情報通信ネットワークを活用した指導の工夫 - CEC ·...

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情報通信ネットワークを活用した指導の工夫 -バーコードと QR コードの学習を通して- 佐賀県佐賀市立城北中学校 教諭 相原 泰光 [email protected] キーワード:技術・家庭科,情報通信ネットワーク,バーコード,QR コード,2 進数 1.はじめに 学習指導要領の技術・家庭科の目標は「生活に必要 な基礎的・基本的な知識及び技術の習得を通して、生 活と技術のかかわりについて理解を深め、進んで生活 を工夫し創造する能力と実践的な態度を育てる」と定 義されている。技術科で教える内容は、「A 材料と加 工に関する技術」「B エネルギー変換に関する技術」 「C 生物育成に関する技術」「D 情報に関する技術」の 内容で構成された。また、これまでの選択的な項目 がなくなり、技術分野においてはすべての内容が必修 となった。さらに、教科指導を体系的に行う視点から、 小学校での学習を踏まえた中学校での学習のガイダン ス的な内容を設定し、履修させるようになった。その ため、実質的には必修内容の増を、年間のカリキュ ラムの配列等を工夫することで、補う必要性がある。 したがってA~Dのつの内容を、どの学年で、どこ まで深めて学習させるのかは、学校の実態に応じて計 画・立案する必要が、これまで以上に大切なこととな った。技術・家庭科は実践的・体験的な学習内容を通 して、課題解決力の育成を図ることを教科の特性とし ている。いかにして教科の目標を達成するのか。工夫 と創造の力を揮することが技術・家庭科に求められ ている。 ICT利活用教育に象徴される情報教育は、これか らの教育活動においても日々重要さを増してきている。 「教育の情報化に関する手引き」によると、情報教育 の目標は、「情報活用の実践力」及び「情報の科学的 理解」、情報モラルや健康面の「情報社会に参画する 態度」のつを柱としているが、技術・家庭の教科で すべてを教えていくものではなく、学校教育全体で指 導するように示されている。しかし、小学校では「総 合的な学習の時間」、中学校は「技術・家庭」、高校 が「情報科」を中心に学校全体で扱うように体系化さ れていることも事実である。このように情報教育と技 術・家庭科には密接なかかわりがあり、学校での情報 教育の核として機能していくことが求められている。 すべての教科に年間指導計画があるように、情報教育 の年間指導計画が必要となる。情報教育の年間計画作 成にも積極的に参加し、第学年から第三学年間の実 践力に関わる内容を整理する必要がある。教科本来の 学習活動をスムーズに進め、各教科で扱うソフトウエ アの基本操作が自然にできるよう、学校でも操作学習 の分担を明確することが大切である。情報教育と技 術・家庭の分担を明確にすることで、技術科でしかで きない「D 情報に関する技術」の充実が可能になる。 2.題材の設定 情報社会とは「情報」というものが、目に見えるモ ノやエネルギー以上に価値をもつ社会を意味する。大 多数の企業では、社内はもちろん、異なる会社との間 でも専用のネットワークで結ばれている時代である。 原料や素材の注、製品の開や製造、さらには販売 にいたるまでコンピュータで管理されている。今やす べての会社が情報産業化しているといえる。 本題材は、コンピュータ等の情報機器や情報通信ネ ットワーク等の情報手段の達により、生活の身近な ところでそれが利用されるようになってきたことを知 らせ、「D 情報に関する技術」について学ぶことの必 要性を感じさせるとともに、学習意欲の高揚をねらっ ている3.成果目標 私たちの生活にもっとも大きな影響を与えたのは情 報ネットワークである。情報通信ネットワークのは、私たちの生活を便利で豊かなものへと変化させ、 今後も大きく変わっていくことが予想される。現在の 情報伝達のしくみについて詳しく学ぶことの必要性を 感じさせる。 学習指導要領によれば、「情報化の進展が生活を充 実・展してきたこと、それに伴って生じてきた課題 を身近な事例を使って示す」とされており、題材とし てバーコードや QR コードを取り扱うことはとても意 義のあるものだと考える。 バーコードは横方向だけにデータをもち、QR コー ドは縦方向にも横方向にもデータをもつことができる ようになった。これは、より大きな情報をより小さく 表示させたいという要望に応える形で生まれたシステ ムであり、QR コードの開によって英字や漢字等の データまで格納することができるようになった。今後 も情報量は増え続け、大きくなっていくことを生徒に 理解させたい。また、便利で豊かになった社会には、 他人の情報を手に入れ悪用し、儲けに利用する者も いることを学ばせたい。安易に個人情報を入力すると、 知らないところからダイレクトメールが届いたり、個 人情報が悪用されたりする危険性もあることを学習さ せたい。 また、使用しなくなった携帯電話には意外な機能が ついており、活用できることも学習させ、物を大切に 使う姿勢も身につけさせたい。 4.実践内容 (1)生活を豊かにしているコンピュータについて知 る。図書館で使用している貸し出しシステムや医療 CT、家庭用ゲーム機、ETC システムやナビゲーショ ンシステム等について学習する。 (2)データを記憶する技術について知る。IC タグ、 バーコード、QR コードなどが普及していることを学 習する。 )バーコードの仕組みについて知る。バーコード は、商品に関する情報を1桁の数字で表したもので、 右の数字から、国名、会社名、商品名を表している。 白バー黒バーで表記し、反射率の違いを利用して、入 力したいデータを自動的に入力できるシステムである ことを学習する。また、電気はゼロとイチの数字で表 - 80 -

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情報通信ネットワークを活用した指導の工夫

-バーコードとQRコードの学習を通して-

佐賀県佐賀市立城北中学校 教諭 相原 泰光

[email protected]

キーワード:技術・家庭科,情報通信ネットワーク,バーコード,QRコード,2進数

1.はじめに 学習指導要領の技術・家庭科の目標は「生活に必要

な基礎的・基本的な知識及び技術の習得を通して、生

活と技術のかかわりについて理解を深め、進んで生活

を工夫し創造する能力と実践的な態度を育てる」と定

義されている。技術科で教える内容は、「A 材料と加

工に関する技術」「B エネルギー変換に関する技術」

「C生物育成に関する技術」「D情報に関する技術」の

4内容で構成された。また、これまでの選択的な項目

がなくなり、技術分野においてはすべての内容が必修

となった。さらに、教科指導を体系的に行う視点から、

小学校での学習を踏まえた中学校での学習のガイダン

ス的な内容を設定し、履修させるようになった。その

ため、実質的には必修内容の増を、3年間のカリキュ

ラムの配列等を工夫することで、補う必要性がある。

したがってA~Dの4つの内容を、どの学年で、どこ

まで深めて学習させるのかは、学校の実態に応じて計

画・立案する必要が、これまで以上に大切なこととな

った。技術・家庭科は実践的・体験的な学習内容を通

して、課題解決力の育成を図ることを教科の特性とし

ている。いかにして教科の目標を達成するのか。工夫

と創造の力を発揮することが技術・家庭科に求められ

ている。

ICT利活用教育に象徴される情報教育は、これか

らの教育活動においても日々重要さを増してきている。

「教育の情報化に関する手引き」によると、情報教育

の目標は、「情報活用の実践力」及び「情報の科学的

理解」、情報モラルや健康面の「情報社会に参画する

態度」の3つを柱としているが、技術・家庭の教科で

すべてを教えていくものではなく、学校教育全体で指

導するように示されている。しかし、小学校では「総

合的な学習の時間」、中学校は「技術・家庭」、高校

が「情報科」を中心に学校全体で扱うように体系化さ

れていることも事実である。このように情報教育と技

術・家庭科には密接なかかわりがあり、学校での情報

教育の核として機能していくことが求められている。

すべての教科に年間指導計画があるように、情報教育

の年間指導計画が必要となる。情報教育の年間計画作

成にも積極的に参加し、第一学年から第三学年間の実

践力に関わる内容を整理する必要がある。教科本来の

学習活動をスムーズに進め、各教科で扱うソフトウエ

アの基本操作が自然にできるよう、学校でも操作学習

の分担を明確することが大切である。情報教育と技

術・家庭の分担を明確にすることで、技術科でしかで

きない「D情報に関する技術」の充実が可能になる。

2.題材の設定 情報社会とは「情報」というものが、目に見えるモ

ノやエネルギー以上に価値をもつ社会を意味する。大

多数の企業では、社内はもちろん、異なる会社との間

でも専用のネットワークで結ばれている時代である。

原料や素材の発注、製品の開発や製造、さらには販売

にいたるまでコンピュータで管理されている。今やす

べての会社が情報産業化しているといえる。

本題材は、コンピュータ等の情報機器や情報通信ネ

ットワーク等の情報手段の発達により、生活の身近な

ところでそれが利用されるようになってきたことを知

らせ、「D 情報に関する技術」について学ぶことの必

要性を感じさせるとともに、学習意欲の高揚をねらっ

ている。

3.成果目標

私たちの生活にもっとも大きな影響を与えたのは情

報ネットワークである。情報通信ネットワークの発達

は、私たちの生活を便利で豊かなものへと変化させ、

今後も大きく変わっていくことが予想される。現在の

情報伝達のしくみについて詳しく学ぶことの必要性を

感じさせる。

学習指導要領によれば、「情報化の進展が生活を充

実・発展してきたこと、それに伴って生じてきた課題

を身近な事例を使って示す」とされており、題材とし

てバーコードや QR コードを取り扱うことはとても意

義のあるものだと考える。

バーコードは横方向だけにデータをもち、QR コー

ドは縦方向にも横方向にもデータをもつことができる

ようになった。これは、より大きな情報をより小さく

表示させたいという要望に応える形で生まれたシステ

ムであり、QR コードの開発によって英字や漢字等の

データまで格納することができるようになった。今後

も情報量は増え続け、大きくなっていくことを生徒に

理解させたい。また、便利で豊かになった社会には、

他人の情報を手に入れ悪用し、金儲けに利用する者も

いることを学ばせたい。安易に個人情報を入力すると、

知らないところからダイレクトメールが届いたり、個

人情報が悪用されたりする危険性もあることを学習さ

せたい。

また、使用しなくなった携帯電話には意外な機能が

ついており、活用できることも学習させ、物を大切に

使う姿勢も身につけさせたい。

4.実践内容(1)生活を豊かにしているコンピュータについて知

る。図書館で使用している貸し出しシステムや医療

CT、家庭用ゲーム機、ETC システムやナビゲーショ

ンシステム等について学習する。

(2)データを記憶する技術について知る。IC タグ、

バーコード、QR コードなどが普及していることを学

習する。

(3)バーコードの仕組みについて知る。バーコード

は、商品に関する情報を13桁の数字で表したもので、

右の数字から、国名、会社名、商品名を表している。

白バー黒バーで表記し、反射率の違いを利用して、入

力したいデータを自動的に入力できるシステムである

ことを学習する。また、電気はゼロとイチの数字で表

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記されることが多く、2進数についても簡単に学習す

る。インターネットの検索サイトを利用し、自分の筆

箱に入っているペンや消しゴム等に表記しているバー

コードの番号を入力する。目的の商品を調べさせ、メ

ーカーや商品の値段を調べる。日本で作られた製品は、

45か49の番号から始まることを学習する。

(4)QR コードの仕組みについて知る。バーコード

が普及する中で、より多くの情報をより小さくに応え

て開発されたもので、日本でもっとも普及している 2次元コード の一 種であることを学習する。

(5)個人情報を入れた QR コードを作成する。イン

ターネットの無料サイトを利用し、自分の氏名と学校

の電話番号を表示する QR コードをつくって保存する。

(6)出来上がった QR コードを印刷する。ボールや

花等のイラストも自由に配置できることを学習する。

(7)携帯電話の付加機能を利用し、データを確認す

る。作成した QR コードに、データが入っていること

を確認する。

写真1 作成した QRコードを読み取っている様子

5.成果 文房具やお菓子、世の中に流通している商品には、

ほとんどの物にバーコードや QR コードが表示してあ

る。生徒は普段の生活の中でその記号を目にしており、

バーコードや QR コードの名称を知っていた。しかし、

その意味や働きについて理解している生徒は少なかっ

た。授業実践を通して、生徒はバーコードや QR コー

ドの意味や必要性をきちんと理解することができた。

生徒の授業への反応はよく、氏名や自分の携帯電話の

メールアドレスを入力し、本当の QR コードを作成す

る生徒も見受けられた。更に印刷した QR コードを、

自分のノートに貼るなど、学習を日常生活に取り入れ

る生徒もいた。

今後は必要以上に個人情報を入力する危険性なども

同時に理解させ、情報モラルの部分もきちんと指導し

て QR コードを作成させる必要性を感じた。使用する

サイトについても、精査して使用させたい。

生徒の感想より

・授業でこんなに簡単に QR コードができるなんて

すごいと思いました。チラシや広告に便利だから、掲

載されているということも理解できます。今の時代、

何でも便利になっているので、とても生活しやすいで

す。

・バーコードはただの線だと思っていたけど、番号

などでたくさんの情報を意味していることをはじめて

知った。バーコードは横方向には情報を持つが縦方向

には情報を持たない。QR コードは、縦方向にも横方

向にも情報をもつことがわかった。また、自分の QRコードが簡単にできることにも驚いた。自分の QR コ

ードに、色を付けたり犬の足跡を入れたりして工夫し

た。オリジナルの QR コードが作れて楽しかった。

6.今後に向けて 技術科の目的に「情報化の進展が生活を充実・発展

してきたこと、それに伴って生じてきた課題を身近な

事例を使って示す」とされており、題材としてバーコ

ードや QR コードを取り扱うことはとても意義のある

ものだと考える。

生徒の活動の様子を振り返ると、生徒はバーコード

や QR コードの意味や必要性を理解することができた。

生徒の授業への反応はよく、関心をもった生徒は、氏

名や自分の携帯電話のメールアドレスを入力し、本当

の QR コードを作成する生徒も見受けられた。更に印

刷した QR コードを、自分のノートに貼るなど、学習

を日常生活に取り入れる生徒もいた。今後は必要以上

に個人情報を入力する危険性なども同時に理解させ、

情報モラルの部分もきちんと指導して QR コードを作

成させるように取り組んでいきたい。

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