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[P3.1.5] 水利用層状噴射による

スモークレスディーゼルエンジンの研究開発

(層状噴射グループ)

幸浦第 501研究室 ○中野良治、茂田しげの、野津健、長面川昇司、岡本英男、

大津秀伸

長崎第 502研究室 高石龍夫、大村忠雄、長船信之介、岩永健一、村上晋亮

袖ヶ浦第 507研究室 鈴木和彦、高橋剛、内川啓

1.研究開発の目的

石油産業はガソリンの需要増加や重質燃料の需要低下に備えて、流動接触分解装置等

の重質燃料分解技術の高度化を図っている。そのために重質燃料中の分解系留分割合が

増加して、重質燃料の品質に影響を及ぼす結果となっている。この傾向は今後ますます

進むと思われる。

一方、ディーゼルエンジンは化石燃料を燃焼させて動力を得る他の熱機関と比べ高熱

効率であるため、単位出力あたりの CO2排出量が少なく、地球温暖化防止にとっても有

利であることは明らかである。また、軽質油から重質燃料まで幅広く使用できるという

特徴を有するため、物流や生産活動に大きく貢献してきた。

したがって、重質燃料の利用が可能な中・低速ディーゼルエンジンは高熱効率による

CO2排出量低減効果を維持しながら、燃料の重質化と年々強化されている排ガス規制と

いう相反する課題に取り組む必要がある。

本研究では、石油産業高度化技術(第4期研究開発事業:平成 11年度~平成 14年度)

において実施したA重油・重質燃料・水の3種流体層状噴射システムによる燃焼改善技

術成果を基に、A重油を用いることなく同等以上の効果を得るため水利用層状噴射の技

術開発を行う。また、将来的に重質燃料の主体となると予測される低セタン価で難燃性

の分解系重油基材(以降、将来重質油と称す)の熱効率向上、排ガス低減のため、燃焼

特性把握および燃焼改善方法の研究を実施し、その成果を反映させる。

表1-1に掲げた目標を達成するため、重質燃料対応噴射系、燃焼系の基礎技術を確

立する。

表1-1 研究開発の最終目標

セタン

NOx g/kWh

(13%O2:ppm)

ばいじん g/kWh

(g/Nm3)

熱効率

研究開始時の性能 40 △ 6.6

(550)以下

0.5

(0.1)以下 48以上

重質燃料目標 40 △ 3.6

(300)以下

0.05

(0.01)以下 48以上

将来重質油 H17目標 25 × 11.3

(950)以下

0.5

(0.1)以下 41以上

将来重質油 H18目標 25 × 3.6

(300)以下

0.05

(0.01)以下 46以上

水 燃料

2.研究開発の内容

2.1 重質燃料燃焼の問題点

重質燃料は着火性が悪く、この低着火性は着火遅れを長くし結果として予混合燃焼の

ピークが立ち、NOx生成量が増加する。また、この低着火性と低蒸発性は、燃焼期間を

延ばし、後期燃焼が緩慢になりばいじんが増加する。さらに、低着火性は機関性能その

ものにも悪影響をおよぼし、燃焼効率の低下、等容度の低下により熱効率を低下させる。

そこで、熱効率の低下無しに NOxおよびばいじんを低減するための手段として次節に

示す電子制御式高圧燃料噴射システムと水利用層状噴射システムを検討する。

2.2 第5期研究開発事業全体の実施内容(図2-1)

2.2.1 ばいじん低減技術

燃焼後期に噴射された燃料は、すでに噴射されて燃焼している燃料噴霧に取り込まれ

るために、周囲からの空気供給が困難になりやすく、ばいじんが酸素不足により発生し

やすくなる。さらに重質燃料ではこの傾向が顕著になる。これを改善するには、燃料噴

霧と空気の混合を十分に確保して燃焼を促進する必要があり、次の手段が有効である。

(1)噴射の切れ改善による噴射後期の混合エネルギー確保:燃料噴射後期の噴射速

度を高く保つことで、燃料自身が持つ混合エネルギーを確保する。エンジン起動

直後から定格負荷まで、全運転域でスモークレス化するため、蓄圧式の噴射系と

する。

(2)水利用層状噴射による混合エネルギーの供給:燃料噴射後期に水噴射を燃料噴

霧にぶつけることで混合エネルギーを積極的に供給する。

2.2.2 NOx低減技術

(1)水利用層状噴射による燃料噴霧の熱容量制御:水噴霧を燃料噴霧に衝突させる

ことで、燃料噴霧の熱容量を増大させて断熱燃焼温度を低下させ、火炎温度を下

げる。

(2)多段噴射による着火遅れの改善:将来重質油は着火遅れが大きく NOxの増大が

見込まれるため、多段噴射での着火遅れを改善し NOxの低減を図る。

図2-1 第5期研究システムの概要

水利用層状噴射システム

電子制御式 高圧燃料噴射システム

時間

噴射率 重質燃料

水 水

初期水噴射;燃料噴霧に

空気とともに水蒸気を

導入することで火炎温

度を低下させ、NOxを

低減させる。

後期水噴射;燃料噴霧を

押し出すことで空気との

混合を改善し、ばいじん

を低下させる。 噴射の切れ改善→ばいじん低減

重質燃料 水

燃料

将来 重質油

時間

噴射率

3.研究開発の結果 3.1 水利用層状噴射技術の開発

平成16年度までに、3次元噴霧流動解析により中央水噴射が有効であること、九大

高崎研究室にて実施した光学観察によって、水噴射による燃料と空気の混合促進効果の

確認、3次元噴霧流動解析による噴射方向の適正化(噴射弁の仕様の決定)、水・燃料噴

射弁の製作を実施した。

17年度は、16年度の不具合点をフィードバックし、水・燃料噴射弁の高度化を検

討した。また、製作した水・燃料噴射弁の単体(台上)試験により機能確認を実施した。

3.1.1 水・燃料噴射弁の高度化

平成16年度に製作した水・燃料噴射弁の不具合点をフィードバックし、試験部品の

設計変更・製作を実施した。噴射弁直上にあった水噴射用パイロット弁を噴射弁から切

り離す(シリンダカバーを被うボンネットの外に配置する)ことでパイロット弁の信頼

性を向上させるとともにコンパクト化を実現した(図3-1)。水・燃料噴射弁本体外径

を通常燃料噴射弁のそれと同一としたため、装着対象であるシリンダカバーには改造な

しで取り付け可能である。これは、実機搭載を考えると大きなメリットであり、現在市

場投入されている旧機種へも装着(レトロフィット)が可能であり、本研究成果の適用

範囲が広がることが期待できる。また、燃料噴射弁の閉弁力としてバネを採用すること

(通常燃料弁と同様)で、万が一、作動油がコントロール出来ない場合でも燃料噴射系

の機能が損なわれないような工夫を施した。

図3-1 水・燃料噴射弁の製作

シリンダ カバー下面

シリンダ カバー上面

水パイロット弁部分を シリンダカバー外部へ

通常燃料弁 H16年度製作 水・燃料噴射弁

H17年度製作 水・燃料噴射弁

φD1 φD1 φD3

φD2 φD2 φD4

3.1.2 単体試験

エンジン試験に先行し、水・燃料噴射弁の機能確認試験を実施した。単体試験装置は

実機(試験機)の構成を模擬し、カム軸をモーターにより駆動する装置とした。まず、

モーターと同軸上にカムを設け、そのカムにより高圧ポンプを作動させ 160MPaの噴射圧

力をレール上に蓄圧する。制御ユニットは噴射時期、噴射量を制御するために主弁、パ

イロット弁および電磁弁で構成されており、電磁弁を開閉しパイロット弁を動作させる

ことで作動油を制御し、作動油が主弁を動かすことで燃料噴射を制御する。燃料は噴射

管を介し燃料噴射弁へ供給され、自動弁となっている燃料噴射弁は規定の噴射圧力以上

になると自動的に噴射する。

水噴射制御も燃料と同様に作動油を介する方式とした。パイロット弁には常に作動油

圧力が作用し、水の流れを止めている。所望のタイミングで電磁弁に通電すると電磁弁

部分より作動油が流出し作動油圧力が低下し、作動油圧力より水供給圧力が高くなると

パイロット弁が開き、水噴射が行われる。単体試験装置の系統図を図3-2に示す。

まず、機能確認試験を実施した。電磁弁の開閉が 160msec間隔で安定していること、

電磁弁の開閉に伴い水が正常に噴射できること、水供給圧力、水噴射パイロット弁用作

動油圧力が毎サイクル安定していること、初期水噴射・後期水噴射の分割噴射が可能で

あること、初期水噴射・後期水噴射の割合を変更できることを確認した(図3-3)。

機能確認試験に引き続き、水噴射計量試験を実施した。水噴射電磁弁の通電期間の増

加に対し水噴射量が比例して増加し、水を正確かつ安定して噴射できることを確認した。

平成18年度は引き続き単体試験機での機能確認試験・耐久試験を実施し、水噴射系

の信頼性を検証する。また、これら水噴射系をエンジンに搭載し性能改善試験・信頼性

試験を実施する。

図3-2 単体試験装置系統図

作動油系 水供給系 水高圧系 燃料供給系 燃料高圧系 燃料廃油系

廃油タンク 噴射量 計量タンク

コントローラ

35MPa

160MPa

水・燃料噴射弁

燃料 制御ユニット

水 制御ユニット

水 タンク

燃料 タンク

作動油ポンプ

高圧ポンプ

カム軸箱

フライホイール

モーター

燃料供給ポンプ

燃料供給 ボリューム

高圧 ダンパ

ドレン キ ャ ッ チ ャ

図3-3 水・燃料噴射弁の単体試験結果

3.2 将来重質油燃焼技術の開発

表3-1に示すとおり、将来重質油はA重油に比べてセタン指数が30以下と低い為

に着火遅れ時間が長い特徴がある。そこで、A重油と将来重質油の燃料油性状を把握す

ると共に、定容式燃焼装置を用いて燃焼場の温度、圧力と着火遅れ時間の相関性を把握

し、更に小型単気筒エンジンを用いて着火遅れやパイロット噴射効果を確認した。また、

可視化エンジンにて燃焼特性を把握した後に多気筒エンジンでの試験条件を決定し、燃

焼試験を実施した。

表3-1 燃料油性状表

試料名物性 A重油

将来重質油①

将来重質油②

将来重質油③

密度 @15℃ g/cm3 0.867 0.934 0.925 0.930

硫黄分 質量% 0.53 0.18 0.26 0.27

動粘度 @50℃ mm2/s 2.35 2.45 2.71 2.37

引火点 ℃ 71 81 87 85

蒸留(10容量%点) ℃ 228 233 234 230

蒸留(50容量%点) ℃ 281 278 284 275

蒸留(90容量%点) ℃ 330 346 357 345

セタン指数(JISK2204) 46 23 27 28

真発熱量(計算) cal/cc 8780 9290 9220 9260 注)A重油と将来重質油①は定容燃焼器、単気筒エンジン用燃料油として、将来重質油②と

③は多気筒エンジン試験用燃料油とした。

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

400 405 410 415 420

時間 [msec]

電磁

弁信

号 

[-]

燃料電磁弁信号

水電磁弁信号

初期水噴射

後期水噴射

3.2.1 定容燃焼器による燃焼特性試験

定容燃焼容器の断面を図3-4に示す。本装置は高温・高圧雰囲気下で噴霧火炎の伝

播過程を壁面衝突なしに観察するため、十分な内部容積(約 7,200 cc、内径 φ150 mm

×高さ 320 mm)を確保し、内壁面に電気炉用ヒーターを露出させた構造となってい

る。設定可能な筒内空気温度は最高 1,000 K、設定筒内圧力は可視化用石英窓装着時

で最大 2.5 MPa、非装着時で最大 10.0 MPaである。着火遅れ評価期間はフォトダイ

オード(浜松ホトニクス製、S1226)の火炎発光検出時期を基本とし、精度は低くな

るが筒内圧の立ち上がり時期や可能であれば石英窓からの火炎観察時期も併用した。

発光検出はフォトダイオードの逆電圧漏洩電流を電流‐電圧変換(0.1 μA →1V程度)する形式とし、容器長軸に沿ってほぼ等間隔にダイオードを 9点設置して火炎の

伸縮も検出できるよう考慮した。

図3-4 定容燃焼器断面図 図3-5に将来重質油、A重油の着火遅れに対する雰囲気温度と圧力の影響を示す。

着火遅れ時間は将来重質油>A重油の順で長く、各々のセタン指数(JIS K 2204-1992)

が 23、46 と大きくなる順序とも一致する。また、着火遅れ時間は、温度や圧力の上昇

と共に短縮する傾向にある。

図3-5 将来重質油と A重油の着火遅れと雰囲気温度の関係

1 1.1 1.2 1.3 1.4

-1

着火遅れ

  

ms

2.5 MPa4.5 MPa5.5 MPa

1

(636℃) (560℃) (496℃)

MDO

(441℃)

τ

2

4

6

8

10

(727℃)

14A重油

1 1.1 1.2 1.3 1.4

-1

着火遅れ

  

ms

2.5 MPa3.5 MPa4.5 MPa5.0 MPa5.5 MPa

1

(636℃) (560℃) (496℃)

分解軽油

(441℃)

τ

2

4

6

8

10

(727℃)

14将来重質油

雰囲気温度 1000/T K-1 雰囲気温度 1000/T K-1

38

322

260150 50

3038

60

6238

3838

38

ΦΦ

Constant volumecombustion chamberCylindrical heater unit

Slits foroptical path

Photodiodesalong

chamber axis

Photodiode on top

0

0

5

10

15

20

-40 -30 -20 -10 0

燃料油噴射角度, degATDC

着火

遅れ

時間

, deg

将来重質油

A重油

3.2.2 単気筒エンジン試験

供試エンジンはコモンレール方式の単気筒エンジン(AVL製)である。主なエンジンシ

リンダーはボア 105mm、ストローク 115mmで、自然吸気(NA)仕様である。

A重油と将来重質油の着火遅れ時間を単気筒エンジンで評価した。エンジン回転数

1,300rpm、燃料噴射圧 60MPaの条件での着火遅れ時間を図3-6に示す。燃料油噴射時

の筒内温度圧力により着火遅れ時間は変化するが、将来重質油はA重油に比較して概ね

0.3 msec、クランク角に直して 2.5 degの遅れが認められる。

将来重質油はA重油よりも着火遅れ時間が長い為に、燃料油の予混合化により筒内圧

変動の増大や、急激な熱発生率の増加が考えられる。そこで、全燃料油噴射量を 12 ml/min、

回転数 1,300rpm、燃料油噴射圧 60 MPaの条件で、Main噴射のみの一段と Pilot/Main噴

射の二段燃料油噴射を行った。熱発生率の比較を図3-7に示す。二段噴射の場合には

一段噴射の場合よりも緩慢な燃焼であり、最大圧力上昇率の変動幅も狭いことが分かる。

この様に、将来重質油の安定運転には、Pilot/Main噴射の二段噴射が有効な手段の一つ

と考えられる。

図3-6 着火遅れ時間の比較

図3-7 一段と二段噴射での熱発生率の比較

-50

0

50

100

150

200

-25 0 25 50

クランク角、degATDC

熱発

生率

、kJ

/m3 .d

eg

一段噴射

二段噴射

3.2.3 可視化エンジン試験

供試単筒ディーゼル機関(NDT1935)はボア×ストロークがφ190 mm 350 mm の単流

掃気型 2ストロークサイクル過給機関で、圧縮比は 12、実験時の機関回転数は 400rpm

である。伸長ピストン上部に設けたアクリル製ないし石英製の光学窓から燃焼室内を可

視化するボトムアップ形式の光学系を有している。可視化範囲は直径でφ148 mm、半径

比で約 0.78R以内の領域となっている。 噴射時期はA重油で最良の図示熱効率が得られる時期(クランク角で上死点前4度)

に設定し、主噴射量を全体の 95 %、パイロット噴射を 5%に設定してその噴射時期を変

更した場合の実験結果を写真3-1に示す。

パイロット噴射時期をクランク角で上死点前 35度とした場合、混合気が十分拡散する

前に自己着火条件に達するため、上死点前 16度付近の過早時期に極大値となる予混合的

燃焼を発生する。一方、パイロット噴射時期をクランク角で上死点前 90度とした場合、

混合気が適度に拡散して部分的に予混合圧縮着火が発生して、緩やかな圧力上昇から主

燃焼に至る理想的な状態が実現される。

将来重質油ではパイロット噴射により、熱効率を犠牲にせずエミッションを低減でき

る可能性があること、また、その噴射条件は従来の燃料とは大きく異なっていることが

わかった。

写真3-1 パイロット噴射による燃焼改善

Crank angle deg.CA ATDC

-7°

-2°

通常噴射 -35°ATDC パイロット

-90°ATDC パイロット

-7°

-2°

3.2.4 多気筒エンジン試験

供試機関である6KU30T機関の主要諸元を表3-2に、外観を写真3-2に示す。

表3-2 エンジン諸元

試験機 実用機

シリンダ数 - 6 12 14 16 18

ボア mm 300 300

ストローク mm 420 420

機関回転数 1/s(rpm) 12.5(750) 12.5(750)

平均有効圧力 MPa(kgf/cm2) 2.5(25.5) 2.5(25.5)

平均ピストン速度 m/s 10.5 10.5

シリンダあたり出力 kW/cyl 464 464

出力 kW 2780 5570 6500 7420 8350

写真3-2 多気筒エンジン外観 将来重質油のみでの始動試験を実施し、A重油のみの始動試験結果と比較した(図3

-8)。将来重質油のみでは完全にディーゼルノックしているものと思われる異常音を発

しながら、アイドル回転数(400rpm)整定に至った。筒内最高圧力(Pmax)が 25MPaに

達しており、始動時から 100%負荷と同等の筒内最高圧力での運転は、爆発度が大きい事

などからも信頼性の確保が難しいことが容易に予測される。

30%負荷においてパイロット噴射試験を実施した(図3-9)。将来重質油の通常噴射

で燃焼が急峻となるが、あるタイミングでパイロット噴射をした場合に燃焼が緩慢にな

ることがわかった。来年度は 30%負荷のみならず低負荷全般における適正化を実施し、

燃焼特性の改善を行う必要がある。

50%負荷においてA重油から将来重質油への燃料切り替え試験を実施した(図3-1

0)。通常の A/C切り替えと同様にエンジン側の条件は一定にして、燃料のみの入替を実

施した。噴射開始から受熱開始までの期間を着火遅れと定義すると、この着火遅れ期間

はA重油で 4.4deg、A/将来重質油で 4.6deg、将来重質油のみで 5.0degと延びる。また、

これに伴い燃焼初期の受熱率も高くなっている。将来重質油のみでの適正化も重要であ

るが、混合割合を変えての試験も重要であり、今後の試験にも考慮する必要があると考

えられる。

100%負荷において噴射時期を変更し、性能試験を実施した(図3-11)。将来重質油

では NOx=950ppm一定の場合、A重油と比べ熱効率が低下する。これは等容度と燃焼効率

が悪化するためである。

写真3-3にA重油、将来重質油それぞれ運転した直後に解放点検した時のピストン

燃焼面を示す。白っぽく見える跡は、燃焼時に付いたものであり噴口数と同じ 13本がピ

ストン中央から外周へ向かって延びているのがわかる。この燃焼痕の先端を平均すると、

A重油では中心から 88mm、将来重質油では 95mmと将来重質油では着火遅れが大きく燃

焼室外側で燃えている可能性があることがわかる。これがシリンダライナ面からの冷却

損失の増大、燃焼効率の悪化の原因とも考えられ、今後調査が必要である。

30%負荷においてパイロット噴射を行うことで燃え方が緩慢になる事を確認できた。ま

た、袖ヶ浦研究室の単筒機試験、九州大学の可視化試験においてもパイロット噴射が初

期燃焼を緩慢にするのに有効であることが確認できた。そこで、100%負荷での燃焼改善

のためパイロット噴射試験を実施した。パイロット試験の圧力波形を図3-12に示す。

パイロット噴射量はごく僅かで、パイロット噴射による燃焼は無いことがわかる。

パイロット噴射開始後、15分程度でスカッフィングが発生した。焼き付き以外の部分

が茶褐色に変色しており、ライナラッカリングが発生していることがわかった。これは、

燃焼できなかったパイロット噴射がライナまで到達しライナラッカリングを発生させた

ものと推測される。もともと、100%負荷は高 Pme・高 Pmaxで潤滑条件が厳しいことに加

え、ライナラッカリングにより潤滑性能が低下した事からスカッフィングに至ったと思

われ、今後これら原因を究明する必要がある。

始動後、回転数を 750rpm、噴射タイミングを実機相当の-14degATDCに固定し、無負荷

から 100%定格運転までの筒内圧力波形を計測した。着火遅れを示す指標として爆発度

(dP/dθ)を算出した。これは、圧力上昇(燃焼)開始点から最高圧力点までの傾きを

表すもので、着火遅れが大きいと混合気形成量が増え、着火直後の燃焼量が増えるため

に結果としてこの爆発度の値が大きくなる。

解析結果を図3-13に示す。先に行った始動性試験と同様に、回転数 750rpmの状況

下でも 40%より低い負荷の場合には、将来重質油は高い爆発度を示し信頼性の確保が難

しいことがわかる。逆に、40%負荷以上ではA重油の爆発度と差は無いことから、通常運

転が可能であることがわかる。今後、爆発度が大きい低負荷でこれを回避できるような

運転条件を探し出す必要がある。

図3-9 パイロット噴射試験

0

5

10

15

筒内

圧力

[MP

a]

020406080

100120140

燃料

噴射

圧力

[M

Pa]

パイロット無

パイロットタイミング45deg

パイロットタイミング25deg

パイロットタイミング 8deg

-10123456789

-70 -60 -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40

受熱

率[k

J/d

eg]

パイロット噴射

パイロット噴射に より燃え方が変化

30%負荷試験

ク ラ ン ク 角 度

図3-8 将来重質油始動性試験

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

時間 [sec]

機関

回転

数 

[rpm

]

LCO

A重油

0

5

10

15

20

25

30

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

時間 [sec]

筒内

圧力

ピー

ク値

 [M

Pa]

LCO

A重油

将来重質油

将来重質油

A重油

A重油

020406080

100120140160

燃料

噴射

圧力

[M

Pa]

A

A/LCO

LCO

-1

0

1

2

3

4

5

6

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40

受熱

率[k

J/de

g]

02468

1012141618

筒内

圧力

[MP

a]

Δt

0

5

10

15

20

25

筒内

圧力

[MP

a]

020406080

100120140160180

燃料

噴射

圧力

[M

Pa] A重油

低セタン燃料

低セタン燃料 パイロット有

-10

12

34567

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40

受熱

率 [

kJ/de

g]

020406080

100120140160

燃料

噴射

圧力

[M

Pa]

A:25MPa

LCO:25MPa

LCO:24MPa

LCO:23.5MPa

-1

0

1

2

3

4

5

6

7

8

-30 -20 -10 0 10 20 30 40

受熱

率[k

J/de

g]

6

10

14

18

22

26

筒内

圧力

[MP

a]図3-10 将来重質油始動性試験 図3-11 将来重質油性能試験

図3-12 100%負荷パイロット試験

ク ラ ン ク 角 度

ク ラ ン ク 角 度

ク ラ ン ク 角 度

50%負荷試験

100%負荷試験

パイロット噴射 による燃焼は無し

主燃焼の上昇 は変化なし

95mm

ピストン断面

噴射方向

ピストン断面

噴射方向

88mm

写真3-3 燃焼痕の観察 A重油運転後 将来重質油運転後

図3-13 将来重質油の負荷特性

Δθ

ΔP

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

1.8

0 25 50 75 100

負荷 [%]

dP

/dθ

 [M

Pa/deg

]

LCO

A重油

40%負荷以上では

両燃料間の差はない。

将来重質油

A重油

爆発度(dP/dθ)の定義

4.まとめ 4.1 17年度のまとめ

燃料と独立した噴射弁から水噴射を行う水利用層状噴射による燃焼制御高度化および、

将来重質油の燃焼改善に関する研究を行い、下記の成果を得た。

<水利用層状噴射技術の開発>

(1) 従来燃料噴射弁と同径のコンパクトな水・燃料噴射弁の設計が完了し、試作部品の製作を実施した。

(2) 水・燃料噴射弁の台上試験を実施し、噴射特性を調査した。

<将来重質油燃焼技術の開発>

(3) 定容式燃焼器と単筒機の燃焼試験により、着火遅れ短縮のためには燃焼場の温度・圧力が高いこと、また多段噴射が安定性からも良い事が確認できた。

(4) 可視化エンジン試験より、パイロット噴射を用いることで熱効率を犠牲にせず排ガス低減できる可能性がわかった。

(5) 多気筒エンジン試験において問題点の抽出が出来た。特に、始動性の問題と低負荷での着火遅れの問題は今後改善が必要である。

(6) 100%負荷における将来重質油の性能はA重油と比較すると NOx同一で熱効率が悪化する。これは、等容度、燃焼効率が落ちているためである。

4.2 今後の課題

(1) 水・燃料噴射弁は来年度も引き続き単体試験を実施する。信頼性を十分に確認した上で、多気筒試験機の6シリンダのうち1シリンダに搭載し、噴射方向や噴射

タイミングが燃焼に与える影響について試験を行う。

(2) 水利用層状噴射は燃焼改善の大きなポテンシャルを持つものと考えるが、その効果を最大限に引き出すためには、燃料噴射との空間的、時間的相対関係を最適な

条件にすることが重要である。その最適化手段としての噴霧流動解析の利用を促

進する。また、多数のパラメータを変更する燃焼試験の効率的な推進を図る必要

がある。

(3) 水・燃料噴射を6シリンダへ展開し、信頼性の検証を実施する。 (4) 将来重質油は始動時から低負荷(40%負荷以下)での燃焼改善が必要である。各負

荷における噴射モードの適正化を図り試験を実施する。

(5) 将来重質油の 100%負荷における燃焼効率の悪化原因を解明するため、ライナ温度などの計測を実施する。これを元に熱効率向上のための適正化を図る。また、潤

滑性能試験を実施し、スカッフィングに関する影響を検討する。

(6) A重油+水噴射、将来重質油+水噴射により最終目的である NOx300ppm以下、ばいじん 0.01g/Nm3実現に向け燃料、水それぞれの噴射方法の適正化を図る。