サプライチェーン・マネジメントと企業間ネット …...SCMは,...

22
159 サプライチェーン・マネジメントと企業間ネットワーク 企業間調整と取締役会の役割一 Supply Chain Management and Inter-Firm Coordinating Inter-Firm Relationship and The Function on Corporate Boar 西 広☆ Takahiro Nishi 1 はじめに 2 SCMの概要 2-lSCMの特性 2-2SCMの取引コスト・アプローチとネットワーク・アプローチ 3 ネットワークとSCM 3-1 ネットワークの種類とSCM 3-2 SCMと取締役会機能 4 おわりに 1 はじめに サプライチェーン(Supply Chain:以下SCと略称)とは,原材料調達段階(source) 最終消費者(customer)に至る財,サービス,情報の流れに関する連続した活動である。この サプライチェーンにおいて最終消費者へのサービスといった視点から,サプライチェーン内の企 業組織の機能を統合し,サプライチェーン全体から最適化を図り,システムの調整を行う活動が サプライチェーン・マネジメント(Supply Chain Management:以下SCMと略称) SCMは, SCを構成する各企業による自律的な意思決定活動を重視している。自律的な活動 を行う各企業が緩やかに結合することで,SCは成り立っている。すなわち, SC内の結合は, IT (Information Technology:以下ITと略称)の積極的な活用による情報共有により達 のであるがω,このITによる情報共有により,局所最適に陥りやすい各企業の活動を結合させ, ☆社会科学研究所RA (1) 山下洋史,諸上茂登,村田潔編著『グローバルSCM』,有斐閣,2003年,22ページ。

Transcript of サプライチェーン・マネジメントと企業間ネット …...SCMは,...

  • 159

    サプライチェーン・マネジメントと企業間ネットワーク

    企業間調整と取締役会の役割一

    Supply Chain Management and Inter-Firm Network

    一 Coordinating Inter-Firm Relationship

                 and The Function on Corporate Boards

    西   剛 広☆

     Takahiro Nishi

                目  次

    1 はじめに

    2 SCMの概要

     2-lSCMの特性 2-2SCMの取引コスト・アプローチとネットワーク・アプローチ

    3 ネットワークとSCM

     3-1 ネットワークの種類とSCM

     3-2 SCMと取締役会機能

    4 おわりに

    1 はじめに

     サプライチェーン(Supply Chain:以下SCと略称)とは,原材料調達段階(source)から

    最終消費者(customer)に至る財,サービス,情報の流れに関する連続した活動である。この

    サプライチェーンにおいて最終消費者へのサービスといった視点から,サプライチェーン内の企

    業組織の機能を統合し,サプライチェーン全体から最適化を図り,システムの調整を行う活動が

    サプライチェーン・マネジメント(Supply Chain Management:以下SCMと略称)である。

     SCMは, SCを構成する各企業による自律的な意思決定活動を重視している。自律的な活動

    を行う各企業が緩やかに結合することで,SCは成り立っている。すなわち, SC内の結合は, IT

    (Information Technology:以下ITと略称)の積極的な活用による情報共有により達成される

    のであるがω,このITによる情報共有により,局所最適に陥りやすい各企業の活動を結合させ,

    ☆社会科学研究所RA

    (1) 山下洋史,諸上茂登,村田潔編著『グローバルSCM』,有斐閣,2003年,22ページ。

  •  160              「明大商学論叢』第87巻特別号

    全体最適へと導くのである。

     しかし,効果的なSCMは, ITの積極的な活用による情報共有のみで保証されるものではな

    い。Mentzer, et al.(2001)によれば, SCの各構成企業が顧客価値創造を念頭におきながら,

    SCを全体最適化のために調整・管理していく意識・指向にSCMの存在意義があるという(2)。

    つまり,SCMのベースには,全体的視点で, SCをシステム的,戦略的に認識しようとする

    「経営理念(management philosophy)」があり, Mentzer, et al.(2001)は,このことをサプ

    ライチェーン指向 (Supply Chain Orientation:以下SCOと略称)と呼んでいる。 SCMは,

    SC構成企業間の「個の自律性」を重んじる「緩やかな結合」のため, ITの活用による情報共有

    だけでなく,SC内で共通の価値観や規範をベースにした一体感と忠誠心を酒養することが求め

    られてくる。このことは,近年,盛んに研究されている「構造的埋め込み」や「信頼」の議論と

    密接に関わっている。

     本稿では,以上のようなSCMの特徴を把握した上で, SCMにおける取締役会の果たす役割

    について検討したい。SCMにおける取締役会の機能を考えるうえで,従来のコーポレート・ガ

    バナンス(corporate governance)の議論の中心であった企業経営の監視やコントロールなど

    の遵法機能を強調するだけでは不十分となる。取締役会は監視・コントロールのみならず,経営

    者への助言・諮問,さらには連結取締役制度を通じた(他企業の)資源のアクセスやネットワー

    キングなどの戦略的役割といった多様な機能を備えているのである(3)。SCMに求められるガバ

    ナンスを考察する際に,とくに取締役会の戦略的機能が重要となってくる。その取締役会が有す

    る戦略的機能の中で,資源依存理論あるいはネットワーキングの議論がSCMにおける取締役会

    の役割を考える際に参考となる。本稿では,既存のネットワーキングにおける取締役会の役割に

    関する議論をSCMの議論へ援用することにより, SCMにおける取締役会の役割について考察

    することとする。

     本稿は,最初にSCMの特性を明らかにしつつ,ネットワーク・アプローチに依拠してSCM

    の企業間調整問題について考察を加える。その後,SCM内での取締役会の役割に関する先行研

    究を手掛かりにして,ネットワーク形態の分類を試みた上で,SCM内の取締役会の機能を明ら

    かにすることによってSCM内の適切なガバナンスのあり方を探ろうとするものである。

    2SCMの概要

    2-1SCMの特性

    サプライチェーン(SC)とは,原材料調達段階(source)から最終消費者(customer)に至

    (2)Mentzer, J. T. and D. W. Witt and J. S。 Keebler and S. Min and N. W. Nix and C. D. Smith and Z.

     GZacharia(2001),“Defining Supply Chain Managemen”, /ournal of Business Logistics, Vo1.22, No.

     2,P.6.

    (3) Baysinger, B. and R. E. Hoskisson(1990),“The Compostion of Boards of Directors and Strategic

     Control;Effects on Corporate Strategy”,ノ1 cademy of Managemen彦Review, Vo1.15, No.1, pp.72-87.

  •           サプライチェーン・マネジメントと企業間ネットワーク         161

    る財,サービス,情報の流れに関する連続した活動である。このSCには,部品業者,製造業者,

    卸売業者,小売業者から構成されるだけでなく,SC内のロジスティックスの効率化を図るため,

    チェーンメンバーに情報の提供やアドバイスを行う機能を担う第三者機関である,サード・パー

    ティ・ロジスティックス(Third Party Logistics:3PL)もその中に含まれている。

     それぞれの企業は,一つのSCだけでなく,他のSCにも複合的に取り込まれている。 SCは

    規模が大きいことが多く,その中には多くの階層(echelons)を持つサプライヤーから成るも

    のである。そこにおいて,それぞれの層のサプライヤーは,下位のサプライヤーに財・サービス

    を提供する。そのたあ,シンプルで直線的な財の流れ(linear flow of goods)とはならない複

    雑なネットワークが生み出されるのである。あるSCを構成する企業は,他のSCに加入してい

    る場合もあり,それらSCの目的や活動は異なることもある。これらSCを構成しているのは,

    独立した意思決定機関を持つ企業であるため,SC内あるいは, SC間において,それぞれの企

    業の目的がコンフリクト関係に陥る可能性も存在するω。SCの構成企業間の目的が異なること

    を背景として,資材調達,ラインの能力,リードタイム,納期,製造時間のような観点で,SC

    内で相違が生じてくるため常にSCは最適な形態を求めて,変化していくのである。すなわち,

    SCは動態的な性質を帯びることとなる。

     SCの大規模性,複合的階層性, SCは独立した企業から構成されること,目的の多様性やSC

    の動態性は,SCを複雑なものにしている。特に独立した企業からSCは構成され,その企業の

    目的は異なることにより,SC内における活動が局所最適に陥る問題が生じてくる。同時に各構

    成企業が各自で最適化(局所最適化)行動を選択した場合,マーケットでの微小な需要変動が,

    SC上の川上へさかのぼるに従い増幅されるというブルウップ効果(bullwhip effect)(5)も, SC

    の問題として観察される。近年のITの進化・活用は,この局所最適の問題に対して解決策を提

    示している。このITの活用により, SCを構成する企業間で情報を共有することで, SC内での

    冗長的な活動や無駄な在庫を防ぐことが可能となり,効果的な意思決定活動を各構成企業が行い,

    業績向上を目指すことになる(6)。

     SCMはこのITの活用による情報共有により, SC内の財・サービスの流れの最適化を狙いと

    したものである。効果的なSCMの活動として, Mentzer, et. al.(2001)は, Cooper and Ellram

    (4) Blackhurst, J. J.(2002),”A Network Bαsed Methodology to Model Suψply Chαin Sys‘θ〃3s愁Ph. D.

     Dissertation, The University of Iowa, pp.8-10,

    (5) ブルウィップ効果(bullwhip effect)は,1960年代にForresterにより指摘された。 Forrester

      (1961)は,チェーン内に介在する問題すわなち,1)ネットワークにおける市場需要の視界(demand

     visibility)の欠如,2)そして,チェーン内の意思決定ポイント(各企業)で情報が偏在したりするた

      め,正確な需要レベルが把握できない,3)在庫調整をチェーン内で頻繁に行うことで川上プロセスに

     対して不安定な受注を引き起こすなどの要因により,市場など川下の少しの需要変化が,川上に向かう

      につれて,変動幅が増幅されて現象を考察した。また,Lee, et. al.(1997)はブルウィップ効果の原因

      として,1)需要予測更新(Demand forcast updating),2)バッチ別受注(order batching)3)価格

     変動(Price fluctuation),4)分配と不足シュミレーション(Rationing and short gaming)をあげ

      ている。

    (6) Blackhurst(2002),op. cit., p.10.

  • 162 『明大商学論叢』第87巻特別号

    (1993)やCooper, et. al(1997), Cooper, Lambert, and Pagh(1997), Ellram and Cooper

    (1990),Novack, Langley and Rinehart(1995)の所説を用いて,次の5つをあげている(7)。

    第1に,SC構成企業間の行動が統合されること(integrated behavior)である。顧客の需要

    に対して適切に対応するために,SCの構成企業が全体統合・全体最適化に向けて活動の調整を

    行うのである。第2に,SC内での統合された活動には, SC構成企業間の相互の情報共有(Mu-

    tually Sharing lnformation)が求められる。 SC構成企業のそれぞれが在庫の程度,需要予測,

    販売促進戦略,『市場戦略といった情報を共有することにより,SC構成企業間の不確実性を逓減

    させ,結果として,業績向上につながることが期待される。第3に,相互のリスクと報酬の共有

    (Mutually sharing risks and rewards)があげられる。リスクとそれに対する報酬を共有する

    ことで,SC内における構成企業間の結束力が強化され,長期的な協働と指向を目指す戦略策定・

    遂行が成される。第4に,SC構成企業の協働(cooperation)があげられる。この協働とは,

    長期的にパートナー間で期待される結果を生み出すためにSCの構成企業によって行われる相互

    補完的な調整活動である。具体的には,SC全体でのコスト効率性の追求,新製品開発,製品ポー

    トフォリオ決定,品質管理,流通システムの計画がチェーンメンバー共同で行い,管理すること

    があげられる。第5に,チェーン全体で,同じ目的と顧客サービスへの同じ焦点づけをもつこと

    である(the same goal and the same focus on serving customers)。 SCの構成企業間で(経

    営)政策(policy)を統合させる。つまり,低いコストで, SCの構成企業がSCを統合できる

    ように,冗長性(redundancy)や重複(overlap)を避けるようなSC政策を統合する。これ

    は,構成企業間で,適合的(compatible)な文化や経営手法がある場合に可能となる。第6に,

    SCの構成企業間でプロセスの統合(integration of processes)が行われる必要がある。 SCに

    おいて,構成企業は企業内におけるそれぞれの職能をプロセスに変化させ,チェーン全体の最適

    化の観点からプロセスとして捉え,SCを統合する必要が生じてくる。 Mentzer, et. allは,4段

    階にわたるチェーンのそれぞれのプロセスを全体的に統合する過程を示している⑧。第7に,外

    部の企業(サプライヤーや顧客)に対して,統合の範囲を広げ,SC全体で統合が行われる必要

    がある。効果的なSCMにおいて長期的な関係を構築し,維持するパートナーが必要となる。こ

    のチェーン全体の統合には,パートナー間のオープン性や信頼感が必要となる。

    (7) Mentzer, et al.(2002), op. cit., pp.8-10.

    (8)第1段階として,チェーンの基礎ラインの整備(Represents the base line case)があげられる。そ

      れぞれ,ばらばらの状態ににある在庫管理,独立し,チェーン相互で互換できないコントロールシステ

      ムや手続きを一つ一つのプロセスとして,まずまとめていく。第2段階は,コスト削減の視点から企業

      内において,プロセスを統合化していくのである。ここでは,業績改善,在庫のバッファ・一・,消費者サー

      ビスを高めるよりも,それぞれのチェーン間での取引コストの削減を目指していくのである。つまり,

     顧客価値向上は,チェーン内での取引コスト削減により生み出されるという考えである。第3段階とし

      て,内部企業統合の達成(Reaches toward internal corporate integration)があげられる。効率性,

      チェーン間ρつながり,顧客への連続した反応的アプローチに対して戦略的に焦点を当てたり強調した

      りするよりも,物流,中期的計画,戦術を通して,戦術的に顧客の購買注目度によって影響を受け,内

     部企業統合を行い,それを達成する。

  • サプライチェーン・マネジメントと企業間ネットワーク 163

     このように,SCMではSC内の全ての機能が主要なプロセス(9)として再組織化される。これ

    によって,すべての焦点を顧客のニーズに合わせ顧客の視点に立ってプロセスを再組織化するこ

    ととなる。その主要なプロセスとして,CRM(Customer Relationship Management),消費

    者サービス経営,需要管理,生産フロー管理,調達,製品開発,商品化などが挙げられる。つま

    り,効果的なSCMを遂行するためには, SCを構成する各企業のそれぞれの職能を顧客指向を

    ベースとしてプロセス化し,そのプロセスをSC全体で統合することが求められる。

     Mentzer, et al.(2001)やMin and Mentzer(2004)は,上記の条件から成るSCMの活動を

    効果的に遂行する上で,SCを構成する各企業が,同様の社会的・文化的基盤を持ち,共通の経

    営理念を醸成させることが肝要であるとしている。その経営理念とは,顧客価値最大化を念頭に

    おいて,サプライヤーから顧客への財・サービスの流れをSC全体の視点からシステム的に管理

    を行うことと,企業間・企業内の職能・業務や戦略的能力を一つのシステムにまとめ,同期化を

    図る協働的な戦略的指向の2つから構成される。つまり,SC構成企業がSC全体の視点から組

    織・機能・活動をシステム的・戦略的に管理しようとする経営理念の存在がSCMの有効性を決

    定している。換言すれば,SCの構成企業が顧客とSCの存在を意識し,全体最適化のために調

    整・管理していくことにSCMの存立意義があるのというのである。このことから, Mentzer, et

    al.(2001)は, SCMを「経営理念」として捉え,企業が顧客を重視し, SCを全体的視点で,

    システム,戦略的に認識する指向・傾向をサプライチェーン指向 (Supply Chain Orientation:

    SCO)と呼んでいる(1°)。このSCOがSCの構成企業に顧客価値を生み出すことに取り組むよう

    方向付けるのである㈹。

     システム的,戦略的性格を帯びたSCOが成立するには,次のような文化的基盤を構築し,維

    持することが求められる。すなわち,信頼(trust),コミットメント,協働的規範(cooperative

    norm),組織的適合性(organizational compatibility),トップ・マネジメントの支援(top

    management support)がSCO成立の条件となるのである。信頼(trust)は,信頼性(credi-

    bility)と慈愛(benevolence)から成り,この信頼とコミットメント(commitment)により,

    SCの各構成企業が,相互の関係投資を維持し,パートナーとの関係による長期的な利益を期待

    することができ,短期的に見た損失を回避するための行動を慎むようになるのである。また,信

    頼がパートナー間で醸成されることは,パートナーは,機会的に行動しないと考えるため,高リ

    スクの活動に慎重になるという効果を持つ(’2)。協働的規範は,機会主義的行動を慎むようにさ

    (9) プロセスの定義として,Davenportは,特定消費者や市場のためにある結果を生み出すようデザイ

      ンされた活動を構築し,測定するものとしてプロセスを定義した。また,La Londeは, SCMは,原

     材料の段階から最終消費者まで,財と情報の流れの同期的な管理を通した,高められた消費者サービス

     や価値を生み出すために,企業の境界を超えた情報,製品,関係管理プロセスであるとしている。(10) Mentzer, et al.(2002),op. cit., p.11.

    (11) Min, S. and J. T. Mentzer(2004),“Developing and Measuring Supply Chain Management Con-

     cetps”,ノburnαl of Business.Logistics, Vol.25, No.1, pp.64-65.

    (12) Mentzer, et’al.(2002),op. cit., p.13.

  • 164 『明大商学論叢』第87巻特別号

    サプライチェーン・オリエン

    eーション(SCO)

    サプライチェーン・マネジメ

    塔g(SCM)結  果

    戦略的指向

    Vステム的指向

    サプライチェーンの条件

    ・SCOを保有した企業の活

    ョ連鎖E情報共有

    E共有されたリスクと報酬

    E顧客サービス目的と視点

    E主要プロセスの統合

    E長期的関係

    E相互機能調整

    ・低コスト

    E改善された顧客価値と満足

    E競争優位・伝達すべき意思

    E信頼

    Eコミットメント

    E相互依存

    E組織能力

    Eビジョン

    E主要なプロセス

    Eトップマネジメントの支援

             図1 サプライチェーン・マネジメントの条件と結果出典:Mentzer, et.al,(2001), p. 12.

    せ,相互・個別の目的を達成させるための協働努力(joint effort)に対する認識である(’3)。組

    織的適合性は,SCの構成企業間での適合的な企業文化や経営技術(management techniques)

    を意味し,効果的なSCMにとって重要となる。トップマネジメントの支援は,変革へのリーダー

    シップやコミットメントを含んでいる。

     このように,SCの構成企業は,これらの共通の文化的基盤を保有することで,顧客価値最大

    化を念頭において,それぞれの職能・業務をシステム的,戦略的に一つに統合しようとする

    SCOをベース効果的なSCMの遂行が可能となるのである。そして,そのことが業績向上につ

    ながるのであるが,このSCを成立させるための条件とSCOとSCM,そして業績との関係を

    Mentzer, et al.(2001)は図1のように表している。 Mentzer, et. al.(2001)の研究成果に依拠

    しながら,Min and Mentzei(2004)はSCMの効果的な遂行度合いについてSCOとSCMの

    関係から3つの視点に基づき整理している。

     第1にシステム・アプローチがあげられ,これは,供給業者から最終消費者に至る財・サービ

    スの流れをSC全体の視点からどの程度,システム的に管理されているかを意味する。有効性の

    程度をめぐってのシズラーム・アプローチでは,SCOにおいて,共同規範,トップ・マネジメ

    ントの支援,互換的な文化の3つの要因が関係し,SCMにおいて,ビジョンと目的の共有,リ

    スクと報酬の共有がSCのシステムの効果と関係している。第2に企業間,企業内の業務や戦略

    的能力を一つにまとめ,同期化を図る協働的な戦略的指向があげられる。これは,SC構成企業

    間の職能間調整と関係している。言い換えれば,SC内における企業間の職能統合の度合いを表

    しているのである。この職能間の統合度合いは,SCMにおける情報共有・調整,プロセスの統

    (13) Min and Mentzer(2004),op. cit., p,65.

  • サプライチェーン・マネジメントと企業間ネットワーク 165

    合によって決定される。第3に,顧客重視があげられる。これは,SC内の直近の顧客を重視す

    るだけでなく,川上,川下間の流れを重視することである。そのため,SCOにおけるSC関係

    の信頼やコミットメント度合い,SCMにおけるSCのパートナー企業との長期的関係の構築が,

    この顧客重視の重要な要因となってくる(14)。

     以上のように,SCMは, SC構成企業間で, ITを活用した業務・機能の統合を行うことによ

    り,企業間,企業内の「無駄な活動」を除去して,SC内の取引コストの削減を目指すだけでは

    ない。同時に,顧客価値向上へ向け,SC構成企業間で,資源の選択と集中を行い,戦略的能力

    を構築しようとする協働努力である。こうした,効果的なSCMの遂行には, SC内に信頼やオー

    プン性,相互互換的な文化,戦略ビジョンを含んだSCMの文化的・社会的基盤である有効な

    SCOが醸成される必要がある。このように, SCMは, SC内のプロセスを再編するという経済

    性,効率性の議論と,いかにSC構成企業間で,有効な共通のSCOのような経営理念を醸成し,

    SC全体を効果的に管理していこうとする文化的・社会的な側面を有している。

     次にSCMがどのように捉えられるか,支配的なアプローチである取引コストアプローチとネッ

    トワークアプローチを用いることにより考察し,SCMのより精緻な分析を試みる。これは,

    SCMのもつ経済的な側面と文化的・社会的な側面を明らかにすることを目的としている。こう

    した検討が,効果的なSCMを遂行するうえで,どのような活動が求められるのか,さらには,

    その意味を考察するのに大いに役立つと考えるからである。

    2-2SCMの取引コスト・アプローチとネットワーク・アプローチ

     取引コスト・アプローチ

     SCMの観点として,取引コスト・アプローチとネットワーク・アプローチの2つがある。

     取引コスト・アプローチでは,企業間の取引当事者間の限定合理性と機会主義を所与として,

    取引における効率的なガバナンス構造が求められることとなる。すなわち,SCMは,企業のロ

    ジスティックスにおいて,取引コストを最小化させるための効率の良い取引形態の構築を目指し

    ている(15)。

     効率的な取引は,資産特殊性(asset specificity),不確実性(uncertainty),取引頻度

    (transaction frequency)により決定される。つまり,取引において,別の取引相手を求める

    のが困難なほど取引する資産が特殊となり,取引頻度が高まるにつれ,なおかつ,取引を取り巻

    く環境が不確実なほど,取引は,多数によるものではなく,少数あるいは二対の双務的供給に変

    化するようになる⑯。このことから,資産の特殊性,環境の不確実性,取引の頻度が高まれば

    高まるほど,取引当事者間の機会主義的行動の余地が広がり,取引コストは高くなる。そのため,

    (14) Min and Mentzer(2004),伽¢, pp.66-67.

    (15)Larsen・・T・・S・(1999),“S・pPly Ch・i・M・n・g・m・nt・AN・w Ch・ll・ng・f・・Resea・ch,,s and M。n。g.

     ers in Logistics”, Internatioual Jouγ7zal of Logistics Management, Vol.10, No.2, pp.42-43.

    (16) 丹沢安治著(2000),『新制度派経済学による組織研究の基礎』,白桃書房。

  • 166 『明大商学論叢』第87巻特別号

    表1取引コスト・アプローチによる取引形態の変化

    資産特殊性が

    シ者にとって低い

    資産特殊性が

    シ者にとって高い

    資産の特殊性が

    齦福ノ高く一方に低い

    不確実性高い 取引頻度に依存 垂直的統合 垂直的統合

    不確実性低いスポット契約

    i市場での取引)長期的契約 垂直的統合

    出典:菊澤(1998)48頁

    取引形態は,取引の内部化,すなわち,市場を介した取引から組織を利用した取引へ変化するこ

    とにより,取引コストを削減しようとする。資産特殊性,不確実性,取引頻度の中で,取引コス

    ト削減のために企業間取引は,中間組織形態,垂直統合を行うのである(表1参照)。

     SC内では,財・サービス・情報の川上から川下への連鎖が行われる。 SCMにおいて,取引

    で扱う資産は特殊であり,取引頻度も高い。そのため,SCMは中間組織形態として位置付ける

    ことが可能である。

     この取引形態は,取引当事者間での機会主義的な行動に対するリスクとコストが大きくなるこ

    とを示している。取引コスト理論では,機会主義的な行動をコントロールするための適切なセー

    フガードとして法的規律(legal ordering)と私的合意(private agreement)の2つのガバナ

    ンス形態が取り上げられている。この法的規律(1egal ordering)は,取引当事者ら(the par-

    ties)が,できる限り関係する多くの部分をカバーする公式の契約を取り扱う。私的合意(pri-

    vate agreement)は,相互関係のバランスをとろうとすることを想定する。これには,合弁,株

    式交換,「相互信頼(credible commitment)」と呼ばれる関係への特殊投資などが含まれる(17>。

     SC内の企業による機会主義的行動の余地や取引コストの削減を目指した取引コスト理論の観

    点は,SCMへの研究へ援用できる。つまり,取引コスト,削減といった観点から,全体的なSC

    の構築・調整を図り,SCM遂行にあたって, SC構成企業間の活動を相互にモニタリング・コ

    ントロールする必要性があることが確認できる。

     しかし,SCMは中間組織形態として位置付けられるとしても,中間組織の典型的な例である

    (大規模メーカーを焦点とした川上の生産と川上の流通の系列化である)垂直統合によるガバナ

    ンスは不適切となる。なぜなら,SCは独立した意思決定機関をもつ企業から構成され,その関

    係は水平的だからである。垂直的統合は大規模メーカー一のサプライヤーへの支配力を背景とした

    一体感,忠誠心により,全体最適化が達成されたが,SCMでは,これに変わり, ITによる全体

    最適化を目指している。ただし,SCMは垂直統合に比べ一体感や忠誠心が弱くなることが,効

    果的なSCM遂行において,問題として残る。この一体感・忠誠心をSC構成企業間・内で,ど

    のように構築していくかを取引活動の経済的側面のみに焦点を当てた取引コスト理論の範疇で考

    (17) Larsen(1999),op. cit, p.43.

  •           サプライチェーン・マネジメントと企業間ネットワーク        167

    察することは難しい。このことを克服するには,取引の社会的・文化的側面が内包されているネッ

    トワーク理論からの観点を考察していく必要がある。

     ネットワーク・アプローチ

     取引コスト理論が,主に経済的問題に焦点を当て,個人的,社会的関係を見失っていると批判

    されている。すなわち,取引コスト理論は,本質的に静的な理論であり,行為者の機会主義的行

    動をばかり強調し,信頼に基づく取引関係を排除している。取引コスト分析は,コスト効率性の

    みに焦点を当て,相互関係における関係価値(mutual value)を考慮していない(18)。こうした

    批判を踏まえ,企業間取引の個人的,社会的関係を中心に考察を行うのが,ネットワーク理論で

    ある。

     ネットワーク理論は,Pfeffer and Salancik(1978)による資源依存理論と関係し, Hakans-

    son and Snehota(1995)により展開されている。このネットワーク理論では,他企業との相互

    活動により,企業は他企業の資源を獲得することができるものと捉える。ネットワーク・アプロー

    チの根底には,企業が存続するためには,他企業の資源に依存することが不可避であるという認

    識がある。つまり,企業は,限定合理性のために,すべて自社で資源を入手することは困難であ

    り,他企業の資源に依存する必要があると捉えるのである。これは,限定合理性のために,他企

    業が機会主義的行動を取ると想定する取引コスト理論とは異なる。従って,企業経営は,他の企

    業により保有・管理されている資源に依存するというのがネットワーク・パースペクティブの基

    本的想定である。

     ネットワーク理論において,取引当事者間の活動プロセスの相互作用を捉える場合,1)活動

    (Activity),2)活動者(Actors),3)資源(Resources)の3つの視点を対象とする。相互作用

    の中で,ネットワークは,交換プロセス(Exchange processes)と適応プロセス(Adaptation

    processes)の2つの活動プロセスを通して発展していく。交換プロセスは,情報,財・サービ

    ス,社会的プロセスの交換を含む。ここで重要なのは,社会的交換プロセスである。社会的交換

    プロセスは,個人的関係だけでなく,技術的,法的,ロジスティックスの管理的要因を含んでい

    る。社会的プロセスにより,企業は新しい技能や知識,資源を獲得・発達させることができ,こ

    れによって,企業経営における競争優位の源泉が生み出される。つまり,社会交換プロセスを通

    して,取引相手は,お互いに徐々に信頼を醸成していくのである。

     他方の,適応プロセスは,ネットワーク内の資源の有効活用を達成するための,製品システム,

    管理システム,生産プロセスの摺り合わせ・相互修正を意味している。この適応プロセスにより,

    取引当事者間は相方の関係的な絆(bonds)を強化する。ネットワーク内で他の取引相手の要件

    を調整することにより,取引当事者は自己の相互関係を安定的・永続的であるとみなし,短期的

    な利益の追求による機会主義的行動の誘惑に揺り動かされることはないと考えるのである。つま

    り,ネットワーク内においてチャネル・メンバーは,相互の「信頼」に基づき,取引を行うので

    (18) Larsen(1999),ibid., p.43.

  •  168             『明大商学論叢』第87巻特別号

    ある(19)。

     ネットワークにおける取引は,動態的である。環境などのコンテクスト要因の変化により,ネッ

    トワーク関係は,取引を最適化しようと常に変化する。そのネットワークの取引関係は,他のネッ

    トワーク・メンバーとの関係により決定されるパワー構造に基づいている。ネットワーク内にお

    いて,様々な取引当事者が他の取引当事者の活動や取引に影響を与えるパワー構造が存在する。

    このパワー構造がネットワーク上の個別企業の企業戦略アイデンティティを決定する。しかし,

    このパワー構造は静的にあるメンバーに,保持されているものではなく,環境の変化に応じて,

    ネットワーク内の相互活動の中で変化していくのである。すなわち,環境的コンテクストの中で,

    ネットワーク内のパワー関係も変化し,ネットワーク・メンバーは常に最適な取引形態を求めて

    動いていくのである。

     また,ネットワーク間における協働(network cooperation)は,「ビジュアル資産(visual

    asset)」の交換による「公式の協働(formal cooperation)」,と「インビジュアル資産

    (invisual asset)」の交換による「社会的交換を通じて高められる信頼」に基づく「非公式の協

    働(informal cooperation)」により行われる。当初は,法的な契約などによる公式の協働によ

    りネットワークが構築されるが,この取引・協働が繰り返されることにより,「信頼」を前提と

    したインビジュアル資産の交換に基づく非公式の協働が生み出されるのである。

     すなわち,長期的にネットワークを組む前提条件は,ネットワーク・メンバー間に信頼感とオー

    プン性が醸成されていることである。ネットワーク・アプローチでは,外部とのネットワーク関

    係において,ロジスティックスに対する(特殊)能力を促進することが求められる。ネットワー

    ク内で長期的に相互活動を行い,そのプロセスを通して,企業は知識・資源を獲得でき,特殊技

    能を発達させることが可能となる。次に,ネットワークのもつ「公式的な協働」「非公式の協働」

    の2つの側面からネットワーク内の企業間調整について見ていきたい。このことにより,SC構

    成企業間の取引における取引コスト理論の視点とネットワーク理論の視点の2つの関係を明らか

    にしていく。

     ネットワーク内の企業間調整

     Haugland and Groenhaung(1995)は,チェーン内におけるガバナンス・メカニズムとして,

    コントロール(control)と信頼(trust)を挙げている。

     コントロールとは,ルールと手続きに沿ったモニタリングを意味し,信頼は,社会的規範と個

    人的関係を通したモニタリングを表している。この上で,Schary and Kjott-Larsen(1999)は,

    サプライチェーンにおける(企業間調整)ガバナンスをコントロールと信頼の様々なコンビネー

    ションとして見なしている(2°)。すなわち,取引コスト・アプローチからは,チェーン内取引の

    機会主義的行動を防ぐ構造を構築し,ネットワーク・アプローチからは,チェーン内で信頼関係

    (19) Larsen(1999),ibid., pp.43-44,

    (20) Schary, P. B. and T. Skjott-Larsen(2001),‘‘Managing the Global Supply Chαin ’;Copenhagen

     Business School Press, P.94.

  • サプライチェーン・マネジメントと企業間ネットワーク 169

    (経済的)効率性と(社会的)公平性に

     基づく評価

    ζ

         3.実行段階

    ζ役撒蕎論編動診           図2 ネットワーク内の企業間調整プロセス出典:Ring and Van De Ven(1994), p. 97.

    を発達させることで,チェーン構成企業同士の利害を確保するのである。

     上記のネットワークの議論をもとに,Ring and Van De Venは,企業間調整のプロセスにつ

    いて述べている。Ring and Van De Venは,ネットワークの公式的性質と非公式的性質に着

    目し,3段階の繰り返されるプロセスを示している(21)(図2を参照のこと)。

     a.交渉(negOtiatiOnS)

     チェーン構成企業間で,共同取引に関する動機や投資,認識される不確実性などを相互に調整

    する。これは,チェーン構成企業間で関係性を構築する条件や手続きについてめぐる公式の交渉

    プロセス(formal bargaining processes)である。この交渉が繰り返されるにつれて,非公式

    な交渉プロセスに変化していく。そして,チェーン内取引の性質,役割期待,信頼性,取引の不

    確実性を評価するための機会を提供する非公式の意味解釈(sensemaking)プロセスが,交渉

    の過程で成立していくのである。

     b.コミットメント段階(commitment stage)

     企業間関係の条件やガバナンス構造がこの段階で決定される。当初のコミットメントは,成文

    化された条項に基づく法的な公式的契約によりなされる。しかし,公式的契約以外にも,チェー

    ン構成企業間で,暗黙のうちに理解される非公式の心理的契約が存在する。この両者の契約を通

    して,チェーン構成企業間は,チェーンへのコミットメントを深めていくのである。

     c.実行(executiOnS)

     公式の役割期待をもとに,チェーン構成企業は,取引行動を行う。この公式の役割期待は,

    (環境の)不確実性を逓減させるのと同時に,取引行動を予測可能にする。この相互取引が行わ

    れるにつれて,公式の役割関係から,人的相互間の心理的取引に変容していくのである。

     この企業間調整のモデルは,公式と非公式の(取引)関係のバランス性を強調している。仮に

    (21) Ring, P. S. and A. H. Van De Ven(1994),“Developmental Processes of Coperative Interorganiza-

     tional Relationships”,ノlcademy of Mαnage〃ient Review, Vol.19, No.1, pp.96-99.

  •  170              『明大商学論叢』第87巻特別号

    非公式の関係が強調されるならば,関係のリスクは,取引を行う個人の信頼性に過度に依存する

    ことになる。他方で,公式的契約が強調されるならば,個人間の能力,信頼が生じない取引が成

    立するようになる。公式関係は,企業間関係の初期段階で構築でき,この関係が進むにつれて,

    信頼に基づいた個人的・社会的関係が強調されるようになる。

     つまり,企業は取引コスト削減を行う取引のガバナンス・メカニズムを構築しようとネットワー

    クやチェーンを形成していくが,この関係が継続されるにつれて,SC構成企業間で,信頼や関

    係的資産が醸成されるようになり,非公式的側面から企業間調整が行われるようになる。つまり,

    SCMにおいて,取引コスト理論の視点やネットワーク理論の視点のどちらかが強調されるかは,

    企業間関係の継続性・時間軸ならびにSCを取り巻く環境要因により変化していくのである。

    3 ネットワークとSCM

     以上のように,SCの特性について, SCMの内容を考察し,理論的側面から分析してきた。

    SCMに求められるガバナンス形態を検討するために,ネットワーク論において考察されている

    取締役会の役割について述べていく。これは,既存のネットワーク論において,そのネットワー

    クに求められるガバナンス構造についての研究がなされているが,その研究をSCMへ援用し

    ていきたい。すなわち,上記の考察をもとに,SCMがどのような種類のネットワークである

    か特定し,そのネットワークに必要とされるガバナンス構造を適応するのである。本稿は

    Heracleous and Murray(2001)の所説に基づいて,これに検討を加えることとする。

    3-1 ネットワークの種類とSCM

     ネットワークにおいて,企業は企業間調整を通じて,関係特殊的資源を生み出すものとしてみ

    なされている(22)。その「ネットワーク資源」へのアクセスは,ネットワーク外の企業にとって

    は複雑的性格と経路依存性のために模倣困難であり,コストや価値の点で利点となる。先述した

    ように,企業は情報の非対称性や機会主義的行動を防ぐために費やされる取引コストの削減のた

    めに企業間結合を行い,ネットワークを構築する。同時にそのネットワーク関係が深化すること

    で,その関係は社会的に埋め込まれ(embedded),信頼や経路依存性を背景にしたネットワー

    ク内での独自の資源を醸成・アクセスすることができ,ネットワーク構成企業の競争優位の源泉

    となるのである。

     ネットワーク形態の分類は,様々に成されている。Belussi and Arcangeli(1998)は,業務

    の柔軟性(operational flexibility)と学習の形態(forms of learning)の2次元をベースにし

    たネットワークの分類を行っている(23)。Belussi and Arcangeli(1998)は,ネットワーク形態

    (22) Heracleous, L. and J. Murray(2001),“Networks, Interlocking Directors and Strategy Toward a

      Theoretical Framework”, A sia Pacific/burnα1 of Management, Vol.18, No.2, pp.139.

    (23) Beloussi, F and F. Arcangeli(1998),“A Typology of Networks:Flexibility and Evolutionary

      Firms”, Research Policy, Vol.27, pp. 415-428.

  • サプライチェーン・マネジメントと企業間ネットワーク 171

    をコア・コンピタンスを醸成したり,混沌とした環境に対処するために進化するものとした。そ

    の中で,企業間提携は,安定的なものではなく動態的に変化するものとして捉えた。

     上記の説を受けてHeracleous and Murray(2001)は,相互依存性(lnterdependence)と

    持続性(Duralibility)の2次元からネットワークの種類の類型化を行っている。相互依存性は,

    Contractor and Lorangeによるネットワーク分類にも使用され,ネットワーク構成企業がそれ

    ぞれの原材料(raw materials)のような資産(output),業務における資源(市場関連の情報:

    market-related information)を活用する程度を意味する(24)。高い程度の(資源の)活用度合

    いは,企業間関係における戦略的・戦術的重要性を意味し,高い相互依存性の性格を帯びてい

    る(25)。それは,やや強い(semi-strong),もしくは,強い信頼(strong)をもった,深い,冗

    長的で潜在的な結合と関係している。も.う一つの次元として,持続性があげられる。これは,ネッ

    トワークの構造(structure)と内容(content)から,どのくらいの期間,ネットワークが維持

    されるかを示すものである。このネットワークの持続性により,深い冗長的な結合の発達につい

    ても考慮することができ,そこからネットワーク構成企業間の信頼性やネットワーク内の経験的

    な学習効果などを測定することが可能となる(26)。

     この2つの次元をもとに,次のような5つのネットワーク形態に分類することができる(27)。

     第1に,高い程度の持続性と非常に限られた相互依存性をもつ場合であり,ロビー活動を目指

    す業界団体やギルドなどの専門職ネットワークを対象とするものである。このネットワークは長

    期的な継続性と安定的なメンバーシップにより特徴付けられる。そのメンバー間における業務の

    依存性は低い。企業同士が規制当局から共通の利害を擁護しようとして,業界団体を設立するこ

    となどによりネットワーク結合をするのであり,Heracleous and Murray(2001)はこれを

    「組合ネットワーク(association network)」と名付けている。

     第2に持続性と相互依存性の両者が高い場合,「埋め込み型ネットワーク(embedded net・

    work)」形態となる。ビジネスネットワークにおける「埋め込み」に関する論議は,1980年代

    にGranovetterにより開始され(28),「埋め込み」はネットワーク内における信頼性ならびに,活

    動の経路依存性的性質の中で醸成されてくる社会的関係の産物である。すなわち,「埋め込み」

    の中で企業間の関係特殊性(inter-firm specialization)や関係資源(relational capital),そし

    てルーティン(routine)を構築していくのである(29)。

     企業間の特殊性とは取引の根底にある既存投資を支える新規投資の程度である⑳。ここでの

    (24) Contractor, FJ. and P. Lorange(1998),℃ooperative Strategies in lnternational Business’;MA;

     Lexington,(25) Heracleous and Murray(2001),op. cit., p.141.

    (26) Heracleous and Murray(2001),ibid., p.142.

    (27) Heracleous and Murray(2001),ibi(孟, pp.142-145.

    (28) Granovetter, M. S.(1985),“Economic action and social structure:the problem of embedded-

     ness”, Ameγican/burnal()f Sociology, Vol.91, No.3, pp,203-215.

    (29) Chen, CJ. and LS. Chang(2004),“Dynamics of Business Network Embeddedness”,ノburnal(ゾ

     Ame7ican/1 cα(iemy of Business, pp.238-239.

    (30) Chen, and Chang(2004),ibid., p,238.

  • 172 『明大商学論叢』第87巻特別号

    資源は特殊であり,他の代替的取引においては,獲得するにはコストが非常にかかる。すなわち,

    ネットワーク構成企業間で共に特殊化(co-speciahzed)された資源は,ネットワークのニーズ

    に合致するように発展させられている。したがって,こうした特殊化された資源はネットワーク

    外の企業からすると模倣困難であり,競争優位を構築する上で重要となる。取引コスト理論の観

    点からは,ネットワーク内において共通の関係特殊性により,各構成企業が企業イメージや地位

    を示すことができ,相互の活動を容易に確認することができる。そして,協働の繰り返しにより,

    ネットワークの構成企業は,新しい協働機会を掴むことができる。

     関係資本は,社会学の領域における社会的ネットワークの相互利益(reciprocity)や期待,

    信頼に起因するものとされる。ネットワークにおいて,社会的関係は価値のある資本として捉え

    られる。関係資本は相互活動と関係性に基づく信頼と関係し,ネットワーク内のパートナーに共

    通の期待を発展させ,相互活動を導いていく。取引コストの観点から信頼に基づく関係資本は機

    会主義的行動の可能性を逓減させるのに重要であるとする。ネットワークの観点からは関係資本

    は企業間の協働を促進し,企業のコンピタンスや信頼性についての正確でタイムリーな情報の獲

    得を促進するとされる。特殊性と同様に,経路依存性と信頼により,関係資本はそのネットワー

    ク内で独自のものとなり,ネットワーク外の競合他社が模倣することが困難となる。関係資本は,

    信頼しうる,価値ある情報を提供し,ネットワークの構成企業が迅速に活動するように働きかけ

    るのである。

     ルーティンとは,特殊的,経営技術的なルーティンから曖昧な戦略的な意思決定に至るまでの,

    企業の規則的で,予測できる行動パターンを含んでいる。Cyert, R. M.とJ. R. Marchが指摘し

    たように,環境不確実性と限定合理性による制約を受けながら,ルーティンを通して業務を行う

    傾向がある。ルーティンは長期的更新(10ng-term revising)と向上(enhancement)を通し

    て形成され,技術,知識 コア・コンピタンスが蓄積されたものとして,あるいは発展していく

    組織記憶(organizational memory)としてみなされている(31)。そして,企業間のコミュニケー

    ションや協働を促進させ,お互いの資源へのアクセスを可能にする。この点で,ルーティンは企

    業間特殊性,関係的資本と同じように,ネットワーク内において独自であり,模倣困難なもので

    ある。新しい協働機会のコンテクストにおいて,企業間ネットワークのルーティンを使用するこ

    とで,ネットワーク内の構成企業は価値を高め,取引コストを効果的に削減することができる。

    このように「埋め込み型」ネットワークでは高い相互依存性と長い持続性関係により,冗長的結

    合と強い信頼性ならびに,経路依存性が高まり,そこから生じる関係資源を所与として,高い程

    度の企業間結合が達成されている。

     第3に,中程度の相互依存性と持続性の特徴をもつ「仲介型ネットワーク(brokered net-

    works)」がある。これは, hub and spoke型のネットワーク構造であり,ネットワークの調整

    者やリーダーとして活動する戦略的センターを保有しているという特徴をもつ。このネットワー

    (31)Nelson, R R and S. G. Winter(1982),‘tAn動o厩肋ary TんθoηoゾEconomic Change ’;MA:

     Belknap Press.

  •           サプライチェーン・マネジメントと企業間ネットワーク        173

    クでは,企業のコアとなる業務以外を,他の企業にアウトソーシングし,その企業を中心に産業

    集積が行われる。このネットワークにおける取引は経済的な論理に基づくものであり,ここでは

    社会資本の醸成や信頼の構築などは限られたものとなる(32)。つまり,ネットワーク関係を維持

    していくためには,機会主義のコストが非コンプライアンスのベネフィットを上回る限りにおい

    て,何らかのガバナンス・メカニズムに依存しなければならない。しかし,学習の程度や機会主

    義の可能性の変化に伴い,時間とともに「仲介型ネットワーク」は「埋め込み型ネットワーク」

    へと進化する可能性を秘めている。

     第4に「原子的ネットワーク(atomistic network)」が存在する。これは,企業が独立的な

    市場参加者であり,企業がネットワークを構築せずに取引効率性を最大化させようとする場合で

    ある。つまり,これは相互依存性ならびに持続性の点からも結合度合いが低く,市場での取引を

    意味している。

     第5に企業間の業務的・戦略的な相互依存性は強いが,その関係は長くは続かず,密度の濃い

    結合形態をもたない「カオス型ネットワーク(edge of chaos network)」が挙げられる。これ

    は新興の産業や環境変化・技術的変化の激しい産業によく観察され,この結合度合いの濃い関係

    は時間的制約や目的の相違により,実現が難しいのである。このネットワークへの構築・加入の

    動機は情報探索(information search)やアイディア創造(idea generation),選択肢購入

    (option buying)であり,そこでは技術ベースあるいは市場ベースのネットワークが創り出さ

    れる(33)。このネットワークにおいて,ネットワークの構成企業は頻繁に変化し,外部環境の変

    化が常にネットワークを変化させるよう迫っている。そして,そのことでネットワーク関係は不

    安定でない,緩やかな関係へと進展していくのである。

     上記5つの形態のネットワークを類型化してきたが,このネットワークは一つの形態に固定さ

    れるのではなく,ネットワーク関係は動態的に,ある形態から別の形態へと変化していく。その

    変化駆動要因として,産業進化(industry evolution),財・サービスの種類技術的要因など,

    外生的,内生的要因がネットワーク形態の変化をもたらすのである。そのネットワーク関係が深

    化するにつれて,複雑な企業間調整が比較的低いコストで行われ,そのネットワーク間の学習や

    経験,文化が蓄積されていくのである。ネットワーク関係の位置ならびにその関係は図3を参照

    されたい。

     以上のように,ネットワークを分析してきたが,ではSCMはどのようなネットワーク形態で

    あろうか。これは,ネットワークにおける取締役会の役割・機能をSCMへ応用する際に役立つ

    考察である。SCMでは,チェーン内取引の能率を図る経済的なメカニズムだけでなく,チェー

    ン全体を有効に管理していこうとする経営理念などを所与としている。つまり,効果的なSCM

    を果たすには,文化的,社会的背景がその根底に必要とされる。また,取引コストの分析から検

    討したように,取引で扱う資産は特殊であり取引頻度も高い。SC内のプロセスの特殊性も同様

    (32) Heracleous and Murray(2001),op. cit., p.143.

    (33) Heracleous and Murray(2001),op. cit., p.142.

  • 174

    相互依存症(一葺雲αΦOΦロαΦロoΦ)

    高い

    低い

    『明大商学論叢』第87巻特別号

    低い

           持続性(Durability)

    図3 相互依存性と持続性からのネットワーク分類

    高い

    出典:HeracleQus and Murray(2001)より筆者作成

    に高くなる。そして,ネットワーク分析で明らかにしたように,取引における信頼を前提とした

    関係特殊的資産など社会的な交換関係が観察できる。この関係特殊的資産は,ネットワークにお

    いて,信頼性,経路依存性を背景に,SC内の取引が繰り返されるにつれて,構造的に「埋め込

    まれ」るようになる。そして,この関係特殊的資産がSC内の取引コストを逓減させ, SC各構

    成企業の堅い協働的関係を構築させるのである。このようなことから,SCMは「埋め込み型」

    ネットワークの特徴を帯びているものとして捉えることができよう。しかし,「埋め込み型ネッ

    トワーク」は,ネットワーク内の取引コストを逓減し,関係的価値を生み出す一方,長期的な協

    働と各構成企業の関係的価値を重視するあまりに,閉鎖的な堅い結合となり,外部環境の変化に

    対して硬直的になる傾向がある。SCMは,関係的価値を重視するが,各構成企業は緩やかに結

    合し,環境の変化に対して柔軟である。また,SCMの活動の時間軸から見れば, SC構成企業

    間は取引コスト削減を目指してSCを構築するのであり,その活動が継続されるについて, SC

    の関係も「埋め込み」型へと変化していく。言い換えれば,SC構築当初では, SC構成企業間

    での信頼や関係特殊的資本の醸成を確認することはできないのである。こうしたことから,「カ

    オス型ネットワーク」や「仲介型ネットワーク」もSCMの対象として視野に入れる必要がある。

    次節では,以上の分析をもとにSCMに求められる取締役会の機能について述べていく。

    3-2SCMと取締役会機能

     取締役会の機能として,Nicholson and Kiel(2004)は, a,経営者への監視・コントロール,

    b.経営者への諮問・助言,c.資源へのアクセス, d.経営者の戦略遂行の促進するための戦略的

    役割について取り上げている。特にcの資源へのアクセスとは,企業外部環境と企業内部環境を

  • サプライチェーン・マネジメントと企業間ネットワーク 175

    結び付け,他企業の資源を得る提供者・媒介者としての機能を表している(34)。また,Tricker

    (1994)は取締役会の機能を,遵法機能と業績機能に分けている(35)。遵法機能とは,経営者(の

    遵法行為へ)の監督・監視を行うものであり,適切な経営を保障する安全弁(safety value)と

    して取締役会が捉えられている前提がある。経営者への監視・コントロールがこれに相当する。

    業績機能とは,取締役の持つ専門性,外部情報,ネットワーキングにより,企業の業績,正当性・

    ステイタスを高めていこうとするものであり,Nicholson and Kiel(2004)が主張するb, c, d

    の機能がこれに当たる。これらの所説は,取締役会の役割は,従来のガバナンスの枠組みで強調

    される監視だけではなく,企業業績の向上を狙いとした業績機能など企業経営の要請に応じて多

    様であると捉えている。こうした取締役会の機能に関してそれらの役割が企業経営の効率性を高

    める上で,重要な意味を持つことを示唆している。つまり,取締役会には,業績機能として(経

    営者に対する)助言・諮問機能,企業外部環境と企業内部環境を結び付ける役割,あるいは他企

    業の資源を獲得する提供者・媒介者としての役割などがあるとされる。近年,注目されつつある

    取締役会の機能は,業績機能など戦略的な機能を包含したものである。Finkelstein and

    Hambrick(1996)は,取締役会の機能は経営者の監視,規律付けに限定されるものではなく,

    多角化,資源の獲得や戦略的変革など企業の戦略策定に関係するものでなければならないとし,

    企業内部では経営者への支援を,外部に対しては,外部組織との調整,企業間関係,取引の調整

    を行う担い手として取締役会を捉えている(36)。ここで,外部環境との調整を担うものとして,

    Heracleous and Murray(2001)は連結取締役制度を取り上げている(37)。連結取締役制度とは

    取締役がお互いに他社の取締役を兼任することである。SC内あるいはネットワーク内における

    企業間調整を行う担い手として,連結取締役制度を捉え,そこから導出される役割・機能につい

    て考察を進めることが必要になる。

     従来より,連結取締役制度が成立する解釈として次の2つが取り上げられている㈹。第一に

    階級パースペクティブ(class perspective)である。連結取締役制度を影響力のあるエリート

    とエリートの階級ネットワーク間の結合と見なす。この連結により,経営者が自己保身のため,

    様々な企業で取締役を兼任することにより,取締役会からの統制力を逓減させることを狙いとし

    ている。第2に資源依存パースペクティブが取り上げられる。このパースペクティブでは,連結

    取締役制度が企業間で発達した依存関係によって生み出された不確実性を逓減しようと構築され

    たメカニズムであるとされる。つまり,ネットワーク内での企業間(で保有される)資源を評価

    (34) Nicholson, G. J. and G. C. Kiel(2004),“Breakthrough board performance:how to harness your

     board’s intellectual capital”, Corporate Governαnce, Vo1,4, No.1, pp.5-22.

    (35) Tricker, R I.(1994), International Coゆora te Governance:Text, Rθα(オing, and Cases, New}ζ07怠

     Prentice Hal1.

    (36) Finkelstein, S and D, Hambrick(1996),”S trα tegic LeadershiP-Top Executives&丁勉〃跡θc∫s oη

     Organizations, Minneapolis:West Publishing Company.(37) Heracleous and Murray(2001),op. cit., pp.151-155.

    (38) Pettigrew, A. M.(1992),“On Studying Managerial Elites”, Strategicルlanagement /ourua 1, Vol.13,

     pp.165-169.

  • 176 「明大商学論叢』第87巻特別号

    し,企業間コミットメントを発達させ,ネットワーク構成企業それぞれの(ネットワークにおけ

    る)正当性を付与する役割を取締役会が担っていると考えるのである㈹。換言すれば,チェー

    ン構成企業の取締役は(情報)資源を共有し合い,他企業の(有形財)資源を提供・交換する媒

    介者としての役割を果たすのである。

     また,Mizruchiは,連結取締役制度の果たす役割として,1)結託(Collusion),2)共同利用

    (Cooptation),3)モニタリング(Monitoring),4)正当性(Legitimacy),5)キャリア向上

    (Career Advancement),6)社会的結合(Social cohesion)の5つを挙げている(4°)。1)結託と

    は産業内の競争を制限するために,意図的な取締役の結託を意味する。2)の共同利用は,環境

    の不確実性の中で,企業間資源の共同利用をすることを意味し,取締役会はその担い手であると

    する。3)のモニタリングは組織間の(取引・調整)の適切なコントロールを行うために成され

    るものである。4)の正当性は,取締役を通して,環境における企業の正当性を高めるものであ

    る。6)の社会的結合は,上層階級(the upper capitalist class)の社会的絆(social ties)を意

    味している。

     経営者同士の地位安定化ならび取締役会の監視・統制力を逓減させるための企業間結合として

    のもつ連結取締役制度の特徴を階級パースペクティブで捉える場合,これは,Mizruchiの分類

    による1),5),6)の機能が相当する。他方,資源依存アプローチで捉える場合,2),3)のもつ

    戦略的な機能が考察の中心となってくる。この2),3)の機能がネットワーク内のおける企業間

    の結合度合いを強化するのである。次に,このような所説を前提にすることにより,ネットワー

    ク内において取締役の機能について検討したHeracleous and Murray(2001)の見解について

    考察していく。

     先に確認したように,SCMは「埋め込み型ネットワーク」から「カオス型ネットワーク」や

    「仲介型ネットワーク」などの範囲で特徴を帯びるネットワークとして,定義することができる。

    そこで,これら3つのネットワークにおける取締役会の役割について,Heracleous and Murray

    が検討しているが,そのネットワークに対応し,適切な取締役会の具体的な役割について見てい

    く。

     「カオス型ネットワーク」では,ネットワーク構成企業間の相互依存性度合いが強いが,ネッ

    トワークを取り巻く環境変化が激しいため,ネットワークのメンバーは常に変化し,動態性が非

    常に高い。この激しい環境変化に対応するために,連結取締役制度を通して取締役が企業間にお

    いて相互活動することにより,他社の資源へのアクセスを可能にしている。つまり,各構成企業

    において直面する環境は様々に異なる。そのため,各企業の取締役が環境を精査し(scan-

    ning),その情報を獲得し,各取締役間でその情報を共有・学習することにより環境の不確i実性

    (39) Pffer, J and G. R. Salancik(1978), TんθExtemat Control oヅOrganizαtion-Resource 1)の2加lency

     Perspective’;Harper&Row Publishers, pp,143-184.

    (40)Mizruchi, M. S.(1996)“What do interlock do?An analysis, critique, and assessment of research

     on Interlocking Directorates”, Annual Review of Sociology, pp,272-280,

  • サプライチェーン・マネジメントと企業間ネットワーク 177

    を逓減させ,高い程度の環境適応が可能であると捉えるのである(41)。

     「仲介型ネットワーク」では,チャネルを支配するハブ(hub)企業を中心に,緩やかな企業

    間結合のネットワークが形成されている。「仲介型ネットワーク」における取引は,取引の効率

    性を最大化させることを狙いとする,経済的な論理に基づくものであり,ここでの社会資本の醸

    成や信頼の構築は限定的となる。相互依存性も持続性も中程度であるため,企業間の結合を強化

    するほどの確固たる相互関係資産が醸成されてはいない。ここでは,企業間の機会主義的行動の

    余地が高くなる。そのため,この機会主義的行動を防ぐガバナンス・ルールが求められる。取締

    役会はネットワーク内の効率的な財・サービスの流れを保証するよう,ネットワーク内の構成企

    業にネットワークのガバナンスに従うよう促進したり,監視したりするのである。

     「埋め込み型ネットワーク」は,信頼と経路依存性を背景にした,各構成企業の堅い協働的結

    合である。このネットワークにおいて,関係資本を醸成することが重要となるが,そこで取締役

    会の役割は,ネットワーク内での社会的資本を構築し,維持することである。連結取締役はネッ

    トワーク内の信頼と学習を醸成する「媒介者(carriers)」として役立つ。 Nicholson and Kie1

    (2004)によれば(42),取締役会には,取締役が取締役会内。外で交流することにより,取締役会

    内でこれらの知識・経験などが共有されると同時に,また企業外部と関係することにより,当該

    企業の取締役会のみでは得ることができない(知的)資源を獲得することができる社会的資本を

    獲得する機能が備わっているとする。これは,取締役会は様々な経験・知識をもった人的資本か

    ら構成され,その人々が関わることにより,そこで関係特殊的資本が生み出されるとするのであ

    る。Heracleous and Murray(2001)は,連結取締役制度とは信頼性への取引パートナーの評

    判の権化(embodiment)であり,その評判に従って行動するものと見なされる。そして,また

    情報のオープン性は連結取締役制魔により醸成される信頼性のシグナルとなり,既存のあるいは

    潜在的なネットワークを特徴付ける行動の価値・信条・規範を評価する効果的,有形的な手段と

    なるく‘3)。このように,企業間の相互依存性や持続性,財の特殊性が高い「埋め込み型ネットワー

    ク」において,(各企業の)取締役会は,相互で情報共有を行い,戦略ビジョンを確認調整する

    ことで,ネットワーク内でのビジョンを統合流布させることができるのである。そして,そのこ

    とにより,ネットワーク内関係資源の構築・維持・酒養に努めるのである。

     以上,SCMの特徴を持つと確認される3つのネットワークに適したガバナンス形態を考察し

    てきた。SCMの特徴は, SCの構成企業間の相互依存性と結合度の持続性や取引する財や業務

    のプロセス性の程度により異なるが,このことが外生的要因として,適切な取締役会の機能も変

    化していくのである。すなわち,コンティンジェンシー要因により,企業間SCの形態も変化し,

    SCの特性に応じて,適切なガバナンス形態を構築することが,効果的なSCMの遂行につなが

    り競争優位を導くのである。

    (41) Heracleous and Murray(2001),op. cit., pp. 153-154.

    (42) Nicholson and Kie1(2004),op. cit., pp.8-12.

    (43) Heracleous and Murray(2001),op. cit., pp.152-153.

  • 178 「明大商学論叢』第87巻特別号

    4 おわりに

     本稿は,既存のネットワークの議論における取締役会の役割をSCMへ援用することにより,

    SCMにおいて適切なガバナンス形態について検討した。 SCMでは,チェーン内取引の能率を

    図るメカニズムだけでなく,チェーン全体を有効に管理していこうとする経営理念などを所与と

    している。そして,取引コストの観点から財の特殊性が高く取引頻度も多い。ネットワークの観

    点からは信頼性や関係資産が醸成されてくるものとして捉えられる。これは「埋め込み型ネット

    ワーク」の特徴と近似しているが,埋め込み型の堅い,クロースドなネットワークと違いSCは

    SC各構成企業の意思決定の独立性を重んじ,緩やかに結合し,その関係は,環境変化を受けて

    動態的に変わっていくため,「カオス型ネットワーク」や「仲介型ネットワーク」もSCMの特

    徴として視野に入れる必要がある。

     「カオス型ネットワーク」や「仲介型ネットワーク」,「埋め込み型ネットワーク」のそれぞれ

    についていかなるガバナンス形態がSCMにおいて適切となるかは, SCを取り巻くコンティン

    ジェンシー要因,換言すれば,SC内の財やプロセスの特殊性,それと関連したSC各構成企業

    の相互依存性とSCの持続性により,求められるネットワーク形態が規定され,効果的なSCM

    へのガバナンスが可能となるのである。本稿では,SC形態を構成する環境変化要因については

    特定することができなかった。今後の課題として,SCの形態分析の精緻化を図るとともに,ど

    のような環境において,どのようなSCのガバナンス形態が求められてくるかの適合性について

    考察を深めたい。

                      参考文献

    Baysinger, B. and R. E. Hoskisson(1990),“The Compostion of Boards of Directors and Strategic

     Control:Effects on Corporate Strategy”, Academy ofルlznagement Review, Vol,15, No.1.

    Blackhurst, J. J.(2002),“A Network Based Methodotogy to Model Suφ1)砂Chain Systems”, Ph. D. Disser-

     tation, The University of Iowa.

    Beloussi, F and R Arcangeli(1998),“A Typology of Networks:Flexibility and Evolutionary Firms”,

     Research Policy, Vol.27, pp.415-428.

    Chen, C. J. and L S. Chang(2004),“Dynamics of Business Network Embeddedness”,ノburnal(ゾ

     American A cademy of、BusineSS.

    Cooper, M. C. and L M. Ellram(1993),“Characterisitcs of Supply Chain Management and the lmpli-

     cation for Purchasing and Logistics Strategy”, The International/ournat of.Logistics Manage-

     ment”, Vo1. 4, No.2, pp.13-24.

    Cooper, M, C. and L M. Ellram,エT. Gardner and A. M. Hanks(1997),“Meshing Multiple Alliances”,

     ノburnα1()f Business Logistics, Vol.18, No.1, pp.67-89.

    Cooper, M. C. and D. M Lambert, and J. D. Pagh(1997),“Supply Chain Management:More Than a

     New Name for Logistics”, The International/burnal of Logistics Manαgement, Vol.18, No.1, pp.

     67-89.

    Contractor, F. J. and P. Lorange(1998),‘LCooperative Strategies in International Business”, MA;

  • サプライチェーン・マネジメントと企業間ネットワーク 179

       Lexington,

    Ellram, L. M. and M. C. Cooper(1990),“Supply Chain Management, Partnerships, and the Shipper-

       Third-Party Relationship,“The /nternαtionα1 lournαl of Logistics Mαnagement, Vo1.1,No,2.

    Forrester, J.(1961),“lndustrial Dyαnmics”, MIT Press and John Wiley and Sons, New York.

    Finkelstein, S and D, Hambrick(1996),“Strategic Leadershil)-Top Executives&Their Effect on

       Organizations, Minneapolis:West Publishing Company.

    Granovetter, M. S.(1985),“Economic action and social structure:the problem of embeddedness”,

       American/burnat()f Sociology, VoL gl, No.3.           ’

    Haakansson, H. and I. Snehota(1995),“1)eveloping 1~elationshiPs in Business Networles”, London:

       Routledge.

    Haugland, S. A. and K. Groenhaug(1995),“Authority and Trust in Network Relationships”,1)evelop-

       ing Relαtionship in、Business Netzvorks, ed. by Haakansson, H. and I. Snehota, London, Routledge.

    Heracleous, L. and J, Murray(2001),“Networks, Interlocking Directors and Strategy Toward a

       Theoretical Framework”, Asia Pacific/burnal()f Management, Vol.18, No.2.

    Lee, H. and Padmanabhan, V. and Whang, S.(1997),“Information Distortion in Supply Chain”,

       Management Science, Vol,43, No.4.

    Larsen, T. S.(1999),“Supply Chain Management:A New Challenge for Researchers and Managers

       in Logistics”, In ternαtionα1 lournαl of Logistics Management, Vol.10, No.2.

    Mentzer, J. T. and D. W. Witt and J. S. Keebler and S. Min and N. W. Nix and C. D. Smith and Z. G,

       Zacharia(2001),“Defining Supply Chain Managemen”,ノburnal(’f、Business Logistics, vol.22, No,

       2.

    Min, S. and J. T. Mentzer(2004),“Developing and Measuring Supply Chain Management Concetps”,

       fburnαl of Business Logis tics, Vol. 25, No.1.

    Mizruchi, M. S.(1996)“What do interlock do?An analysis, critique, and assessment of research on

       Interlocking Directorates”, Annual Review of Sociology, pp.272-280.

    Nicholson, G. J. and G. C. Kiel(2004 a),“Breakthrough board performance:how to harness your

       board’s intellectual capital”, Corporate Govemance, VoL 4, No.1, pp,5-22.

    Nelson, R. R. and S。 G. Winter(1982),.“An Evotutionai y 7%θo刎()f Economic Change”, MA:Belknap

       Press.

    Novack, R. A. and C. J. Langley, Jr. and L. M. Rinehart(1995), Creating Logistics Value, Oαle Brook,

       IL:Council of Logistics Management.

    Pettigrew, A. M.(1992),“On Studying Managerial Elites”, Strategic Management/burnal, Vol.13, pp.

       165-169.

    Stiles, P. and B. Taylor(2001),“、Boards at Work’How l)irectors View Their i~oles and〃Responsibilites’;

       Oxford University Press.

    Pfeffer, J and G. R. Salancik(1978),’‘The External Contr()1(’f Orgαnizαtion:1~esource I)ependen()y

       Perspective”, Harper&Low, Publishers.

    Ring, P. S. and A. H. Van De Ven(1994),“Developmental Processes of Coperative Interorganiza-

       tional Relationships”, Academy()f Management Review, Vol,19, No.1.

    Schary, P. B. and T. Skjott-Larsen(2001),“Managing the Global Supply Chain”, Copenhagen Business

       School P「ess.

    Tricker, R.1.(1994),Internαtional Corporate Governance’Text, Reading, an(l Cases,ハlew York, Prentice

       Hal1.

    Williamson,0. E.(1996),“The Mechanism Of Governance”, Oxford University Press.

    菊澤研宗著(1998),「日米独組織の経済分析一新制度派比較組織論』,文眞堂。

  • 180              『明大商学論叢』第87巻特別号

    丹沢安治著(2000),『新制度派経済学による組織研究の基礎』,白桃書房。

    山下洋史,諸上茂登,村田潔編著(2003),『グローバルSCM一サプライチェーン・マネジメントの新し

      い潮流一』,有斐閣。

    山倉健嗣著(1993),『組織間関係一企業間ネットワークの変革に向けて一』,有斐閣。