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新商品・ソリューション・サービス解説 106 富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013 IT環境運用支援サービス群(ITあんしんサービ スパックII 、IT監視運用支援サービス) IT Environment Operation Support Service Family 富士ゼロックスでは、2009年より「ITあんしんサー ビスパック」をはじめとするIT環境運用支援サービス 群の提供を開始している。本論文では、IT環境運用支 援サービス群を構成する各サービスの紹介を行うと ともに、そこで用いられている技術の解説を行う。 また、 IT環境運用支援サービス群の開発においては、 自社ではなく、パートナー企業の技術をベースにサー ビスを構築するという新たな試み(オープンイノベー ション)を行っている。オープンイノベーションを実 施するに当たり、パートナー企業を取り込んだビジネ スモデルの構築など、パートナーの技術をサービスビ ジネスとして仕立てる(サービサイジング)方法につ いても説明する。 Abstract In 2009, Fuji Xerox started to offer IT environment operation support services, such as the “IT ANSHIN (reassurance) service pack.” This report introduces the services of the IT environment operation support service family, and explains the technologies used in those services. Upon developing the IT environment operation support services, we made a new attempt to build the services based on technologies of the partner company instead of our technologies (open innovation). This report also explains the methods of building the service business by using the partner’s technologies (servicizing) to carry out open innovation, such as the method of building business models involving the partner company 執筆者 竹田 幸史(Koji Takedaソリューション・サービス開発本部 ソリューション開発部 Solution Development, Solution Service Development Group

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106 富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013

IT環境運用支援サービス群(ITあんしんサービスパックII、IT監視運用支援サービス) IT Environment Operation Support Service Family

要 旨

富士ゼロックスでは、2009年より「ITあんしんサー

ビスパック」をはじめとするIT環境運用支援サービス

群の提供を開始している。本論文では、IT環境運用支

援サービス群を構成する各サービスの紹介を行うと

ともに、そこで用いられている技術の解説を行う。

また、IT環境運用支援サービス群の開発においては、

自社ではなく、パートナー企業の技術をベースにサー

ビスを構築するという新たな試み(オープンイノベー

ション)を行っている。オープンイノベーションを実

施するに当たり、パートナー企業を取り込んだビジネ

スモデルの構築など、パートナーの技術をサービスビ

ジネスとして仕立てる(サービサイジング)方法につ

いても説明する。

Abstract

In 2009, Fuji Xerox started to offer IT environment operation support services, such as the “IT ANSHIN (reassurance) service pack.” This report introduces the services of the IT environment operation support service family, and explains the technologies used in those services.

Upon developing the IT environment operation support services, we made a new attempt to build the services based on technologies of the partner company instead of our technologies (open innovation). This report also explains the methods of building the service business by using the partner’s technologies (servicizing) to carry out open innovation, such as the method of building business models involving the partner company

執筆者 竹田 幸史(Koji Takeda) ソリューション・サービス開発本部 ソリューション開発部 (Solution Development, Solution Service Development

Group)

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IT環境運用支援サービス群(ITあんしんサービスパックII 、IT監視運用支援サービス)

富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013 107

1. 緒言

富士ゼロックスでは、2009年より「ITあん

しんサービスパック(エントリー)」の提供を、

2010年よりその後継となる「ITあんしんサー

ビスパックII(エントリー/ベーシック)」の提供

を、2011年より「ITあんしんサービスパックII

(アドバンス)」、2012年より「IT監視運用サー

ビス SaaSモデル」の提供を行ってきた。これ

らの一連のサービスは、中小企業のお客様のIT

環境に関するお困り事を解決することを目的と

した「IT環境運用支援サービス1)群」の一部とし

て位置づけられる。

本稿では、IT環境運用支援サービス群を構成

する各サービスの説明、各サービスを支える技

術の説明、および本サービスで用いているサー

ビス/ツール群の開発元であるパートナー企業

(オプティム社2))との協業に関する考察を行う。

2. IT環境運用支援サービス群の概要

IT環境運用支援サービス群は中小企業のお客

様のIT環境にまつわるお困り事を解決すること

を目的としている。そのサービスは、図1に示

すとおり、大きく、小規模のシステム管理者不

在のお客様をターゲットとしたサービスと、中

規模の小人数の兼任もしくは専任のシステム管

理者が在籍しているお客様をターゲットとした

サービスの2つに分けることができる。富士ゼ

ロックスは、システム管理者不在のお客様向け

に、ITあんしんサービスパックII(エントリー)、

および同(ベーシック)を、小人数のシステム

管理者が在籍しているお客様向けに、ITあんし

んサービスパックII(アドバンス)およびIT監視

運用サービスSaaSモデルを提供している。以

下、各サービスについて説明する。

2.1 ITあんしんサービスパック(エント

リー/ベーシック)

総務省調査3)では98.8%の企業がインター

ネット接続環境を有しており、中小企業のお客

様もその例外ではない。実際にほとんどの中小

企業のお客様で、すでにPCやプリンターなどの

IT機器を導入されており、業務の効率化を行っ

ている。一方で、従業員規模が10名以下のお客

様では、事業所内にシステム管理者が在籍して

いないことが多く、「メールが出せない」、「イン

ターネットにつがながらない」、「プリントアウ

トができない」などの障害に対処することがで

きないという問題がある。結果として、障害が

発生した場合には、その対応に時間がかかり、

かえって業務効率を悪化させてしまうケースが

ある。

従来、富士ゼロックスではこのようなお客様

のお困り事に対応するために、マルチベンダー

サービス(以下、MVS)というサービス商品を

用意してきた。MVSには、お客様からの電話に

よる要請に対し、エンジニアを現地に派遣し、

障害の切り分けなどを行うサービスが含まれる。

MVSはエンジニアが現地に赴き対応するとい

う性格上、①お客様からお電話を頂いてから実

際に対応するまでに時間がかかる、②移動時間

を含めた人件費が発生するためサービス商品の

価格が高くなる、という2つの問題があった。

ITあんしんサービスパックII(エントリー)で

は、これらの問題を解決するため、お客様から

のお困り事の入電に対し、パートナー企業が提

供するリモートデスクトップ機能を利用するこ

とで、オペレーターが、お客様のPCとデスク

トップを共有しつつ、電話にて状況の把握、障

害の切り分けを行うようにした。そして、イン

ターネットに接続できない場合や、PCがブルー

スクリーンになっている場合など、リモートで

解決できない場合には、エンジニアを派遣して、

現地で障害の切り分けを行うようにした。結果

として、お客様の了解が得られれば、入電のタ

イミングから即座に障害の切り分けに入ること

ができ、お客様の満足度を向上させることがで

ITあんしんサービスパックII(エントリー/ベーシック)

ITあんしんサービスパックII

(アドバンス)

IT監視運用サービスSaaSモデル

小規模(システム管理者不在)のお客様向け

中規模(システム管理者在り)のお客様向け

図1 IT環境運用支援サービス構成 Structure of IT environment operation support service family

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IT環境運用支援サービス群(ITあんしんサービスパックII 、IT監視運用支援サービス)

108 富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013

きている。また、ほとんどのトラブルをリモー

トで解決することができ、移動を伴う人件費を

抑制できるため、低価格のサービス商品として

仕立てることができた。

システム管理者不在のお客様向けのもう1つ

のサービスであるITあんしんサービスパックII

(ベーシック)は、ITあんしんサービスパックII

(エントリー)の障害切り分けに加えて、メー

ルソフトやMicrosoft® Officeなどのアプリ

ケーションの操作支援をリモートで行うサービ

スである。当初、障害切り分けサービスをリリー

スしたのち、お客様へのヒアリングを行ったと

ころ、障害が発生した場合の保険として認識さ

れており、障害が発生するまではその価値を実

感することができないという声があった。また、

障害とまではいかないものの、「Excel®で非表示

に し た 行 や 列 の 表 示 方 法 が 分 か ら な い 」、

「Word®やPowerPoint®で思ったように表示/

印刷を行うことができない」といった、アプリ

ケーションの操作に関する、ちょっとしたお困

り事が日常的に発生しており、そのお困り事を

自力で解消しようとして時間がとられているこ

ともわかった。これらのお困り事を解決するた

め、お問い合わせの対応範囲を障害切り分けか

ら操作支援まで広げたITあんしんサービスパッ

クII(ベーシック)というサービス商品をリリー

スした。

図2は、ITあんしんサービスパックII(エントリー

/ベーシック)のサービスの構成を表している。

2.2 ITあんしんサービスパックII(アドバ

ンス)

ITあんしんサービスパックII(エントリー/

ベーシック)は、前述のようにシステム管理者

不在のお客様をターゲットとしたサービス商品

である。そのため、ターゲットとなるお客様の

従業員規模から、ライセンスの上限を50ライセ

ンスに限定し、リリースを行った。これらの商

品をリリースしたのち、お客様へのヒアリング

を行ったところ、同様のお困り事が、さらに上

位の従業員規模の、システム管理者が在籍して

いるお客様でも発生していることがわかった。

具体的には、システム管理者がいるお客様でも、

システム管理者以外の従業員のかた(以下、エ

ンドユーザー)からの日常的な問い合わせに忙

殺され、システム管理者が本来の業務に従事で

きないケースがある。このようなケースは、お

客様の事業所が多拠点に分かれ、現地にITに詳

しい人が不在であり、システム管理者が電話の

みで支援しなければならない状況で特に発生し

ている。このようなお困り事を、ITあんしんサー

ビスパックII(エントリー/ベーシック)と同様

のサービス構成で解決できると考え、中規模の

お客様向けのサービスとして、ITあんしんサー

ビスパックII(アドバンス)のリリースを行った。

ITあんしんサービスパックII(アドバンス)は、

ITあんしんサービスパックII(エントリー/ベー

シック)に対し、サービスの仕立てとして、次

の2点の工夫を行っている。

図2 ITあんしんサービスパックの構成 Composition of IT ANSHIN(reassurance) service pack

富士ゼロックス

お客様環境

お客様

オペレーター

オペレーターツール

エンジニア

オンサイト対応依頼

オンサイトでの障害切り分け

アセット情報参照

アセット情報参照

アセット情報収集

D H C _ P

OptimalBizエージェント

診断ツールリモートサポート

クライアント

中継サーバーお客様管理サイト

D H C _ P

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IT環境運用支援サービス群(ITあんしんサービスパックII 、IT監視運用支援サービス)

富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013 109

a) 単一ライセンス料の採用

ITあんしんサービスパックII(エントリー/

ベーシック)では、拠点あたりの対象PC

数に応じてボリュームディスカントを行っ

た料金体系になっている。これに対し、IT

あんしんサービスパックII(アドバンス)で

は、複数拠点を一括で契約するケースが多

く、その場合、拠点ごとの対象PC数に応じ

て料金が変動するよりも、単純に全体のPC

数に応じて料金が決まるほうがわかりやす

いとのお客様の声に応じ、ボリュームディ

スカントを廃止し、単一ライセンス料の仕

組みを導入した。

b) お問い合わせ状況レポート機能の追加

エンドユーザーが本サービスをどの程度利

用しているのかが把握することができず、

効果を認識できない(特に拠点が分かれて

いる場合)というシステム管理者からのご

指摘に対し、各拠点のお問い合わせ状況を

レポートする機能を追加した。

サービスの構成は、ITあんしんサービスパッ

クII(エントリー/ベーシック)と同様である。

2.3 IT監視運用サービス SaaSモデル

ITあんしんサービスパックII(アドバンス)を

ご契約頂ける層のほとんどのお客様では、サー

バーや、スイッチ、インテリジェントハブなど

のネットワーク機器が導入されている。このよ

うなサーバーやネットワーク機器が故障した場

合、エンドユーザーからの「繋がらない」とい

うクレームを受けて、はじめて障害に気がつき、

そこから保守契約をしているSI会社に連絡を取

り、対応を行うというケースが想定される。こ

のような場合、障害が発生してから復旧までの

期間がどうしても長くなり、お客様の企業活動

に悪影響を与えることになる。また復旧までの

期間、システム管理者はその対応に追われ通常

の業務に支障をきたすことになる。さらにサー

バーやネットワーク機器の稼働状況をpingな

どでイベント監視する仕組みを導入されている

ケースもあるが、ネットワークの瞬断等の影響

によりイベントが発生することも多く、イベン

トに対して障害かどうかの切り分けを行う必要

があり、システム管理者の負荷を高めている。

このようなお客様のお困り事に着目し、IT監

視運用サービス SaaSモデル(以降、IT監視運

用サービス)の商品化を行った。IT監視運用サー

ビスは、次の効用をお客様に提供するサービス

である。

a) お客様のサーバー機器やネットワーク機器

のステータスを、日ごろから監視すること

で、プロアクティブな障害対応を行えるよ

うにする。

b) 富士ゼロックスのオペレーターが機器のイ

ベント監視を行い、その中から障害を抽出

し、万一障害が発生した場合には、お客様

に通知すると同時に、お客様の了解のもと、

エンジニアを現地に派遣、障害切り分けを

実施する。

本サービスも、ITあんしんサービスパック(ア

図3 IT監視運用サービスの構成

Composition of IT monitoring and fault analysis service

富士ゼロックスお客様環境

お客様

オペレーター

エンジニア

オンサイトでの障害切り分け

D H C _ P

管理サーバー監視サーバー

D H C _ P

D H C _ P

監視対象機器イベント情報

参照

イベント情報

収集

イベント情報通知/参照

機器監視

D H C _ P

オンサイト対応依頼

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IT環境運用支援サービス群(ITあんしんサービスパックII 、IT監視運用支援サービス)

110 富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013

ドバンス)と同様に、中規模のお客様をターゲッ

トとしたサービスであり、システム管理者が

サーバーやネットワーク機器の障害対応に忙殺

されることなく、本来の業務に当たることがで

きることを目的としたサービスである。サービ

スの構成を図3に示す。

3. IT環境運用支援サービスを支える

技術

2章で述べたいずれのサービスも、ツールや

サイトなどの技術的要素と、オペレーターやエ

ンジニアなどの人的要素から構成されている。

本章では、前者の技術的要素に注目して説明を

行う。

3.1 ITあんしんサービスパックII

図2に示すとおり、ITあんしんサービスパッ

クII では、OptimalBizエージェント、リモート

サポートクライアント/中継サーバー/オペレー

ターツール、診断ツール、お客様管理サイトと

いった技術的構成要素を持つ。これらはいずれ

も、オプティム社が開発したものである。以下、

順に機能の説明を行う。

3.1.1 OptimalBizエージェント

お客様のPCにインストールされるアプリ

ケーションで、後で述べるリモートサポートク

ライアント、診断ツールのランチャーとして機

能すると同時に、PCに常駐して、定期的にPC

や同一サブネットの機器情報を収集し、お客様

管理サイトへ送信する機能を持つ。OptimalBiz

エージェントが、同一サブネットに存在する機

器の情報を収集する場合、機器からのSNMPや

HTTPなどのプロトコルへの応答の結果から、

機器の種類(ルーター、プリンター、複合機な

ど)、メーカー、機種名を類推するとともに、稼

働状況を把握することができる。これらの情報

はオペレーターがサポートを行う場合に利用さ

れる。

また、あらかじめPCの管理ポリシーを定義し

ておくことで、Windows Updateやスクリー

ンセーバーのパスワードロックなどの自動設定

や、特定アプリケーションの起動抑制機能を持つ。

3.1.2 リモートサポートクライアント/中継

サーバー/オペレーターツール

富士ゼロックスのオペレーターが、サポート

を行う際、お客様のPCとオペレーターのPCと

でデスクトップを共有するためのツール群であ

る。通常、企業の場合、ファイアウォールでイ

ンバウンドの通信を制限していることが多いた

め、インターネット経由でのデスクトップの共

有が困難である。そのため、中継サーバーを経

由し、お客様およびオペレーターから中継サー

バーに対して、アウトバウンドの接続を行い、

中継サーバーにて認証し、お客様およびオペ

レーターのPCでSSL-VPNを張れるようネゴ

シエーションを行う。接続の手順は、次のとお

りである(図4)。

図4 リモートデスクトップ接続手順

Procedure of connecting remote desktop

お客様環境 富士ゼロックス

お客様 オペレーター

D H C _ P

⑦認証コードによる認証SSL-VPNのネゴシエーション

リモートサポートクライアント

中継サーバー

⑥オペレータツールが中継サーバーに認証コードを通知

②リモートサポートクライアントが中継サーバーに接続

①リモートサポートクライアント起動③認証コード表示

⑤認証コードをオペレーターツールに入力

オペレーターツール

④認証コードを電話で通知

⑧リモートデスクトップ接続

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富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013 111

1) OptimalBizエージェントよりリモートサ

ポートクライアントを起動する。

2) リモートサポートクライアントが中継サー

バーに接続を行う。

3) リモートサポートクライアントが接続用認

証コードを表示する。

4) お客様が電話で、接続用認証コードをオペ

レーターに伝える。

5) オペレーターがオペレーターツールに接続

用認証コードを入力する。

6) オペレーターツールが中継サーバーに接続

用認証コードを送信する。

7)中継サーバーが接続用認証コードで認証し、

リモートサポートクライアント、オペレー

ターツール間のSSL-VPN接続のネゴシ

エーションを行う。

8) リモートデスクトップ共有を行う。

以上の手順により、ファイアウォール越しで

も、特定ポートを解放するなどの設定変更なし

で、リモートデスクトップの共有を行うことが

できる。また、リモートデスクトップ接続には

お客様側に表示される接続用認証コードが必要

なため、お客様の了解なしにはリモートデスク

トップ接続できないというセキュリティー上の

担保もされている。

3.1.3 診断ツール

お客様が障害切り分けの依頼を行う場合、障

害の内容を正確に伝えることができないケース

がある。そのような場合、障害の内容を正確に

伝えられないことに対し、お客様がストレスを

感じたり、オペレーターが障害の内容を誤解し

て、解決までの時間がかかったりすることでお

客様の期待に添えなくなる。そのような問題を

回避するために、該当のPCやネットワークの状

況の情報を自動的に収集する診断ツールを用意

した。診断ツールは、NICの情報、上位ルーター

までの通信可否、インターネットへの通信可否

などの情報を収集し、結果をコード化して表示

する機能を持つ。お客様は、表示されたコード

を、電話でオペレーターに伝えることで、オペ

レーターに正確に状況を伝えることができるの

で、障害内容のインタビューを最小限ですますこ

とができ、円滑なサポートに貢献している(図5)。

実際、ネットワーク障害で、リモートデスク

トップ共有が行えない場合でも効果を発揮する

ことができるので、一次切り分けのツールとし

て有用である。

3.1.4 お客様管理サイト

OptimalBizエージェントが収集した情報は、

オペレーターが障害切り分けに利用されるほか、

お客様管理サイトにて、アセット情報としてお

客様にフィードバックされる(図6)。

3.2 IT監視運用サービス

IT監視運用サービスは、図3に示すとおり、

監視サーバーと管理サーバーの2つの技術的構

成要素を持つ。以下、順に説明を行う。

3.2.1 監視サーバー

監視サーバーは、お客様環境にすでに設置し

てある監視対象機器(サーバーやネットワーク

機器)を、ICMPやSNMPを利用してリソース

図5 診断ツール

Sample picture of the diagnosis tool

図6 お客様管理サイト アセット情報 Sample picture of the asset information on the customer's website

注:この画面表示例はオプティム社によって作成されたものを同社の許諾を得て掲載しています。 These display image samples are designed by OPTiM Corporation and permitted to be citedhere.

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112 富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013

ネット上の管理サーバーに送信する。監視サー

や稼働状況の監視を行い、その結果をインター

バーはその性格上、監視対象機器と同じお客様

のネットワーク環境に配置される。

3.2.2 管理サーバー

管理サーバーは、監視サーバーから送付され

た情報を収集、分析を行い、お客様およびオペ

レーターに対しWebサイトにて情報の提示を

行う。また、重要なイベントが発生した場合に

は、オペレーターに対しメール通知を行う。

4. パートナー企業の技術を用いた

サービス開発

4.1 パートナー企業の技術の取り込み

IT環境運用支援サービスの開発において、最

も特徴的な点は、富士ゼロックス内で開発され

た技術ではなく、他社の技術を採用している点

である。

従来であれば、富士ゼロックス内で研究開発

された技術をベースに、どのような価値をお客

様に提供できるかという視点で商品開発を行っ

てきた。Henry Chesbroughは、著書「Open

Innovation4)」の中で、このような研究・開発・

販売までを垂直統合して価値提供を行うのをク

ローズドイノベーションと呼ぶのに対し、社外

で研究開発された技術を利用して、自社の商品

として価値提供を行う、あるいはその逆に社内

で研究開発された技術を、他社の商品として価

他社の技術を

取り込む方法

富士ゼロックスの

課題

パートナー企業の

課題

企業買収を行い自社

化する 双方にとって経営インパクトが大きい

技術を持っている会

社に開発委託を行う

成果物のエンハンスが、パートナー企業なしでは困難になり、継続したサービスを行うのにリスクがある

成果物が富士ゼロッ

クスの資産になり、成

果物の再利用がやり

にくい

知的財産権を購入し

自社開発を行う

自社技術として吸収

する時間や、開発コ

ストが追加でかかる

提供価値が限定的に

なりやすい

値提供を行うことをオープンイノベーションと

呼んでいる。

今回のIT環境運用サービス群の商品化に当

たっては、先に解決したいお客様のお困り事が

あり、それに対応する技術が社内になかったた

め、パートナー企業の技術を採用するという判

断を行った。パートナー企業の技術を利用して

価値提供を行うには、技術を持っている会社に

対し、表1に示す方法を行うことが考えられる。

今回の場合、パートナー企業と協議をした結

果、表1のいずれの方法でも課題があることか

が分かった。そこで、パートナー企業を、単な

る技術提供を行う会社から、富士ゼロックスが

お客様に対して、IT環境運用支援サービス群を

提供するために必要なインフラを提供する会社

つまり、富士ゼロックスがIT環境運用支援サー

ビスを提供するために必要なお客様のIT環境情

報の収集管理や、サポートに必要な機能(リモー

トサポートなど)の提供を行う会社として、バ

リューチェーンに組み込むこととした(図7)。

表1 他社技術を取り込む方法 Methods of bringing in the partner company's technology

図7 パートナー企業を含むバリューチェーン Value chain including the partner company

パートナー企業(オプティム社)

お客様

富士ゼロックス

価値(リモートサポート/常時監視/オンサイト障害切り分け)の提供

対価

サポートに必要な情報・ツールの提供

対価

ツールの無償提供

情報収集管理

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富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013 113

結果として、富士ゼロックスとしては、情報

の収集管理やツール類、サーバーのメンテナン

スに係るコストをアウトソーシングすることで、

運用コストを抑えることができるとともに、

パートナー企業にとっては、自社が得意とする

エリアを広げ、富士ゼロックスへの提供価値を

高めつつ、同様の機能を別の会社に適用するこ

とで市場を拡大することができるメリットがあ

るという、双方にとってWin-Winの関係を築く

ことができた。

4.2 サービサイジング

Henry Chesbroughは、「Open Innovation」

の中で、優良な技術を保有していてもビジネス

が成功するわけではないこと、成功のためには

技術にあったビジネスモデルが必要であること

を主張している。ビジネスモデルを構築するに

は、対象となる市場、その市場のお客様が持っ

ている課題、その課題を解決するための他社と

差別化できる手段(自社の強み)、その手段をお

客様に届けるバリューチェーンと、対価を回収

する仕組みを明確にする必要がある。IT環境運

用支援サービスの開発の当初から、ターゲット

市場を中小企業のお客様に設定し、そこでのIT

機器にまつわる課題を解決することを目的とし

てきた。その課題を解決するための富士ゼロッ

クスの強みとして、完成されたヘルプデスク機

能(電話受付)と、全国のオンサイト体制の2

つを軸足に、サービスの構成の検討を行った。

その後、狙いとするサービスを成立させるため

のミッシングピースを埋めるものとして、他社

技術の採用を行った。

サービスの構成要素が揃ったあとは、それら

の技術や業務を組み合わせ、価値提供を行うた

めのバリューチェーンと、対価の回収、分配の

仕組みを構築し、サービス商品として仕立てる

ことを行った。我々は、この過程をサービサイ

ジングと呼んでいる。

サービサイジングを大きく捉えると図7に示

すバリューチェーンを構築することであるが、

バリューチェーンだけではビジネスは成立しな

い。サービサイジングの過程では、バリュー

チェーンの要素間でデータの受け渡しがある場

合、フォーマットや手順をどうするか(インター

フェイス定義)、バリューチェーンの要素で障害

が発生した場合の対応をどのように行うか(エ

スカレーション体制)などを細かく関係者間で

合意を取り、決めていくという、いわゆる「す

り合わせ」を行う。バリューチェーンの要素を

すべて新規に構築する場合には、「すり合わせ」

の幅にも余裕があるが、多くの場合、既存の要

素(システムや組織)をそのまま流用すること

になるので、新規に追加される要素は、既存の

要素の制約を受けることになる。

パートナー企業をバリューチェーンに組み込

むには、パートナー企業がそもそも「すり合わ

せ」に応じる姿勢を持っていること、パートナー

企業が保有する技術が、バリューチェーンの他

の要素の制約を受け入れることができるアーキ

テクチャーであることが重要であり、パート

ナー企業の技術選択の1つの基準になる。一方

で、今回のパートナー企業との関係は、開発委

託受託の関係ではないため、「すり合わせ」の過

程においては、富士ゼロックス固有の事情を

パートナー企業に押し付けることがないように

留意した。

実際に、パートナー企業の関係者を含め、受

注からサービス提供開始までの流れ、入電から

お客様へのサポートまでの流れ、障害発生から

復旧までの流れなど、業務フォローを定義し、

それが効率的に流れるかを検証することが、IT

環境運用支援サービスの主な開発内容であった。

4.3 品質の担保

社外の技術を取り込む際の課題の1つに、そ

の技術の品質をどのように担保するかというこ

とがある。特に、パートナー企業が提供するサー

ビスの品質が、富士ゼロックスがお客様に提供

するサービスの品質に大きく影響する場合には、

重要な課題となる。この課題を解決するために、

パートナー企業で検証済みの技術を、受け入れ

検査と称し、再度、富士ゼロックスの基準に則

して検証を行った。結果として、追加でいくつ

かの不具合を発見し、品質の向上を行うことが

できた。受け入れ検査の富士ゼロクス側の副次

的効果として、検査を通じてパートナー企業の

技術をより深く理解することができた。特に仕

様として明記されていない点の挙動を確認する

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IT環境運用支援サービス群(ITあんしんサービスパックII 、IT監視運用支援サービス)

114 富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013

ことができたことは有用であり、その挙動が

サービスの品質に影響する場合には、仕様とし

て記載してもらうこともあった。パートナー企

業側の副次的効果として、他社(富士ゼロック

ス)の検証方法を学ぶことによる検証能力の向

上や、ドキュメンテーション品質の向上など、

受け入れ検査は、双方にとってメリットのある

結果となった。

また、受け入れ検査以外にも、前節で述べた

業務フローが効率的に流れるかというという視

点での検証も行っており、社内で開発された技

術を用いる場合と同様に品質の担保を行うこと

ができた。

5. 結び

IT環境運用支援サービス群は、お客様のIT機

器に関するお困り事に真正面から取り組んだ

サービス商品であり、市場からも十分な反応を

得ることができるサービス商品となっている。

その要因としては、富士ゼロックスのヘルプデ

スク機能や全国のオンサイト体制といった自社

の強みを活かしたサービスとして仕立てたこと、

パートナーの技術を積極的に取り入れ、パート

ナーとWin-Winの関係を築けたことがあると

考える。

今後も、この領域のサービスの拡充に尽力し

ていきたい。

6. 商標について

Windows®, Microsoft® Office, Word®,

Excel®, PowerPoint® は 、 Microsoft

Corporationの米国およびその他の国にお

ける登録商標または商標です。

OptimalBizは株式会社オプティムの登録商

標です。

その他、掲載されている会社名、製品名は、

各社の登録商標または商標です。

7. 参考文献

1) http://www.fujixerox.co.jp/solution/

mvs/it_environment/ [IT環境運用支援

サービス(富士ゼロックス)]

2) http://www.optim.co.jp/

3) http://www.soumu.go.jp/johotsusint

okei/statistics/data/120530_1.pdf

[平成2年通信利用動向調査の結果(総務

省)]

4) Henry Chesbrough著, 大前 恵一朗 翻

訳, “OPEN INNOVATION バーバード流

イノベーション戦略のすべて”, 産能大出

版部, (2004).

筆者紹介

竹田 幸史 ソリューション・サービス開発本部 ソリューション開発部に所属

専門分野:情報セキュリティー