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東北日本沈み込み帯における地震発生と火山生成のモデル 長谷川 A model for earthquake generation and volcano formation in the NE Japan subduction zone Akira Hasegawa I introduce a model for generation of interplate, intraslab and shallow inland earthquakes in the NE Japan subduction zone and for magma genesis and ascent within the mantle wedge beneath the arc. Waveform inversion studies of recurrent earthquakes have revealed that large slip areas (asperities) of successive ruptures are in the same place on the plate boundary. Back slip inversions of GPS data show that asperities once ruptured by past large earthquakes are locked at present. These observations strongly suggest that the asperity model is applicable to the process of seismic and aseismic slip on the plate boundary in this subduction zone. Studies on spatial distribution of intermediate-depth earthquakes and seismic velocity structure within the slab provide the evidence which supports the dehydration embrittlement hypothesis for the generation of intraslab earthquakes beneath this arc. Seismic tomography studies have shown an inclined sheet-like seismic low-velocity zone in the mantle wedge at depths < 150km, which probably corresponds to the upwelling flow of the subduction-induced convection system. This upwelling flow reaches the Moho immediately beneath the volcanic front, suggesting that the volcanic front is formed by this upwelling flow. Aqueous fluids dehydrated from the slab are probably transported upward through this upwelling flow to reach the crust, where the surrounding crustal rocks might be weaken resulting in local contractive deformation under the current compressional stress field of this arc. GPS data have revealed a notable concentration of contraction deformation there. Shallow inland earthquakes are also concentrated in the upper crust of this locally large contraction deformation zone, suggesting that their occurrence is closely related with local weakening of the crust by aqueous fluids originated from the slab dehydration. Key words: earthquake generation mechanism, subduction zone, asperity model, dehydration, aqueous fluids, arc magmatism, crustal deformation, NE Japan

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東北日本沈み込み帯における地震発生と火山生成のモデル

長谷川 昭

A model for earthquake generation and volcano formation

in the NE Japan subduction zone

Akira Hasegawa

I introduce a model for generation of interplate, intraslab and shallow inland earthquakes in the NE Japan subduction zone and for magma genesis and ascent within the mantle wedge beneath the arc. Waveform inversion studies of recurrent earthquakes have revealed that large slip areas (asperities) of successive ruptures are in the same place on the plate boundary. Back slip inversions of GPS data show that asperities once ruptured by past large earthquakes are locked at present. These observations strongly suggest that the asperity model is applicable to the process of seismic and aseismic slip on the plate boundary in this subduction zone. Studies on spatial distribution of intermediate-depth earthquakes and seismic velocity structure within the slab provide the evidence which supports the dehydration embrittlement hypothesis for the generation of intraslab earthquakes beneath this arc. Seismic tomography studies have shown an inclined sheet-like seismic low-velocity zone in the mantle wedge at depths < 150km, which probably corresponds to the upwelling flow of the subduction-induced convection system. This upwelling flow reaches the Moho immediately beneath the volcanic front, suggesting that the volcanic front is formed by this upwelling flow. Aqueous fluids dehydrated from the slab are probably transported upward through this upwelling flow to reach the crust, where the surrounding crustal rocks might be weaken resulting in local contractive deformation under the current compressional stress field of this arc. GPS data have revealed a notable concentration of contraction deformation there. Shallow inland earthquakes are also concentrated in the upper crust of this locally large contraction deformation zone, suggesting that their occurrence is closely related with local weakening of the crust by aqueous fluids originated from the slab dehydration. Key words: earthquake generation mechanism, subduction zone, asperity model, dehydration, aqueous fluids, arc magmatism, crustal deformation, NE Japan

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1.はじめに 東北日本は, プレート同士が衝突し,海のプレートが陸

のプレートの下に沈み込む,プレート沈み込み帯に位置

している.それが,この地域における活発な地震活動や

火山活動を引き起こす原因となっている.最近の研究に

より,東北日本のような沈み込み帯で,どのように地震

が発生し火山が生成されるのか,その詳細が次第に明ら

かになりつつある.本稿では,太平洋下のプレート境界

地震,陸域下のスラブ内地震および内陸の地殻内地震に

ついて,それらの発生過程に関する最近の研究成果の一

端を紹介する.さらに,内陸地震の発生にも強く関わっ

ていると推定される,マグマの生成・上昇過程に関する

研究成果も合わせて紹介することとする. 2.プレート境界地震-アスペリティの繰り返しすべり 日本海溝のところから,東北日本の下に向かって,太

平洋プレートが沈み込んでいる.そのうちの沈み込み始

めの浅い部分,すなわち海溝から太平洋沿岸付近までは,

プレート境界は固着している.最近の研究により,この

プレート間の固着状況に場所による顕著な違いがあるこ

とがわかってきた.少し単純化して記述すると,図1に

模式的に示すように,プレート境界面上で,強度が大き

くしっかり固着している領域(アスペリティ)はあらか

じめ決まっていて,ずるずると非地震的にゆっくりすべ

る領域(安定すべり域)に囲まれてパッチ状に分布して

いる.周囲の安定すべり域が非地震的にゆっくりとすべ

ると,アスペリティに応力が加わる.非地震的なすべり

がさらに進行してゆくと,やがて応力が強度の限界に達

しアスペリティは急激にすべる.地震の発生である.こ

のようにアスペリティが繰り返しすべることにより,プ

レートの沈み込みが進行する.このような地震発生モデ

ル(アスペリティモデル)が,実際の地震発生の場であ

るプレート境界で成り立っているらしいことが明らかに

なってきた. 1994 年 12 月 28 日に三陸沖のプレート境界で M7.5 の

地震(1994 年三陸はるか沖地震)が発生した.その震源

域は,26 年前に発生した 1968 年十勝沖地震(M7.9)の

震源域の一部と重なっていた.永井・他(2001)は,地

震波形インバージョンによる丹念な解析を行い,図2に

示すように,これらの 2 つの地震によるすべり量の空間

分布を求めた.アスペリティは普段固着していて地震時

に一気にすべる領域だから,図ですべり量の大きな領域

として表されるはずである.図から,1968 年十勝沖地震

ではすべり量の大きな領域が主として2つあり,そのう ちの南側の領域が 1994 年三陸はるか沖地震によるすべ

り量の大きな領域と重なることがわかる.すなわち,1968

年十勝沖地震では2つのアスペリティが同時に破壊した

こと,それから 26 年後の 1994 年三陸はるか沖地震で,

そのうちの南側のアスペリティが再び壊れたことがわか

った.なお,北側の大きなアスペリティは,1968 年にす

べって以来現在に至るまですべっていない. 同一のアスペリティが繰り返し破壊する顕著な事例が

岩手県釜石沖でも見つかった.Matsuzawa et al.(1999,2002)は,図3に示すように,M4.8±0.1 の地震が釜石

沖のプレート境界面上の深さ約 45km で,1957 年から

1995年まで規則的な間隔で8回発生したことを見出した.

このように発生間隔が非常に規則的になるのは,この地

震が周囲を安定すべり域に囲まれた孤立したアスペリテ

ィの繰り返しすべりであり,かつ,近くに他の大きなア

スペリティがないため,周囲の安定すべり域が一定の割

合で非地震的にズルズルとすべっているからであると解

釈することができる. この解釈が正しければ,同じ場所で同じ規模をもつ,

次の地震が必ず発生するはずである.前回までの地震の

活動履歴のデータに基づいて,次の地震の発生時期も予

測できる.そのようにして,次の地震は 2001 年 11 月末

までに 99%の確率で発生すると予測されていた

(Matsuzawa et al.,1999).そして 2001 年 11 月 13 日に,

予測通りの規模の地震が予測通りの場所に発生した.さ

らに,アスペリティモデルが成り立つとすると,地震に

よるすべり量の大きな領域(アスペリティ)は,毎回ほ

ぼ同じ位置にあるはずである. 1995 年と 2001 年の地震

については,どちらも最近の高性能の地震計で波形を記

録できたことから,すべり量の空間分布を精度良く推定

することができた.結果を図4に示す.震源(破壊開始

点)の位置が 250m 程度違っているにもかかわらず,予

測通りすべり量の大きな領域が 2 つの地震でほぼ重なっ

ていることがわかる.すなわち,アスペリティモデルが

成り立つことを,ここでも示している. アスペリティの成因については,今のところよくわか

っていない.しかし,釜石沖の繰り返し地震の震源分布

は,この問題に対して興味深い情報を提供する.最近の

4 回の地震の震源(破壊開始点)を,相対震源決定によ

り精度良く決定した結果を図 5a に示す. 図には決定さ

れた震源を東西鉛直断面に投影してあるが,それらは実

線で示す傾き 40 度の線に良く乗るように見える.この地

域のプレート境界面の傾斜角は約 30 度であることを考

えると, 図 5b に模式的に示すように,釜石沖の繰り返

し地震を起こしているアスペリティは,プレート表面に

ある,半径約 1km ほどの海山のような突起によることを

想像させる. アスペリティモデルに従えば,通常はアスペリティは

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固着しているはずであるが,本当にそうなっているだろ

うか?高密度の GPS 観測網によるデータは,プレート境

界において現在固着している領域がどこにあるかという

ことを教えてくれる.図6は陸上の GPS データから推定

された,1997 年から 2001 年末までの 5 年間におけるプ

レート境界面の固着状況を示す.政府の地震調査研究推

進本部(2003)により,今後 30 年間の発生確率がそれぞ

れ,1)約 99%,2)約 90%,3)約 60%と地震発生

の可能性が高いと評価された,1)宮城県沖地震の想定

震源域,2)青森県東方沖(1968 年十勝沖地震(M7.9)の北側のアスペリティ),3)1952 年十勝沖地震(M8.2)の震源域,およびその周辺では,最近の 5 年間において

も固着していたことがわかる.なお,そのうちの3)1952年十勝沖地震のアスペリティは,2003 年 9 月 26 日の十

勝沖地震(M8.0)で再びすべった.同一のアスペリティ

の繰り返しすべりがここでも確かめられた(Yamanaka and Kikuchi, 2003).

3.スラブ内地震―脱水不安定による地震性すべり 稍深発地震が発生するような深さでは封圧が非常に高く

なり,脆性破壊を起こすためには極めて大きな差応力が

必要となる.スラブ内で,実際にこのような大きな差応

力が働いているとは考え難い.従って,強度を下げる何

らかのメカニズムが必要となる. 脱水不安定(dehydration embrittlement)が,岩石の強

度を下げて稍深発地震を発生させる有力なメカニズムと

して考えられている(例えば,Kirby et al., 1996; Seno and Yamanaka, 1996; Peacock, 2001).すなわち,スラブの沈

み込みに伴う温度・圧力の上昇によりスラブ内に存在し

ている含水鉱物が脱水反応を起こし,その結果供給され

た水が有効法線応力を低下させ,脆性破壊の 発生を可能とするという説である.そうであるとすると,

スラブ内地震はスラブ内の至るところで発生するわけで

はなく,①スラブ内の hydrate している部分が,②脱水反

応を起こす phase boundary を通過する場所で発生するこ

とが期待される. 以下にみるように,この脱水不安定がスラブ内地震の成

因であることを支持する証拠が,最近の研究で得られつ

つある.まず上記②の条件について,Yamasaki and Seno (2003)は,6 つの典型的な沈み込み帯について,蛇紋

岩化したスラブマントルと含水鉱物化した海洋地殻の脱 水反応境界の位置を,実験的に推定された相平衡図に基

いて求めた.東北日本沈み込み帯の例を図7に示す.彼

らは,二重深発地震面のうち上面の地震が海洋地殻の脱

水反応境界に,一方下面の地震が蛇紋岩の脱水反応境界

に沿って分布することを見出した.このことは,何故二

重深発地震面が形成されるか,さらには,何故下面の地

震がスラブのほぼ真中付近に面状に発生するかを説明し

ている. このように,蛇紋岩化したスラブマントルの脱水不安定

が下面の地震の発生原因であるとすると,下面の地震が

発生する沈み込み帯では,沈み込む前にスラブマントル

が含水化している必要がある.水は沈み込む前のプレー

トに,どのように供給され固定されるのだろうか?以下

のように,幾つかの可能性が指摘されている.○A海嶺で

の熱水循環により上部地殻に固定される.○Bトランスフ

ォーム断層の活動の際にそれに沿って海水が浸入し固定

される.○Ctrench-outer rise での正断層活動の際にそれに

沿って海水が浸入し固定される (Kirby et al., 1996 ; Peacock, 2001).○D プレートがスーパープルームやプル

ームの上を通過した際に貫入したマグマから供給された

水が固定される(Seno and Yamanaka, 1996). スラブ内地震の成因が脱水不安定であるとすると,上記

①のように,スラブ内の hydrate している部分でのみそれ

らは発生するはずであり,それは上記○A~○Dのような場

所であることが期待される. Jiao et al. (2000) や Ranero et al. (2005)は,trench-outer riseで発生している正断層型地震や海底地形に表れた正断層

と沈み込んだスラブ内で発生している稍深発地震につい

て,断層の走向及び傾斜角を系統的に調べそれらを比較

した結果,スラブ内地震は, trench-outer rise でつくられ

た正断層の再活動であると解釈されるとした.これは上

記○Cの場所でスラブ内地震が発生していることを示して

いる. また,上記○Bの場所で発生していると思われる観測事実

が,最近のトモグラフィ研究で得られている(Nakajima and Hasegawa, 2006).図 8 は関東地方下に沈み込む太平

洋プレート内の最上部マントル(プレート上面から 10km下方の面)の P 波速度分布を示す.図には,二重深発地

震面のうち上面及び上面と下面の間(面間)に発生して

いる地震も黒点で示してある.図から,関東下の三浦半

島-浅間山付近を通り北北西-南南東の走向を持つ細長

い低速度域の存在が明瞭に見てとれる.しかもこの低速

度域に沿うように,スラブ内地震が線状に密集して発生

している.図 9 は沈み込む前の太平洋プレート表面の縞

状磁気異常とフラクチャーゾーンを示してあるが,上記

の低速度域(線状の地震活動域)は一つのフラクチャー

ゾーンの延長上に位置するように見える.すなわち,こ

こで見出されたスラブ内の低速度域に沿う線状の地震活

動は,沈み込む前に形成されたトランスフォーム断層の

再活動である可能性を示している. 最近,北・他(2006)は,北海道・東北・関東地方下に

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沈み込む太平洋スラブ内の稍深発地震の震源を

Double-difference 法で再決定し,1)二重深発地震面の

上面と下面の他に,その間にも地震活動(面間地震)が

ある程度みられること,2)この面間地震と下面の地震

は空間的に著しく偏在した起こり方をしており,かつ下

面の活動が活発な地域では面間地震も活発であること,

3)さらに火山フロントより背弧側では,上面の地震も,

同様に下面の活動の空間分布と相関があることを見出し

た.この2),3)の観測事実は,プルームの上を通過し

た際にプレート内に固定された水(あるいは CO2)の脱

水(脱 CO2)による不安定によってスラブ内地震が発生

していることを示唆している.すなわち,上記○Dの場所

でスラブ内地震が発生していることを示唆する観測事実

である. 4.マントルウェッジ内の上昇流-島弧火山の成因

東北日本は,サイスミックトモグラフィの研究で最も

空間分解能の高い 3 次元地震波速度構造が得られている

プレート沈み込み帯の一つである.Nakajima et al.(2001)は,最近の高密度化された地震観測網によるデータを用

いて,Zhao et al.(1992)の結果を更新する詳細な 3 次元

速度構造を求めた.図 10 に島弧に直交する鉛直断面に

沿う S 波速度の分布を示す.いずれの鉛直断面において

も,陸域下に沈み込む太平洋スラブが顕著な高速度域と

してイメージングされている.その直上のマントルウェ

ッジ内には,深さ 100~150 ㎞程度からモホ面まで伸び

る,スラブにほぼ平行な傾斜した低速度域が明瞭に写し

出されている.この低速度域は,活火山を通る a,b,d,f の断面ばかりでなく,活火山の分布しない c と e の断面

でもはっきりと認められる.すなわち,マントルウェッ

ジ内には,スラブとほぼ平行に傾斜したシート状の低速

度域が分布している. このようなマントルウェッジ内の傾斜した地震波低

速度域は,東北日本ほど明瞭ではないが,他の幾つか

の沈み込み帯でも見出されている(Abers, 1994; Zhao et al., 1995, 1997; Gorbatov et al., 1999).それでは何故,シ

ート状の低速度域がプレート直上のマントルウェッジ

内につくられるのだろうか?それはプレートの沈み込

みに伴ってマントルウェッジ内に形成される 2 次対流

(McKenzie, 1969)によると推定される.プレートの沈

み込みにより直上のマントル物質も一緒に引きずり込

まれる.空いたスペースを埋めるように深部からマン

トル物質が上昇してくる.深いほど温度が高いので,

この上昇流の内部は周囲に較べて高温であり,そのた

め低粘性のはずである.高温であるほど地震波速度は

遅くなるから,図 10 の傾斜した低速度域は,この上昇

流部分を見ているものと思われる. また,プレートには含水鉱物等として水が含まれて

いるが,それは沈み込みに伴って脱水分解し直上のマ

ントルウェッジにはき出され,いずれはこの上昇流に

取り込まれるであろう.上昇に伴う圧力低下と水の添

加により,上昇流内には部分溶融が生ずると期待され

る.P 波と S 波の速度低下率から,体積率で 0.1~数%

のメルトが含まれると推定されている(Nakajima et al., 2005).このメルトを含んだ上昇流は,火山フロント直

下でモホ面にぶつかる.つまり,火山フロントに沿っ

てモホ面直下に,水を取り込んだ大量のメルトが滞留

することになる.そこからさらにメルトが上昇し,や

がて地表にまで達すれば火山がつくられる.このよう

にして火山フロントが形成されると考えられる(図 11). それでは鳥海山や岩木山等の背弧側(日本海側)の

火山は,どのようにしてつくられるのであろうか?サ

イスミックトモグラフィは,メルト生成の島弧走向(南

北)方向の変化についても重要な情報を提供してくれ

る.図 12b は,マントルウェッジ内のシート状の低速

度域に沿ってとった S 波速度の分布である.つまり,

傾斜した面に沿う S 波速度分布である.低速度域内で,

速度低下の特に大きな領域が南北方向に約 80km の間

隔で周期的に分布することがわかる.それは背弧側で

特に顕著である.図 12a の高度分布図から,脊梁山地か

ら背弧側に伸びる地形の高まりが,同様に南北方向に

約 80km の間隔で周期的に分布することがわかる.そし

て,そこに第四紀火山が分布している.すなわち,深

さ 30~100km におけるマントルウェッジ内の低速度域

(速度低下の特に大きな領域,つまり部分溶融度の大

きな領域)の分布,地表における第四紀火山の分布,

及び地形の高まりとが空間的に見事に一致している.

このことから背弧側の火山は,図 11b に模式的に示すよ

うに,マントルウェッジ内の傾斜した上昇流から分離

して,ダイアピル状にまっすぐ上に上がってきたメル

トが,やがては地表に達してつくられたものと推定さ

れる.また,そのようにマグマが繰り返し地殻中に貫

入すれば,現在みられるような地形の高まりが形成さ

れると推定される.

5.内陸地震-島弧地殻の非弾性変形に伴う地震性す

べり プレート境界で固着しているため,陸の地殻(島弧

地殻)はプレート相対運動の方向(ほぼ東西方向)に

圧縮応力を受ける.この圧縮応力によって島弧地殻は

どのように変形するのだろうか?GPS データは島弧地

殻の変形の様子も詳細に描き出してくれている.図 13

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は GPS データから得られた歪速度の東西成分を示す.

予想通り,ほぼ全域でプレート相対運動の方向に短縮

歪となっている.しかし詳細に見ると,脊梁山地(あ

るいは火山フロント)に沿って局所的に短縮歪が集中

する帯状の領域の存在がみてとれる.そのような歪集

中帯には,微小地震も集中して発生している. 前節でみたように,マントルウェッジ内のシート状

の上昇流は,火山フロント(あるいは脊梁山地)直下

でモホ面に達する.上昇流中に含まれていたメルトは,

いずれ地殻に底づけされるか,あるいは地殻中に貫入

するであろう.やがて地殻内で冷却し固化すると,そ

こから水がはき出され,さらに上方に移動すると推定

される.そうであるとすると,沈み込んだ太平洋スラ

ブ起源の水が,脊梁山地に沿って地殻浅部にまで連続

的に供給されることになる.流体の急激な移動で励起

されると推定される低周波微小地震や流体で満たされ

ていると推定される S 波反射体が,脊梁山地に沿って

集中して分布しているが,そのことも水の存在を支持

する(Hasegawa et al., 1991).水の存在は地殻物質を軟

化させ,圧縮応力場のもとで局所的に短縮変形を生じ

させることが期待される.それが図 13 にみられる脊梁

山地に沿う歪集中帯に表れているのであろう. 上記のような観測事実から推定した,東北日本の島

弧地殻の変形様式を図 14a に模式的に示す.メルトの冷

却固化に伴ってはき出された水は,地殻下部で何らか

の原因により急激に移動する場合があり,それが低周

波微小地震として表れていると推定される.水は地殻

中部でシル状に層を形成し滞留する.それが脊梁山地

に沿って広域に検出されるS波反射体であると推定さ

れる.脊梁山地では上部マントルからの高温物質の貫

入により温度が局所的に高くなり,地震発生層の下限

(脆性-延性境界)は局所的に浅くなる.水はさらに

上昇して上部地殻にまで達し,下部地殻ばかりでなく

上部地殻の塑性変形の原因ともなる.すなわち,地震 発生層が局所的に薄く下部地殻にはメルトや水が分布

する脊梁山地では,その外側の領域に較べて, 地殻全体

が軟化し強度が局所的に小さくなっていると期待され

る.そのため,プレート相対運動の方向に圧縮されて

いる島弧地殻は,脊梁山地の外側の領域では弾性変形

をするが,脊梁山地に沿っては上部地殻でも部分的に 非弾性変形が生じ,それにより局所的に短縮し隆起す

ることが期待される.図 13 にみられる歪集中帯はその

ようにして形成されたものと推定される. GPS データ

の解析に基く地表変形の研究は,このモデルから予測

される脊梁山地に沿う隆起帯の存在をも検出しつつあ

る(佐藤・他,2002).

脊梁山地に沿う局所的な短縮変形は,下部地殻では

震源断層面の深部延長での非地震性のすべりや体積的

な塑性変形としてまかなわれると推定される.一方,

上部地殻でも部分的には非弾性変形が生じるであろう.

そして図 11b にみるように,上部マントルからの水の供

給量に島弧走向方向に沿って変化があるので,それに

応じて非弾性変形の度合に違いが生じると推測される.

その結果,非弾性変形の小さな領域の上部地殻に応力

が集中する.やがて短縮変形が島弧走向方向で一様に

なるように,そのような領域で上部地殻全体を断ち切

るような大地震が発生するであろう(図 14b).すなわ

ち,内陸地殻内地震は,島弧地殻の非弾性的な短縮変

形が遅れている領域で,その遅れを取り戻すように地

震性すべりとして発生すると推測される.これは,あ

たかもプレート境界地震がアスペリティでのすべり遅

れを取り戻すように発生するのと似たようなメカニズ

ムと云えよう.脊梁山地に沿う上部地殻まで含めた,

このような非弾性的な短縮変形は,図 13 にみられるよ

うに多数の微小地震を発生させながら進行しているよ

うである.

6.おわりに 本稿では,東北日本沈み込み帯におけるプレート境

界地震,スラブ内地震及び内陸地殻内地震の発生過程,

それと密接に関わると推定される島弧マグマの生成・上

昇過程について,最近の研究成果の一端を紹介した.今

後,地震発生過程の理解が一層進み,それが地震発生予

測の高度化に結びつくことを願っている.

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図3 釜石沖の繰り返し地震(M4.8±0.1)の発生状況(Matsuzawa et al.,

2002).(a)マグニチュード-発生時期の図,(b)地震モーメン

トの積算分布.2001 年 11 月の地震を矢印で示す.

図 1 プレート境界におけるすべり様式(アスペリティモデル)の模

式図.アスペリティ(固着域)は通常は固着していて,地震時

に急激にすべる.一方,安定すべり域は,通常あるいは地震後

にゆっくりとすべり,地震時にはむしろ急激なすべりを抑制す

る働きをする.

図2 1968 年十勝沖地震(M7.9)及び 1994 年三陸はるか沖地震(M7.5)

のモーメント解放量分布(永井・他, 2001).コンター間隔は 3×1016 Nm/km2 .星印はそれぞれの地震の震央 (破壊の開始点)を表す.

図4 釜石沖の繰り返し地震のモーメント解放量分布(Okada et al.,

2003).1995 年 3 月の地震(M4.8)の震央(破壊の開始点)を灰

色丸で、すべり量の分布を点線のコンターで示す.2001 年 11 月

の地震(M4.7)の震源とすべり量の分布を,黒丸と実線のコンタ

ーで示す.すべり量は最大値で規格化した値で示してある.

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図5 釜石沖の繰り返し地震の震源分布(Igarashi et al., 2000).1990 年の地

震をマスターとして相対震源決定により決めた 1979,1985,1995 年の

地震の震源を東西鉛直断面に示す.

図6 GPS データを用いて推定されたプレート境界の固着状況

(Suwa et al., 2006).プレート間の固着の度合いを表すバック

スリップ量をコンターで示す.コンター間隔は 2cm/yr.太い

実線で囲まれた領域は,南から 1978 年宮城県沖地震(M7.4),1968 年十勝沖地震(M7.9)の北側,1952 年十勝沖地震(M8.2)のアスペリティ(Yamanaka and Kikuchi, 2004)をそれぞれ示す.

(a)

(b)

図7 含水化した海洋地殻および蛇紋岩化したスラブマントルの脱水反応境界

(Yamasaki and Seno, 2003).挿入図の実線で示した測線に沿う鉛直断面

に,地震の震源(青丸)と脱水反応境界を示す.緑線は含水化した海洋

地殻,赤破線および赤点線は蛇紋岩化したスラブマントルの脱水反応境

界.

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図8 太平洋スラブ内のP波速度とスラブ内地震の分布(Nakajima and Hasegawa, 2006). スラブ上面から 10km下方の面に沿うP波速度偏差を

右上部のカラースケールで示す.二重深発地震面の上面と面間地震を黒

点で示す.スラブ上面の深さを破線のコンターで示す.赤三角は活火山.

図 9 縞状磁気異常とフラクチャーゾーン.関東下の太平洋スラブ内に

見出された低速度異常域を橙色破線で示す (Nakajima and Hasegawa, 2006).

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図 10 S 波速度の鉛直断面(Nakajima et al., 2001).挿入図に示す島弧に直交する a~f の測線に沿う鉛直断面をそれぞれ示す. S 波の速度偏差を

カラースケールで示す.各図上部の太線は陸地の範囲,赤三角は活火山を示す.白丸は震源を,実線は浅い方から深い側に順にコンラッド面,モ

ホ面,太平洋スラブ上面,同下面を示す.

図 12 地形と低速度域内の S 波速度分布(Hasegawa and Nakajima, 2004).(a)地形,(b)マントルウェッジ内の低速度域に沿ってとった S 波速度偏

差.それぞれ高度と速度偏差をカラースケールで示す.白丸は深部低周波微小地震.赤丸は第四紀火山.

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図 11 プレート沈み込みに伴うマントル上昇流とスラブから供給された

水の循環経路の模式図(Hasegawa and Nakajima, 2004).(a)島弧に直交

する鉛直断面,(b)3 次元表示.

図13 東西方向の歪速度分布と微小地震の分布(佐藤・他,2002).歪速度分布をカラースケールで,東北大学地震観測網で決定された

微小地震を赤丸で示す.

(a)

(b)

図14 東北日本における島弧地殻の変形と内陸地震の発生過程を示すモ

デル(Hasegawa et al., 2005).(a)島弧に直交する鉛直断面.(b)平面図.