Post on 04-Nov-2020
Quantum Depletion of a Homogeneous Bose-Einstein
Condensate均一なボース・アインシュタイン凝縮体の
量子ディプリーション
Raphael Lopes, Christoph Eigen, Nir Navon, David Clement,
Robert P. Smith, and Zoran Hadzibabic
Physical Review Letters 119, 190404 (2017)
平野研究室
15-041-006 池田 英彦 1
ボース・アインシュタイン凝縮
ある相転移温度以下で巨視的な数のボース粒子が、
一粒子の基底状態を占有する現象
冷却
2
E
三次元の均一な量子理想気体でのボースアインシュタイン凝縮
(熱統計力学3)
𝑻𝑻𝒄
𝒏𝑩𝑬𝑪/𝒏
𝟏
0
𝒏𝑩𝑬𝑪 𝑻
𝐧=𝟏 −
𝑻
𝑻𝒄
𝟑/𝟐 𝒏 ;全粒子数密度𝒏𝑩𝑬𝑪 ;基底状態の粒子数密度
𝑻𝒄 ;相転移温度
T=0では一粒子の基底状態を占める割合が1になる
3
粒子間の相互作用があるとT=0でも一粒子の基底状態を占める割合が1より小さくなる
本論文の背景と概要
→量子ディプリーション
ボゴリューボフが70年前(1947年)に量子ディプリーションを粒子間の相互作用で説明した。
均一な39Kのボース・アインシュタイン凝縮体
(BEC : Bose-Einstein condensation)を用いて
「量子ディプリーションのボゴリューボフの理論」
を実験的に検証した。
本論文の概要
量子ディプリーション
4
本論文では相互作用の大きさを変えて量子ディプリーションを観測する
相互作用が大きいとき4Heでは全体の10%未満しか一粒子の基底状態(ゼロ運動量状態)にいない
相互作用が小さいときボゴリューボフの理論
𝒏𝑩𝑬𝑪(𝟎)
𝒏= 𝟏 − 𝛄 𝐧𝒂𝟑
𝒂…散乱長;原子間相互作用を表す量
密度nが一様でなければ実験解釈が難しい
発表の流れ導入
・量子ディプリーションのボゴリューボフの理論
実験
・光トラップ
・フェッシュバッハ共鳴
・ブラックの回折
・実験の方法と結果
まとめ
5
導入
6
7
量子ディプリーションの理論
𝑼𝟎 =𝟒πℏ𝟐𝒂
𝒎…有効相互作用𝑯 =
𝒊
𝒑𝒊𝟐
𝟐𝒎+ 𝑼𝟎
𝒊
量子ディプリーションの理論
ξ𝒑 =𝒑𝟐
𝟐𝒎+ 𝒏𝑼𝟎𝒗𝒑
𝟐 =𝟏
𝟐
𝝃𝒑
𝝐𝒑− 𝟏
,,
𝝐𝒑 = (𝒑𝟐
𝟐𝒎+𝒏𝑈0 )
𝟐 −(𝒏𝑼𝟎)𝟐
𝑯 =𝑵𝟐𝑼𝟎
𝟐𝑽+
𝒑≠𝟎
𝝐𝒑α𝒑†α𝒑 −
𝟏
𝟐
𝒑≠𝟎
(𝒑𝟐
𝟐𝒎+ 𝒏𝑼𝟎 − 𝝐𝒑)
…(7)
ボゴリューボフ変換 𝒂𝒑 = 𝒖𝒑𝜶𝒑 − 𝒗𝒑𝜶−𝒑†
𝒂−𝒑 = 𝒖𝒑𝜶−𝒑 − 𝒗𝒑𝜶𝒑† …(5)
…(6)
,
𝒏𝑩𝑬𝑪; ゼロ運動量状態の粒子数密度,𝒏 ;全粒子数密度, 𝒂;散乱長
𝒏𝑩𝑬𝑪𝒏
= 𝟏 − 𝜸 𝒏𝒂𝟑
量子ディプリーションの式
𝒏𝒂𝟑 ≪ 𝟏の時に成り立つ
𝒏𝒅𝒆𝒑𝒍𝒆𝒕𝒊𝒐𝒏 =𝟏
𝑽
𝒑≠𝟎
𝒂𝒑†𝒂𝒑 …(8)
8
𝒏𝒅𝒆𝒑𝒍𝒆𝒕𝒊𝒐𝒏
𝒏=
𝟏
𝒏𝑽
𝒑≠𝟎
𝒗𝒑𝟐 =
𝟖
𝟑 𝝅𝒏𝒂𝟑 = γ 𝒏𝒂𝟑 …(9) 𝛄 =
𝟖
𝟑 𝛑≃ 𝟏. 𝟓
𝒖𝒑𝟐 =
𝟏
𝟐
𝝃𝒑
𝝐𝒑+ 𝟏
実験
9
実験の流れ
•一様BECを準備
•散乱長aを設定
•ゼロ運動量状態の割合を測定ブラック回折の利用
10
𝒂を変えて測定を繰り返す
𝒏𝑩𝑬𝑪𝒏
= 𝟏 − 𝛄 𝒏𝒂𝟑 を検証
𝒂 𝑩
B
光トラップ
11
光と原子の相互作用を用いてレーザー光でBECを捕獲できる
U ;原子が感じるポテンシャル
ω ;レーザー光の周波数ω𝟎 ;原子の共鳴周波数𝑰(𝒓);レーザー光の強度
δ = ω − ω𝟎;離調
引力ポテンシャルδ
光トラップ
12
レーザー光の強度の高いところに原子が集中
引力ポテンシャルでは、
密度が均一でないBEC
レーザー光源
レンズ
引力ポテンシャルδ
円筒型の光トラップ
13
1.他のトラップでBECを作る2.リング状のビームの中でBEC を囲う
3.縦長の2つのビームで閉じ込める
A.L. Gaunt, T.F. Schmidutz, I. Gotlibovych, R.P. Smith, and Z. Hadzibabic, Phys. Rev. Lett. 110, 200406 (2013).
BEC
2
3
3
斥力ポテンシャルで工夫して閉じ込めると均一なBECを作ることができる
密度が均一なBECを作るために円筒型のトラップを作る
フェッシュバッハ共鳴
𝒂 𝑩 = 𝒂𝒃𝒈 𝟏 −∆
𝑩 − 𝑩𝟎
散乱長と磁場の関係
∆
𝒂 𝑩
0
𝒂𝒃𝒈B𝑩𝟎
𝒂𝒃𝒈;磁場0の時の散乱長
Δ ;共鳴幅𝑩𝟎;共鳴磁場
14
レーザー光
光子の吸収
15
原子にレーザー光をあてると光子が吸収され励起する
n-1個
電子
n個
原子
光子の運動量ℏkを得る
光子を一つ吸収
その結果
𝒑 =ℏk𝒑 =ℏk
レーザー光
誘導放出
16
レーザー光を原子にあて基底状態へ遷移させる
n個
電子
n+1個
原子
運動量保存則より逆向きの運動量を得る
光子を一つ放出
その結果
𝒑 = −ℏk𝒑 =ℏk
離調
ℏδ
𝐏𝐫𝐞𝐜𝐨𝐢𝐥=2ℏk
P
|g>
|e>
𝑬 =𝐏𝟐
𝟐𝑴
E
ブラック回折
17
左右から、異なる周波数のレーザー光(ブラックパルス)を当てる
𝑷𝒓𝒆𝒄𝒐𝒊𝒍;反跳による運動量δ ;2つのレーザーの周波数差
|e> ; 励起状態|g> ; 基底状態
のエネルギー準位
ω-δω基底状態の原子
光子の吸収と誘導放出の2光子過程により、原子は合計で𝐏𝐫𝐞𝐜𝐨𝐢𝐥=2ℏkを得る
ℏδ
𝐏𝐫𝐞𝐜𝐨𝐢𝐥P
𝑬 =𝒑𝟐
𝟐𝑴
E
𝒑
ブラック回折
18
δ ;2つのレーザーの周波数差
𝐏𝐫𝐞𝐜𝐨𝐢𝐥𝟐
𝟐𝐌= ℏ𝝎− ℏ 𝝎− 𝜹 = ℏ𝜹
適切にδを設定することで、ゼロ運動量状態のみを回折できる
運動量𝒑をもともと持つ場合、エネルギー保存則を満たすことが出来ない
(𝑷𝒓𝒆𝒄𝒐𝒊𝒍+𝒑)𝟐
𝟐𝑴−𝒑𝟐
𝟐𝑴=𝑷𝒓𝒆𝒄𝒐𝒊𝒍𝟐 + 𝟐𝑷𝒓𝒆𝒄𝒐𝒊𝒍𝒑
𝟐𝑴
運動量𝒑をもともと持つ場合
初期運動量がゼロの原子についてエネルギー保存を満たすために
2光子過程が初期の運動量がゼロの原子のみに起こる
ℏδ
𝐏𝐫𝐞𝐜𝐨𝐢𝐥P
Eブラック回折
19
ℏδ
𝐏𝐫𝐞𝐜𝐨𝐢𝐥P
E
t0
1
運動量𝐏𝐫𝐞𝐜𝐨𝐢𝐥を持つ確率
逆向きの変化
ゼロ運動量状態と運動量𝐏𝐫𝐞𝐜𝐨𝐢𝐥状態(運動量2ℏk状態)を行き来する
実験手順:ブラック回折
20
円筒型光トラップでBECを閉じ込める赤球;ゼロ運動量以外の原子(イメージ)
トラップから解放して自由落下
21
解放して自由落下
円筒型光トラップでBECを閉じ込める赤球;ゼロ運動量以外の原子(イメージ)
実験手順:ブラック回折
トラップから解放して自由落下
22
ブラック回折
解放して自由落下
BECにブラックパルスを当てる
当てた時間に応じてゼロ運動量状態の原子がブラック回折される
円筒型光トラップでBECを閉じ込める赤球;ゼロ運動量以外の原子(イメージ)
Z
実験手順:ブラック回折
吸収イメージング法でDF
トラップから解放して自由落下
23
ブラック回折
解放して自由落下
BECにブラックパルスを当てる
当てた時間に応じてゼロ運動量状態の原子がブラック回折される
Z
10ms
10ms後、吸収イメージング法で➀と②の原子数を測定
➀ ②➀回折された原子②回折されなかった原子
初期運動量ゼロで回折されない原子+初期運動量ゼロ以外の原子(赤球)
円筒型光トラップでBECを閉じ込める赤球;ゼロ運動量以外の原子(イメージ)
実験手順:ブラック回折
吸収イメージング法でDF
トラップから解放して自由落下
24
ブラック回折
解放して自由落下
BECにブラックパルスを当てる
当てた時間に応じてゼロ運動量状態の原子がブラック回折される
Z
10ms
10ms後、吸収イメージング法で➀と②の原子数を測定
➀ ②
円筒型光トラップでBECを閉じ込める赤球;ゼロ運動量以外の原子(イメージ)
ブラックパルス照射時間を変えてこれらの作業を繰り返す
実験手順:ブラック回折
吸収イメージング法でDF
トラップから解放して自由落下
25
ブラック回折
解放して自由落下
BECにブラックパルスを当てる
当てた時間に応じてゼロ運動量状態の原子がブラック回折される
Z
10ms
10ms後、吸収イメージング法で➀と②の原子数を測定
➀ ②➀回折された原子初期運動量ゼロの原子
②回折されなかった原子初期運動量ゼロ以外の原子(赤球)
円筒型光トラップでBECを閉じ込める赤球;ゼロ運動量以外の原子(イメージ)
実験手順:ブラック回折
結果
26
ブラック回折の割合
27
𝒂 ≈ 𝟑𝟎𝟎𝟎𝒂𝟎の場合について (𝒂𝟎;ボーア半径)
τ ;ブラックパルス照射時間
回折率
ブラックパルス照射時間に依存して増減を繰り返す
後ろの図;円筒型のBECを撮影した図
運動量2ℏkに回折された原子
➀
②
ブラック回折の割合
28
𝒂 ≈ 𝟑𝟎𝟎𝟎𝒂𝟎の場合について (𝒂𝟎;ボーア半径)
τ ;ブラックパルス照射時間
回折率
ブラックパルス照射時間に依存して増減を繰り返す
後ろの図;円筒型のBECを撮影した図
運動量2ℏkに回折された原子
➀
②
ブラック回折の割合
29
𝒂 ≈ 𝟑𝟎𝟎𝟎𝒂𝟎の場合について (𝒂𝟎;ボーア半径)
τ ;ブラックパルス照射時間
回折率
②)
運動量2ℏkに回折された原子
➀
②
それぞれの画像に対応する時刻における回折率
赤いダイヤ…
DF=➀
➀+②
回折率DFを定義
前のグラフ;DFとτの関係のグラフ
ブラック回折の割合
30
𝒂 ≈ 𝟑𝟎𝟎𝟎𝒂𝟎の場合について (𝒂𝟎;ボーア半径)
前のグラフ;DFとτの関係のグラフ
DF;回折している粒子の割合
τ ;ブラックパルス照射時間
最大の回折率(0.3ms付近)のときでもDF<1
量子ディプリーションが起きている
散乱長𝒂とDFの関係
31
DF
τ
・𝒂が大きくなるとDFは小さくなる→相互作用によってゼロ運動量状態が減少
・ と がほぼ同じ値→散乱長を変える操作は可逆的
(𝒂𝟎=𝟎. 𝟓𝟐𝟗Å;ボーア半径)
𝒏𝑩𝑬𝑪𝒏
= 𝟏 − 𝛄 𝐧𝒂𝟑
量子ディプリーションの測定
32
さらにたくさんの𝒂で測定し、ηと散乱長𝒂の関係を調べるη;DFの最大値 (τ=0.28msの時)
ηが 𝐧𝒂𝟑に対して線形に減少
結果
量子ディプリーションの測定
33
右上の四角…シュミレーション点線…T=0の時橙色…3.5~5nKの時
ボゴリューボフの量子ディプリーション
の式のγ=𝟖
𝟑 π≃1.5と一致した(
𝒏𝑩𝑬𝑪
𝒏= 𝟏 − 𝛄 𝐧𝒂𝟑)
𝜸=1.5(2)が得られた
𝛈 𝟎 = 𝟎. 𝟗𝟓𝟒 𝟓 < 𝟏
𝛈=𝛈(𝟎)(𝟏 − 𝛄 𝐧𝐚𝟑)
𝜸=1.5(2)
η 𝟎 =1でない原因・T=0でない・トラップが有限サイズ・ブラックパルスの運動量の選択幅
まとめ
円筒型の光トラップで均一な39KのBECを実現
•ブラック回折でゼロ運動量状態の割合を精密に測定した。
•フェッシュバッハ共鳴を用いて𝒂を変えてゼロ運動量状態の割合を体系的に調べた。
34
𝒏𝑩𝑬𝑪𝒏
= 𝟏 − 𝛄 𝐧𝒂𝟑
実験により、ボゴリューボフの量子ディプリーションの理論式を確認。
(𝛄 ≃ 𝟏. 𝟓)