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開水路の無機系表面被覆の施工のための参考資料 平成 27 年 9 月 近畿農政局 土地改良技術事務所

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開水路の無機系表面被覆の施工のための参考資料

平成 27年 9月

近畿農政局 土地改良技術事務所

まえがき

本参考資料の目的

鉄筋コンクリート構造物である開水路等の補修を実施する際の無機系表面被覆工法は、近畿農政局管

内で も施工実績が多く、今後も採用が見込まれる工法である。これまでのモニタリング結果などから、

施工後間もなくして変状が確認されている事例があるため、基本的な施工上の留意点等を取りまとめ、

現場での施工時に活用頂くことを目的とし作成した。

近畿農政局管内の国営土地改良事業実施地区では、平成17年頃から開水路の補修工法として、老朽

化し失いかけた農業用用水路の機能を表面被覆工法で対策することにより、その効果を上げてきたとこ

ろであるが、新しい工法故に明らかにされていない設計・施工上の課題も一部浮き彫りとなり、更なる

補修を余儀なくされているところも見受けられる。

補修工法を適用するにあたっては「農業水利施設の機能保全の手引き[開水路]」(食料・農業・農村政

策審議会 農業農村振興整備部会 技術小委員会 平成22年5月)に基づき構造物の補修の目的と要求性

能について、適正な診断、評価、予測を行い適切な工法を採用する必要がある。

本書は、その中でも も施工実績が多い表面被覆工のうち無機系表面被覆工法について、工法の特徴、

工法の要求性能、工法の施工方法、施工後の変状、工法施工後に発生した変状への対策を取りまとめた

参考資料である。本書は「農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路補修編】(案)」

(農林水産省農村振興局整備部設計課施工企画調整室 平成27年 4月)を参考として近畿農政局管内の

国営土地改良事業実施地区の施工事例やモニタリング結果を分析したものである事を念頭に、活用に当

たっては留意願います。

本参考資料は、近畿農政局土地改良技術事務所保全技術課で作成しました。

補修後に発生した変状(ひび割れ・浮き・漏水)

目 次

第 1章 変状発生事例

1.1 モニタリング調査による不具合事例と要因・・・・・・P1

1.2 表面被覆を施工する上での留意点・考察・・・・・・・P2

第 2章 無機系表面被覆工法の特徴

2.1 施工方法の特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・P3

第 3章 無機系表面被覆工法の要求性能

3.1 無機系表面被覆工法の要求性能・・・・・・・・・・・P4

第 4章 表面被覆の施工

4.1 表面被覆の施工・・・・・・・・・・・・・・・・・・P6

4.2 準備工・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P8

4.3 下地処理工・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P8

4.4 表面被覆工・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P14

4.5 施工管理等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P17

第 5章 施工後に発生した変状に対する対策(案)

5.1 表面被覆工に発生したひび割れの補修・・・・・・・・P18

5.2 表面被覆工に発生した浮きの補修・・・・・・・・・・P19

1

第 1章 変状発生事例

1.1 モニタリング調査による変状発生例と要因

(1)ひび割れ

表面被覆を施工した箇所において、多数のひび割れが確認されている。

現時点で想定されているひび割れ発生の主な要因と事例について表-1、写真-1~2及び図-1に示す。

表-1 ひび割れ発生箇所及び要因

ひび割れ発生箇所 要因 発生位置 事例写真等

既設水路のひび割れ補

修として、無機系材料を

使用し補修を行った箇

無機材料はひび割れ追従性を有し

ていないため、既設水路に存在して

いるひび割れの温度収縮に対応で

きず発生していると想定される。

背面にひび割れ補修を

施工した箇所と同位置

写真-1

図-1

ひび割れ補修を行わず

に表面被覆工を施工し

た箇所

表面被覆材はひび割れ追従性を有

しておらず、既設水路に存在してい

るひび割れの温度収縮に追従し発

生していると想定される。

背面に未補修ひび割れ

がある箇所と同位置 写真-2

写真-1 ひび割れ補修箇所に発生したひび割れ等の変状(赤色部は浮き)

図-1 写真-1のイメージ図

浮き

ひび割れの発生

無機系材料によるひび割れ補修

既設水路のひび割れ

表面被覆工

既設水路

ひび割れ

湧水

2

写真-2 ひび割れ補修を行わずに表面被覆を施工した箇所

(2)浮き

表面被覆を施工した箇所において、かぼちゃ玉等の打音器具で表面の浮きを確認すると、広範囲

で浮きが確認される場合がある。写真-1のようなひび割れ箇所を囲むように発生する場合もあるが、

表面的な変状が見られない箇所においても浮きは確認されている。

現段階において、詳細な発生メカニズム・進行度合いについては、温度収縮によりひび割れが発

生する際に浮くものと、初期施工段階において既設水路と被覆材との間に空気や背面からの湧水が

混入し、施工段階において既に浮いている場合もあると想定している。

1.2 表面被覆を施工する上での留意点・考察

過年度に無機系表面被覆工法を施工した水路のモニタリングを行った結果、既設水路のひび割れ

補修を行った箇所と同位置の表面被覆部に、ひび割れが発生している事例が確認されており、無機

系表面被覆工法の使用においては、既設水路のひび割れの補修工法が重要になると思われる。

無機系材料によるひび割れ補修を行っている事例としては、ひび割れが非貫通であり、変動が小

さいといった整理がなされている場合があるが、実際に変動の有無を確認している事例は少ないと

思慮される。

ひび割れ幅の大小に関わらず、ひび割れが発生している時点で多少なりの変動は起こるものと思

われるため、変動の有無での判断ではなく、存在するひび割れ幅が水路に及ぼす影響を考慮した補

修が必要であると思われる。

本書においては、無機系表面被覆工法の施工に併せ、既設水路のひび割れ補修工法についても取

りまとめているため、参考とされたい。

既設水路貫通ひび割れ

3

第 2章 無機系表面被覆工法の特徴

2.1 施工方法の特徴

無機系表面被覆工法は、モルタル被覆の施工方法により、吹付工法と左官工法に分類される。

吹付工法は、専用の吹付機械を用いて被覆モルタルを吹き付けた後、表面をコテで平滑に仕上げる。

一方、左官工法は、被覆モルタルの塗り付けから仕上げまでの全ての工程を左官工がコテを用いて

施工する。

吹付工法と左官工法の施工方法の特徴を表-2及び写真-3~4に示す。

※ただし、施工方法は任意であるため、現場では必ずしも表-2のとおりとはならない。

表-2 施工方法の特徴

施工方法 吹付工法 左官工法

施工規模

と施工面積

115m2/日※

水路幅800mm以上

65m2/日※

水路幅800mm未満

その他 圧縮空気の圧力及び量、吹付ノズルマン

の熟練度が重要

施工者の熟練度が重要

※土地改良工事積算基準より

写真-3 写真-4 無機系被覆工法(吹付け工法)施工状況 無機系被覆工法(左官工法)施工状況

既設水路のコンクリート表面は、長期の水流摩耗等により粗骨材が露出し、凹凸や断面欠損を生

じていることが多い。無機系表面被覆工法では、一般的に5~10mm程度の厚さで施工が可能なポリ

マーセメントモルタルを使用するため、不陸調整工と表面被覆工を同一材料で同時に施工すること

ができる。

4

第3章 無機系表面被覆工法の要求性能

3.1 無機系表面被覆工法の要求性能

無機系表面被覆工法の要求性能のうち、「基本的性能」と「個別的性能」に分類した。(表-3参照)

基本的性能は、開水路の補修工事に標準的に求められる性能である。一方、個別的性能は、工法や地

区の特性などに応じて個々の工事毎に求められる性能である。

各現場において、表面被覆工法を使用する目的は様々であると想定されるため、必要に応じ要求性

能を決定する必要がある。そのため、基本的性能であっても、使用する目的に合致しないものについ

ては削除してもよい。

また、表-3に示す要求性能に対する品質規格値(例)を表-4に記載する。

表-3補修工法別の基本的性能と個別的性能

基本的性能(○):標準的な工事に共通して求められる性能。

個別的性能(□):施工条件や環境条件などにより個々の工事に個別的に求められる性能。

要求性能項目

表面被覆工法 ひび割れ補修工法

断面修復工

目地補修工

法 無機系

無機系

有機系

構造機能

中性化抑止性 ○ □

耐 候 性 ○

付 着 性 ○ ○ ○ ○ ○

耐 摩 耗 性 ○ □

一 体 化 性 ○ ○

寸 法 安 定 性 ○ ○

耐 凍 害 性 □ □

ひび割れ追従性 ○

水理

機能

通 水 性 □

止 水 性 ○

※表面被覆工法に併せて施工を行う補助工法についても記載している。

農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路補修編】(案)P.50より

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表-4 開水路の補修に求められる主な性能と材料・工法の品質規格(例)

要求性能項目 品質項目 照査方法 品質規格値(案)

中性化抑止性 中性化速度係数 JIS A 1153

4 週経過後*1の中

性化深さから算定

する速度係数

中性化深さ5mm 以下

中性化速度係数

18mm/ √年 以下

耐候性 紫外線による劣

化 JSCE-K 511

キセノン2,000 時

間*1あるいはサン

シャイン1,200 時

間*1後の変状

膨れ、ひび割れ、剥

がれがないこと

付着性 付着強度

JSCE-K 561

(乾湿・温冷繰

返し回数は10

サイクル*1)

標準条件

1.5N/mm2以上 多湿条件

低温条件

水中条件*2

1.0N/mm2以上 乾湿繰返し条件

温冷繰返し条件

耐摩耗性 摩耗深さ

表面被覆材の

水砂噴流摩耗

試験(案)

水砂噴流摩耗試験

10 時間*1経過後の

平均摩耗深さと標

準供試体の平均摩

耗深さとの比較(材

齢28 日)

標準供試体に対する

平均摩耗深さの比が

PCM :1.5 以下※5

HPFRCC:2.5 以下※5

有機系:0.5 以下

一体化性 圧縮強度 JSCE-K 561 4 週経過後の圧縮

強度 21.0N/mm2以上

寸法安定性 長さ変化率 JIS A 1129*3 成型28 日後の長さ

変化率 0.05%以下

耐凍害性 相対動弾性係数 JIS A 1148

(A 法)

300 サイクル後の

相対動弾性係数 85%以上

ひび割れ

追従性

伸び量 JSCE-K 532 標準状態 中追従0.4mm 以上

高追従1.0mm 以上

伸び量(繰返し条

件下) JSCE-K 532*4

標準状態、

初期変位0.2mm、伸

縮±0.1mm、変位速

度1.0Hz、繰返し回

数7,300 回*1以上

破断が無いこと

*1 補修の効果が期待される期間を20 年とした場合の例を示す。右欄に示す規格値(案)も同じ。「補修の効果が期待さ

れる期間」とは、既設水路の補修後に、補修の各性能による効果が発現し持続することが期待される期間を指す。

*2 JSCE-K 561(水中条件)における、供試体作製後、水中養生を開始するまでの気中養生は、温度20±2℃、相対湿度60

±10%の状態で7 日間行うものとする。

*3 ゲージプラグ付き金型に所定の材料をコテで充填し、温度23±2℃、湿度50±5%の状態で2 日間養生後、型枠を脱型し

たものを試験体とする。脱型後を基長として、温度23±2℃、湿度50±5%の状態で28 日後の長さ変化率を測定する。

*4 試験の詳細は「表面被覆材の繰返しひび割れ追従性試験方法(案)」を参照。

※5 近畿局運用において、無機系材料については「材料の平均摩耗深さが5mm以下」であることとする。

農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路補修編】(案)P.55より

表-4に示す品質規格については、表-3に示す基本性能・個別性能の品質規格値を示し、基本性能につ

いては開水路補修に求められる要求性能であり全て示す必要がある。個別性能については、工法や地区

の特性などに応じて個々の工事毎に求められる性能であり必要に応じて示す必要がある。

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第4章 表面被覆の施工

4.1 表面被覆の施工

表面被覆の施工フローを以下に示す。

詳細内容については次項に示す。

・堆積物の撤去・飛散防止工・排水処理等

・水路洗浄・付着力確認・断面修復・ひび割れ補修(無機系)

・必要に応じプライマーを塗布する。(材料によっては不要)

・吹付・左官により表面被覆を行う。被覆後に養生材を塗布し、適

切な養生方法にて養生を行う。また施工完了後、厚み測定を行う。

準 備 工

下 地 処 理 工

プライマー工

表面被覆工

養生材散布状況

7

・表面被覆工の養生後に、ひび割れ補修(有機系)を行う。

・表面被覆工の施工完了後(材齢28日)に付着力試験を行い、

表面被覆工の付着力の確認を行う。現地及びコア抜きによる室

内試験を行う。

ひび割れ補修工

付着力試験

8

4.2 準備工

開水路の補修に際して、必要な準備工は、現場条件により異なるため、現場毎に検討のうえ実施

する。

なお、表面被覆を施工する際、準備工として、主に次の作業を事前に行う。

・水替え工等による、施工区間の浸入水対策。

・水路内の底版上に堆積している汚泥やゴミ等の除去。(写真-5参照)

・側壁面の施工に支障となる樹木や草、泥土等の除去。

・降雨や降雪対策、洗浄水等の飛散防止等のための飛散防止工の設置。(写真-6参照)

・既設水路躯体からの侵入水及び湧水の止水・導水対策。

写真-5 堆積土撤去状況 写真-6 飛散防止工

4.3下地処理工

4.3.1下地処理

表面被覆工は、下地処理後、既設水路表面に補修材料を被覆接着することが主たる方法であり、補

修の効果は下地処理の影響を強く受ける。このため、付着性に影響を及ぼす脆弱部を十分に除去する

ことを目的に、試験施工において適正な洗浄圧を決定し、既設水路の下地処理を行う。

以下に、下地処理前の現場試験施工の例を示す。

<現場試験施工の例>

①水圧洗浄については、高圧(30~100MPa)から 3種類程度の圧力により試験を行う。試験時間は1分

単位で時間設定を行うことが望ましい。また、1ユニット毎に試験施工を行うことが望ましい。

【圧力設定の例】30MPa・60MPa・90MPa(写真-7参照)

②1箇所における試験部位は左右側壁及び底版とし、面積は各々1m2程度を目安とする。

③試験における品質確認の方法は、処理後のコンクリート表面の汚れや脆弱部の除去を目視で確認す

るほか、単軸引張試験(図-2及び写真-8参照)により付着強度を測定し確認する。

④単軸引張試験による付着強度の確認は、設定洗浄圧1箇所につき、左右側壁及び底版の各部位毎に

3点実施(1箇所あたり3部位×3点で合計9点実施する)するのが望ましい。(図-3参照)

⑤なお、付着強度の目安は、側壁と底版の部位別にそれぞれ以下のとおりとするが、満足な値が得ら

れない場合、洗浄圧を上げる等について受注者と協議し、満足する付着強度が得られる洗浄圧を決

定する。

側壁:1部位3点の付着試験値は、それぞれ1.0N/mm2以上。

底版:1部位3点の付着試験の平均値は、1.0N/mm2以上。かつ、個々の値は0.85N/mm2以上。

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写真-7 下地処理工試験施工状況(設定圧力30・60・90MPa)

【付着強度試験概要】 (1)40×40のアタッチメントをエポキシ樹脂にて接着させる。

底版が湿潤面の場合は、設置部まわりを止水セメント等により水の浸入の無い様養生し、下地面をドライにした後、設置する。

(2)エポキシ樹脂が十分硬化した後、アタッチメント周りをディスクサンダーにて切込みを入れる。 (3)建研式引張試験機をアタッチメントに装着し、付着強度試験を実施する。

図-2 単軸引張試験概念図及び試験状況

写真-8 単軸引張試験状況

図-3 付着強度試験位置(案)

⑥⑤に記載する付着強度試験値を満足する洗浄圧の 小圧を側壁・底版の洗浄圧とし、決定した洗

浄圧と同一の試験箇所において凹凸量測定を行う。

30MPa 60MPa 90MPa

4040

40

アタッチメント

接着剤(エポキシ樹脂)

下地コンクリート切込み

試験位置

10

・測定範囲:0.8m×0.8m

・測定方法4cm格子毎に凹凸量を測定(400点の平均)

凹凸量測定の目的は、洗浄後に凹凸が生じ、被覆材の設計数量を算出するには、設計被覆厚の

基準位置(高さ)の確認と、凹部の数量(以下、「材料ロス分」という。)を把握するためである。

写真-9・図-4に凹凸量調査状況及び調査方法例・図-5に材料ロス分のイメージ図を示す。

写真-9 凹凸量調査(電子ノギスによる測定)

図-4 凹凸量調査方法例

※実際の施工は、材料ロス分の施工と表面被覆の施工は同時に行うため図のようにはならない。

図-5 不陸調整イメージ(紫:不陸調整分・水色:表面被覆)

4.3.2 ひび割れ補修・断面修復箇所の再調査

決定した洗浄圧にて水路全線を洗浄した後に、既設水路の補修箇所の再調査を行う。

発注時点においては水路洗浄を行わずに調査を行っている事が多く、洗浄後に事前調査において確認

できていなかったひび割れや、断面欠損箇所が確認される場合があるため、再度補修の要否を含めた

水路全線の調査を行い、補修を行う必要がある箇所を特定する。

ノギス

目盛間

隔40

角材・鋼材等に目盛を付ける

下地処理後の水路壁面

洗浄後の表面 不陸調整後 表面被覆後

材料ロス分設計被覆厚分

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4.3.3 補修工法の施工

無機系表面被覆工法はひび割れに対する追従性を有していないため、既設水路躯体にひび割れが有

る場合、対策を行わずに施工を行うと同位置にひび割れが発生する事がある。そのため、事前調査に

おいて貫通の有無・ひび割れの幅を確認し、適切な対策を行う必要がある。また表面被覆は、事前に

既設水路躯体(下地コンクリート)の断面修復を行うことにより、水路躯体との一体化が図られ、後

から行う表面被覆の施工性が確保される。よって、表面被覆を行う際は、各工法の特性を踏まえ、必

要に応じて、事前にひび割れ補修及び断面修復を行う必要がある。

ひび割れの貫通の有無を確認する方法の例として、超音波によるひび割れ深さの測定があり、「超

音波試験機」によるひび割れ深さの測定例を写真-10に示す。

写真-10 超音波によるひび割れ深さの測定

【ひび割れ深さの測定原理】

この機械では、ひび割れ深さの測定は、超音波がコンクリートと空気層の境

界で反射する性質を利用して、ひび割れを迂回する超音波の伝搬時間の差によ

りひび割れ深さが計測され、その計算式は次の式で示される。

d:ひび割れ深さ

a:ひび割れセンサの距離(a≦100mm)

t1,t2:ひび割れセンサの距離がa及び2aの場合の超音波の伝搬時間

また、既設水路背面からの侵入水や湧水がある場合は、表面被覆の付着性の低下を来すおそれがある

ため、事前に湧水処理を施さなければならない。湧水処理については新たにウィープホールを設ける

などの対策を講じる。

4.3.4 ひび割れ補修工法の選定

(1)補修材料

ひび割れ補修工法には、補修目的や既設水路の設置環境により異なるが、表面被覆と同様に無機

系(ポリマーセメント系材料等)及び有機系(エポキシ樹脂系材料等)の材料が用いられる。

表面被覆施工後の表面被覆材に変状を発生させないために、追従性のある補修材を選定することが

重要であることから、本資料においては、ひび割れ補修材は躯体の動きに追従しやすい弾性シーリ

ング材の使用を前提とした施工について記載する。

(2)ひび割れ補修対象

中性化や塩害などによる鉄筋腐食先行型の劣化などコンクリート材料の内部要因に留意する。

構造部材の劣化特性については、ひび割れタイプや使用環境条件(鉄筋腐食環境等)によって大

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きく異なるため、これらを考慮して検討を行うとよい。

また、貫通ひび割れを補修せずに表面被覆を行っている事例があり、モニタリング調査を行った

結果、表面被覆材に同様のひび割れの発生が多く確認されているため、補修目的を確認し、適切な

処理を行う必要がある。ひび割れが貫通しているか否かの判断については、写真-10 のような超音

波によるひび割れ深さの測定の他に、ひび割れが天端を横断し背面まで到達していることが目視で

確認できる場合もある。ただし、土や埃等により天端のひび割れが埋まってしまっている場合もあ

るため、注意が必要である。

また、無筋コンクリート水路の場合のひび割れ補修については、鉄筋コンクリート水路と補修の

目的が異なるため、補修の必要性について十分検討する必要がある。

(3)弾性シーリング材ひび割れ充填工法 弾性シーリング材ひび割れ充填工法に使用する材料・工法は、JIS A 5758 建築用シーリング材

のF-20LM クラスとし、表-6の品質規格を満足しなければならない。

表-6 弾性シーリング材ひび割れ充填工法に使用する材料・工法の品質規格(例)

要求性能項目 品質項目 試験方法 品質規格値(案)

基本的性能

伸縮追従性 耐久性区分 JIS A 1439 5.17 JIS A 5758 耐久性区分8020 以上

付着性 強度保持率 JIS A 1439 5.9 強度保持率60%以上 (標準/水中浸漬)

【解説】 ・弾性シーリング材ひび割れ充填工法 1)品質項目

補修の効果が期待される期間中、ひび割れ補修工法の要求性能が保持されるよう、弾性シーリング材ひび割れ充填工法に使用する材料・工法が有するべき品質規格を設定するものとし、表-6に例示する。 ここに示す品質規格は、以下のひび割れを補修する際、当該工法に求められる性能を対象とし

ている。ひび割れの発生要因等を検討の上、適切に準用されたい。 <表-6の適用対象となるひび割れ> ・水路コンクリートの温度変化によるひび割れ幅の変動(伸縮挙動)がある。 ・対象とするひび割れ幅は、0.4~5.0mm とする。

農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路補修編】(案)P.93より

(4)ひび割れ補修方法

従来のひび割れ処理は躯体にUカット処理後、ポリマーセメントを充填し、その上に表面被覆を

施している。一方、貫通のひび割れ処理にはシーリング材を充填し、表面被覆を縁切りしている。

表面被覆に変状を発生させないようするには、貫通していないひび割れにおいても図-6の貫通ひび

割れ処理と同じ方法で補修する。なお、施工時に背面から浸入水(湧水)により施工の妨げになる

場合は、ウィープホール等を設置し止水処理のうえ、ひび割れ補修を行うことが望ましい。

13

図-6 近畿局管内における開水路のひび割れ補修工標準図(例)

バックアップ材

弾性シーリング材

15

15

ひび割れ補修工法

表面被覆材

弾性シーリング材

バックアップ材

プライマー

補修対象のひび割れ

目地棒の設置

Uカット15×15

ひび割れ補修

ひび割れ補修の流れ

表面被覆

表面被覆

表面被覆

14

4.4 表面被覆工

1)プライマー工

既設水路躯体と表面被覆材の付着力を確保するため、専用のプライマーを使用する。材料・工法

によって、プライマーの使用量や施工方法が異なり、中にはプライマーを必要とせず、水路躯体表

面の湿潤管理(水湿し等)によるものもあるため、使用材料については十分確認をしておく必要が

ある。施工例を写真-11・12に示す。

①ドライアウト対策

躯体が乾燥状態のまま表面被覆を施工すると、モルタルの水分が躯体に吸収される現象(ドラ

イアウト)が生じ、浮きの発生要因となる。特にプライマーを使用しない工法では直接躯体に吹

き付けるため、その影響を受けやすい。プライマーを使用しない工法においては躯体を十分湿潤

状態に保つことが重要である。

写真-11 プライマー塗布状況の一例(噴霧器使用) 写真-12 プライマー塗布状況の一例(ローラー使用)

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2)モルタル被覆工

①吹付け工法の留意点

吹付け工法の機械の配置例・不具合及び留意点の一例を図-7・8 に示す。モルタルホッパーか

らの空気の混入によって、ポンプ圧力が伝わらなくなりホース閉塞の原因となる。また、空気混

入のまま吹き付けされるとモルタル内部に空気が残ったままになり浮きの要因となることから、

空気が混入しないように留意する必要がある。

図-7 吹き付け機械の配置例

図-8 モルタル圧送時の不具合の一例

②左官工法の留意点

現場条件によっては吹付け機械が使用できない場合もあるため、そのような場合は左官工法で

モルタル被覆することとなるが、浮きの要因となる空気を除去するために、入念にコテ押さえ行

うことが重要である。

③飛散防止工

下地処理工の際に使用する飛散防止工をモルタル吹き付け及び養生にも流用するケースが多く、

特に民家・営農畑等が近接する場合は設置することが望ましい。(写真-13・14参照)

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写真-13 飛散防止工の一例(上部) 写真-14 飛散防止工の一例(内部)

3)仕上げ工

ポリマーセメントモルタルの表面に仕上げ養生材を塗布し、表面を平滑に仕上げる。この時、浮

きの要因となる空隙をコテで押さえて丁寧に仕上げることが重要である。(写真-15・16参照。)

写真-15 養生材散布状況の一例 写真-16 コテ押さえ状況の一例

4)養生工

直射日光や強風により、被覆表面に乾燥ひび割れ等が生じないように、必要に応じてシート養生

などを行う。また、冬期施工では、養生時の温度管理を行うとともに、初期凍害を防止するための

加温養生を必要に応じて行う。所定期間の養生後、表面被覆工の付着強度及び被覆厚さが品質管理

上の規格値を満足していることを確認する。概ね外気温 5℃を下回ると予想される場合は加温養生

が必要である。写真-17に練炭養生の例を示す。

写真-17 加温養生状況の一例(練炭)

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4.5 施工管理等

施工管理等については、「農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路補修編】(案)

付属資料 開水路補修工事の施工管理項目等参考例」(農林水産省農村振興局整備部設計課施工企画調整

室 平成27年 4月)を参考にされたい。

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第5章 施工後に発生した変状に対する対策(案)

5.1 表面被覆施工後に発生したひび割れの補修

5.1.1 対策を必要とするひび割れ幅

(1)補修材の選定について

表面被覆施工後に発生したひび割れの要因は、温度変化により躯体が膨張収縮を繰り返し、ひび割れ

が動くことによって躯体の動きに表面被覆が追従しひび割れが発生したものと考えられることから、

補修材は追従性のある「弾性シーリング材」の使用が望ましい。

5.1.2 表面被覆施工後に発生したひび割れの対策方法

表面被覆施工後に発生したひび割れの補修方法として、表面被覆のひび割れ発生箇所を下図に示すよ

うに表面被覆部分のみを先にはつり取り、躯体のひび割れの発生状況を確認する。躯体にひび割れが

発生しており、補修対象とするひび割れ幅以上またはひび割れ幅に関わらず貫通している場合には図

-9に示す補修方法とし、躯体にひび割れが発生していない、または躯体ひび割れが補修対象幅未満の

ものについては図-10 に示す補修方法とする。なお、施工時に背面から浸入水(湧水)により施工の

妨げになる場合は、止水セメント等で止水処理のうえ補修を行うこととする。

図-9 表面被覆に発生したひび割れ補修案その1

図-10 表面被覆施工後に発生したひび割れ補修案その2(単位:mm)

【対策前】

15

躯体

表面被覆 表面被覆

躯体

表面被覆に発生したクラック15

プライマー

15

表面被覆

躯体

【対策後】

表面被覆はつり

躯体クラックの有無は不明 ※躯体にクラックが発生しており、クラック幅が0.4mm以上またはクラック幅に関わらず貫通している

カッター工

シーリング材

バックアップ材

15

プライマー

表面被覆

【対策後】

躯体

シーリング材

【対策前】

躯体

表面被覆

表面被覆に発生したクラック

躯体クラックの有無は不明

※躯体にクラックが発生していないまたは躯体クラック幅が0.4mm未満

15

表面被覆

躯体

表面被覆はつりカッター工

※躯体にひび割れが発生しており、ひび割

れ幅が補修対象幅以上またはひび割れ

幅に関わらず貫通している

※躯体にひび割れが発生していない、

またはひび割れが補修対象幅未満

表面被覆に発生したひび割れ

表面被覆に発生したひび割れ

躯体のひび割れは不明

躯体のひび割れは不明

19

5.2 表面被覆施工後に発生した浮きの補修

浮きに関しては、経年変化による進行性はないと推測されることと、水路機能の低下(粗度係数の

低下、耐荷力の低下等)が認められない場合は特に緊急に対策を講じる必要はないと思われる。しか

し、浮きが要因となって水路機能に支障を来たすおそれのある場合は、下記の手順により補修を行う。

また、浮きの背面に湧水がある場合については、湧水が原因で浮きが発生したものと想定されるため、

湧水処理を行った後に下記手順にて補修を行う。(図-11参照)

図-11 表面被覆施工後に発生した浮き対策施工手順(案)

カッター工

カッター工

浮き 浮き

躯体

チッピング

ポリマーセメント

表面被覆工 表面被覆工 表面被覆工 表面被覆工

対策前浮き範囲をカッター切断後、浮いた表面被覆をはつり取る 躯体表面をチッピング処理

プライマー塗布後、ポリマーセメント塗布(コテ塗り)

躯体 躯体 躯体

プライマー塗布

手順① 手順② 手順③ 手順④

表面被覆材