男性のテレビ視聴行動の変化 · 2017. 9. 4. · 男性のテレビ視聴時間...

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28 特集 事例 変わりゆくオトコ達 ~男性市場の変化を読み解く~ 男性のテレビ視聴行動の変化 株式会社ビデオリサーチ ソリューション推進局 生活者インテリジェンス部 緒方 直美 はじめに 1990年代後半からインターネットの普及が進 み、さらに近年のスマートフォンの急激な普及も加 わったことで、生活者のメディア利用は大きく変化し ました。しかしながら、「テレビ」は未だ生活者と深 く関わっています。そのような「テレビ」だからこそ、 生活者を取り巻く環境の変化は「テレビ」の視聴行 動にわかりやすく現れます。今回は「テレビ」の見方 の変化から、男性像の変化をひも解いていきたいと 思います。 男性のテレビ視聴時間 まずは、男性全体(10 〜 69 歳)の 2000 年以降 の 1日当たりのテレビ視聴時間を見てみましょう(図 1)。インターネットの利用が普及に伴って増加して いるにもかかわらず、男性のテレビ視聴時間は 3 時 間前後をキープしている状態です。しかしながら、 男性は生活のなかの大きなウェイトを“仕事”が占め ている人も多く、女性に比べてテレビ視聴時間は1 時間近く短くなっています。 図1 1日当たりのテレビ視聴、インターネット利用時間(週平均) 3:02 2:58 3:05 2:53 2:53 3:08 2:46 2:48 2:57 2:56 3:02 3:01 2:50 2:55 2:41 5:00 4:00 3:00 2:00 1:00 0:00 2000年 2001年 2002年2003年2004年2005年2006年 2007年 2008年2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 ※ビデオリサーチMCR 東京30km圏データ(調査対象:10~69歳) テレビ(男性) インターネット(男性) テレビ(女性) インターネット(女性) 図2 年代別のテレビ視聴時間(週平均) 2:09 2:27 3:01 4:02 1:37 1:49 2:31 3:54 0:00 1:00 2:00 3:00 4:00 5:00 男性10~19歳 男性20~34歳 男性35~49歳 男性50~69歳 ※ビデオリサーチMCR 東京30km圏データ(調査対象:10~69歳) 2000年 2013年 〈比較〉2013年インターネット

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特集 事 例変わりゆくオトコ達 ~男性市場の変化を読み解く~

男性のテレビ視聴行動の変化

株式会社ビデオリサーチソリューション推進局 生活者インテリジェンス部

緒方 直美

はじめに

 1990 年代後半からインターネットの普及が進

み、さらに近年のスマートフォンの急激な普及も加

わったことで、生活者のメディア利用は大きく変化し

ました。しかしながら、「テレビ」は未だ生活者と深

く関わっています。そのような「テレビ」だからこそ、

生活者を取り巻く環境の変化は「テレビ」の視聴行

動にわかりやすく現れます。今回は「テレビ」の見方

の変化から、男性像の変化をひも解いていきたいと

思います。

 

男性のテレビ視聴時間

 まずは、男性全体(10 〜 69 歳)の 2000 年以降

の1日当たりのテレビ視聴時間を見てみましょう(図

1)。インターネットの利用が普及に伴って増加して

いるにもかかわらず、男性のテレビ視聴時間は 3 時

間前後をキープしている状態です。しかしながら、

男性は生活のなかの大きなウェイトを“仕事”が占め

ている人も多く、女性に比べてテレビ視聴時間は1

時間近く短くなっています。

図1 1日当たりのテレビ視聴、インターネット利用時間(週平均)

3:02 2:58 3:05 2:53 2:53 3:08

2:46 2:48 2:57 2:56 3:02 3:01 2:50 2:55 2:41

5:00

4:00

3:00

2:00

1:00

0:00 2000年2001年2002年2003年2004年2005年2006年2007年2008年2009年2010年 2011年 2012年 2013年

※ビデオリサーチMCR 東京30km圏データ(調査対象:10~69歳)

テレビ(男性) インターネット(男性) テレビ(女性) インターネット(女性)

図2 年代別のテレビ視聴時間(週平均)

2:092:27

3:01

4:02

1:371:49

2:31

3:54

0:00

1:00

2:00

3:00

4:00

5:00

男性10~19歳 男性20~34歳 男性35~49歳 男性50~69歳

※ビデオリサーチMCR 東京30km圏データ(調査対象:10~69歳)

2000年 2013年 〈比較〉2013年インターネット

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 テレビ視聴時間を男性全体で見ると、インター

ネットの影響をあまり受けていないように見えます

が、実は年代別ではその様子は異なっています(図

2)。2000 年と 2013 年を比較すると、男性 50 〜

69 歳ではほとんど違いはありませんが、それ以外

の年代では 30 分以上テレビ視聴時間は短くなって

います。特に 20 〜 34 歳では 40 分近くマイナスと

なっており、この年代ではインターネットの利用時

間がテレビを抜いています。テレビ視聴時間が短く

なってきている若年層では、以前よりもテレビ番組

を厳選して視聴するようになってきているのかもし

れません。

 

現代男性のテレビ番組嗜好

~「巨人・大鵬・卵焼き」時代の崩壊~

 現代男性の嗜好性を知るために、歴代の好きなテ

レビ番組ジャンルTOP10 を見ていきましょう(図

3)。1990 年、2000 年では「プロ野球」「大相撲」

をはじめとしたスポーツ番組が複数ランキングのな

かに見られました。日本の高度経済成長期である

1960 年代は「巨人・大鵬・卵焼き」という言葉が流

行しましたが、実は男性においては 2000 年まで、

テレビ番組嗜好において、このような時代が続いて

いたようです。しかし、2014 年では、それらは姿を

消し、スポーツ番組で残っているのは「サッカー(日

本代表戦)」のみとなっています。また、以前は半数

図3 男性の好きなテレビ番組ジャンル1990年 2000年

1 プロ野球 67.8% 1 プロ野球 64.9%2 洋画 65.7% 2 洋画 58.7%3 スポーツニュース 58.3% 3 ニュース 55.0%4 ニュース 51.7% 4 スポーツニュース 54.7%5 ドキュメンタリー・ルポもの 48.5% 5 気象情報 51.0%6 旅行・紀行もの 45.9% 6 ドキュメンタリー・ルポもの 39.8%7 大相撲 41.2% 7 旅行・紀行もの 37.5%8 報道解説 40.5% 8 娯楽型バラエティー 35.1%9 マラソン 38.4% 9 サッカー 33.1%10 知識型クイズ・ゲーム 37.4% 10 大相撲 31.4%

※ビデオリサーチACR 1990年 東京30km圏データ(男性12~69歳) ※ビデオリサーチACR 2000年 東京30km圏データ(男性12~69歳)

2014年 〈比較:女性12~69歳〉2014年

1 国内ドラマ 48.2% 1 国内ドラマ 68.7%2 国内ニュース 46.2% 2 気象情報・天気予報 46.6%3 お笑い番組 39.2% 3 国内ニュース 44.0%4 気象情報・天気予報 38.4% 4 娯楽バラエティー 41.6%5 洋画(欧米) 37.9% 5 情報バラエティー 41.5%6 情報バラエティー 35.6% 6 お笑い番組 38.6%7 娯楽バラエティー 35.4% 7 クイズ・ゲーム 33.4%8 サッカー(日本代表戦) 34.4% 8 グルメ番組(食べ歩き・店紹介) 33.2%9 アニメ 31.7% 9 フィギュアスケート 33.1%10 スポーツニュース・スポーツ情報番組 30.9% 10 旅行・紀行番組 32.9%

※ビデオリサーチACR/ex 2014年4-6月 東京50km圏データ(男性12~69歳) ※ビデオリサーチACR/ex 2014年4-6月 東京50km圏データ(女性12~69歳)

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特集 事 例変わりゆくオトコ達 ~男性市場の変化を読み解く~

以上が好きだった「スポーツニュース」も2014 年に

は約 3 割にまで低下しています。

 2014 年にランキングから姿を消している「プロ野

球」と「大相撲」の変化を時系列で詳細に見ていく

と、人 気 は 徐 々 に低 下 傾 向 で は ありました が、

2000 年以降、急激な低下が進んでいます(図 4)。

とりわけ「プロ野球」は 2000 年まで 7 割をキープ

し、“みんなのプロ野球”であったものが、近年では

3 割台に低迷し、今や“一部のコアファンが応援する

もの”になっています。2003 年頃より「プロ野球」

は視聴率が低迷し、中継が地上波から衛星放送に

移行していきましたが、これにより生活者の目にふ

れる機会を失っていることで、人気の低下に拍車が

かかっているのかもしれません。

 

~生活者の多様化を反映するテレビ~

 男性の好きなテレビ番組ジャンルの 2014 年のラ

ンキングを見ると、1位は「国内ドラマ」となってい

ます(図 3)。番組でいうと「木曜ドラマ・ドクター X・

外科医・大門未知子」「HERO」などをよく視ており、

そのラインナップは女性と大きな違いはありません

(表1)。「草食男子」「オトメン(乙男)」「女子力高い

男子」などといった旧来的にいえば“男らしくない”

男性を表現したワードを耳にすることの多い現代で

すが、テレビ番組嗜好も女性に近くなっています。

 男女雇用機会均等法が1986 年から施行、1997

年には改正がなされました。「夫は外で働き、妻は家

庭を守るべきである」という考え方に対して「賛成」

と「反対」の人の割合が1997年〜 2002 年の間に

入れ替わり、現在は「反対」という人が多くなってい

ます(図 5)。「男」と「女」の違いが以前に比べてな

くなっていることが、テレビ番組嗜好にも出てきて

いるようです。

 

 年代別に好きな番組ジャンルを見ても、時代の変

化を感じることができます(表 2)。男性 20 〜 34

歳の好きなテレビ番組のトップは男性12 〜19 歳と

同じ「アニメ」となっています。アニメ番組自体も生

活者に合わせて進化しており、テレビ番組のタイム

テーブルでは大人に向けた深夜放送が増え、内容も

大人向けのものがたくさん制作されています。

 日本では 2000 年頃から「個性」が重視される世

の中となりました。大学入試では 2000 年に AO入

試が開始され、当初1.4%であった AO入試による

図4 男性の好きなテレビ番組ジャンル/プロ野球、大相撲80%

70%

60%

50%

40%

30%

20%

10%

0%

大相撲プロ野球

若貴ブーム

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

2004年

2003年

2002年

2001年

2000年

1999年

1998年

1997年

1996年

1995年

1994年

1993年

1992年

1991年

1990年

1989年

1988年

1987年

1986年

※ビデオリサーチACR 東京30km圏データ(男性12~69歳)

表1 2014年 よく視られた「ドラマ」トップ10

※関東地区視聴率データ

男性

木曜ドラマ・ドクターX・外科医・大門未知子(EX)HERO(CX)軍師官兵衛(NHK)連続テレビ小説・ごちそうさん(NHK)日曜劇場・S・最後の警官(TBS)連続テレビ小説・花子とアン(NHK)日曜劇場・ルーズヴェルト・ゲーム(TBS)連続テレビ小説・マッサン(NHK)相棒season12(EX)信長協奏曲(CX)

女性

HERO(CX)連続テレビ小説・花子とアン(NHK)連続テレビ小説・ごちそうさん(NHK)木曜ドラマ・ドクターX・外科医・大門未知子(EX)連続テレビ小説・マッサン(NHK)きょうは会社休みます。(NTV)木曜劇場・昼顔・平日午後3時の恋人たち(CX)相棒season12(EX)軍師官兵衛(NHK)日曜劇場・S・最後の警官(TBS)

312015 No. 126

入学者割合は 2012 年に 8.5%になっています(図

6)。2002 年にはゆとり教育が開始され、評価は

「相対評価」から「絶対評価」となり、子供たちのお

遊戯会では“主役が10人”などといったニュースも

話題となりました。テレビドラマから生まれたヒット

曲で 2003 年に流行した SMAP の「世界に一つだ

けの花」はその象徴ともいえるでしょう。

 余談になりますが、「オタク」=“自分の好きな事

柄や興味のある分野に傾倒しすぎる人”という言葉

があります。以前は「オタク」といえば、宅八郎のよ

うなネガティブなイメージもありましたが、今の大学

生に話を聞くとネガティブな感情はなく、むしろ

「カッコイイ」という評価さえもするようなワードに

なっているようです。「個性」の時代に生まれた子供

たちが大人になってきたのだなと感じた瞬間でし

た。

 このような流れを受けて、以前は「結婚」や「子供

をもうける」「お酒を飲む」「煙草を吸う」など、“大

人だから”という理由で誰もが疑問をもたずに当た

り前のようにそうしてきたことがたくさんありました

が、現代は各自が自由に選択するというスタイルに

変わってきています。以前では大人になったら卒業

していた「マンガを読む」ことを、いくつになっても

続けている大人もたくさんいます。「アニメ」が男性

20 〜 34 歳のトップになっていることは、そのよう

な社会変化の表れなのかもしれません(表 2)。

 

~家族との「絆」を作るテレビ~

 2011年の東日本大震災で「絆」が注目され、「人

とのつながり」を見つめなおす機会にもなりました。

図5 意識「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」100%

80%

60%

40%

20%

0%

反対賛成

2014年2012年2009年2007年2004年2002年1997年1992年1978年※内閣府「女性の活躍推進に関する世論調査」

図6 AO入試による大学入学者割合

0%

2%

4%

6%

8%

10%

1.4

2.73.6

4.24.9

5.66.0

6.9

8.08.4

8.8 8.7 8.5

2012年2011年2010年2009年2008年2007年2006年2005年2004年2003年2002年2001年2000年※文部科学省 選抜方法別入学者割合/AO入試

図6 AO入試による大学入学者割合

0%

2%

4%

6%

8%

10%

1.4

2.73.6

4.24.9

5.66.0

6.9

8.08.4

8.8 8.7 8.5

2012年2011年2010年2009年2008年2007年2006年2005年2004年2003年2002年2001年2000年※文部科学省 選抜方法別入学者割合/AO入試

表2 男性の好きなテレビ番組ジャンル/年代別男性12~19歳

1 アニメ 57.2%2 お笑い番組 43.3%3 国内ドラマ 37.7%4 アニメ映画 36.3%5 娯楽バラエティー 34.9%

男性20~34歳

1 アニメ 45.1%2 国内ドラマ 40.2%3 娯楽バラエティー 38.2%4 お笑い番組 36.2%5 情報バラエティー 32.3%

男性35~49歳

1 国内ドラマ 51.2%2 国内ニュース 49.2%3 お笑い番組 44.3%4 娯楽バラエティー 40.8%5 情報バラエティー 39.9%

男性50~69歳

1 国内ニュース 61.8%2 気象情報・天気予報 60.3%3 国内ドラマ 54.2%4 旅行・紀行番組 48.8%5 洋画(欧米) 48.5%

※ビデオリサーチACR/ex 2014年4-6月 東京50km圏データ(男性12~69歳)

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特集 事 例変わりゆくオトコ達 ~男性市場の変化を読み解く~

緒方 直美 (おがた なおみ)

2004年、株式会社ビデオリサーチ入社。テレビ視聴率・衛星放送の調査・分析、顧客個別課題対応の調査設計・分析を経て現職。若者研究、生活者セグメントの研究・開発に従事。

現在、7 割以上の男性が「プライベートな時間は家

族や友だちと一緒にいたい」と思っており、これは

どの年代でも共通の意識となっているようです(図

7)。

 現在、「ザ!鉄腕!DASH!!」「世界の果てまで

イッテ Q!」が世帯視聴率 20%を超える人気番組

となっていますが、性別、年齢を問わず、老若男女誰

からも視られています(図 8)。これらの番組は、“家

族で一緒に視ることができ、”“誰とでも話題を共有

できる”とされているもので、今の時代にマッチして

いるのでしょう。

 

最後に

 世の中の動きを整理していくと、「インターネット

の普及」「男女雇用機会均等法改正」「個性重視の

時代の到来」・・・さまざまな出来事が1990 年代

後半以降に集中しています。そのような時代のなか

で、男性も周囲とのコミュニケーションを大切にし、

コミュニティのなかでの自分の役割を重視するよう

になりました。このような考え方は女性の世界では

昔からあったことですが、現代では性別を越えて日

本人の共通意識となっています。そして、このような

影響を受けて、テレビ番組嗜好も男女の差は小さく

なってきています。今後、このような時代しか知らな

い若者たちが大人になり、世の中を動かす中心的存

在となっていくことを考えると、この傾向はさらに強

まっていくものと考えられます。

図7 意識「プライベートな時間は家族や友だちと一緒にいたい」100%

80%

60%

40%

20%

0%男性

50~69歳男性

35~49歳男性

20~34歳男性

12~19歳男性全体

(12~69歳)

73.078.1

69.270.773.5

※ビデオリサーチACR/ex 2014年4-6月 東京50km圏データ(男性12~69歳)

図8 ふだん視ている番組「ザ!鉄腕!DASH!!」「世界の果てまでイッテQ!」

31.835.3 35.3

40.9

26.129.6 32.1

38.5

32.032.1 31.8

39.1

28.0

39.4 38.344.0

31.226.6

※ビデオリサーチACR/ex 2014年4-6月 東京50km圏データ

60%

40%

20%

0%

世界の果てまでイッテQ!ザ!鉄腕!DASH!!

女性50~69歳

女性35~49歳

女性20~34歳

女性12~19歳

男性50~69歳

男性35~49歳

男性20~34歳

男性12~19歳

全体(12~69歳)