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Copyright 2017 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 『富士通総研 FRI 経済研ワークショップ』 新たな地域の資金調達手段を探る ~ふるさと納税・ふるさと投資等行政のクラウドファンディングの行方~ ―2017 年 9 月 11 日 富士通総研会議室にて開催― 開会挨拶 富士通総研 経済研究所 上席主任研究員 生田孝史 経済研究所では、各研究員が自分の研究領域に近い分野で情報交流の場を設けるために、不定 期でその時々のトピックに応じたワークショップを企画しています。昨今、大都市を中心にヒト、 モノ、カネの集中が進んでいます。その中で、今後の地域のあり方や地域振興に向けて、新しい 資金調達手段の「クラウドファンディング」をテーマに、地域でクラウドファンディングの取り 組みを進められている実務者 4 名をお招きしてプレゼンテーションとパネルディスカッションを 行います。本日の議論などを通じて、何か 1 つでも皆様の取り組みのヒントになればと思ってお ります。 プレゼンテーション(発表順) 『新たな地域の資金調達手段となるか?:拡がる地域のクラウドファン ディング 』 富士通総研 経済研究所 上級研究員 渡邉優子 クラウドファンディングとは、個人や企業、NPO などの資金調達者が、自身の夢や想いを乗せ たプロジェクトをインターネットに公開し、資金提供者(群衆:クラウド)から小口出資を基本 として、資金を調達する仕組みです。資金調達者と提供者の間には、「プラットフォーマー」と呼 ばれるクラウドファンディング運営事業者が介在し、調達資金の一部を手数料として受け取るこ とが特徴です。 国内のクラウドファンディングの市場規模は年々増加の一途を辿っています。その理由は、資 金調達者・提供者双方のメリットが大きいことです。資金調達者のメリットは、インターネット を通じて手軽に広く資金調達できることや、既にプラットフォーマーが数多く存在していること で、簡便に準備が進められること、手数料の支払いは資金調達が成功した場合のみ(金融型は除 く)と低リスクであること等があげられます。近年は、大企業によるテストマーケティングや事 業化の検証という活用も増えてきています。資金提供者にとっては、インターネットで複数案件

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『富士通総研 FRI 経済研ワークショップ』

新たな地域の資金調達手段を探る

~ふるさと納税・ふるさと投資等行政のクラウドファンディングの行方~

―2017 年 9 月 11 日 富士通総研会議室にて開催―

■開会挨拶 富士通総研 経済研究所 上席主任研究員 生田孝史

経済研究所では、各研究員が自分の研究領域に近い分野で情報交流の場を設けるために、不定

期でその時々のトピックに応じたワークショップを企画しています。昨今、大都市を中心にヒト、

モノ、カネの集中が進んでいます。その中で、今後の地域のあり方や地域振興に向けて、新しい

資金調達手段の「クラウドファンディング」をテーマに、地域でクラウドファンディングの取り

組みを進められている実務者 4 名をお招きしてプレゼンテーションとパネルディスカッションを

行います。本日の議論などを通じて、何か 1 つでも皆様の取り組みのヒントになればと思ってお

ります。

■プレゼンテーション(発表順)

『新たな地域の資金調達手段となるか?:拡がる地域のクラウドファン

ディング 』

富士通総研 経済研究所 上級研究員 渡邉優子

クラウドファンディングとは、個人や企業、NPO などの資金調達者が、自身の夢や想いを乗せ

たプロジェクトをインターネットに公開し、資金提供者(群衆:クラウド)から小口出資を基本

として、資金を調達する仕組みです。資金調達者と提供者の間には、「プラットフォーマー」と呼

ばれるクラウドファンディング運営事業者が介在し、調達資金の一部を手数料として受け取るこ

とが特徴です。

国内のクラウドファンディングの市場規模は年々増加の一途を辿っています。その理由は、資

金調達者・提供者双方のメリットが大きいことです。資金調達者のメリットは、インターネット

を通じて手軽に広く資金調達できることや、既にプラットフォーマーが数多く存在していること

で、簡便に準備が進められること、手数料の支払いは資金調達が成功した場合のみ(金融型は除

く)と低リスクであること等があげられます。近年は、大企業によるテストマーケティングや事

業化の検証という活用も増えてきています。資金提供者にとっては、インターネットで複数案件

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を一度に比較できるなどアプローチしやすいことや、小額から出資できることがメリットです。

加えて、希少性の高い返礼、特に応援の気持ちが形になるといった心理的な返礼に魅力を感じる

人も多いです。このため、資金の使い道とプロジェクトの成果を目に見える形にすることが、資

金調達成功のポイントとなります。

地域基点のクラウドファンディングとは、資金調達者やプラットフォーマー自身が自治体、あ

るいは資金調達者が自治体や地域金融機関等と連携しているものを指します。通常のクラウドフ

ァンディングより、地域に密着した形での事業展開を目指すものであり、自治体や地域金融機関

の関与による信頼性の担保や、地方創生の波に乗って賛同が得られやすいといった利点がありま

す。

しかし、課題もあります。特に行政が主体となるクラウドファンディングにおいて、ふるさと

納税制度を活用している場合、資金の使い道やプロジェクトの成果が不明瞭な点が課題として指

摘されています。返礼品合戦により返礼品のみに焦点が当たっていることや、そもそも資金の使

い道が明確に示されていないため、クラウドファンディングにそぐわないとも考えます。ふるさ

と納税制度自体の課題について、総務省通知の影響もあり、各自治体でも内容勝負に出る等見直

す動きが出てきています。その動きに伴い、ふるさと納税制度を活用したクラウドファンディン

グのあり方も変わっていくと思います。

また、地域基点のクラウドファンディングには、ふるさと投資を活用したクラウドファンディ

ングもあります。ふるさと投資とは、近年拡大している、地域金融機関など地域連携を重視した

投資プロジェクトであるため、成果重視であり、クラウドファンディングと非常にマッチしてい

ます。一方で、認知度が低い、運用が難しい、地域が主体となった場合の行政の関わり方などに

課題があります。その他、通常のクラウドファンディングも地域主体・行政主体で行われていま

す。

実施事例として、被災地支援、行政施設あるいはサービスの強化充実、まちづくりの推進、中

小企業支援や地域産業の創生などに活用されています。被災地支援を除くと、目標金額の多くは

50 万~100 万円とあまり大きな金額でなく、募集期間の目安は 1 カ月半程度です。目標を高額

に設定しすぎると、一部の資金が集まっても目標未達でプロジェクトが実施できないこともある

ため、金額を区切って実施事項の優先順位を決めるなどの工夫が求められます。

地域基点のクラウドファンディングの効果は、地域内外のつながりをより強化するところにあ

ります。厳しい行財政の中、補助金等に頼らず、地域の外からも資金を集めることができる上、

地域ファンへの昇華など資金調達から「深化」した効果も出てきます。幅広い意見を吸い上げな

がら、資金が集まると即事業実行できるので、地域に活気がわいてきます。地域での事業起こし

という点でも、「小さく生んで大きく育てる」ことを実践でき、地域金融機関に橋渡しすることで、

さらなる事業拡大するなど、地域経済を好循環へと導く手段とすることも可能です。

ただし、クラウドファンディングは、税収等と異なり、恒久的な資金調達手段ではありません。

予算の不足分の補填といった使い方ではなく、内容勝負で資金の使い道とプロジェクトの成果を

しっかりと示したプロジェクト型で実施していくことが望まれます。他の地域との差別化、地域

の魅力のアピール、さらには、行政だけでなく、地域の皆さま総出で地域プロモーションにつな

げていける手段にもなり得ると考えます。

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『明日香村ふるさと投資の取組み

~空き家とクラウドファンディングを活用してインバウンド推進 』

奈良県明日香村商工会・経営指導員 下田正寿 氏

明日香村は奈良県の中央にあり、石舞台古墳や高松塚古墳など遺跡が多い場所です。年々増え

続ける空き家を宿泊施設に利用する試みは以前からありましたが、ビジネスとは言えない事業形

態の古民家宿も多く、経済活性化や雇用創出には必ずしも役立っていませんでした。また、通称

「明日香法」という法律により景観が維持される一方で、過疎化が進み、若い人々の流出は止ま

らない状況でした。

その中で、明日香村では平成 23 年からホームステイ型民泊で国内外からの教育旅行を受け入

れてきました。今年度は現時点で約 7,000 泊の予約が入っており、インバウンドの波に乗って順

調に伸びています。この経験を通じて、教育旅行関係者の宿泊や FIT(Foreign Independent

Tour:海外個人旅行)の需要が見込まれることがわかり、空き家となっていた築 110 年の古民家

をリノベーションし、外国人向けゲストハウス事業を始めようということになりました。

資金調達を検討する際に、自己資金、融資、村や国の補助金のほかに、クラウドファンディン

グも利用することにしました。新聞やテレビの報道、大阪の商工会議所の指導員からミュージッ

クセキュリティーズ(株)のことを見聞きし、「共感型資金調達で、お金だけでなく客も呼べる」

ことに斬新さを感じてもいました。

クラウドファンディングの受け皿として、商工会会員が出資して民間会社を設立し、「明日香村

古民家活用おもてなしファンド」(All in)として 1,500 万円を募集したところ、1,300 万円超の

資金が集まりました。出資特典として、1 口につきゲストハウスの宿泊無料券 2,800 円と、明日

香村産の白米や古代米、地ドレッシングなど 5,000 円相当の特産品セットを送付しました。

ただし、全体の資金繰りはファンドだけでは足りないので、総務省の地域経済循環創造事業交

付金から 1,100 万円と地元金融機関の融資で 1,000 万円を調達しました。国の交付金は奈良県や

明日香村を経由するため「なぜ、あの民間会社に村の交付金が入っているのか」と地域内から反

発の異論がでたり、金融機関が実績のない会社への融資に及び腰になったりと、非常に苦労しま

した。

それでも、必要な資金を調達でき、ゲストハウス事業をスタートさせることができました。掘

り炬燵が置かれた共有スペースでは、外国人や若い人たちが一緒にお酒を飲みながら交流する光

景が見られます。地元産の日本酒も揃えたところ、大変人気となっています。特に我々が胸を張

れる点は、地域出身の 20 代、30 代の子育て世代をスタッフとして雇用していることです。

今後は明日香村モデルを確立し、古民家を活用したスタートアップ事業推進に関するノウハウ

を構築し、地域経済に貢献したいと思っています。特に起業 5 年間は寄り添って売上げを出して

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いくスタンスが大事だと考えています。

最後に、あくまでも私見となりますが、資金調達と顧客獲得を同時に遂行できることを理解し

たうえで、一回くらい失敗してもいいくらいの気持ちで、クラウドファンディングを実施してい

くことが重要です。実際にやってみた感想ですが、(金融型クラウドファンディングは)コストが

非常に高かったです。私の知る限りでも、初期投資 150 万、年間監査費用が 30 万円。寄付型の

クラウドファンディングではないため、1%利回りを元金とともに売上に応じた償還額で返済しな

いといけません。その点では、日本政策金融公庫の事業資金借入れのほうが金利もコストも安い

のです。クラウドファンディングはあくまでも資金調達と広告宣伝のツールの 1 つであり、目的

を明確にして活用することが大事だというのが、自分の至った結論です。

『「FAAVO さばえの取組み」について

ー鯖江市のクラウドファンディング参入による地域課題解決』

鯖江市政策経営部財務政策課 参事・グループリーダー 今川泰夫 氏

鯖江市は人口 6 万 9 千人ほどの小さい市です。福井県内では過疎化が進んでいますが、市制施

行以来、鯖江市のみ人口が増え続けています。これは福井市のベッドタウンとして発展したこと

に加えて、全国自治体の中で初となる施策を多数実施してきたことが影響していると思います。

市民主役のまちづくりとして、鯖江市役所では JK 課やおばあちゃん課を設け、高校生や高齢者に

行政に参加してもらうなど、ユニークな取り組みをしてきました。

主な産業はめがね、繊維、漆器。めがねは国内産の 95%のシェアを誇ります。漆器は 1,500

年の歴史があり、業務用漆器の約 80%は鯖江産です。繊維はカーシート、医療用の人工血管、機

能性繊維、化粧品などを作っており、モノづくりのまちです。

総務省が進める以前から、オープンイノベーションで IT によるまちづくりを推進しているほか、

大学や研究機関とも積極的に連携してきました。このため鯖江市への視察は年間 40~50 件にの

ぼります。

鯖江市は、自治体初となるクラウドファンディング運営事業者となりました。運営母体「FAAVO

さばえ」の発足は 2014 年 12 月です。行財政が厳しい中、補助金が尽きると地元産業が廃れる

例が見られることや地元産業で新製品開発や異分野への進出が増えていること、市民の夢の実現

を応援し、まちの活性化や創業支援を行うことなどを勘案し、全国の自治体としては初めて

FAAVO のエリアオーナーになりました。

FAAVO の運営は、市と(株)サーチフィールドが共同で行い、鯖江市財務政策課に事務局があ

ります。パートナーは福井銀行、福井信用金庫、福井カード、福邦銀行。主に事業の掘り起こし、

協調融資、周知などをしてもらいます。福井銀行系列のインターネット会社がホームページの作

成などで運営協力するので、パソコンを使えない人でも、アイデアさえあれば起案が可能です。

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基本的に鯖江市内の団体が対象ですが、市の活性化に寄与するなら何でもいいと柔軟に考えてい

るため、市外からの申し込みや問い合わせも多数あります。

FAAVO さばえの特徴は、行政がオーナーとなることで安心して事業提案や資金提供ができるこ

と。市役所や銀行での代理決済を受け付け、インターネットができない年配者からも資金をご提

供いただけること。手数料が 10%(通常は 20%)と安いこと。プロジェクトの遂行からアフタ

ーフォローまで、きめ細かな支援を受けられることなどです。

市民から相談があると、市の職員と福井銀行グループが一緒に 1 事業につき 3~4 回ほどヒア

リングしながら、ページ作成、事業の中身、支援の金額、リターン品などを作り込んでいきます。

ページをアップした後も支援募集や拡散のアドバイス、お礼やリターン品の送付確認などの進捗

状況も管理します。市の職員にはそれなりに負担がかかりますが、みんなが積極性を発揮するよ

うになりました。

市民からの相談は月 3~4 件程度。平成 28 年度は 10 件が起案できました。今日現在、29 事

業中 27 事業の募集期間が終了し、すべて達成しています。All or Nothing 方式で、達成率は平均

153%。小さいまちですが、2 年余りで 3,200 万円が集まりました。ただ、All or Nothing 方式

にすると、目標金額を低く設定しがちなので、今年度から目標金額が大きなものは All in 方式も

採用しています。

市営動物園に、なかなか予算を回すことができませんでしたが、クラウドファンディングを活

用し、職員のユニフォームや軽トラックのペイント、休憩スペースの新設やお土産品開発などが

実施できました。民間ですら、赤字経営となっている動物園ですが、クラウドファンディングの

効果もあり、今では黒字経営となっています。市内の一般主婦が始めた越前和紙の事業は、当初

銀行融資を断られましたが、FAAVO に相談してバックアップが得られたことで、資金面をはじめ

取引先との交渉などでも金融機関の協力が得られ、事業化に成功しています。このような新しい

地域発の事業が創生できています。

ふるさと納税制度を活用したクラウドファンディングも実施しています。返礼品合戦に一石を

投じたいと、内容勝負で資金の使い道とプロジェクトの成果を明確にしたプロジェクト型で実施

しています。結果、300 万円程度だったふるさと納税の寄附額が、昨年度は 9,400 万円、今年度

は 2 億円程度が見込まれています。めがねを中心とした特産品を活用しているほか、ふるさと納

税のクラウドファンディング型サイト「F×G(エフバイジー)」を立ち上げ、個々の事業や職員の

想いにスポットを当てて公募しています。公費となるため、市の事業に特化しています。

資金の特色に合わせたまちづくりも進めています。例えば、「めがねのまち さばえ」を象徴す

るメガネストリートのプロジェクトの場合、ハードの整備は、ふるさと納税制度を活用したクラ

ウドファンディング「F×G」で、隠れメガネなどのソフト面は、通常のクラウドファンディング

「FAAVO さばえ」で資金調達する形で進めました。当初の事業予算は 1,500 万円でしたが、「F

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×G」で約 940 万円集まったので、約 500 万円の予算で済みました。

田舎の自治体でも工夫すれば、いろいろなことができます。クラウドファンディングは補助金

を得る時に必要な諸手続きは不要であり、事業実行や返礼品などの約束さえ守っていただければ、

あとは何に使っても構わないと言うことにしています。市民や地域団体等の取り組みへの本気度

を図る上でもクラウドファンディングは機能しており、結果として、補助金削減につながりなが

らも、新しい地域での取り組みは次々に生まれています。

『まちづくりにおけるクラウドファンディングの活用

~立川「ファン」づくり』

(株)まちづくり立川 事務局長 住吉あゆみ 氏

まちづくり立川は、立川市内の商業者が中心となって設立した完全民間会社です。エリア活性

化のために fun(まち自体の楽しさ)と fan(地域を応援してくれる人)を創造しようと、クラウ

ドファンディングを活用しながら、若い起業家を地域に集め、地域資源を生かし、地域経済を回

す循環型社会を目指して、さまざまな事業に取り組んでいます。

2015 年に「FAAVO 多摩中央」のエリアオーナーになり、パートナーとして創業支援センター多

摩(母体が多摩信用金庫の創業支援事業)と連携しながら、クラウドファンディング 14 件中 11

件を達成し、トータルで約 910 万円を調達してきました。

最初に取り組んだ事業の1つが、シェアオフィス事業です。起業家を集め、優秀な人材を流出

させない拠点、リーズナブルで汎用性があり、多彩な人材とのコラボレーションのきっかけとな

る場として、シェアオフィスの整備を始めました。その際に、起業時のハードルとなる資金調達

の手段の1つになればと、クラウドファンディングの事業に着手しました。現在、TXT(テクス

ト)と KODACHI(コダチ)の 2 つのシェアオフィスを、29 社 34 名が利用しています。

プラットフォーマーである FAAVO の一番の特徴は、地域の支援者が地元を応援したいと共感

して支援が集まること。各地域にエリアオーナーがいることで、起案者の方は対面で相談できま

す。また、顔の見えるクラウドファンディングなので、不正の抑止効果もあります。

クラウドファンディングでは、資金調達以外の効果も期待できます。たとえば、広報プロモー

ション効果を例に挙げると、地産地消型ビアホールを作る起案では、支援金と同等のビール券を

リターン品にしたところ、広報活動をしていない段階で 30~40 万円集まりました。

その他では、新商品の開発、テストマーケティングができること。在庫ロスを抱える心配がな

く製造数の目安がつくことも大きな要素です。事前のヒアリングやリアクションの把握もできま

す。さらに、ノウハウを持たない起案者から、FAAVO に掲載する際にプランやストーリーを組み

立て、人に伝わる内容にしていく部分も勉強になるという声をいただいています。

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クラウドファンディングは、「ネットにあげれば、お金が集まってくる」ものではなく、実際に

どれだけ動いたかに相乗して、SNS やウェブの効果がついて来ます。したがって成功の秘訣は、

地道な広報活動で、チームで動き、役割分担をすることではないかと思います。PR の計画を立て

て、チラシやイベントなど情報発信も必要です。それから、理念に共感してもらわなくてはなり

ません。支援者やその地域にとってどんなメリットや価値が生まれるのか、共感を生む伝え方を

することが重要です。また、想いに共感するとしても、購入型ではリターン品の魅力は必須です。

最後に、経験に勝る勉強はありません。FAAVO 多摩中央では、成功のコツやテクニックを蓄積

してきましたので、プランニングや事業展開、創業支援などの相談を無料で利用できるととらえ

て、ぜひチャレンジしていただければと思っています。地域のネットワークが広がることも含め、

クラウドファンディングは、エリアオーナーの運営側、起案者側の双方のファンづくりに寄与す

る部分が大いにあるという印象を持っています。

『地域を育てる活力・クラウドファンディング~地域金融機関の役割』

(株)岩手銀行 法人戦略部ソリューション営業グループ 営業推進役 及川弘晃 氏

当行ではミュージックセキュリティーズ(株)とビジネスマッチング契約を締結し、お客様に

ご紹介して手数料をいただく形で、(金融型の)クラウドファンディングの取り組みを進めていま

す。平成 27 年、当時の石破地方創生担当大臣からの要請で、我々地方銀行も、地域金融機関の

立場で積極的に地方創生に取り組むことが求められ、岩手県内各地方自治体との連携協定を締結

するようになりました。また、岩手銀行では平成 27 年 2 月に、営業店の各支店長が窓口となり、

本部スタッフが統括し、シンクタンクの岩手経済研究所と連携しながら地方創生を進めていく地

方創生推進サポートチームを立ち上げました。

我々法人戦略部では、地方自治体と連携を図りながら、「しごと」と「ひと」の好循環づくりに

取り組んでおり、その 1 つがクラウドファンディングです。各種ネットワークや、外部機関とし

て、全国の地方銀行はもとより、県内の大学・公的産業支援機関、民間提携会社、ビジネスマッ

チングの提携先と連携を図りながら、地方創生を進めて参りました。

ミュージックセキュリティーズ(株)のクラウドファンディングの取組例としては、岩手県、

宮城県、福島県など被災地の 37 事業者を対象に、地域被災地応援ファンドを組成しました。こ

のうち岩手県内の事業者は 10 のファンドが組成されています。陸前高田市の八木澤商店様とは 2

つのファンドを立ち上げ、5,000 万円と 1 億円という規模の資金を調達しました。また、被災地

の事業者が直面している課題について 37事業者にアンケートを実施したのですが、販路の開拓、

必要な商品開発、人材の確保、事業の拡大に伴う資金繰り、仮設から本設の店舗や工場への移転

が進む中での資金調達などが問題として挙がりました。

岩手県二戸市の地方創生の取り組みでは、焼失してしまった座敷わらしで有名な旅館「緑風荘」

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の再建のために岩手銀行からの融資のほか、5,200 万円をクラウドファンディングで調達しまし

た。これは、岩手銀行と二戸市は連携協定しており、非常に先駆的な取り組みとなりました。

そのほか、資本強化の取り組みにも活用しています。二戸市の酒蔵「南部美人」では、クラウ

ドファンディングで 6,000 万円を集めました。5 年超の一括償還であればみなし資本とみなせる

特性を活用することで、我々金融機関としても財務内容を良化させる、良い取り組み事例となり

ました。

投資型クラウドファンディングは、毎年、投資者に対し、出資額に応じたリターンを行わなけ

ればならないことから、事業者の審査を十分に吟味しながら取り組んでいることを、知っていた

だければと思います。

■パネルディスカッション

―地域のクラウドファンディングの行方を探るー

【パネリスト】

・奈良県明日香村商工会・経営指導員 下田正寿 氏

・鯖江市政策経営部財務政策課 参事・グループリーダー 今川泰夫 氏

・(株)まちづくり立川 事務局長 住吉あゆみ 氏

・(株)岩手銀行 法人戦略部ソリューション営業グループ 営業推進役 及川弘晃 氏

【モデレーター】

・富士通総研 経済研究所 上級研究員 渡邉優子

Q 寄付型、購入型、金融型など、タイプによっても違いがあると思いますが、クラウ

ドファンディングはどのような事業に向いていると思いますか。

下田: 私見になりますが、金融型クラウドファンディングを実際に用いてきた事業者の方と意見

交換をしたときに、飲食業などサービス業の方が最も多くいらっしゃいました。おそらく

サービス業に向いているのだと思います。それから、その方々は、資金繰りよりも、店の

PR など共感型の資金調達という側面を重視されていたことも印象的でした。

及川: 岩手銀行が最近取り組んでいる中では、裂き織(よこ糸の代わりに裂いた布を使う織物で、

岩手の伝統工芸品のひとつ)で新しい商品開発をする地元産品のメーカーや、旅館の設備

資金などで金融型クラウドファンディングを活用しています。

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住吉: 購入型クラウドファンディングの場合、共感を生む言い回しにすれば、基本的に何でもク

ラウドファンディング化できると思っています。最近、面白いと思うのは、先行販売や事

前予約でサービスが始まる前から顧客を獲得するという点で活用される方が増えてきた

ことです。

今川: 我々は寄付型クラウドファンディングも手掛けています。事業は何でもいいと思うのです

が、イベントは地域特定にすると、お金が集まりにくいかもしれません。それから先行販

売という話がありましたが、PR になり評判なども聞けるので、新規事業や、新製品を返

礼品にできるモノづくりにも向いていると思います。

Q 調達方式(All or Nothing、All in)や目標金額の設定について、設定の仕方や

金額の妥当性をお話ください。

及川: 岩手銀行の場合、金額設定そのものはミュージックセキュリティーズ(株)に決めていた

だくことになっています。ただ、他の資金調達と組み合わせる場合は、融資では賄えない

部分をクラウドファンディングでというような方法が想定されます。資金の目標額や計画

部分は、金融機関も一緒に携わりながら進めていく必要があると感じています。

住吉: 起案者のネットワークや支援構想などを徹底的にヒアリングしてから計画を立て、目標金

額を設定していきます。また、All in の場合は、一定金額が集まったらこれをやるという

ように、起案者と支援者の間で違約がない形で計画を組むようにしています。

今川: 私共も同じような形ですが、約 30 万円までは、ほぼ集まるという感触を得ています。All

or Nothing の場合、募集する側は慎重になって本当にほしい金額よりも低めに設定する

傾向があるのですが、いったん目標額が達成されると、提供者側はそれで十分だろうと考

えるのか、調達金額が上振れしにくいのです。そのため、今年度から 100 円万以上を集

めたい時は、All in も併用できるようにと考えています。

下田: 我々は事業者の目線で設定したので、創業資金計画と同じやり方でコストを出し、目標金

額を検討しました。クラウドファンディングでは、70~80%くらい集まれば過不足なく

新事業ができるところに最初の着地点を置きました。そのお金を当てにしなければ事業が

できないという状況にはしないことを第一に考えたからです。

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Q 地域のステークホルダー(民間、自治体、地域金融機関等)との連携で苦労され

た点、あるいは、うまく連携させるための秘訣はあるでしょうか。

住吉: 民間と行政が連携する場合、片方が先にスタートすると、途中から一緒に活動することの

難しさを感じていますが、市報への応募掲載など後から協働する形もあるはずです。我々

は発信力がまだまだ弱いので、行政や地域の金融機関のお力を借りることができれば、も

っと浸透や波及効果が見込めると思っています。

今川: 鯖江市では、地方紙に月 2 回特集を組んでもらったり、地元テレビ局に新規プロジェクト

を紹介する機会を設けていただいたりしており、地元への広がりが大きいことを実感して

います。

下田: クラウドファンディングは民間として実施したので、行政とのお付き合いで特段苦労はあ

りませんでした。しかし、総務省の補助金や金融機関融資に関しては大変でした。行政の

担当者からすれば「余計な仕事が増えた」と感じたのだろうと思いますが、とにかく 1 年

間は非常に大変な思いをしました。我々から、もっと行政に説明する必要があったと思っ

ています。

及川: 岩手銀行では、地方創生の取り組みの中で、県内に 33 市町村のうち 28 市町村と地方創

生に関わる連携を結び、クラウドファンディングの活用や補助金の支援を働きかけていま

すが、まだ活用しようという市町村が出てきていないのが実状です。

Q クラウドファンディングは地域の資金調達手段として定着しうるのか、また、定着

するために、どのような課題を乗り越えなくてはならないでしょうか。

下田: 正直なところ、我々の経験から考えると、定着は難しいかもしれないと思っていました。

ですが、本日の皆さんの発表をお聞きして、十分に定着すると思いましたし、商工会議所

の事業所にも、そうした資金調達の方法があることをもっと PR していきたいと思ってい

ます。

今川: 欧米ほどではないとしても、ふるさと納税と比べて、通常のクラウドファンディングの方

が定着すると思います。我々は両方やっていますが、通常のクラウドファンディングは

20~30 代の若い方を中心に興味のあることや心に刺さることを支援します。一方、ふる

さと納税制度を活用したクラウドファンディングは 50~60 代中心に節税目的で行われ、

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はっきりと傾向が分かれています。いずれにせよ、クラウドファンディングは民間の金融

機関からの評価も高く、非常に可能性があると思います。

住吉: クラウドファンディングの魅力として、汎用性の高さを魅力に感じています。助成金や補

助金は、自治体等への申請や報告、用途の制約など厳しく、事務作業の時間や手間、コス

トがかかりますが、クラウドファンディングの用途は自由度が高いのです。我々の課題は

起案の掘り起こしです。年間で 600 万円程度の達成案件をつくらないと、エリアオーナ

ーになるための手数料をカバーできません。起案が次々と出てくる状況をつくり、実績を

重ねていくことが、定着するための決め手になるという印象を持っています。

及川: クラウドファンディングは被災地支援のツールとして非常に効果的だと思います。地方創

生の取り組みの中では、全国の方から資金調達をすることで、人的交流や興味喚起のツー

ルとなります。また、ふるさと納税の返礼品調達額への規制により、高額返礼品を拠出し

てきた事業者の売上が減少することが考えられるので、そちらにもクラウドファンディン

グを活用した資金調達が 1 つの取り組みとして考えられるのではないかと思います。

■閉会挨拶 富士通総研 経済研究所 研究主幹 浜屋敏

私は情報通信技術が企業経営や社会に与える影響について研究しているため、新しいサービス

は積極的に使おうと、個人的に国内外のいくつかのプロジェクトをクラウドファンディングで支

援してきました。今日のお話を伺いながら、クラウドファンディングは便利なツールであること、

とはいえ 1 つのツールにすぎず、他の地域活性化の取り組みと組み合わせる必要があること、今

後は共感を得るための競争が始まるのではないか、といったことを考えました。

レジリエントでサステナブルな組織や社会を創っていくうえで、資金調達は重要なテーマです。

その際に、自治体、地域金融機関、地域のメディア等地域のステークホルダーの役割がどう変わ

っていくかも研究すべき対象となります。実際にいろいろな取り組みをされている方が一堂に会

して情報共有することで、研究の質の向上や実務の役に立つ研究につながるため、今後もこのよ

うなワークショップを続けていきたいと思っております。