資金調達上の課題と解決方策...212 3) 資金調達上の課題と解決方策...

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212 3) 資金調達上の課題と解決方策 土地利用・交通分野の資金調達上の課題については、①公的関与の在り方、②地方公共団 体の財源問題の2つの観点が中心となります。 公的関与のあり方 「公共交通を骨格としたコンパクトシティ」の実現には、公共交通インフラ等の大規模施 設・設備の存在が大きな役割を果たします。これらの中には、事業採算性は必ずしも見込め

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3) 資金調達上の課題と解決方策

土地利用・交通分野の資金調達上の課題については、①公的関与の在り方、②地方公共団

体の財源問題の2つの観点が中心となります。

① 公的関与のあり方

「公共交通を骨格としたコンパクトシティ」の実現には、公共交通インフラ等の大規模施

設・設備の存在が大きな役割を果たします。これらの中には、事業採算性は必ずしも見込め

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ず、その資金については相当程度を公的な補助等により賄う必要性が大きいと考えられるも

のも少なくありません。

しかしながら、わが国の公共交通機関では、事業者の商業採算性をベースとした運営が基

本とされてきました。そのため、需要の少ない地方の事業者を中心に厳しい経営状況が続い

ており、近年は不採算路線の縮小、廃止も目立っています。その結果、地域住民の公共交通

離れが進み、公共交通事業者の収益は一層悪化し、ますます自動車に依存した社会構造とな

るという悪循環が発生しています。

このような事情を受けて、近年、インフラ整備に関する補助制度の整備が進められてい

ます。例えば、LRT(路面電車)に対しては、下表のような補助制度が創設されています。

一方で、運営費補助はほとんどなく、これは欧米諸国の公共交通機関が公的資金投入を前

提に運営されていることと対照的です。このことは、公共交通の運営体制や財源制度の違い

なども密接に関連しています。欧米では、自治体からの運行委託もしくは公営の場合が多く、

運営費への公的資金投入は、不採算を補うだけでなく、公共性の観点からあえて運賃水準を

低く抑えるためにも行われています。また、そのための財源として、例えばドイツでは鉱油

税(日本のガソリン税に相当)、フランスでは交通税(従業員の給与総額に応じて事業所か

ら徴収)をそれぞれ充当しています。このような海外の公共交通の運営の仕組みなども参考

としつつ、公共交通への公的関与のあり方について検討の余地があるのではないかと考えら

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れます。

ただし、例えば公共交通の運行に関する公的資金の投入を増やすとした場合に、非効率的

な経営を行う事業者に対して補助を行うことになれば、財政負担も増し、地域住民の合意を

得ることも難しくなります。したがって、事業者の選定に関する入札制度の導入など、より

効率的な運行を確保するための仕組みの導入も必要となります。また、逆に公共交通を運行

する事業者が容易に撤退しないような仕組みも、資金調達とあわせて制度面からも検討して

いくことが、安定的な公共交通サービス確保のために重要と考えられます。

図 4.3-30 都市内公共交通の運営に関する比較 出典)阪井(2009)等を元に作成

② 地方公共団体の財源問題

コンパクトシティなどの整備のためには、単一事業だけでなく、様々な施策を総合的に実

施することが不可欠であり、各自治体が地域の特性を鑑みて主体的かつ柔軟に予算を使える

ような仕組みが必要です。

近年、社会資本整備総合交付金(国土交通省)等のように、自由度の高い交付金制度が整

備されつつあります。ところが一方で、このような自由度の高い交付金制度の整備により、

自治体によってはむしろ環境分野、あるいは事業採算性に乏しい地域公共交通の整備等へ予

算が回らなくなる可能性についても指摘されています。今回、都市の低炭素化の促進に関す

る法律が成立し、都市計画の観点からも、都市の低炭素化を図ることが重要となっているこ

とから、低炭素まちづくりのための柔軟な予算制度を整備しつつも、その適切な運用のあり

方について庁内で検討していく必要があると考えられます。

4) 人づくり上の課題と解決方策

土地利用・交通分野における人づくり上の課題については、①地方公共団体の担当者、②

地域づくり推進の担い手の2つの観点があります。

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① 地方公共団体の担当者

地方自治体の担当者が計画策定の際に参照すべきノウハウの蓄積、成功事例の共有化が、

十分になされていないとの指摘があり、実際に、自治体所属委員へのヒアリングや環境省の

アンケート調査では、人材育成や情報提供に関してより積極的な支援を要望する声が多くあ

ります。

そのため、環境省として、優良事例の共有や、研修会の充実を図っていくこととしていま

すが、自治体内部においても、専門的なスキルを有する人材を長期的視点で育成するため、

具体的な人材育成支援について検討していく必要があります。

② 地域づくり推進の担い手

計画の策定と実施に際しては、住民、協議会、事業者やNPO 等の地域の多様な関係者との

連携が望まれ、実行計画策定マニュアル等のガイドラインでも、地域内協力体制の構築が奨

励されていますが、現状はそれが十分に達成されていない状況です。

まちづくりの持続性という観点からも、地方自治体の担当者は短期間に交代するケースも

多い事情もふまえると、一般住民のボトムアップ的な取組みを促進するようなNPOやコーデ

ィネーター等の存在も欠かせません。地域づくりの担い手となる組織や人材の育成、あるい

は彼らの活躍する「場づくり」への支援が重要となります。

また、土地利用・交通分野の取組については、住民の持つ情報や意識のあり方によって、

その効果が相当左右されるものも多くあります。例えば、公共交通網を整備したとしても、

まずはその存在や利便性について地域住民に認識してもらう必要があります。さらに、交通

手段の選択に際して、自動車と公共交通のどちらを利用するかは、運賃や所要時間などの情

報に加えて、環境問題等に関する知識や考え方も影響することになります。そのため、施策

の効果を高めるために、一般住民への情報提供及び啓発が果たす役割は大きいと言えます。

近年、そのような態度・行動変容を促す取組みとしてモビリティマネジメントが注目されて

おり、実施事例が増えています。

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また、住民への働きかけは、社会的な合意形成を確立する観点からも重要です。とりわけ

大規模な公共投資を伴う施策や不公平感を与えかねない施策の導入にあたっては、合意形成

の有無が施策の成否に大きく影響する場合もあり、また、事業実施のための財源問題とも密

接に関連します。そのため、前述した科学的な計画策定手法の採用や、低炭素化のメリット・

デメリットの議論を、多様な主体の参加の下、透明性をもって行うことが重要となります。

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表 4.3-1 対策・施策の整理(地域環境の整備及び改善、土地利用・交通分野) 対策区分 対策細目 対策概要

対策進捗管理指標の例

(毎年利用できるもの)

大都市圏

都市部

大都市圏

郊外 地方都市

地方郊外・

郡部 施策例

、自

、公

の利

モビリティ・マネジメント等の

自動車交通需要の調整

通勤や買い物などにおける過度な自

動車利用から、適切に公共交通や自

転車等を利用する方向へ変化させるた

めの普及啓発等措置を講じます。

自家用車通勤者数

自動車通勤に関する計画書

制度、域内の事業者・大規模

集客施設等に対する普及啓

発など

公共交通の運賃の低減 利用者の増加を図るため、鉄道・バス

の運賃を引き下げます。 公共交通利用者数

行政による運行補助、エコポ

イントの活用など

公共交通の運行頻度の向上 利用者の増加を図るため、鉄道・バス

の運行頻度を向上させます。 公共交通利用者数 行政による運行補助など

バス路線網の再編 利用者の利便の増進を図るため、バス

の路線網を見直します。 バス利用者数

バス事業者間の連携の推進

パーク&ライドの導入 鉄道駅等に駐車場を整備し、公共交通

への乗り換えを促進します。 公共交通利用者数

行政による駐車場用地の提

供など

コミュニティ・サイクルの整備

都市内の自転車での移動を便利にす

るため、乗り捨て型のレンタサイクルを

導入します。

自転車利用者数 行政による設備補助など

自転車走行空間の整備

都市内の自転車での移動を便利にす

るため、自転車専用道の整備等を行い

ます。

自転車利用者数

公共事業による自転車専用

道の整備、道路空間の再配

分による自転車レーンの設

置など

鉄道新駅の設置 利用者の増加を図るため、鉄道の新

駅を設置します。 鉄道利用者数

行政による設置費用の負担

など

鉄道新線、地下鉄、新交通

システムの整備

公共交通機関の利用者の増加を図る

ため、鉄道等の新線を整備します。 鉄道利用者数

上下分離方式による整備、

補助金など

BRTの整備 公共交通の利用者の増加を図るた

め、BRTを整備します。 BRT利用者数

上下分離方式による整備、

補助金など

LRTの整備 公共交通利用者の増加を図るため、

LRTを整備します。 LRT利用者数

上下分離方式による整備、

補助金など

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対策区分 対策細目 対策概要 対策進捗管理指標の例

(毎年利用できるもの)

大都市圏

都市部

大都市圏

郊外 地方都市

地方郊外・

郡部 施策例

自動車の使い方の見直し

短期

中長期

カーシェアリングの導入

自動車の保有から利用への転換を促

し、自動車での移動機会の減少を図り

ます。

公共交通利用者数 行政による導入補助など

乗り合いタクシーの導入

主に公共交通機関の運営が難しい地

域において、自家用車の利用を抑制す

るため、乗り合い型のタクシーを導入し

ます。

乗り合いタクシー利用者

数 行政による導入補助など

都心部駐車容量の抑制

都心部の駐車場について、自動車で

の来街者を減らすため、駐車場台数や

駐車料金を調整します。

公共交通利用者数 付置義務駐車場の緩和、駐

車場の有料化など

都心部乗り入れ規制 P&Rなどと組み合わせ、都心部への

自動車の乗り入れを制限します。 公共交通利用者数 条例の制定など

トランジットモールの整備

中心市街地などで、徒歩、自転車、公

共交通が優先する魅力的な空間を創

出し、郊外から中心市街地へ人を呼び

込みます。

公共交通利用者数 公共事業による基盤整備な

土地利用の見直し

郊外開発の抑制

市街化調整区域内等での新規開発等

を抑制し都市機能の拡散を防止しま

す。

中心市街地や公共交通

に便利な地域の居住者

数、就業者数

都市計画との連携

公共施設・集客施設の立地

の適正化

公共施設や集客施設について、徒歩、

自転車、公共交通機関が便利な地区

への新規立地や郊外から移転を誘導

する等の措置を講じます。

徒歩、自転車、公共交通

機関でのアクセスが容

易な地区への新規立地

件数

都市計画との連携、条例の

制定など

中心市街地・公共交通軸上

への居住・就業推進

徒歩、自転車、公共交通機関での移動

を促進するため、元々都市基盤が整備

されている中心市街地や鉄軌道駅周

辺等における居住、就業を推進しま

す。

中心市街地や公共交通

に便利な地域の居住者

数、就業者数

条例による地域指定、都市

計画との連携など

注)短期、中期、長期の記述は、対策・施策の優先順位を示しているのではないない。

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コラム~ 公共交通機関の経済効果 ~

我が国では、欧米諸国と違い、公共交通機関には原則として独立採算制が求められていま

す。公的部門にとって、公共交通機関の赤字補填等は「負担」とされ、他方、我が国は、鉄道へ

の公的資金の投入額は諸外国に比べて低いレベルにとどまっているとされています。

しかし、公共交通機関の存在は、地域の生活の基盤になるとともに地域経済にとっても、重要

な意義を持っています。下のグラフは、高知県をモデルに、路面電車や第 3 セクターの鉄道の活

性化が及ぼす経済効果を試算したものです(2000 年高知県産業連関表)。

(「地球温暖化対策と地域経済循環に関する検討会」試算より環境省作成)

同額の投資をした場合、一般消費と比べて、雇用者所得などの県内にとどまる付加価値が大

きいとの結果になっています。また、地球温暖化対策として公共交通活性化を図り、自動車の利

用からの転換を図ったと仮定すると、エネルギー効率のよい公共交通機関を利用することによっ

て、域外へのガソリン代の所得流出(ガソリンスタンド等の取り分は除く。)の削減や CO2 削減価

値の創出で、さらに域内にとどまる所得が増えるとの試算となります。07 年から 08 年の原油価

格高騰の際、自動車依存度の高い地域はガソリン代が嵩み、地域全体の消費活動の減退につ

ながっているおそれがあるとされました(日本銀行資料)。

こうしてみると、特に都市内交通を担う公共交通機関は、いわば「地場産業」です。地球温暖

化対策と連携し、運賃補助や運行頻度の向上、車両等の設備更新等を図り、自家用車の利用

から公共交通機関の利用を促進するため、地方公共団体の支援が望まれるといえます。

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4.3.3 「物流分野」に係る対策・施策の検討

(1) 「物流分野」に取り組むに当たっての背景

1) 土地利用・交通分野との関係

4.3.2 で取り上げた「土地利用・交通分野」に関する対策・施策は、旅客運送だけでなく、

貨物運送も対象とするものです。ただし、今のところ「土地利用・交通分野」においては主

に旅客運送(ただし、前述のとおり、実際には貨物においても空車(旅客利用)が大きな割

合を占めています。)を主な検討課題としています。 そのため、現時点では、本パートにおいて、特に貨物運送を切り出して記載をしています

が、今後、「土地利用・交通分野」と統合することも考えられます。 また、物流については、中長距離の都市間物流と、短距離の都市内物流(域内物流)に分

けられますが、本パートでは、都市内物流(域内物流)をターゲットとします。

2) 貨物輸送の現状

貨物輸送量(トンキロ)は、1990 年以降微増傾向にあります。一般に、経済が成長して

生産や消費が拡大することで、物流量は増加するため、GDP と貨物輸送量は同じ傾向を示

しますが、2000 年以降、乖離が生じています。これは、近年、産業が重厚長大から軽薄短

小へと移行し、また、製品が高付加価値してきたことや、情報技術の発展や消費構造が「モ

ノ」から「サービス」へとシフトし、サービス経済化が進展していることに起因していると

考えられます。

図 4.3-31 貨物輸送量と GDP の推移

出典)国土交通省「自動車輸送統計年報」 貨物輸送量の中でも自動車貨物輸送量は、特に増加傾向にあり、自動車貨物分担率は、約

50%から約 60%へと顕著に増加しています。一方、内航海運は減少傾向にあり、特に 2000年以降は、内航海運の分担率は約 45%から約 35%へと顕著に減少しています。また、鉄道

輸送量は減少傾向にあり、航空輸送量は増加傾向にあります。こうした自動車輸送量、分担

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率の増加の要因としては、その利便性の高さや、自動車貨物事業者への規制緩和等により燃

料価格の転嫁が起こりにくくなり、貨物自動車の優位性が高まったこと、自動車貨物の利便

性の高さの背景には、自動車中心のインフラ整備を進めてきたことも大きく影響しているも

のと考えられます。

図 4.3-32 貨物輸送量の推移(トンキロベース)

出典)国土交通省「自動車輸送統計年報」、内閣府「国民経済計算」

図 4.3-33 貨物輸送分担率(トンキロベース)

出典)国土交通省「自動車輸送統計年報」 自動車貨物輸送における実車率は1990年代後半から増加傾向にあるものの、積載効率(ロ

ードファクター、輸送トンキロ/能力トンキロ)および流動ロット数は減少傾向にあります。

これは、多頻度少量・短期納品等、取引条件の厳しさが要因の 1 つとなっていると考えら

れます。また、近距離帯における実車率の低さや、輸送トン数における短距離帯のシェアの

減少傾向も、宅配便の発達や多頻度少量・短期納品等の影響が大きいと考えられます。逆に、

長距離帯の輸送トン数のシェアの増加傾向は、物流拠点の集約化や市場圏の拡大、高速道路

網の整備、物流直送化等が要因としてあげられます。

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

(%)

自動車

鉄道

内航海運

航空

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図 4.3-34 営業用トラックのロードファクター、実車率の推移

出典)JILS, GGL JOURNAL III Vol.3

図 4.3-35 積載効率と流動ロット数の推移(全国貨物純流動調査(物流センサス)第 8 回

報告書より作成(流動ロット件数) 出典)自動車輸送統計年報より作成(積載効率)

図 4.3-36 営業用普通貨物車の輸送距離帯別平均輸送距離

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

流動ロット数(右軸)

自家用貨物自動車

営業用貨物自動車

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減少傾向にある鉄道貨物輸送は、利便性の高い自動車貨物の輸送量が増えることにより、

その分担率を下げています。鉄道貨物輸送は、2001 年策定の総合物流施策大綱では 2010年までにモーダルシフト化率 50%以上という目標が設定されるなど、自動車貨物からのモ

ーダルシフト化による輸送量の増加が以前から謳われていたものの、モーダルシフト化率は

増加していない状況です。 物流の低炭素化につながる取組の実施は、多くの企業で、自社内における物流コスト削減

対策から始まりました。物流コストを削減するために、輸送を効率化すること等が物流の低

炭素化につながりました。また、主に物流事業者がさらなる輸送効率向上等のためにコンテ

ナサイズの規格化やパッケージングの改良等、物流技術の改善を図ることで、物流の低炭素

化に資する取組が推進されてきました。このように物流の低炭素化の取組は、従来、物流事

業者が自ら努力し、工夫してきた結果進んできたといえます。しかし、荷主側からの取組は

まだ少なく、調達物流に関する CO2 排出量を把握している企業も非常に少ない状況です。

今後、トータルでの物流分野の低炭素化への取組を推進することにより、物流分野からの

CO2 排出量や自動車走行量はまだ削減の余地があると考えられます。そして顧客への納品

に際した物流にもその取組を広げていくことで、更なる低炭素化が可能になると考えられま

す。

図 4.3-37 モーダルシフト化率

出典)「平成 16 年度モーダルシフト化率の確報値について」(国土交通省)

3) 物流分野で期待される取組と低炭素物流の実現の必要性

物流の最終地点は都市や街、各地域にある商業施設や業務施設、消費者であり、特に商業

や業務など各種機能が集積している中心市街地では、貨物自動車の路上駐車等による渋滞や

安全性の低下、排気ガスによる環境悪化等、物流が魅力ある街づくりにおいて障壁となって

います。また、自動車の距離帯別の輸送量をみると、50km 以下の都市内物流・端末部流に

該当する近距離輸送の割合はトンキロで約 20%、台キロでは約 45%を占めています。また

小型貨物車では、50km 以下の近距離輸送の割合はトンキロ、台キロともに約 60%と多く

を占めています。50km 以下の近距離輸送における実車率も、営業用普通車の約 75%から

34.5

36.5

39.4

39.4

39.1

39.9

39.8

43.4

41.8

42.9

40.4

39.639.1

32.1 30.9

40.4

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

(%)

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224

自家用小型車の約 28%まで幅があるものの、総じて低い値となっており、今後の改善の余

地は大きいといえます。 したがって、都市内物流・端末物流について、荷捌き施設の整備のほか、長期的には市街

地のコンパクト化や、それに伴う物流施設の配置の見直しによって、輸送距離を短縮化し、

低炭素化を進めることが重要となります。 また、低炭素化のための対策によって、地域や街の魅力向上を図り、安全安心な地域・街

づくりを同時に行うことが可能であり、地域づくりという観点からも、都市内物流・端末物

流の推進は非常に重要です。

(2) 「物流分野」において目指すべき地域の将来像の検討

物流は、必要なものを必要な時に必要な場所・人に届ける役割を持っており、社会経済活

動において不可欠な要素ですが、最終的な製品・サービスの利用者にとっては、その重要性

は低いため、限りなく効率化されていることが望ましいといえます。 将来の物流においては、低炭素という視点を踏まえて、物流分野全体をとらえる視点が普

及し、生産から流通、消費・利用、廃棄を通じたものの流れの効率化が達成されています。

流通・物流分野の情報の標準化のもと、ICT を活用しライフサイクル全体を通じた CO2 の

見える化が達成されており、これを活用し、企業等における CO2 排出量の情報開示、CO2排出量に応じたプライシングなどが導入され、企業、消費者、また、荷主、着荷主ともに、

調達時、製品購入時等に低炭素型の選択をする習慣が身についています。これらを通じて、

全体を通じた標準化、効率化が達成され、また、急ぐものは早く、そうでないものはゆっく

り運ぶなどの過度なサービスを要求しないような価値観の転換も起きることが望まれます。 地方公共団体においては、特に都市内物流、端末物流に関して、コンパクトなまちづくり

と連動して、荷捌き施設の整備・共有化、地域全体での共同配送などハード、ソフト量面で

都市内物流の円滑化が図られ、渋滞緩和、中心市街地の活性化等にも繋がっていることが想

定されます。また、人口密度の低い地域では、自動車の低炭素化と同時に、ICT を活用し

た輸送ルートの効率化やオンデマンドタクシーとの連携などが図られることが考えられま

す。 また、これらを含む様々な低炭素物流対策の実現に当たって、情報化、機械化の推進とと

もに、地域の実情に詳しく物流分野全体を見渡し最適化に向けたコーディネイト、コンサル

ティングができる人材、組織等の育成が継続的に行われており、流通・物流分野を俯瞰した

新たな業態として産業や地域の成長に貢献しています。 これらによって、物流の低炭素化と同時に我が国の社会活動全体の効率化が達成されてお

り、高齢化や労働人口不足の課題を克服しています。

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(3) 物流分野の対策・施策の立案に当たっての視点

1) 都市内物流・端末物流における対策・施策の視点

都市内物流・端末物流の対策は、大きく分けると、「貨物交通需要の削減・抑制」と「貨

物の路上駐車の削減・抑制」、「横持ち搬送の削減・抑制」に分けることができます。各々の

対策のための施策としては、共同配送や流入規制、無駄な走行削減といった施策に代表され

る「貨物交通需要に対する施策」、ポケットローディングの整備やタイムシェアリング、荷

受共同化等の施策に代表される「貨物の路上駐車に対する施策」、搬送専用通路の設置や物

流バリアフリー、貨物用エレベーター設置等の施策に代表される「横持ち搬送に対する施策」

があます。この中で自動車走行量の削減に直接影響を与えるのは、「貨物交通需要に対する

施策」ですが、その他の施策も街の魅力と直接係ってくるため、地域づくりという観点から

は欠かすことが出来ないものです。

図 4.3-38 端末物流に対する施策

出典)東京都市圏交通計画協議会 H18.5 端末物流の手引きより作成

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2) 共同集配・共同配送

都市内物流・端末物流での自動車走行量削減に資する施策として代表的なものの 1 つと

して、共同集配があげられます。共同集配には地区型共同集配や縦持ち型共同集配等があり

ます。 地区型共同集配は、横浜本町地区の共同配送の例があります。また、ドイツのカルッセル

市の事例では、都市内部における輸送距離が 60%減少するといった効果も見られる等、そ

の効果も期待されます。さらに、モナコのモンテカルロ地区では、政府による共同集配も実

施されています。 地区内での共同配送においては、企業としてのサービスでの差別化につながらない、取引

情報が漏洩するなどの懸念が荷主側にある、コスト削減が難しい、リードタイムが長くなる

など、「物流サービスレベルの調整」、「納得いく運賃設定」が難しいという課題があります。

共同集配車両専用の荷捌き施設や、建物内貨物走行路など、ハード整備に関して追加的な資

金・費用負担が発生することも課題としてあります。現状では、物流施設の配置が都市内輸

送距離や自動車走行量の削減という観点から十分に検討されていない状況です。 また、道路交通法の改正等を契機として、荷捌き駐車場の確保や2人乗務体制の導入等の

対応が進められているものの、大手物流事業者中心の取組に留まっています。今後、駐車違

反対策についてはより厳格化していくとともに、その受け皿として、ポケットローティング

や共同荷受場・共同荷捌き場の設置、タイムシェアリングの仕組み導入等を推進していくこ

とが重要となります。さらに、地区内の共同配送の導入に当たって、地方公共団体がコーデ

ィネーターの役割を果たせるよう、ガイドライン・手引きなどを作成することが考えられま

す。また、商工団体などがコーディネートするにあたって、財政的支援や削減成果に対する

インセンティブなどを設けることも考えられます。 都心部に流入する貨物車両について、共同配送や最低限の積載率などで規制を設ける、特

に、通過交通となる大型トラックについては環状道路等の迂回路整備をセットで行うことも

重要です。その際には、道路空間の再配分を効果的に行えるよう、IT 等を活用した交通規

制の導入を促進することも必要となります。

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図 4.3-39 横持ち物流の共同化の例

出典)都市内物流トータルプラン(H19.3)

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228

3) 協議会の設置・関係計画との連携

まちづくりの見地から見た都市内物流対策については、地方公共団体、商店街関係者、ビ

ル管理者、物流事業者、荷主企業、地域住民、国の地方支分部局等地域ぐるみの連携した取

り組みを推進する必要があります。これらの関係者は、都市内物流に関して、何らかの負担

を負うとともに利益を得ており、これら関係者が参画する協議会等を設置し、その地域の実

情に応じて共同輸配送や荷捌き施設の整備、集配時間帯の設定等の都市内物流対策の検討を

行っていく必要があります。 また、例えば中心市街地において貨物自動車の流入を抑制し歩行者空間の確保を図るなど、

総合的な観点から都市内物流対策の検討を行う場合には、都市・地域総合交通戦略の一環と

して取組を進めていくことも有効です。また、地域における交通計画、道路計画、土地利用

計画、建築計画などとも整合性を図っていることが重要となります。 (コラム:イギリスにおける物流改善官民パートナーシップ)

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229

表 4.3-2 対策・施策の整理(地域環境の整備及び改善、物流分野)

対策細目 対策概要 対策進捗管理指標の例

(毎年利用できるもの) 検討が考えられる施策例

貨 物 車 交 通

需要の低減

共同配送 地区単位での共同配送や、縦持ち型共同配送を実施し、

配送の合理化を図ります。

面的な流入規制 車両サイズに応じて、市街地への乗り入れを規制したり、

時間帯による規制を行います

貨物車走行路の分離 貨物車専用や優先のレーンやルート、地下のネットワーク

などを整備します。

無駄な走行の削減 サテライトパーキングシステムや、ITS の活用を図ります。

貨 物 車 の 路

上 駐 車 の 削

道路空間外でのスペース確保 新たな貨物車専用駐車スペース・ポケットローディング等を

整備したり、既存の駐車スペースを貨物専用へ転用しま

す。

路上空間上でのスペース確保 車線数・車線幅等の変更によるスペース確保、トラックベイ

の設置、タイムシェアリングによってスペースを確保しま

す。

路上駐車台数や時間の抑制 荷受けの共同化によって台数や時間の抑制を図ります。

横 持 ち 搬 送

の削減

横持ち搬送動線の確保 横持ち搬送専用通路や貨物用エレベーターを設置したり、

横持ち搬送の時間帯制限などを図ります。

横持ち搬送の共同化

横持ち搬送、館内搬送の共同化を図ります。

注)短期、中期、長期の記述は、対策・施策の優先項位を示しているのではない。

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230

4.3.4 「街区・地区単位の対策、エネルギーの面的利用」に係る

対策・施策の検討

(1) 「街区・地区単位の対策、エネルギーの面的利用」に取り組むに当たって

の背景・意義

1) 地区・街区単位の対策、エネルギーの面的利用の定義・意義

地区・街区単位の対策、エネルギーの面的利用は、地区・街区といった、地域における空

間的まとまりの単位で温暖化対策が導入されている姿を表現したものです。したがって、そ

の裾野は非常に幅広く、再生可能エネルギー(電力・熱/自立・分散型エネルギー)や未利

用熱エネルギー(河川熱、地下水熱、下水熱等)の地域単位での利活用、エネルギー密度が

高い地域における熱の面的利用(建物間熱融通等)、情報ネットワークの活用による需給の

最適化のためのエネルギーマネジメント(スマートグリッド等)、地域資源循環による燃料

代替(地域におけるバイオマス系廃棄物の利用、廃棄物発電等)など、個別の家庭や事業所

における取組に留まらない、また、需要側、供給側だけの対策に留まらない、複数の主体・

取組を巻き込む、すり合わせの取組を幅広く含むこととなります。 また、土地利用・交通分野の取組は、一義的には自動車利用の低減による運輸部門からの

排出量削減に繋がるものですが、地区・街区単位の対策、エネルギーの面的利用は、土地利

用・交通分野の取組と連携して(例えば、地域の集約化によって、地区・街区の取組やエネ

ルギーの面的利用が容易となります。)、主に業務部門、家庭部門からの排出量削減に繋がる

こととなります。 こうした空間単位での取組によって、個別主体による単体対策のCO2削減効果に加え、

その積み上げに留まらない、以下のような追加的なCO2削減効果が期待できます。 第一に、地域資源の有効利用による効果が挙げられます。これは、工場・清掃工場排熱源

や地中熱源等、地域に賦存する熱源及び自然資源を利用することにより、化石燃料由来のエ

ネルギー消費量を削減するという効果です。 第二に、スケールメリットの効果が挙げられます。これは、地区・街区単位で技術を導入

することにより、技術の導入規模を増大することが可能になり、機器の効率上昇、コスト低

減等の効果を見込むことができるというものです。 第三に、需要供給変動の平準化効果があります。これは、多様なエネルギー源・資源を、

需要パターンに応じて最適な組み合わせで供給することによる、エネルギー・資源消費量の

削減効果(需給バランスの調整効果①)や、複数の負荷を束ねることによる重ね合わせの平

準化効果に加えて、需要の能動化による一層の平準化あるいは必要に応じた需要の創出によ

り、エネルギーを最大限有効利用可能とする効果(需給バランスの調整効果②)、エネルギ

ー・熱の供給施設を相互に接続し共同で管理することによる、高効率機器の部分導入を促進

する効果(設備のマネジメント性を向上する効果)となります。 第四に、多様な主体の参加を促す効果が挙げられます。これは地区・街区単位で対策導入

地区・街区の防災効果を追記予定。

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231

を促進する制度によって地域の住民や企業、NPO等の多様な主体の参加を促す効果であり、

第一~第三の効果とは異なり、技術的なメリットというよりは、制度上のメリットと呼ぶべ

きものです。 以上のような地区・街区の追加的削減効果が最大化された姿が、目指すべき低炭素地区・

街区に共通するものと考えられます。

表 4.3-3 地区・街区の追加的 CO2削減効果の概要 分類 効果の説明

技術 に関

する効果

(1)地域の賦存エネルギー

の利用効果 地域に賦存する熱源および自然資源を利用することによる、エネル

ギー消費量の削減効果 (2)地区・街区単位の技術

導入によるスケールメリッ

技術の導入規模を増大することによる、機器の効率上昇、コスト低

減等の効果

(3)エネルギー源、資源、

主体間の連携を可能にする

効果

(需給バランスの調整効果) ・多様なエネルギー源・資源を、需要パターンに応じて最適な組み

合わせで供給することによる、エネルギー・資源消費量の削減効果 ・複数の負荷を束ねることによる重ね合せの平準化効果に加えて、

需要の能動化による一層の平準化あるいは必要に応じた需要の創

出により、エネルギーを最大限有効利用可能とする効果 (設備のマネジメント性を向上する効果) ・エネルギー・熱の供給施設を相互に接続し共同で管理することに

よる、高効率機器の部分導入を促進する効果

制度 に関

する効果

(4)多様な主体の参加を促

す効果 地区・街区単位で対策導入を促進する制度によって地域の住民や企

業、NPO 等の多様な主体の参加を促す効果

2) 地域主導のエネルギーマネジメントの重要性

日本では、温室効果ガス排出量の約 9 割をエネルギー起源 CO2 が占めていることから、

温暖化対策はエネルギー政策としての側面を強く有していますが、これまで、エネルギー政

策は、主として国家レベルにおけるエネルギー安定供給の観点から検討されており、地方公

共団体の関与は希薄であったといえます。北九州市など、地区・街区のエネルギー・マネジ

メントに積極的に取組む事例も見られましたが、こうした取組は、合意形成の困難さ、制度

上の制約、エネルギー専門家の不足等の理由から、広く普及しているとは言い難い状況にあ

りました。しかし、東日本大震災を経て、エネルギー需給の在り方が大きく変わる中、エネ

ルギー政策に対する地域の関与への期待は増大しています。地区・街区単位での対策や、エ

ネルギーの面的利用は、エネルギーマネジメントにおける地域のイニシアティブを増大させ、

地域住民の安心・安全を確保することとなります。 電力については、従来の系統による電力供給を前提としつつ、再生可能エネルギーやコー

ジェネレーションシステムなどを用いた、地域における分散型電源の導入を進めていくこと

や、スマート化を併せて行うことでエネルギー利用をより効率化させることが考えられます。

全量固定価格買取制度によって、再生可能エネルギーについては、当面売電が主流となると

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232

みられますが、同制度は再生可能エネルギー普及を促進するための方策の一つであり、制度

の性質上、再生可能エネルギーの価格が十分安くなった時点で他の制度に移行することも考

えられます。将来的には、まずは自家で消費し、余剰分は売るといった系統との連続的な接

続、スマート化や地域内での負荷平準化を最大限達成し、局所的には電圧上昇や潮流変動を

抑えると共に、大局的には周波数変動や余剰電力の発生を抑える等、系統に対するインパク

トを最小化することにより全体最適と地域内供給の両立等も視野に入れていくことが重要

と考えられます。 熱については、より地域の主体的な取組が重要になると考えられます。熱エネルギーは発

散しやすく搬送に制約が大きいことから、身近な熱源と熱需要のマッチングは、地域の実情

に通じた地方公共団体のイニシアティブが活かされる分野です。したがって、地方公共団体

が供給側と需要側のコーディネーター役を果たし、積極的に各種工場廃熱や河川熱・海水

熱・地下水熱・地中熱、下水熱(処理水、未処理水)等の利用に関与することが期待されま

す。 こうした新しい地域のエネルギー需給の姿を実現するため、中長期的には地域の関係者、

具体的には地元の事業者、地元住民、及び地方公共団体が地域のエネルギー需給のあり方を

検討して計画を策定する企画立案力が大きく向上していることが望まれます。地方公共団体

がエネルギーシステムの地域デザインに主体的に関与し、実現に向けたプロセスを先導して

いくことは極めて重要であり、。れは、必ずしも地方公共団体が自ら事業を実施することを

意味する訳ではありませんが、地方公共団体が地域のエネルギーシステムを計画し、需給マ

ップ等を活用したエネルギー需給に関する地域としてのあるべき姿に関して合意形成が促

進され、地域の未利用資源の積極活用が進んでいくことが期待されます。

3) 目指すべき地域の将来像の検討

市街地再開発などで新たに生まれる街区・地区は、その後何十年と使用され、その地域の

温室効果ガスの排出量の動向に大きな影響を与えます。そのため、市街地再開発においては、

地域全体の削減目標を踏まえ、街区・地区全体の野心的かつ実行可能な排出量目標を設定し、

今後数十年を見越した対策を講じておく必要があります。 また、地区・街区における地域の将来像を検討するに当たっては、地区・街区の追加的

CO2 削減効果の最大化を目指しつつ、それぞれの地区・街区の特性に応じた技術・施策の

ベストミックスを目指す観点で検討することが重要です。この際、特に考慮すべき地区・街

区の特性とは、エネルギー需給特性と考えられます。一般に、需給特性としては、量と分布、

及びその種類(電力あるいは熱)を考慮する必要があります。熱は搬送時に減衰しやすく、

利用されずに捨てられることも多いのですが、民生部門のエネルギー消費の約半分は、熱需

要(空調あるいは給湯)であるため、地域に賦存する未利用熱を有効利用し、その分化石燃

料を削減することができれば、大幅な CO2 削減効果を生み出す可能性もあります。地区・

街区のエネルギー需給の在り方は多様であるため、望ましいエネルギーシステムの設計は地

区・街区ごとに考えていく必要がありますが、このような需給特性に応じて適切な対策を組

み合わせることで、効率的なエネルギー供給・利用が達成されると考えられます。 具体的な対策としては、主には下記に掲げたようなメニュー、つまり供給側対策(A~D)、

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233

需要側対策(Ⅰ~Ⅲ及びその他)、並びに需給間のマッチング((ア)~(ウ))が挙げられ

ます。これらのメニューから、地域の需要家を束ねた全体としてのエネルギー需要特性と地

域に賦存するエネルギー供給可能性を考慮しつつ、更に需給間のマッチングも加味して、各

街区に応じて対策メニューを組み合わせて(パッケージ化して)エネルギーシステムを構築

していくことが、正に目指すべき地域毎の将来像の構築に繋がるものと考えられます。 なお、詳細は、後述の「地域の自然的社会的条件に応じた対策・施策」を参照ください。

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表 4.3-4 地区・街区の温暖化対策メニュー 分類(1) 供給側対策

種 類 対 策 地区・街区の追加効果

A 高温の未利用熱利用 廃棄物焼却・下水汚泥焼却熱利用 地区・街区における焼却熱等の効率的利用

工場排熱利用 地域の未利用エネルギーの活用

太陽熱利用 地区・街区の未利用エネルギーの活用、近隣への啓発効果

B 低温の未利用熱利用 未利用水(河川水、海水、地下水、下水等)系熱源利用

需要集約による平準化、スケールメリット、熱源水の地域利用

地中熱熱源利用 (地域冷暖房導入時)需要集約による平準化、スケールメリット

雪氷冷熱利用 除雪システム等の有効活用

C 地域資源による燃料代替 バイオマス発電(混焼・ガス化等) 適正規模での個別、複合型の効率的なバイオマス資源収集利用

化石燃料代替資源の供給 木材、廃プラなどの炭素資源の RPF などでの供給利用

水素利用 工場等からの水素を受けて地域エネルギー供給等の利用

D 小規模・分散型発電 太陽光発電 空地活用、屋上等の活用とともに近隣への啓発効果を期待

風力発電(小型風力) 風況に応じた整備と近隣への啓発効果

小水力発電 下水、小規模水路等の活用

高効率コジェネレーション

(燃料電池等)

地域での高効率かつ系統の安定に資するエネルギー

供給

※「D 小規模・分散型発電」は非常用電源利用という災害時のコベネフィットを有する。 ※高温・低温未利用熱の定義:未利用熱を民生部門の給湯・空調用途で活用することを想定し、温熱の

供給に加え、冷熱の供給も可能な 80℃以上の排熱を高温未利用熱、それ以下の温度の排熱を低温未利

用熱と定義する。80℃以上の排熱により冷熱の製造が可能な機器として温水吸収式冷凍機が挙げられる。 分類(2) 需要側対策

種 類 対 策 地区・街区の追加効果

I 建物での需要量削減 高効率機器、断熱性能向上、パッシブ建築などの組合せ

高効率街区への計画的な建物更新、新開発における計画的な技術導入

II 地区・街区レベルの用途複合化による平準化

地区・街区レベルの用途複合化による需要の平準化

用途複合による平準化

III 需要の空間的誘導・集約

(コンパクト化)

需要の空間的誘導・集約(コンパク

ト化)

需要集約によるスケールメリット

その他 ライフスタイル・ワークスタイルの改

コミュニティ全体への啓発効果

分類(3) 需給間のマッチング

種 類 対 策 地区・街区の追加効果

(ア) 地区・街区単位でのスマート化

需要・供給情報の見える化 エネルギー情報の共有による主体間連携の促進

節電連携、蓄電・蓄熱等のピークシフト

需給の時間的なシフト、蓄電設備等の地区でのピークカット

CEMS、デマンドレスポンス(ダイナミックプライシング、遠隔制御 等)

統合管理された供給情報に基づく地区・街区単位でのエネルギー需要の制御

(イ) 地区・街区での面的熱エネルギー供給

建物間エネルギー連携、熱融通 多機能施設間の連携によるエネルギー需要の平準化

とその効率的運用を可能にする需要施設誘導

地区・街区でのエネルギー連携 需要の多様化と規模の確保による効率的なエネルギーマネジメント

(ウ) エネルギー供給の地域

ネットワーク化

地域の熱エネルギー系統の整備、未利用熱利用のネットワーク整備

地域のエネルギー系統、熱導管ネットワークの整備とその施設のスケールメリットを確保する効率的運用のための需要施設立地誘導

その際、再生可能エネルギーの導入ポテンシャルや地域の資本・環境資源の状況を把握し

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235

ておくことが重要です。また、地域的なエネルギーマネジメントにより、建物側と地域に存

在するエネルギー設備を連携させて、再生可能エネルギー等の需給マッチングに活用するな

ど、一体的に管理・運用する発想が重要です。

図 4.3-40 「地域の環境資源を活用する低炭素化都市形成の技術政策メニュー」のイメー

ジ 出典)「新地方公共団体実行計画策定マニュアル検討会」 藤田委員資料より抜粋

(2) 「街区・地区単位の対策、エネルギーの面的利用」に係る対策・施策の立

案に当たっての視点

1) 中長期的な低炭素都市計画、エネルギーマネジメント計画の検討

エネルギーの面的利用を進めるにあたっては、短中期的には、単体の再開発等をベースと

した取組を進めつつ、中長期的には、エリア全体のエネルギーマネジメントを視野に入れた

将来像を描き、個々の再開発を面的に展開していくことが重要となります。 将来的に街区・地区単位の対策、エネルギーの面的利用を講じることが求められる地域に

ついて、都市計画マスタープランでの記述や地区計画の設定、地域熱供給施設の都市施設決

定などの都市計画手法を活用し、低炭素社会の実現に向けた取組を都市計画全体の調和を図

りながら実施されるよう検討することが考えられます。 また、個々の事業者事業者等に対して、目指すべき地域の将来像の実現に向けたまちづく

りガイドライン等の作成により、地域の将来ビジョンの共有と、建て替え等を行う際の基本

的な考え方を示すことも有効です。 (以下、コラムへ)

事例として、横浜市では、20 年後の横浜駅周辺の将来像を見据え、その実現に向けたさ

まざまな取組みを取りまとめた「エキサイトよこはま 22」を策定しています。

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236

本計画は、「まちづくりビジョン」「基盤整備の基本方針」「まちづくりガイドライン」の

3 編から構成されています。「まちづくりビジョン」は、「まちの将来像」と、その実現に向

けた「まちづくり戦略」や「まちづくりの進め方」の基本的な考え方を示すものとして、長

期に渡り、民間と行政が共有するものです。また、「基盤整備の基本方針」は、まちづくり

ビジョンにおける「まちの将来像」の実現に向けて重要となる基盤整備について、具体の整

備を進めていくための基本的な方針を示しています。加えて、「まちづくりガイドライン」

は、民間と行政が連携・協働して地区の魅力向上を図るため、骨格となる空間や主要なネッ

トワーク形成に向けた、まちづくりの取組みの基本方針・基準、その実現に向けたルール整

備等に関する基本的な考え方を示しています。同計画における「基盤整備の基本方針」や「ま

ちづくりガイドライン」は、まちづくりの進捗やその時代の考え方に応じて、進化・発展し

ていくものとされています。

図 4.3-41 「エキサイトよこはま 22」における基盤整備の基本方針と主要な取組み

出典)エキサイトよこはま 22 概要版

2) 土地利用・交通分野との一体的検討

街区・地区単位の対策や建物間の熱融通などのエネルギーの面的利用は、街区の再開

発や建物の建て替えなどのタイミングで、効果的に行うことが重要です。そのため、地

域内の再開発案件等をあらかじめ把握しておくことが必要です。 特に、土地利用・交通分野での検討において、都市の集約化拠点とされた地域や公共

交通沿線において、どのような対策が実施可能かをあらかじめ検討することが推奨され

ます。その際、工場や廃棄物処理施設などの周辺に熱融通ができる可能性がある施設が、

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地域のどこにあるか、地図上で把握しておくことが考えられます17。 また、土地利用・交通分野での検討において集約拠点とされた場所や建築物の用途等

から面的なエネルギー利用が望ましい街区・地区などについては、地域住民等との合意

形成等を図りつつ、計画的に対策を講じていくために、あらかじめ、地球温暖化対策推

進条例や新実行計画(区域施策)等において、将来的に街区・地区単位の対策、エネル

ギーの面的利用を講じることが求められる地域として、指定を検討することが考えられ

ます。さらに、実際の開発にあたっては、開発事業者と建物間あるいは地域間の調整機

能を果たすことが考えられます。

3) 地域の自然的社会的条件に応じた対策・施策

3.1 で求めた削減ポテンシャル等を踏まえ、地域の自然的社会的条件に応じた街区・地区

単位の対策、エネルギーの面的利用の実施を検討することが考えられます。既に、施設の配

置や、未利用熱源の利用の可否、住宅や事業所の密度等を踏まえ、地域ごとに、下記のよう

な取組が考えられます。

① 都市の未利用熱源が利用可能な地域

工場・清掃工場や下水施設の近傍等、都市の未利用熱源が利用可能な地域においては、こ

れらの廃熱を、熱供給施設を通じて、又は直接需要家に供給することで、通常の熱源機器で

使用される化石燃料消費量を削減する、あるいは機器の運転効率向上によって CO2 削減を

図るという対策が考えられます。こうした都市の未利用熱源の活用効率を高めるためには、

施設周辺に安定的な熱需要を立地誘導するなどの施策も有効となります。例えば、新規の都

市開発や、再開発などの際に賦存する熱エネルギーの利用を効率的に利用できる地区・街区

を誘導することで、エネルギー効率の高い需要供給マネジメント地区・街区を形成すること

ができます。立地誘導で需要を集約することにより、将来的に高効率な供給システムが導入

されやすい地区・街区を実現していくことも可能となります。

17算定報告公表制度対象施設が Google アース上で示されているサイトがあります。 17地域熱供給・地域冷暖房システムは、導入条件等によって効率にばらつきがあり、その導入に当たっては、

個別技術の削減効果との比較検討が必要です。

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238

図 4.3-42 地域の未利用熱を積極的に活用する地区・街区のイメージ

② 大規模集約型需要地における地域熱供給事業

オフィスビルの密集地域など、エネルギー需要が集積する地区・街区では、高効率な分散

型エネルギー供給設備(例えば、電気と熱の需要規模に応じたコージェネ等)を導入するこ

とで、効率的なエネルギー供給を実現することができます。高効率の供給機器の導入による

省エネ効果に加え、燃料備蓄の対応を行うことにより、災害時の非常時に自立的なエネルギ

ー源を確保できるというマルチベネフィットを有します。

図 4.3-43 大規模な需要集積地区・街区での効率的エネルギー需給マネジメントのイメー

③ 比較的低密度な地区・街区における分散型の小規模エネルギー利用

比較的低密度な住宅地区・街区などにおいても、分散型の小規模な再生可能エネルギーや

未利用エネルギーを利用することにより、系統からの電力やガスの供給を削減し、CO2 を

削減するという対策が考えられます。太陽光や海水、河川水、地下水、バイオマスなど、地

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239

区・街区に賦存するエネルギーを活用することにより、カーボンニュートラルなエネルギー

源の活用や機器効率の向上を通じ、CO2 削減を図ることで、自然と一体となったまちづく

りによる地区・街区の魅力の向上や、排熱の削減によるヒートアイランド現象の緩和といっ

たマルチベネフィットが考えられます。

図 4.3-44 住宅地等における再生可能エネルギー等の積極活用のイメージ

また、上記以外にも、例えば、河川沿いや地下水脈が存在する街区・地区については、河

川熱や地中熱等の未利用エネルギーを活用した、高効率な地域熱供給システムの導入を促進

する施策を講じることが考えられます。地域に賦存する自然資本を有効に活用し、温室効果

ガスの削減につなげることが期待されます。 さらに、ごみ焼却施設が近接する地域における排熱有効利用、業務・商業地区における建

物間熱融通、産業集積地区における工場間熱融通など、地域に賦存する熱源を高効率に利用

する面的なネットワークの導入を支援する施策が考えられます。

新築住宅において、太陽光パネルや地中熱活用設備を標準配備。

新築住宅において、太陽光パネルや地中熱活用設備を標準配備。

HEMS等を集中導入し、見える化によ

る需要の能動化を促す(自然エネルギーの供給量が多くなる時間帯に需要を誘導する)とともに、エネルギー使用をITにより最適化。

HEMS等を集中導入し、見える化によ

る需要の能動化を促す(自然エネルギーの供給量が多くなる時間帯に需要を誘導する)とともに、エネルギー使用をITにより最適化。

住宅地等における再生可能エネルギー等の積極活用

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240

図 4.3-45 地域の自然的社会的条件に応じた対策イメージ図

出典)まちづくりと一体となった熱エネルギーの有効利用に関する研究会 第 1 回資料(平成 23 年、経済

産業省)

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241

4) 地区・街区の低炭素効果の推計

① 地区・街区の低炭素効果の推計の必要性

計画策定の段階では、総論賛成(例えば、自治体レベルでの削減目標)・各論反対(例え

ば、特定の地域や地区・街区での具体的な対策の導入)の状況が生じ、具体策の議論に踏み

込めないという状況が生じることがあります。こうした状況を乗り越え合意形成を進めるた

めに、客観的な指標や情報を活用した「客観的な科学的根拠」を提供する推計手法を構築す

るものであることが重要です。具体的には、地域や地区・街区の特性に応じた面的に取り得

る対策による効果がどの程度あるのか、異なる対策による効果との差異はどの程度あるのか、

などの情報を定量的かつ視覚的に示すことにより、対策実施場所や適用技術、導入量等の必

要性、妥当性を議論できる材料を提供することが望まれます。そのため、推計手法によって

客観的・定量的なデータを活用して具体的な削減効果や合意形成に貢献する指標を提供する

ことを考える必要があります。

② 推計手法のイメージ

現在環境省において、地区・街区の低炭素効果の推計手法の検討を進めています。今後、

平成 24 年度中に推計手法を確立し、平成 25 年度中には、より計算を簡易化したツールを

開発する予定となっています。(平成 24 年度の検討結果は、本マニュアルの参考資料とし

て添付しています。) 現在開発中の推計手法は、以下のようなイメージです。

i. 太陽光や自然エネルギー、高温・低温の地域の賦存熱の立地分布から、地域での

エネルギー供給能力とその分布情報を定量化します。 ii. 地区・街区での施設の用途や規模から、月別、時間帯別の熱電需要量とそのパタ

ーンを推計します。 iii. 供給データと需要データを重ね合わせ、地区・街区の需給の分布特性に応じた技

術・施策メニューを選定します。これにより、技術・施策メニューを具体的に検

討することができ、また、技術導入量や GHG 排出削減量等についても、定量的

に評価および議論を行うことができ、より詳細かつ具体的に話し合うことが可能

となります。

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242

図 4.3-46 需要と供給のバランスを考慮した推計の考え方

対策・施策のメニューとしては、具体的には、自然エネルギーの活用、地域熱源の活用、

地域エネルギーの供給といった供給側の技術・施策類型と、スマートコミュニティ、用途複

合化、コンパクト化といった需要側の技術・施策類型に大別されます。このような類型化さ

れた手法を基に考え、応用することで、様々な技術や施策メニューへの対応が可能となりま

す。 推計手法を活用することで、自治体の方針や、現状の土地利用分布および施設特性に応じ

た、それぞれの地域でのエネルギー供給技術の導入効果を算定することができます。さらに、

これらの供給技術同士の組み合わせに加え、地区・街区での自主的なエネルギーマネジメン

トや、将来的な施設用途の複合化や土地利用のコンパクト化など、低炭素効果を向上させる

ことのできる社会システムとの組み合わせによって、当該地域で効果の高い技術・施策パッ

ケージの導入効果を算定することも可能となります。これにより、地域の特性に応じた低炭

素型の地区・街区の将来像を描くことができるとともに、温暖化対策としての地域更新(再

開発計画等を通じた更新)やコンパクト化といった土地利用誘導の方針を策定する際の検討

のための基礎を得ることができます。 なお、地域や設備等の導入条件によってその値が大きく変わることが想定されるため、コ

ストなどの情報を明示的に算定するプロセスは用意しないながらも、これまでの事例情報、

専門家情報からの意見聴取等を通じて、現状でのコスト条件を考慮して技術・施策メニュー

の推計手法を構築することとしています。

③ 需給マップの作成

「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップの提案」(平成 22 年3月)において、各自

治体が策定する地域の温暖化実行計画の充実並びに低炭素街区計画の作成に役立てること

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243

を目的とする「需給マップ」を整備することが提案されています。今後、環境省としては、

各自治体における「需給マップ」の作成を支援し、地域特性に応じた効果的な低炭素化技術

の選択や地方公共団体の実行計画の策定を支援していくこととしています。

(3) 地区・街区分野、エネルギーの面的利用の課題と解決方策の検討

1) 計画策定上の課題と解決の方向性

基本的には、土地利用・交通分野と共通となります(4-●●~4-●●)。ただし、地区・

街区分野、エネルギーの面的利用の対策・施策の実施に当たって、考えられる課題とその解

決の方向性については以下のとおりです。

① 未利用熱の利用

未利用熱を面的に活用するためには、需給両面で課題が存在します。需要面では、周辺の

需要家を束ねてまとまった需要を創出することが必要であり、供給面では、熱導管の整備に

おいて、公益物件としての位置付けを明確化し、その整備を円滑化する等の制度的な対応が

必要と考えられます。 更に、未利用熱の建物間熱融通や、地域・地点熱供給を実現させるためには、まちづくり

の初期の段階から未利用熱の利用等プロジェクトが検討プロセスに組み込まれている必要

がありますが、実際には必ずしもそうはなっていないため、地域冷暖房や熱源水ネットワー

クによって未利用熱を活用する施設計画を策定することが難しくなっているのが現状です。

つまり、既設の建物や施設への導入は、物理的制約により困難であるケースが多く、導入可

能性の検討は、建て替えや設備更新のタイミングに限定されてしまうため、限られた導入機

会を活かしていくための仕組みを構築する必要があります。 具体的には、まず、固定資産税の減免措置等を活用するなど、工場、オフィスビル、商業

施設等を当該地区に誘致し、未利用エネルギーの需要家を増加させることや、コージェネ等

からの熱が余剰すると見込まれる場合は、建物間を熱導管で接続し、余剰熱の積極的利用を

推進するなど、地域内の未利用エネルギーの需要を増大させ、ひいてはエネルギー効率を向

上することが期待されます。また、一定規模以上の熱源機器の更新及び新規導入に際しては、

地域熱供給システムへの接続や建物間熱融通等エネルギーの面的利用の可能性について検

討する機会を確保することが重要となります。 さらに、既存の周辺需要家のエネルギー需要、特に空調あるいは給湯といった比較的低温

の熱需要に対して未利用熱の積極的利用を推進することが期待されます。そのために、未利

用エネルギー活用の効果や導入に要する費用、技術的方法等について基礎的情報を整備し、

これを提供することが重要です。 熱供給事業区域に於いては、供給側からの接続可能な状態を確保する(させる)という仕

組みに留まるのではなく、熱供給を受けることが低炭素化につながる場合は、エネルギー需

要家側に対して熱導管への接続を推奨更には義務を課すことも効果的であると考えられま

す。例えばデンマークでは、熱供給法により、自治体が指定したエリアにおいて、エリア内

全ての需要家に天然ガス導管または地域熱導管への接続を義務化しています。 あるいは、地方公共団体において、未利用熱の有効利用を推進する地域を指定し、地域内

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の需要家に対して、その有効利用の検討を推奨することが考えられます。例えば、都市部に

はりめぐらされた既存の下水幹線を有効活用して、下水熱をヒートポンプの熱源水として各

建物に供給することを推進する地域を指定し、地域内の需要家に対して、熱源水利用の検討

を推奨することなどが考えられます。また、当該地域に事務所ビルとホテルといった熱需要

形態の異なる需要を誘致することで、高効率な熱利用が可能となります。

② 小規模・分散型電源

小規模・分散型電源には、例えば高効率供給機器の導入による省エネ効果に加え、災害時

の自立電源を確保できるというマルチベネフィットを有しますが、そのメリット・機能が周

知されていない点が指摘されます。この点を周知することで、導入意義が高まり、小規模・

分散型電源の活用を念頭に置いた計画策定に繋がると考えられます。 また、低炭素化に効果的な再生可能エネルギーの普及は、エネルギーの分散自立化にも寄

与するため、防災対策としても重要です。災害時の自立電源・熱源としての分散電源の機能

を周知し、太陽光発電、風力発電、及びコージェネレーション等の分散電源の導入を後押し

することが期待されます。低炭素化対策を実施することで、副次的に災害機能の向上にも寄

与することを、分かりやすい形で訴求することが重要となります。

2) 制度的課題と解決の方向性

① 対策横断的な課題と解決のための方向性

制度上の課題としては、地区・街区単位の対策導入を促進する制度的枠組みの不足や、許

認可・法制度面等の手続が多岐に渡ること、また、権利関係等法的ルールが整備されていな

いこと等が、その具体的な課題として指摘されています。 特に、地区・街区単位での対策導入には、単体対策に比べ、より多くの利害関係者が存在

する可能性が多く、そのため、これらの課題がより顕著に現れるケースが多いことが予想さ

れます。 なお、既存規制の緩和・新制度の整備により解決すべき課題の多くは、対策の種類、つま

り導入する設備機器等によって異なります。これら課題解決のため、以下のような施策の方

向性が考えられます。

i. 地区・街区の対策導入を後押しするための排出量目標の設定

現在、国において、排出量取引等の仕組みの導入可能性について検討中ですが、地方公共

団体としても、個別の排出量目標と整合させた、区域全体としての中長期的な温室効果ガス

(あるいはエネルギー起源 CO2)排出目標を定めることが考えられます。これにより、地

域に根ざした事業者、地域住民、及び地方公共団体が一体となって、地区・街区単位の対策

を導入することを後押しします。

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ii. 計画認定と一体の財政的支援の実施

地区・街区単位の対策実施に当たっては、関係主体が複数事業者、あるいは事業者と地域

住民、更には地方公共団体と多岐に渡るため、従来の単体対策と比較してプロジェクト実現

に至る障壁が大きいと考えられることから、たとえばプロジェクトの実施計画を認定した場

合に、補助金及び税制優遇にて財政的に支援する仕組みを導入することも重要です。

iii. 経済的インセンティブ付与の仕組み導入

事業者あるいは事業所の CO2 排出削減取組を促進するため、排出枠及び削減クレジット

を取引可能にする仕組みを導入することが考えられます。これにより、経済合理的な削減取

組を実現すると共に、地区・街区単位の対策導入による追加的削減効果を経済的に評価する

ための基盤となります。 その他、グリーン電力証書やグリーン熱証書、オフセットクレジットの認証、売買等の関

連ビジネスを創出・推進することも効果的と考えられます。

iv. 許認可・法制度等の手続きの簡素化

個別の規制を緩和する他、行政側の手続き窓口を一本化し、地区・街区単位の CO2 削減

対策に関連した許認可事項については、同じ担当者に相談できるような仕組みを作るなど、

事業者側の負担軽減に資することが期待されます。

② 対策技術固有の課題解決のための方向性

i. 未利用熱の利用

未利用熱利用の実現に向けては、河川水利用では河川法、地下水利用では工業用水法・建

築物用地下水の採取の規制に関する法律(通称:ビル用水法)というように、都市水系を利

用する際の法体系が複雑であるという課題があります。また、地中熱利用に係る法律が整備

されておらず、密集地に複数の地中熱ヒートポンプを設置するようになった場合、熱エネル

ギーの取得量について複数利用者間で問題となる可能性があります。 これら課題解決のため、例えば、下水熱、海水熱、地下水熱等を利用した熱供給を行う際

に必要となる手続やルールを明確化し、事業者等の負担を軽減することが期待されます。可

能なものについては、その手続きを簡素化することも考えられます。 また、河川水の熱利用のための水利使用許可手続における審査方法を見直すことも、未利

用熱利用の促進に向け有効と考えられます。例えば、都市低炭素化法においては、下水道熱

の利用に際しての特例措置が設けられています。

ii. 小規模・分散型電源の導入促進

小規模・分散型電源(太陽光発電・高効率コジェネレーション等)の導入に際して、単体

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導入効果を更に向上させるため、地区・街区としての対応が効果的であると考えられます。 これら課題解決のため、例えば、地域熱源(清掃工場、工場等)から周辺の需要家に熱を

供給するための配管敷設を促進するために、その公益性を認めて、都市計画上の都市施設に

位置付けることにより、道路占用等、関連法規制から一定の配慮をされることが期待されま

す。 地域熱供給の導入可能性が高い特定の街区においては、建築物の空調をセントラル方式と

しておけば、将来、仮に当該地域に地域熱供給が導入された場合には、空調熱源設備更新時

に、地域熱供給への接続が可能となるといった計画的な施設・設備構成としておくことも有

効と考えられます。 また、こうした計画的なエネルギー・インフラ整備を促進するため、長期的な視点から地

域におけるエネルギー需給のあり方及び地域のエネルギー・インフラ整備の方針を記す地域

エネルギー計画(仮称)を策定することも考えられます。

iii. 需給の最適制御(スマートグリッド、スマートエネルギーネットワーク等)

新規開発、地区更新需要(再開発計画)などの際に建物や設備をスマート化し、需要量の

削減や自然エネの自家消費率向上を実現することが期待されます。HEMS、BEMS、CEMS等による見える化、最適制御、インセンティブの付与などにより理想的な需要量・需要パタ

ーンを実現し、低炭素化を実現することが考えられます。 なお、エネルギーマネジメントシステムの導入に関連して、事業者が、住宅、オフィス、

あるいは商業施設等に蓄電池を設置するに当たって必要とされる地方公共団体に対する届

出手続きが統一されていない等の課題が挙げられています。また、ビル内の電力や空調衛生

等を管理できるシステムが導入されているビルは多いところですが、そのシステムがビルに

よって異なるため、ビル間や地域間で連携することが不可能となるケースも指摘されていま

す。 以上の課題を踏まえ、新規開発・再開発時において、HEMS、BEMS の導入を義務化す

ることが考えられます。その際には、スマートメーター・EMS 間の連携に必要な通信イン

ターフェイスなどの技術・機器規格を統一することも考えられます。更には、面的に整備さ

れた HEMS、BEMS を統合的に管理するため、地域協定等による CEMS の導入を促進す

ることも考えられます。 また、再生可能エネルギー及び未利用熱の活用を促進するに当たっては、必要に応じた需

給ギャップ解消のための蓄電・蓄熱システムあるいはガスエンジン導入等の最適制御を実施

することが重要です。よって、特に新規開発や地区更新需要(再開発計画)の際には、地区・

街区単位での蓄電・蓄熱等の技術導入の検討にインセンティブを付与するなど、インフラ整

備に向けた施策が期待されます。

3) 資金的課題と解決の方向性

地区・街区単位で対策を導入する際の資金調達が困難であるという課題の他、先行して対

策導入を行う事業者が、そもそも従来は特に取組が求められてこなかった当該対策を実施す

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るという市場開拓コストや、大規模な設備投資(イニシャルコスト)の回収に関する不確実

性を負わなければならないという、いわゆる“先行者不利益”が存在するという課題が指摘

されています。 資金調達については、多くの事業者及びこれを支援しようとする地方公共団体で直面する

課題である。しかし、先行事例では、経済的インセンティブを確保する仕組み・制度づくり

等の工夫が行なわれています。また、クレジット化等の導入可能性の検討等も行われていま

す。 それらを踏まえた制度上の課題解決の方向性として、下記のような取組が期待されます。

i. 先行者不利益の克服

市場開拓コストに関しては、低炭素なモデル市町村、モデル街区、モデルコミュニティの

選定といった制度を設け、当該地区の付加価値を創出することで、先行者不利益ではなく、

先行者利益を創出する仕組みが考えられます。つまり、「全国で初」「先進」というブランデ

ィングをすることで、その事業に関与する事業者や個人もその技術力や実績がアピールでき

るなど、相乗効果が得られると考えられます。また、地区・街区単位での不動産価値の向上

に資する可能性も考えられます。特に、新たなまちづくりの草創期には、将来のあり方を示

すため、PR効果の高い地区において、実用可能な技術を集中的に導入し、パイロット的な

取組を実施することも効果的と考えられます。 また、投資回収の不確実性に関しては、例えば初年度の取得費の中で、省エネ化に伴う上

乗せ額分については、減価償却費に反映できるよう税制改正するなど、大胆な法人税上の優

遇措置を講じることで不利益分を吸収する財政措置が考えられます。 なお、例えば熱供給事業区域においては、エネルギー需要家には接続義務を課すことで、

需要量の増加を図ることも考えられます。

ii. イニシャルコストの負担低減

「創エネ」関連機器(自家発やコジェネ等の分散型エネルギー等)、「省エネ」関連機器(ヒ

ートポンプ等の高効率機器、住宅・建築物の断熱化やスマートメーター等)、「蓄エネ」関連

機器(電気自動車・定置型蓄電池等の蓄電池、蓄熱空調等)のイニシャルコストを低減させ

ることが期待されます。 具体的には、事業者における法人税や固定資産税の減免措置が考えられます。また、個人

においても所得税の減免措置を実施することで、地区・街区単位での更なる導入促進が期待

されます。

iii. 地区・街区単位の単体対策の導入を促進するための資金調達の円滑化

単体対策の集中的な導入促進のため、地域において地方銀行の投融資促進、市民出資促進、

削減効果のクレジット化等の可能性が考えられます。例えば、4.1 でも既述されていますが、

太陽光発電パネル設置に係る市民ファンド等を設立するなどにより、不特定多数の出資者か

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ら出資を募る仕組み作りの検討が重要です。配当の不足分については、国が一部補填するこ

とで、制度の持続性担保に寄与するなど、連携が期待されます。 また、通常は地元資本だけでは実現不可能な大規模の対策導入であっても、都市部の大資

本と共同して、リスク/リターンを適切に分担して出資することが考えられます。例えば、

初期投資を返済順位と金利の異なる投資家及び金融機関が分担する方法や、プロジェクト開

始後一定期間が経過し安定稼働が見込める時期以降に、地域の事業体がローリスク/ローリ

ターンで事業の譲渡を受けるというスキームも想定されます。

4) 人づくりの課題と解決の方向性

人づくりの課題とは、自治体内部のノウハウやマネジメント主体が不足していたり、地域

住民や事業者等の参加意識が不十分であるため合意形成が困難という課題です。 効率的なエネルギー需給による低炭素街区を各地で形成されていくためには、地方公共団

体がエネルギーシステムの地域デザインに主体的に関与し、実現に向けたプロセスを先導し

ていくことが極めて重要です。しかし、現状では、そもそもエネルギー政策については移譲

されておらず、地球温暖化対策の一環として省エネ・新エネを担当する部局はあっても、エ

ネルギー供給のあり方全体を担当する部局はほとんど存在していません。また、今後の低炭

素街区形成に向けては、そのノウハウや知識不足が指摘されています。 さらに、対策・取組を促進し積極的な参加・協力を得るためには、地方公共団体、民間企

業、地域住民等、あらゆる主体におけるインセンティブの確保が重要となりますが、そのイ

ンセンティブ不足も指摘されています。

表 4.3-5 人づくりの課題 ・ 地区・街区単位での対策導入を想定した際の地方公共団体職員のノウハウや知識が十

分とはいい難い。 ・ 地区・街区単位の低炭素化マネジメントを担う主体がいない。 ・ 地区・街区での対策導入・実施にあたっては、その事業を実施する民間企業の協力・

参加が不可欠であるが、採算性の良くない(可能性がある)低炭素化対策事業への参

加・協力が得られない。 ・ 地区・街区の構成員である地域住民や事業者の積極的な取組・参加を促すことが容易

ではない。 出典)H23 地区・街区 SWG 事務局によるヒアリング調査より

自治体のノウハウの蓄積や、エネルギー政策・資金の運用等に精通したファイナンス(金

融)に関する知見の充実、また、地区・街区単位のマネジメントを担う主体の創出のために

は、他の自治体のベストプラクティス(参考資料として、環境省において別途優良事例集を

取りまとめています。)を参照することや、ノウハウを蓄積したスペシャリストの育成、地

域における各種協議会の連携などが考えられます。 また、地域住民・事業者等の参加を募るために、期待される効果や、目指すべき方向性と

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ともに、経済的な利益も含めて、まずは個別的かつ具体的な絵姿を示すことも重要となりま

す。つまり、地域住民や事業者自身が、地区・街区の低炭素化の取組は自らの生活環境の改

善に寄与するものであるという認識を持つような動機付けが必要となります。 例えば、北九州市では、「インセンティブプログラム」というコミュニティにとって“プ

ラス”となる行動をとった際にポイントを付与する等により、需要家の行動を変化させると

いう仕組みを創設しています。このように貢献度合に応じて、住民参加の経費に換えるなど

することが、コミュニティ創造、絆を生み出し、強いては地域の活性化につながりながら低

炭素社会を構築できる機会となることが期待されます。 さらには、GIS 等を使用した双方向型の計画策定手法の普及を促進して、地域住民・事

業者等の参加を促すことも考えられます。

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表 4.3-6 対策・施策の整理(街区・地区単位の対策、エネルギーの面的利用) 対策区分 対策細目 対策概要

対策進捗管理指標の例

(毎年利用できるもの) 施策例

個別面的

エネルギー

利用技術

導入対策

雪氷冷熱活用 雪氷冷熱による地域熱供給を中小規模エリアに導入しま

す。 施設床面積 補助金・低利融資など

建物間熱融通の導入

近隣の個別需要家の建物を導管で連結し、建物相互間で

熱を融通したり、熱源設備を共同利用するシステムを導入

します。

導入施設床面積 補助金・低利融資など

エネルギーの高効率利用(ヒー

トポンプシステムの導入)

高効率ヒートポンプシステムによる建物群の集団的なエネ

ルギー運用システムを整備します。 導入施設床面積 補助金・低利融資など

エネルギーの多段階利用(コー

ジェネレーションシステムの導

入)

コージェネレーションを導入し、発電・排熱利用によるエネル

ギーの総合的利用を推進する建物群の集団的なエネルギ

ー運用システムを整備します。

発電設備容量 補助金・低利融資など

工場排熱・清掃工場排熱等の

未利用エネルギーを活用した

熱供給システム

排熱輸送システムを導入し、地域熱供給を導入する地区・

街区を整備します。 供給熱量

補助金・低利融資、都市計画との連携な

地点熱供給(集中プラント)の

導入

規模がやや小さい地域熱供給、特定建物への熱供給シス

テムを整備します。 供給熱量

補助金・低利融資、都市計画との連携な

エネルギーの面的利用 コンビナート等、複数工場間における低温排熱の利用や熱

エネルギーの総合融通など面的利用を推進します。 省エネルギー量

制度化、エリア指定、許認可・法制度面等

手続きの簡素化

再開発時等の

複合技術

導入対策

低炭素型地区・街区の形成

比較的大規模な新規開発、既成市街地再開発における地

域熱供給、再生可能エネルギー・未利用エネルギー等の導

入、計画エリア内の建築物の省エネルギー対策、マイクロ

グリッドなど、地域の将来像を踏まえ、徹底した低炭素型地

区・街区の形成を進めます。

再生可能エネルギー供給熱量・

電力量

省エネルギー住宅・建築物数等

地球温暖化対策条例等に基づく地域指

定、建築物環境計画書制度、住民協定、

補助金・低利融資など

注)短期、中期、長期の記述は、対策・施策の優先順位を示しているのではありません。

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4.3.5 「緑地の保全及び緑化の推進、熱環境の改善」に係る対策・

施策の検討

(1) 緑地の保全及び緑化の推進、熱環境の改善に取り組むに当たっての背景・

意義

1) 吸収源としての森林の整備の必要性

森林については、2011 年 7 月に閣議決定された森林・林業基本計画に示された森林の有

する多面的機能の発揮に関する目標と、林産物の供給及び利用に関する目標の達成に向けた

取組を通じ、森林吸収量の目標である 2013 年から 2020 年までの平均で基準年総排出量比

3.5%に相当する 4,400 万 t-CO2〔2020 年では同 3%程度に相当する 3,800 万 t-CO2 程度〕

の確保を図る必要があるとされています。 この目標を達成するためには、2013 年度から 2020 年度までの間に、毎年 52 万 ha の間

伐等の森林の適正な整備や木材及び木質バイオマスの利用等、政府一体となった取組及び地

方公共団体、森林所有者、林業・木材産業の事業者、国民等各主体の協力と多大な努力が必

要となります。 また、2050 年までに温室効果ガス排出量を 80%削減することを目指している中、将来に

わたって森林吸収量が確保できるよう、2020 年までに主要樹種について林業用の苗木を成

長に優れた種苗に置き換えるために必要な生産体制の構築や着実な造林等による適切な森

林資源の育成等を進めることが必要です。 さらに、森林は、バイオマス資源として、地域における自立・分散型エネルギー源という

大きな役割を果たすことが期待されます。

2) 都市部における緑地の保全・整備と熱環境の改善の必要性

都市緑化等は、住民にとって、最も日常生活に身近な吸収源対策であり、その推進は、実

際の吸収源対策としての効果はもとより、地球温暖化対策の趣旨の普及啓発にも大きな効果

を発揮するものといえます。 都市緑化等については、京都議定書第3条4の対象である「植生回復」として、森林経営

による獲得吸収量の上限値である1,300万 t-C(4,767万 t-CO2、基準年総排出量比約3.8%)

とは別枠で、吸収量を計上することが可能です。 また、都市機能が集約化された地域では、緑地の確保や、屋上緑化や壁面緑化等による建

築物の敷地内の緑化の推進を図ることにより、ヒートアイランド等の熱環境問題を解決し、

冷暖房需要を低減することで、二酸化炭素排出抑制を推進することが考えられます。一方、

人口減少等が見込まれる郊外の地区においては、都市の集約化に伴う空閑地における緑化を

推進することにより、都市機能拡散の抑制を図ることができます。 また、熱環境の改善という視点においては、人工排熱を抑制するだけではなく、風の道等

に配慮した建築物の配置、街路樹の整備、路面電車の軌道緑化、暗渠河川の再生等を通じた

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水、緑、風をうまく都市内に取り込むことや地域における緑被率の目標等の設定を検討する

ことも考えられます。 そのほか、緑地の保全の際に発生する剪定枝や倒木等の木質バイオマス等の植物廃材を地

域において再生可能エネルギーとして活用することも考えられます。 さらに、都市緑化を含むヒートアイランド対策は、都市部の気温上昇抑制効果に加え、緑

陰の創出により歩行者の体感温度を低減し、熱ストレスを低減します。このような、暑熱環

境の悪化に対し、人の熱ストレスを軽減させる施策は、今後の地球温暖化による影響への適

応策としても重要となります。

(2) 「緑地の保全及び緑化の推進、熱環境の改善」に係る対策・施策の立案に

当たっての視点

1) 健全な森林資源の整備・確保

森林資源が豊かな地域においては、CO2 の吸収源として、また、バイオマス等の資源と

して、健全な森林資源の整備や確保を進めていくことが必要となります。 具体的には、施業集約化や、路網整備の推進等による効率的かつ効果的な間伐等の推進、

長伐期化や複層林化等、多様で健全な森林への誘導、着実な造林の実施等、適切な森林施業

の確保、成長に優れた種苗の生産体制の構築が考えられます。 また、保安林等の適切な管理・保全等の推進として、保安林制度による転用規制や伐採規

制の適正な運用、保安林の計画的指定、保護林制度等による適切な森林保全管理の推進や、

山地災害のおそれの高い地区や奥地荒廃森林等における治山事業の計画的な推進、森林病害

虫や野生鳥獣による被害防除対策、林野火災予防対策の推進、自然公園や自然環境保全地域

の拡充及び同地域内の保全管理の強化などが想定されます。 さらに、国民参加の森林づくり等の推進として、企業等による森林づくりの参加促進を始

めとする、より広範な主体による森林づくり活動等の推進、木材利用の重要性の普及啓発に

向けた木づかい運動等の推進、森林ボランティア等の技術向上や安全体制の整備、森林環境

教育の推進、グリーンワーカー事業等の推進などを進めることが必要です。 加えて、木材及び木質バイオマス利用の推進として、持続可能な森林経営の推進に寄与す

るとともに、化石燃料の使用量を抑制し二酸化炭素の排出抑制にも資する、再生産可能な木

材の積極的な利用を図ることが考えられます。そのため、住宅や公共施設、土木工事等への

地域材の利用拡大や長期利用の促進、地域材実需に結びつく購買層の拡大を図るための消費

者対策の推進、消費者ニーズに対応できる川上から川下まで連携した生産・流通・加工体制

の整備、木材製品中の炭素蓄積量の変化を評価する新たなルール(HWP)の活用方法や、

木材の高度利用技術等の開発、化石燃料の消費増大を抑制する効果を有する木質バイオマス

の利用やその安定的かつ低コストでの供給に向けた取組の推進、林地残材の効率的かつ低コ

ストな収集・運搬システムの構築とエネルギーや製品としての利用の推進、中国や韓国等諸

外国への木材製品の輸出促進に向けた取組の展開などの取組を進めることが考えられます。

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253

2) 都市における緑地の保全・整備

① 緑の政策大綱及び緑の基本計画に基づく取組

都市における緑地の保全・整備として、まず、「緑の政策大綱」や市町村が策定する「緑

の基本計画」等、国及び地方公共団体における緑の保全、創出に係る総合的な計画に基

づき、引き続き、都市公園の整備、道路、河川・砂防、港湾、下水処理施設、公的賃貸

住宅、官公庁施設等における緑化、建築物の屋上等の新たな緑化空間の創出を積極的に

推進することが求められます。 この一環として、都市緑化等の意義や効果を国民各界各層に幅広く普及啓発するとと

もに、市民、企業、NPO 等の幅広い主体の参画による都市緑化や緑化施設整備計画認

定制度や立体都市公園制度の活用など、多様な手法・主体による市街地等の新たな緑の

創出の支援等を積極的に推進することが必要です。

3) ヒートアイランド対策を通じた熱環境対策

ヒートアイランド現象は長期に渡る都市化の進展等の複合的な要因により発生しており、

その対策も長期的・総合的なものとなります。具体的には、「人工排熱の低減」「地表面被覆

の改善」「都市形態の改善」「ライフスタイルの改善」「人の健康への影響等を軽減する適応

策」等のヒートアイランド関連施策2)を実施することにより、熱環境改善を通じた都市の

低炭素化を推進することとなります。 こうした、都市の低炭素化に貢献するヒートアイランド対策を推進するには、まずは地域

のエネルギー消費に関する状況を把握すると同時に、地域の熱環境の状況を把握するための

「都市環境気候図」を作成することが効果的 3)です。都市環境気候図の作成を通じて、地域

特性に応じた対策計画を立案することが重要であり、例えば、夜間人口と夜間気温、熱源(人

工被覆や排熱源)の分布を組み合わせることで、熱帯夜対策のための重点地域が抽出でき、

その地域での対策が進むことで夜間気温が低下すれば、就寝時の空調利用が抑制され、低炭

素化に貢献することが期待されます。図 4.3-47 には、都市環境気候図の一例として、東京

都が作成した熱環境マップを示しました。

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254

図 4.3-47 東京都における「熱環境マップ」

出典)東京都 ヒートアイランド対策ガイドライン

① 個別のヒートアイランド対策技術

屋上緑化などの建物外皮対策や人工排熱の削減対策など、エネルギー消費の削減につ

ながるヒートアイランド対策は、以下の表のように低炭素化を実現する施策として位置

づけることができます。

表 4.3-7 地球温暖化対策に寄与するヒートアイランド対策手法の一例

対策手法 対策効果の概要

屋上緑化 表面温度低下効果、屋上面の断熱性向上による空調負荷削減

効果

壁面緑化 表面温度低下効果、壁面からの貫流熱削減による空調負荷削

減効果

建物被覆の親水化・保水化 表面温度低下効果、貫流熱の削減による空調負荷削減効果

屋根面の高反射化 表面温度低下効果、貫流熱の削減による空調負荷削減効果(冬

季の暖房負荷が増加する地域があるので注意が必要)

地域冷暖房システムの活用 未利用熱の利用による排熱削減効果、空調機器効率の向上と

未利用熱利用によるエネルギー消費削減効果

建物排熱の削減 建物からの空調機器からの排熱削減効果、建物エネルギーの

削減効果

一方で、低炭素化に直接寄与する割合は大きくないものの、熱環境の悪化に対応するヒ

ートアイランド対策技術は、より広範になります。以下の表のように風」「緑」「水」など

の都市の環境資源を活用する技術と、人工的な技術を活用する「高反射化」や「排熱削減」、

また熱中症対策のための「普及啓発」があります。

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255

表 4.3-8 熱環境の悪化に対応するヒートアイランド対策技術例 対策手法

風を利用した対策 海風・山谷風の活用

河川からの風の活用

緑を活用した対策 公園・緑地などの活用

街路樹の活用

駐車場の緑化

建物敷地の緑化

屋上緑化

壁面緑化

水を活用した対策 噴水・水景施設の活用

舗装の保水化と散水

建物被覆の親水化・保水化

打ち水の活用

ミストの活用

反射を活用した対策 遮熱性舗装の活用

屋根面の高反射化

人工排熱対策 地域冷暖房システムの活用

建物排熱の低減

自動車排熱の低減

普及啓発 情報提供による熱中症の予防対策

こうした対策技術の個別の効果はこれまで多くの調査・検討がなされています。この

うち一部をお示しします。 (※以下、個別の事例やデータはコラム又は参考資料とすることを検討)

② 緑(屋上緑化)を活用した対策効果

<対策技術の概要>

屋上緑化は、建物の屋上に軽量土壌などの植栽基盤を敷き、その上に芝生や樹木などで

緑化するものです。表面温度の上昇を抑えるとともに、植栽基盤の断熱効果と併せて最上

階への熱の侵入を低減し、空調エネルギー消費量を削減します。 <表面温度低下効果>

国土交通省の屋上庭園における測定によると、東京で猛暑日を記録した平成 19年8月

16 日に、緑化されていないタイル面の表面温度は 56.1℃まで上がり、芝生面との表面温

度差が最大で 23.7℃となっています。建築物への熱の侵入量は、緑化されていないタイ

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256

ル面では約 5.1MJ/m2でしたが、芝生面での熱の侵入はほとんど確認されていません。

図 4.3-48 屋上緑化による表面温度の低下効果 出典)国土交通省

屋上緑化の表面温度低下効果に関する報告は数多く見られますが、夏季における測定

結果では、おおむね 15℃程度の表面温度低下効果となっています。

<屋上階下の空調負荷削減効果>

業務建物の最上階を対象としたシミュレーション(札幌から福岡までの 4 地域)では、

いずれの地域でも削減効果が見られました。屋上緑化の場合、屋上に土壌層が形成され、

建物の断熱性能が向上するため、夏季の冷房負荷の削減効果が大きくなっている一方で、

冬季の暖房負荷にはほとんど変化がありません。また、対策前の建物の断熱性能によっ

てもその効果の程度に違いが見られ、図 4.3-49 のように、断熱厚の薄い建物で効果が

大きくなっています。

図 4.3-49 業務建物における空調負荷削減効果(LESCOM シミュレーション)

地域別、断熱厚(※)別の 屋上緑化による

通年空調負荷削減効果(単位:%)

断熱なし 断熱25mm 断熱50mm

札幌 7.2 3.8 2.5仙台 8.8 4.7 3.2東京 12.4 7.1 5.0福岡 15.7 9.4 6.6

削減率:%

0

100

200

300

400

500

600

札幌 仙台 東京 福岡

合計

消費

量(M

J/㎡

・年)

業務建物に屋上緑化を施した場合(屋根断熱材25mm)

対策なし 屋上緑化

冷房 暖房

※ 建物の断熱材の厚さ

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257

<効果的な活用及び留意事項>

屋上緑化には表面温度の上昇抑制、建築物への熱の侵入抑制といった物理的な効果に

加え、人が活用できる都市の緑化空間としての機能、生物生息空間としての機能、都市

景観の向上といった効果があり、屋上緑化による多面的な効果が得られるよう計画する

ことが望まれます。

③ 反射(屋根面の高反射化)を活用した対策効果

<対策技術の概要>

建物の屋根面に、太陽光の中でも赤外線領域を効率的に反射する特殊な塗料(高反射率

塗料)を塗布し、表面温度の上昇を抑え、周辺の気温上昇を抑制します。さらには、建物

の最上階への熱侵入を低減し、空調負荷を削減します。

<屋根面の表面温度低下効果>

東京都環境局で高反射率塗料の気温低下効果を測定したところ、対策がされていないコ

ンクリート面の表面温度は約 62℃であったのに対し、高反射率塗料塗布面は約 47℃と、

表面温度は約 15℃低下しています。

図 4.3-50 高反射率塗料の表面温度低下効果 出典)クールルーフ推進協議会

<空調負荷の削減効果>

シミュレーションによる高反射率塗料の塗布による空調負荷の削減効果では、夏季の冷

房負荷が減るものの、冬季にも熱の侵入が減少することで、逆に暖房負荷は増加していま

す。業務建物でのシミュレーション結果では、反射率を 0.25、0.50、0.86 と変化させた

ところ、札幌から福岡のいずれの地域でも冷房負荷が減り、暖房負荷が増加しています。

ただし、通年では冷房負荷の小さい仙台以北で空調負荷削減効果が見られません。また、

東京以西においては、対策前の建物の断熱性能によってもその効果の程度に違いが見られ、

図 4.3-51 のように、断熱厚の薄い建物で効果が大きくなっています。

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258

図 4.3-51 業務建物における空調負荷削減効果(LESCOM シミュレーション) 高反射率塗料による対策は、維持管理が比較的容易で、屋上緑化のように建築物の耐加重

や屋根面の形状などの制約がありません。ただし、冷房の負荷を削減する一方で、暖房負荷

を増加させてしまいます。そのため、地球温暖化対策の観点も含めると、関東より北の地域

での適用に際しては検討が必要です。

④ 実際のヒートアイランド対策取組事例(※コラム又は参考資料とする方

向で検討)

次に、実際に大規模都市再開発等での導入事例による効果を示します。先述した屋上

緑化など建物被覆に緑化したり高反射率塗料を施すことで、表面温度の上昇が抑制され、

建物内への熱貫流量を低減し、冷房エネルギー消費量を削減することができます。

削減率:%札幌 0.2仙台 0.4東京 0.9福岡 2.0

業務建物の屋根面に高反射率塗料を施した場合(屋根断熱材25mm)

0

100

200

300

400

500

600

札幌 仙台 東京 福岡

合計

消費

量(M

J/㎡

・年

対策なし(日射反射率0.25) 日射反射率0.50 日射反射率0.86

冷房 暖房

反射率0.50の高反射率塗料による 地域別の通年空調負荷削減効果

(単位:%)

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○実例1 (新国際ビル:屋上緑化)18 測定期間:7/21~8/31(合計 1185.63kg‐CO2)による日平均:28.23kg‐CO2/日

18 環境省:クールシティ中枢街区パイロット事業

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260

○実例2 (日本ビル:屋上緑化および高反射率塗装) ・屋上緑化 測定期間:7/21~8/30(合計 586.00kg‐CO2)による日平均:14.65kg‐CO2/日

・高反射率塗装 測定期間:7/21~8/30(合計 359.41kg‐CO2)による日平均:8.99kg‐CO2/日

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261

● ●

● ●

● ●

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262

4) 都市内の緑地によるエネルギー消費量削減効果

道路や敷地のアスファルト面等を減らして緑化や保水化することで地域の気温を低減さ

せ、冷房の使用頻度や冷房の負荷強度を下げることで、冷房エネルギー消費量を抑制するこ

とができます。 特に都市における大規模緑地は周辺に比べ気温が低いことが知られています。緑地の冷涼

な空気は、昼間は風に運ばれ、夜間は「にじみだし」による現象により、周辺街区に運ばれ

ます。例えば、東京都にある新宿御苑では、夏の熱い昼間、周辺の市街地より表面温度が低

く保たれており、クールスポットが形成されています。

図 4.3-52 新宿御苑の表面温度分布図(2004 年 9 月 3 日 12:30) 出典)首都大学東京三上研究室(当時)より提供

また、皇居では夜間に冷気が形成され、「にじみだし」の現象によって丸の内地区が冷

やされている様子が観測されています。

図 4.3-53 皇居からのにじみだし現象(2009/8/27~28)19

19 環境省:平成 21 年度モデル地域における未利用水有効活用検証に関する業務,平成 22 年3月

0

100

200

300

400

500

600

Dis

tanc

e (m

)

18 19 20 21 22 23 24 1 2 3 4 5 6

2009 Aug. 27~28

-2.4 -2.0 -1.6 -1.2 -0.8 -0.4 0.0 0.4 0.8

0

100

200

300

400

500

600

Dis

tanc

e (m

)

18 19 20 21 22 23 24 1 2 3 4 5 6

0

100

200

300

400

500

600

Dis

tanc

e (m

)

18 19 20 21 22 23 24 1 2 3 4 5 60

100

200

300

400

500

600

Dis

tanc

e (m

)

18 19 20 21 22 23 24 1 2 3 4 5 6

濠濠

2009 Aug. 27~28

-2.4 -2.0 -1.6 -1.2 -0.8 -0.4 0.0 0.4 0.8

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263

5) 周辺環境との調和による効果

都市においては、上述した緑地の他、河川や湖沼、噴水等の親水施設もクールスポットと

しての活用が期待されます。これまで多くの調査研究等で、これらのクールスポットから街

の中に涼しい風が送られていることが明らかになっています。水面は気温よりも水温が低け

れば、水路内で形成された冷気を周辺街区に供給したり、街区全体を冷やす冷熱源となりま

す。例えば、下図のように水路に隣接した街区では、街区内に水路からの冷気が供給されて

いることが観測されています。一方、これらのクールスポットからの恩恵を低炭素化に活か

すためには、街区や建物側の取組も重要となります。例えば、夜間の冷気を有効活用するナ

イトパージの実施や、周辺の冷気を取り込みやすい建物の通風設計や換気システムの導入等

を行うことで、空調の利用が効果的に抑制され、低炭素化が促進することが期待されます。

図 4.3-54 街区の東西断面における気温分布の経時変化資料(環境省既往調査報告書20の図を基

に作成) 20 環境省:平成 21 年度街区まるごと CO220%削減事業(越谷街区(大和ハウス工業株式会社による戸建住

宅整備事業)),平成 22 年3月

12:00 14:00 16:00 18:00

街区西側

街区東側

キャナル内

街区中央

8月20日街区西側を基準とした相対的気温

(℃)

キ ャ ナ ル

街区東側

街区中央

★■▲●:気温測定地点

上図は各エリアの観測値の平均値より作

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6) 緑化等の人への熱ストレスを低減させる適応策

緑化は、上述のような都市の気温上昇抑制効果の他、樹冠の大きな街路樹等の緑陰は、道

路の地表面温度上昇を抑制し、放射による熱を低減するとともに、緑陰の創出により歩行者

の体感温度を低減し、熱ストレスを低減することができます。また、下図のようなミストは

直接局所的に気温を下げ、人の熱ストレスを低減させることができます。 このような、暑熱環境の悪化に対し、人の熱ストレスを軽減させる施策は「適応策」と呼

ばれています。こうした適応策が普及することで、快適で過ごしやすい熱環境の区域が拡が

り、エネルギーを使用する空調等に依存しない生活環境の確保が期待できます。 適応策の例

街路樹を活用した適応策の例 ミストの導入事例

7) 普及啓発による暑熱環境の改善を通じた低炭素化の推進

上述の設備や改築等のハード面からの取組のみならず、ライフスタイルの改善等のソフト

面の取組も重要です。例えば、熱中症等の暑さ対策のために暑さ指数(WBGT)の予報値

等の情報を予め入手し、暑さ回避の行動する等の取組や、空調の設定温度を見直すための夏

季の軽装の推進、水による熱環境の改善を図るための市民活動などによる打ち水の実施など

が挙げられます。

打ち水の例

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表 4.3-9 対策・施策の整理(緑地の保全及び緑化の推進、熱環境の改善)

対策区分 対策細目 対策概要 対策進捗管理指標の例

(毎年利用できるもの) 施策例

緑地の保全及

び緑化の推進

大規模緑地の保全 現に、都市内にある里山などの大規模な緑地について、宅

地転用を防ぐなど保全します。 緑地面積 都市計画との連携等など

小規模緑地の保全 現に都市内にある屋敷林などの小規模な緑地について、宅

地転用を防ぐなど保全します。 緑地面積 条例による樹木の保存、転用の制限など

屋上緑化・壁面緑化、建築物

敷地内緑化

住宅や建築物、公共施設の屋上、壁面、敷地内について、

緑化を行います。

屋上緑化面積、壁面緑化面積、

緑地面積

補助金、条例による義務化、緑化地域制

度の活用など

街路樹等の整備 電線を地中化し、高木植栽を行うなど街路樹の整備をしま

す。 緑地面積 公共事業など

熱環境の改善

土系舗装 地面からの蒸発散量を増やすため、保水性、透水性の舗装

を行います。 保水性・透水性舗装面積 公共事業など

地下水・下水再生水等を利用

した散水

地下水等を利用した散水を行い、周辺温度の低下を図りま

す。 周辺温度 補助金など

軌道緑化 路面電車の軌道を緑化し、周辺温度の低下を図ります。 周辺温度 補助金、公共事業など

暗渠河川の再生 かつて暗渠をされた河川を再生し、水辺を回復します。 水面面積 公共事業など

風の道の整備 建築物や道路の配置等を工夫するなどし、海風等を都市内

に誘導し、都市の気温の低下を図ります。 (観測点の)気温

都市計画との連携、公共事業の活用(都

市公園、道路、河川など)など

※個別の省エネルギー等の温暖化対策技術の導入による人工排熱の低減も熱環境の改善に資する。 注)短期、中期、長期の記述は、対策・施策の優先項位を示しているのではありません。

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266

4.3.6 関連部局・関係施策との連携

この「地域環境の整備及び改善」に関する事項は、いわゆる地域づくりやまちづくりと不

可分一体の取組となります。そのため、環境部局と都市部局、農業部局等の関連部局が連携

して、本分野の対策・施策の立案を検討することが考えられます。 地球温暖化対策推進法第 20 条の 3 第 4 項に「都道府県及び指定都市等は、地球温暖化対

策の推進を図るため、都市計画、農業振興地域整備計画その他の温室効果ガスの排出の抑制

等に関係のある施策について、当該施策の目的の達成との調和を図りつつ地方公共団体実行

計画と連携して温室効果ガスの排出の抑制等が行われるよう配意するものとする。」と規定

されており、実行計画(区域施策)で掲げられた削減目標が達成されるよう、実行計画(区

域施策)と都市計画、農業振興地域整備計画等の関連施策については、それらの施策の目的

の達成との調和を図りつつ、配意することが求められています。 また、平成 24 年 8 月に成立し、12 月から施行された都市の低炭素化の促進に関する法

律では、地球温暖化対策の推進に関する法律と相まって、都市の低炭素化を図ることとされ

ており、同法に基づき市町村長が作成する「低炭素まちづくり計画」は、「地方公共団体実

行計画」に適合するとともに、都市計画法上の「都市計画区域の整備、開発及び保全の方針」

「市町村の都市計画に関する基本的な方針」との調和が保たれたものでなければならない、

とされています。(第7条第6項) 例えば、土地利用・交通分野などの目指すべき地域の将来像を検討する際には、地域全体

の削減目標を踏まえつつ、環境部局と都市部局等がよく調整し、実行計画(区域施策)に記

載された地域の将来像と都市計画マスタープランや総合計画等の内容を整合させることが

推奨されます。また、都市再開発などの個別のまちづくりの機会における対策・施策につい

ても、地域全体の排出削減目標を踏まえつつ、関係部局が調整しながら着実に実施されるこ

とが望まれます。

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267

4.4 その区域内における廃棄物等(循環型社会形成推進基本法(平

成十二年法律第百十号)第二条第二項に規定する廃棄物等をい

う。)の発生の抑制その他の循環型社会(同条第一項に規定する

循環型社会をいう。)の形成に関する施策

4.4.1 循環型社会の形成に取り組むに当たっての背景・意義

(1) 定義

区域における廃棄物等の発生抑制、再使用、再生利用、熱回収、適正処分等に関する施策

を「循環型社会の形成」に関する施策と定義します。 これらの取組は、直接的には地域の低炭素化を図ることを目的とするものではありません

が、以下のように、結果として、GHG の排出抑制に繋がることとなります。

●廃棄物の発生抑制・再使用・再生利用:廃棄物の量を抑制すること等により焼却処理及び

最終処分における CO2・CH4・N2O の排出を抑制します。 ●熱回収等:廃棄物からの燃料製造や、焼却の際の熱回収、廃棄物焼却施設で発生する熱を

発電等により利用することにより、本来消費されるはずであった化石燃料を削減し、CO2の排出を抑制します。

●地域循環圏の構築:地域の特性に応じた最適な資源の循環圏を構築することにより、上記

の廃棄物の発生抑制・再使用・再生利用や、熱回収等を促進します。いわば、地域におけ

る循環型社会の形成の基盤となるものです。

(2) 地方公共団体が「循環型社会の形成」に取り組む意義

地方公共団体は、地域で循環型社会を形成していく上で、中核としての役割を担っていま

す。第三次循環型社会形成推進基本計画(平成 25 年●月閣議決定)に盛り込まれた「地域

循環圏」の構築についても、地域間での連携を図りつつ、低炭素社会や自然共生社会とも統

合された持続可能な地域づくりを進めるという観点から、地方公共団体が中心となって取り

組むことが極めて重要です。 循環型社会形成推進基本法では、適正な物質循環の構築に向け、廃棄物等の①発生抑制、

②再使用、③再生利用、④熱回収、⑤適正処分の順に廃棄物・リサイクル対策の優先順位を

定めています。温室効果ガス削減対策においても廃棄物等の「発生抑制」が最も重要であり、

一般的には「再使用」「再生利用」により温室効果ガスの発生が抑制されます。 「再使用」、「再生利用」が適当でない廃棄物等の焼却処理が行われる際には、発生する熱

エネルギーを発電や熱供給に利用するといった「熱回収」が推進されています。 特に、東日本大震災以降、分散型電源であり、かつ、安定供給が見込める循環資源やバイ

オマス資源の熱回収による円レルギー供給が果たす役割は、一層大きくなっております 廃棄物の適正処理を前提に、地域の特性や循環資源の性質等に応じた最適な規模の循環を

検討のフローを追記。

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268

形成する「地域循環圏」の構築により温室効果ガスの削減を進めることが、循環型社会、低

炭素社会の形成では重要となります。

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(3) (目標達成計画の後継計画)等における位置づけ

(本文追加予定。目標達成計画の内容は、参考資料に移動。) また、循環型社会形成推進基本計画には、地方公共団体の役割は以下のように記述されて

います。

上記の循環型社会形成推進基本計画内に記述されている“地域循環圏”は、次のような4

類型に大別できます。 【地域循環圏の類型パターン】

地域循環圏の形成に当たっては、概念的にその類型をパターン化して見ていくことが有用

であると考えられます。最適な循環の範囲は、循環資源の性質により異なります。例えば、

一定の地域のみで発生する、腐敗しやすい等の特徴を持つバイオマス系循環資源は、その地

域において循環させたり、高度な処理技術を要するものはより広域的な地域で循環させたり

することが適切であると考えられます。また、対象となるエリアの地域特性や、既存のリサ

イクル関連施設などの配置によっても、その類型・範囲は異なってきます。

地方公共団体は、地域の循環型社会形成を推進していく上で中核としての役割を担っており、地域の自然的・社会的条件に応じた法・条例の着実な施行や廃棄物等の適正な循環的利用及び処分の実施にとどまらず、産業の垣根を越えた事業者間の協力も含め、各主体間のコーディネーターとして連携の場の提供など重要な役割を果たすことが期待される。特に、都道府県は、広域的な観点から、市町村や関係主体の取組をリードしつつ、調整機能を果たすことが、市町村は、地域単位での循環システムの構築等、住民の生活に密着した基礎的自治体としての役割を果たすことが求められ、さらに相互に緊密に連携して協力していくことが求められる。

地域で循環可能な資源はなるべく地域で循環させ、地域での循環が困難なものにつ

いては循環の環を広域化させていくといった考え方に基づく「地域循環圏」が、幾重にも構築され、地域間での連携を図りつつ、低炭素社会や自然共生社会とも統合された持続可能な地域づくりを進める。

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①農山漁村地域循環圏

農山漁村地域を中心とした循環圏で、農林水産業に由来するバイオマス資源の地産地消的

な利活用が行われます。例えば、農産地域では、生ごみの堆肥化や飼料化などとともに、農

業や畜産業由来の廃棄物や林地残材のエネルギー利用や小水力発電の実施といったエネル

ギー利用システムが推進され、低炭素型の循環システムが構築されます。 漁村エリアでは、魚腸骨や貝殻など水産業由来の廃棄物の活用をはじめとして、漁船のリ

ユースネットワークの構築や漁船でのバイオディーゼル燃料(BDF)利用などの取組が進

むことにより、温室効果ガスの発生が抑制されます。

図 4.4-1 農山漁村地域循環圏のイメージ (平成 24 年版環境・循環型社会白書より抜粋)

②都市・近郊地域循環圏

人口集積の多い都市エリアでは多種多様な循環資源が排出されます。都市近郊の農村地域

との連携も含め、静脈産業集積地(エコタウン等)や動脈産業集積地(臨海部工業地帯や工

業団地等)とも連携をはかりながら、効率的な資源循環が行われます。 例えば、都市農村連携の具体的な例としては、都市近郊エリアの農業地域と連携して、都

市で排出される食品廃棄物を飼料や堆肥として有効に活用する仕組みを構築し、そこから得

られた農産物が都市地域に還元される仕組みが考えられます。 都市・近郊地域循環圏における効率的な循環や都市農村連携によって、低炭素型の循環シ

ステムが構築されます。

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図 4.4-2 都市・近郊地域循環圏のイメージ (平成 24 年版環境・循環型社会白書より抜粋)

③動脈産業地域循環圏

セメント、鉄鋼、非鉄精錬、製紙等の基幹的な動脈産業の基盤やインフラをこれまで以上

に活用しながら、循環資源を大量に抱えもつ大都市エリアと連携し、循環システムの構築や

エネルギーの利活用システムを高度化させることにより、温室効果ガスの発生も抑制するこ

とができます。

図 4.4-3 動脈産業地域循環圏のイメージ (平成 24 年版環境・循環型社会白書より抜粋)

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④循環型産業(広域)地域循環圏 循環型産業が集積されたエコタウン地域の保有する転換技術や広域静脈物流などをより

一層高度化させ、これまで、高効率な転換処理システムが確立されていない循環資源のリサ

イクルなどを、動脈産業地域循環圏との連動をはかりながら、優位性のあるシステムとして

形成していきます。ソーティングセンター(統合集積選別処理施設)などの循環産業機能を

活用し、地域循環圏を構成することにより、経済活動の活性化を図るとともに、低炭素社会

も構築されます。

図 4.4-4 循環型産業(広域)地域循環圏のイメージ

(平成 24 年版環境・循環型社会白書より抜粋)

上記から、地域循環圏の形成が低炭素社会の形成と密接に結びついていることがわかりま

す。 一般廃棄物の処理における温室効果ガス排出量を削減する施策として、廃棄物の発生抑制、

再使用、再生利用、適正処理が挙げられます。これら施策を推進するためには、いずれも住

民・事業者との連携が重要です。 廃棄物処理量の削減により、焼却等に係る温室効果ガスの排出量を削減することができ、

容器等の再使用により、製品の製造時に係る温室効果ガス排出量を削減できます。また、焼

却処理において発生する熱エネルギーを発電や熱供給に利用することで、温室効果ガス排出

量の削減につながります。 産業廃棄物についても、温室効果ガスの排出削減に寄与する発生抑制、再使用、再生利用

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及び熱回収を推進するために、排出事業者や処理事業者に対して働きかけることが重要です。

また、公共関与により産業廃棄物の処理を実施する地方公共団体は、対策に主体的に取り組

むことが推奨され、地方公共団体が行う下水道事業についても、自ら対策を進めることが推

奨されます。

図 4.4-3 一般廃棄物の温室効果ガス削減に資する対策

使

市町村 ごみ処理有料化

環境教育、普及啓発

多量の一般廃棄物排出事業者に対する減量化指導の徹底

容器包装廃棄物の排出抑制

環境物品等の使用促進

住民団体による集団回収の促進等

容器包装廃棄物の排出抑制

中古品やリターナブルびん等の使用

発生源における排出抑制

過剰包装の抑制

環境物品等の使用促進、使い捨て品の使用抑制等

食品廃棄物の排出抑制

薄肉化・軽量化された容器包装を用いる。

地球温暖化対策等の観点から、収集車両の低公害化について検討

焼却処理、ごみ燃料化施設、高速堆肥化施設、ごみ飼料化施設、メタン発酵施設等を選択

焼却処理では、温室効果ガス削減の観点から、ごみ発電等の余熱利用に積極的に取組む。

広域的な処理

生ごみ、木くず等有機物の最終処分場への直接埋立については、温室効果ガスの高いメタンを発

生することから、できるだけ早期に停止し、地域の特性に応じて、適切に再資源化又は中間処理を

行う。

広域的な処理

住民

事業者

収集運搬

中 間 処

最 終 処

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(4) 国際的な動向と我が国の状況

「循環型社会の形成」に係る国内外の取り組み事例として、以下が挙げられます。 ドイツ・ハイデルベルク市は、温暖化防止の一環としてドイツで自治体としてははじめて、

地域の販売業者と提携し「省エネランプ回収制度」を 2009 年 5 月 14 日に発足させました。

同市では、環境・営業監督・エネルギー局、廃棄物・清掃局、環境保護団体「ドイツ環境援

助」(Deutschen Umwelthilfe,DUH)、Lightcycle Retourlogistik und Service 社の協力に

よって、廃ランプの回収を引き受けるなど様々な取り組みを行っています。 2006 年以来、電気機器法に基づき電気機器の分別回収と再利用が義務付けられているに

も関わらず、ドイツにおける電球の回収率は低いのが現状でした。また、微量でも水銀を含

んでいる省エネルギーランプの場合、分別回収と特別なリサイクル施設が必要ですが、回収

義務は設けられていませんでした。 そこで同市は市内の販売業者の協力でその店舗に回収用のコンテナーを設置し、1 年間無

償でコンテナーからの廃ランプの回収を引き受けたり、一般世帯に対して、電気料金請求書

に同封して省エネランプ回収コンテナー設置場所の情報提供を 1 年にわたり行うなどの取

り組みを進めました。欧州連合で白熱電球の利用が本格的に禁止となれば、省エネランプの

回収制度は必要不可欠となるため、ハイデルベルク市の措置はドイツの自治体にとってモデ

ルとなるプロジェクトとも言えます。 国内事例としては、北九州市による「北九州エコタウン事業」が挙げられます。エコタウ

ン事業とは、「あらゆる廃棄物を他の産業分野の原料として活用し、最終的に廃棄物をゼロ

にすること(ゼロ・エミッション)」を目指し、資源循環型社会の構築を図る事業です。北

九州では、環境・リサイクル産業の振興を柱とする「北九州エコタウンプラン」を策定し国

の承認を得ました。事業の推進にあたっては、「北九州エコタウンプラン実施計画」を策定

し、基本的な取り組みの方向を定め、環境政策と産業振興政策を統合した地域政策を展開し

ています。現在北九州エコタウンにおいて、様々な企業がリサイクル事業に取り組んでいま

す。

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図 4.4-4 北九州エコタウン 立地企業と実証研究エリア

出典)北九州エコタウン事業ホームページ

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4.4.2 「循環型社会の形成」に係る対策・施策の検討

温室効果ガス削減の施策の実施に当たっては、現行の廃棄物処理施策、循環型社会の形成

に関する施策と連携して実施することが重要です。したがって、新実行計画(区域施策)の

立案に際し、循環型社会形成推進基本計画や一般廃棄物処理計画との連携を図ることが重要

です。 なお、都道府県が新実行計画(区域施策)を策定する際は、国、都道府県、市区町村間の

対策との連携・調整を図ることが重要です。 地方公共団体が現在実施している廃棄物処理施策、循環型社会の形成に関する施策を温室

効果ガス削減という視点で整理すると、以下の三つに大別されます。

(1) 廃棄物の発生抑制・再使用・再生利用等(CO2・CH4・N2O 対策):廃棄物の量を抑制

すること等により焼却処理及び最終処分における CO2・CH4・N2O の排出を抑制する

もの (2) 熱回収等(CO2 対策等):廃棄物から燃料を製造したりして熱回収を行うもの、廃棄物

焼却施設で発生する熱を発電等により利用するもの等 (3) 地域循環圏の構築(資源循環)

(1) 廃棄物の発生抑制・再使用・再生利用等(CO2・CH4・N2O 対策)

1) 目指すべき地域の将来像の検討

3.1 で求めた削減ポテンシャルを踏まえ、地域全体の削減目標が達成された際の、廃棄物

の発生抑制・再使用・再生利用等の分野での将来像を検討することが推奨されます。 例えば、循環型社会形成という視点、温室効果ガス削減という視点では一人一日当たりご

み総排出量、廃棄物の再生利用率などの進捗管理のための指標などを設定し、具体的に目標

を想定することを検討することが考えられます。

2) 「循環型社会の形成」に係る対策・施策の立案に当たっての視点

地方公共団体における温室効果ガスの削減対策の例としては、ごみの有料化、一般廃棄物

の分別収集の実施による 3R の推進、地域住民のライフスタイルの見直し支援、グリーン製

品・サービスや地産商品の推奨・情報提供・購入、事業者(排出者)としての取組などにな

ります。 これらの対策を実施するための施策としては、3R の推進では主にごみの排出抑制やリユ

ースに係る普及啓発、分別収集によるリサイクルなどを講じます。さらに、より一層の排出

抑制対策が必要と判断される場合は、住民等の理解を得て一般廃棄物処理の有料化を導入す

るなど、経済的な手法を講ずるものとします。 地域住民のライフスタイルの見直し支援、グリーン製品・サービスや地産商品の推奨・情

報提供、事業者(排出者)としての啓発活動を促します。また、レジ袋削減の取組のように、

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住民と事業者、自治体が連携して、地域が一体となって取り組む体制を構築することが重要

です。その場合は環境配慮型店舗認定制度などの制度化を検討することが考えられます。 産業廃棄物についても、地域条件に応じて発生抑制・再使用・再生利用を推進すべく、排

出事業者及び処理事業者に対する情報提供の実施や評価制度、産業廃棄物税の導入等を検討

することが考えられます。公共関与により産業廃棄物処理を実施する地方公共団体は、主体

的に再生利用に取り組むことが推奨されます。また、地方公共団体が行う下水道事業につい

ては、下水汚泥の再生利用を推進することが推奨されます。 廃棄物処理部門における温暖化対策メニュー及び一般廃棄物焼却施設における CO2 排出

量の目安については、平成 24 年2月に地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく排出抑

制等指針に追加されたことから、廃棄物処理施設の整備、運用等において指針及び「廃棄物

処理部門における温室効果ガス排出抑制等指針マニュアル」の活用が推奨されます。 廃棄物焼却施設等における燃焼の高度化により N2O の排出の削減を進めるとともに、廃

棄物の処理量削減に当たっては、住民や事業者と連携を図りつつ、地方公共団体が積極的に

関与することが非常に重要となります。

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表 4.4-1 対策・施策の整理(1)(循環型社会の形成) 対策区分 対策細目 対策概要

対策進捗管理指標の例

(毎年利用できるもの) 施策例

廃棄物の発生

抑制・再使用・

再生利用等

ごみ処理有料化 排出量に応じた負担の公平化、住民の意識改革によりご

み排出抑制を進めます。 一人一日当たりごみ排出量 条例など

市民意識の向上 ごみ減量化・再生利用、適切な分別に関する啓発・情報

提供、施設見学、環境教育を進めます。 一人一日当たりごみ排出量 普及啓発など

一般廃棄物多量排出事業者対

多量に一般廃棄物を排出する事業者への対策を進めま

す。 事業系ごみの総排出量 行政による指導、手数料の徴収など

容器包装廃棄物の排出抑制

過剰包装抑制(容器包装の簡易化、繰り返し使用できる

商品等の製造販売)、レジ袋の削減、リターナブルびん

利用促進等を進めます。

一人一日当たりごみ排出量 自主協定の締結など

環境物品等の使用促進 環境負荷の少ない商品の使用を促進します。 環境物品調達量実績 行政によるグリーン購入、普及啓発など

住民団体による集団回収の促

進等 住民団体による古紙・衣類等の集団回収を進めます。 集団回収量 普及啓発など

食品廃棄物の排出抑制 売れ残り・食べ残しを減らす工夫など、食品が廃棄物と

ならない方法を講じます。

一人一日当たりの食品廃棄物

排出量 普及啓発、条例による取組み義務化など

生ごみ、木くず等有機物の直

接埋立抑制

最終処分場への直接投入を減らすために再資源化等の

中間処理施設の整備を進めます。 中間処理量 行政による導入など

産業廃棄物の排出抑制 産業廃棄物の排出抑制や減量化・リサイクルの促進を図

ります。 産業廃棄物最終処分量

情報提供、条例による取組み義務化、産

業廃棄物税の導入など

再資源化施設の導入 排出抑制・再利用・分別等の効果を勘案し、エネルギー

回収以外の最適な中間処理方法を選択します。 再生利用率 行政による導入など

リユースの促進 リユース品、リターナブル容器の使用を促進します。 リユース品等導入実績 行政による率先導入、普及啓発など

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リサイクルへの取組

各種リサイクル法(容器包装リサイクル法、家電リサイ

クル法、建設リサイクル法、食品リサイクル法、自動車

リサイクル法、小型家電リサイクル法)に基づくリサイ

クルの取組、及びリサイクル法が定められていないもの

についても地域の実情に応じたリサイクルの取組を進

めます。

再生利用率 普及啓発など

廃棄物処理法の厳格な運用

家電品4品目等の廃棄物の違法な引取・処理を防止する

ことにより、不法投棄や環境負荷の高い処理(フロンの

放出等)を未然に防ぎます。

行政による指導など

温室効果ガス排出抑制等指針

(廃棄物処理部門)に掲げる

措置の実施

温室効果ガス排出抑制等指針に掲げる廃棄物処理部門

における事業の用に供する設備の選択及び使用方法に

関しての措置を実施する。特に一般廃棄物焼却施設ごと

に示している、指針に掲げられている措置を講ずること

による一般廃棄物処理量当たりの二酸化炭素排出量の

目安の達成を図る。

一般廃棄物処理量当たりの二

酸化炭素排出量 行政による導入など

廃棄物焼却施設等における燃

焼の高度化

一般廃棄物焼却施設について、全連続炉の焼却施設設置

を推進し、連続運転による処理割合を増加します。また、

下水汚泥焼却施設において、燃焼の高度化を行います。

燃焼の高度化の実施率 行政による導入など

注)短期、中期、長期の記述は、対策・施策の優先順位を示しているのではない。

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表 4.4-2 対策・施策の整理(2)(循環型社会の形成) 対策区分 対策細目 対策概要

対策進捗管理指標の例

(毎年利用できるもの) 施策例

熱回収等

一般廃棄物及び産業廃棄物の

処理施設における発電等の余

熱利用設備、液体・固体燃料

製造、メタン発酵等の燃料製

造設備の導入及び熱回収の高

効率化

メタン発酵、廃棄物発電、熱回収システムの導入及びそ

の高効率化と場内外における利用を進めます。

廃棄物からの熱回収量、廃棄物

処理施設の熱利用効率

行政による導入、補助、再生可能エネル

ギー電気の固定価格買取制度など

車両対策

ごみ収集運搬車のパッカー装置の電動化とBDFの導

入等を行います。

導入車両数

行政による導入、補助など

廃棄物熱回収施設設置者認定

制度の促進

都道府県知事等が、一定の基準に適合している熱回収施

設を認定することで、高効率な熱回収施設の整備を促進

します。

認定熱回収施設数 普及啓発など

地域循環圏の

構築

バイオマス系循環資源の飼料

化・肥料化等による圏域内で

の循環利用

食品廃棄物等の肥料化による農業生産への利用、生産農

作物の販売など循環的な資源利用を進めます。 廃棄物からの資源回収率 行政による導入など

産業廃棄物等の広域流通によ

る再生利用 製造業廃棄物等の再循環システムを構築します。 廃棄物からの資源回収率 施設設置補助など

大都市における徹底した資源

回収

大都市におけるバイオマス系資源やプラスチック等の

廃棄物について、資源回収の徹底と再生利用等を進めま

す。

廃棄物からの資源回収率 モデル事業の実施など

注)短期、中期、長期の記述は、対策・施策の優先順位を示しているのではない。

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(2) 熱回収等(CO2 対策等)

1) 目指すべき地域の将来像の検討

3.1 で求めた削減ポテンシャルを踏まえ、地域全体の削減目標が達成された際の、熱

回収等の分野での将来像を検討することが推奨されます。 例えば、温室効果ガス削減という視点では、熱回収を行っている一般廃棄物の総排出

量(処理量)、産業廃棄物の中間処理における熱回収量(ごみ処理当たりの発電電力量)

などの進捗管理のための指標などを設定し、具体的に目標を検討することが考えられま

す。

2) 熱回収等(CO2 対策等)に係る対策・施策の立案に当たっての視点

3R を推進する中で、廃棄物焼却施設等における余熱利用及び燃料製造を進めること

とします。地方公共団体は、施設の長寿命化を図りつつ、施設改良、あるいは更新整備

等を進めることを検討することが考えられます。 その際、施設の省エネ化だけではなく、高効率に燃料や熱を回収し、熱や燃料の需要

先を施設周辺に誘導するなど、需要の確保と周辺地域開発を計画的に進めることを検討

することが考えられます。 産業廃棄物についても、地域条件に応じて熱回収等を推進すべく、排出事業者及び処

理事業者に対する助成制度等の情報提供の実施及び評価制度の導入等を検討することが

考えられます。公共関与により産業廃棄物の処理を実施する地方公共団体は、主体的に

熱回収等に取り組むことが考えられます。また、地方公共団体が行う下水道事業につい

ては、下水汚泥の燃料化等の有効利用を推進することを検討することが考えられます。 対策・施策の整理一覧表は(1)廃棄物の発生抑制・再使用・再生利用等にまとめて示し

ます。

(3) 「地域循環圏の構築」

1) 目指すべき地域の将来像の検討

3.1 で求めた削減ポテンシャルを踏まえ、地域全体の削減目標が達成された際の、地

域循環圏の構築の分野での将来像を検討することが推奨されます。 例えば、循環型社会形成という視点、温室効果ガス削減という視点では、バイオマス

系循環資源等の量、熱回収にあっては利用した廃棄物エネルギーの温室効果ガス削減相

当量などの進捗管理を目的とした指標などを設定し、具体的に目標を想定することが考

えられます。

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2) 「地域循環圏の構築」に係る対策・施策の立案に当たっての視点

地域循環圏の構築においては、地域の特性や循環資源の性質に応じて、最適な規模の

循環を形成することが重要です。例えば、一定の地域のみで発生する又は腐敗しやすい

等の特徴を持つバイオマス系循環資源は地域において循環し、高度な処理技術を要する

循環資源はより広域的な処理を行うことが考えられます。 対策・施策の立案に当たり配慮すべき点は、地域循環圏構築の対象となる循環資源の

選定と製品の需要先の開拓です。例えば、食品廃棄物の肥料化から農産品生産・域内消

費を行う一連の循環を構築する、域内・域外にわたる製造原料の循環圏構築、あるいは

廃棄物処理・下水道事業で発生するエネルギーの場外供給などの計画の立案を検討する

ことが考えられます。 計画達成のための手段として、まず事業の計画段階に地方公共団体が事業者・住民な

どから目指したい循環型社会のテーマを募集し、選定を行うことが考えられます。次い

で、事業企画段階にあっては、既存のエコタウン施設やリサイクルプラザの活用や、地

方公共団体の助成制度などの適用を検討することが考えられます。 循環資源から製造された製品の需要先の検討では、例えば、肥料化の場合は農業生産

者、熱供給・エネルギー製造の場合は電力会社、都市ガス会社、民間事業者、農業生産

者など多岐にわたることが予想されるため、他部局との調整、あるいは情報収集を検討

することが考えられます。 対策・施策の整理一覧表は(1)廃棄物の発生抑制・再使用・再生利用にまとめて示しま

す。

3) 「地域循環圏の構築」に係る対策・施策の立案に当たっての計画策定支援

手法

地域循環圏形成を推進する上で、客観的な地域循環圏形成効果を示し、関係者の合意

形成を図ることが重要となります。地域循環圏形成効果は、地域特性や中心となる個々

の事業内容に応じた評価指標を定めて効果を算定する必要があり、循環資源の発生、収

集・運搬、転換、輸送、再生・代替利用の各段階での最終処分量、天然資源投入量、C

O2排出量、コストについては共通する指標として設定することが出来ます。また、地

域循環活力については地域特性や事業内容に応じて個別に指標を設定し、定量・定性の

両面で評価する必要があります。これらの評価指標で算定された結果は、総合点で評価

する性質のものではなく、地域が必要としている指標の性質に応じた重み付けを行い、

地域循環圏形成の効果を評価します。ここでは、地域循環圏形成プロセスの中の可能性

検討段階~計画検討段階に活用可能な計画策定支援手法の紹介をします。 計画策定支援手法は、①循環資源賦存量算定手法、②地域循環圏効果算定ツール、③

地域循環活力算定手法の3つで構成されています。ただし、地域循環圏の特性によって

は、ここに示した以外の判断材料による評価が適切な場合もあり、全てを網羅したもの

ではありません。詳しくは、「地域循環圏形成推進ガイドライン」を参考にしてください。

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図 4.4-5 計画策定支援手法活用の流れ (地域循環圏形成推進ガイドラインより抜粋)

4) 「地域循環圏の構築」に係る地域における取組例

施策立案の参考として、地域における具体的な取組を示します。詳しくは、「地域循環

圏形成推進ガイドライン」を参考にしてください。

① 都市・近郊地域循環圏+循環型産業(広域)地域循環圏(湿潤系バイオ

マスの利活用事例)

都市・近郊地域循環圏+循環型産業(広域)地域循環圏の例として、使用済み紙お

むつの分別回収し、約 20km 程度離れたリサイクル施設で再資源化を行っている福

岡県三潴郡大木町や、宿泊施設から排出された越前ガニの殻を肥料にする取組が行っ

ている福井県坂井市などがあります。

② 農山漁村地域循環圏+都市・近郊地域循環圏(木質系バイオマスの利活

用事例)

山口県では、「やまぐち森林バイオマスエネルギー・プラン」の中で、森林バイ

オマス活用の取組等の成果を基に、全国に先駆けて森林組合、民間企業、行政、研究

機関等がコンソーシアムを組み、森林バイオマスの利活用に取り組んでいます。 具体的には、森林バイオマス専用の収集運搬機材の開発・運用、林業生産活動と連

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携した収集システムを確立することにより、収集運搬の低コスト化を実現し、全国的

に課題となっている未利用森林バイオマスの大規模収集とエネルギー利用を可能に

しました。

③ 循環型産業(広域)地域循環圏+動脈産業地域循環圏(小型家電の利活

用)

デジカメやオーディオプレイヤーなどの小型家電は回収、再生利用の取り組みが遅れ

ており、廃棄されて埋め立てられたり、家庭に退蔵されたりしている小型家電は都市鉱

山にも喩えられます。その効果的な回収に当たってはエコタウン等の循環型産業のシス

テムを活用し、回収された小型家電の再生利用には動脈産業の非鉄精錬のシステムを活

用していくこととなります。

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4.5 適応

4.5.1 適応に関する施策に取り組むに当たっての背景・意義

(1) 定義

適応とは、気候変動の影響に対し自然・人間システムを調整することにより、被害を防止・

軽減し、あるいはその便益の機会を活用することです。既に温暖化により生じている可能性

がある影響が農業、生態系などの分野に見られているほか、極端な高温による熱中症の多発

や、短時間での強雨による洪水、土砂災害の被害などの関連性が指摘されています。将来温

暖化が進行することで、このような影響の原因となる極端な現象の大きさや頻度が増大する

ことが予測されます。 また、ダーバン合意やカンクン合意における「産業革命以前と比べ世界の平均気温の上昇

を2℃以内に抑制するために温室効果ガス排出量を大幅に削減する必要があることを認識

する」という国際的な合意の下でも、我が国において気温の上昇、降水量の変化、極端な現

象の変化など様々な気候の変化、海洋の酸性化などの温暖化影響が生ずることおそれがあり

ます。 こうしたことから、既に現れている温暖化影響に加え、今後中長期的に避けることのでき

ない温暖化影響に対し、地域の視点から、治山治水、水資源、沿岸、農林水産、健康、都市、

自然生態系など広範な分野において、影響のモニタリング、評価及び影響への適切な対処(=

適応)を計画的に進めることが必要となっています。 (概要)

日本の平均気温は1898 年以降100 年あたり約1.1℃の割合で上昇している。特に、1990年

代以降、高温となる年が頻繁にあらわれている。気温の上昇に伴って、熱帯夜や猛暑日の

日数は増え、冬日の日数は減っている。

日本の年降水量は年ごとの変動が大きく、明瞭な増加もしくは減少傾向は認められない。

一方、一日に降る雨の量が 100mm 以上及び 200mm 以上の大雨の日数は、長期的に増える傾

向にあり、地球温暖化が影響している可能性がある。 水環境・水資源:年降水量の変動幅の拡大に伴い、大雨の頻度の増加の可能性及び渇水リ

スクが高まっている。将来は、このようなリスクのさらなる増大、水温上昇や濁質の流入

による湖沼の水質悪化等が予測されている。

水災害・沿岸:高潮や記録的な大雨による浸水などの被害が増加している。将来は、海面

上昇による浸水域の拡大や砂浜の喪失等、また、大雨の頻度増加や台風の強大化に伴う高

潮の増大による被害の拡大が予測されている。

自然生態系:高山植物の減少、サンゴの白化、開花の早まりや紅葉、落葉の遅れといった

生物の季節活動への影響等が既に起こっている。将来は、ブナ林の適域の減少やマツ枯れ

の拡大、サンゴの白化の拡大等、これまで観測されている影響がさらに進行することが予

検討のフローを追記。

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測されている。

食料:高温障害等地球温暖化によると思われるコメ、果樹など、農作物への影響が全国各

地で発生している。将来は、何らの対策も講じなければ、コメ収量や品質の変動、果樹の

栽培適地の移動が予測されている。また、回遊魚の生息域の変動等が予測されている。

健康:熱中症患者の増加や、感染症を媒介する生物の分布域の変化等が起こっている。将

来は、熱ストレスによる死亡リスクの増加、熱中症患者数の更なる増加、感染症媒介生物

の分布域の拡大が予測されている。

国民生活・都市生活:自然環境や気象条件の変化の伝統行事への影響や、観光業やスキー

等のスポーツ産業への影響等が起こっている。将来は、猛暑日や熱帯夜の増加による不快

感の増加、エアコン使用時間の増加による家計への負担、雪不足やサクラ開花時期の変化

等による地域文化への影響等が予測されている。

図 4.5-1 我が国における地球温暖化の影響

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(2) 地方公共団体が適応に取り組む意義

我が国において生ずる可能性のある温暖化影響によって、今後、災害や農業、健康などの

分野において、様々なリスクが生ずることが予想されます。特に、今後、日本全体で人口減

少や超高齢化が進むことにより、地域における防災力を始めとするリスクへの対応力が低下

することが懸念されます。そのため、住民の安全・安心について責任を負う地方公共団体に

おいてこそ、積極的に適応策を進めていくことが必要となります。 また、温暖化影響によって、里地里山の生態系が崩れたり、生物多様性そのものが失われ

る恐れがあることから、地域の個性となる豊かな自然や農業を維持するためにも、適応策を

進めていくことが不可欠です。 よって、温暖化影響への適応は、地域におけるリスクマネジメントという視点でとらえ、

住民の安全・安心・健康を守るため、総合的・計画的に取り組むことが不可欠となります。 また、温暖化の影響は、気候、地形、文化などにより異なるため、適応策の実施は、国レ

ベルの取組だけでなく、地方公共団体において、地域特性に応じ、創意工夫を凝らした取組

を進めていくことが必要となります。 現行の地球温暖化対策の推進に関する法律の上では、適応に係る規定は地方公共団体実行

計画の法定事項に含まれていませんが、今後、政府として適応に係る計画を策定する予定で

あることを踏まえ、実行計画に盛り込むことが望ましいと考えられます。

(3) (目標達成計画の後継計画)等における位置づけ(P)

(本文追加予定)

(4) 国際的な動向と我が国の状況

2007 年 2 月の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)第4次評価報告書(AR4)に

よれば、気候が温暖化していることは疑う余地がないとした上で、将来予測について、1980~1999 年と比べ、21 世紀末(2090 年~2099 年)の気温上昇は、環境の保全と経済の発展

が地球規模で両立する社会においては 1.8[1.1~2.9]℃、化石エネルギー源を重視しつつ

高い経済成長を実現する社会においては約 4.0[2.4~6.4]℃と予測しています。また、予

想される影響として、洪水や暴風雨による被害の増加、数億人が水不足の深刻化に直面する

こと、種の絶滅リスクの増加、感染症や栄養失調などによる社会的負担の増加等があるとし

ています。AR4 は、長期的な展望として、最も厳しい緩和努力をもってしてもなお起こ

るであろう気温上昇による影響に対処するためには、短期及び長期的な適応が必要であ

ることを示しています。IPCC は 2011 年 11 月に「気候変動への適応推進に向けた極端

現象及び災害リスク管理に関する特別報告書」(SREX)を公表し、その中で、気候変動

による災害リスクに社会が対処していくためには、災害リスク管理と気候変動への適応

を統合し、地域、国、国際レベルでの開発の政策と実行に取り組むことが有用であるこ

とを示しています。

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平成 24 年 9 月に、政府の環境・エネルギー会議がまとめた「革新的環境・エネルギー戦

略」では、「避けられない地球温暖化影響への対処(適応)の観点から政府全体の取組を「適

応計画」として策定する、とされています。 そのため、政府全体として、平成 24 年度末に、我が国における温暖化の影響に関する最

新の科学的知見をとりまとめ、「地球温暖化とその影響評価統合報告書(日本版 IPCC 評価

報告書(第 1 作業部会・第 2 作業部会報告に相当))」を策定し、平成 25 年度末に、政府全

体の「適応計画」策定のための予測・評価方法の策定・評価を予定しています。 その後、26 年度末を目途21に、予測・評価を踏まえ、政府全体で、短期的、中期的、長

期的に適応策を重点的に講ずべき分野・課題の抽出し、抽出された分野・課題別の適応策を

関係府省において立案し、政府全体の総合的・計画的な取組としてとりまとめることとなっ

ています。 同適応計画では、3つの基本的な考え方として、リスクマネジメントとしての取組、総合

的、計画的な取組、地方公共団体との連携が盛り込まれる見込みです。

4.5.2 「適応」に係る施策の検討

(1) 目指すべき地域の将来像

適応策は、我が国が現在抱えている人口減少や高齢化その他の社会経済的課題に対する十

分な認識の下に導入されて初めて効果的なものとなります。当面は、短期的影響の防止・軽

減が最優先課題となりますが、気候変動に対する適応を新たな社会創出の「機会」と捉え、

地域・社会づくりを含む総合的視野、長期的視野の下、安全・安心でより豊かな暮らしので

きる国土づくりを目指す視点も必要となります。 このような考え方に基づく社会インフラの強化について、総合科学技術会議タスクフォー

ス報告書では、「グリーン社会インフラ」として定義し、都市構造のコンパクト化、安全・

安心の保証、健康長寿への配慮等を軸として気候変動に柔軟に適応しつつ、活発な生産活動

と豊かな生活を供給する都市構造への転換を図っていく必要があるとしています。 今後、緩和策や他の分野での相乗効果が期待できる適応策を積極的に推進し、低炭素型か

つ気候変動適応型、活力ある持続可能な社会・地域づくりを目指すことが望まれます。

(2) 施策・事業立案に当たっての視点

1) 短期的な適応策と中長期の適応策とソフト施策・ハード施策を含む多

様なオプションの活用

既に生じている気候変動に起因する可能性が高い影響への応急的な適応策や復旧対策に

ついては、少なくとも今後数十年は気候変動が緩和策にかかわらず進行することを踏まえる

21 予測・評価の方法の策定・実施が遅れれば、適応計画策定の時期もずれこむ可能性があります。

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と、可能な限り速やかに着手・推進すべきといえます。 短期的な適応策としては、

農作物の品質低下・収量低下に対する、高温耐性品種の導入や適切な栽培手法の普及 高山帯の植物の減少、サンゴの白化等に対する保護策 海面上昇などへの対策や、狭領域・短期集中型の豪雨被害の増加に対する危機管理体

制の強化、早期警戒システムの整備 自然災害の増加に対する浄水場における自家発電装置等の整備・強化

などが考えられます。 一方、中長期的に生じる可能性のある影響に対しては、リスク評価をふまえ、社会全体あ

るいは各分野の適応能力を向上させることで対応することが必要となります。ここで、予測

の不確実性をどのように解釈するか(どの予測値を採用するか)は科学的な判断基準がある

わけではなく政策判断となります。その際、地域における予算や人的資源の制約の下では、

優先順位の決定が必要になります。例えば、当該地域で特にリスクが高いと考えられる影響

に対しては可能性の高い予測幅の中から高位の予測値を採用し、それほどリスクが高くない

影響に対しては最良推定値を採用することも一案として考えられます。

長期的な適応策については、世界全体の緩和策の程度に依存するため、緩和策の進展状況

を勘案しながら適応の取組も柔軟に見直していくことが必要になります。したがって、現時

点で対応の仕方をあまり固定化せず、柔軟性を確保しておくことが重要になります。

その上で、適応策には様々なアプローチがあります。ハード施策/ソフト施策、また、

法制度/技術開発/経済的手法/情報整備等のアプローチがあります。

以下に、各分野の適応策を、短期/中長期別、ハード施策/ソフト施策毎に例示すると、

以下のとおりとなります。