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1 2020 年 03 月 28 日 中国のデジタル人民元(DCEP)はブロックチェーンを採用するか 各国中央銀行のデジタル通貨(CBDC)の取り組みとその展望 アジア連合大学院機構 主任研究員 魏 向虹 目次: Ⅰ.中央銀行デジタル通貨(CBDC)のトレンド Ⅱ. なぜ世界の中央銀行が CBDC 導入に向けてブロックチェーンに興味を示すか Ⅲ. クロスボーダー決済の問題及びブロックチェーンの優位性 Ⅳ. デジタル人民元(DCEP)はブロックチェーンを採用するか Ⅰ.中央銀行デジタル通貨(CBDC)のトレンド 2020 年 1 月 20 から 24 日にかけてダボスで開かれて世界経済フォーラム(World Economic Forum)で、キャッシュのデジタル化についてほぼコンセンサスを取れた。デジタル・トランスフォーメーションは 人々の生活に猛スピードで浸透していく過程において、通貨も例外ではないと理解できる。世界の中央銀 行はこの流れの中で中銀デジタル通貨(Central bank digital currency 以下、CBDC)の発行に前 向きの姿勢を強めている。 1.各国中央銀行の CBDC への取り組みの調査結果 2020 年 1 月 23 日、国際決済銀行(BIS:Bank for International Settlements)は 66 の 中央銀行を対象にした年次調査報告 を発表した。調査では、中央銀行デジタル通貨に取り組んでいる かどうか、取り組んでいる場合はそのタイプや進捗状況を聞いた。 調査報告書によると、66 の中央銀行のうち 80%は何らかの形で CBDC に取り組んでおり、40%近く は実験や概念実証の段階に進んでいた。全体として、何らかの形で CBDC に取り組んでいる中央銀行の 数は 2018 年の同調査から 10%増加した。66 行のうち、先進国の中央銀行は 21 行、新興国は 45 行で、調査対象の中央銀行は世界の人口の 75%、世界経済の 90%をカバーしている。 https://www.coindesk.co/10-of-central-banks-surveyed-close-to-issuing-digital-currencies-bis

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2020年 03月 28日

中国のデジタル人民元(DCEP)はブロックチェーンを採用するか

―各国中央銀行のデジタル通貨(CBDC)の取り組みとその展望

アジア連合大学院機構

主任研究員

魏 向虹

目次:

Ⅰ.中央銀行デジタル通貨(CBDC)のトレンド

Ⅱ. なぜ世界の中央銀行が CBDC導入に向けてブロックチェーンに興味を示すか

Ⅲ. クロスボーダー決済の問題及びブロックチェーンの優位性

Ⅳ. デジタル人民元(DCEP)はブロックチェーンを採用するか

Ⅰ.中央銀行デジタル通貨(CBDC)のトレンド

2020年 1月 20 から 24日にかけてダボスで開かれて世界経済フォーラム(World Economic

Forum)で、キャッシュのデジタル化についてほぼコンセンサスを取れた。デジタル・トランスフォーメーションは

人々の生活に猛スピードで浸透していく過程において、通貨も例外ではないと理解できる。世界の中央銀

行はこの流れの中で中銀デジタル通貨(Central bank digital currency以下、CBDC)の発行に前

向きの姿勢を強めている。

1.各国中央銀行の CBDC への取り組みの調査結果

2020年 1月 23日、国際決済銀行(BIS:Bank for International Settlements)は 66 の

中央銀行を対象にした年次調査報告①を発表した。調査では、中央銀行デジタル通貨に取り組んでいる

かどうか、取り組んでいる場合はそのタイプや進捗状況を聞いた。

調査報告書によると、66 の中央銀行のうち 80%は何らかの形で CBDC に取り組んでおり、40%近く

は実験や概念実証の段階に進んでいた。全体として、何らかの形で CBDC に取り組んでいる中央銀行の

数は 2018年の同調査から 10%増加した。66行のうち、先進国の中央銀行は 21行、新興国は 45

行で、調査対象の中央銀行は世界の人口の 75%、世界経済の 90%をカバーしている。

① https://www.coindesk.co/10-of-central-banks-surveyed-close-to-issuing-digital-currencies-bis

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世界人口の 5分の 1 をカバーする複数の中央銀行が、今後数年で最初の CBDC を発行する可能性

は高い、約 10%はデジタル通貨の発行に「かなり近づいている」と回答し、おそらく 2023年までに発行す

る。

CBDC への取り込み動機は、先進国と新興国に違いが見られた。新興国は「決済効率の向上」「決済

の安全性」「金融包摂(Financial Inclusion)② 」の 3点をいずれも「非常に重要」と捉えているが、先

進国が重視しているのは「決済の安全性」であった。

2020年 1月のダボス会議の開催に際して、日本銀行を含む 6 つの中央銀行と国際決済銀行

(BIS)が共同で、デジタル通貨の研究を行う新組織を設立すると発表した。新組織には、カナダ銀行、イ

ングランド銀行、日本銀行、欧州中央銀行、スウェーデン・リクスバンク(Riksbank)、スイス国民銀行が

加盟した。

2. 各国中央銀行のブロックチェーンの実証・実験

世界の中央銀行が CBDC をなんらかの形で取り込んでいる中、ブロックチェーン技術が人々の視線に踊

ってきた。ブロックチェーンを検証し、評価する国々、更にブロックチェーンを CBDC の基盤技術として検討す

る国も現れた。

日本銀行は 2017年東京大学公共政策大学院に委託して、ブロックチェーンの技術評価を行った。同

年 10月に「ブロックチェーン技術のテクノロジアセスメント」という題名の研究レポートを発表した。そのレポー

トの内容を見ると、ブロックチェーンの要素技術、インフラとしての新概念、活用事例、未来の予測のカテゴリ

で、全面的にブロックチェーンに対してアセスメントを行った。中央銀行発行デジタル通貨も取り上げ、「現

在、日本銀行やイングランド銀行を始め、世界各国の中央銀行は実証実験の段階にある」と記述した。

2019年 5月 2日、カナダ銀行(BoC)とシンガポール通貨金融庁(MAS)は、ブロックチェーン技

術と中央銀行のデジタル通貨を使用した、国境を越えた(クロスボーダー)支払いの試験的プロジェクトを

完了させた。同日、2 つの中央銀行の間では、世界で初めての成功であると両者は合同で発表した③。今

回の試みは、ブロックチェーンを利用した国際送金の効率性を向上、そしてクロスボーダー決済のリスク軽減

への大きな可能性を示すものとなる。

ドイツ銀行は 2019年 9月に JP モルガンの JPM コインを利用するブロックチェーンベースの決済ネットワ

ーク「INN:Interbank Information Network」に参加した。

2020年 2月 21日、スウェーデン中央銀行リクスバンクは、独自の中央銀行デジタル通貨である「e-

krona」のテスト開始を発表した。デジタル通貨のパイロットプログラムとして 1年間試運転を実施、ブロック

チェーン技術を使用し、2021年 2月に終了を予定する 。

② 金融包摂とは、世界銀行グループの研究機関 CGAP(Consultative Group to Assist the Poor)では、金融サービスへのアクセスの提供によって貧困層の生活改善の取り組みで、すべての人々が、経済活動のチャンスを捉えるため、また経済的に不安定な状況を軽減するために必要とされる金融サービスにアクセス、利用できること。

③ https://coinpost.jp/?p=82496

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2020年 2月 21日、スウェーデン中央銀行リクスバンクは、独自の中央銀行デジタル通貨である「e-

krona」のテスト開始を発表した。デジタル通貨のパイロットプログラムとして 1年間試運転を実施、ブロック

チェーン技術を使用し、2021年 2月に終了を予定する④。

フランスの中央銀行はデジタル通貨の開発を徐々に進めており、フランス銀行の総裁、フランソワ・ビルロワ

ドガロー氏は 2020年の第一四半期に向けた取り組みを発表し、クリアリングサービスや決済で分散型台

帳技術の活用を目指している 。

カンボジアの中央銀行にあたる「カンボジア国立銀行」は、2020年第 1四半期中に中央銀行デジタル

通貨を導入する準備を進めている。カンボジア国立銀行は少なくとも 2017年から、銀行間決済ソリューシ

ョンのためにブロックチェーン技術を検証している。2019年 10月、同行はクロスボーダー決済のためのデジ

タルウオレット(デジタル財布)のテストを開始するためにマレーシアの銀行と合意した⑤。

東カリブ中央銀行(ECCB)は 2019年 3月 6日、中央銀行デジタル通貨の導入を発表した。ブロッ

クチェーン活用の CBDC としては世界初となり、2021年の実用化に向けて 3月より開発と実証実験を進

める。発行予定の CBDCは DXCD と呼ぶ。東カリブ諸国機構(ECCU)の 9 か国および地域で利用さ

れる東カリブ・ドル(EC ドル)の電子版となる⑥。

3. 中国中央銀行のデジタル通貨への取り組み

中国中央銀行のデジタル通貨への取り組みはもっと早く、2014年にデジタル人民元の研究をする特別タ

スクフォースを結成し、デジタル通貨発行の Feasibility study を行っていた。

2015年に、デジタル通貨の発行とオペレーションの枠組み、デジタル通貨の主要技術、デジタル通貨の

発行と流通の環境、デジタル通貨が直面する法的問題、デジタル通貨の経済および金融システムへの影

響、中銀のデジタル通貨と仮想通貨の関係等の研究を進めていた。中国人民銀行のデジタル通貨発行に

関する一連の研究報告書が纏められた。研究結果の一部は国家知的財産局に特許を出願した。

2016年 11月に、中国人民銀行の公式Webサイトは、2017年度のタッフ募集を発表した。システ

ムアーキテクチャ設計、ブロックチェーン技術開発、ビッグデータプラットフォーム開発、暗号化アルゴリズム等の

経験が望ましいという条件付きで、中央銀行のデジタル通貨研究所の人材として募集をかけた。

2017年7月、「中国人民銀行デジタル通貨研究所」が設立され、ブロックチェーンを含むデジタル通貨

の適用技術の検証およびデジタル人民元の設計、開発はスタートした。

④ https://www.reuters.com/article/us-cenbank-digital-sweden/sweden-starts-testing-worlds-first-central-

bank-digital-currency-idUSKBN20E26G?from=singlemessage&isappinstalled=0

⑤ https://www.coindeskjapan.com/37427/

⑥ https://crypto.watch.impress.co.jp/docs/news/1173639.htえの ml

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2019年 8月 10日にデジタル通貨研究所の穆長春所長は、第三回「中国金融 40人伊春論壇」で

の講演において、中国が検討している CBDC が導入の段階に近づいているとした上、その仕組みをある程

度明らかにした。

中国人民銀行の易綱総裁は 2019年 9月 24日に中華人民共和国建国 70周年関連の記者会

見で、デジタル人民元の導入について、まだ具体的な発行スケジュールが決まっていない。先行テストやリス

ク評価などの工程が残っていると述べた。

2020年 1月、中国人民銀行は、「基本設計、業界標準の設定、機能の開発、総合テストのプロセス

は全部完了」と発表した。これからはテスト利用のフェーズに入ると報じられた。

中国政府はビットコイン等の仮想通貨に対して強い規制を行ってきたが、それを実現する技術であるブロ

ックチェーンについては、仮想通貨と切り離しをして、各分野への応用を進めてきた。その結果、ブロックチェー

ンに関する世界全体の特許出願件数は 2018年時点で 2,966件、そのうち 82%が中国発である。中

国勢の中で、アリババはダントツの一位でリードしている。

以上の世界各国の中央銀行の実証、実験及び実際の開発等の発表から分かるように、各中央銀行

は CBDC の導入に向けてブロックチェーンへの関心度が高いことを示唆している。

Ⅱ. なぜ世界の中央銀行がグロックチェーンに興味を示すか

各国の中央銀行の発表を見ると、ブロックチェーンは CBDC の一部分の機能に採用されるか、或いは

CBDC全体の基盤技術として採用される可能性が出てきた。ブロックチェーンは一体どういう技術で、なぜ

注目されるかを見てみよう。

1.グロックチェーンとその目的

ブブロックチェーンは市場初の仮想通貨 Bitcoin(以下、ビットコイン)を作り出し、運用する基盤技術であ

る。ブロックチェーンは新しいタイプのデータベースで、分散型台帳とも呼ばれる

2008年 Nakamoto Satoshi氏のブロックチェーン論文を発表し、その論文に関心を抱いた人たちが

分担してプロクラムを書いてシステムを完成した。2009年、Nakamoto Satoshi からソフトウェア開発者

の Harold Thomas Finney へビットコインを送金し、ブロックチェーンの最初のブロックを公開した。

現在の社会のあらゆる仕組みは、特定の管理者が存在することを前提に成立している。ブロックチェーンの

当初の狙いは「自分が持っている金銭的資産を自由に誰かに送ることを誰にも止めさせない」ことを実現する

ものである。

その目的を達成するために、Nakamoto Satoshi氏は、管理者が存在せず、システム自体が自律的

に稼働できる仕組みを考案した。つまり取引記録、その検証・承認、そして取引データの追加、保存をする

一連のプロセスを回すために、あらかじめ想定してプログラミングをしておくことにした。

2. ブロックチェーンの特徴:

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①Decentralization(脱中央管理)

銀行を通さず、管理者抜きの Decentralization を実現するために、以下の要素技術を採用した。

a.P2P(Pear to Pear)ネットワック方式を活用

データ通信を 2 つに大別すると、クライアントサーバ方式と P2P ネットワーク方式に分かれる。P2Pネッ

トワーク方式は、クライアントサーバ方式のサーバのような中心的な管理者は存在せず、ネットワーク内

で情報が縦横無尽に走る構造になっている。ネットワーク上で Decentralization を実現(図 2)。

図 2. ネットワック方式の比較

b.分散型台帳技術

Nakamoto Satoshi氏は分散型台帳と呼ばれる特殊の分散型データベースを発明した。取引を記録

する際に取引データのブロックを作り、過去の取引が記載された台帳にそれをどんどんとつなげていく。ブロッ

クの繋ぐ方法はハッシュ値⑦を使い、前のブロックのハッシュ値から一定の計算手順で現在のブロックのハッ

シュ値を計算する。このハッシュ値によって時系列に取引の発生を記録し、記録したデータの正しさを検

証できる。この取引台帳をユーザ全員に共有し、分散して保存する。専用のデータベースサーバも、管理

者も必要としないので、データベースにおいても Decentralization を実現した。

②取引内容を改ざんできない、帳簿の正しさを保証する

これはコンセンサスアルゴリズム(以下、合意形成)によって達成する。合意形成の種類は、ビットコイ

ンの PoW(Prof of Work)から始まり、後に PoS, PoI, PoC等の種類も考案された。いずれにし

てもブロックを追加する時にデータの正確性を検証した上で承認をする。合意形成の種類と関係なく、

承認の基本は多数決で決まる。

この中で PoW(Proof of Work)は一番厳重にデータの検証を行っている。取引データをブロックに纏

めて追加する時にブロックのハッシュ値を計算する。その計算作業を「マイニング」と言い、マイニング作業

を行う人々を「マイナー」と呼ぶ。マイニングはマイナー達が総当りで前のブロックにつながるハッシュ値を探

⑦ データを一定の計算手順を利用して変換し、生成した値のこと。

例:データ(skyarch) → ハッシュ値(01c293952fb71deec9fb0274a6f719d3)

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し出す競争である。最初に答えを導き出したマイナーはブロックを追加する権限を獲得し、成功報酬と

して仮想通貨を受け取る。計算に参加していた他のマイナーは、その答えが本当に合っているかを確認

し、承認をする。合意形成は取引データを改ざん、不正の余地なくし、自己証明を提供する。

但し、マイニング作業は莫大な計算でコンピューターのリソースと電気代を消費する。更に 10分間

1ブロック、ブロックサイズは1MB と決まったため、処理能力が制限される。処理能力を改善するため、

後に考案された合意形成の種類はマイニングをやめて、参加者の評決によってブロック追加を承認する

ことになった。

③匿名性:個人情報を一切登録することなく、仮想通貨の保有及び送金が可能。

④Person to Personの決済:銀行を通さずにデジタル通貨を介して即時決済できる。

ブロックチェーンの弱点は処理性能が低い。Bitcoinは7TPS (7件/秒)、Ethereum は最大 20

件/秒、Libra(Facebook の仮想通貨)は 1000件/秒。これと対照的に、アリババの EC サイトシス

テムは 2017年の「ダブル 11 ショッピング・カーニバル」で、ピック値の 26万件も処理した。処理性能の要

求が厳しいユースケースには向いていない。

3. 世界の中央銀行はブロックチェーンに興味を示す理由

BIS調査報告書で示した各中央銀行のニーズから考えると以下のポイントが理由だと思う。

① Decentralization の機能

既存の国際金融体制は、Centralization的な仕組みで作られてきた。アメリカ主導で権限も最

大化された中、Decentralization を期待する国々はブロックチェーンを選ぶのであろう。

② 即時決済機能

クロスボーダー決済は多くの銀行が関わっており、処理もシリアル的に行っているため、時間がかかる。

更に送金プロセス進行中で一つの銀行が倒産したら、送金者の資金を失うリスクがある。ブロックチェ

ーンは仮想通貨を介して即時に決済することは効率化、安全性の問題を解決する。

③ 匿名性の特徴

ブロックチェーンは身分証明、銀行口座を持たなくても、送金、支払等の金融取引できる。世界で

銀行口座のない成人は 17億人超だと言われる。特に新興国はこの金融包摂(Financial

inclusion)のニーズが高い。

その外、米国は、特にトランプ政権になってから、金融制裁の頻発は他の国を脅かしている。それはグ

ローバル金融体系の民主化を促す流れを作っている。米国政府は、米国国内の法律を根拠に、他の主

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権国家、企業、個人をグローバル金融体系から締め出す制裁を行っている。SWIFT⑧(Society for

Worldwide Interbank Financial Telecommunication)の利用不能はその一つである。世界

中で広く使われているクロスボーダー決済網の SWIFT から追い出された場合、当該国の企業が行う国

際間での商取引などの送金ができなくなり、その経済的なインパクトは非常に大きいものだと容易に予想

できる。

米国のイラン核合意離脱後、イランが米国の厳しい金融制裁によって、70以上の金融機関が

SWIFT から締め出され、970以上の個人・機関が制裁対象になった。ついに 2018年 11月にイラン

の中央銀行も SWIFT から追い出された。

アメリカのイラン制裁を受け、2019年 2月に仏独英が新組織「貿易取引支援機関 INSTEX」を発

足した。ドルを介さずにイランとの貿易の維持をトライしたが、2019年 5月にマンデルカー米財務次官

(テロ対策・金融犯罪担当)は、INSTEX およびその関係者が米国の金融システムから締め出され得

ることを警告した。結局、INSTEXは次の一歩を踏み出せなかった。同盟国もアメリカの制裁よって正常

にビジネスができなくなり、なんらかな被害を蒙る可能性がある

以上の背景があり、クロスボーダー決済の効率性と安全性を求める国々、そして SWIFT を経由せず、

クロスボーダー決済ができる方法を模索している国々にとっては、誰にも干渉されず、効率性と安全性を

確保しながら決済できるブロックチェーンは魅力的に見えるであろう。

Ⅲ.クロスボーダー決済の問題及びブロックチェーンの優位性

1. クロスボーダー決済のプロセスと問題

現在のクロスボーダー決済体制は各国の銀行が SWIFT を経由して行っている。具体的に言うと、

SWIFT が各国の代表となる大きな銀行、コルレス銀行(Correspondent Bank)に「送金指示」を出

すことによって、決済のプロセスは進められている。

国内で二つの銀行を跨って送金する場合、各銀行が中央銀行に口座があるので、中央銀行は二つの

銀行の当座預金を振替すれば、簡単に決済が完了する。国境を跨って送金する場合、中央銀行は存在

しない。

例えば、日本から米国に送金する場合、日本の銀行は米国中央銀行に口座ないため、米ドル決済はで

きない。従って米国中央銀行に口座がある米国の銀行にドル決済の代行を依頼するしかない、逆も同じで

ある。このように別の銀行のために決済を代行する銀行のことをコルレス銀行と呼ぶ。勿論、決済代行の銀

⑧ SWIST(国際銀行間通信協会)とは銀行間の国際金融取引の内容をコンピューターと通信回線を使って伝送する決済網である。国境を越えた財やサービスの貿易決済、直接投資、資金調達や個人の資金移動には欠かせない金融インフラだ。SWIFTは 1973年に発足し、本部をベルギーに置く。現在は 200以上の国や地域の金融機関など 11000社以上が参加する。

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行と代行を依頼する銀行の間で事前にコルレス契約を結ぶことが必要である。実際のクロスボーダー決済は

図 2.をご参考。

図 2. SWIFT によるクロスボーダー送金のプロセス

日本人Aさんがアメリカの B さんという人に国際送金をしたい場合、A さんは自分の取引銀行 A に国際

送金を依頼する。取引銀行 Aはコルレス銀行 C に送金を依頼し、コルレス銀行 Cは SWIFT に送金指

示を出してもらう。SWIFT がアメリカのコルレス銀行 D に指示を出し、その指示を受けたコルレス銀行 D が

コルレス銀行 C のノストロ口座の備蓄資金をアメリカの B さんの取引銀行 B に渡す事でやっとこの国際送

金が完了する。SWIFT と銀行 4行が介しての送金なので、通常 2~4 Working day がかかる。

ノストロ口座(Nostro account)は、送金側のコルレス銀行が送金先のコルレス銀行に、その国の通貨

建てで保有する口座である。銀行は自社の資産を他の国の銀行のノストロ口座に入れるのは、管理リスク

があり、利息ももらえない不利益がある。

SWIFT体制の国際送金が成立する前提:①SWIFT の指示、②送金のためにコルレス銀行は海外

の銀行にノストロ口座が必須、③ノストロ口座に資金を保持し続ける必要がある。

今日、多くの国々では、ますます便利になるキャッシュレス決済の進化は目を見張るものがある一方

で、この煩雑の国際送金の前提こそ問題である。

2. 国際送金におけるブロックチェーンの優位性

ブロックチェーンを利用すれば、国を跨った送金はどのように変化するか

① 送金プロセスにある SWIFT もコルレス銀行の関与が必要としない。

② ノストロ口座での資金維持も不要。銀行がノストロ口座の維持費と資金管理から解放される。

③ P2P(Person to Person)の即時決済で、資金の安全性も確保。

④ 送金時間を短縮。

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以下、ビットコインによるクロスボーダー送金の仕組みをご紹介する(図 3)。

図 3.Bitcoin(ビットコイン)のクロスボーダー送金プロセス

A さんは国内のビットコイン取引所の口座にお金を振り込み、ビットコインを購入する。そのビットコインを

B さんに送ることを取引所に依頼をし、送り先はカナダのビットコイン取引所にある B さんの口座になる。A

さんが送金アクションを起こすと、カナダの取引所の B さんの口座にビットコインが届く。B さんが届いたビット

コインを売却し、得られたカナダドルを自分の銀行口座に出金する指示を出して、送金が完了する。

ビットコイン取引所がブロックチェーンにとってなくてはならない存在である。ブロックチェーンはユーザ間での

お金の移動(取引)を記録する機能を提供するが、取引や支払機能は提供していない。その結果、ビ

ットコインは外の世界と通信できず、法定通貨に換えることもできない。取引所があって初めて支払・送金

の決済ができる。

以上のプロセスを見れば、ビットコインによる送金は、SWIFT体制より、いかにも簡単で、スピーディに

完了することがわかる。

Ⅳ. デジタル人民元(DCEP)はブロックチェーンを採用するか

中国人民銀行(中央銀行)は、2014年にデジタル通貨(以下、デジタル人民元)の研究を始めっ

たが、その時点では、ブロックチェーンシステムの適用に焦点を当てていなかった。中国人民銀行は本気でブ

ロックチェーンを活用しようとすることは、2016年後半だと思う。その年の 11月にデジタル通貨研究を立ち

上げるために、中国人民銀行がタッフの募集を行った。その募集にブロックチェーン開発の人材が入った。その

後、2017年 7月にデジタル通貨研究所は正式に設立され、ブロックチェーンを含むいろいろな技術を実

証・実験を行ったと推測する。

2年後の 2019年 6月に Facebookは独自の仮想通貨「Libra」 をリリースすると発表した。Libraは

米ドルなど法定通貨と連動する暗号資産といい、グローバル決済を実現するステーブル・コイン(安定通

貨)として、通貨バスケットに裏付けられるよう設計された。フェイスブックが主導する「リブラ協会」がコントロ

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ールする。他の仮想通貨との違いは通貨バスケットがバックにあり、仮想通貨価格の乱高下を抑えようとして

いる。その通貨バスケットのパーセンテージは、50%が米ドル、ユーロが 18%、円が 14%、ポンドが 11%、

シンガポールドルが 7%になると 9月 20日に明らかにした。

Facebookは現在少なくとも 27億のユーザ(Facebook とWhatsApp を合わせた単純決算)があり、

巨大な社会的動員能力を備えている。一旦、Libra が超ソブリンの影響力を獲得したら、ソブリン通貨を侵

食する可能性がある。更に Libra が規制されない場合、地下経済チャネルが完全に開かれ、違法取引の

ツールになる可能性もある。そういう意味で、Libraは世界の中央銀行にとって、ソブリン通貨に取って代わ

るリスクが潜んでいる。中国はもともと中銀のデジタル通貨を研究・開発を進んでおり、Libra の衝撃を未然

に防ぐため、5年越しのデジタル人民元構想の実現を加速させたと推測している。

これから発行するデジタル人民元はブロックチェーン技術を採用するかについて、まずはデジタル人民元の

情報を少し知っておく必要がある。最近の関係者の発言と論述を総合すると、ある程度中身がわかるように

なる。

1.デジタル人民元の定義と特徴

デジタル通貨研究所所長の穆長春氏によると、 「中国人民銀行のデジタル通貨は DCEP(Digital

currency electronic payment)と呼ばれ、デジタル通貨と電子決済のツールである。その機能は紙幣と

まったく同じ、紙幣のデジタル形式である」と定義した。

デジタル人民元の特徴:

① DCEP のニ階層オペレーション

DCEP の発行・配布は、紙幣の発行・配布と同じように、二層構造の運営体制となる(図4)。

図 4.中国 DCEP の発行、配布の仕組み

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第一層は DCEP の発行。商業銀行、他の金融機関は、中国人民銀行の口座に 100%準備金を

入れ、人民銀行から DCEP を発行してもらう。

第ニ層は配布。DCEP を引き受けた商業銀行等はそれを配布し、市場に流通させる。個人・企業は

商業銀行等を通じてデジタル通貨を交換して使用する。この第ニ層には、四大銀行(中国建設銀

行、中国工商銀行、中国銀行、中国農業銀行)に加え、アリババ、テンセント、銀聯なども含まれる

可能性が高いと見られている。

具体的に、個人・企業が中国人民銀行のデジタルウオレット(電子財布)を商業銀行等のWeb サ

イトから Download し、登録して使う。スマホに Alipay とWechat pay と並べて、デジタル人民元

のウオレットが一つ増える形で日常の支払いに使う。

② コントロール可能性な匿名性

Alipay とWechat pay等の決済ツールを使用する場合、事前に銀行口座とバンドリングする必要

がある。デジタル人民元は身分証明も、銀行口座も必要としない、匿名性を保つ運用にしてある。誰

でもアクセスができ、決済が仲介機関を経由しない。但し、デジタル人民元の使用額の限度が設けて

いる。金額を大きくするには、銀行で身元確認をすれば、無制限まで金額を増やすことができる。

匿名性を持たせることは、マネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与等の犯罪行為に利用さ

れやすい。追跡可能の対策も同時に備えなければならない。ビッグデータ、AI等の技術によって犯罪

のパターンを突き止める設計となっている。

③ オフラインの支払も可能

ネットワークがなくても、お互いにデジタルウオレットがあり、相手のスマホに物理的に接触させることでオ

フライン支払いができる。スマホの通信信号がないところ(例えば、地下鉄、山奥など、信号の届かな

い場所)でも支払できる。

④ デジタル人民元は、中央銀行が担保・署名して発行される、具体的な金額を示す暗号化された数

字列(number string)であり、最も基本的なコードや金額、所有者と発行者の署名などが含ま

れる。

2. デジタル人民元はブロークチェーンを採用するか

デジタル人民元のブロックチェーン活用について、最初にパブリックに知らされたのは中国国際経済交流セ

ンター副会長の黄奇帆氏である。2019年 10月 28日の第 1回上海金融サミットで、黄奇帆氏は以下

の発言があった。

「中国の中央銀行によって導入されるデジタル通貨(DCEP)は、ブロックチェーン技術に基づいた新しい

暗号化された電子通貨である」。また、「ブロックチェーンは仲介機関(受取人と支払人の間で、資金移転

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の仲介サービスを提供する企業)と商業銀行間のインターフェース技術として使用できる。国境を跨った送

金の多くの当事者は、ブロックチェーン技術を介して参加者に送金メッセージを転送することで、共同に情報

処理を実現し、従来の金融機関間のシリアル処理を並列処理に変えることによって、処理効率を向上させ

る」。

黄奇帆氏の発言は二つのセージを伝えた。①DCEPはブロックチェーン技術をベースにするデジタル通貨。

②国境を跨った送金はブロックチェーンを利用することで、処理効率が向上する。

その後、デジタル開発研究所所長の穆長春氏はデジタル人民元にブロックチェーン採用するかどうかの中

国メディアの質問に対して、以下の回答があった。

「DCEP のシステムは、分散型技術と集中化技術を含む「混合型」システムである。中央銀行側のシステ

ムはブロックチェーンを使用しない。但し、ブロックチェーンの匿名性の機能を取り入れる」。「中国中央銀行の

デジタル通貨の開発について技術的な制限を設けない。中央銀行は技術的に中立で、商業機構(銀

行、金融機関)の技術選択を干渉しない。 金融機関がデジタル通貨を消費者に交換する場合、ブロック

チェーン技術または従来のシステムアーチテクチャを使用できる。 採用された技術の種類が関係なく、中央

銀行は対応できる。」⑨

以上の黄奇帆氏と穆長春氏の発言から、結論を言うと、

① DCEP の第一層、中央銀行側のシステムではブロックチェーンを採用しない。第二層の商業銀行等

はブロックチェーンを活用しても、中央銀行は干渉しないし、中央銀行のシステムはインターフェースを

提供する用意がある。

② クロスボーダー決済にブロックチェーンを利用するであろう。

DCEP のシステムは中央銀行と商業銀行との共同開発、共同運営のシステムである。二つの階層にシス

テムアチテクチャイを分けて考えると同時に、機能的に国内決済と国際決済も分けて性能設計をしなければ

ならないと個人的に思う。

① 国内決済のシステム

人口が多く、経済規模も大きい中国では、現金決済を思い出せば分かるように、小口の支払は毎秒

どれだけの件数で発生するかは想像もつかないであろう。最低 30万件/秒の処理能力は必要だと穆

長春所長が指摘している。

現状のブロックチェーンの処理能力は、高いほうの Libra でさえも、せいぜい 1000件/秒しか性能を

出せないため、中央銀行側のシステムは採用しないと決定した。第ニ層では複数の競争相手で一緒

に公衆にサービスを提供するので、システムの処理速度がついていけないと、淘汰さる可能性が高い。

このリスクを考えると、第二層の銀行も企業もブロックチェーンを採用する可能性は低い。

② クロスボーダー決済のシステム

⑨ http://www.0773web.com/essc/2020/02/28/2020022826661.html

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クロスボーダー決済について、多くの先進国はブロックチェーンの有効性を実証した。毎秒の処理件数

は比較的に少なく、処理性能への要求は厳しくない。ブロックチェーンは非集中管理と低 TPS のユー

スケースに長けているので、DCEP の第二層或いは第一層で採用しても、リスクは大きくない。きっと採

用されると思う。

最後に、ブロックチェーンを採用する場合、セキュリティの万全性を考慮しなければならい。現在のブロックチ

ェーンの電子署名に使う公開キー暗号化について、量子コンピューターで解読できることは意外に早く訪れる

可能性がある。米国では、2030年頃までに暗号鍵長 2,048 ビットの RSA暗号(公開鍵暗号の一

つ)を解読可能な量子ゲート型コンピューターが実現し得ることを想定し、2026年頃までに米国連邦政

府で使用する公開鍵暗号を耐量子コンピューター暗号(量子コンピューターでも解読が困難な暗号)に移

行する予定である。

【後書き】

昨今、米政府の中国ハイテク企業に対する封じ込めを勘案し、中国の中央銀行は自国の企業がビジネ

スをストップされないように何等かの決済の手段を確保しなければならない。DCEP の発行をきっかけに、ブロ

ックチェーン技術を使用するクロスボーダシステムの構築は中国にとって自然な選択だと思う。

一方、先進国でもブロックチェーンを活用するクロスボーダー決済の実証実験は盛んに行っている。一国で

はなく、各国の中央銀行がコンセンサスを取れた時点で、はじめて現存の国際決済体制に大きなインパクト

を与える。

「世界中の 24 の政府が分散型台帳を利用するシステムを構築している。90以上のグローバル企業がさ

まざまなブロックチェーン連盟に参加している。 EU、日本、ロシア等の国々では、グローバル暗号通貨の決

済ネットワークの構築を検討している。ますます多くの金融機関やブロックチェーンプラットフォームが、SWIFT

と CHIPS(高額決済)⑩を介せずにクロスボーダー決済を試している」と黄奇帆氏が第一回上海金融サミット

の講演で述べた。

クロスボーダー決済における世界の動きは現在の国際通貨秩序を見直すきっかけを作るのではないかと思

う。これから第2次世界大戦以降、続いてきたドル基軸通貨体制に波及する可能性もある。

2019年8月にアメリカのジャクソンホールで開かれた各国中央銀行関係者会議において、イングランド

銀行・カーニー総裁(Mark Carney)の大胆な提言が大きな反響を呼んだ⑪。

⑩ CHIPS(Clearing House Interbank Payments System)とは、世界最大の民間決済システムの 1 つである。1970年に設立し、ニューヨークに本拠地とする The Clearing House Association によって運営されている。CHIPSは世界中のドル取引の 90%以上を処理している。

⑪ http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/420222.html

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カーニー総裁は「新興国の成長によって世界が多極化しているにもかかわらず、アメリカ・ドルへの一極集

中が続くことが弊害をもたらす可能性がある」と指摘した。「いずれ、時代の変化にあった新しい国際通貨秩

序が必要になる。その中でデジタル通貨がドル基軸通貨体制を変えるきっかけになるかもしれない」と述べた

(NHK の「時論公論」より)。

ブロックチェーンは世の中の一極集中のシステムに対して技術をもって挑戦した。各国の中央銀行のデジタ

ル通貨発行によって、世界の通貨体系も大きな動きを見せてくれる可能性がある。