言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1...

24
- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:○楠本史郎(小) ○道村静江(小) ○脇瑞穂(小) ○林実典(中) ○藤岡理恵(中) ○長尾一(普) ○黒木正(専) <○印は執筆者、カッコ内は所属学部・・・以下同様> はじめに 教科研究部会が設置されてから4年間、国語科では標記の課題に継続して取り組んでき た。幼稚部から専攻科までなる本校の教育課程の中で、学部を超えての連携という面では 弱いものがあり、各学部で個々に対応して取り組んでも、次への学部につながらないとい う問題が見えてきた。それを補うためには、各学部での指導目標と内容をお互いに知るこ とから始め、視覚障害を持つ幼児・児童・生徒に対して、国語科として何を培わなければ ならないかを検討してきた。 その中で浮かび上がってきたのが、「言葉の理解を深める」「語彙を増やす」の二点で あった。視覚に障害があれば、事物の把握や現象の理解は大変難しい。音だけからの情報 に頼りがちになり、使っている言葉の意味を正確に把握しているか、漢語からなる日本語 の理解が十分にできているかなどの課題は、高学年になればなるほど深刻で、その後の様 々な学習にも影響を及ぼしてくることが明らかになった。その指導について、指導事例を 挙げて情報交換することによって、各学部の取り組みがわかり、次につなげていく手だて が少し見えてきたような気がする。 幼児の段階ではいかに探索行動を促し、経験を増やし、触察によって情報を入手できる かが大きな鍵となり、そこから意味を持った言葉の獲得につなげていかなければならない。 小学部段階では、非常に幅のある発達に合わせた指導をしなければならない。低学年では 文字の習得という大きな課題が待っているし、高学年では音読みの漢語言葉が増えてくる 学習内容に対応し、中等教育へつなげていく力を養わなくてはならない。そのために漢字 教育を積極的に取り組みだした。中学部や高等部では、個々の学習環境や習得度合いが違 っていたために、小学校段階までで十分に習得しておくべき文字の獲得や言葉の理解につ いての補いに対応する指導で苦慮している。そして、将来、社会に対応するためには、ど のような力を身に付けておく必要があるのかなども専攻科の模索から見えてきた。また、 点字使用者と弱視者への指導内容や対応の違い、軽度重複や重度重複などの障害程度に合 わせた言葉の習得への指導課題にも取り組んだ。 それらの指導実践を以下に報告する。

Transcript of 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1...

Page 1: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 3 -

教科研究1 国語科部会

言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方

構成:○楠本史郎(小) ○道村静江(小) ○脇瑞穂(小)

○林実典(中) ○藤岡理恵(中) ○長尾一(普) ○黒木正(専)

<○印は執筆者、カッコ内は所属学部・・・以下同様>

1 はじめに

教科研究部会が設置されてから4年間、国語科では標記の課題に継続して取り組んでき

た。幼稚部から専攻科までなる本校の教育課程の中で、学部を超えての連携という面では

弱いものがあり、各学部で個々に対応して取り組んでも、次への学部につながらないとい

う問題が見えてきた。それを補うためには、各学部での指導目標と内容をお互いに知るこ

とから始め、視覚障害を持つ幼児・児童・生徒に対して、国語科として何を培わなければ

ならないかを検討してきた。

その中で浮かび上がってきたのが、「言葉の理解を深める」「語彙を増やす」の二点で

あった。視覚に障害があれば、事物の把握や現象の理解は大変難しい。音だけからの情報

に頼りがちになり、使っている言葉の意味を正確に把握しているか、漢語からなる日本語

の理解が十分にできているかなどの課題は、高学年になればなるほど深刻で、その後の様

々な学習にも影響を及ぼしてくることが明らかになった。その指導について、指導事例を

挙げて情報交換することによって、各学部の取り組みがわかり、次につなげていく手だて

が少し見えてきたような気がする。

幼児の段階ではいかに探索行動を促し、経験を増やし、触察によって情報を入手できる

かが大きな鍵となり、そこから意味を持った言葉の獲得につなげていかなければならない。

小学部段階では、非常に幅のある発達に合わせた指導をしなければならない。低学年では

文字の習得という大きな課題が待っているし、高学年では音読みの漢語言葉が増えてくる

学習内容に対応し、中等教育へつなげていく力を養わなくてはならない。そのために漢字

教育を積極的に取り組みだした。中学部や高等部では、個々の学習環境や習得度合いが違

っていたために、小学校段階までで十分に習得しておくべき文字の獲得や言葉の理解につ

いての補いに対応する指導で苦慮している。そして、将来、社会に対応するためには、ど

のような力を身に付けておく必要があるのかなども専攻科の模索から見えてきた。また、

点字使用者と弱視者への指導内容や対応の違い、軽度重複や重度重複などの障害程度に合

わせた言葉の習得への指導課題にも取り組んだ。

それらの指導実践を以下に報告する。

Page 2: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 4 -

コミュニケーション力、文字獲得に必要な項目(乳幼児期)

幼稚部 小室実花(17年度まで所属)

乳児期前半(~6ヶ月)

特定の人(母)と親密な信頼関係を築く

やさしくたくさん話しかける。乳児が声を発したら、応えるように話しかける。

うつ伏せの姿勢を取らせる。

声かけ、がらがら等で働きかけ寝返り等の運動を促す。

物をつかもうとすることを誘う。

手と手、足と足を上げて合わせて遊ばせる。

乳児期後半(~18ヶ月)

様々な素材の物や、形状の物を嫌悪感を抱かぬ程度に触らせる。

幼児が安心して移動できるよう環境を整備する。長さ、高さ、深さが実感できるよう声

を掛け、体験させる。声かけや玩具で移動を促す。

玩具等の配置はいつも同じように心がけ、幼児が自分で探索するように促す。

言葉に合わせて、簡単な身振りをさせてみる。(バイバイ、ちょうだい)→言葉で模倣

を引き出す。

手づかみで物を食べるように促す。→スプーン等道具を使って食べるよう促す。

発泡スチロールやレーズライターを使ってなぐりがきを促す。

物を入れる、出す、小さい物をつまむ等の動作を遊びの中で促す。

身辺処理の動作を声かけと手添えてやることにより体験させる。

幼児期前半(~2歳後半)

道具(入れる、食べる、書く等)を使用できるように援助する。

様々な物に触れ、物に興味を持たせるようにする。その際名称や用途、形状を言葉で説

明してあげるようにする。

お母さん以外の人とも関係を築けるように促す。同年齢の子とも場を共有し、他児を意

識できるようにする。また、やりとりを仲介するよう心がける。

歌や、絵本の読み聞かせの機会を多く持つよう心がける。

ごっこ遊び、見立て遊びの世界が広がるよう、環境を整え支援する。

幼児期後半(~6歳)

自分から楽しんで遊ぼう(物に関わろう、確かめよう、)という気持ちを育てるように

する。(幼児の気持ちを尊重する。心に添う。)

(集団生活の中で)人の話を聞くよう促す。

自分の経験したこと、感じたことをお話しする機会を多く持つ。

Page 3: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 5 -

文字(点字・墨字)があることに気づくよう環境を整える。

想像を拡げられるようお話などに親しませる。

語彙を増やすとともに、様々な角度からの経験を重ねられるよう心がける。

コミュニケーション力、文字獲得に必要な項目(児童期)<主に単一障害>

小学部 道村静江

低学年(文字導入時期)

<読み書きの力>

50音の並びを知り、正確に発音できる。

促音・長音・発音の区別が分かる。

濁音・拗音の発音、文字構成の意味が分かる。

言葉を一音ずつ分解できる。

助詞・助動詞などを自立語などにくっつけて文を構成できる。

<会話の力>

物体、部位、動作、現象、感情、色などを表す言葉をどれくらい知っているか。

触れるものと触れないもの、具体的なものと抽象的なものの理解はどれくらいか。

言葉は言えるがその意味を理解しているか。

他人の話したことをそのままくり返していないか。

低学年(文字導入後)

<読み書きの力>

日常の話し言葉を、文章に書き表す。

文節分かち書きを知る。

助詞・助動詞などのくっつき言葉によって意味が異なることを知る。

語尾の使い方によって、伝える内容のニュアンスが変わることを知る。

簡単な物語を読んで、その内容を理解できる。

漢字を知る。(主に訓読み)

<会話の力>

場面や状況に合わせた会話体を選べる。

言葉を多く知る。(主に訓読みの言葉)

中学年

<読み書きの力>

分かち書きが適切にできる。(弱視は、漢字が使える。)

漢字の音読みを知り、熟語の意味を理解する。

Page 4: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 6 -

語彙力を増やす。

物語文、説明文などの様々な文章を読み、展開や構成の方法を知る。

あらすじや出来事だけを追うのではなく、心情や伝えたい内容を読み取る。

<会話の力>

状況や考えを説明するのに、的を得た適切な文で話すことができる。

自分の思いや考えを伝えることができる。

相手の意見を聞き、それに対して反応した会話ができる。

高学年

<読み書きの力>

漢字の力をつけ、漢字語が多い文章を読んでも、その内容が読み取ることができる。

目的に合った文章が書け、話の展開を整え、伝えたい内容を盛り込むことができる。

様々な分野の読書に親しむ。

PCを使うために、漢字選択の力をつける。

<会話の力>

私的な会話と公の会話を使い分け、発表できる態度をつける。

相手の意見を尊重しながら、自分の意見を持ち伝えることができる。

小学部における単一点字使用児への言葉の指導

小学部 道村静江

1 児童期の指導計画

小学部は、文字を学び始める6才から、中等教育へ移行する12才までと、その成長過

程は非常に幅広く、その間に習得する文字や言葉の理解は加速度的に進む。そのため、学

齢と個々の能力に合わせて適切な時期に適切な指導を行っていかないと、後半に多くの課

題を残すことになり、本人も指導者も大変な苦労を強いられることになる。

盲児が言葉の理解を深めるためには、漢字の指導が必要不可欠である。今までは、点字

使用者に対しては漢字教育にさほど力を入れずに、言葉の説明を中心に行ってきた指導で

あり、それで仕方ないとされてきた。しかし、近年の情報機器の活用に伴って、漢字の知

識の必要性が叫ばれ始め、漢字教育を行うようになってきた。すると、漢字を知っている

児童の言葉の理解度は、従来とは比べものにならないほどの上達ぶりを示した。

これらのことについて、具体的実践例を示して報告する。

2 過去に指導を行った生徒の実態と指導内容

(1)低学年(小1~小2):異学年の全盲2名

点字導入を終え、教科書などが自由に読めるようになった段階で、カタカナの形、小学

Page 5: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 7 -

1年生の漢字の形や意味、音訓読みをていねいに指導した。文字には点字の他に、カタカ

ナ・ひらがな・漢字があることを知らせ、カタカナの形は漢字の構成に直結するので、カ

タカナを書けるようにした。その後に1年生からの基本漢字をていねいに教えた。

すると、今まで音でしか確認できなかった言葉に漢字を当てはめて考えるようになり、

音訓読みへの意識も高まった。2年生の漢字に進む頃には、同音異義語があることを知り、

意味を考えて漢字選択する意識も出だした。学習の際には、理解するだけでなく低学年の

漢字の形は全て覚え、その構成を口頭で言えるようなドリル学習も行った。これは、今後

学ぶ数多くの漢字を、形と関連づけさせて意味や音訓などを理解し易くさせるためである。

(2)高学年(小4~小6):全盲2名、弱視2名

弱視児の存在によって、日々の学習で漢字学習が欠かせない状況のクラスだった。弱視

児に合わせて全盲児も漢字学習の時間を継続的に確保することで、該当学年で学ぶ漢字を

全て学習した。低学年の頃から部品の組み合わせで学習してきた全盲児は、高学年の画数

の多い漢字でも即座にその構成を理解し、部品の組み合わせから漢字の持つ意味を類推し、

同音の漢字でも意味の違いから使い方にまで考えが及び、適切に選択できるようになった。

一方、弱視児は、書くことに苦手意識を持ちながらも、漢字一つ一つを区別して書ける

ようにしなければならないという意識から、線の数や形を判別するのに苦労し、山のよう

にある漢字を正確に覚えきれないでいた。全盲児が部品の構成で漢字同士を関連づけて覚

えているのに対して、弱視児は一つ一つを違った形としてとらえていることで、漢字の覚

える量や正確さに大きな差が生じるようになった。

そこで、弱視児も低学年の漢字から部品の構成で覚え直し、書いて覚えることを少なく

して口頭で言えるようにした。部品を正確に書ければ、高学年の画数の多い漢字も自然と

書けるようになり、漢字全体の構成イメージができているので、バランスのよい字が書け

るようになった。

全盲児・弱視児共に、個々の漢字の音訓読みをマスターすることも大きな課題であった。

それにはPCの詳細読みが大変役立った。この詳細読みには代表的な音訓が含まれていて、

それを言えることによって、全盲児は漢字を特定して伝えるのが容易になったし、弱視児

は読み方が即座に頭に浮かべられて、読み取りが速くなった。

(3)高学年(小5~小6):全盲1名

点字使用1名だけという学習環境にあるため、漢字指導はそれほど熱心にされてこなか

ったし、本人もその必要性を強く感じていなかったので、熱心に取り組まなかった。読書

がとても好きな児童で、知識量は豊富で、言葉もよく知っている。知らない言葉の意味も、

すでに豊富にある知識の中で自分なりにイメージを描いて理解していた。

高学年に入り、教科書に多くの漢語が登場するようになってきて、授業内容も漢語を使

っての学習が多くなった。それらの言葉の理解は、文脈から意味を読み取る力があるので、

自分なりにわかったつもりで処理していたようだが、思わぬところで勘違いをしていたり、

Page 6: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 8 -

わかったつもりでいても漠然とした意味しか伝えられないでいることが、指導中に判明す

ることが多くなった。

理解力のある児童だけに、漢字を知らないために正確に言葉を把握でききれないでいる

ことが残念だったので、漢字学習に力を入れ始めた。下学年の曖昧だった漢字をしっかり

習得する過程で、今まで何となく理解していた言葉がよりはっきりしてきたことや、間違

った理解をしてきたことに本人も気づき、漢字学習に意欲的に取り組みだした。すると、

指導者も言葉の説明を漢字で行えるようになって、多くの漢語を的確に説明できるので、

学習効果も飛躍的に向上した。特に、6年の歴史分野では漢字を知っていることで、学習

が大変スムーズに行えた。もし、漢字の知識のないままに高学年の理科や社会の学習に入

っていたら、言葉の説明に相当な時間を当てなければならず、苦労した指導になったこと

は間違いない。

(4)高学年(小5):全盲4名

学力的には下学年適応で、しかも同程度の理解力や言語力を持っている4人が揃ってい

るクラスである。そのため、何を学習するにも「どんぐりの背比べ」と言われるほど、似

通った発想・理解・発言・行動をとる。互いが会話し刺激し合う内容にも限度があり、他

からの情報収集も不足がちであり、学習の伸びが少ない。それでも、低学年の頃は簡単な

理解力で処理できたことも多かったが、高学年になるにつれて漢語の言葉の理解が非常に

不足しているのが目立つようになった。それは、日常会話で当たり前のように使われてい

る漢語や大人が話す漢語言葉を十分に理解しないままに、雰囲気だけでわかったつもりで

処理していることがとても多いことが、徐々に判明しだした。

学習内容もそれなりに該当学年の教科書を使って学習してきたが、高学年になると急に

漢語が多くなるので、教科書の内容が理解できないことが多くなった。特に、国語の説明

文の読解は、言葉を知らないためにほとんど意味不明になり、学習は言葉の解説に終始し

てしまうことが多い。理科や社会でも自然現象や社会事情に無関心なこととも合わさって、

さらなる知識の情報収集がうまくいかない。それを行おうとしても、漢語での情報提供に

は対応できないので、学年相応の調べ学習や情報提供には限界がある。

下学年適応の能力だったせいもあり、漢字学習は4年生までにカタカナや小学1年生ま

でをある程度やっただけの状態であった。そこで、5年生に入り、1年生から徹底して漢

字学習を積み上げることを行った。すると、今まで和語だけで対応していた言葉に音読み

の漢字があることを知ると共に、意味もわからず日常的に使っていた漢語の理解が徐々に

進み出した。現在は2年生漢字を習得するまでになったが、その過程で習った漢字を使っ

てある語例で、こんな漢字が使ってあるからこのような意味になるとていねいに解説して

いくと、今までわからずに使っていた言葉を理解できた喜びと新しく知った言葉にはこん

な漢字が使われているかもしれないと予測をたてるまでになった。しかし、まだ習得字数

が十分な量ではないので、間違っていることが多い。教科書の内容を理解するには、学年

相当の漢字を学習していないと、解説をするにしてもその説明に漢字を使えないために、

Page 7: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 9 -

長々と状況説明をするような解説になってしまうので、とても苦労する。漢字で説明でき

たら端的にはっきりと理解できるのにと思う場面があまりにも多い。

3 言葉の理解と漢字学習の関連性

全盲児は、点字の習得によって文字を獲得し、読み書きができるようになる。今まで耳

で聞いて口でしゃべっていたのが、読書から情報を得て、文章で意志を表現することが可

能になる。この学習の導入部分は一般校の低学年児童と一緒であり、低学年の頃は漢字を

知らなくても和語の言葉でほとんどが対応できた。しかし、一般校の児童と大きく異なる

ところは、漢字学習を積み上げていないことである。墨字使用者は、必然的に簡単な漢字

の学習から始めて、徐々に使える漢字を増やしていき、高学年の音読み言葉に自然に対応

できる力を身に付けていく。しかし、全盲児の場合は低学年の頃は漢字の必要性を感じな

いままに過ごしてしまうケースが多く、高学年になって漢語言葉、特に同音異義語の言葉

に苦労し、学習の理解度が急激に落ちる。

4 指導計画と課題

従来から、点字使用者であっても言葉の理解を助けるために漢字教育は必要だと言われ

ていたが、具体的な方策もないままに過ごされ、高学年になっても言葉の説明だけで対応

していることが多かった。近年の漢字教育の実践で、漢字の知識の有無が、小学部高学年

から中等教育以上にどれだけ必要なことであるかを改めて実感している。

そのためには、低学年の頃から段階を追って導入していく指導計画を立てておかなけれ

ばならない。低学年の頃は、点字の他にカタカナ・ひらがな・漢字の文字があることやそ

の形や成り立ちにおもしろさがあり、漢字一字には意味があることを知らせて、楽しく学

習を進めていくことが大事である。

その土台の上で、中学年では日常的に多く使われる漢字を理解し、高学年で抽象的な意

味を持つ漢字や使い方に微妙な差がある漢字を学び、日本語の様々な言葉に適切な意味を

持つ漢字を当てはめてあることを知ることによって、言葉の理解も広がり、学習に活用で

きるようになる。しいては、その漢字の知識が、将来情報機器を活用して社会参加を可能

にし、晴眼者と対等の文字処理できる力につながる。

近年、情報機器を使うために漢字を知っておいた方が便利だと言われる傾向にある。小

さい頃から漢字の知識を得て、言葉の理解を深めながら学習を積み上げていくことが、将

来的に情報機器にも対応できることにつながる。だから、中・高等部になってから漢字学

習を始めるのではなく、小学部段階から計画的に積み上げていくことの必要性を、指導者

側ははっきりと意識しておく必要がある。なぜならば、漢字学習には大量の時間を必要と

し、見たり書いたりできない点字使用者には意識的に学習を積み上げていかなければ達成

しない学習課題だからである。

Page 8: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 10 -

小学部における軽、中度重複障害の弱視児へのことばの初期指導

小学部 楠本史郎

児童 B(3年)

1 実態

幼児期の経験不足や重複障害児であるがゆえに実生活とことばとの結びつきが希薄で、

ことばの習得や理解力、表現力が不充分な状態である。ものを見る意識や、注視する力、

目と手の協応がうまくできるかなどの学習以前の支援をも必要としている。こくごとして

の学習はひらがな、カタカナ、漢字、数字などの読み書きを中心に、ことばの入門期の学

習をほぼマンツーマンの授業形態をとっている。

漢字、かな混じりの拡大本や手書き拡大本(Ⅰ、2年次教科書、3年自主教材)を使用し

ているがひらがなはほぼ読める。型が似かよっているものなどは誤読したりするが、確認

させると読める。一文字一文字は読めている(指を抑えながら)が語や文のまとまりとして

読むことは困難なようでまだ出来ていない。カタカナについては使用頻度や目にするのが

多いもの、かな文字に型が似かよっているものなどは読めるようになっているが、全カタ

カナの読みにはいたっていない。漢字は1年生に出てくる20文字程度のものを何とか読

みこなす程度である。読みたい、覚えたいという意欲は十分にあるようで広がりがもてそ

うだ。

書くことへの関心は高く、自分の名前や身近な人の名前などをひらがな文字で書く。一

定した直線を書くのが難しく蛇行したり、曲線が思うようにまわせなかったりして苦労を

している。鉛筆の上げ下げも同様である。点、線などの長短や交わりなどあまり意識せず

に鉛筆を動かしている。手を添えたり、なぞり書きや模写などしながら習得に努めている。

教材の範読や童話や昔話の読み聞かせなどは聞こうとする意識や興味は感じられる。登

場人物や動物、場面などの展開は部分的に覚えていたりし感想や名前を発表したりするの

だが、なかなか集中できず視点が定まらなくなってくる場合がある。

自分の体験したことや経験したことを話すことは少しずつまとまりを持って出来るよう

になってきている。

2 実践

学習を楽しく効果的にするため、見えやすい環境条件を整える必要があると考え、JIS

企画の机に加え傾斜机、拡大読書機、拡大本、手書き拡大本などを使用。拡大読書機は学

習向けに使用するのでなく遊びがかったものとして使われ有効的に活用するまでには至ら

なかった。もう少し文字への習得意欲が芽生えてくれば価値が見出せるかもしれない。

また、適切な筆記具として、携帯用のホワイトボード(A3番より大きめ)とフェルトペン、

紙とサインペン・2B の鉛筆などを使いながら 2B の鉛筆、桝目の原稿にたどりついた。

文字に親しむ機会が少なかったのか、自分の名前が読める程度でほとんどのかなが身に

ついていない状態であった。

Page 9: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 11 -

ひらがなカード、絵付のひらがなカードや五十音図表を使いながらひらがなを読んだり、

身近な人の名前や物の名前を並べて表示したりした。平行して教科書や拡大本など読んで

いく。読めない字がある場合は改めてカードや図表を活用しながらサポートしていく。

教科書や拡大本、手書き拡大本を音読する場合、文字を指押ししながら明確にして読む

ようにしているが文字を追うごとに意識が奪われ単語や文としてのとらえが希薄になって

いる。指押ししながら繰り返し読むことはかなの認識につながってはいくが、単語や文の

つながりとしてとらえることは読みの積み重ねが必要である。ゆっくりした音読などは見

込み読みになってあらぬところを指さしして忠実に読むことが疎かになる場面も見られ

る。視力の関係なのか類似した型のものは誤読しやすい傾向にある。そのため、違いの部

分並列させて強調しながら意識付けをしている。カタカナ、漢字については出てきたもの

を抽出して練習している。文字の大きさや種類については、28ポイントのゴシック体を

基本に使用しているが教科書体と違って逆さ文字風のところがあって誤読する場合が見ら

れる。あいまいな覚えこみによるものもあるようである。

文字を書くことに興味・関心を持つ。自分の名前は模写して書くことが出来ていたが、

鉛筆の持ち方や手の添え方などを心にとめて、縦、横、斜めなどの長短の直線や曲線を混

ぜながら書くことから始める。繰り返し線引きをすることで筆づかいの慣れや筆圧の安定

につながって揺れがなくなりしっかりした線につながっていく。

携帯用のホワイトボードやマス目のある原稿用紙(マス目の中に中心線をつけ4分割)を

使って、平易なかなや自分の名前、身近な物の名前など手を沿えて書いたり、なぞり書き

をしたり、注視して書いたりする。字面や文字の形も意識させながら書く。学校の学習だ

けでは書く量が少ないこともあって家庭との連携を取りながら宿題を出し協力を求めてい

る。書き慣れる経験を増やしていくことが大切に思われる。

聞くことは話者のほうへ集中して耳を傾けるようにしているが、時間の経過にともない集

中力が欠けてくる場合がある。

話すでは短い文から少しずつつなげながら、楽しかったことや自分の身のまわりでおき

たことなどを自分のことばで順序だてて表現できるようにする。また大事なことを絞り込

んで整理して発表できるようステップアップも試みている。

3 まとめ

見えにくさや発達の遅れをもちつつも、緩やかながら文字の読み書きの力やことばの習

得が身につき、満足感や達成感が得られるようになって学習意欲や積極性が備わってきて

いる。常に学習の基本となることばの習得をどう促し、達成感や満足感が得られ、知る喜

びや学びのすばらしさを得るかを考えていくためには小さな目標を示して充足感を満たす

ことが必要になってくる。また、その積み重ねが日常生活の中でのことばへの親しみや理

解、表現する力につながりを持つようになればと考える。

Page 10: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 12 -

小学部における重度重複障害児へのコミュニケーション指導の一考察

小学部 脇瑞穂

1 児童の実態

本校小学部では重複障害を抱えた児童が過半数在籍している。視覚障害に併せて主に知

的障害を持つが、中には肢体不自由や聴覚障害を持つ者もおり、個々への丁寧な対応が急

務な状態である。

今回はその中の1ケースを取り上げて1年間の指導経過を振り返ることを通して、視覚

障害児の重複障害教育への一参考例としたい。

1.対象児童:A (女 2005年度に小5、現在小6)

2.障害の程度:重度知的障害 弱視

3.2005年度当初

低緊張の上、体力や筋力が第二次性徴による心身の発達に追いつかず、疲れやすい。性

格は人なつっこいが、触覚や聴覚に過敏があり(人に少し触れられるだけでかんしゃくを

起こす、靴や靴下を持続して履いていることができずすぐに脱いでしまう、帽子をかぶる

のを拒絶する、リュック型カバンを背負うことに強い拒絶を感じる、自分の好きな音《童

謡などのCDや歌声等》以外の音には過剰に反応し、かんしゃくを起こす等)、体調が優

れない時や不安感が生じるとすぐにかんしゃくを起こして暴れる。歩行はロボットのよう

にぎこちなく不安定で長続きしない。椅子に座っていられずにすぐに床へしゃがみ込んで

しまう。

2 実践(仮説)

1.仮説

上記2の実態をふまえ、学習を始める以前の状態と判断し、最初の課題はラポールを取

ることがまず第一と思われた。そのためにもまず本人の触覚及び聴覚に残存する聴覚過敏

の軽減を第一課題として設定した。

これと同時に情緒の安定を図ることも目指した。家庭では保護者や祖母と情緒的に安定

した接触が可能であったことから、情緒の安定によって家族以外の者とも簡単な意思の伝

達や指示に従うこともできるようになると仮定した。

2.実践

(1)触覚過敏を軽減するプログラム

本児がブランコなどの前庭感覚刺激系の遊具に非常に執着していたので、それに乗りな

がら身体各部に刺激を与えて様々な触覚刺激が快の刺激に変換するよう計画した。

初めは皮膚対皮膚の接触が一番自然であると仮定し、担当者が手のひらで本児の背中(触

覚刺激的に比較的鈍い部分)を押してブランコを揺らし、背中への接触に抵抗がなくなっ

たと思われた時点で肩や腕、脚部、はては頭部や頬など全身まんべんなく触れていくよう

Page 11: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 13 -

にした。手のひらや足の裏へのタッチも行えるようになった時点で、触覚刺激をボール状

のハンドマッサージ器やほこり避けブラシ、ナイロンたわしなど様々な性質の物に変更し、

同様に繰り返した。またこの際に、常に本児の好きな童謡を歌い聴かせることも併せて行

った。

これによって、4ヶ月ほどで触覚への異常な過敏さは軽減された。これ以降、苦手だっ

た靴下の着用やカバンを背負うこと、帽子をかぶることなどができるようになってきた。

(2)単語を活用してのコミュニケーション指導

(1)の触覚過敏軽減(脱感作)を行いながら、コミュニケーションによる単語指導も

平行して行った。

本児は1単語のエコラリアが顕著に見られていたので、場面に応じて簡単なやりとりを

できるようになればコミュニケーション意欲が向上するのではないかと考え、初めはとに

かく「はい」を言うように指示した。だが、あまりにもかんしゃくを起こす場面が多く、

「はい」の本来の意味が伝わらないと考え、「どうしても嫌な時には『いやだ』『やーだ』

と言えば絶対やめるから」と約束した。本児がかんしゃくを起こして叫んで泣き始めた時、

「それは『やーだ』でしょ」と繰り返し指示を出したところ、だんだん「やーだ」と言う

ようになり、それと同時に必ずその授業を中断して嫌な状況を回避できるようにしたとこ

ろ、少しずつ言語で不快状況を回避できることを体得していき、情緒面に少し安定の兆し

が見られるようになった。

また、ブランコに乗る以外の場面でも担当が歌を歌うことを喜ぶようになり、催促する

ようにメロディーを口ずさむようになってきた。

これを機に、それまでは担当が本児の側に寄っていって関わりを持とうとしていたのを、

少し離れた距離から声かけによって本児が担当の所まで来る練習を開始した。本児も歌を

歌って欲しいがために寄ってくるようになった。

本児の「やーだ」で担当がやっていたことをやめる、担当者の「こっち おいで」で本

児が寄ってくるというやりとりがほぼ定着し、コミュニケーションすることの楽しさや安

心感が理解でき始めていると思われた。それ以降は「はい」「ふーん」「おおー」等の相

づちを積極的に会話の中で使うようにしていったところ、他の先生に話しかけられた時に

もこれらの言葉を使用するようになり、そのたびにみんな喜んでくれたことがまた本児の

喜びへとつながり、冬頃からは様々な人に積極的に近寄っていくようになっていった。

この頃から朝の集いでの呼名の際に、友達の名前を復唱させるようにしたところ、復唱

ではないが呼名のイントネーションをまねするようになり、それがスムーズにいくように

なった頃からそれまで無視していた同年代の子ども達の側にも寄っていくようになり、よ

うやく集団授業に参加することに強い抵抗を示すことが減っていった。

(3)体力増強

2005年度当初、本児の歩行の様子はまるでロボットのようにぎこちなく、不安定さ

Page 12: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 14 -

が強いものだった。

5月、6月にPT,OTから指導を受け、上半身の筋力が下半身の筋力に比べて非常に

弱く、そのため歩行の際に上体を保てないとのアドバイスを受けた。

一番の改善方法は様々な場所を歩行することという指示を受けたので、週に3回、校外

を各30分程度歩行することとした。

初めはすぐにしゃがみ込みたがり、10分を超えた頃からぐずり出すのを無理矢理歩か

せる状態だったが、半年以上続けていくうちに30分程度の歩行は問題なく遂行できるよ

うになった。これに伴い、椅子へ座り続けることも少しずつ苦ではなくなり、歩行・座位

ともに安定するようになった。

3 まとめと課題

1.まとめ

児童にコミュニケーション能力を獲得させる時に、つい性急に言葉によるコミュニケー

ションのみを学習させようとしてしまうが、本児のように知的に重度であればあるほど身

体的・生理的な要因に情緒が左右されてしまい、目的に達するどころかその入り口に立つ

ことさえ拒絶されてしまうことはしばしば見られることである。特に児童期は、心身共に

成長途中なために、このようなアンバランスが生じてしまうことは決して特別なことでは

ない。

本児の場合も、体力増強を継続していったことで姿勢保持への疲労感や不快感が軽減さ

れたため、結果としてコミュニケーションを取ろうとするゆとりが生じたと考えられる。

また、このことは身体的要素が無視できない重要な要素であることが推測される。

小6の現在、体幹保持能力も向上し、椅子に座り続けられるようになったためにようや

く座学が15分ほど行えるようになった。(主に手指機能の向上学習を行っている)

また、コミュニケーション用の単語も増加しており(現在 「シーヂー(CDかけて)」

「やって」「ダダダッダ(てつだって)」「バイバイ(さよなら、もうあっち行って)」

「か(帰ろうよ)」など)、日常生活のルーチンといった、限定された状況下ならばほぼ

本児の想いも伝わるようになり、その結果安心して過ごせる場面が増加したと考えられる。

また、それまでは自分の要求に応えてくれる先生のみに関心を持ち、児童に対しては無

関心か、あるいは拒否反応を示していたが、呼名の際に一人一人の名前を呼びかけるのを

繰り返したことで、先生以外の「誰か」がいることに気が付いた様子も伺え、それ以降は

児童達へも積極的に近寄っていく仕草が見られるようになった。仲間の存在もこのように

音声言語を用いて繰り返し伝えていくことが非常に重要だったのだと改めて気づかされた

一件でもあった(こうなるまでに3ヶ月ほど要している)。

2.課題

本児の場合、情緒的な不安定さにばかり目が向けられ、その原因である身体的・感覚受

容器的問題が看過されてきたために学習の機会がなかなか保障されなかった。これは、昨

Page 13: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 15 -

今急激に重度重複化している盲学校の実態に、重複障害への教授法が追いついていなかっ

たことが最大の問題点だと思われる。

あるいは、情緒的な問題に振り回され、本来は専門分野であったはずの「弱視」に対す

る学習法の分析がおろそかになって、本児へは応用されずにいたために、他の感覚器を併

せ活かした学習へとつながらなかったことも要因の一つである。

本児も今後様々な人とともに外出する機会も増え、公共機関を利用していく必要性が出

てくるが、かなり落ち着いたとはいえ身体がかなり大きく成長した本児が本気でかんしゃ

くを起こしたら、引率の者が本児の安全を確保できる保障はない。信号待ちなどでの過剰

なパニックなどは無くなってはきたが、本当はもっと身体が小さく、引率者がコントロー

ルできるうちに学習しておくべきことが多くあっただろうことは想像に難くない。

重度重複障害児にとって、コミュニケーション能力は自分の生命を守ることにも直結す

る。それは単純に「言葉」に依ってのみ履行されることではなく、他者といることを快に

思い、意思を伝え合い、時には相手の指示に従うことも楽しいという社会的欲求を充足さ

せることでもある。重複障害教育を行う時には、言語もそれを達成するための一手段なの

だということを忘れないでおく必要があるだろう。

中学部弱視生徒への支援のあり方

中学部 林実典

1 生徒の実態

中学部全生徒 14 名中,弱視者(単一障害)は6名である。一人ひとり障害がちがうの

で,共通の問題点や指導法はあまりないように思われるが,少し挙げてみる。

共通して言えることは,文字が見えにくいことである。但し,見えにくさは千差万別な

ので一概には言えない。従って,その生徒に合わせた拡大文字を使えば見えにくさのいく

らかは軽減される。

また,障害があるために文字の読み書きのスピードが遅く,公立の小学校での一斉指導

による学習にはついて行けず,取り残されてきたか,または,やる気を失ったことによる

学習の遅れが見られることである。

ここでは,弱視生徒 6 名のうち,公立小学校卒業後に本校に入学してきた 2 名の生徒の

事例を取り上げることにする。

●生徒A(中三男子)

1歳半の時,2階から落ちて頭蓋骨骨折。後遺症による障害を有する(視神経萎縮)。

ひらがなはなんとか読めるが,漢字は読みづらい。目と日の判別がつかず,「県」の字

を見て「先生,横棒は何本ですか。」といつも確認する。これは,横の線がゆがんだり

して識別しづらいためである。記憶力も著しく悪く,今練習したばかりの漢字の読み方

をすぐに忘れてしまう。従って,説明文や物語文の音読や朗読も,漢字の度につっかえ

てしまう。本校入学後,少人数での学習で,日記を書く,小1からの漢字を練習する等,

基礎的な学習の再スタートを始めたところ,意欲が出てきて真面目に学習している。

Page 14: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 16 -

●生徒B(中三女子)

色素脱出症(白子症)。視力約0.03。眼球振とう。黄斑低形成。また,しゅうめ

いもあるので,教室にいてもよく眩しがっている。読んでいる最中によくため息をつく。

音読のスピードは著しく遅い。漢字を書くとき,細かいところが読みにくいらしく,適

当に書いてしまうか乱暴な文字を書くことがある。読解力や記憶力はあるので,同じ教

材文をくり返し学習すると,読み取ったことをノートにまとめることができる。言葉で

説明することは好きだが,感想文を書くなど自分の気持ちを文章で表現することが苦手

で,書き始めに時間がかかる。

2 研究実践(支援の重点)

<読む>

生徒A,Bは,比較的国語の能力に差がないので,同じ内容の教材で学習している。現

在は,小4~小5の3社ほどの教科書の中から,内容や季節の話題等が適当と思われる物

語文や説明文を中心に,読み取りを行っている。長い文を一人で読むのは本人がいやにな

ってしまうので,一文読み(。読み)等をして友達と協力しながら読むことにより,集中

力が持続するように配慮している。読むスピードは速くはないが,数時間同じ教材を練習

することにより,読むことに対する自信が生まれ,意欲をもって取り組むようになってき

ている。音読後はできるだけほめるようにし,本人のやる気が高まるように配慮している。

秋の読書会(読み聞かせの会)では,A,Bの生徒が二人でチームを組んで参加し,短

い持ち時間の中で説明文と詩の朗読を上手に行うことができた。聞いていた教員数名から,

驚きと賞賛の言葉をかけてもらえるほど,読みの能力は上達しつつある。

教材文は 28 ポイントを使用し,ノートの罫線は大きな文字が書きやすいものを選ばせ

ている。

<書く>

詩や感想文等を,一人で書くというのは難しい。文の構成を考えたり,創作したりする

のに苦労するからである。そこで,今週のお題,今月のお題といったものを作り,それを

授業の中で生徒同士,または,教師のアドバイスも加えて,相談しながら書くようにして

きた。初めは一つの題について,1行か2行の文しか書けなかった。今では,5,6行の

文の中に事実と意見を入れて,短時間で書くことができるようになった。日記も書くよう

にしている。当然のことだが,お題や日記の返却時には,適切なコメントを添えたり,少

々子どもっぽいとは思うが,数種類のシールを貼ったりしている。これらが次に文章を書

く意欲になるように,と心がけている。

漢字の練習の際は,一度にたくさんの文字の練習はしないようにして,少ない文字を黒

板で一緒に書いたり,その字の書き方のポイントを口で言いながら書くようにしている。

毎日,少量の宿題を出すようにしてきたところ,生徒Bは,どうにか漢字検定 8 級(小3

程度)に合格した。文字もていねいに根気よく書くようになってきている。

校内読書コンクールに「創作」の分野で,A,Bの両生徒が出品した。Aは,自分の出

場した神戸国民体育大会での体験を,生き生きとリアリティーに満ちた表現で書き上げた。

Bは,主人公が夏休みに南の島で体験する不思議なミステリーを,わかりやすくまとめる

ことができた。Bの作品は,創作部門で第 1 位に選ばれた。二人とも自分の気持ちを表現

Page 15: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 17 -

することには,少しずつ自信をもつようになってきている。

<話す>

生徒Aは,語彙や知識が不足していることにより,会話をすることに消極的なので,授

業の始まりの 5 分間程度は,本人の好きなスポーツやゲーム,友達のこと等を進んで話せ

るような雰囲気作りにつとめている。

生徒Bは,会話が好きで,自分から進んでおしゃべりをする。大勢の前で発表すること

に大変意欲的で,春の弁論大会や 2 月の「未成年の主張」は,意欲的に取り組む。内容を

アドバイスしてあげると一生懸命文章を作り,長い作文を完全に暗記して堂々と発表する

ことができるようになった。このことも本人を励ます手段となっている。

二人とも,国語の時間に発表する機会を多くしてきたので,ホームルームや朝会の際の

司会等も,以前より落ち着いて大きな声で話すことができるようになってきた。

<その他>

小学校時代にいろいろな面でコンプレックスをもったり,生徒にとっての学習環境が十

分に整っていなかったりしたため,国語の学習の面でもつまずきが多くみられた。しかし

本校の少人数での学習では,自分のありのままを出して活動できる。

間違ったことを指摘されたり,叱られたりすることは,とてもいやがる傾向がある。盲

学校でなくても当然のことだが,生徒の自信がつくように,できるだけ多くの場面で励ま

したりほめたりするようにしている。音読や発表の後は,良かった点をあげながら必ず一

言ほめている。これにより,発表することへの苦手意識も徐々になくなりつつある。

3 まとめと課題

授業では,国語の学習に興味をもち,意欲的に学習するようになったが,進んで家庭学

習を行ったり,向上心をもって取り組んだりしているわけではない。現在,小学校3~4

年生の漢字や読み取りをしているが,高校卒業時までに小学校6年間で学習する程度の漢

字や読み書きができるようにしなければならない。また,語彙が少なく,言葉や文章を理

解するのにも時間がかかるので,就職先での会話でどれほどのコミュニケーションが取れ

るようになるかというのが,一番の課題である。

12月の進路相談では,生徒A,B共に本校普通科Cコースを希望している。Cコース

の国語学習では,現在中学校程度の内容を学習している。他校からの入学生と同じグルー

プで学習していくとすれば,様々な点で問題点が生じてくると考えられる。漢字の習熟度

では,まだ小学校高学年レベルの文字の読み書きはほとんどできない。文章理解や構成を

考えての作文等も中学校レベルの学習ではついていけない面も多いと考えられる。今後,

普通科担当の教諭とも連絡を取り合いながら,適切な学習活動が行えるように支援体制の

充実をはかっていかなければならない。

中学部・高等部本科普通科における点字使用生徒への指導

Page 16: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 18 -

中学部 藤岡理恵

1 中学部からの点字導入

中学部・普通科では小学校・中学校を地域の一般校で過ごし、進学するにあたって様々

な葛藤を経たのち盲学校に進学してくる生徒たちを毎年受け入れている。その中には、視

力の低下によって今まで使っていた文字(墨字)が使えなくなり、やむなく盲学校へとい

う生徒もいる。視力の低下にともない行動範囲が狭まることに加え、コミュニケーション

や学習の手段としての「文字を失う」という二重のショックをもって入学してきた生徒に

対して、点字の導入、さらに点字を使っての学習、読解力や表現力を養うためにどのよう

な指導を行えばよいか、中学部から盲学校に入り、現在普通科2年に在籍する生徒 A につ

いての事例を報告する。

2 生徒の実態

生徒 A は未熟児網膜症・白内障であった(視力は眼鏡使用で0.3・0.3、一人で自転

車に乗って遊びに行っていた)が、小学5年生ころに網膜剥離が進み急激に視力が下がっ

た。6年生では弱視学級に在籍。拡大読書器を使い学習していたが、2月に本校の入学検

査を受検したときには、画面上に数文字の大きさに拡大しなければ文字が読めない状態に

なっていた。現在では左右とも視力0である。中学部卒業後、普通科 C コースに進学した。

中学部入学の時点で小学校高学年での視力低下の影響もあり学習の遅れがあった。記憶す

ることは得意ではない。身近な物、経験したことがある事柄についての語の意味はわかる

が、抽象的な概念を表わす語の意味が理解しにくい。しかし、学習意欲はあり苦手な「覚

えること」にも一生懸命取り組んだ。学習したことを応用して考える力は弱いようである。

3 指導の経過

中学入学時には保護者も点字への移行を望んでいたため、国語・自立活動の授業を中心

に点字導入の指導を行った。教科書の朗読テープを作って対応した教科もあったが、自分

で読み書きして確認することができない状況で、学習は他の生徒から遅れがちになった。

1年生の後半にはスピードは遅いが点字を使って授業に取り組めるようになった。英語

科では英語点字の導入を始めた。

読み書きについては毎日学校で練習するほか、家庭学習(宿題)では日記を書くことと

課題文を読むことに取り組むことにした。表記の正確さと読みのスピードアップを目的と

したものである。小学校時代に家庭学習の習慣が身についていたとは言い難いが、小学校

低学年での導入との違いは、本人が必要性を自覚し学習に取り組めることである。そこで

話し合いで読みの目標を1分に何マスにするかを決めて、「できた」「できなかった」と

一喜一憂しながら少しずつ読み書きの力をつけていった。読みのスピードを速くするとい

う課題には現在も取り組んでいる。

また、「読み書き」に重点をおいた学習ばかりでは楽しみがなくなるだろうと考え、楽

Page 17: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 19 -

しい読み物を工夫して朗読することに取り組んでみた。まだ長い作品を読み通す力がなか

ったため、Aが自分で選んだのは簡単な童話であった。どんな声がぴったりか、声の大き

さや速さはと考えて校内の読書コンクールに朗読で応募し、入賞することができた。この

ときには一人で感想文を完成することはできなかったが、朗読という手段でも自分を表現

できるということがわかり、その後も声を使った表現(朗読)は好きな課題になっている。

学習に文字が使えるようになると、読んだ文章の内容が理解できるか(読解力)、自分

が思っていることを表現できるか(表現力)が次の重要な課題になった。墨字から点字に

使用文字が変わって漢字がなくなった一方で音だけでその語の意味を読み取るには、前後

の文脈を理解することや語彙の豊富さも問題になる。そのために点字の練習も兼ね、意味

がわからない言葉は一人で調べられるよう、辞書の使い方を教えた。初めは面倒だと思っ

ていたようであるが、最近では一人で図書館で辞書を読んでいる姿がみられるようになっ

た。「意味が知りたい」と思う言葉があるときに人に聞くのではなく自ら調べられる手段

をもったことは、自信につながったように思う。

表現力を養うためには、毎日の日記に加え、「今週のお題」や「今月のお題」を作り中

学部・普通科の他の生徒と作品を発表しあう機会を作った。また、学外にそのときどきの

出来事を伝えたい友だちができて、手紙を書きたいという気持ちが芽生え、自分で書いた

ものを持ってきて「みてください」ということも出てきた。

現在は、授業では弱視生徒(1年・3年)と同じクラスで学習している。それぞれの普

通科卒業後の進路を考え、高校生用の「国語総合」「現代文」の教科書を中心に文章の読

み取りに重点を置いた課題に取り組んでいる。家庭学習では教科書以外の点字教材に取り

組むほか、話題になった小説やエッセイなどを図書館から借りて読書を楽しんでいる。

4 まとめと課題

盲学校に入学してからの学習をまとめると

① 点字の読み書きを覚える

② 指示された課題に取り組み、点字の読み書きの力を伸ばす

③ 点字で書かれた教材を読み、内容を理解する

④ 自分の考えを点字を使って文章で表現する

⑤ 読みたい、知りたいと思ったことについては自分から取り組む

このような経過になる。

点字の読み書きの力を基礎として読解力・表現力の向上を目指してきたが、その点では

まだまだ高校生として十分な学力を身につけているとは言い難いので、自主的な勉強だけ

では不十分と考え課題(1回分が2~3ページ程度の文章問題)を用意して取り組ませて

いる。

今までの学習を通しての最も大きな変化は、点字導入の初めにあったであろう「しかた

ない」という気持ちが、現在では「自ら学ぼう」という姿勢に変わっていることだろうと

思う。教科書を使った学習だけではなく、「読みたい」「知りたい」と思う題材を提示す

Page 18: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 20 -

ることでさらに学ぶ意欲を高めていくことが今後の課題である。

高等部本科普通科における弱視生徒への教科指導

~高等部より本校へ入学した生徒を中心に~

高等部普通科 長尾一

1 高等部本科普通科について

高等部本科普通科では、生徒の実態(学習状況・進路希望等)により、4つのコースを

設定し、さらに同コース内で学年や学習進度を考え、複数の学習グループに細分化してい

る。

A コース:ほとんどが自立活動としてのねらいを持つ。

B コース:日常生活訓練や作業学習を通じて、身辺自立をめざす。

C コース:基礎的な知識を身につけると共に作業学習も行い、学習面・作業面の

基本の習得をめざす。

D コース:高等学校普通科の教育課程に準じる。

Aコースでは、「基礎学習」の中で、「ことば」として、BCDコースでは、「国語」

としてそれぞれ授業を展開している。

本校の場合、各コース内の学習グループでは、特に点字・墨字それぞれの生徒を点字グ

ループ・墨字グループとして分けていない。しかし、現状として、Dコース1年生は弱視

生のみ、2年生は全盲生のみのため点墨別になっている。Cコースは、弱視生8名、全盲

生1名を2グループに分け、Bコースは、弱視生1名、全盲生1名を1グループとしてい

る。Aコースにおいては、各担任が個別の授業形態をとっている。

本校では、幼稚部、小学部、中学部と設置されているため、下の学部から進学してくる

生徒もいるが、ここでは、中学校普通学級・個別支援学級より入学してきたCコースの弱

視生5名のグループを中心に、学習支援上の問題点や課題について報告する。

2 生徒の実態

このグループの生徒は、全員が一般中学校で学んでいることが共通している。

学年は、3年生1名、2年生1名、1年生3名で5名中2名が女子である。受検年度は

違うが、入学検査の結果を見る限り、全員が「漢字」、「文章読解」において苦手意識を

持っていることがわかった。「漢字」では、小学校の漢字であれば、ある程度読むことが

できたが、書くことになると小学校低学年のものでも、自信がないため全く書けないある

いは書いても不完全な文字になってしまっていた。

入学後、実際に授業で様子を見てみると、ほとんどの生徒が文字を書く際に、知ってい

る漢字をできるだけ使っていた。このことから考えると、入学検査独特の雰囲気から来る

Page 19: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 21 -

緊張感が少なからず影響していたのではないかと推測される。

書く文字も皆、丁寧に書こうという姿勢が見られる。

中学校までは、弱視としてのケアがなされておらず、授業はお客さん状態ではなかった

かと推測される。また、本校の門をたたいた理由には、弱視としてのケアを求めるのはも

ちろんであるが、集団生活の中の人間関係に疲れたことを理由にあげる生徒も少なくない。

●生徒A(3年 男子)

(1)健康状況

①眼疾患 未熟児網膜症・近視性乱視

②視 力 右:0.04 左:0.04

③その他 染色体異常・右難聴・滲出性中耳炎・腎盂炎・喘息 他

(2)学習状況

入学時より、眼疾患以外の疾患の関係でなかなか登校できないことが多く、登校しても

午後まで授業に参加できることはあまりなかった。そのような中であっても、読書が好き

で文庫本も読める視力があるため、自宅にて読書をしているためか、文章内容の理解力は

ある。漢字を書くことは、見え方の問題が大きいと思うが苦手である。しかし、読む力は

かなりある。

●生徒B(2年 男子)

(1)健康状況

①眼疾患 未熟児網膜症

②視 力 右:眼前手動 左:0.02

③その他 塩素剤過敏

(2)学習状況

小学校時代は一般級、中学校は個別支援級ということで、小学校時代は弱視としてのケ

アが全くなされていなかったことに加え、学校がいやになるほどのいじめに遭っていた。

そのような中で、中学入学と同時に個別支援級に入り、また弱視級への通級のかいもあり、

徐々に学習に対する意欲が出てきたところで本校へ入学してきた。国語に対する取り組み

はとても積極的であるが、小学校時代の基礎の部分が身についていないため、漢字の読み

書きはもちろん全てにおいて自信を持てないでいる。

●生徒C(1年 女子)

(1)健康状況

①眼疾患 未熟児網膜症

②視 力 右:0.09(0.1) 左:0.1(0.45)

③その他 特になし

(2)学習状況

中学校時代、行動面では、「優しい」「友だち思い」との評価を受けているが、学習面

では国語と技能教科で「2」がある以外は思うような学習ができていない。集団の中で、

あまり手をかけてもらえていないながらも国語で「2」の評価があるということは、潜在

Page 20: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 22 -

的な力を持っているものと思われる。教科書を読んだり、文字を書いたりすることはとて

も好きである。

●生徒D(1年 男子)

(1)健康状況

①眼疾患 網脈絡膜欠損・無水晶体眼・情報視野欠損

②視 力 右:0.35 左:0.15

③その他 特になし

(2)学習状況

中学校時代、コンピュータなど機械に詳しいからか理科で「2」技能教科で「2」の評

価を得ているが、その他は思うような学習ができていない。読書は好きで、様々な知識を

持っているようだが、文章に表すこと、漢字を書くことを苦手としている。自分の中で、

ここは力を入れてやってみようと気持ちが入ると真面目な取り組みを見せる。

●生徒E(1年 女子)

(1)健康状況

①眼疾患 近視・眼瞼下垂・外斜視

②視 力 右:0.35 左:0.15

③その他 眼瞼下垂のため顔を上向き

(2)学習状況

中学校時代、行動面では「優しい」「穏やか」「学校生活を楽しんだ」との評価である

が、学習面では音楽と体育で「2」がある以外は思うような学習ができていなかったよう

だ。視力的には、かなり見えているので書く文字はしっかりしており、漢字もよく読める。

しかし、家庭状況や本人の性格のため、基礎基本が身についていない。

3 実践

1.授業への準備

(1)教科書

このグループの生徒は、入学相談の時点で、中学校時代、本校中学部出身者のような拡

大教科書やボランティアによる拡大写本などによる見えにくさへの対応をあまり受けてき

ておらず、時間をかけて中学校用の教科書を読んだ経験がないと判断し、教科書配付の段

階で、高等学校用ではなく、中学校1年生用を配付した。ただし、配付に際し注意した点

は、「光村図書」「三省堂」あるいは「東京書籍」の教科書をもっているため、いくら読

んではいないとしても同じ教科書会社版ではなく、「学校図書」の教科書を選択した。下

学年の教科書とはいえ、今まで見たことのない内容であるため、学習意欲が起こりやすい

ようである。

(2)文字

文字の大きさやフォントについては、入学相談の段階からチェックをし、より見やすい

ものを提供している。

Page 21: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 23 -

(3)筆記用具

筆記具やノート類についても相談し、より使いやすいものを家庭で準備してもらうが、

ノート類に関しては、マスの有無、罫線の有無・線の太さ・色などの希望に合うものが市

販品で手に入りにくい場合は、学校で提供するものもある。

2.授業内容

(1)話すこと・聞くこと

授業の最初は、1分間スピーチの時間とし、「昨日(最近)の出来事」の発表を課題と

している。まずは自分の言葉で、決められた時間内に、要領よく発表するということから

スタートし、それが弁論大会などの発表、文章での発表というステップアップを考えてい

る。人の前で話すことを身につけると同時に他の人の話を聞いて自分なりの感想を持った

り、的確な質疑応答も身につけるよう指導している。最初は、恥ずかしがったり、何を言

ってよいのかわからず、時間内に要領よく発表することができないでいたが、慣れるにし

たがって、ただやったことを並べ立てるだけでなく簡単な感想などを言えるようになって

きた。また、他の人の話を聞き流すのではなく、わかりにくい表現には質問が出るように

なってきている。

(2)書くこと

(ア)漢字の練習についてはプリントを準備し、授業時間内とその場でできなかったも

のについては、次回までにやっておくよう課題を出している。また、自学自習や授業内で

も使えるよう「電子辞書」を用意し、漢字や言葉の意味をすぐに調べられるような環境を

作っている。必要であれば、自分用のさらに使いやすい「電子辞書」を用意するよう推奨

している。この「電子辞書」のおかげで、分厚い紙の辞書を調べる煩わしさから開放され

て、漢字の形や言葉の意味を調べることに抵抗がなくなってきている。

(イ)板書事項は黒板を使わず、ハンディタイプのホワイトボードを用意し、目の前で

書いて見せられるようにしている。見やすいのでノートに書くことへの抵抗感も薄らいで

いる。

(3)読むこと

音読力を高めるため、文章を読む場合は、通常は、「一文読み」を用いるが、短い文が

多い場合などには「二文読み」、その教材がかなり読めるようになってきたところで「自

由読み(1頁以内ならどこまで読んでもよい)」などを織りまぜ、音読への興味を引くよ

うにしている。

(4)その他

定期試験への意識づけとして、復習を兼ねて個別に予想問題を考えさせる。どんな問題

でもいいので自分なりに考えてみると、理解できているところについては問題を考えつく

が、そうではないところからの問題が出てこない。そこから全体で復習してみると、理解

できていないところを集中的に復習できるので、生徒にとって問題点を把握し、理解を深

めやすくなっている。

Page 22: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 24 -

4 まとめと課題

このグループの生徒は、中学校の集団学習の形態では、手をかけられず置き去りにされ

てきていることが明らかで、「わからない」ということを言えずにきてしまっている。そ

の点、本校のような小集団になれば、個々のペースで授業が進み、「わからない」という

ことを遠慮なく言える雰囲気があるため、のびのびと学習ができるようである。学習に対

する興味を持ち、今まで学習環境が整わなかったためにできなかった学習をしてほしい。

ほとんどの生徒が進学して上級の教育を受けたいという希望がないため、学年相応の学

力を要求していない。そこで社会に出てすぐに必要なコミュニケーション能力や小学校の

漢字を確実に書け、できるだけ多くの中学校の漢字を読める力を伸ばすことが課題である。

専攻科における教科指導および、あはき施術者としての

コミュニケーション能力獲得にいたるまでに必要な指導の在り方

高等部専攻科 黒木正

1 専攻科で目指すもの

高等部専攻科では、理療科と保健理療科を設置し、視覚障害者に対するあはき教育(あ

ん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の国家試験受験資格を得るための職業教育)を

推進している。理療科は前述の3種の免許を、保健理療科はそのうちの1種(あん摩マッ

サージ指圧師)の免許を取得できるコースであり、いずれも大学受験資格を有する者で、

高校卒業程度の学力や能力を必要とする3年制の修学課程である。

職業教育課程である専攻科の教育目標は、①施術者として、患者に接する態度を育てる

こと。②「あはき師」としての知識と技能を養うこと。③「あはき師」の国家試験に合格

すること。④医療施術者として人格の陶冶を目指すこと。

これら4点の確立のために、教科指導においては、難解で専門的な医学用語の意味の理

解と、それらを日常的に応用できる能力が必要である。それに加え「あはき師」としての

患者と接する上でのコミュニケーション能力の向上が教育上必要となってくる。

2 国語科領域として考えられる専攻科での指導方法

(1)墨字使用生徒の場合には、漢字の意味の理解(医学用語や東洋医学的用語)をす

ることが重要となってくる。そのため、専攻科入学以前には、多くは素通りしてきたと思

われる表記の難解な語句や画数の多い漢字の意味の理解を、視覚補償機器の有効な活用、

具体的には各個人に合わせた拡大読書器やパソコン画面での文字の拡大、白黒反転文字の

使用等の習熟を指導することである。また、文章の理解を補うために音声機器の導入も考

えられる。

(2)点字使用生徒の場合は、基本的な点字の読み書き(分かち書きの獲得等)はもち

Page 23: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 25 -

ろんではあるが、漢字そのものの意味の理解(日常的用語に加え、特に医学用語や東洋医

学的用語)や同音異義語の理解をすることが重要となってくる。そのため、パソコンでの

点字入力にかたよることではなく、点字盤や点字タイプライターでの点字の書きも指導を

継続する必要がある。また、視覚補償のための情報処理能力の向上として、点字入力に加

えフルキー入力やパソコンでの音声認識の方法の習熟を指導することである。

(3)すべての生徒に共通するあはき施術者としての臨床実習での患者とのコミュニケ

ーション能力の獲得方法としては、生徒間あるいは生徒対教師での医療面接のワークをす

ることを目標にし、それぞれの教科・領域にわたる連携を密にし、患者の心理、病気・病

態の理解、あはき施術者の医療人としての心構えや技術面の向上を図っていくよう指導を

することが重要となってくる。最終的には、第3学年での患者臨床実習における実地訓練

の場で応用できるよう指導を継続していくことである。

3 研究実践

(1)生徒実態アンケートの実施

専攻科入学前に、「こういうもの」を身につけておいてほしい。という観点から専攻科

教職員に対するアンケート調査を行った結果、生徒の獲得しておいて欲しい分野として、

言語、思考、コミュニケーション、文字情報の処理の面から回答を得た。

(2)アンケート回答の分析結果と生徒に必要とされる力および能力

言語:語彙力。漢字の意味、日常生活での慣用表現を話し言葉で説明できる力の育成が

必要である。例えば、「腰を入れる」という姿勢に用いる表現であるが、あん摩実技での

低く腰を落とし体重をかけて揉む姿勢のことを理解させることが必要であった。

思考:文章の要約力。例えば、臨床実習の場で患者の病歴聴取の問診などをする際に、

患者から聞き取ったことを要約し、説明すること、要約した内容をカルテに記載する必要

が生じることである。また、第3学年次のあはき国家試験の設問の意味の内容を理解し、

似たような選択肢の中から解答を導き出すのに要約することは有用な力となる。

コミュニケーション:対話力。人前で話ができる力。例えば、その第一歩として、自分

の名前の漢字を言葉で説明できるようにすることも大切である。また、患者に聞き取りや

すい発声や発語が必要であり、いままでは小さい声で良かったものを大きく明瞭なものに

するよう指導することが必要である。すべては、患者との医療的な面談に必要な能力とな

る。

文字情報の処理:文字処理能力。例えば、漢字の部首名・漢字の成り立ちや構成の知識、

点字をきれいに書く技術、墨字は画数の多い文字を細部まで表記できるようにする。また、

視覚補償機器の基本的操作方法やパソコンでの基本的情報処理能力も必要となってくる。

(3)生徒実態からみた専攻科での学習上のフォロー体制

現在、学習のフォロー体制としては、点字および墨字学習者の別やその他、個別の事例

に応じた指導が専攻科職員全体で行われている。

点字学習者:多くは墨字から点字の切り替えについては、第1学年時の「情報」の教科

Page 24: 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方...- 3 - 教科研究1 国語科部会 言葉を育てるための発達段階に応じた指導のあり方 構成:

- 26 -

指導の中で個別に対応し、授業時間内に週1回の点字指導を行う。また、学級担任指導に

加えて、学部独自の専攻科科内分掌に点字使用職員を指導担当者として2~3名配置し、

放課後の時間で対応している。最近の教科指導外の指導事例では、Aさんの分かち書きや

国家試験解答方法の指導とBさんの視力低下による墨字から点字への切り替えに伴う、読

み速度の指導がある。

墨字学習者:同じく、第1学年時の「情報」の教科指導の中で個別に対応し、授業時間

内に週1回の墨字の読み指導を中心に行う。具体的には、解剖学、生理学、経絡経穴学で

の字義の説明や基本的な同音異義語の理解を深めることを指導する。時に、パソコンでの

ディスプレイ上の拡大文字での表示を活用することもある。しかし、最近の指導事例はな

い。

その他:個別の事例については、その都度、学級担任の報告を受け、ケース会議の検討

を経て、指導方法の検討を行うことになる。

4 まとめと課題

専攻科を修了すると、国家試験を合格すれば、「あはき師の免許取得」と同時に、医

療施術者としての責任が卒業生一人ひとりにのしかかることになる。また、社会的には、

医療人としての人格と知識、技能がすぐにでも要求されることになる。その時に、困らな

いようにするには、在学中に、知識だけにかたよるのではなく、人として、より多くのこ

とを学ばなければならない。専攻科は社会に巣立つ直前の課程であり、内部入学生にとっ

ては、外部から入学してくる同級生や上級生、時には下級生との関係は、専攻科教職員と

の関係をも含めて、そのまま社会生活の準備段階でもある。その関係性において、自分で

発見、自分で学習する態度、物事への柔軟な対応ができる力を要求されることになる。

そう考えると、専攻科に入学以前に本校生徒に対して私が望むことは、これまで述べた

国語科領域での国語的能力、コミュニケーション能力等が不足し、学習・習得されていな

ければ、その指摘を受けた時点で人一倍努力しようとする力が必要であり、何にもまして、

人として何事にもへこたれないこと、立ち向かう勇気を学んで行く必要があるのではなか

ろうか。

今後は、専攻科へ進学した生徒の状況を考慮し、幼稚部から小学部・中学部・普通科ま

でに「身につけておかなければいけないこととは何か。」ということを全校的にアンケー

ト調査を実施し、墨字(普通文字)使用者、点字使用者で生徒別に集約することを試みて

みたい。