「位相的弦理論の分配関数と数え上げ」sansha.wakate/particle/2006/...string theory...

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2006 C * 2006 8 9 , 10 目次 0 Why topological string? 1 0.1 History and references ...................................... 3 1 Topological twist of N = (2, 2) SUSY sigma-model 6 2 Topological A-model 13 3 Topological string = coupling to 2D gravity 28 4 Ubiquity of c =1 string amplitude 32 0 Why topological string? . , . . . . , , . , , , M1, M2 , . , , . , string theory , string . string theory , string theory , , string theory , . * , , , , , , , , , 1

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「位相的弦理論の分配関数と数え上げ」

2006年度原子核三者若手夏の学校素粒子論パート講義 C 講義録∗

講師:菅野浩明先生(名古屋大学多元数理科学研究科)

2006年 8月 9日, 10日

目次

0 Why topological string? 1

0.1 History and references . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

1 Topological twist of N = (2, 2) SUSY sigma-model 6

2 Topological A-model 13

3 Topological string = coupling to 2D gravity 28

4 Ubiquity of c = 1 string amplitude 32

0 Why topological string?

(司会)講義の方に移りたいと思います. 講師は名古屋大学の菅野さんで, 「位相的弦理論の分配関数と数え

上げ」というタイトルでお話し頂きます. ではよろしくお願いします.

どうもありがとうございます. 名古屋大学の菅野です. 今日と明日, 午前の時間を使って, 位相的弦理論につ

いての入門的講義をします.

最初にこの講義を引き受けたときは, もうちょっと最近の話題をと思ったんですけれども, 夏の学校と言う

わけで, 特にM1, M2の方が多いでしょうから, ある程度入門的なところからやろうかと思います. 最終的に

どの辺までいけるのか, ちょっと時間の関係で分かりませんけれども, いけるところまでということでやって

いきます.

それから, string theoryといってますが, 多分 stringがほとんど出てこないんじゃないかと恐れています.

だから string theoryを知らない人には, これのどこが string theoryなんだと言われるかもしれませんが, 場

の理論的な計算なども多く出て来るので, string theoryを全く知らない人でも, 多少分かっていただけるので

はないかと思います.

∗ 講義録作成:東大本郷(木村圭助, 栗山実, 齋藤遼, 柴正太郎, 白井智, 初田泰之, 林博貴, 八木太, 山崎雅人, 横山修一)

1

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最初に, どうして位相的弦理論を考えたいのか, どこが面白いのか, どういうふうに使われているのかという

ことからお伝えしていくことにしたいと思います.

• Toy model

それで, どうして位相的弦理論かって言うことで, まず一つめは, 最近というか, 1990 年代以降に, 様々な

stringの dualityとか, 或いはゲージ理論においても強結合の dynamicsなどに興味がもたれている訳ですけ

れども, それらに関する一つの toy modelとしての役割があります.

例えば string duality として知られているものとしてどういうものがあるかというと, 一番有名なのは例

えばミラー対称性. 或いは T-duality. それから, electro-magnetic duality(S-duality). 或いは, 最近特に

注目を集めているのは, gauge/string correspondence (しばしば large N duality). こういう各種の string

dualityがあるわけですけれども, こういうものを解析するための一つの toy modelとしての役割もあります.

toy model といったんですけど, なぜ topological string theory なのか, ここで非常に大切なことは, 基本的

に, topological string theoryは, 現実に解ける string theoryのモデルであるということです. 全て解けると

はいいませんが, 基本的にこういった観点から興味のある topological string theoryのモデルというのは厳密

に解ける. とにかく現実に解けているという意味で, こういった dualityに関するいろいろな知見を得ること

ができる.

もうちょっと具体的には, 例えば, 知らない人がいるかもしれないけれど, 2次元の場の理論で sine-Gordon

modelが厳密に解けるモデルとして知られています. これは例えば場の理論における solitonの話とか, 2次元

における boson-fermion対応の物理を調べるために非常に重要な役割を果たしています.

それからもう一つ, 統計力学の方から例を挙げるとすると, 有名なのは Ising model ですね. これは例えば

自発磁化のような相転移の物理に対して, 厳密に解けるモデルとして重要な役割を果たしてきたわけです. 同

じような意味で, string duality, 或いは, ゲージ理論における強結合の dynamicsにおける, dualityあるいは

correspondenceを調べるための厳密に解けるモデルとして, topological string theoryというのは重要な役割

を果たしてきましたし, 今後も役に立つだろうと期待しています.

• 実用的な観点

次に, 先程の動機はある程度理論的な興味ですけれども, 実際に practicalな視点からすると, 言葉だけで申

し訳ないですが拡大された超対称性理論では BPS状態という特殊な状態があり, これの countingを行うこと

ができます.

これは, 例えばブラックホールのエントロピーを, microscopicな立場から状態を数え上げ, その logを取っ

て計算することに使われたりします. それから, 4次元のゲージ理論における低エネルギー理論(ふつう使われ

るのは N = 2なんですけど, 超対称性が 2つあるような理論ですね)の有効作用の計算(Seiberg-Witten理

論*1. 更にもう一つ昨日の末廣さんの講義と直接関わるのは*2, 例えば低エネルギーの N = 1の effectiveな

superpotentialの計算. これは, Dijkgraafと Vafaによるものです*3.

これらが, 超対称性を持つ理論における, さまざまな状態の数え上げ, 低エネルギーの有効作用あるいは有効

*1 原論文は [1]. reviewは数多く出ているが, 易しめのものとしては, 例えば [2]が挙げられる.*2 この講義の前に北海道大学の末廣先生による超対称性の入門的講義が講義 Bとして行われた.*3 原論文は [3]. reviewととしては, 例えば [4]がある.

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ポテンシャル, そういったものを計算するのに実際に topological stringが使われた例です.

• Laboratory to test and develop physical intuition against deep mathematical ideas

それから, 最後に, もう一つ, 多少数学的な興味と言われるかもしれませんけれども, 例えば経路積分に基づ

くとか, dualityなどに基づく, 或いは D-braneといった考え方に基づく物理的ないろいろな考え方とか直観

を, 数学の理論, 例えば, 位相的弦理論を考えるきっかけとなった Donaldsonの理論 [9]だとか, 最近でいえば

Langlands program[15], こういった, 数学で非常に深い結果だと思われている理論がありますけれども, そう

いったものに対して使います. このとき物理的な実験室として, topological stringが役に立ちます.

このように, まず, 大体三つくらい, なぜ topological stringをやるのか, 或いはどこが面白いのかと聞かれ

た時に答えることができます.

0.1 History and references

次に, イントロの二番目として簡単なこれまでの発展の歴史と, 幾つか今回講義を準備するにあたって参考

にした文献を紹介しておきます.

先程ちょっと言いましたけれども, 位相的弦理論というのは, もともとは位相的場の理論というものがあっ

てそれから発展してきたものですが, 位相的場の理論が最初に作られて最初の数年間はほとんど Ed. Witten

の独壇場でした. 最初の論文は,

• E.Witten, Proposal of topological quantum field theory (Feb.1988)[9]

今回文献を調べてきましたが, 最初に出たプレプリントが, 1988年の 2月という日付でした. これは, 先程

言ったように, Donaldson 理論というものを場の理論を用いて記述するということを初めて行った論文です.

この当時は arXivとかネットとかはなくて, 日付は 1988年の 2月となってますが, おそらく, 記憶によると僕

が初めて聞いたのは夏頃だったと思います. 今だったら 2月に全世界に知れわたるわけですけれども, 当時は

大体 2,3ヶ月はタイムラグがあって, 僕が初めて読んだのは, この年の夏ぐらいでしたね.

それでちょっと昔話をすると, 僕は, 夏の学校には 1984年, 85年, 86年の 3年間多分参加した記憶があっ

て, これは M1, M2と D1で参加したんですけれども, 今, この部屋だってエアコンが効いてますからいいで

すけれども, 僕の時はエアコンが全くなくて, 年によってだいぶ気候に変動があってですね, ある年は非常に暑

くて, あ, だから今年も僕が発表するとき暑いですけれども, 講演の先生も, それから学生の方も汗をかきなが

らという状態のこともありましたし, ある年は, 非常に涼しくて, 半袖半ズボンではまずいられなかった, そう

いう年もありました. それが 84, 85, 86年で, 年を考えてもらうと分かりますけれども, 1988年, この年は僕

はちょうど D3の年で, この年にこのWittenの論文を読んで, 今言ったように夏ぐらいに読んだんですけれど

も, それから半年間で, これをネタに D論を書いたという事情があります. 従って, これは僕にとってかなり思

い出深い論文です.

この論文で, Wittenは topological quantum field theoryを提案し, 4次元のゲージ理論に対して位相的場

の理論を作ったわけですけれども, その後, 直接 string theoryに関係するような理論を続々と提案しました.

これは今回の話と関係するので書いておきますけれども, 同じくWittenの論文で,

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• E.Witten, Topological sigma model [10, 11] , 2D topological gravity [12]

出版は 88年で, 先程の論文([9])の多分すぐ後ぐらい. 1ヶ月か 2ヶ月後ぐらいに出た論文です.

string theory のことを知らない人にはちょっと分かりにくいかもしれませんが, sigma model と 2 次元

の topological 重力理論を組み合わせれば, worldsheet viewpoint での string theory ができるので, それの

topological version が, これで基本的にできたと言うことになります. しかし, 現在,考えられている形の

topological stringが formulateされるには実はちょっと時間がかかっています.

で, この後, Witten は, 直接 topological string theory に行かなくて, ミラー対称性との関係を議論しま

した.

• E.Witten, Mirror symmetry and topological field theory (hep-th/9112056[13]) [A model, B model]

sigma modelの twistの話に関係するのであげておきますが, これは雑誌には出ていません*4. 代わりにこ

こでようやく arXivの番号を挙げることができて, これは 91年の 8月に arXivができて, そのすぐあとの論

文ですね. この論文で, 今回お話しする話では, いわゆる A-twist, B-twistが扱われています.

そのあと, topological string が定式化されたのが, 通常 BCOV と呼ばれる論文で, Bershadsky, Cecotti,

Ooguri, Vafaによる論文です.

• BCOV[14], Formulation of topological string

この 93 年秋の論文で, 今回紹介するような形での位相的弦理論が formulate されました. ここまでが

topological string theoryの第一期という状況ですね.

ここで, 私のこともちょっと話すと, 先程 91 年の 8 月に arXiv ができたと言いましたけれども, 僕がポス

ドクで海外に出たのが 91年の 10月で, トリエステに最初にポスドクとして行ったんですけれども, 91年の,

Wittenの論文が出たちょっと前ですね. 日本で職を得たのが, ちょうど 93年の 9月 1日付けで採用になった

ので, BCOVの論文が出た頃でした. 大体この辺の時期は僕は海外でポスドクとして過ごしていたわけです.

これで大体 string theory が formulate されたわけですけれども, この当時は, これが一体何に使えるのか

というのが多分一般的な状況でした. 先程言った, 2次元の topological gravityで, matrix modelとか, それ

の double scaling limitを取るといったそういった話, また, これも多分明日になると思いますけれども(セク

ション 4参照), c = 1の string theoryといった話で, こういった topologicalな話がからむということが一

応指摘はされていたんですけれども, 一応 formulationはできたけれども, topological stringは何に使えるの

か, というのがその当時の状況だったわけです. だから, 僕も, 先程言ったように学位論文で topologicalをネ

タに論文を書いたわけですけれども, この後しばらくの間, こういった発展はあったんですけれども, これを

ちょっと脇目でみながらという感じで, これでは論文は書けそうにないなあと思っていたというのが正直なと

ころでした.

この後, ご存じのように, この論文([14])は 93年ですけれども, 94から 96年にかけて, ものすごい革命が

起きたわけですね. これは topological stringとは直接関係ないですけれども,

• 1994年 Seiberg-Witten理論 [1].

*4 但し, 次の論文集に収録されている:”Essays on mirror manifolds” , pages 120-158. Internat. Press, Hong Kong, 1992.

4

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いわゆる 4次元の N = 2の超対称性を持つ gauge theoryにおいて, exactな低エネルギー有効作用を決定

したという画期的な論文です. 先程も強調しましたが, N = 2だから実際の世界の物理とはそれほど関係しな

いのかもしれませんけれども, やはり厳密解があるということはそれ自身非常に重要なことで, 大きなインパ

クトを与えました.

その後, 次の年ですね,

• 1995年 String duality: M-theory, D-braneといった画期的アイデアが生まれた.

string duality から例えば M 理論であるとか, D ブレーンと呼ばれる画期的なアイデアが提案されまし

た. これも大体, 今回調べてきましたけれど, Witten の論文 [6] が出たのが 3 月, それから, D ブレーンの

Polchinskiの論文 [7]が出たのが 10月です. この年にこういった, 画期的なアイデアが提案されて, これから

95年から 96年にかけて, もうネット上を毎週のように論文が飛び交う状態です.

それで, こういった発展があった後に, 先程述べたような形で, topological string theoryも, これらに関連

する dynamicsを調べるということに使えるということが分かり, 更に dualityに関する様々な technologyが

開発されたりして, いろいろな計算ができるようになってきました.

それで, 今回, 特に明日になると思いますけれども, 紹介する原論文は,

• Gopakumar-Vafa, hep-th/9802016, 9809187, 9811131, 9812127*5

Gopakumarと Vafaによる論文で, 彼らは 1998年に 4つ論文を出していますが, これらの論文が今回の話の

一番元ネタです.

それからひとつ忘れてました, 彼らがこういうことを考えるもう一つ前の論文で, これも非常に有名な論文

ですけど, Maldacenaによる AdS/CFT対応 [17](1997年)があります. こういった string theoryにおける

発展があって, その後 topological stringにおける視点をベースにして, Gopakumarと Vafaは幾つか論文を

書いています. 今回の話は, この 4つの論文に書いてあることが主なベースになった話をしようと思います.

それから, この後 topological string theoryの文献は, もう挙げることができないほど増えていくわけです

けれども, 幾つか最近の教科書を挙げてこのセクションの最後にしようと思います.

一つめは, 有名な, 堀さん達が 5, 6人で書いた

• K. Hori et. al., ”Mirror Symmetry”, American Mathematical Society (2003)*6

今回の話にもうちょっと直接関係するのが, Marcos Marinoが書いた

• M. Marino, ”Chern-Simons theory, matrix models and topological strings”, Oxford University

Press (2005)

という比較的薄めの教科書です. 本を買うのが嫌だとという人は, 大体基本的に二つの論文([8])からなって

いるので arXivからとってもいいかもしれません. この二つのレビューを読むと, 本の半分以上の部分, あ, そ

ういうと怒られるかな, 半分程度のものと, 大体同じようなことが書いてある.

これが基本的に topological stringの発展と歴史, それから今回の講義を準備するにあたって参考した文献

です.

*5 原論文はすでに挙げた 4本の論文 [16]である. 日本語で読める解説として例えば [5]がある.*6 実は, http://math.stanford.edu/˜vakil/files/mirrorfinal.pdfからダウンロードできる.

5

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それで, これから少しテクニカルな話に入りたいと思いますけれども, ここまで, もし, なぜ topological

string theoryなのかまだ分からない人とか, あるいは, こういったことはどうなっているのかといった質問が

あれば.

(質問)mirror symmetry*7は topological string theoryではどんなふうに見えるのですか?

(答)topological string theoryにおける mirror symmetryと, 普通の mirror symmetryは同じものです.

けれども, topological string theory っていうのは, mirror symmetry に関わる部分だけをちょうどある程

度取り出してみせて, しかも厳密に解けるので, 普通の string theoryで mirror symmetryっていうのは, 物

理的にさえきちんと証明するって言うか, 納得できるような形で示すって言うのは難しいわけですけれども,

topologicalな理論に持っていくと, それは例えば二つの分配関数が一致しているという形で示すことができる

わけです. mirror symmetryは, topological string theoryと, 普通の string theoryで, 違うということはあ

りません. 同じものと考えてください. ただ, topological string theoryにすると, それが非常に分かり易くな

る, あるいは厳密な形でいろんな量が計算できるので, 証明とは言わないけれども, かなり物理的な意味でいえ

ば証明に近いところまで迫れるというところがあります.

1 Topological twist of N = (2, 2) SUSY sigma-model

それでまず最初に, topological twistという話をします. 2次元の超対称な sigma modelというものを考え

ます. 2次元の理論を考えるというのは, これは, 弦の運動する軌跡はちょうど 2次元の世界面(worldsheet)

をはくので, その上の場の理論を考えるということです. worldsheet の viewpoint から, string theory を

formulateしようとすると, 基本的に 2次元の場の理論を考えることになる.

それから, string は, ある空間, 時空の上を運動しますので, ちょうどそれは, string の世界面から target

と呼ばれる多様体への, ある種の数学的には写像を考えることを意味します. それに関する場の理論(sigma

model)の作用, それを, topological string theoryを formulateする準備として, まず考えたいと思います.

対称性として, N = (2, 2) の超対称な sigma model を考えます. 昨日, 多分末廣さんの講義で, 4 次元の

N = 1の理論が基本で, それから超対称性が拡大すると, N = 2の理論とか, 4次元だと最高 N = 4まであ

るということを聞いたと思いますけれども, これからお話しする理論というのは, 4次元の理論を dimensional

reductionしてつくるというのが一番簡単です. 2次元の N = 2の超対称性というのは, 基本的に, 4次元でい

うと N = 1の超対称性です. 超対称性の生成子がちょうど 4つあることになります. 2次元の場合は特に非常

にいいことが起こっていて, 2次元の波動方程式を考えてもらうと分かると思うんですけれども, 右向きと左向

きが完全に decoupleしてしまいます. そういった意味で, 超対称性を右向きと左向きについて独立に考えるこ

とができて, 今の場合 4つの超対称性生成子があるんですけれども, 右向きの chargeが 2つ, 左向き 2つ(複

素座標を使って言うと, 正則な方向と, 反正則な方向について 2つずつ superchargeがあるということ)で, こ

れを N = (2, 2)と呼んでいます.

超対称性が, 4つあるような理論をこれから考えます. d個の chiral multipletと antichiral multipletを, そ

*7 ミラー対称性(mirror symmetry)とは, ある Calabi-Yau多様体上の type IIA弦理論, 或いは topological A-modelが, 別のCalabi-Yau多様体上の type IIB弦理論, 或いは topological B-modelと等価であるという現象を指す.

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れぞれ ΦI(I = 1, . . . , d), ΦI(I = 1, . . . , d)と表すことにします. その作用は,

S =∫

d2zd4θ K(ΦI , ΦI) (1)

となります.

action は, 4 次元のバージョンで言うと D-term と呼ばれるものですが, 積分で, 4 次元だと d4x ですが,

今の場合は, 2 次元複素座標を使って書いたので z を座標として d2z. それから, D-term なので, θ は 4 つ.

昨日はこういう書き方はしなかったそうですが, ここで K(ΦI , ΦI) と書きましたけれども, これは Kahler

potentialと呼ばれる関数です.

string theoryでは, 先程言ったように,

Σ(world-sheet) → X(target space), (2)

こういう状況を考えています.

今, N = (2, 2) の超対称性を持たせる一つの十分条件として, X は Kahler 多様体と考える. ただ, 最近は

flux compactificationとの関係で, non-Kahler多様体でも作れると言うことが議論されていますけれども, 一

番基本的な Kahlerの場合を考えることにしましょう.

ここで, Kahler多様体というのは, ある意味で非常に良い性質を持つ複素多様体のことです. ですから, 座

標として複素座標を使うことができて, 先程 chiral と antichiral, ΦI と ΦI と言いましたけれども, これは,

stringが運動する targetの方の複素座標と反複素座標に対応するような場です.

それで, Kahler 多様体の計量は, Kahler potential の微分で書けている. すなわち, X の計量は Kahler

potential K を用いて,

GIJ =∂2K

∂ΦI∂ΦJ(3)

と書くことができます. それから, ちょっとなじみがないと思われる方のために書いておくと, 一番基本的なの

は, X が平坦な空間の場合で,K(ΦI , ΦI) = Σd

I=1ΦIΦI

が挙げられます. 実際, この場合, 計量を計算すると,

GIJ = δIJ

と flat metricになります. この形の Kahler potentialで書かれるのが 4次元の普通の D-termだと思います

が, これは string theoryの言葉では, flatな時空を考えていることに相当しています. 一般に, string theory

で曲がった空間を考えたければ, D-termの部分に, target spaceの Kahler potentialを持ってくれば, 曲がっ

た空間に値を持つような場の作用が書けます.

今度は, もうちょっと具体的に chiral multipletの中の成分というか, どのような場が入っているのかを考え

ます.

(質問)複素多様体で考える理由は何かありますか?

(答)複素多様体と言うよりも Kahler 多様体でむしろ考えたいわけですけれども, それは, 先程ちょっと

言ったように, N = (2, 2)と呼ばれるような超対称性をもつ理論を考えたいからです. 4次元の場合でも, 一般

に, Kahler potentialと呼ばれる関数を持ってきて, D-termを書くと, N = 1を持つような一般的な理論が作

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れるということが知られています. だから, 今言ったのは, 超対称性の数がむしろポイントで, 例えば超対称性

が 4つあるような理論を作ろうと思うと, 基本的に何か複素の構造がないといけなくて, かつ, 複素であっても

もうちょっとよい構造をもたせたいので, すなわち代数が閉じるとか可積分性をもつとか, そういった状況が

必要なので, Kahler多様体を取るというのは, 一番まず簡単な方法です. だから, 先程言ったように, 複素でな

らなければならないと言うことはないんですけれども, 少なくともこれは, 超対称性が 4つあるような理論の

一つの十分条件で, 非常に扱いやすいようなクラスです.

(質問)すみません, I のほうは, I の方の複素共役ということで.

(答)基本的に, chiralと antichiralという意味なので, 幾何学的には, 複素共役だと理解しています.

(質問)複素 d次元ということは, 実で言うと 2d次元?

(答)そうそう, これから書こうと思いましたが, 複素 d次元なので, 実で言うと 2d次元ですね. 例えば, 弦

理論でいう Calabi-Yau多様体を考えたいとすると, d = 3と取るのが普通です.

これからちょっと説明しようと思ったんですけれども, chiral と antichiral multiplet の成分をまずみてみ

ると, まず, component field として一番低いところに boson が一つですね. それを今 φ と書くことにしま

しょう. 敢えて添え字は書かないことにして, これは先程から言っているように, genusが g の 2次元面から

Kahler多様体への写像を定義します.φ : Σg → X (4)

genusというのは, 穴の数 g の事ですね. だから, 例えば g = 0というのは球面, g = 1というのはトーラス,

g = 2というのは, 2人乗りの浮き輪ですね. X の複素次元は, d個の chiralと antichiralがあるとすると, d

ですね.

(質問)2次元面は実 2次元?

(答)あ, そうそう. だからちょっと混乱するかもしれませんが, Σ は, 複素の 1次元, だから実の 2次元. こ

れは弦の運動する軌跡を表していると考えます.

string 理論の定式化の一つである world-sheet の観点から見た摂動論的定式化の立場に立って, 今 sigma

modelを考え, genus g に関して展開しています. 実際には, 最終的にはあらゆる g に関して足し上げを行う

(低い方から genus 0は球面, genus 1はトーラス, genus 2は穴が 2つあいた面といったように)ことによっ

て string theoryの摂動展開ができているという風に考えます. genusは固定して (2次元面の位相的性質は固

定して)その上で空間への写像を考えて, それに対する作用を考えるというのが sigma modelの立場です.

で, 次の componentとして, superpartnerの fermionがありますが, それは位相的弦理論では, 非常に重要

な役割を持ちます. 2つの Dirac fermion, あるいは成分の数でいうと, N = (2, 2)なので, 4つの fermionが

あることになります. それは, 4次元の N = 1でも同じだと思います. それに, ψI±,+, ψI

±,− という記号を使い

ます.superpartners of φ : two Dirac fermions ψI

±,+, ψI±,− (5)

ここで記号の説明ですが最初の ±というのは 2次元世界面上のスピンを表す符号で, ±は, 二次元のローレ

ンツ回転である U(1)E についての spinが ± 12 であることを表します. 後ろの +,−は Kahler多様体の上で

複素座標, z, z に対応する添え字です. (すなわち, + → holomorphic, − → antiholomorphic)

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(質問)すみません, 添え字の E は何を表している?

(答)後から U(1)がいくつか出てくるので, なんだろ, Lotentzじゃないな, Euclidとしておきましょうか,

忘れてしまいました. 後から, R対称性が出てきますが, 4次元の N = 1に対応するので, R対称性も U(1)な

んですね. いろんな U(1)が出てきて, twistというのはいろんな U(1)が混じることになるので, いくつかの

U(1)を区別する必要があります. ちょっとまあ, E は, ローレンツ回転といってしまいましたが, Euclidの意

味というぐらいに思ってください. 余り深い意味はありません. Lorentz だから L を使いたいんですけれど

も, 後から left, rightで Lを使うので, 今回は axialと vectorで Aと V かもしれませんけれども, 敢えて避け

て E と書いています. だから, 好きな文字でも構わないですけれども, 何らかの意味で区別するという意味で,

ちょっと添え字をつけました.

最初の ±というのは 2次元の Lorentz回転に対する spin, それから, 後ろの添え字ですね, これは +と −と書きましたけれどもこれは上の添え字と対応していて, だから I, I の添え字だけでも意味は分かるんですけ

れども敢えて強調して, ψI±.+ の時には target spaceの複素の正則な座標に対応する partnerという意味で +,

それから ψI±.− は, 反正則という意味で −をつけています. だから, 世界面の方に対する ±と, targetのX に

関する ±ということで, 二つの ±がある. 合わせて 2かけ 2で, 4つの fermionがある.

それで, ちょっと数学的になりますけれども, もうちょっと数学を知っている人のために書いておくと,

fermionは世界面上のある種のバンドル(スピンバンドル)のセクションと書くことができます.

ψI±,+ ∈ Γ(Σg, S

± ⊗ φ∗(T (1,0))) (6)

ψI±,+ ∈ Γ(Σg, S

± ⊗ φ∗(T (0,1))) (7)

ここで, S±は Σg 上のスピノル束のことです. また, 複素化された tangent bundle TX⊗Cを holomorphic

及び anti-holomorphic tangent bundleに分解したものを各々 T (1,0)X, T (0,1)X と書き,

TX ⊗ C = T (1,0)X ⊕ T (0,1)X (8)

φ∗(T (1,0)X)と φ∗(T (0,1)X)はそれらの φによる Σg への引き戻しです.

数学的にはこういうことになるんですけれども, 前の ±というのは, 世界面上の spinを表していて, 後ろの

spinというのは, target spaceは複素で考えていますので, その正則方向と反正則方向によって ±の添え字がついている. で, 合わせて 4種類の fermionがある, ということだけ覚えてください.

また, superchargeも fermionに対応して 4つ存在しています. でそれも, 2種類の ±を使うことによって,

4種類の superchargeが区別できます.

一番最後に F II という補助場がありますけれども, 以下あまり重要な役割を果たしませんので, それについ

ては省略します. そういうものがあるということで. これが chiral multipletの各 componentですね.

先程 actionを Kahler potentialを使って書きましたけれども, 対応する fermion に関する kinetic termを

具体的に書いてみましょう. 先程の Grassmann座標に関する dθ の積分を実行してしまうと, fermionに関し

て次のような運動項が出ます.

Sf,kin =∫

Σg

d2z GIJ(φ)(ψJ+,−Dzψ

I+,+ + ψJ

−,−DzψI−.+) (9)

世界面上の 2 次元の積分を取って Kahler potential から出てくる計量 GIJ があります. これが Dirac

fermionに関する標準的な kinetic termです. よくお馴染みなのは, 先程言ったようにちょうど flatな計量の

9

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場合で, GIJ が δIJ になっている場合ですね. 今 target spaceとして曲がった空間を考えると, GIJ(φ)とい

うふうに曲がった空間の計量がきて, 注意してほしいのは, 普通は曲がった空間の座標を考えないといけない

んですけれども, sigma modelの場合には, φという bosonの場が入っています. ですから, 一見これ freeに

見えますけれども, 実際には曲がった空間ですと GIJ(φ)に φが入っているので相互作用をしている非常に複

雑な actionの形とも言えます. で, fermionに関しては 2次の形, bilinearになっています.

(9)式の括弧の中は flatな空間では普通の Dirac作用素ですけれども, 今の場合は, 2次元面も一般に曲がっ

た空間を考えていて, target spaceの方も一般には曲がった空間を考えているので, Dirac作用素は重力による

接続を含みます. covariant derivativeの定義は

DzψI+,+ = ∂zψ

I+,+ +

i

2ωzψ

I+,+ + ΓI

JK∂zφJψK

+,+ (10)

DzψI−,+ = ∂zψ

I−,+ −

i

2ωzψ

I−,+ + ΓI

JK∂zφJψK

−,+ (11)

これが今の場合のディラック作用素の具体的な形です.

で, まず, ∂z の部分は普通の微分ですね. ωz が世界面 Σ上のスピン接続で, これは, 世界面上の Lorentz変

換が U(1)でしたので, 普通の abelianのゲージ場と同じです. それぞれスピン 1/2, −1/2なので, それに伴っ

てスピン接続の符号が + と −になります. i2ωzψ

I+,+ の couplingは, これは普通の abelianのゲージ場だっ

たら ωz のところに Aが入っていると思いますけれども, それと同じで, 今, 曲がった空間の, Lotentzの U(1)

に関するゲージ場として, spin connectionというのが入っているので, それがちょうど同じ形で coupleして

います.

それから, 3項目は見慣れない形をしていると思いますけれども, これは逆に, target spaceの X のほうが

曲がっている効果です. ΓIJK というのは Christoffel symbol です. 一般相対論とかそういうのをやってない

と分からないかもしれませんけれども, 曲がった空間の上での connection, affine 接続があって, それを φを

使って, リーマン面上の接続に引き戻したのが ΓIJK∂zφ

J の部分です. だからこれは, X 上の接続を φで引き

戻したというものです.

世界面が曲がっているということと, それから target space X が曲がっているというのから, Dirac作用素

にこういった 2種類のおつりがつきます. これで座標変換について共変な actionになってます.

それから, 下の (11)式についても (10)式と同じで, 上は z 方向, 下は z 方向という違いだけです. これが,

先程書いた superfieldを用いた actionから導かれる fermionの kinetic termです.

この先まで行こうかと思いましたが, ちょっと大体お約束通り 1 時間経過したので, ここで休憩して, これ

から twistに関する話をしますけれども, 先程ちょっと言ったように, この理論には U(1)の R-symmetryが

あって, U(1)の R-symmetryと Lorentzの U(1)をうまいこと使ってやると, twistということが定義できて,

それを使うとフェルミオンがいろいろ変わってくると. それが twistなんですけれども, それについてちょっ

と休憩を挟んだ後にお話ししたいと思います.

–休憩–

それでは続きを始めたいと思います. これから, twistという操作をやりたいと思います.

この理論には R-symmetry は U(1) が 2 個あって, vector と axial vector という形をしています. これは

global な symmetry で, superfield でいうと Grassmann 座標をまわすような対称性です. Noether current

10

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は z 成分と z 成分があって

j zV = GIJ(φ)ψJ

−,−ψI−,+ (12)

j zV = GIJ(φ)ψJ

+,−ψI+,+ (13)

これが U(1)V に関する Noether currentで, axialのほうは

j zA = +j z

V (14)j zA = −j z

V (15)

と正則のほうの符号をひっくり返します. あるいは, vector と axial vector を足したのと引いたので left と

rightの R-symmetryと思うこともあります.

ここで twist という操作は R-symmetry をゲージ化して local symmetry にします. local 化すると gauge

場が必要ですが, そのゲージ場を前に出てきた spin connectionと同一視します. それが twistという操作のひ

とつの方法です. twistという操作は, R-symmetryの 2種類 vectorと axialの U(1), U(1)V あるいは U(1)A

をゲージ化します. 今「あるいは」と書きましたが, U(1)の選び方はいくつかあるのですが, 通常は U(1)V を

取ったものを A-twist, U(1)A を取ったものを B-twistといいます. actionはこの結果どう変わるかというと,

Noetherカレントとスピン接続の相互作用項が付け加わります. それが actionのレベルで twistするというこ

とです.

たとえば A-twistの fermionの actionというのは

Sf,kin − i

2

Σg

d2z ωµjµV (16)

で第 2項を相互作用の項として付け加えます. ここで ωµjµV をちゃんと書くと

ωµjµV = ωzGIJψJ

−,−ψI−,+ + ωzGIJψJ

+,−ψI+,+ (17)

先程 (9)式で書いた, fermionの kinetic termが

GIJψJ+,−Dzψ

I+,+ , GIJψJ

−,−DzψI−,+ (18)

で, 共変微分に微分と ω と Christoffelが入っていました. 今 twistして相互作用を付け加えると, fermionの

kinetic termからそれと全く同じ項が出ていて, 符号が互いにプラスとマイナスになっているので, Dz に含ま

れていた ωz が消えます. z の方向については, kinetic termにおいて符号が逆なので, 結局 twistの結果, 何が

起こるかというと Dz に含まれていた − i2ωz が −iωz になる, という変換を受けます. 具体的に書くと

Sf,kin − i

2

Σg

d2z ωµ jµV

=∫

Σg

d2z GIJ

[ψJ

+,−

(∂z +

i

2ωz

)ψI

+,+ + ψJ+,−ΓI

KL∂zφKψL

+,+

+ψJ−,−

(∂z − i

2ωz

)ψI−,+ + ψJ

−,−ΓIKL∂zφ

KψL−,+ −

i

2

(ωz ψJ

−,−ψI−,+ + ωz ψJ

+,−ψI+,+

)]

=∫

Σg

d2z GIJ

[ψJ

+,−∂zψI+,+ + ψJ

+,−ΓIKL∂zφ

KψL+,+ + ψJ

−,− (∂z − iωz)ψI−,+ + ψJ

−,−ΓIKL∂zφ

KψL−,+

]

(19)

11

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ここで spin connectionが変わるということは, 物理的に何を意味するかというと, spin connectionの係数

というのは場の持つ spinによって決まります. つまり, Lorentz変換したときにこの場がどういうふうに変換

するかということを決めます. spin connectionが消えるということは, スピンが 0になっているということで

す. ψI++ はもともと spin 1/2だったのですが, spin 0になります. 一方, ψI

−+ は spin −1/2だったのが, これ

が spin −1に変わったということです. 全体としての spinはバランスしていなければならないので, A-twist

による fermionの spinの変化は, 4つ fermionがあったわけですけど

ψI+,+ : +

12→ 0 = scalar ψI

−,+ : −12→ −1 = (0, 1) form

ψJ+,− : +

12→ +1 = (1, 0) form ψJ

−,− : −12→ 0 = scalar (20)

となります. action 全体として spin は 0 になっていないといけなくて, z は rotation によって逆向きに −1

をもつので, ψ+,− と ψ+,+ を合わせて +1を持っていないとつりあっていません. 同様に z 方向はDz で spin

1を持っているので, ψ−,− は spin 0になります. これは部分積分しても分かります.

同じように B-twistをします. 先ほど書いた jV を jA にしたのでは合っていなくて, 符号も逆にして

Sf,kin +i

2

Σg

d2z ωµjµA (21)

という形で相互作用を付け加えます. また同じように Dirac作用素に含まれる connection ω がずれます. そ

のずれから fermionの spinの変化を見ると, B-twist による spinの変化は

ψI+,+ : +

12→ +1 = (1, 0) form ψI

−,+ : −12→ −1 = (0, 1) form

ψJ+,− : +

12→ 0 = scalar ψJ

−,− : −12→ 0 = scalar (22)

となります. 今の理論は fermionが 4つあるのですが, もともとは半整数の spinを持ちます. twistの相互作

用によって, 整数スピンを持つようになります. spinに関していうと, あたかも bosonのように振舞うように

なる, これが twistの効果です. 実はもう 1つの効果があって, superchargeというのは bosonと fermionをつ

なげていて, 必ず半整数スピンをもっているわけですが, twistすると fermionが整数スピンを持つようになり

ますから, これらの spin 0の fermionをつくる superchargeのスピンは 0になります. scalarの supercharge

は曲がった空間も globalに意味を持ちます. これは座標変換に対して不変だからです. spin 1/2のままだと

supergravity を考えないといけないのですが, scalar の supercharge は曲がった空間でも global にも意味を

持つようになります.

ゲージ場の BRST量子化で, Faddeev-Popovの ghostや anti-ghostが出てきますよね. 経路積分で, ゲー

ジ固定とか, 繰り込みを unitarityを保ったままやろうとすると, どうしても ghost場が出てくる. spinと統計

の関係を破るので表には出てこないけれども, 摂動計算の途中には出てくる. unitary性を保つために必要で

す. fermionなんだけど scalarとして振舞います. gauge場を, Faddeev-Popov ghost場の共変微分に変える

ような変換を BRST変換というのですけど, BRST変換によって場のスピンは変えないので, fermionicな変

換だけれども, BRST変換の spin は 0になります.

超対称性理論において, twist の操作をすると, それと同様な, spin 0 を持った超対称 charge が作れます.

位相的な場の理論や string では, scalar になった supercharge を BRST 変換と同じようにみなして, ゲージ

12

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変換で BRST operator の cohomology が意味を持つのと同じように考えるようにします. すなわち, global

に意味を持つ超対称チャージを BRST変換だと思って, それに関する BRSTのコホモロジー, あるいはその

BRSTコホモロジー類の相関関数を考えます. その相関関数が位相的に不変な量を定義しています.

今回は主に A-twistのほうに関して, BRST変換や cohomologyをお話したいと思います.

(質問)スピンの合成とは関係ないんですか.

(答)U(1)なので, スピンの足し算, 引き算しかしていませんね. SU(2)とかなら合成が必要ですが. 二次元

なら Lorentz変換は U(1)なので, 大げさなことじゃなくて, 足し算引き算です. 相互作用を加えることで spin

connectionが 1/2ずれて, もとの半整数が付け加わって整数にかわる. 4次元とか高次元になるともう少し複

雑になって, 合成をしてうまくスカラーを作るために twistの方法を工夫したりします.

(質問)今, spin 0の scalar場から, spin 0の fermionにうつす superchargeを BRST chargeとよむとい

うことでしたが, 一方で, spin 1とか spin −1の fermionにうつす superchargeもあるんですか?

(答)もともとこの理論には, 4つ superchargeがあって, twistをした後, 2つは scalar, 1つは +1 , −1の

spinを持ちます.

2 Topological A-model

spinが変わったので, 記号を変えます.

χI = ψI++ (23)

χI = ψI−− (24)

これらはいつでも scalar場です. spin −1を持つ

ρIz = ψI

−+ (25)

spin +1を持つ

ρIz = ψI

+− (26)

これで spinが混乱することがなくなります.

superchargeのほうもこれによって記号を変えます. originalな superchargeは Q±± として, fermionと同じ

ようにスピンが変わってQ = Q+,+ + Q−,− (27)

これは ++と −−の 2つが scalarとして振る舞うような superchargeです. topological theoryでは BRST

chargeとなります.Gz = Q+,− (28)

これは spin +1の supercharge. spin −1の superchargeを

Gz = Q−,+ (29)

とします. もともとあった超対称性代数から Qとか Gに関してどういう関係式が導かれるかというと, まず,

Q2 =12{Q, Q} = 0 (30)

13

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この性質があれば Qは立派に BRSTと呼ばれる資格があるわけです. Qという operatorが scalarとして振

舞うことと, Q2 = 0という性質から, この Qを BRST chargeとみなします. 更に, superchargeの半交換積

は, 基本的に空間の並進を生成しますが, それの関係から

{Q,Gz,z} = Pz,z (31)

これが超対称性の代数から得られるものです.

(質問)もともと superchargeが 4つあって, 線形結合を取ったので, 3個ありますが, 残りの 1個は?

(答)translationを BRST exactに書くという表示が欲しいので, Q+,+ と Q−,− を足しておかないときれ

いな形にならない. もともと 2つあった chargeを足したものを BRST chargeだと思って, それが BRSTの

変換と思っている. あくまで 2つは独立な chargeであって, topological theoryの立場からすると足したもの

が BRST chargeだと思うと便利だということです.

(質問)引いたものも代数が作れるのですか.

(答)もちろんそうです. Q は target space でいうと, 正則な方向の微分 (Q+,+) と反正則な方向の微分

(Q−,−)を足しているので, 外微分に対応するわけです*8. 足したものがきれいな外微分になっているので, 全

体としてきれいな性質を持ちます.

(質問) Qが BRSTだというのは仮定ですか.

(答)二乗して 0であって, scalarならば, BRST変換と思う資格があります. BRST cohomologyを作って,

それから相関関数を求めて, それが意味のあるものだと考えます. 今の場合は Qは targetの外微分にうまく

対応します.

(質問)physical stateとの関係は?

(答)別のものです. string theoryではまた stringの BRSTがあって, 今は Qを BRSTだと思ってくださ

いということ. ただし, 普通の string theoryと同じような構造を持っているが, 自由度がかなり落ちているの

で, 厳密にかなり解ききることができるようになってしまう. これがすごいところだと思います.

場の変換性を書きます. 変換前のが定義されていますけれども, iは (I, I)をまとめた記号だと思ってくださ

い. 正則と反正則の区別がなくなっているので

[Q,φi] = χi ,   {Q,χi} = 0 (32)

scalarが BRSTで doubletに組んでいます. 1-formの変換は

{Q, ρIz} = 2∂zφ

I + (補助場, fermionの bilinear)  (33)

{Q, ρIz} = 2∂zφ

I + (同じ) (34)

A-twistすると target spaceの正則な足と world sheetの反正則な足が残る形になる. これがもともとあった

超対称代数から導かれる, twistした後の変換です.

BRST量子化のことを知っている人は, 解釈として, χi が ghost場に相当するもの, ρが反 ghost場に対応

するものです. 普通のゲージ理論の BRST量子化ですと, ゲージ場のゲージ変換は変換パラメータ εの共変微

分で, εを ghostに置き換えたものがゲージ理論におけるゲージ場の BRST変換です. 式 (32)を同じように考

*8 後の (47)式を参考のこと.

14

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えると bosonを BRST変換したものが ghost場になっているんですが, もともと bosonの無限小変換がなん

だと思っていたかというと, δφi = εi が無限小のゲージ変換. これを ghostに置き換えたと思っている. target

spaceの座標を場に化かしたものですから, 座標の勝手な変分を取って場を動かしたのが対称性になっている

ということを意味しています. 勝手な場の変換が許されるということは, 位相的な変換性を持っていると期待

できます.

下の 2つ ((33), (34)式)はゲージ固定条件を表わします. bosonは勝手な変形に対して不変になっているの

ですが, そのゲージ不変性に対して ∂φの項がゲージ固定条件になっていると考えることができます. すなわ

ちもともとは超対称性を twist して変換性を書いたのですが, BRST 量子化の立場から読み換えてしまうと,

勝手な bosonの変換がゲージ対称性の変換と見ることができて, さらにゲージ固定条件が課されているという

ことになります.

–休憩–

topological な A-model を今, BRST 対称性を持つという形で見たので, そういった立場から見た時に,

topologicalな A-modelがどういう性質を持っているかという事を残りの時間でお話ししたいと思います. ま

ず最初に, actionについてお話しします. 先程, もともと出発点として書いた sigma modelに, twistをして,

相互作用を付け加えることで A-modelの actionを書きました. それをもう一度書き直すと, 次のような形に

書く事ができます.

SA = {Q,V }+∫

Σg

φ∗(J) (35)

この action は, ある量を BRST 変換したものとある量を(Riemann 面上で)積分したものとの和で書かれ

ています. 量子化の立場では, この第一項目は, BRST exact 項, あるいは gauge 固定項, そして, 第 2 項は

topological termになっています. A-modelの actionは, このような構造をしています. すなわち, 位相的な

項に, BRST exactな項を加えて gauge固定をした, といった構造をしています.

 確かめる事はしませんが, まず, V は,

V =12

Σg

d2x√

ggµνGIJ

[12ρI

µF Jν +

12ρJ

µF Iν + (ρI

µ∂νφJ + ρJµ∂νφI)

](36)

と書く事ができます. ここで, 前と違って複素座標ではなく, 普通の 2次元座標を用いています. gµν は Σg 上

の計量, GIJ は target space X 上での計量を表しています. Σg 上の計量はこれまできちんと書いていません

でしたけれども, ここでは, あえてあからさまに書いておきます. また, F は補助場を表しています. ˜は, きち

んとは説明しませんが, もともとあった補助場を fermionの bilinear termにちょっと押し込んで再定義した

ものである事を表しています. そして, φを含む項は, 先程述べた gauge固定条件のようなもので, bosonの微

分みたいなものが gauge固定条件と対応しています.

 それから, topological termは,∫

Σg

φ∗(J) = i

Σg

d2z GIJ (∂zφI∂zφ

J − ∂zφI∂zφ

J) (37)

というような形をしています*9. ここでは成分を用いて書いてしまいましたが, この項は, 実は, ある種の微分

形式の Riemann 面上の積分という形で書く事ができるので, 位相的な項になっています. すなわち, 変分を

*9 J は, この講義の後で説明されるが, target spaceである Kahler manifold X の Kahler 2-formと呼ばれるものである.

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とったら 0になり, 運動方程式には効かない項になっています.

 この位相的な項に, (36)式の V を BRST変換したものを足したものが作用です. したがって, gauge固定

項を忘れてしまうと, 作用は topologicalな量だけからなるという意味で, topological A-modelは本当に位相

的な理論になっています. すなわち, もともとの gauge固定する前の理論の作用は, topologicalな量, つまり,

微分形式を 2次元面上で積分したものになっています.

 例えば, 2次元の重力理論もそのような形をしています. 2次元の重力理論においては, スカラー曲率を 2次

元面上で積分するわけですが, それは 2次元面の Euler数を計算しています. 2次元の重力理論では, それが

Einstein-Hilbert actionであり, それは, 2次元面の Euler数という位相的な不変量なので, 2次元重力理論は

topologicalになっています. *10

 それと同じような意味で, twistした後の actionは, BRST exactな項, または gauge固定項を除いてしま

うと, 残りの項はある 2次微分形式を Riemann面上で積分したものになっているので, 位相的な量です. そし

て, この量は, 写像 φによって決まるものなんですが, 写像 φの巻きつき数を計算している位相不変量です. そ

の位相的な不変量に BRST exactな項を付け加えて, あたかも普通の場の理論のようにみせかけている, こう

いった構造をしています. これが topologicalな A-modelの actionの基本的な形です.

(質問)今言った微分形式というのは, 全微分で書けるんですか?

(答)localには書けます. もしも, 完全微分で書けたとすると, 閉曲面で積分すると 0になってしまいますよ

ね. ですから, localには完全微分で書けますが, globalには書けません.

(質問)twistという操作は, BRST exactな項を付け加えているって事なんですか?

(答)そうではなくて, twist によって BRST operator をつくったわけですね. だから, twist しないと

BRST operatorがないので, actionを何かに BRST gauge固定をした形に見る事はできないんですけれども,

twist して BRST operator をつくってやると, もともとの action というのは, BRST exact な項とおつりの

項との和と書く事ができて, おつりの項が実は位相不変量になっていたと, こういう事をしています. だから,

twistの操作自身と直接は関係ないんですけども, twistをしてやると, もともとの actionを (35)式のように

捉え直す事ができるという事です.

(質問)一番最初に書いた出発点は, つまり, twist する前のものは, 2 次元の N = (2, 2) の SUSY sigma

modelで, それを twistすると, spinが変わったり, 相互作用項がちょっと変わりますけど, それ以外は大体同

じ形で, それを書き換えると, (35)式のようになるんですか?

(答)そうです. もうちょっと言うと, SUSYの actionも, ある superfieldで書いたものを superspaceで積分

してつくります. superspaceの積分というのは Grassmann数の積分なので, 結局微分しているということで

す. ですから何かを種にして, それを super 変換してつくっている. super 変換を 2 回したら, 完全微分にな

るから, それを積分して 0になるので, 結局, それで supersymmetryで不変な actionがつくれてますねとい

うのを, 多分末廣さんが説明してくれたと思います. 繰り返すと, superspace での action の作り方というの

は, superspaceで積分するという事は, あるものを super変換したものという事になっていて, それをもう 1

回 super変換すると, 完全微分になっているから, それを普通の空間で積分したものは 0になっていて, それで

*10 Einstein-Hilbert actionは, genus gの 2次元面 Σg では, Gauss-Bonnetの定理より,Z

Σg

p−gR = 2πχ(Σg) = 2π(2− 2g)

と topological な量になる. つまり, 2 次元重力では, 作用は全微分項になっている. これは, Ricci scalar を局所座標で具体的に書き下すことにより確かめることもできる.

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supersymmetricな actionがつくれます, という事になっていたわけです. 基本的には, それが遺伝してきてこ

ういう形になっています. SUSYの場合は Qがもともとは spin 12 の super変換だった, というか spinをもっ

ているから {Q,V }という様には書けないわけですけれども, それが今の場合は scalar的な superchargeに書

けたので, {Q,V }というように, あからさまに BRST exactな項だと思いなす事ができたということです. そ

して, おつりの項は, 場の配位が trivialならば, 完全微分として落とせる項です. ただ, 今の場合は, globalに

φが nontrivialな配位をしていると, このおつりの項は formal には完全微分で書ける surface termなんだけ

ども, globalには生き残っていて, それが winding numberという位相的な不変量になっているという事です.

以上が基本的な構造です.

相関関数としてどのようなものを考えるか, という事をお話しする前にもう一つ, energy-momentum

tensor がどのようになっているか, という事を見てみます. 色々な定義の仕方がありますが, 2 次元面上の

backgroundの計量で作用を変分したもの, というのが一つの定義の仕方です.

Tµν =δS

δgµν(38)

 これまで Riemann面上の計量をあからさまに書いていませんでしたけれども, このために (36)式ではあか

らさまに書きました.

  topological termは, topologicalなので計量を変分しても効きません. したがって, 効くのは, BRST exact

な項だけです. それから, chargeも計量によっているわけではないので, (energy-momentum tensorは)次

のようになります.

Tµν =δS

δgµν= {Q,

δV

δgµν} (39)

 ここでは, V を gµν で変分した形はあからさまに書かない事にします.

 これは BRST exact になっています. この結果から, さらに Q が Hermite である事が言えていると仮

定すれば, 「もし, 物理的状態 |phys〉 を Q|phys〉 = 0 で定義すれば, 〈phys′|Tµν |phys〉 = 0」という事が

言えます. すなわち, (39) 式の Tµν を代入してみれば, Q がいずれかの物理的状態にかかってしまうので,

〈phys′|Tµν |phys〉 = 0となります. ですから, 特に物理的状態の間の energy-momentum tensorの期待値は 0

になります. これは, 位相的な場の理論, あるいは topological string theoryの重要な特徴だと思います.

 さらに, BRST量子化の処方箋に従って, 観測可能量 (observable)を定義します. これを Oと書く事にすれば, 観測可能量は

[Q,O]± = 0 (40)

と定義されます. ただし, 今, O が bosonicか fermionicかわからないので, 交換子か反交換子のいずれかをと

るという形にしておきます.

 それから, ある observable O ともうひとつの observable O′ が equivalentであるという事を, この2つの

量の差がある別の量を BRST変換したもので書けるという事と定義します.

O ∼ O′ ⇔ O−O′ = [Q, Λ]± (41)

これは, つまり, O は BRST cohomology class に対応しているという事です. すなわち, (40) 式は, O がBRSTの意味で閉形式である事を意味し, (41)式は, その閉形式の間に, 差が BRST exactなものは同一視し

なさいという同値関係を入れています.

 以上が観測可能量の定義です. これは, BRST量子化の標準的な見方です.

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 さらに, もうひとつ, 真空 |0〉は physical, すなわち, Q|0〉 = 0である事は仮定しておきます.

 この定義から次の事が言えます.

(1) observableの真空期待値は, cohomology classにのみ依存

O ∼ O′ ⇒ 〈0|OO1 · · · On|0〉 = 〈0|O′O1 · · · On|0〉 (42)

 これは,

〈0|OO1 · · · On|0〉 − 〈0|O′O1 · · · On|0〉 = 〈0|[Q, Λ]±O1 · · · On|0〉= 〈0|[Q, ΛO1 · · · On]±|0〉= 0

となる事からわかります. ただし, 1 行目から 2 行目への変形で, O1, . . . ,On が observable, すなわち Q と

(反)可換である事を用いました. 最後の変形は, energy-momentum tensorが BRST exactである事を示した

場合と同じ議論です.

 さらに, もうひとつ重要な性質があります.

(2) observableの真空期待値は, 次の意味で位相不変

δ

δgµν〈0|O1 · · · On|0〉 = 0 (43)

 これは,

δ

δgµν〈0|O1 · · · On|0〉 = 〈0|TµνO1 · · · On|0〉

= 〈0| {Q,δV

δgµν}O1 · · · On|0〉

= 0

となる事からわかります. 1行目の左辺から右辺へ変形される事は, 左辺の真空期待値を経路積分表示してみ

るとわかります. すなわち, 右辺の energy-momentum tensorは, 真空期待値を経路積分表示した時に現れる

指数関数 e−S の肩の作用を計量で変分する事によって出てきます. 厳密な事をいえば, observableの部分を変

分した項も現れるかもしれませんが, ここではそのような項はないものとします. 1行目から 2行目への変形

は, (39)式を用いました. 2行目から 3行目への変形は, (1)を示した議論と同様にしてできます.

 これで, 位相的な相関関数というものが定義されました. すなわち, observableを BRST cohomology class

として定義して, その真空期待値を計算すると, 非常に形式的ですけれども, それは, 2次元面上の計量によら

ないという意味で, 位相不変量になっています.

 では, 実際に, BRST cohomology classがどのようなものであるかという事を考えてみたいと思います.

(質問)stateの方には, BRST cohomologyはつくらないんですか?

(答)基本的には, 真空に observableをかけたものは BRST closedな stateになっていると思いますけれど

も, 特に位相的な場の理論においては, stateをあまり扱う事はなくて, むしろ, observableとしてどのような

operatorが出てくるかという事を主に考える, そして, その真空期待値を考えるという事が中心になります.

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 では, 具体的な observableの構成を考えます.

 先程の構造を思い出す((32), (33), (34)式)と, 次のようになっていました.

[Q,φi] = χi, {Q,χi} = 0

{Q, ρIz} = · · ·

χは BRST変換すると 0になっているので, χが observableを構成する鍵になる fieldです.

 具体的には, 次のようにします.

  ω を, target space X 上の p次微分形式

ω(x) = ωi1···ipdxi1 ∧ · · · ∧ dxip (44)

であるとします. それに対応する operatorとして,

Oω = ωi1···ip(φ)χi1 · · ·χip (45)

を定義する事ができます.

 先程書いた式 [Q,φi] = χi では, boson φi が target space の座標として, Q によって χi に移っています.

すなわち, χi は座標を外微分したもの dxi に対応しています (φi ↔ xi, χi ↔ dxi). BRSTの変換性をそのよ

うに読み替える事ができます. このような置き換えの操作によって, target space上の微分形式から (45)式の

ような operatorをつくる事ができます.

 この operatorに対して, BRST変換を計算してやる事ができます. χi は BRST変換で不変で, φが χに変

換されるので,[Q,Oω]± = ∂ip+1ωi1···ip(φ)χip+1χi1 · · ·χip (46)

となります. χi は fermion なので, χi で書かれている部分の添え字は完全反対称化されています. したがっ

て, ∂ip+1ωi1···ip(φ)の添え字も完全反対称化されています. よって, この表式は, 微分形式の外微分の定義その

ものになっています. これより, この量は, ω の外微分に対応する operatorとして書くことができます.

[Q,Oω]± = ∂ip+1ωi1···ip(φ)χip+1χi1 · · ·χip = Odω (47)

 したがって, [Q,Oω]± = 0である事と dω = 0である事は同値です. また, Oω ∼ O′ωである事と ω−ω′ = dλ

である事は同値です. これより, A-modelの observableとX 上の de Rham cohomology classが 1対 1に対

応するという結論が導かれました.

 以上が A-modelの observableの構成です.

(質問)∂ip+1 というのは Σg での微分ですか?

(答)いえ, 違います. target space X での微分です. φというのは Σg 上では scalarですので, φi の添え字

iは, 行き先 X の座標の成分を表しています.

最後に, 明日への導入としてのお話をします. ここまではまだ string になっていないわけでして, 今, 2 次

元面を固定した sigma model を考えます. 例えば, n 点の相関関数 〈Oω1 · · · Oωn〉 を考えます. これが 0 に

ならないためには, ある種の selection rule が必要になります. この rule は世界面上での Dirac operator の

fermion zero modeの存在からの帰結です.

 例えば, 経路積分の立場から考えると, fermionの Gauss積分をすると, Dirac operatorの固有値の積がで

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てきます. もし, 固有値 0の fermion ψ0 があったとすれば (Dψ0 = 0), 経路積分の結果は 0になってしまいま

す. これは真空期待値を考える operatorが 1の場合に対応しています.

  ψ0 は Grassmannなので, ∫dψ0 1 = 0,

∫dψ0 ψ0 = 1

が成り立ちます. すなわち, 真空期待値をとる operator の中に fermionの zero mode が含まれていれば, 経

路積分の値は有限(non-zero)の値をとります. よって, fermion に zero mode があった場合, 相関関数を

non-zeroにするためには, 真空期待値をとる operatorの中に fermionの zero modeが含まれていなければな

りません.

 どれだけ fermion zero mode ψ0 が現れるかという事は, Dirac operatorのゼロ固有値がどれだけあるか�

という事なので, 指数定理によって計算する事ができます. この数は*11,

2d(1− g) + 2∫

Σg

φ∗(c1(X)) (48)

と計算する事ができます. ここで, dはX の複素次元, gは世界面の genus, そして c1 はX の 1st Chern class

と呼ばれる 2次微分形式です. したがって, 〈Oω1 · · · Oωl〉が 0にならないためには, operator Oω1 · · · Oωl

(48)で与えられる数と同じだけの数の zero modeを含んでいなければなりません. p-次微分形式 ω を考えま

すと, p個の fermion χを含みます. したがって, 微分形式 ωの次数を deg ωと書く事にすると, 〈Oω1 · · · Oωl〉

が 0にならないためには,l∑

i=1

deg ωi = 2d(1− g) + 2∫

Σg

φ∗(c1(X)) (49)

となる事が必要です.

 この式を考えると, ほとんどの相関関数が生き残らない事がわかります.

 まず, 簡単のために, X が Calabi-Yau多様体であると仮定します. この時, c1(X) = 0になるので*12, (48)

式の 2項目は消えてしまいます. したがって, selection ruleは簡単になって,

l∑

i=1

deg ωi = 2d(1− g) (50)

となります.

 微分形式ですから, deg ωi ≥ 0です. よって, もし, g ≥ 2であるとすると, この式は満たされず, 全ての相関

関数が 0になる事が結論されます.

 そして, g = 1の場合には, 全ての iに対して deg ωi = 0でなければならないので, 分配関数のみが生き残り

ます. この分配関数を, 通常, X の elliptic genusと呼びます.

 最後に, g = 0の場合には,∑l

i=1 deg ωi = 2d = (X の実次元)となります. すなわち, 微分形式 ω1∧· · ·∧ωl

は, 2d次の微分形式になっているので, だいたい X の体積要素になっています. そして, 相関関数は,

〈Oω1 · · · Oωl〉 ∼

X

ω1 ∧ · · · ∧ ωl + (補正項) (51)

*11 この数は, virtual次元と呼ばれるもので, 負の値を取ることもある.*12 Calabi-Yau 多様体の一つの定義は, Kahler 多様体であり, かつ 1st Chern class が消えるというものである. 少なくとも

compact な Calabi-Yau の場合には, この条件は Kahler でかつ Ricci-flat 計量が存在するという条件と同等であることが知られている(Yauの定理).

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と書く事ができます. 第 1項目が古典的 cohomologyを表し, 補正項は量子補正, 物理的にいえばインスタン

トン補正に相当するものを表しています. これを使って, X の量子 cohomologyが定義できる, という仕組み

になっています. 量子補正については, 時間がないので, 明日説明します.

 今までは, 固定された 2次元面で考えてきました. このままでは, 今見たように, higher genusの部分につい

ては全く trivialになっています. それに対して, string theoryにおいては, 色々な 2次元面について足しあげ

る事になります. つまり, target spaceでの色々な stringの軌跡について足しあげる, すなわち, stringの写像

についても経路積分をして, 2次元面を動かしてやる事になります. そうすると, 今度は higher genusの部分

も non-trivialな寄与を与える事になって, 全ての genusについての足しあげなどの問題を考える事ができる

ようになります.

(二日目)

質問がある人がいるかどうか聞くことを忘れたので, 昨日の講義全体を通して誰かいますか. 昨日の講義の

復習をしますので, そうですか. 何もないところで質問はできない. それでは講義をはじめたいと思います. よ

ろしくお願いします.

それでまず昨日やったことですけれども, まず出発点としたのが, N = (2, 2) supersymmetric な sigma

model. このモデルには R-symmetryとして, U(1)V と U(1)A という 2つの U(1)-symmetryがありました.

昨日説明した方法で, U(1) global symmetryだったのを local symmetryに格上げして, ただしそのゲージ場

については世界面上のもの, 2次元なので, Lorentz symmetryでやはり U(1)なので, U(1)がゲージ場になっ

ているわけですけれども, それと同一視する, そういう twistの操作をします. U(1)V を使ってA-twist, U(1)A

を使って B-twist の 2 種類の twist があります. 昨日説明していたのは, A-twist の方を使った topological

modelです. そのときにこのモデルには, fermionが 4つあったわけですけれども, この twistによって

χI = ψI+,+ , χJ = ψJ

−,− , (scalar), ρIz = ψI

−,+ , ρJz = ψJ

+,− , (spin ±1, 1-form) (52)

というふうに fermionなんだけれども, 整数スピンを持つものに化けます. で, 対応する superchargeの方も

4つありますが, それも ±1/2のものが, spin 0と spin ±1になります. そのうち特にスピンが 0であるよう

なものをもってきて,Q = Q+,+ + Q−,− (53)

これを topological model の BRST charge だと思って, observable をこの BRST operator に関する coho-

mology classとして定義します:

observable=BRST cohomogy class

そうすると, 変換則は

[Q,φi] = χi , {Q,χi} = 0 ,

{Q, ρIz} = 2∂zφ

I − F Iz − ΓI

JKχJρKz ,

{Q, ρIz} = 2∂zφ

I − F Iz − ΓI

JKχJρKz (54)

となります. observable というのは target space X の de Rham cohomology 類と呼ばれるものになってい

ます:observable ⇔ de Rham cohomogy class in target space X

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一般にX を決めた場合, de Rham cohomology classは有限個しかありません. したがってこの topological

theory で observable は有限個しかありません. 基本的には ω という X 上の closed p-form に対して,

observable Oω が作れます:Oω ⇔ ω : X 上の closed p-form

topological theoryで興味の対象, 計算できるものというのは, observableの相関関数で

〈Oω1 , · · · ,Oω`〉 (55)

が topological A-model の計算すべき相関関数です. しかし前回最後に言ったように, selection rule があっ

て, それは相関関数が nonzero になるためには微分形式の degree が, degree っていうのは ω っていうのが

p-formだったら degreeは pですが, 2d(g − 1)− 2∫Σg

φ∗(c1(X))でなければなりません:

〈Oω1 , · · · ,Oω`〉 = 0 , unless

k=1

deg ωk = 2d(1− g) + 2∫

Σg

φ∗(c1(X)) (56)

それで特に, Xが Calabi-Yau多様体であれば, 第 2項は 0になるので, まあ, 以下 Calabi-Yau多様体を考

えることにすれば, 第 2項を忘れてしまいますと, 結局基本的に第 1項が selection ruleです. 昨日最後に言っ

たように, genus gが, genusっていうのは世界面の穴の数ですが, g ≥ 2の場合は, この条件式を満たすことが

できません. だから, topological A-modelでは genusが 2以上の相関関数は自明になってしまう. g = 1の場

合は, 第一項は次元によらずゼロになってしまうので, 分配関数を求めるのだけが nontrivialな情報を与えて,

それはふつう X の elliptic genusと呼ばれる. 興味があるのは genusが 0の場合だけということになって, そ

の場合は selection ruleは∑`

i=1 deg ωi = 2d = dim X. 弦理論で使う複素 3次元の Calabi-Yau多様体の場

合は, 右辺が 6ということになる. 例えば, ω として典型的なのは degree 2の場合で, ちょうど 6になるため

には 3つもってくればいい. これはある意味で topologicalな湯川相互作用で, 3点関数が一番興味のある対象

になる. この辺までが昨日やったことで, これから例えばここからインスタントン項がどうやってでてくるか

話をしようと思いますが, 先程の約束通り, ここまでで質問がある人はいますか.

(質問)ω が operatorということですが, それが p-formになるっていうのは...

(答)ω っていうのは, p-formからそれに対応する場の operatorが作れる. 作り方は昨日多分最後に書いた

((45)式)ものです.

(質問)operatorの p-formが observableになるっていうことは, p-formが closed formになるということ

ですか.

(答)closed formという条件から Qと可換になる. 昨日最後に書いたと思いますけど ((47)式), p-formか

ら一般に observableを作ったとすると, closed formから作れる:[Q,Oω]± = Odω. これは obsevableが, ω

が閉形式になるものと同値ということで, それが de Rham cohomogyと対応します.

それからもう一つ注意をするのを忘れました. 相関関数と書きますが, topological theoryなので相関「定

数」です. boson φとか χとかは世界面上の場ですから一般には座標によるのですが, 座標依存性は BRSTの

意味で自明になっているので, 座標を動かしても変わらない, ということが言えます. したがって, 場所に依ら

ない定数です. だから, これらは数を与えています. 昨日 topological modelは完全に解けると言いましたが,

解けたと言う状態はなにかというと, すべての X の closed p-form, これは対応する target space X を決めれ

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ばどれだけの cohomogy classがあるかというのは幾何学で分かりますけれども, そのすべてに対して, この相

関関数を selection ruleを満たすように決めれば, 完全に解けたことになります.

(質問)昨日その相関関数を求めるときには, 確か metricを固定しているとおっしゃっていましたが...

(答)それは Riemann 面の方の metricです.すなわち stringにしていない sigma model で考えていると

いうことです.これから Riemann面の metricを動かすことをします.string theoryとするためには, 世界

面上の metricの自由度, 2次元重力の自由度を dynamicalにしてこれから動かします.

(質問)spin connectionはゲージ化したときに dynamicalになっていたと思うのですが...

(答)あ, いえ, dynamicalではなく, 背景ゲージ場です. 普通の場の理論の言葉でいえば, Riemann面の計

量は固定しているので, それから spin connectionが決まりますが, それは今背景の U(1)ゲージ場であって,

まだ dynamicalではない.

(質問)Riemann面は closedで orientableな場合のみを考えていますが, 向き付けのない場合でも twistは

可能か.

(答) ええと, 基本的には可能だと思います. 昨日強調したように, scalarにしているので, 向き付け不可能

な場合でも, 貼り合わせで定義されていますが, それに対して不変なので, 向き付け可能不可能, あるいは境界

のあるなしによって定義できないということはないと思います. ただそういう場合は難しい問題がまた出てく

ると思うのですが, 理論としては定義できます.

それでは, 相関関数がどういう風に計算されるかと言うことをやります. 基本的には経路積分を使って計算

しようとすると, まず bosonに対するゲージ固定条件が運動方程式となります. BRST量子化の意味でのゲー

ジ固定条件です :運動方程式=(BRST量子化の意味での)ゲージ固定条件

従って, 今消してしまいましたけど, ρz と ρz は antighost場に相当しますから, その行き先がゲージ固定条

件ということです. それが今どういう条件になっていたのかというと, 補助場は省略して書くと, 基本的に運動

方程式は ∂zφI = ∂zφ

I = 0. 複素共役をとれば, 基本的に 1つの方程式です. φは, 昨日やったように, 2次元

面からX への写像であるといいましたが, これが正則であるということを意味する方程式になっています. φI

の I は X の方の座標ですが, これが世界面の z によっていないということは, 正則関数であるということで

す. 一般に行き先が複素多様体である場合, その複素多様体の複素構造に関して, 正則座標が元の空間の z によ

らないときにその写像を正則であるといいます. 従って, 今の場合は, boson場に対する運動方程式は, boson

場が正則写像を定義している, ということになります. この古典解をインスタントンといいます. 今わかった

ことは, A modelの古典解あるいはインスタントンと言うのは世界面から target spaceへの正則写像である,

ということです. これを経路積分で計算しようとすると, 今の場合ゲージ固定条件が運動方程式そのものなの

で, ゲージ固定条件を満たすものの上で積分をすればよい. したがって, boson に関しては, 正則写像全体の

上で経路積分することによって, この相関関数が計算できるということになる. 一般にこの世界面から target

spaceへの正則写像がどれだけあるかというのは数学的な問題です. 世界面の genusや, X がどういう多様体

であるかということでいくつあるか決まりますが, これは有限個のパラメータで parametrizeされているよう

なものです. 相関関数というのはインスタントンの解空間, これは数学の方では moduli空間と呼んでいます

が, この解空間上の積分で計算できることになる. 一般にこの空間は有限次元の空間であることが知られてい

るので, 経路積分というのは無限次元の空間で積分しているわけですけども, 数学的にきちんと定義できてい

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て, 相関関数をきちんとした意味で定式化することができます.

相関関数 ∼ インスタントンの解空間 (モジュライ空間)上の積分→ 有限次元の空間の積分

一番簡単なインスタントンは, 定数関数です. 行き先が X の1点になる, ということです. 明らかに運動方程

式を満たしている.

例えば, 自明なインスタントンは定数写像. moduli 空間はどうなりますかというと, 行き先の点によって

parametrizeされている. だから, このmoduli空間はX 自身ということになります. だから, 自明なインスタ

ントンの上の積分は, target space X 上の積分で書けることになります. 昨日最後にちょっと書いた式ですが,

それは

〈Oω1 , · · · ,Oω`〉 =

X

ω1 ∧ · · · ∧ ω` + contribution from instanton sector (57)

第 1項が自明なインスタントンの寄与で, これに第 2項の非自明なインスタントンの寄与を加えればよい. で

すから, A-modelの相関関数は基本的にこういう構造をしていることになります.

(質問)すみません. 今 target spaceは Kahler多様体でインスタントンという感じがしないのですが. それ

は単にアナロジーと言うことですか.

(答) 感じがしないというのはどういう意味ですか.

(質問) Minkowski 空間だと時間方向に走っていくと急に点が現れて急に消えると言う意味でインスタン

トン.

(答) 今の場合はインスタントンは運動方程式の古典解という意味で捉えています. 時空間でなにか局在し

た解であるという見方は, 今の場合そういうイメージには合わないかもしれませんが, 古典解をインスタント

ンと呼んでいて, 今の場合それが正則写像になっていて, 一番簡単なのは定数写像です.

図 1 世界面からターゲット空間への写像

まあ, この例で, (57)式の第一項は古典的な微分形式を多様体の上で積分している. もし非自明なインスタ

ントンがなければ第 1項だけできれてしまう. それで, 非自明なインスタントン sectorをどう表すかというこ

とを考えるために記号を導入します.

φ(Σg)はX の中のある 2次元面を定義するわけです. したがって, これが 1点につぶれてしまうのが自明な

インスタントンですけど, 多少穴はつぶれたりするかもしれませんが, 1点にはつぶれないのが非自明なインス

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タントンになります. このとき, φ(Σg)は X 上の非自明な 2-cycle, 2次元の何か閉曲面を与える. これをホモ

ロジーでとらえることにして, X のホモロジー群の基底を S1 から Sn とします. ただし nは, X の 2nd Betti

numberと呼ばれる, 2-cycleのある同値類の数ですね. 2つの 2-cycleの差が何かの 1-cycleの boundaryでか

けているかどうかによって 2次のホモロジー類群が定義できるので, nはそれが何次元あるかというのを表し

ています. つまり, n = b2(X) = dim H2(X,Z). 係数は整数 Zです. φ(Σg)は X 上の非自明な 2-cycleを定

義しているので, これを基底 Si を使って展開します.

φ(Σg) =n∑

i=1

Ki · Si (58)

それから Zと書きましたが, 係数は整数という意味です. 従って, Ki も整数です. この辺は説明している時間

がないですが. 2-cycleの独立なものが n個あるわけですけれども, この 2-cycleに何回巻きついているかとい

うことをあらわす数がKi です. Ki は何回巻きついてるかを表している数で, winding number, あるいはイン

スタントン numberと呼んでいます.

(質問)なんか Si は絵とかで描けないんですか. 巻き付いている様子なんかを...

(答)ええと, すいません. 高次元ではなかなか難しいですね. だから次元を下げて考えることにすると, X

として torusを考えましょう. そうすると torusの上での非自明な 1-cycle, 今次元を下げているので 2-cycle

ではなくて 1-cycleになりますが, 1-cycleっていうのと 2種類あるわけですね, いわゆる α-cycle, β-cycle(図

2を参照. ). α-cycle, β-cycleに何回巻きつくかということによってその写像が分類できるわけです. 高次元

にして, X が例えば Calabi-Yau 3-foldだとすると, そのなかに torusの場合の 1-cycleに相当するものとして

2-cycleでその中に非自明なものが何個かあって, その周りに巻きついている様子を想像してください. やっぱ

り黒板には書けないですね(笑).

図 2 トーラスの α-cycleと β-cycle

今言ったように, 自明なインスタントンはすべて Ki = 0ですね. 非自明なものは, 何か Ki 6= 0となるもの

が少なくとも一個あればよいです. その数によって, インスタントンは topologicalに分類できます. 先ほどイ

ンスタントンのモジュライ空間と言いましたけれども, インスタントン数を固定して, すなわち, topological

な type を固定して, そういった写像がどれだけあるかを数えていきます. ですから, 先ほど書いた式を丁寧

に書くと次のような構造をしていることが分かります. 今簡単のために, 次のような場合を考えます. X は

Calab-Yau 3-fold,それから, ωi は全て 2-form. そうすると, 先ほど言ったように, g = 0の nontrivialな相関

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定数というのは 3点関数のみです.

〈OωiOωj

Oωk〉 =

X

ωi ∧ ωj ∧ ωk +∑

β 6=0

〈OωiOωj

Oωk〉Σ0,3,β

= Di ∩Dj ∩Dk +∑

β 6=0

I0,3,β(i, j, k) ·Qβ , β =n∑

i=1

Ki · Si (59)

ここで I の下の添え字の意味は, genus が zero, 3 点, それからインスタントンの topological type が β で

す. I0,3,β(i, j, k)は, topological typeが β であるインスタントンのモジュライ空間上の積分です. それに Qβ

という weight がかかります. ここで, Qβ =∏b2(X)

i=1 QKii です. この weight の由来は, 作用を書いたときに

BRST exact termと topological termの和でしたが(S = {Q,V }+∫Σg

φ∗(J)), 写像の topological type

を決めたときに第 2項の topological termの値を計算すると, 実は, J っていうのはちゃんと説明してません

でしたけれども X の Kahler 2-formと呼ばれるもので, その積分が instanton sectorの weightとなります.

元をたどると作用の topological termを計算したものです. だからこれは, 4次元の gauge理論のインスタン

トンをご存じの方は, topological term というのは, ∗F ∧ F を 4 次元空間で積分したものですが, あるイン

スタントン数 k が出てきて, それがインスタントン展開のパラメータですが, それと同じ意味で, 今の場合は

topological term を行き先の 2-cycle にどれだけ巻き付いているかということによって, topological type を

指定して計算するとこういう形の weightが出てきます. それで最後に I0,3,β の正体を具体的に明らかにして

いきたいのですが, 実は, ある整数 N0,β が存在して,

I0,3,β = N0,β

β

ωi

β

ωj

β

ωk (60)

と書けることが知られています. いま ωi,j,k の 3点を計算しているのですが, ω 依存性はこういう形になって

いて, N0,β は ω によらない構造をしていることがわかります. この N0,β のことを Gromov-Witten不変量と

呼び, 数学の方でよく調べられています. 添え字の意味は, genusが 0で topological typeが β. まとめると,

topological A-modelで相関「定数」を計算するには, 自明なインスタントンの部分は普通の古典的な X 上の

積分, 非自明なインスタントンの寄与は, ω 依存性は決まっているので, N0,β を決定できれば, 完全に解けたこ

とになります. したがってその数を全部決めればよい.

(質問)Kahler 2-formは Kahler potentialの 2回微分と思っていいんですか.

(答)基本的にはそれでよくて, 微分形式の形に書き換えます.

ここで, N0,β の母関数

F0 =∑

β

N0,βQβ (61)

を prepotentialといい, topological A-modelの genus 0での free energyに相当するものです. これが決定で

きれば, 理論が完全に解けたことになります. どういう構造をしているかということをお伝えしたかったので,

最後の部分は言葉だけになってしまったかもしれません. stringにする前の A-modelに関してはこのくらい

にしておいて. stringにいく前の B-modelについてもお話しようと思って用意していたのですが, 時間がない

ようなので, 重要な点をいくつか触れておいて, このセクションをおしまいにしたいと思います.

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最後に B-modelについて. 前回やっていたのを思い出してもらいながら, B-modelはどういう構造になっ

ていたかというと, scalar になる fermion と 1-form になる fermion が A-model と違ってくる. B-model

では, もともと 4 つあった fermion のうちの ψI+,−, ψI

−,− が scalar になって, それから ψI+,+, ψI

−,+, これが

1-formになる. 非常に大きな違いがあって, A-modelでは scalarになるものと 1-formになるものが, target

space, 行き先 X の正則, 反正則に関してそれぞれ scalarの方も 1-formの方もそれぞれ 1つずつあったんで

す. B-modelにしてしまうと, scalarになるのは, 行き先の反正則の座標です. これは conventionによって逆

にすることもできますけども, 本質的に scalarになるか 1-formになるかは, target spaceで見たときに, 正則

か反正則かによってこれらが完全に分かれてしまいます. したがって, B-modelは X の複素構造に非常に強

く依存しています. これが B modelの大きな特徴です. カイラリティでいえば, chiral multipletと antichiral

multiplet が完全に分離してしまって, その意味で B-model は chiral な理論になっています. A-model は

vector-likeなmodelなんですが. stringの type IIAと type IIBと事情は同じです. したがって, anomalyが

あります. anomalyが消えるためには, X が Calabi-Yau多様体であることが必要です. すなわち,

anomaly-free ⇔ c1(X) = 0 ⇔ X が Calabi-Yau

それからもうひとつ最後にやるのが, インスタントンですね. インスタントンの条件は, 先ほど言いましたよ

うに B-modelの運動方程式の解です. BRST量子化の意味で, scalarに相当するのが ghostで 1-formに相当

するのが antighostです. 先ほどの式を思い出してもらうといいんですが, A-modelでは target spaceの足が

I と I の 2種類あったんですが, B-modelのほうは同じ正則の足だけです. だから運動方程式はどうなってい

るかというと, 実はこういう方程式になります:

∂zφI = ∂zφ

I = 0

したがって, 条件は今の場合は, φI が z にも z にも依らないことです. A-modelの場合は, 最左辺が ∂zφI

になっていて, 条件が二つあったんだけど, それらが互いに複素共役になっていました. あるいはそれから

vector-likeだということもいえるんですけども, それに対応する解の写像が正則になっていました. B-model

の場合は, 運動方程式をみると, φI は z にも z にもよらない, すなわち, 定数写像である. したがって, インス

タントンは定数写像しかないので, 相関関数は target space X 上の積分しかないということになります. この

ように, chiralで anomalyと言う問題はあり得るんですけど, B-modelの大きな特徴は古典的な積分で相関関

数が決まってしまう, という性質です. これが周期積分の話につながるのですが, でその話もしようと思ったの

ですが, 時間がないので省略します. B-modelに関しては, 相関関数の計算は, 先ほどは ω というものの積分

で書けたのですが, 今度はちょっと observableは別なものになっていて, そういったものの X 上の積分で相

関関数が書ける. それは最終的には, いわゆる周期積分の理論を使って計算できることが知られている. 以上

が, stringに行く前の話でちょっと休みましょうか. それでは何か質問がある人はいますか.

(質問)定数写像になるというのは X が連結であるということを仮定していますか.

(答)確かに連結であることを仮定していますが, 結論としては連結でなくても成り立ちます.

27

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3 Topological string = coupling to 2D gravity

それではいよいよ string. ここでは 2次元重力との couplingを考えます. これまでは 2 次元面 Σg の計量

gµν を固定していました. 2 次元重力を考えるということはこの計量を dynamical にする, あるいは経路積

分の言葉を使っていえば, gµν に関する経路積分を行なう, ということですが, これによって topological な

string theoryが出来ます. 普通の sigma modelだと higher genusの相関関数が全て自明だったんですが, こ

うすることによって, 全ての genusに関し非自明な相関関数を定義できます.

これを実際にはどうするかというと, Σg の計量に関する経路積分というのは, 通常の Polyakov流の bosonic

stringの経路積分, これと全く同じです. すなわち, genus g の Riemann面 Σg の moduli空間上の積分をす

る, ということです. それから一つ強調しておきたいのは, topological string だからといって, 2 次元重力の

部分に関しては何も特別なことをしているわけではなくて, 少なくともこの部分に関しては普通の bosonic

な string の経路積分と全く同じことをやっています. 僕ちょっとよく知らないんだけど, Polyakov 流の

superstringの経路積分って言うのは higher genusで, 数学的に良く分かってなくて, いわゆる supermoduli

空間とかそういったものを使わなくちゃいけないので恐らく難しい問題があるはずですが, topological string

で使う二次元面の積分っていうのは bosonic stringの積分なんで, これは数学的にきちんと分かっています.

具体的にどういうふうにするかというと, bosonic stringでは, energy-momentum tensorが実は, こういう

形に書けます.T (z) = {QB , b(z)} (62)

b(z) は, 2次元面の reparametrization に関する anti-ghost で, Polchinski の教科書に書いてあります*13.

すなわち bosonic string では energy-monentum tensor というのが 2 次元面上の reparametrization の

antighostの BRST変換という形でかけている, という結果が知られています.

昨日やった topological modelでは, どうだったかというと, 昨日やったように, energy momentum tensor,

どっかに書いたかもしれません, たぶんこう書いたような(31式).

Pz,z = {Q,Gz,z} (63)

ですから, 全く BRSTの構造は同じで, bosonic string の energy-momentum tensorT (z), あるいは共形場理

論では Virasoro generator というやつですが, それが, ある量の BRST 変換で書けているということと今の

topological modelでも全く同じことをしていて, 実は, Hamiltonianというのは, ある量 G, これはスピンが

±1の superchargeですが, それと, scalarの BRST operatorとの交換子を取って得られます. 全く同じ構造

をしているという点に注目すると, reparametrization ghost bのかわりに今の topological theoryでは Gと

いうものがくる, ということになります. そこで, bosonic stringの経路積分, あるいは Riemann面の moduli

空間の上での経路積分というものがどうなっているかというのは stringの教科書の higher loopの計算を見れ

ば載っていて, 今はそれを全く踏襲します.

すなわち, bosonic stringの higher loop の amplitude の計算, まあ計算というか定義, において bを Gに

置き換えます. これが, topological string の amplitude を与えます. で具体的にどういう式になるかという

*13 手元の Polchinskiの教科書 [18](2000年版)では, (4.3.1b)式や (4.3.6)式がそれに当たる.

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と, 例えば g が 1より大きい時*14,

Fg =∫

Mg

⟨6g−6∏

k=1

(G,µk)

⟩,

(G, µk) =∫

Σg

(Gzz (µk)z

z + Gzz (µk)zz

)(65)

ただしMg は genus g の Riemann面の moduli空間です. この括弧 〈 〉がこれまで考えてきた相関関数で,

それを, 今, 計量に関して積分するということが Riemann面上の moduli空間の積分になっています.

(G,µk)は Σg の積分で出てきます. 但し, (65)の下の式で, Gzz や Gzz とあって, (63)の Gz 及び Gz とは

添え字の数が違いますが, (63)式の Gは chargeで, 一方 (65)式の Gは対応するカレントなので添え字が一

つ増えています. また, µk というのは, これは k が 1から 6g − 6まであるんですが, Beltrami differentialと

呼ばれる量です*15. これは Σg の複素構造あるいは, 2次元なんで共形構造と呼んでますが, の変形を記述する

量です.

もうちょっときちんと書くといいんですが, 基本的に bosonic string では, (G,µk) の内積のところが

reparametrizationの anti ghost b と, Riemann面の複素構造の無限小変形を記述する Beltrami differencial

と呼ばれる量*16の内積で, それを moduli 空間で積分しなさいというのが higher loop の振幅の定義でした.

そこにおいて, anti-ghost b の代わりに, topological sigma model で出てきた G を使いなさいというのが

topological string の amplitude の定義です. これによって, 一般の amplitude を定義できる, ということに

なります.

で, Beltrami differentialを使って, bosonic stringの場合, あるいは string field theoryの場合, higher loop

の amplitude を計算するときの処方箋というのが知られていて, その anti-ghost bを, Gという supercharge

に置き換えて計算しなさいというのが topological stringの amplitudeの計算です.

これによって, 2次元重力の coupling, あるいは Riemann面上の経路積分が定義できたというふうに考えら

れます. ここで Fg というものを計算してみると, 先ほど説明したようにインスタントンの moduli空間の積分

で書ける. で, Fg がどういう構造をしているかというと,

Fg =∑

β∈H2(X,Z)Ng,βQβ (66)

こういう構造をしていることが分かって, このNg,β , これを genus g の Gromov-Witten 不変量と呼ぶことに

します.

*14 genusが 1の時は, 次のような式で与えられる:

F1 =1

2

Zd2τ

τ2Trh(−1)F FLFRqHRqHL

i(64)

*15 6g − 6という数の直観的な導出は, 例えば教科書 [19]の 159-160ページを見よ. また, (realで数えると)genus 0の時は 0個,

genus 1の時は 1個ある.*16 ここで述べられているように, Beltrami differencial µk はRiemann面の複素構造の無限小変形を記述する. 実は, 小平-Spencer

理論によって, 複素構造の無限小変形の空間は, T (1,0)Σg を係数とする Dolbeaultコホモロジー H1∂(Σg , T (1,0)Σg)と同一視で

きることが知られており, Beltrami differentialは, その基底になっている.

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ただ, gravityと coupleさせる前は, g ≥ 2で全部消えちゃってたわけですが. 今の場合 selection ruleはど

う変わるかというと,12

n∑

i=1

deg ωi = (1− g)(d− 3) + n +∫

Σg

φ∗(c1(X)) (67)

これが, 2D gravityと coupleさせた後の selection ruleです.

ここで, 以前に出てきた l を nに書き換えました. 今 observableが n個の相関を考えると, Riemann面上

に n個, 例えば Oω1 , Oω2 , . . . Oωn, operatorが入ります. こういう状況を考えたときに, gravityと coupleさ

せたとき, あるいは stringとして考えたときに selection ruleというのはある種の指数定理を使って計算でき

てこういうかたちになります. ちょっと理由があって, 前の (49) 式では左辺を 2 倍に書いたんですが, 今は

ちょっと次元を複素数でカウントしたいので左辺に 1/2をつけてます. 以前との差は,

3(g − 1) + n

この次元の差, これがどっから来てるかというと, genus が g , それから punctureの数が nの, Riemann面

の moduli空間の, えっと正確に言うと複素次元です. 先ほど Beltrami differentialが 6g − 6個あると言った

のは, あれは realで考えてたんですが, genus g の Riemann面に対しては, それだけの変形の自由度があるの

で, それを 2 で割った 3g − 3 ですね. で n というのは, 点の位置, えっと, n 個の点を決めましたが, この点

が Riemann面のどこにあるかということで, その, 複素一次元の自由度. で, 併せて, genus g, punctureの数

n個の Riemann面の moduli空間の, まぁ現実には virtualな次元ですが, まぁ次元が大体これだけ数がある.

で, 重力との coupling をした後には, この次元だけ余分に積分が出てきますので, それに対応して selection

rule がそれだけ変更を受けます.

もう一度言うと, 2 次元の計量を dynamical にするために, 余分に経路積分をする必要があります. で今,

topologicalな, あるいは普通の bosonic stringでもそうなんですが, 経路積分というのは, 実では 6g − 6次元

の, 複素次元で言うと 3g − 3次元の, 有限次元の積分に置き換えることができます. これは, string theoryで

は共形性があるから, topological stringでは topologicalな不変性があるから. で, それにともなって, それだ

けの積分が余計にあるので, selection ruleがこれだけの変更を受けます.

これをみると, ものすごくいいことがあります. まず, 前と同じように X が Calabi-Yau 多様体とすると,∫Σg

φ∗(c1(X)) は忘れていい. それから, 特に, string theory で興味がある, 複素 3 次元の Calabi-Yau 多様

体とすると, d = 3 を入れることになるので, (1 − g)(d − 3) の部分もばっさり落とすことができる. ま, こ

れ, 非常に面白いというか, ある意味多分不思議な現象なんですけれども. Riemann面の moduli空間の次元

が, まぁ複素で言うと, 3(g − 1). 一方, topologicalな sigma modelから来る countingというのは, dが 3の

場合はちょうどそれと逆でマイナスを付けたのが selection rule, あるいは anomalyとして出てくる. 従って,

selection ruleは非常に簡単になってしまって, X がもし Calabi-Yauの複素三次元ならば, selection ruleは

12

n∑

i=1

deg ωi = n (68)

さらに, ωi をさらに 2-form とすれば, deg ω は常に 2 です. n 個ありますから, selection rule は常に満たさ

れる.

すなわち, これはすごいことが起こったわけで, gravity とカップルさせる前は非常に限られた相関関数だ

けだった. まぁそれだけでも十分面白かったんですけど, 古典的な cohomologyの変形を追っていくと. とこ

ろが, gravityとカップルさせた後に selection ruleを見てやると, 物理的に興味がある Calabi-Yauの 3-fold

30

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の場合, それから ω を典型的な 2-form の observable にしてやると, それは selection rule を常に満たしま

す. 従って先ほど, Gromov-Witten 不変量として, Ng,β があったんですけど, これが a prioriには selection

rule からは常に許されます. 従って, 全ての Ng,β が non-trivial, 興味のある量. で, だから, この Ng,β を全

て決定するということが, 今度は, topological な A-model の string を解くということになります. だから,

Gromov-Witten 不変量は topological stringにおいては, 全ての g と全ての β に関して, 少なくとも, あらか

じめゼロになることは, もちろん計算結果がゼロになることはありますけれども, selection ruleからだけでは

ゼロにはならないで, 全て考える必要があります. これを全て決定出来れば, これは topological な A-model

の string theoryを解いたということになります.

あ, それから, あの, 今言い忘れましたけど, g = 0の場合はもう, すでに定義されているというか, まぁ以前

の, topologicalな A-modelの場合の N0,β を使うことにして, higher loop に関してはさっきの定義に従って,

この Gromov-Witten 不変量を計算します.

それで, この Ng,β を全て決定すればよいので, 先程書いた Fg

Fg =∑

β∈H2(X,Z)Ng,βQβ (69)

を使うと, topological stringの分配関数は, 全ての genusについて Fg を足し上げて,

Ztopstr = exp

( ∞∑g=0

(gs)2g−2Fg

)(70)

となります.

今説明したのがこれは A-modelの場合ですけれども, B-modelの場合も gravityの couplingの方法は全く

同じで, energy-momentum tensor あるいは Hamiltonianが, BRSTの Qの commutatorとして書かれてい

ましたから, Fg は全く同じにして定義できて, 同様に amplitudeが, まぁ selection ruleはさっき言いました

けどやはり同じように, 適当な observableを持ってくればその observableに関する selection rule が常に満

たされる, ということが示されて, 全く同じようにして, B-modelのほうも, 同じ形で分配関数を求めることが

出来ます.

それでちょっと, もう時間があまりないので, あと残りの時間に c = 1 の話をしようと思います. その前

に, 一番最初に, topological string は完全に解けるということを言いましたけれども, 最近の発展で, toric

とよばれるある種の特別な Calabi-Yau 多様体に関しては, その分配関数を, large N duality と呼ばれる,

Chern-Simons theoryとの dualityを使って完全に決定することが出来るようになりました. その意味で, こ

の Z を完全に求めることが出来る*17ので, あとはそれを genusの展開, あるいはこの Qに関する展開をして

やれば, その展開係数として Ng,β は全て読み取れます. したがって, ある種の topological string, もうちょっ

と言うと, toric Calabi-Yau 3-foldに対する topological string, A-modelに関しては完全に解けたということ

ができると思います.

ここまでが, topological stringをどうやって定義するかという, 非常に形式的ですけどよくある話です.

ちょっと切れ目なので, もしここまでのことで質問などあれば.

*17 このあたりの話題については, 菅野先生の講義録 [20]が非常に分かりやすい文献である.

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(質問)topological stringの分配関数の定義は何ですか?

(答)えっ, 定義は (70)式です. これが定義です.

(質問)はぁ.

(答)だから, Fg は (65)が定義で, 先程, これがある種の Calabi-Yau 3-foldに対しては, ある種の duality

を使って (66)と書き表すことが出来る. その意味でまぁ一応, 解けたと.

(質問)分配関数はどういう意味を持つのですか?場の理論の...

(答)場の理論の分配関数?今, だから, string theory としての分配関数と思ってもらった方が. bosonic

string の分配関数は, 先程言ったように genus g の amplitude Fg を定義して, 多分, 摂動論的な弦理論の分配

関数はこれで定義するはずです. これは分かります? string theoryやったことあれば. それはあくまで, 摂動

論的に genus 展開をして, 各 genus ごとの amplitude Fg を計算してやって, で, 分配関数は, (70) 式のよう

に, それに string couplingを入れて (gs)2g−2 という weightをかけて足し上げてから exponentialの肩に乗せ

るだとか, あるいは, Ng,β というのは, この分配関数の log が free energyで, free energyは genusに関して

(69)式のようにして展開されるというのが普通の string theoryの, 分配関数の定義だと思います. これが一

応, 摂動論的な string theoryの formulationだと考えます.

topological stringの場合は, 普通の string theoryにならって分配関数を定義したわけですが, それを (69)

の形で展開した係数を見ると, その展開係数に, 幾何学的な不変量である Gromov-Witten 不変量が出てきま

す. ここで, 非常に面白いことは, Gromov-Witten不変量 Ng,β 自身を直接求めることは出来ないんですけど

も, 分配関数 Z 自身を直接求めることがある種の dualityを使って出来て, 逆にそれを展開することによって,

全ての Gromov-Witten不変量というのが計算できる, という仕組みになっています. まあ, それは dualityの

議論でよくある話で, 何か足し上げた結果に関してはいろんな情報が分かって, dualityみたいなのを使ってい

ろんな性質が分かって, その性質から足し上げた結果, あるいは分配関数が直接求められて, それを展開するこ

とによっていろんな情報が引き出せる, というような構造が topological stringとか, あるいは dualityを使っ

た理論ではよく出てきます.

4 Ubiquity of c = 1 string amplitude

分配関数を定義しただけでなく, それを求める求め方っていうのもちょっとやろうかと思ったんだけどもう

ちょっとその余裕は無いので, 最後に, ”Ubiquity of c = 1 string amplitude”というタイトルでお話します.

最近は, ubiquitousという言葉が良く聞かれます. ubiquityという言葉ですが, 遍在, どこにでもあるという

意味の英語. ちょっと高級な, ラテン語かなんかに由来する英語です. 以下では, c = 1の stringの amplitude

というのはいろんなところに出てくるという話をしたいと思います. いろんなところっていうのは, もちろん

topological stringでは出てくるんですが, 例えば non-critical stringで普通の c = 1 stringをやるとこれが出

てきますし, あるいはいろんな matrix modelをやっていると大体これが常に基本的な要素として出てきます.

Chern-Simons理論をやってもそうですし, 最後に Seiberg-Witten理論をやってもこれが出ます. だから恐ら

くいろんなところに顔を出す最も基本的な amplitudeです. string theoryでないとそれを genus展開である

と解釈することがいいことがどうかは良くわからないんですが, あたかも stringの genus展開をやっているよ

うに見えます.

じゃ, まずどこから出すかですが, やっぱり topological string から出します. 今, A-model の topological

stringで, 但し簡単のため b2(X) = 1の場合を考えます. そうすると, インスタントンの巻き付き数を決める

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パラメーターは1個だけなので, 例えば genus 0 の prepotentialは

F0(t) =C

6t3 +

∞∑

k=1

N0,ke−tk . (71)

但し前の言葉を使って書くと Q = e−t です. 先程は β についての和にしましたけれど今1個しかないのでイ

ンスタントン数 k が 1から∞まであります. それから厳密に言うと k は整数を走るんですが, 正則だとある

種の向き付けが決まってしまうので, k は正か負かどちらかの方向でしか生き残りません. だからそのために

いまは k は正の方向を走ります. N0,k が Gromov-Witten不変量で, C6 t3 は古典的な X 上の積分, トリビア

ルなインスタントンの寄与です. 和の部分はインスタントン展開してるわけですが, 収束するかどうかが気に

なります. t À 1のとき, これは普通 large radius極限と呼ばれています.

t が 1 よりも大きくなるというのは, Q でいうと, Q がほぼ 0. ですから F0(t) のインスタントン展開は

t = ∞, あるいは Q = 0の周りでの級数展開と見ることができます.

(質問)radiusというのはどういう意味があるんですか?

(答)tというのは, 大体 2-cycleの体積をあらわす概念です. tが大きいときは 2-cycle, 一番典型的には球面

が一番簡単な場合ですから, 球面の体積ということで, あたかもその球面の半径が無限大になるという意味で,

通常 large radius limitと呼ばれます. 1 ¿ tは, string scaleより非常に大きな体積を考えているので古典的

な描像が信頼できる, あるいは, 逆の言い方で言うと, string theoryを sigma modelで記述できる. 古典的な

target spaceがあって, その target spaceの上で運動方程式の解を考えることが string theoryだということ

は, 時空のスケールに比べて stringが十分小さいスケールであって, それは体積と考えている幾何学のスケー

ルが非常に大きく, 古典的な描像が信頼しても良いということを言っています.

インスタントン展開というのは, そういう古典的な描像のまわりで級数展開しているわけです.

今度は逆に, t → 0とします. これは, stringが巻きついているような 2-cycleの体積が zeroになってきて

いるということです. だから Qでいうとこれは, Q → 1. この時は, 古典的な描像が, 正しいのかもしれない

けれどいけるかどうか問題になってくる. すなわち, 空間のスケールに対して string のスケールがある程度

competitiveになってきます.

だから, 問題は, 級数∞∑

k=1

N0,ke−kt (72)

の収束半径はどうなるか?ということになります. で, そのためには何を調べればいいかというと, 展開係数

N0,k の k →∞での漸近挙動が問題になります. その展開係数が典型的にどういう挙動を持つかというと,

N0,k ∼ kγ−3 logσk ektc (73)

これが典型的な漸近形です. 収束半径を決めるのは ektc の部分で, t = tc が収束半径. すなわち, t = tc が

critical point. 典型的には例えば, これは有名な Candelasの論文 [21]の quintic*18の場合です. Candelas達

*18 quinticとは, CP4 の斉次座標を (z1, z2, z3, z4, z5)としたときに,

5X

a=1

(za)5 = 0 (74)

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の論文に書いてあります*19. この場合の exponentは, γ = 0, σ = −2.

この時, critical point近傍での free energyの振る舞いというのは, 漸近挙動がわかっているので, 和を積分

に置き換えると, Laplace変換で評価できます.

で, それを使うと, 臨界点 t = tc の近傍での free energyの振る舞いが分かります.

Free energy near critical point t = tc

収束半径が t = tc にあるということは, t < tc では最早これまで使ってきた sigma modelの描像が破綻し

ている. 例えば他のモデルでも, ある有限のところに tc があります.

tc 近傍での free energyの振る舞いというのは, 先程も言ったように和を積分で近似して, Laplace変換を計

算して, 大体

F0(t) ∼ (e−tc − e−t)2 log(e−tc − e−t), (75)

critical pointとの距離をはかる parameterを

µ = e−tc − e−t (76)

とすると,

F0(t) ∼ µ2 log µ (77)

higher genusに関しても, 同様で一般の genusで, g が 1以上の場合, どういう結果が知られているかという

と, log補正は恐らくなくて,Ng,k ∼ k(γ−2)(1−g)−1etck , (k →∞) . (78)

tc は g によらずに同じところに出ます. それから, critical exponentの genus依存性は (γ − 2)(1− g)− 1

の形になる. これから, t = tc での free energyがどうなるかというと,

F1(t) ∼ log µ, Fg(t) ∼ µ(1−g)(2−γ) (g ≥ 2) (79)

先ほどいったように, 普通に出てくる場合は γ = 0です.

これが臨界点近傍での free energy. そうすると, 大体見えてきたと思うんですが, t = tc 近傍で次のような

double scaling limitを考えます:

t → tc, gs → 0, with κ = gs · µ( γ2−1): fixed (80)

γ が復活していますけれど, 一般式を今書いています.

その結果得られる free energyは, 次のような形をします:

F (κ) =12κ2 log κ− c1 log κ +

∞∑g=2

κ2g−2cg (81)

で, これは実は c = 1のストリングの free energyとして知られているものと, 細かい点を除いてほぼ一致し

ます. この式 (81)を, 次の c = 1 stringの amplitudeと比べてみてください. これは標準的なもので,

Fc=1(µ; Λ) = g−2s

(12µ2 log

µ

Λ− 3

4µ2

)− 1

12log

µ

Λ+

∞∑g=2

g2g−2s

B2g

2g(2g − 2)µ2−2g (82)

という 5次の多項式, 或いはより一般に 5次の同次多項式の零点として表される. 多項式の変数を変えることは複素構造の変形に相当する.

*19 [21]の (5.15)のすぐ下の式が, この講義ノートにおける (73)式に対応するものである. 記号は多少違っており, 原論文での nk はここでの N0,k であり, また ρ, σ はそれぞれここでの γ, σ である.

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(80)で γ を 0にして, (81)式の κに gs と µを戻すと大体 (82)のような感じになります.

これが普通 c = 1の string amplitudeとして知られているものです.

(質問)γ = 0じゃないと合わなくなるんですか?

(答)これは, パラメータの置き方を変えなきゃいけないのかな, 深く考えていませんでした. γ が 0からず

れるというのは, genus 0の部分が, ちょっと理論からずれているので普通はあんまり起こっていないと思うん

ですけど. ちょっとわかりません. 一応標準的な, これまで解かれている string theoryだと γ は 0なので. 収

束半径の臨界点周りの double scaling limit を取ると基本的にこのような構造をしていて, それは, c = 1 の

amplitudeと呼ばれている.

厳密に言うと (81)式で今 c1 とか c2 というのを今書きませんでしたけれど, 実際に計算するとまさしく cg

の値は (82)のようになります. つまり,

c1 = − 112

, cg =B2g

2g(2g − 2)(g ≥ 2) (83)

だから, 本当に c = 1の string amplitudeに一致します.

t = tc は topological string theoryでいうと conifold特異点と呼ばれています.

µ → 0, これがゼロに行くというのは, 3-cycle S3 がつぶれる特異点です. conifold 特異点の近傍で

topological stringの amplitudeの double scaling limitを取ると, 少なくともこれまで計算されている例では

ユニバーサルに c = 1の string amplitudeが出てきます.

これは Vafa達による昔の議論 [22]がありますけれども, それがどのくらい信用されているのかは知りませ

んが, , すくなくともこれまで具体的に解けている topological stringの double scaling limitは係数まで込め

て全てこの形になっています.

ここで, B2g というのはベルヌーイ数と呼ばれる数で, 次の母関数で定義されます.

x

ex − 1=

∞∑n=0

Bn

n!xn  (84)

これは実はいろいろ流儀があって, 僕の流儀は多分岩波数学辞典とは違う流儀*20. こうすると

B0 = 1, B1 = −12, B2 =

16, B2k+1 = 0(k ≥ 1) (85)

ほかの文献と比べるときはこれで合ってるかどうかをみる. 文献によっては奇数の部分が全部ゼロになるので

ここでいう 2nを nにしたり, 符号が交代に現れるわけですが, それまで込めて符号 ±はずしちゃって定義する文献もある.

実は (83)式の形の展開係数になるには理由があって, Fc=1 の gs 展開の係数は genusが gの Riemann面の

モジュライ空間の Euler数を与える*21. genus 0と 1は微妙な問題がありますが*22. その意味で topological

stringからこの amplitudeが出てくるというのは不自然ではありません.

*20 ちなみに, 岩波数学辞典では Bn の定義はここと同じであるが, その絶対値を Bernoulli 数と呼ぶことにしている. 手元の第 3 版では項目 386及び数 4にあり.

*21 数学的詳細については [23]を見よ.

*22 genus 0 の部分, つまり g−2s の係数に 1

3!∂3

∂µ3 を作用させて得られる16という数字と, genus 1 の部分, つまり g0

s の係数に∂

∂µ

を作用させて得られる − 112という数は, 各々 n 点の puncture を持つ genus g の Riemann 面の moduli 空間Mg,n の Euler

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最初に言ったとおり, この amplitudeはいろんなところで出てくる. 特に doctorのひとは一度はお目にか

かったはずだと思うんですけれど. 非常に基本的だと思います.

c = 1 string amplitude はいろいろな場面に登場する!!不思議です. 恐らく背後にあるのは free fermion

の理論だと思うんですけれども. いくつか思いつくままに.

• topological string amplitude の conifold 特異点周りでの漸近形 [22]

• one matrix model (Riemann面の random triangulation)の double scaling limit

• 数学のほうで知られているのは, これは Riemann面のモジュライ空間の Euler数が出てくることの数

学的な理由ですけれども, いわゆる Penner matrix model[24]. これはもともと, Riemann面のモジュ

ライ空間のセル分割を数え上げするために考えられた matrix model で, このやはり double scaling

limit.

• Chern-Simons theoryの規格化定数 Vol(U(N)). Ooguriさんと Vafaの論文 [25]に書いてありますけ

れども, 例えば U(N)の Chern-Simonsを考えるときに, 体積で規格化する必要がありますけど, ある種

の regularizationをして計算すると, やはりこんなようなものが.

• ある種の BPS particleの有効作用への寄与を計算することによってもあの形が出ます. これは, 例えば

最初にあげた文献 [16]の Gopakumar-Vafaの計算です. Seiberg-Witten理論でこれが出てくるという

のも同じようなことなんですが, それをちょっと最後に残った時間にお話ししたい.

何か, 質問があれば.

(質問)4章に入ったときに, 3章で Gromov-Wittenで Ng,β と書いていた β の部分が k に変わって?

(答)1個しかパラメータがないので, β に関する和は k に関する和になりました.

(質問)サイクルは 1個?

(答)はい, non-trivialなサイクルは 1個しかない.

(質問)1個の場合はそうなると. そこで書いてあるやつは, そうじゃない, non-trivialなサイクルがたくさ

んある場合については?

(答)1個の場合, あるいは 1個のほかは全部忘れた場合についてだと言った方がいいかな. 2-cycleの数が

たくさんある場合に関しては真面目に考えていないし, 良く調べられていないと思います. 解かれているいわ

ゆる 1パラメーターモデルというモデルに関しては, これまで知られているものは, 適当な tc に関して全てこ

の形.

だれか他の例を思いつく人がいれば僕も知りたいですが, まあ準備するために僕が調べたのは, まあこのぐ

らいは一応出てくる. ほかにも多分もっと出てくる. ここでは一番有名な例を挙げましたけれども, 多分他の

matrix modelでも, 基本的に free fermionを使って書けるようなものであれば, 何らかの limitを取れば, こ

の形になります.

これからは, Seiberg-Witten理論との関係というわけで, その辺から攻めていく. 何か BPS particleがあっ

て, そういうものに対して足し上げを行うと, 大抵この形が出てくる. 最後に残った時間で, 有効作用の計算を

すると, この形になるということの計算をしておしまいにします.

characteristicに対応している:

1

6= χ(M0,3), − 1

12= χ(M1,1). (86)

36

Page 37: 「位相的弦理論の分配関数と数え上げ」sansha.wakate/particle/2006/...string theory のことを知らない人にはちょっと分かりにくいかもしれませんが,

c = 1 amplitude from ”BPS particle”

どういう設定を考えるかというと, 4次元で constantで self-dualな U(1) flux backgroundを考えます. た

だし符号は Euclideanで, 厳密には 5次元で考えた方が自然な議論です.

F12 = F34 = ~ (6= 0) (87)

このとき, charge e, mass mの charged particleの有効作用を計算します.

microscopicな actionはS = |(∂i − eAi)φ|2 + m2|φ|2 (88)

φは complexな boson.

今ゲージ場を backgroundとして考えているので, dynamicalな場は φだけで, φに関して二次なので φ積

分は Gaussianで, 有効作用は exactに計算できます. よく知っていると思いますが, 1-loopの計算で,

Seff = log det (∆12 + ∆34 + m2) , (89)

ただし, ∆ij と書いたのは, D2i + D2

j . Di は共変微分で, ∂i − eAi.

これが Gaussianで積分したもの, ただし, 今 fluxが入っているので D1 と D2 の交換関係は共変微分の項

の交換で curvatureを含みます. curvatureが今 constantですから,

[D1, D2] = [D3, D4] = e~ (90)

これを今度は proper time expansionして log detを書き換えます.

log det (∆12 + ∆34 + m2) = Tr log(∆12 + ∆34 + m2) (91)

これを展開すると ∫ ∞

ε

dt

tTr e−t(∆12+∆34+m2) (92)

ただし εは, (92)が原点で singularなので, cut off parameter.

それで, トレースの計算ですが.Tre−t(∆12+∆34+m2) (93)

これは, うまいこと constantの U(1) fluxを入れたおかげで次のようなことが起こっていて,

∆12 = D21 + D2

2, [D1, D2] = e~ (94)

Wick rotationみたいなことをしないといけないんですが, 基本的に D1 を座標, D2 を運動量として, 基本的

に交換子が定数になっているので, 普通は iがついているけどそれは目をつぶることにすれば, ∆12 は座標の 2

乗と運動量の 2乗ですから, ∆(基本的に Laplacianです)は, i倍とか massとか適当にスケールしてしまう

と調和振動子の Hamiltonianです.

さすがに Tre−t∆12 はM1の皆さんでも計算できると思うのですが, ∆12 が Hamiltonianですから, 調和振

動子の分配関数を求めなさいという問題. ∆12 は, n + 12 という固有値を持っている. nは 0以上の整数.

ちょっと notationのせいで i倍とか違うかもしれませんが, 基本的には Laplacianの固有値は, 調和振動子

の固有値と対応しています.

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Page 38: 「位相的弦理論の分配関数と数え上げ」sansha.wakate/particle/2006/...string theory のことを知らない人にはちょっと分かりにくいかもしれませんが,

従って, これを使うと, (93)式は, 基本的に, 調和振動子と一致します. e~が量子化の単位で, 今調和振動子

が二つあるので, (93)式は

e−tm2

( ∞∑n=0

e−ite~(n+ 12 )

)2

(95)

となる. これは等比級数の和になって, それを書き換えると, 三角関数を使って表すことができて,

e−tm2

(2 sin te~

2

)2 (96)

最終的にこれを積分したものが有効作用でしたから, 今の結果を代入すると有効作用は, ちょっと変数変換し

てますが

Seff =∫ ∞

ε

dt

t

e−m~ t

(2 sin t

2

)2 (97)

何をやったかというと, 式を簡単にするために t := te~という変数変換をしてそれからこれまで使ってこなかったんですけれども, chargeと massが等しいという BPS条件 e = mを代入しました.

実はこれを展開すると先程の c = 1の amplitudeが出てきます. これが不思議だと思うんですけど, どこに

も stringも matrixも無いのに c = 1の amplitudeが再現されます.

今微妙な問題があって, cutoff ε が入ってますから, これをどう処理するのが技術的に難しい問題なんです

が, ここに書いてきた cutoffの処理は, Nekrasovが採用した regularizationの方法です. それから, 申し訳な

いですけれども, 彼の文献を参照してきた都合上 sin関数が多分 sinhとして計算しています. だから tを i倍

の xにするみたいな, この辺微妙で, 物理的にまずいことをやっているのかもしれません. もう時間がないの

でちゃんとやりませんが, 適当に変数変換すると次のようになります.

Seff(x; Λ) :=d

ds

∣∣∣∣s=0

Λs

Γ(s)

∫ ∞

0

dt

t1−s

e−tx

(e~t − 1)(e−~t − 1)(98)

cutoff parameter εのかわりに Λを使っています. ここで, 積分は sを 0にすると原点で発散して無効なの

で, dtt1−s とずらしておいて, そこで d

ds

∣∣s=0

Λs

Γ(s) の部分が cutoffを処理する方法になる.

ここで, 先ほどの Bernoulli数の定義を使うと, 次のような式がかけます. 先ほどの tとはスケールがずれて

ますが,1

(et − 1)(e−t − 1)=

d

dt

1et − 1

= −t−2 +∞∑

g=1

B2g

2g(2g − 2)!t2g−2 (99)

これを出したい人は先ほどの Bernoulli数の定義式 (84)の両辺を微分してください.

で, (98)式の 1(e~t−1)(e−~t−1)

の部分に ~を tに置き換えた式を代入します. 後はもう演習問題としていいん

ですけど, ちょっとまだ途中経過ぐらい. 計算すると次のような形が出ます.

Seff(x,Λ) =d

ds

∣∣∣∣s=0

(Λx

)s[−

(x

~

)2 Γ(s− 2)Γ(s)

+112

+∞∑

g=2

B2g

2g(2g − 2)!

(~x

)2g−2 Γ(s + 2g − 2)Γ(s)

](100)

やったことは, (84)を (98)に入れてやって, 適当に変数変換すると, スケールして xが出てきますけれども,

全部 Γ関数で書けるようになる. tの依存性は, tのべきになって, 更に exponentialがあるので t積分は Γ関

数になります.

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あとは, これを sに関して微分して s = 0とおけばいいですね.

ここで Γ関数の等式を使うと

Γ(s− 2)Γ(s)

=1

(s− 1)(s− 2),

Γ(s + 2g − 2)Γ(s)

= s(s + 1) . . . (s + 2g − 3) (101)

higher genus の方が簡単で, 微分してゼロにならないためには s をたたかなきゃいけなくて, 残りの部分を

s = 0にして,

g ≥ 2;∞∑

g=2

B2g

2g(2g − 2)!

(~x

)2g−2

(2g − 3)! (102)

そうすると, 階乗を消して,∞∑

g=2

B2g

2g(2g − 2)

(~x

)2g−2

(103)

ここで ~を string coupling gs, xを µとおくと, 先ほど書いた c = 1の higher genusが完全に再現できま

す. それから g = 0, 1が微妙で,

g = 1をやりましょうか.

g = 1;112

d

ds

∣∣∣∣s=0

(Λx

)s

(104)

これは簡単な微積の問題で,

+112

logΛx

(105)

ひっくり返して

− 112

logx

Λ(106)

さらに xを cosmological constant あるいは mass term µとおけば, これは c = 1の amplitude.

最後に genus 0は (101)を代入しますので,

g = 0,d

ds

∣∣∣∣s=0

(Λx

)s (x

~

)2(

1s− 2

− 1s− 1

)(107)

これで, 同じように計算すると, この結果が

~−2

(12x2 log

x

Λ− 3

4Λ2

)(108)

これで完全に c = 1の amplitudeが再現できています. ここで ~→ gs, x → µと置くと, c = 1の amplitude

です. genus 0の部分, (108)式のカッコ内が Seiberg-Wittenの prepotentialの one-loop項になる. その場合

は, SU(2)だとして, xは Higgsの真空期待値, Λとしては, dynamicalな scale. c = 1の amplitudeを計算

しましたが, その genus 0の partは, Seiberg-Wittten理論の prepotentialの 1-loop term. その意味でこれ

は, Seiberg-Wittenの prepotentialの perturbative partを string的に拡張した amplitudeということもで

きます.

すいません, ちょっとオーバーしましたけれども, これでとりあえず, c = 1というのが, いろいろなところ

で, 例えば BPS particleの数え上げからも出てくるということを紹介しました.

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(司会)どうもお疲れ様でした. (拍手)時間は迫っていますが, もし, 全体を通して質問があれば.

(質問)どうしてそんな風に一致すると考えるんですが?

(答)なぜ, というのは僕も知りません. 恐らくそれは, 少なくとも技術的には, 基本的には全て背後に free

fermion があって, それが理由であろうかとは思いますけれども, それは逆に言うと, なぜ free fermion がた

くさん出てくるのか, と今度は逆に聞かなきゃいけなくなって. というか, 解けるモデルは全部 free fermion

だっていう言い方もできるかもしれませんけれども, その意味で解けるモデルはほとんどないから, 解けるモ

デルは全部同じになってしまうという言い方もできるかもしれません.

(司会)それでは, 講義を終わりたいと思います. 菅野さんに盛大な拍手をお願いします. (終)

講義録作成校からの謝辞

よく準備された分かりやすい講義をして下さったうえに, 講義録の原稿を詳細にチェックしてくださった菅

野先生に感謝します. また、夏の学校の企画・運営に関与された方々にも感謝します.

参考文献

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