フードシェアリングによる家庭内食品ロス削減効果 …...Keywords:Cutting...

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1 フードシェアリングによる家庭内食品ロス削減効果に関する研究 -余剰食品シェアリングシステムの提案- A Research on Reduction Effect of Domestic Food Losses by Food Sharing -Proposal of Sharing System for Excess Food Items- 5116E013-9 戸谷 指導教員 幾朗 教授 TOTANI Shio Prof. CHO Ikuro 概要:本研究では、家庭内食品ロス削減を目的として消費者行動プロセスの各段階における発生要因分析を行い、 フードシェアリングシステムの提案を図った。日本では、低い食料自給率にも関わらず多くの食品を毎年廃棄し ている。そのうち、本来食べられるものにもかかわらず廃棄されている「食品ロス」は世界全体の食料援助量の 約2倍にあたり、中でも家庭から排出される食品の多くは、再生利用されず焼却・埋立てにより最終処分され、 無駄となっている。そこで観察実験による消費者行動プロセスの可視化を通して発生要因を調査した結果、その 一つに流通段階での販売形態等により、家庭で発生した余剰食品を期限内に使いきれないことが明らかとなった。 この解決手法として、消費者間での余剰食品シェアリングシステムを提案し、その有用性と利便性を探った。 キーワード:家庭内食品ロス削減、消費者行動プロセス、フードシェアリング、余剰食品 Keywords:Cutting Domestic Food Losses, Customer Journey Process, Food Sharing、Excess Food Items 1.日本における食品ロスの現状 FAO によると、世界の食料生産量の 3 分の 1 にあた る約 13 億トンの食料が毎年廃棄されている。なかで も我が国日本は、1,874 万トンもの食品廃棄を排出し、 そのうち本来食べられるものにもかかわらず廃棄さ れている食品ロスは年間約 621 万トンと推計される。 食品ロスはフードチェーンにおける生産・流通・消費 の各段階で排出されるが、全体量の約半数にあたる 282 万トンは一般家庭から排出され、その大半が焼却 や埋立てにより最終処分されてムダとなっている。こ の事からも明らかなように、国内では家庭内食品ロス 削減を図った施策は流通段階に比べまだ少なく、一刻 も早く対策を考える必要がある。本研究では、家庭内 食品ロスに着目して、消費者行動プロセスを可視化し、 消費段階における発生要因を調査した上で、フードシ ェアリングの有用性を探る。 2.家庭における食品廃棄の要因分析 消費段階での食品ロス発生要因は一般的に直接廃 棄・食べ残し・過剰除去の大きく 3 つに分類される。 これらの要因がいつどこで生じるのか、つまり家庭で 廃棄される場面を明瞭化する必要性があると考えた。 そこで行動観察による消費者行動プロセスの可視化 を行ったところ下記の各段階に分けることができた。 1)確認、2)購入、3)保管、4)調理、5)食事、6)廃棄 この 6段階における発生状況や要因を分析した。結果、 大きな課題の一つとして、流通段階における小売店の 定量販売や過剰包装といった販売形態や、消費者自身 の無計画な購入スタイルなどから、各世帯では期限内 に使いきれない余剰食品が発生することが推測でき、 アンケート調査により実証された。この課題を踏まえ、 本研究では家庭内で発生してしまう余剰食品を有効 利用し、循環させる手法について検討していく。 図 1. 消費者行動プロセス

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    フードシェアリングによる家庭内食品ロス削減効果に関する研究

    -余剰食品シェアリングシステムの提案-

    A Research on Reduction Effect of Domestic Food Losses by Food Sharing -Proposal of Sharing System for Excess Food Items-

    5116E013-9 戸谷 潮 指導教員 長 幾朗 教授

    TOTANIShioProf.CHOIkuro

    概要:本研究では、家庭内食品ロス削減を目的として消費者行動プロセスの各段階における発生要因分析を行い、

    フードシェアリングシステムの提案を図った。日本では、低い食料自給率にも関わらず多くの食品を毎年廃棄し

    ている。そのうち、本来食べられるものにもかかわらず廃棄されている「食品ロス」は世界全体の食料援助量の

    約2倍にあたり、中でも家庭から排出される食品の多くは、再生利用されず焼却・埋立てにより最終処分され、

    無駄となっている。そこで観察実験による消費者行動プロセスの可視化を通して発生要因を調査した結果、その

    一つに流通段階での販売形態等により、家庭で発生した余剰食品を期限内に使いきれないことが明らかとなった。

    この解決手法として、消費者間での余剰食品シェアリングシステムを提案し、その有用性と利便性を探った。

    キーワード:家庭内食品ロス削減、消費者行動プロセス、フードシェアリング、余剰食品

    Keywords:CuttingDomesticFoodLosses,CustomerJourneyProcess,FoodSharing、ExcessFoodItems

    1.日本における食品ロスの現状

    FAO によると、世界の食料生産量の 3 分の 1 にあた

    る約 13 億トンの食料が毎年廃棄されている。なかで

    も我が国日本は、1,874 万トンもの食品廃棄を排出し、

    そのうち本来食べられるものにもかかわらず廃棄さ

    れている食品ロスは年間約 621 万トンと推計される。

    食品ロスはフードチェーンにおける生産・流通・消費

    の各段階で排出されるが、全体量の約半数にあたる

    282 万トンは一般家庭から排出され、その大半が焼却

    や埋立てにより最終処分されてムダとなっている。こ

    の事からも明らかなように、国内では家庭内食品ロス

    削減を図った施策は流通段階に比べまだ少なく、一刻

    も早く対策を考える必要がある。本研究では、家庭内

    食品ロスに着目して、消費者行動プロセスを可視化し、

    消費段階における発生要因を調査した上で、フードシ

    ェアリングの有用性を探る。

    2.家庭における食品廃棄の要因分析

    消費段階での食品ロス発生要因は一般的に直接廃

    棄・食べ残し・過剰除去の大きく 3 つに分類される。

    これらの要因がいつどこで生じるのか、つまり家庭で

    廃棄される場面を明瞭化する必要性があると考えた。

    そこで行動観察による消費者行動プロセスの可視化

    を行ったところ下記の各段階に分けることができた。

    1)確認、2)購入、3)保管、4)調理、5)食事、6)廃棄

    この 6 段階における発生状況や要因を分析した。結果、

    大きな課題の一つとして、流通段階における小売店の

    定量販売や過剰包装といった販売形態や、消費者自身

    の無計画な購入スタイルなどから、各世帯では期限内

    に使いきれない余剰食品が発生することが推測でき、

    アンケート調査により実証された。この課題を踏まえ、

    本研究では家庭内で発生してしまう余剰食品を有効

    利用し、循環させる手法について検討していく。

    図 1.消費者行動プロセス

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    3.食とシェアリングエコノミー

    近年、ライディングシェア Uber や民泊 Airbnb 等の

    シェアリングエコノミーによるビジネスが成功をお

    さめている。過剰な所有や消費に疑問を持ち、共有へ

    の意識が高まる傾向は、経済面だけでなく地球の持続

    性を考慮する環境面の観点でも、特に先進国において

    強まっていくだろう。その上で、ヨーロッパを中心に

    各国で食の分野におけるシェアリングの動きも多く

    見られるようになった。日本でも株式会社コークッキ

    ングによりフードシェアリングプラットフォーム

    「TABETE」の実証実験が今現在行われている。しかし

    食品関連業者からの提供は実施される一方で、各家庭

    からの余剰食品をシェアするシステムは食品安全性

    や取引の利便性を重視する日本においては、未だ実施

    されていないのが現状である。

    4.フードシェアリングシステムの提案

    家庭内食品ロスの削減を図る手法の一つとして、消

    費者間における余剰食品のシェアを促進するための

    フードシェアリングシステム「OSUSO」を提案する。

    OSUSO はアプリを介して余剰食品とそれを必要とする

    消費者をマッチングし、街中のフードシェア自販機

    OSUSOBar で食品の提供・受取を行う事を想定する。

    システム概要及び想定シーンを図 2に示す。本提案に

    より、自身では消費しきれない食品を他者により消費

    してもらうことで、家庭で発生する余剰食品の直接廃

    棄を軽減し、ひいては食品に対するもったいない意識

    を向上させることがねらいである。

    図 2.提案「OSUSO」の概要図

    5.プロトタイプによる評価実験

    提案手法の利便性や有用性を評価するため、OSUSO

    のプロトタイプアプリを構築し、フードシェアリング

    模擬実験を行った。結果、計 9749g の余剰食品が 13

    世帯から持ち込まれ、そのうち 83%に当たる約 8095g

    の食品が他の被験者によりシェアされ、家庭内食品ロ

    ス削減効果が実証された。それに伴って CO2 排出量は

    約7993g-CO2、さらに経済コストでは約17,573円(74%)

    の軽減効果が推計できた。以上より環境面のみならず

    経済面においても家庭内余剰食品のシェアリングは

    一定の効果があることがわかった。また主観評価では、

    提案の利便性や有用性、食品ロスへの意識向上の面で

    支持されたものの、提供者の信頼性や食品の安全性の

    確保に関して再検討の必要性が伺えた。

    図 3.プロトタイプアプリ提供食品一覧画面

    6.結論

    今回の提案に対し、「提供者範囲」・「取り扱う食品範

    囲」・「価格設定の有無」の三点が今後の主な課題とし

    てあげられた。これらに対し、あらゆる消費者の視点

    からより深い分析をすることで再度検討を行う必要

    があるだろう。さらに、地域コミュニティや都市農園

    等にも有効活用することで、食品ロス削減だけでなく

    持続可能な循環型都市の形成まで展望し得る。

    参考文献・図表出典一覧

    [1] 小林富雄(2015)「食品ロスの経済学」,農林統計出版

    [2] 農林水産省(2017)「食品ロス削減に向けて」

    図 1-3戸谷(2018)