ビジネス日本語の授業における体験型教室活動の試...

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日本言語文化研究会論集 2011 年第 7 号 【特定課題研究報告】 ビジネス日本語の授業における体験型教室活動の試み -ビジネスマナーを中心に- 倪虹 要旨 本研究では、中国の大学の日本語学科の卒業生、採用企業、ビジネス日本語の教師に質問 紙調査を実施し、ビジネス日本語の授業の問題点を把握した上で、改善を目指し、タスク先 行型ロールプレイ、シミュレーション、ケース活動の体験型教室活動を取り入れた実験授業 を行った。「電話応対」と「初対面の挨拶」における学習者の発話データや録画データを分析 した結果、言語面と非言語面において、ロールプレイ、シミュレーション、そして 2 つの実 際の使用場面において、ビジネスマナーに合う行動を取ることができた。また、タスク先行 型ロールプレイは言語の間違いへの気づき、シミュレーションは臨場感あふれる行動、ケー ス活動は話し合いを通して、ビジネスマナーの理解を促進することが窺えた。実験授業は学 習者と授業見学をした日本語教師から肯定的に受け止められたが、待遇表現の効果的な指導 法に関しては課題を残した。 〔キーワード〕体験型教室活動、ビジネスマナー、タスク先行型ロールプレイ、シミュレー ション、気づき 1. 研究背景 中国では 1999 年から大学入学定員の拡大政策が実施され、2009 年に日本語専攻の学士学 位授与機関が 489 になった 。そして現在では、そのほとんどの日本語学科でビジネス日本 語が必修科目となっている。大学以外の動きも大きくなり、2007 年には、「中国国際商務日 語研究委員会」と日本応用日本語教育協会により「STBJ」標準ビジネス日本語テスト が実 施された。翌年には BJT ビジネス日本語能力試験 が中国7 か所で実施された。このように、 中国でビジネス日本語教育は年々盛んになってきている。では、実際にビジネス日本語の授 業はどのように教えられているのだろうか。 所属機関では、2007 年から 3 年制の日本語学科が設けられ、筆者は 2009 年に 3 年生向け のビジネス日本語の授業を週に2 回(1 回90 分)担当した。中国で出版された教科書を使い、 教科書通りにビジネス知識やマナーを一方向的に講義し、会話文は役割ごとに練習をさせて いた。しかし、ビジネス社会は実生活と異なっている等の理由から、学習者から「ビジネス マナーや知識が理解しにくい」、「授業がつまらない」などの意見があり、授業に欠席する学 生も増えてきた。筆者は、仕事の経験のない学生に対して、何をどのように教えれば良いか

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日本言語文化研究会論集 2011 年第 7号 【特定課題研究報告】

ビジネス日本語の授業における体験型教室活動の試み

-ビジネスマナーを中心に-

倪虹

要旨

本研究では、中国の大学の日本語学科の卒業生、採用企業、ビジネス日本語の教師に質問

紙調査を実施し、ビジネス日本語の授業の問題点を把握した上で、改善を目指し、タスク先

行型ロールプレイ、シミュレーション、ケース活動の体験型教室活動を取り入れた実験授業

を行った。「電話応対」と「初対面の挨拶」における学習者の発話データや録画データを分析

した結果、言語面と非言語面において、ロールプレイ、シミュレーション、そして 2つの実

際の使用場面において、ビジネスマナーに合う行動を取ることができた。また、タスク先行

型ロールプレイは言語の間違いへの気づき、シミュレーションは臨場感あふれる行動、ケー

ス活動は話し合いを通して、ビジネスマナーの理解を促進することが窺えた。実験授業は学

習者と授業見学をした日本語教師から肯定的に受け止められたが、待遇表現の効果的な指導

法に関しては課題を残した。

〔キーワード〕体験型教室活動、ビジネスマナー、タスク先行型ロールプレイ、シミュレー

ション、気づき

1. 研究背景

中国では 1999年から大学入学定員の拡大政策が実施され、2009 年に日本語専攻の学士学

位授与機関が 489 になった1。そして現在では、そのほとんどの日本語学科でビジネス日本

語が必修科目となっている。大学以外の動きも大きくなり、2007 年には、「中国国際商務日

語研究委員会」と日本応用日本語教育協会により「STBJ」標準ビジネス日本語テスト2が実

施された。翌年には BJTビジネス日本語能力試験3が中国 7か所で実施された。このように、

中国でビジネス日本語教育は年々盛んになってきている。では、実際にビジネス日本語の授

業はどのように教えられているのだろうか。

所属機関では、2007年から 3年制の日本語学科が設けられ、筆者は 2009年に 3年生向け

のビジネス日本語の授業を週に 2回(1回 90分)担当した。中国で出版された教科書を使い、

教科書通りにビジネス知識やマナーを一方向的に講義し、会話文は役割ごとに練習をさせて

いた。しかし、ビジネス社会は実生活と異なっている等の理由から、学習者から「ビジネス

マナーや知識が理解しにくい」、「授業がつまらない」などの意見があり、授業に欠席する学

生も増えてきた。筆者は、仕事の経験のない学生に対して、何をどのように教えれば良いか

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分からないという問題に直面した。また、第 4回全国大学日本語教師研究会では、教師から、

拡大政策の反面、「教師は学生に学習目的を持たせることまで仕事になり、授業にしても楽し

く日本語を勉強させる工夫をしなければついて来てくれない」といった声が上がっていた。

日本語学習の目的や学習スタイルがより多様化したことも影響し、「これまでは学校から指定

された教科書を使って構造シラバスによる文型積み上げ式授業をするだけでも十分だったが、

今はかなり限界を感じている」4という日本語教師の意見も出されている。ビジネス日本語

の分野も同様に、学習者の興味維持と効果的な教え方が課題になり、従来の教科書通りに進

める方法を改善しなければいけないと考えるようになった。

近年、日系企業は人件費等の削減のため、沿岸部から四川省等の内陸へ移る傾向があり、

2010年成都市日本人商工会の統計によると、事務所を含め、日系企業は100社を超えている。

そして、筆者の所属機関の日本語学科卒業生を採用する日系企業が増えてきた。そこで、こ

れまで筆者らが行ってきたビジネス日本語の授業内容と教え方は卒業生と採用企業の要望を

満たしていたか、卒業生と企業が仕事上でそれぞれどのような問題を抱えているかを把握す

ることが今後のビジネス日本語の授業の改善に役に立つと考え、次の事前調査を行うことに

した。

2. 事前調査

2.1 事前調査の概要

2011年 1月~3月、①日本語学科の卒業生が抱えている仕事上の困難点、②採用企業(そ

の中の 70%が①の卒業生の勤務先)が感じた卒業生の不足点や要望、③ビジネス日本語教師

の悩みについて調査を実施した。事前調査の概要は表 1の通りである。

表 1 事前調査概要

調査対象 人数(学校数) 内  訳 調査方法日本語学科卒業生 35名(11校) 日系企業6名、中日合弁16名、中

国企業10名、その他3名メールで質問紙調査

採用企業 17社 日系企業9社、中日合弁3社、中国企業4社、その他1社

質問紙調査(メール6社、現地11社)

ビジネス日本語教師 6名(5校) ネイティブ日本人教師1名、中国人教師5名

インタビュー1名、メールで質問紙調査5名

成都を中心に、西安、武漢などの日本語学科卒業生 35名に対して(1)現在の日本語の使

用場面、(2)一日の使用時間、(3)仕事上の困難点(4)ビジネス日本語の授業で学習した項

目、役立った項目、学習が必要だったと思われる項目(5)ビジネス日本語教育への意見に関

して調査した。採用企業 17社に対しては、卒業生の不足点及びビジネス授業への要望に関し

て調査した。また、日本語教師 6名に対しては、ビジネス日本語の授業の困難点及び行って

いる教室活動に関して調査した。回答方式は 5段階評価、多肢選択、自由記述のいずれかで、

調査票は馮(2006)を参照し作成した。(卒業生と企業の属性は資料 1、卒業生に対する調査

票は資料 3を参照されたい)

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02468101214

会社数

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

4.5

謝罪

敬語の使い方

日本人の察し文化

日本人の曖昧表現

ビジネス文書の作成

私語を控える

時間厳守

日本人のチームワーク

行き先の事前報告

電話の取り次ぎ

ビジネス文書の読み、理解

問題の報告

日本人の建前と本音

社内の打ち合わせ

上司に意見を述べる

公私の区別

身だしなみ

指示の内容を理解する

上司に許可を求める

予定の説明

相槌

挨拶

社外の人にアポ取り

上司への報告

日本人との人間関係

電話を受け、他人に伝言

整理整頓

業務の内容

就業規則の尊守

社外の人との相談

5段階

評価

平均

企業

卒業生

2.2 調査結果と考察

2.2.1 日本語学科卒業生に対する調査

日本語を使う 5つの場面に着目したところ、「Emailのやり取り」「書類関係」「社内の会話」

「顧客との会話」「会議」という順で使用頻度が高いことがわかった。一日の日本語の使用時

間については、約半数の卒業生が日本語を 4時間以上使用すると答えた。また、「ビジネス日

本語の授業についての意見」(自由記述)には、31名が記入し、うち 13名がロールプレイと

シミュレーションを重視してほしいと答えていた。その他 7名から授業の内容は将来の仕事

に役立つものであってほしいなどの意見が出された。

2.2.2 日本語学科卒業生採用企業に対する調査

図 1は、企業が学習者にビジネス日本語の

授業でより一層の勉強を望む 6項目の順位で

ある。1位はビジネスマナー、2位はビジネス

書類の書き方、3 位は異文化コミュニケーシ

ョンであった。更に、ビジネス日本語の授業

について「マナーを教えてほしい」という意

見が 8社中 4社から出された(自由記述)。こ

図 1 企業が一層の勉強を望む学習項目 れらの結果から、ビジネス日本語の授業にマ

ナーと異文化理解を取り入れることが必要であることが分かった。

2.2.3 卒業生が仕事で感じた困難点と企業が感じた卒業生の不足点

図 2 では、①卒業生が仕事で感じた困難点と②企業が感じた卒業生の不足点について、5

段階評価で調べ、卒業生と企業のそれぞれの平均値を出した結果である。質問項目は 30項目

で両者に同じ内容を尋ねている。

図 2 卒業生が感じた困難点と企業が感じた卒業生の不足点

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その結果、次の 2点が分かった。まず、①卒業生の困難点の 1位は「日本人の建前と本音

の理解」、2位は「日本人の曖昧表現」、3位は「日本人との人間関係」であった。いずれも日

本語能力ではなく、日本文化やビジネスマナーへの理解と関係のある項目である。一方、②

企業が感じた卒業生の不足点の1位は「謝罪」、2位は「敬語の使い方」で僅差であった。こ

の 2点は、図 2でもわかるように、卒業生が感じた困難点の上位 10の中にも入っている。次

に、卒業生の困難点と企業が感じた不足点の共通項目(上位 10 位内)は、「敬語の使い方」

「謝罪」「日本人の察し文化の理解」「日本人の曖昧表現」「日本人のチームワーク」「電話の

取り次ぎ」の 6つであった。その中に日本文化やビジネマナーに関する項目が 4つあった。

2.2.4ビジネス日本語を教える教師に対する調査

6年以上の日本語教授歴を持つベテランの教師に対して、インタビュー調査(1名)とメー

ルでの自由記述の質問紙調査(5 名)を行った。その結果、インタビューを受けたネイティ

ブの教師(以下 NT)1名からは「ビジネス日本語の授業の内容は多すぎ、使えないものも入

っており、教材に問題がある」「ビジネスマナーが大事」という返答が得られた。

質問紙調査を受けた中国人教師(以下 NNT)から、まず、ビジネス日本語の授業の困難点

に関して、「易しく面白く学生たちに紹介することは難しい」「学生たちはビジネス日本語に

興味がない」(3名)、「単語の解釈とビジネス実務の説明が難しい上、私自身がビジネス経験

がない」「適切な教材を選ぶことが困難だ」(各 1名)という意見があった。次に、現在ビジ

ネス日本語の授業で行っている教室活動は、教科書の会話部分の代替練習(2名)、ロールプ

レイや討論(2名)、殆どしていない(1名)と回答した。最後に、今後のビジネス日本語に

対して、「実用的な教材(マルチメディア)の開発」(2名)、「実例の本や教授法の本」(2名)

という要望があった。

2.2.5 まとめ

以上の事前調査の結果から、企業も卒業生も問題を感じ、ビジネス日本語の授業に取り入

れる必要があるものはビジネスマナーの理解であることが明らかになった。卒業生からは授

業にロールプレイやシミュレーションのような体験を重視した教室活動や、仕事に役立つ内

容を取り入れてほしいという意見が出された。また、教師は授業の面白さと学習者の興味維

持に課題を抱えていることが分かった。

3. 先行研究

3.1 ビジネス教育における教室活動に関する研究

高見澤(2010: 8)はビジネス日本語教育が参考にしている言語教育理論及びその応用方法

を検討した。コミュニカティブ・アプローチの「学ぶためには、実際に行わなければならな

い」という指導原理から、「社会で役立つコミュニカティブな能力を育成するのには、学習者

自身が主体的にその使用を経験することが習得の条件と考えられる。よって、ビジネス日本

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語もロールプレイなど実践的な訓練に重点を置いている」と実践の重要性を指摘している。

待遇表現の学習にシミュレーションを取り入れた清(1998)は、学生(19名)に企業名を

自分で決めさせ、営業部新入社員という役割を与え、一連の「仕事」の流れで計 11回の実験

授業を行った。学習者が使用した待遇表現の特徴を考察したが、ビジネスマナーの理解は調

査対象としていない。向山他(2009)は異文化理解の養成を目指したタスク先行型ロールプ

レイ5教材を試用して実験授業を実施した。実験授業に対しては質問紙調査から、全般的に

肯定評価であったことを報告している。近藤・金(2010)は日本語を勉強しても仕事で使え

ないという学習者の声や企業の悩みを受け止め、ビジネス教育で採用されているケースメソ

ッドを援用し、実際に起こったコンフリクトを題材にケース活動を行った。その結果、学習

者の問題発見解決能力等が育成されることが示唆された。ケース活動は中国のビジネス教育

において、斬新な指導法であり、試みる必要があると筆者は感じた。

上記の 3本の論文の中、近藤・金(2010)は実験授業で気づきを促すための内省活動を行

ったが、清(1998)や向山他(2009)では、実験授業の中で、モデル会話を聞かせたりタス

クシートに記入させたりする「気づき」の活動を行っていない。しかし、「気づき」は習得の

第一歩であり、気づいて理解されたインプットのみが習得に使われるインテイクになる(小

柳 2004)。中国で文法・知識伝達中心の授業を受けている日本語学習者にとって、「気づき」

は学習者主体の学習へ歩む大きな一歩だと考えられる。

3.2ビジネスマナーに関する研究

海老原他(2006)は「ビジネスマナー」は職場で支障なく働くための礼儀作法であり、人

間関係を円滑にするためのルールであると解釈し、「ビジネスマナー」として、ビジネスマン

の心構え、社内のマナー、会話のマナー、電話のマナー、接客のマナー、基本ルールと書類

上のマナーをあげていた。本研究はこれらに加え、言葉遣いもビジネスマナーとして捉える。

中国の学習者にとって、ビジネスマナーの理解は異文化理解の一部である。異文化の教授

法に関しては、田丸(1994: 55)が、「講義の形で知識を与えるよりも、言語学習を通して身

をもって文化を体験させるほうが、異文化に対する敏感さと適応力を養う」と述べている。

また、「異文化理解は知識でもあるが、最終的に学習者本人が差異に気づくかどうかにかかっ

てくる」と気づきの重要性を指摘している。池田(1996)はビジネス日本語教育の中で文化・

習慣を学習者に提示することの重要性を主張した。外国人ビジネスマンに対して、ビジネス

日本語教育における必要な文化要素を調査した結果、その多くは日本語や日本人ビジネスマ

ンとコミュニケーションに関係の深い項目の理解と関係(日本語のあいまいさ、立場の違う

者の秩序他)があり、教育目標に設定する必要があると提言した。

3.3中国のビジネス日本語教育に関する研究

松嶋(2003)は中国または台湾で編集・発行された会話形式を備えた教科書 13冊を対象に

し、会話部冒頭に人間関係、場、状況設定の情報、各課の学習目標、待遇表現に関する説明

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など「待遇表現を配慮した記述」の有無を調べた。その結果、一部を除いて記述に関し配慮

がされていないことが示された。待遇表現の配慮を補足しない限り、学習者は待遇表現の使

用やそれに関わるビジネスマナーの学習が困難であると推測された。馮(2006)は所属機関

の職業中等専門学校のビジネス日本語教育のカリキュラムを改善するために、中国の日系企

業 20社と卒業生 44名に調査を行い、卒業生に対するビジネスマナーの評価も、日本語運用

力の評価も、企業評価のほうが学習者の自己評価より全体的に低かったという結果を示した。

また、会話能力とビジネスマナーの育成を並行して行うことや、ロールプレイやシミュレー

ションなどの実践的な応用を重視すべきだと提案した。堀井(2009)は上海日系企業におけ

る中国人社員の就職・採用事態について調査し、現在の中国の大学の日本語学科卒業者の日

本語レベルは大変高いが、日本人の考え方や日本文化を理解する点で、日本留学経験者のほ

うが評価され、さらに日系企業で、異文化コミュニケーション摩擦の解決ができるものとし

てブリッジ人材の役割が大きいと報告している。周・潘(2010)は、中国のビジネス日本語

教育において、認知、感情、ビジネス文化などの背景知識の教授はまだ暗中模索の段階であ

り、ビジネス背景知識の紹介、言語使用の中での文化の示し方、背景知識と文化が言語使用

に与える影響については、まだ十分に認識されていないと指摘している。

そこで、筆者は中国の大学のビジネス日本語の授業の中で、日本人の考え方とビジネスの

マナーへの理解は語学力と同様に重要だと考えるようになった。

4. 研究目的と研究課題

本研究では、先行研究の知見と事前調査の結果を踏まえ、仕事経験のない中国の大学生を

対象とするビジネス日本語の授業において、タスク先行型ロールプレイ、シミュレーション、

ケース活動といった体験型教室活動を取り入れ、下記のことを明らかにしたい。

課題 1 実験授業の指導後に、学習者は与えられた状況下で、言語面及び非言語面において、

ビジネスマナーに合う行動が取れるようになったか。

課題 2 実験授業の体験型教室活動は学習者のビジネスマナーの理解を促進したか。

2-1 学習者は実験授業を通して、ビジネスマナーを理解することができたか。

2-2 体験型教室活動は、どのようにビジネスマナーの理解を促進したか。

課題 3 実験授業に参加した学習者や授業観察者の日本語教師は実験授業をどのように評価

するか。

本研究で使われる体験型教室活動の定義は次の通りである。ロールプレイは学習者が異な

った社会的な役割を演じる中で目標言語を使用する学習活動である6。本研究ではまずロー

ルプレイをし、その後モデル会話を聞き、タスクシートに記入する「気づき」の活動を行い、

さらに教師の説明を聞き、再度ロールプレイをする活動をタスク先行型ロールプレイと呼ぶ。

シミュレーションは、「人間の社会活動の一部を教室の中に仮想的に持ち込み、その中で学

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習者にそれぞれの人物あるいは役割を割り当てて、その社会活動を教室で模擬的に行う学習

活動」(西口 1995: 119)をいう。なお、本研究ではオリエンテーション(後述)の際、学

習者に模擬会社を作らせ、会社内での肩書を決めさせた。その役割を担い、その課で扱った

タスク先行型ロールプレイと類似した場面のシミュレーションを行わせている。

「ケース活動」に関して、本研究では、近藤・金(2010: 17)の定義を採用し、「事実に基

づくケース(仕事のコンフリクト)を題材に、設問に沿って参加者(学習者)が協働でそれ

を整理し、時には疑似体験をしながら考え、解決方法を導き出し、最後に一連の過程につい

て内省するまで」の活動を指す。これら 3つの活動はいずれも仕事経験のない学習者がビジ

ネスマンの疑似体験をするため、本研究では総括して「体験型教室活動」と呼ぶことにした。

5. 実験授業の概要と分析方法

5.1 実験授業の概要

5.1.1 対象者

2011年 3月から 4月まで所属機関の日本語学科の 2年生 24名を対象に、6回の実験授業を

行った。学習者の日本語レベルは旧日本語能力試験 3 級~2 級程度、日本語の学習時間は約

860時間であるが、ビジネス日本語の授業は今回が初めてである。

5.1.2オリエンテーション

オリエンテーションでは、まず実験授業について説明した。次に、学習者は 3名ずつ自由

にグループを組み、模擬会社を作り、肩書を決め、名刺を作った。1~4回の実験授業の中で

は、模擬会社ごとにシミュレーションを行った。

1~5回の実験授業の扱う場面 実際の使用場面

図 3 実験授業の内容

5.1.3 実験授業の実施

事前調査で卒業生と採用企業が指摘した「敬語の使い方」「電話の取り次ぎ」「謝罪」「日本

人の察しの文化理解」等の項目を授業に取り入れ、6 回の実験授業の流れ(電話→会社訪問

→お礼のメール→プレゼンテーション)を作り、内容を組んだ。1回の授業は 90分間(2コ

マ)であるが、2 回目の授業は 120 分間の授業(ケース活動を含む)となり、6 回目は 150

1回目 電話1.相手が不在の場合

2回目 電話2.約束を取り付ける

3回目 会社訪問1.初対面の挨拶

4回目 会社訪問2.自社商品の紹介

5回目 案内状、メールの書き方

先輩に授業案内の電話をかける

先輩にプレゼン案内のメールを書く

先輩と初対面の挨拶

プレゼンテーション

6回目の実験授業

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RP2 復習・宿題RP1復習、

ビデオ視聴 ケース活動SM

①タスクシートに記入1

②モデル会話のCDを

聞く

③タスクシートに記入2

④教師の説明 ⑦振り返り

⑥モデル会話のスクリ

プトを配る

⑤タスクシートに記入3

分間の授業(先輩セッション)となった。

先輩セッションとは、「中・上級の学生が初級コースの学生を訪れ、できるだけ日本語で語

り合うイベント」であり、「学習者がロールモデルである先輩と出会うことで、自分の将来の

日本語目標を行うと同時に、先輩から学習のストラデジーを学ぶことを目標」(トムソン

2009: 33)にしている。本研究でも授業対象者の 2年生に実践的な練習の機会を与えるため、

インターンをしている 3年生の先輩 7名を 6回目の授業に参加してもらい、先輩セッション

を行った。2回目の授業の後、学習者に先輩への授業案内の電話をさせ、5回目の授業のあと、

再度案内のメールを書かせた。先輩セッションでは 2年生の学習者が先輩と一緒に名刺交換

をし、休暇を取る場面のロールプレイ、ケース活動とプレゼンテーション(3つの模擬会社)

を行った。1~5回の実験授業と実際の使用場面の活動の関係は図 3を参照されたい。本稿に

おける実際の使用場面は、日本語の練習をするための現実的な場面を意味する。なお、日本

語教師 3名(NT1名、NNT2名)も授業観察に入った。1~4回目は実験授業後に、学習者にタ

スクシートを記入させ、6回目に学習者と日本語教師に対して質問紙調査を行った。

ケース活動は 2回目と 6回目の授業に行った。2回目は「察しの文化」、6回目は「言葉の

ずれ」についてであったが、今回は前者のみを分析した。ケース(事例)は成都在住の元日

本人会社員 1名に約 120分のインタビューをし、筆者が作成した。話し合いのための設問は

近藤・金(2010)を参照した。

5.1.4 一回の授業の流れ

1~4回の実験授業は図 4の通りである。まず、インターネットからダウンロードした各課

の内容に関するビジネスマナーのビデオを見せ、①タスクシートに記入させた。そのあと、

②のモデル会話の内容をもとに作ったロールカードでロールプレイ 1(以下 RP1)を行い、②

モデル会話の CDを聞かせ、③タスクシートに記入させた。次に、④教師が共通の間違いや大

事な表現とマナーを説明した。それから、ロールプレイ 2(以下 RP2)を行い、⑤タスクシー

トに記入させ、②と同じ内容の⑥モデル会話のスクリプトを配った。さらにシミュレーショ

ン(以下 SM)、ケース活動(2回目のみ)を行い、⑦振り返りを記入させ、復習した。①~⑦

は教師の説明と気づきの活動である。(詳細は資料 2を参照)

図 4 一回の授業の流れ

教師の説明

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5.1.5 実験授業の特徴

実験授業の大きな特徴は教師講義型の授業から体験型教室活動を盛り込んだ学習者主体の

授業に変わったことである。以前の授業と実験授業の違いは資料 4を参照されたい。

5.2 分析方法

課題 1では、電話応対(1回目、2回目)と初対面の挨拶(3回目)を取り上げて分析した

(表 2)。それは学習者間に双方向のやりとりが起こっているため(図 3 の部分)、待遇表

現の使用実態が分かるからである。電話応対は、内容の構成とビジネスマナーに合う表現の

2 つの観点から、どのような変化が見られるかを分析した。その中でも、S18 を中心に変化

を捉えることにした。その理由は S18の発話データがすべて揃っているためである。初対面

の挨拶は、模擬会社(2社)を中心に録画データを使って、言語面と非言語面から分析した。

表 2 課題1の分析データ

電話応対(録音データ) 初対面の挨拶(録画データ)

相手が不在の場合(1回目) 約束を取りつける(2回目) 初対面の挨拶(3回目)

実験授業 3ペアの RP1、RP2の録音 S4S18の RP1、RP1

S18と S24を中心とした SM

「MISSBAOZI」社と「天上人間」社

SM1、SM2

実際の使

用場面

S18が先輩にかけた電話

その他の先輩への電話 6本

「MISSBAOZI」社と「天上人間」社

先輩との名刺交換

課題 2では、学習者の記入したタスクシートや質問紙調査の自由記述、及びビジネスマナ

ーテストの得点をデータとして分析した。

課題 3では、学習者に対する質問紙調査と授業観察者のコメントをデータとして分析した。

6. 結果

6.1 課題 1の結果

6.1.1 電話応対

電話に関しては、1)相手が不在の時の電話 2)約束を取り付ける電話 3)実際の使用場

面(先輩へ)の電話について分析する。分析項目は宮崎・郷司(2009)を参照し*は筆者が

作った(資料 5参照)。表 3の確認項目は、相手が不在の場合の分析項目である。分析観点は、

①電話の流れの中で電話応対内容の構成が整っているか、②ビジネスマナーに合った表現を

使ったか、この 2点である。

1)相手が不在の場合の電話の分析

表 3は 1回目の実験授業で、3ペア(S7と S8、S22と S18、S11と S23)の RP1と RP2の録

音を文字起こし、筆者と NT教師が確認した結果である(S7と S8の文字起こしは資料 8を参

照)。確認項目のうち、Aは電話の受け手、Bは電話の掛け手で、分析項目はそれぞれ 7項目

と 5項目の計 12項目である。

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         確  認  項   目 ロールプレイ1(RP1) ロールプレイ2 (RP2)S7A S8B S22A S18B S11A S23B S7A S8B S22A S18B S11A S23B

(1)流れ ①最初の挨拶

A 電話を受けるB 自己紹介し、取り次ぎを頼む

O

O

O ―

O O

O O

O O

O O

②電話の内容A 不在を告げ、伝言があるかを聞くB 伝言を頼む

O

―  △

―  △

O  O

O  △

△  △

③終わりの挨拶A 挨拶B 挨拶

―  ―

―  ―

―  ―

O  O

O  O

O  O

ⅠA いつもお世話になっておりますB いつもお世話になっております

―  ―

―  ―

―  ―

O  O

O  O

O  O

Ⅱ*A 自社の人に「さん」をつけないことB 敬語で伝言を頼む

△  △

―  ―

―  ―

O  △

O  △

O  △

Ⅲ A 用件の復唱 ― ― ― △ △ △

Ⅳ A 電話番号の復唱 ― ― ― O O O

○は出現し正確、△は出現したが、正確さに欠けている部分がある、―は出現せずまたは正確ではない

(2)ビジネスマナーに合った表

表 3 相手が不在の場合の電話のやり取りの分析

分析の結果、3ペアとも RP1と RP2のタスクを達成していた。以下、分析観点に沿って詳

細を述べる。まず、電話会話の流れをみると、RP1 では 3ペアとも「終りの挨拶」がなかっ

たが、RP2では全員が挨拶をするようになっており、RP2は電話応対内容の構成が整っている

ことが分かった。

次に、ビジネスマナーに合った表現の使用については、次のような変化が見られた。Ⅰか

らⅣの確認項目別に見ると、①Ⅰの RP1では、全員「いつもお世話になっております」と言

わなかったが、RP2では全員が言うようになっている。②Ⅱの RP1では、受け手 Aの 3名の

うち 2名(S11、S22)は、自社の人の名前の後ろに「さん」をつけ、1名(S7)は自社の人

に対して、名前に「課長」(肩書)をつけていた。しかし、RP2 では 3 名とも改善された。

③ⅢとⅣの RP1では、伝言の受け手である 3 名とも用件や電話番号の復唱をしていなかっ

たが、RP2においては全員が復唱するようになっていた。しかし、敬語が正確に使えなかっ

たため、3 名とも「敬語で伝言を頼む」と「用件の復唱」は「正確さに欠けた(△)」と判

断された。

以上の結果から、RP2 では相手が不在の時の電話応対内容の構成が整い、正確さに欠けた

部分はあったものの、学習者がビジネスマナーに合う表現を使用したことが明らかになった。

2)約束を取りつける電話の分析

2回目の実験授業の時の教室活動の RP1、RP2、SMの発話データと、3回目の授業後に S18 が

先輩に電話をかけた際の発話データを文字化した。(文字化資料は資料 7、ロールカードとモ

デル会話のスクリプトは資料 10を参照)

教室活動の録音を分析した結果、約束を取り付ける電話では、S4と S18が RP1、RP2と SM

のすべてにおいて構成が整っていた。SMの受け手である S24も同様であった。ビジネスマナ

ーに合う表現の使用については、次の 3つの変化が見られた。第一に、不適切な表現を使わ

なくなった。例えば、RP1の 4S4の「いつもお世話になっています。ご用件がありませんか」

の表現は、唐突な印象を与えることから、丁寧さが欠如していると考えられるが、RP2と SM

では見られなかった。また、RP1において、S18の不適切な終助詞「よ」の使用(3S18、5S18、

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9S18)は、RP2と SMでは現れなかった。第二に、表現が丁寧になった。同じく S18の約束の

申し入れについて、RP1の 5S18では「会ってほしいよ」と言ったが、RP2の 9S18、SMの 10S18

では、「~でお目にかからせていただきたいです」と言えるようになった。最後に、電話の聞

き手を配慮するような表現を使うようになった。RP2 と SM では「実は」「早速ですが」のよ

うな話を切り出す表現が使えるようになった。RP1では、相手の都合を聞かなかったが、RP2

と SMでは、都合を聞く丁寧な表現(~はよろしいですか)が使えるようになった。更に、RP2

では、RP1に見られなかった約束時間の復唱をするようになった。SMでは RP2と比べ、約束

の場所も言及し、確認の表現(貴社の隣の喫茶店で、来週の水曜日の 2時からということで

よろしいでしょうか)もマナーに合うようになった。

以上の分析の結果から、RP1→RP2→SMを通して、段々とビジネスマナーに合う言語行動が

取れるようになったことが分かった。

3)実際の使用場面の電話の分析

次に、筆者が設定した実際の使用場面において、S18 が先輩にかけた授業案内の電話内容

を分析する。資料 7の一番右には、約束を取り付ける電話の授業が終わってから 4日後、S18

が先輩のYさんにかけた授業案内の電話の文字化資料が載せてある。S18はその電話の中で、

練習したマナーに合う表現「いま、お電話宜しいですか」(1S18 )「初めてお電話させていた

だきます」(3S18)が使えるようになり、相手に配慮する表現「実は」(3S18)「~宜しいでし

ょうか」(5S18)を使い、QQ7番号の復唱(21S18)をし、約束を確認するようになっていた。

S18 以外の先輩への電話 6本を分析した結果でも、電話応対内容の構成が整い、授業で習

ったマナーに合った表現を使っていたことから、勉強した知識を生かし実践が「できる」よ

うになったと考えられる。6本うち、3本の電話録音の文字起こしは資料 9を参照されたい。

6.1.2 初対面の挨拶

1)実験授業

①言語面

3 回目の実験授業の際、「初対面の挨拶」では、グループで模擬会社を作っていたため、1

対 1のロールプレイの代わりに、会社対会社のシミュレーションを行った。「MISSBAOZI」社

3 名(S5S21S22)が「天上人間」社 3名(S4S11S18)を訪問する際の録画データを分析した。

その結果、言語面において、事前(SM1)と事後(SM2)では、改善点が 3点見られた。まず、

2つのグループの紹介役の学習者 2名が事前の SM1では、「彼女は~でございます」と言った

が、SM2では「こちらは~でございます」となった。次に、SM1では、自社の人を「~さんで

ございます」と紹介したが、SM2 では「さん」を使わなくなった。また、SM1に、ロールカ

ード(資料 6参照)に書かれた 2分遅れたことに関して、SM1では一人も謝らなかったが、

SM2では全員謝るようになった。

②非言語面

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       事前(SM1)       事後(SM2)

マナーの項目 適切な非言語行動 天上人間 MISSBAOZI 天上人間 MISSBAOZI

S4S11S18 S5S21S22 S4S11S18 S5S21S22

名刺の渡し方両手で渡す、自分の名前が相手に見やすいように渡す O O O O X O O O O O O O

名刺の受け取り方 両手でもらう O O O O O O O O O O O O名刺のしまい方 テーブルに並べる X X X X X X O O O O O O紹介の順番 *地位の高い人から順番に紹介す

る― O ― ― X ― ― ― O O ― ―

席順地位の高い人から順番にドアから遠い席に座る X X X O O O O O O

上記の録画データを使い、非言語行動を分析する。マナーの分析項目は釜渕(2008)を参

照し、実験授業で指導した内容に焦点を当てることにした。新たに追加した項目は*で示し

た。表 4は NT教師と一緒に確認した結果である。

表 4 初対面の挨拶のビデオ観察 (○は適切、×は適切ではない)

5つのマナーに関する非言語行動が適切かどうかという点から、ビデオ分析を行った。そ

の結果、SM1と SM2を比べ、変わったのは「名刺の渡し方」「名刺のしまい方」「紹介の順番」

と「席順」であった。SM1では、名刺の文字方向を自分のほうに向けて、渡した人がいた。6

名とも名刺をもらったあと手に持っていた。また、3名が座る際、順番に気を遣わずに座っ

たが、SM2では、全員が名刺の文字方向を相手向きに渡し、もらった名刺をテーブルに並べ

た。座る際も地位の高い人が奥のほうから座っていた。SM1では紹介役の 2名は、順番に気

を遣わずに紹介したが、SM2では地位の高い人から低い人までを順番で紹介していた。

2)実際の使用場面

2日後(6回目)、最後の実験授業の先輩セッションでは、学習者が 3年生の先輩と初対面

の挨拶をするようにした。授業観察者である 3名の日本語教師には、先輩セッションの前に、

上記の「MISSBAOZI」社 3名と「天上人間」社 3名の初対面の挨拶のビデオを見せた。観察者

にその日の授業もこの 2つのグループを中心に観察するように頼んだ。授業後、観察者は次

のようなコメントを記した。観察者は言語行動(下線)と非言語行動(斜体)に関していず

れも改善したと評価した。

以上、1)実験授業の初対面の挨拶の分析結果 2)実際の使用場面の初対面の挨拶の分析

結果から、学習者はビジネスマナーに合う非言語行動と言語行動が概ね取れるようになった

と言える。

・前には自己紹介、名刺を渡す時に、名刺をさかさまになって渡した。失礼なところがあると思う。今日は言葉遣

いも上手になった。礼儀正しくなってきた。(T1)

・声が前より大きくて、流暢したり、長くなったりしています。また、間違いが前より尐なくなったり、みんな熱心

参加したりして、賑やかになったと思います。名刺交換のマナーは分かったようです(T2)

・2 ・2 回目の時は尐し慣れてきたのか、話し方は自分の事や仕事の事をアピールする。以前はどこで敬語を使っ

ていいか分からなかったと思う。しかし今回は敬語を使うところを尐しずつわかるようになりました。(T3)

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6.2 課題 2の結果

課題 2は、まず学習者が実験授業を通して、ビジネスマナーの理解ができたかを分析する。

次に、体験型教室活動がどのようにビジネスマナーの理解を促進したかを分析する。

6.2.1 課題 2-1の結果

1)マナーの判断性テスト

実験授業で学んだことをもとに、釜渕(2008)を参照し、10問のマナーに関する判断性問

題を作り、実験授業後に学習者にテストを行った。前述のとおり、それまで学習者はビジネ

ス授業を受けたことがなかったが、10点満点のテストで、クラスの平均点は 8.57であった。

(マナーテストは資料 11を参照)

2)実験授業の教室活動に取り入れたビジネスマナーとそれに関する記述

表 5 実験授業に取り入れたビジネスマナー及び記述 表 5は 1回目から 4回目の実験授業で

扱ったマナーに関する項目を記したもので

ある。各授業後に学習者が書いたタスクシ

ート及び振り返りシートには、授業で気づ

いたことや学んだこととしてマナーに関す

る記述が多かった。このことから、実験授

業で学習者がビジネスマナーに対して興味や関心が高かったことが窺える。しかし、4 回目

の「ほうれんそう」の理解に関しては記述がなかった。その原因としては「部長に直帰の連

絡」のシミュレーションの直後にタスクシートの記入をさせず、授業全体についての振り返

りを求めていたため、具体的な記述が見られなかったと思われる。

3)質問紙調査

実験授業後、学習者に対する質問紙調査(回収した 23部)のうち、ビジネスマナーの理解

に関する質問項目は次の 4項目であった。

質問項目 強く賛成 賛成どちらとも言えない

あまり賛成しない

全く賛成しない

Q8尊敬語と謙譲語をわけて使えるようになったか 1(4%) 11(49%) 10(43%) 1(4%)

Q9ロールプレイをする時、ビジネスマナーを考慮しながら話すようになったか 6(26%) 12(52%) 5(22%)

Q10ケース活動を通して、異文化が理解でき、問題解決能力を身につけられるようになったか 6(26%) 14(61%) 3(13%)

Q11タスク先行のロールプレイを通して、ビジネスのマナーが理解できるようになったか 5(22%) 17(74%) 1(4%)

「尊敬語と謙譲語をわけて使えるようになったか」の回答は、「賛成」と「強く賛成」が

53%であったが、その他は 70%以上であることから、学習者は実験授業を通して、敬語の使

用以外、ビジネスマナーの理解が概ねできたことが明らかになった。

4)ビジネスマナーの理解に関する自由記述

実験授業後、学習者に対する質問紙調査で、「実験授業で一番伸びたことは何だと思うか」

の質問に対して、「ビジネスマナーに対する理解」(8名)と「敬語の使い分けと使用」(8名)

が最も多かった。一番伸びたのはマナーの理解だと答えた学習者の総計は23名中16名(70%)

であったと言える。

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以上のテスト、質問紙調査と自由記述の分析から、学習者は実験授業を通して、概ねビジ

ネスマナーを理解できたと言える。

6.2.2 課題 2-2の結果

1)電話応対

A タスク先行型ロールプレイ

【事例 1】呼び方から「内と外の関係」を理解(S7)

「相手が不在の場合の電話」のタスク先行型ロールプレイを行った際、RP1 では、全員が

自社の人の呼び名に「さん」か「課長」をつけていた(6.1.1参照)。実験授業では、RP1の

あと、モデル会話を聞かせ、RP1 での自分たちのパフォーマンスと比較して気づいた点を書

かせた。また、学習者(S7)はモデル会話を聞いた後、相手によって呼び方が違うことに気

づき、そのことを記入 2に書いていたのである(タスクシートは資料 12を参照)。さらに、

教師から、「さん」の使い分けを説明し、「内と外の関係」を補足説明した。その結果、RP2

では「さん」が見られなくなった。このことは、振り返りの記入内容からも窺える。

【記入2】 録音を聞いて、自分のRP1を録音と比べて、気付いた所(録音と同じだったこと、言い足りなかったこと、直したほうがいいこと)について書いてください

【記入3】 RP1と比べて、RP2はどんな変化があるか。気づいた点を書いてください

【振り返り】  この課で特に学んだことを書いてください

S7

①いつもお世話になっております②何かご伝言がありましたら、お伝えします③ させていただきたいです④伝言の内容を確認する⑤電話番号と名前をもう一度確認する⑥~が戻りましたら、申し伝えます⑦内と外。うち:田中 そと:田中課長⑧では、失礼いたします

細かいところに注意するようになった尊敬語と謙譲語の使い分け電話の内容、電話番号、名前の確認社員にとって上司の呼び方は場合によって違う

正式な場面でどう電話をかけるか、受けるか特に電話の中の挨拶「うちとそと」。部長に対する呼び方

【事例 2】断りの表現から婉曲表現を理解(S16)

約束を取り付ける RP1の中では、「明日ご都合はいかがでしょうか」「都合は悪いです」、「す

みません、時間はありませんよ」(資料 7の SM、15S24 )のようなやりとりがよく見られた。

学習者がモデル会話を聞き、表現の違いには気付いていたが、説明はできなかった。筆者が

婉曲表現について説明を加えたところ、RP2 では改善された。

また、タスク先行型ロールプレイがマナーの理解を促したことに関する学習者の自由記述8には下記のように記されていた。

・CD を聞く前に、ロールカードの会話は自分流に練習したが、CD を聞いた後で、ビジネスのマナーや敬

語の使用などもっと分るようになった。(S7)

・CDを聞く前後の会話。例えば、CDを聞く前は「都合は悪いですけど」、聞いた後は「ちょっとね」と言える

ようになった。(S8)

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記入2 記入3 振り返り

S5

自分の名刺を切らさないこと申し訳ございません名刺の文字の方向は相手に向く名刺交換は必ず立って行うお名前はどうお読みになりますか相手のお名前の確認。「…さん/

紹介の順番。訪問先はまず紹介する席順に注意する

ビジネスマナー・パフォーマンス。授業は面白かったと思う。実践練習の中で、ビジネスマナーを習得した

記入2 記入3 振り返り

S21

①紹介の順番に注意しなかった②自社の人に「さん」をつけた③遅れたことに謝らなかった④名刺を出す時の方向

①遅刻する時お詫び。「申し訳ございません」②自分の会社の人を紹介する時、「さん」を使わない③初めましてどうぞ宜しくお願いいたします

①初対面の自己紹介のマナー②ビジネス日本語の丁寧な表現

2)初対面の挨拶

B シミュレーション

【事例 3】実際に動作して、初対面の挨拶のマナーを理解(S5)

「初対面の挨拶」の授業で、学習者はグループの間で 2回実際に手作りの名刺を持って、

立って名刺交換(シミュレーション)を行った。また、学習者にまるで会社にいるような臨

場感を持たせながら、「訪問先」で「訪問者」を「応接室」まで案内し、座ってもらった。1

回目の SMの後、筆者が PPTで「席順のマナー」「名刺の渡し方、しまい方」、「紹介の順番」

に関してマナーを見せながら説明した。学習者の非言語行動において、前後の変化が見られ

た(6.1.2)。マナーの判断性テストの問 3「席順」の正解率は 87%で、問 5、問 6「名刺の渡

し方」の正解率は 100%であった。自らビジネスマナーに気づき、覚えた上で動作すること

を通して、ビジネスマナーを理解したことが分かった。

【事例 4】ロールカードの読み取りで、「時間厳守」と「謝罪」を理解(S21)

上記の初対面の挨拶のロールカードには(資料 6参照)、「2分遅れた」と書かれていたが、

6.1.2 の分析で分かったように、指導前は、すべての学習者が遅れたことに対して謝らなか

った。その原因として中国では 5分以内の遅刻は普通だと考える人が多く、時間感覚が日本

人と異なっていることが挙げられる。筆者が謝罪の必要を説明したところ、2回目の SMにお

いては、学習者全員が謝るようになっていた。具体的な状況下での教師の説明は講義型の説

明より理解しやすくなり、理解を促進したと考える。

3)会社訪問後

【事例 5】実践会話練習で、「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)を理解

4回目の実験授業の際、会社訪問後に、「直接帰宅の連絡」のシミュレーションを取り入れ

た。学習者が自ら体験してきたことなので、状況や文脈をよく理解していて、会社に報告し

なければいけない理由もよく分かっていた。それから、実際に部長に「直接帰宅」すること

を電話で伝える練習をした。実験授業後のマナーの判断性テストでは、「ほうれんそう」(問

8)の理解の正解率は 87%、「直行、直帰の連絡」(問 9)の正解率は 100%であった。

4)その他

C ケース活動

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0% 20% 40% 60% 80% 100%

第一回

第二回

第三回

第四回

積極的に参加 参加した あまり参加しなかった 全然参加しなかった

【事例 6】実際のケースから、察しの文化を理解し、問題に対して解決策を考える

日本の察しの文化を題材に、筆者は事実に基づきケースを作成し学習者に読ませた。さら

に、問題の解決方法について中国語で討論させた。活動が初めてだったこともあり、発言は

短かったが、学習者は積極的に問題に対する解決方法を示していた(資料 15の 4参照)。活

動後に「表情やイントネーションなどで相手の気持ちを推測する」「相手の立場で考える」な

どの感想が書かれた。また、実験授業後では、学習者は「活動は今後の仕事で同様のことが

起こった際に役に立つ。日本文化への理解も一層深まった。」(S4)などと述べており効果を

実感していた。(資料 13参照)

以上の分析結果から、実験授業で行ったタスク先行型ロールプレイ、シミュレーション、

ケース活動の体験型教室活動は、学習者のビジネスマナーの理解を促進したと考える。

6.3 課題 3の結果

授業に対する学習者の評価と観察者のコメントをまとめたものを次に示す。

①学習者が積極的に授業に参加した。

図 5で示したように、1~4回目の実験授業

の後に授業の参加度を自己評価させたところ、

「積極的に参加した」と答えた学習者が 75%

以上であった。また、実験授業後の質問紙調

査(資料 14参照)では、Q3「授業に積極的に

参加した」に対して、学習者の 7名(30%)

が「強く賛成」、14名(61%)が「賛成」と

図 5 実験授業の参加度についての自己評価 答えた。

「実験授業は普通の授業と違った点」(自由記述)では、記入した 21名中の 7名が「積極

的」「学習者主導」といった回答をした。下記は学習者の記した例である。

②授業が理解しやすく、面白くなった。

質問紙調査の Q1「授業は分かりやすかった」に関して、「賛成」と「強く賛成」した学習

者が 16名(70%)であり、Q2「授業は面白かった」に関して、「賛成」と「強く賛成」した

学習者が 17名(74%)で、どちらも反対した人は一人もいなかった。学習者の自由記述は下

記の通りである。

・普通の授業の時、私たちは受ける一方である。実験授業の時、自分の考え方を表すことができた。(S6)

・実験授業は学生の実践を強調し、実用性があり、面白いため、学生の授業への参加度が高まった(S9)

・実験授業は普通の授業より学生の積極性を引き出すことができる。(S12)

・習った知識を実際に運用する練習が多いので、実用性を高めただけでなく、授業も面白くなってきた。(S1)

・学生に授業に積極的に参加させるから、授業はもっと理解しやすく、面白くなった。(S15)

・実験授業は普通の授業よりもっと面白く、分かりやすく、覚えやすい。(S7 、S19)

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③内向的な学習者も日本語で話すようになった。

実験授業の観察者である日本語教師は、実験授業について以下のように記した。

また、学習者の自由記述欄にも「一番伸びたこと」について、下記のように記させていた。

以上日本語教師のコメントと学習者の自由記述から、実験授業において、内向的な学生も

日本語で話すようになったことが分かった。

④マイナスの評価

学習者と観察者である日本語教師からほぼ全般的に肯定的な評価をもらったが、教師(NNT)

の中の一人から、ロールプレイやシミュレーションについて疑問の声も上がった。講義型の

授業をしなかったため、学習者が表現や知識が覚えられるかどうか疑問であり、「グループで

やって、正しいかどうか確認できないし、間違って覚えたらあとで直すのは大変である」と

いう心配が記されていた。

7. 考察

7.1 授業の改善にむけて

1)「分かる」から「できる」へ

学習者は 2010年の 10月に、「基礎日本語」の授業で、「ビジネス場面の電話」の会話を勉

強したものの、初日に行った RP1では電話会話ができていなかった。それまでの授業は文法

を中心とした教師主導の授業であり、授業のロールプレイの数は尐なく、行っていたとして

も簡単に役割ごとに練習させただけで、学習者が運用できるようにならなかったと考えられ

る。しかし、今回の体験型教室活動を通して、学習者は気づきを得ながらできるようになっ

ていったと考えられる。迫田(2011)は文法項目において、「分かる」を「できる」へ繋ぐた

めに、インプット、繰り返し、気づきの 3点を重視すべきだと提言した。本研究はその考え

を活動に置き換え、実験授業でインプット(ビデオ視聴、CDを聞く)、繰り返し(2回のロー

ルプレイと 1回のシミュレーション)、気づきの活動(3回のタスクシート記入)を行ったが、

一連のプロセスが学習者のビジネスマナーの理解を促進し、電話応対において、内容の構成

とビジネスマナーに合う表現が「できる」ようになり、効果が認められたと考えられる。今

後のビジネス日本語の授業で、学習者の運用能力を育成するために、体験型教室活動を積極

的に取り入れる必要があるということが示唆された。

2)ビジネスマナーの指導方法

・活気が溢れているクラスのみなさんのいろいろなことを聞いて、良かったと思う。 (T1)

・授業中学生は勇気を出して、文法の違いがあっても、自信満々に日本語で話すようになった。(T2)

・今回堂々とプレゼンした人の中には、普段は恥ずかしがり屋の人もいた 。(T3)

人との交流。特に私たちのような内向的で、人との交流が苦手な学生にとって、日本語で話すように押しつけら

れ、ついにしゃべるようになって、嬉しく思う。( S3)

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本研究では、ビジネス日本語の授業で、日本のビジネスマナーの理解を体験型教室活動の

中に取り入れることが可能であり、一定の効果があるという示唆を得た。しかし、教室活動

に入れなかったマナーの理解の正解率(問 1(56%)問 7(78%)問 10(57%))は、入れた

項目に比べて低かった。よって、実験授業で気づかせたり、体験させたりすることは、学習

内容を強く印象付け、理解を促したと言えよう。そして、ビジネスマナーの理解を教室活動

に取り入れる際は、教師の工夫も必要であることがわかった。例えば、「ほうれんそう」理解

のようなロールプレイは、現行のシラバスにいつ、どのように取り入れれば効果的か、検討

する必要がある。また、本研究の「謝罪」理解のように、ロールカードを作成する際は、指

示の仕方も大事である。要するに、教師が工夫することが大事であると考えられる。

3)ビジネス日本語の授業を面白くするために

事前調査で問題点を把握した際に、授業の面白さと学習者の興味の維持が課題となってい

た。実験授業では、学習者が想像しやすく遭遇する可能性の高い場面を選び、取り上げた。

そのため、学習者が授業に興味を示したのではないかと思われる。高見澤(2010)は「学習

者にとって、学習内容に「興味」や「必要性」が感じられれば、インパクトが強くなり、尐

ない練習で長期的記憶が形成される」ことを指摘している。また、「ビジネス日本語の内容を

考える方法は①学習者の興味を引く内容の教科書を使う、②学習者が将来必要とする内容を

盛り込んだ教科書を使う、③学習者が将来遭遇する可能性のある場面での練習を重視する」

と提言したが、今後も適切な教科書を選んだ上で、教科書通りではなく、学習者が興味を示

しそうな内容を取り上げ、体験型教室活動を通じて、学習者主体の授業を行うことは、授業

を面白くし、学習者に興味を持たせる良い方法だと考える。

7.2 待遇表現の使用について

前述の 6.1.1で言及した学習者の敬語使用の不適切さが見られたことと 6.2.1で触れた学

習者に「尊敬語と謙譲語を分けて使えるようになったか」に対する評価が低かった。また、

S18は、何回も練習したものの、実際の場面の電話(資料 7)で、相手を授業に呼ぶ際、「ご

参加させていただけませんか」(3S18 )と言っていた。学習者は敬語の言語形式ばかりでは

なく、状況などに応じて適切に使えないことが分かった。つまり、待遇表現の適切な使用は

中国語母語話者にとって容易なことではないことが今回の実験授業で分かった。先行研究で

言及したように、中国のビジネス教科書に待遇表現を配慮した記述が尐ない。そのため、実

験授業で、体験型教室活動を取り入れた際、場・対人関係・状況を補足、設定した。それに

もかかわらず、学習者は待遇表現を適切に使用できない。今後は、誤解を招き、相手の気持

ちを損うような不適切な待遇表現を使うよりも、「です、ます」体で使ったほうが良いと学習

者に指導することも可能であると考える。

7.3 日本語教師の役割

6.3.4 のマイナスの評価をした NNT教師は、今まで、講義型の授業をして学習者の誤用の

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訂正を重視してきたため、一つ一つ直したり、講義をしたり、表現を暗記させたりしないと

不安になったと思われる。日本語教師の役割は知識伝達よりも、大学生である学習者に学習

の動機づけをしたり、新しい知識を自分で発見させ、習った言語知識を練習させたりして、

自律的な学習に導くことのほうが大事であると考える。日本語教師自身も積極的に教師会、

研究会に参加し、自己研修型の教師になるような努力が必要である。

8. 今後の課題

本研究における今後の課題として次の 3点が挙げられる。第 1はロールプレイ、シミュレ

ーション、ケース活動のそれぞれの効果を明かにすることである。第 2は、本研究は収集し

た一部のデータしか扱うことができなかった。例えば、課題 1の分析の観点に流暢さなどを

取り入れることはできなかったため、今後分析を進めたい。第 3の課題は、適切な待遇表現

の効果的な指導について検討することである。

注 1 国際交流基金(2010)『海外日本語教育の現状―日本語教育機関調査・2009年』凡人社 2 ビジネス場面で必要とされる日本語コミュニケーション能力を測定するテスト。一般社団

法人応用日本語協会ホームページ <http//www.ajlea.net> 2011年 7月参照。 3 日本企業の外国人従業員や日本企業への就職を希望する外国人日本語学習者を対象とし

た「日本語を使って仕事をする総合的な日本語能力」の測定を目的としているテスト。BJT

ホームページ <http//www.kanken.or.jp> 2011年 7月参照。 4 国際交流基金日本語国際センター「世界の日本語教育現場から日本語専門家の声 2010」<

http://www.jpf.go.jp/j/japanese/dispatch/voice/higashi_asia/china/2010/report03.

html>2011年 2月参照。 5 まずやってみて力試しをする。そのあとは必要とされる表現・文型・語などを導入し、練

習させる活動である(山内 2004: 5)。 6 水谷修・加藤清方他(2005)『新版日本語教育事典』大修館書店、766ページを参照。 7 QQは現在中国で最も人気のあるチャット。 8 学習者に対する質問紙調査の自由記述は中国語で記入されたものを筆者が日本語に訳し、

中国語母語話者に確認してもらった。

参考文献

(1) 池田伸子(1996)「ビジネス日本語教育における教育目標の設定について―文化、習

慣について重要性を考える―」『ICU日本語教育研究センター紀要 5』国際基督教大学

日本語教育センター、11-24.

Page 20: ビジネス日本語の授業における体験型教室活動の試 …jlc/jlc/ronshu/2011/Ni_Hong.pdf日本言語文化研究会論集 2011年第7号 【特定課題研究報告】

(2) 海老原恭子・岩澤みどり・寺田則子・小柴宏邦・蔡忠(2006)『日本企業への就職 ビ

ジネスマナーと基本のことば』アスク

(3) 岡崎敏雄・岡崎眸(1997)『日本語教育の実習―理論と実践―』アルク

(4) 釜渕裕子(2008)『しごとの日本語 ビジネスマナー編』アルク

(5) 近藤彩・金孝卿(2010)「『ケース』活動における学びの実態―ビジネス上のコンフリ

クトの教材化に向けて―」『日本言語文化研究会論集』第 6 号、国際交流基金日本語

国際センター・政策研究大学院大学、15-31.

(6) 迫田久美子(2011)「日本語学習者の『わかる』と『できる』―両者を繋ぐために―

『2011年度 日本語教育学会春季大会予稿集』日本語教育学会、19-22.

(7) 周林娟・潘幼芳(2010)「商务日语教学中的语用能力培养研究」『日語学習与研究』、

2010年第 1期、71-76.

(8) 清ルミ(1998)「ビジネス会話ワークショップにおける待遇表現学習の試み」『講座日

本語教育』第 33分冊、早稲田大学日本語研究センター、181-196.

(9) 高見澤孟(2010)「ビジネス日本語の理論と指導法の研究」『日本語教育研究』56、1-27.

(10)田丸淑子(1994)「ビジネス・スクールの日本語教育―コースデザインの課題―」『日

本語学』13巻 12号、54-61.

(11)トムソン木下千尋(2009)『学習者主体の日本語教育―オーストラリアの体験研究』コ

コ出版

(12)西口光一(1995)『日本語教授法を理解する本 歴史と理論編』バベルプレス

(13)馮芳(2007)「中国の職業学校のビジネス―日本語教育平湖職業中等専門学校のカリキ

ュラムの改善に向けて―」『日本言語文化研究会論集』第 3 号、国際交流基金日本語

国際センター・国立国語研究所・政策研究大学院大学、115-140.

(14)堀井恵子(2009)「留学生に対するビジネス日本語教育のシラバス構築のための調査研

究―日本の日系企業へのインタビューからの考察―」『武蔵野大学文学部紀要』第 10

号、78-89.

(15)松嶋緑 (2003)「中国のビジネス教材における待遇表現の扱われ方―教材の分類と教

科書の待遇表現の扱われ方―」『別科日本語教育』第 5号、大東文化大学、55-66.

(16)向山陽子・村野節子・山辺真理子(2009)「ビジネス日本語教育におけるタスク先行型

ロールプレイ教材に対する学習者の評価」『言語文化と日本語教育』37号、63-66.

(17)山内博之(2004)『ロールプレイで学ぶ 中級から上級へ日本語会話』アルク

使用した市販教材

(1) 宮崎道子・郷司幸子(2009)『日本語で働く!ビジネス日本語 30時間』スリーエーネ

ットワーク

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資料 1 事前調査対象者の卒業生と企業の属性

卒業生の属性(35人)

性別 女:27人 男:8人

年齢 20~24歳:21人 25~29歳:13人 30歳以上:1人

会社の資本形態 日中合弁:16人 中国独資:10人 日本独資:6人 その他:3人

会社の業種 IT企業:13人 サービス業:10人 製造業:6人 その他:6人

勤務期間 1年以下:11人 1~2年:9人 2年以上:15人

所属部署 営業部:9人 人事部:2人 設計部:2人 その他:22人

企業の属性(17社)

会社の資本形態 日中合弁:4社 中国独資:4社 日本独資:8社 その他:1社

会社の業種 IT企業:7社 サービス業:5社 製造業:2社 商社:2社 その他:1社

中国支社の従業員数 100人以上:10社 20~50人未満:2人 0~20人:5社

日本語学科卒業生採用人数 1~5人:9社 6~10人:6社 11~15人:0社 15人以上:2社

日本人従業員数 1~5人:10社 6~10人:3社 11~15人:1社 15人以上:3社

資料 2 一回の授業の流れ(授業 90分、ケース活動 30分)

復習、ビデオ視聴 5分 前回の授業を復習。ビデオ視聴(この課に関するマナー)

①タスクシート記入1 3分 ビデオの中で気付いたマナーや表現をタスクシートに記入させる

RP1 10分 文法や語彙など何も教えない状況で、学習者にベアで RP1を練習させる

②CDを聞かせる 5分 RP1と同じ内容のモデル会話のCDを聞かせる

③タスクシート記入2 5分 気付いたこと(間違った表現、発見した新しい表現)をタスクシートに記入させる

④発表、教師の説明 10分 2、3組の学習者にクラスで発表させたうえで、教師がその中に出てきた表現、共

通の間違いやビジネスマナーに関して説明する

RP2 17分 もう一回RP1と同じ内容のロールプレイ2(RP2)を行い、発表。教師が日本語表現

や非言語面の間違ったところやよくできたところに関してフィードバックをする

⑤タスクシート記入3 5分 RP2の改善についてタスクシートに記入させる

⑥スクリプトを配る 2分 ②と同じ内容のモデル会話のスクリプトを配る

SM 18分 オリエンテーションの際作った模擬会社の間で、同じ状況のシミュレーションをや

らせ、発表。学習者同士でフィードバックをする

ケース活動 30分 ケースを読んで、話し合う

⑦振り返り 5分 この課の振り返りをタスクシートに記入させる

復習、宿題を出す 5分 この課で習った表現を復習し、予習の宿題を出す

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項  目 大変 困っている どちらとも あまり困らない 全く困らない

1日本人の察しの文化の理解

2日本人の曖昧表現の理解

3日本人のチームワークの考え方

4日本人の建前と本音(冠冕话和真心话)

5日本人との人間関係

6業務の内容

7社内の打ち合わせ

8指示の内容の理解

9電話の取り次ぎ

10電話をうけ、要件を他人に伝言すること

11社外の人に約束を取り付けること

12社外の人との相談、打ち合わせ

13上司への必要事項の報告

14上司に自分の意見を述べること

15上司に許可を求めること

16メールなどのビジネス文書の作成

17メールなどのビジネス文書の読み、理解

18挨拶(自己紹介、お礼、お詫び)

19敬語の使い方

20私語を控えること

21謝罪

22時間厳守

23問題の報告

24公私の区別

25予定の説明

26就業規則の遵守

27身だしなみ(穿着)

28整理整頓

29行き先の事前報告

30相づち(随声附和)

資料 3 卒業生に対する調査票(フェースシートを除く)

<現在使っている日本語について>

1 職場でどんな時に日本語を使いますか。良く使う順に番号 1-5 を入れてください。使

わない場合は( )に「×」を入れてください。

( )社内の会話 ( )顧客との会話 ( )会議

( )書類関係(書く、読む) ( )Emailのやり取り

その他にあれば、ご記入ください。

2 あなたが現在仕事で一日に日本語を使っている時間は:

1 4時間及び 4時間以上 2 3-4時間 3 2-3時間

4 1-2時間 5 1時間未満

3 現在仕事上で困っていることは何ですか。以下の各項目について、該当するところに

「○」をつけてください。

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学 習 項 目 勉強したことがある

やって良かった

やったことがないが、やった方がいい1挨拶(自己紹介、お礼、お詫びなど)

2電話の応対

3依頼する/受ける

4注文/予約する

5アポイントメントを取る/変更する

6許可を求める

7客先訪問、商談

8契約書、お礼状、お詫び状などの作成

9引き合い、オファー、支払い

10保険、積載

11クレーム

12代理

13ビジネスマナー

14異文化理解(察し文化、曖昧表現など)

15プレゼンテーション(提案、発表)

16情報伝達(説明、報告する)

17意見陳述(評価、希望、提案をする)

18意見交換(説得、反論する)

19宴会

20就職活動

その他に困ったことがあれば、書いてください。中国語でもいいです。

4 小さいことでも構いませんが、ビジネスマナーに関して印象に残っているエピソード

(小故事)を一つ書いてください。中国語でもいいです。

<ビジネス日本語の授業について>

1 以下の学習項目の中で、以前大学で勉強したことがあるものはどれですか。現在の仕事

にとって役に立った項目は何ですか。該当するところに「○」をつけてください。一方、大

学の授業で勉強したことはないが、すれば良かったと思う項目は何ですか。強く思う順に番

号を付けてください。

2 大学のビジネス日本語の授業についてご意見をお書きください。今後の参考にさせてい

ただきます。中国語でもいいです。

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A

お得意先の会社を訪問するとき、2分遅れました。

訪問の挨拶、自己紹介をしてください。

資料 4 以前の授業と実験授業の違い

以前の授業 実験授業

授業の流れ

復習↓

本文の読み↓

教師からの難しい単語や内容の確認、説明↓

役割ごとの会話練習↓

教師からの宿題についての説明

復習↓

ビデオを見てマナーについて考え↓

ロールプレイ  (RP①→モデル会話のCDを聞く→タスクシートに記入→RP②)

↓シミュレーション

  (実際の状況を想定して、ビジネス活動を行う)↓

ケース活動(2回目と6回目のみ)↓

教師からの宿題についての説明

授業の目標 学習者がビジネス知識を得ることができる。非言語面と言語面において、学習者がビジネス習慣に合う行動を取ることができ、ビジネスマナーの理解ができるようになる

教科書 『新版商務談判日語』(大連理工大学出版社) 『にほんごで働く!ビジネス日本語30時間』

教室活動 役割ごとの会話練習先行型ロールプレイ、シミュレーション、ケース活動、ビデオ視聴、タスクシートに記入

学生の発話 教師の質問に答えることと役割練習発話以外は少ない色々な活動の中で、母語を混ぜながら自由な発話が多い

教師の役割 ビジネス日本語の知識を授ける状況や場面を与え、学習者に役割を決めさせる。重要な表現やマナーに関して気づかせる。必要な時、表現やマナーについて説明する

知識の獲得 教師の講義から獲得 体験型教室活動を通して、自ら気づいていく

授業の主体 教師主体 学習者主体

資料 5 相手が不在の電話と約束を取り付ける電話の分析観点

相手が不在の場合の電話 約束を取り付ける電話

(1)流れ①最初の挨拶 A 電話を受ける

B 自己紹介し、取り次ぎを頼むA 電話を受けるB 自己紹介し、取り次ぎを頼む

②電話の内容A 不在を告げ、伝言があるかを聞くB 伝言を頼む

A 名前を名乗りB 要件を言い、都合を聞くA,B 会う約束をする

③終わりの挨拶A 挨拶B 挨拶

A 挨拶B 挨拶

ⅠA いつもお世話になっておりますB いつもお世話になっております

A ~でございますB 初めて/~のご紹介でお電話させていただきます

Ⅱ*A自社の人に「さん」をつけないことB 敬語で伝言を頼む

A ~伺っています/待っておりますB 実は/早速ですが~の件でお目にかからせていただきたいです/~ていただきたいですが

Ⅲ A  用件の復唱A  いいですよB ~がよろしいでしょうか

Ⅳ A 電話番号の復唱A (具体的な時間を示す)~はいかがですかB 時間を復唱

ⅤA (具体的な場所を示す)~はいかがですかB 場所を復唱

 確  認  項   目

(2) ビジネスマナーに合った表現

資料 6 ロールカード(会社訪問)(SM)

B

応接室でお客さんと面会します。お客さんに席を

すすめてください。挨拶、自己紹介をしてください

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資料 7 約束を取り付ける電話の文字起こし (【 】は筆者による日本語訳。資料 9も同様) 3月30日 S4とS18のRP1 4:52 3月30日 S4とS18のRP2 2:43 3月30日  天上人間が美食グループにかけたSM 4:26 4月3日 S18が先輩のYさんにかけた授業案内の電話  1S4:はい、さくら貿易の山崎でございます。 1S4:さくら貿易でございます。 1S24:美食美客のZでございます。 1S18:私は日本語科の二年生の W と申します。えん、今お電話よろしいですか。

2S18:えん、はい、第一製鉄の、製鉄の会社でございます。 2S18:えん、はい、第一製鉄のグラウンでございます。 えん、え 2S18:緑しょう・・・ しょうじの、の、えん、紹介で 2Y:はい、大丈夫です。

3S18:いつもお世話になっておりますよ。 ん、山崎、第二営業部の山崎さんはいらっしゃいますか。 3S4:紹介で、電話をさせていただきます 3S18:えん、初めてお電話させていただきます。お願いいたします。えん、実はビ

3S4:少々お待ちください。 4S18:お電話いたしました天上人間のHと申します。 ジネス日本語科の授業で観察とケース活動があるんですが、ご参加させてい

4S4:はい、えん、山崎でございます。 5S4:你说,なか…中野部長お待ちしていました  .【こういう】 ただけませんか。

5S18:初めて、初めてお電話をさせて頂きます。私はABCカンパ 6S3:ああ、天上人間のHさんですか。お待ちしてニーの中野部長の紹介で。お電話しましたが。 7S24:お電話をお待ちしています

6S4:ブラウンさん、ブラウンさんでいらっしゃいますか。 8S18:有難うございます。実は、実は、ご、新製品のことで、

7S18:はい、わたしです。 9S24:ぜひ一度、

8S4:ABCカンパニーの中野部長に伺っていますが、お電話をお 10S18:ぜひ一度お目にかからせていただきたいと思います。待ちしています。

4S4:こちらこそいつもお世話になっています。御用件がえん、ありま 9S18:有難うございました。実は新製品のことで、えん、一度お 11S24:いいですよ。 4Y:はい、ぜひ行きます。せんか。 目にかからせていただきたいです。 12S4:さ、さ、え、(どういうの) 5S18:えん、有難う。時間はえん、4月13日の午後1時半からです。えん、よろし

5S18:えん、はい、ABCカンパニーの中野部長の紹介で、えん、 10S4:はい、いいです。 13S18:さっそくですが、 いでしょうか。新製品のことで一度会ってほしいと、ほしいんですよ。 11S18:えん、早速ですが、えん、明日の午後、えん、よろしい 14S4:早速ですが、来週の木曜日の午後はようじ、、よろしいでしょうか。 6Y:はい、いいです。何時までですか

6S4:えん、新製品、新製品のことですか。 でしょうか。 15S24:すみません、時間はありませんよ。 7S18:しち、えん、4月13日の午後1時半からです。7S18:はい、 12S4:はい、えん、約束しました。午後一時ごろはいかがですか。 16S4:那你说时间。【じゃ、あなた時間をきめて】 8Y:はい、はい、それは分っています。問題は何、何時までですか。8S4:えん、あのう、明日の午後の2時から、2時から、3時までが、 13S18:はい、明日の午後一時ごろですね。 17S24:えー、ど 9S18:えん、何時まで......フン、すみません、私はよくわかりません。

えん 都合がいいです。 18S4:好久有时间呢?【いつ時間がありますか】 10Y:あ、そう、はい、はい。19S18:いつよろしいですか。 11S18:場所は教室Cの409です。20S24:はい、来週の水曜日、えん、2時半午後、あ、午後2時半です。場所は どこですか。 12Y:Cの409ですか。

  場所は どこですか。 13S18:40921S4:你应该,你过来找我们公司。【うちの会社に来るべきです】 14Y:Cですか。22S24:えーど 15S18:教室C23S18:你说到办公室来麻  【事務所にきてって言ってください】 16Y:はいはい、はい、分かりました。24S24:いいえ、き・・・喫茶店那仫说呢,是不是きっさてん?【喫茶店はどういうの, 17S18:先輩のQQ番号はお願いいたします。

   きっさてんですか】 18Y:はい、えーと、7、7295545522

25S3:きっさてん 19S18 :えん、7294554……26S11:我们公司没有咖啡店。【うちの会社は喫茶店はないよ】 20Y :5522  QQ番号27S24:随便找个讪。你们来定【適当に探して、あなたたち決めて】 21S18:729554522ですか。わかりました。本当に有難うございました。28S18:会社の隣の喫茶店 22Y:いいえ29S24:はい、いいですよ。終わりましたか。30S4:认真点【まじめにしようよ】31S18:えん、貴社の隣の喫茶店で・・・来週の水曜日の32S24:2時半、午後2時半33S18:2時半でということ・・・・・・34S4:でよろしいでしょうか35S24:でよろしいでしょうか36S18:ということでよろしいでしょうか37S24:はい、いいですよ。

9S18:はい、そう、そうよ。フン、有難うございました。失礼します。 14S4:では、失礼します。 38S18:失礼します。有難うございます。 23S18:では、失礼しますが。

10S4:はい、かしこまりました。 15S18:失礼します。 39S3:どういたしまして。 24Y:はいはい、失礼します

40S24:どういたしまして。失礼します。 25S18:では、また

終わり

の挨拶

最初の挨拶

用件

Page 26: ビジネス日本語の授業における体験型教室活動の試 …jlc/jlc/ronshu/2011/Ni_Hong.pdf日本言語文化研究会論集 2011年第7号 【特定課題研究報告】

S22が先輩のPJにかけた電話 S19が先輩のYTにかけた電話 S14が先輩のTJにかけた電話1PJ はい、もしもし。 1S19 はい、先輩のYさん、いらっしゃいますか 1TJ もしもし、こちらはTJでございます。2S22 えん、三年生の先輩のPJでいらっしゃいますか。 2YT いらっしゃいますか。おお、はいはい、います。 2S14 はい、私は日本語科の2年生のGと申します。いま、電話3PJ はい、PJです。 3S19 はいはい、私は日本語科の二年生で、天下ボディガードのZXHで よろしいでしょうか。4S22 初めてお電話させていただきますが、私は二年生のWYFと申します。 ございます。 3TJ はい、よろしいです。なにか。

4YT 二年生?成都中医薬大学の二年生ですか?5S19 ああ?6YT 成都中医薬大学の、ですか7S19 ああ、日本語科の二年生で、8YT 日本語科の?10S19 はいはい。对对【そう、そう】

5PJ 何かご用件ありますか。 11YT はいはいはい。何かご用ですか。 4S14 えん、初めてお電話させていただきます。えん、いま、えん、私たちはビジネス日本語6S22 実は、えん、今度のビジネス日本語の授業観察のことで、ご参加ください 12S19 えん、ちょっと,えん、お願いがございますね。えん、あのう、4月じゅう、23日 授業観察、文化について、えん、活動があるので、ご参加していただけませんか。

ませんか。 水曜日で、午後…… 5TJ はい、いいです。7PJ 良いですよ。 13YT 23日ですよね。 6S14 えん、では、えん、文化の、あのう、時間はしがつ、しちがつ、じゅうさんか、えん、8S22 えん、さっそくですが、ええん、13日午後の1時半に、Cの40…9の 14S19 えん、4月13日、水曜日で、午後1時半 しがつ、じゅうさんにち、午後1時半です。えん、よろしいですか。

しんしつにいらっしゃるのはよろしいですか。 15YT 1時半? 7TJ はい、よろしいです。あのう、場所は?9PJ はい、いいです。 16S19 はい、日本語科の二年生のビジネス日本語にご招待させていただきたいです 8S14 えん、場所は教室C,えん、409です。10S22 はい。結構です。では、13日午後の1時半にCの409の教室にお越し 17YT はいはい、それですね、それで 9TJ はい、分かりました。あのう。

ください。宜しくお願いいたします。 18S19 はい、お願いが……お願いします、お願いします。 10S14 えん19YT はい、分かりました。それで? 11TJ あのう、別の人も参加しますか。誰か私の20S19 はい、はいはい、フンフン 12S14 はい、ほかの、ほかの4人ぐらいの先輩が参加します。21YT はいはい、その時に。我知道了,就是13号,那个商务课,对吗?【13日 13TJ はいはい。

ビジネス日本語の授業ですね】 14S14 あのう、TJ先輩、あのう、QQ,お願いします22S19 对对【そう、そう】 15TJ TJ?あのう、先の言葉、よく聞いていません。もう一回話してください。23YT 知道了。你再说一下你是谁吧。好吗?我这边很忙,我现在很忙,你稍等一 16S14 は、あのう、QQ、QQお願いします。

下好吗?晚一点打电话.好吗。【分かりました。もう一回あなたの名前を教え 17TJ QQてもらえる。今忙しい。ちょっと待っていて、あとで電話してくれる。】 18S14 はい、QQ番号

24S19 那就这样好吗?【それでは、よろしいでしょうか】 19TJ はい、電話番号は20S14 QQ21TJ はいはい、あのう、4588、4588、9530522S14 95305、えん、45889530523TJ はいはい。QQ の名前はお茶の水TJです24S14 お茶の水TJでございますか25TJ はいはい。

11PJ では、失礼いたします。 25YT 嗯,好的,OK?【ええ、いいです】 26S14 では、えん、お見えになって、待ちしています12S22 フン、失礼いたします。 26S19 失礼します 27TJ はいはい

28S14 本当に有難うございます。

最初の挨拶

用件

終わ

りの

挨拶

上:資料 8 相手が不在の場面の電話(S7と S8 ) 下:資料 9 先輩にかけた実際場面の電話(3本)

ロールプレイ1(RP1) ロールプレイ2(RP2)

1 S7:ABCカンパニーのオリガでございます。 1 S7:ABCカンパニーでございます。

2 S8:さくら貿易の山崎でございます。田中課長はいらっしゃいますか。 2 S8:さくら貿易の山崎でございます。3 S7:いつもお世話になりました。4 S8:こちらこそ、お世話になっております。田中課長はいらっしゃいますか。

3 S7:申し訳ございません。田中課長はいま会議中でおります。どのような用件がいらっしゃいますか。

5 S7:申し訳ございません。田中はいま会議中でございます。何か伝言がございますか。

4 S8:明日午前十時の約束を明後日に変更する。ご伝言を頼んでいただきますか。

6 S8:明日午前十時の約束を明後日に変更させ・・・たい、いただきます。

7 S7:明日午前十時の約束を明後日に変更しておりますか。8 S8:はい、

5 5S7:承知しました。山崎さんの電話番号がお願いします 9 S7:山崎さんの電話番号がお願いします6 6S8:03-7834-5678でございます 10 S8:03-1234-5678でございます

12 S7:03-1234-5678で、山崎さんでいらっしゃいますか。13 S8:はい。宜しくお願いたします。14 S7:かしこまりました。

15 S8:では、失礼いたします。

16 S7:失礼します。

最初の挨

用件

終わ

りの

挨拶

Page 27: ビジネス日本語の授業における体験型教室活動の試 …jlc/jlc/ronshu/2011/Ni_Hong.pdf日本言語文化研究会論集 2011年第7号 【特定課題研究報告】

 ブラウン:第一製鉄  山崎:さくら貿易   『日本語で働く!ビジネス日本語30時間』 P105より

1受付 さくら貿易でございます2プラウン 私、第一製鉄のプラウンと申しますが、第2

営業部の山崎さんいらっしゃいますか。3受付 少々お待ちください。

4山崎 はい、山崎。 5ブラウン 初めてお電話させていただきます。私、ABCカンパニ-の中野様のご紹介でお電話いたしました第一製鉄のプラウンと申します

6山崎 あ、第一製鉄のブラウンさんですか。中野部長から伺っていますよ。お電話をお待ちしていました。

7ブラウン 有難うございます。実は私ども新製品のことでぜひ一度お目にかからせていただきたいと思いまして・・・

8山崎 いいですよ。9ブラウン 有難うございます。では、早速ですが、来週

の木曜日はいかがでしょうか。

10山崎来週の木曜日ですね。午後1時ではいかがでしょうか。

11ブラウン はい、結構です。では、来週の木曜日1時にお伺わせていただきます。

12山崎 はい、お待ちしております。 13ブラウン では、失礼いたします。14山崎 失礼いたします。

資料 10-1 2回目の実験授業の CDのスクリプト

資料 10-2 2回目の実験授業のロールカード

ロールプレイ

RP1、RP2

A ①

社名:第一製鉄 名前:ブラウン

ABC カンパニの中野部長の紹介でさくら貿易の第 2 営

業部の山崎さんに電話してください。新製品のことで一

度会ってほしいと言ってください。

B ①

社名:さくら貿易 名前:山崎

会いたいという希望に対して、了解し

てください。

シミュレーション

SM

A ②

社名: 名前: 電話番号:

緑商事の中村部長の紹介で、______に電話し

てください。訪問の曜日、時間、場所などについて相談

してください。

B ②

社名: 名前:

会社訪問を了解してください。

訪問の曜日:

時間: 場所:

資料 11 マナーの判断性問題

(正解)マナーの判断性問題 行った教室活動 正解率

○1.電話は 3コール以内に出るのが理想 ビデオ視聴 65%

○2.電話の近くにメモを置いておく ビデオ視聴 96%

○3.応接室ではドアに近い席は下座 PPT説明+タスク先行型 87%

○4.遅刻する時、必ず電話でも連絡する タスク先行型ロールプレイ 96%

×5.名刺は左手で相手に渡す PPT説明+タスク先行型 100%

○6.名刺は、名前が相手に読める向きで渡す PPT説明+タスク先行型 100%

×7.名刺に書いてある名前が読めない時、相手に聞かないほうが良い 教師の説明 78%

○8.「ほうれんそう」のそうは相談のことだ シミュレーション 87%

○9.直行、直帰のとき、必ず会社に連絡する ロールプレイ 100%

×10.メールの用件を参考までに知らせたい人には、BCCの宛先で送る PPT説明 57%

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資料 12 1回目の授業のタスクシート

資料 13 シミュレーションとケース活動についての意見(学習者に対する質問紙調査より)

資料 14 実験授業についての意見(学習者に対する質問紙調査より) (人、%)

項目 強く賛成 賛成どちらとも言えない

あまり賛成しない

全く賛成しない

Q1授業は分かりやすかったか 2(9%) 14(61%) 7(30%)

Q2授業は面白かったか 5(22%) 12(52%) 6(26%)

Q3授業に積極的に参加したか 7(30%) 14(61%) 2(9%)

Q4将来の仕事で、授業で勉強した場面において、どのように行動すべきか分ったか 3(13%) 15(65%) 5(22%)

Q5実際の会社員になったように感じたか 4(18%) 10(43%) 7(30%) 2(9%)

Q6ロールプレイの場面は想像しやすかったか 4(18%) 11(48%) 6(26%) 1(4%) 1(4%)

Q7授業で勉強した会話はできるようになったか 10(44%) 12(52%) 1(4%)

Q8尊敬語と謙譲語をわけて使えるようになったか 1(4%) 11(49%) 10(43%) 1(4%)

Q9ロールプレイをする時、ビジネスマナーを考慮しながら話すようになったか 6(26%) 12(52%) 5(22%)

Q10ケース活動を通して、異文化が理解でき、問題解決能力を身につけられるようになったか 6(26%) 14(61%) 3(13%)

Q11タスク先行のロールプレイを通して、ビジネスのマナーが理解できるようになったか 5(22%) 17(74%) 1(4%)

Q12今後も同じような授業を受けたいか 2(9%) 12(52%) 9(39%)

Q:ビジネス日本語の

授業で模擬会社を作

る必要があると思う

か。

A:必要がある(22人)

必要がない(1人)

S6: 必要がある。シミュレーションをすれば、私たち学生にもっと臨場感を与え、自分の

役ももっと真面目に演じるようになった。

S9: 必要がある。学生に早めに社会に入るように感じさせるから、学生も積極的に授業に

準備し、参加する。

S14: 必要がある。自分自身をあるポストに置かれることで、実際に(ビジネス活動を)体験

することができ、正確に使うようになるから。

Q:ビジネス日本語の

授業でケース活動を

する必要があると思う

か。

A:必要がある(23人)

S3: 必要がある。この活動をすれば、もっとマナーに関して理解しやすくなる。理論だけ

教えてくれても、空洞的で、なかなか理解できない。

S6: 必要がある。みんなが自分の意見を発表したから。同じことに対して、色々な違う見

方を聞くことができる。

S7: 必要がある。たくさんのケースに対して分析して、ビジネスマナーについてもっと知

るようになった。

1.ビデオを見て、電話応対の表現を書いてください。

2.録音を聞いて、自分のロールプレイを録音と比べて、気がついたところ(録音と同じだったこと、言い足りなかっ

たこと、直したほうがいいところなど)について書いてください。

3.1回目のロールプレイと比べ、2回目のロールプレイはどんな変化がありますか。気づいた点を書いてください。

4.この課で特に学んだことを書いてください。

5.あなたはどのぐらい授業に参加しましたか。該当するものを1-4から一つ選んでください。

□①積極的に参加した □②参加した

□③あまり参加しなかった □④全然参加しなかった

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資料 15 ケース活動の資料

私王●●は、お土産会社の営業マンです。今回、新しい機能付きの新製品が発売されたので、知り合いが紹

介してくれた小田部長の会社に導入したいと思い、小田部長にアポイントメントをとり、訪問しました。

小田部長は新製品をパッと見てから、「うん、そこに置いておいてくれる?見積もりも出しておいてね。」とおっし

ゃいました。私は買っていただけると思って嬉しかったです。翌日、見積もりの件で小田部長に電話をかけたとこ

ろ、「ごめん、今日は忙しい。明日電話してくれる?」と言われました。次の日電話をしてみたら、「悪い、今日も忙

しい、今度また来てくれる?」ということでした。そうは言われたものの、次のアポイントメントをとることはできませ

んでした。

私は一体これからどうすればいいでしょうか。明日電話をするつもりですが、またアポイントメントが取れないと

思うと、不安な気持ちでいっぱいです。それとも、会社に直接行ったほうがいいでしょうか。困っています。

設問とクラスでの発言例

設問 クラスでの発言例

1ー1王さんの気持ちを考えて

みましょう。

S1: 大変不安だと思う。

S5: あせっている

S8: 王さんは部長に新製品を買ってもらいたい

1ー2部長の気持ちを考えて

みましょう。

S18: ケースに「パッと見てから」と書いてあるので、買いたくないと思う

S12:部長のアクセントから分かる

S3: 新商品に対して、質問したかどうか部長の気持ち(買いたいかどうか)が分かる

S21:どんな質問をしたかも大事だ。それによって、部長の気持ちが読み取れる

S14:表情や目線からも部長の心が分かる

2. この状況で何が問題だと

思いますか。その理由は何で

しょうか。

S11:王さんは部長の気持ちが分からないこと

S12:部長の気持ちより、日本人の考え方が分からないこと

S15:文化が違うこと

S1: 王さんは察しの文化を知らないこと

3. あなたにも似た経験があり

ますか。 全員:ない

4.あなたが王さんだったら、

どのように行動しますか。その

理由は何です。

S8:私だったら、毎日行く。いつか私のことをかわいそうと思って、会ってくれるだろう

S12:部長の助手に電話して、助手から約束を取る

S3: 私なら、電話ではなく、メールをする

S1: 2日続けて行って、2日後に、また部長の会社に行く

S21:部長の上司の社長に電話する

S11:私だったら、まず部長と雑談して、それから新商品のことを頼む

*中国語を筆者が訳した