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  • 第2章 経済的虐待について

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    第第第第2222章章章章 経済的虐待経済的虐待経済的虐待経済的虐待についてについてについてについて

    ~~~~養護者等養護者等養護者等養護者等によるによるによるによる経済的虐待経済的虐待経済的虐待経済的虐待をををを中心中心中心中心にににに~~~~

    <概要> 高齢者虐待の中でも,顕在化しにくい経済的虐待についての定義や具体例を示すとともに,その特徴と背景について考察しています。 さらに,経済的虐待の対応において期待される関係機関等の役割について考えるとともに,経済的虐待を受けやすい認知症高齢者に対する理解を図ります。 <第2章の構成> 1 経済的虐待とは 2 経済的虐待の特徴と背景 3 経済的虐待の兆候 4 経済的虐待対応で期待される関係者及び関係機関等の役割 (1)地域における関係者・関係機関等に期待される役割 (2)認知症高齢者への理解

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    1 経済的虐待とは ★養護者等による経済的虐待に該当する行為 (1)経済的虐待の行為 1)高齢者の親族 経済的虐待は,他の虐待と異なり,「養護者又は高齢者の親族」が行う行為と定義されています。つまり,高齢者を現に養護する者でない親族による行為も該当します。 なお,親族の範囲は民法第725条において,①6親等内の血族,②配偶者,③3親等内の姻族となっています。 2)経済的虐待の具体例 経済的虐待とは,養護者又は高齢者の親族が,「本人の合意なしに財産や金銭を使用したり,本人の希望する金銭の使用を理由なく制限すること。」をいいます。 具体例としては,次の行為が該当します。 � 年金や預貯金を本人の意思,利益に反して使用する � 日常生活に必要な金銭を渡さない,または使わせない � 本人の自宅等を本人に無断で売却する など

    3)広島県での経済的虐待の事例 県内で発生した経済的虐待では,「経済的虐待の具体的な対応調査(40事例中)」において,次のような行為が確認されています。 � 高齢者の年金振込通帳を預かる者が,勝手に年金を引き出し,使用していた。 � 高齢者の通帳口座から勝手に預貯金を引き出し,使用していた。 � 高齢者の年金を担保に金銭を借りさせ,使用していた。 � 高齢者名義の株式証券を売却させ,その売却益を使用していた。 � 消費者金融から,高齢者に無断で高齢者名義の借入を行い,使用していた。 等 (2)経済的虐待の捉え方 経済的虐待においては,高齢者が子の生計を支えている場合など虐待に当たるかどうかを判断することが困難な場合が少なくありません。 経済的虐待に当たるかどうかは,①高齢者本人が納得し,その意思に基づいて財産が管理されているかどうか,②高齢者本人の生活や介護に支障が出ていないかどうかなどが主な判断のポイントとなります。 たとえ,表面的には高齢者本人が納得していると思われる場合でも,家族関係や心理的な圧力等により合意せざるを得ない状況にあることも考えられます。 また,高齢者本人が認知症などにより判断能力が不十分と考えられる場合もありますので,現在の状態が客観的に見て本人の利益にかなっているかどうかを判断していく必要があります。

    養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。(高齢者虐待防止法第2条第4項第2号)

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    2 経済的虐待の特徴と背景 (1)経済的虐待の広島県の実態 1) 経済的虐待に係る広島県及び全国の状況 高齢者の虐待件数が増加するなか,虐待に占める経済的虐待の割合は減少傾向にある ものの,経済的虐待件数そのものは,広島県及び全国ともに増加傾向にあります。 広島県の状況 全国の状況 家庭内虐待(A) 経済的虐待(B) (B)/(A) 家庭内虐待(A) 経済的虐待(B) (B)/(A) H18 351 件 84 件 23.9% 12,569 件 3,401 件 27.1% H19 352 件 91 件 25.9% 13,273 件 3,426 件 25.8% H20 445 件 112 件 25.2% 14,889 件 3,828 件 25.7% 2)広島県で発生した経済的虐待の特徴 市町から報告のあった平成18年度,平成19年度及び平成20年度の養護者による高齢者虐待について,経済的虐待を受けた高齢者や虐待者の背景について,検討してみます。 ※以下のグラフにおいて, ・「高齢者虐待全体」は,市町から報告のあった平成18年度から平成20年度の間に発生した養護者による高齢者虐待1,148件を指します。 ・「経済的虐待」は,平成18年度から平成20年度までに発生した養護者による高齢者虐待のうち,経済的虐待287件を指します。 ・「経済的虐待のみ」は,経済的虐待287件のうち,経済的虐待しか受けていない(他の虐待が重複 していない)103件を指しています。 ① 被虐待高齢者の約8割が女性 被虐待高齢者の性別は,「高齢者虐待全体」,「経済的虐待」及び「経済的虐待のみ」ともに,女性が約8割を占めています。

    23% 77%25% 75%21% 79%

    0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%高齢者虐待全体経済的虐待経済的虐待のみ 男性女性

    平成 18 年度 平成 19 年度 平成 20 年度 計 高齢者虐待全体 351 件 352 件 445 件 1,148 件 経済的虐待 84 件 91 件 112 件 287 件 経済的虐待のみ 32 件 26 件 45 件 103 件

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    ② 被虐待高齢者の要介護別状況 要介護別でみると,「高齢者虐待全体」では要介護認定を受けている方が74%であることに対し,「経済的虐待」では78%,「経済的虐待のみ」では87%となっており,経済的虐待を受けている高齢者のうち要介護認定を受けている割合は比較的高いといえます。

    11% 10% 19% 14% 13% 15% 5% 13%9% 9% 18% 11% 15% 11% 5% 22%8% 9% 16% 13% 13% 10% 5% 26%

    0% 20% 40% 60% 80% 100%高齢者虐待全体経済的虐待経済的虐待のみ

    要支援1要支援2要介護1要介護2要介護3要介護4要介護5未申請・非該当等 ③ 経済的虐待を受けている方の約7割が認知症高齢者 「高齢者虐待全体」では認知症のある方が59%であることに対し,「経済的虐待」では64%,「経済的虐待のみ」では71%となっており,経済的虐待を受けている高齢者のうち認知症の方の占める割合は比較的高いといえます。

    22% 71% 7%28% 64% 8%33% 59% 8%

    0% 20% 40% 60% 80% 100%高齢者虐待全体経済的虐待経済的虐待のみ 認知症なし認知症あり不明

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    ④ 主な虐待者は息子 被虐待高齢者と虐待者の続柄をみると,「高齢者虐待全体」や「経済的虐待」及び「経済的虐待のみ」ともに,最も多く虐待をしているのが息子となっていますが,その他の点で,若干相違がみられました。 まず,「高齢者虐待全体」では23%であった配偶者による虐待が,「経済的虐待のみ」では4%となっており,配偶者による経済的虐待は非常に少なくなっています。 逆に,「その他(甥や姪など)」の占める割合が多くなっています。

    4% 46% 21% 11% 3% 5% 10%8% 51% 18% 9% 2% 4% 8%23% 39% 17% 11% 2%

    4%4%0% 20% 40% 60% 80% 100%

    高齢者虐待全体経済的虐待経済的虐待のみ配偶者息子娘子の配偶者兄弟姉妹孫その他

    ⑤ 経済的虐待は別居する家族からの虐待が多い 「高齢者虐待全体」では,85%が虐待者と同居しており,同居家族からの虐待が多いといえますが,「経済的虐待」では71%,「経済的虐待のみ」では43%となっており,経済的虐待を受けている高齢者は,別居する家族からの虐待が多いという特徴があるといえます。

    43% 57%71% 29%85% 15%

    0% 20% 40% 60% 80% 100%高齢者虐待全体経済的虐待経済的虐待のみ 同居別居

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    3)経済的虐待の発生要因 平成21年7月30日及び31日に広島県介護予防研修相談センターで開催された「平成21年度高齢者虐待防止研修」の受講者を対象に経済的虐待に係る「アンケート調査」を実施しました。 このアンケート調査で経済的虐待が発生した要因について,影響があったと思われることを自由記載で挙げてもらったところ,「養護者の経済的困窮」が51件(32.5%)と最も多く,次いで,「高齢者本人と養護者の人間関係」が21件(13.4%),「認知症による判断能力の低下」が20件(12.7%)となっています。 《アンケート調査の方法及び集約の方法》 ・対象者 研修受講者285名(介護サービス事業所職員,介護施設職員,市町職員等) ・方 法 無記名アンケート方式 ・回収数 209(回収率73.3%) ・回答数 当該設問への回答者数113(複数回答を含む件数157件) ・集 計 自由記載の回答を,その内容に応じて項目分けした。

    【広島県アンケート調査(H21.7.30~31)】 5121201511998544

    0 10 20 30 40 50養護者の経済的困窮高齢者本人と養護者の人間関係認知症による判断能力の低下虐待に対する意識の欠如養護者の金銭欲求養護者が失業したため家族機能が低下したため共依存状態,身内意識他に頼れる人がいないコミュニケーション不足制度・政策が不十分など ★アンケートの主な内容(抜粋) ・養護者養護者養護者養護者のののの経済的困窮経済的困窮経済的困窮経済的困窮:養護者の経済状態の不安定さ。家族の経済的事情。経済的に苦しい。 ・高齢者本人高齢者本人高齢者本人高齢者本人とととと養護者養護者養護者養護者のののの人間関係人間関係人間関係人間関係:不仲。信頼感のなさ。家族とどんな関係を作っていたかによる。 ・認知症認知症認知症認知症によるによるによるによる判断能力判断能力判断能力判断能力のののの低下低下低下低下:認知症による金銭管理の問題。本人の認知レベルの低下。 ・虐待虐待虐待虐待にににに対対対対するするするする意識意識意識意識のののの欠如欠如欠如欠如:虐待を虐待と感じていないから。親の財産を使うことに罪悪感がない。 ・養護者養護者養護者養護者のののの金銭欲求金銭欲求金銭欲求金銭欲求:お金への執着心。贅沢をしたいと思う人たち。あるものは欲しくなる。 ・養護者養護者養護者養護者がががが失業失業失業失業したためしたためしたためしたため:養護者が職を失うこと。社会情勢的にリストラ等の息子が増えている。 ・家族機能家族機能家族機能家族機能がががが低下低下低下低下したためしたためしたためしたため:家族機能が簡単に崩壊しやすい。家族体系の変化,移り変わり。 ・共依存状態共依存状態共依存状態共依存状態,,,,身内意識身内意識身内意識身内意識:相互の依存関係。親に依存する子供と子供に甘い親の存在。パラサイト。 ・他他他他にににに頼頼頼頼れるれるれるれる人人人人がいないがいないがいないがいない:相談する人がいない。金銭管理に第三者が介入しずらい。 ・コミュニケーションコミュニケーションコミュニケーションコミュニケーション不足不足不足不足:高齢者と養護者での意思の疎通が困難なこと。認識のズレ。 ・制度制度制度制度,,,,政策政策政策政策がががが不十分不十分不十分不十分:国の政策も原因の一つと思う。介護保険の不備。

    単位:回答件数

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    3 経済的虐待の兆候 (1)虐待の発見,気付き 一般的に,高齢者虐待は閉ざされた家庭の中で行われることが多く,なかなか外部からは発見しにくい問題です。 そこには,被虐待高齢者が虐待を行っている養護者をかばったり,虐待を受けていてもその人の介護に依存せざるを得ず,自ら虐待の事実を訴えづらいなど社会的対面や自尊心により,あるいは虐待の増大を怖れるために口を固く閉ざすしかなかったり,認知症の進行により虐待を受けていることを伝えられないなどの要因が存在すると推測されます。また,虐待を行っている養護者自身に虐待をしているという自覚がないことも多いため,家庭内における高齢者虐待は発見しにくい状況にあります。 (2)経済的虐待のサイン 経済的虐待を早期に見つけるには,虐待がどのようなものであるかを理解すると同時に,「虐待のサイン」を知っておくことが重要です。ここでは,虐待に早期に気づくためには,高齢者のどのようなことに注目すべきなのかを見ていきます。 これらは例示ですので,この他にも様々な「サイン」があることを認識しておく必要があります。

    ★発見のサイン 関係者と共有することで早期発見につながる

    Ⅰ 年金や財産収入等があることは明白なのにもかかわらず,お金がないと訴える。 Ⅱ 自由に使えるお金がない。それまで買えていた生活資材が買えなくなる。 Ⅲ サービスの費用負担や公共料金,家賃の支払いができなくなる。 Ⅳ 資産の保有状況と衣食住など生活状況との落差が激しい。 Ⅴ 高齢者の高価な所有物が高齢者の知らないうちになくなる。 Ⅵ 高齢者名義の口座から,本人が承知していない引き出しが頻繁にある。 Ⅶ 高齢者に身に覚えのない借金の取立て人が訪れたり,督促状が届いたりしている。 Ⅰ 高齢者に経済的な余裕があるように見えるのに,高齢者にお金をかけようとしない。 Ⅱ 高齢者の所有物(金銭など)に異常な関心を示している。 Ⅲ 高齢者の年金や資産に依存して生活している。 Ⅳ 親の財産を子供が使うのは当然だと思っている。 Ⅴ 経済的な問題を抱えているのに,裕福な生活を送っている。

    経済的虐待経済的虐待経済的虐待経済的虐待をををを受受受受けているけているけているけている高齢者高齢者高齢者高齢者ののののサインサインサインサイン

    養護者又養護者又養護者又養護者又はははは高齢者高齢者高齢者高齢者のののの親族親族親族親族のののの態度態度態度態度にににに見見見見られるられるられるられるササササインインインイン

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    (3)発見の契機 なかなか発覚しにくい経済的虐待について,「経済的虐待の具体的な対応事例調査(40事例中)」から,発見のきっかけや発見者,通報までの経過及び通報者について,検討してみます。 1)発見のきっかけ 最も多かったのは,介護保険サービスの利用料や施設利用料,入院医療費などの滞納から発覚したケースでした。次いで,「高齢者の生活状況が心配」といった相談や,「高齢者本人からの訴え」がきっかけとなっています。

    2)発見者 最も多かったのは,「他の家族,親族」となっており,次いで,「サービス提供機関」,「本人からの訴え」の順になっています。 上記の発見のきっかけでは,「他の家族,親族」は「高齢者の生活状況が心配」や「金銭管理に対する不安」から発見したケースが多く,「サービス提供機関」や「入所施設」は,「利用料の滞納」から発見するケースが多数を占めていました。 2.5% 5.0%5.0% 7.5%

    12.5% 17.5% 22.5% 27.5%0 2 4 6 8 10 12利用料・医療費の滞納生活状況が心配本人からの訴え金銭管理に対する不安他の虐待からライフラインの停止医療機関への未受診家賃滞納

    2.4% 9.5%9.5%9.5%14.3% 16.7%16.7% 21.4%

    0 2 4 6 8 10他の家族,親族サービス提供機関本人からの訴え入所施設ケアマネ医療機関民生委員行政機関

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    3)通報までの経過 通報に関しては,「発見者から直接」が大半を占めています。 「発見者がケアマネに相談」は,サービス提供機関がケアマネジャーに相談や報告した過程で,虐待の疑いとして通報された事例が多く見受けられます。 経済的虐待を受けた高齢者自身は,直接届け出るケースがほとんど無く,知人やホームヘルパー等のサービス提供機関に相談する傾向にあります。

    4)市町等への通報者 「ケアマネジャー」が最も多く,次いで「他の家族,親族」,「入所施設」の順となっています。 ケアマネジャーは,上記の通報までの経過で述べたように,「サービス提供機関」等からの相談などによって経済的虐待を知り得る機会が多いと言えます。

    2.4%2.4%2.4%4.8%4.8%7.1% 11.9% 64.3%0 5 10 15 20 25 30発見者から直接発見者がケアマネに相談本人が知人に相談本人がサービス提供機関に相談発見者が行政機関へ相談発見者が医療機関へ相談本人が警察に相談本人から直接

    2.4%2.4% 7.1%7.1% 9.5%9.5% 11.9% 14.3%14.3% 21.4%

    0 2 4 6 8 10ケアマネ他の家族,親族入所施設サービス提供機関医療機関民生委員知人行政機関警察本人

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    4 経済的虐待対応で期待される関係者及び関係機関等の役割 経済的虐待を早期に発見し,問題の深刻化を防ぐためには,近隣住民をはじめ,地域の民生委員や自治会などの地域組織,介護保険サービス事業者など高齢者を取り巻く様々な関係者が経済的虐待に対する理解を深め,虐待の兆候に気付くことが大切です。 また,経済的虐待に対応していくうえでも,被虐待高齢者と養護者の複雑な家庭環境や背景を踏まえながら,地域の各関係機関がそれぞれの専門性を活かし,連携・協力して対応することが求められます。 (1)地域における関係者・関係機関等に期待される役割 1)地域に期待される役割 ① 地域住民 高齢者虐待防止法第7条において,高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は速やかに市町村へ通報しなければならない(または通報するよう努めなければならない)とされています。 高齢者虐待は,地域や親族関係から孤立した家庭で生じやすいといわれています。 日頃の近所づきあいの中で,事態が深刻にならないように,ちょっとした異変に目をとめ,民生委員や高齢者虐待相談窓口に情報を提供するだけで,早期に発見・解決できるケースもあります。 地域住民一人ひとりに,高齢者虐待は人間の尊厳を侵す重大な人権侵害であるということ,また,だれにでも起こりうるということを理解してもらい,自分たちの役割を意識してもらえるような啓発活動を行って,情報提供についての協力を求めていくことが重要です。 ② 民生委員 民生委員は,地域住民の福祉ニーズを行政機関へつなげたり,自ら助け合い活動を行ったりするなど,日頃から積極的に活動しています。 また,こうした活動を通じ高齢者宅の様子なども把握しています。 高齢者虐待の防止,事態への対応においては,近隣住民,福祉関係者の協力は必要不可欠ですが,なかでも民生委員の協力はとても重要です。 虐待を発見したり虐待ではないかと気付いたりした近隣住民からの情報や虐待を受けている方からの相談を,民生委員が速やかにかつ的確に高齢者虐待相談窓口につなぐことで,事態の深刻化を防いだり,早期解決につなげることができます。 民生委員には,その崇高な使命と,民生委員の活動の基本は平時からの担当区域の完全な実態把握にあるということを再認識してもらい,見回り活動や地域のよき世話役,相談役としての活動を行ってもらうよう求めていくことが重要です。 2)サービス提供事業者等に期待される役割 ① 居宅介護支援事業所(ケアマネジャー) ケアマネジャーは,利用者宅への訪問や,本人及び家族からの相談,サービス事業 者からの相談等により虐待を知り得る機会が多く,虐待の主たる把握機関として期待

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    されています。また,介護者・被介護者双方の状態を把握していることから,日頃から良き相談相手になることもできます。 虐待(虐待の疑い)を発見した場合は,サービス提供事業者から情報の収集を行うとともに,関係機関と連携を図りながら訪問調査を実施し,虐待の改善に向けたケアマネジメントを実施していく必要があります。場合によっては,ケアプランの変更も行っていくこととなります。 ② 訪問介護 多くの方が利用しているサービスとして訪問介護があります。ホームヘルパーは利用者宅に入り,日常生活上の介護を手伝っていることから,虐待を発見する機会が一番多いといえます。高齢者の状況を観察し,声掛けなどの精神的支援を行うとともに,高齢者や家族の変化などを客観的にかつ的確にケアマネジャーに報告することが求められます。 経済的虐待においても,虐待を受けている方から直接相談を受けたり,利用料の滞納等から発覚するケースがあります。 ③ 訪問看護 看護師も利用者宅への訪問を通じて,虐待を発見する機会が多い立場にあります。 看護サービスを提供しながら,高齢者や介護者の精神的ケアをする中で,高齢者の体調の変化や家庭状況などを,客観的にかつ的確に医師やケアマネジャーに報告することが求められます。 経済的虐待においても,虐待を受けている方から直接相談を受けたり,利用料の滞納等から発覚するケースがあります。 ④ 通所介護など 通所介護・通所リハビリテーションでは,入浴時に高齢者の身体の状況を観察することができます。また,食事の際には家庭で食事が適切に与えられているかなども観察することができます。さらに,会話の中で高齢者の不満や不安を知ることもできます。高齢者の状態を注意深く観察し,的確な情報をケアマネジャーに報告することが求められています。 経済的虐待においても,利用料の滞納等や,高齢者が通帳や有価証券を事業所に肌身離さず持ち込む行為から,虐待が発覚するケースがあります。 ⑤ 老人短期入所施設(ショートステイ) ショートステイは,高齢者を緊急時に一時的に保護する役割を担うことになります。 虐待等により客観的に見て特別養護老人ホーム等への入所が妥当と思われる場合であっても,施設に対する不安等から高齢者や家族が入居を拒否し,さらに状況が悪化するケースがよく見受けられるので,ショートステイの利用を通じて,特別養護老人ホームへの入所に対する不安を取り除き,円滑な施設の利用に繋げる役割も期待されます。 上記の通所介護と同様に入浴サービスや食事の提供等を通じ,高齢者の状態を注意深く観察し,的確な情報をケアマネジャーに報告することが求められています。

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    ⑥ 特別養護老人ホーム 高齢者虐待により,緊急に施設入所が必要と判断されるケースや,市町から「やむを得ない事由による措置」(老人福祉法第11条第1項第2号)の委託があった場合は,優先的に受け入れていきます。 緊急入所でない場合でも,利用料の滞納等から経済的虐待が発覚するケースがあります。施設によっては預り金を行っており,利用料支払い等を施設管理にすることもあります。 3)関係機関等に期待される役割 ① 医療機関 医療機関では,診療を通して高齢者の不審なけがやアザなどの状況を把握できるほか,家族・養護者の様子や変化等に気付くことができますので,高齢者虐待の発見機関としての役割が期待できます。さらに,他の関係機関の働きかけは拒んでも,医師の指導は受け入れやすいという傾向もありますので,サービスの利用等について,高齢者や養護者に働きかけるなどの役割を担うこともあります。 経済的虐待においても,虐待を受けている方から直接相談を受けたり,入院医療費等の滞納から発覚するケースがあります。また,入院の必要性の判断や成年後見用診断書の作成などの役割も求められます。 ② 社会福祉協議会(関係機関一覧 P99) ボランティアや地域住民と地域福祉活動を推進するとともに,地域の組織団体とのネットワークにより見守りなどを担っています。 経済的虐待においては,日常生活自立支援事業(かけはし)による通帳・印鑑等の保管や金銭管理,生活福祉資金貸付制度等による支援を行うことがあります。 ③ 金融機関等 年金は基本的に銀行や郵便局等の口座に振り込まれます。また,高額な保有現金等についても,金融機関の預貯金口座等で財産管理を行うことが一般的です。 そういった中,経済的虐待では,養護者又は高齢者の親族が,高齢者から預かっている通帳や印鑑,キャッシュカード等から金銭を不当に引き出す行為が多数報告されています。通報や相談があった時点において,状況把握とともに金融機関と密接に連携し,出金停止や口座変更等の対応を迅速に行うことが被害の拡大防止に繋がると考えられます。 ④ 福祉事務所(関係機関一覧 P98) 福祉事務所とは,社会福祉法第14条に規定されている「福祉に関する事務所」をいい,福祉六法(生活保護法,児童福祉法,母子及び寡婦福祉法,老人福祉法,身体障害者福祉法及び知的障害者福祉法)に定める援護,育成又は更生の措置に関する事務を司る第一線の社会福祉行政機関です。県及び市は設置が義務付けられており,町は任意で設置することができます。 経済的虐待においては,経済的な問題を抱えている高齢者や養護者支援の一つとして生活保護制度の活用を図ることがあります。

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    ⑤ 消費生活センター(相談機関の連絡先 P87) 消費生活センターでは,商品やサービスなど消費生活全般に関する苦情や問合せ等,消費者からの相談を専門の相談員が受け付け,公正な立場で処理にあたっています。 全国の消費生活センターに寄せられる高齢者の消費者被害が急増するなか,その特性を理解し,消費者問題関係者との連携や情報交換による被害の拡大防止に取り組むことが求められます。 ⑥ 警察(関係機関一覧 P97) 地域での生活安全に関する相談などを受け,地域での見回りや安全の見守りを行います。また,市町村が立入調査をする際,市町村の援助要請を受けて,市町村職員,地域包括支援センター職員等との同行訪問を行います。 ⑦ 家庭裁判所(関係機関一覧 P94) 家庭や親族の問題を扱う裁判所です。親族関係調整調停,高齢者の扶養についての家事調停・家事審判のほか,成年後見等の申立窓口です。成年後見等の決定・後見人の選任等を行います。 ⑧ 法務局(関係機関一覧 P95) 法務局では,登記,戸籍・国籍,供託等の民事行政事務と,訟務事務及び人権擁護事務を行っています。 人権侵害に係る救済措置としては,援助,調整,要請,説示,勧告,通告,告発が行われます。また,成年後見等に関して,「登記されていないことの証明書」の交付を窓口で請求することができます。(支局や出張所では取り扱っていません。) ⑨ 公証役場(関係機関一覧 P95) 公証人の仕事は,大きく分けて①公正証書の作成,②私署証書や会社等の定款に対する認証の付与,③私署証書に対する確定日付の付与の3種類であり,公証役場は公証人が執務するところです。 任意後見契約においては,公証役場において「任意後見契約公正証書」を作成することになります。 ⑩ 広島県介護予防研修相談センター(関係機関一覧 P100) 広島県介護予防研修相談センターは,福祉用具・住宅改修相談,認知症介護・高齢者の権利擁護相談などの相談事業のほか,福祉用具の展示,福祉専門職への研修を行っています。 高齢者の権利擁護相談では,認知症介護者や高齢者の財産管理(成年後見制度)・虐待等に関する電話相談に加え,認知症の人と家族の会広島支部や社会福祉士,弁護士及び司法書士等による面接相談(予約制)も実施しています。 ⑫ 認知症の人と家族の会(関係機関一覧 P100) 認知症に関する全国的な当事者と家族の会。認知症理解の啓発活動,相談や家族の支援活動を行っています。経済的虐待の被虐待者の多くが認知症であるため,虐待防止に認知症の理解は不可欠であり,認知症に関わる団体との連携は大切です。

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    4)専門職等に期待される役割 ① 弁護士 委任を受けて,訴訟・調停などの裁判手続きを行い,交渉・法律相談などを行います。財産管理や成年後見人等を務めることもあります。 広島県弁護士会の「高齢者等財産管理センターあんしん」では,成年後見人等の紹介,手続き代行,相談等を行っています。(関係機関一覧 P100) ② 司法書士 登記や供託等の法務局や裁判所に提出する書類の作成や,法律に関する相談を行っています。財産管理や成年後見人等を務めることもあります。 広島司法書士会の「成年後見センター・リーガルサポートひろしま」では,成年後見人等の紹介,手続き代行,相談等を行っています。(関係機関一覧 P100) ③ 社会福祉士 社会福祉に関する専門的な知識や技術をもって,日常生活に支障がある方の福祉に関する相談に応じ,助言・支援を行います。成年後見人等を務めることもあります。 社団法人広島県社会福祉士会の「権利擁護センターぱあとなあひろしま」では,成年後見人等の紹介,手続き代行,相談等を行っています。(関係機関一覧 P100) 5)地域包括支援センターの役割と市町との関係 高齢者虐待防止法では,第6条ほかで市町を第一義的に責任を有する主体として位置付けています。 一方,法第17条で,市町は地域包括支援センターなど高齢者虐待対応協力者のうち適当と認められるものに事務を委託することができるとしていることから,実際に業務を行うに当たっては,地域包括支援センターが対応の中心となることがあります。 こうした場合は,特に,地域包括支援センターは実施主体である市町と一体になって業務に当たることが重要です。

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    (2)認知症高齢者への理解 虐待を受けている高齢者のうち認知症のある方は59%であり,更に,経済的虐待の場合では,71%と高くなっていることから,認知症について正しく理解し,認知症高齢者やその家族を地域で支えることが,虐待の未然防止や虐待が発見された後の適切な対応につながります。 1)認知症への正しい理解に基づく対応 認知症の人と対応する際には,認知症に伴う認知機能の低下があることを正しく理解していることが必要です。そして,偏見をもたず,認知症は自分たちの問題であるという認識をもち,認知症の人やその家族が,認知症という困難を抱えて困っている人であるということに思いをはせ,認知症を抱える人が安心して生活ができるように支援するという姿勢が重要になります。 認知症の症状によっては,ときには社会的ルールに反する行為をしてしまうことがありますが,認知症を正しく理解していることによって,本人の尊厳を守りながら,的確な状況判断と事実確認を行うことで,冷静に対応することができます。 2)家族等の介護者への対応 ① 介護者の負担の理解 認知症の人には,記憶や見当識,理解力,判断力などの認知機能や意欲の低下の症状のほかに,心理的,環境的要因が加わることによって,幻覚,妄想,徘徊,異食などの心理・行動症状として現れる行動障害が強まることがあります。 介護者は,それらの状況に戸惑い,今後の見通しに大きな不安や負担を持つことになり,虐待を引き起こす要因となりやすいといえます。 しかしながら,介護者が何に不安や負担を感じているかを知り,それに対して適切なアドバイスを行うことができれば,介護者の不安や負担を軽減することができます。 ② 介護者の心理的ステップに応じた対応 家族の誰かが認知症になったとき,誰しもショックを受け,戸惑い,混乱に陥りますが,この時期をできるだけ早く通り抜け,認知症の人のあるがままを受け入れられるようになる(適応・受容)ためには,介護者の気持ちの余裕が必要です。 この気持ちの余裕は,本人や家族に対する周囲からの理解や介護サービスの適切な利用などによって得られると考えられます。 このように,介護者の不安や負担を軽減するためには,次に示した「介護者の心理的ステップ」に応じた対応が大切です。 「戸惑い・ショック・否定」 認知症が発症して間がなく,理解しがたい不可解な行動を初めて体験したときや,認知症の告知を受け,介護を始めた段階では,介護者が一人で悩みを抱え込むなど,戸惑いを感じています。 この時期には,介護者が認知症について理解できるよう説明し,今後の経過や病気の知識を伝えることが大切です。 第第第第1111ステップステップステップステップ

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    「混乱・悲哀・怒り・防衛」 介護者が身体的,精神的に疲弊している時期には,より手厚いソーシャルサポートが必要となります。 サービスの見直しの助言や将来の見通しなどを話し,介護者へのねぎらいの言葉が大切な時期です。 「自認・割り切り」 介護することを現実として受け止め,認知症を病気として認めることができる時期は,介護者が自己の喪失により深い抑うつに陥ることがあります。 このような場合には,今後の見通しを確認するとともに,本人の気分転換を図ることが大切になります。 「適応・受容」 認知症の症状を受け止め,介護することで自己の成長や新たな価値観を見いだす時期では,新たな自己像や価値観を尊重し,他の混乱している介護者と接点をもってもらい,新たな関係性を作っていくことが大切です。 3)虐待を防止する地域づくり 虐待を防止するためには,介護者以外の家族・親類の理解不足や地域の偏見が介護者を追いつめないよう,地域社会全体で支援することが重要です。 このためには,地域の人々が虐待を防ごうという意識をもち,ちょっとした声かけやサポートを行う中で,本人や介護者の変化に気付くようにし,必要に応じて,市町や地域包括支援センター等へつなぐことも大切です。 市町や県では,家族,関係者を含めた社会全体が認知症を正しく理解し,適切な対応を身に付けることや,地域において,認知症高齢者や家族を温かく見守る体制づくりを推進していくことを目的として,地域住民,学校,職域を対象として,認知症を正しく理解し,認知症の人や家族を温かく見守り,支援する「認知症サポーター」を養成し,認知症になっても安心して暮らせる町づくり・地域づくりを推進しています。

    ◆◆◆◆認知症認知症認知症認知症サポーターサポーターサポーターサポーター 厚生労働省の提唱により,平成 17 年度より,「認知症を知り地域をつくる 10 ヵ年」構想(2005~2014 年度)の一環として,地域で暮らす認知症の人や家族を日常生活場面において応援する「認知症サポーター」を養成する取組を行っています。 認知症サポーターは,認知症を正しく理解し友人や家族にその知識を伝える,認知症になった人や家族の気持ちを理解する,隣人や商店・交通機関等地域で働く人としてできる範囲で手助けを行うなど,認知症の人と家族の応援者です。認知症の人が安心して暮らすことができるまちとなるよう,平成26年度までに全国で400万人養成することを目指しています。

    第第第第2222ステップステップステップステップ 第第第第3333ステップステップステップステップ 第第第第4444ステップステップステップステップ