誕生から60年を経たテレビ視聴 - NHK...7...

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     放送文化研究所では,2012年11月に「テレビ60年」調査を実施し,放送開始から60年を経てデジタル化が進展したメディア環境下でのテレビ視聴の特徴を明らかにした。本稿では,この調査で得られた結果を,生活時間調査や放送意向調査など,これまでに当所が実施してきたさまざまな世論調査で明らかになった視聴行動と関連づけて,さらに分析,考察した。主な内容は,以下のとおりである。 テレビは,接する人の率や視聴時間など量的な面でも,また,興味,必要感,他のメディアとの比較による効用認識など意識の面でも,ほかのメディアの追随を許さず,人々の間で圧倒的に高い位置を占めていた。40代以上では現在もそうした位置づけにあるが,若年層では2000年以降,低下傾向にある。 テレビの見方では,デジタル化による録画機器の進歩により,タイムシフト視聴が幅広い年層で日常的に行われるようになりつつある。タイムシフト視聴の日常化が進めば,人々にとってのタイムシフト視聴の意味合いが,リアルタイム視聴のそれに近いものになっていく可能性が示唆された。 長く続いていたテレビ視聴の個人化傾向の増加は,デジタルテレビへの買い替えによる世帯内のテレビ台数の減少も1つの要因として,今回,その動きがいったん止まったようである。この先,家族視聴自体が増加に転じるのかどうかについては,今後の動向をみていく必要がある。 ネット利用の広がりによる新しいコミュニケーションスタイルの1つ,ネット上でテレビに関する情報や感想を読んだり書き込んだりすることは,20代以下の若年層に限れば,日常的に行われているといえる。テレビ50年の時点で明らかにした「現代的なテレビの見方」は,現在も人々の間で行われていることが確認できたが,この「現代的な見方」によるテレビの楽しみ方に,こうしたインターネット利用が加わることでさらに新たなテレビの楽しみ方ができるようになれば,テレビ視聴が活性化する可能性もあると思われる。 生まれたときからデジタル環境下で生活している10代よりさらに下の世代は,「今のテレビの見方」を知らずに育っていく可能性もある。その動向も含め,今後もテレビ視聴に関する調査を継続していく必要がある。

    はじめに………………………………………………………8Ⅰ 60年をふりかえる……………………………………9

    Ⅰ−1 テレビ50年までの変化Ⅰ−2 完全デジタル化への10年Ⅱ 近年の傾向を探る……………………………………23

    Ⅱ−1 デジタル化がもたらす“新しい”テレビ視聴Ⅱ−2 タイムシフト視聴Ⅱ−3 家族でテレビを見ることⅡ−4 テレビに関するネット上のコミュニケーションⅡ−5 「現代的な見方」

    Ⅲ これからを考える……………………………………31Ⅲ−1 「テレビ視聴」の定義は変わるのかⅢ−2 「家族視聴」は復権するのかⅢ−3 ネットとの融合で生まれる新しいテレビの楽

    しみ方Ⅲ−4 今のテレビの見方を知らない世代の登場

    まとめにかえて ~今後の研究課題~………………36

    要 約

    目 次

    誕生から60年を経たテレビ視聴世論調査部 三矢 惠子

  • 8│NHK放送文化研究所年報2014

    はじめに2013年2月1日,テレビは誕生から60年

    を迎えた。NHK放送文化研究所では,テレ

    ビ放送開始直後から,テレビ視聴の実態や意

    識をとらえる調査を継続して行ってきてい

    る。テレビの歴史は,NHKが実施してきた

    テレビ視聴に関連した調査の歴史と重なると

    いってもよいだろう。調査の中には,テレビ

    視聴の実態をとらえる「視聴率調査」(1954年

    ~)1)や「生活時間調査」(1960年~)2)のほか

    に,テレビについての意見や態度を調べる「放

    送意向調査」(1953年9月~)も含まれてい

    る。「放送意向調査」では,はじめは主に番

    組の好みや放送希望時刻を調べていたが,テ

    レビの普及が進んだ1963年ごろからは,テ

    レビそのものに対する意識をテーマとするよ

    うになった。また,「放送意向調査」で基本

    的な意見や態度の変化をとらえるために,

    1985年から5年ごとに時系列調査の「日本人

    とテレビ」調査も実施している3)。このほか,

    テレビ放送開始30年を目前にした1982年か

    ら,10年の節目ごとに「テレビ○十年」と銘

    打った調査を実施し,テレビに対する意識・

    態度の変化やその時々の新しいテレビ視聴の

    様子を明らかにしてきた4)。こうした調査の

    結果をもとに,テレビ放送開始30年と50年

    の折には,番組と視聴者からみた「テレビ視

    聴」の変遷を本にまとめた(NHK放送世論調

    査所1983,NHK放送文化研究所2003)。

    テレビ50年から60年にかけての10年は,

    デジタル化の進展によるメディア環境の変化

    に伴い,インターネットの普及・利用が進む

    とともに,テレビが完全デジタル化へと向か

    い,それが完了した時期に重なる。また,

    2011年に起きた東日本大震災は,NHKや一

    部の民放が特別措置という形で震災報道番組

    をインターネットで同時配信したり,ツイッ

    ターに代表されるソーシャルメディアが情報

    伝達ツールとして人々に利用されて一定の役

    割を果たしたりするなど,テレビとインター

    ネット,あるいはメディアの役割をあらため

    て考えさせるような出来事であった。

    この間,「放送意向調査」の中で,タイム

    シフト視聴,ワンセグの視聴,インターネッ

    ト上の動画視聴など,デジタル化によって広

    がった視聴実態を明らかにしたり,インター

    ネットも含めたメディアの中でのテレビの位

    置づけの変化をとらえたりしようとする調査

    を多く行ってきた5)。

    地上デジタル化終了後の2012年に実施し

    た最新の放送意向調査「テレビ60年」6)では,

    デジタル化が進展した状況下でのテレビ視聴

    の特徴として,週に1回以上と日常的にタイ

    ムシフト視聴でテレビ番組を見る行動が国民

    の4割に広がっていること,「テレビを家族

    と見ることが多い」という人は長期的には減

    少傾向が続いていたが,それが止まったこと,

    日常的にインターネット上でテレビ番組の動

    画を見る人は1割強と少なからず存在するこ

    と,SNS 7)で日常的にテレビに関する情報や

    感想を読み書きする20代以下の若年層が4

    割いることなどが明らかになった。また,メ

    ディア間の比較による機能別の効用評価で

    は,多くの機能でインターネットを評価する

    人が増えていたが,〈報道〉〈共通の話題提供〉

    機能では,テレビが依然として高い評価を得

    ていることが明らかになった(平田・執行

    2013,木村2013)。

    本稿では,これら「テレビ60年」調査の結

  • 9

    誕生から60年を経たテレビ視聴

    果を,テレビ50年(2003年)までに明らかに

    なったテレビ視聴行動や態度,意識の変化お

    よび,2004年以後に当所で実施した調査結

    果から明らかになった視聴行動に関連づけて

    分析する。また,「テレビ60年」調査の報告

    で特に詳しく言及はしていないが,「テレビ

    50年」調査の時点で提起した「現代的なテレ

    ビの見方」が,10年経った今,どのようになっ

    ているのかについても合わせてみることとす

    る。その上で,デジタル化によるメディア環

    境の変化の中でのテレビの位置づけの変化や

    デジタル化によって出現したり広がったりし

    た“新しい”テレビ視聴行動の意味を考察し,

    今後について考える。

    最後に今回の調査では明らかにできなかっ

    た今後の研究の課題を提起する。

    なお,本稿で使用しているデータのもとに

    なっているNHK放送文化研究所実施の調査

    の概要は,43ページ以降に一覧表にしてま

    とめた。本稿では,調査は実施年で識別して

    記述し,初出の際に注で一覧表の該当番号を

    示した。

    Ⅰ 60年をふりかえるテレビ放送開始から50年の時点までと直

    近の10年に分けて,テレビ視聴の60年の変

    遷をふりかえることにする。以下のまとめは,

    白石・井田(2003),NHK放送文化研究所

    (2003),井田(2004)に基づいている。

    Ⅰ−1 テレビ50年までの変化 

    NHKが1960年以来5年ごとに行っている

    「国民生活時間調査」の2010年の結果によれ

    ば,平日1日のテレビ視聴時間は3時間28分

    である(その行動をしない人も含めた全員平

    均時間)。これは,起きている時間(16時間

    46分)の約2割にあたり,人々は,睡眠(7時

    間14分)や仕事(4時間21分)に次いで多く

    の時間をテレビ視聴にあてている。

    この平日1日あたりのテレビ視聴時間の推

    移(図1)から,時代を区切ってそ

    れぞれのテレビ視聴の特徴をまと

    めると,以下のようになる8)。

    第1期(1953~1976年):視聴者・

    放送内容の拡大による視聴時間増

    放送が開始された1953年度末

    でのテレビ受信契約数は2万件足

    らずであったが,その後のテレビ

    受 像 機 の 価 格 の 大 幅 な 低 下 や

    1959年の皇太子ご結婚(現在の天

    皇陛下),1964年の東京オリン

    ピックなどのビッグイベントに

    図1 テレビ視聴時間量とラジオ聴取時間量の変化(平日,国民全体)

    4:00

    3:00

    2:00

    1:00

    0:00

    時間

    2:52

    1:34

    0:56

    1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010年

    0:270:28 0:35 0:39 0:32 0:26 0:33

    0:260:21 0:23 0:20

    3:05 3:19

    テレビ

    ラジオ

    3:17 3:003:19

    3:32

    3:25 3:27 3:282:59

    注)1960年~1965年(面接法・アフターコード方式),1970 ~1995年(配付回収法・アフターコード方式),1995年~2010年(配付回収法・プリコード方式)のそれぞれは,調査方法が異なるため,グラフをつなげていない。

    「国民生活時間調査」(各年とも10月,10歳以上)

  • 10│NHK放送文化研究所年報2014

    よって受像機の普及は飛躍的に進んだ。こう

    した普及の伸びに加え,人々がテレビを見る

    時間自体も増加したことから,1960年に56

    分だったテレビ視聴時間は,1965年には2

    時間52分と大幅に増加した。

    テレビを見る時間自体の伸びは,睡眠やラ

    ジオ聴取などほかの行動の時間を削るか,食

    事などほかの行動との“ながら”視聴をする

    ことでもたらされた。特に後者については,

    “ながら”視聴で見やすいよう,ナレーショ

    ンが重要な位置をしめ,画面を見ていなくて

    も筋がわかるような演出形態のNHKの朝の

    連続テレビ小説,ラジオの“ながら”聴取に

    倣ってワイド化された民放のワイドショーな

    どが朝の時間帯に編成され,朝の生活の中に

    “ながら”視聴や“細切れ”視聴でテレビが入

    り込んで視聴習慣が定着したことが大きい。

    視聴時間は3時間程度であること,そのう

    ちの4割程度が“ながら”視聴であること,朝,

    昼,夜の食事時に視聴のピークがあることな

    ど, 現 在 と 変 わ ら な い 視 聴 ス タ イ ル が,

    1965年あたりにはすでに形作られていた。

    テレビ放送開始当初は,それまで出かけて

    行かなければ見られなかったスポーツや舞

    台,寄席,映画などの娯楽を家に居ながらに

    して楽しめる「家庭劇場」としての要素がテ

    レビの大きな魅力であったが,1960年代に

    入ると,こうした「テレビ以前からの既存の

    娯楽」に頼った番組から,クイズ,ドラマな

    ど「テレビ独自の娯楽」の番組へと徐々に変

    化し,人々の視聴内容が広がった。こうした

    娯楽番組を,食事どきや食後に見ながら家族

    で会話するという「食事と会話とテレビ」が

    三位一体となった“テレビ的”一家団らんが

    誕生し,テレビ局もそれに応えるように,家

    族で楽しめるようなホームドラマ,アニメー

    ション,映画,歌謡ショー,スペシャル番組

    を夜間に編成した。この第1期に核家族世帯

    の増加が始まり,中でも1960年代は核家族

    が占める割合の増加率が高い時期にあたる

    が,夜の視聴好適時間帯には,勤めから帰宅

    した父親と母親と子どもの家族がそろってテ

    レビの前にいて,番組をじっくり楽しむ時代

    だったといえる。

    図2は,くつろいで楽しめる番組(娯楽機

    能),知識や教養を身につける番組(教養機

    能),世の中の出来事や動きを伝える番組(報

    道,情報機能)の中から,一番多く放送して

    もらいたい番組を選んでもらった結果である

    が,娯楽の隆盛とともに視聴時間のピークを

    迎えていた1970年代半ばに人々がテレビに

    最も期待していたのは,やはり娯楽番組で

    あった9)。

    一方,第1期の後半,1970年代には,人々

    にとってのテレビの位置づけに転機が訪れる。

    図2 一番多く放送してもらいたいもの

    1976年

    1985年

    1990年

    1995年

    2000年

    2005年

    2010年

    47% 29 15 9

    くつろいで楽しめる番組[娯楽]

    世の中の出来事や動きを伝える番組[報道]

    知識や教養を身につけるのに役立つ番組[教養]

    わからない,無回答

    41 40 17 2

    38 44 16 2

    37 46 15 2

    37 42 19 2

    33 46 17 4

    33 46 16 4

    注)1976年は選択肢が一部1985年以後とは異なる娯楽:くつろいでこころから楽しめる番組,報道:世の中の出来事や動きを速く正しく伝える番組

    1976年5月「全国放送意向調査」(13歳以上)1985年~「日本人とテレビ」(各年とも3月,16歳以上)

  • 11

    誕生から60年を経たテレビ視聴

    テレビ視聴時間は伸びているのに,テレビに

    対する興味が低下しているのである。1967年

    と1974年の比較で,「以前よりも興味をひか

    れることが多くなった」人と「以前も今も同

    じように興味がある」人の合計(「興味がある

    人」とする)が減り,「以前よりも興味をひか

    れることが少なくなった」人と「以前も今も

    あまり興味がない」人の合計(「興味がない人」

    とする)が増えている(図3)。テレビが相変

    わらずよく見られているのに意識面でのウエ

    イトが低下しているのは,テレビ視聴が非意

    識化され,かえってテレビの日常性に重みを

    増したことを意味する。

    第2期(1977年~1985年):視聴時間の減少

    と倦怠

    増加の一途をたどった視聴時間は,1975

    年をピークに減少に転じ,ほぼ10年にわたっ

    て漸減傾向が続いた。

    生活時間の面からみると,特に視聴時間の

    減少が大きい1980年から1985年にかけて

    は,女性の社会進出などに伴う在宅率の減少,

    自由時間の総量は伸びない中で人々がテレビ

    以外の余暇活動を活発化させたことなどが理

    由と考えられた。

    また,1980年から1985年にかけての減少

    のテレビの側の要因をみると,ドラマやバラ

    エティが放送されていた夜間の視聴好適時間

    帯で,人々が娯楽番組を中心にテレビに飽き

    を感じていたことがうかがえた。実際,興味

    が減った理由として番組の種類をあげても

    らった結果でも,娯楽番組があげられている

    (表1)。その上相次いで起きた「ロス疑惑事

    件」(1984年),「豊田商事事件」(1985年)な

    どを契機に高まったテレビ局の報道姿勢に対

    する批判も,テレビに対する興味の低下につ

    ながったと考えられた。1974年と1982年の

    結果を比べると,「興味がある人」が減り,「興

    味がない人」が増えている(図3)。第1期と

    異なり,興味,視聴時間ともに低下したので

    ある。

    テレビの見方としては,テレビ視聴の個人

    表1 興味の増えた番組,減った番組(%)

    興味をひかれることが多くなった番組

    興味をひかれることが少なくなった番組

    ニュース 39 2

    ニュース以外の報道番組 39 13

    スポーツ 26 8

    ドラマ 34 50

    ドラマ以外の娯楽番組 20 52

    教育・教養番組 22 9

    その他 1 3

    わからない,無回答 2 3

                100%=454人  100%=776人

    1982年10月「テレビ30年」(16歳以上)

    図3 テレビに対する興味の変化

    1967年

    1971年

    1974年

    1982年

    1992年

    2002年

    2012年

    35% 39 7 11 8

    25 37 5 19 14

    18 40 5 21 16

    17 31 283 21

    20 34 3 28 14

    15 40 4 29 12

    7 29 2 48 14

    以前よりも興味をひかれることが多くなった

    以前も今も同じように興味がある

    以前よりも興味をひかれることが少なくなった

    以前も今もあまり興味がない

    わからない,無回答

    1967年11月「全国テレビラジオ番組意向調査」(10~ 69歳)1971年11月「生活の中のテレビ」(13~ 69歳)1974年3月「今日のテレビ」(15歳以上)1982年10月「テレビ30年」(16歳以上)1992年10月「テレビ40年」(16歳以上) 2002年10月「テレビ50年」(16歳以上)2012年11月「テレビ60年(面接法)」(16歳以上)

  • 12│NHK放送文化研究所年報2014

    化の進行があげられる。家族人数の減少,テ

    レビの複数台数所有世帯の増加等によって個

    人視聴が増加し,テレビを「ひとりで見るほ

    う」という人が1982年には4割近くまで達し

    ている(図4)。

    その存在が日常にとけこみ,特別な娯楽で

    はなく当たり前のものになったこの時期,「家

    族」に対してテレビは,「家族を分散させる」

    と「家族の空白をうめる」という,相反する2

    つの役割を果たしていた。

    前者については,複数台のテレビを所有す

    る世帯の増加で,潜在的にあった「1人で見

    たい欲求」が満たされるようになり,家族と

    見たい番組が異なれば家族から離れて自室で

    1人で見るという視聴スタイルが起きたので

    ある。

    また,それまでテレビドラマが描いてきた

    理想的な家族のあり方に対し問題を投げかけ

    始めるなど,テレビが家族についての新しい

    価値観を提示し始め10),家庭における女性

    の役割や個人としての生き方といった意識に

    も影響を与えるようになっていた。

    一方で,家族そろってテレビを見る時間も

    ほどほどに存在したが,そこには,特に積極

    的に見たい人がいるわけではない番組がつい

    ていて,なんとなく漠然と見るような家族視

    聴も含まれていた。テレビを見ながら家族で

    食事をしていれば,会話が途絶えがちでもテ

    レビが間を取り持ってくれ,家族で団らんし

    ているような気分を味わうことができたので

    ある。これが,後者の役割である。

    また,今となってはそうではなかったこと

    が明らかになっているが,家庭への普及が進

    んだホームビデオやテレビゲームの影響によ

    り,人々が「テレビ離れ」(視聴時間の低下)

    を起こしているのではないか,ということが

    言われたのもこの時期である。

    「送り手が番組を放送し視聴者がそれを見

    る」という一連の行動には,「番組に内在す

    る時間」「番組が放送される時間」「番組を見

    る時間」という3つの「時間」が存在するが,

    送り手側が比較的早い段階からこれらの「時

    間」を自在に操って番組を制作し放送できる

    ようになっていたのに対し,視聴者は長い間

    「時間」を操作する術を持たなかった。しかし,

    実態として多くの人がそうしていたかどうか

    は別として,この第2期のビデオの登場でよ

    うやく自分の好きな時刻に「番組の時間」と

    「放送の時間」を再現できるようになった。

    またその際に,一続きの「番組の時間」や「放

    送の時間」を細切れに何回かに分けて再現す

    ることや,早送りで「番組の時間」を短縮す

    ることも可能になった(三矢1994)。

    図4 個人視聴と家族視聴の変化

    1970年

    1977年

    1979年

    1982年

    1992年

    2002年

    2012年

    21% 8 71

    26 13 61

    36 5 59

    39 5 56

    41 10 49

    44 10 46

    41 12 47

    ひとりだけで見るほう

    どちらともいえない,無回答

    どちらともいえない+わからない,無回答

    ほかの人といっしょに見るほう

    1970年6月「全国視聴率付帯調査(7~ 69歳)1977年3月「視聴動向に関する調査」(15歳以上)1979年12月「日本人とテレビ」(16歳以上)1982年10月「テレビ30年」(16歳以上)1992年10月「テレビ40年」(16歳以上)2002年10月「テレビ50年」(16歳以上) 2012年11月「テレビ60年(面接法)」(16歳以上)

    ひとりで見ることが多い 家族と見ることが多い

  • 13

    誕生から60年を経たテレビ視聴

    第3期(1986年~2002年):リモコンの登場

    と視聴の活性化11)

    第2期に減少した視聴時間は,1985年前

    後を底に,再び大きく増加した。生活面の変

    化の背景としては,週休2日制の浸透,家事

    や学業などの拘束時間が短くなり自由時間が

    増加したこと,生活の夜型化に伴い深夜の時

    間帯がテレビ視聴の時間となったことなどが

    あげられる。視聴時間の増加とともに,テレ

    ビに対する意識の面でも大きな変化があっ

    た。ひとつはテレビに対する興味の回復,も

    うひとつは「なんとなくいろいろな番組を見

    る」見方の回復である。

    興味の回復には2つの理由が考えられた。

    ひとつは,中継技術の飛躍的向上,ビデオカ

    メラの小型化・軽量化など技術の進歩に加え,

    1985年以降,「フィリピン政変」(1986年),

    「ベルリンの壁の崩壊」(1989年),「湾岸戦争」

    (1991年),「阪神・淡路大震災」(1995年)な

    どの出来事があいついで起き,それをNHK

    や民放のニュースがわかりやすく視聴者に伝

    えたことで,人々がテレビのメディア特性を

    再認識し,報道機能を中心にテレビが見直さ

    れたことである。

    他のひとつは,リモコンの登場によって人々

    が新しく身につけたテレビの見方や,国民の

    半数を占めるようになった「生まれたとき,物

    心ついたときからテレビのある1951年以降生

    まれ」,中でも1951年~1970年生まれのテレ

    ビのメディア特性を熟知した“テレビの達人”

    ともいえる「テレビ世代」のテレビの見方が,

    テレビ番組の制作手法そのものにも変化を呼

    び起こし,その相乗効果で新しいテレビの楽

    しみ方が生まれ,それがテレビへの興味の回

    復につながった,というものである12) 。

    リモコンの登場による新しい見方と「テレ

    ビ世代」のテレビの見方について,もう少し

    ふれておこう。1980年代に普及したリモコ

    ンは1992年には所有率87%となり,「番組

    が面白くなくなったら次々とチャンネルを替

    える」という人は,「よくある」と「ときどき

    ある」を合わせて81%に達している。リモコ

    ンを使った視聴の評価も「テレビの見方が自

    由で多彩なものになった」と肯定的にみる人

    が61%で,「テレビの見方が散漫で落ち着か

    なくなった」と否定的にみる人は27%と少数

    派である(図5)。

    さらに90年代後半には,面白くないかど

    うかとは別に「気がつくとリモコンでチャン

    ネルを次々とかえていること」や「リモコンで

    たくさんの番組のおもしろいところをつまみ

    見していくこと」などの視聴スタイルが若年

    層を中心に浸透し(1997年「テレビと情報行

    動」調査13)),テレビをつけたままにして気に

    なったところだけをつまんで見る断片的な見

    方,常時ザッピングをしてより面白いものを

    探す探索的な見方に至った。「なんとなくい

    ろいろな番組を見るほう」という人が若年層

    を中心に増えていたのは,このような視聴ス

    図5 リモコンの評価

    70

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    016~29歳 30代 40代 50代 60代 70歳以上

    <リモコンによってテレビの見方は…>

    自由で多彩なものになった(全体61%)

    散漫で落ち着かなくなった(全体27%)

    (%)

    60

    13

    67

    17

    61

    26

    57

    30

    57

    34

    66

    28

    1992年10月「テレビ40年」(16歳以上)

  • 14│NHK放送文化研究所年報2014

    タイルの浸透の表れと考えられた(図6)14)。

    断片的な視聴,つけっぱなしの視聴スタイ

    ルに合わせて,(今では特別なことではない

    と思われるが)途中から見始めてもすぐに新

    しい話題が始まるように,あるいは乗り降り

    自由なように複数のコーナーから成るモザイ

    クのような番組,ザッピングの途中で一瞬画

    面を見ただけでもどういう内容が放送されて

    いるか,どんな雰囲気の番組かがわかるよう

    な「スーパー」「テロップ」「絵文字」を多用し

    た番組などが登場した。

    一方の,テレビを見る目の肥えた視聴者の

    見方とは,「番組の細部にも目が届き番組の

    しかけを見破ってしまうが,それを承知の上

    でテレビを楽しむ」(井田2004)ような見方で

    ある。一定の約束事を了解の上で,登場する

    タレントなどテレビの中の登場人物の行動や

    心理に感情移入しながら,その友人や親戚で

    あるかのように感想や意見を言いながら見

    る,といったことも見受けられるようになる。

    このような見る目の肥えた人々の視聴に耐え

    うる「ひねった構成や凝った演出」の番組や

    「マニアックなこだわり」を追求した番組な

    どが登場した。このように,熟練視聴者を相

    手とした新しいテレビ的な手法を重視した番

    組制作が登場した結果,断片的・探索的でし

    かも熟練し,テレビと一体となって遊ぶ「現

    代的な」見方が年齢を超えて視聴者の間に急

    速に広がっていったと考えられた。

    家族視聴に関しては,例えば1980年代後半

    に登場したトレンディドラマのように,番組

    そのものに家族で見ることを前提としないも

    のが登場するといった内容の変化があったこ

    と15),家族人数の減少,テレビ所有台数の増加,

    家族メンバーの生活パターンの多様化によっ

    て,行動の上でも意欲の上でも1人でテレビ

    を見る個人視聴が優勢な時代に入っていた。

    先にあげた感情移入して見る見方として,

    出演者を家族のように思い,自分もテレビの

    中の家族の一員になっているかのような気持

    ちで見る見方がある。そうした見方に対応し

    た新しい演出(その後は多用されている)とし

    て,バラエティ番組に出演しているタレント

    たちがスタジオという“茶の間”でVTRとい

    う“番組”を見ながら家族のようにおしゃべり

    をするようなものが生まれた。その“団らん”

    にテレビのこちら側から視聴者も加わってい

    るかのような「テレビとの団らん」も生まれた。

    1980年代半ばを境に起きたテレビの見方

    の変化によって,テレビの前に人々が集まり,

    家族みんなで番組を始めから終わりまで息を

    こらしてじっくり鑑賞する楽しさから,常に

    ついたままのテレビ画面から流れてくる映像

    から反射的に面白い部分を選びとってつまみ

    図6 「漠然視聴か選択視聴か」の変化

    1969年

    1979年

    1982年

    1992年

    2002年

    2012年

    29% 2 69

    24 3 74

    21 2 77

    27 5 67

    28 6 66

    34 9 57

    別に見たいと思わないものも見る+何となくいろいろ見る

    どちらともいえない+わからない,無回答

    どちらともいえない+わからない,無回答

    見たいものだけ選んで見る+どちらかといえば

    1969年12月「放送に関する世論調査」(15~ 69歳)1979年12月「日本人とテレビ」(16歳以上)1982年10月「テレビ30年」(16歳以上)1992年10月「テレビ40年」(16歳以上) 2002年10月「テレビ50年」(16歳以上) 2012年11月「テレビ60年(面接法)」(16歳以上)

    何となくいろいろな番組を見るほう

    好きな番組だけを選んで見るほう

  • 15

    誕生から60年を経たテレビ視聴

    見する楽しさや,自分流の解釈でテレビの裏

    側まで読んで,時には制作者とコミュニケー

    ションするような楽しさを視聴者は身につけ

    たのである。

    第4期(2003年~現在):インターネット利

    用の浸透による若年層を中心としたテレビの

    位置づけの低下

    この10年はまさにデジタル化が進み,生

    活の中に浸透した時期である。特にインター

    ネット利用の広がりは,第1期のテレビとい

    う新しいメディアの登場と同様,人々の生活

    や社会全体に大きな影響を及ぼしており,直

    接,間接に,テレビ視聴にも少なからぬ影響

    を与えた。ただし,これからデータをみてい

    くとわかることであるが,テレビの登場のよ

    うに年代を越えてすべての層に影響を与えて

    いるわけではなく,また,普及や利用がテレ

    ビほど短時間に進んだわけでもない。これは

    テレビとの大きな違いである。

    以下で,テレビ視聴のこの10年の変化や

    新たな視聴行動について,詳しくみていくこ

    とにする。

    Ⅰ−2 完全デジタル化への10年

    Ⅰ−2−1テレビ視聴時間,態様,興味などの変化

    9ページ図1に示したとおり,国民全体と

    してみれば,第4期も依然としてテレビの長

    時間視聴が続いている。ただし,若年層では

    後述するように視聴時間の減少や行為者率の

    低下がみられる。現在の長時間視聴は,もと

    もと視聴時間が極めて長い高齢者が人口に占

    める割合が増えていることに支えられた結果

    で,いわば自然増のようなものである。

    図7は,平日のテレビの行為者率(1日の

    中で接した人の率)と行為者平均時間(接し

    た人に限った平均時間),全員平均時間(接

    していない人も含めた全員の平均時間)を年

    層別に示したものである。1995年には20代

    図7 テレビの行為者率と時間量の変化(平日,年層別)

    60代

    50代

    40代

    30代

    10代20代

    60代

    50代

    40代30代

    10代20代

    <行為者率>

    国民全体

    国民全体

    国民全体

    (%)100

    90

    80

    70

    60

    0

    70歳以上 60代50代

    40代

    30代10代

    20代

    6:00

    5:00

    4:00

    3:00

    2:00

    1:00

    0:00

    70歳以上

    <行為者平均時間>(時間)6:00

    5:00

    4:00

    3:00

    2:00

    1:00

    0:00

    70歳以上

    <全員平均時間>(時間)

    「国民生活時間調査」(各年とも10月,10歳以上)

    1995 2000 2005 2010年1995 2000 2005 2010年1995 2000 2005 2010年

  • 16│NHK放送文化研究所年報2014

    を除いてどの年層も行為者率が90%以上で

    あったが,それが30代以下では低下してお

    り,2010年に10代と30代では80%台前半,

    20代では80%を切っている。行為者平均時

    間も30代以下では低下傾向,40代,50代,

    60代ではほぼ横ばい,70歳以上では増加傾

    向となっており,年層により変化の方向が異

    なるなど,違いが大きい。

    興味の点では,「以前よりも興味をひかれ

    ることが少なくなった」という人が半数近く

    と大幅に増え,「以前も今もあまり興味がな

    い」と合わせて興味がない人が6割を超えて

    いる。逆に「以前よりも興味をひかれること

    が多くなった」「以前も今も同じように興味

    がある」ともに減って,興味のある人がこれ

    までで最も少なかった1982年よりも少なく

    なっている(11ページ図3)。

    個人視聴の増加については,長期的にみれ

    ばその傾向に変わりはないが,個人視聴を望

    む意識のデータなども併せてみると16),

    2000年以後はその勢いがやや鈍っているよ

    うであり,2012年の調査(「テレビ60年」)で

    は,一旦増加が止まっている(12ページ図4)。

    期待種目は,報道が4割を超えて最も多い状

    況は変わっていない(10ページ図2)。 

    Ⅰ−2−2メディアの中でのテレビの位置づけの変化

    第4期の視聴時間,興味,視聴態様などの

    変化の概要は以上のとおりであるが,次は,

    ほかのメディア利用との関係の中でのテレビ

    視聴の変化,端的にいえばインターネットの

    普及・利用が進んだことで,実際のテレビ視

    聴行動がどう変化したかについて,各種調査

    の結果から少し細かくみていくことにする。

    利用頻度

    NHKが1985年から継続して行っている

    「日本人とテレビ」調査でさまざまなメディア

    の視聴頻度を尋ねた結果から,それらの位置

    づけの変化をみる。とりあげるのは,テレビ,

    ラジオ,新聞,週刊誌,本,CD,ビデオ(録

    画・再生の別なし),インターネット,HDD

    である。ここでは「毎日のように」「週に3,4

    回ぐらい」「週に1,2回ぐらい」と答えた人の

    率を合計した「1週間に1回以上接触している

    人」を日常的に利用する人とみなす(図8)。

    視聴頻度でみて最も率が高いメディアはテ

    レビである。この25年ほとんど変わらず

    図8 週に1回以上見聞きする人(日常利用者)の率の変化

    100

    80

    60

    40

    20

    01985 1990 1995 2000 2005 2010年

    (%) 98

    9593 93 93

    90 82

    17

    30

    16

    6

    25

    19

    20

    15

    26 27

    35 33

    3032

    39

    3332 34

    343434 31

    29

    35 36

    4246

    4237

    59

    5155 53

    4641

    97 98 98 97 96

    注)週に1回以上とは「毎日のように」「週に3,4回ぐらい」「週に1,2回ぐらい」の合計。

      インターネットにメールは含まない。

    「日本人とテレビ」(各年とも3月,16歳以上)

    テレビ週刊誌ビデオ

    ラジオ本インターネット

    新聞CDHDD

  • 17

    誕生から60年を経たテレビ視聴

    2010年でも96%と,非常に多くの人にとっ

    て日常メディアとなっている。次いで新聞の

    率が高いが,新聞に関してはこの10年の減

    少が大きい。2010年では,インターネット,

    ラジオ,CDが40%前後で並んでいる。しか

    し,それぞれの変化の様相は異なり,2000

    年から調査項目に加えたインターネットは,

    2005年,2010年と大幅に増加,ラジオは

    1985年には約6割が日常的に接するメディ

    アであったが,その後は減少が続いている。

    CDは2000年まで増加していたが,2005年,

    2010年と減少が続いている。

    ビデオは,家庭への普及が進んだ1985年

    から1990年にかけて日常利用者が倍増した

    がその後は伸びておらず,本は緩やかに減少

    気味であり,ともに30%程度となっている。

    HDDは調査するようになってから2回目に

    なるが,大幅に増加して20%,週刊誌は,

    減少が続いて15%である。

    このように,日常利用メディアの25年の

    変化をみると,新聞,ラジオ,週刊誌といっ

    たいわばオールドメディアは減少する一方,

    これら以外の新しいメディアでは,CDの出

    現後の増加と近年の減少,インターネット,

    HDDといったデジタル機器の出現後の増加,

    が明らかになっている。

    行為者率と時間量

    さらに,NHKの「国民生活時間調査」の結

    果を使って,テレビ,ラジオ,新聞,雑誌・

    マンガ・本,CD・MD,ビデオ・DVD,インター

    ネット(「国民生活時間調査」で調査している

    「インターネット」は,仕事や学業,家事での

    利用は除いた自由行動としての利用に限り,

    さらにメールを含まない)の行為者率,行為者

    平均時間,全員平均時間の変化をみる(表2)。

    そもそもテレビは,1日の中で接している

    人の多さとその時間の長さの両面で,他のメ

    ディアを圧倒している。平日1日の中でテレ

    ビを見ている人の率(行為者率)は89%で,

    1995年から比べるとやや低下傾向にあるも

    のの,睡眠(100%),食事(99%),着替え・

    入浴などの身のまわりの用事(98%)に次い

    で高い値である。テレビに次いで行為者率の

    高いメディア利用行動は新聞(41%)であり,

    テレビ視聴が量的な面ではほかのメディアの

    追随を許さないほどよく行われており,生き

    ていく上で欠かせない行動と同じくらい人々

    の生活に溶け込んでいることを表している。

    このように1日を単位としてみても,1995

    表2 各メディアの行為者率と時間量の変化(平日)(単位:行為者率は%,時間量は時間:分)

    1995年 2000年 2005年 2010年

    テレビ行為者率行為者平均時間全員平均時間

    923:363:19

    913:443:25

    903:493:27

    893:543:28

    ラジオ行為者率行為者平均時間全員平均時間

    172:290:26

    152:220:21

    152:310:23

    132:360:20

    新聞行為者率行為者平均時間全員平均時間

    520:450:24

    490:460:23

    440:470:21

    410:460:19

    雑誌・マンガ・本

    行為者率行為者平均時間全員平均時間

    ―――

    ―――

    181:090:13

    181:120:13

    CD・テープ行為者率行為者平均時間全員平均時間

    111:260:10

    111:270:10

    91:340:09

    81:310:07

    ビデオ・HDD・DVD

    行為者率行為者平均時間全員平均時間

    71:280:06

    71:260:06

    81:400:08

    111:490:13

    インターネット行為者率行為者平均時間全員平均時間

    ―――

    ―――

    131:380:13

    201:530:23

    「国民生活時間調査」(各年とも10月,10歳以上)

  • 18│NHK放送文化研究所年報2014

    年から2010年の変化で最も目立つのは,新

    聞の行為者率の減少とインターネットの行為

    者 率 の 増 加 で あ る。 イ ン タ ー ネ ッ ト は,

    2005年から調査をしているが,2010年にか

    けての行為者率の伸びが大きい。

     

    自由時間の中での位置づけ

    同じく生活時間調査のデータから,テレビ

    視聴時間が生活の中で占める位置づけについ

    てみてみたい。メディア接触行動は,自由裁

    量性の高い自由行動の1つである17)。自由行

    動の時間の長い人ほどメディアに接する時間

    量は多くなるという関係があるので,ここでは

    メディア接触の時間が自由時間に占める割合

    を算出し相対化して,メディア接触時間が自

    由行動の中でどのくらいの位置を占めている

    のかをみることにする18)。

    図9では,インターネットが

    一般に広まる前の1995年,イ

    ン タ ー ネ ッ ト が 一 般 化 し た

    2005年,さらに直近の2010年

    の3時点にしぼって示した。イ

    ンターネットを独立した行動と

    して調査するようにしたのは

    2005年からで,普及が進む前

    の1995年は調査していない。

    メディア接触以外の自由行動

    には,行楽・散策,スポーツ,

    趣味・娯楽・会話・交際などが

    あるが,時間の面では,いずれ

    の年もこうした積極的な自由行

    動を抑えてメディア接触が自由

    時間の中で大きな位置を占めて

    おり,中でもテレビの位置づけ

    が大きい。2005年以降にイン

    ターネットが加わったことによ

    り,新聞などテレビ以外のメ

    ディアの占める割合は少しずつ

    低下しているが,テレビはほと

    んど変化していない。

    2010年の年層別の結果では

    (図10),自由時間の中でメディ

    ア接触の占める割合が最も高い

    図9 メディア接触が自由時間に占める割合の変化(国民全体,平日)

    1995年 46% 2 4 4 11 42テレビ

    ラジオ 新聞 雑誌・マンガ・本

    ビデオ・HDD・DVDCD・テープ

    2005年 46 2 4 43 12 38

    2010年 45 2 3 313 6 38

    4:29

    4:41

    4:48

    インターネット

    メディア以外自由時間(時間:分)

    注)各メディアの「専念の接触時間」データを用いて,自由時間(右端に掲載)に占める割合を計算した。各メディアの「専念の接触時間」を足し上げたものを「メディア接触時間」とした。自由時間からこの「メディア接触時間」を引いたものを,「メディア以外の自由行動時間」とした。

    「国民生活時間調査」(各年とも10月,10歳以上)

    図10 メディア接触が自由時間に占める割合(年層別,平日)

    10~15歳 38% 6 2 4 7 43テレビ

    ラジオ 新聞

    ビデオ・HDD・DVD インターネット

    CD・テープ雑誌・マンガ・本

    3:14

    16~19歳 28 2 25 13 50 4:02

    20代 31 5 5 161 42 4:12

    30代 38 7411 1 13 37 3:19

    40代 48 2 2 4 6 7 32 3:42

    50代 50 2 2 43 41 35 4:15

    60代 49 2223 4 1 38 5:57

    70歳以上 49 25 5 21 37 7:44

    メディア以外自由時間(時間:分)

    注)各メディアの「専念の接触時間」データを用いて,自由時間(右端に掲載)に占める割合を計算した。各メディアの「専念の接触時間」を足し上げたものを「メディア接触時間」とした。自由時間からこの「メディア接触時間」を引いたものを,「メディア以外の自由行動時間」とした。

    2010年10月「国民生活時間調査」(10歳以上)

  • 19

    誕生から60年を経たテレビ視聴

    ことはどの年層にも共通しているが,メディア

    ごとの内訳には年層による違いが認められる。

    テレビ視聴は,40代以上では単独でほぼ50%

    を占めるのに対し,30代以下では40%を切っ

    て少なくなっている。これは,2005年から

    2010年にかけてインターネットが10%を超え

    るまでに増加した分だけ,テレビ視聴の割合

    が減ったためである。40代以上では,インター

    ネットの伸びはテレビに影響するほどではな

    い。30代以下では,インターネットがテレビに

    次いで比較的大きな位置づけとなっている19)。

    欠かせないメディア 

    次に「日本人とテレビ」調査で

    「どうしても欠かせないもの」を1

    つ選んでもらった結果から,意識

    の上でのテレビの位置づけをみ

    る。この質問の選択肢には,マス

    メディアだけでなくパーソナルコ

    ミュニケーションも含んでいる。

    「テレビ」と「家族との話」が2000

    年以後変化なく,2010年ではどち

    らも約3割で最も多く,新聞は減

    少,インターネットは増加して,

    ともに1割程度という結果になっ

    ている。このほかのメディアを選

    ぶ人はいずれも1割に満たない。

    選択肢にインターネットを含まな

    い2000年以前の結果をみると,

    1990年以後大きな動きがなく安定

    していたことがわかる(図11)20)。

    動きのあった2000年から2010

    年にかけて,テレビ,新聞,イン

    ターネットの変化を年層別にみる

    と(図12),欠かせないメディア

    注)インターネットにメールは含まない

    「日本人とテレビ」(各年とも3月,16歳以上)

    図11 どうしても欠かせないメディア(1つ選ぶ)

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    1985 1990 1995 2000年

    インターネット

    家族との話

    テレビ

    新聞

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    家族との話

    テレビ

    新聞

    2010年20052000

    <1985~2000年> <2000~2010年>

    注)インターネットにメールは含まない

    「日本人とテレビ」(各年とも3月,16歳以上)

    図12 どうしても欠かせないメディア(1つ選ぶ)(年層別)

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2010年20052000

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2010年20052000

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2010年20052000

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2010年20052000

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2010年20052000

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2010年20052000

    テレビ

    インターネット

    テレビ

    テレビ

    インターネット インターネット

    インターネットインターネット インターネット

    新聞新聞

    新聞

    テレビ

    新聞

    テレビ

    新聞

    テレビ

    新聞

    <16~ 29歳> <30代> <40代>

    <50代> <60代> <70歳以上>

  • 20│NHK放送文化研究所年報2014

    としてインターネットをあげる人は60代以

    下のどの年層でも増加している。その代わり

    に減っているのがテレビである年層(20代以

    下)と新聞である年層(40代,50代)がある。

    なお,別の調査(2012年「テレビ60年(配

    付回収法)」)で,パーソナルコミュニケーショ

    ンを含めず,またインターネットを細分化し

    た選択肢を提示して「どうしても欠かせない

    もの」を尋ねたところ,テレビは全体では

    51%でもっとも多いが,年層により大きな

    差があることが明らかになっている(図13)。

    特に16~29歳ではテレビとウェブサイトが

    並ぶ結果となっている。

    機能別にみた効用比較

    次に,機能別にみたメディアの効用(○○

    する上でいちばん役立っているものを1つ選

    んだ結果)について,インターネットを選択

    肢に加えるようになった2000年の前と後に

    分けて結果をみてみる(図14)21)。2000年以

    前は,テレビの慰安・娯楽機能が漸減傾向に

    あったこと,1985年から1990年にかけて,

    新聞の解説機能が低下しテレビの解説機能が

    増加したことを除くと,どの機

    能でもメディアの効用の評価は

    大きな変化なく安定していたと

    いえる。変化は2000年以後に

    起きている。いずれの機能にお

    いても,新聞をあげる人が減り,

    インターネットをあげる人が増

    えている。テレビは解説機能と

    教養機能では増加しているが,

    ほかの機能では変化はみられな

    い。

    22ページの図15でテレビに

    ついて年層別にみると(2010年時点で10%

    を超えている機能に限定して掲載),報道機

    能の16~29歳での低下,慰安機能の30代で

    の低下,情報機能の60代での低下などが目

    立っている。報道機能や慰安機能での低下は,

    インターネットの増加も一因と思われる(図

    16)。 一 方, 解 説 機 能(16~29歳 と30代,

    70歳以上),交流機能(70歳以上)のように

    増加しているものもある。

    以上のように,機能別の効用評価という点

    でも,2000年以降のインターネット利用の

    広がりによって,メディアの相対的な位置づ

    けの変化が起きていることがわかる。全体と

    してみるとネットの影響を受けているのはテ

    レビではなく新聞である。しかし,ここでも

    30代以下の若年層では,テレビへの影響が

    読み取れる。

    なお,変化の有無は別にして,国民の半数

    以上が選んでいて評価が高いのは,「報道」

    (63%),「娯楽」(60%),「解説」(57%)機能

    におけるテレビのみである。年層によっては

    50%を超えない層もあるが(「娯楽」では16

    ~29歳の41%,30代の49%,「解説」では

    図13 どうしても欠かせないメディア(1つ選ぶ) (年層別)

     全体

    16~29歳

    51% 6712 2 1113 8

    23 1692 23 4 39 10

    30代 36 83 10 4 1124 13

    40代 44 798 2 1118 11

    50代 57 3910 11112 7

    60代 62 21 13 654

    70歳以上 72 42 1120

    テレビ 新聞

    本・雑誌・マンガ

    音楽 ウェブサイト

    SNS 無回答動画サイト

    この中にはない

    2012年11月「テレビ60年(配付回収法)」(16歳以上)

  • 21

    誕生から60年を経たテレビ視聴

    40代の49%),どの年層でも,それぞれの機

    能に対してテレビをあげる人が最も多くなっ

    ている。テレビのこの3つの機能は,現時点

    でもゆるぎないものといってよいだろう22)。

    「テレビ60年」調査で,選ぶメディアの中

    にウェブサイト,動画サイト,SNSなどイ

    ンターネットを細分化した項目を入れて調査

    した結果でも,文言は少し異なるが「報道」

    (ニュースや社会の動きを知る上で),「共通

    の話題」(人との共通の話題が得られる)でテ

    レビを選ぶ人が6割を超えており,年層差も

    あまり大きくない(23ページ表3)23)。

    「日本人とテレビ」(各年とも3月,16歳以上)

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    1985 1990 1995 2000年

    〈新聞〉

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    1985 1990 1995 2000年

    〈本〉

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    〈新聞〉

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    〈本〉

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    〈インターネット〉

    報道

    解説

    情報

    教養

    教養

    報道

    解説

    情報

    教養

    情報

    教養

    娯楽

    情報

    報道

    交流

    図14 メディアの効用の変化(○○する上でいちばん役に立っているもの)

    70

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    1985 1990 1995 2000年

    〈テレビ〉70

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    〈テレビ〉

    報道

    解説

    情報

    慰安・娯楽

    教養

    報道

    解説

    娯楽

    情報

    教養

    交流

    慰安

    【1985 ~ 2000年】報道:世の中の出来事や動きを知る上で

    教養:教養を身につける上で

    注)斜字体は,2000年以後と文言が異なるもの

    【2000 ~ 2010年】報道:世の中の出来事や動きを知る上で娯楽:感動したり,楽しむ上で教養:教養を身につける上で情報:生活や趣味に関する情報を得る上で解説:政治や社会の問題について知る上で慰安:疲れを休めたり,くつろぐ上で交流:人とのつきあいを深めたり,広げたりする上で

    慰安・娯楽:疲れを休めたり,楽しんだりする上で

    情報:生活や余暇に関する情報を得る上で解説:政治や社会の問題について考える上で

    「日本人とテレビ」(各年とも3月,16歳以上)

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    1985 1990 1995 2000年

    〈新聞〉

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    1985 1990 1995 2000年

    〈本〉

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    〈新聞〉

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    〈本〉

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    〈インターネット〉

    報道

    解説

    情報

    教養

    教養

    報道

    解説

    情報

    教養

    情報

    教養

    娯楽

    情報

    報道

    交流

    図14 メディアの効用の変化(○○する上でいちばん役に立っているもの)

    70

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    1985 1990 1995 2000年

    〈テレビ〉70

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    〈テレビ〉

    報道

    解説

    情報

    慰安・娯楽

    教養

    報道

    解説

    娯楽

    情報

    教養

    交流

    慰安

    【1985 ~ 2000年】報道:世の中の出来事や動きを知る上で

    教養:教養を身につける上で

    注)斜字体は,2000年以後と文言が異なるもの

    【2000 ~ 2010年】報道:世の中の出来事や動きを知る上で娯楽:感動したり,楽しむ上で教養:教養を身につける上で情報:生活や趣味に関する情報を得る上で解説:政治や社会の問題について知る上で慰安:疲れを休めたり,くつろぐ上で交流:人とのつきあいを深めたり,広げたりする上で

    慰安・娯楽:疲れを休めたり,楽しんだりする上で

    情報:生活や余暇に関する情報を得る上で解説:政治や社会の問題について考える上で

  • 22│NHK放送文化研究所年報2014

    「日本人とテレビ」(各年とも3月,16歳以上)

    図15 テレビの効用の変化(年層別)

    80

    70

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    「いちばん役に立っているもの」でテレビを選んだ人の率

    報道

    解説

    娯楽

    情報教養

    交流慰安

    <16~ 29歳>

    80

    70

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    報道解説

    娯楽

    情報

    教養

    交流

    慰安

    <50代>

    80

    70

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    報道

    解説娯楽

    情報

    教養交流

    慰安

    <30代>

    80

    70

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    報道解説

    娯楽

    情報教養

    交流

    慰安

    <60代>

    80

    70

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    報道

    解説

    娯楽

    情報教養

    交流

    慰安

    <40代>

    80

    70

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    報道

    解説娯楽

    情報

    教養

    交流

    慰安

    <70歳以上>

    図16 インターネットの効用の変化(年層別)「いちばん役に立っているもの」でインターネットを選んだ人の率

    「日本人とテレビ」(各年とも3月,16歳以上)

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    報道

    情報

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    報道 報道

    情報情報

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    教養

    情報

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    2000 2005 2010年

    <16~ 29歳> <30代> <40代> <50代>

  • 23

    誕生から60年を経たテレビ視聴

    Ⅱ 近年の傾向を探るデジタル化によって新しくもたらされた

    り,広がりをみせたりした新しいテレビ視聴

    について,少し詳しくみていく。

    Ⅱ−1 デジタル化がもたらす“新しい”テレビ視聴

    デジタル化によるテレビ視聴の変化の1つ

    の側面として,これまでテレビを見る上で制

    約となっていた事柄が取り除かれ,あるいは

    小さくなり,自由で多彩なテレビ視聴が可能

    になるということがあるだろう。考えられる

    のは,時間,空間,手段,内容面の“制約”

    からの解放である24)。

    Ⅰ章で触れたように,番組を見ることに関

    して人々が時間を操作できるようになったの

    は1980年代以後のことである。それが可能

    になっても第3期までは,時間をずらしての

    視聴(タイムシフト視聴)はリアルタイムで

    テレビを見ることから比べると,頻繁に行わ

    れているわけではなかった。しかし,この

    10年でデジタル録画機の普及で録画がより

    簡単にできるようになり,“時間の操作”が

    容易になっている。

    空間に関しては,第3期までテレビは屋内

    に据えられた受信機で見るものであった。地

    上デジタル放送の電波を利用した,携帯電話

    や車に搭載した受信機など移動する端末に向

    けた放送サービス,ワンセグの開始(2006年

    4月から本放送開始)により,通勤・通学・

    移動時などの屋外での視聴が可能になった。

    手段としては,インターネットを介して番組

    を見ることが可能になった。インターネットで

    番組の動画を見ることや,放送局のオンデマ

    ンドサービスを利用することなどである25)。

    これらがどのくらい行われているのか,

    2012年「テレビ60年」調査の利用頻度のデー

    タでみてみると(表4),自分で見るために番

    組を録画すること,録画した番組を見ること

    に比べると,インターネットによるテレビ番

    組に関する動画視聴(ここでは,番組そのも

    ののほか,番組の一部を一般の人が加工した

    ものも含む)は少ない。また,タイムシフト

    視聴は,ネットによるテレビ番組動画視聴に

    比べ,年層による差が小さく,幅広い年代に

    行われる行動となっている。2013年6月に実

    施した「全国放送サービス接触動向調査」26)

    の結果で,調査対象となった1週間に5分以

    上行った人の率(接触者率)でみても,タイム

    シフト視聴が46%であったのに対し,動画

    視聴(放送局が動画サイトに提供した番組動

    画や放送局の有料番組配信サイト)をする人

    は9%と少ない。

    表3 「いちばん役に立っているもの」でテレビを選んだ人の率(年層別)(%)

    全体 16~29歳 30代 40代 50代 60代 70歳以上

    ニュースや社会の動きを知る上で 63 58 59 59 66 64 71

    人との共通の話題が得られる 61 39 55 65 67 68 68

    気軽に楽しむ上で 51 23 41 47 54 63 70

    関心のない分野のことでも知識が得られる 48 45 45 48 46 50 52

    注)テレビ,新聞,本・雑誌・マンガ,音楽,ウェブサイト,YouTubeなどの動画サイト,mixi・Twitter・FacebookなどのSNSの中から1つ選ぶ

    2012年11月「テレビ60年(配付回収法)」(16歳以上)

  • 24│NHK放送文化研究所年報2014

    自宅外視聴は,ワンセグのサービスによっ

    て広がると予想されていたが,生活時間調査

    では,自宅外視聴の割合に変化はなかった。

    (2005年は平日のテレビ視聴時間3時間27分

    のうち自宅外は13分,日曜4時間14分のう

    ち16分,2010年は平日のテレビ視聴時間3

    時間28分のうち自宅外は13分,日曜4時間

    9分のうち16分27)。

    2010年の「デジタル放送調査2010」では,

    ワンセグを週に1日以上利用する人は2008

    年から変化なく,国民全体の7%(2008年

    7%)と少ない。年に数日まで含めても17%

    (同13%)と2割に満たない。利用する人に

    尋ねた結果では,ワンセグは,自宅外で使う

    人(利用者の48%,国民全体の 18%)のほ

    うが自宅内で使う人(利用者の27%,国民全

    体の10%)よりも多いものの,この自宅内利

    用も決して少なくない。また利用時間は自宅

    外のほうが短めであった。ワンセグが自宅外

    でのテレビ視聴を増やしたというわけではな

    かった。

    以上から,現時点では,デジタル化によっ

    てもたらされた日常的に多くの人に行われて

    いる「新しいテレビ視聴行動」に該当するの

    は,タイムシフト視聴のみといってもよいだ

    ろう。タイムシフトについて,以下で少し丁

    寧に紹介する。

    Ⅱ−2 タイムシフト視聴

    ビデオが家庭に広がり始めたころまで遡っ

    てみてみよう。NHKの「国民生活時間調査」

    では,ビデオの普及が3割を超えた1985年

    から,ビデオの再生視聴(録画したテレビ番

    組,市販のビデオ,自分で撮影したものなど

    の内容を問わない)についてのデータをとら

    えている。1日の行為者率の推移を図17に示

    した。調査方式を変更しているので数値の直

    接比較はできないが,ここからわかるのは,

    家庭用ビデオの普及が3割程度から急増して

    7割を超えた1985年から1990年にかけてと,

    DVDプレーヤーの普及が4割台から6割台

    表4 番組録画,再生,ネット利用,動画視聴,テレビ番組に関する動画視聴,テレビに関するSNSの利用頻度(年層別)(%)

    全体16~29歳

    30代 40代 50代 60代70歳以上

    自分で見るためにテレビ番組を録画週に1~2日以上 41 53 59 54 44 30 16

    年に数日以上 56 68 71 73 62 46 27

    録画したテレビ番組を再生週に1~2日以上 40 50 56 54 43 29 17

    年に数日以上 58 70 71 75 64 49 29

    インターネット利用週に1~2日以上 55 90 87 79 56 28 13

    年に数日以上 61 92 90 86 66 36 16

    動画の視聴週に1~2日以上 31 67 48 40 30 12 4

    年に数日以上 45 83 71 63 45 19 7

    テレビ番組に関する動画の視聴週に1~2日以上 12 31 21 14 9 5 1

    年に数日以上 29 56 49 40 24 11 4

    テレビに関するSNSの利用週に1~2日以上 15 41 25 16 9 4 2

    年に数日以上 22 56 35 27 14 6 3

    2012年11月「テレビ60年(配付回収法)」(16歳以上)

  • 25

    誕生から60年を経たテレビ視聴

    へ,HDDが1割 台 か ら3割 台 へ と 増 え た

    2005年から2010年にかけての増加が大きい

    ことである28)。

    普及と利用の進んだ時期にあたる1990年

    に行った「全国ホームビデオ調査」29)で頻度

    を尋ねた結果からは,ビデオ利用(録画,再

    生を分けていない)は毎日の生活に組み込ま

    れているのではなく,1週間くらいを単位と

    して利用されていることが示された。また,

    ビデオ利用者のテレビ視聴時間が非利用者に

    比べて短いという関係は認められず,ビデオ

    視聴はテレビ視聴時間を減少させるというよ

    りは,むしろテレビを補完して番組視聴を増

    やすものと結論づけられた(戸村1991)。

    2005年以後の伸びは,デジタル機器の普

    及により,利用が増えたためと考えられる。

    2009年,2010年に実施した「デジタル放送

    調査」で,利用機器と使用頻度の関係をみた

    ところ,HDDを利用している人のほうが使

    用頻度が高く,機器の普及が進めば利用も増

    えることが示唆された(小島・山田・仲秋

    2011)。デジタル化が始まって間もない1998

    年に実施した「デジタル時代の視聴者」調査30)では,当たり前といえばそのとおりの結

    果であるが,メディア機器の利用頻度は操作

    が簡単というイメージの高低と強い関係があ

    ることが明らかになっている。当時のアナロ

    グのビデオは,テレビやラジオ,レコード・

    CD・MD,新聞,本・雑誌・漫画などのメディ

    アに比べ,簡単な感じを持つ人が少なく(テ

    レビ75%に対し,ビデオは38%。テレビを

    含むほかのメディアの単純平均58%),テレ

    ビを見るように気軽に簡単に使うというもの

    ではなく,週末にまとめて見るなどテレビと

    は違う見方で楽しむものであった(上村・荒

    牧1999)。一方,DVDやHDDなどのデジタ

    ル録画機の操作の簡便性は言うまでもないこ

    とで,しかも,CMや面白くないところをと

    ばすといった再生時の“時間の操作”がたや

    すいことも,インターネットを使い慣れ,情

    報取得やテレビ視聴を自分主導で行う人々の

    感覚に合い,利用の伸びを後押ししたのであ

    ろう。

    5年ごとに実施している定例の(時系列の)

    「国民生活時間調査」では,テレビ番組の再

    生とテレビ番組以外の映像ソフトの再生を合

    わせて「ビデオ」として調査しているが,

    2012年に単発で行った「メディア利用の生活

    時間調査」31)(調査対象を10~69歳までとし

    ている。行動分類もメディアを中心に組み立

    てており,上記の定例の生活時間調査とは異

    なるため,両調査の結果の数値の直接比較は

    できない)では,両者を分けて調査した。「テ

    レビ視聴(=リアルタイム)」と「録画したテ

    レビ番組の再生視聴(=タイムシフト)」「(テ

    レビ以外の)映像ソフトの視聴(=映像ソフ

    ト)」の結果は表5のとおりで,「ビデオ」視

    聴時間の8割以上はテレビ番組の再生視聴で

    あった。また,タイムシフト視聴の時間は,

    リアルタイムのテレビ視聴時間の10%ほど

    図17 ビデオの1日の行為者率の変化

    20

    15

    10

    5

    0

    (%)

    1985

    「国民生活時間調査」(各年とも10月,10歳以上)

    1990 1995 2000 2005 2010年

    7

    5

    11

    98

    54

    3

    10

    7

    11

    8

    15

    11

    <平日>

    <日曜>

  • 26│NHK放送文化研究所年報2014

    (割合にして1対9)であり,タイムシフト視

    聴はリアルタイムの視聴に比べればわずかで

    ある(日曜も月曜も同様)。年層別にみると,

    日曜の40代の時間がやや長いことをのぞけ

    ば,年層の差は大きくない。

    このように,1日を単位とした生活時間調

    査のデータでは,リアルタイム視聴とタイム

    シフト視聴の差は依然として大きいが,頻度

    のデータでタイムシフト視聴の変化に目を向

    けると,この3年ほどの変化は決して小さく

    はないと思われる。録画する頻度,再生する

    頻度ともに,「毎日のよう」「週に3,4日」と

    いう高頻度の利用者が増えているのが特徴で

    ある(図18,19)。

    また,テレビ番組をリアルタイムで見るか

    録画で見るかという問いに対しては,意識の

    上では,「リアルタイムのほうが多い」とい

    う人のほうが多い。しかし,(選択肢の文言

    が若干異なるので注意は必要だが)「リアル

    タイムで見ることのほうが多い」という人が

    減って「録画を見ることのほうが多い」とい

    う人が増え,両者の差が縮まっているようで

    ある(図20)。

    2012年の結果で再生視聴の際の行動につ

    図18 自分で見るためにテレビ番組を録画する頻度

    毎日のように週に1~2日

    週に3~4日月に1~2日くらい

    年に数日くらいほとんど・まったくしない

    無回答

    5 7 13 11 11 53%

    7 7 15 9 10 51 1

    1

    1

    9 9 15 8 10 50

    14 11 16 7 8 43

    2007年

    2009年

    2010年

    2012年

    2007年10~11月「デジタル放送調査」(16歳以上)2009年9月「デジタル放送調査2009」(16歳以上)2010年9月「デジタル放送調査2010」(16歳以上)2012年11月「テレビ60年(配付回収法)」(16歳以上)

    図19 録画したテレビ番組を再生する頻度毎日のように 週に1~2日

    週に3~4日 月に1~2日くらい年に数日くらい

    ほとんど・まったくしない

    無回答

    6 6 17 9 10 53%

    8 9 19 17 47 2

    1010 10 20 810 33

    2009年

    2010年

    2012年

    注)質問文が毎回,少しずつ違うので2009年と2010年は参考値2009年:(自分で見るためにテレビ番組を録画することがあるという

    人に)あなたは,ふだん,録画したテレビ番組を再生してみることがどれくらいありますか。次の中から1つだけ○をつけてください。

    2010年:あなたは次のA~ Jにあげたものを,どれくらい見聞きしたり,読んだりしていますか。〈録画したテレビ番組〉

    2012年:あなたは,ふだん,自分で見るために,テレビ番組を録画することがどれくらいありますか。また,録画した番組をどのくらいご覧になっていますか。それぞれについて1つずつ○をつけてください。

    2009年9月「デジタル放送調査2009」(16歳以上)2010年3月「日本人とテレビ2010(配付回収法)」(16歳以上)2012年11月「テレビ60年(配付回収法)」(16歳以上)

    表5 テレビのリアルタイム視聴,タイムシフト視聴と映像ソフト視聴の行為者率と全員平均時間(年層別)(時間:分) (%)

    月曜 日曜

    リアルタイム タイムシフト 映像ソフト リアルタイム タイムシフト 映像ソフト

    全員平均時間

    行為者率全員平均時間

    行為者率全員平均時間

    行為者率全員平均時間

    行為者率全員平均時間

    行為者率全員平均時間

    行為者率

    全体 2:48 81% 0:19 17% 0:03 3% 3:40 85% 0:28 22% 0:06 5%

    10代 1:58 75 0:17 23 0:03 2 2:35 79 0:31 29 0:04 4

    20代 1:59 72 0:19 14 0:04 4 2:16 71 0:23 18 0:08 6

    30代 2:11 72 0:18 17 0:05 5 2:58 80 0:25 23 0:11 7

    40代 2:28 79 0:19 18 0:03 3 3:35 85 0:40 29 0:06 6

    50代 3:06 90 0:20 17 0:04 4 4:32 93 0:30 20 0:06 5

    60代 4:13 93 0:19 14 0:02 2 4:54 94 0:21 15 0:03 3

    2012年3月「メディア利用の生活時間調査」(10~69歳)

  • 27

    誕生から60年を経たテレビ視聴

    いてみると,「CMをとばして見ること」(「よ

    くある」と「ときどきある」を合わせて利用者

    の88%,国民全体では51%)と「興味がない

    ところは飛ばしてみる」(同62%,36%)が,

    利用者の半数を超える人が行う再生行動で,

    再生視聴においては時間の操作を行って見て

    いる人が多いといえる。「ほかのことをしな

    がら見る」は46%(国民全体の27%)である。

    このほか「保存しておくために番組を録画す

    る」人は47%(同27%)である。

    以上のように,操作に手間がかからず,場

    所をとらずに大量の録画が可能で,再生時に

    も視聴者が主体的に時間を操作できて時間も

    効率化できるデジタル録画機の普及が進むに

    つれ,録画,再生利用が増えている。しかも

    数としては少ないとはいえ「毎日」利用する

    人が増え始めている。録画や再生がこれまで

    以上に日常的に行うような行動に変わりつつ

    あるのではないだろうか。とはいえ,タイム

    シフト視聴しかしない人は少数であり(2010

    年2%,2012年4%),タイムシフト視聴は,

    リアルタイム視聴とセットで生活に組み込ま

    れていると考えられる32)。

    Ⅱ−3 家族でテレビを見ること

    次に,「テレビ60年」調査で最近の動向と

    して明らかにされた事柄のうち,テレビを媒

    介としたコミュニケーションに関することに

    ついてみていく。まず,家族視聴についてで

    ある。

    どの時代にあっても,家族の会話や団らん

    に対するテレビの効用を世論調査で尋ねれ

    ば,それを認める人が多数派となっている。

    1975年の調査「日本人とテレビ文化」33)で,

    「テレビが自分の家庭生活や社会生活にどの

    ように役立っているか」,あてはまるものを

    いくつでも選んでもらう質問に対して「家族

    の団らんに役立っている」を選んだ人は59%

    で最も多かった(2番目に多いのは,「世の中

    の動きに取り残されずにすむ」の52%)。

    1979年の「日本人とテレビ」34)では「テレビ

    のおかげで,家族がなごやかに過ごせる」と

    思う人は71%であった。

    1985年から開始した時系列調査の「日本人

    とテレビ」の結果でも,「テレビが家族との

    団らんに役立つ」と思っている人は,1985年

    から1990年にかけて70%から67%に減少

    してはいるものの,その後は65%前後で大

    きな変化なく推移している(図21)。

    しかし,Ⅰ章に書いたように,数字の上で

    はそうであっても,誕生から50年の間に家

    族とテレビの関係は確実に変わってきてい

    る。「テレビ50年」調査の直後に井田(2004)

    は,長期的な傾向としての個人視聴の増加を

    ベースに,

    〈1953年~1974年〉家で,食事時あるいは

    食後にみんなでテレビを見ながら家族が交

    流する「テレビが盛り上げる一家団らん」

    図20 テレビ番組をリアルタイムで見るか録画で見るか

    2010年 92 9 16 14 50%

    ほとんど録画して見ている

    録画して見ることのほうが多い

    リアルタイムで見ることのほうが多い

    ほとんど・まったく録画しない

    リアルタイムと録画,同じくらい見ている

    ほとんどリアルタイムで見ている

    2010年9月「デジタル放送調査2010」(16歳以上)2012年11月「テレビ60年(配付回収法)」(16歳以上)

    2012年 124 15 11 114 42

    ほとんど録画した番組を見ている

    録画した番組を見るほうが多い

    リアルタイムで見るほうが多い

    ほとんど・まったく録画しない

    無回答

    リアルタイムと録画,同じくらい見ている

    ほとんどリアルタイムで見ている

  • 28│NHK放送文化研究所年報2014

    〈1975年~1984年〉テレビがついていれば

    団らんの雰囲気を味わえるので,家族がい

    るときにはテレビをつけておきみんなで何

    となくテレビを見ている「テレビが支える

    一家団らん」

    〈1985年~2004年〉たとえ1人でいても,

    テレビをつけておくことで,まるでテレビ

    の出演者と団らんしているかのような雰囲

    気が醸し出される「テレビとの団らん」

    というように,テレビと家庭・家族の関係が

    変化していると述べている。

    今回「テレビ60年」調査で家族視聴に関し

    て変化をとらえる質問は,「テレビをひとり

    で見ることが多い」か「家族と見ることが多

    い」かの1問のみであるが,これをみると,

    これまでは個人視聴派の増加と家族視聴派の

    減少が続いていたが,今回は,どちらも変化

    がみられなかった(12ページ図4)。単身世帯

    を除いて家族のいる人に限ってこの10年の

    変化をみると,個人視聴は減少していた(平

    田・執行2013)。

    その要因の1つとして,完全デジタル化に

    伴ってアナログテレビからデジタルテレビへ

    買い替えたことの影響による,テレビ所有台

    数の減少があると推測された。実際,「家族

    と見ることが多い」人にその理由を尋ねると,

    2012年では「家族の集まる部屋にいいテレビ

    があるから」が最も多くあがっている。同じ

    理由の中で,「家族と話をしながら見るほう

    が楽しいから」「家族と見るのが習慣になっ

    ているから」は,家族視聴派が同じくらいい

    た1992年に比べて減っている(国民全体を分

    母とした数値で比較)(図22)。家族視聴その

    ものを楽しいと思う気持ちや,家族と一緒に

    テレビを見る習慣自体が増えているわけでは

    ないようである。

    テレビ所有台数の変化以外の背景について

    は,Ⅲ章で,今後の変化も含めて述べること

    とする。

    図21 テレビの効用の変化(そう思う人の率)

    90

    80

    70

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    (%)

    1985

    「日本人とテレビ」(各年とも3月,16歳以上)

    1990 1995 2000 2005 2010年

    人とつきあうときの   話のタネが得られる

    家族の団らんに役立つ

    80

    70

    80

    67

    80

    67

    78

    65

    75

    63

    75

    65

    図22 家族で見る理由(全員分母)

    注)「家族と見ることが多い」と答えなかった人も含めた国民全体を  分母として計算した値

    1992年10月「テレビ40年」(16歳以上) 2002年10月「テレビ50年」(16歳以上) 2012年11月「テレビ60年(面接法)」(16歳以上)

    家族の集まる部屋に,いいテレビがあるから

    自分専用のテレビがないから

    家族と話をしながら見るほうが楽しいから

    家族と見るのが習慣になっているから

    ■ 1992年 ■ 2002年 ■ 2012年

    21%2122

    756

    2220

    18

    211818

  • 29

    誕生から60年を経たテレビ視聴

    Ⅱ−4 テレビに関するネット上のコミュニケーション

    インターネット利用の広がり,提供される

    サービスの充実によって,テレビに関するコ

    ミュニケーションに新しいスタイルが生まれ

    ている。�