.

    Rev. Lett., 93, 167202 (2004)

    3. M. Ohtani,T. Fukumura, H. Sakurada, J. Nishimura, M. Kawasaki,T. Makino, K. Yamamoto, Y.

    Segawa, Appl. Phys. Lett., 83, 842-844 (2003)

    4. Y. Matsumoto, M. Murakami, T. Shono, T. Hasegawa, T. Fukumura, M. Kawasaki, P. Ahmet,

    T. Chikyow, S. Koshihara, and H. Koinuma

    Science, 291, 854-856 (2001)

    5. H. Toyosaki, T. Fukumura, Y. Yamada, and M. Kawasaki, Appl. Phys. Lett., 86, 182503 (2005)

    6. H. Toyosaki, T. Fukumura, Y. Yamada, K. Nakajima, T. Chikyow, T. Hasegawa, H. Koinuma,

    M. Kawasaki, Nature Materials, 3, 221-224 (2004)

    7. Y. Ogawa, H. Yamada, T. Ogasawara, T. Arima, H. Okamoto, M. Kawasaki, Y. Tokura, Phys.

    Rev. Lett., 90, 217403 (2003)

    8. H. Yamada, Y. Ogawa, Y. Ishii, H. Sato, M. Kawasaki, H. Akoh, Y. Tokura, Science, 305, 646

    (2004)

    9. A. Tsukazaki, A. Ohtomo, T. Onuma, M. Ohtani, T. Makino, M. Sumiya, K. Ohtani, S. F.

    Chichibu, S. Fuke, Y. Segawa, H. Ohno, H. Koinuma, M. Kawasaki, Nature Materials, 4, 42

    (2005)

    10. C.H. Ahn, J.-M. Triscone, and J. Mannhart, Nature 424, 1015 (2003)

    11. K. Takahashi, D. Matthey, D. Jaccard, J.-M. Triscone, K. Shibuya, T. Ohnishi, M. Lippmaa,

    Appl. Phys. Lett., 84, 1722 (2004)

    12. C. Lichtensteiger, J.-M. Triscone, J. Junquera, P. Ghosez, Phys. Rev. Lett., 94, 47603 (2005)

    13. P. Paruch, T. Giamarchi, and J.-M. Triscone, Phys. Rev. Lett., 94, 197601 (2005)

    14. A. K. Sarin Kumar, P. Paruch, J.-M. Triscone, W. Daniau, S. Ballandras, L. Pellegrino, D.

    Marré, T. Tybell, Appl. Phys. Lett., 85, 1757 (2004)

    15. D. A. Muller, N. Nakagawa, A. Ohtomo, J. L. Grazul, and H. Y. Hwang, Nature 430, 657, 2004

    16. A. Ohtomo, D. A. Muller, J. L. Grazul, and H. Y. Hwang, Nature 419, 378, 2002

    17. A. Ohtomo and H. Y. Hwang, Nature 427, 423, 2004.

    18. K. Terai, M. Lippmaa, P. Ahmet, T. Chikyow, T. Fujii, H. Koinuma, M. Kawasaki, Appl. Phys.

    Lett., 80, 4437 (2002)

    19. T. Ohnishi, K. Shibuya, M. Lippmaa, D. Kobayashi, H. Kumigashira, M. Oshima, H. Koinuma,

    Appl. Phys. Lett., 85, 272 (2004)