日本政策金融公庫 総合研究所 中小企業研究グループ 中小企業動向...

4
1 日本政策金融公庫 総合研究所 中小企業研究グループ 2019年11月14日 NO.145 中小企業動向 トピックス 中小製造業の設備投資額は 3年連続で増加となる見通し 「第 121 回中小製造業設備投資動向調査」結果概要 〔2019 年度修正計画〕 本調査は、年に 2 回(4 月、9 月)実施しています。2019 年度は従業員 20 ~ 299 人の中小製造業 52,420 社を 母集団としています。4 月調査では、標本企業として層化無作為抽出法により選定した 30,000 社に調査票を 送付。9 月調査では、4 月調査の有効回答先 10,253 社に調査票を送付し、8,144 社(回答率 79.4%)から回答 を得ました。有効回答から全体の投資額を推計しています。 2019 年度の国内設備投資額は 3.4%増加の見通し 2019 年度の国内設備投資額の修正計画は、2 兆 9,043 億円となり、2018 年度実績比で 3.4%増加しました (図−1)。実現すれば、3 年連続での増加となり、金額は 2000 年以降で最も高い水準となります。この修 正計画を、4 月に策定された当初計画(2 兆 6,709 億円)と比較すると、8.7%の増加です(表−1)。 ただし、2018 年度の修正計画の前年度実績比(10.2%増加)と比べて、伸びは鈍化しました。背景には、 米中貿易摩擦に端を発した世界経済の減速などの影響があるようです。 図-1 国内設備投資額および増減率の推移      表- 1 国内設備投資額の 2019 年度修正計画 (前年度実績比) (12/11) (02/1) (08/2) △  (09/3) (12/3) 18年度実績 19年度修正計画 28,090 29,043 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 200102 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 (年度) 投資額 7.1 3.4 60 40 20 0 20 40 (%) (億円) (09年度実績) 41.2 (04年度実績) 23.2 増減率 (注)△は景気の山、▼は景気の谷、シャドー部分は  景気後退期を示す(図−3も同じ)。 当公庫では、2019 年 9 月に「第 121 回中小製造業設備投資動向調査」を実施しました。 2019 年度の国内設備投資額の修正計画は、2018 年度実績に比べて 3.4%の増加となりました。 中小製造業の設備投資は 3 年連続で増加が見込まれます。 (単位:億円、%) 年度計 上半期 下半期 金額 増減率 金額 増減率 金額 増減率 2017 年度 実  績 26,218 7.0 12,117 5.2 14,102 8.6 2018 年度 実  績 28,090 7.1 13,530 11.7 14,560 3.2 2019 年度 当初計画 26,709 −4.9 13,506 −0.2 13,203 −9.3 修正計画 29,043 3.4 13,544 0.1 15,499 6.5 2019年度 当初計画比 8.7 0.3 17.4 (注)当初計画比=修正計画/当初計画

Transcript of 日本政策金融公庫 総合研究所 中小企業研究グループ 中小企業動向...

Page 1: 日本政策金融公庫 総合研究所 中小企業研究グループ 中小企業動向 トピックス NO.145 · 中小企業動向 no.145 トピックス 中小製造業の設備投資額は

1

日本政策金融公庫 総合研究所 中小企業研究グループ2019年11月14日

NO.145中小企業動向トピックス 

中小製造業の設備投資額は3年連続で増加となる見通し

「第 121 回中小製造業設備投資動向調査」結果概要〔2019 年度修正計画〕

※�本調査は、年に 2回(4月、9月)実施しています。2019 年度は従業員 20 ~ 299 人の中小製造業 52,420 社を母集団としています。4月調査では、標本企業として層化無作為抽出法により選定した 30,000 社に調査票を送付。9月調査では、4月調査の有効回答先 10,253 社に調査票を送付し、8,144 社(回答率 79.4%)から回答を得ました。有効回答から全体の投資額を推計しています。

2019 年度の国内設備投資額は 3.4%増加の見通し

 2019 年度の国内設備投資額の修正計画は、2兆 9,043 億円となり、2018 年度実績比で3.4%増加しました(図−1)。実現すれば、3 年連続での増加となり、金額は 2000 年以降で最も高い水準となります。この修正計画を、4月に策定された当初計画(2兆 6,709 億円)と比較すると、8.7%の増加です(表−1)。 ただし、2018 年度の修正計画の前年度実績比(10.2%増加)と比べて、伸びは鈍化しました。背景には、米中貿易摩擦に端を発した世界経済の減速などの影響があるようです。

図-1 国内設備投資額および増減率の推移      表- 1 国内設備投資額の 2019 年度修正計画    (前年度実績比)

(12/11) ▼

(02/1)▼

(08/2)△ (09/3) ▼

(12/3)△

18年度実績 19年度修正計画

28,090 29,043

0

5,00010,000

15,00020,000

25,000

30,00035,000

2001 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19(年度)

投資額

7.1 3.4

-60

-40

-20

0

20

40(%)

(億円)

(09年度実績)-41.2

(04年度実績)23.2

増減率

(注)△は景気の山、▼は景気の谷、シャドー部分は��� �景気後退期を示す(図−3も同じ)。

 当公庫では、2019年 9月に「第121回中小製造業設備投資動向調査」を実施しました。

 2019年度の国内設備投資額の修正計画は、2018年度実績に比べて3.4%の増加となりました。

中小製造業の設備投資は3年連続で増加が見込まれます。

(単位:億円、%)

年度計 上半期 下半期

金�額 増減率 金�額 増減率 金�額 増減率

2017年度 実  績 26,218 7.0� 12,117 5.2� 14,102 8.6�

2018年度 実  績 28,090 7.1� 13,530 11.7� 14,560 3.2�

2019年度

当初計画 26,709 −4.9� 13,506 −0.2� 13,203 −9.3�

修正計画 29,043 3.4� 13,544 0.1� 15,499 6.5�

2019年度当初計画比 8.7� 0.3� 17.4�

(注)当初計画比=修正計画/当初計画

Page 2: 日本政策金融公庫 総合研究所 中小企業研究グループ 中小企業動向 トピックス NO.145 · 中小企業動向 no.145 トピックス 中小製造業の設備投資額は

2

全 17 業種中 8 業種で減少の見通し

 業種別にみると、濃淡が分かれています。2019 年度修正計画では、全 17 業種のうち、2018 年度実績から増加が 9業種、減少が 8業種となっています(図−2)。増加した業種では、「その他」(50.9%)を除くと、「非鉄金属」(27.0%)の伸び率が最も大きくなっています。前年度も 57.9%増加と大きく伸びており、好調を維持しています。このほか、「輸送用機器」(20.9%)や「業務用機械」(20.0%)なども増加が目立ちます。消費税率引き上げ前の駆け込み需要を見込んで増産体制を整えたものとみられます。「化学」(17.9%)や「食料品」(8.3%)は、前年度から伸び率が高まりました。堅調な内需が設備投資の呼び水となったのでしょう。 減少した業種では、「印刷・同関連」(−17.9%)や「プラスチック製品」(−17.6%)などに、前年度に投資を大きく伸ばした反動が出ているようです。「生産用機械」(−16.4%)や「はん用機械」(−7.4%)は、中国経済の減速により、機械関係の輸出にブレーキがかかったことで、設備投資を控える動きがみられます。「繊維・繊維製品」(−12.5%)は、天候不順で衣料品の販売が不振だったことが影響しているようです。

図-2 設備投資額の業種別増減率および構成比(2019 年度修正計画)

-40

-20

0

20

40

60

80

非鉄金属57.9

金属製品16.4

はん用機械2.0

生産用機械9.8

業務用機械23.2

電気機器-2.2

輸送用機器-1.0

化学0.7

パルプ・紙-8.3

窯業・土石-0.4繊維・繊維製品-6.4

木材・木製品25.7

食料品3.1

印刷・同関連20.7

プラスチック19.8

その他-10.0

鉄鋼21.8

全体7.1

-40

-20

0

20

40

60

80

金属製品7.4

鉄鋼-7.2

その他50.9

プラスチック-17.6

印刷・同関連-17.9

食料品8.3

繊維・繊維製品-12.5

窯業・土石-2.2

パルプ・紙9.2化学

17.9

輸送用機器20.9

電気機器4.4

はん用機械-7.4

非鉄27.0

全体3.4

(%)

(%)

生産用機械-16.4

業務用機械20.0

木材・木製品-13.8

横の幅

前年度設備投資額の構成比

縦の長さ

前年度比

(注)1 グラフ中の数字は、2018年度実績比増減率。   2 横軸は、2018年度実績における業種別構成比。

(注)1 グラフ中の数字は、2017年度実績比増減率。   2 横軸は、2017年度実績における業種別構成比。

(参考1)設備投資額の業種別増減率および構成比(2018年度実績)

Page 3: 日本政策金融公庫 総合研究所 中小企業研究グループ 中小企業動向 トピックス NO.145 · 中小企業動向 no.145 トピックス 中小製造業の設備投資額は

3

投資目的は更新が最も高い

 設備投資の目的別構成比をみると、2019 年度修正計画では、「更新、維持・補修」が 35.5%と最も高くなりました(図−3)。前年度実績(35.0%)から 0.5ポイント上昇しています。1位となるのは 2009 年度から 11 年連続のことです。全体の投資額は増えていますが、先行きへの不安感からか、保守的な投資がより好まれる状況が続いているようです。 次いで多いのが「能力拡充」(31.5%)です。前年度実績(30.5%)から 1.0 ポイント上昇しました。2014年頃から徐々に割合は増加してきています。 「省力化・合理化」は前年度実績(14.3 %)から 1.3 ポイント低下し、13.0%となりました。人手不足に対応するために、省力化や合理化の投資を行う動きが続いており、水準は依然として高くなっています。

「機械・装置」「建物・構築物」の構成比が上昇�

 投資内容の構成比をみると、2019 年度修正計画では、「機械・装置」(56.4%)と「建物・構築物」(30.4%)が前年度実績から上昇しました(表−2)。消費税率引き上げの前に、老朽化した工場を建て直すなどの動きがあったようです。一方、「土地」「車両・備品等」は低下しています。

表- 2 設備投資の内容別構成比と増減率      (参考 2)内容別構成比の推移

10.2 8.4

9.6 9.9 10.4

10.3 10.8

9.2 8.7 7.8 6.4 7.1 6.2 6.7 6.0 5.8 6.5 6.3 5.4

27.2 24.0

23.7 26.6

29.3 29.5 27.4

28.8 27.923.9

25.3 29.2 28.2 26.7

28.5 28.2 28.2 29.3

30.4

52.2

56.2

56.0

54.0

51.7

51.2

52.7

52.6

53.4

57.1

57.1

53.9

56.6

56.5

56.7

57.2

55.9

55.7

56.4

10.4 11.4

10.7

9.4 8.6

9.0 9.0

9.4 10.0

11.1

11.2

9.8

9.0

10.2

8.8 8.7 9.4 8.7 7.8

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

2001 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19

車両・備品等

建物・構築物

機械・装置

土地

修正計画実績(%)

(年度)

(単位:億円、%)

2018年度実績 2019年度修正計画

金��額 構成比 増減率 金��額 構成比 増減率2019修正計画2019当初計画

土 地 1,760� 6.3� 2.9� 1,578� 5.4� −10.4� 41.5�

建物・構築物 8,222� 29.3� 11.1� 8,825� 30.4� 7.3� 5.8�

機 械・ 装 置 15,655� 55.7� 6.8� 16,385� 56.4� 4.7� 7.9�

車両・備品等 2,452� 8.7� 0.0� 2,255� 7.8� −8.0� 9.3�

合 計 28,090� 100.0� 7.1� 29,043� 100.0� 3.4� 8.7�

図-3 投資目的別構成比の推移

0

5

10

15

20

25

30

35

40(%)

省エネルギー1.6(1.5)

その他3.4(3.4)

公害防止0.8(1.5)

30.5

14.3

13.6

0.7

35.0

1.6

4.2

2001 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19

省力化・合理化13.0(13.3)

更新、維持・補修35.5(34.6)

能力拡充31.5(31.0)

(年度)

新製品の生産新規事業への進出、研究開発14.0(14.9)

(08/2) △

(09/3)▼

(02/1)▼

(12/3)△(12/11)▼ 実 績 修正計画

(注)括弧内の数字は2019年度当初計画の値。

Page 4: 日本政策金融公庫 総合研究所 中小企業研究グループ 中小企業動向 トピックス NO.145 · 中小企業動向 no.145 トピックス 中小製造業の設備投資額は

4

「借入金計」の構成比が最も高い

 資金調達の構成比をみると、2019 年度修正計画では「借入金計」が 55.4%となりました。2018 年度実績(53.9%)と同様に、高い水準で推移しています(表−3)。金融緩和が続くなかで、依然として借り入れしやすい環境が企業の投資意欲を支えているのでしょう。

表- 3 資金調達の内容別構成比と増減率    (参考 3)資金調達の内容別構成比の推移

35.742.240.739.337.236.740.238.740.544.447.847.243.447.548.147.345.6

45.644.3

0.5

0.4 0.4 0.5 0.5 0.40.2 0.4 0.5

0.10.2 0.2

0.20.2 0.1 0.2 0.20.5 0.3

63.7

57.458.960.262.362.959.660.959.155.5

52.052.756.452.351.852.554.253.955.4

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

2001 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19

(%)

借入金計

内部資金

増資

(年度)

実績 修正計画

増減可能性 DI は改善するも低水準にとどまる

 2019 年 9月調査における「国内設備投資額の増減可能性DI」は 4.2 となり、4月調査(−0.2)から 4.4ポイント上昇しました(図−4)。上昇はしたものの、2018 年 9月調査(12.3)を大きく下回りました。 業種別では、17 業種中 14 業種でDI がプラスとなりました。最も高かったのは「化学」(16.0)で、「窯業・土石」(9.1)、「食料品」(8.7)などが続きます。 中小製造業の 2019 年度の設備投資額は、2018 年度比で増加し、2000 年度以降の最高額を更新する見込みです。しかし、前年度の同時期の調査と比べると計画の伸びの鈍化やDI の低下がみられ、先行きに不透明感が出始めています。このまま中小製造業の設備投資はピークアウトしてしまうのか、今後の動向に注視が必要です。� (小針 誠)

図- 4 国内設備投資額の増減可能性 DI

 「中小企業動向トピックス」に関するご意見・ご要望等ございましたら、本支店窓口までお問い合わせください。  発行:日本政策金融公庫 総合研究所 ~ホームページ https://www.jfc.go.jp/ ~

(単位:億円、%)

2018年度実績 2019年度修正計画

金��額 構成比 増減率 金��額 構成比 増減率2019修正計画2019当初計画

内 部 資 金 12,812� 45.6� 7.2� 12,869� 44.3� 0.4� 13.6�

増 資 148� 0.5� 205.3� 82� 0.3� −44.7� −20.8�

借 入 金 計 15,129� 53.9� 6.4� 16,093� 55.4� 6.4� 5.3�

合 計 28,090� 100.0� 7.1� 29,043� 100.0� 3.4� 8.7�

(注)借入金計には社債・長期延払手形を含む。

-15

-10

-5

0

5

10

15

20(DI)

2019年度4月調査 2019年度9月調査

プラスチック製品

印刷・同関連

木材・木製品

繊維・繊維製品

窯業・土石

パルプ・紙

輸送用機器

電気機器

業務用機械

生産用機械

はん用機械

金属製品

非鉄金属

製造業計

(注)国内設備投資額増減可能性DIは、前年度実績に比べて最終的な設備投資額が「増加する可能性がある」企業割合から「減少する可能性がある」企業割合を差し引いたもの。

-0.20.7

3.91.2

5.0

-11.7

2.3

-1.5-5.3

13.3

-4.5

0.0

-3.1 -4.3

4.7

-5.1

2.4 1.44.2

-0.4

2.64.9

0.6

-3.5

4.60.8

2.6

16.0

8.2 9.15.1

7.6 8.7

-1.9

0.3

5.4