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2o/ybzw? 文と写真/志風恭子 Texto y foto kyoko Shikaze 14 男性 衣装 フラメンコ衣装と言うと、華やかな 女性衣装ばかりが注目されがちですが、 男性の衣装にも目を向けてみましょう。 お祭りの衣装 アンダルシアのあちこちで開かれる お祭り、フェリアでは女性はフラメン コ衣装、トラへ・フラメンカとよばれ る衣装に身を包みます。細かく言えば、 舞踊用の衣装とは違うところがあるけ れど、フリルなどで飾られた華やかな 衣装です。では男性は女性のフェ リア衣装に相当するのはトラへ・コル トでしょうか。ウエストの高いパンタ ロンに白いシャツ、丈の短いジャケッ トというコンビネーション。フラメン コ舞踊の衣装としてもお馴染の格好で す。トラへ・コルトにソンブレロ・デ・ アラ・アンチャ、つば広の帽子をかぶ った人はフェリア会場などでもたくさ ん見かけます。ただし、昼間、馬や馬 車に乗っているという条件が付きます。 子供以外で、馬と関係なしにそういう 格好をしている男性はまずいません。 トラへ・コルト 女性のフラメンコ衣装と対をなす、 トラへ・コルトはもともと、牛馬の市 や闘牛牧場で働く人たちの仕事着から 始まったと言われ、闘牛との関連も指 摘されています。馬に乗る時上着が長 いと邪魔なので、短い丈となったそう です。フラメンコ舞踊の始まりの頃の バイラオール、男性舞踊手たちの写真 をみると、ほぼ全てがトラへ・コルト を着用しています。アンダルシア生ま れのフラメンコがこれを衣装としたの は自然の成り行きだったのでしょう。 馬上での仕事着は色も黒や紺など地味 なものが主で、飾りもないそっけない ものですが、お祭り用にはワインレッ ドなど華やかな色も使われ、刺繍や房、 モール飾りなど、闘牛士の衣装のよう な装飾がついたものもあり、フラメン コ舞踊の衣装としてはそのどちらも使 われます。また、舞踊の場合、体の動 かしやすさからでしょうか、ジャケッ トなしで、腰高のパンタロンにブラウ スにベスト、というパターンも多いの はご存知の通りです。 “ヒターノ”風 お祭りの時の、小さい男の子たちの 格 好 で は、 ト ラ へ・コ ル ト の ほ か に、 パンタロンに水玉のシャツという “ ヒ ターノ”風があります。シャツの裾を 結んだりしているのを見たことがある 人もいるのではないでしょうか。これ は、おそらく劇場フラメンコで“ヒタ ーノ ” を演じる時に使われたことから 始まったのではないかと思われます。 グラン・アントニオ舞踊団などの公演 でも衣装として使われ、水玉でない無 地のシャツとパンタロンという組み合 わせもありますが、これはトラへ・コ ルトからジャケットとベストがなくな ったものとも思えます。現在では時代 を感じさせる、など以外では舞台で使 われることはあまりありません。 スーツから普段着まで 男性舞踊手ならトラへ・コルト、と バイラオールの制服のようだった時代 が長く続きました。普通のスーツで踊 る人も出てきたのは60年代後半から でしょうか。誰が最初だったかはわか りません。でもファルーコやラファエ ル・エル・ネグロが先駆者であるのは間 違いないのではないでしょうか。彼ら とマティルデ・コラルとのグループ、 ロス・ボレーコスは60年代終わりから 70年代にかけて活躍しましたが、普 通のスーツで踊っています。またドラ マの設定ゆえかもしれませんが1974 年のアントニオ・ガデス舞踊団『血の 婚礼』ではトラへ・コルトではなく普 通のスーツが使われています。84年 スペイン国立バレエ『メデア』でもそ うですね。その後、ソフトスーツが流 トラへ・コルト グラン・アントニオ振付『サパテアード』は昔ながらのト ラへ・コルト。華やかなベストは闘牛士のよう。 ヒターノ風 フラメンコ史に燦然と輝く大スター、グラン・ア ントニオもヒターノ風の装いで。 ©BNE Jesús Vallinas 30

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Page 1: yb Texto y foto kyoko Shikaze 14 男性.../yb zw 何 ? 文と写真/志風恭子 Texto y foto kyoko Shikaze 14男性の衣装 フラメンコ衣装と言うと、華やかな 女性衣装ばかりが注目されがちですが、

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14男性の衣装 フラメンコ衣装と言うと、華やかな女性衣装ばかりが注目されがちですが、男性の衣装にも目を向けてみましょう。

お祭りの衣装 アンダルシアのあちこちで開かれるお祭り、フェリアでは女性はフラメンコ衣装、トラへ・フラメンカとよばれる衣装に身を包みます。細かく言えば、舞踊用の衣装とは違うところがあるけれど、フリルなどで飾られた華やかな衣装です。では男性は? 女性のフェリア衣装に相当するのはトラへ・コルトでしょうか。ウエストの高いパンタロンに白いシャツ、丈の短いジャケットというコンビネーション。フラメンコ舞踊の衣装としてもお馴染の格好です。トラへ・コルトにソンブレロ・デ・アラ・アンチャ、つば広の帽子をかぶった人はフェリア会場などでもたくさん見かけます。ただし、昼間、馬や馬

車に乗っているという条件が付きます。子供以外で、馬と関係なしにそういう格好をしている男性はまずいません。

トラへ・コルト 女性のフラメンコ衣装と対をなす、トラへ・コルトはもともと、牛馬の市や闘牛牧場で働く人たちの仕事着から始まったと言われ、闘牛との関連も指摘されています。馬に乗る時上着が長いと邪魔なので、短い丈となったそうです。フラメンコ舞踊の始まりの頃のバイラオール、男性舞踊手たちの写真をみると、ほぼ全てがトラへ・コルトを着用しています。アンダルシア生まれのフラメンコがこれを衣装としたのは自然の成り行きだったのでしょう。馬上での仕事着は色も黒や紺など地味なものが主で、飾りもないそっけないものですが、お祭り用にはワインレッドなど華やかな色も使われ、刺繍や房、モール飾りなど、闘牛士の衣装のような装飾がついたものもあり、フラメンコ舞踊の衣装としてはそのどちらも使われます。また、舞踊の場合、体の動かしやすさからでしょうか、ジャケットなしで、腰高のパンタロンにブラウスにベスト、というパターンも多いのはご存知の通りです。

“ヒターノ”風 お祭りの時の、小さい男の子たちの格好では、トラへ・コルトのほかに、パンタロンに水玉のシャツという“ヒターノ”風があります。シャツの裾を結んだりしているのを見たことがある人もいるのではないでしょうか。これは、おそらく劇場フラメンコで“ヒターノ”を演じる時に使われたことから始まったのではないかと思われます。グラン・アントニオ舞踊団などの公演

でも衣装として使われ、水玉でない無地のシャツとパンタロンという組み合わせもありますが、これはトラへ・コルトからジャケットとベストがなくなったものとも思えます。現在では時代を感じさせる、など以外では舞台で使われることはあまりありません。

スーツから普段着まで 男性舞踊手ならトラへ・コルト、とバイラオールの制服のようだった時代が長く続きました。普通のスーツで踊る人も出てきたのは60年代後半からでしょうか。誰が最初だったかはわかりません。でもファルーコやラファエル・エル・ネグロが先駆者であるのは間違いないのではないでしょうか。彼らとマティルデ・コラルとのグループ、ロス・ボレーコスは60年代終わりから70年代にかけて活躍しましたが、普通のスーツで踊っています。またドラマの設定ゆえかもしれませんが1974年のアントニオ・ガデス舞踊団『血の婚礼』ではトラへ・コルトではなく普通のスーツが使われています。84年スペイン国立バレエ『メデア』でもそうですね。その後、ソフトスーツが流

トラへ・コルトグラン・アントニオ振付『サパテアード』は昔ながらのトラへ・コルト。華やかなベストは闘牛士のよう。

ヒターノ風フラメンコ史に燦然と輝く大スター、グラン・アントニオもヒターノ風の装いで。

©BNE Jesús Vallinas

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Page 2: yb Texto y foto kyoko Shikaze 14 男性.../yb zw 何 ? 文と写真/志風恭子 Texto y foto kyoko Shikaze 14男性の衣装 フラメンコ衣装と言うと、華やかな 女性衣装ばかりが注目されがちですが、

2007年のシカゼカディスの劇場楽屋でチョンチ・エレディアと。その後パコ・デ・ルシアとも共演するチョンチの優しくてフラメンコな声大好きです。

志風恭子/1987年よりスペイン在住。セビージャ大学フラメンコ学博士課程前期終了。パセオ通信員、通訳コーディネーターとして活躍。パコ・デ・ルシアをはじめ、多くのフラメンコ公演に携わる。

行った90年前後にはアントニオ、カナーレスやホアキン・コルテスなどもスーツで踊り、それが普通になっていました。今では、トラへ・コルトで踊る人の方が少数派で、スーツもしくは普通のパンタロンにシャツというのがスタンダードになりました。ジーンズやTシャツなど普段着のままのような格好で踊る人もいます。街で買った吊るしのパンタロンの場合、ポケットがあったりで、踊ると腰に変なシワが寄ることもあります。

スカート ホアキン・コルテスが『ジプシーパッション』で見せた、上半身裸でバタ・デ・コーラという衣装は強い印象を残しましたが、男性がスカートをはいたのは何も彼が最初ではなく、アントニオ・ガデスは1981年『ランゴ』という作品でベルナルダ・アルバ役でスカートをはいて踊っています。現在ではマ

ヌエル・リニャンがバタ・デ・コーラの名手として知られます。バタに限らず、スカートでしかできない表現もあり、女性がパンタロンをはくのだから男性のスカートも、もはや特別なことではないようにも思います。

歌い手やギタリストの 衣装 舞踊のバックを務める、歌い手やギタリストの衣装は白いシャツに黒いズボンというのが多いのですが、これはスペインのバルやレストランのウエイターの制服と同じです。それほどありふれた格好で、主役を立てるということなのでしょう。シャツは黒で揃えることもあり、どんなミュージシャンも白と黒のシャツは衣装として持っているものです。なお、カンテソロの場合は男性はスーツが多いですが、途中で上着を脱いで、のってきたよ、という感じを出すこともあります。女性はフラメンコ衣装の人もあれば、フォーマルドレスの人もあります。

スーツスーツで踊るファルーコ、マティルデ・コラル、ラファエル・エル・ネグロのロス・ボレーコス。

現在 そのまま街に出かけそうな格好で、劇場で踊る。ちなみにファルキートはスーツで踊ることが多いです。

©Oscar Romero/ Bienal

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