マンスリー・トピックス( 最近の経済指標の背景解 …...1 * 【概要】...

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1 【概要】 1.本稿は、2018年4月に開催された月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料におい て掲載された既存住宅を巡る現状について、より詳細に整理したものである。 2.既存住宅取引の現状について、既存住宅取引を活性化させる施策や新築・中古にこ だわらないという志向の変化等をうけ、既存住宅成約件数は、緩やかな増加傾向にあ る。特に、東京都区部での中古マンション成約件数が大幅に増加しており、その背景 には、共働き世帯の増加による住宅の利便性の追求、新築マンション価格の高騰等が あげられる。また、既存住宅に決めた理由として、リフォーム関連を理由とした回答 が多くなっており、既存住宅購入の決め手として、リフォームの寄与が大きくなって いる可能性がうかがえる。 3.リフォームに関する現状については、低単価の維持・修理工事が大半を占め てお り、 小規模工事が主流となっているものの、省エネルギー対策や耐震性向上を主たる工事 目的としたリフォームも一定程度存在している。また、その他の特徴としては、トイ レ、キッチン、浴室といった水回りでの設備の改善・変更が多いことや、若 年層 で中古 住宅の購入時や子供の成長や世帯人員の変更に伴うライフステージの変化を目的とし たリフォームの割合が他の世代と比べ高いこと、高齢者層では、住宅の老朽化や老後 の備え・高齢者対応を目的としたリフォームの割合が他の世代と比べ高いこ とが ある。 4.今後については、既存住宅の媒介契約締結時にインスペクションの周知及びあっせ んを義務づけることとなった改正宅地建物取引業法の施行や既存住宅の品質を国が保 証する仕組みといえる「安心R住宅」がともに、 2018年4月1日から開始され、既存住 宅に対するマイナスイメージの払しょくがより一層進むことで、既存住宅取引やリフ ォーム工事の拡大が期待される。 1 本稿は、江尻が内閣府政策統括官(経済財政分析担当)付参事官(総括担当)付に在籍時に整理・執筆 した内容について、後任の河除が内容を改めて精査したうえ公表するものである。本稿の執筆にあたり、 内閣府・経済財政分析担当のスタッフ各位には大変お世話になった。特に参事官(経済財政分析-総括担 当)付参事官補佐の小寺信也氏からは有益な助言及びコメントをいただいた。記して感謝の意を表した い。ただし、ありうべき誤りは全て執筆者に属する。なお、本稿の内容や意見は執筆者個人のものであ り、必ずしも内閣府の見解を示すものではない。 2 元内閣府政策統括官(経済財政分析担当)付参事官(総括担当)付政策企画専門職。 3 内閣府政策統括官(経済財政分析担当)付参事官(総括担当)付行政実務研修員。 マンスリー・トピックス(最近の経済指標の背景解説) NO.055 平成30年8月6日 既存住宅を巡る現状について 1 江尻 晶彦 2 、河除 智哉 3

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Page 1: マンスリー・トピックス( 最近の経済指標の背景解 …...1 * 【概要】 1.本稿は、 2018 年4月に開催された月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料

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【概要】

1.本稿は、2018年4月に開催された月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料におい

て掲載された既存住宅を巡る現状について、より詳細に整理したものである。

2.既存住宅取引の現状について、既存住宅取引を活性化させる施策や新築・中古にこ

だわらないという志向の変化等をうけ、既存住宅成約件数は、緩やかな増加傾向にあ

る。特に、東京都区部での中古マンション成約件数が大幅に増加しており、その背景

には、共働き世帯の増加による住宅の利便性の追求、新築マンション価格の高騰等が

あげられる。また、既存住宅に決めた理由として、リフォーム関連を理由とした回答

が多くなっており、既存住宅購入の決め手として、リフォームの寄与が大きくなって

いる可能性がうかがえる。

3.リフォームに関する現状については、低単価の維持・修理工事が大半を占めており、

小規模工事が主流となっているものの、省エネルギー対策や耐震性向上を主たる工事

目的としたリフォームも一定程度存在している。また、その他の特徴としては、トイ

レ、キッチン、浴室といった水回りでの設備の改善・変更が多いことや、若年層で中古

住宅の購入時や子供の成長や世帯人員の変更に伴うライフステージの変化を目的とし

たリフォームの割合が他の世代と比べ高いこと、高齢者層では、住宅の老朽化や老後

の備え・高齢者対応を目的としたリフォームの割合が他の世代と比べ高いことがある。

4.今後については、既存住宅の媒介契約締結時にインスペクションの周知及びあっせ

んを義務づけることとなった改正宅地建物取引業法の施行や既存住宅の品質を国が保

証する仕組みといえる「安心R住宅」がともに、2018年4月1日から開始され、既存住

宅に対するマイナスイメージの払しょくがより一層進むことで、既存住宅取引やリフ

ォーム工事の拡大が期待される。

*1本稿は、江尻が内閣府政策統括官(経済財政分析担当)付参事官(総括担当)付に在籍時に整理・執筆

した内容について、後任の河除が内容を改めて精査したうえ公表するものである。本稿の執筆にあたり、

内閣府・経済財政分析担当のスタッフ各位には大変お世話になった。特に参事官(経済財政分析-総括担

当)付参事官補佐の小寺信也氏からは有益な助言及びコメントをいただいた。記して感謝の意を表した

い。ただし、ありうべき誤りは全て執筆者に属する。なお、本稿の内容や意見は執筆者個人のものであ

り、必ずしも内閣府の見解を示すものではない。 *2元内閣府政策統括官(経済財政分析担当)付参事官(総括担当)付政策企画専門職。 *3内閣府政策統括官(経済財政分析担当)付参事官(総括担当)付行政実務研修員。

マンスリー・トピックス(最近の経済指標の背景解説)

NO.055 平成30年8月6日

既存住宅を巡る現状について*1

江尻 晶彦*2、河除 智哉*3

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(備考)1.総務省「人口推計」、「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」、国立社会

保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2017 年推計)」、「日本の世帯数の将来推

計(2018 年推計)」により作成。

2.人口は出生中位・死亡中位の推計を用いている。また、2015 年以前の世帯数は、国勢調査

の結果及び住民基本台帳に基づく世帯数の増減を用いて補間した数値。

1.はじめに

我が国の人口は、2011年以降は一貫して減少しており、2015年以降の人口予測をみて

も減少していくことが見込まれ、人口減少社会に突入したといえる。人口が減少傾向で

推移していくため、今後の世帯数についても、2023年をピークに減少していく見通しと

なっている(第1図)。その一方で、住宅ストック数は増加の一途を辿っており、2013年

には約6,063万戸となった。2015年の世帯数と比較しても、住宅は充足している状況とな

っており、空き家率も過去最高の13.5%となっている(第2図)。

世帯数の伸びの鈍化と住宅ストックの量の充足に伴い、住生活基本法(2006年制定)

が制定されるなど既存住宅活用型市場への転換が図られてきた。住生活基本法により定

めることを義務付けられている住生活基本計画(全国計画)(2016年3月18日閣議決定)

では、リフォーム・既存住宅流通等の住宅ストック活用型市場への転換の遅れが指摘さ

れており、いわゆる「住宅すごろく」に代わる新たな住宅循環システム 1の構築及び建替

えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新を目標に掲げている。

そこで、本稿では、統計からみた既存住宅取引の現状と既存住宅の品質向上や資産価

値を維持するために必要なリフォームに関する現状について整理する。

人口は 2008 年、世帯数は 2023 年をピークに減少する見込み

1 「購入した住宅の維持管理やリフォームの適切な実施により、住宅の価値が低下せず、良質で魅力的な

既存住宅として市場で評価され、流通することにより、資産として次の世代に承継されていく新たな流

れ」のこと。

(1)人口動態及び将来予測 (2)世帯数動向及び将来予測

第1図 人口及び世帯数

8

9

10

11

12

13

14

2000 05 10 15 20 25 30 35 40

予測値

(年)

(千万人)

4,200

4,600

5,000

5,400

5,800

2000 05 10 15 20 25 30 35 40(年)

(万世帯数)

予測値

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(備考)1.総務省「住宅土地統計調査」により作成。 2.空き家率とは、空き家数を住宅総数(住宅ストック)で除した値。

住宅ストックは増加の一途を辿っており、空き家率も過去最高

2.既存住宅取引の現状

(既存住宅取引は活性化施策や志向の変化等をうけ、緩やかな増加傾向にある)

まず、既存住宅取引の現状についてみてみよう。公共財団法人東日本不動産流通機構

及び公共財団法人近畿圏不動産流通機構が公表している資料をもとに、首都圏 2及び近

畿圏 3の中古戸建て及び中古マンションの成約件数の動向をみると、両者ともに成約件

数は緩やかな増加傾向で推移している(第3図)。その背景としては、既存住宅活用型

市場への転換のため、既存住宅取引を活性化させる施策 4が整備されたことや、それら

に伴い、住宅の所有に関する志向として、新築・中古のどちらでも構わないという割合

が増加し、調査開始以来、初めて新築住宅を希望する割合が6割を下回るなど、消費者

の住宅所有に関する志向に変化が生じていることなどが考えられる(第4図)。

2 首都圏とは、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県を指す。 3 近畿圏とは、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県を指す。 4 主な国の施策については、以下のとおり。

既存住宅売買かし保険制度、既存住宅流通・リフォーム推進事業、既存住宅インスペクション・ガイドラ

インの策定、中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針の策定、買取再販住宅の不動産取得税の

特例措置、買取再販住宅の登録免許税の税率軽減、フラット 35 リノベの金利優遇制度、若者の中古住宅

取得時のエコリフォーム補助金制度

(1)住宅ストック (2)空き家率及び空き家数

第2図 住宅ストック及び空き家率

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

1973 78 83 88 93 98 2003 08 13

(万戸)

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

0

2

4

6

8

10

12

14

16

1973 78 83 88 93 98 2003 08 13 (年)

(%) (万戸)

空き家率(折線)

空き家数(目盛右)

(年)

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(備考)1.公共財団法人東日本不動産流通機構、公共財団法人近畿圏不動産流通機構公表資料に

より作成。

2.(2)については、2017 年の値が未公表のため、中古マンション(専有面積 350 ㎡

まで)、中古戸建て(土地面積 50 ㎡から 350 ㎡まで)における成約件数の前年比を用い

て算出した。

(備考)1.国土交通省「土地問題に関する国民の意識調査」により作成。

2.住宅の所有について、「土地・建物を両方とも所有したい」もしくは「建物を所有して

いれば、土地は借地でも構わない」と答えたものを対象にしている。

3.調査は 2003 年度から開始されているが、新築住宅、中古住宅のどちらを所有したいか

という調査項目は 2011 年度から開始。

中古戸建て・中古マンションともに緩やかな増加傾向

調査開始以来、初めて新築住宅を所有したい割合は6割を下回った

(1)首都圏 (2)近畿圏

第3図 中古戸建て・中古マンション成約件数

第4図 住宅の所有に関する志向の変化

0

0.5

1

1.5

2

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

2010 11 12 13 14 15 16 17 (年)

(万戸) (万戸)

中古マンション中古戸建て(目盛右)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

1.8

2

2010 11 12 13 14 15 16 17 (年)

(万戸)

中古マンション 中古戸建て

29.5 37.8

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

2011 2016

わからない

その他

中古住宅

新築・中古どちらでもよい

新築住宅

(年度)

(%)

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(備考)1.公共財団法人東日本不動産流通機構、公共財団法人近畿圏不動産流通機構公表資料に

より作成。

2.(3)、(4)については、2017 年の値が未公表のため、中古マンション(専有面積

350 ㎡まで)、中古戸建て(土地面積 50 ㎡から 350 ㎡まで)における成約件数の前年比

を用いて算出した。

3.(1)、(2)の「多摩」とは、東京都のうち都区部及び島しょ部を除く地域を指す。

4.(3)、(4)の「その他」とは、滋賀県、奈良県、和歌山県を指す。

地域別の既存住宅成約件数の動向をみても、近畿圏においては、各々の地域で緩やか

な増加傾向がみられており、中古戸建て及び中古マンションの動向に大きな違いはみら

れない。その一方で、首都圏においては、東京都区部の中古マンション成約件数が 2010

年の 10,514 戸から 2017 年には 15,691 戸となっており、他の地域と比べて約 1.5 倍と

なるなど、中古戸建て及び中古マンションの動向に違いがみられる(第5図)。

東京都区部での中古マンションの増加傾向が顕著にあらわれている

(1)首都圏・中古マンション (2)首都圏・中古戸建て

(3)近畿圏・中古マンション (4)近畿圏・中古戸建て

第5図 地域別中古戸建て・中古マンション成約件数

80

90

100

110

120

130

140

150

160

2010 11 12 13 14 15 16 17

東京都区部

神奈川県

千葉県

埼玉県

多摩

(年)

(2010年=100)

80

90

100

110

120

130

140

150

160

2010 11 12 13 14 15 16 17

神奈川県

千葉県

埼玉県

東京都区部

多摩

(年)

(2010年=100)

80

90

100

110

120

130

140

150

160

2010 11 12 13 14 15 16 17

大阪府兵庫県京都府その他

(年)

(2010年=100)

80

90

100

110

120

130

140

150

160

2010 11 12 13 14 15 16 17

大阪府兵庫県京都府その他

(年)

(2010年=100)

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(備考)1.総務省「国勢調査」、国土交通省「住宅市場動向調査」、公共財団法人東日本不動産

流通機構、株式会社不動産経済研究所公表資料により作成。

2.(1)の共働き世帯とは、夫婦ともに雇用者の世帯を指す。

3.(2)について、三大都市圏において、既存住宅(集合住宅)を購入した世帯を対象。

三大都市圏とは、首都圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)、中京圏(岐阜県、

愛知県、三重県)、近畿圏(京都府、大阪府、兵庫県)を指す。複数回答。

4.(3)については、東京都区部の値。

(都区部中古マンション増加の背景には利便性追求や新築価格の高騰等がある)

東京都区部の中古マンション成約件数において、顕著な動きをみせている背景には、

志向の変化等に加え、共働き世帯の増加に伴い、それぞれの勤務地から近いエリアを重

視するといった立地を含めた住宅の利便性を追求する動き(いわゆる「職住近接」)が

あることや新築マンション発売価格の高騰等があげられる(第6図)。

共働き世帯の増加、住宅の立地環境を求める動き、新築マンション価格の高騰

(1)共働き世帯数の増減数(2010 年から 2015 年の変化幅)

(2)住宅を購入することに決めた理由 (3)新築マンション発売価格及び中古マンシ

ョン成約価格

第6図 東京都区部中古マンション増加の背景

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

2010 11 12 13 14 15 16 17

新築マンション発売価格

中古マンション成約価格

(年)

(万円)

-10123456789

東京都

愛知県

神奈川県

大阪府

埼玉県

千葉県

兵庫県

福岡県

広島県

宮城県

茨城県

静岡県

京都府

滋賀県

岐阜県

熊本県

沖縄県

北海道

奈良県

群馬県

長野県

鹿児島県

三重県

岡山県

岩手県

新潟県

栃木県

長崎県

宮崎県

愛媛県

佐賀県

大分県

和歌山県

石川県

山梨県

青森県

富山県

山形県

鳥取県

福井県

島根県

香川県

徳島県

山口県

秋田県

高知県

福島県

(都道府県)

(万世帯数)

0

10

20

30

40

50

60

70

2010 11 12 13 14 15 16 17(年度)

(%)

住宅の立地環境が良かったから

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(備考)1.国土交通省「住宅市場動向調査」により作成。 2.三大都市圏において、既存住宅を購入した世帯を対象として集計。

(備考)1.国土交通省「住宅市場動向調査」により作成。 2.注文住宅購入世帯は全国、新築分譲住宅購入世帯は三大都市圏の値。

3.「その他」は除いている。

また、既存住宅に決めた理由として、「リフォームによって快適に住めると思ったか

ら」という回答の割合が、2012 年度調査で 24.3%となったが、2017 年度調査では

31.6%と上昇していることに加え、2016 年度調査から新たな選択肢に盛り込まれた「外

装、内装、水回り等がリフォームされており、きれいだったから」という理由も 2017

年度において上位5位に位置しており、既存住宅購入の決め手として、リフォームの寄

与が大きくなっている可能性がうかがえる(第7図)。その一方で、注文住宅・新築分

譲住宅を購入した世帯に既存住宅にしなかった理由を尋ねると、新築志向が上位にある

ものの、品質に対する不信感や隠れた不具合が心配と回答した世帯も一定程度いること

がわかる(第8図)。そのため、市場の透明性を向上し、見た目、設備、品質など気に

なる箇所をリフォームによって改善することができれば、既存住宅を敬遠していた消費

者の需要を掘り起こせる可能性がある。そこで、次章では、リフォームに関する現状に

ついて整理する。

リフォーム関連の理由が上位にきている

品質や隠れた不具合への不安を理由に敬遠している層が一定程度いる

順位 理由 (%) 順位 理由 (%)

1予算的にみて中古住宅が手頃だったから 77.5 1

予算的にみて中古住宅が手頃だったから 73.2

2 新築住宅にこだわらなかったから 45.5 2 新築住宅にこだわらなかったから 40.2

3リフォームによって快適に住めると思ったから 24.3 3

リフォームによって快適に住めると思ったから 31.6

4間取りや、台所、浴室等の設備、広さが気に入ったから 22.4 4

間取りや、台所、浴室等の設備、広さが気に入ったから 29.7

5住みたい地域に新築物件がなかったから 11.9 5

外装、内装、水回り等がリフォームされており、きれいだったから 23.3

2012年度調査 2017年度調査

第7図 既存住宅に決めた理由(複数回答)

第8図 既存住宅にしなかった理由(2017 年度・複数回答)

01020304050607080

せっかくのマイ

ホームは新築の方

が気持ち良いから

リフォーム費用や

メンテナンス費用

で結局割高になる

と思ったから

耐震性や断熱性な

ど品質が低そうだ

から

隠れた不具合が心

配だったから

給排水管などの設

備の老朽化が懸念

されたから

間取りや、台所、

浴室等の設備、広

さが不満だったか

見た目が汚いなど

不満だったから

保証やアフター

サービスが無いと

思ったから

価格が妥当なのか

判断できなかった

から

注文住宅購入世帯

新築分譲住宅購入世帯

(既存住宅にしなかった理由)

(%)

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3.リフォームの現状

リフォームに関する現状について、リフォーム工事の動向やリフォーム工事の内容に

加え、リフォームを実施するタイミングやどのような理由でリフォームを行うのかとい

った観点からみてみよう。

(リフォーム工事受注高は緩やかな増加傾向にあったが、足もとではマイナス)

まず、リフォーム工事の動向からみてみる。国土交通省「建築物リフォーム・リニュ

ーアル調査」によると、住宅に係るリフォーム・リニューアル工事受注高は 2013 年度

の消費税率引上げによる駆け込みの影響を除けば、緩やかな増加傾向で推移していた。

この背景については、1章でみた住宅ストックの増加や2章でみた既存住宅取引の緩や

かな増加傾向に加え、2009 年に創設された住宅用太陽光発電導入支援補助金 5や太陽光

発電の余剰電力買取制度(2012 年7月より再生可能エネルギーの固定価格買取制度へ移

行)、二度の住宅エコポイントや省エネ住宅ポイントの交付、マンションの大規模修繕

工事等の要因があげられる。しかし、国による太陽光発電導入支援補助金の廃止や太陽

光発電買取価格の継続的な減額 6、住宅の省エネリフォーム等に関するポイント制度の

終了や大規模修繕工事の減少等、押上げ要因が剥落したこともあり、足もとの 2017 年

度では前年度比マイナスとなっている(第9図)。ただし、2016 年度調査から調査方法

の変更 7があり、比較の際には留意が必要である。

5 10kW 未満の太陽光発電設備のシステム費用(太陽光パネル、パワーコンディショナー、架台、工事費を

含む)に応じて補助金額が変動する。補助金額の推移については、以下のとおり(<>内は受給条件とし

て、1kW あたりのシステム価格の条件を示している)。

2009 年度:7 万円/1kW<70 万円以下> 2010 年度:7 万円/1kW<65 万円以下>

2011 年度:4.8 万円/1kW<60 万円以下>

2012 年度:3.5 万円/1kW(3 万円/1kW)<47.5 万円以下(47.5 万円を超えて 55 万円以下)>

2013 年度:2 万円/1kW(1.5 万円/1kW)<41 万円以下(41 万円を超えて 50 万円以下)> 6 住宅用太陽光発電として、設置容量 10kW 未満、自家発電設備併設なし、出力制御対応機器設置義務の有

無別に応じた買取価格の推移は以下のとおり。

2009 年度:48 円/kW 2010 年度:48 円/kW 2011 年度:42 円/kW 2012 年度:42 円/kW

2013 年度:38 円/kW 2014 年度:37 円/kW

出力制御対応機器設置義務なし(東京電力、中部電力、関西電力管轄内)

2015 年度:33 円/kW 2016 年度:31 円/kW 2017 年度:28 円/kW 2018 年度:26 円/kW

出力制御対応機器設置義務あり(北海道電力、東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖

縄電力管轄内)

2015 年度:35 円/kW 2016 年度:33 円/kW 2017 年度:30 円/kW 2018 年度:28 円/kW 7 近年のストック重視型・環境配慮型社会の実現に向けた社会経済情勢の変化による統計需要への対応か

ら調査方法の変更がなされた。主な変更内容は以下のとおり。

・従来一体となって調査していた工事種類を機能・耐久性の向上を意図して行う工事(改装・改修工

事)と機能・耐久性の向上を意図しない工事(維持・修理工事)を区別化。

・調査基準期間を6か月単位から3か月単位へ

・個別工事における「省エネルギー対策工事の部位」の追加

・大規模事業者及び大規模工事は全数調査に

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(備考)1.国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査」、国土交通省公表資料、一般社団

法人太陽光発電協会太陽光発電普及拡大センター公表資料により作成。

2.(1)、(4)の 2016 年度の受注高については、特別集計の値を用いている。

3.(2)については、既存住宅に対する申込受付件数及び交付決定件数。なお、申込受付

期間については、2009 年から 2013 年度末までとなっている。

4.(4)の管理組合とは、区分所有されている建物(分譲マンションなど)について、

共用部分を維持管理するために、区分所有者で構成された団体を指す。

5.(4)の大規模修繕対象推計戸数とは、大規模修繕の周期を 12 年と仮定して、マン

ションの新規供給戸数から一回目及び二回目の大規模修繕の対象戸数を算出し、足し

上げた値を指す。また、ここでいうマンションとは、中高層(3階建て以上)・分譲・

共同建で、鉄骨鉄筋コンクリート又は鉄骨造の住宅をいう。

消費税率引上げの影響を除けば、緩やかな増加傾向にあったが、足もとではマイナス

(1)住宅に係るリフォーム・リニューアル

工事受注高

(2)国による太陽光発電補助金申込受付件数

及び交付決定件数

(3)住宅エコポイント・省エネ住宅に関する

ポイント制度

(4)管理組合発注による受注高・大規模修繕

対象推計戸数(管理組合による発注)

第9図 リフォーム工事の動向

0

1

2

3

4

5

2010 11 12 13 14 15 16 17(年度)

(兆円)

0

5

10

15

20

25

2009 10 11 12 13 14(年度)

(万件数)

申込受付件数 交付決定件数

0

10

20

30

40

50

60

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

2010 11 12 13 14 15 16 17(年度)

(兆円) (万戸)

受注高(管理組合発注)

大規模修繕対象推計戸数(目盛右)

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次に、リフォーム工事の内容をみていくこととする。リフォームの工事種類について

は、既存建物の床面積を増加させる工事である「増築」、既存建物の一部を除却し、用

途、規模、構造の著しく異ならない建物を建築する工事である「一部改築」、内装の模

様替え、屋根のふき替え、間取り変更、設備機器の更新など、機能の向上や耐久性の向

上を意図して行う工事である「改装・改修 8」、壊れた部分、損耗劣化した部材の交

換・修理や消耗部品の交換など、機能の向上や耐久性の向上を意図しない工事である

「維持・修理 9」の4つに分類される。受注件数については、「維持・修理」の占める

割合が多いが、受注高でみると「改装・改修」の占める割合が多い。その背景として

は、「維持・修理」工事の受注単価が他種類の工事に比べて低いことにある。そのた

め、リフォーム工事は小規模な工事が主流といえ、実際に受注工事金額別の受注件数を

みると、受注金額が 50 万円未満の工事が約 78%となっており、主たる工事目的別にみ

ても、劣化や壊れた部位の更新・修繕を目的とした工事が突出して高い。ただし、省エ

ネルギー対策や高齢者・身体障害者対応、耐震性向上を目的としたリフォーム工事も一

定程度あることが読み取れる(第 10 図)。

低単価の「維持・修理」の割合が約6割となっており、リフォームは小規模の工事が主流

8 「改装・改修」工事の具体例については、以下のとおり。

耐震改修工事、屋根のふき替え工事、防水改修工事、外壁改修工事、バリアフリー化工事、台所、便所、

風呂等の改修工事、居室等の間取りの変更工事、リノベーション工事、一室すべてのふすまの張り替え又

は畳替え、扉又は窓の取り替え、窓ガラスの入れ替え(遮熱、断熱、防音、防犯性能が向上するもの)、

照明の LED 化工事、建築設備(電気設備、空気調和設備、給湯設備等)の改修、更新工事、アスベスト改

修工事、住宅の屋根又は屋上に太陽光発電設備を設置する工事、住宅に付属する門又は塀の改修又は更新

工事等 9 「維持・修理」工事の具体例については、以下のとおり。

壊れた瓦の交換、雨漏り箇所の補修、外壁材の破損部分の補修、塗装の剥離部分の補修、金属製手すりの

錆浮き部分の塗り替え、破れたふすま又は障子などの張り替え、割れたガラスの取り替え、壊れた扉、窓

又は鍵の交換・修理、故障に伴う建築設備(電気設備、空気調和設備等)の修理、部品の交換、劣化・故

障による住宅に付属する門、塀の修理等

(1)工事内容別受注件数及び受注高割合 (2)工事一件あたりの受注高(受注単価)

第 10 図 リフォーム工事の工事内容

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

受注件数 受注高

維持・修理

改装・改修

一部改築

増築

(%)

0

100

200

300

400

500

600

700

800

増築

一部改築

改装・改修

維持・修理

(工事種類)

(万円)

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(備考)1.国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査」により作成。

2.(1)、(2)、(3)、(4)については、2017 年度調査の値。

3.(2)の受注単価については、受注高を受注件数で除した値。

4.(4)については、「その他」、「不明」を除いている。

また、住宅のうち、どのような部分をリフォームしているのかをみてみる。国土交通

省の「住宅市場動向調査」でリフォームの内容をみると、住宅内の設備の改善・変更が

一戸建て及び集合住宅ともに上位にきており、その大半が台所・便所・浴室等の設備を

改善している。実際に、リフォームの部位別にみても、キッチン、トイレ、浴室のよう

な使用頻度が高く、比較的汚れの目立ちやすい水回りでのリフォームが多いことがみて

とれる。なお、一戸建てでは、外壁や屋根のリフォームといった住宅外の改善・変更の

割合が高い特徴がある(第 11 図)。

(3)受注工事金額別受注件数及び割合 (4)主たる工事目的別受注件数

0102030405060708090

0

100

200

300

400

500

600

50万

円未満

50-100万

円未満

100-20

0万円未

200-10

00万

円未

1000万

円以

(受注金額)

(万件数) (%)

受注件数

全体に占める割合(目盛右)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

劣化や壊れた部位の更新・

修繕

省エネルギー対策

高齢者・

身体障害者対応

防災・

防犯

安全性向上

増床

耐震性向上

用途変更

屋上緑化、壁面緑化

アスベスト対策

(主な工事目的)

(万件数)

約661万件

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(備考)1.国土交通省「住宅市場動向調査」により作成。

2.(1)、(2)、(3)について、複数回答。

3.調査対象は 2015 年4月から 2016 年3月の間に増築、改築、模様替えなどの工事を

実施した住宅に住んでいる人。調査対象地域は三大首都圏。

4.(1)については、「その他」を除いている。

5.(3)については、調査 18 項目のうち、全体の上位 10 位までを掲載。

キッチン、トイレ、台所といった水回りのリフォームが多い

(1)リフォームの内容 (2)住宅内設備の改善・変更の内容

(3)リフォームの部位

第 11 図 リフォームの内容・部位

0

10

20

30

40

50

60

70

住宅内の設備の改

善・変更

住宅外の改善・変更

内装の模様替えなど

冷暖房設備等の変更

高齢者等に配慮し段

差をとるなど

壁の位置を変更する

など間取りの変更

住宅の構造に関する

改善・変更

一戸建て

集合住宅

(%)

(内容)

0102030405060708090100

台所・便所・浴室等

の設備を改善した

窓・扉などの建具を

取り替えた

収納スペースの改

善・増加を行った

防犯・安全設備を設

置した

一戸建て

集合住宅

(内容)

(%)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

外壁

トイレ

キッチン

浴室

居間

屋根

給湯器

玄関

ダイニング

子供部屋

一戸建て 集合住宅

(部位)

(%)

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(備考)1.一般社団法人住宅リフォーム推進協議会「住宅リフォーム実例調査」により作成。

2.調査対象は 2016 年9月から 2017 年8月の住宅リフォーム工事の施工完了物件。

(リフォームをする目的は若年層と高齢者層で違いがみられる)

最後に、リフォーム実施のタイミングや理由についてみてみる。一般社団法人住宅リ

フォーム推進協議会「住宅リフォーム実例調査」 10から、リフォームを実施するタイミ

ングとして、住宅の取得方法と居住期間の関係をみると、新築で取得して、リフォーム

を実施した世帯は戸建て・マンションともに 21 年以上居住していた割合が高い。その

一方で、戸建て及びマンションともに、中古住宅を購入して、リフォームを実施した世

帯は入居前か入居直後に4割以上の世帯が実施していたことがわかる(第 12 図)。

中古住宅購入世帯では、入居前か入居直後が4割以上を占めている

続いて、施主 11年齢別リフォーム工事の目的をみると、若年層と高齢者層で違いがあ

ることがわかる。若年層は、中古住宅の購入時や子供の成長や世帯人員の変更に伴うラ

イフステージの変化を目的としたリフォームが他の世代と比べ割合が高く、高齢者層で

は、住宅の老朽化や老後の備え・高齢者対応を目的としたリフォームの割合が他の世代

と比べ高くなっている(第 13 図)。

10 リフォーム事業者が、自社の受託実績から任意で対象物件を選び、施主に代わって回答するものである

ことから、事業者は自社の代表物件や回答しやすい物件を適宜選び、サンプルが工事の内容及び金額面で

平均的なリフォーム工事よりも大型物件にシフトしている可能性がある点や、あくまでも事業者が分かる

範囲で回答したものである点については、留意が必要。 11 施主とは、リフォームを実施した者を指し、世帯主とは異なる点に留意が必要。

(1)戸建て (2)マンション

第 12 図 住宅の取得方法別リフォーム実施時の居住期間割合

0102030405060708090100

注文住宅・建替え住宅

新築分譲購入

中古住宅購入

親からの相続等

不明

31年以上

26~30年以下

21~25年以下

16~20年以下

11~15年以下

6~10年以下

1~5年以下

0年(入居前ま

たは入居直後)

(%)

(住宅の取得方法)

0102030405060708090100

新築分譲購入

中古住宅購入

31年以上

26~30年以下

21~25年以下

16~20年以下

11~15年以下

6~10年以下

1~5年以下

0年(入居前また

は入居直後)

(%)

(住宅の取得方法)

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(備考)1.一般社団法人住宅リフォーム推進協議会「住宅リフォーム実例調査」により作成。

2.調査対象は 2016 年9月から 2017 年8月の住宅リフォーム工事の施工完了物件。

3.(1)、(2)については、「不明」は除く。

若年層ではライフステージの変化への対応、高齢者層では高齢者対応が他の世代と比べ高い

(1)戸建て

(2)マンション

第 13 図 施主年齢別リフォーム工事の目的

01020304050607080

使い

勝手の改

善、自分

の好みに

変更

するため

住宅

、設備の

老朽化や

壊れたた

老後

に備えた

り、同居

する高齢

者等

が暮らし

やす

くす

るため

省エ

ネルギー

化、冷暖

房効率の

向上

等を図る

ため

耐久

性向上の

ため

耐震

性や災害

から

の安

全性の向

上を

図る

ため

子供

の成長や

世帯

人員

の変更に

伴い

、必要が

生じたた

三世

代同居な

ど、

他の

世帯との

同居

に対応す

るため

健康

増進や病

気予

防に

配慮した

室内

環境にす

るため

中古

住宅の購

入に合わ

せて

防犯

性能の向

上を図る

ため

相続

等により

住宅

の所

有者が入

れ替

わったた

空き

家になっ

てい

た住

宅の活用

を図

るた

親の

住んでい

る家

を住

みやすく

する

ため

30代以下 40代 50代

60代 70代以上

(%)

(リフォーム工事目的)

0102030405060708090

使い勝手の改善、自分の好み

に変

更するため

住宅、設備の老朽化や壊れた

ため

省エネルギー化、冷暖房効率

の向

上等を図るため

老後に備えたり、同居する高

齢者

等が暮らしやすくするため

中古住宅の購入に合わせて

子供の成長や世帯人員の変更

に伴

い、必要が生じたた

耐久性向上

のため

防犯性能の向上を図るため

健康増進や病気予防に配慮し

た室

内環境にするため

相続等により住宅の所有者が

入れ

替わったため

空き家になっていた住宅の活

用を

図るため

三世代同居など、他の世帯と

の同

居に対応するため

耐震性や災害からの安全性の

向上

を図るため

親の住んでいる家を住みやす

くす

るため

30代以下 40代 50代 60代以上

(%)

(リフォーム工事目的)

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4.おわりに

本稿では、既存住宅取引の現状及びリフォームに関する現状について整理した。最後

に、最近の国の施策について概観する。

既存住宅取引にあたって、買主の多くは購入する住宅の質に対して少なからず不安を

抱えているものの、個人間で売買されることが多いため、一般消費者である売主に広く

情報提供や瑕疵担保の責任を負わせることは難しく、市場の透明性の低さがネックとな

っている。その状況に対応するため、建物状況調査 12(インスペクション)の活用を図

るように宅地建物取引業法が改正された(2018 年4月1日施行)。具体的には、媒介契

約締結時に宅建業者が専門家によるインスペクションのあっせんの可否を示し、売主の

意向に応じてあっせんすることに加え、売買契約における重要事項説明時にインスペク

ション結果の説明を宅建業者に義務づけた。この取組により、買主・売主の双方が安心

して取引できる市場環境の整備に一役買い、ネックだった市場の透明性の向上に資する

ものと期待される。

また、これまでの既存住宅のマイナスイメージ(品質の不安、見た目の汚さ、設備が

古い、選ぶための情報が少なくて分からない等)を払しょくするため、一定の条件 13を

満たした住宅の広告に、国の関与のもとでロゴマークを付けて、物件選びに役立つ情報

を分かりやすく提供する制度として「安心R住宅」(特定既存住宅情報提供事業者団体

登録制度)が 2018 年4月1日から開始された。既存住宅の品質を国が保証する仕組み

が出来たことは画期的であり、既存住宅のマイナスイメージが払しょくされれば、マイ

ナスイメージにより敬遠していた消費者の需要を掘り起こすことができ、今後の既存住

宅流通市場の拡大が期待される。また、「安心R住宅」のロゴマークを付与する際に

は、リフォームを実施することが前提となっていると言えるため、今後のリフォーム市

場の拡大も期待される。

12 建物状況調査とは、国土交通省の定める講習を修了した建築士が、建物の基礎、外壁など建物の構造耐

力上主要な部分及び雨水の侵入を防止する部分に生じているひび割れ、雨漏り等の劣化・不具合の状況を

目視、計測等により調査するもの。 13 一定の条件については、以下のとおり。

・現行の建築基準法の耐震基準に適合するもの又はこれに準ずるもの

・既存住宅売買瑕疵保険契約を締結するための検査基準に適合したものであること

・管理規約及び長期修繕計画を有するとともに、住宅購入者の求めに応じて情報の内容を開示すること

・事業者団体毎に「住宅リフォーム工事の実施判断の基準」を定め、基準に合致したリフォームを実施

し、従来の既存住宅の「汚い」イメージが払しょくされていること(建築後極めて短いものなどはリ

フォーム不要)。また、リフォームを実施していない場合は、リフォームに関する提案書(費用に関

する情報を含むもの)を付すとともに、住宅購入者の求めに応じてリフォーム事業者をあっせんする

こと

・外装、主たる内装、台所、浴室、便所及び洗面設備の現況の写真等を閲覧できるようにすること

・建築時の情報や維持保全の状況に係る情報等について情報収集を行い、広告をするときに、当該住宅

に関する書類の保存状況等を記載した書面を作成・交付するとともに、住宅購入者の求めに応じて情

報の内容を開示すること

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(参考文献)

・ 国土交通省「住生活基本計画(全国計画)」

・ 一般社団法人 住宅リフォーム推進協議会「住宅リフォーム年報」