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(ショートレポート)車載 HMI の特許出願動向調査 p. 1 (ショートレポート)車載 HMI の特許出願動向調査 2020 6 アズテック株式会社 調査事業部 山下、静野 1. 調査背景 自動車業界は、CASEConnectivity:接続性, Autonomous:自動運転, Shared & Services:シェアリ ングサービス, Electric:電動化)という技術領域による変革の時代を迎える中で、ドライバーや乗員の車 内での過ごし方にも変化が求められている。自動運転環境下では、ドライバーは運転操作から解放され、 そのほかの乗員とともにもっと車内で快適に過ごしたいと願うだろう。そのため、クルマと人を繋ぐ車載 HMI Human Machine Interface)の重要性はますます高まってきている。そこで、特許出願の面から、 車載 HMI への注目度がどう変化しているのかを調査した。 2. 技術概要 クルマと人との間で情報のやり取りを行うための装置やソフトウェアである車載 HMI を対象技術とす る。車載 HMI には、目的地を入力するナビゲーションシステムや、従来インストゥルメントパネル上に て表示していた計器類をフロントガラス等に投影するヘッドアップディスプレイ(HUD)などがある。 HUD には、フロントガラスに情報を投影するフロントガラス投影式と、「コンバイナー」と呼ばれる小 型で半透明の板状部材に投影するコンバイナー式が主流となっている。 コンバイナー式 フロントガラス投影式 (マツダ ウェブサイト 1 より)

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(ショートレポート)車載 HMI の特許出願動向調査

p. 1

(ショートレポート)車載 HMIの特許出願動向調査

2020年 6月

アズテック株式会社

調査事業部 山下、静野

1. 調査背景 自動車業界は、CASE(Connectivity:接続性, Autonomous:自動運転, Shared & Services:シェアリ

ングサービス, Electric:電動化)という技術領域による変革の時代を迎える中で、ドライバーや乗員の車

内での過ごし方にも変化が求められている。自動運転環境下では、ドライバーは運転操作から解放され、

そのほかの乗員とともにもっと車内で快適に過ごしたいと願うだろう。そのため、クルマと人を繋ぐ車載

HMI(Human Machine Interface)の重要性はますます高まってきている。そこで、特許出願の面から、

車載 HMIへの注目度がどう変化しているのかを調査した。

2. 技術概要 クルマと人との間で情報のやり取りを行うための装置やソフトウェアである車載 HMIを対象技術とす

る。車載 HMIには、目的地を入力するナビゲーションシステムや、従来インストゥルメントパネル上に

て表示していた計器類をフロントガラス等に投影するヘッドアップディスプレイ(HUD)などがある。

HUDには、フロントガラスに情報を投影するフロントガラス投影式と、「コンバイナー」と呼ばれる小

型で半透明の板状部材に投影するコンバイナー式が主流となっている。

[ コンバイナー式 ]

[ フロントガラス投影式 ]

(マツダ ウェブサイト※1より)

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3. 調査戦略(概要) 本調査では以下のような調査戦略の下、特許母集団を作成した。

・国内の動向を主として把握する目的として、日本国出願のみを対象とする。

・直近約 10年間の、2010年 1月 1日以降の出願を対象とする。(検索は 2020年 5月時点)

・集団①:車載 HMI の集団を作成する。HMI を広く捉えた FI である G06F3/00 を適用範囲とした、

「自動車/車載機器を制御対象とする UI」の技術観点で付与される F ターム 5E555-BA23 を使用す

る。

・集団②:車載 HMI として代表的な HUD にフォーカスした集団を作成する。車両に用いる HUD の

FIである B60K 35/00@Aが付与された出願を使用する。

上記 2つの集団(集団①と集団②)を合算し、3274件を母集団とした。

<使用特許分類>

5E555-BA23 ・自動車,車載機器 < ユーザが UIで操作/制御する対象 < ユーザインターフェイス

(対応 FI:G06F3/00 計算機で処理しうる形式にデータを変換するための入力装

置;処理ユニットから出力ユニットへデータを転送するための出力装置,例.イン

タフェース装置)

B60K 35/00@A ヘツドアツプ < 計器の配置または適用 < 車両用計装または計器板

4. 出願動向

4-1 全体出願動向

車載 HMIおよび HUDの特許出願件数は、2012年以降増加傾向にあり、メルセデスによる”CASE”の

発表があった 2016年の翌年 2017年にはピークを迎えている(図 1)。

なお、2018~2019 年の出願件数は、出願公開されていない出願も存在するため、未確定とする(以

下同様)。

【図 1】

198 172270

357

480 437 437514

385

240

200

400

600

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019

特許出願件数

出願年

車載HMIおよびHUDの特許出願件数未確定

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次に、母集団全体の出願人を出願件数でランキング付けし、車載 HMIに注力している企業を分析した

(図 2)。

【図 2】

出願人ランキングの上位 30位を見ると、デンソー、日本精機、トヨタ自動車といった自動車サプライ

ヤ/OEMが上位を独占している。その中でも、パナソニックが 10位に位置しており、異業種としては多

くの特許出願を行っていると言えよう。

パナソニックは HUDを 2019年モデルの日産スカイラインに供給しており※2、車載 HMIに対して注

力している様子がうかがえる。

ここで、上位 3出願人とパナソニックの出願推移を比較する(図 3)。

457287

183182

164148

139131

119112112

9681

62544741373636333332323030232220171712

0 100 200 300 400 500

デンソー日本精機

トヨタ自動車東海理化電機製作所

矢崎総業三菱電機アルパインパイオニア

本田技研工業アイシン・エィ・ダブリュ

パナソニックデンソーテン(富士通テン含む)

JVCケンウッドクラリオン

マレリ(カルソニックカンセイ含む)マクセルマツダ

日産自動車ユピテルリコー

ビステオングローバルテクノロジーズ三菱自動車工業アルプスアルパイン

京セラSUBARU

イマージョンコーポレーションダヴ

ヴァレオ富士フイルムSOKEN

ソニーサン-ゴバングラスフランス

12

34

56

78

910

1012

1314

1516

1718

1919

2121

2323

2525

2728

2930

30

出願件数

出願人

出願人ランキング(上位30位)

順位

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【図 3】

デンソーは 2010年から他社より多くの出願を行っており、車載 HMIに最も注力しているとみられる。

2014年のピークまで増加傾向にあり、その後も 40~60件/年程度の出願を行っている。

一方、日本精機、トヨタ自動車、パナソニックらも 2010年以降増加傾向にあるが、すでにピークを迎

えたと考えられるデンソーとは多少動向が異なる。異業種のパナソニックは 2015~2016年に多くの出

願を行っており、直近での車載 HMIへの本格参入の様子が見られる。

4-2 パナソニック出願動向

4-2-1 出願推移

異業種としては多くの車載 HMIに関する出願を行っているパナソニックの動向を分析した(図 4)。特

に増加し始めた 2014 年以降にフォーカスを当てて見てみると、2015~2016 年に大きく増加している

が、2017年以降は少し停滞している可能性がある。

【図 4】

36 24 47 54 82 44 61 61 44 4

7 13 13 23 31 42 37 56 65

15 13 8 17 21 16 25 29 39

7 7 5 10 14 22 24 12 11

デンソー

日本精機

トヨタ自動車

パナソニック

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

2017

2018

2019

未確定

出願年

14

2224

12 11

00

5

10

15

20

25

30

2014 2015 2016 2017 2018 2019

特許出願件数

出願年

未確定

パナソニック 車載HMIおよびHUDの特許出願件数

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2017 年以降は出願数が停滞しているものの、2019 年に「VR シミュレーター」が発表されているこ

とから、今後は本シミュレーターを活用することにより、車室内全体に関与する車載 HMIの開発を推進

していくと推察される。

【 VRシミュレーター 】

パナソニックは車載 HMI を仮想空間で検証する VR(Virtual Reality)シミュレーターを開発し

2019年に発表※3、2020年 1月 20日に報道陣に公開した。使い勝手の確認を迅速に行うことがで

き、開発工数の削減が期待できる。※4

また、パナソニックの HUDに関する出願を見ると、簡易的なコンバイナー式ではなく、表示の自由度

が高いフロントガラス投影式に関する出願が多く見られた。

[ コンバイナー式 ]

(例)特願 2019-128559

[ フロントガラス投影式 ]

(例)特願 2018-138064

パナソニックはフロントガラス投影式に注力していると考えられる。こちらの方式のほうが価格の高

い車両に訴求されるような機能を有していることから、日本車だけでなく欧州車などへの適応も視野に

開発をしているとも推察される。

4-2-2 共同出願

パナソニックの出願のうち、共同出願されたものが 2 件見られた。1 件はトヨタ自動車と、もう 1 件

はマツダとの出願であり、自動車 OEMと車載 HMIを共同開発していることがわかる。

今般発表された「VRシミュレーター」は、車載 HMIの開発費を削減できること※4をアピールしてい

る。そのため、パナソニックの「VRシミュレーター」を活用し、その他の自動車 OEMとの共同開発も

加速していく可能性がある。

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5. 注目特許 出願人ランキングで首位のデンソー、自動車 OEMで最上位のトヨタ自動車、そして今回注目した異業

種出願人のパナソニックの HUDに関する出願を、各1件ずつ取り上げる。

○デンソーの出願は、虚像の視認性向上や輝度ムラ抑制など、画像の表示制御(投影制御)の出願が多く

見られる。その中で、車両状態に従って運転者の視界が確保される方向に映像情報の表示位置を移動させ

る出願を紹介する。

特許第 6369106号 【出願日】 2014/4/16

【発明の名称】 ヘッドアップディスプレイ装置 【出願人】 株式会社デンソー

表示制御装置は、車両状態に従って車両の運転者の視界が確保される方向に、映像情報の表示位置を

移動させるように光学ユニットを制御するので、車両状態に適した表示位置に映像情報を表示するこ

とができる。また、車両状態に従って車両の運転者の視界が確保される方向に、映像情報の表示位置を

移動させるように光学ユニットを制御するので、車両状態に適した表示位置に映像情報を表示するこ

とができる。

公報リンク(J-PlatPat):

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6369106/ 887357FBFAF32EDCBB8185B08DB4AB89C8DAEE40FAA6631E6B7CE7D211B09C1B/15/ja

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○トヨタ自動車の出願は、運転者の違和感低減や適切な注意喚起など、ドライバビリティ向上を狙う出願

が多く見られる。その中で、奥行き感の演出や表示画像の変化によって物体までの正しい距離の認識の補

助が可能な出願を紹介する。

特許第 6617610号 【出願日】 2016/3/2

【発明の名称】 車両用表示装置 【出願人】 トヨタ自動

車株式会社

表示画像の示す色が消失点方向に移るに連れて濃くなる。そのため、物体の存在を運転者が認識する

ことを補助することができ、また、消失点方向における奥行き感、ひいては、物体までの距離を正しく

把握させる感覚を、表示画像において高めることが可能にもなる。そのうえ、表示画像における輝度、

および、透明度の少なくとも1つが、物体と車両との距離の変化に応じて変わるため、物体と車両との

距離が変化していることを運転者が認識することを、表示画像の変化によって補助することが可能と

もなる。

公報リンク(J-PlatPat):

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6617610/ 41342C3CFE788E6C330C85491E98682773505F9596912CFCB02DA95490536456/15/ja

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○パナソニックの出願は、虚像の制御や運転者の注意喚起など、デンソーやトヨタ自動車の出願と似た傾

向の出願も見られたが、他の車載機器との相互関係を意識した上記2社とは違う視点の出願が見られる。

今般発表された「VRシミュレーター」を活用できるような発明と言えよう。運転者が前方から視線をそ

らした状態において、視覚的に運転支援することができる出願を紹介する。

特願 2017-116225 【出願日】 2017/6/13

【発明の名称】 表示システム、表示方法 【出願人】 パ

ナソニック IPマネジメント株式会社

センタコンソール近辺で探し物をしており、センタコンソール近辺を凝視している状態では、フロン

トガラス越しに見える実際の信号機は視野に入っておらず、運転者は実際の信号機の変化に気づかな

い。しかしながら、ステアリングホイールの近傍に表示された赤信号の信号機ピクトは視野に入って

おり、信号機ピクトの変化には気づき、視覚的に運転支援することができる。

公報リンク(J-PlatPat):

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2019-001250 /CC081E736A28AFDE37A58A7E19C3811324C3C45043A51D575E021FFED0D1FF21/11/ja

6. まとめ 各社、CASE 時代を見据えて車載 HMI の開発に注力している。2016 年のメルセデスによる CASE

概念発表後、HUDとその他車載 HMIの出願件数は増加しており、CASE時代到来により HMIの発

展が望まれていると考えられる。

従来の自動車サプライヤ/OEMに加え、パナソニックのような異業種の参入が見られ始めている。

パナソニックはすでに自動車 OEMとの共同開発を進めている。今後さらに自動車 OEMとの共同開

発を加速させていく可能性がある。

パナソニックは高付加価値製品としてフロントガラス投影式 HUDの開発を進めるとともに、VRシ

ミュレーターによる R&D費低減ソリューションの提供を進めている。

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7. 参考記事 ※1:マツダ オフィシャルウェブサイト https://www.mazda.co.jp/

※2:MONOist https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1911/27/news059_2.html

※3:パナソニック プレスリリース

https://news.panasonic.com/jp/press/data/2019/10/jn191023-1/jn191023-1.html

※4:日経クロステック https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/03507/

以上

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【 本レポートに関するお問い合わせ先 】

アズテック株式会社 営業部 [ E メール ] [email protected] [ 電話 ] 03-3639-6718