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『健康はあなたの体が知っている』―――――目次

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プロローグ

 

すべては「本能」から生まれる

闘病の末に亡くなる人と助かる人のちがいは何か?――――13

空腹感は青春をよみがえらせる――――15

「本能」とは後天的に鍛えられるものである――――18

一度きりの人生を後悔せずに生き抜く方法――――21

 

生まれつき備わっている生命維持の本能

〔反射〕

体の中の「トカゲ」が私たちを生かしている――――23

 

習慣や環境によって変わってくる情動の本能

〔習性〕

イスラム圏の人々は「仕事上がりの一杯」を飲むのか?――――27

 

高次な精神活動を担う理性としての本能

〔知性〕

知識欲や向上心も元をたどれば食欲や性欲に行き着く――――29

 

本能との正しいつきあい方

修行僧の最終目標は本能のコントロール――――31

健康で長寿に不可欠な十一の本能――――34

第1章 

本能の力で病気知らずの体をつくる

 

心臓にもっと楽をさせなさい

〔循環本能〕

心臓の負担を減らさなければ健康長寿にはなれない――――41

鍛えられない心臓を鍛える方法――――44

かくれ肥満は循環本能の衰えた人――――45

 〝一日一分間〟で呼吸の異常を治す

〔呼吸本能〕

「換気」がうまくできない体――――48

一回十五秒の「舌出し運動」で睡眠時無呼吸症候群が治る――――51

なぜ大声を出す人ほどいびきをかかないのか?――――53

現代人に「深い呼吸」は必要ない――――55

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睡眠時間よりも起床時間を優先しなさい

〔睡眠本能〕

眠らない環境が眠れない人を量産する――――57

「むずかしい内容のCD」を聴けば快眠できる――――59

眠れないから何か食べるのは最悪のパターン――――61

不眠とは「リズムの乱れ」である――――63

昼なのか夜なのかわからなくなる暗室生活――――65

睡眠時間が短くなっても朝は定時に起きなさい――――67

 

病気にならないために腹巻きをしなさい

〔免疫本能〕

免疫力を高める驚くほど簡単な二つの方法――――69

死亡者がいなくなった腹巻きの力とは?――――73

「すする」ことはじつは高度な能力――――75

「歯茎磨き」と「空吐き」で肺炎を防止できる――――77

第2章 元気、長寿を実現する本能型生活

 

心身を健康にする「一日一食半」生活

〔消化吸収本能〕

「満たされすぎ」の危機にある食本能――――83

おいしいものほど体に悪い――――86

食欲という動物的本能を「人間的に」満たす法――――89

胃液の「空振り」で胃がどんどん悪くなる――――91

胃腸の機能を弱めてしまう市販の胃腸薬――――94

 

毎朝十五分便座に座れば便秘は治る

〔排泄本能〕

食後の行動が便秘と快便の別れ道――――97

朝食後、十五分のトイレ時間で健康が手に入る――――100

ただの便秘がガンの原因になる――――102

 

あらゆる筋トレは一回十五秒でいい

〔運動本能〕

運動不足の人ほど内臓も早く老化する――――104

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健康のための運動はつねに「十五秒」が基本単位――――108

一生懸命すぎるウォーキングの害――――110

第3章 

本能を活かし生活の質を高める

 「男は女の二倍性欲が強い」のは本当か?〔性本能〕

情動こそもっとも動物的な反応である――――115

意外と知らない食欲と性欲の密接な関係――――117

草食系男子と肉食系女子が生まれるのは自然の摂理――――119

「肉食の欲望」が心身を若返らせる――――121

 

記憶力を高めるとストレスに強くなれる〔恒常性本能〕

ホルモンがストレスから体を守ってくれている――――123

ストレスを「消化可能」にする三つの方法――――126

億単位の借金をしても私がストレスに押しつぶされなかった理由――――129

 

糖分の多い食事は理性を失わせる

〔理性本能〕

「ムカつく」「キレやすい」原因は糖分にあった――――132

健康的な食生活が崇高な理性を生む――――134

どんなに興奮しても、それは二十五分しかつづかない――――136

 

人間だけがもっている究極の本能

〔創造本能〕

創造性は記憶とイメージの力から生まれる――――138

じつは記憶力は老化しない――――140

第4章 

太く、長く生きるための本能の活かし方

 

本当の生命力を手に入れる十の習慣

死に直面して気づいた「生きる」ことの意味――――145

どの本能から鍛えても効果がある――――147

①生活のリズムを整える――――149

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②空腹を感じる生活をする――――151

③適度な禁欲を心がける――――155

④適度な運動を実践する――――157

⑤沈思黙考の時間をつくる――――160

⑥芸術を鑑賞する――――161

⑦大自然の中に入る――――163

⑧リラックスできる環境をつくる――――165

⑨食事(栄養)を見直す――――167

⑩病気を治療する――――171

 

生きるための本能、死ぬための本能

治療に心を向けても、病気には心を向けるな――――174

死を前提にして生きるとき本能の力が発現する――――179

あとがき――――182

装丁――冨澤

崇(EBranch

本文デザイン・DTP――J

-

ART

構成――大隅光彦

編集協力――ぷれす

企画プロデュース――天才工場

編集――小野佑仁(サンマーク出版)

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プロローグ

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プロローグ

第1章

本能の力で病気知らずの体をつくる

すべては「本能」から生まれる

 

私は人工透析を専門とする総合内科医として三十年近く患者さんを診てきましたが、

実際にこれまで診てきた患者さんの中には、本能が弱くなっている、あるいはうまく

コントロールができていない方がたくさんいました。

 

人工透析というのは瀕ひ

死し

の重傷・重病を負っている患者さんなど、本当に体が弱っ

てしまった方に最後の手段として用いることが多い治療法です。逆にいうと、透析を

受けているような患者さんは、生きる力が最低レベルまで落ち込んでしまっているこ

とが多い。

 

それだけに生死の境をさまよう患者さんと多く接してきました。その人数は、最期

を看み

取と

った患者さんだけでも三百人はいたと思います。

 

医者の中でもこれほど生死の現場に立ち会ったことのある者はめったにいません。

闘病の末に亡くなる人と助かる人のちがいは何か?

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プロローグ

第1章

本能の力で病気知らずの体をつくる

医者もキャリアを積んでいくと、患者さんを看取るような〝現場〟には出なくなるも

のですが、私は現場での医療の実践こそが自分の使命だという信念のもとに、患者さ

んを看取ることを続けてきました。

 

そういった生死をさまよっている患者さんたちを診ていると、その中にも、あっさ

り亡くなってしまう人もいれば、重篤な症状から闘病の末に回復に向かう人もいるこ

とに気がつきました。

 

はじめは治療の開始時期の早い遅いが影響しているのかと思っていたのですが、亡

くなってしまった人、回復した人には、それぞれある〝共通点〟がありました。

 

そこには、人の体が生まれつきもっている「本能」が大きく影響していたのです。

 

すなわち、ふだんの生活の中で衰えがちな本能の力をうまくコントロール、活性化

させる習慣をもっていた人たちは健康を取り戻し、そうでない人たちは残念ながら亡

くなってしまうことが多かったのです。

「本能」といわれてもピンとこない方もいらっしゃるかもしれませんが、これがじつ

に侮れない。みなさんが想像する以上に健康と結びついているのです。

――食事や睡眠といったあらゆる動物に共通する生きるために必須の行動から、仕事

や勉強といった人間特有の高次な行動さえも、突き詰めれば「本能」に起因している。

つまり、私たちの日常はすべて「本能」によって成り立っている。だからこそ、健康

の質、ひいては人生の質を高めるには、現代で軽視されがちな「本能」をうまくコン

トロールしていく必要がある――

 

本書は「本能」と健康がいかに密接にかかわっているかを解説した本ですが、かん

たんに説明すると以上のような話になります。

 

私自身、本能のすごさを身をもって体験したことが何度もあります。

 

じつは最近、私は約十二キロ減のダイエットに成功しました。首回りは六センチ、

腹囲も二十センチ近く減り、太っていたころには夜ごと、家族を悩ませていたいびき

空腹感は青春をよみがえらせる

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プロローグ

第1章

本能の力で病気知らずの体をつくる

も睡眠時無呼吸症候群もきれいに消えたのです。

 

そうした身体上の効果はもちろんですが、もっとうれしかったのは青春がよみがえ

ってきたことでした。

 

以前の私は仕事の変化や年齢からくる疲労感や徒労感にとらわれ、ストレスも少な

からず抱えており、気分も落ち込みぎみでした。それがダイエットを始めて以降、生

まれ変わったように元気を取り戻し、大型オートバイの免許をとって東北地方の海岸

線をツーリングしたり、ホノルルマラソンへの出場をもくろむなど、すっかり行動派

に変身を遂げてしまったのです。

 

ダイエットの効果が体の脂肪だけでなく、「心のぜい肉」までそぎ落としてくれ、

体の健康だけでなく、心も前向きになって意欲が高まり、思考も活発化して精神の若

返りが可能になったのです。

 

それをもたらしてくれたのはダイエットにともなう「空腹感」でした。じつは空腹

感は、人間のもついろいろな本能を呼び覚ます代表的なスイッチなのです。

 

人間も動物ですから、お腹な

が空けばおのずと減ったお腹を満たすためにはどうした

らいいだろうかと考え、食料を得るためのアクションを起こします。また、どうすれ

ば効率的に食べものを蓄えたり、おいしく食べられるかという知恵も発達します。つ

まり、積極的に行動する気になったり、いろいろなアイデアがわきやすくなるという

わけです。

 

空腹が「生き延びる」ための思考や行動の起点となり、大きなモチベーションとな

る。これは人類がまだ狩猟生活を送っていたころに身につけた重要な本能の一つで、

人間が進化した今でも基本的に変わっていません。

 

すなわち、空腹を満たそうとする本能が生物を自然と「生きる」方向に向かわせ、

生命力を高めた。そして、そのことが私の心と体の健康の土台となった。

 

この事実をダイエットを通じて自分自身の体で体験してみて、私は自分の中の本能

を自覚的に目覚めさせ、活性化することが、いかに健康や長生きにとって大切である

かをあらためて痛感しました。

 

つまり、本能とは「生きる力」そのものなのです。

 

しかし、これは何も不思議なことではありません。なぜなら、私たちがふだん何気

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プロローグ

第1章

本能の力で病気知らずの体をつくる

なく行っている行動も、突き詰めていくと本能、あるいはそれら複数の組み合わせに

よって成り立っているからです。

 

たとえば、食事は「食べたい」という本能、つまり食欲があるからこそとる行動で

すし、睡眠は「眠りたい」という睡眠欲があるからこそとる行動です。毎日働くこと

だって突き詰めれば、飢えを凌し

ぐための生存本能によるものです。趣味や学習などの

原動となる知的好奇心だって、もともとは異性にもてたいといった生殖に根ざした本

能や食欲などが組み合わさった結果生まれる行動といえます。

 

要するに、食欲や睡眠欲、性欲といった生命活動の根源をなすものから、人間に特

有の高次な活動に至るまで、健康や精神活動の大本となるのはすべて本能なのです。

したがって、本能が正しく働かなければ、それによって成り立っている私たちの日常

生活にも支障が出てきてしまうのは当然といえば当然でしょう。

 

以上のような経験から、私はじょじょに、健康と本能の関係を医学的に考えるよう

になっていきました。つまり、さまざまな症状が本能の不活性からくるものであるな

ら、その眠っている本能を目覚めさせ、鍛えることによって、本来の生命力が発現し、

私たちは健康な生活を手にできるという考えです。

 

こういうと、本当に本能を鍛えることができるのかと疑問に思う人もいるかもしれ

ません。しかし、それを後天的に強化することは十分可能です。

 

たとえば本来、私たち人間には「体を動かしたい」という欲望、運動本能とでも呼

ぶべきものが備わっています。そのため、長い間体を動かさないでいると体に悪影響

をおよぼします。

 

一方で、つい最近までは手術後、患者さんは体力が回復するまで安静にさせるとい

うのが医学上の常識でした。しかし、今は手術後、すぐに立って歩かせるなどすみや

かにリハビリを行う病院が増えています。

 

これは長く寝ていると脊柱起立筋をはじめとする筋肉や関節などの運動器の機能低

下が起こり、健康回復のさまたげとなるからですが、これなどは衰えがちな運動本能

を起立歩行させることによって鍛え、その人が本来もつ生命力の発現をうながす方法

「本能」とは後天的に鍛えられるものである

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プロローグ

第1章

本能の力で病気知らずの体をつくる

といえます。

 

使わないものは衰えるといいましたが、衰えたものも使ってやれば、ふたたび活性

化します。本能はそうした可逆性も備えているのです。

 

私たちが「本能」と考えているさまざまな行動や思考の様式、それらはすべてが生

まれつきのものではなく、人間が発育、成長する間に備えられるものであることもし

だいにわかってきています。

 

くわしいことはまだ不明な部分が多いのですが、遺伝的に決定される先天的な要因

と、個人がそれぞれ後天的に経験する固有の環境や習慣。その二つの相互作用によっ

て本能はつくられると考えられるようになっているのです。

 

つまり、本能には「生まれ」と「育ち」の両方が関係しており、生まれつきの本能

が行動をうながし、その行動がまた新しい本能を呼び覚ます。このくり返しの中で、

私たちは人間に特有の理性や知性といった高等な本能(高次機能)を獲得してきたの

です。

 

したがって、今からでも本能を鍛えることは十分可能。しかも日常生活の中のちょ

っとした心がけや習慣を実践することによって本能を活性化し、それを健康へ直結さ

せていくことができるのです。

 

人間は習慣の奴隷です。人間の健康も、そして病気も、日ごろの生活習慣の反映で

あり、その結果なのです。奴隷としてどうせ仕えるのなら、その主人は「よい習慣」

のほうがいいに決まっています。

 

本書では、その本能の鍛え方をさまざまな角度から紹介していきます。

 

具体的には、食事、睡眠、排便などの生活リズムを整える、適度な運動や禁欲を心

がける、リラックスできる環境をつくる、沈思黙考の時間を設けるといった、日常生

活の中でだれにでも実践可能な「本能の力を引き出す方法」や習慣について紹介して

いこうと思います。

 

前述のとおり、これまで数百人におよぶ生と死を見てきましたが、人間の死にざま

は生きざま同様、人それぞれ、百人百様です。

一度きりの人生を後悔せずに生き抜く方法

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プロローグ

第1章

本能の力で病気知らずの体をつくる

「こんなはずじゃなかった」と死をひどく恐れ、後悔の念を抱きながら死ぬ人もいれ

ば、「これでおしまい」とあきらめ半分ながら自足して死んでいく人もいます。

 

死を恐れることもまた生物の本能であり、自然な反応です。たとえば末期ガンをわ

ずらい、死期が間近に迫っているのを知って恐怖におびえるのは無理もないこととい

えます。

 

一方で、同じ状況にありながら、その恐怖を克服すべく死と正面から向き合い、残

された生を精一杯生きようとする人もまた少なくありません。

 

そのちがいは何から生まれてくるのか。その差は「本能にあり」――という想いを、

私はたくさんの死を看取った経験から強く抱いています。生きるために本能の力が欠

かせないように、死ぬのにも本能の働きが必要なのです。

 

したがって、本能の力を十分に活性化し、その働きを上手に統御すること。それを

可能にした人こそが健やかで充実した生と、おだやかでやすらかな死をわがものにで

きる。

 

一度きりの人生を「よく生き、よく死ぬ」ためには、何より本能の働きが必要不可

欠なのです。

生まれつき備わっている生命維持の本能

〔反射〕

 

本能というと、「生まれつきもっている性質や能力」と狭義に考えられがちです。

 

また、「女性には生まれつき母性本能が備わっている」とか「男性が女性を求める

のは性的本能にもとづく自然な行為だ」などと、意思の力ではコントロールしにくい

身体的な欲求やあからさまにしないほうがいい欲望。そんな意味で本能という言葉が

使われることもあります。

 

むろん、それはそれでまちがいではないのですが、前にもふれたように「本能」は

けっして親から受け継いだDNAによってのみ決定されるものではなく、後天的な環

境や習慣、経験によってもつくられるもの。その二つが相互に作用しながら形成され

体の中の「トカゲ」が私たちを生かしている

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プロローグ

第1章

本能の力で病気知らずの体をつくる

ていくものです。

 

人間の本能は以下の三つの要素からなっています。もしくは、先にかかげたような

多くの本能はつぎの三つのレベル(階層)に大別されます。

 

① 

反射

 

② 

習性

 

③ 

知性(理性)

 

順に、説明をしていきましょう。

 

まず、「反射」は体に生まれつき備わっている機能や能力のことをいいます。たと

えば、膝の下を叩た

くと下肢がポンと跳ね上がりますが、そうした外界からの刺激に対

して無意識に起こる身体的な反応のことです。

 

沸騰した湯に指がふれてしまったときなども、「ヤケドの恐れがある。すぐに手を

引っ込めよ」という脳の指令を待つまでもなく、私たちは「熱い!」と知覚した瞬間、

とっさに手を引っ込めて危機を回避しようとします。

 

心臓も「動かそう」と意識しないでも勝手に動いていますし、興奮したり、緊張し

たりすれば、その鼓動がドキドキ早まったりする。

 

あるいは、膀ぼう

胱こう

におしっこが溜た

まったときには、それが尿意として脳に伝わり、脳

が排尿中枢を通じて尿道の括約筋をゆるめ、自動的に排尿をうながす。

 

このような自然の、無意識で不随意な反応や運動が反射です。それは私たちに先天

的に与えられている能力であり、生まれつきの本能であるといえます。

 

反射は人間よりも下等と考えられる多くの動物にも備わっているため、レベルでい

えば低次本能に分類され、脳の中の「脳幹」と呼ばれる部分がおもにその働きをつか

さどっています。

 

脳幹はトカゲにもあることから「トカゲ脳」とも呼ばれる原始的な脳ですが、だか

らといって、その働きを見下したり、見くびってもいいということにはなりません。

それどころか、脳幹は心拍や呼吸、血液の循環や体温の調節など、生命を維持するた

めの根幹の働きを担っている器官です。したがって、このトカゲ脳の機能が衰えたり、

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プロローグ

第1章

本能の力で病気知らずの体をつくる

ストップしてしまえば、私たちはそもそも呼吸もできないし、心臓も止まってしまう

ことになります。生きていくためにはこのトカゲの部分が必要なのです。

 

トカゲ脳という原始的な脳を正常に作動させたり、活性化しないことには、生命活

動そのものがあやうくなってしまうのです。むろん、その脳幹の指令によって動いて

いる反射本能も衰えて、私たちが元気に暮らすことも不可能になってしまいます。

 

つまり、反射という低次本能をしっかり満たすこと、きちんと働かせることこそが

健康や長生きに欠かせない土台となるわけです。

 

たとえば、胃の中に食べものが入ると大腸が動き出す胃大腸反射というものがあり

ますが、これは不規則な食事や食物繊維の不足した食事、必要以上の排便のがまんな

どによって衰えてしまいます。その結果、便秘になってしまい、最悪の場合はその便

秘が原因で大腸ガンになってしまうことだってあるのです。

 

動物がすべからくもっているのにはわけがあるのです。生きていくうえで必須のも

のだからこそ、反射をないがしろにしてはいけません。

習慣や環境によって変わってくる情動の本能

〔習性〕

 

二番目の「習性」ですが、これは習慣や環境などの外的要因に大きく影響される本

能といってよいでしょう。

 

習慣や環境によって人間の欲求にちがいや変化があらわれることは容易に理解でき

ると思います。たとえば、日本のようにお酒が自由に飲める社会では、仕事上がりに

引っかけるビールが無上の楽しみだという人が少なくありません。一方で、宗教上の

理由からアルコール摂取が禁じられているイスラム圏などに暮らす人びとには、「仕

事上がりにお酒が飲みたい」というような欲求はきわめて少ないはずです。

 

あるいは、出世欲や競争欲はだれの心にもあるものですが、その人が育った家庭環

境や勤めている職場の雰囲気などによってもかなり個人差が出ます。これなどは環境

がもたらす欲求のちがい、その相違といえるでしょう。

イスラム圏の人々は「仕事上がりの一杯」を飲むのか?

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第1章

本能の力で病気知らずの体をつくる

 

また、食習慣が消化や排は

泄せつ

能力に与える影響は非常に大きいものです。とくに便秘

などは生活習慣が引き起こす病気であると同時に、その生活習慣をあらためることに

よっていちじるしい回復も可能な典型的な習慣病といえます。

 

また人間には、先ほど述べたように、自分の運動能力を高めたいという欲望、すな

わち「運動本能」ともいうべきものが備わっています。これは私たちの祖先がサルか

ら猿人類へと進化する過程で二足歩行を始め、あちこちを歩き回り(有酸素運動)、

ときにはライオンに追われたり、オオカミを追いかけて全力疾走をしたり、木に登っ

たりすること(パワートレーニング)をくり返すうちに、自然に備わった本能であり

能力です。

 

むろん体の構造や機能からいって、人間が鳥のように空を飛んだり、チーターのよ

うに速く地を駆けたり、魚のように海を泳ぐことはできません。

 

しかし、その代わりに飛行機や車、船などを人間は発明してきました。その欲求の

根っこには、「自分たちもあのように高い運動能力を発揮したい」という運動本能の

働きかけがあったはずです。

 

さらに車や飛行機など、さまざまな文明を発達させたことで逆に先祖から受け継い

できた身体能力や運動本能を衰えさせてしまうことにもなり、肥満などが増えました。

 

こうした成り行きもまた、時代や社会環境の変化が人間のもつ習性という本能を強

めもすれば、弱めもすることの一つの例といえるでしょう。

高次な精神活動を担う理性としての本能

〔知性〕

 

第三の、もっとも高度な本能は「知性(理性)」です。

 

知性や理性が本能なのかという疑問は当然あるでしょう。たしかに、それら高次な

精神活動はいわゆる本能とは対極にあるものと思われています。しかし私は、その高

度な思考や行動もまた本能の範囲に含まれるものと考えています。

 

というのは、理性や知性の働きも、それより低次の習性や情動を土台にして発現し

知識欲や向上心も元をたどれば食欲や性欲に行き着く

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プロローグ

第1章

本能の力で病気知らずの体をつくる

てくるからです。

 

卑近な例をあげれば、もっと知識や教養を身につけたい、仕事のスキルを磨きたい

という知識欲や向上心などが、じつは、そうすることで「異性にもてたい」「出世し

たい」「お金を儲も

けたい」「いい生活をしたい」のであり、さらに突き詰めると食欲や

性欲といった低次欲求をベースにしているのです。

 

つまり、人間のハイレベルな思考や行動も本能と切り離されて単独に働いているの

ではなく、つねに他の本能を土台にしたり、他の本能との関連の中で発現している。

その意味で、理性や知性もまた本能の働きによるものといえます。

 

この「理性本能」をつかさどっているのは脳の大脳皮質と呼ばれる部分で、その中

でも連合野(頭頂連合野、側頭連合野、前頭連合野の三つからなる)は「人間らしい」

思考や行動を担う領域が中心的に働いています。

 

とりわけ、前頭連合野は思考、理解、創造、計画、判断、意欲といった高度な、も

っとも人間らしい精神活動を担当する「理性脳」であり、人間はあらゆる生物の中で、

この大脳皮質をいちばん発達させた高等生物なのです。

 

この「知性」は、健康だけでなく人生そのものの質を高めるために欠かすことので

きない本能です。知性の中にどんな本能が含まれるかは後ほどくわしく説明するとし

て、創造力や判断力などを高めることが、仕事や趣味、学業などにとって有利に働く

ことは容易に想像できるでしょう。つまり、「人間らしさ」のあらわれである知性を

鍛えることは、生活を豊かにしてくれるということなのです。

本能との正しいつきあい方

 

以上、人間の本能をレベル別におおざっぱに分類してみると、「反射」「習性」「知性」

の三つの階層に分けられることになりますが、このことから、人間の本能の特徴がい

くつか引き出せると思います。

 

一つは、人間の本能はそれぞれ複数の階層の複合物であるという点です。

修行僧の最終目標は本能のコントロール

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プロローグ

第1章

本能の力で病気知らずの体をつくる

 

たとえば食欲は、「お腹が空いた。空腹を満たしたい」という反射がうながす本能

が中心ですが、「とはいっても、仕事中に食事はできないし、不規則な時間に食べた

くもない」などと習性や理性が作用する部分も少なくありません。情動本能に支配さ

れている面も大きいのです。

 

また、性欲なども反射と情動の複合物のように見えて、案外、高度な思考やイメー

ジにもとづくところが大きい。したがって反射、習性、知性の三つの要素をすべて必

要とするきわめて「人間的な」本能といえましょう。

 

ほかにも、睡眠欲などは反射と習性の、競争欲や知識欲などは習性と知性の、それ

ぞれ複合的な本能にもとづく欲求といえます。

 

そしてもう一つ、人間の本能のいちばんの特徴であり、長所でもあるといえる点、

それは「上が下を支配できる」ということです。高次の本能が低次の本能をコントロ

ールできるのです。

 

私たちは心臓の鼓動を意図的に止めることはできませんが、恐怖や緊張状態にある

情動本能を「だいじょうぶ、冷静になろう」などと理性を働かせて落ち着かせること

は可能です。

 

食べたい、飲みたいという欲望や、叫びたい、怒りたいといった衝動を抑制するこ

ともできます。さまざまな欲求を理性や意思の働きによってがまんすることができま

すし、その意思や理性による統御力を後天的に鍛えることもできます。

 

つまり、本能のもつ動物性を理性的にコントロールできる。これが人間の本能のも

つ特徴なのです。

 

修行僧などは、この理性や意思によるコントロールを可能なかぎり推し進めて、煩

悩という動物的本能を消す、あるいは最小限に抑えることを目的に修行に励んでいる

わけです。

 

同じような意味で、宗教なども死や病気を恐れる原始的な本能をなんとか克服しよ

うとする理性の働きから生じてきた「文化」といえるでしょう。

 

宗教の是非は別にして、そうした本能のコントロールが私たち人間の文化や生活を

多様に、そして豊かにしてきたことはまちがいありません。本能のもっている動物性

を理性的に統御するのは人間にだけに備わった能力です。それだけに、人間の本能の

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プロローグ

第1章

本能の力で病気知らずの体をつくる

本来あるべき姿でもあります。

 

とはいっても、理性や知性などの高次本能ばかりに偏っても、文字どおり頭でっか

ちになって生命力の弱体化を招いてしまうことはくり返すまでもありません。

 

食べたい、眠りたい、セックスをしたい。こういう動物的欲求は生命エネルギーの

根源をなすものであり、健康の土台ともなる大きな力であるからです。けれども、そ

れら低次本能の暴走を許したのでは人間は〝けもの〟に近づいてしまう。

 

低次本能と高次本能はこのように、下部にとらわれると上部がおろそかになり、上

部にこだわると下部が衰えるという二律背反の関係にあります。

 

この背反を解消するためにも、私たちは本能の動物性を保ちながら、それを理性の

働きでコントロールする必要があります。

 

反射、習性、知性。この三つのレベルの階層をピラミッド型に安定させることによ

って、本能のもつ生命力を理性的に活用する――このことが私たちに健康な人生、幸

福な人生を保証してくれるのです。

 

以下は、私が医者の立場から整理してみた、機能面から見た人間の本能のおおまか

な分類です。

反射レベル

 

① 

循環本能――取り込んだ酸素(栄養)を全身に運ぼうとすること

 

② 

呼吸本能――酸素を体内に取り込もうとすること

 

③ 

睡眠本能――脳を休めようとすること

 

④ 

免疫本能――異物から体を守ろうとすること

 

⑤ 

消化吸収本能――栄養を体に満たそうとすること

 

⑥ 

排泄本能――老廃物を体外に捨てようとすること

習性レベル

 

⑦ 

運動本能――運動能力を高めようとすること

健康で長寿に不可欠な十一の本能

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プロローグ

第1章

本能の力で病気知らずの体をつくる

 

⑧ 

性本能――子孫を残そう、異性と交わろうとすること

 

⑨ 

恒常性本能――ストレスに耐えようとすること

知性レベル

 

⑩ 

理性本能――衝動を抑え、考えようとすること

 

⑪ 

創造本能――イメージし、つくり出そうとすること

 

このうち、上位の本能によって下位の本能をコントロールする、高レベルの欲求に

よって低レベルの欲望を統御するのが人間の本能がもつ特徴であり、それを可能にす

る能力も人間には備わっています。

 

したがって、本能の働きを活性化しながら、その行きすぎもみずから制すること。

そのバランスよい働きが人間には求められるのです。

 

本能の働きが鈍い人、逆に、本能のおもむくままに生きる人。そのいずれも本当の

健康や幸福を手にすることはむずかしいでしょう。

 

では、そのためにはどうしたらいいのか。日常生活の中でどんなことに気をつけ、

何を実践したら、本能の力を十二分に発揮し、それを上手にコントロールして、健や

かで充実した人生をわがものにできるのか。

 

以下、その方法について、右にあげた十一の本能の種類・レベル別に具体的に紹介

していくことにしましょう。

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