仮想マシン上のWWWサーバの性能評価仮想マシン上のWWWサーバの性能評価 99...

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小山工業高等専門学校研究紀要 42 (2010) 97-102 仮想マシン上の WWW サーバの性能評価 Benchmark test for W WW Servers on Virtual Machine 南斉清巳,大塚雄太* KiyorniNANSAI,YutaOTUKA 1 . はじめに 近年、 CPU のマルチコア化などによりコンピ ュータの高性能化、大容量化は著しいものがある。 こうした背景から 1 台のサーバに複数の仮想マシ ンを構築する仮想化ソフトが実用化されている。 仮想化ソフトを使用することで、見かけ上、 1 のコンピュータで複数のサーバとして稼働させ ることができる。 1 台のサーバにメールサービス、 WWW サービス、データベースサービスなどの サーバ機能を複数持たせるよりも、機能毎にサ ーバを構成した単機能サーバの方が安定性や保 守性の面で優れている。また、ハードウエアコ ストの削減、消費電力の削減や管理コストの削 減が期待できる。このようなことから仮想マシ ンでサーバを構築するケースが増えている。仮 想マシン用のソフトとしてはVMware Xen どが有名であるが、本稿では、 Windows Server 2008 で新たに提供されたHyper-V を用 いた仮想マシン上でWWW サーバを構築し、そ の性能評価を行ったので報告する。 2. Hyper-V について 仮想化方式としてはホスト OS 方式(図1)と ハイパーバイザ方式(図 2) 2 種類がある。こ れまでマイクロソフトが提供していた Virtual Server 2005 は、 WindowsServer 2003 をホス OS とし、その上にアプリケーションとして仮 想マシンの環境を構築する、ホスト OS 方式であ った(図 1) 。このためゲスト OS 1/0 アクセ スはすべてホスト OS を経由してアクセスされる ことになり、ホスト OS のオーバーヘッドのため 仮想マシンの動作パフォーマンスはあまり良く ない。また、ホスト OS 側での障害が仮想マシン 上にも影響が及び、結果的に仮想マシンがダウ *平成21 3 月小山高専卒業現宇都宮大学 ンしてしまうこともある。これに対して、ハイ パーバイザ方式と呼ばれる仮想化方式では、ホ スト OS を用意しないで、ハードウェア上に仮想 環境をサポートするための小さなOS であるハイ パーバイザを構築し、その上でOS を起動する(図 2)。ハイパーバイザ方式の利点としては、仮想 マシン上の OS が囲接、ハイパーバイザ上に用意 された1/0 にアクセスするため、ホスト OS 方式 に比べ1/0 のオーバーヘッドが少ないため、高い パフォーマンスで動作することができる。ただし、 ハイパーバイザ方式では各種ハードウェアをア クセスするための専用のドライバソフトが必要 となる。このため、サポートされる周辺機器が 少なくなる。 WindowsServer 2008 で採用され Hyper-V は、これまでマイクロソフトがリリ ースしていたVirtualServer 2005 とは、仮想化 のアーキテクチャが異なり、ハイパーバイザ方 式とホスト OS 方式の利点を併せ持つ、ハイブリ ッド方式を用いて仮想環境を提供している。 Hyper-V ではハイパーバイザ上ですべての仮想 環境としての動作をしているわけではなく、ハ イパーバイザ上で動作するペアレントパーティ ションとゲスト OS が動作するチャイルドバーテ ィションに区分され、ペアレントパーティショ ンには64 ビット版のWindowsServer 2008 必要となる。図 3に示すように Hyper-V ではハ イパーバイザ層にはドライバを置かずにペアレ ント OS 部分にドライバ本体が憤かれる。また、 ペアレント OS 側には、仮想環境に対応したネッ トワークやストレージのドライバが用意され、 チャイルド OS 側から接続される。 97

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Page 1: 仮想マシン上のWWWサーバの性能評価仮想マシン上のWWWサーバの性能評価 99 同様に、 2台目、 3台目及び4台目の仮想マシンを 起動して同様の実験を行った。2台以上の仮想マ

小山工業高等専門学校研究紀要

第 42 号 (2010) 97-102

仮想マシン上のWWWサーバの性能評価

Benchmark test for WWW Servers on Virtual Machine

南斉清巳,大塚雄太*

Kiyorni NANSAI, Yuta OTUKA

1 . はじめに

近年、 CPUのマルチコア化などによりコンピ

ュータの高性能化、大容量化は著しいものがある。

こうした背景から1台のサーバに複数の仮想マシ

ンを構築する仮想化ソフトが実用化されている。

仮想化ソフトを使用することで、見かけ上、 1台

のコンピュータで複数のサーバとして稼働させ

ることができる。 1台のサーバにメールサービス、

WWWサービス、データベースサービスなどの

サーバ機能を複数持たせるよりも、機能毎にサ

ーバを構成した単機能サーバの方が安定性や保

守性の面で優れている。また、ハードウエアコ

ストの削減、消費電力の削減や管理コストの削

減が期待できる。このようなことから仮想マシ

ンでサーバを構築するケースが増えている。仮

想マシン用のソフトとしてはVMwareやXenな

どが有名であるが、本稿では、 Windows

Server 2008で新たに提供されたHyper-Vを用

いた仮想マシン上でWWWサーバを構築し、そ

の性能評価を行ったので報告する。

2. Hyper-Vについて

仮想化方式としてはホストOS方式(図 1) と

ハイパーバイザ方式(図 2) の2種類がある。こ

れまでマイクロソフトが提供していたVirtual

Server 2005は、 WindowsServer 2003をホス

トOSとし、その上にアプリケーションとして仮

想マシンの環境を構築する、ホストOS方式であ

った(図 1)。このためゲストOSの1/0アクセ

スはすべてホストOSを経由してアクセスされる

ことになり、ホストOSのオーバーヘッドのため

仮想マシンの動作パフォーマンスはあまり良く

ない。また、ホストOS側での障害が仮想マシン

上にも影響が及び、結果的に仮想マシンがダウ

*平成21年3月小山高専卒業現宇都宮大学

ンしてしまうこともある。これに対して、ハイ

パーバイザ方式と呼ばれる仮想化方式では、ホ

ストOSを用意しないで、ハードウェア上に仮想

環境をサポートするための小さなOSであるハイ

パーバイザを構築し、その上でOSを起動する(図

2)。ハイパーバイザ方式の利点としては、仮想

マシン上のOSが囲接、ハイパーバイザ上に用意

された1/0にアクセスするため、ホストOS方式

に比べ1/0のオーバーヘッドが少ないため、高い

パフォーマンスで動作することができる。ただし、

ハイパーバイザ方式では各種ハードウェアをア

クセスするための専用のドライバソフトが必要

となる。このため、サポートされる周辺機器が

少なくなる。 WindowsServer 2008で採用され

たHyper-Vは、これまでマイクロソフトがリリ

ースしていたVirtualServer 2005とは、仮想化

のアーキテクチャが異なり、ハイパーバイザ方

式とホストOS方式の利点を併せ持つ、ハイブリ

ッド方式を用いて仮想環境を提供している。

Hyper-Vではハイパーバイザ上ですべての仮想

環境としての動作をしているわけではなく、ハ

イパーバイザ上で動作するペアレントパーティ

ションとゲストOSが動作するチャイルドバーテ

ィションに区分され、ペアレントパーティショ

ンには64ビット版のWindowsServer 2008が

必要となる。図 3に示すようにHyper-Vではハ

イパーバイザ層にはドライバを置かずにペアレ

ントOS部分にドライバ本体が憤かれる。また、

ペアレントOS側には、仮想環境に対応したネッ

トワークやストレージのドライバが用意され、

チャイルドOS側から接続される。

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Page 2: 仮想マシン上のWWWサーバの性能評価仮想マシン上のWWWサーバの性能評価 99 同様に、 2台目、 3台目及び4台目の仮想マシンを 起動して同様の実験を行った。2台以上の仮想マ

98 南斉清巳•大塚雄太

ゲストOSIゲストOS

仮想化ソフト

ホストOS

ハードウェア

図1 ホストOS型

三仮想化ソフト

ハードウェア

図2 スーパバイザ型

Windows Server 2008

ゲストOSIゲストOS

ハードウェア(IntelVT/ AMD-Vサポート)

図3Windows Hyper-V

3. 使用機器及び構成

仮想マシン用サーバは、 IBMSysytem x315 0

(Opteron 1212 dual core, 8GB Memory) に

Microsoft Server 2008 R2 Enterprizeを標準イ

ンストールし、 Hyper-Vを構成した。仮想マシ

ンは全部で4台構成し、それぞれの1GBのメモ

リーを割り 当てた。それぞれの仮想マシンには

Windows Server 2008 R2 standardをインス

トールした。設定は基本的にデフォルト設定で

とした。使用した機器とソフトウェアを次に示す。

(1)ハードウェア

IBM System x3150

CPU:AMD Opteron 1212 (Dual core 2GHz)

Memory:8GB

HDD:SATA 240GB

NIC:lOOOBASE-TX

(2)ソフトウェア

Windows Server 2008 R2

IIS 7.5

上記で構成したサーバに、ギガビットスイッ

チを介してベンチマークテスト用のPCを接続した。

ベンチマークテスト用PCにはIBM System

x3150を使用し、 OSとしてFedoralO

をインストールし、ベンチマークソフトとして

Apacheに標準で付属しているApacheBenchを

使用した。図4に実験構成図を示す。

図4 ネットワーク構成図

4. 実験方法

実験方法としては、最初にサーバ上の仮想マ

シンソフトであるHyper-Vを停止した状態で、

ペアレントOS上のWWWサーバソフトであるIIS

を起動させた状態でベンチマークテスト用PCの

ApacheBenchによりテストした。このときの環

境を実機と呼ぶことにする。 ApacheBenchで使

用するabコマンドはオプションの指定によって、

リクエスト数、同時接続数などを変えることが

できる。今回のテストではリクエスト数を

10,000回に固定し、同時リクエスト数を1、5、10、

50、100の場合について行った。また、リクエ

ストするファイルサイズは 1KB、10KB、

100KBの3種類とした。次にペアレントOS上の

IISを停止させ、 Hyper-Vを起動し、 1台の仮想

マシンVMlを起動させ、その上でIISを動作させ

る。この状態でベンチマークテスト用PCからab

コマンドを使用して先ほどと同様にテストを行う。

Page 3: 仮想マシン上のWWWサーバの性能評価仮想マシン上のWWWサーバの性能評価 99 同様に、 2台目、 3台目及び4台目の仮想マシンを 起動して同様の実験を行った。2台以上の仮想マ

仮想マシン上のWWWサーバの性能評価 99

同様に、 2台目、 3台目及び4台目の仮想マシンを

起動して同様の実験を行った。 2台以上の仮想マ

シンのIISに対してベンチマークを行う場合は、

同時にリクエストが発行されるような状態でテ

ストした。最大で4台の仮想マシンに対して同時

に負荷がかかった状態でテストを行った。

5. 実験結果

図5から図9までは1KBの大きさのファイルに

アクセスしたものである。同時アクセス数を

1,5,10,50,100と変化させた場合、サーバの毎秒

あたりのリクエスト処理数がどのように変化す

るか調べたものである。仮想マシンの数は1台か

ら最大4台まで実験を行った。最初に仮想マシン

ではなくではなく、ペアレントOS上で動作させ

たIISに対してアクセスした場合を実機とし、そ

の時の結果を図 5に示す。図 6から図 9までは

仮想マシンの台数を 1台から 4台まで増加させ

た場合の結果である。

実機6000

5000

,i: “ , -螂2000

1000

10 50 100

同時接統敷

図5

仮想マシン1台

4000

3000

~ gi 畑

1000

仮想マシン2台4000

JOO()

『<-, 2000

: 1000

er

10 50 100

同時接綬数

図7

仮想マシン3台

4000

3000

『<-2000

~ 尊

1000

I゚ 匹

10 50 100

同時接統数

図8

仮想マシン4台

10 50

同時接続数

図6

100

- 実機

--0-1VM

4000

g

級上

≪Hミ―念嗚

--0--2VM-VM1

--0-2VM-VM2

● 3VM-VM1

-0-3VM-VM2 一3VM-VM3

4000

g

編上

kHヽっ―念峨

---<>-4VM-VM1

--0-4VM-VM2

--l:,-4VM-VM3

°"*"" 4VM-VM4

10 50 100

同時接絨敷

図9

図10から図14までは10KBのファイルサイズ

に対して同様の実験を行った結果である。

実機

一◇一実機

10 50 100

同時接続数

図10

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100 南斉清巳•大塚雄太

実機4000

D

o

o

D

o

o

0

0

0

3

2

1

鋭上kH6「―念戦

4000

0

0

0

0

0

0

0

0

0

3

2

1

+kH4(―念岨

2000

0

0

0

0

0

0

5

0

5

1

1

抵上kH6-8岨

2000

1500

。゚。ー

縦kH

(̀―念戦

500

仮想マシン1台

1200

1000

謳在" 800 600

国咀 400

~1VM

200

10 50 100

同時接線数

図11

仮想マシン2台

1000

800

~2VM-VM1 a 600

~2VM- VM2 全尊二 ゆ

200

10 50 100

同時接続数

図12

仮想マシン3台1000

800

~3VM-VM1 竺600

一仁l-3VM-VM2 ~ ~載 400 ~3VM-VM3

200

10 so 100

同時接読数

図13

仮想マシン4台

400

鋭-<>-4VM--VM1

i 念壌 300 2 00

~4VM-VM2

---tr-4VM-VM3

~4VM-VM4

100

- --v

/ /

<f

10 50 100

同時接綬数

図15

仮想マシン1台

10 50 100

同時接練数

図16

仮想マシン2台

10 50

同時接続数

100

10 50 100

同時接続数

図17

仮想マシン3台

ー◇ー実機

-0-1VM

10 50

同時接絞数

-0-2VM-VM1

-0-2VM-VM2

--0-3VM-VM1

-0-3VM-VM2

-0-3VM-VM3

100

図14

図15から図19までは100KBのファイルサイズ

に対して同様の実験を行った結果である。

図18

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仮想マシン上のWWWサーバの性能評価 101

仮想マシン4台

500

0

0

0

0

0

0

0

0

4

3

2

1

紙上kHM,<f,U寧

-0-4VM-VM1

-0-4VM-VM2

--t,-4VM-VM3

X 4VM-VM4

10 50

同時接続数

100

図19

図20は1KBの大きさのファイルに対するアク

セスの場合、仮想マシンの台数によって毎秒あ

たりのリクエスト処理数がどのように変化する

かグラフ化したものである。

1200

1000

800600400

縦上kH6(―念職

200

実機 1台 2台 3台

仮想マシン台数

4台

-<>-1 -0-5

-ir-10

..,...50

-l!E-100

図20

図21は同時アクセス数が10のとき、仮想マシ

ンの台数によって毎秒あたりのリクエスト処理

数がどのように変化するかグラフ化したもので

ある。 このグラフから、仮想マシンの台数が増

えてもレスポンスが大きく落ちていないことが

わかる。

6. まとめ

Windows Server 2008で提供されるHyper-

Vによる仮想マシン上のWWWサーバについてそ

の性能評価を行った。実機に対して仮想マシン

上のWWWサーバは70%程度に処理能力が低下

するが、仮想マシンの台数の増加に対しては比

較的処理能力の低下は少ないことが分かった。

ボトルネ ックとなるのはハードディスクヘのア

クセスとネットワークインターフェースカード

へのアクセスの集中が考えられる。今後は仮想

マシン上で、これらの1/0アクセス性能の測定が

行ってみたいと思う。さらに、 VMwareやXen

など、他の仮想マシンソフトとの比較も行って

みたい。

参考文献

(1)UNIX Magazine, (株)アスキー,2007.1

(2)Microsoft Hyper-Vホームページ

http:/ /www.microsoft.com/ japan/window

sserver2 0 08/technologies/hyperv.mspx

(3)アットマーク・アイティ 第14回 Windows

OSに標準搭載された仮想化機能「Hyper-V」

http:/ /www.atmarkit.eo.jp/fwin2k/winsv

2008/ 14hyperv _ 01/ 14hyperv _ 01_ 03.html

小山工業高等専門学校 電子制御工学科

E-mail : [email protected]

「受理年月日 2009年9月30日」

1600

1400

1200

鋭_,_ 1000

~蓋戦~ 86 00 0 0

400

200

゜実機

-0-lK

--0-lOK

-i'r-lOOK

1VM 2台 3台 4台

仮想マシン数

図21

Page 6: 仮想マシン上のWWWサーバの性能評価仮想マシン上のWWWサーバの性能評価 99 同様に、 2台目、 3台目及び4台目の仮想マシンを 起動して同様の実験を行った。2台以上の仮想マ

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