触感の定量化と創出に向けた 計測・シミュレーション・提示技術 ·...

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1 触感の定量化と創出に向けた 計測・シミュレーション・提示技術 関西学院大学 理工学部・人間システム工学科 教授 井村 誠孝 感性価値創造研究センター 特任助教 山﨑 陽一

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触感の定量化と創出に向けた計測・シミュレーション・提示技術

関西学院大学

理工学部・人間システム工学科

教授井村誠孝

感性価値創造研究センター

特任助教山﨑陽一

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「ファブ地球社会」に向けた取り組み

「標準化」+「個別化」=「適合化」

共通部分を標準化し,さらに個別の部分を組み合わせることにより,一人一人に対し適合された多様な環境を実現する.高度にカスタマイズ可能な社会になる.

新しい職能の創生人間と機械の創造的な関係が構築され,それを活用する新たな職能と職種が生じる.

モノ・人の流通の削減パーソナル・ファブや知の集積の発展により「半径5m・5km以内」の移動で世界と繋がる社会.資源の循環型社会の達成で,物流コストが減少する.

エンゲージメント中心社会

ヒトが自らをとりまくモノや社会と,能動的で楽しみをもって強固な結びつき(engagement)を形成する.

ファブ地球社会とは?

必要とする全ての人が,「自らの感性に基づいて」「欲しいモノや必要なモノを作り出す」ことができる「個人の多様性を尊重」した社会であり,そのために「必要な創意工夫を互いに共有」することで,自己充実感や成長感,達成感に満ちた生活を送ることができる持続可能な社会

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JST COI STREAM感性とデジタル製造を直結し,生活者の創造性を拡張するファブ地球社会創造拠点

Human:感性価値指標化技術のサービス化

Techology:拡張ファブリケーション技術のパッケージ化

Society:社会制度・ライセンスの整備

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触感プロセッシング: 触感の定量化と創出

ファブ地球社会における生産物を実際に使用する際に,感性価値の高い触感を与える

目的

アプローチ

触感を生み出す階層構造の理解

触感の階層構造を利用したモノの生成

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アクティブ:接触状態変化あり

パッシブ:接触状態変化なし

二種類の触感 -対象物と指の接触状態

Taptic Engine (Apple iPhone)HD振動 (ニンテンドースイッチ)

本研究で取り組む対象

触察動作 動的な接触・非接触

大変形道具の操作

把持 振動のみ

部分的に実用化

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接触状態変化なし: パッシブな触感

触対象皮膚感覚受容器

材質の解析器

触感触対象から得られる物理刺激の一方向の伝達により生じる

物理刺激

脳内機構(中枢)

神経信号

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アクティブタッチによる触感の知覚

触対象皮膚感覚受容器

材質の解析器

運動の分析器

運動感覚受容器

運動の制御

行動の制御

筋活動の制御

触感

手指の運動

脳内機構(中枢)

手で自由に触ること(触察行動)によって生じる対象の知覚

行動指令

行動指令

運動指令

物理刺激神経信号

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触感を生み出す階層構造

物体材質・表面形状・手指との相対運動

手指の物理的挙動反発力・摩擦力・変形

生理的反応機械受容器

感性

触察動作時の物理量計測と解析

接触の物理シミュレーション

生体組織のシミュレーション

機械受容器反応のモデリング

感性価値と対応付けるデータマイニング

客観的・一般的

主観的・個別的

1 2

3

3

サイバー空間

フィジカル空間

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触感階層構造を利用したモノの生成

物体材質・表面形状・手指との相対運動

手指の物理的挙動反発力・摩擦力・変形

生理的反応機械受容器

感性

3Dプリンティングによる実体化

アクチュエータによるアクティブ触感生成

物理挙動を生み出す物体形状の探索

感性価値を創出する物理挙動の算出

客観的・一般的

主観的・個別的 サイバー空間

フィジカル空間

力触覚ディスプレイによるプレタッチ

4

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物理量と感性価値の関係

マクロ粗さ ファイン粗さ

硬軟感 摩擦感

感性指標(岡本等による材質次元)

物理量(反発力,摩擦力,変形)

物理特徴量

変換

関係性の分析

摩擦時に感じる触感を提示

(触感の定量化)

反発力・摩擦力を計測

要素技術1: 触察動作時の物理量計測

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触察動作時の指とモノとの相互作用力を計測

振動板(縦方向)

振動板(横方向)

接触対象物

重力方向

摩擦方向

指先

負荷センサ(ロードセル)

負荷センサ(ロードセル)

物理量の計測

装置構成

計測データ例

装置外観

反発力(縦方向の力)及び摩擦力(横方向の力)を縦横方向に配置した振動板を介して負荷センサにより計測

指変形の観測

要素技術1: 触察動作時の物理量計測

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事例: 布地の風合いの計測と感性指標推定

布地の風合い(触感)を計測された物理特徴量に基づき定量化可能

マクロ粗さ

ファイン粗さ摩擦感

硬軟感

要素技術2: 計測された物理量に基づく触覚情報処理

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計測データ

7次元物理特徴量

統計的解析

周波数解析

周波数特性

MDS(多次元尺度構成法)により計測対象(19サンプル)の知覚マップを構成

マクロなザラザラ感 大小

ミクロなザラザラ感

可視化二次元空間に射影

一般性のある物理特徴量空間の構築

要素技術2: 計測された物理量に基づく触覚情報処理

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• 指: バネ-ダンパ-質点モデル

• 質点間の接続: Kelvin-Voigtモデル

– バネとダンパが並列に接続したモデル

接触状態変化のシミュレーション

指: バネ(-ダンパ)-質点

物体表面: 剛体

バネ

ダンパ

指紋を模擬した指モデル 指先拡大図

計測不可能な情報を補う制作物の触感を実体化前にシミュレートする

要素技術3: アクティブタッチの物理シミュレーション

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1指接触前

2指接触時=凝着接触した質点と表面との相対位置を固定

3指接触中接触した質点は表面と一緒に移動

4接触点剥離一定以上の力が質点に加わると凝着が外れる

物体

接触の凝着モデルによる表現

摩擦係数

接触する2物体の材質

表面の微細な構造

既知

未知

よりミクロな凝着モデル

摩擦係数の限界

要素技術3: アクティブタッチの物理シミュレーション

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スクリーンショット

物理特徴量→

指モデル

物体表面グラフ:剪断力の時間変化

赤: 接触点

マクロ粗さ

ファイン粗さ 硬軟感 摩擦感

要素技術3: アクティブタッチの物理シミュレーション

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展望: シミュレーション精度の向上

• Material Point Methodの導入→大変形する物体の表現

– Sulskyらが1994年に提案

• 粒子法と格子法のハイブリッド手法

– 粒子で物体を表現する.

– 運動方程式は格子で解き,その結果に従って粒子を運動させる.

• 特徴

– 粒子法を基礎としている→大変形に強い

– 有限要素法と同じく保存則を弱形式で表現→物理的な正確性が高い

変形する対象物のシミュレーション精度向上を図る

今後の予定

要素技術3: アクティブタッチの物理シミュレーション

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触感生成の二つの方法

動的:アクチュエータの埋め込みと制御

道具使用者

操作

使い心地

センシング

アクチュエータ

シミュレーション使用者・道具の状態

静的:3Dプリンティング

道具の使い心地をバーチャルに生成する

要素技術4: アクティブな触感の生成

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事例:多様な筆記感を提示するスタイラスペン

筆記具ごとに多様な筆記感 タブレット上では単一

なのに…

単一のデバイスを用いて,多様な触覚提示を実現したい

要素技術4: アクティブな触感の生成

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筆記感の記録・モデル化・生成

線形予測係数に筆記感の情報を集約する

小型マイクロフォン(Knowles Corp., SP0103NC3-3)

線形予測分析によるモデル化 小型振動子

(Alps Electric, Forcereactor)

導電性繊維

ペンホルダ

小型振動子

アンプからの振動信号1

ˆk

n n i n i

i

x e a x

推定値

ガウシアンノイズ

線形予測係数

過去のサンプル値

次数

周波数 [Hz]

ボールペン

鉛筆

クレヨン

振動の周波数特性

振動のモデル化 振動の提示振動の計測

要素技術4: アクティブな触感の生成

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実験結果・展示事例

イノベーションジャパン2016「超スマート社会」分野に選出

グランフロント大阪ナレッジキャピタルで一般展示Knowledge Innovation Award 優秀賞(2017)

要素技術4: アクティブな触感の生成

3種類の筆記具の違いを区別する実験の正答率(n=9)

ボールペン

鉛筆 クレヨン

95%

84% 77%

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まとめ

• 触感プロセッシング技術により,モノに触感を付与して感性価値を向上させる取り組みを紹介した.

– 人が物体表面に触る際の物理特性計測について述べた.

– 計測された物理特性に基づいて,触感を分類するための周波数特性に基づく特徴量を構築した.

– 物体と指との接触状況を反映したシミュレーション手法の現状について述べた.

– 道具にアクティブな触感を付与する事例として,多様な筆記感を生成するスタイラスペンについて紹介した.

触感を生み出すメカニズムを計測・シミュレーション・心理実験を通じて理解し,その知見を利用することで,

触感の自在な生成を実現する

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企業への期待

• 想定される本技術の導入先

– 様々な製品において,「手ざわり感」「使い心地」などの触覚的価値の向上を考えておられる企業

– それら製品の外装素材となる材料を開発しておられる企業

– デジタルデバイスのユーザインタフェースの質向上を考えておられる企業

• 開発の推進に必要な技術

– 計測: 物体や生体の非破壊・非侵襲な変形計測技術,振動や変位の非接触計測技術

– 提示: 小型のアクチュエータ,粘弾性を動的かつ可逆的に制御可能な材料

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産学連携の経歴

• 2004年-2007年: 共同研究 (環境関連ベンチャー企業A社)

• 2007年-2008年: 共同研究 (制御機器メーカB社)

• 2010年-2011年: 共同研究 (空調機メーカC社)

• 2012年-2013年: JST 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)探索タイプ採択

• 2015年-: 共同研究 (自動車メーカD社)

• 2017年-: 共同研究 (化学メーカE社)

• 2017年-: 共同研究 (電気メーカF社)

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お問い合わせ先

関西学院大学

研究推進社会連携機構知財産学連携センター

◆住所 〒669-1337 兵庫県三田市学園2-1

関西学院大学神戸三田キャンパス VI号館内

◆電話 079-565-9052

◆FAX 079-565-7910

◆電子メール [email protected]

◆ホームページ http://www.kwansei.ac.jp/kenkyu/