p300-317 凝固・線溶・血小板 竹尾氏4c...血栓止血誌24(3):300~317, 2013...

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血栓止血誌 24 (3):300~317, 2013 ◆凝固・線溶・血小板タンパク質の機能発現機構◆ 1. はじめに フィブリノゲンは,α-トロンビンによる限定 分解を介して不溶性フィブリンクロットを形成 し,止血栓形成で重要な役割を果たすとともに, 種々の細胞とも相互作用する.その血漿濃度は2.5 ~3.0mg/mL(約 9μM)であり,これはアルブミン, IgG,リポ蛋白質,ハプトグロビンに次いで 5 番 目に高く,全血漿蛋白の約 5%を占める.肝実質 細胞で合成・分泌され 1 日当たりの産生量は約 2 グラムで,血中に 80%,組織液中に 20%の割合 で存在し,血漿中での半減期は 3~4 日と言われ ている. 本稿では,最近の報告を基に,i)フィブリノ ゲンの分子構造,ii)フィブリンネットワーク形 成とフィブリンの架橋反応,iii)フィブリンへ のトロンビン結合性とその抗トロンビン作用, iv)フィブリノゲンおよびフィブリンに親和性を 示す蛋白質,v)翻訳後修飾およびその病態との 関連,vi)フィブリン接着剤(フィブリノゲンの 臨床応用の 1 つとして),vii)フィブリノゲンの 分子進化について概説する.なお,フィブリノゲ ンおよびその周辺に関するレビューは,過去にも 幾度か本誌等で取り挙げられている 1)‐ 5) 2. ヒトフィブリノゲンの分子構造 フ ィ ブ リ ノ ゲ ン は, 質 量 数 67kDa の Aα鎖 (610 残 基 ),56kDa の Bβ 鎖(461 残 基 ) お よ び 47.5kDa のγ 鎖(411 残 基 ) の 3 種 の ポ リ ペ プチド鎖からなり,それらが 29 個のジスルフィ ド結合により連結し,340kDa のホモダイマー, (Aα-Bβ-γ) 2 を形成している ※1 .電子顕微鏡に よる観察などからフィブリノゲンは,1-A 6) 示すように,外側に位置する 2 つの D 領域,中 央に位置する 1 つの E 領域,および 2 つのαC 領域からなる.外側に位置するDやαCのペアは, 三重螺旋構造のコイルドコイルセグメントを介し て中央の E 領域に連結し,全長 45nm の細長い 構造を示す.E 領域は,各鎖のアミノ(N )末端 のジスルフィド結合によって球状に近い構造を形 成し,一方,D 領域は主に Bβ鎖とγ鎖からな り,そのカルボキシル(C )末端側でのジスルフィ ド結合により球状様の構造をとる.また,αC は *1 一般財団法人化学及血清療法研究所蛋白製剤研究部 〔〒 860-8568 熊本市北区大窪 1-6-1〕 Therapeutic Protein Products Research Department, The Chemo-Sero-Therapeutic Research Institute, KAKETSUKEN 〔1-6-1 Okubo, Kita-ku, Kumamoto 860-8568, Japan 〕 Tel: 096-344-2183  Fax: 096-344-9234  e-mail: [email protected] *2 一般財団法人化学及血清療法研究所監事 *3 一般財団法人化学及血清療法研究所顧問 フィブリノゲンの多様性 ―その構造と機能,および分子進化について― 竹尾和寛 *1 ,中垣智弘 *2 ,岩永貞昭 *3 The diversity of fibrinogen;its structure, function and molecular evolution Kazuhiro TAKEO *1 , Tomohiro NAKAGAKI *2 , Sadaaki IWANAGA *3 Key words: Fibrinogen, Fibrin, α-Thrombin, Post-translational modification 竹尾和寛 2008 年 熊本大学薬学部 卒業 2010 年 熊本大学大学院薬学教育部博 士前期課程 修了 同 年 化学及血清療法研究所 入所

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血栓止血誌 24(3):300~317, 2013

◆凝固・線溶・血小板タンパク質の機能発現機構◆

1. はじめに

フィブリノゲンは,α-トロンビンによる限定分解を介して不溶性フィブリンクロットを形成し,止血栓形成で重要な役割を果たすとともに,種々の細胞とも相互作用する.その血漿濃度は2.5~3.0mg/mL(約 9μM)であり,これはアルブミン,IgG,リポ蛋白質,ハプトグロビンに次いで 5 番目に高く,全血漿蛋白の約 5%を占める.肝実質細胞で合成・分泌され 1 日当たりの産生量は約 2グラムで,血中に 80%,組織液中に 20%の割合で存在し,血漿中での半減期は 3~4 日と言われている.

本稿では,最近の報告を基に,i)フィブリノゲンの分子構造,ii)フィブリンネットワーク形成とフィブリンの架橋反応,iii)フィブリンへのトロンビン結合性とその抗トロンビン作用,iv)フィブリノゲンおよびフィブリンに親和性を示す蛋白質,v)翻訳後修飾およびその病態との関連,vi)フィブリン接着剤(フィブリノゲンの臨床応用の 1 つとして),vii)フィブリノゲンの分子進化について概説する.なお,フィブリノゲ

ンおよびその周辺に関するレビューは,過去にも幾度か本誌等で取り挙げられている 1)‐5).

2. ヒトフィブリノゲンの分子構造

フィブリノゲンは,質量数 67kDa の Aα鎖(610 残基),56kDa の Bβ鎖(461 残基)および 47.5kDa のγ鎖(411 残基)の 3 種のポリペプチド鎖からなり,それらが 29 個のジスルフィド結合により連結し,340kDa のホモダイマー,

(Aα-Bβ-γ)2 を形成している※1.電子顕微鏡による観察などからフィブリノゲンは,図 1-A 6)に示すように,外側に位置する 2 つの D 領域,中央に位置する 1 つの E 領域,および 2 つのαC領域からなる.外側に位置するDやαCのペアは,三重螺旋構造のコイルドコイルセグメントを介して中央の E 領域に連結し,全長 45nm の細長い構造を示す.E 領域は,各鎖のアミノ(N)末端のジスルフィド結合によって球状に近い構造を形成し,一方,D 領域は主に Bβ鎖とγ鎖からなり,そのカルボキシル(C)末端側でのジスルフィド結合により球状様の構造をとる.また,αC は

* 1 一般財団法人化学及血清療法研究所蛋白製剤研究部 〔〒 860-8568 熊本市北区大窪 1-6-1〕Therapeutic Protein Products Research Department, The Chemo-Sero-Therapeutic Research Institute, KAKETSUKEN

〔1-6-1 Okubo, Kita-ku, Kumamoto 860-8568, Japan〕Tel: 096-344-2183  Fax: 096-344-9234  e-mail: [email protected]

* 2 一般財団法人化学及血清療法研究所監事* 3 一般財団法人化学及血清療法研究所顧問

フィブリノゲンの多様性―その構造と機能,および分子進化について―竹 尾 和 寛 *1 , 中 垣 智 弘 *2 , 岩 永 貞 昭 *3

The diversity of fibrinogen;its structure, function and molecular evolutionKazuhiro TAKEO*1, Tomohiro NAKAGAKI*2, Sadaaki IWANAGA*3

Key words: Fibrinogen, Fibrin, α-Thrombin, Post-translational modification

竹尾和寛

2008 年 熊本大学薬学部 卒業2010 年 熊本大学大学院薬学教育部博

士前期課程 修了 同 年 化学及血清療法研究所 入所

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延無しにフィブリンに変換される.この固相上への吸着は,低濃度の場合 “side-on” に(フィブリノゲン分子が固相上に横たわるように),高濃度の場合には “end-on” に(フィブリノゲン分子が固相上に立つように)に吸着するが 10),“end-on”に吸着したフィブリノゲンやフィブリンに吸着したフィブリノゲンがフィブリンに変換されるときの FpB 遊離の量は,FpA 量よりずっと多いという.FpB が強力な走化性を示すことから,傷害部位へ細胞を引き寄せるなど,生理的な意義があると考察されている 11).

3. フィブリンネットワークの形成 12)と架橋反応

フィブリン形成は,α-トロンビン切断によりE ドメイン内の EA(ノブ A ともいう)と呼ばれる重合化部位を露出させることにより開始される.トロンビンによる Aα鎖の Arg16-Gly17結合の切断により新しい N 末端として露呈するGly-Pro-Arg-Val が EA として機能し,近接する別のフィブリン分子 D ドメイン内のγ鎖 337-379 に位置する binding pocket(Da,γhole,あるいは hole a という)と相互作用する.このEA:Da(middle-to-end)会合により,E と D の両ドメインが交互に重なり合うように配列し,二重鎖のプロトフィブリルを形成する.Gly-Pro-

Aα鎖の C 末端部分からなり,相互作用部位を形成するように中央の E 領域に折り畳まれている.プラスミンは主に棒状のコイルドコイルセグメントを分解するため,XIIIa 因子によって架橋されたフィブリンがプラスミン分解を受けると,D ダイマーと E 画分が検出される.

フィブリノゲンにはこの基本構造に加え,γ鎖にはバリアントであるγ’が存在する.これは,alternative splicing によりγ鎖の C 末端 407 残基に続いてさらに 20 残基のアミノ酸が付加しており,2 個の硫酸化チロシンを含む.産生されるフィブリノゲンの約 8%がγ’を含むが,その大部分は,ヘテロダイマー(γ’/γ)として存在し,ホモダイマー(γ’/γ’)は 1%以下である 7).

フィブリノゲンはα-トロンビンにより限定分解を受けてフィブリンに変換されるが,その際フィブリノペプチド A(FpA)および B(FpB)という 2 種類のペプチドが遊離する.それぞれは Aα鎖および Bβ鎖の N 末端に位置し,16 残基および 14 残基からなる.通常のいわゆる溶液中の反応では,最初に FpA が,次に FpB が遅れて遊離し,フィブリンに変換される 8).一方,血管障害部位などに吸着した「固相上」というべき場でのフィブリノゲンは,そのコンフォメーションを変化させ,種々の細胞や凝固因子との相互作用において有意な役割を果たすだけでなく 9),溶液中のフィブリノゲンとは異なり FpB 遊離の遅

αC

E DomainD Domain

Da

D:DγXL

γXL

DaD:D

FPAFPB

FPB

αC

図 1-A フィブリノゲン分子の構造(Mosesson MW, J Clin Invest. 1996;97:2342-2350. Fig.1 を参考に作成)

フィブリノゲンは,質量数 67kDa の Aα鎖(610 残基),56kDa の Bβ鎖(461 残基)および 47.5kDa の γ鎖(411 残基)の 3 種のポリペプチド鎖からなる.それらが 29 個のジスルフィド結合により連結し,340kDa のホモダイマー,(Aα-Bβ-γ)2 を形成しており,外側の 2 つの D 領域,中央の E 領域,および 2 つの αC 領域からなる.外側に位置する D や αC のペアは,三重螺旋構造のコイルドコイルセグメントを介して中央の E 領域に連結し,全長 45nm の細長い構造を示す.E 領域は,各鎖の N 末端のジスルフィド結合によって球状に近い構造を形成し,一方,D 領域は主に Bβ鎖と γ鎖からなり,その C 末端側でのジスルフィド結合により球状様の構造をとる.また,αC は Aα鎖の C 末端部分からなり,相互作用部位を形成するように中央のE領域に折り畳まれている.

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重合反応も遅延する.これらの知見から,β鎖15-42 は Gly-Pro-Arg-Val とともに,EA の形成に関与すると考えられている.

線状(二次元)構造のプロトフィブリルは,その後,“厚み” を持った三次元構造のフィブリルを形成するように側面の会合(lateral association)を受け,フィブリン繊維を形成し,繊維の伸長過程で枝分かれすることによりフィブリンネットワークを形成する.フィブリンネットワーク内では,2 つのタイプの “分岐”(branch junction)が認められる.1 つは,二重鎖のフィブリルが集まり,四重鎖のフィブリルを形成するように別のフィブリルと lateral association する際に起きるもので,“bilateral” junction(二面合流)と呼ば

Arg-Val 配列の合成テトラペプチドを添加すると,この重合反応が阻害されることから,重合反応におけるこの配列の重要性は明らかである.

一方,この新しいアミノ末端として露呈するGly-Pro-Arg-Val 以外にも,重合化部位として機能している部位が,β鎖 15-42 内に存在する.すなわち,FpA だけを選択的に除去する蛇毒(Borthrops atrox)由来のプロテアーゼのレプチラーゼでフィブリノゲンを処理してもフィブリンの重合反応は起きるが,レプチラーゼによる

(des-(Bβ1-42)-fibrinogen)※2 の重合反応は著しく遅延することから,Bβ15-42 が重合化部位の1 つとして機能しているという.また,Bβ9-72を欠失した異常フィブリノゲン New York I の

Fibrinogen

Protofibril

Fiber

Clot

Fibrinogen

Protofibril

Fiber

Clot

図 1-B フィブリンの重合(模式図)(Weisel JW, Adv Protein Chem. 2005;70:247-299. Fig3, Fig.6, Fig.7 を組み合わせて作成)

フィブリン形成は,トロンビンによる Aα鎖切断により E ドメイン内の EA と呼ばれる重合化部位を露出させることにより開始される.EA は近接する別のフィブリン分子 D ドメイン内の γ鎖 337-379 に位置する binding pocket(Da)と相互作用する.この EA:Da

(middle-to-end)会合により,E と D の両ドメインが交互に重なり合うように配列し,二重鎖のプロトフィブリルを形成する.その後,トロンビンによる Bβ鎖の切断により,EB が新たな N 末端として露呈し,D ドメインβ鎖内の相補的な binding pocket(Db)と相互作用すること,さらに Aα鎖由来のαC 同士の分子間相互作用が広範なフィブリンネットワーク形成において重要な役割を果たす.フィブリンネットワークは,トランスグルタミナーゼである XIIIa 因子による架橋反応によって一層安定化される.

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ロテアーゼで FpA だけを除去してもフィブリン重合反応は起きることから(ただし,トロンビンにより FpA および FpB を除去したフィブリンとはその性状が異なる),EB:Db の相互作用は,EA:Da のそれに比べ直接的でないといえる.すなわち,EB:Db 会合の結果,分子内のコイルドコイルセグメントからβc 領域が引き離されるような D ドメインβc の再配置が惹起され,分子間のβc:βc コンタクトを促進する結果,D:D 間(end-to-end)の lateral association を引き起こす.また,lateral association では,αC も重要な役割を果たす.Aα鎖由来のαC(Aα鎖221-610)は,フレキシブルセグメントの αC コネクター(Aα鎖 221-391)と,独立して折りたたまれたコンパクトなセグメントのαC ドメイン(Aα鎖 392-610)からなる.αC の C 末端を欠いたフィブリノゲンから形成されたフィブリンクロットは,トロンビン時間が延長し,濁度が低下し,そして細いファイバーを形成することからも,プロトフィブリルの lateral association にαC ドメインが重要な役割を果たしていることがわかる.フィブリノゲン中のαC は,分子内 E

れる.さらに別のフィブリルが lateral associationし,多重鎖構造を有するようになる.もう 1 つは,“equilateral” junction(三面合流)と呼ばれ,3つのフィブリン分子間の相互作用によって形成されるもので,3 つの二重鎖フィブリルが合流する.equilateral junction は,フィブリノペプチドの切断反応の速度が遅いとき(低濃度トロンビンでの反応),高頻度に形成され,そのネットワークはより分岐しており,フィブリンマトリックスは締まった性状(多孔性が低い)となる(図 2).

Lateral association には,E ドメイン内の別の重合化部位の EB が関与する.EB はトロンビンにより Bβ鎖が切断され,FpB(Bβ1-14)を遊離することにより新たな N 末端として露呈するGly-His-Arg-Pro 配列(ノブ B)で,D ドメインβ鎖内の相補的な binding pocket(Db,βhole,あるいは hole b という)と相互作用することにより,フィブリン形成において重要な役割を果たしている.しかし,ノブ A 配列を含む合成ペプチド(Gly-Pro-Arg-Val)が重合反応を阻害するのに対して,ノブ B 配列を含む合成ペプチドにはそうした作用がなく,また,蛇毒由来のプ

Bilateral junction

Equilateral junction

Bilateral junction

Equilateral junction

γ

γ

図 2  プロトフィブリルの枝分かれ,会合およびγ鎖の架橋(Mosesson MW, J Thromb Haemost. 2005;3:1894-9043. Fig.2 を参考に作成)

フィブリン線維には,2 種類の分岐が確認される.1 つは,二重鎖フィブリルが別の二重鎖フィブリルと横方向に会合して形成される四重鎖フィブリルで,Bilateral junction と呼ばれ,フィブリルの横方向への会合によりこの多重鎖構造が形成される.もう 1 つは,Equilateral junction と呼ばれ,3 つのフィブリン分子の会合により 3 つの二重鎖フィブリルが形成される.Equilateral junction は,トロンビン濃度が薄く,フィブリノペプチドの開裂が遅いときに形成され,このような条件では網目は分枝が多くなり,フィブリンマトリックスはより密な構造となる.また,側面の会合である Lateral association には,αC 領域が重要な役割を担う.FpB の遊離後に E ドメインから解離し,αC 同士で相互作用できるようになる.D ドメインのγ鎖にあるγXL 部位は,γ鎖の架橋形成部位と重複する部位である.γXL 部位間での分子内の会合は,XIIIa 因子を介した架橋形成の領域が整列するのに重要である.また,D:D 部位は,ポリマー形成におけるフィブリン分子の end-to-end での適切な配置に必要である.

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因子の欠損患者・マウスは出血傾向を示す 16).架 橋 反 応 は,γ-γ 鎖 お よ びα-α 鎖 間 で 起 きる.XIIIa 因 子 は,γ鎖 の Lys406 と Gln398 間で分子間ε-(γ-glutamyl)lysine 結合を触媒し,γダイマーを形成する.フィブリン凝集を牽引する Ea:Da 相互作用は,γXL 部位でのγ鎖対の逆平行の配置を促進するため,架橋速度が加速される.重合したフィブリンでのγ鎖の架橋は,フィブリルストランド間で横になされているのか(transversely),あるいは,フィブリルの各ストランドに沿って縦になされているのか

(longitudinally)については結論を得ていないが,Mosesson12)は,Roska ら 17)の報告を基に前者であるとしている.その理由は,フィブリンの粘弾性に基づくとしている.すなわち,架橋フィブリンを牽引したとき最大で 1.8 倍まで伸張し,牽引を止めると復元する 17)が,この結果は,「“横に”架橋した二重鎖フィブリルが一重鎖フィブリルに変形することで最大で 1.8 倍まで伸張し,牽引を止めると,このγ鎖間の架橋により復元する」と解釈している(図 3).

また,同じ型の分子間ε-(γ-glutamyl)lysine結合が,α鎖間でγ鎖間より遅い速度で起こり,その結果,αポリマーが形成される.その正確な架橋部位については永らく不明であったが,最近,次の 9 つの特異的な架橋部位が同定された(α 鎖 内 の Gln223-Lys508, Gln223-Lys539, Gln237-Lys418, Gln237-Lys508, Gln237-Lys539, Gln237-Lys556, Gln366-Lys539, Gln563-Lys539, Gln563-Lys601)18).しかし,これらの架橋が in vivo でも起きるという証拠はない.

ドメインに非共有結合しているが,FpB 遊離後は解離し,他のαC との分子間相互作用ができるようになる.それ故,より広範なフィブリンネットワーク形成を促進することになる.また,陰性荷電を帯びた FpB が除去されることで,イオン的な反発が消失することも,lateral associationの促進に役立っている.

一方,フィブリンネットワークの構造は,トロンビンや Ca2+等その形成に直接関与する因子以外の成分によっても大きく影響される.例えば,トロンビンによって活性化された血小板濃染顆粒から放出されるポリ燐酸は,トロンビン時間には影響を与えないものの濃度依存的にフィブリンファイバーの厚さを高めることにより,フィブリンクロットの濁度を最大で 3 倍まで高め,また,線溶耐性も高める 13).動脈硬化や血栓症との関連が示唆されているホモシステインも基本的にはポリ燐酸と同様な効果を示す 14).また,種々の細胞で発現し,コラーゲン線維形成の制御因子として機能するプロテオグリカンのデコリンは,フィブリノゲン D 領域に結合しクロット形成を遅延させる.デコリン存在下で形成されるファイバーは細く,線溶耐性も低下する 15).

それぞれの D ドメインのγ鎖領域には,フィブリンやフィブリノゲンの会合および架橋に関与する 2 つの自己会合部位(γモジュール),すなわち,“γXL” と “D:D” が含まれる(図 1-A).γXL の部位は,γ鎖の架橋部位と重なっている.2 つのγXL 部位での分子間会合により,XIIIa 因子を介したトランスグルタミネーションが促進され,架橋領域の “配置” がなされる.各 D:D 部位は,γモジュールの残基 275-300 間にあり,D ドメインの外側に位置している.これらの部位は,フィブリンポリマー形成におけるフィブリン分子の end-to-end の会合がなされるための適切な配置に必要である.各 D:D 部位の相互作用が欠損している異常フィブリノゲン Tokyo II

(γR275C)では,フィブリンポリマーの形成が遅延している.

フィブリンネットワークは,トランスグルタミナーゼである XIIIa 因子による架橋反応によって一層安定化されるが,この XIIIa 因子による架橋反応は生理的に極めて重要であり,事実 XIIIa

図 3  プロトフィブリルの粘弾性的挙動γ鎖で共有結合したフィブリルは伸縮性を示し,二重鎖のフィブリルは,最大 1.8 倍まで引き伸ばされる.

竹尾,ほか:フィブリノゲンの多様性―その構造と機能,および分子進化について― 305

症を発症する.②先天性の無フィブリノゲン血症患者で,特に,治療用フィブリノゲン製剤の輸注時に血栓塞栓症を発症することがある.これらの患者は出血傾向にあるため,トロンビンが産生されやすく,また,フィブリンにトラップされないため循環血中トロンビンレベルが高く,血小板も活性化されやすい.こうした状況下でのフィブリノゲン製剤の輸注は,塞栓形成を誘発することになる 24).③無フィブリノゲン血症患者の血漿では,トロンビン形成のレベルが高まっているが,in vitro でフィブリノゲンを添加することによりそのレベルは正常化される.γ’を含まないフィブリノゲン 1(γ/γ)に比べてγ’を含むフィブリノゲン 2(γ/γ’)の添加の方が,トロンビン生成レベルの正常化により効果的であるという事実が,このプロセスでフィブリノゲン,特に,γ’を含むフィブリノゲンの役割の重要性を示唆している 25).

5. フィブリノゲンおよびフィブリンに親和性を示す蛋白質

種々の蛋白質がフィブリノゲンやフィブリンに親和性を示すことが知られているが,これらの相互作用の意義について以下に述べる.また,それら分子間相互作用の解離定数(Kd)を表 1 にまとめた.

5.1  線溶因子プラスミノゲンや tPA に対する結合部位は,

フィブリノゲンでは隠れており(cryptic),フィブリンに変換されて初めて出現する.これらのフィブリンに対する Kd はそれぞれ,320nM26),tPA のそれは 360nM27)で,両者に共通する結合部位は,フィブリノゲン D ドメインに相当する Aα鎖 148-160 に局在している.特に,Aα157Lysがクリングルとの相互作用に重要という.また,γ鎖 312-324 は tPA のみの結合部位として機能している.

線溶阻害因子のα2-アンチプラスミン(α2-AP)は,重合したフィブリンには結合するものの

(Kd=102nM,また,プラスミノゲン共存下でのそれは 25nM),溶液中のフィブリノゲンには結

4. フィブリンへのトロンビン結合性

α-トロンビンが基質であるフィブリノゲンから FpA と FpB を特異的に切断してフィブリンに変換する際,トロンビン(分子)の中にフィブリノゲンを認識・結合する部位があり,これを“exosite 1” という.興味深い事にこの exosite 1は,フィブリノゲンのみならず,フィブリンとも結合する.従ってある条件下では,生成物であるフィブリンはトロンビンに結合したままとなり,トロンビン活性を阻害する様にも見える.この凝固している血漿内でのフィブリン形成に基づくトロンビン結合活性は,最初,Seegers19)によってアンチトロンビン I(AT-I)※3 と命名された.AT-I には低親和性と高親和性の 2 つクラスがあり,1 つは,E ドメイン内に 2 箇所ある低親和性結合部位で,他は,γ’を含む D ドメイン内の高親和性結合部位である 20).フィブリンの低親和性トロンビン結合活性は,基質のフィブリノゲンとの相互作用部位であるトロンビン exosite 1 との結合能が残存していることを示しており,フィブリンのα,β,γ鎖のアミノ末端残基がその結合に関与している.フィブリノゲンやフィブリン内の D ドメインに含まれる高親和性結合部位は,γ’鎖 414-427 の間に位置しており,γ’418 と422 の硫酸化 Tyr 残基がその結合活性を高める.トロンビン exosite 2 はγ’鎖と相互作用する 21).

フィブリンやその分解産物の FDP に結合したトロンビンに血栓形成促進能が残存しているかについては議論の分かれるところである.フィブリン血栓内のトロンビンはその凝固活性を保持していることを支持する報告もあり 22),フィブリンはトロンビン活性を隔離し,かつ抑制するという前述した AT-I 活性が,現在,広く受け入れられている訳ではない.一般的には,AT-I の欠乏や異常は,血栓症のリスクファクターと考えられてはいないが,AT-I に相当する領域の異常は,血栓症のリスクファクターとなりうることは,以下の知見から推定される.

①トロンビン結合能が低下しているフィブリノゲン New York I(BβGly7-Leu72 が欠損)やNaples I(Bβ68Ala が Thr に置換)23)のような分子異常症の患者は,重度の静脈や動脈血栓塞栓

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は可逆的でかつ時間および温度依存性で,Ca2+に依存しないこと,また,300mM 以上の食塩濃度で結合の完全な阻害が起こるという.Kd は 10nMで,血漿中の XIII 因子濃度はそれより 7 倍高いことから,XIII 因子は血中ではフィブリノゲンに結合して循環していることが示唆される 29).一方,フィブリンは XIIIa 因子の基質として機能するが,血漿由来の XIII 因子(2 つの a サブユニットと 2 つの b サブユニットを含む:a2b2 と略)および血小板由来の XIII 因子(2 つの a サブユニットのみを含む:a2 と略)とフィブリンの結合について ELISA により調べられている.その結果,①Kd は a2b2 で 0.2μM,a2 で 14μM,②a2b2 でフィブリンの結合を飽和させても,a2のフィブリンへの結合に影響しない,③フィブリンは血漿 XIII 因子活性化を促進したが,血小板XIII 因子の活性化は促進しないことが分かった.従って,血漿 XIII 因子の b 鎖は,単に a2b2 のフィ

合しないことから,フィブリノゲン結合部位はcryptic であることが示唆される(但し,プレート上に固相化しコンフォメーションの変化したフィブリノゲンには結合し,その Kd は 179nM).その結合部位を決めるため,種々のフラグメントを用いて実験を行い,E ドメインには結合せずD ドメインに結合すること(D ダイマーに対するKd は 94nM,プラスミノゲン存在下でのそれは5.5nM),また,各種 Aα鎖フラグメントを用いた実験から,α2-AP は Aα鎖 504-610 で相互作用することが示された(Kd=123nM).α2-AP は,フィブリンに高い親和性を有することで XIIIa 因子による架橋を受けやすくし,それが線溶の初期段階を制御すると考えられている 28).

5.2  XIII 因子血漿から調製した I-125XIII 因子のフィブリノゲ

ンビーズへの結合実験から,I-125XIII 因子の結合

表 1  フィブリノゲンおよびフィブリンに親和性を有する蛋白質の解離定数(Kd)

蛋白質名解離定数(Kd)

測定方法フィブリノゲン フィブリン

α-トロンビン - 2.3nM20) RIA*1

プラスミノゲンⅰ) 結合せず 26) 320nM26) RIAtPA 結合せず 27) 360nM27) RIAα2-AP*2 結合せずⅱ)28) 102nM28) SPR*3

XIIa 因子 3.0nM43) 2.5nM43) SPRXIII 因子(a2b2) 10nM29) 200nM30) RIA, ELISAフィブロネクチン 結合せず 7.2nM36) ELISAHRG*4 8.8nM33) 19nM33) ELISA血小板(αIIa/β3) 550nM38) - RIAβ-アミロイドペプチド(Aβ) 26nMⅲ)49) - FP*5

VE カドヘリン 結合せず 54) 80nMⅳ)54) SPRCD44 97nMⅴ)46) 1.8μMⅵ)46) RIAデコリン(N 末ペプチド)ⅶ) 1.7μM(D 画分)90) - FPLipoprotein(a)〔Lp(a)〕 1nMⅷ)92) - ELISARIA*1:ラジオイムノアッセイ α2-AP*2:α2-アンチプラスミン SPR*3:表面プラズモン共鳴HRG*4:Histidine-rich glycoprotein FP*5:蛍光偏光法 ⅰ)この Kd は Lys-プラスミノゲンの値で,Glu-プラスミノゲンのそれは,32μM.ⅱ)溶液中のフィブリノゲンには結合しないが,プレート上に固相化したフィブリノゲンには結合する(Kd=179nM).ⅲ)D 画分に対する Aβ42 の Kd は 54nMⅳ) 4 つの細胞外 N 末領域を包含する組換え VE-カドヘリンフラグメントの VE-cad(1-4)と(Bβ15-66)2 との Kd.ⅴ)フィブリノゲン画分として(Bβ1-66)2 を使用.ⅵ)フィブリン画分として(Bβ15-66)2 を使用.ⅶ) Small leucine rich proteoglycan ファミリーの一つで,コラーゲン細線維の集合や細胞の増殖などの機能を有する.

生体内ではユビキタスに発現している.ⅷ)プラスミン処理フィブリノゲンを使用.

竹尾,ほか:フィブリノゲンの多様性―その構造と機能,および分子進化について― 307

FN 欠損マウスでは,動脈血栓の growth や安定性が低下することが動脈傷害モデルでの実験で示されたことから,FN は血小板のリガンドとして機能し,血小板血栓形成で重要な役割を果たすことが示唆される 34).この FN の作用機構を解明するため,フローチャンバーを用いた ex vivo の実験が行われ,XIIIa 因子により FN を架橋したフィブリンコート上で形成される血栓は,FN を架橋していないフィブリン,あるいは FN のみでコートした表面上での血栓に比べて大きく,安定であることが示された35).一方,Makogonenkoら36)は,フィブリンゲンおよびフィブリン,αC フラグメントを用いた FN との結合実験から,FN は,固相化しコンフォメーション変化したフィブリノゲンを含めフィブリノゲンには全く結合しないが,フィブリンには高い親和性を持って結合することから(Kd=7.2nM),フィブリノゲンの結合部位はcryptic で,フィブリンに変換されてその結合部位が現れるとした.またαC フラグメントを用いた結合実験から,Aαの 221-610 断片および 221-391 までの断片の Kd は,各々15nM および 11nMで,Aα392-610断片はFNに結合しないことから,Aα221-391 が FN の結合部位であるという.

なお,αC 以外のフィブリン分子に相当するD-D:E1 複合体は FN との結合能を有していないことから,αC のコネクター領域が唯一の FN結合部位としている.一方,αC ドメインは,フィブリノゲンではそのリガンドと反応しないことから,フィブリンに変換されて初めてその結合部位が露出し,αC ポリマーを形成することが示唆される.実際,組換えαC ドメインは濃度依存的に,かつ可逆的に可溶性オリゴマーを形成し,このオリゴマーを XIIIa 因子で架橋させることによって安定化されることも報告されている 37).

5.5  活性化血小板ADP で活性化した血小板膜上のαIIb/β3(IIb/

IIIa)は,フィブリノゲンγ鎖 C 末端のγ400-411(HHLGGAKQAGDV)と相互作用し,血小板凝集を惹起する.C 末端にγ400-411 を含有するプラスミン分解産物のフラグメント DγA は,ADP による血小板凝集を阻害するが,その活性はγ400-411 の合成ペプチドより70倍強い.フラグメントDγA は,

ブリンへのアフィニティーを高めるだけでなく,トロンビンによる血漿 XIII 因子活性化の促進にも関与することが示唆される 30).

5.3  Histidine-rich glycoprotein(HRG)HRG は分子量 67,000 の 1 本鎖糖蛋白質で,

フィブリノゲン以外にもヘパリンなどと相互作用し,その凝固活性を中和する.HRG 欠乏症家系では血栓症を起こしやすいという.構成アミノ酸は,His と Pro が最も多く,特に C 末端半分に集中しており,フィブリノゲンに高い親和性を示す.その結合は可逆的であり,変性フィブリノゲンには結合しない.HRG とフィブリノゲンの相互作用は,フィブリノゲンのフィブリン変換に影響を及ぼす.すなわち,フィブリンゲル形成の lag time phase を延長し,かつ濁度上昇の速度を低下させるという.しかし,フィブリン重合化の程度は,HRG によっては影響されないことから,HRG 存在下で形成されるフィブリンは,数は多いがより細いフィブリルからなることが示唆されている 31).また,HRG のノックアウト(KO)マウスの血漿のプロトロンビン時間は短縮し,形成されたフィブリン塊は溶解し易いという 32).

最近,Vu ら 33)による HRG とフィブリノゲンおよびフィブリンとの相互作用に関する実験から,①Zn2+を添加した血漿中に HRG とフィブリノゲンの複合体が検出されるので,HRG はフィブリノゲンとの複合体として血中を循環し,フィブリンに変換されてもなお複合体として存在する,②Kd は,γ/γ お よ びγ’/γフ ィ ブ リ ノ ゲンに対して 8.8nM および 8.9nM,γ/γフィブリン,γ’/γフィブリンおよび 20 残基のγ’ペプチドに対して各々,19nM,11nM,0.8nM で,γ’鎖に高い親和性を示す,③HRG は,γ’/γフィブリン結合に対してトロンビンと競合することによって,凝固反応を調節していることが示唆される.

5.4  フィブロネクチン(FN)繊維芽細胞等の種々の細胞表面上のレセプター

に対して結合能を持つ FN は,細胞の接着・遊走等で重要な役割を果たすため,フィブリンクロット内に FN が取り込まれることで,創傷治癒に促進的に作用すると考えられている.また,血漿

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ロンビン生成とは無関係にフィブリンクロットの構造を修飾しているという.

5.7  CD44CD44 は膜貫通型の糖鎖に富む蛋白質で,20 の

エキソンから選択的スプライシングにより多種の産物が生成されるが,最も分子量の小さい 341 アミノ酸残基からなる 37kDa の CD44s(standard)は種々の組織に存在し,特に造血系の細胞で強く発現している.一方,最大で分子量 250kDa となる多種類のバリアントフォームの CD44v は,幾つかの上皮組織や癌細胞にだけ発現しており,その発現が亢進すると生存率が低下する.CD44 は炎症,造血,創傷治癒,癌転移に関与するが,特に,そのリガンドであるヒアルロン酸への CD44を介した腫瘍細胞の接着は,癌転移で重要な役割を果たす 44).一方,フィブリンは原発巣の腫瘍細胞が血管系を介してターゲット細胞に転移する際に,腫瘍細胞をクロット内に閉じ込め安定化することで血管壁への接着や拡散に関与している.実際,フィブリノゲン KO マウスは転移を起こしにくいことから,腫瘍細胞の転移でフィブリンが重要な役割を果たすことが示されている 45).

大腸癌細胞株の LS174T 上の CD44 は主要なフィブリンレセプターであるが,フィブリノゲンには結合しないことが知られている.CD44sと CD44v のフィブリン/フィブリノゲンとの相互作用の生化学的な性質については不明であったが,Alves ら 46)によりその詳細が明らかになり,以下の知見が得られた.①大腸癌細胞株のLS174T から精製した CD44 でコートしたマイクロスフィアは,流動下で固相化したフィブリンに結合する.対照的に,白血病細胞株の HL-60からの CD44s は,流動下で固相化したフィブリノゲンおよびフィブリンの両方に結合する.②LS174T の CD44 のフィブリン結合は,CD44の O 型糖鎖依存性であり,一方,CD44s のフィブリノゲンやフィブリンへの結合は,N 型糖鎖※4

依存性で,O 型糖鎖は関与しない.③CD44 の機能を阻害するモノクロナル抗体の Hermes-1 は,CD44s とフィブリノゲンやフィブリンの結合にはなんら影響しないが,LS174T 由来の CD44のフィブリン結合を阻害する.④CD44 結合部位

ADP で活性化した血小板へのフィブリノゲンの結合を阻害し,また,活性化血小板に直接結合した.フィブリノゲンおよびフラグメント DγA の Kdは,各々,0.55 および 1.2μM であった.一方,C末端が 427 となるフラグメント Dγ’は,血小板凝集やフィブリノゲンの結合を阻害せず,血小板表面にも直接結合しない.また,グアニジンでフラグメント DγA を変性させると,血小板凝集試験での阻害活性が消失したことから,フィブリノゲンの血小板結合部位であるγ鎖 C 末端γA400-411の native conformation が,IIb/IIIa と の 結 合 には重要であるという 38).また,組換えγC ドメインを用いた結合実験から,γ鎖 370-381 配列中の 4 つの塩基性アミノ酸クラスター(Lys373, Arg375, Lys380, Lys381)が IIb/IIIa との結合に関与する 39).なお,Aα鎖の 2 箇所の RGD(Arg-Gly-Asp)配列(95RGDF98,572RGDS575)もIIb/IIIa と相互作用することが知られている 40).

5.6  XII 因子(Hageman 因子)XII 因子 KO マウスが,動脈血栓モデルで抵抗

性を示すことから,in vivo での血栓形成に XII因子が重要な役割を果たすことが示唆されている 41)42).Konings43)らは,XII/XIIa 因子はフィブリノゲン/フィブリンと相互作用し,その結果,クロットの構造や機能を制御しているとの仮説を立て,以下の実験結果を得た.

①プロトロンビンと XII 因子のダブル欠乏因子ヒト血漿を用いた系や精製した因子の再構成系で,XIIa 因子濃度依存性のフィブリンファイバー密度の増加や濁度の減少がみられたことから,XIIa 因子存在下では,より高密度な構造のクロットを形成し,その剛性を高めることを示唆した.なお,H-D-Phe-Pro-Arg クロロメチルケトンや corn trypsin inhibitor で XIIa 因子活性を阻害すると,これらの効果は消失する.従って,XIIa 因子の蛋白分解活性が,フィブリン安定化に寄与している.②精製 XII 因子や XIIa 因子は,フィブリノゲン(Kdは各々3.0nMと4.1nM)やフィブリン(Kd は各々2.5nM と 4.6nM)に高い親和性を示す.③ヒト頚動脈血栓の免疫染色により,濃厚なフィブリン沈着が認められる領域で XII 因子が共存しているとの結果から,XIIa 因子はト

竹尾,ほか:フィブリノゲンの多様性―その構造と機能,および分子進化について― 309

体をフィブリノゲンとともに加えると,S. aureus上での C3 沈着活性は増強し,トロンビン添加によってさらに増強したことから,細菌の表面で形成されたレクチンとフィブリノゲン,フィブリンからなるネットワークが,レクチンによる細菌の認識を安定化させ,結果として補体活性化を高めると考察している.

5.9  β-アミロイドペプチド(Aβ)β-アミロイドペプチド(Aβ)は,アルツハ

イマー病患者の脳実質や脳血管壁に蓄積し,病気の進展に関与していると考えられている.Aβはフィブリノゲンに特異的に結合し 49)(Kd=26nM),フィブリンクロットが Aβ存在下で形成されると,その構造を変化させ線溶耐性になる 50).最近,この Aβの構造変化と線溶耐性の亢進についての詳細な機構が調べられ,以下の知見が得られた 51).①Aβ42 はフィブリンに特異的に結合し,細い繊維と高い線溶耐性によって特徴付けられるよりタイトなフィブリンネットワークを形成するように誘導する.②前もってフィブリンクロットを作成後,クロット上を覆うように添加した Aβ42 もまたフィブリンに結合し,線溶を遅延させることから,Aβ42惹起性の構造変化だけが,線溶を遅延させる機構ではない.③Aβ42 含有フィブリンクロットは,tPA によるプラスミン生成やプラスミンによるフィブリン分解が遅延するので,線溶阻害は,Aβ42 による plasmin(ogen)-フィブリン結合の阻害が原因と考えられる.

5.10  白血球傷害血管部位への白血球の集積は,血管修復の

際の血栓のリモデリングに重要である.β2インテグリンファミリーのαMβ2(Mac-1),αXβ2,αDβ2 などが,fibrin(ogen)レセプターとして機能する.in vitro でフィブリンは,インテグリンを介して強力な白血球接着活性を示すことから,in vivo で血管内クロット表面上にこれらの細胞が蓄積していると予想されるが,種々の手法を用いてもフィブリン上で検出されない.フィブリンクロットへの白血球の過度な接着はプロテアーゼの作用による血栓の不安定化にもつながるので,何らかの制御機構が働いていると考えられる.

は,β15-66 を含むフィブリンβ鎖の N 末端部分に局在している.⑤SPR(表面プラズモン共鳴)の実験から,固相化した CD44 は可溶化フィブリンに高い親和性を持って結合するが,フィブリノゲンには結合しない.

また,フィブリノゲンの固相化は,CD44s への結合を仲介することから,この固相化によりcryptic site が露出したと推定される.これらの知見は,癌転移を制御する新規の薬剤をデザインする上で有用と考えられている.

5.8   補体レクチン経路に関与する因子のマンノース結合レクチンおよびフィコリン

補体活性化経路の 1 つである「レクチン経路」は,「パターン認識分子」のマンノース結合レクチン(MBL)やフィコリン※5 が感染菌外膜の糖鎖と結合することによって開始されるが,MBLやフィコリンがフィブリノゲンやフィブリンにも相互作用し,結果としてレクチン経路を亢進することが明らかになった 47)48).

MBL はコラーゲン様ドメインと CRD(Ca2+依存性の糖認識ドメイン)からなり,血漿中でセリンプロテアーゼの MASP(MBL-associated ser-ine protease)との複合体として存在し,MBLが PAMPs(Pathogen-associated molecular pat-terns)に結合すると,MASP が活性化され補体レクチン経路が活性化する.一方,フィコリンはコラーゲン様ドメインとレクチン活性を有するフィブリノゲン様ドメインからなり,MASP と複合体を形成する.Endo ら 47)は,両因子とフィブリノゲン,フィブリンとの結合実験を行い,① MBL は,フィブリノゲン Aα鎖や Bβ鎖よりもフィブリンα鎖やβ鎖に強く結合するが,γ鎖には結合しない,②フィコリン A は,Aα鎖や Bβ鎖と同等にα鎖やβ鎖にも結合するが,γ鎖には結合しないことを明らかにした.また,上記の相互作用がレクチン経路の補体活性化にどのように影響するかを調べ,①正常マウス血清による Staphylococcus aureus(S. aureus)上でのC3 沈着活性は,フィブリノゲン添加によって高まり,トロンビン添加によってさらに増強する,②MBL とフィコリンを除去した血清に MBL-MASP 複合体あるいは,フィコリン-MASP 複合

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含め,病態との関連やそれらの生理的意義について述べる(表 2 参照).

6.1  翻訳後修飾と病態との関連6.1.1   Methylglyoxal による修飾と動脈硬化

との関連 55)

糖尿病は冠動脈疾患のリスクを高めるが,終末糖化合物(AGE:Advanced Glycation Endprod-ucts)は,糖尿病性の血管合併症の主要な病因であると考えられている.Methylglyoxal(MGO)由来の主要な AGE である hydroimidazolone の存在をヒト動脈で試験し,MGO 由来の修飾が,主に内膜肥厚した細胞や外膜微小血管の細胞で検出され,fibrin(ogen)のほか細胞骨格会合蛋白質の moesin や核膜蛋白質の lamin A および C がMGO 修飾の主要なターゲット蛋白質として同定された.また in vitro で,5μM(糖尿病患者で検出される濃度より幾分高い)の MGO をフィブリノゲンと 24 時間インキュベーションした後のhydroimidazolone の存在を調べ,Aα 鎖の 5 残基

(Aα167, 199, 491, 528, 559)および Bβ 鎖の 2残基(Bβ169, 304)の Arg での修飾を確認した.フィブリノゲンのこうした修飾は,糖尿病での血管の機能低下や動脈硬化の進展に関連した問題であろう.

このフィブリンクロット表面上で作用する抗細胞接着活性に,フィブリノゲンが関与することが示された.すなわち,フィブリンでコートしたプレートに単球や好中球を添加するとフィブリンに接着するが,前もってフィブリノゲンを添加しておくと細胞接着が阻害されるという.このフィブリノゲンの効果はインテグリンをブロックするためではなく,フィブリンと弱く会合することにより,白血球がフィブリンと相互作用しにくくなるためだという.このフィブリノゲンの阻害効果は流動条件化でも認められた 52).フィブリノゲンはフィブリンと複合体を形成し,トロンビンでの活性化を受けることなく自己会合し凝集体を形成するが,その結果,インテグリンを介した細胞接着を阻止する伸張性で多重構造のマトリックスが形成される.このフィブリノゲンの接着阻害活性にはαC 領域が重要で,αC 領域を欠失したフィブリノゲンが凝集しても,細胞接着能を有する伸張性のないマトリックスを形成するという 53).

6. 翻訳後修飾の機能および病態との関連

多数の血漿蛋白質と同様にフィブリノゲンも糖鎖付加に加えて,リン酸化,硫酸化等の種々の翻訳後修飾を受けるが,ここでは細胞外での修飾も

表 2  フィブリノゲンの翻訳後修飾

修飾の種類 修飾部位 病態および機能との関連 分類AGE55)*1 特定されていない 糖尿病,動脈硬化症 AArg 残基のシトルリン化 56)‐59)Aα鎖の Arg5 残基と Bβ鎖の Arg2 残基 関節リウマチ Aニトロ化 61)62) Bβ鎖 Tyr292, Tyr422 血栓性疾患 Aヒドロキシル化 63) Aα鎖 Pro565,Bβ鎖 Pro31 Pro565 のみ膵臓癌患者で高値 AN 型糖鎖(100%)66)‐68) Bβ鎖 Asn364,γ鎖 Asn52 血中での代謝回転に関連か? BO 型糖鎖(1~13%)69) Aα鎖Thr301, Ser332 を含む7箇所(γ鎖には存在しない)生理的意義は不明 Bリン酸化(25%)70) Aα鎖 Ser3, Ser345 生理的意義は不明 B硫酸化(100%)71) γ’鎖 Tyr418,Tyr422 トロンビン結合能を高める*2 Bピログルタミル化(100%)70) Bβ鎖 Gln1 アミノペプチダーゼ分解耐性か? BMet 残基の酸化(0~20%)70) 特定されていない 生理的意義は不明 Bα2 アンチプラスミン 72)‐74) Aα鎖 Lys303 線溶耐性を高める Cセロトニン 75) 特定されていない 血小板血栓形成能を高める C

( )内は修飾率分類 A:病態と関連した修飾,B:健常人で起こる生理的な修飾,C:XIIIa 因子を介した修飾*1:Advanced Glycation Endproducts(終末糖化産物)*2:ウシやイヌのフィブリノペプチド B に含まれる Tyr にも見出される(ヒトのフィブリノペプチド B にはない).

竹尾,ほか:フィブリノゲンの多様性―その構造と機能,および分子進化について― 311

ブリノゲンレベルが特異的に増加する.②亜硝酸塩存在下,ミエロペルオキシダーゼ(MPO)と過酸化水素に暴露されたニトロ化フィブリノゲンは,有意にクロット形成や XIIIa 因子による架橋形成の速度が高まる.また,形成されたクロットの走査電子顕微鏡での観察から,その構造は細いフィブリン繊維の大きな束からなることや大きな間隙の存在が示されたが,事実,クロットの浸透性が高まっていた.③一方,亜硝酸塩非存在下,同じ酸化剤に暴露された塩素化フィブリノゲンは高密度で均一なフィブリンネットワーク構造を有しており,クロット形成速度や透過性が低下することが示された.それ故,フィブリノゲンのニトロ化は,血栓形成促進のリスクファクターとなることが示唆される 61).

in vivo でのフィブリノゲンのニトロ化の主要な部位として,β鎖 C 末端の Tyr292 と Tyr422が同定され,フィブリノゲンのニトロ化の結果,4 つの変化を起こす.すなわち,①フィブリンクロット形成の初速度が高められ,②フィブリンクロット構造が変化し,③フィブリンクロットの固さが高まり,④フィブリン溶解時間が遅延することである.フィブリン形成速度やクロットの構造は,チロシンがニトロ化されたフィブリノゲン分子を除去すると修復する.また,ノブ B(前述)をミミックしたペプチドの Gly-His-Arg-Pro やAla-His-Arg-Pro に対する反応性が高まることから,ニトロ化されたフィブリノゲン分子は,フィブリンの lateral association を加速させると考えられる.従って,ニトロ化を伴う修飾は,酸化ストレスや炎症,さらに血栓性疾患との疫学的な関連を説明する新規のバイオマーカーとなるかもしれない 62).

6.1.4   Pro 残基のヒドロキシル化と癌との関連LC-MS/MS で経時的に得られるデータをデジ

タル処理する新規のプロテオーム解析法を用いて,フィブリノゲンα鎖の Pro565 が水酸化されていることが見出された.この修飾されたフィブリノゲンレベルが,種々の病態の患者血漿でELISA により測定された.160 名の膵臓癌患者の測定では,ステージ IA※8 では健常人(113 名)と差がないが,ステージ IB 以上に進行すると有意に高値となる.こうした高値は他の癌や慢性炎

6.1.2   Arg 残基のシトルリン化と関節リウマチとの関連

関節リウマチ(RA)は,関節の炎症とアルギニンに由来するシトルリン※6 含有蛋白質に対する自己抗体によって特徴付けられる自己免疫疾患である.種々のシトルリン化蛋白質に対する自己抗体が存在するが,特にフィブリノゲンは患部関節の炎症組織内で見出されるため,RA での主要なシトルリン化自己抗原の 1 つとなっている.RA 患者およびコントロールとして RA 以外の他の関節炎患者滑液中のシトルリン化ペプチドの存在を分析した結果,RA 患者の滑液には,有意な量のシトルリン残基やリン酸化されたセリン残基を含むフィブリノゲン由来の可溶性ペプチドが検出された.また,関節を患部とする他の炎症性疾患患者に比べて,RA 患者の滑液中にはそうしたペプチドがより多く存在するという.従って,RA 患者自己抗体によるシトルリン化ペプチドや蛋白質の認識に基づく免疫応答において,フィブリノゲンが特異的な役割をもつ可能性が示唆される 56).

シトルリン化フィブリノゲンが病態発症に関係していることは,以下の報告からも示唆される.①II 型コラーゲン誘導関節炎マウスで,環状シトルリン化ペプチド※7 やシトルリン化フィブリノゲンに対する抗体が産生された.また,抗シトルリン化フィブリノゲンモノクロナル抗体投与により,軽度の抗 II 型コラーゲン抗体誘導関節炎を悪化させた 57).②マウス RA モデルで,シトルリン化酵素の peptidylarginine deiminases(PADs)を阻害すると,症状が軽減する 58).③シトルリン化フィブリノゲンと自己抗体との複合体が RA患者で検出されているが,この複合体はマクロファージからの TNF-α産生を誘導する 59).

6.1.3   Tyr 残基のニトロ化と血栓性疾患との関連

血中フィブリノゲンレベルが高くなると,冠動脈疾患のリスクが高まるが,最近,その発症予知にフィブリノゲンレベルの測定が有用であることが報告された 60).一方,チロシン残基がニトロ化された蛋白質のレベルが冠動脈疾患を有する患者で高いことから,フィブリノゲンのニトロ化について調べられ,①冠動脈疾患患者でニトロ化フィ

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起フィブリンクロット溶解試験で示された.すなわち,①XIII 因子,あるいはα2-AP 欠損血漿でのクロット溶解時間は,正常血漿を用いたときに比べて 9 倍速く溶解するが,PAI-1 や TAFI

(Thrombin Activatable Fibrinolysis Inhibitor)を欠損させても溶解時間は変化しない.②クロット溶解速度は,架橋α2-AP 量に逆相関した.③XIII 因子欠乏血漿に XIII 因子を補充すると,γダイマーやαポリマーが形成され,クロットは線溶耐性となるが,抗α2-AP 抗体存在下では線溶耐性は消失する.従って,フィブリン間の架橋ではなくα2-AP の架橋が,線溶耐性のレベルを決定付けるといえよう 73).なお,血漿から単離されたフィブリノゲン画分の ELISA による測定で,循環血中フィブリノゲンは 1 分子あたり 1.2~1.8 分子のα2-AP を架橋していることが示された.このα2-AP 架橋フィブリノゲンは,線溶の制御で重要な役割を果たすという 74).

セロトニン:Alberio ら 75)は,コラーゲンとトロンビンで血小板を共刺激すると,一部の血小板上だけでα顆粒の血液凝固第 V 因子が出現し,血小板上にとどまることを示し,この血小板をCOAT-platelets と命名した.彼らはまた同様な実験を行い,別のα顆粒蛋白質である vWF やα2AP,FN も COAT-platelets に結合するが,トランスグルタミナーゼ阻害剤存在下では結合しないことを明らかにした.また,トランスグルタミナーゼは,血小板濃染顆粒から放出されたセロトニンをこれらの蛋白質に架橋させる(フィブリノゲンは,1 分子当たり 7.6±3.4 分子のセロトニンを架橋)ことを示した.しかし,この反応の意義は明白にされていない 76).

7. フィブリノゲンの臨床応用-フィブリン接着剤

出産時出血や重度の外傷等による重篤な出血の止血管理にフィブリノゲン濃縮製剤が用いられ,その有用性は高く評価されているが 93),フィブリノゲンレベルがどの程度低下すれば濃縮製剤の投与を開始すべきなのかについてのコンセンサスは十分でなく,また,過度なフィブリノゲン製剤の投与は血栓塞栓症のリスクを高めることになるので,個々の患者の状態(血小板数や他の凝固因子

症疾患の患者でもみられたが,良性の膵臓癌/嚢胞患者や胆嚢炎患者ではみられなかった.また,正常フィブリノゲン Bβ鎖の Pro31 の約 20%は水酸化されているが,癌患者での変動はないという 63).

6.2  その他の翻訳後修飾蛋白質は多様な糖鎖により修飾を受けることで

種々の性状を獲得しているが 64)65),フィブリノゲン Bβ鎖の Asn36466)およびγ鎖の Asn5267)には N 型糖鎖が付加されている.Bβ鎖とγ鎖の糖鎖は同様なオリゴ糖構造を有しており,主に,二分岐の digalactosylated monosialylated 構造と二分岐の digalactosylated disialylated 構造からなる 68).また,Aα鎖の Thr301, Ser332 を含む 7箇所(γ鎖には存在しない)は O 型糖鎖も付加されている 69).糖鎖修飾は,過剰な重合反応や分解を阻止する役割を果たすと考えられている 70).

Aα鎖の 25%で 2 つの Ser 残基(Aα3 および345)がリン酸化されている.炎症反応の急性期相で生合成されるフィブリノゲンのリン酸化の程度は 70%まで高まるが,その後,phosphatase により分解されるため 25%程度のリン酸化となる.FpA の Ser 残基のリン酸化によりトロンビン結合能が高まるが,フィブリノペプチドの遊離速度には影響しないという 70).

多数の動物種の FpB に含まれる Tyr は硫酸化されているが,ヒトでは硫酸化されていない.硫酸化部位は,γ’鎖の Tyr418 および 422 で 100%修飾されており(前述),トロンビン結合能を高めるという 71).また,Bβ鎖 N 末端の Gln は全て環化されたピログルタミル残基に修飾されているが,これが酵素的なものか非酵素的なものか明白でない.

6.3  トランスグルタミナーゼを介した修飾α2-アンチプラスミン(α2-AP):α2-AP は

XIIIa 因子により fibrin(ogen)に架橋され,線溶耐性となるが,その架橋部位は,フィブリノゲン Aα鎖の Lys303 とα2-AP の N 末端に近いGln2 の間である 72).XIIIa 因子による α2-AP のフィブリンへの架橋が,線溶耐性に決定的に重要であることが,血漿を用いた in vitro での tPA 惹

竹尾,ほか:フィブリノゲンの多様性―その構造と機能,および分子進化について― 313

とで接着効果が向上した.また,医療用材料の超薄型のポリグルコール酸(PGA)不織布との併用により,その効果がさらに高まった.すなわち,PGA 不織布と組み合わせたフィブリン接着剤は,組織の凹凸に吸い付くように貼りつき,フィブリン接着剤単独に比べて機械的強度が高まる 77).

現在,「組織の接着閉鎖」の効能・効果を有するフィブリン接着剤は,医療現場での有用性を確かなものにしてきているが,今後,本稿で述べたフィブリノゲンの多機能性にも注目しつつ「再生医療」への応用も期待している.例えば,フィブリン接着剤と PGA 不織布で作成した代用硬膜を用いることにより,自己硬膜の再生が起きると報告されている 78).また,骨,神経,心筋再生の足場として,フィブリンの臨床応用が期待される.

8. フィブリノゲンの分子進化―フィブリノゲン様ドメイン含有蛋白質の発見

従来,脊椎動物のフィブリノゲンα,β,γ鎖間のアミノ酸配列の相同性は高いことから,これら各鎖の遺伝子は共通の祖先に由来したものと考えられており,Aα鎖が約 10 億年前,Bβおよびγ鎖が約 6 億年前に分かれたと推測されている.従って,これらの分子は脊椎動物と無脊椎動物に分岐する以前から存在していたが,1990 年,Doolittle ら 79)は,ヤツメウナギとヒトフィブリノゲン間で保存されている配列を基にプライマーを作成し,種々の無脊椎動物から調製した cDNAを PCR で増幅し,ナマコから調製した cDNA の中にフィブリノゲン様の配列を見出した.フィブリノゲン関連蛋白質 A および B(FReP-A, FReP-B)と名付けたこれらの蛋白質は,ヒトフィブリノゲン Bβおよびγ鎖 C 末端の 2/3 の領域を含んでいた(フィブリノゲンの D 領域に相当).また,互いに一次および三次構造上でも高い相同性を示し,この領域を “フィブリノゲン様ドメイン” と呼んだ.その後,フィブリノゲン様ドメインを含有する分子が,多数の無脊椎動物で同定され,現在までに知られているこれらの分子の大部分は,生体防御に関連していた 2)80).また,その後の無脊椎動物のゲノムプロジェクトでの研究から,ゲノム中に驚くほど多数のフィブリノゲン様

レベル,出血の原因等)を考慮し,その投与や投与量は慎重に決定されるべきとの意見もある 94).フィブリノゲンは,このような静注用フィブリノゲン製剤だけでなく,フィブリン接着剤としても広く臨床応用されており,その詳細について以下に記す.

外科手術において,切断または離断された組織を接着・閉鎖する手段としては縫合が最も一般的な方法として用いられてきたが.処置に時間を要すること,組織の状態やその部位によっては縫合が困難なこと,縫合することによってかえって治癒を妨げるケースもあることなどの欠点が指摘されている.

これらの問題を克服し,組織に損傷を与えることなく組織の接合が行われるような手術の研究がなされてきた.例えば,組織を接合するフィブリン接着剤は,この目的を達成する手段の一つとしてかなり古くから研究されてきた.フィブリン接着剤は,フィブリノゲンにトロンビンが作用して形成されるフィブリンの膠着性を利用して組織の接着・閉鎖を行うものであり,その組成はフィブリノゲンおよびトロンビン,XIII 因子,アプロチニンからなる.フィブリン接着剤は生体由来成分であることから,異物反応などの組織への影響も認められず,生体内では最終的に分解・吸収される.当初フィブリン接着剤は,シアノアクリレート系等の合成接着剤に比べて安全性は高いものの接着閉鎖力は低いと認識されていたが,その効果が使い方次第で著しく高まることが認識されるに及び,フィブリン接着剤単独あるいは各種医用材料と組み合わせて損傷組織での止血,縫合部の補強,エアーおよび体液漏出の阻止,組織欠損部の補強および被覆など多様な目的で,広く用いられるようになった.

この効果の高い使い方は,「塗布方法や塗布器具の開発」により可能になったが,接着力を高める塗布方法として,「擦り込みスプレー法」が開発された.組織の細やかな凹凸にまでフィブリノゲン液を浸透させた後に,均一に混合するようにフィブリノゲン液とトロンビン液をスプレー塗布し,組織に深く嵌り込んだフィブリンゲルを形成することによりアンカー効果を高めるとともに,フィブリンの組織に対する接触面積を広くするこ

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ない 87).ナメクジウオゲノムの分析後に出された証拠から,ナメクジウオは脊索動物の最も遠い先祖であるといわれる.また,フィブリノゲンを介した凝固に必要な基本的な構成成分が現れるのは,尾索類や無顎類が発生してからということからも,この仮説は正しいと考えられる.それ故,無顎類と頭索類の間で,フィブリノゲンのフィブリン変換を伴う体液凝固反応が起こり始めたと推測される 83)88).なお,カブトガニ体液中の C -タイプレクチンに相当する Tachylectin 5A と 5Bには,フィブリノゲンγ鎖とβ鎖類似の構造のあることが明らかにされている 2)89).

9. おわりに

以上,本稿ではフィブリノゲン研究の現況に焦点を絞って述べた.フィブリノゲン様ドメインは単細胞生物まで広く保存されており,感染防御で重要な役割を担っている.また,フィブリノゲンはフィブリン変換し,止血栓を形成することで出血の制御において重要な役割を果たすだけでなく,翻訳後修飾や種々の蛋白質との相互作用を介して,生理的なイベントや各種病態に関わっている.このようなフィブリノゲンの “多様性” が,さらに広がるのか? あるいは,こうした多様性がフィブリノゲンの機能を真に反映したものかについて,今後も注目していきたい.

謝辞:稿を終えるにあたり,校閲していただいた化血研の水口 純 博士,嘉悦 洋 博士,新屋 希子 博士,執筆の機会を与えていただいた武谷 浩之 先生(崇城大学 生物生命学部 応用生命科学科 教授)に深謝します.

略  語

FpA:フィブリノペプチド A,FpB:フィブリノペプチド B,AT-I:アンチトロンビン I,FDP:フィブリン分解産物(Fibrin Degradation Prod-uct),HRG:Histidine-rich glycoprotein,FN:フィブロネクチン,LC-MS/MS:液体クロマトグラフィー質量分析法,SPR:表面プラズモン共 鳴(Surface Plasmon Resonance),MBL: マ

遺伝子座の存在が明らかとなり,現在,無脊椎動物のフィブリノゲン様蛋白質の多様な機能が注目されている(表 3)80).

フィブリノゲン様ドメインは,進化的には,少なくとも単細胞真核生物の襟鞭毛虫まで遡って保存されている 81).それらの感染防御との関連は,多数の無脊椎動物や脊椎動物でも示されており,例えば,P35(L フィコリン)や Hakata 抗原(Hフィコリン)のような哺乳類のフィブリノゲン様含有蛋白質は,補体系を活性化する機能と同様に,パターン認識レセプターとして作用することによって,脊椎動物の自然免疫応答で役割を果たしている 82).一方,脊椎動物においてフィブリノゲンのフィブリンへの変換は,凝固のために必要不可欠なプロセスであるが,こうした止血へのフィブリノゲンの関与は系統発生学的にはどちらも新口動物である(ホヤが属する)尾索類の Botryllus schlosseri 83)や(ナメクジウオが属する)頭索類のBranchiostoma frolidae84)で知られていた.例えば,ホヤ類の Botryllus schlosseri では,9 個の凝固因子相同分子種の転写産物の発現がある 83).しかし,無脊椎旧口動物の一部では,凝固カスケードに関与する分子が完全に欠損しているので,フィブリノゲンを介した凝固は起きない.一方,血流は弱いものの軟体動物では血液凝固系に相当するようなプロセスがあるという 85).また,ナメクジウオゲノムでは,フィブリノゲン関連ドメインを含有する多数の遺伝子(>400 種)はあるものの 86),凝固カスケードの他の成分は何一つ同定されてい

表 3  フィブリノゲン様ドメイン含有蛋白質をコードする遺伝子数 80)

分類(門) 遺伝子数(個体名)

脊索動物ナメクジウオ類 428ホヤ類 174

棘皮動物 102(アメリカムラサキウニ)環形動物(2 網) 116(ヒル)節足動物(23 網) 59(ハマダラカ)線形動物(9 網) 14(センチュウ)扁形動物(1 網) 0刺胞動物(2 網) 21(ヒドラ)板形動物(1 網) 0軟体動物 70(カサガイ)

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(methylglyoxal),FReP-A:フィブリノゲン関連蛋 白 質 A(fibrinogen related protein A),RA:関節リウマチ(rheumatoid arthritis),PGA:ポリグリコール酸

Disclosure of Conflict of InterestsThe authors indicated no potential conflict of interest.

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※ 1 含量は低いが(1%),α鎖の C 末端に 236 残基のアミノ酸が付加した 420kDa のバリアントフォームも存在する 91)

※ 2 フィブリノゲンを蛇毒(Crotalus atrox)由来のプロテアーゼ III で処理すると Bβ鎖 1-42 を欠失したフィブリノゲン(des-(Bβ1-42)-fibrinogen)を調製することができる.

※ 3 現在この名称はほとんど使われていない.※ 4 アスパラギンに結合した糖鎖は N 型糖鎖と呼ばれ,Asn-X-Ser/Thr という配列中の Asn に N-グリコシド結合する.

一方,Ser/Thr に O-グリコシド結合した糖鎖は O 型糖鎖と呼ばれる.※ 5 フィブリノゲンのγ鎖ドメインを含むフィコリンは,ヒトでは 3 種類(L-フィコリン,M-フィコリン,H-フィコリ

ン),マウスでは 2 種類(フィコリン A とフィコリン B)存在する 48).※ 6 シトルリンは,peptidylarginine deiminase(PAD)によるアルギニンの脱イミン反応により形成される.すなわち,ア

ルギニン側鎖のイミド基が酸素に変換される.※ 7 シトルリン化フィラグリンユニットにシスチン残基を導入して,人工的に環状化した分子(cyclic citrullinated peptide:

CCP)で,その抗体(抗 CCP 抗体)は RA の診断に有用.※ 8 ステージ IA も IB も初期段階の癌でリンパ節への転移はなく,癌は膵臓の内部に限局しているが,大きさが 2cm 以内

が IA,2cm 以上が IB.