Download - な 少子化と未婚率上昇の関連性€¦ · 大学政治経済学部教授。 2014年、明治大学付属 明治中高校長に就任。 あんぞう しんじ/Shinji ANZO,

Transcript

私が専門とする「人口学」が今、取り組むべき重大な問題は「少子化」です。女性が生涯に産むとされる子どもの平均数

(合計特殊出生率)が2.07を確保することができれば、人口を維持できる数値(人口置換水準)を保つとされますが、日本は1973年の2.14を境に低下しはじめ、2005年には過去最低の1.26まで低下しました。

少子化を考えるときには、単なる出生率(合計特殊出生率)の数値ではなく、「結婚している女性が産んだ子」と、結婚している女性人口(有配偶者女性)」の比率にも注目する必要があります。日本では非嫡出子は全出生の2%と少なく、「有配偶出生率」は出生率が低下しはじめたと言われる1970年以降にも、大きな減少はおきていません。それでも合計特殊出生率の数値が低下しているということは、結婚・未婚の問題に注目すべきということなのです。

例えば30歳から34歳の女性の未婚率を見ると、1980年には9.1%でしたが2010年には34.5%へ、同じく35歳から39歳では5.5%から23.1%へと激増しています。結婚した女性が子どもを産む傾向があると踏まえたら、少子化の一因に「未婚化」があると言えます。

少子化と未婚率上昇の関連性

まず、平均初婚年齢を見ると、1993年から2013年の20年間で、男性は28.4歳から30.9歳に、女性は26.1歳から29.3歳に上昇しています。30代前半の未婚率に注目すると、1990年から2010年までの20年間で、男性が32.6%から47.3%へ、女性は13.9%から34.5%へと、大きく上昇しています。

未婚に留まっている理由を調べると、「適当な相手にめぐりあわない」「結婚資金が足りない」などが多く見られます。そこで結婚後、ひと月の手取り収入がいくらあれば生活できると考えているのか、男女それぞれの興味深い調査があります。

2002年に品川区・少子化研究会が実施した調査によると、20歳以上の男性はすべての年齢層において30~40万円が必要と答えています。一方女性は、20歳代前半でさえ40~50万円、初婚年齢の平均に近い30歳代前半になると、60~70万円が必要と答えています。ここから未婚年齢の高齢化が進む原因も見えてきます。

2012年に国立社会保障・人口問題研究所が実施した「出生動向基本調査」において、結婚に求める条件で重視するものは何かを聞いています。そこで刮目すべきは「家事能力」で、男性から女性に対して

少子化問題を考えるとき

未婚化、晩婚化、晩産化は

見逃せない

S h i n j i A N Z O , P h . D .

安藏 伸治政治経済学部 教授明治大学付属 明治高等学校・明治中学校校長Ph. D. (社会学)

付属中高生を対象に結婚・出産に関する特別授業を行う

校長が語る本当に必要な少子化教育とは

女性が今、結婚する男性に求めるものは「家事能力」と「女性の仕事への理解」である

17inter v iew16

02Inte

rview

S h i n j i A N Z O , P h . D . 0 2

「家事能力」を重視するのは47.5%、逆に女性が男性に「家事能力」を重視すると答えた数は62.4%にものぼります。一方「仕事への理解」を見ると、重視すると答えた男性40.9%に対して、女性は48.9%です。ここに結婚した後の「仕事」に対する男

女の意識の違いがあります。先ほどの品川区のアンケートでは「配偶者と自分の収入を合わせた手取り」と尋ねているのですが、男性は自分の片働きで、女性は共働きでの収入を前提としているので、女性が希望する月収が、男性よりも多いのではないかと考えられます。つまり、「結婚しても仕事を続けたい」と

いう意識を持つ女性が、「出産・育児によってキャリアが中断されてしまう。自分が家庭に入れば年収も減る。だからまだ結婚できない」と感じていることが、未婚率の上昇につながると考えられるのです。

出生率のわずかな上昇、その真実とは

少子化と未婚率には関連性があると先に述べました。そこでなぜ初婚年齢を問題にするかと言えば、女性の出産可能年齢にはリミットがあるからです。

2014年の調査では、女性の平均初婚年齢は30歳です。結婚して第一子が生まれるまでの平均年数は2年なので、この調査をもとにすれば、第一子の平均出産年齢は32歳です。授乳している間には排卵が

おきず、次に妊娠して出産するまでは約9ヶ月と考えると、第二子が生まれるまでには平均3年かかります。すると30歳で結婚した女性が第二子を出産するのは35歳です。さらに女性が37歳を超えると、妊娠できる確率が極端に下がります。なぜなら、生まれたときから数が決まっている卵子は、37歳を越えると「老化」するからです。男性の場合、45歳を過ぎると精子が「劣化」するので、妊娠確率が低下し、また流産確率が上昇します。さらに、受胎した子どもの先天性異常や流産の確率が高くなります。つまり女性が30歳で結婚すると、第三子を出産できる確率が激減すると言えます。

1970年代、「少ない数の子どもを育てる」という意識の高まりとともに、避妊も普及し、いわゆる「二子規範」が世帯構成の

主流となりました。当時の出生率は2.13であり、それ以降、我が国の少子化問題は進展することになります。

2005年の合計特殊出生率は1.26、2015年の今は1.43まで上がっていますが、出生実数を見ると20~34歳の出生実数は下がっています。では何が数値を押し上げているかと言えば35~40歳の年齢層です。すなわち経済的、精神的な負担の大きい不妊治療などにより、努力して産んでいる結果でしかないのです。

「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ」を守るために

私が参加していた内閣府の少子化対策の有識者会議である「少子化危機突破タスクフォース」やその後の「新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会」では、「育児支援」「仕事と家庭の両立支援」、そして「結婚と妊娠・出産」の、3つの支援策をあげています。私が「妊娠・

出産検討サブチーム」のリーダーとしてまとめたのは、「妊娠・出産に関する知識の普及・教育」、「妊娠・出産に関する相談・支援体制の強化」、そして「産後ケアの強化」です。

中でも「妊娠・出産に関する知識」については、教育現場において真剣に取り組むべき問題と考えます。若い世代からキャリア・デザインを描き、結婚や出産、子育ての希望を実現するためには、妊娠適齢期や不妊、健康な体について医学的、科学的に正しい知識を得る必要があります。さらには企業においても、マタニティ・ハラスメントやパタニティ・ハラスメント(男性の育休取得を妨げること)などが起きないように、正しい知識の普及が必要です。

人間の平均寿命が延びても、出産可能な時期は変化していません。妊娠・出産する時期を失わずにその権利「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ」を守れるよう、今後の「少子化危機突破タスクフォース(第二期)」でも提言していきたいと思います。

P R O F I L E

安藏 伸治略歴

1978年 明治大学大学院博士前期課程修了。1985年 南カリフォルニア大学大学院博士課程修了。1995年より明治大学政治経済学部教授。2014年、明治大学付属明治中高校長に就任。

あんぞう しんじ/Shinji ANZO, Ph. D.

所属 政治経済学部 教授

Contact [email protected]

研究分野 人口学(結婚と離婚に関する要因分析と少子化問題)応用人口学(ビジネス・デモグラフィー)

著書・論文メディア出演等

『ミクロデータの計量人口学』(原書房・共編著)『人口減少時代の社会保障』(原書房・共編著) 『日本人の意識と行動』(東京大学出版会・共著)日本人口学会理事・前会長。2013年より内閣府の少子化対策の有識者会議委員を歴任。

不妊治療での出産は、母胎への危険も大きいことを、もっとメディアに発信したい。

19inter v iew18

S h i n j i A N Z O , P h . D . 0 2