グループワークの満足度に モチベーション及びリー...

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E f f e c t s o f m o t i v a t i o n a n d l e a d e r s h i p o n s a t i s f a c t i o n o f g r o u p w o r k J u r i K A T O , M a s a t o K A S A M O R I , H i r o a k i U E S U , A k i o H A Y A S H I , H i r o m i S A T O 金沢工業大学では学生が「自ら考え行動する技術者」として成長するよう、身近な 問題をテーマとして取り上げ、グループワークを通して解決策を提案するプロジェク トデザイン教育を行っている。本研究では、プロジェクトデザインにおけるグループ ワークに対する学生のモチベーションおよびグループのメンバーのリーダーシップに ついてアンケート調査から解析、把握するとともに、これらの要素がグループワーク の総合的な満足度を高めるのかを検討した。その結果、リーダーシップの高さは、グ ループワークのテーマそのものへの興味、責任感を高め、結果としてグループワーク への総合的な満足度を高めることが明らかになった。 キーワード:プロジェクトデザイン、モチベーション、リーダーシップ The project design education has been held in Kanazawa Institute of Technology in order to students can grow up as "engineers who think and act themselves". In this project design education, students focus on familiar issues and propose solutions thorough group works. In order to maintain and improve this project design education, it can be considered that the student motivation for group works is an important factor. In this study, we conducted a questionnaire survey on the motivation to the group work and leadership of group members, and investigated whether these factors increased the overall satisfaction of the group work in the project design. As a result, it is revealed that the leadership enhanced the interest and responsibility of the group work theme, and increased the overall satisfaction to group work. Keywords: Project Design, Motivation, Leadership 金沢工業大学では、問題を自らが発見しその解決案を創出する能力を総合的に高めるための、プロジ ェクトデザイン(Project Design PD と略す)教育を進めている 1) PD 教育の一環である 2 年次の PD Ⅱでは、学科単位で 1 チーム 5~6 人のグループとなり、チームでの活動を行う。そのグループワークを 実りあるものにするためには、学生の取り組みに対する満足度を高めることが重要であろう。そこで本 研究では、PDⅡにおけるグループワークについて、どのような要因が満足度を高めるのかを検討する。 具体的には、取り組みに対するモチベーション、グループのメンバーのリーダーシップを取り上げ、こ 81 グループワークの満足度にモチベーション及びリーダーシップが及ぼす影響 KIT Progress 26

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論文 KIT Progress №26

グループワークの満足度にモチベーション及びリーダーシップが及ぼす影響

グループワークの満足度に

モチベーション及びリーダーシップが及ぼす影響 Effects of motivation and leadership

on satisfaction of group work

加藤 樹里,笠森 正人,上江洲 弘明,林 晃生,佐藤 弘美 Juri KATO, Masato KASAMORI, Hiroaki UESU,

Akio HAYASHI, Hiromi SATO

金沢工業大学では学生が「自ら考え行動する技術者」として成長するよう、身近な

問題をテーマとして取り上げ、グループワークを通して解決策を提案するプロジェク

トデザイン教育を行っている。本研究では、プロジェクトデザインにおけるグループ

ワークに対する学生のモチベーションおよびグループのメンバーのリーダーシップに

ついてアンケート調査から解析、把握するとともに、これらの要素がグループワーク

の総合的な満足度を高めるのかを検討した。その結果、リーダーシップの高さは、グ

ループワークのテーマそのものへの興味、責任感を高め、結果としてグループワーク

への総合的な満足度を高めることが明らかになった。 キーワード:プロジェクトデザイン、モチベーション、リーダーシップ

The project design education has been held in Kanazawa Institute of

Technology in order to students can grow up as "engineers who think and act themselves". In this project design education, students focus on familiar issues and propose solutions thorough group works. In order to maintain and improve this project design education, it can be considered that the student motivation for group works is an important factor. In this study, we conducted a questionnaire survey on the motivation to the group work and leadership of group members, and investigated whether these factors increased the overall satisfaction of the group work in the project design. As a result, it is revealed that the leadership enhanced the interest and responsibility of the group work theme, and increased the overall satisfaction to group work. Keywords: Project Design, Motivation, Leadership

1.緒 言

金沢工業大学では、問題を自らが発見しその解決案を創出する能力を総合的に高めるための、プロジ

ェクトデザイン(Project Design:PD と略す)教育を進めている 1)。PD 教育の一環である 2 年次の PDⅡでは、学科単位で 1 チーム 5~6 人のグループとなり、チームでの活動を行う。そのグループワークを

実りあるものにするためには、学生の取り組みに対する満足度を高めることが重要であろう。そこで本

研究では、PDⅡにおけるグループワークについて、どのような要因が満足度を高めるのかを検討する。

具体的には、取り組みに対するモチベーション、グループのメンバーのリーダーシップを取り上げ、こ

81グループワークの満足度にモチベーション及びリーダーシップが及ぼす影響

KIT Progress №26

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グループワークの満足度にモチベーション及びリーダーシップが及ぼす影響

れらが取り組みへの満足度に及ぼす影響を明らかにする。 モチベーション(動機づけ)とは、人が一定の目標に向かって行動を開始し、それを維持する一連の

働きである 2)。グループワークとはまさに目標に向かうための行動といえるが、その行動を維持するも

のがグループワークへのモチベーションと考えられる。モチベーションと満足度の関連については、仕

事場面において、モチベーションという要因が職務満足に対し重要であることが議論されている 3)。新

井(2011)によれば、仕事場面でのモチベーション要因としては仕事そのものから得られるやりがいや、

仕事を通じた成長への期待、役職処遇による責任権限の付与などの要素があるという。これらの要素が

充足しているほど、仕事に対するやりがいがあるといえ、結果として職務への満足度も高くなると考え

られる 4)。このような知見から、PDⅡにおけるグループワークへのモチベーションの高さも、取り組み

への総合的な満足度につながりうると予測される。そこで本研究では第一に、グループワークへのモチ

ベーションを様々な角度から測定し、それらのモチベーションがどのように総合的な満足度につながっ

ているのかを検討する。 本研究の第二の視点は、グループワークにおけるリーダーシップである。組織のなかで求められるリ

ーダーシップとは、組織の目標を達成するための機能(P 機能)と、組織内の人間関係を維持するため

の機能(M 機能)の 2 次元に大別できるという 5)。こういった 2 次元から成り立つリーダーシップはチ

ームワーク能力のひとつとされ 6)、チームワーク能力が高いほど、チームの生産出力、メンバーの満足

度といったチームの効果性が高いことが検討されている 7)。すなわち PDⅡにおいても、グループメン

バーのリーダーシップが高いことが、グループの満足度や、取り組みへのモチベーションを高めること

が予測される。 上記のようにモチベーションが目標を目指した行動を維持する働きであるという議論から、モチベー

ションは、チームの成果にも影響を及ぼすことが示唆される。そこで本研究では第三に、PDⅡの授業内

で行われるポスター発表をひとつの成果として捉え、その評価も測定した。そして、成果の評価が高い

チーム、低いチームにはそれぞれのモチベーションにどのような特徴があるのかを検討する。 以上より本研究では、PDⅡにおけるグループワークの総合的な満足度が、モチベーションの諸要素や

メンバーのリーダーシップにより高まるのか、そしてチームの成果とモチベーション、総合満足度はど

のように関連するのかを調査により検討する。モチベーション、総合満足度に関しては、新井(2011)をもとにモチベーションの諸側面や全般的な満足度を測定する調査設問群を用いた。リーダーシップに

関しては、三隅ら(1969)により作成された、討議グループのなかでリーダーシップの P、M 機能それ

ぞれを測定する尺度を用いて測定した 8)。

2.方 法

2.1 調査対象者

本研究における調査は 2017 年度開講の PDⅡ受講学生を対象とした。情報系 3 クラス、機械系 1 ク

ラス、化学系 1 クラス、建築系 1 クラス、心理系 1 クラスの 7 クラス 41 チームを対象としており、男

子学生 171 名、女子学生 35 名、合計 206 名の調査結果をもとに分析を行った。 2.2 調査概要

調査はアンケート用紙「プロジェクトデザインⅡのチーム活動についての調査」を用い、匿名調査と

して実施した。アンケートではまず、調査対象者の属性について、年齢、性別、クラス、学年の回答を

求めた。さらに、チームとしての傾向についても分析を行うため、チーム番号についても回答を求めた。

続くアンケート内容は、次節にて詳細を報告する。 また、チームが作成した成果物の評価として、各チームのポスター発表の評価点を算出した。ポスタ

ー評価の方法は、提出された各チームのポスターについて、デザイン(ポスターのレイアウト、色合い

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グループワークの満足度にモチベーション及びリーダーシップが及ぼす影響

など)、内容(ポスターの内容の質、盛り込むべき情報)、総合(ポスターの全体的な魅力)の 3 項目に

ついて、クラス担当教員以外の教員 3 名による 5 段階評価とした。これらの評価をアンケート調査結果

と紐づけて、チーム単位で分析した。 2.3 調査項目

アンケートでは、大きく分けて 3 問に対し回答を求めた。1 問目は調査参加者各個人の、グループワ

ークにおけるリーダーシップの程度を測定するリーダーシップ尺度であった。尺度は三隅ら(1969)の、

討議グループのなかでリーダーシップの P、M 機能それぞれを測定する尺度を用いたが、PDⅡのグル

ープワークという文脈に沿うように、一部の文言を改変した。この尺度では P 機能、M 機能それぞれに

10 項目が設けられ、合計 20 項目から成っていた。項目例として、例えば P 機能、すなわち組織の目標

を達成するためのリーダーシップの程度を聞くものとしては、「活動中の問題を解決するために、自分の

意見は役にたったと思う」、「あなたは、新しい解決方法を示そうとしたと思う」、「あなたは、課題を解

決するために、他の人々の意見やアイデアを引きだそうと努力していたと思う」といったものが挙げら

れる。M 機能、すなわち組織内の人間関係を維持するためのリーダーシップの項目は、例えば「一般的

にみてあなたは、他の人達の意見を聴こうとしたと思う」、「あなたは、グループの雰囲気が発展、変化

するために協力的だったと思う」、「あなたは、どんな話題についてもやたらに主導権を取ろうとしたと

思う(逆転項目)」などがあった。これらの項目に対し、1(全く当てはまらない)から 5(非常によく

当てはまる)の 5 件法で回答を求めた。 つづく 2 問はどちらもモチベーションに関するものであった。新井(2011)をもとに、まず「評価」、

「環境」、「達成」などの 9 項目に関する満足度および総合満足度を調査した(表 1)。さらに各項目の重

要度を測定するための設問も設けた。例えば「責任」項目については、「グループのプロジェクトテーマ

にやりがいを感じている」という設問に対し、1(全く当てはまらない)から 5(非常によく当てはまる)

の 5 件法で回答を求めた。加えて「科目「プロジェクトデザインⅡ」のグループワークにおいて、次の

項目はどれくらい重要だと思いますか」という質問のもと、「グループ内で与えられた責任と権限」とい

う設問に対し、1(全く重要でない)から 5(非常に重要である)の 5 件法で回答を求めた。すなわち、

表 1 に示すような各満足度の項目について、満足度と重要度の 2 つの設問で測定したものが、モチベー

ション調査設問群である。なお総合満足度に関しては、「総合的に考えて、現在のグループ・学習環境・

プロジェクトテーマに満足している」という 1 つの設問を用いて算出した。

表 1 モチベーション調査設問群の各項目

項目 内容 「方針」満足度 チームの活動方針に共感しているか 「評価」満足度 成績評価の仕方について納得しているか 「教員」満足度 教員の指導・助言は適切か 「環境」満足度 学習環境・作業環境は良好か 「人間関係」満足度 チーム内で良好な人間関係が築けているか 「達成」満足度 チーム活動を通して達成感を感じているか 「責任」満足度 チーム内で責任を持って活動を任されているか 「成長」満足度 チーム活動を通して能力を向上させているか 「承認」満足度 チーム内で行った活動を認められているか

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グループワークの満足度にモチベーション及びリーダーシップが及ぼす影響

3.結果と考察

3.1 モチベーションの諸要素と総合満足度の関連

まず、ポートフォリオ分析を用いて、モチベーションの諸側面と全般的な満足度の関連を検討した。

ポートフォリオ分析とは、モチベーションの各設問の満足度を縦軸にとり、総合満足度に対する影響度、

すなわち相関係数を横軸に設定した散布図によって、問題点の把握、優先的改善要素を明らかにする分

析手法である。この分析にあたり、まずモチベーションの諸要素である「方針」、「評価」、「教員」、「環

境」、「人間関係」、「達成」、「責任」、「成長」、「承認」、「テーマそのもの」、そして総合満足度について、

対応する設問の回答の平均を算出した。さらに各モチベーション項目の値を標準化した変数を満足度と

し、それらの変数の値と総合満足度の相関係数を求め標準化したものを影響度とした。以上のように算

出した満足度、影響度から、図 1 のようなポートフォリオ図が得られた。

図 1 ポートフォリオ図(全体) 図 2 各象限の優先度

なお、図 2 を参考に、図 1 内の 4 象限の優先度を検討することができる。まず第 1 象限の優等領域に

ついては、影響度及び満足度が共に高い項目である。したがって、「人間関係」、「教員」は PDⅡの強み

として維持強化すべき項目といえる。また第 4 象限の要注意領域については、影響度は高いが満足度が

低い項目であるため、「テーマそのもの」、「成長」、「責任」、「達成」は優先的に改善する項目であると考

えられる。 さらに第 4 象限の要注意領域内で改善すべき優先度を検討するため、相良ら(2006)を基に改善度を

算出した結果を表 2 に示した 9)。この結果から、「テーマそのもの」、「成長」、「責任」、「達成」の中でも

「責任」を優先的に改善するべきだと判断される。すなわち、グループワークのテーマにやりがいを感

じられるような促しや、グループワークで何かしらの責任感を持てるような役割配分などが求められる

といえるだろう。

表2 要注意領域の改善度(全体)

項⽬ 影響度 満⾜度 修正指数 距離 改善度達成 0.173 -0.869 0.625 0.886 0.554責任 1.107 -0.913 0.939 1.435 1.347成⻑ 1.021 -0.679 0.874 1.226 1.072

テーマそのもの 0.562 -0.621 0.968 0.838 0.811

優等領域現状維持領域

要注意領域改善領域

満足度 高

満足度 低

影響度 高影響度 低

方針

評価

教員

環境

人間関係

達成 責任

成長承認テーマそのもの

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グループワークの満足度にモチベーション及びリーダーシップが及ぼす影響

3.2 ポスター評価上位・下位チームのポートフォリオ図および改善すべき点

次に、チームが作成した成果物の評価として、ポスター評価点の上位 5 チーム、下位 5 チームについ

てポートフォリオ分析を行った(図 3)。ポスター評価は、デザイン、内容、総合の 3 つの評価項目につ

いての各項目を 5 点満点で採点し、その合計値をポスター評価点とした。

(a)上位 5チーム (b)下位5チーム

図 3 ポートフォリオ図(上位、下位5チーム)

上位 5 チームについては、要注意領域に「責任」、「テーマそのもの」が位置づけられたため、これら

の改善を行うべきであると考えられる。さらにこの 2項目について改善度を算出した結果を表 3に示す。

この結果から上位 5 チームに関しては、「テーマそのもの」を優先的に改善するべきといえる。 他方で下位 5 チームについては、要注意領域に 7 項目が位置づけられ、それらの改善度を算出した(表

4)。この結果から下位 5 チームに関しては、要注意領域の中でも「達成」を優先的に改善するべきだと

判断される。「達成」項目の設問を振り返ると、自分の役割に最善を尽くしているかの主観と、課題の達

成感を重要視するかの 2 つであった。ここから下位チームに関しては、役割分担を明確にし、その役割

達成に全力を出させ、結果として達成感を感じられるような促しが求められるといえる。

表3 要注意領域の改善度(上位5チーム)

項⽬ 影響度 満⾜度 修正指数 距離 改善度責任 1.103 -0.388 0.715 1.169 0.836

テーマそのもの 0.772 -1.478 0.806 1.667 1.344

方針

評価

教員

環境

人間関係

達成

責任

成長

承認

テーマそのもの

方針

評価

教員

環境

人間関係

達成責任

成長

承認

テーマそのもの

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グループワークの満足度にモチベーション及びリーダーシップが及ぼす影響

表4 要注意領域の改善度(下位5チーム)

以上の結果を総合すると、チーム上位、下位、全体いずれにおいても要注意領域に配置された項目は、

「テーマそのもの」と「責任」であった。そこで以下の分析では、モチベーションの諸要素のなかでも

この 2 項目に焦点を当て分析を行うこととした。 3.3 リーダーシップが各モチベーションに及ぼす影響

リーダーシップ尺度については P、M 機能各因子の 10 項目の得点を合算平均し、P 機能の得点(M = 3.31、SD = 0.64)、M 機能の得点(M = 3.40、SD = 0.41)を算出した。なお尺度の信頼性係数は、そ

れぞれ P 機能が α = .90、M 機能が α = .52 であった。この値が高いほど、各因子の信頼性の指標である

内的整合性が高いことを示す。M 機能の α係数は高い値ではなかったが、合算平均を算出する許容範囲

内と考えられることに加え、本尺度を作成した三隅ら(1969)の因子と同一の因子を用いることが望ま

しいと考えられたため、本研究では 10 項目すべてを合算平均し、M 機能の得点とした。以下の分析で

は、これらの得点をグループごとに平均した値を用いた。モチベーションについては、前節の分析結果

よりとくに重要と解釈された、「テーマそのものへの興味」、「責任」の 2 項目を取り上げた。これらに

ついても各項目内の設問を合算平均し、グループごとの平均値を変数として用いた。 以上のように変数を作成したうえで、P 機能、M 機能を説明変数とし、モチベーションの 2 項目それ

ぞれを目的変数とした重回帰分析を行った(表 5)。その結果、まず「テーマそのものへの興味」につい

てのモデル自体の適合指標である R2は.391(F (2,38) = 12.18、p < .01)であり、「責任」の R2は.477(F (2,38) = 17.36、p < .01)で、2 項目とも有意であった。そのため、各説明変数が「テーマそのもの

への興味」に及ぼす影響を検討したところ、P 機能は有意に影響を与えていたが、M 機能は有意ではな

かった。「責任」に関しては、P 機能、M 機能いずれも有意であった。すなわち「テーマそのものへの

興味」は、グループの目標達成機能が高いほど高くなり、人間関係維持機能は関係がないという結果で

あった。他方で、グループでの人間関係維持機能、目標達成機能ともに高いほど、やりがいを感じてい

るか、グループ内での責任と権限を重要視するかといった「責任」の項目の得点が高かった。

表5 重回帰分析における標準化係数

** p < .01, * p < .05

項⽬ 影響度 満⾜度 修正指数 距離 改善度⽅針 0.870 -1.400 0.854 1.648 1.407環境 1.313 -1.002 0.915 1.651 1.511達成 2.026 -1.599 0.925 2.581 2.388責任 1.164 -1.997 0.836 2.311 1.932成⻑ 0.947 -1.997 0.782 2.210 1.728承認 0.408 -0.604 0.878 0.729 0.640

テーマそのもの 0.649 -1.499 0.760 1.634 1.242

P機能 .430 * .430 **M機能 .256 .332 *

R2 .391 ** .477 **

テーマそのものへの興味 責任

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グループワークの満足度にモチベーション及びリーダーシップが及ぼす影響

3.4 リーダーシップ、各モチベーションが総合満足度に影響するプロセス

これまでの分析により、リーダーシップが「テーマそのものへの興味」、「責任」というモチベーショ

ンに影響を与えること、そしてそれらのモチベーションが総合満足度に影響を与えることが明らかにな

った。そこで本節では、リーダーシップ、モチベーション、満足度の 3 変数の関連を明らかにするため

に、3 変数を同時に扱った媒介分析を行った 10)。分析では、リーダーシップがそれぞれのモチベーショ

ンに影響を及ぼし、さらにそのモチベーションが総合満足度に影響するというプロセスを予測した。以

下ではモチベーションの種類ごとの分析結果を報告する。 3.4.1 テーマそのものへの興味の媒介効果

「テーマそのものへの興味」というモチベーションは、P 機能から有意な影響を受けていたため、リ

ーダーシップは P 機能を取り上げた。まず、全体効果として P 機能が総合満足度に及ぼす影響を単回帰

分析により検討したところ、パスは有意であった(β = .42、t (39) = 2.92、p < .01)。また、モデル自体

も有意であった(R2 = .18、F (1,39) = 8.53、p < .01)。次に間接効果を検討するため Sobel’s test を行

った。Sobel’s test ではパスの積の標準誤差を推定し、その値から間接効果の有意性を検定する。本分析

では P 機能からテーマそのものへの興味のパスと、テーマそのものへの興味から総合満足度へのパスと

いう2つのパスを用いてこの検定を行った。その結果、P 機能から総合満足度の間において、テーマそ

のものへの興味の媒介作用は Z = 2.28、p = .02 であり、有意な間接効果が認められた。また、全体効果

から間接効果を除いたところ、P 機能から総合満足度へのパスは有意ではなくなった(β = .16、ns、図

4)。つまり、P 機能の総合満足度に対する効果は、テーマそのものへの興味によって完全媒介されてい

たといえる。この結果から、リーダーシップの P 機能のグループ平均値が高いことはテーマそのものへ

の興味を高め、結果としてグループワーク全体に対する満足度を高めることが示された。

図4 テーマそのものへの興味の媒介モデル

3.4.2 責任の媒介効果

次に、「責任」というモチベーションは P、M 機能双方から有意な影響を受けていたため、両機能を

取り上げ、前項と同様の分析を行った。すると P 機能から総合満足度の間において、責任の媒介作用は

Z = 3.32、 p = .001 であり、間接効果は有意であった。加えて全体効果から間接効果を除いたところ、

P 機能から総合満足度へのパスは有意ではなくなった(β = -.01、ns、図 5(a))。同様に M 機能において

も総合満足度への直接のパスが有意であり(β = .44、t (39) = 3.09、p < .01)、モデル自体も有意であっ

た(R2 = .20、F (1,39) = 9.53、p < .01)。また、間接効果も有意であった(Z = 3.15、p = .002、図 5(b))。

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グループワークの満足度にモチベーション及びリーダーシップが及ぼす影響

以上の結果から、P、M 機能のグループ平均値が高いことはどちらも「責任」というモチベーションを

高め、結果として総合満足度を高めることが示された。

(a) P 機能 (b) M 機能

図 5 P機能、M機能それぞれの責任の媒介モデル

4.結 語

本研究では PDⅡにおけるグループワークについて、取り組みに対するモチベーションおよびグルー

プのメンバーのリーダーシップが総合的な満足度を高めるのかを検討した。その結果、以下の三点が明

らかになった。第一にモチベーションの諸要素に関し、まず PDⅡの強みとして「人間関係」、「教員」

の項目は維持強化していくことが望ましいということである。グループ内の人間関係が良好であるかど

うか、担当教員の指導や課題の評価が満足のいくものかどうかという項目は比較的高い評価であり、か

つ総合満足度への影響も高かった。そこでこれらの要素に関しては、現状を維持しさらに改善できるよ

う、どのような要因が「人間関係」、「教員」の評価を左右するのかの更なる検討が求められる。他方で

要注意項目としては「テーマそのもの」、「責任」が挙げられたため、チームラーニングにおいてやりが

いや責任を感じているか、テーマそのものに興味があるかは特に重要視すべき項目であることが示され

た。これらの項目に関しても、維持強化項目と同様、どんな要因がやりがいや責任感、テーマへの興味

をもたらすのかの詳細な検討が求められる。テーマへの興味に関しては、PDⅡの授業冒頭で行うテーマ

決定が大きな影響をもたらしているだろう。それではテーマ決定において、教員から大まかなテーマを

提示するのがよいのだろうか。もしくはチームごとに自由に考えさせ、その際のチームでの話し合いに

働きかけをすることが望ましいのか。このような吟味をしていくことで、グループワークに対する総合

満足度も高まるのではないかと考えられる。 第二に、ポスター発表というチームの成果とモチベーションの諸要素、総合満足度との関連を検討し

たところ、チームの成果が優れていると評価された上位チーム、その評価が相対的に低かった下位チー

ムとで、総合満足度に影響するモチベーションの要素に違いがみられた。上位チームにおいては「テー

マそのもの」のモチベーションを高めることが、総合満足度を高めるのにより有効と考えられる結果で

あった。他方で下位チームに関しては、「達成」が有効であることが示唆された。下位チームでは「達成」

に加え、複数の項目が要注意領域に配置されていたため、改善すべき項目が多いことはポスター発表と

いう成果にも現れているといえるだろう。そのなかでも改善度が高かった項目が「達成」であった。そ

のため下位チームに関しては、チームでの役割を明確にするなど、達成感を感じられるような働きかけ

が有効であるということが示唆される。 そして第三に、目標を達成するためのリーダーシップの高さは、グループワークのテーマそのものへ

の興味、やりがいや責任感を高め、結果としてグループワークへの総合的な満足度を高めることが明ら

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グループワークの満足度にモチベーション及びリーダーシップが及ぼす影響

かになった。他方で、人間関係を維持するためのリーダーシップの高さは、やりがい、責任感を高め、

その結果総合的な満足度を高めることが示された。ただし、本研究で間接効果の検討に用いた Sobel’s test は大標本であるほど適正な検定結果を期待できる方法である。本研究のサンプル数では適正な検定

結果を十分期待できるという保証はないため、有意な間接効果が得られているとはいえ、解釈には慎重

になる必要がある。そのため今後は、サンプル数を増やしての検討も望まれるだろう。この前提を踏ま

えた本研究の結果からは、最終的に総合満足度を高めうる要因としてチーム内でのリーダーシップがあ

るといえる。グループワークにおけるゴールを見定めて、そのために自分が行動したり、他のメンバー

へ働きかけたりするメンバーがチームに多いほど、やりがいや責任感も高まり、満足度も高まるのだろ

う。なおテーマそのものへの興味というモチベーションに関しては、リーダーシップの目標達成機能の

みが影響をもたらしていた。目標達成機能が高いことは、チームでの話題が他に逸れたり、メンバーの

総意が得られないまま話が進んだりといったことに対する配慮ができるメンバーが多いことを示す。こ

のことは、グループワークにおける短期、長期の問題点や目標を明確にできるグループであることにつ

ながりうる。その結果として、テーマそのものも比較的明確に定められ、かつメンバー全員の興味を漏

らさず引くことができるため、チーム全体としてテーマへの興味も高く、その結果、総合満足度の高さ

にもつながったという解釈もできるだろう。さらに本研究の結果から、上記のような過程には、チーム

の雰囲気が悪くならないための配慮などといった、人間関係維持機能は関与していないともいえる。 以上のように本研究では、PDⅡのグループワークにおいて、チーム内でのリーダーシップがテーマそ

のものへの興味や責任感といったモチベーションを高め、その結果総合的な満足度を高めるということ

を示した。総合満足度を高めうるリーダーシップやモチベーション自体は、どのように高めることがで

きるのかという点については、今後の検討が待たれる。しかし本研究は、グループワークの満足度を高

める要因を明らかにした。これらの知見は、プロジェクトデザイン教育をより実りあるものにするため

の重要な示唆を与えてくれるといえるだろう。

参考文献

1) 新聖子、宮崎慶輔、千徳英一、初年次におけるプロジェクトデザイン科目、KIT progress、20、79-88、(2013)

2) 無藤隆、遠藤由美、玉瀬耕治、森敏昭、心理学、有斐閣、東京都、(2004) 3) Herzberg, F., Mausner, B. and Snyderman, B. B., The motivation to work, John Wiley, New

York, (1959) 4) 新井みち子、ES 調査とそれに基づく組織改革、日本労働研究雑誌、617、65–73、(2011) 5) 三隅二不二、新しいリーダーシップ 集団指導の行動科学、ダイヤモンド社、東京都、(1966) 6) 相川充、高本真寛、杉森伸吉、古屋真、個人のチームワーク能力を測定する尺度の開発と妥当性の

検討、 社会心理学研究、27(3)、139–150、(2012) 7) 山口裕幸、チームワークの心理学―よりよい集団作りをめざして―、サイエンス社、東京都、(2008) 8) 三隅二不二、関文恭、篠原弘章、討議集団におけるPM機能評定尺度作成の試み、九州大学教育学

部紀要 教育心理学部門、13(2)、53–71、(1969) 9) 相良英憲、北村佳久、古野勝志、柴田和彦、五味田裕、Customer Satisfaction (CS) 分析を応用し

た実務実習モデル・コアカリキュラム実施における改善項目の抽出、医療薬学、32(4)、295–305、(2006)

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グループワークの満足度にモチベーション及びリーダーシップが及ぼす影響

[原稿受付日 平成 29 年 12 月 1 日、採択決定日 平成 29 年 12 月 19 日]

顔写真掲載 加藤 樹里

助教

基礎教育部

基礎実技教育課程

顔写真掲載 笠森 正人

教授

基礎教育部

基礎実技教育課程

顔写真掲載 上江洲 弘明

講師

基礎教育部

数理基礎教育課程

顔写真掲載 林 晃生

講師

基礎教育部

基礎実技教育課程

佐藤 弘美

講師

基礎教育部

基礎実技教育課程

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