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1-7-4-1 7.4 固体高分子形燃料電池セパレータ量産化技術開発(住友金属工業(株)) (1)本事業の目標 固体高分子形燃料電池の実用化に向け、電池を構成する部材の性能向上と低コスト化の取り 組みが精力的に進められている。中でもセパレータはその役割、占める体積、コストのいずれ の点でも電池本体に占める比率が高い重要な部材である。 本事業は、小型軽量化と低コスト化の点で従来技術を凌駕することが期待されるステンレス 製セパレータに関し、素材であるステンレス材料の工業的量産技術を確立し、更に素材をセパ レータに加工するための低コスト量産方法を選定するとともに、本セパレータを電池に適用し た際の長期耐久性が十分であることを明らかにすることを目標とする。 (ア)従来技術の問題点 固体高分子形燃料電池本体セパレータには、通常は高温焼成を繰り返した高密度カーボン を切削加工したものか、微細なグラファイト粉に導電性有機樹脂分を加えて射出成形した後 にこれを高温焼成したものが用いられている。実用化の観点から、最近では射出成形タイプ が主流になると考えられている。しかしながら、グラファイト製セパレータは射出より焼成 までに長時間を要することから、自動車搭載用途の如く大量の需要に対応しようとすると膨 大な数の設備が必要となる。また、耐衝撃性や圧壊強度、薄肉化や大面積化に限界があると 予想され、さらに、製造時の割れによる歩留り低下や自動車搭載時の振動による不具合を招 く恐れもある。有機樹脂分を増やして材料特性や形状精度、不均一性の改善、射出成形の生 産性を高める試みもなされているが、電気伝導性を損なう問題が生じる。射出成形時に生じ たバリ除去作業も手作業に頼らざるを得ないと判断され、解決すべき大きな製造技術課題と 推察される。 一方、金属セパレータの適用を検討する動きも盛んである。金属としては、チタンやアル ミニウムなど種々の可能性が検討されているが、実用化の観点からステンレス鋼が最も有力 な候補と考えられている。セパレータにステンレス鋼を適用しようとした場合の問題点は、 表面に生成するステンレス鋼特有の不動態皮膜による接触抵抗増加と、電池内腐食により溶 出する金属イオンによる電解質膜性能劣化が指摘されている。これを解決する手法として従 来は金めっき処理が採用されている。実験室的な少量試作段階では高価な金めっき処理も適 用可能であるが、巨大市場を想定する将来の本格的量産段階での適用では、限られた貴金属 資源問題、コスト、リサイクル処理費を考慮すると、非常に難しいと判断される。 (イ)弊社提案材の特徴と利点 弊社が提案するステンレス鋼(以下、“提案材”と呼称する)は、鋼中に微細分散し、不動 態皮膜を貫通して表面に露出する導電性の金属介在物を“電気の通り道”として活用するこ とで接触抵抗の低減を図り、かつ鋼中成分の調整により耐食性問題を解決しようとする点に 特徴がある。図7.4.1に、提案材の性能改善機構の模式図を示し、図7.4.2に多数の 導電性金属介在物が分散し、表面に露出している状況を示すSEM像を示す。 性能の一端を、図7.4.3に具体的に例示する。従来のSUS304鋼および提案材のカ ーボンシートに対する接触抵抗を示している。従来のSUS304鋼では、酸洗後20時間も すれば表面に生成するステンレス鋼特有の不動態皮膜による接触抵抗増加によって、付加応 力 11.5 kgf/cm で 100 mΩ・cm 2 程度にまで上昇するが、提案材では、11.5 mΩ・c

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7.4 固体高分子形燃料電池セパレータ量産化技術開発(住友金属工業(株)) (1)本事業の目標 固体高分子形燃料電池の実用化に向け、電池を構成する部材の性能向上と低コスト化の取り

組みが精力的に進められている。中でもセパレータはその役割、占める体積、コストのいずれ

の点でも電池本体に占める比率が高い重要な部材である。

本事業は、小型軽量化と低コスト化の点で従来技術を凌駕することが期待されるステンレス

製セパレータに関し、素材であるステンレス材料の工業的量産技術を確立し、更に素材をセパ

レータに加工するための低コスト量産方法を選定するとともに、本セパレータを電池に適用し

た際の長期耐久性が十分であることを明らかにすることを目標とする。

(ア)従来技術の問題点

固体高分子形燃料電池本体セパレータには、通常は高温焼成を繰り返した高密度カーボン

を切削加工したものか、微細なグラファイト粉に導電性有機樹脂分を加えて射出成形した後

にこれを高温焼成したものが用いられている。実用化の観点から、最近では射出成形タイプ

が主流になると考えられている。しかしながら、グラファイト製セパレータは射出より焼成

までに長時間を要することから、自動車搭載用途の如く大量の需要に対応しようとすると膨

大な数の設備が必要となる。また、耐衝撃性や圧壊強度、薄肉化や大面積化に限界があると

予想され、さらに、製造時の割れによる歩留り低下や自動車搭載時の振動による不具合を招

く恐れもある。有機樹脂分を増やして材料特性や形状精度、不均一性の改善、射出成形の生

産性を高める試みもなされているが、電気伝導性を損なう問題が生じる。射出成形時に生じ

たバリ除去作業も手作業に頼らざるを得ないと判断され、解決すべき大きな製造技術課題と

推察される。

一方、金属セパレータの適用を検討する動きも盛んである。金属としては、チタンやアル

ミニウムなど種々の可能性が検討されているが、実用化の観点からステンレス鋼が最も有力

な候補と考えられている。セパレータにステンレス鋼を適用しようとした場合の問題点は、

表面に生成するステンレス鋼特有の不動態皮膜による接触抵抗増加と、電池内腐食により溶

出する金属イオンによる電解質膜性能劣化が指摘されている。これを解決する手法として従

来は金めっき処理が採用されている。実験室的な少量試作段階では高価な金めっき処理も適

用可能であるが、巨大市場を想定する将来の本格的量産段階での適用では、限られた貴金属

資源問題、コスト、リサイクル処理費を考慮すると、非常に難しいと判断される。

(イ)弊社提案材の特徴と利点

弊社が提案するステンレス鋼(以下、“提案材”と呼称する)は、鋼中に微細分散し、不動

態皮膜を貫通して表面に露出する導電性の金属介在物を“電気の通り道”として活用するこ

とで接触抵抗の低減を図り、かつ鋼中成分の調整により耐食性問題を解決しようとする点に

特徴がある。図7.4.1に、提案材の性能改善機構の模式図を示し、図7.4.2に多数の

導電性金属介在物が分散し、表面に露出している状況を示すSEM像を示す。

性能の一端を、図7.4.3に具体的に例示する。従来のSUS304鋼および提案材のカ

ーボンシートに対する接触抵抗を示している。従来のSUS304鋼では、酸洗後20時間も

すれば表面に生成するステンレス鋼特有の不動態皮膜による接触抵抗増加によって、付加応

力 11.5kgf/cm2で 100mΩ・cm2 程度にまで上昇するが、提案材では、11.5mΩ・c

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m2程度で安定している。SUS304でみられる挙動は、SUS316L鋼でも同様である。

一方、不動態皮膜を貫通して表面に露出する導電性の金属介在物を“電気の通り道”とし

て活用する提案材の挙動は、数百時間経過後も接触抵抗は変化せず低いままである。

(ウ)具体的な目標

提案材のセパレータへの適用可能性を見極めることは、主要部材であるセパレータの低コ

スト化と信頼性の向上を通じて、固体高分子形燃料電池の普及、促進に資するところが極め

て大きいと確信している。その実現に向け、本事業では、下記の3項目を具体的目標として

掲げ、取り組むこととした。

●高性能燃料電池セパレータ用低コストステンレス薄板材料生産技術の確立

●ステンレス製燃料電池セパレータ低コスト量産方法の確立

●燃料電池内3,000hr耐久性の確認(耐久寿命50,000hrの見通し確認)

図7.4.1 導電性金属介在物を活用した弊社提案金属セパレータ用ステンレス鋼概念図

図7.4.2 弊社提案金属セパレータ用ステンレスの表面SEM像

従来の解決策:不動態

皮膜除去と金めっき 弊社オリジナルの解決策:鋼中に析出

する金属介在物を活用

→ コスト低減、貴金属資源節約

金めっき層

ステンレス鋼:

316L

表面の不動態皮膜が接触抵

抗を高める。

下地めっき層

拡散層カーボン膜 拡散層カーボン膜 拡散層カーボン膜

ステンレス鋼が適用

困難な理由:不動態

皮膜が抵抗

ステンレス鋼:

316L

MEA:高分子膜層 MEA:高分子膜層 MEA:高分子膜層

適用困難 コスト高、めっき欠陥

不動態皮膜を突き破って

頭を出した導電性金属介

在物が無数の電気の通り道を提供→低接触抵抗

米国特許成立済み USP6,379,476

多数の導電性

金属介在物が

露出し、分散

している。

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図7.4.3 導電性析出物が表面に露出する弊社提案材*の接触抵抗低減効果一例

(*開発材の接触抵抗は、燃料電池を想定した付加応力域で通常ステンレスに比べ小さい。)

測定条件:

昭和電工製

Carbon Sheet SG-3

/SUS304

/SG3、

大気中、4端子法

測定条件:

昭和電工製

Carbon Sheet SG-3

/オーステナイト系

提案材

/Carbon Sheet SG3、

大気中、4端子法

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(2) 目標の設定理由 (ア)目標設定理由

a 高性能燃料電池セパレータ用低コストステンレス薄板材料生産技術の確立

本事業が目的とするセパレータ用ステンレス材料を合理的なコストで製造、提供するため

に必要な生産技術開発を行うものである。将来の高性能、大量、かつ安価なセパレータ用ス

テンレス材料を必要とする市場ニーズに対応するためには必須の目標と考えている。

提案材は、鋼中に溶鋼段階で導電性を付与するための添加元素を多量に添加することを特

徴としており、本受託開始以前に国内含め12か国に基本特許出願を完了していた。事業開

始後、すでに米国(USP 6,379,476)、台湾、韓国で特許登録となっている。母材素地は、N

iを多量に含有するオーステナイト系、Niをほとんど含有しないフェライト系いずれでも

成分設計可能である。オーステナイト系は成形性に優れ、フェライト系はNi溶出が基本的

に防止できる特徴があり、低価格化が期待できる。提案材はいずれの系においても、燃料電

池セパレータ用素材としての耐食性と加工性、接触抵抗が両立することを目標に成分設計し

ているが、体積分率で10%以上に達する導電性金属介在物は金属といえども延性をほとん

ど有していないため、製造は素地成分に拠らず予想もできない程度に甚だしく困難である。

これまでのステンレス鋼製造条件、ステンレス鋼板加工条件とは異なる、革新的製造法、製

造条件を見出す必要がある。

オーステナイト系提案材の開発を進めるにあたっては、固体高分子形燃料電池セパレータ

用素材としての諸性能を確保できる組成を決定し、薄板製造に必要な基礎的データを採取す

ることが必要である。小型量産設備を用いた薄板少量試作を繰り返しながら、かつ、得られ

た成果を次の試作に反映させながら、開発を推進した。900℃以下の高温領域での延性低

下は著しく、スラブあるいはコイル端面からの割れ問題が顕著であった。割れ対策は、従来

から保有しているステンレス薄板量産技術の知見を活用しつつ、ステンレス量産工程での製

造条件決定を行ない、その上で、弊社保有のステンレス量産大型設備による試作により工業

的規模での量産製造技術を確立する手法を用いた。

フェライト系提案材は、熱間での延性は比較的良好であるものの、導電性を付与するため

の添加元素多量添加により常温での靭性は著しく劣っている。実験室規模を含めて、過去に

社内外で試作はほとんど実施されていない状況にあった。小型の実験室溶解材での基礎検討

により、固体高分子形燃料電池セパレータ用素材としての諸性能を確保できる組成及び薄板

製造に必要な基礎的データを採取することとし、ステンレス薄板量産技術の知見を活用しつ

つコイル化の可否の検討を行い、ステンレス量産工程での製造条件設定が可能と判断された

時点で、弊社保有のステンレス量産大型設備による試作により工業的規模での量産製造性を

確認することとした。

b ステンレス製燃料電池セパレータ低コスト量産方法の確立

上記技術開発により得られた素材を用いてセパレータを加工する低コスト量産方法を確

立する。最も大きな市場形成が期待される自動車搭載用途を想定し、加工時間が短く、量産

性に優れる合理的な加工法を確立する。薄板材料生産技術開発と並んで、実用化の前提にな

ると判断している。

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金属セパレータのガス流路加工法として、機械切削や化学エッチング法が少量生産の段階

で用いられることが多い。量産法としての適用は、生産能率の点より困難であることは明ら

かであるが、種々の流路パターンで電池性能評価を行うなど量産性を優先する必要が無い場

合の製作方法としては有効であると判断される。提案材の燃料電池内評価用セパレータを製

作する段階で、量産方法としての可能性を検討することとした。

将来に求められる金属セパレータ量産性を考慮すると、プレス成形法が本命である。弊社

提案材の場合、硬質金属介在物が多量に分散していることから、プレスの際の素材割れ、摩

耗による金型寿命の著しい劣化が予想される。小型のモデルプレス金型を用いて、プレス成

形性と工具寿命改善のための要素研究を行うこととした。また、プレス方式により製作した

小型のセパレータを用いて、薄板を用いたセパレータの可能性を検証することとした。

フィン成形法によるセパレータ量産の可能性も検討することとした。プレート型熱交換器

で多用されているコルゲートフィン成形した波形整流板は、ガス整流効果に非常に優れてお

り、固体高分子形燃料電池のように、広い面積を有する、厚さの薄い間隙内で面内均一にガ

スを流すには好適な整流板形状が得られると考える。従来、固体高分子形燃料電池セパレー

タ形状としてコルゲートフィンはほとんど検討されていないが、単にグラファイト系素材へ

のフィン成形法適用が困難であるためと推察される。金属薄板適用の特徴が発揮できる可能

性がある。生成する水を効率的に排出するためにガスの線流速を上げる必要があるカソード

極側ではなく、ガスの線流速を必要とせず、水素ガスの消費あるいは流れの不均一さから生

じる水素ガス欠乏による腐食が問題となるアノード側への適用を前提に適用検討する。

薄板バルジ成形法によるセパレータ製造も考えられる。形状ではプレス成形法よりも良好

な結果が期待されるものの、現時点では生産性に問題がある。プレス成形法によるセパレー

タ製作が素材の割れ問題より見通しが得られない場合にのみ可能性を検討することとした。

c 燃料電池内3,000hr耐久性の確認(耐久寿命50,000hrの見通し確認)

弊社提案材製セパレータを組み込んだ固体高分子形燃料電池を長時間運転し、性能が従来

のグラファイト製セパレータと同等以上であることを確認する。

従来から、金属セパレータの弱点として、電池運転環境で溶出する金属イオンによる高分

子電解質膜および触媒の劣化の可能性が指摘されている。しかしながら、金属イオン溶出の

影響に関しては、未だ明確な結論が出ているわけではなく、特に金属セパレータを用いた長

期電池運転のデータは皆無と言える。提案材を用いた燃料電池運転性能評価を行うため、金

属セパレータ評価用燃料電池設備を4基設置し、長時間連続運転評価と短時間繰り返し運転

評価を行うこととした。耐久寿命50,000hrは、据え置き型固体高分子形燃料電池で求

められている耐久寿命の一例であるが、本事業において現実的に評価試験が可能と推定され

る3,000hr結果をもって適用可否を推定判断することとした。

また、実機燃料電池内評価とあわせて、高分子電解質膜および触媒に及ぼす金属イオンの

影響を実験室規模ビーカー試験で基礎的に検討することとした。

以上の検討により、ステンレス鋼製セパレータが十分実用に耐えることが検証されること

となる。

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(イ)開発実用化の計画

本事業の開発実用化の全体計画を、表7.4.1に示す。

a 量産試作による製造技術確立

全体計画の中間時点(2.5年目)までに、実験室レベルでの予備検討と小規模量産試作

を完了させ、工業的規模での大型試作も第一回目をほぼ終了させ、量産化に向けた問題点の

明確化を行う。

b セパレータ加工技術の開発

中間時点までに、加工法の候補を絞り込み、量産化に向けた技術として最有力であるプレ

ス成形法の課題整理と今後の取り組み方針を明確にする。

c 燃料電池内3000hr耐久性の確認

中間時点までに、電池評価設備一基(2セル試験)を導入・立ち上げ、短時間評価を開始

する体制を整備する。また、電池内模擬環境下での溶出金属イオンの高分子電解質膜への影

響評価の予備検討を終了させる。

表7.4.1 本事業開始初年度提示の全体計画

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(3) 事業全体の成果 本事業の目指すところは、固体高分子形燃料電池の高性能化と普及を早め、市場形成を促す

起爆剤になることを目指し、弊社提案の “導電性と耐食性に優れたステンレス鋼製燃料電池セ

パレータの工業的量産技術を確立”することにある。また同時に、本素材を低コストでセパレ

ータに加工する量産方法を選定するとともに、本素材製セパレータを適用した固体高分子形燃

料電池の長期耐久性が十分であることを明らかにすることにある。換言すれば、本事業の目指

すところは、弊社提案材は鋼中に析出する導電性と耐食性に優れた金属介在物を多数表面に露

出させることにより、高価な金めっき等の表面処理を施すことなく燃料電池セパレータ用とし

ての良好な表面耐食性と導電性を確保する(前出の図7.4.1参照)が、本ステンレス素材

が固体高分子形燃料電池の小型軽量化と低コスト化、量産性の点でグラファイト製セパレータ

の持つ可能性を遥かに凌駕し、将来の市場ニーズに応えることができることを立証し、当面の

市場ニーズに応えるだけの量産供給体制を確立し、固体高分子形燃料電池の高性能化と普及を

早め、市場形成に資することにある。

以下において、本事業全体の成果をまとめるが、本事業においてはオーステナイト系(Ni

を多量に含有する成分系;例えば、SUS316Lが該当)ステンレス製セパレータ開発とフ

ェライト系(Niを含有しない成分系;例えば、SUS444が該当)ステンレス製セパレー

タ開発を同時に提案し、検討している。これは、オーステナイト系提案材が厳しい要求に応え

るだけの優れた薄板成形性を有しているためであり、一方、フェライト系提案材はオーステナ

イト系提案材ほどの薄板成形性は期待できないものの、腐食に伴うNi溶出の懸念がなく、ま

た将来の低コスト要求に耐えるだけの製造コスト低減の可能性を秘めているためである。両成

分系ともに表面接触抵抗は低く、それぞれの特徴、性能を反映させながら、ステンレス製セパ

レータとして使い分けが可能と判断している。

本事業開始後これまでに、固体高分子形燃料電池セパレータとして基本性能を確保できる材

料設計と、規模に制約が残るものの、板厚 0.2mmの提案材薄板コイルの量産試作を完了して

いる。また、将来の本格的量産規模である30tonあるいは80ton規模の溶解設備を用いる

本格的ステンレス鋼量産ラインでの製造を想定した量産製造技術開発と製造条件絞り込みを開

始するに至っている。図7.4.4は、提案材の量産製造技術開発の現状の達成状況、開発中

の製造工程の位置付け、量産スケールアップの効果を示す。設置した固体高分子形燃料電池セ

パレータ評価装置では、提案材の燃料電池セパレータとしての電池内性能評価を繰り返し実施

しており、グラファイト製セパレータ相当の性能が確認されつつある。

以下において、より詳細に記述する。

(ア) 高性能燃料電池セパレータ用低コストステンレス薄板材料生産技術の確立

電池内での諸性能と並んで、工業的規模で安定した素材供給が可能であるかどうか、低価

格での提供が可能であるかどうかは、将来想定される市場規模より判断して適用のための前

提条件であり、燃料電池セパレータ用材料開発においては極めて重要と判断している。また、

品質の安定、高性能化、製造コスト低減には、大型量産工程での製造、歩留まり改善が最も

重要であり、ステンレス鋼通常量産工程かつ大規模な生産設備での確立が必要と考えている。

a オーステナイト系提案材:30ton規模溶解、インゴット造塊法による本格量産規模熱

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間圧延コイル試作、0.2mm厚冷間圧延コイル試作に成功している。薄板コイル製造は、世

界初と判断している。今後は、より量産性に優れ、製造コスト低減が可能である連続鋳造方

式適用による更なる製品性能向上、品質安定を目指す。

b フェライト系提案材:80ton規模溶解、連続鋳造方式でのスラブ造塊に成功している。

得られたスラブ8本は、室温まで冷却すると熱応力発生により 200mm厚のスラブが分断す

るような激しいスラブ内部割れを生じるため、鋳込み後にそのまま熱塊で熱延工場に搬送し、

加熱炉内で温度調整した後にコイルにまで一気に熱間圧延した。コイル姿は健全であった。

今後は、これらのコイルを展開し、0.2mm厚まで冷間圧延を行なう。フェライト系提案材

は、製造が極めて困難と予想される成分系であり、過去に製造自体試みられたことはないと

判断している。すでに数十kg規模での薄板コイル製造が完了しており、世界初の快挙と判

断している。

(イ)ステンレス製燃料電池セパレータ低コスト量産方法の確立

性能の安定したセパレータを、量産性に優れた製造法で生産できるかどうかは、本事業に

とって極めて重要である。試作を通じて、機械切削加工、化学エッチング加工、プレス成形

加工、コルゲートフィン加工による製作が可能であることを確認した。今後は、最も量産性

に優れ、低コストであるプレス成形加工による量産方法確立を最優先で検討する。打ち抜き

およびプレス金型磨耗による量産性低下、生産コスト上昇対策として、金型材質選定と金型

表面硬膜処理法選定を開始した。金型無手入れ寿命数万ショト、金型一代寿命数十万ショッ

トを目指したい。

(ウ)燃料電池内3,000hr耐久性の確認(耐久寿命50,000hrの見通し確認)

a 燃料電池発電性能評価装置内での提案材製セパレータの耐久試験

設置した燃料電池発電性能評価装置2基を用いて、提案材製セパレータの性能評価を繰り

返し実施している。フェライト系提案材製、オーステナイト系提案材製セパレータ適用燃料

電池ともに緩やかな出力低下が認められたが、切削カーボン製セパレータ適用燃料電池に近

い性能が確認された。緩やかな出力低下の原因は、比較として用いた切削カーボン製セパレ

ータ適用電池においても認められることより、生成水によるFlooding(フラッディング)の

影響、燃料ガス加湿に用いたSUS316L製補給水タンクステンレス鋼表面、ステンレス

製配管からの溶出金属イオンの影響、触媒性能劣化とも考えられた。今後は、燃料電池運転

条件の見直し、燃料ガス流路見直し、加湿配管系見直しを行なうとともに、提案材製セパレ

ータの本来の性能評価が実施できるよう対策を実施する。H14年度中には、1000時間

の性能評価を実施する計画である。

b ステンレス表面から溶出する金属イオンの影響定量化

これまでにも、高分子電解質膜や触媒が金属イオンにより汚染されると電池性能が低下す

ると指摘されている。性能の劣化挙動を定量化し、対策を検討する目的からナフィオン 117

を用い、ステンレス鋼からの溶出金属イオンを想定したCr3+、Ni2+、Fe3+、Fe2+

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イオンの高分子電解質膜性能への影響を定量的に検討した。新たな知見として、水溶液のp

Hが低下するほど高分子電解質膜の金属イオン交換率(金属イオン汚染)は低下し、交流比

抵抗の上昇が抑えられることが明らかとなった。このことより、MEA内部のpHが低下す

るほど、金属イオン汚染による性能低下は起きにくく、溶出金属イオンの影響は受けにくく

なると判断される。今後は、溶出金属イオンの触媒性能への影響検討ともあわせて、溶出金

属イオンによる高分子電解質膜汚染の燃料電池性能への影響を明らかにしつつ、対策必要性

の有無を検討する。

以上のように、通常のステンレス鋼量産製造工程での製造、また、燃料電池内での適用性評

価ともに当初の事業目標以上の成果が得られつつあり、燃料電池セパレータとしての適用目途

は得られつつあると判断している。

図7.4.4 固体高分子形燃料電池セパレータ量産化技術開発の進捗状況

工程表

製造コスト 歩留まり

[工程A]

[工程B]

[工程C]

[工程D]

低下 改善

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(4)研究開発毎の成果

(ア)高性能燃料電池セパレータ用低コストステンレス薄板材料生産技術の確立

a オーステナイト系提案材

H12年度において、実験室規模180kg真空溶解炉および小規模コイル量産ラインを用い

た試作を行なった。新規に製作した専用 180kg扁平鋳型を用いて造塊を行い、熱間鍛造、

熱間圧延、冷間圧延の工程を経て、コイル幅 320mm、板厚 0.2mmの薄板コイル製造に成

功した。0.2mm厚への最終冷間圧延の状況を図7.4.5に示す。本材料系は熱間での材

料延性不足が著しく、割れ発生が顕著である。薄板コイル製造は世界的に見ても例がないと

判断している。

H13年度はH12年度の成果を受けて、ステンレス量産規模30ton精錬炉、3.5トン

鋳型および7.5トン鋳型、ならびにH12年度に適用した小規模コイル量産ラインおよび弊

社保有ステンレス大型コイル量産ラインを使用した大型コイル量産規模試作を行なった。図

7.4.6に示すように、コイル端面割れもなく、コイル巻き姿も健全である数ton規模、

コイル幅680mmの熱延コイル製造に成功するとともに、図7.4.7に示すように数to

n規模、コイル幅650mm、板厚0.2mmの冷間圧延コイル製造に成功した。表7.4.

2に、試作コイルの各常温引張特性を示す。

H14年度は、著しい歩留まり改善が期待できる連続鋳造法適用技術の確立、安定量産製

造技術開発、工程条件の見直しによる薄板性能の改善を検討中であるが、現時点で通常のス

テンレス大型量産ラインによる商業規模での薄板コイル安定量産製造は目途が立ったと判

断している。

図7.4.5 H12年度にて試作に成功したコイ 図7.4.6 H13年度にて試作に成功したコイ

ル幅320mm、板厚0.2mmのオーステナイ ル幅680mm、単重数ton規模のオーステ

ト系提案材の最終冷間圧延状況 ナイト系提案材の熱間圧延コイル姿

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1-7-4-11

表7.4.2 オーステナイト系提案材の試作薄板コイル材常温引張り特性

符号 引張試験片 採取方向

YS [MPa]

TS [MPa]

EL [%]

エリクセン試験 JIS-Z-2247

圧延方向 333 692 21.3 45度方向 333 716 25.9

圧延直角方向 329 702 25.9

小規模 試作

平均 332 703 24.4 9.5 圧延方向 324 742 30.6 45度方向 322 731 33.8

圧延直角方向 331 750 34.4

量産 試作

平均 326 741 32.9 9.5

b フェライト系提案材

H12年度において、実験室規模 180kg真空溶解炉および小規模コイル量産ラインを用いた

試作を行なった。新規に製作した専用 180kg扁平鋳型を用いて造塊を行い、熱間鍛造、熱間

圧延、冷間圧延の工程を経て、コイル幅 230mm、板厚0.2mmの薄板コイル製造に成功した。

薄板コイル製造は世界的に見ても例がないと判断している。

本材料系の工業的規模量産を行なおうとする場合には、連続鋳造技術の確立と放冷時に発生

する大型内部割れを回避するための熱塊搬送-直接熱間圧延技術の確立が必須である。2.5to

n規模の試験連続鋳造機を用いた連続鋳造技術開発を行った後、弊社が和歌山製鉄所に保有す

る 80ton/charge規模の弊社保有ステンレス大型量産ラインを使用した大型コイル

量産規模試作を行なった。図7.4.9に示すように 7ton/本規模の健全な連続鋳造スラ

ブ製造に成功し、単重7ton規模の熱間圧延コイル製造にも成功した。コイル端面割れも皆

無である。導電性金属介在物を多量に含むフェライト系ステンレス鋼は過去に例を見ない全く

新しい成分系であり、コイルの製造は世界初と判断される。

図7. 4.7 H13年度より冷間圧延試作に 図7.4.8 板厚0.2mmに冷間圧延中の

適用したステンレス量産用冷間圧延機の外観 単重数ton規模のオーステナイト系提案材の

外観:コイル幅650mm

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1-7-4-12

表7.4.3に、先行試作検討した小規模量産ライン試作薄板コイルの各常温引張特性を示

す。表7.4.2に示したオーステナイト系提案材に比べて伸び特性がやや劣っているが、フ

ェライト系としては比較的良好である。薄板特性はさらに改善検討中であるが、材料性能を考

慮したセパレータ製造法の開発、適用が望ましいと判断される。オーステナイト系提案材と比

較して、フェライト系提案材の特性を表7.4.4に示す。

H14年度は、単重7ton熱間圧延コイルを用いた板厚0.2mmtの大単重コイル試作を実

施中である。今後は、オーステナイト系提案材の試作にて得られている安定量産製造技術開発

成果、工程条件の見直し成果を反映させて薄板性能の改善を行う。

表7.4.3 フェライト系提案材試作薄板材料の機械的特性

符号 引張試験片 採取方向

YS [MPa]

TS [MPa]

EL [%]

エリクセン試験 JIS-Z-2247

圧延方向 445 598 24.7 45度方向 471 623 23.0

圧延直角方向 469 620 25.0

小規模作

平均 462 614 24.2 8.3

表7.4.4 フェライト系、オーステナイト系材料の特性比較

フェライト系提案材 オーステナイト系提案材 ○Ni 溶出量低減可能:燃料電池内評価が必要 △:燃料電池内評価が必要 △El=23-30% (今後の量産試作通じ改善見込み) ○加工性に優れる El=35-40% ○熱伝導率高い 26 W/m℃ △劣る 16 W/m℃ ○熱膨張率小さい 12 ×10-6/ ℃ ▼劣る 18×10-6/ ℃ ○耐応力腐食割れ性優れる ▼やや劣る:燃料電池内評価が必要

図7.4.9 70ton/chrge規模のステンレス大型量産ラインにより製造した7ton連続鋳造

スラブと熱間圧延コイル(コイル幅 800mm)外観一例

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1-7-4-13

c ミクロ組織

図7.4.10、図7.4.11にオーステナイト系提案材のミクロ組織写真の一例、図7.

4.12にフェライト系提案材のミクロ組織写真の一例を示す。素地の中に存在している色調

の異なる微細分散物はすべて、導電性金属介在物である。図7.4.10に示した熱間圧延コ

イルに分散析出している導電性金属介在物に比較して、図7.4.11、図7.4.12に示

した冷間圧延コイルに分散析出している導電性金属介在物の粒径は細かくなっている。また、

オーステナイト系提案材の冷間圧延材に比べ、フェライト系提案材の導電性金属介在物はやや

大き目となっている。圧延により微細化を促進することにより、薄板製造が可能となり、薄板

成形性が確保され、冷間圧延条件ほか微細化の程度に影響を与える因子が幾つか明らかになっ

ている。

図7.4.11 オーステナイト系量産規模試作材

冷間圧延材のミクロ組織:板厚0.2mmt、色調の異な

る分散物は、大小含めてすべて導電性介在物であ

る。細い線は結晶粒界である。

図7.4.10 オーステナイト系量産規模試作材熱間圧延材のミクロ組織:板厚4.5mmt、色

調の異なる分散物(右図の矢印)は、大小含めてすべて導電性介在物である。細い線は結晶粒

界である。

20μm

20μm 20μm

図7.4.12 フェライト系量産規模試作材冷間

圧延材のミクロ組織:板厚0.2mmt、色調の異なる分

散物は、大小含めてすべて導電性介在物である。細

い線は結晶粒界である。

(左記と同じミクロ写真)

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1-7-4-14

(イ) ステンレス製燃料電池セパレータ低コスト量産方法の確立

a プレス成形法の開発

プレス成形法は、最も効率良くセパレータを製造する方法である。

図7.4.13に、燃料電池セパレータを模して製作したプレス金型を用いて成形したオ

ーステナイト系提案材外観と図7.4.14にその断面写真を示す。薄板素材板厚は、0.2

mmであり、押し込みの深さは 0.6mmである。プレスは無潤滑で行なったが、図7.4.

14に示すように、プレス後の板形状は良好であり、張り出し成形部を含めて割れ発生は抑

えることが可能であった。試作した金型の形状制約より、ガス流路溝の傾斜角が緩やかであ

るが、今後はより傾斜角の急峻な金型も製作し、プレス性の評価を行っていきたい。

プレス成形が可能であることが確認されたことより、プレス成形法を中心に量産方法の確

立を目指す。予想される問題として金型磨耗の問題があるが、金型材料の選定、表面硬化処

理法の検討、潤滑油の必要性有無を検討開始している。

b 機械切削法

機械切削によるセパレータガス流路溝加工一例を図7.4.15に示す。フェライト系提

案材を用いた場合の例であるが、オーステナイト系提案材含めて可能である。板厚が厚い場

合には、表面と裏面で異なるガス流路パターンを形成させることが可能である。本事業にお

いても、ガス流路の異なる複数セパレータを機械切削法により製作し、設置した燃料電池評

価装置での提案材性能評価に用いている。

c 化学エッチング法

塩化第二鉄水溶液を用いた化学エッチング法によるセパレータ試作例を図7.4.16に

示す。通常行なわれているマスキング処理を併用することにより、曲線的な複雑な流路を有

図7.4.13 0.2mmtのオーステナイト系提案

材プレス成形品外観:連続鋳造鋳込み法適用材

図7.4.14 0.2mmtのオーステナイト系提

案材プレス成形品断面写真(溝形状一例)

2.2mm 1.8 2.2 1.8

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1-7-4-15

するセパレータの製作も可能である。オーステナイト系提案材とフェライト系提案材で加工

精度に大きな差異は無いと判断された。本事業の試作では、溝幅、溝深さ、溝形状における

加工精度は、数%であった。精度向上を目指した検討は可能と判断されるが、プレス成形法、

機械切削法に比べて加工精度は劣っていると判断される。機械切削加工と同様、板厚が厚い

場合には、表面と裏面で異なるガス流路パターンを形成させることが可能である。

本事業においても、ガス流路形状の加工自由度が高いため複数枚のセパレータを加工して、

設置した燃料電池評価装置での提案材性能評価に用いた。

図7.4.15 機械切削加工により作成したフェライト系提案材製セパレータの一例:外

形寸法 140×140mm、素材板厚 3.0mm 流路部面積100×100mm、溝幅2.0mm、溝深さ1.0mm

図7.4.16 塩化第二鉄水溶液を用いた化学エッチング法により作成したオーステナ

イト系提案材(左)、およびフェライト系提案材(右)製セパレータの一例

:外形寸法 100×100mm、素材板厚 3.0mm 流路部面積 60×60mm、溝幅 2.0mm、溝深さ

1.0mm

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1-7-4-16

d フィン成形法

薄板試作が先行して完了した板厚0.2mm、幅200mmのオーステナイト系提案材試作冷延

コイルを用いてフィン成形法によるコルゲートフィン試作を行った。金型は高さ 1mm、ピ

ッチ 1mmで行なった。図7.4.17に外観を示す。フィン成形そのものには問題なく、

形状も良好であり、フィン成形可能と判断した。

試作したフィンをアノード極側にガス整流板として適用した燃料電池評価を行ったが、適

用可能と判断した。セル間のガス隔壁としてのセパレータは別途1枚必要となるが、成形性

に劣るフェライト系提案材を用いる場合のセパレータ製造法として好適な加工法となる可

能性がある。

e バルジ成形法

薄板バルジ成形法は難加工の薄板の張り出し加工に有効な加工法である。プレス成形法適

用が困難と判断された場合に検討を予定していた。既述のように、プレス成形が可能である

ことが確認されたため、本事業での検討は行なわないこととした。

図7.4.17 0.2mmt、幅200mmのオーステナイト系提案材冷延コイルを用いたコル

ゲートフィン加工品の一例

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1-7-4-17

(ウ)電池内3,000hr耐久性の確認(耐久寿命50、000hr見通しの確認)

H12年度において燃料電池発電評価装置2基を設置した。当初はH12年度の運転実績を

踏まえて、H13年度に更に2基の増設を行なう計画であったが、H12年度終了時点で燃料

電池運転技術の習得が未だ不十分と判断されたため増設を1年延期し、H14年度において増

設することとした。現在、種々の点で改良を加えた固体高分子形燃料電池発電評価装置2基を

設置準備中である。

H12年度、H13年度での発電試験を通じて、H14年度では本事業の目的である弊社提

案材セパレータを組み込んだ燃料電池の500から1,000時間程度の連続運転が可能とな

っている。金属セパレータの性能評価も順調に進行している。H14年度において安定した1,

000時間連続運転評価技術を習得し、最終年度であるH16年度に最長3,000時間連続運

転を行い、耐久寿命50、000hrの見通し確認を目指す。

a.燃料電池発電性能評価装置の設置と実機燃料電池内における適用性検討

図7.4.18にH12年度設置の燃料電池発電性能評価装置の外観を示す。表7.4.5

に設備の仕様を示すが、単セルより5セル構成のスタック2基を同時に運転し発電性能評価が

可能である。設置初年度にあたるH12年度は、入手可能な市販の固体高分子形燃料電池のひ

とつであるElectroChem社製FC-25MP2を用いて燃料電池発電性能評価装置の立ち上げを行うと

ともに、グラファイト製およびSUS316L製セパレータを製作して最長 100hrの運転を

繰り返し、ガス流路形状、電池製作技術、電池運転技術の習得に努めた。検討後に採用した標

準運転条件を表7.4.6に示す。燃料電池発電評価装置運転を行うにあたっては、発電評価

中の電池性能劣化原因を究明する目的で、運転中のガス加湿水、電池セル出側排出水、運転前

後におけるMEA洗浄水を適宜採取し、溶出金属イオン濃度、MEA蓄積金属イオン、溶出金

属イオンによるMEA担持触媒汚染について、ICP-MS法を用いて評価した。

機械切削加工により作成した高密度カーボン製セパレータ(東海カーボン製G0347B)を用い

た500時間運転評価結果の一例を図7.4.19に示す。時間経過によるI-V特性変化は極

めて小さい。表7.4.6に示した標準電池運転条件は妥当と判断した。評価中の電池外観を、

図7.4.20に示す。

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1-7-4-18

図7.4.18 H12年度設置の燃料電池発電性能評価装置

白丸位置それぞれに、

発電性能評価用燃料電

池を同時に設置可能で

ある。

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1-7-4-19

表7.4.5 H12年度設置の燃料電池発電性能評価装置仕様

表7.4.6 単セル型固体高分子形燃料電池運転条件

項目 設定条件 温度 70℃ 電流密度 0.5A/cm2

セル

スタック数 単セル MEA Pt 担持量 0.3mg/cm2

水素 70% ガス利用率 空気 40% 水素 70℃ ガス露点 空気 70℃ 電極面積 100mmx100mm 流路形状 サーペンタイン(一定) 溝深さ 0.7-1mm

セパレータ

溝幅 1-1.4mm

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1-7-4-20

(a)SUS316L製セパレータを適用した単セル燃料電池発電試験結果

ステンレス鋼製セパレータを用いた燃料電池性能を確認するために、SUS316L製セパ

レータを切削加工により作成して燃料電池発電性能評価試験を行った。セル電圧の経時変化を

図7.4.21に示す。従来から指摘されているように、無垢のSUS316L製セパレータ

ではステンレス鋼特有の不動態皮膜が表面を覆うためにカーボンペーパとの接触抵抗が高く、

運転初期より低い出力となっている。出力特性は、電池運転開始後300時間程度までは安定

していたが、その後セル電圧低下が認められ、450時間程度経過した時点で突然不安定とな

り大きく劣化した。500時間経過後に取り出したSUS316L製セパレータ表面は、局所

図7.4.19 切削加工して製作した高密度カーボン製セパレータを用いた固体高分子形燃

料電池の連続運転前後におけるI-V特性 (詳細運転条件は、表7.4.6参照)

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7

電流密度(A/cm2)

セル

電圧

(V)

運転開始時500h経過後

図7.4.20 評価中の固体高分子形燃料電池の外観。機械切削加工した高密度カーボン製セ

パレータを用いた単セル燃料電池を評価中。セル流路部面積:100mm×100mm。

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1-7-4-21

的に腐食生成物付着による明瞭な変色が認められ、カーボンペーパに対する接触抵抗が未使用

(初期)に比べ、アノード側、カソード側によらず同程度上昇していることが確認された。こ

の様子を図7.4.22に示す。

図7.4.21 切削加工して製作したSUS316L製金属セパレータを用いた固体高分子形燃料電

池の500時間連続運転結果(電流I=0.5A/cm2 一定。 詳細運転条件は、表7.4.6参照)

図7.4.22 切削加工して製作したSUS316L製金属セパレータを用いた固体高分子形燃料電

池の500時間連続運転後におけるSUS316L製セパレータのカーボンペーパとの接触抵抗

(詳細運転条件は、表7.4.6参照)

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0 5 10 1 5 20 25負 荷 荷 重 (kgf/cm 2)

抵抗

(Ω・

cm2)

カソード側運転後

アノード側運転後

未 使 用

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500運転時間(時間)

セル

電圧

(V)

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1-7-4-22

(b)オーステナイト系提案材製セパレータを適用した単セル燃料電池発電試験結果

オーステナイト系提案材製セパレータを、切削加工により作成して燃料電池発電性能評価試

験を行った。セル電圧の経時変化を図7.4.23に示す。ガス流路形状、板厚は、既述のカ

ーボン製セパレータ、SUS316L製セパレータと同じである。初期に、燃料電池出力特性

が低下する挙動が認められた。図7.4.24は、電池運転初期、累積運転時間100時間経

過時点、500時間経過時点のI-V特性であるが、100時間経過時点までの特性低下は小

さいものの、500時間経過時点では顕著となっている。図7.4.25は、累積運転500

時間経過時点でのオーステナイト系提案材製セパレータとカーボンペーパとの接触抵抗の測定

結果である。アノード側の接触抵抗値がほとんど変化していないにもかかわらず、カソード側

が大きく劣化している。接触抵抗増加の割合より、電池運転前後でのセル全体の電気抵抗劣化

のほぼ半分が、カソード側での接触抵抗増加によると判断された。燃料電池出側排水中の金属

イオン分析、ならびに試験終了後のセパレータ表面観察結果より、燃料ガス加湿器内およびガ

ス配管系など燃料電池本体外部からの金属イオン汚染の影響、各流路より燃料ガスが集まるヘ

ッダー部分の折り返し位置付近での“フラッディング(flooding)”の影響が考えられる。

図7.4.23 切削加工して製作したオーステナイト系提案材製セパレータを用いた固体高

分子形燃料電池の500時間連続運転結果

(電流I=0.5A/cm2 一定。 詳細運転条件は、表7.4.6参照)

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0 100 200 300 400 500連続運転時間(時間)

セル

電圧

(V)

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1-7-4-23

図7.4.24 切削加工して製作したオーステナイト系提案材製セパレータを用いた固体高

分子形燃料電池の500時間運転試験時におけるI-V 特性変化

(詳細運転条件は、表7.4.6参照)

図7.4.25 切削加工して製作したオーステナイト系提案材製セパレータを用いた固体高分子形

燃料電池の500時間連続運転前後におけるカーボンペーパとの接触抵抗変化

(詳細運転条件は、表7.4.6参照)

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0 5 10 15 20 25付加荷重(kgf/cm2)

抵抗

(ohm

・cm

2)

開発材初期

切削加工カーボン

開発材500時間後アノード側

開発材500時間後カソード側

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7

電流密度(A/cm2)

セル

電圧

(V)

運転開始時

100時間経過後

500時間経過後

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1-7-4-24

(c)フェライト系提案材製セパレータを適用した単セル燃料電池発電試験結果

フェライト系提案材製セパレータを、機械切削加工により作成して燃料電池発電性能評価試

験を行った。セル電圧の経時変化の様子を図7.4.26、図7.4.27に示す。50時間

までの短時間運転ではカーボン製セパレータを用いた燃料電池とほぼ同等の性能を有している

ことが認められたが、累積時間500時間までの長時間運転では性能劣化が大きい。

図7.4.26 切削加工して製作したフェライト系提案材製セパレータを用いた固体高分子形燃料電池

の50時間連続運転結果 (電流I=0.5A/cm2 一定。 詳細運転条件は、表7.4.6参照)

0.5

0.6

0.7

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50運転時間(時間)

セル

電圧

(V)

フェライト系候補材セパレータ適用

カーボンセパレータ適用

図7.4.27 フェライト系提案材製セパレータを用いた固体高分子形燃料電池の500時間連続運転

(電流I=0.5A/cm2 一定。 詳細運転条件は、表7.4.6参照)

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0 100 200 300 400 500連続運転時間(時間)

セル

電圧

(V)

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1-7-4-25

図7.4.28に、電池運転初期、累積運転時間400時間経過時点、500時間経過時点

のI-V特性を示す。累積運転時間400時間時点での特性低下に対して、累積運転時間50

0時間時点での特性は、初期性能にちかいレベルにまで回復している。MEA交換は行ってい

ないこと、電池解体も一切行っていないことより、この回復挙動は累積時間420時間経過時

点で行った窒素ガスによる電池セル内部の乾燥処理の効果によるのではないかと判断している。

すなわち、フラッディング(flooding)による流路閉塞が乾燥窒素ガス通気により改善したと

判断している。

図7.4.29にカーボンペーパとの接触抵抗変化を示す。オーステナイト系提案材でみら

れたカソード側での大幅な接触抵抗増加も認められず、500時間経過時点でのアノード側、

カソード側接触抵抗の上昇幅も小さい。

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7

電流密度(A/cm2)

セル

電圧

(V)

初期性能

500時間経過後

400時間経過後

図7.4.28 フェライト系提案材製セパレータを用いた固体高分子形燃料電池のI-V特性

;420時間経過時点で窒素ガスによる電池セル内の乾燥処理を実施。MEA交換はなし。

(電流I=0.5A/cm2 一定。 詳細運転条件は、表7.4.6参照)

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1-7-4-26

(d)電池運転後のMEAに含まれる金属イオン分析結果

ステンレス製セパレータを適用する場合に最も懸念されるのが溶出金属イオンによる電池性

能低下である。既述した燃料電池500時間運転時の電池特性変化挙動と溶出金属イオンの相

関を明らかにするために、各試験終了後のMEA部金属イオン量を定量した。定量した金属イ

オンは、素材からの溶出が予想されるFe、Ni、Cr、Moの各金属イオンである。図7.

4.30に基準になると判断されるグラファイト製セパレータ適用燃料電池MEA部の金属イ

オン濃度を示す。カーボンペーパ側の汚染は軽微であったが、電池特性を左右する固体高分子

膜中に多量のFe、Ni汚染が確認された。電池本体内部にはFe、Niイオンが溶出するよ

うなステンレス部分は存在しない。電池本体外からのものであり、電池本体に導入する燃料ガ

スのステンレス製加湿器および電池本体までのステンレス製ガス配管からの金属イオン溶出に

よる汚染であると判断された。

図7.4.31に、オーステナイト系提案材製セパレータ適用燃料電池MEA部の金属イオ

ン濃度を示す。

グラファイト製セパレータ適用燃料電池MEA部と同様、カーボンペーパ側の汚染は軽微であ

ったが、電池特性を左右する固体高分子膜中に極めて多量のFe、Ni、Crイオンが検出さ

れた。金属イオン汚染濃度が高いため、オーステナイト系提案材製セパレータ適用燃料電池で

みられた発電性能低下をセパレータからの溶出金属イオン汚染に結びつけることは容易である

が、電池本体に導入する燃料ガスのステンレス製加湿器および電池本体までのステンレス製ガ

ス配管からの金属イオン溶出による高分子膜汚染の程度が明らかでないこと、試験後のセパレ

ータ外観観察より本試験中に局所的なフラッディング発生があったと判断されたため、H14

年度において行なう再評価にて、電池運転条件、流路形状、燃料ガス加湿水の金属イオン汚染

対策含めた処置を行い再検討することにした。

図7.4.29 フェライト系提案材製セパレータを用いた固体高分子形燃料電池500時間運転前

後におけるカーボンペーパとの接触抵抗変化 (詳細運転条件は、表7.4.6参照)

0.00

0.02

0.04

0.06

0.08

0.10

0 5 10 15 20 25付加荷重(kgf/cm2)

抵抗

(ohm

・cm

2)

切削加工カーボン

使用前

アノード側使用後

カソード側使用後

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1-7-4-27

図7.4.32に、フェライト系提案材製セパレータ適用燃料電池MEA部の金属イオン濃

度を示す。

カーボンペーパ側の汚染は軽微であったが、オーステナイト系提案材製セパレータ燃料電池で

確認されたほどではないにしても、電池特性を左右する固体高分子膜中に多量のFe、Ni、

Crイオンが検出された。最も汚染が激しいFeイオンで、オーステナイト系提案材製セパレ

ータ燃料電池の場合の約1/3であった。フェライト系提案材製セパレータ適用燃料電池でみ

られた発電性能低下と固体高分子膜の金属イオン汚染とを結びつけることは容易であるが、4

20時間時点で行なったフラディング対策により、電池特性が初期特性にちかいレベルにまで

回復したこと、また、図7.4.29に示したカーボンペーパとの接触抵抗変化が小さいこと

より、H14年度において行なう再評価にて、電池運転条件、流路形状、燃料ガス加湿水の金

属イオン汚染対策含めた処置を行い再検討することにした。

(e)実機燃料電池内での提案材製燃料電池セパレータの性能について

H12年度設置の燃料電池発電性能評価設備を用いた提案材製セパレータ評価により下

記の点が明らかとなった。いずれについても、結論を出すには至っていない。評価条件を改善

した上で、H14年度も引き続き検討を行う予定である。

●H13年度実施した500hrの運転時間評価では、オーステナイト系提案材、フェライト

系提案材の燃料電池セパレータとしての適用可否、問題点、優劣を結論づけるまでに至らな

かった。より適正な性能評価が可能である電池運転条件の設定とともに、より長時間での性

能評価試験が必要である。

●グラファイト製セパレータ適用燃料電池および金属セパレータ表面に腐食痕跡が認めら

れない場合でも、固体高分子膜内への金属イオン蓄積が認められる。SUS316L製燃料

ガス加湿器、ガス配管などからの金属イオン溶出、溶出金属イオンの電池内持込み、電池内

蓄積に対して、積極的対策を行う必要がある。

●生成水によるフラッディング(flooding)、流路閉塞により、電池内セパレータ腐食と電

池性能劣化が著しく加速する可能性がある。フラッディング対策を施したセパレータ流路設

計、電池運転条件設定が極めて重要である。

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1-7-4-28

図7.4.30 グラファイト製セパレータを用いた固体高分子形燃料電池試験終了後の

MEA部残留金属イオン分析結果

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

Fe Ni Cr Mo

μg/

cm2

アノード側カーボンペーパ

固体高分子膜

カソード側カーボンペーパ

図7.4.31 オーステナイト系提案材製セパレータを用いた固体高分子形燃料電池累積500

時間運転後のMEA部の金属イオン分析結果

0

5

10

15

20

25

Fe Ni Cr Mo

μg

/cm2

カソード側カーボンペーパ固体高分子膜アノード側 カーボンペーパ

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1-7-4-29

b.燃料電池環境模擬環境における適用検討

H13年度より、燃料電池発電評価装置を使った実機燃料電池内評価と並行して、Fe、N

i、Crなどステンレス製セパレータからの溶出金属イオン(Ni2+、Fe3+,Cr3+、お

よびFe2+の4種の金属イオン)を想定した硫酸酸性水溶液中での高分子膜金属イオン汚染挙

動、電気特性低下挙動の検討を開始した。H13年度は評価法確立に努めると共に、固体高分

子膜内での金属イオン蓄積と電池性能低下との相関を実験室的に確認することを目指した。

(a)実験方法

固体高分子膜としては、入手可能である市販のナフィオン117およびナフィオン113

5を用いた。3%過酸化水素水中煮沸、蒸留水中煮沸、1M硫酸中煮沸、蒸留水中煮沸、イ

オン交換水保管の各処理を各々1時間実施した。金属汚染は、Cr3+、Ni2+、Fe3+、F

e2+の硫酸塩(和光純薬、特級品)を用いた。密栓式ガラス瓶内に各種金属イオンの硫酸塩

を所定量含んだpH調整溶液 500mlを入れ、固体高分子膜を浸漬した。ついで、25℃に温

度調整した恒温槽内に、2日から1週間放置する事によって各種金属イオンに交換させた膜

を作製した。恒温条件(70℃、90℃)でイオン交換する場合は、冷却管付きの三角フラスコを

用いて溶液温度を直接測定しながらシリコンオイルバスで加熱した。Fe2+については溶存

酸素により酸化する恐れがあるため、予めアルゴンガス通気により溶存酸素を十分に追い出

した後に、固体高分子膜を浸漬しアルゴン雰囲気下で調整した。

交流比抵抗の測定は、図7.4.33に示すテフロン製専用測定セルを製作して用いた。

セルには所定間隔毎に白金(厚み0.5mm)極板を差し込んであり、その極板にナフィオン膜

(巾 5mm、長さ30cm)を載せ、上から押さえ付け治具で挟み込み導通を取った。このセル

を、水を所定量入れたポリプロピレン製バットに置き、極板や膜に接しないようガーゼでセ

図7.4.32 フェライト系提案材製セパレータを用いた固体高分子形燃料電池500時間連続

運転後のMEA部の金属イオン分析結果

0

1

2

3

4

5

6

7

Fe Ni Cr Mo

μg

/cm

2

アノード側カーボンペーパ固体高分子膜カソード側カーボンペーパ

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1-7-4-30

ルを包んだ。続いてそのバットを相対温度 80℃、湿度 95%の恒温恒湿下で、2時間保持し

た後、交流 100Hzにおける比抵抗を測定した。交流比抵抗は、各白金板間の距離を30mm

~210mmに変化させて測定した。白金板と膜との間には抵抗が生じるが、極間距離と比抵

抗をプロットし、その勾配を用いる事でこの影響を除外した。交流比抵抗はこの勾配と膜厚

から次式に従い算出した。

比抵抗R(Ω・cm)=膜巾(cm)×膜厚(cm)×抵抗極間勾配(Ω/cm)

膜厚は比抵抗測定直後に測定した厚みを用いた。

(b)金属イオン汚染による固体高分子膜の交流比抵抗変化

図7.4.34に固体高分子膜の交流比抵抗に対する金属イオン交換率の影響を示す。イ

オン交換率の増加に従い含水率が低下するため、イオン交換率の上昇に従い交流比抵抗は増

加する傾向にあった。ただし、Ni2+、Fe2+、Fe3+では 50%近くまでは増加は緩やか

で、イオン種の違いもほとんど認められないが、Cr3+ではイオン交換率が20%を超えると

急激に増加する傾向が認められた。イオン種による違いがあることが確認された。交流比抵

抗増加に対する各種金属イオンの影響程度は、(影響小)Fe2+<Fe3+≒Ni2+<Cr3+

(影響大)の順であった。

性能劣化が認められたオーステナイト系提案材をセパレータに用いた500時間運転後の

燃料電池内部には、顕著な金属イオン汚染が認められたことは記述した。いま、触媒と結合

している金属イオンは無視して、MEAで確認された金属イオン量すべてが高分子電解質膜

汚染であったと仮定して各金属汚染による電池性能劣化の程度を検証すると、イオン交換率

はFe,Ni,Cr系で各々13%、2.5%、5.7%となる。図7.4.34によれば、この程

度のイオン交換率では高分子電解質膜の抵抗はほとんど増加しないと見積もられる。生成水

によるフラッディング(flooding)、流路閉塞による電池性能低下の影響が大きかったので

はないかと推定し、フラッディング対策を施したセパレータ流路設計、電池運転条件設定が

極めて重要と判断する理由である。

図7.4.33 交流比抵抗測定用セルと測定方法

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1-7-4-31

(c)pHの影響

燃料電池セル内の高分子電解質膜は、アノード触媒上で発生したプロトンと、膜の乾燥を避

けるために常時供給される水分によって酸性環境下にあると考えられる。また、その酸性度は、

触媒の燃料消費量、水分供給量、および膜の一部から分解溶出する硫酸イオンの影響等を受け

ると判断される。pHを0から3の範囲で変化させて、イオン交換特性へのpHの影響を検討

した。図7.4.35にNi2+イオンの評価結果を示すが、pHが高くなるほど平衡濃度は低

濃度側にシフトし、イオン交換(汚染)しやすくなる事が読み取れる。pH=3の条件では、

10ppm程度のNi2+イオン濃度でも高分子電解質膜のイオン交換率はほぼ 100%に達し、含

水率低下、交流比抵抗の増加が著しいことがわかる。図7.4.36はCr3+イオンの評価結

果であるが、同様の傾向が認められる。これらの結果は、pH=3の環境では、燃料電池内部

の金属部材や配管類等からの微量溶出金属イオンが数ppmレベルでも電池セル内に混入する

と、電池特性に著しい影響を与える可能性があることを示している。ただし、pHが低くなる

ほど平衡濃度は高濃度側にシフトしイオン交換(汚染)しにくくなることも示しており、電池

動作時のpH低下に伴い電池特性低下の改善が期待され、溶出金属イオンによる電池特性低下

を軽減するには好都合な面も認められる。

なお、Cr3+系ではpH=3および2において、イオン交換率が明らかに100%を越える

挙動が認められている。数字の上では、膜内のプロトンがすべて置換された後、更にCr3+イ

オンが膜内に取り込まれたことを示しているが、この挙動は膜内に存在する水との水和分子形

成、水酸化物生成(腐食生成物の沈殿生成)が原因であると判断された。

pHの影響については、Fe2+イオンにも同様な挙動が認められた。また、各イオン共通に、

温度上昇に伴い、同一金属イオン濃度であってもイオン交換率は高くなり、電解質膜性能は劣

化することも確認された

図7.4.34 イオン交換膜の交流比抵抗に対する金属イオン交換率の影響

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

0 50 100 150

金属イオン交換率(%)

交流

比抵

抗(Ω

・cm

)

Ni2+Fe2+Fe3+Cr3+

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1-7-4-32

図7.4.35 Ni2+イオン平衡濃度とイオン交換率の関係:pHの影響、25℃

図7.4.36 Cr3+イオン濃度とイオン交換率の関係:pHの影響、25℃

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1-7-4-33

(d)各種金属イオンによる固体高分子膜性能への影響まとめ

燃料電池動作時には、MEA付近のpHは3以下になるとの報告が散見される。ステンレス

鋼素材にとっては厳しい環境であるが、溶け出した金属イオンによる高分子電解質膜の汚染に

とっては蓄積が起こりにくく、電池性能低下に結びつきにくい状況にあるとも考えられる。p

H1より3環境でのステンレス不動態化挙動、不動態状態での金属イオン溶出挙動を鋼中元素調

整によりある程度制御可能である。H14年度以降の成果を踏まえて、必要と判断される場合

には鋼中成分の見直しを行ないたい。

金属材料から溶出可能性のあるNi2+、Fe3+、Cr3+及びFe2+イオンによるナフィオ

ン膜の汚染挙動を調査し、得られた知見をまとめると下記の通りである。

● 高分子電解質膜ナフィオンは、pHや温度が高いほど汚染されやすくなり、より低い金

属イオン濃度でも性能が低下しやすくなる。金属イオン汚染の性能低下への影響を軽減

するためには、燃料電池運転時の高分子電解質膜内pHは低い方が有利である。

● 各金属イオンの高分子電解質膜ナフィオンの汚染のしやすさ、性能低下への影響の大き

さは、pH、温度、金属イオン種により異なる。概ね以下の順位があると判断した。

25℃においては

(pH=0) Ni2+≒Fe3+>Fe2+>Cr3+

(pH=1および2) Cr3+>Ni2+

(pH=3) Ni2+≒Fe2+>Cr3+

70℃においては

(pH=1および2) Cr3+>Ni2+

(pH=3) Ni2+≒Cr3+≒Fe2+

● 高分子電解質膜の交流比抵抗は、金属イオンによる交換率の増加とともに高くなる。た

だしNi2+、Fe3+,Fe2+では40%程度まで、Cr3+では10%程度までは交流比抵

抗の増加はほとんどみられない。

● Cr3+による汚染では、イオン交換率が100%を超える場合がある。これはイオン交換膜

内で水酸化クロム(Cr(OH)n(3-n)+)が生成するためと考えられる。

c.数値解析モデル解析による流路設計と電池内反応解析

金属セパレータの電池内発電性能評価を正しく実施するためには、電池運転条件として妥当

であり、長時間安定して運転できる運転条件を確立することが前提である。特に、生成水によ

るフラッディング(flooding)、流路閉塞対策が重要である。H12年度よりFEM解析モデ

ルを用いた燃料電池内反応解析モデルを構築し、燃料電池発電効率改善と電池内湿分調整改善

を目指している。

H14年度より、反応を考慮したFEM解析ソフトである『FLUENT』を用いた検討に

着手した。早期に流路設計および電池運転条件設定に反映させることにより、より適正な条件

での金属セパレータ性能評価を目指したい。

(5)今後の課題と予定 固体高分子形燃料電池へのステンレス鋼板適用は、金めっき処理を施したステンレス鋼、あ

るいはNi基高合金の適用例があるものの、無垢での適用は困難と考えられている。ステンレ

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1-7-4-34

スセパレータ適用燃料電池性能劣化が、ステンレス鋼板表面からの金属イオン溶出による高分

子電解質膜汚染、イオン交換性能低下、触媒性能低下と結び付けられて考えられるためである。

これまでの弊社検討においても、SUS316L製燃料ガス加湿器、配管、バルブから溶出

したと推定される金属イオンが、加湿器内バブリング用イオン交換水ばかりでなく、グラファ

イト製セパレータ適用燃料電池排ガス凝結液、燃料電池出側排水からも予想以上に検出される

事態となった。いずれも、各部材が腐食といえる外観を呈しているとは判断されない状況の中

での金属イオン検出であり、通常は問題とならない“不動態化状態にあるステンレス鋼表面か

らの金属イオン溶出”が固体高分子形燃料電池においては問題となる可能性があることを示し

ている。溶出金属イオンによる高分子電解質膜汚染が、膜のイオン交換性能劣化に対して大き

な影響を及ぼすことは再三指摘されており、弊社提案材製セパレータ適用を推進するにあたっ

ても、これまで以上に溶出金属イオンを考慮した適用検討を行っていきたい。

燃料電池運転時にはMEA付近のpHは低下すると言われているが、これまでの検討結果を

通じて、高分子電解質膜のイオン交換性能は、曝されるpH環境、温度によって大きく変化す

ることが明らかとなっている。すなわち、pHが3以下に低下した環境では金属イオン汚染に

より劣化した高分子電解質膜イオン交換性能も短時間で顕著に改善することが明らかになって

いる。MEA近傍のpH低下はステンレス鋼側の腐食、溶出を促進するという悪い面ばかりが

捉えられていたが、今後は、金属イオン汚染による高分子電解質膜性能劣化軽減に対して好ま

しい一面を有しているという良い面も積極的に評価されるべきと考える。低pH環境における

金属イオン挙動を燃料電池環境で検討することを通じて、金属イオン汚染対策として具体的な

活用策を明確にしていきたい。

オーステナイト系提案材、フェライト系提案材の通常ステンレス鋼量産ラインでの製造技術

開発はいずれも継続中である。残る課題を解決してゆく必要があるが、本事業の目標のひとつ

である『高性能燃料電池セパレータ低コストステンレス薄板材料生産技術の確立』は可能と判

断している。

提案材を適用する燃料電池セパレータ加工法として、最も量産性に優れるプレス成形法、な

らびに機械切削加工法、化学エッチング法、フィン成形加工法の適用が可能であることが明確

になった。燃料電池セパレータとして求められるプレス成形性を有する薄板大規模量産製造も

目途が立ちつつある。提案材は硬質の導電性金属介在物が多量に析出していることより、金型

磨耗が懸念される。打ち抜き金型、プレス金型双方について、材質および表面硬化処理の検討

を開始した。対策確立は可能とみている。以上のことより、本事業の目的のひとつである『ス

テンレス製燃料電池セパレータ低コスト量産方法の確立』も可能と判断している。

燃料電池発電性能評価については、日々改善を心がけており、H14年度には1000hr

の長時間評価結果が報告できると考えている。

本事業を通じて開発、実用化されたステンレス製セパレータが自動車および据え置き型分散

電源用途に適用されることを目標に今後も鋭意開発に邁進していきたい。

(6)特許および論文発表の件数 発表などはなし。

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1-7-5-1

7.5 固体高分子形燃料電池量産化技術開発(松下電工(株))

(1)本事業の目標

燃料電池システムの本格的普及のためには、燃料電池システムを利用するコ

ージェネレーションシステムを導入することで期待される経済効果、1次エネ

ルギー削減効果を達成するためのランニングコストの低減と、システムの価格

低減が必要不可欠である。

本事業は、燃料電池システムの実用化を促進するために、改質器の改質効率、

パワーコンディショナーの効率のさらなる高効率化と、改質器ユニットを運転さ

せるために必要な水供給ポンプ、エア供給ポンプ等の補機類の省電力化を検討す

ることにより、ランニングコストの低減化を図り、さらに燃料電池システムの価

格低減を達成するために、量産化に対応した改質器とパワーコンディショナー部

を開発することを目的とする。

(2)目標の設定理由

燃料電池システムの実用化のためには、ランニングコストの低減と、システ

ムの価格低減が必要不可欠である。

(ア)小型改質器の実用化技術開発

燃料電池システムの低ランニングコストを達成するため、燃料を水素に改質す

る改質器の改質効率の高効率化と、改質器ユニットを運転させるために必要な補

機類の省電力化を検討する。さらにシステムの低コスト化を達成するため、シス

テムの主構成部である改質器の小型化と低コスト化を検討する。

a.小型改質器の高効率化検討

燃料電池システムを利用するコージェネレーションシステムを導入すること

で期待される経済効果、1 次エネルギー削減効果を達成するためには、燃料を

水素に改質する改質器の改質効率を、現状効率60%から78%にまで向上さ

せることが必要である。また同時に、改質に必要な補機類の省電力化を行うこ

とが必要である。

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1-7-5-2

b.小型改質器の低コスト化検討

量産しやすい部品・構造の採用と組立性の向上をベースとした設計に変更す

ることで、改質器の低コスト化を行うことが必要である。

c.小型改質器の長寿命化検討

改質器の構造に関る劣化を考慮した設計とすることで、信頼性の高い、長寿

命な改質器とする必要がある。

(イ)パワーコンディショナの実用化技術開発

燃料電池システムの低ランニングコストを達成するため、パワーコンディショナ

ーの高効率化と、システムの低コスト化を達成するための小型化と低コスト化を

検討する。

a パワーコンディショナの高効率化検討

燃料電池システムを利用するコージェネを導入することで期待される経済効

果、1 次エネルギー削減効果を達成するためには、各主要構成部品の高効率化

が不可欠である。現状のパワーコンデショナの効率に対して、約1.1倍の効

率向上を行うことで、上記目標の達成を図る。

b パワーコンディショナの小型、低コスト化検討

燃料電池システムの実用化のため、システムの主構成部であるパワーコンデ

ィショナ部の小型化、低コスト化を図る必要がある。

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1-7-5-3

(3)事業全体の成果

(ア)小型改質器の実用化技術開発

家庭用燃料電池コージェネレーションシステムの市場への普及のためには、コ

スト、信頼性の面でさまざまな課題があるが、その中でもランニングコストの低

減が特に重要となる。システムの中で都市ガス燃料を水素に改質処理する改質器

においては、少ない燃料で効率良く多くの水素に改質することがランニングコス

ト低減の鍵であり、改質効率の向上が要求されている。 一般的に、高い改質効

率を得るためには、改質器からの放熱ロスの低減、改質器内での高い熱回収が構

造的に必要となるため、改質器構造の複雑化、断熱強化による改質器サイズの大

型化を招き、それに伴い製造コストも増加する。松下電工では高い改質効率を維

持しつつも、簡易・小型構造で、製造コストの低減をはかり、かつ低消費電力の

補機を使用したより実用化に近い改質器の開発を目指している。

水蒸気改質方式の改質器は、水素を生成する改質反応部、一酸化炭素を除去す

るシフト反応部、選択酸化反応部の三つの反応部、さらに改質反応部を加熱する

バーナー、水を蒸発させる蒸発器などにより構成される。当社では当初、各反応

部が別々に配置された構造について検討してきたが、効率、コスト、小型化の面

で限界があると判断し、平成13年度より各反応部が多重管内に適切に配置され

た一体化構造に変更している(図7.5.ア.1)。この構造では、高温部とな

図7.5.ア.1 別体型改質器と一体型改質器の概念図

る燃焼排気ガスが円管の中心を通る内燃型としているため、放熱ロスを極力抑え

バーナー

燃焼13A 空気

蒸発器

改質反応器

シフト反応器

熱交換器

水排気ガス選択酸化空気

改質ガス

選択酸化器改質13A

バーナー

蒸発部

排気ガス

燃焼13A 空気

水改質13A

改質ガス

選択酸化空気

改質・シフト・選択酸化反応部バーナー

燃焼13A 空気

蒸発器

改質反応器

シフト反応器

熱交換器

水排気ガス選択酸化空気

改質ガス

選択酸化器改質13A

バーナー

蒸発部

排気ガス

燃焼13A 空気

水改質13A

改質ガス

選択酸化空気

改質・シフト・選択酸化反応部

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1-7-5-4

ることができる。また、燃焼排気ガス-改質ガス、燃焼排気ガス-蒸発水、改質

ガス-折り返し改質ガスの流れが、それぞれ対向流となっており、効率良い熱回

収を行うことが可能となる。さらに、各反応部を結ぶ配管がなく、シンプルで、

コンパクトな構造が実現可能となる。この構造では各反応部が互いに熱交換しあ

う構造となるため、各部の熱バランス設計が重要となる。そこで、触媒反応によ

る吸発熱を考慮した改質器専用の熱流体シミュレーションを導入し、計算により

各反応部の最適配置をはかった設計を行い、各反応部の熱バランス、温度制御を

可能なものにしている。一方、製造コストに関しては、DFMA製造・組立性シ

ミュレーションによる部品製造・組立工程の最適化、コスト分析を実施し、部品

点数、溶接箇所・溶接長さを削減する最適な組立工程を決定し、量産ベースのコ

ストを推定している。

各年度の改質器試作機における改質効率(二つの定義)、断熱処理後の容積比

、コスト比をまとめたものを表7.5.ア.1に示す。改質器を一体型構造とす

ることにより、改質効率のアップ、大幅な小型化を達成することができ、かつ、

コストダウンを確認することができた。今年度はさらなる効率アップ・小型化・

低コスト化を狙うため、改質器放熱ロスの低減・熱回収の向上、円筒管内を流れ

る改質ガスの流れの均一化・整流化による触媒反応効率の向上をはかっている。

水蒸気改質方式の改質器は、バーナーによりその金属容器が600~700℃

の高温に加熱されるため、改質器容器の耐熱性は実用化に向けたもう一つの重要

な課題であると言える。金属は高温下において、金属材料自身の熱膨張を引き起

こし、ある一定の応力が作用する。一定の応力下において時間と共に変形量が増

加する現象を一般的にクリープと呼んでいるが、高温下での金属は、このクリー

プ現象が金属疲労破壊を引き起こす大きな要因となっている。そこで、当社では

測定した改質器の各部位の温度を境界条件とした有限要素法による熱伝導シミュ

レーション、クリープ性を考慮した熱弾塑性シミュレーションを実施し、高温下

での改質器各部の歪量を計算により予測可能となった。さらに、SUS材料の繰

り返し熱サイクル試験を実施し、クリープ歪量と疲労破壊に到る繰り返しサイク

ル数の関係を導出した。したがって、シミュレーションにより事前に歪量を求め

れば、SUS材料の寿命を推定できることが可能となった。そこで、シミューシ

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1-7-5-5

表7.5.ア.1 各年度改質器試作機のまとめ

ションにより改質器管底部の熱寿命問題箇所を抽出し、耐熱性向上のため

の最適な構造変更を検討し、実際にこの構造の改質器を試作し、連続運転

寿命試験、起動/停止運転寿命試験を開始している。

(イ)パワーコンディショナの実用化技術開発

固体高分子形燃料電池では、その構成上、低コストとするためには、各セルを

大面積、少積層数とすることが有用である。この場合、単セルあたりの発生電圧

が限られているため、スタック全体の電圧は12? 40Vと比較的低いものとな

る。この電池発電電力を系統の200Vに連系するためには、出力正弦波のピー

ク値280Vを確保するため、パワーコンディショナ内部では、約350Vまで

昇圧する必要があるので、高昇圧比でありながら高効率を確保できる昇圧回路が

平成13年度機

三反応部別体型

改質効率(%)

71 7873

平成12年度機

三反応部一体型 三反応部一体型

平成14年度機

概観写真

断熱処理後の容積比 1.0 0.35 0.28

88

コスト比 1.0 0.46 0.40

8780

※1

※2

改質効率HHV(%)=改質用燃料総熱+燃焼用燃料総熱

改質ガス中の水素総熱※1

改質効率HHV(%)=改質用燃料総熱+燃焼用燃料総熱

改質ガス総熱※2改質効率の定義式

×100

×100

平成13年度機

三反応部別体型

改質効率(%)

71 7873

平成12年度機

三反応部一体型 三反応部一体型

平成14年度機

概観写真

断熱処理後の容積比 1.0 0.35 0.28

88

コスト比 1.0 0.46 0.40

8780

※1

※2

改質効率HHV(%)=改質用燃料総熱+燃焼用燃料総熱

改質ガス中の水素総熱※1

改質効率HHV(%)=改質用燃料総熱+燃焼用燃料総熱

改質ガス総熱※2改質効率の定義式

×100

×100

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1-7-5-6

a ab b

燃料電池 入力電圧切替スイッチ

昇圧回路

インバータ回路 連系保護回路

系統

図7.5.イ.2 昇圧回路の構成

求められる。

このパワーコンディショナを実現するために、平成12年度は、40V入力仕

様のパワーコンディショナで、その初段の昇圧回路部分を2台のコンバータで構

成し、コンバータの変換電力を分担しつつ、出力側を直列で組み合わせることで

全体として高昇圧比を確保するというアイディアを盛り込んだ回路構成を検討し

た。(図7.5.イ.2)

実際の設計では、各コンバータに高周波絶縁トランスを用いたフォワード方式

を採用し、試作を行った。その結果、40V入力時に、最大効率 83.5%を得る

ことができ、この電圧領域を扱う1kW級の電力変換回路では比較的高効率な結

果を得た。

この効率を更に向上させるために、平成13年度は昇圧回路の損失解析を行い、

特にスイッチ素子の損失を低減するためのソフトスイッチング技術の導入をはか

った。ここでは、回路設計の効率化を図るため、対象回路は、40V入力の 1 系

統昇圧回路とした。

実用性のある方式という観点で、種々の回路方式の調査から位相シフト制御型

コンバータに焦点をあて、回路解析を併用しながら条件設定を繰り返し、設計・

試作を行った。その結果、図7.5.イ.3に示す様に、昇圧回路単体で最大効

率93.7%、次段のインバータ部を含むパワーコンディショナ全体でも効率9

2%を超える回路構成を実現することができた。入出力の電圧比がこのように大

きいものでありながら、この効率を得たものは過去に類が無く、本方式のソフト

スイッチング技術が燃料電池コージェネレーション用パワーコンディショナに有

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1-7-5-7

用であることが示せた。

また、この位相シフト型コンバータ方式を1系統入力方式のまま、さらに低電圧

領域の12V入力に対応させる検討を行った結果では、1 次側配線インダクタン

スの影響がより大きくなっていることがわかった。平成14年度以降は、この配

線インダクタンスの低減に焦点をあて、150A級のスイッチ素子周辺における

配線の影響を最小限にしつつ放熱効率も向上させるモジュール化形態を追求して

ゆく。

80

82

84

86

88

90

92

94

0 200 400 600 800 1000 1200 出力[W]

[%]

図7.5.イ.3 パワーコンディショナの効率特性

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1-7-5-8

(4)研究開発毎の成果

(ア) 小型改質器の実用化技術開発

a.改質器高効率設計

都市ガス燃料を水素に改質処理する改質器の中で、水蒸気改質方式の改質器は

高い改質効率が得られる。この水蒸気改質器は、水素を生成する改質反応部、一

酸化炭素を除去するシフト反応部、選択酸化反応部の三つの反応部、さらに改質

反応部を加熱するバーナー、水を蒸発させる蒸発器により構成されており、当社

では当初、図7.5.ア.2に示すように各反応部が別体化され、各反応部の温

図7.5.ア.2 別体型改質器概念図

度制御が比較的容易な改質器の開発を進めてきた。

しかしながら、別体型改質器では、改質効率を低下させる要素である放熱ロス

が多く、これを回避されるためには十分な断熱処理が必要であり、改質器容器サ

イズが大きくなる。また、配管等を含めた部品点数や溶接箇所が多くなり、製造

バーナー

燃焼13 A 空気

蒸発器

改質反応器

シフト反応器

熱交換器

水排気ガス

選択酸化空気

改質ガス

選択酸化器改質13A

バーナー

燃焼13 A 空気

蒸発器

改質反応器

シフト反応器

熱交換器

水排気ガス

選択酸化空気

改質ガス

選択酸化器改質13A

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1-7-5-9

コストの削減に限界がある。そこで、図7.5.ア.3に示すように改質反応部、

図7.5.ア.3 一体型改質器概念図

シフト反応部、選択酸化反応部、そしてバーナー、蒸発器を多重管内に適切に配

した一体型改質器の構造に変更した。この構造では、高温部となる燃焼排気ガス

が円管の中心を通る内燃型としているため放熱ロスを極力抑えることができる。

また、燃焼排気ガス-改質ガス、燃焼排気ガス-蒸発水、改質ガス-折り返し改

質ガスの流れが、それぞれ対向流となっており、効率良い熱回収を行うことが可

能となる。さらに、各反応部を結ぶ配管がなく、シンプルで、コンパクトな構造

が実現可能となる。この構造では各反応部が互いに熱交換しあう構造となるため、

各部の熱バランス設計が重要となる。そこで、触媒反応による吸発熱を考慮した

改質器専用の有限体積法三次元熱流体シミュレーション(図7.5.ア.4)を

導入し、多重管という単純構造体の中に、改質反応部、シフト反応部、選択酸化

反応部、蒸発部、バーナーの配置の最適化をはかった設計を行い、各反応部の熱

バランス、温度制御を可能なものにしている。

本年度は、三反応部一体型水蒸気改質器の構成をベースとし、改質器内の伝熱

性のさらなる向上、及び改質器へ充填する触媒粒子サイズと管内流路幅との関連

バー

蒸E

排気

燃焼13A 空気

改質13A

改質・シフト選択酸化反応部

バーナー

蒸発部

排気ガス改質ガス

選択酸化空気

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1-7-5-10

図7.5.ア.4 三次元熱流体シミュレーション

性追究による改質ガスの流れの均一化・整流化の向上をはかった触媒反応効率の

向上を目指している。現在試作している改質器の改質効率は78%〔改質ガス中

の水素総熱/(改質用燃料総熱+燃焼用燃料総熱)×100〕であり、各反応

有限体積法モデル有限体積法モデル

改質反応部付近の温度分布と速度ベクトル図

温度(℃) 流速(m/s)上部断面

下部断面

上部断面

下部断面

改質反応部付近の温度分布と速度ベクトル図

温度(℃) 流速(m/s)上部断面

下部断面

上部断面

下部断面

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1-7-5-11

部、及び燃焼部の温度履歴は図7.5.ア.5に示すとおりである。

図7.5.ア.5 各反応部、及び燃焼部の温度履歴

b.改質器低コスト化設計

DFMA製造・組立性シミュレーションは、量産化を想定した改質器の製造・

組立工程の最適化、コスト予測を可能とする。そこで、このシミュレーションに

より、図7.5.ア.6に示すような多重管容器である改質器の製造・組立の工

程手順の最適化をはかり、最少限必要な部品数の推定、組立時間、組立コストの

推定、溶接・切削などの加工に伴うコストの推定を実施した。図7.5.ア.7

に各年度改質器のコスト比を示す。改質器構造を別体型から一体型にすることに

より、量産製造コストが大幅に低減できることを確認した。

そして、具体的な製造工程管理を設定した改質器を複数台製作し、製造バラツ

キを評価し、そのバラツキ要因を抽出し、改質器量産化にむけた改質器構造変更、

及び製造工程の見直しを現在検討中である。また、改質器に関わる周辺機器・部

材であるバーナー、断熱材などの安価品への置き換えについても現在検討中であ

る。

0

200

400

600

800

1000

1200

0.0 30.0 60.0 90.0 120.0 150.0 180.0

燃焼温度改質温度シフト温度選択酸化温度

温 度(℃)

時間(分)

温度履歴

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1-7-5-12

図7.5.ア.6 改質器の製造・組立の工程手順の最適化

図7.5.ア.7 各年度改質器のコスト比

c.改質器耐熱設計

一体型改質器は、管の高さ方向に高温部から低温部への温度勾配を有する構造

となるため、SUS製金属容器の温度分布を十分に把握し、クリープによる金属

疲労を抑えた耐熱設計を行う必要がある。設計には、有限要素法による熱応力シ

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

H12年度別体型改質器 H13年度一体型改質器 H14年度一体型改質器

コス

ト比

(-

加工費

材料費

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1-7-5-13

ミュレーションを用いている。具体的には測定した改質器の各部位の温度を境界

条件とした熱伝導シミュレーション、及びクリープ特性を考慮した熱弾塑性シミ

ュレーションを実施し、高温加熱により改質器各部に発生する熱応力、歪量を計

算により予測した。

図7.5.ア.8 SUS材料の熱サイクル試験外観写真

図7.5.ア.9 SUS材料の歪-サイクル曲線

また、改質器の熱応力解析結果から寿命を推定するため、図7.5.ア.8に

示すSUS材料の熱サイクル試験を実施している。改質器容器であるSUS材料

試験サンプル試験サンプル

Number of cycles to failure

SUS310S 775degC and SUS304 700degC

0.001

0.01

0.10

1.00

10.00

10 100 1000 10000 100000

Par

titio

ned

stra

in r

ange

ΔEi

j%

Creep strain

Plastic strain

Number of cycles to failure

SUS310S 775degC and SUS304 700degC

0.001

0.01

0.10

1.00

10.00

10 100 1000 10000 100000

Par

titio

ned

stra

in r

ange

ΔEi

j%

Number of cycles to failure

SUS310S 775degC and SUS304 700degC

0.001

0.01

0.10

1.00

10.00

10 100 1000 10000 100000

Par

titio

ned

stra

in r

ange

ΔEi

j%

Creep strain

Plastic strain

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1-7-5-14

は、高温域で特に問題となる材料のクリープ特性を考慮する必要がある。本年度

は、図7.5.ア.9に示すようにある一定高温下でのクリープ特性を考慮した

SUS材料の歪―サイクル曲線を作成した。よって、シミュレーションにより事

前に歪量を求めれば、SUS材料の寿命を推定できることが可能となった。

本年度は、図7.5.ア.10に示すようにシミュレーションにより改質器管

底部の熱応力低減のための応力緩衝構造の変更を施し、この改質器を実際に試作

し、起動/停止運転寿命試験を実施中である。

図7.5.ア.10 改質器管底部の応力緩衝構造の変更

熱応力集中部改良構造

熱応力集中部改良構造

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1-7-5-15

a ab b

燃料電池 入力電圧切替スイッチ

昇圧回路

インバータ回路 連系保護回路

系統

図7.5.イ.2 昇圧回路の構成

(イ)パワーコンディショナの実用化技術開発

a.直並列切替型昇圧回路の開発

固体高分子形燃料電池では、その構成上、低コストとするためには、各セルを

大面積、少積層数とすることが有用である。この場合、単セルあたりの発生電圧

が限られているため、スタック全体の電圧は12? 40Vと比較的低いものとな

る。この発電電力を系統の200Vに連系するためには、出力正弦波のピーク値

280Vを確保するため、パワーコンディショナ内部では、約350Vまで昇圧

する必要があるので、高昇圧比でありながら高効率を確保できる昇圧回路が求め

られる。

この研究では、2台のコンバータの出力を直列接続した構成により、各々のコ

ンバータの昇圧比を抑え、高効率を確保することを狙った。

実際には、図7.5.イ.2に示す様に、入力電圧を2台のコンバータに振り分

け、出力側を直列で組み合わせることで、大電流となる入力電流を分散化しつつ、

トータルで高昇圧比を確保できる構成となっている。

また、入力の接続構成をスイッチで切り替えることにより、電池電圧の対応範囲

を広げることも可能となっている。

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1-7-5-16

前述の設計方針及び仕様に基づき設計した試作品の外観写真を図7.5.イ.

3、その回路ブロック図を図7.5.イ.4に示す。

放熱器

空冷ファン

トランス

MOSFET入出力端子(直並列切替兼用)

DC/DC-1

DC/DC-2

入力側電解コンデンサ

出力フィルタ放熱器

空冷ファン

トランス

MOSFET入出力端子(直並列切替兼用)

DC/DC-1

DC/DC-2

入力側電解コンデンサ

出力フィルタ

図7.5.イ.3 昇圧回路外観

A

B

B

A

B

DC/DCコンバータ

並列

直列

10~20V/20~40V

PWM制御部

電圧比較器

出力+

出力ー

図7.5.イ.4 昇圧回路ブロック

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1-7-5-17

本回路では、各コンバータ部に高周波発生回路と高周波用絶縁トランスを組み

合わせたフォワード型コンバータを用いて、1系統の出力電圧フィードバックの

PWM制御で各コンバータを同期スイッチングさせる方式を採用した。

本回路では、市販の汎用 PWM 制御用 IC と高周波スイッチ素子(MOSFET)を用

いた一般的なフォワード型コンバータを基本として、同期させたスイッチング動

作を確保するため、2 台のパワー回路に PWM 制御用 IC の出力を振り分けている。

2 台のパワー回路の 2 次出力側はトランスの昇圧比を上げずに高電圧を得るため

に直列接続としている。この合計電圧をフォトカプラ経由で前記の PWM 制御用

IC にフィードバックすることで、350Vの安定化された電圧を出力する。各

パワー回路中の MOSFET のゲート回路への信号伝達は、絶縁が必要なことからフ

ォトカプラを用いた。

また、ゲート制御用電源には専用のスイッチング電源モジュールを用いて供給

している。スイッチング周波数は 40kHz としたため、トランスは EE70 型のフェ

ライトコアを用いて巻線設計をした。スイッチ素子である MOSFET 及びトランス

の 2 次側に設けた整流ダイオードには、抵抗器+コンデンサのスナバを入れ、ス

イッチング損失が最小となるように設計した。制御回路用の電源は入力が比較的

低圧であることから、三端子レギュレータを用いてドロップ型安定化電源を用い

て確保した。

図7.5.イ.5に上述の設計により試作したサンプルの効率特性を示す。

図7.5.イ.5 昇圧回路の効率特性

40Vという低電圧入力でありながら、最大効率83.5%、定格出力1kW ま

74.0

75.076.0

77.0

78.0

79.0

80.0

81.0

82.083.0

84.0

入力電力[W]

効率

[%]

300 400 500 600 700 800 900 1000 1100 1200 1300 1400

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1-7-5-18

までほぼ効率80%以上を満足している。ここでみられる低出力領域での効率低

下はマイコンに代表される制御部の消費電力の比率が増加するためで、ある程度

仕方のないものである。但し、700W から1kW に向かって出力の増加に伴って

効率が減少する領域は改善の余地がある。

この高出力時の効率低下の要因については、部品特性レベルではトランス、リ

アクトルの巻線抵抗、コアロス、及びスイッチング素子である MOSFET のオン抵

抗があり、回路設計上では、MOSFET のオン・オフ切り替え時のスイッチング損

失が考えられ、より効率を改善するためには、スイッチング損失を抑えるソフト

スイッチング技術の導入が必須となる。

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1-7-5-19

b.フォワードコンバータへのソフトスイッチング導入検討

前項のフォワード型昇圧回路の特に MOSFET のスイッチング損失を低減するた

めに、簡単な共振回路を付加し、ソフトスイッチング動作を行わせる。最適共振

周波数を得るための定数設定を効率よく行い、ソフトスイッチングの効果を比較

検討するために回路解析を行った。この解析に用いたシミュレーションソフトは、

Spectrum 社製の MicroCAP 7 であり、このソフトは SPICE ベースの解析エンジ

ンに分かり易いインターフェース及び波形抽出用の各種プローブ類を備えたもの

である。

解析に用いた回路図を図7.5.イ.6に示す。

図7.5.イ.6 フォワードコンバータ解析モデル

ここで、ソフトスイッチングであるかないかの違いは、図7.5.イ.6の回

路において適切な共振コンデンサ C1 が設置されているかいないかの差である。

LO

Vout

RLCi

***FET Drive Pulse Generator.MODEL PULSE1 Emax PUL(vzero=0 vone=12 P1=0u P2=0.001u P3=2.0u P4=2.001u P5=5.0u).MODEL PULSE2 Emax PUL(vzero=5 vone=0 P1=0u P2=0.001u P3=2.0u P4=2.0011u P5=5.0u)

M1 M2 M3 M4 M5

PWM

V1

R9 R10 R12 R13 R14

10 10 10 10 10

Rd 0

FET(IFRP054) PropartyVBRdssRds(on)baseline@ VgsID @ 25C

600.0141070

680u

RCi5mΩ

Vin12V

Crst

0.0455u

Rrst1.1kΩ

DrstMURBV100

Vdsp

K1

Lp=4.59uHLs=45mHM=0.998 MURBV100

MURBV100

D1

D2

7.8mH

10uCo

RCo5mΩ

122.5

CD1 RD1

CD2

RD2 100mΩ

100mΩ

0.01u

0.01u

M6 M7 M8 M9 M10

PWM

V2

R9 R10 R12 R13 R14

10 10 10 10 10

C112u

M0

Rg210k

Rg10

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1-7-5-20

ハードスイッチングとソフトスイッチング両回路の主要素子における損失配分を

解析結果より算出したものを表7.5.イ.1に示す。ソフトスイッチング方式

の導入により、MOSFET 損失が約20分の1に低減していることがわかる。

表7.5.イ.1 主要回路損失分析

但し、このような単純な共振回路によるフォワード型ソフトスイッチングでは、

高周波スイッチ素子に発生する共振電流が大きな振幅をもつことから、現実的に

はその損失低減効果に限界が生じる。また、負荷変動に対する出力制御を行う場

合、共振定数が固定であるため周波数制御にならざるを得ない。この場合、リプ

ルフィルタを最低周波数に合わせなければならず、部品の小型化の点でも不利な

要素がある。

ソフトスイッチングの効果を有しながら、上述の課題となる共振電流の抑制や

固定周波数での出力電圧制御を実現できる回路方式を選定し、次段階の検討とす

る。

回路部位 記号 ハードスイッチング時 ソフトスイッチング時

入力 Pin 1232 1091

負荷 PL 1007 1000

1次側リセット回路 Prst 1.7 0.5

2次側ダイオード1 PD1 0.1 1.3

2次側ダイオード2 PD2 1.6 1.2

ダイオードスナバ1 PD1s 2 1.1

ダイオードスナバ2 PD2s 2 1.8

MOSFET損失 Psw-on 211 12

電力配分[W]

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1-7-5-21

c.位相シフト型 PWM 制御コンバータの応用

前項の結果をふまえ、従来のハードスイッチングであるPWM方式の利点を活

かしながら、スイッチング時にZVS(零電圧スイッチング)を実現する回路手

法を検討した。図7.5.イ.7にこの回路方式基本部分の動作原理を示す。

図7.5.イ.7 ZVS回路の動作原理

並列にダイオード、コンデンサが接続されたスイッチS1、S2が電圧源A-B

に対して直列接続されている。また、端子Cにはエネルギー蓄積要素としてのL

L1

S1

S2 D2

D1 C1

C2

L1

S1

S2 D2

D1 C1

C2

期間1 期間2

S1ゲート信号

S2ゲート信号

Vsw2(t)

期間1 期間2 期間3 期間4

td

t0 t1 t2

Vsw2

S1

S2 D2

D1 C1

C2

L1

S1

S2 D2

D1 C1

C2

期間4期間3

L1

L1

S1

S2 D2

D1 C1

C2

L1

S1

S2 D2

D1 C1

C2

期間1 期間2

S1ゲート信号

S2ゲート信号

Vsw2(t)

期間1 期間2 期間3 期間4

td

t0 t1 t2

Vsw2

S1

S2 D2

D1 C1

C2

L1

L1

S1

S2 D2

D1 C1

C2

期間4期間3

L1

L1

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1-7-5-22

1(トランス又はリアクトル)が接続されている。各スイッチはデッドタイムt

dを設けて交互にオンされる。以下、期間毎の動作を述べる。

期間1:S2がオン、S1がオフしており、L1の電流iLはS2を流れている。

期間2:S2がオフするとiLはC1、C2を通してそれぞれ流れ、S2のdV

/dtが抑制されるためS2はZVS動作をする。C2の両端電圧はA

-B間電圧に向かって上昇し、この間C1の電荷は電圧源へ帰還される。

期間3:C2の電圧が電圧源電圧に達するとD1がオンし、S2両端電圧は電源

電圧にクランプされる。

期間4:D1がオンしている間にS1のゲート信号が印加されると、S1はZV

Sでターンオンする。

S1がオン→オフ、S2がオフ→オンする場合も同様であり、すべてのスイッチ

はオン時、オフ時共にZVS動作する。C1、C2にはスイッチ素子の接合容量

が、また、L1にはトランスの漏れインダクタンスや励磁インダクタンスが利用

でき、これらの寄生素子の蓄積エネルギーに伴う損失は発生しない。

この基本回路をもとに、燃料電池の入力を前提とした本システムの昇圧コンバ

ータの設計を行った。本システムの入力電圧が比較的低いことや、装置の小型化

を推進するにあたってはトランスの利用率を上げる必要があることより、スイッ

チ素子数が増えるというデメリットはあるものの、トランスの利用効率が高く、

入力電流が比較的低く抑えられるフルブリッジ型を採用することとした。

フルブリッジ型回路でコンバータを構成する際の出力制御に関して、本開発で

は、位相シフト制御という手法を用いることにする。

これは、ブリッジ中にある各スイッチ素子アームの上下段の駆動を、デッドタ

イムを設けて互いに等間隔のデューティ同士でスイッチングを行わせ、かつ、2

組のスイッチ素子アーム同士の信号に位相差をもたせ、位相差の部分のみ負荷に

電力が供給されるような制御方法である。この位相差を出力電圧と基準値との偏

差に応じて可変することによって、出力電圧のフィードバック制御が可能となる。

以上を実用回路として設計したものが、図7.5.イ.8の回路図に示すもので

ある。

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1-7-5-23

この回路は、位相制御専用ICである UCC3895(TI社製)を用いて駆動信号

を発生させ、スイッチブリッジの上下段の駆動を単一電源で行えるハイサイドド

ライブ回路を内蔵した MOSFET 駆動用ICである IR2110(IR社製)によって信

号変換し、スイッチ素子である MOSFET 2SK3271(富士電機製)に入力し、スイ

ッチング動作を行わせるものである。

ここでは、MOSFET を4個ずつ並列にしてさらにオン抵抗を下げた形で使用し

図7.5.イ.8 位相シフト制御型 PWM コンバータ回路図

ている。

ブリッジの負荷となる昇圧用のトランスは形状品番:PQ50/50、コア

材:PC40(TDK製)のフェライトコアに1次、2次の巻線を行ったもので

ある。

IN PU T V O L TA GE :10 V- 1 6 V

IN PU T C UR RE N T :12 0 A

+B

G N D

O UT PU T V O L TA GE :30 0V

O UT PU T C UR RE N T 3 .5 A

+ B

G ND

2 S K 3 27 1 - D1 M R

6 0 V 10 0A 0.0 06 5

123

C N 1

123

C N 2

+-

FAN

F A N

T 4

D 1

E R A 2 2 - 0 6

Q 1 G

Q 1

Q 4

R 6 5 . 1 ( 1 / 2 W )

R 5

5 . 1 ( 1 / 2 W )

Q 1 S

G N D

Q 5 G

Q 5 S

Q 7 G

G N D

T 1P Q 5 0 / 5 0

R 2 7

1 0 ( 2 W )

D 5

S 2 0 L 6 0

C 2 0

1 0 0 P / 1 K V

R 2 8

1 0 ( 2 W )

D 6

S 2 0 L 6 0

C 2 1

1 0 0 P / 1 K V

R 2 9

1 0 ( 2 W )

D 7

S 2 0 L 6 0

C 2 2

1 0 0 P / 1 K V

R 3 0

1 0 ( 2 W )

D 8

S 2 0 L 6 0

C 2 3

1 0 0 P / 1 K V

L 1

8 0 0 u H / 4 A

1

2

C N 3R 3 4

5 1 0 K

R 3 5

5 6 0 K

R 3 6

1 2 0 K

R 3 7

1 0 K

I C4A N 1 4 3 1 T

C 2 6 4 7 0 0 P

C 2 5

1 0 0 0 P

R 3 3 2 2 K

AC

KEI C3

P S 2 5 0 1 - 1 R 3 2 5 1 0

R 3 1 1 K

T 2

E I 2 2

D E L C DD E L A B

R TC TS Y M CG N DR E F

R A M PE A 0E A -

A D SC S

O U T DO U T CV C C

P G N DO U T B

O U T AS S / S D

E A +

1 0987

654321

1 11 21 31 4

1 51 61 71 81 92 0

I C1U C C 3 8 9 5

N CV S S

L IN

S DH I NV D D

N C

L OC O M

V C CN CV SV B

H O

1 41 31 21 11 0

98

1234567

I C 2 _ 1 I R 2 1 1 0

N CV S SL IN

S DH I NV D DN C

L OC O MV C CN CV SV BH O

1 41 3

1 21 11 0

9

8

12

3456

7

I C 2 _ 2 I R 2 1 1 0Q 9

2 S C 4 4 0 8

Q 1 0

2 S C 3 3 1 1 A

D 3

E R A 8 3 - 0 0 6

D 4

E R A 8 3 - 0 0 6

C 1 0

4 7 0 u / 2 5 V

C 1 1

4 7 u / 2 5 V

C 9

4 . 7 u / 2 5 V

Z D 1

4 . 7 V

R 1 6

1 5 0

C 8

0 . 0 2 2 u

R 1 5

0 . 5 1 ( 1 / 2 W )

R 2 2

2 . 4 K

R 2 1

2 . 4 K

R 2 0

8 8 K

C 1 46 8 0 P

C 1 3 0 . 1 u

C 1 2 1 0 0 P

Q 1 1

2 S C 3 3 1 1 A

R 3 8 1 K

R 1 9

2 . 2 K

R 2 3

1 0

C 1 5

0 . 0 2 2 u

D * 1 * C * 1 1 u / 5 0 V

D * 2 *

C * 21 u / 5 0 V

C 1 7

1 u / 2 5 V

C 1 6 1 u / 2 5 V

Q 5 G

Q 5 S

Q 7 GG N D

Q 3 G

Q 1 G

Q 1 S

Q 3 G

G N D

P _ G N D

C 1 8

0 . 1 u / 5 0 V

C 1 9

4 7 u / 2 5 V

R 1 7

2 . 2 K

R 2 4*

R 1 85 1 0

Q 2

2 S K 3 2 7 1 - D 1 M R

R 2 5

5 . 1 ( 1 / 2 W )

R 2 6 5 . 1 ( 1 / 2 W )

Q 3

2 S K 3 2 7 1 - D 1 M R

Q 5

2 S K 3 2 7 1 - D 1 M R

Q 6

R 1 5 . 1 ( 1 / 2 W )

R 2

5 . 1 ( 1 / 2 W )Q 7

R 7

5 . 1 ( 1 / 2 W )

R 8 5 . 1 ( 1 / 2 W )

Q 8

2 S K 3 2 7 1 - D 1 M R

Q 1 2

Q 1 3

R 9 5 . 1 ( 1 / 2 W )

R 1 0

5 . 1 ( 1 / 2 W )Q 1 4

2 S K 3 2 7 1 - D 1 M R

R 1 2

5 . 1 ( 1 / 2 W )

R 3 9 5 . 1 ( 1 / 2 W )

Q 1 5

2 S K 3 2 7 1 - D 1 M R

Q 1 6

2 S K 3 2 7 1 - D 1 M R

Q 1 7

R 4 0 5 . 1 ( 1 / 2 W )

R 4 1

5 . 1 ( 1 / 2 W )Q 1 8

R 4 3

5 . 1 ( 1 / 2 W )

R 4 4 5 . 1 ( 1 / 2 W )

Q 1 9

2 S K 3 2 7 1 - D 1 M R

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1-7-5-24

この設計仕様で組み立てた試作品の外観写真を図7.5.イ.9に示す。

入力電圧が40Vと低いことで、1kW出力時には入力電流が100A程度とな

るため、配線インピーダンスによる損失を考慮しなければならない。よって、配

線は2mm厚の銅板をプリント基板上に配置することで、対策を行った。

図7.5.イ.9 位相シフト制御型 PWM コンバータ試作品外観

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1-7-5-25

本品の効率特性を図7.5.イ.10に示す。ピーク値で93.7%、1kW定

格で93.3%を達成した。

昇圧コンバータ効率の総合効率を図7.5.イ.11に示す。入力が40Vと

低電圧でありながら、92%を超える効率を得たものは過去に類が無く、住宅向

けコージェネレーション用燃料電池発電システムのパワーコンディショナに本ブ

リッジ方式のソフトスイッチング回路が有用であることを証明している。

また、この位相シフト型コンバータ方式を1系統入力方式のまま、さらに低電

圧領域の12V入力に対応させる検討を行った結果では、1 次側配線インダクタ

ンスの影響がより大きくなっていることがわかった。平成14年度以降は、この

配線インダクタンスの低減に焦点をあて、150A級のスイッチ素子周辺におけ

る配線の影響を最小限にしつつ放熱効率も向上させるモジュール化形態を追求し

てゆく。

図7.5.イ.10 昇圧回路の効率特性

80

82

84

86

88

90

92

94

0 200 400 600 800 1000 1200

出力[W]

[%]

図7.5.イ.10 昇圧回路の効率特性

80

82

84

86

88

90

92

94

0 200 400 600 800 1000 1200

出力[W]

[%]

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1-7-5-26

80

82

84

86

88

90

92

94

0 200 400 600 800 1000 1200 出力[W]

[ % ]

図7.5.イ.11 パワーコンディショナの効率特性

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1-7-5-27

(5)今後の課題と予定

(ア)小型改質器の実用化技術開発

a.改質器の長寿命化検討

これまでに検討してきた応力緩衝構造の改質器を実際に起動/停止運転試験,

連続運転試験し,実試験結果からの寿命推定を実施する.シミュレーション結果

との違いがあり,寿命面での課題があるならば,さらなる構造変更について検討

する.

b.改質器の製造ばらつき低減検討

改質器性能面での製造ばらつき要因を追究,特定し,製造工程の見直し,設計

変更について検討し,改質器製造品質レベルの向上をめざす.

(イ)パワーコンディショナの実用化技術開発

40V入力仕様で効率特性に効果のあった、位相シフト型フルブリッジコンバ

ータの方式でさらに低入力電圧(12V)での効率向上を目指す。この場合、ト

ランス1次側に付属する回路の配線の影響が大きいことが既に実験でつかめてい

るので、150A級スイッチ素子周辺の配線の影響を最小限にしつつ放熱効率も

向上させるモジュール化形態を追求してゆく。

コストの検討については、本来の目的が燃料電池スタックの積層数を減らして

スタックそのものを低コスト化し、その電圧に対応できるパワーコンディショナ

の実現に目処をつけることなので、コストの数値的目標はシステムで算出しない

と効果が見えてこないため、この報告では述べていない。但し、設計上は、部品

類をできるだけ汎用品とすることや、構造を単純化することによってコストを抑

えることを前提に回路設計を行なっている。

また、信頼性評価については、既存の電子機器の評価と同様であるため、パワ

ーコンディショナ単体としてはあえて、本開発では取り上げなかった。

(6)外部発表

・特許 5件

・論文,発表 3件

・新聞発表 0件

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1-7-5-28

(7)開発計画

小型改質器の実用化技術開発

(1)高性能改質器の実用化検討

(2)量産化改質器の開発

(3)劣化特性評価

パワーコンディショナーの実用化技術開発

(1)高効率化検討

(2)小型・低コスト化検討

平成12年度 平成13年度 平成14年度

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1-7-6-1

7.6 固体高分子形燃料電池用流量制御型ガス昇圧器開発(長野計器(株)) (1) 本事業の目標 家庭用固体高分子形燃料電池システムの改質器、CO変成器、燃料電池セルの各要素には流路

に抵抗がある。しかし、燃料電池の燃料である都市ガスの供給圧力は3kPa(300 mmH2O)以下で、

電池システムに必要な都市ガスの量を制御してガスを流すためには圧力が低すぎ、都市ガスが

必要量流れない。現状の家庭用固体高分子形燃料電池システムの流路抵抗は 10~20 kPa(1000

~2000 mmH2O)であり、燃料である都市ガスは10~20 kPa(1000~2000 mmH2O)に昇圧し、かつそ

の流量を制御する必要がある。

現状の家庭用固体高分子形燃料電池システムは、図7.6.1に示すような構成であるが、現在

都市ガスに適合し、寿命について保証しているポンプは市販されていない。また流量制御に用

いられるマスフローコントローラ、流量制御弁等は大型で高価格であり、かつポンプと流量制

御弁を別々制御するため、大きな消費電力を必要としていた。このため家庭用固体高分子形燃

料電池を実用化するためには、改質器、CO 変成器、電池セル等の主要素に加えて小型高効率、

低価格のガス昇圧器の開発が不可欠である。

そこで本事業では、都市ガスの昇圧と流量制御を1台の機器で行う小型低価格の流量制御型

ガス昇圧器の開発を行い、家庭用固体高分子形燃料電池の実用化を促進するものである。その

構成を図 7.6.2に示す。

具体的には都市ガスを 10~20 kPa(1000~2000 mmH2O)に昇圧し、かつその流量を制御するた

めに必要なポンプ、流量センサ、制御システム等の技術開発を行い、2005年以降に予想される

家庭用固体高分子形燃料電池の導入段階に向けて、格段の性能向上、大幅なコスト低減を図る

ことを目的とする。

(ア)目標仕様 a 流量制御範囲 2~6 NL/min

ポンプ 流量制御弁 改質器 CO 変成器 電池セル

図 7.6.1 従来の燃料電池システム

流量センサ

図 7.6.2 流量制御型ガス昇圧器を組み込んだシステム

(ポンプ) (流量センサ)

改質器 CO 変成器 電池セル 流量制御型ガス昇圧器

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1-7-6-2

b 吐出圧力範囲 10~20 kPa(1000~2000mmH2O)

c 寿命 連続運転で 40,000 時間(平成 13 年度目標10,000 時間)以上

であること。

d 消費電力 15 W以下(5 NL/min,20 kPa(2000mmH2O)の場合)であること

e その他の機能 故障に対する診断機能を有すること。

f コスト 10,000円以下

注)流量制御範囲、吐出圧力は燃料電池システムの要求仕様に合わせていく。

(2) 目標の設定理由 家庭用固体高分子形燃料電池の燃料である都市ガスの供給圧力は 3kPa(300 mmH2O)以下で、

燃料電池システムは改質器、CO変成器、燃料電池セルのガス流路抵抗が10~20 kPa(1000~2000

mmH2O)ある。このため都市ガスを昇圧し、かつその流量を制御する必要があり、都市ガスの昇

圧と流量制御を1台の機器で行う流量制御型ガス昇圧器の開発を行うもので、基本的仕様は 1

kW級家庭用固体高分子形燃料電池をベースにした。

流量制御範囲及び吐出圧力範囲は、家庭用固体高分子形燃料電池メーカへの調査から設定し

た。寿命は、開発開始前の調査では1年間ノーメンテナンスの要求が多くあり10,000時間を目

標としたが、その後の調査で5年間連続運転、ノーメンテナンスを要求するメーカが多く、実

用化を考慮し 40,000時間に再設定した。消費電力は燃料電池の効率を高くするため、補機の消

費電力は発電量の 10 % 以下を要求された。多くの燃料電池メーカが使用していたポンプは、

40~60 W で半分以下にする要求が強く、5 NL/min、吐出圧力 20 kPa(2000 mmH2O)の場合に 現

状の半分以下の15 W に設定した。故障診断機能はガス漏れ、制御機能低下に対し安全性を高め

るため設定した。

現状の昇圧システムのコストは、10万円を越えるレベルにあり実用化にほど遠い状態である。

1kW の家庭用級固体高分子形燃料電池の価格は量産レベルで50万円以下とされており、家庭用

固体高分子形燃料電池メーカへの調査から現状の 1/10以下、量産時本体価格の1/50以下と設

定した。

(3) 事業全体の成果 (ア)ポンプユニットの検討・試作

ガス昇圧器で重要な要素であるポンプは、様々な方式がある。ポンプや軸流ポンプなど回

転する羽根車を持つターボポンプ、ダイアフラムやピストンが移動する容積だけを送り出

す容積式ポンプがある。容積式ポンプはダイアフラム式やピストン式などの往復動ポンプ、

可動翼式やカム式などの回転式ポンプがある。これらの中で大きさ、流量、吐出圧、外部

への漏れ等の特性を検討した。その結果、ダイアフラム式が小型小流量向きで、適用吐出

圧力が700kPa以下、外部への漏れがない等から最適であった。

ダイアフラム式ポンプで吐出流量、吐出圧力は目標仕様を満足するものが試作できている。

寿命、消費電力の目標仕様を満足するポンプを現在試作中である。試作ポンプのモータは、

最大出力時にモータ効率が最大になるブラシレスモータで主な仕様は、回転数約2,800 rpm、

効率60%、軸出力4 Wである。

初期のポンプユニットは、脈動が大きいと流量センサの出力誤差が大きくなってしまうの

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1-7-6-3

で、その影響を最小限にするために畜圧タンクを挿入していたが、現在試作中のポンプ部

は畜圧タンクを無くすためと、ポンプユニットのダイアフラムの応力解析結果、及びポン

プユニットの加速寿命試験の途中経過から、ダイアフラムの設計応力を低減するため、一

つのモータで4ヘッドの圧縮部を持つ構造としている。

また吐出圧力の低下に伴い、低消費電力化、長寿命化で有利なリニアポンプ方式について

も加えて検討を始めた。

長寿命化については、当初目標に比べ4倍の目標に変更しており厳しい目標となっている。

ダイアフラムの応力低減と合わせゴム素材へのフィラー添加によるゴム材料の耐疲労性向

上も図って目標達成を狙っている。

(イ)加速寿命試験 ポンプの寿命試験を行うに当たり、1~5 年という寿命が設定されていたので加速試験を

行う必要があった。しかし現在ゴム材料に対する適当な加速係数設定の理論が無く、実機

により加速係数設定を行っている。試験は、初期のガス昇圧器に使用したポンプを用いて

行っている。周囲温度 100℃で試験したポンプは、1,500~2,800 時間で全数ダイアフラム

が破損、周囲温度 55 ℃で試験したポンプはダイアフラムが 2,500~8,500 時間で全数ダイ

アフラムが破損、室温で試験したポンプは、9,000時間経過しているがダイアフラム部の異

常は起きていない。室温での試験結果を待って加速寿命係数を算出する。

ダイアフラムの破損原因は、繰り返し動作による疲労破壊と、摩耗部の応力集中による破

壊と、2つのモードがあることが分かった。

(ウ)小形低価格化に適した流量測定用センサの試作、評価 流量制御をする上で重要な流量センサは、小形低価格化に適した流量検出方式として、熱

線式と差圧式を選定し試作評価を行った。熱線式流量センサは、マイクロチップ化したセ

ンサ、サーミスタを使用したものを試作し性能評価した。定常流に対する流量の直線性誤

差は流量設定値の 5%であったが、ガスの流れに脈動があると出力が低下する影響があり脈

動低減のため絞りと畜圧タンクを挿入する必要があることが判った。

差圧式流量センサについては、流量差圧変換エレメントとしてピトー管を試作し評価した。

ピトー管は、低圧力損失の流量検出が可能であり、脈動に対する流量測定精度の影響が少

なく安定性がよいことが判った。当社では小型微差圧センサを量産しており、低価格流量

センサが製作可能である。しかし差圧式流量計は測定圧力、温度の補正が必要なため、流

量制御状態で変化する吐出圧力、吐出温度の影響を受けにくい吸入側に流量センサを入れ、

吐出側畜圧タンクが不要な方式を検討した。当初吐出圧力が変化するとポンプの吐出圧と

脈動の影響を受け、見かけ上のピトー管係数が変化してしまったが、整流格子の挿入、流

路形状に適したピトー管の形状検討により性能上影響がでない流量センサが試作でき、低

価格流量センサ開発のめどが立った。

(エ)ガス昇圧器の試作 燃料電池システムで要求されるガス昇圧器の仕様は、燃料電池システムの開発の進捗によ

って変化してきている。ガス昇圧器は吐出流量増の要求により、吐出流量に余裕のある仕

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1-7-6-4

様のポンプを製作して試作器を製作した。試作器はブラシレスモータで作動する2ヘッド

のポンプを使用し、流量制御はブラシレスモータの回転数制御を PWM 指令電圧制御方式で

行い、最大流量7 NL/min、流量制御精度5%を達成した。

この試作器を燃料電池コージェネシステムメーカーに提示しガス昇圧器に対する要求仕

様の調査も行った。その中で、燃料電池システムの圧力損失は最大でも20 kPaであること

が判った。制御流量範囲は、燃料電池システムによって0.6 NL/min以上の低流量から制御

が必要な機種と、2 NL/min以上の流量制御が必要な機種と2種類必要なことが判明した。

20 kPa 程度の圧力損失の場合、都市ガスの供給圧力が 2 kPa であると、ポンプが停止し

ていても 1 NL/min程度の都市ガスが流れてしまい、最初の試作器では、低流量域の制御が

できなかった。この対策としてポンプ入り口にチェックバルブを挿入し、0.6~5 NL/minの

流量制御ができるようにし、低流量タイプとした。

試作器は流量制御範囲 0.6~5 NL/minと 2~7 NL/min、の2機種を製作し、消費電力は流

量5NL/min、吐出圧力20 kPaの時約26 Wであった。吐出圧力20 kPa(流量5 NL/min時)

は本試作器に使用したポンプにとって余裕があるため、今後ポンプの能力を最適化するこ

とで、消費電力を更に小さくできる。

また、ポンプ回転数指令値と吐出流量を比較して規定値以上の差がある場合、警報出力が

出るようにし、ポンプ及び配管からのガス漏れ検出ができるようにした。

(4) 研究開発毎の成果 (ア)ポンプユニットの小型化・長寿命化の検討・試作

a ポンプユニットの小型化の検討 (a) ポンプユニットの概要

ガス昇圧器で重要な要素であるポンプは、様々な方式がある。ポンプや軸流ポンプ

など回転する羽根車を持つターボポンプ、ダイアフラムやピストンが移動する容積だ

けを送り出す容積式ポンプがる。容積式ポンプはダイアフラム式やピストン式などの

往復動ポンプ、可動翼式やカム式などの回転式ポンプがある。これらのポンプを吐出

量、吐出圧力、ポンプの効率を決める重要な要因となる摩擦損失、大きさ、安全性の

影響する外部への漏れに関して比較した結果を表 7.6.1に示す。この表からダイアフ

ラム式は小型小流量向きで、適用吐出圧力が 1 MPa以下、外部への漏れがない等から

ダイアフラム式が最適であることが判る。このためダイアフラム式の既存ポンプ、流

量センサの特性調査を行いポンプユニットの検討を行った。

表 7.6.1 各種ポンプの比較

方式 容量 吐出圧力 摩擦 形状 外部漏れ 遠心ポンプ 大 ~2kPa 小 大 なし タ ー ボ

ポンプ 軸流ポンプ 大 ~0.5kPa 小 中 なし ピストン式 中 ~10MPa 大 中 有り 往 復 動

ポンプ ダイアフラム式 小 ~1MPa 小 小 なし 可動翼式 中 ~1MPa 中 中 なし

容 積 ポンプ

回 転 ポンプ カム式 中 ~1MPa 中 中 なし

検討の結果ポンプは、吐出圧力、流量制御範囲を考慮して、流量制御性が得られや

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1-7-6-5

すい回転モータを使用したダイアフラムポンプとした。燃料電池のガス流量は、その

原理から質量流量制御が要求されるので、質量流量センサを使用したが、質量流量セ

ンサは、ポンプの脈動による影響を受けやすいことが判明し、脈動を押さえる為に初

期のポンプでは約 90 ccの畜圧タンクを装着した。このためポンプユニットは大きく

なってしまった。

ポンプユニットを小形化するため、脈動が小さいポンプを開発しガス昇圧器から畜

圧タンクを削除することを目指した。ポンプの脈動を小さくする手段として、一つの

モータでポンプの圧縮部を四つ持つ4ヘッドポンプとすることとした。又、4ヘッド

化に合わせてポンプのダイアフラムの変位を小さくし、ポンプのダイアフラムの応力

を小さくして長寿命化も図った。

ポンプの仕様として重要な吐出量は、当初計画より大きい流量を要求する燃料電池

メーカがあり、最大7 NL/minとした。吐出圧力について見直しがされており、5 NL/min

の時 20 kPa あれば十分であることが分かったので、これらの値をベースに設計を行

った。

(b) 容積変化量の算出 ポンプを設計するに当り、求められている流量を吐出する為に必要な容積変化量を

式7.6.1より算出した。

要求事項は流量 L=7, 吐出圧力 Pd=120, 吸入圧力 Ps=100 である。試作したモータ

の効率の良い最大回転数は N=2,850である。すきま比はε=0.6と設定した。これらの

パラメータから得られる容積変化量はVs=2,924 mm3となった。従って、1ヘッド当り

必要な容積変化量は731 mm3となる。

ダイアフラムの有効受圧径をφ25 mm からφ34 mm まで10種類のダイアフラムに

ついて、この容積変化量を得る為の変位を各々求めた。この10種類のダイアフラム

について有効受圧径と変位から曲げ応力の計算を行った。この結果ダイアフラム径φ

30 mm、変位±1.8 mmが最適であった。

N:回転数(rpm)

L:流量(NL/min)

Vs:容積変化量(m3)

ε:すきま比Vc/Vs

Pd:吐出圧力(kPa abs)

Ps:吸入圧力(kPa abs)

n:隙間に残ったガスの膨張係数で1.2とした

Vc:すきま容積(m3)

VsL

N 1 εPd

Ps

1

n1

式 7.6.1

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1-7-6-6

(c) ポンプユニットの試作 試作したポンプユニットは、初期ポンプのものより体積比で約 90 %と小型になっ

た。ダイアフラムは有効受圧径φ30mm、変位±1.8 mmを使用した。現在、本ポンプユ

ニットの試作中である。ポンプユニットの外形を図7.6.3に示す。

図7.6.3 ポンプユニットの外形図

b ポンプユニットの長寿命化の検討 (a) 初期ポンプポンプのダイアフラムの応力

初期のポンプは、寿命試験から常温で9,000時間以上、55 ℃では約2,500~8,500時

間であった。当初目標は10,000時間以上であったが、燃料電池メーカの情報では、メ

ンテナンス上の問題からガス昇圧器の長寿命化が必要で、連続運転時間40,000時間の

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1-7-6-7

要求が出ている。長寿命化のため、現在加速寿命試験を行っている初期ポンプの試作

器に使用したポンプのダイアフラムへの応力負荷状態を調査し、この負荷応力を低減

することによりダイアフラムの耐久性向上を目指した。

初期の試作器のダイアフラムの半断面を解析モデルとして応力解析を行った。解析

条件は以下の通りである。

・拘束条件 周辺固定(図中一点鎖線部)

・ダイアフラム印加圧力 20 kPa

・変位 ±2.5 mm(図中二点鎖線部)

① 上方向へ変位させた場合 最も応力が高かった箇所はダイアフラムの縁部で、有効受圧部の最も外側の箇所

であった。(図7.6.5矢印部)

図 7.6.4 上方向に変位させた場合のダイアフラムの形状

図7.6.5 ダイアフラム縁部(上図○部)の応力分布

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1-7-6-8

表7.6.2 初期ポンプダイアフラムの最大応力(上方向へ変位させた場合)

MPa(kgf/mm2)

② 下方向へ変位させた場合 最も応力が高かった箇所はダイアフラムの縁部で、有効受圧部の最も外側の箇所

であった。(図7.6.7矢印部)

図 7.6.6 下方向へ変位させた場合のダイアフラムの形状

図 7.6.7 ダイアフラム縁部(上図○部)の応力分布

表 7.6.3 初期ポンプダイアフラムの最大応力(下方向へ変位させた場合)

MPa(kgf/mm2)

ダイアフラム表(上)側 ダイアフラム裏(下)側 最大応力σmax 2.8(0.29) 2.8(0.29) 応力の方向 引張り 圧縮

ダイアフラム表(上)側 ダイアフラム裏(下)側 最大応力σmax 0.94(0.096) 0.54(0.055) 応力の方向 圧縮 引張り

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1-7-6-9

(b) 改良ポンプのダイアフラムの応力 初期ポンプダイアフラムより応力を低減でき、且つ「7.6.(4).(ア).a.(b)

容積変化量の算出」で求めた容積変化量を得ることのできるダイアフラムを設計し応

力解析を行った。

ダイアフラムの有効受圧径、変位及び断面形状についても応力低減のため見直しを

行い、ダイアフラムの応力解析を行った。ゴム材料にとって弱いとされる引張り方向

の応力は初期ポンプのダイアフラムは最大2.8 MPaであった。これに対してH13年度の

ダイアフラムの引張り方向の最大応力は1.5 MPaであり、設計応力は5割強に低減でき

た。初期、改良ポンプ両者ともダイアフラムを下に変位させた時の応力が最も高かっ

た。

設計応力を5 割弱低減させた事によって寿命を 4~7倍程度伸ばす事ができる見

通しであり、今後これを確認する予定である。

解析条件は以下の通りである。

・拘束条件 周辺固定(図中一点鎖線部)

・ダイアフラム印加圧力 20 kPa

・変位 ±1.8 mm(図中二点鎖線部)

① 上方向へ変位させた場合 最も応力が高かった箇所はダイアフラムの縁部で、有効受圧部の最も外側から

15mm内径側の箇所であった。(図7.6.9矢印部)

図 7.6.8 上死点におけるダイアフラムの形状

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1-7-6-10

図 7.6.9 ダイアフラム縁部(上図○部)の応力分布

表 7.6.4 改良ポンプのダイアフラムの最大応力(上方向へ変位させた場合)

MPa(kgf/mm2)

ダイアフラム表(上)側 ダイアフラム裏(下)側 最大応力σmax 0.36(0.037) 0.26(0.027) 応力の方向 圧縮 引張り ② 下方向へ変位させた場合

最も応力が高かった箇所はダイアフラムの縁部で、有効受圧部の最も外側の箇所

であった。(図7.6.11矢印部)

図 7.6.10 下死点におけるダイアフラムの形状

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1-7-6-11

図 7.6.11 ダイアフラム縁部の応力分布

表 7.6.5 改良ポンプのダイアフラムの最大応力(下方向へ変位させた場合)

MPa(kgf/mm2)

ダイアフラム表(上)側 ダイアフラム裏(下)側 最大応力σmax 1.5(0.15) 1.6(0.16) 応力の方向 引張り 圧縮

c.まとめ (a)4ヘッドポンプ

ガス昇圧器から畜圧タンクを削除することでユニットの小型化を目指したポンプ

の試作を行った。ポンプの脈動の減少、長寿命化を狙って一つのモータでポンプの圧

縮部を4ヘッド化しダイアフラム変位を小さく設計した。

燃料電池メーカの要求をふまえポンプの主な仕様として、最大流量は7 NL/min、吐

出圧力は 5 NL/minの時 20 kPaとした。今後特性試験を行っていく予定である。

ダイアフラムの長寿命化の検討はポンプの設計に合わせて行った。構造解析により

ダイアフラムの負荷応力を計算し、加速寿命試験経過もふまえ最適な形状を求めた。

またダイアフラムを含むゴム材料の寿命は形状以外にもゴムに混入するコンパウン

ドによっても伸ばす事が出来ることが判り、このコンパウンドの影響についての検討

を行っている。 (b)小型化・長寿命化に有効なポンプ

詳しくは「7.6.(4)・(イ)加速寿命試験」で述べるが、モータでダイアフラ

ムを駆動する為ダイアフラムが変位した軌跡は直線ではなく、ダイアフラムの中心軸

を曲げる運動が付加される。これがダイアフラムの寿命に影響していると考えられる。

ダイアフラムを直線的に変位させるポンプとしてソレノイドで駆動するリニアポ

ンプが有る。低消費電力化、長寿命化に有効であると考えられるのでこれも 4ヘッド

ポンプ同様に開発を行っている。

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1-7-6-12

(イ)加速寿命試験 a 目的

ガス昇圧器の寿命は当初10,000時間以上に設定しており、その後燃料電池メーカの

情報により40,000時間以上が求められていることが明らかになった。従ってガス昇圧

器の寿命試験は長期にわたる確認試験が必要となる。寿命予測を短期間で的確に行う

ため加速寿命試験が必要となるが、ガス昇圧器の寿命に影響する主な要因がポンプの

ダイアフラムであり、このダイアフラムの試験条件及び評加速寿命係数について定量

的な値は確立されていない。このため、加速寿命試験の加速係数を決定するための試

験を12年度から実施している。現在もこの試験を引き続き行っている。

b 試験方法 (a) 試験条件

試験条件は以下のとおりである。

・流体 :空気、都市ガス

・温度 :常温,55℃(空気にのみ),100℃(空気のみ)

・負荷圧力 :40 kPa

・ポンプ電源電圧 :24 VDC

・試料台数 :各4台

温度条件は JIS K6260「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムのデマチャ屈曲亀裂試験方法」

に記載されている「試験温度及び湿度」を参考にして設定した。負荷圧力・ポンプ電

源電圧の条件は初期ポンプのガス昇圧器の仕様による。また、寿命に関してはポンプ

の負荷圧力が設定値である 40 kPaを維持できなくなった時を寿命とした。 (b) 試験データ測定項目

試験データは吐出圧力を測定した。

・吐出圧力は 60分おきの連続測定である。 (c) 試験装置

図7.6.12に試験装置の概略図を示す。

常温を除く55 ℃と 100 ℃の温度条件の試験では恒温槽にポンプを設置して試験を

行った。また、100 ℃の温度条件の試験ではモータの使用温度範囲が 80 ℃であるた

め、モータの過熱を防ぐためモータに銅管を巻きつけ冷却水を流した。

図 7.6.12 温度による寿命加速試験装置の概略図

流量計 絞り ポンプ

圧力センサ

P

畜圧タンク

恒温槽

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1-7-6-13

c 試験結果 (a) 寿命加速試験の経過

寿命加速試験は現在も継続中である。100 ℃の雰囲気で運転したポンプは 1,500~

2,800 時間で全数が破損した。55 ℃の雰囲気で運転したポンプは3台が約 6,500~

8,500時間でダイアフラムが破損し、1台が約 2,500時間でダイアフラムが破損した。

常温の雰囲気で運転しているポンプは、現在引き続き試験を継続中であり、運転時間

は約9,000時間を越えている。

流体が都市ガスの場合も同様な経過である。また吐出圧力が上下しているが、これ

は圧力調整用の絞り弁が時間と共に流路が絞られる方向に動いてしまうためで定期

的に調整して試験を行っている。

図 7.6.13 吐出圧力の経時変化(常温)

図 7.6.14 吐出圧力の経時変化(55℃)

20

30

40

50

60

0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 10000経過時間(h)

吐出

圧力

(kP

a)

No.1 No.2

No.3 No.4

20

30

40

50

60

0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 10000

経過時間(h)

吐出

圧力

(kPa)

No.1 No.2

No.3 No.4

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1-7-6-14

図 7.6.15 吐出圧力の経時変化(100℃)

(b)ダイアフラムの破損状況 ① ダイアフラムの破損箇所

現在、寿命加速試験で 8 台のポンプでダイアフラムの破損が確認されている。

図7.6.16~図 7.6.23は破損したダイアフラムである。又、モータは全て右側か

ら取付けられている。図7.6.16~図 7.6.23から分るように、全てにおいてダイ

アフラムの破損箇所は本紙面上下方向のダイアフラムを押えている縁部と、縁部

から1.5~2mm程度内径側であった。

図 7.6.16 試料 No.1(100℃) 図 7.6.17 試料 No.2(100℃)

図 7.6.18 試料 No.3(100℃) 図 7.6.19 試料 No.4(100℃)

20

30

40

50

60

0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 10000

経過時間(h)

吐出

圧力

(kPa

No.1 No.2

No.3 No.4

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1-7-6-15

図7.6.20 試料 No.1(55℃) 図 7.6.21 試料 No.2(55℃)

図 7.6.22 試料 No.3(55℃) 図 7.6.23 試料 No.4(55℃)

② 縁部の破損原因 縁部は応力解析の結果のよりダイアフラムで最も応力の高い箇所であること

が分っている。実際に破損が確認されたのは、縁部の中でも本紙面上下方向に

あたる箇所であった。これは、モータが回るとダイアフラムは直線的に変位す

るのではなく、中心軸を曲げる運動が加わる事が原因であると考えられる。つ

まり、モータが回るとダイアフラムは本紙面上下方向に振られながら変位し、

縁部で破損した箇所には先の解析で求めた応力の他に、曲げ応力が発生してい

たためである。

③ 縁部から内径側の箇所の破損原因 縁部とは別に縁部から 1.5~2 mm 程度内径側にも破損が確認された。応力解

析の結果では、この箇所は縁部ほど応力が大きくなかった。応力解析に当って、

以下のことを考慮していないので解析結果とは異なった箇所で破損が生じたと

考えられる。

図 7.6.24に示すとおり、試験しているポンプのダイアフラムは皿部に固定さ

れており、皿部もダイアフラムと一緒に変位する構造になっている。ポンプ吐出

圧力が異常になった場合にダイアフラムの過大な変形を防ぎ、ダイアフラムを保

護するため、皿部のギャップは1.5~2 mmとしている。しかし、上死点付近でダ

イアフラムの変形がキャップより大きく皿部に当るため、ダイアフラムが皿部と

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1-7-6-16

こすれ合い、ダイアフラムの縁部から1.5~2 mm程度内側の皿部の端が摩耗した

とみられる傷が生じた。このためこの部分に応力が集中して破損したと考えられ

る。

図 7.6.24 ダイアフラムと皿部の位置関係

d まとめ ポンプの寿命を短期間で確認するための加速寿命試験を引き続き行っている。全ての

条件でダイアフラムが破損していないので加速係数を求めることはできなかったが、破

損したダイアフラムの破損原因は疲労と摩耗による2種類の原因があることが判った。

本試験は全てのダイアフラムが破損するまで継続し加速係数の算出を目指す。また、現

在までの結果をポンプユニットの設計に生かしポンプユニットの長寿命化を進めている。

ギャップ

ロッド

皿部:外径:φ33

ダイアフラム

縁部の径(有効受圧径):φ39

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1-7-6-17

(ウ)流量センサの試作

a 概要

燃料電池用流量制御型ガス昇圧器は、改質器以降の状態変化による吐出圧変化、ポン

プの特性変化があっても燃料電池システムから要求されたガス流量を精度良く吐出する

ために、図 7.6.25に示すように内部に流量センサを搭載することにした。初期のガス昇

圧器の試作器では、市販の流量センサをベースにして、更にガス種の選択が容易で温度

や圧力の補正がなされた熱線式流量センサを採用した。

図 7.6.25 ガス昇圧器の概要

使用した熱線式流量センサは、ガス昇圧器としての制御方式検討や特性評価には充分

有効であるが、製品化を見据えた場合、大きさや価格が重要な要因となる。このため、

小型低価格が実現可能で必要な特性の流量測定用センサの調査・検討を熱線式以外の方

式についても行った。あらためて、ガス昇圧器用の流量センサとしての要求条件を示す

と、

・往復駆動型ポンプの流量変動の影響を受けにくい。または容易に回避することが可

能。

・流量センサでの圧力損失が小さい。

・応答性が高い。

・小型、軽量で耐振性が高い。

・低コスト、長寿命である。

これらの条件を満たすセンサとして、熱線式流量センサや差圧式流量センサがあり、

個別に試作・評価した。

制御部

流量センサ出力

警報信号

制御信号入力

ポンプ駆動電源

ポンプ 畜圧タンク 流量センサ

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1-7-6-18

b 熱線式流量センサ

熱線式流量センサは検出素子(熱線部)が異なる A タイプ、B タイプの2種類のセン

サについて試作を行った。A タイプの熱線式流量センサは、検出部にサーミスタを用い

た流量センサであり、B タイプの熱線式流量センサは、熱線部をマイクロチップ化した

流量センサで初期に試作したガス昇圧器に使用した流量センサを低価格化、小型化した

ものである。A タイプの熱線式流量センサの外形図を図 7.6.26 に、B タイプの熱線式流

量センサの外形図を図 7.6.27に、マイクロチップの概要図を図7.6.28に示す。

図 7.6.26 熱線式流量センサAタイプ

図 7.6.27 熱線式流量センサBタイプ

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1-7-6-19

上流側温度センサ ヒータ 下流側温度センサ

図 7.6.28 マイクロチップ化した流量センサ

2次試作器で用いた熱線式流量センサの目標仕様を下の表 7.6.6に記載する。 表 7.6.6 熱線式流量センサの仕様

項目 仕 様 測定流量範囲 1~10 NL/min 都市ガス13A

出力 0~5 VDC 直線性 1.0≦x<2.5 NL/min時 ±0.125 NL/min以下

2.5≦x≦10.0 NL/min時 ±5 %rdg 耐圧力 0~0.5 MPa

使用温度範囲 0~50 ℃ 試作品と湿式ガスメータを直列に接続し、湿式ガスメータの指示値を基準として測定

流体が空気の場合の流量特性を調査した。その流量特性測定系統を図7.6.29に示す。流

量の変更は流量可変バルブにて行った。

Aタイプの熱線式流量センサは、10 NL/min時に最大で約6 %rdgの誤差があり、それ

以外の流量でも誤差が大きかった。

B タイプの熱線式流量センサは直線性が目標仕様の範囲にあり、誤差も±5 %rdg 以内

であった。

以上の流量特性の調査により Bタイプの熱線式流量センサを、昇圧器に組み込む機器

とした。

空気

図 7.6.29 流量特性測定系統図

c ピトー管式流量センサ

ピトー管式流量センサは、差圧センサを使用した「差圧式流量センサ」の1つである。

熱線式が質量流量を測定するのに対して、差圧式は測定気体の圧力(絶対圧力)が大き

く変化すると測定誤差が大きくなる欠点があるため、従来は最有力の方式とは見ていな

かった。しかしヒアリングの中で各燃料電池コジェネシステムを開発するメーカーの要

求圧力の仕様が、低圧(絶対圧として変動が小さい)に変化してきたことと、別テーマ

で行っていた差圧センサの用途開発において、小型安価な流量センサが開発できる可能

性が見いだされたことから「差圧式流量センサ」も有力な方式の1つになってきた。こ

流量可変

バルブ

熱線式流量

センサ

湿式ガスメータ

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1-7-6-20

れを受けて、要求性能とコストの両立性を見極めるため、本格的な「差圧式流量センサ」

の検討・開発・評価を行った。 (a)流量センサの配置

熱線式の流量センサは脈動の影響を受けやすいことから、ポンプの吐出側に畜圧タ

ンクを入れてその後段に設置したが、差圧式流量センサは、次の理由により燃料ガス

取込部(ポンプの吸入側最前段。このガス昇圧器のブロック図を図 7-6-30 に示す)

に配置することを前提として評価した。

・燃料電池セルからの水分を含んだ還流ガスがポンプに戻される。

・ポンプの吐出圧力は後段機器の影響で変化しやすい。

・ポンプの吐出温度は高温になる上、後段機器の影響で変化しやすい。

図 7.6.30 燃料電池用ガス昇圧器 ブロック図

(b)ピトー管式流量センサ ピトー管と差圧センサを一体で製作可能な構成を検討し試作した。ピトー管型差圧

センサとして試作した構造を図 7.6.31に示す。

ピトー管は、差圧センサ全圧側の導圧口を流路中央で上流側に開口するように配置

し、静圧側を流路内壁に接するようにした。

ピトー管型差圧センサを流路ブロックに取り付け、全圧側が流れに対して上流側に

向くようにした。ピトー管型差圧センサ及びこれを流路ブロックに取り付けたピトー

管式流量センサを図7.6.32と図 7.6.33に示す。

図 7.6.31 ピトー管型差圧センサ 形状図

CPU 駆動回路

指令信号

1~5 VDC

フィードバック信号

吐出圧力

最大20 kPa

制御流量

1~7 NL/min

モータ/ポンプ 流量センサ

制御信号

ピトー管型差圧センサ

流れ方向

流路ブロック 全圧側静圧側

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1-7-6-21

図 7.6.32 ピトー管型差圧センサ部 外観写真

図 7.6.33 ピトー管式流量センサ 外観写真

定常流に対する特性調査は、図 7.6.29 流量特性測定系統図で熱線式流量センサと

同様の手順にて実施した。

流量に対する差圧の出方が直線的ではなかった。ピトー管前段に整流を目的とした

網を設置したところ、流量に対して直線的に差圧が変化するようになった。ピトー管

の流量と発生差圧の関係を図7.6.34に示す。

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1-7-6-22

図7.6.34 流量―差圧特性

またピトー管式流量センサとしての流路の圧力損失を測定した。使用流体空気にて

流量7 NL/min時 200 Paで、都市ガスの供給圧力の約1/10で問題無いと考える。

(c) 脈動による影響 初期の熱線式流量センサでは脈動の影響により正しい流量測定ができなかったた

め、流量センサをポンプの吐出側に畜圧タンクと共に配し、脈動の影響を低減させて

用いた。

今回はピトー管式流量センサを燃料ガス取込部(ポンプの吸入側最前段)に配置す

る事としたので、ポンプの吸入動作が間欠的であるため流量変動による脈動は避けら

れず、また脈動低減策である畜圧タンクも2 kPaという低圧では効果が期待できない。

しかし、一方で都市ガスのライン圧力約 2 kPaは圧力的にも温度的にも比較的安定で

あり、状態補正がしやすい。

回転数の制御で流量を制御するポンプを採用した場合、脈動の周波数が流量によっ

て変化するため、ピトー管式流量センサに与える影響について調査した。

調査方法は、ポンプの吐出圧力を5 NL/minの時に5 及び 10 kPaになるように絞り

を調節して流量を 0~7 NL/min迄変化させた場合と、脈動が発生しないようにポンプ

を使用しないで流量制御弁で流量を調整した場合とで、各流量におけるピトー管式流

量センサからの発生差圧を測定した。

ピトー管式流量センサの特性測定系統図を図 7.6.35に示す。

1

10

100

1000

0.10 1.00 10.00流量(NL/min)

発生

差圧

(Pa)

整流用網付き整流用網なし

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図 7.6.35 ピトー管式流量センサ特性測定系統図

調査の結果、流量一定にも拘わらず、吐出圧が高くなりポンプの脈動が大きくなる

につれピトー管から得られる差圧が減少する傾向が認められた。

しかし、この減少量は、熱線式流量センサに比較して小さくポンプ吸入側に差圧式

流量センサを挿入できる可能性が見いだされた。脈動によりピトー管の発生差圧が減

少する要因については、ピトー管の形状ばらつきの影響と、ピトー管部の流速分布が

脈動により変化することが主要因であることが分かった。現在穴径に適したピトー管

の形状を検討した結果、図 7.6.36 に示すように脈動のない定常流、脈動が発生する

ポンプ流(吐出圧力3、20kPa)で流れ状態の違いによる影響をほとんど受けない状態

が得られた。

図 7.6.36 定常流、ポンプ流によるピトー管の発生差圧の変化

H L

ポンプ 流量可変バルブ 湿式ガス

メータ ピトー管式

流量センサ

差圧測定器

差圧式流量センサ

0

20

40

60

80

100

120

0 1 2 3 4 5 6 7 8

基準流量(NL/min)

発生

差圧

(Pa)

定常流

吐出圧(3kPa)

吐出圧(20kPa)

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(エ)ガス昇圧器の試作 a 概要 ガス昇圧器の各要素の開発と共にガス昇圧器としての機能確認、制御技術開発のため、

ガス昇圧器の試作を行ってきた。

ガス昇圧器の仕様は、燃料電池システムの開発の進歩によって変化してきており、燃

料電池コージェネシステムメーカへの調査を行なった結果、初期ポンプは、流量5 NL/min

で圧力損失 40 kPa であったが、最新のヒアリングにおいては、流量 5 NL/minで圧力損

失20 kPa以下であることがわかった。

2次試作のガス昇圧器の仕様は、初期ポンプのガス昇圧器に比べ吐出流量を多く要求

されたので、吐出流量に余裕のある仕様のポンプを使用して試作器を製作した。2次試

作のガス昇圧器の目標仕様を表 7.6.7 に示す。試作器は、ブラシレスモータで作動する

2ヘッドのポンプを使用し、流量制御はブラシレスモータの回転数制御を PWM指令電圧

制御方式で行ない、最大流量7 NL/min、流量精度±5 %を達成した。また、流量制御範

囲は、燃料電池システムによって 0.6 NL/min 以上の低流量から制御が必要な機種と 2

NL/min以上の流量制御が必要な2種類必要なことが判明した。低流量タイプは都市ガス

の供給圧力による出流れを入力側へのチェック弁挿入で防止し、0.6~5 NL/min の流

量制御ができるようにした。

表 7.6.7 2次試作のガス昇圧器目標仕様

項 目 高流量タイプ 低流量タイプ 制御流量範囲 1~7 NL/min 0.6~5 NL/min 制御範囲 設定値の±5 %または±0.125

NL/minいずれか大きい方 設定値の±5%または±0.125 NL /minいずれか大きい方

吐出圧力範囲 10~20 kPa(5 NL/min時) 10~20 kPa(5 NL/min時) 制御応答性 5秒以内(90 %応答) 5秒以内(90 %応答) 電源電圧 24 VDC±10 % 24 VDC±10 % 消費電力 約 15 W以下(流量5 NL/min、

吐出圧力 20 kPa 約 15 W以下(流量5 NL/min、吐 出圧力20 kPa

外形寸法 200×135×148 (幅×高さ×奥行き)

200×135×148 (幅×高さ×奥行き)

質量 約 3 kg 約 3 kg

b ガス昇圧器の構成 2次試作までのガス昇圧器の構成は、ポンプ、畜圧タンク、流量センサ、制御部から

構成されている。ガス昇圧器の構成図を図7.6.37に示す。

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流量センサ出力

警報信号

制御部 制御信号入力

ポンプ駆動電源

ポンプ 畜圧タンク 流量センサ

図 7.6.37 第2次試作ガス昇圧器構成図

これに対して、現状3次試作のガス昇圧器の構成は、流量センサ、ポンプ、制御部の

構成で設計している。

このガス昇圧器の構成図を図7.6.38に示す。

流量センサ出力

制御部 警報信号

制御信号入力

ポンプ駆動電源

流量センサ ポンプ

図 7.6.38 第3次試作ガス昇圧器構成図

c ポンプについて 1次試作器のポンプは、ブラシモータを使用したポンプを使用し、2次試作器は長寿

命化のため使用するモータをブラシレスモータとした。また、脈動の低減をねらい2つ

のポンプ室を備え、ダイアフラムをモータで駆動するポンプを採用した。これによりダ

イアフラムの変位が小さくなり長寿命化がはかれるポンプとした。1次試作器と2次試

作器のポンプの脈動を図7.6.39と図 7.6.40に示す。

3次試作器は、2次試作器で開発した4ヘッドのポンプに加え、2つのポンプ室を備

え、ダイアフラムを電磁コイルで駆動するリニヤポンプを採用し消費電力のさらなる低

減も試みている。ポンプ単体の試験ではあるが、流量 5NL/min、吐出圧力 20 kPa 時に

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1-7-6-26

約12 Wで駆動することができた。

図 7.6.39 1次試作器のポンプ脈動 図 7.6.40 2次試作器のポンプ脈動

d ガス昇圧器の特性 1次、2次試作のガス昇圧器の特性試験結果を表 7.6.8と表 7.6.9に示す。

表 7.6.8 1次試作器特性試験結果

項 目 高流量タイプ 制御流量範囲 1~5 NL/min 制御範囲 設定値の±4 %NL/min以内 試験吐出圧力 40 kPa(5 NL/min時)以下 制御応答性 8秒以内(90 %応答) 電源電圧 24 VDC±10 % 消費電力 17 W以下(流量5 NL/min、吐出圧力20 kPa) 外形寸法 210×132×135(幅×高さ×奥行き) 質量 3.4 kg

表 7.6.9 2次試作器特性特性試験結果

項 目 高流量タイプ 低流量タイプ 制御流量範囲 1~7 NL/min 0.6~5 NL/min 制御範囲 設定値の±4 %NL/min以内 設定値の±3%または±0.06 NL

/minいずれか大きい方 試験吐出圧力 20 kPa(5 NL/min時)以下 20 kPa(5 NL/min時)以下 制御応答性 3.6秒以内(90 %応答) 3.6秒以内(90 %応答) 電源電圧 24 VDC±10 % 24 VDC±10 % 消費電力 26 W 以下(流量 5 NL/min、吐

出圧力20 kPa) 26 W以下(流量5 NL/min、吐 出圧力20 kPa)

外形寸法 200×135×148 (幅×高さ×奥行き)

200×135×148 (幅×高さ×奥行き)

質量 3.4 kg 3.4 kg

圧力、流量特性  1次試作器

20.0

22.0

24.0

26.0

28.0

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4

時間(sec)

圧力

(kPa)

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

流量

(NL/

min

)

圧力

流量圧力、流量特性  2次試作器

20.0

22.0

24.0

26.0

28.0

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4

時間(sec)

圧力

(kPa)

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

流量

(NL/

min

)

圧力

流量

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1次試作器は、1次試作器の目標仕様をクリアできた。2次試作器は、消費電力を除

き2次試作器の目標仕様を満足した。2次試作器の消費電力は、要求流量が増えポンプ

の吐出容量が大きくなったためである。

3次試作器においては、ポンプの制御範囲が広くなり高流量、低流量タイプと区別す

ることがなくなり、消費電力も大幅に小さくするよう設計している。

e 制御概要 試作器の制御回路の基本設計は、種々の流量センサに対応でき、警報のパラメータ変

更にも柔軟に対応できるよう1チップマイクロコンピュータを内蔵した回路とした。

制御回路の構成として、設定値入力回路、流量計測回路、ポンプの駆動回路、CPU、

警報出力回路からなり、要求される仕様によっては、流量換算値の出力回路、経路切換

用回路を増設できるようにした。回路ブロックを図7.6.41に示す。

図 7.6.41 回路ブロック図 また、ポンプ回転数指令値と吐出流量を比較して規定値以上の差がある場合、警報出

力が出るようにし、ポンプ及び配管からのガス漏れ検出ができるようにした。

f 制御方法 制御方法については流量によるフィードバック制御方式としたが、選定した流量セン

サの応答は2秒ほどかかるため、全てを流量計測部からのフィードバックで制御すると、

目的流量に収束までの時間が10秒に収まらない可能性があった。そこで、設定値からポ

ンプの制御値を判定し概算流量を即座に出力するフィードフォワード制御を組み合わせ

た。これにより、制御系の応答速度の遅さをカバーし、オーバーシュート要因を減らし

た。

ポンプの制御値は同仕様ポンプ数台からサンプルデータを抽出してデータテーブルを

設定値入力

警報出力

ポンプ CPU

設定値入力回路

切換出力

<オプション>

アナログ出力

経路切換

用回路

流量アナロ

グ出力回路

流 量

計 測

回路

ポンプ駆動回路

流量計測部

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作成して対応した。このため、ポンプ出力がポンプ制御値に対し比例関係になくとも対

応ができた。

フィードバック制御に関しては、流量計測部の値と設定値の流量換算値の偏差に比例

ゲイン掛け、ポンプの制御値を変化させている。

この比例ゲインは、1倍以上にすると流量センサ、ポンプ、制御回路の応答速度が異

なるため、不用なオーバーシュートが発生してしまった。

逆に小さくすると、オーバーシュートの発生は消えるものの反応は遅くなってしまう。

比例ゲインの決定はポンプの能力にも関連するため、採用したポンプにあわせる必要

があり、制御回路は係数を1/8~1倍から選択して目標流量の到達の高速化と安定出力の

整合を得られるようにした。

g 異常検出 ガス昇圧器が正常に作動している場合、ガス昇圧器への指令値に対し精度±5 %以内に

なるよう制御され、ポンプ又は流量センサに異常があるとこの範囲から外れる。特にポ

ンプダイアフラムが破損してガスが漏れた場合は、流量が指令値に対し大きく低下する

ので、指令値に対し-10 % 以上差が出た場合警報を出すように設定した。ポンプのダイ

アフラムが破損した場合は急激に流量低下が起こるので、ポンプのガス漏れが検出でき

る。

h ポンプの制御 ポンプはモータ駆動により動作するが、モータ制御には、主にPWM制御方式と電圧

/電流制御方式がある。

PWM制御方式は、モータへの制御信号をパルスで与えるもので、そのパルスのデュ

ーティを変化させることで電力をコントロールする方式である。現在、DCブラシレス

モータでは標準的な制御である。PWM制御方式のブロック図を図7.6.42に示す。

CPU PWM

制御

モータ

ドライバM

図 7.6.42 PWM制御方式のブロック図

1次試作器で使用したDCブラシモータの安定制御点が、PWM制御方式の方が低く

低流量から制御ができ制御範囲の広く取れたこと、回路を簡略化できることのほか、今

後別種のモータによるポンプの採用をにらんでPWM制御方式を選択した。デューティ

とモータ回転数関係が比例関係に無いので、ソフトウェアで直線性補正を行って対応し

た。

i 2次以降試作器の変更点 2次試作器は、DCブラシレスモータをポンプ部に使用し対応した。これ以降、流量

のアナログ出力を標準型とした。採用したブラシレスモータが低流量から制御可能にな

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1-7-6-29

ったため、1次試作器で行った経路切換えは不要となった。但し、ポンプ部制御値が“0”

でもモータが動いてしまうので、ブレーキの回路を増設した。

3次試作器は、自社流量素子及び差圧検出素子を使用して流量を算出、ポンプ部にリ

ニヤポンプを使用する方向で設計中である。ポンプ部はそれまでの回転機構がないため

長寿命化が望める。流量検出部は、素子からの情報だけで流量の算出はできない。CP

U内に納めた変換係数(データ)を用いて算出するが、この場合、CPUで算出された

流量出力を新たに作る必要があり、アナログ出力回路を増設した。

(5)今後の課題と予定 (ア)ポンプユニットの開発

ポンプの耐久性の実力値は現在 10,000時間程度であるが、この4倍の40,000時間に目標

変更しており厳しい目標となっている。このためポンプ機構、ダイアフラムの応力低減、

ゴム素材の耐疲労性向上対策を行い、目標達成を図る。

(イ)加速寿命試験 ポンプの寿命が40,000時間という設定がされているので加速試験条件を早期に確立する

必要がある。雰囲気温度100℃、55℃の結果が出ているので、室温での試験結果を待って加

速寿命係数を算出する。

(ウ)小形低価格化に適した流量測定用センサの試作、評価 ガス昇圧器全体を小形にするため、流量センサは直管部を必要としないことが必要である。

差圧流量センサは基本的には直管部を必要とするので、差圧式流量計の流路形状、整流格

子、ピトー管形状の試作検討を行い、直管部が不要な小型、低価格流量センサを開発する。

(エ)ガス昇圧器の試作 燃料電池システムで要求されるガス昇圧器の仕様は、燃料電池システムの開発の進捗によ

って変化してきている。ポンプ、流量センサ、制御回路、制御ソフトの課題抽出とその解

決及び燃料電池システムの動向調査のため、各要素が開発中の能力におけるガス昇圧器の

試作を行っていく。消費電力、流量制御性能は最終仕様を満足する試作品としていく。

(オ)コストダウン 燃料電池システムの普及に要求されるガス昇圧器のコストについて調査を進め、長寿命低

コストを満足するポンプ構造、小形低価格化に適した流量測定用センサ、制御回路の必要

性について検討し、流量測定の廃止及び制御回路の燃料電池システムへの組み込みの可能

性を探っていく。

(6)外部発表 (ア)特許 2件 (イ)外部発表 0件