Kuroda Shozokuten Murasakino Gensui Chozan Bunko...Chozan Bunko Kuroda Shozokuten...

1
女将の知子さんがプロデュースする有職 織物の小物たち。平安の雅を暮らしに取 り入れられるアイテムとして人気を集め ています。 使調19 使調Kuroda Shozokuten ............................................... 2 63 TEL2118008「千年以上受け継がれてき た仕事に、携われることは、 幸せなことだと思います。 伝統を“変えずに守る”ため には創意工夫が必要。これ からも一家で力を合わせ て、千年先までこの技を伝 えていきたいと思います」 黒田装束店 くろ ゆき さん(中央) ちか さん(左) もと おき さん(右) 十二単や神祇装束などに使われる有職織物。平安時代から伝わるその 紋様や色合いは、なんとも華やかで雅な風情です。 装束づくりを支える道具たち。京都の老舗に特注 した針や、装束ごとに使い分けるあつらえの絹糸 など。「道具を作ってくださる職人さんあってこそ の仕事です」と敬意も忘れません。 追儺式で守護の方がまとう 袴を製作中。神官のお付き にあたる位のため、重厚な 織物ではなく麻布を使用し ているのだとか。

Transcript of Kuroda Shozokuten Murasakino Gensui Chozan Bunko...Chozan Bunko Kuroda Shozokuten...

Page 1: Kuroda Shozokuten Murasakino Gensui Chozan Bunko...Chozan Bunko Kuroda Shozokuten 紫野に咲く有平糖の桜春が来るたび愛でたい 新村国民的辞書『広辞苑』の編者

暖簾の「源水」の字はお父上、襖絵は絵の師匠である赤松 燎画伯から開店時に頂いたもの。「時を経て本領を発揮する」という師の言葉通り、真っ白だった襖が経年で色づき、見事に白鷺が浮かび上がった。

女将の知子さんがプロデュースする有職織物の小物たち。平安の雅を暮らしに取り入れられるアイテムとして人気を集めています。

出が暮らした頃のまま残る客間には、実父と交流のあった勝海舟による「美意延年」の書額も。

『広辞苑』第二版の改訂作業時のおびただしい付箋。作業の緻密さとハードさが窺えます。

 

今か今かと花の見頃を待ち遠しく思

う気持ちが桜の魅力をより増すように、

この時季だけの和菓子の花が京都の春を

いっそう味わい深くしてくれます。

 

紫野源水の「桜の有ある

平へい

糖とう

」もまた、そん

な銘品の一つ。ほんのりと桜色に輝く5枚

の花びらは奥が透けて見えるほどに薄く

透明感があり、優雅な光沢をまとう姿は

まるで繊細なガラス細工のようです。造形

の美しさを惜しみつつ、そっと口に含み軽

く歯を当てると、ペリンと硬質な音と共に

すっきりとした飴の風味が広がります。

茶席の干菓子としても愛されている品だ

けに、口中で儚はかな

く消える上品な甘みが身

上です。

 

季節ごとにさまざまな種類がある有平

糖の中でも、とりわけ人気が高いのが桜の

花。上質の白しろ

双ざら

糖とう

と水、少しの水飴を銅鍋

で煮詰めて彩色し、熱いうちに練り上げ

てから細工を施します。製法はシンプルで

すが、誰にも真似できないのがそのガラス

細工のような薄さと艶。「飴は触るほど光

沢が無くなりますのでとにかく手早く。

手の感覚が覚えている〝ええ温度〟と、一

瞬で薄く伸ばす技が大事です」とご主人

の井上

茂さんは語ります。

 

火傷を防ぐための手袋をしていてはこ

の薄さは出せないため、製造工程はすべて

素手で行います。シーズンとなる2月中旬

から4月末まで3万個あまりの桜を作る

間、指の先は常に低温火傷の状態が続く

のだとか。さらに、そばを人が通るだけで

風圧で固まってしまうほど繊細な飴の温

度管理のため、強い光を発するランプを当

てての作業──高い集中力を要するとと

もに、非常に目を酷使します。最盛期には

1日18時間も同じ姿勢で作り続けるとい

いますから、並大抵の苦労ではありませ

ん。そんな過酷さに加え、「飴ができるよ

うになるまで10〜20年はかかる」という事

情もあって、志願者は多いものの弟子はと

らず、後にも先にもこの技を持つのは井上

さんただ一人です。

 

お父上の元で修行をされていた時代か

ら作ってきた桜の有平糖は、

33歳で独立後に徐々に薄く

なり、いつしか今の姿になった

とか。「よく『この桜の品種は

何?』と尋ねられますが、自分

の中の〝昔ながらの日本の桜〟

を映したもので、特にモデルは

ないんです」。花と葉を取り

合わせて販売するためか、山

桜と言う人もいれば大島桜

だと思う人もいるそうです。

「お客様が決めてくだされば

いいですね」。井上さんが咲か

せる桜が今年もまた、多くの

人の心にそれぞれの桜の思い

出を紡いでいきます。

 

都大路に爽やかな初夏の訪れを告げる

「葵祭」では、平安装束を身にまとった行

列が都大路を練り歩き、王朝の雅を私た

ちに伝えてくれます。こうした祭礼を支

える〝裏方〟として、供ぐ

奉ぶ

する人々や神官

の装束を一手に担う「装束司」の存在が

あることをご存知でしょうか。

 

京都御苑の南側、堺町御門前にある

「黒田装束店」は、江戸時代初期より祭

事や神事で使用する装束を調進してきた

老舗。葵祭や時代祭、吉田神社の追つい

儺な

式しき

の装束のほか、神社の御内陣に納める神具

類などを手掛けています。「うちでは、装

束の製作から着付け、修理・修復、小物を

手がける職方への発注までを一貫して執

り行っています。装束司とは、祭事や神事

の衣装全般をプロデュースする職種と考

えていただくと分かりやすいですね」と語

るのは、19代目当主で装束司の黒田幸也

さん。

 

取材時は、吉田神社追儺式で着用され

る装束の仕上げ作業中。特別にあつらえ

た針を使い、ひと針ずつ丁寧に縫い上げる

様子は、まるで神事のように厳かで凛々し

くもあります。「作り手としての技術は

もちろんですが、装束司にはさまざまな

歴史的・民俗学的知識も必要なんです」

と黒田さん。装束や調度品、祭具などは

大学や研究機関の学者による時代考証

のもと、厳正な確認がなされているのだと

か。「織物の種類、色、紋様などの選択は

有ゆう

職そく

故こ

実じつに則のっとって決め、製作を進めます。

祭りの行列に参加される方や、お社やしろの神

官さんの装束についてのご相談にも応じさ

せていただいています」とも。装束の歴史

を大切に思い、本物にこだわる黒田さんの

心意気がひしひしと感じられます。

 

その一方で、さまざまな新しい取り組

みも積極的に挑戦。幸也さんは、講演会

で伝統を後世に伝える活動を行っていま

す。女将の知子さんは、紋様が持つ意味

などを披露するワークショップの開催のほ

か、有職織物を用いた小物ブランドの立

ち上げと運営を。息子の基起さんは、若

手作家らによる伝統工芸のイベントに関

わるなど、ご家族それぞれの形で伝統の

豊かさと深さを発信しておられます。

 

受け継がれてきた装束文化を忠実に守

り、生きた伝統として次代へ繋いでいく。匠

たちの思いが織り成す美しい装束は、今年

も京の四季を艶やかに彩ります。

K Y O T O H I G A S H I Y A M A K E N B U N R O K U

 

春は入学や進級の季節。真新しい辞書

を手にし、ページを開く時に漂う紙とイン

クの匂いにワクワクした──なんて思い出

をお持ちの方もおられるのではないでしょ

うか。日本に数ある辞書の中でも、ちょっ

と特別な存在といえるのが『広辞苑』。多

くの文豪が机上の友とし、第六版までで

実に1190万部以上を売り上げるこの

〝国民的辞書〟の編者、新しん

村むら

出いづる

は、明治

から昭和の激動期を生きた、近代日本を

代表する言語学者です。

 

新村

出(以下「出いづる」)は明治9年の生ま

れで、東京帝国大学(現・東京大学)を卒

業後、33歳で京都帝国大学文科大学教授

になるなど若くして日本の言語学・国語

学を牽引する地位を確立。学問的探究を

深めるとともに、その深く広い知見で『広

辞苑』編纂事業を中心的存在となって支

えました。

 

そんな出が住まいとした邸宅が「重ちょう

山ざん

文庫」として公開され、氏の偉業を今に伝

えています。

 

紫明通から細い路地を入っていったとこ

ろに門を構え

る重山文庫

を訪ねると、出の孫にあたる新村

恭やすしさん

が迎えてくださいました。

「この建物は、出と縁のあった木き

戸ど

孝たか

允よしの

旧宅をもらい受けて移築したものです。

出は48歳から享年92歳でその生涯を閉

じるまで、この家で暮らしました」と語る

恭さんは、出と二人三脚で『広辞苑』編纂

にあたった次男・猛の息子で出にとっては

末の孫。ご自身も3歳まで、この家で同居

されていたそうです。

 

玄関を入ると、まず目に入るのは、出が

探究の日々を過ごしたという書斎。そして

廊下を進むと、『広辞苑』の初版から第七

版に至るまでの全版が書棚に並ぶ一室へ。

書棚の前には往時の校正履歴が展示さ

れ、活版印刷時代に20万語もの言葉を収

録した辞書を編む困難さと情熱を感じ

取ることができます。

 

昔のままに残されている客間には、『広

辞苑』初版出版後に受章した文化勲章

を本人がスケッチしたものや、趣味で集め

た松ぼっくりのコレクション、大

ファンだった高峰秀子とのほほ

えましい交流を偲ばせる遺品

などが随所に飾られ、秀才が

併せ持つ可愛らしい一面に和

む場面も。「京都にこういう

学者がいたのだということを、

一人でも多くの方に知ってい

ただき、言葉や言語学に興味

を持ってもらえたらうれしい

ですね」。

 

そんな恭さんは、元岩波書

店の編集者。言葉と向き合い

続ける新村イズムは、後世へ確

かに受け継がれています。

Murasakino Gensui

Chozan Bunko

Kuroda Shozokuten

春が来るたび愛でたい

紫野に咲く有平糖の桜

国民的辞書『広辞苑』の編者

新村

出の旧宅を訪ねて

歴史を忠実に守り、再現する

匠の技と心が生む優美な装束

紫野源水 ..................................................

1 2 3

京都市北区北大路新町下ル

TEL

075(451)8857

銘菓「ときわ木」で知られた二条城『源水』(2018年3月に閉店)で父を師に15年修行した後、1984年に独立。「自分が作りたいお菓子で認めていただけたら嬉しい」。そんな開店時と変わらぬ思いで創作される上生菓子にも定評があります。

紫野源水 当主

上品な甘さは純度の高い白双糖だからこそ。有平糖の色ごとに鍋を変えて作る。

有平糖専用のハサミとご主人お手製の桜の花用の木の道具。棒の先端で飴を成形する。

桜の有平糖は3〜4月に予約販売。このほか春の時季には、スミレやワラビなどの可憐な草花の有平糖がお目見えします。

黒田装束店 ...............................................

1 2 3

京都市中京区丸太町通堺町東入鍵屋町63番地

TEL

075(211)8008

「千年以上受け継がれてきた仕事に、携われることは、幸せなことだと思います。伝統を“変えずに守る”ためには創意工夫が必要。これからも一家で力を合わせて、千年先までこの技を伝えていきたいと思います」

「出の父が山形から山口に転勤になる際に生まれたので、山を二つ重ねて『出』と名付けられたそうです。そんな由来から、出が雅号を『重山』としたことにちなんで、館の名前にしました。月曜と金曜に開館していますので、ぜひ気軽にお立ち寄りください」

遺愛の書斎。ここで語源や由来の探究に没頭した出は、旧仮名遣いを正式のものとしており、『広辞苑』の序文を新仮名にするようにいわれて一晩泣き明かしたのだとか。

木戸孝允邸の一部を譲り受けた建物外観。門前の石柱を目印にお訪ねください。

黒田装束店

新村出記念財団重山文庫

黒く ろ

田だ

幸ゆ き

也や

さん(中央)

   知ち か

子こ

さん(左)

基も と お き

起さん(右)

新しん むら

村 恭やすし

さん 

十二単や神祇装束などに使われる有職織物。平安時代から伝わるその紋様や色合いは、なんとも華やかで雅な風情です。

装束づくりを支える道具たち。京都の老舗に特注した針や、装束ごとに使い分けるあつらえの絹糸など。「道具を作ってくださる職人さんあってこその仕事です」と敬意も忘れません。

井い の う え

上 茂しげる

さん

平成とうふ百珍〈六十二〉

南禅寺順正 春の味わい南禅寺順正 春の味わい桜から新緑へ移ろう季節の岡崎界隈を

徒歩&十石舟でめぐる楽しみ

南禅寺順正

 サービス係

植村

美樹

うえ

むら

 み

  き

 私は地下鉄で通勤しているのですが、春から初夏の季節は蹴

上駅からお店まで歩く道中が楽しみでなりません。桜のつぼみ

がだんだんふくらんで、やがて一斉に満開を迎える様子を毎日

眺めながら歩けるこの季節が、一年で一番好きです。

 疎水べりの散策とともにお勧めなのが、舟から桜並木の眺め

を堪能できる「十石舟めぐり」。南禅寺交差点のそばの舟溜ま

りから乗舟して琵琶湖疎水を下り、夷川ダムまでの往復3km、

約25分の水上遊覧が楽しめます。ゴールデンウィークまで運行

しているので、新緑の季節も素敵です。

 桜や新緑を楽しまれた後は、ぜひ名物ゆどうふでほっこりし

にいらしてください。お待ちしております。

コツ作り方

(2人分)

1.2.3.4.5.6.7.

 京都で和食の職人

になり、40年以上が経

ちます。どんな時でも

真心を込めて最善を

尽くすことを心にお料

理を作ってきました。

 私にとって春のイメージは一面の菜の花畑。店では花や

葉のあしらいで季節感を出すことも多いのですが、家庭な

らと考えて、卵黄の黄色を生かしたあんかけ丼を作ってみ

ました。ごくさっぱりした味付けなので、刻んだ柴漬けを

たっぷりと乗せてお茶漬け感覚でいただくのがおすすめで

す。柴漬けとおとうふってとても相性がいいんですよ。

6での加熱は卵黄が半熟になる程度

にとどめるため、豆腐は水切りのつい

で温めるか常温に戻しておきます。

清水順正 おかべ家調理部

黄川田 茂き かわ だ  しげる

うららかな日和が春のおとずれを告げ、生命力に満ちた海の幸、山の幸がおもてなしのひとときを華やかに彩ります。

うららかな日和が春のおとずれを告げ、生命力に満ちた海の幸、山の幸がおもてなしのひとときを華やかに彩ります。

【蒸物】香ばしく唐揚げにした油目を浅利、プチトマト、タラゴンなどと一緒に酒蒸しにした油目のアクアパッツァ風。鰹と昆布の出汁に仄かに漂う白ワインとバター、香草の香りがアクセントです。

絹ごしとうふ

お揚げ(厚め)

菜の花

卵黄(量はお好みで) 

柴漬け

白味噌(味噌で代用可)

だし汁(または水)

200g

1枚

6本

2〜4個分

適宜

小さじ2

小さじ2

ABC

■Aを鍋に入れてひと煮立ちさせて、■Bの

水溶き葛を加えてとろみをつけておく。

■Cの汁でお揚げをさっと炊いて、粗熱が

取れたら一口大に切っておく。

菜の花はさっと茹でて水気を切り、一口

大に切る。柴漬けはみじん切りにする。

とうふはキッチンペーパーで包んで電子

レンジで2分ほど加熱して水切りし、木

べらで粗めに崩す。

卵黄をボウルに入れて溶きほぐし、白味

噌をだし汁(または水)でのばしたもの

を加えて混ぜる。2の揚げと4のとうふ

を加え、とうふを崩しすぎないように混

ぜる。

耐熱容器に5を入れてラップをふんわり

かけ、電子レンジで加熱する。卵黄が固

まり出したらころ合い。600Wで1分

30秒前後が目安。

丼に白ごはんを盛って6を乗せ、熱々に

した1のあんをかける。菜の花と柴漬け

をあしらって出来上がり。

とろとろ豆腐丼

とろとろ豆腐丼

360cc

8g

小さじ2

360cc

5g

だし汁

薄口醤油

みりん

葛粉(片栗粉で代用可)

だし汁

薄口醤油

みりん

 砂糖

【焼物】桜鯛の兜焼きは、お頭だけでなく、身もたっぷり召し上がっていただく趣向。木の芽を添えた皮付き焼き筍と新蓮根と共に春を満喫していただきます。

【造里】春を呼ぶサヨリ、赤貝、鳥貝と、キャビアを添えた伊勢海老、マグロ、鯛など贅沢な素材を伊万里の八角鉢に華やかに盛り込んで。

60cc

60cc

20cc

20cc

2階の書庫には、出が遺した膨大な資料の一部を保管。研究者の利用に供しています。

新村出記念財団重山文庫 ......................

1 2 3

京都市北区小山中溝町19

TEL

075(411)9100

※裏面の地図に

 マークで位置を示しています。

追儺式で守護の方がまとう袴を製作中。神官のお付きにあたる位のため、重厚な織物ではなく麻布を使用しているのだとか。