夜は鎮静を深めて眠ってもらうという実践は正しいのだろうか？

重症人工呼吸患者における、プロポフォールが睡眠の質に与える影響：生理学的検討

今回の文献の紹介の前に

ICU患者の睡眠に関して・・

• 重症患者では、睡眠の質が障害されることが知られている。 • これらの患者では、REM睡眠、徐波睡眠（Slow-Wave Sleep: SWS）が減少し、容易に、かつ頻回に覚醒し、睡眠時間は正常と同じ、あるいは増加するが、睡眠の質は低下している。

睡眠不足に影響する因子

環境

病態生理

炎症反応などの重症病態が睡眠に影響

PSG 観察

睡眠時間

観察（見た目）よりもずっと睡眠時間は短い

眠っているように見えても、「睡眠」とはいえない。

重症人工呼吸患者における、プロポフォールが睡眠の質に与える影響：生理学的検討

で、今回の論文

背景 •  臨床で一般的に使用される、プロポフォールの投与量が睡眠に与える影響は不明。

•  重症人工呼吸患者における、プロポフォールが睡眠の質に与える影響を検討。

方法 •  人工呼吸期間>48時間以上で、循環動態が安定し（血管作動薬なし）、鎮静薬、オピオイドを使用していない人工呼吸患者。

•  せん妄患者は除外。 •  ２日間、10pm-7amまでPSGを使用し、脳波を記録。一晩はプロポフォールを使用、もう一晩はプロポフォールを使用しなかった（どちらが先かはランダムに割り付けた）。

•  プロポフォール使用時はRamsay Scale 3に成るように投与量を調節した。

結果① •  13人の患者で行われた。1名の患者で、人工呼吸器設定を変更したため、12人の患者のデータを分析した。

•  プロポフォール投与量の中央値は0.86mg/kg/h（IQR 0.67-1.25)であった。

結果②

REMの減少

浅い睡眠は変わらず

プロポフォール非投与群

プロポフォール投与群

•  Sleep efficiency (睡眠時間/記録時間）は、プロポフォールの投与、非投与で変動はあるものの、規則性はなさそう。

結果③

考察 •  プロポフォールによってREM睡眠が減少。 •  REM睡眠の役割はよく分かっていないが、不眠症や記憶の構築と関連しているとされる。

•  よって、REM睡眠の減少は睡眠の質が低下していると考えられる。

•  これらの結果から、睡眠を促進するために、プロポフォールを使用することは支持されない。

私見

•  夜間だから鎮静＝睡眠の質を上げるわけではないといえる。

•  プロポフォールによる鎮静下でRamsay 3でも眠っているとは言えない。(睡眠の評価にはなっていない）

•  むしろ、鎮静がせん妄の原因になることもありうる。 •  しかし、すでにせん妄の患者の場合はどうか？（今回の研究はせん妄患者を除外している）

•  本人の主観的な体験（熟眠感）はどうか？