くむヷへゐぐD×D · 兵藤里奈登場里奈登場編! し死ヤジィポセわヾヵペきジぎ今タ状況ダスわゑスわわわくき私タ名前ダき兵藤里奈き花ビ恥カペゑ高校2年生くきき?じ
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【注意事項】
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DF化したものです。
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品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁
じます。
【あらすじ】
【ある日僕は、黒いメッセージパックを拾った】
PSO2の二次創作作品。
オリジナル主人公、オリジナルキャラクターが大半を占めます。
また、原作の歴史で描かれていない部分を穴埋めする形でストー
リーが構成されていますが
大きな出来事については本作でも出てきます。
本作に合わせた独自の解釈ですので、ご了承ください。
初投稿ゆえ、至らない点もあるかと存じますが
適宜修正して参ります。
目 次
────────────
Act:1 黒いメッセージパック
1
────────────
Act:2 それは白昼夢のように
17
Act:1 黒いメッセージパック
人類にとって
過去や歴史を知るということは
食事を摂る事と似ている。
例えば自分が2人居たとして
肉しか食べない自分と
野菜しか食わない自分がいたとしよう。
最初、2人に大きな差はない。
だが僅かな差が起き
それは日に日に大きな差と成っていく。
肉しか食べない自分は
怒りっぽく、情熱的に
野菜しか食べない自分は
温厚で、薄情になるかもしない。
別に日々の衛生管理について喚起したいわけじゃない。
人間は、食べた物で出来ているという事を言いたい。
過去や歴史を知るというのも
これと同じでは無いだろうか。
例えば自分が2人居たとして
Aという歴史を知る自分と
Bという歴史を知る自分
最初2人に大きな差はない。
だが僅かな歴史の違いは
やがてその差を大きくし
全く別の人間と成るだろう。
歴史にAもBもないと言いたげな顔をしているね。
では、かつて人が残していた記録という物
1
言わば伝記とでも言おうか。
それは何で出来ているだろう。
人が、見たものを
文字に起こし、記している。
違和感を覚えないかい?
Aという紡ぎ手からみた歴史と
Bという紡ぎ手からみた歴史が
必ず一致するのだろうか。
もう既に、僕らの歴史はAにもBにも成っている、そうは考えられ
ないかい?
モンタギューの演説議事録より抜粋
──────────────────────
それは僕が
目の前に現れたダーカーに驚き
尻餅をついた事から始まった。
いや、もっと具体的に言えば
尻餅をついた時に、左手に当たった黒いメッセージパックを
拾った所から、だろうか。
とにかく、その長い長い文章の書かれたメッセージパックが見つ
かったのは
3日前の出来事だ。
それがまさか、こんな結末を招くなんて
その時の僕は知る由もなかった。
2
「・・・こんなことになるなんで・・・。」
「・・・そうよ、ディー。あんたがあんなもの見つけなければ、こんな
事にならなかったのよ。」
3歩程先を歩きながら、顔を半分だけこちらに向け名前を呼ぶ。
金髪のボブカットで、少し前にカールしているのはクセっ毛だから
だろうか。
彼女の名前はアイリス。
僕と同じアークス研修生の同期だ。
そして彼女の視線は今、不満で満ち満ちている。
「・・・僕だってね、好きでこんな事をしている訳じゃないんだ。本当
なら今頃マイルームでゴロゴロしながら、雑誌でも読んでた頃だって
いうのに。」
不満の視線に耐えかね、宙に逸らすと
青々とした木々が空を塞いでいる。
【惑星ナベリウス】緑豊かなこの惑星は
かつてダーカーの大量発生があり
研修地から一時的に除外されたものの
名残からか
今でも僕らアークス研修生の実習地でもある。
「・・・っていうかさ、なーんで全部のメッセージパックを回収するの
?」
口をラッピーのように尖らせアイリスが不満気に尋ねてきた。
「僕に聞くなよ・・・。黒いメッセージパックなんて珍しいから、シル
3
ヴァ教官に渡したらこうなったんだ。」
「ふーん。黒いメッセージパックねぇー。」
少し間延びした返事。
こんな時大体彼女は別の事を考えているか既に会話に飽きている。
僕が演習中に発見した黒いメッセージパック。
先述の通り、僕はそれを教官のシルヴァさんに渡した。
僕は、珍品を見つけた優越感というか、どちらかと言えばお遊び半
分な気持ちで
それをシルヴァさんに渡した。
厳しいけれど、優しい性格のシルヴァさんだから
こんなもの拾ってるくらいなら、ちゃんと実習しろ!だとか
笑いながらそう言ってくれるかと思っていたけれど
実際そうはならなかった。
受け取ってすぐ、眉間にシワが寄り
低い声で僕にこう聞いてきた。
〝これはどこにあったんだ。答えろ。〞
その日の実習は途中で切り上げる事になった。
「っていうか、その黒いメッセージパックだけを探して回収すればい
いんじゃないの?なんで全部なの?」
同感だ。
僕がシルヴァさんに黒いメッセージパックを渡した翌日から
実習内容が
【ナヴ・ラッピー捕獲演習】から
4
【惑星ナベリウスの全メッセージパックの回収】に変更された。
変更の理由も、説明もないまま
僕らはナベリウスに送られたわけだ。
そうして回収し続け、3日になる。
あのシルヴァさんの言い方からして、黒いメッセージパックが
何か危険なものであったり、重要な秘密である可能性が高い。
でも僕らの実習内容は【全メッセージパックの回収】だ。
全部回収する意図が分からない。
「・・・あ、向こうに1個発見!ディー、罪を償うためにも、あんたが
取って来なさい!」
アイリスの指差す先を見ると
小さな泉があった。
その泉を縁取るように生える草の中から
一筋の光が漏れている。
一歩一歩、生い茂る草を掻き分けながら
その光りへ近づく。
「・・・また、オレンジだ。」
僕は右手にメッセージパックを掴み、呟いた。
ちょうど泉に自分の顔が映りこむ。
黒い髪、茶色い瞳。
キレ長の目には、ヤル気の無さが満ちている。
もう少しこの目に覇気があれば
あるいは女子研修生からチヤホヤされていた
・・・かもしれない。
「っていうか、メッセージパックは基本オレンジしかないでしょ。あ
んたの見つけた黒いメッセージパックなんて、私一度も見たことない
5
よ?」
アイリスは僕の手からメッセージパックを奪い取ると
自分のアイテムパックに入れる。
こうして今日の実習も僕の回収数は0で報告する事になるのだろ
う。
ちなみにこの三日で100回近く奪われている。
「少し休もう。歩き疲れた。」
メッセージパックを奪い返す気力もなく
泉の辺に腰を下ろした。
アイリスもそれに倣い、僕の隣で膝を抱える。
「ねぇディー。そもそもあんたが回収した最初の1個って何が書いて
あったの?」
空色の瞳が下から覗きこむ。
水面に揺れる光が、瞳の中にも映りこみ幻想的だ。
「僕が回収した奴には、なんか食事がどうのって書いてあったな・・・」
アイリスの眉間にシワが寄る。
「食事!?なにそれ!超くだらないじゃない!!え、もっとアークスの根
幹を揺るがすような、そういう重要な情報じゃないの!?」
「僕に言ったって仕方ないだろ・・・。僕が書いたわけじゃないんだ
し・・・。」
「でもその内容が食事!?なんなの!モノメイトの飲みすぎは太る!と
かそういう事!?」
6
1度こうなると手がつけられない。
火山の噴火のように止まらない上
ダラダラと垂れる溶岩のような不平不満。
彼女はそんな自分をイメージしてか、赤い服をよく着ている。
なんてことはない。
単に赤が好きなだけだろう。
今回の実習に不満があるのは僕も変わりない。
でも、実は少しだけ嬉しくもあった。
アイリスとパーティを組むのは久しぶりだからだ。
彼女とは元々居住区も近く
研修生になる前からその存在を知っていた。
金髪で活発で、容姿も整った可愛い女の子。
第一印象はそんな所だ。
もう少し詳しく言えば、幼い頃
僕はアイリスの事が好き"だった"。
過去形なのは、彼女と話すようになってから。
幻滅したわけでもなんでもない。
ただ彼女は僕を友達として受け入れてくれた。
とても親しく接してくれる。
僕はこの関係を進める事よりも、今を維持していたい、そう思った
からだ。
「…っていうか、聞いてる?聞いてないよね!?ねぇ!」
「・・・ナベリウスのこの美しい自然をメッセージパックだらけにして
しまう悪の組織があると思ったら、思考が止まらなくなってね。いや
すまないすまない。」
7
「・・・うそつけ!」
僕の脇腹にめり込むアイリスの肘は
モノメイトでは回復出来ないほど強烈な一撃だった。
「とりあえずここら辺の探索はほぼ終わってるでしょ?」
「あと一箇所だけ。マップの北西にある袋小路だけだね。ここから
まっすぐ歩けば着くし、そこまで見たら帰還しよう。」
少しだけ、笑顔が戻る。
1日の終わりが見えるだけで気が紛れるものだ。
3日連続で探索した甲斐あって
未探索エリアは今日でほぼ無くなる。
願わくば、明日はナヴ・ラッピーを追い掛け回すような
違う刺激が欲しいものだ。
しばらくナベリウスで森林浴をしながら歩いていると
件の袋小路が見えてきた。
「マップだと近いけれど、意外と遠かったわねぇー。」
背伸びをし、右手にテレパイプを用意するアイリス。
探索も終わっていないのに、帰還する気満々だ。
袋小路の入口に差し掛かった所で
僕らは歩みを止めた。
人が居る。
惑星探索であれば、他のアークスや研修生と遭遇する事も多い。
でも、僕らの視線の先に居る人は
8
なにか違う雰囲気を持っていた。
「隠れよう。」
アイリスの肩を叩き、呟いた。
幸い、袋小路の入口にはしゃがめば身を隠せるほどの岩があった。
「ねぇ、なんかあの人、雰囲気怖いんだけど・・・」
小声でアイリスが囁く。
僕は岩から少しだけ顔を出し
袋小路の奥に視線を向ける。
真ん中には大きな木。
その前に、白く長い髪の女性が一人。
全身黒く、羽のように尖った装甲を纏ったキャスト・・・のように
見える。
頭の上にはピンク色のフォトンの走った黒い輪が浮かんでいる。
こちらに背を向け
ただじっと木を見つめている。
もう少し良く見える位置に、と腰を浮かせた瞬間、袖を引かれ尻餅
をつきそうになる。
「何すんだ、あぶないだろ!!」
極力小声で憤った。
「ねぇ、あの人・・・もしかして【黒い天使】とか言われているキャス
トじゃない・・・?」
9
聞きなれない名前だった。
もとより僕は噂話の類が嫌いだ。
しかし黒い天使。言われてみればそういう風に見えなくもない。
だが、天使というには少し冷たい印象があるような。
冷たい印象?
自分の頭の声に、疑問を抱く。
冷たいのではない
あの【黒い天使】からはフォトンを感じる。
おそらく僕らと同じアークスだろう。
けれども、アイリスや他のアークスと何かが違う。
冷たいに近いけれど、なんだろう。
違和感がある。
少し不気味に思い
僕は腰を屈めたまま1歩退いた。
「・・・隠れているつもりでしょうけれど、気付いていますよ。」
抑揚の無い声だった。
その無機質で、か細い声が
僕らに向けられていると気付いたのは一瞬遅れてからだ。
アイリスは目を丸くして
僕の顔を見つめている。
どうするの、と言いたいのは分かる。
でも僕も言いたい
どうするんだよ、この状況。
10
「・・・随分警戒なさっていますね。でもご安心ください。食べたり
しません。」
背中を冷たいものが走る。
僕らを安心させたいのか、怖がらせたいのか、全く分からない。
このまま息を潜めていたら、気のせいだと思ってくれるだろうか。
いや、無いだろう。
見つかっているのに隠れている居心地の悪さと、先ほど感じた不気
味さが相まって
心拍数が上がっていく。
こちらが動かなければ
この居心地の悪さは消えない。
膝に力を入れ立ち上がる。
視線を袋小路に向けると
先程と同じ位置に黒い天使は佇んでいた。
こちらを向いて。
「あ、あぁー、僕らここら辺の草むしり頼まれましてねぇ?そしたら
ロックベアに遭遇して、命からがら逃げてきた所で、特に怪しい者っ
てわけじゃないんすよー!ははは!」
頭に右手を当てながら
腰を低くし、何度も会釈して僕はそう言った。
黒い天使は無言で見つめている。
視線に耐えきれず
そのままの姿勢で僕は目を閉じた。
11
何を口走っているんだ。
やましい事も何も無いのに、わざわざ怪しい者に仕立て上げてどう
するんだ。
そもそも普通にこんにちは、で良かったじゃないか。
薄目を明け、目の前の黒い天使の様子を伺う。
エメラルド色の瞳
筋の通った鼻
まるで人形のように美しい顔をしていた。
白く、長い髪の毛は二つ結びになっていて
太陽に照らされた部分が銀色に輝いていて美しい。
見とれている場合では無かった。
黒い天使は瞬きもせずにこちらを見ている。
ダメ押しだ。
「それでですね!?なんとそのロックベアが実は」
「あなたが混乱している事は、もう十分に伝わっています。」
「ですよね。」
黒い天使は少し振り返り、大きな木を見つめた。
「私はこの場所で佇んでいました。」
見ればわかる。
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黒い天使はただここに居ただけ。
単に僕らが、というか僕が、黒い天使という通り名や普通と違う
フォトンに戸惑い
混乱していたに過ぎない。
「あなた達は、ナベリウスで何をされていたんでしょうか。実地訓練
中の研修生に見えますが。」
抑揚が無く、か細い声は
誰に話しているのか一瞬分からなくなる。
「えっと・・・仰る通り、研修生。んで、僕らはナベリウスのメッセー
ジパックを回収してたんだ・・・。」
黒い天使は首を傾げる
「メッセージパックの回収?それがなんの訓練になるのでしょうか。」
「それは・・・分からないっす。でも、とにかくナベリウスにあるメッ
セージパックを回収しろっていうのが、この実習で。」
黒いメッセージパックの事は
話さなかった。
こうして話してみても
やはり感じるフォトンに違和感がある。
全てを話すのは危険な気がした。
「妙ではありますが、私にはあまり関係ありませんね。こんな袋小路
に来たと言うことは、ここも探索するおつもりで?」
13
「あ、ええ。まぁ。ここで最後っす。」
「でしたら、協力して差し上げます。これを。」
黒い天使はおもむろに右手を差し出して来た。手には何か握られ
ている。
僕は恐る恐る近づき
それを受け取った。
黒いメッセージパックだった。
「この奥に、置かれていました。」
僕が見つけた1個だけでは無かった。
いったいいくつあるんだろう。
そして、中身は一体。
「アイリス!黒いメッセージパックだ!」
岩陰に顔を覗かせるとそこにアイリスの姿は無かった。
嫌な汗が頬を伝っていく。
まさか、僕が黒い天使と会話している間に、何か・・・。
「色々疑問を抱いているご様子ですが、あなたと一緒に居た女性、先程
テレパイプで帰っていましたよ。」
口を大きく開け、目を丸くした。
14
恐らく僕の人生の中で最も間抜けな顔だったろう。
「丁度あなたが私に、怪しさ満点の説明をしていた時です。」
唖然としている中、少し遠くの方に目をやると、起動したテレパイ
プが見えた。
「では、私も用がありますので、ここで失礼します。」
右手を胸にあて、丁寧にお辞儀をした後、黒い天使はテレパイプを
起動する。
薄緑色の輪の中に身を包みながら、最後にこちらを振り返り
こう言い残した。
「・・・あと、おサボりは関心しませんね。今回だけは、内緒にしてお
きます。研修生さん。」
その一言にはっとした。
メッセージパックの回収という名目でサボっていると思われてい
た。
違う、違うんだ黒い天使さん
これには深い訳が・・・深くもないけれど
釈明しようと口を開けた時には
その姿はどこにもなかった。
15
黒いメッセージパックを発見し
黒い天使に出会った。
その天使から、もう1個の黒いメッセージパックを受け取る。
思考が巡る。
黒い天使という得体の知れない人は何者なのか
彼女は偶然黒いメッセージパックを拾ったのか
そしてこのメッセージパックの真意は・・・。
様々な思考が巡るが
今、これだけは言いたい。
「僕、サボってませんからーーーーーーーーーー!!!!」
ナベリウスに木霊した僕の声は誰にも届かないまま
青々とした空に消えていった。
16
Act:2 それは白昼夢のように
魂は存在する。
それは精神であり、心であり
どこの臓器にも属さない器官だ。
あぁ、そこの君。席を立つのは話を聞いてからにしようじゃない
か。
私は別に、宗教や道徳について話すつもりは無いんだ。
なぜ魂の話なのか。
それを話すために、まずは魂の役割から紐解いていこう。
魂の役割とはなにか。
命そのものだ、という者もいるかもしれないがそれはお門違いだ。
生きる為に必要な命だとしたら、その命とやらは何をしているのか
という話なんだ、これは。
私の思う魂の役割はこうだ。
〝記憶〞を基に
あらゆる思考、行動に関与する事。
脳が算出した結果に対し
それが正であるか否かを記憶から思考、予測し、判断する。
この魂は記憶と直結している。
記憶というデータベースが無ければ、否定も肯定もできない。
記憶が違えば、その判断も変わる。
記憶とは、その者が得てきた全てだからね。
魂はその性質で、人間をユニークなものに変えていく。
17
さて、ではここからが本題だ。
前述の通り、魂は記憶と直結しているとして
魂は同じ人間という器で、自分というユニークを作り出す
唯一の役割を持っている。
では、別の人間に
自分の記憶を上書きしたとしたら
どうなるだろう。
これにおける記憶は、それまでの経験はもちろん
知識においても網羅しているものとしたなら。
私の記憶をもつ全く別の誰かの魂は
いったい誰になっているだろうか。
モンタギューの演説議事録より抜粋
─────────────────────────────
─────
「おいおい・・・何だよ、何なんだよこれ!」
金髪で、僕より少し背の低いニューマンの男が狼狽する。
目の前には黒々とした虫型のダーカー、ダガンが
草を掻き分け、足を鳴らす。
『管制より連絡、惑星ナベリウスにてコードD発令!』
18
若い女性オペレーターの声が聞こえてきた。
コードDがなんなのか、僕には分からないが
緊急事態なのだろう。
見渡す限り敵しかいない。
修了認定試験だというのに、どうしてこんなことに。
考えている間にも
葉が擦り切れる音は近づいている。
戦わなくちゃ。
僕は腰にあるガンスラッシュを握り
構えた。
「そうだよな『相棒』。まずはこの状況をなんとかしなくちゃな!」
声の方に視線を向ける。
相棒・・・
そうだ。この隣に居る金髪のニューマンは相棒。
深く海のように青い瞳。
濃紺と黄色のコントラストが綺麗なコスチューム。
いや記憶にない。
誰だ、この人は。
どこで知り合ったんだ。
相棒と呼ばれるからには、そこそこの付き合いなんだろう。
でも僕は君を知らない。
19
そもそも僕はまだ研修中だったはず。
昨日なんてナベリウスのメッセージパックを拾っていたわけだ。
そんな僕がいきなり正規アークスに、なんてありえない。
周囲を囲んでいるダーカーだって
ナベリウスではよく見かけるし
危険な相手ではあるが、コード D・・・なんてものを耳にした事
もない。
突き詰めていけばどこまでも疑問が浮かんでくる。
でもなにより今確認しなくてはいけない事がある。
それは
「えっと、ごめんなさい。どちら様ですか?」
金髪のニューマンは緊張した表情を浮かべたまま
硬直している。
名前を忘れられた事が余程ショックだったのか、目も合わせてくれ
ない。
しばらく沈黙が流れた。
それはそうだよな、僕だって
仲のいい人から、どちら様、なんて聞かれたら。
20
アギニスがワンポイントを食らったような顔をしてしまう。
仕切り直しだ。
「あ、いやいやごめんなさい!僕記憶力は良い方なんですけどね?で
もどうしてもあなたの名前が思い出せなくて・・・。」
傷つけないように細心の注意を払い
【やはり分からない】事を伝えようとした結果
より傷つける言葉になってしまうのだと学んだ。
金髪のニューマンの表情は先ほどと何一つ変わらない。
眉一つ動かさない。これがアークスになる者の集中力か。
よくよく見ればまばたきすらしていない。
・・・それどころか肩も動いていない。
呼吸が止まっている。
「まさか・・・ありえるのか・・・。名前を忘れられたショックで立っ
たまま死んでしまうなんて・・・。」
僕は戦慄した。
恐る恐る、固まったままの金髪のニューマンに手を伸ばす。
せめて、まぶたを閉じて、やすらかに。
震える指先がまつげをかすめた瞬間
眼前に赤い文字が映し出された。
21
【エラーコード:630】
「あれ〜〜?私の調整、下手すぎ〜?」
明るい、という言葉の前に「無責任な程」を付けたくなる声
その声が耳に届いたと同時に
目の前の赤い文字が消え
金髪のニューマンの鼻がピクセル状に変化した。
その変化は連鎖し、顔に、体にと広がり、全身を覆う。
ナベリウスの地表、ダーカーすらも
視界に広がる景色が全てピクセル状に変化したと同時に
泡のように散り、空に吸い込まれていった。
僕はそれを目で追う。
澄み切った空が顔を覗かせる。
足元には無機質な青いパネルの床。
ここは惑星ナベリウスでもなんでもなく
VRルームだ。
「ん〜?システム自体に問題はなし!となると、君のマターボード・レ
プカが壊れてるのかなぁ?まぁいっか!」
22
姿は見えないが、言動から察するに大雑把な性格であり
きっと髪の毛はボサボサな人だろう。
声の主は、カリンという名前らしい。
通常、戦闘データ収集で使われる
この施設は、使用されていない区画を
研修生のトレーニング用として解放している。
データ収集で使用する時も
トレーニングで使用する時も
施設管理はこのカリンさんが担当しているそうだ。
「・・・えっと・・・カリンさん、このままだと僕、今日の実習終われ
ないんですけど、どうすれば・・・?」
誰も居ない VR ルームで虚空に話しかけるのは慣れない。
ただその場で喋れば良いのだろうけれど
言い訳のように「通信しています」といった素振りで
右手を耳にあててしまう。
「あ〜、どうしましょうね〜?とりあえず教官には終了って伝えてお
くから大丈夫じゃないかなぁ〜?」
本当にそれでいいのか、アークス。
帰還用のテレパイプが作動し
薄緑色の輪に体を収める。
「・・・ちなみにこのマターボード・レプカって、さっきみたいなエラー
23
よく出るんですか?」
「君がはじめてじゃないかなぁ〜?ま、終わりよければ全て良し!っ
てね」
終わってないし、なんにも良くないじゃないか。
手元にマターボード・レプカのデータを呼び出すと
ボードいっぱいに「か」の周りを円で囲んだ印が押されている。
おそらくカリンさんの「か」なのだろう。
こんな雑なものでいいのだろうか。
「本当に、それでいいのか・・・アークス・・・。」
今度は心の声でなく、口に出しながら
キャンプシップに戻る事にした。
─────マターボード・レプカとは
全情報の開示を宣言したアークスが
開発した体感型学習プログラム。
現在コールドスリープ中の守護輝士が実際に歩んだとされる歴史
を追体験し
もう一人の守護輝士、マトイ様との出会いから
【深遠なる闇】の出現までを辿る内容。
時間遡行という特殊な能力を駆使し、真の歴史を辿っていく。
次代の守護輝士になるのはあるいはあなたかもしれない・・・。
24
「真の歴史ね・・・」
僕はベッドに横になりながら
マターボード・レプカのパンフレットを読んでいた。
簡素なローテーブル
硬いベッド
安物の携帯端末
決して広いとは言えない部屋。
誰が来るわけでもないが、ザ・ブトンは2 枚
ローテーブルを挟む形で置いてある。
色気のカケラも無い部屋だ。
「しかし・・・とても・・・暇になってしまったな。」
このマターボード・レプカは
パンフレットにある通り、守護輝士の足跡を辿る体験型学習プログ
ラム。
実際に守護輝士が体感したことを、同じ時間だけ費やさなければな
らない。
今回の実習はそれだけ長い時間が確保されているわけだ。
1 枚目のマターボード・レプカの実習は1 週間。
25
丸いマス毎にストーリーがあり、その全てを閲覧、体験する。
初日にすべて終わってしまった僕は
つかの間の余暇をどうするか考えていた。
研修生なら、研修生らしく
ダーカーについて学んだり
自己鍛錬に励んだり、そういった過ごし方なのだろうけれど
それをやらなければならない、と言われないと
自発的に動けない僕は怠惰な人間なのだろう。
パンフレットをローテーブルに置き
隣に置いてある本に手を伸ばす。
雑誌A.R.K.Sという今どき珍しい紙媒体の雑誌。
分厚い見た目に反して内容は薄いが
暇を潰すには丁度いい。
「げ、今月もジャンさんの小言…160ページ…。」
僕はこの特集が嫌いだ。
160ページも挿絵無しにベテランアークスの昔話が書かれてい
るこの特集。
正直なところ、ページ稼ぎにしか思えない。
それでも買うのには理由がある。
時折各惑星のデートスポットを紹介しているからだ。
26
相手は居ないが
いざという時にこの知識が役立つと信じ
脳ミソに叩き込んでいる。
相手は居ないが。
ジャンさんの小言のページを避けるため
表紙から大きくツマみ
ページをめくろうとした時
携帯端末からメール受信音が響いた。
この受信音、"デロリ"と聞こえる事から
一部研修生はデロった、等と言っているが
全く流行っていない。
「・・・こ、この僕にメール・・・!?」
正直な所、僕にメールが届くなんて
ほとんどない。
「・・・まさか・・・変なサイトの広告をクリックして・・・」
真四角の封筒マークをタッチすると
宙にメールが映し出される。
送信者はアイリスだった。
─────────────
27
件名:最下位さん(笑)
本文:
きょうからの実習、全然進まない!
のんきに拾い物してる方が良かったよ!
うえの人がヤレって言ってるんだろうけど
ごーいんに体感させられてもね!
めんどう以外のなにものでもないよ!
んー、それだけ!レポート書く!
─────────────
「あ・・・・・・。」
じわりと額に汗が滲む。
アイリスの無駄に平仮名で作られた拙い文章に驚愕したわけでは
ない。
迂闊だった。
最後のレポート提出を忘れていた。
このままでは今回も、低評価のままだ。
今回も、というからには前回も、低評価だったわけだ。
28
昨日のメッセージパック回収実習の成績は
回収数0でダントツの最下位。
なぜなら、アイリスが僕の回収したメッセージパックも持っていた
からだ。
ご丁寧に最下位さんなんてあだ名まで付けてくれた。
そのアイリスの回収実績は 1 位。
なぜなら、僕の回収したメッセージパックも持っていたからだ。
そんな第1位さんに恨みはあれど、今はそれどころではない。
今回も低評価であれば、もしかしたら修了試験も受けられないかも
しれない。
聞いた事がある。
実力はあるが、座学ができず
何年も修了試験を受けられなかった研修生が居る、と。
「・・・考えろ、ディー。この状況を打破するには・・・。」
ベッドの上であぐらをかきアゴに指を当て思考を巡らせる。
想像でレポートを書くか
それとも守護輝士について書いてある記事を見つけ、それを写す
か・・・。
このピンチはチャンスだ。
エラーとはいえ、このスピードで終えた事にできれば
僕の評価はうなぎのぼり。
29
あとはこのレポート問題さえクリアできれば・・・
「・・・。」
「こんなんじゃ、アークスになれない、か。」
短く息を漏らし、メールを閉じる。
明日、もう一度マターボード・レプカをやろう。
1 日分遅れはあるけれど、しっかりと進めていこうじゃないか。
明くる日、僕は再びVRルームに向かう申請をした。
「あれー?君は昨日の子だよねーー?またやりに来たの?」
キャンプシップからテレプールを潜る直前に
カリンさんから通信が入る。
「この実習、最後にレポートを書かなくちゃいけなくて。見てないも
のを書く、なんて芸当は僕にできないから、また来ました。」
「真面目ですねーー!感心しちゃいますよー。準備は出来てるので、
テレプールに入ったらすぐに起動しますよー!」
30
「じゃあ、今度こそエラーの出ないように・・・行ってきます!」
数歩の助走をつけ、僕は空色に光に身を投げた。
幾重にも重なった青白い輪が
視界を横切る。
転送の時間、精神的負担を軽減するための視覚効果だと授業で学ん
だ。
ワームホールを通る間に自分を見失うと、永遠に転送されずワーム
ホールに閉じ込められるから
本当は自我を保つための演出
なんて噂話もあるが
僕はそんなオカルト信じないし
信じたら2度とテレパイプを使えないと思う。
怖いもの。
輪が途切れ、視界が暗転する。
僕は目を閉じ、意識を足に集中させる。
水の中を漂っているような感覚から
つま先、膝から順に重さを取り戻す。
頬を風が撫で、僕は目を開けた。
と、同時に口も開いてしまった。
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「・・・・・・・・・・え?」
眼前に広がる薄茶色の砂。
見上げれば首の骨が折れてしまうのでは、と思うほど高い塔が左右
に二つ。
どちらも火花を散らし、黒煙を上げている。
奥にも3つ塔の影が見えるが
砂煙で視界が悪く、距離が把握できない。
「塔が5本の砂漠の施設・・・採掘基地?」
資料でしか見た事がないが
5本の塔があるのは確か第二採掘基地だったか。
壁を設け、ダーカーの襲撃から守っているはずだけれど。
周囲を見回した後
足元に目をやると、曲がった鉄板が転がっていた。
「・・・僕が居るところが、元"壁"なわけか・・・。」
つまり、今この採掘基地はダーカーの襲撃を受け、壁を壊され、塔
も二本破壊されている。
劣勢なのだろう。
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だが周りにダーカーの姿はない。
「ここには・・・残骸だけ。なら奥に行くべきなんだろうけど・・・。」
嫌だな、行きたくないな。
実習が面倒だから、と言うより
命の危険から、と言おうか
本能が奥に進むのを躊躇わせる。
少し震える右足に手の平で叩き
おもむろに足を上げた。
ズン、と腹に響く地鳴りが聞こえたのはその時だ。
一寸遅れて最奥の塔から黒い煙が上がる。
直後、僕の背後で歯が浮くような音が聞こえ
どこからともなく、ダーカーの群れが姿を現す。
赤く光るダーカー特有の目は
振り向いた僕の視界一杯に広がっている。
「こ、こんな数のダーカー・・・戦えるわけが・・・」
腰にあるガンスラッシュに手をかけたが
僕の足はダーカーとは逆方向に駆けていた。
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逃げなくちゃ、殺されてしまう。
手にしたガンスラッシュはもはやリレーのバトンのように
振り子の役割しか成していなかった。
ダーカーの群れが動く。
無数の黒が土煙を上げながら蠢き、近づく。
足が竦んで、上手く走れない。
ぬかるみで足掻いているような感覚だ。
僕とダーカーの距離はどんどんと縮まり
ついにその影は重なった。
「も、もうダメだ!!!」
僕は走る事をやめ、後ろに向き直り
胸の前で腕を交差させた。
耐えきれるわけもないが、本能的にだろう。
僕は僕の身を守ろうとした。
「・・・・」
構えたはいいものの、一向に痛みは来ない。
薄目を開けると
ダーカーは僕を追い抜き、そのまま最奥の塔を目指し
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僕の横を駆け抜けていた。
一瞬死を覚悟した僕に安堵感と虚無感が同時に訪れる。
「いや・・・確かに僕は存在感が薄い・・・けど・・・。」
ダーカーは強いフォトンに感応し、襲いかかる性質がある。
僕も飛び抜けているわけではないが、大気中よりも多くのフォトン
を保有している。
思考を巡らせていてある仮説が浮かび上がった。
もしも、もしもだ。
1人のアークスよりも、もっと強力にフォトンが収束していたのな
ら・・・
ダーカーはそこに吸い寄せられるのでは。
ダーカーの向かった最奥の塔に目をやる。
「あの塔に・・・なにか秘密があるのか・・・?」
考え至った時視界に異変が起こった。
砂煙の中に、無数の光の玉が浮かび上がってきたのだ。
こんな光景は資料でも見た事がない。
光の玉は宙をゆっくりと漂いながら
徐々に高度を上げていく。
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それを目で追いながら空を仰いだ。
見渡せば、この採掘基地を円で囲ったように、光の玉が浮かんでい
る。
星空に身を投じたような感覚だ。
「こ、こんなの・・・雑誌のデートスポット特集にも・・・・・・!」
息を呑んだ。
とても美しい。
美しいけれど、とても危険な気がする。
根拠なんてない。でも直感的にそう感じた。
心拍数はどんどん上がっていく。
この胸の鼓動は、ともすれば
誰かに聞こえてしまうのではないか。
そう錯覚するほどだ。
「・・・ここから離れなくちゃ・・・。」
いつまでもこの光景を見ていたい気持ちもあった。
でも、危険だ。
僕の心臓がそれを証明している。
足を動かそうと意識したが、動かない。
力が入らなかった。
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「・・・・・・あ・・・れ?」
腕にも、首にも、全身に力が入らない。
立っている姿勢もままならなくなり
僕はその場で跪いた。
顔を上げる事で精一杯だ。
僕の体は、どうしてしまったのだろう。
考える間もなく
耳に激痛が走った。
遅れて、耳鳴りがしはじめる。
「痛っ!・・・なんなんだよ・・・これ!」
死を直感する。
志半ばで、それもこんな形で終わるのなら
誰でも良いからデートの一つでも誘っておくべきだった。
デートスポットを巡るだけ巡って
そして告白してフラれて
そんな事もしないまま・・・・
ふっ、と息を漏らす。
死の間際に頭をよぎるのが
こんな下らないとは思わなかった。
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でも仕方ないだろう。
人を好きになってた事くらい
僕にだって・・・・
耳鳴りがさらに大きくなる。
意識をそれに集中してしまったら今すぐ卒倒してしまいそうだ。
何も考えられない。
地面が僅かに震えている気がするが。
それが地面の震えなのか、僕の震えなのか
分からなかった。
もうこれ以上の耳鳴りには耐えられない
スピーカーを耳に付けられ
ボリュームを上げ続けられているようだ。
視界が歪み始めた時
静寂が訪れた。
耳鳴りも聞こえない。
でも、周りの音も聞こえない。
助かった・・・?
僕はそう口にしたが、僕の声も
僕の耳に届かない。
聴覚を失ったと自覚した時だった。
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"あなたが私を望むなら"
"私はあなたの剣になる"
目の前で聞こえたような
遠くから聞こえたような
とても不思議な声だった。
か細く、囁くようなその声が届いた時
僕の世界に音が戻る。
響く地鳴り
地面にヒビが走り、その欠片が宙に浮く。
視線を空に向けると
漂っていた光の玉は
次々に奥の塔のふもとに目掛けて飛んでいく。
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まるで流れ星のような勢いで
空に軌跡だけ残していきながら。
やがて塔のふもとがぼんやりと明るくなり
光の柱が天を突く。
その柱は白く輝きながら、光の玉を吸収し
肥大していく。
夜が訪れたのかと思った。
全ての光が柱に吸われたような錯覚。
柱の光はその大きさを増す事を止めず
僕の顔も照らしはじめる。
眩しさに目を細めた僕は
光の中に小さな小さな影を見つけた。
「・・・人・・・?女の子・・・?」
無数にあった光の玉が全て軌跡に変わった時
今度は光の柱が小さなその影に収束した。
〞だから私は・・・〞
また、声が聞こえた。
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その声は少しだけ震えていたように思う。
声がすると同時に僕の視界は光で埋め尽くされ
体が吹き飛ぶ感覚を覚えた。
体がバラバラになっていく。
いや、本当はバラバラになっていないかもしれない。
感覚が指先から、腕から、足から、無くなっていったから
僕はそう思ったんだ。
光で満ちた視界は、僕の体も視認出来ない程だった。
明るすぎて、何も見えない。
死ぬって、予想してたよりも
案外痛くもないんだな。
まぶたを閉じる感覚もないまま
視界から光が消え、僕は考える事をやめた。
どれくらい時間がたっただろう。
光の次に闇がつつみ
思考だけが戻ってきた。
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ついに僕は思念だけになって・・・
ああ、そうか。どこかの本で見た事がある。
死んでしまった人は
思念だけになったあと、テンゴクとかいう所に行くと
信じられている文化があったな。
そうか、オカルトだと思っていたけれど
実はあの文化は正しかったのか。
「ちょっとちょっと、大丈夫ですかー?」
ふふ、どうやらテンゴクでは随分呑気な起こし方をするらしい。
今しがた命を落とした戦士に
ちょっとちょっと、とは間抜けだね。
「もーしもーし!ここは仮眠室じゃありませんよ〜!」
良いじゃないか、少しくらい休んでも。
僕は今とても疲れているんだ。
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でも、誰かの声に似ているね。
そうだ。カリンさん。
直前に聞いた声だから、そう思うのかな。
そうだ、天の声さん。
少しお尻が熱いんだけど、理由を教えてくれないかな。
これから僕は〞テンシ〞の尻尾でも生えるのかい?
僕の知ってる〞テンシ〞に尻尾はないけれど。
それにしても、随分熱い・・・
コゲるように・・・
「・・・・ッあっつい
!!!!!」
仰向けで寝ている状態から
体にバネでも仕込まれたんじゃないかという程跳ねた。
跳ね起きた。
咄嗟に腰につけていたアイテムパックを外し、床に投げる。
うっすら煙まで上がっているじゃないか。
僕のお尻は焼いて無くなってしまったのかと思い
今度は尻をまさぐる。
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「突然起きたかと思えば、随分賑やかですねー?」
先程から語りかけてきていたカリンさんに似ている天の声は
単純にカリンさん本人の声だった。
と、いうことは
その声で、冷静になった僕は
周囲を見渡す。
ここはテンゴクでもどこでもない。
キャンプシップに戻っていた事に気付く。
「・・・あ、あの、カリンさん!マターボードって、こんなに鬼気迫る
ものなんですか・・・!?」
ほのかに熱を帯びた尻を撫でながら
右手を耳にあてる。
このクセは抜けない。
「あれー?変な所でも打ったのかな〜?まぁいっか!」
「全然よくありませんしどういうこと!」
尻をなでる速度を上げながら
訴えかけている僕は相当滑稽な姿だったろう。
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「覚えてないんですか〜?君、テレプールに飛び込んだ後、すぐキャン
プシップに投げ返さたんですよ〜?なかなかない現象ですから、珍し
いデータが取れました〜!」
高悦した表情が声から伝わってくる。
僕は死を覚悟したというのに、この人は!
でもどういう事だ。
僕は随分長い間マターボードを閲覧していたはずなのに
カリンさんの話を聞く限り、僕は一瞬で戻ってきて
そのまま寝ていた事になっている。
一瞬で戻って、寝て・・・
「僕、サボってたわけじゃないですよ。」
「ああ!そういう事だったんですね!ごっめんなさ〜い、起こし
ちゃって!」
「ち、違います!本当にサボってたわけじゃなくて!」
墓穴を掘った。
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その後いくら話しても、カリンさんは相手にしてくれなかった。
「あ、君!サボっているところ申し訳ないんだけど、新しい使用申請が
来ちゃったから今日はここまでね〜!」
サボってません、サボってません、僕はサボってなんか
ぶつぶつと口にしながら
放り投げたアイテムパックを拾い
キャンプシップを後にした。
僕は色気のない部屋に帰り
荷物を置きながらある事に違和感を覚えた。
「・・・そういえば、なんでお尻が熱かったんだ。」
テレプールから放り投げられたり
マターボードの中で死を体感したり
色々と不可解な事はあったが
お尻燃焼事件も
僕の体に実際に起きた事の一つだ。
煙を上げていたアイテムパック。
いったい何が燃えていたんだろう。
僕は手に持っていたアイテムパックを開いた。
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溶けたモノメイトやアトマイザーの奥に
黒いメッセージパックが顔を覗かせていた。
「あ・・・・・。」
すっかり忘れていた。
昨日のメッセージパック回収実習のとき
黒い天使と呼ばれている人から
これを手渡されていた。
別にこれが欲しくて回収数0で報告したんじゃない。
僕を置いて、先に戻っていたアイリスが
回収数0と報告してしまっていたんだ。
僕がキャンプシップに戻った時には既にシルヴァ教官が
仁王立ちで僕を待っていた。
僕が口を開くよりも先に
ゲンコツと説教が始まってしまい
最後のこのメッセージパックの事を報告しないままだった。
「これ・・・今からでも報告したら評価も少しは・・・」
アイテムパックから取り出そうと
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その黒々とした物を掴む
「っアッツ
!!!!!」
まだ熱かった。
堪らず床に放り投げる。
しまった、ここは賃貸。
床が燃えてしまっては!
床に落ちたメッセージパックはその衝撃で作動し
宙に文字を映し出す。
モンタギューの議事録、という文字を見つけ
僕はその文章に釘付けになった。
指をアゴに当て、口を尖らせながら
そのモンタギューという人物の言葉を追う。
最初のメッセージパックの内容は覚えている。
【歴史】についてだ。
今回のメッセージパックには【魂】について。
この人はいったい何をしていた人なんだろう。
読み終えるか否か、という所で
黒いメッセージパックはバチバチと火花を上げ
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宙に映していた文章も乱れ
消えてしまった。
立ったまま、アゴに指を当てたまま
頭を捻る。
最初のメッセージパックの内容、そして今回のも
専門知識のない僕でも分かるが、とても危険な研究をしていた人な
のだろう。
加えて今回のマターボード実習での出来事。
放り返された理由は分からないけれど
戻ってきた時に異変があったのはこのメッセージパックだけだ。
でも・・・僕は一番最初にエラーが出た時も
この黒いメッセージパックを入れたままだったはずだ。
どうして二回目だけ、あんな事に?
投影をやめた黒いメッセージパックは
僅かに煙を上げている。
それはまるで、何かの狼煙のようにも見えた。
僕は、とんでもない事に巻き込まれているのかもしれない。
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