フラーレンを炭素源とする炭化物の生成...Keywords:fullerene,PVD,MoC,TaC,WC,carbide...

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日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要 No.38(2003)PP.289-295 フラーレンを炭素源とする炭化物の生成 中村 勝光・佐々木 朝照 Preparation of Carbides Using Fullerene as a Ca Katsumitsu NAKAMURAandTomoakiSA (Received September30,2002) Since fullerene is regarded as a promising carbon source for phys fullerene gas in the vacuum is made to reactwith he&ted meta1(Mo,T from700℃to1600℃.Some carbides are formed at1000℃on the surface o 魚11erene.It makes a difference in composition of the carbide by th Mo2C,Ta2C,TaC,鴨C and WC,and the ratios of Me2C and MeC depend on It is clear that cage structure offullerene is destroyed to carbon at the Keywords:fullerene,PVD,MoC,TaC,WC,carbide 1.概 1985年にKrotoら1)によって発見されたフラーレン は1990年のKratschmerのヘリウムガス中での炭素 の通電加熱による蒸発2),Smallyらの炭素アーク放電 による蒸発法3)により大量合成が可能となると同時 にフラーレンがトルエンやヘキサンなどの有機溶媒に 可溶であること4〉と液層クロマトグラフによる各種フ ラーレンの分離法5~7〉が明らかになり,フラーレン に関する研究は加速的に行われるようになった。 フラーレンの応用に関する研究は現在有機合成分野 において様々なフラーレンを含む化合物が合成され医 薬品,電子材料等への応用が検討されている。しかし 現在この分野の研究はフラーレンの仲間であるカーボ ンナノチューブの研究にその主体が移っているように 見られる。このようにフラーレンの研究は当初の期待 に反して思ったほどの結果は得られていないように見 える。しかしフラーレンには多くの興味ある性質があ りその応用はこれから開発される可能性を多く含んで いる。 我々はフラーレンが昇華性であることに注目しフ ラーレンの気相分離法に関する研究を行ってきた8)。 この分離に関しては液相法に比べ効率の点でかなり 劣った結果となってしまったが,フラーレンは炭素の みから構成され蒸気圧が高いことから,高純度化し易 いので炭素系材料を作製するPVD法やCVD法にお いて,新しい炭素源として使用できないかと考えた。 一般的な炭素膜の作成は蒸着法の場合,炭素のアーク 放電を用いることが多く電子銃による蒸発はあまり用 いられない。化学的には炭化水素の熱分解法が容易な 方法として用いられている。フラーレンをこれらの代 わりの原料として考えたとき,フラーレンは蒸気圧が 適当であり非常に有効な炭素源になりうると考えられ る。しかしフラーレンはサッカーボール状のかご形構 日本大学文理学部化学科: 〒156-8550 世田谷区桜上水3-25-4 Department ofChemistry,College om:umanit Nihon Un董versity:3-25-40, Sakurajosui Tokyo156-8550Japan 289 (7)

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  • 日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要

    No.38(2003)PP.289-295

    フラーレンを炭素源とする炭化物の生成

    中村 勝光・佐々木 朝照

    Preparation of Carbides Using Fullerene as a Carbon Source

    Katsumitsu NAKAMURAandTomoakiSASAKI      (Received September30,2002)

      Since fullerene is regarded as a promising carbon source for physical vapor deposition,evaporated

    fullerene gas in the vacuum is made to reactwith he&ted meta1(Mo,Ta,W)in the temperature r&nge

    from700℃to1600℃.Some carbides are formed at1000℃on the surface of metal by the reaction with

    魚11erene.It makes a difference in composition of the carbide by the meta1.Prepared carbides are

    Mo2C,Ta2C,TaC,鴨C and WC,and the ratios of Me2C and MeC depend on the reaction temperature。

    It is clear that cage structure offullerene is destroyed to carbon at the surface ofheated meta1.

    Keywords:fullerene,PVD,MoC,TaC,WC,carbide

    1.概 要

     1985年にKrotoら1)によって発見されたフラーレン

    は1990年のKratschmerのヘリウムガス中での炭素

    の通電加熱による蒸発2),Smallyらの炭素アーク放電

    による蒸発法3)により大量合成が可能となると同時

    にフラーレンがトルエンやヘキサンなどの有機溶媒に

    可溶であること4〉と液層クロマトグラフによる各種フ

    ラーレンの分離法5~7〉が明らかになり,フラーレン

    に関する研究は加速的に行われるようになった。

     フラーレンの応用に関する研究は現在有機合成分野

    において様々なフラーレンを含む化合物が合成され医

    薬品,電子材料等への応用が検討されている。しかし

    現在この分野の研究はフラーレンの仲間であるカーボ

    ンナノチューブの研究にその主体が移っているように

    見られる。このようにフラーレンの研究は当初の期待

    に反して思ったほどの結果は得られていないように見

    える。しかしフラーレンには多くの興味ある性質があ

    りその応用はこれから開発される可能性を多く含んで

    いる。

     我々はフラーレンが昇華性であることに注目しフ

    ラーレンの気相分離法に関する研究を行ってきた8)。

    この分離に関しては液相法に比べ効率の点でかなり

    劣った結果となってしまったが,フラーレンは炭素の

    みから構成され蒸気圧が高いことから,高純度化し易

    いので炭素系材料を作製するPVD法やCVD法にお

    いて,新しい炭素源として使用できないかと考えた。

    一般的な炭素膜の作成は蒸着法の場合,炭素のアーク

    放電を用いることが多く電子銃による蒸発はあまり用

    いられない。化学的には炭化水素の熱分解法が容易な

    方法として用いられている。フラーレンをこれらの代

    わりの原料として考えたとき,フラーレンは蒸気圧が

    適当であり非常に有効な炭素源になりうると考えられ

    る。しかしフラーレンはサッカーボール状のかご形構

    日本大学文理学部化学科:

    〒156-8550 世田谷区桜上水3-25-4

                、

    Department ofChemistry,College om:umanities and Sciences,

    Nihon Un董versity:3-25-40, Sakurajosui, Setagaya-ku

    Tokyo156-8550Japan

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  • 中村 勝光・佐々木 朝照

    造を持っており,その構造から考えられるようにかな

    り安定であり,この安定なフラーレンがどのような反

    応性があり他の金属等とどのように反応するかは大変

    興味が持たれる。

     フラーレンを炭素源とした炭化物の生成については

    Geierらは,10-7Torrの高真空中で,750~850℃のシ

    リコン(001)面基板上にフラーレンを昇華反応させ

         ロ1000~3500Aの炭化ケイ素を生成した9)。Moroらは,

    10-8Torrの高真空中で,750~850℃のシリコン

                       ロ(100)面基板上にフラーレンを1000~3000A蒸着後,

                    ロ800~900℃でアニーリングし,1000Aの炭化ケイ素

    層を生成した王o)。Zongらは蒸着したフラーレン膜に,

    400eVの窒素イオンビームで5分間衝撃し,無定型の

    窒化炭素膜を生成した。Norinらはフラーレンー五塩

    化モリブデンー水素の原料系を用いてhot-wall CVD

    法によって600℃でMo2C,800℃でMoCを生成した11)。

     本研究では,フラーレンを炭素源に用いたPVD法

    により,数種の金属板表面に各種の炭化物の生成を試

    みフラーレンの新しい炭素原料としての可能性を検討

    した。

    2.実 験

    脚麟面W

    1『-一/一ン餐 醗》“              『肇

                  き              題{v隷く1賦美雛

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    喜恭旨麗t

    食欝窃慰博

    よ⊥

    Fi替1 Schematic diagram of reaction chamber

     使用した装置の概略をFig.1に示す。ステンレス製

    チャンバーの大きさは40cmφ×65cmで側面が開閉

    でき,底面にヒーター電力端子が付属している。排気

    系は,12インチ油拡散ポンプと排気速度500L/min

    の油回転ポンプ系で行い,到達真空度は2×10『7Torr

    であった。フラーレンはMER社製C60,C70混合フ

    ラーレンを用いてクヌッセンセル型ボート(5×6×

    10mm3,タンタル製)を用い電流を調整しボートヘの

    直接通電加熱によって蒸発させた。フラーレンの蒸気

    圧についてはSchonherrら12〉が640~1050Kの温度

    範囲で,C60の温度と蒸気圧についての次の関係式を

    導いた。

     LogP=・(一8976±60)×T一1十11.05±0.07

    ここで,圧力Pの単位はPa,温度丁の単位はKであ

    る。367℃の蒸気圧は1.06×10騨3Pa,そして777℃の

    蒸気圧は317Paが得られる。フラーレンはクヌッセ

    ンセル型ボートに50~100mg入れ600℃一定で昇華

    し,この温度での蒸気圧は5.86Pa(4.41×10-2Torr)

    である。

     フラーレンとの反応性を調べたモリブデン,タンタ

    (8) 290

    1←10 80mm

    Fig.2 Metal sheet shape for temperature gradient

    10→1

    ル,タングステンは0.05×16×100mm3のシート状

    のものをFig.2に示す形状に加工し,通電加熱によっ

    て温度勾配を作り,一回の実験で数点の温度について

    のデーターが得られるようにした。基板温度はCA熱

    電対を一つのシートに3箇所溶着し,測定した温度の

    勾配から,分析に用いた試料の切り離した場所の温度

    を求めた。反応温度は基体によって違いがあるが

    700℃から1600℃の範囲であった。反応時間は30分

    で行った。

     反応生成物の分析には結晶構造をXRD(Rigaku,

    RINT2000),組成分析はEPMA(Shimazu,EPMA-

    8705)を用いた。XRDの測定条件はCUk、加速電圧

    40KV,電流30μA,EPMAの測定条件は加速電圧

    10KV,試料電流0.1A,Mo,Ta,Wの分析に用いた分             の                    ロ                   の

    光結晶はADP(波長Mo:5.40A,Ta:725A,W:1.48A)

                  の炭素の分析にはPbSD(波長44.2A)を用いた。

  • フラーレンを炭素源とする炭化物の生成

    2G O O G

    15000

    0    10000

    5000

    97(}。C 臨

    α喩c

    ll

    囎ヂ

    (xMo2C   αMc喰C αMo2C(鮭o)    ㈹) (ll2》(20b

    α惚(〕

    20,000 40.O O G 60.O D O 80.O GO

    2θ [。〕

    Fig。3 XRD pattem ofMoイu11erene react1on products

    MoC-XRD

    3.結果と考察

     フラーレンとモリブデンを970℃で反応させた試料

    について反応生成物のXRDパターンをFig.3に示す。

    この結果からモリブデン板上では,Mo2Cのみが生成

    しMoCの生成は見られない。反応温度670℃から

    1120℃の範囲でのXRDのピーク強度と反応温度の関

    係をFig.4に示す。基板のモリブデンがgoo℃で急激

    に減少しそれに伴ってMo2Cが増加し1050℃以上で

    はその変化は緩やかになっている。EPMAによって

    モリブデン板上の炭素量を測定し,得られたCk、の強

    度の温度依存性をFig.5に示す。モリブデンの場合は

    670℃では炭素はほとんど検出されなかったが720℃

    では急激に増加し780℃で極大を示し,それ以上では

    温度の増加に伴って僅かに減少している。モリブデン

    金属上でフラーレンは700℃付近から分解が始まり,

    モリブデンに対して炭素の供給が始まるがこの温度で

    は炭化物の生成は少ない。900℃になるとXRDの結

    果に見られるようにモリブデンは急激に減少しそれに

    伴ってMo2Cが増加している。このことはモリブデン

    に対して炭素の拡散がかなり早いため表面から侵入す

    る炭素は均一に内部に入り込みMo2Cのみを生成し,

    炭素量の多いMoCは生成しない。

     Fig.6にタンタルとフラーレンの1350℃で反応した

    試料についての代表的XRDパターンを示す。この結

    果からタンタル基板上で,TaCとTa2Cが生成してい

    ることが判る。反応温度1050℃から1600℃の範囲で

    行った結果を,XRDのピーク強度と反応温度の関係

    でまとめてFig.7に示す。タンタルからの回折強度は

    106

    K爵

    幹岩

    慶 1げ警艮

    銭 1〔):x)Ω

    lI昌:藍

    蓬o

         ダ    ー!o   倉 臨一くシ’Q一

    十1蕨リ’1⊂痩 ll

    -6一團〇一’霊oη

       ノ●  .ノ6一.、!げ,

    一,〈)

    朕ゆ     ア00     S馨二心     9ニン     1く二二

          擁r叩磁r鰍冊畑二・

    1親.1    瓢二嫡)

    Fi替4 XRD peak in tensity of Mo and Mo2C as a function of

      reaction temperature

    Mo-EPMA

    一291

    幽国

    雲磁

    一;

    ξ

    零ゆ》

     D

    (〕

    獅     五ll    9量/ンニ〕    .二』    ギ:    1/00    に二

    Fig.5 Carbon amomt in Mo substrate as a fqnction of

      reactiontemperature

    (9〉

  • 中村 勝光・佐々木 朝照

    4000

    3000

    G    2000

    L O O O

    o

    1〔)80。C

        旙    1

     %C悟1

    蹴JJ

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    肖、漉cノ

    (200}

    翫、

    騰コ驚9

    20、000 40 000 60,000 80.O O O

    2θ 「Q]

    Fig.6 XRD pattem ofTa-fullerene reaction products

    τa-1…PMA

    HOO℃を超したところから1300℃にかけて急激に減

    少し1500℃以上では一定している。このタンタルの

    減少に反比例してTaCが増加し1250℃では極大にな

    り,1300℃から1500℃では減少したあと,1500℃以

    上では一定になっている。Ta2Cの生成は温度の低い

    ところで見られるが1300℃までは減少しタンタルの

    回折強度が減少する1400℃以上で増加している。別

    に行った実験試料についてEPMAによってタンタル

    板上の炭素量を測定し,得られたCk、、の強度の温度依

    存性をFig.8に示す。基板上の炭素量は1300℃以上

    では飽和しているようにも見えるが,750℃から

    1300℃の間では温度とともに増加している。

    このEPMAの結果とXRDによって得られた結果の比

    較から,フラーレンはタンタル上では700℃付近から

    分解が起こり表面で炭素の供給が起こる。この炭素は

    タンタルと反応し,まず表面で炭素の少ないTa2Cを

    生成する。炭素の供給は温度と共に増加するのでタン

    タルと結合する炭素も増加し次にTaCを生成する。

    このTaCの生成は1300℃までは増加するがそれ以上

    では炭素のタンタル中への拡散速度が増加し,タンタ

    ルに対する炭素量が相対的に減少するためTa2Cの生

    成が増加すると考えられる。

     Fig.9にタングステンとフラーレンの1350℃での反

    応生成物のXRDパターンを示す。この結果からタン

    グステン基板上では,WCと鴨Cが生成しているこ

    とが判る。980℃から1650℃の範囲でのXRDの結果

    として,XRDのピーク強度と反応温度の関係をFig。10に示す。タングステンは1100℃から1350℃に

    (10)

    ∈ひ簿

    ひ聖  5α節山)

    蟄  ゆ..

    磁.獲

    aQ賄ジヘぐ

    、㈱

    1二ぜ一1

    o匹

    ト’ 嵐

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    o^曾、

    嵐、

    十丁概調葦1

    隔㊦一丁▼ P

    一謄・嚇丁詑ゼ日Oo〕

    鱒’』ぴ 

    ・一一み’

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    1㍗曽二雛    ゼニ     τ一.曹1    蓬藪』

        TεmF瞭r肌urざqe

    1二二

    Fig.7 XRD peak intensity ofTa,Ta2C and TaC as a fmction

      of reaction temperature

    25

    工a-EP麟A

    6

    疑婁

    舅 15

    6躍

    ζき

    な≦1

    隷し掴  電

    0、5

    292

    ㈹     $co 1(x力     鞭α)     肇4むo     槌一りOl    鰺cつ

     丁磯mP彰田tu巨ゴウc

    Fi替8 Carbon amount㎞Ta substrate as a fhnction of reaction

      tempera頓re

  • フラーレンを炭素源とする炭化物の生成

    12000

    !0000

    8000

    匂リ

    Q     6000

      4G O O

    2000

    0

    W(1『   1

    WC響 1 1

    (100)

    σob勲

    W B50.C

    (200}

    隅 1 /一一

    一i「

    iiW2(1

    } 曽qOb

    w(電ヒ

    {lx}bξ』『 W2C 『

    ユ需l     W2C i   (1鋤

    J一_玉

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     ハノし

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    ソ 穐1

    W~C(麟o)

    WC(圭IG〉

    爆W毒C“の31

     嚢

    WC(21b    WCl   (》αb

    /L期計

    W(1(【02}

    40.000 60.o o o 80.00G

    20 10」

    Fig.9XRD pattem ofW-fullerene reaction products

    W一εPMA

    かけて急激に減少しそれ以上の温度での減少は緩やか

    になっている。WCは980℃で回折ピークが現れ1350℃まで増加し1400℃では急激に減少している。

    鵬CはWCに比べてかなり遅れてX線回折強度が増

    加し,WCの減少する1350℃で増加している。この

    同じ試料をEPMAによって分析し,Ck、、の強度を炭

    素量としてその温度依存性をFig.11に示す。980℃

    から1030℃で炭素量は増加しているが,それ以上の

    温度ではほとんど一定で高温で僅かに減少している。

    このことからタングステン上でフラーレンは950℃付

    近から分解しタングステン表面で炭素になり,この炭

    素がタングステンと反応しWCを生成する。タング

    ステンの場合炭素の拡散速度が比較的小さいため表面

    の炭素濃度が大きくWCを生成するが内部に入って

    いった炭素はタングステンとの間で鵬Cを生成する。

     フラーレンと金属の反応では基板温度が室温から

    300℃の範囲では金属基板にフラーレンが物理吸着し

    膜状に堆積する。基板温度400~700℃では基板にフ

    ラーレンは堆積しないことからこの温度では金属表面

    に吸着したフラーレンが再蒸発してしまう。基板の種

    類によるが,1000℃以上ではフラーレンは基板の金

    属と反応して炭化物を生成する。

    105

    1()5

    顔  i二押

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    9(x)   il:   抽:β:1  1200   将oo   14α)

          琵mFleraturざ。C

    1500   鞍心り   17(x二)

    Fig.10XRD peakintensityofW,W2C andWC as afunction

       of reaction temperature

    WCモP麟A

    山国

    ぶ1

    旨要1

    ぶヒ

    亀二}、1

    OF畠

    9世二ニン  蓬QO:二}  11戟二〕  蓬こC二1  113C心  蓬4Φ二〕

          琵mpeギ枷陪!℃

    朽(〉こ}  1就.二  1ア(XII

    Fig.11CarbonamountinWsubstrateasafUncdonofreac丘on

       tempera撫re

    293 (11)

  • 中村 勝光・佐々木 朝照

    4. まとめ

     フラーレンは容易に昇華し固体から気体になるが,

    これはサッカーボール状のフラーレン同士の結合が分

    子問力によるものでありその結合が弱いためこの結合

    を切って気相に飛び出すためには結合を切るエネル

    ギーと飛び出すエネルギーが必要であるが,これらの

    エネルギーは一般的な物質の蒸発に必要なエネルギー

    に比べかなり小さいと考えられる。このフラーレンが

    基板表面に到達したとき,基板温度が300℃以下では

    基板に到達したフラーレンの多くが基板面に堆積し薄

    膜を形成する。しかし300℃~700℃の範囲では表面

    に何も堆積せず基板表面に到達したフラーレンは基板

    表面で再びエネルギーをもらい再蒸発すると考えられ

    る。このとき考えなくてはならないことは,フラーレ

    ン粉末表面から蒸発するときのエネルギーと表面と吸

    着などによる相互作用しているフラーレンの蒸発のた

    めのエネルギーにどの程度の差があるかということで

    ある。

     700℃以上では金属の種類によってこの温度に多少

    の差はあるが,基板面に到達したフラーレンは基板表

    面からエネルギーをもらいケージ構造が壊れ,炭素の

    ダングリングが生じこれが基板と反応し炭化物を生成

    する。このときの機構については,明確なことは定か

    でないが,基板表面の金属原子とフラーレンの炭素原

    子とが両原子の熱的な振動の範囲で何らかのチャンス

    で結合を作り,これをきっかけにケージ構造の崩壊が

    起こりそれと同時に炭素は基板金属中へ溶解するよう

    に反応し炭化物を生成する。炭化物は基板表面からの

    炭素の拡散によって生成するが,この拡散速度と表面

    へのフラーレンの供給とのかねあいで生成する炭化物

    の組成が決まる。

     本研究に用いたTa,Mo,Wは炭化物の組成として

    はTa2C,TaC,Mo2C,MoC,WIC,WCの組成とそれぞ

    れ幾つかの結晶系を持っており,それぞれの金属に表

    面からフラーレンから供給された炭素が侵入する形で

    炭化物が生成するが,まずできる炭化物は不定比組成

    であるが結晶系を示すものとしてはTa2C,Mo2C,WIC

    が生成すると考えられる。この炭化物の炭素は十分に

    加熱されている状態では金属内部へ次々と拡散して内

    部までMe2C型の炭化物を生成してゆく。この炭素の

    拡散速度以上の速度で表面から炭素の供給がなされれ

    ば界面近傍では炭素量が多い相であるMeC型の炭化

    物が生成すると考えることができる。

     3種の金属の比較では金属板上の炭素量から

    EPMAの分析によって得られたCk、、強度についてそ

    れぞれの金属における極大値を比べるとMo:45,

    Ta:2.3,W:0.6とかなり大きい差がある。この差は

    これらの金属の密度を比べるとMo:10.3g/cm3,Ta:

    16.6g/cm3,W:餓24g/cm3とやはり大きな差がある。

    この密度の差はフラーレンが分解してできた炭素の金

    属への拡散に大きく影響し,モリブデンはタンタル,

    タングステンに比べて密度が小さいため炭素の拡散が

    容易であり,密度が大きいタングステンでは炭化物の

    生成は少ない。タンタルの密度はモリブデンとタング

    ステンの間であり,炭素との反応性もこの間に在るこ

    とが明らかになった。

     以上の結果からフラーレンは700℃以上では金属表

    面で反応しそのケージ構造が壊れることによって金属

    炭化物の生成が起こることが明らかになり,フラーレ

    ンが新しい炭素原料として利用できる可能性があるこ

    とがわかった。

    謝辞

     本研究は日本大学文理学部個人研究費の助成を受けて行

    われました。また実験を担当した学部卒研生松村真吾君に感謝します。

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  • フラーレンを炭素源とする炭化物の生成

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