令和元(2019)年度特別研究費...

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令和元(2019)年度特別研究費 実績報告書 令和 2 3 20 公立千歳科学技術大学 学長 川瀬 正明 公立千歳科学技術大学特別研究等助成要綱第 4 条に基づき、下記のとおり報告いたします。 採択区分 ■若手研究者支援研究費 □基盤的研究費 報告者 所属 情報システム工学科 職名 講師 氏名 山川 広人 ふりがな やまかわ ひろと 研究課題名 モブプログラミング手法を用いるプログラミング授業モデルの提案と実践 本研究費に よる発表論 文、著書 山川 広人, 上野 春毅, 小松川 浩(2020."反転型のプログラング授業におけるモブプログラミン グ導入の試み", 教育システム情報学会 研究報告, Vol.34, No.6, pp.37-42.

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令和元(2019)年度特別研究費 実績報告書

令和 2年 3月 20日

公立千歳科学技術大学

学長 川瀬 正明 様

公立千歳科学技術大学特別研究等助成要綱第 4条に基づき、下記のとおり報告いたします。

採択区分 ■若手研究者支援研究費 □基盤的研究費

報告者

所属 情報システム工学科 職名 講師

氏名 山川 広人 ふりがな やまかわ ひろと

研究課題名 モブプログラミング手法を用いるプログラミング授業モデルの提案と実践

本研究費に

よる発表論

文、著書 な

山川 広人, 上野 春毅, 小松川 浩(2020)."反転型のプログラング授業におけるモブプログラミン

グ導入の試み", 教育システム情報学会 研究報告, Vol.34, No.6, pp.37-42.

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研究成果報告

研究の目的

大学のプログラミング科目では知識・スキルの定着と積み上げが重要であるが,多くの学生が一度に講

義・実習を行う従来の授業モデルでは,学生が知識・スキルの理解につまずいた場合の学生自身による挽回

や,教員が学生をつぶさに把握した支援が難しい課題がある.本研究はこの課題に対し,IT企業のチーム

開発の現場などで用いられるモブプログラミング手法を用いたアクティブ・ラーニング型のプログラミング

授業モデルを提案し,その有効性を明らかにすることを目的とする.図 1に,従来型と本研究の授業モデル

のイメージを掲載する.

研究成果

令和元年度は,研究の目的にむけて,以下の 3点に取り組むことを計画した.

1. モブプログラミングに取り組める授業環境の整備

2. モブプログラミングを導入したプログラミング授業シナリオの試作

3. 試作した授業シナリオの導入前後の比較による学習効果の調査

1について,プログラミング授業の中でモブプログラミングに取り組むことができるよう,機材の整備を

行った.具体的には,必修プログラミング授業の規模で,5名前後のグループを組み,またそのグループご

とに 1台の演習用 PC と 1台のディスプレイを用意できるようにした.これにより,授業内の実習の場面

で,グループごとに同時に・同じ場所で・同じ実習を議論・質疑を通して進められるようにした.

2について,3年次の Java プログラミング科目を対象に,モブプログラミングを導入した授業シナリオを

試作した.具体的には,対象の授業ですでに取り入れている反転型授業の中で,予習で不足していた知識の

補習や実習のゴールを達成するためのスキルアップを支援するグループワーク部分を、モブプログラミング

に置き換えた.この手法により,知識の補完の効果向上や,従来のグループワークでは共有が難しいノウハ

ウも含めたスキルアップの効果が得られることを狙った.

3について,対象の授業で実際に授業シナリオの試行を行った.実際の授業風景を図 2に示す.試行を通

じてモブプログラミングの学習効果を探るため,受講者にアンケート調査を行った.受講者 75名のうち,

モブプログラミングによって「不明点の解決や新たな手法への気付きを得た」と肯定的に回答した学生は

67 名(約 89%)であった.学生のコメントでは,モブプログラミングの導入に肯定的な意見,新たに得られ

た知識・スキルについての言及,学生個々が独自に培ったテクニックの共有への実感が挙げられた.これは

本手法の狙いでもある,従来型のグループワークではケアできていなかった学習効果の現れと捉えられる.

一方で,「身につけるべき知識・スキルの明確さ」「復習のしやすさ」の面は従来型のグループワークを支

持する学生が大半であり、本手法では十分に効果が満たされない部分もあることがわかった.

今後の課題として,授業の進度や習得段階にあわせて従来型のグループワークとモブプログラミングを併

用できるよう導入ポイントを工夫するなどの改善をはじめ,授業モデルとしての確立と効果の追求を行う予

定である.

図 1 従来型と本研究の授業モデルのイメージ

図 2モブプログラミングを導入した授業風景

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令和元(2019)年度特別研究費 実績報告書

令和2年3月20日

公立千歳科学技術大学

学長 川瀬 正明 様

公立千歳科学技術大学特別研究等助成要綱第 4条に基づき,下記のとおり報告いたします.

採択区分 ■若手研究者支援研究費 □基盤的研究費

報告者

所属 理工学部 職名 助手

氏名 砂原 悟 ふりがな すなはら さとる

研究課題名 静的プログラム解析を用いたインジェクション系の脆弱性検出に対する有効性の評価

本研究費に

よる発表論

文,著書 な

無し

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研究成果報告

(1)研究の背景と目的

日本国内においてインターネットの利用者が 8割を超え[1],ネットショッピングやインターネット

バンキング,音楽配信などのサービスが非常に身近となった一方で,Webアプリケーションの脆弱性(悪

用されかねない不具合)は年間 10000万件を超える報告があり,実際に悪用された事例が複数報告され

ている[2][3][4].脆弱性の中でもインジェクションは過去数年間,最も重大なセキュリティリスクと

報告 [5]されている.また,IPA(情報処理推進機構)の 2018年度四半期の報告でも Web サイトにおける

インジェクションの届出は昨年比 2.5倍となっており,有効的な対策が進んでいない分野といえる.

インジェクションの脆弱性を Webアプリケーションに紛れ込ませないようにするにはプログラム上の

外部入力点からデータベース等のセキュリティ上考慮されるべき出力点(Sink; シンク)までのデータフ

ローを解析し,各フローでの出力点応じたエスケープ処理(Sanitizer; サニタイザ)が適用されている

必要がある.また,適切なエスケープ処理が行われているかを見落とさないためにはリリース前のコー

ドレビューが有効であるが,コードレビューを任せられる要員を確保することが困難なケースや十分な

時間を確保できない場合もあり,機械的に精度良くシンクを発見できること,また,レビュー時間を短

縮できることが開発におけるセキュリティ対策として重要である.

本研究では,シンクを機械的に発見するためにどのような課題があるのかを明らかにするために,ソ

ースコード解析ツールである SAST(Static Application Security Testing)を用いて既知のインジェク

ションをどの程度発見できるかの精度調査と,発見できないケースの分析を行った.

(2)本研究で用いた SASTソフトウェアの特徴と調査対象

解析には複数のプログラミング言語(Java, Ruby, Python, PHP, Javascript)に対応し,SQLインジェ

クション,OSコマンドインジェクション,XSS,CSRFなどのインジェクションを検知した実績がある

SASTソフトウェアを用いた.

調査対象は,日本で使用されるソフトウェアなどの脆弱性関連情報が報告されている JVN(Japan

Vulnerability Notes)[6]において,2005年 9月から 2020 年 1月までにインジェクション(CWE-74)と分

類されたソフトウェアから優先度「緊急」である 90件のうち,2020年 1月現在でも無償でソースコー

ドが手に入り,かつ,SASTソフトウェアで解析可能であった 50件である.

(3)分析の結果とプログラムの特徴について

分析の結果,報告されている既知の脆弱性を検知できた件数は 50件中 1件(誤検知は 0件)であっ

た.検知できたのは JVNDB-2019-013013(表 1)の安全ではないデシリアライゼーションで,認証されて

いないユーザが cookieに対して悪意のある PHPオブジェクトを埋め込むことで任意のコードが実行可

能である.

表 1:JVNDB-2019-013013 安全ではないデシリアライゼーション

JVNDB-2018-013923(表 2)も安全ではないデシリアライゼーションの脆弱性となっているが,こちらは検

知されていない.JVNDB-2019-013013についてはユーザから受け取った値を直接デシリアライズしてし

まうため,疑いの余地なくインジェクションが成立してしまうプログラムであるが,JVNDB-2018-

013923については変数$pが事前にエスケープされている可能性があり,誤った判定を避けるために検

知されなかったと考えられる.

表 2: JVNDB-2018-013923 安全ではないデシリアライゼーション

$items = !empty($_COOKIE['comparison']) ? unserialize($_COOKIE['comparison']) : array();

$p = parent::getPref($prefName);

if (strpos($p, '$phpserial$') === 0) {

$p = substr($p, strlen('$phpserial$'));

return unserialize($p);

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同様に判定が難しいケースは JVNDB-2013-007002(表 3),JVNDB-2016-009337(表 4),JVNDB-2016-

001459(表 5)など,多数存在した.

表 3: JVNDB-2013-007002 shell のエスケープ漏れによる OSコマンドインジェクション

表 4: JVNDB-2016-009337 ユーザから受け取った値をエスケープしないことによるリスク

表 5: JVNDB-2016-001459 細工された HTTPヘッダから cookieの値を設定されるリスク

JVNDB-2019-010710(表 6)の事例は,それまでに知られていなかった攻撃方法によって悪用が可能と判

明したシンクである.コードレビューにおいて,インジェクションが成立することが明らかとなってい

たが,無害であると判断され,シンクに対するエスケープが行われていなかった.この事例のように比

較的新しい既知のインジェクションの中にはどのような攻撃手法が成立するか判明していないシンクが

存在する.攻撃手法が明らかではない場合,適切なエスケープが行われているか機械的な判定をするこ

とが難しい.

表 6: JVNDB-2019-010710 CSS インジェクションにより OAuthの資格情報を DOMの値を通じて奪取

JVNDB-2017-015708(表 7)の事例では Apache Synapseアプリケーション自体のプログラムだけではな

く,アプリケーションが参照している Apache Commons Collectionsライブラリの脆弱性が悪用可能で

あった.この場合は利用しているライブラリが対策されているバージョン以上であるかを機械的に比較

することで比較的容易に発見可能であるが,本研究ではアプリケーション自体のプログラムのみを解析

の対象としたため,検知することができなかった.

表 7: JVNDB-2017-015708 脆弱性を有するライブラリを参照する設定

uri_obj = URI.parse(url)

if uri_obj.kind_of? URI::HTTP or uri_obj.kind_of? URI::FTP

manifest = `curl --max-time #{max_dl_time} --connect-timeout 2 --location --max-redirs

#{max_redirs} --max-filesize #{max_file_size} -k #{url}`

$tag = new expTag($this->params['tag']);

String agent = System.getProperty("http.agent");

return agent != null ? agent : ("Java" + System.getProperty("java.version"));

<input id="client_id" type="text" required={ flow === PASSWORD }

value={ this.state.clientId } data-name="clientId onChange={ this.onInputChange } />

中略

<input id="client_secret" value={ this.state.clientSecret } initialValue={ this.state.clientSecret }

type="text" data-name="clientSecret" onChange={ this.onInputChange }/>

<commons.collections.version>3.2.1</commons.collections.version>

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JVNDB-2019-010710ではプログラム上で CSVを取り込む際に悪意のある数式[7]を取り除く必要があ

り,扱うデータや扱われるアプリケーションに依存する差異が機械的な検知を難しくしている.

表 7: JVNDB-2019-010710 記号「+,-,=,@」を安全に扱う修正が行われた CSVの取り込み処理

(4)まとめと今後の取り組みについて

本研究ではシンクを機械的に発見するための課題を明らかにするために,JVNDBで報告されている緊

急度の高いインジェクションの脆弱性を有するアプリケーション対して,SASTソフトウェアによる解析

を行った.発見できたのは 50件中 1件であり,誤検知は 0件であった.検知できなかった要因はイン

ジェクションが成立するかどうかの不確定性やエスケープ処理が環境に依存する,アプリケーションが

利用しているライブラリが問題となるなど,複数存在した.

本研究によって脆弱性の要因が一様ではないということが機械的なシンクの発見を妨げている課題で

あることが明らかとなった.また,SASTソフトウェアはプログラムを実行せずに構文解析のみでシンク

を分析するため,誤った検知を行わないようにフィルタリングを行った場合,検知率が著しく低下する

可能性があることについても課題であると思われる.これらの課題を解決するためには,検知率と誤検

知率のバランスをとりながら,多様な要因であるインジェクションのシンクを検知する手法を検討する

ことが必要である.具体的な手法としては,ソフトウェアを実行してシンクを発見する DASTソフトウ

ェア(ファジング)と DevSecOps[8]による運用を考慮した要求分析手法を組み合わせるなどが考えられ

るが,その際は SASTソフトウェアのみの場合よりもコストが増加するため,コストに見合うかどうか

の評価も行いたい.

[1] 総務省 インターネット利用率 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/

ja/h28/html/nc252110.html

[2] 脆弱性を悪用された事例 1 https://piyolog.hatenadiary.jp/entry/2020/01/20/172436

[3] 脆弱性を悪用された事例 2 https://cybersecurity-jp.com/news/21453

[4] 脆弱性を悪用された事例 3 http://www.security-next.com/109528

[5] OWASP Top Ten Project https://owasp.org/www-project-top-ten/

[6] 脆弱性対策情報データベース https://jvndb.jvn.jp/index.html

[7] CSV インジェクション https://owasp.org/www-community/attacks/CSV_Injection[8] 小西 慶浩, 大久保 隆夫:運用を考慮したセキュリティ要求分析手法の提案, 2020-CSEC-88(12), pp1-

6(2020)

$writer = $type === 'xlsx' ? new XlsWriter('php://output') : new CsvWriter('php://output');

$contentType = $type === 'xlsx' ? 'application/vnd.ms-excel' : 'text/csv';

$filename = strtolower($filename.'_'.((new ¥DateTime())->format($dateFormat)).'.'.$type);

if ($writer instanceof CsvWriter) {

$securedData = [];

foreach ($sourceIterator as $row) {

$securedRow = [];

foreach ($row as $cell) {

if (in_array($cell[0], ['+', '-', '=', '@'])) {

$securedCell = ' '.$cell;

} else {

$securedCell = $cell;

}

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令和元(2019)年度特別研究費 実績報告書

令和 2年 3月 16日

公立千歳科学技術大学

学長 川瀬 正明 様

公立千歳科学技術大学特別研究等助成要綱第 4条に基づき、下記のとおり報告いたします。

採択区分 □若手研究者支援研究費 ■基盤的研究費

報告者

所属 電子光工学科 職名 教授

氏名 長谷川 誠 ふりがな はせがわ まこと

研究課題名 中負荷レベル直流電流遮断時のアーク放電における特異挙動のメカニズム解明(2019B01)

本研究費に

よる発表論

文、著書 な

国際会議 発表予定

(1) Makoto Hasegawa and Seika Tokumitsu, “Arc Re-striking Phenomena in Break Operations

of AgSnO2 Contacts in Inductive DC Load Conditions up to 20V-17A under External Magnetic

Field”,

June 15-18, 2020, St. Gallen - Rorschach, Switzerland

(2) Makoto Hasegawa and Seika Tokumitsu, “Arc movement investigations of break arcs of

AgSnO2 contacts under applied external magnetic field in inductive DC load conditions up

to 20V-17A”, 66th IEEE International Conference on Electrical Contacts (Holm2020),

October 4-7, 2020, San Antonio, TX. U.S.A.

国内学会 研究会

(3) 長谷川誠,徳光聖茄, “AgSnO2接点による 20V-17A までの直流誘導性負荷遮断時の再点弧現象に

おけるアークエネルギーの計算”, 電子情報通信学会機構デバイス研究会, 信学技報 EMD2019-47

(2019-12)

(4) 長谷川誠,徳光聖茄, “AgSnO2接点による外部磁界印加時の 20V-17Aまでの直流誘導性遮断アー

クの挙動の観察”, 電子情報通信学会機構デバイス研究会, 信学技報 EMD2019-51 (2020-1)

(5) 長谷川誠,徳光聖茄, “外部磁界印加時における AgSnO2接点の直流誘導性遮断アークの挙動観

察”, 電子情報通信学会機構デバイス研究会, 信学技報 EMD2019-56 (2020-2)

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研究成果報告

Ⅰ.研究の背景

電流・電力制御用デバイスとしてのメカニカルリレーやスイッチは、太陽光発電の導入や直流給電の進展

に伴う使用量の増加などから重要性が増しているが、電流制御の基幹部分である電気接点動作時に電極間で

発生するアーク放電が、デバイスの信頼性に深刻な影響を与える。特に直流遮断時に発生する開離アークの

影響が大きく、その短縮が求められている。

開離アーク短縮技術として、外部磁界印加を利用した磁気吹消し、及び接点開離速度の増加が効果を有す

ることが知られている。例えば、DC50V を越えるような負荷領域では、開離アーク継続時間が接点開離速度

の増加にほぼ反比例して短縮されることが知られており、また、これらの負荷領域で外部磁界印加による磁

気吹消しの有効性も確認されている。

しかし、申請者による最近の研究では、DC20V程度までの負荷レベルでは、接点開離速度と開離アーク継

続時間が必ずしも反比例の関係を満たさないことや、接点開離速度の増加が実際には金属相アークの短縮を

もたらしていると考えられることが明らかになった。また、外部磁界印加を利用した磁気吹消しについて、

ガス相アークの短縮に有効であるが金属相アークの継続時間には顕著な影響を与えず、アーク全体の継続時

間に占める金属相アークの割合が無視できない軽~中程度の負荷レベルにおける効果を、あらためて明確化

することが求められている。特に、これまでの申請者のグループによる研究の中では、磁気吹消し現象の高

速度カメラによる観察時に、磁気吹消しが発生していないにもかかわらずアークが短縮される場合を観測し

た。さらに、その場合には、ローレンツ力が印加されるはずの方向にアーク柱が移動せず、むしろその反対

方向にアーク柱が移動してから消弧することが確認された。

本研究では、上記の様な外部磁界印加時のアーク柱の挙動に着目し、その再現性の確認と発現メカニズム

の解明を当初の目的として検討を進めた。

Ⅱ.得られた成果

(1)外部磁界印加時のアーク柱の特異な挙動に関して

現象の観察に必須となるハイスピードカメラを現時点では所有していないことから、ハイスピードカメラ

を短期間だけ借用することで、まず現象の再現性の確認を行った。これまでは、ネオジウム磁石を試験電極

対の横方向に配置することで外部磁界を印加し、アーク柱の挙動の観察を行ってきたが、今回はそれに加え

て、ネオジウム磁石を試験電極対の上方向に配置した場合の挙動観察も行った。この磁石の上方配置では、

ローレンツ力が水平方向に発生することになるため、アーク挙動に対する重力の影響を排除できると考えた

ためである。結果として、ローレンツ力が印加されているはずの方向とは逆方向へのアーク移動が再現性良

く観察されたほか、磁石の上方配置時には水平方向へのアーク移動が確認でき、この現象の発現メカニズム

として重力の影響を排除することができた。

(2)観察のための機材の導入に関して

上記(1)のように現象の再現性は確認できたが、その発現メカニズムをさらに検討するためには継続的な

現象の観察が不可欠であり、そのためにはハイスピードカメラを現有していない点が大きな障害となる。そ

の解決策として、研究室で所有しているハイスピードマイクロスコープの動画撮影機能の活用を試みた。特

に今回は、新規に照明装置を導入して撮影を行ったところ、それなりに良好な観察を実施できることが確認

できた。

(3)開離アークの再点弧現象に関して

外部磁界印加時の開離アークの挙動として、軽~中レベルの直流誘導性負荷回路の遮断時における再点弧

現象に関する検討も継続した。具体的には、以前の結果に対してデータ数を増やすことで、過去に観測され

ていた実験結果の妥当性の検討を行った。ただし、この現象に対しては、上記(2)で述べたハイスピードマ

イクロスコープによる観察は未着手であり、今後の課題となっている。

Ⅲ.得られた成果の対外発表

上記のように得られた成果の一部については、電子情報通信学会機構デバイス研究会にて発表済である。

さらに、2020年 6月開催予定の 30th International Conference on Electrical Contacts (ICEC2020)、

ならびに 2020年 10月開催予定の 66th IEEE International Conference on Electrical Contacts

(Holm2020)にて発表する予定である。

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令和元(2019)年度特別研究費 実績報告書

令和2年3月16日

公立千歳科学技術大学

学長 川瀬 正明 様

公立千歳科学技術大学特別研究等助成要綱第 4条に基づき、下記のとおり報告いたします。

採択区分 □若手研究者支援研究費 ☑基盤的研究費

報告者

所属 応用化学生物学科 職名 教授 准教授 講師 助教 助手

氏名 梅村 信弘 ふりがな うめむら のぶひろ

研究課題名 赤外線カメラによるデモンストレーションに関する研究

本研究費に

よる発表論

文、著書 な

特になし

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研究成果報告

1 本研究の概要

測定温度の範囲 -20~550℃

画素数(pixels) 320×240

画角 45°×34°

波長範囲 8~14μm

冷却 非冷却方式

表1 主な性能諸元 近年比較的安価な赤外線カメラが市場に流通しており、イン

ターネット等を通じて身近に入手可能な状況である。本研究は

ポータブルの赤外線カメラを用いて様々なデモンストレーショ

ンを行うとともに、新しいアプリケーションの模索を行った。

本研究で取得した赤外線カメラは、米国 FLIR社製 E8xtで、

主な性能を表1に示す。画素数は 76,800個であるが、可視カメ

ラによる2値化処理画像との重畳効果により、鮮明に見せかけ

ている。

2 主なデモンストレーション

デモンストレーションを実施した主なイベントを以下の表2に示す(本研究を開始する前にレンタルの赤

外線カメラを用いたイベントを含む)。

表2 主なイベント

日 付 イベント 来場者数

令和元年6月16日 オープンキャンパスのアトリウムイベント 約20名

令和元年10月6日 オープンキャンパスの研究室開放 約20名

令和元年10月20日 稜輝祭展示 約30名

令和元年11~12月 1年生研究室見学 約24名

令和2年3月4日 北海道教育大学旭川校来学 2名

実施内容は、説明対象者の年齢等により、中身を変えているものの、壁の手形、蛍光灯の余熱画像、アク

リル板と黒のポリ袋越しに見る赤外線画像、板、ガラス、金属板等を利用した赤外線の反射及び放射特性の

比較を行った。特に評判が良かったのは、壁の手形とアクリル板と黒のポリ袋の透過特性の違いであった。

今後様々なデモンストレーションについて工夫を行っていく。

3 アプリケーションの模索

赤外線カメラのアプリケーションを模索するためいくつかの機会をとらえて赤外線カメラによる撮影を実

施した。そのうちのいくつかについて画像とともに紹介する。温度が低い方から高い方に行くにしたがって、

藍色から赤色となり、温度の最も高いところは白く見える。

(1)石油タンク内の燃料

下の写真1は石油タンクの赤外線画像である。タンクの上部と下部で少し色合いが異なることがわかる。

これにより石油タンク内にある燃料の量を推定することができる。

(2)ウマ牧場における放牧

下の写真2はウマの放牧の様子である。ウマの体温により、暗い中でも認識が可能である。夜間の野生動

物の監視等にも応用できるが、より安価な暗視カメラでも代用可能である。

写真1 石油タンク(10/27 昼間) 写真2 放牧中のウマ(10/27 薄暮)

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(3)有珠山の地熱

北海道有数の火山である昭和新山は、今も地熱を発している。写真3は麓から撮影した昭和新山の状況で

ある。写真の白い部分は地熱により温度の高いところを示している。別の赤外線画像では、白い部分の温度

は体温とほぼ同じ 38℃であった。また、写真4は有珠山山頂から撮影した有珠山の様子である。後ろの白い

部分が温度の高いところである。今後、千歳市にある樽前山についても地熱データの取得を行う。

写真3 昭和新山 (11/9 昼間) 写真4 有珠山 (11/9 昼間)

(4)氷像及び雪像

さっぽろ雪まつりの氷像及び雪像について撮影を行った。写真5は雪像で、写真6は氷像である。基本的

に氷像と雪像は赤外線の見え方が異なることがわかる。これは、像の温度よりも、氷と雪では表面状態によ

り放射率が異なることが原因と考えられる。赤外線カメラにより融雪状態をどの程度把握できるか否かを踏

まえたうえで、落雪や雪像崩壊による事故防止等への応用も考えられる。

写真5 雪像 (2/9 昼間) 写真6 氷像(2/9 夜間)

4 今後の予定

航空機や建物などの様々な熱源に対する画像データを取得するとともに、赤外線技術の応用に関する検討

を行う。また、授業や研究室見学等の機会を利用して、多くの学生や市民に接してもらう。

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令和元(2019)年度特別研究費 実績報告書

  令和2年3月13日

公立千歳科学技術大学

学長 川瀬 正明 様

公立千歳科学技術大学特別研究等助成要綱第 4条に基づき、下記のとおり報告いたします。

採択区分 ■基盤的研究費

報告者

所属 応用化学生物学科 職名 教授

氏名 川辺 豊 ふりがな かわべ ゆたか

研究課題名 エキシプレックス発光を利用した新奇な波長可変レーザー及び光増幅器の研究

本研究費に

よる発表論

文、著書 な

1. Takuru Yasuda, Hisaya Oda, and Yutaka Kawabe, “Optical properties of excited-state donor-acceptor

complex formed in polymer films,” P-16, 20th Chitose International Forum on Science and Technology, Oct 14,

2019, Chitose.

□若手研究者支援研究費

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研究成果報告

エキシプレックスは、近接して存在するドナー性分子とアクセプター性分子が、励起されたのちの相互作

用によって形成する励起会合体である。その状態は一方の分子に局在した励起状態と電荷移動状態の重ね合

わせと言われ、通常よりも長波長側に広い発光バンドを有するという特徴がある。本研究はその広い発光を

用いた光増幅およびレーザーの可能性を探索することである。

ドナー性を有する分子で誘導放出を示すものはいくつか知られている。本研究では、高分子薄膜中にその

分子とアクセプター分子とを共ドープした薄膜を作製し、濃度や混合比がその発光スペクトルや緩和特性に

与える影響を調べるとともに、誘導放出特性とレーザー応用の可能性を検討することにある。ただし、2020

年に入って京都工繊大のグループにより特定の組合せによる増幅とレーザー発振が報告された。(Hara et al.

Appl. Phys. Lett., 116, 063301, 2020)これは、ある意味で本研究の方向性の妥当性を示しているともいえる。今

後は様々な組合せを広く検討するとともに、発振特性に影響すると考えられる励起状態の動的挙動の研究を

併せて進めることが必要である。

図 1 色素試料の構造式 図 2 紫外励起発光寿命測定用実験装置の概略図

本研究においては、ドナー性分子 TPD とアクセプター性の DPQX をポリスチレン中に混合した薄膜を試

料として用いた(図 1 参照)。混合重量比は色素それぞれ 2 に対し、高分子 6 の割合である。この試料に対

し、励起状態の動的特性を反映する蛍光寿命の測定を行った。本検討を行うに当たって、高繰返しパルス LED

光源(PicoQuant社、PLS340)を用いた測定系を構築し、既設のストリークスコープと同期させることにより

感度と時間分解能の向上を図った。実験系のダイアグラムを図 2に示す。

図 3 TPD/DPQXにより形成されたエキシプレックスの発光減衰

得られた発光減衰曲線(200s積算)を、光源強度の時間依存性とともに図 3に示す。光源信号の形状より

時間分解能として 1ns程度が得られたことが分かる。一方、エキシプレックスにはそれよりも明らかに長寿

命の成分があることも示された。

従来の本学の装置(Q-switch YAG高調波励起)の場合はレーザーのパルスジッターが大きく、時間分解能

は 50nsが限界であった。それに比べると、今回の装置導入によって大きく改善されたことがわかる。ただし、

本 LED 光源はフルパワーで 1W であり、ストリークスコープと同期させる際の実効出力は 10nWにすぎず、

極めて微弱な信号しか得られていない。今後の検討を行うには、より高輝度の光源を導入する必要がある。

本研究において用いた試料は本学大学院生安田琢硫の作製になるものであり、装置の設置調整に当たって

は小田久哉准教授の協力を得た。併せて感謝の意を表する。

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令和元(2019)年度特別研究費 実績報告書

令和 2年 3月 20日

公立千歳科学技術大学

学長 川瀬 正明 様

公立千歳科学技術大学特別研究等助成要綱第 4条に基づき、下記のとおり報告いたします。

採択区分 □若手研究者支援研究費 ■基盤的研究費

報告者

所属 情報システム工学科 職名 教授

氏名 曽我 聡起 ふりがな そが としおき

研究課題名 AR(拡張現実)を利用した支笏湖デザイン研究プロジェクト

本研究費に

よる発表論

文、著書 な

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研究成果報告

千歳市は道内で数少ない人口増加を続ける都市である。新千歳空港の旅客数は、国内線が前年度比で 3.7%

増、国際線 27.5%増と 4年連続過去最高を更新している(平成 29年度)。また、豊かな自然環境/生態系サ

ービスに恵まれ魅力的な観光資源が多数存在する。その中にはキウス周堤墓群のような世界遺産級の史跡も

含まれる。しかしながら、市内観光入込客数を分析すると、日帰り中心の近郊型観光地として定着している

ことがわかる。それは四季を通して魅力的な千歳市の観光資源情報を効果的に発信していないことが大きな

理由と考えられる。また、支笏湖などへの観光アクセスの問題もある。

本研究ではこの魅力的な観光資源を最新の AR(拡張現実)テクノロジーを利活用することで、空港や駅等

の観光地から離れた場所からでも魅力ある観光情報を観光客に効果的に発信し体験する仕組みを構築し、千

歳市を長期滞在型観光地として定着させるための取り組みの一環として研究を行った。

具体的には下記の項目を研究した。

本プロジェクトは,観光客に対し AR コンテンツを提供することにより,支笏湖など千歳周辺に関する質

の高い生態系サービスのユーザー体験が可能な仮想体験空間を作成し提供することを検討する。

主に,千歳市内などで観光客に ARコンテンツを体験してもらい,そのユーザー体験に基づく千歳の観光

の可能性について調査を行う。

ゴーグルなど特殊な用具を用いる VR と異なり,ARテクノロジーはタブレットやスマートフォンなど,身

近な携帯情報端末が高性能化し,また,5Gに代表される高速ネットワークが普及することにより,誰もが

利用できる最先端の環境が整った。今後は,身の回りの様々なものが AR化されるミラーワールド社会の到

来を予測する社会学者が増えている。これまで,ゲームなどのエンターテイメント性が注目されがちだった

AR を用い,現実の観光に繋がりを作ることは,挑戦的な取り組みであると考えた。

本研究においては,千歳市観光スポーツ部のほか市民グループの協力や支笏湖ビジターセンター,王子軽

便鉄道ミュージアムなどの協力を得ながら,ARシステムを構築した。コンテンツの収集においては,市民

グループらにより,支笏湖と千歳周辺の観光スポットに足を運び,360度パノラマ画像の撮影収集を行っ

た。今回の取り組みの中で,最も重要と考えたことの一つが,こうした地元の人々による情報である。これ

は,現代においてはクラウド上に存在しない観光スポットを抽出する作業であり,AIなどを用いても見出

すことはできない貴重な情報である。いわば,Google や Apple でも見つけることは困難な情報とも言え

る。また,紅葉シーズンの支笏湖のドローン映像を撮影するなども,最適な時期を支笏湖ビジターセンター

などから収集した。

こうして収集・作成したコンテンツを様々な ARで用いた。中でも,国土地理院の 3D地図データを用いた

VR 画像を ARに組み込み,調査した地点ごとにマーカーを設置したコンテンツは,ユーザーが実際に地図内

を歩行しながら観光地を体験するものとして完成させた。このシステムは,2019年 12月 3日に本学の SNC

事業であるオープンサイエンスパークと共同で,支笏湖ビジターセンターを貸し切り公開するに至った。こ

の様子は支笏湖デザインプロジェクトの Webサービスのほか,地元メディアである千歳民報社,北海道新聞

社,日刊工業新聞社が取材し,記事としてまとめられ,本取り組みが地元市民の知るところとなった。

その後,本システムの改良と拡充を続け,2020年 2月 16日には氷濤祭で賑わう,支笏湖ビジターセンタ

ーと氷濤祭会場休憩所において ARコンテンツとしての調査を実施するに至った。その結果は興味深いもの

で,調査した 72件の被験者のうち,既に 40%ほどが ARの使用経験があると答えた。その内訳は 3割がゲー

ムであった。ARコンテンツに関しては大半の利用者が楽しめたと答え,しかも 6割の被験者が観光材料に

なると回答するなど,有効性の一端を垣間見ることができた。しかし,その中の一部には ARの効用により

観光地に足を運ばなくなる可能性を示唆する意見も出てきた。

こうした取り組みと知見を得ながら,今年度最後の取り組みとして 2020年 3月 21日に札幌創世スクエア

において「支笏湖デザインプロジェクト AR展示会」を実施する運びとなった。この取り組みは 2019年度末

から計画していたものだが,折からの新型コロナウィルスの影響により,急遽無観客で実施し,その様子や

内容をネット配信するなどの企画に変更することとした。新型コロナウィルスの観光産業に与えた影響は大

きく,こうしたテクノロジーの利用によりどのような支援が可能であるかを試す機会にもなった。その意味

で本取り組みはメディアの注目を集めることとなり,北海道新聞社の全道版に掲載され,当日も取材が予定

されている(本報告記述は 2020 年 3月 20日)。

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令和元(2019)年度特別研究費 実績報告書

令和 2年 3月 20日

公立千歳科学技術大学

学長 川瀬 正明 様

公立千歳科学技術大学特別研究等助成要綱第 4条に基づき、下記のとおり報告いたします。

採択区分 □若手研究者支援研究費 ■基盤的研究費

報告者

所属 情報システム工学科 職名 准教授

氏名 小林 大二 ふりがな こばやし だいじ

研究課題名 仮想現実空間への適用可能なユーザインタフェース開発のための基礎研究

本研究費に

よる発表論

文、著書 な

次年度以降に予定

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研究成果報告

本研究では,ユーザが仮想現実環境(VR 環境)の中で想定される作業を行う際に,仮想空間内で他

のシステムを制御するためのユーザインタフェース(UI)のデザインの人間工学的ガイドラインを明

らかにすることを目的とした。

VR 空間では,ユーザに代わってアバターと呼ばれる自身を表現した対象が活動することになるが,

その際に,VR 空間内でのアバターの表現が,ユーザのパフォーマンス(行動)に影響を及ぼす可能性

がある。その一例には「身体化の問題」と呼ばれる課題が存在する。この身体化とは自分ではない身体

を自分自身の身体だと思う感覚のことである。

身体化の研究は,Rubber Hand Illusion(RHI)の発見から始まる。当初は,検証方法・生起条件・

脳内メカニズムに焦点が当てられ,質問紙法 (Botvinick & Cohen, 1998),触感覚の生じた位置を報告さ

せる (Honma et al., 2009),などの内観法が,用いられていた。また,心理物理学的研究では,隠れたリ

アルハンドの主観的位置の移動を RHI の生起前後で比較 (Botvinick & Cohen, 1998)した例がある。さら

に生体計測による検証として,皮膚電位反応(Armel & Ramachandran, 2003; Honma et al., 2009; Ehrsson et

al., 2009),脳イメージング (Ehrsson et al., 2004),脳波(Kanayama et al., 2007; Kanayama et al., 2009)など

による報告もある。これらの研究により,身体化の生起条件として時空間情報の一致と,視覚刺激の優

位性があることが報告されている。つ

まり,ユーザの実環境における行動と

VR 空間内での行動,つまり視覚的なフ

ィードバックとの間に遅延がないこ

と,さらに,体性感覚や力覚と言った

感覚様相に比べて,視覚による影響が

強いことが明らかとなっている。

今年度までは,VR における身体化の

問題に対して,身体化感覚(Sense of

Embodiment(SoE)と呼ばれる概念に

基づく実験的なアプローチによって取

り組んできたが,実験環境がなく他大

学の研究室を利用した実験を余儀なく

されてきた。そこで今年度は,本学の

研究室に実験環境を構築するための取

り組みを並行して実施した。身体化の

研究に取り組むための VR 環境の構築

については,ハードウェア(機材)と

ソフトウェア(プログラム開発環境お

よび開発したソフトウェアの実装),

さらに,これらのシステムの調整が必

要であり,実験を行うための様々な予

備テストを実施する必要がある。

本基盤的研究では,機材およびソフ

トウェアの調達が完了した 1 月から 3

月までの間に,実験環境の構築(右

上)とテスト用のソフトウェアの開発

および実装(右下)を実施した。

次年度からは,引き続き,実験環境の

調整,テストを繰り返すことで,身体

化研究に耐えうる環境を構築し,身体

化研究のための実験を進めていく予定

である。