Title 膀胱全摘術後の両側上部尿路に再発し腎瘻周囲腹壁への浸潤を認めた移行上皮癌の1例

Author(s) 辻村, 晃; 三木, 健史; 高山, 仁志; 後藤, 隆康; 月川, 真; 菅尾,英木; 高羽, 津; 竹田, 雅司; 倉田, 明彦

Citation 泌尿器科紀要 (1995), 41(5): 383-386

Issue Date 1995-05

URL http://hdl.handle.net/2433/115497

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌 尿 紀要41:383-386,1995 383

膀胱全摘術後の両側上部尿路に再発 し腎瘻周囲腹壁への

浸潤を認めた移行上皮癌の1例

国立大阪病院泌尿器科(医 長:高 羽 津)

辻村 晃,三 木 健史,高 山 仁志*,後 藤 隆康

月川 真,菅 尾 英木,高 羽 津

国立大阪病院病理部(部 長:倉 田明彦)

竹 田 雅 司,倉 田 明彦

RECURRENCE OF TRANSITIONAL CELL CARCINOMA IN

BILATERAL UPPER URINARY TRACTS AND ILEAL

CONDUIT WITH INVASION IN THE ABDOMINAL

WALL AROUND NEPHROSTOMY AFTER TOTAL

CYSTECTOMY : A CASE REPORT

Akira Tsujimura, Takeshi Miki, Hitoshi Takayama,

Takayasu Gotoh, Makoto Tsukikawa,

Hideki Sugao and Minato Takaha

From the Department of ,Urology, Osaka National Hospital

Masashi Takeda and Akihiko Kurata

From the Department of Pathology, Osaka National Hospital

A case of recurrence of transitional cell :carcinoma in bilateral upper urinary tracts and ileal conduit with invasion in the abdominal wall around nephrostomy after total cystectomy is

presented. A 33-year-old man with right nephrostomy, after total cystectomy, construction of ileal conduit, bilateral partial ureterectomy and left nephrectomy for transitional cell carcinoma at another hospital was referred to our hospital because of further recurrence in the right renal

pelvis and ileal conduit. He had had left nephrostomy before the left nephrectomy was perform-ed. Right nephrectomy and total extirpation of ileal conduit were performed and hemodialysis was started from the day after the operation. However, several weeks later, transitional cell carcinoma was detected pathologically in the left abdominal wall around the left nephrostomy which had been inserted. The renal pelvis was inferred to have leaked urine around the nephro-stomy and invasion arose in this region. After radiation therapy he was discharged but he died from recurrence of carcinoma 9 months after the operation.

After total cystectomy, examinations by percutaneous puncture of the renal pelvis are very effective for evidence of recurrence in the upper urinary tract. However, we emphasize that the

percutaneous technique carries the risk of tumor invasion through the percutaneous urinary tract. (Acta Urol. Jpn. 41: 383-386, 1995)

Key words: Transitional cell carcinoma, Upper urinary tract recurrence, Nephrostomy

緒 言

上部尿路腫瘍術後の膀胱再発に比べ,膀 胱腫瘍術後

*現:大 阪府立病院泌尿器科

の上部尿路再発は比較的少 ない.特 に膀胱全摘除術 を

施行 した後の上部尿路お よび回腸導管内再発例は さら

に少ない とされてい る.今 回われわれは再発性膀胱腫

瘍に対 し膀胱 全 摘除術,回 腸導管 造設術 を 施行 した

後,両 側上部尿路 と回腸導管内に再発 し,腎 痩周囲の

384 泌尿 紀要41巻5号1995年

腹壁に浸潤 を認めた症例を経験 した ので報告す る,

症 例

患者:33歳,男 性.

主 訴:右 腎孟腫瘍の精査 お よび血液透析 療法導入 目

的

家族歴 ・既往歴1特 記すべ きことな し

現病歴:患 者は1987年6月(27歳 時)よ り再発性膀

胱腫瘍 のため 他院で 放射線療法 と合計9回 のTUR-

Btを 施行後,1991年1月 膀胱 尿 道全 摘 除 術(TCC

pTlG1)お よび 回腸導管造 設術が施行 されていた.

その後両側尿管に再発を認 めたため,1992年4月 同院

で両側尿管部分 切除術を施行,回 腸導管を空置 し,同

時に両側腎痩が造設 された後,1992年12月 左腎孟にも

再発が認め られたため,左 腎摘除術 が追加 された.ま

た両側尿管部分切除術 お よび左腎摘除術施行時 には右

腎孟に異常所見 はな か ったが,1993年6月 さらに右腎

孟に も再発が認め られたため,同 院でcisplatinを 中

心 と した多剤併用化学療法が4コ ース施行 され,ま た

経腎痩的に右 腎孟腫瘍 レーザ ー焼灼術が行われた.し

か し根治には至 らず,右 腎摘除術お よび血液透析療法

導入 目的にて1994年1月 当科へ紹 介 された.

検査所見:検 血,血 液 生化学 に は 異常を認めず.

右腎痩尿の 検尿 で は 沈渣で 膿尿を 認め,尿 細菌養で

PseudemenasaeruginosaとEntereCOCCUSfaecalisを 認

めた.右 腎痩尿細胞診 は陰性 であ った。

画像検査:順 行性右腎孟造影 では右腎孟 内に挿入 さ

れていた腎孟バル ーソの 上方 に不整な陰影 欠損を認め

た.回 腸導管造影で も回腸導管 内の両側尿管吻合部付

近に半 円形 の陰影欠損を2ヵ 所認めた(Fig.1).腹 部

単純CTで は右腎門部 を含 めた リソパ節の 腫大は認

めなか った,

以上 より右腎孟お よび回腸導管内腫瘍 と診断 し,1

月27日 内 シャン トを造設後,2月7日 右腎摘除術 およ

び回腸導 管摘除術を施行,以 後血液透析療法を開始 し

た.

手術所見=術 中右 腎の剥離 は比較的容易で,腎 痕 カ

テLテ ル挿入部位については周囲 の皮膚,皮 下組織 を

含めて摘除 した.ま た剥離 の際,腎 痩 カテ ーテル挿入

周 囲の右腸腰筋がやや硬 く,周 囲組織 と若 干の癒着 も

認 めたた め,生 検術 の意味 で右腸腰 筋組織 も併せて一

部摘除 した.回 腸導管摘除術では後腹膜腔 での両側残

存尿管 とその回腸導管 との吻合部付近 に周囲組織 との

強 い癒着を認めたが,な ん とか一塊 として摘除 しえた,

摘除標本:摘 除腎 の割面では腎孟壁に広範囲に広 が

る発赤 した ビP一 ド状 の腫瘍を認めた(Fig.21eft).

爵Fig.1.

噂

Antegradepyelographyoftheright

kidneyrevealsanirregular丘Iling

defectintherenalpeIvis(arrow).

正1ealconduitographyshowsmling

defectsatthebilateraluretero量1eal

anaStOmOSiS(arrOWS),

Fig.2.CutsurfaceQftheextirpatedrightk圭d・

ney.Massivevi110ustumorscanbe

seenattherenalpelvis(1eft).Cutsur-

faceofthebilateraluretersandileal

conduit.Papillarytumorscanbeseen

intheureters,三ncludingtheregiopsof

uretero-ilealanastomos三s(right).

回腸導管 と両側残存尿管の割面では両側残存尿管内に

乳頭状腫瘍が密生 し尿管回腸吻合部を越 え,回 腸導管

内まで連続 して いたが,吻 合部以外 の回腸導管には腫

瘍 を認めなか った(Fig.2right)。

病理検査:右 腎孟腫瘍は上皮が7層 以上 にな り血管

間質を勅に して乳頭状に増殖す る移行上皮癌 と診断 さ

れた(Fig.31eft).回 腸導管で も吻合 した尿管に腎孟

.搾 .》

灘.

1瞬"

鞭鎌

甕 、

講'臓

辻村,ほ か=移 行上皮癌 ・腎痩周囲浸潤

糠騰Fig.3.Histologicalexam五nationrevealstransi-

tionalcellcarcinoma,Iowgradeinthe

rightrenalpelv三s(left),theregionof

uretero一 互1ealanastomQsis(middle)and

rightpsoasmuscle(right).

賢 砂

鋲 ㌫

'i.,.,1

Fig.4,Computedtomographyshowsirregularly

enhancedregionattheleftabdominal

wa11(left)・Histologicalexamination

ofthisregionrevcalsinvasionoftransi-

tionalcellcarcinoma(right).

と同様の移行上皮癌を認めた.い ずれ も細 胞異型は乏

しくGlと 診断 された(Fig.3middle).右 腸腰筋

組織で も筋層に接 して小さな異型上皮巣がみ られ,そ

の周囲に反応性 の線維性増殖がみ られた.移 行上皮癌

の転移 と考え られた(Fig.3right).

術後経過:手 術翌 日よ り血液透析 療法 を開始 し,慎

重に経過を観 察 していた ところ術後3週 目頃 より今回

の手術側 とは反対 の左背側に鈍痛 を訴えた、左背側の

皮膚は広範囲にわ た り硬 く,や や発赤 していた.術 後

25日 目に施行 した腹 部造影CT検 査 では,左 腸腰筋

の一部か ら左背側の腹壁か ら皮下にかけて,造 影剤 に

てenhanceさ れる不整像を認めた(Fig.41eft).後

日この部位を経皮的に生検 した ところ,病 理組織学的

に今回摘除 した腫瘍 同様 の異型度の低 い移 行上皮癌 の

転移像が認め られた(Fig.4right),そ こでこの部位

と生検にて移行上皮癌が認め られ右腸腰筋に対 して放

射線療法を追加す ることとした.放 射線療法後,左 背

側の皮膚 は若干軟 らか くな り,発 赤 も消失 したため,

患者 は術 後106日 目に退院 した.そ の後他院で血液透

析 療法を継続 していたが,し だ いに リンパ節 ・肺 ・肝

転移か らDICに 至 り,術 後9ヵ 月 目に死亡 した.

考 察

385

上部尿路癌術後 での膀胱再発 はよ く経験す るが,逆

に膀胱癌治療後,特 に膀胱全摘除術後の上部尿路への

再発 は少な く数%と 報告 されて いる1・2).一般 に上部

尿路へ再発 しやすい膀胱腫瘍 と して1)CISを 伴い腫

瘍が多発す る症例,2)繰 り返す再発を認 め,長 期間に

わた り膀胱保存療法 が 施行された 症例,3)経 過中に

VURを 認 める症例,4)職 業性膀胱腫瘍症例 な どが

報告 されている3-5).ま た膀胱 全摘除術後 の 上部尿路

再発の機序 としては1)腫 瘍細 胞の播種,2)移 行上皮癌

の多中心性発生,3)尿 中発癌物質の存在な どが推測 さ

れ6-8),一 般には1)の 腫瘍細 胞の播種説が有力 とされ

てい る.膀 胱保存療法を長期間施行 してい るうち定期

検査時に指摘 され るVURだ けで な く9),TURや

膀胱内注入療法な ど頻回なる膀胱 内操作時 にのみ一過

性に惹起 されるVURに よ り上部尿路へ 腫瘍細胞が

播種 される可能性 も報告 されて い る2).自 験例では他

院で27歳 とい う初発年齢であったため,患 者お よび家

族が尿路変更 をなかなか受け入れ られず,膀 胱全摘除

術 に至 るまで3年 半を要 しそ の間 に9回 ものTUR

が施行 されていることよ り上部尿路再発 の危険性 は高

かった もの と思われた。また回腸導管内の再発につ い

てはそ の報告 例は少ないが,報 告 例のほ とん どが尿管

回腸導管吻合部における尿管粘膜 上皮か らの再発 であ

り10),自験 例 も同様であ った,自 験例は両側残存尿管

内に乳頭状 の腫瘍が密生 してお り,尿 管に再発 した腫

瘍が最終的に吻合部を越え回腸導管 内まで連続 した も

のと思われた.さ らに 自験例は右腎摘除術時 に一部摘

除 した右腸腰筋組織 と術後経皮的生検術を行 った左背

部皮下組織に移 行上皮癌が組織学的に証 明され,こ れ

らの部位が過去 に造設 されていた両側腎痩 カテーテル

挿入部位 と一致す ることよ り,腎 痩 カテーテル交換時

や腎孟洗浄時に腎孟尿がカテーテル挿入経路に散布 さ

れ,腫 瘍細胞が播種 された ものと推測された.

さて膀胱全摘除術後 の定期検査 としては,以 前 よ り

尿細胞診,排 泄性腎孟造影,回 腸導管造影 や内視鏡検

査が重要 とされてきた.一 方 最近,尿 細胞診において

も回腸導管か らの尿では不適切 で,経 皮的腎孟穿刺 に

よる腎孟尿細胞診が重要 とす る報告 もある11).ま た排

泄性腎孟造影 で上部尿路への再発 の可能性 を疑 った場

合,同 様に経皮的腎孟穿刺に よる順行性腎孟造影が有

用であ ったとす る報告2)や,さ らに経皮的 に腎孟鏡を

挿入 し内視鏡的に再発 を検索すべき とす る報告5)があ

り,そ の有用性が強調 されてい る.自 験例は膀胱全摘

除術後 の尿管再 発時に,他 院で腎を保存,尿 管部分切

386 泌尿紀要41巻5号1995年

除術 と腎痩造設術が選択 され た,そ の後の再発で さら

に両側腎摘除術が追加 され ることになるが,左 腎痕は

8ヵ 月間,右 腎痩は今回当院 で手術に至 るまでの1年

10ヵ月間にわた り挿入され ていた ことになる.し か も

右腎痕 より経皮的腎孟腫瘍 レーザ ー焼灼術 も施行 され

ていた.Endourologyの 発達に よ り経皮的腎孟腫瘍

切除術や レーザー焼灼術 が 行 わ れ る ようになってい

るが,腫 瘍 の 残存 が あ る場合 や 自験例 の様 に10W

gradeで あ って も尿路上皮 に広範 囲に腫瘍 が発生 し

て くる場合にはカテーテル周 囲に腫瘍が散布 され る可

能性が生 じて くるのではないか と思われる,わ れわれ

も諸家の報告 同様,膀 胱全摘術後に上部尿路再発の検

索が重要であることに異論 はな く,場 合に よっては経

皮的腎孟穿刺による尿細胞診や内視鏡検査 も有用であ

ると考えている.し か し経皮的腎孟穿刺による諸検査

を行 う場 合,自 験例同様,腎 孟尿が尿路外へ漏れる こ

とに よる腫瘍細胞の散布 とい う危険性 を常に想起 して

お く必要 があ り,そ の意味か ら経皮的手技の検査 の適

応に関 して も十分慎重 に検討する必要があ ると思われ

た.

結 語

33歳,男 性の膀胱全摘除術,回 腸導管造設術後に両

側 上部尿路 と回腸導管内に再発 し,腎 痩周囲の腹壁に

浸潤 した移行上皮癌 の1例 を報告 した.膀 胱全摘術後

の経皮的腎孟穿刺に よる上部尿路 の諸検査 では尿が漏

れ,そ のため移行上皮癌を散布す る危険性が あること

を改めて強調 した。

本論文の要旨は第49回国立病院療養所総合医学会において

報告した,

文 献

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(ReceivedonDecember9,1994AcceptedonFebruary21,1995)