ミツバチの配偶行動DOI: 10.1584/jpest山.WII-24 ミツバチの配偶行動 士口...

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ミツバチの配偶行動 誌名 誌名 Journal of pesticide science ISSN ISSN 1348589X 著者 著者 吉田, 忠晴 巻/号 巻/号 36巻4号 掲載ページ 掲載ページ p. 497-502 発行年月 発行年月 2011年11月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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Page 1: ミツバチの配偶行動DOI: 10.1584/jpest山.WII-24 ミツバチの配偶行動 士口 玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センター 田忠晴* (2011 1, ド7n

ミツバチの配偶行動

誌名誌名 Journal of pesticide science

ISSNISSN 1348589X

著者著者 吉田, 忠晴

巻/号巻/号 36巻4号

掲載ページ掲載ページ p. 497-502

発行年月発行年月 2011年11月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: ミツバチの配偶行動DOI: 10.1584/jpest山.WII-24 ミツバチの配偶行動 士口 玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センター 田忠晴* (2011 1, ド7n

1111111111111111111111111111111111111111111

解説1111111111111111111111111111111111111111111

uオ、成主主学会誌 36(4).497-502 (2011) DOI: 10.1584/jpest山 .WII-24

ミツバチの配偶行動

士口

玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センター

田忠晴*

(2011 1,ド7n 14 EJ:立政1)

Keywords: European honeybee, Japanes巴honeybee,mating日ight,drone congregation area, mating sign

ミツバチ属は,真剣:会性ハチ知として昆虫類の 1:1:1でも最

も尚度な社会'111:を進化させ,その社会構造については一般

によく知られている 生物の示すさまざまな行動の ~I:Jで配

偶行動は社会進化に強く関わっているが, ミツバチの配偶

行動に関しては未知の点が多く技されている.

務から初夏の繁殖!Ylになると,倒Jき蜂巣房より少し大き

い~ff'蜂巣房に久ー王蜂が米受精卵を産みつけ, 1iit蜂の生産が

|j仙台される. そのH寺Jgjと前後して巣板の下部に{lli!Jき虫干や雄

蜂の巣房とは形のまったく異なる女王蜂を育てるための王

台が造られ,受精卵がJ2.f.Jllされる.王台中でm可イlニした幼虫

は多量のローヤルゼリーをJ:A取し,次代を担う新女王が養

成される.七台内の新女王は政下されてから 16日で山房す

るが, tU房ーする 2-3EI前になると,約半数の働き蜂とMf虫干

は,国女王とともに新しい営巣場所を求めてコロニーを飛

び去る分蜂が起こる.母女王がコロニーを:4ffれてから数日

間は,一時的な無ミE状態になる.その後王台から羽化した

新女王は巣板上をせわしく歩き回るが,雄蜂と巣箱内で交

尾する行動はまったく見られない.

女王蛇と1iíf~蜂の交}'r,飛行 11寺刻,特別な交尾空間である胤

虫干の集合場Ffr.Mf蜂の交尾行動,交尾標識の役割と女王蜂

の多|日l交尾などについての配偶行動に|刻する研究は, ヨー

ロッ パ, アフリカを原産とするセイヨウミツバチバpislI1el-

!ijera L.について進められてきた.アジア地域はミツバチ!高

の原産地であり,東南アジアにはセイヨウミツバチを除く

8殺のミツバチが分布している. これらの地域では複数取

のミツバチが同所的にとi三思しており,それらの聞では生殖

隔航機備が発達している.スリランカ,マレーシア,タイ

では 1EIの中で異なる時間帯に交尾飛行が行われるH寺間的

• $ 36 回大会特7J IJ ffi\~ i11iIこ185づく解説

*干 194-8610 東京者日IIIJiEITliTJI/学!五M6ーlーlE-mail: [email protected]

Pesticide Science Society of Japan

生殖隔離や,マレーシアでは高木の樹冠部での高度を変え

た胤飾の集合場所の泣いについて報告されているが,在来

稲と導入磁問での配偶行動に閲する研究は,これまで行わ

れていなかった.

日本にはアジア地域に広く分布域をもっトウヨウミツバ

チApiscerana Fabriciusの北l恨の-JJE怒であるニホンミツノ〈

チ Apiscerana japonicαRadoszkowskiと. 1877 1:1二 ( 1リ日台 10

"1".)に産業養蜂種として導入されたセイヨウミツバチの 2

析が生息しているが,在来種と導入種のミツバチが同所的

に生息している地域での配偶行動について解明を行った.

交尾飛行時刻

ミツバチの雄蜂カ斗二後の特定の II~'間帯 lこ集中して飛行す

ることが報告された 1) ~W飾は羽化後 10-16 日になると,

天候の必い日を除いて,初i:FI同じH寺刻に大宅に飛び立って

hく.アメリカ・ルイジアナでのセイヨウミツノ〈チ雄蜂の

飛行時刻は 13:56-16:26であり,ベネズエラではヨーロッ

パを原践とするセイヨウ積はアフリカ蜂化ミツバチより飛

行i時刻が早いことが報告されている オーストリアではセ

イヨウミツバチのカーニオラン種とイタリアン種では雌蜂

の交尾飛行は同H寺刻であるが,飛行の高度に追いがあるこ

とが認められた2) 1:1本でのセイヨウミツバチ雄蜂の飛行11寺

刻は,交尾最盛期のf,JIiJ交で 11:30-15:00,飛行のピークは

13:00-13:30 であった.一方,ニホンミツバチ雌蜂の飛行II~~,

刻は 13:15-16:30, ピークは 15:00-15・30であり,ニホンミ

ツバチ雄蜂の交尾飛行はセイヨウミツバチ雌蜂より約 2時

間返いことが示された3)

セイヨウミツバチ女王蜂の飛行時刻については多くの研

究者により詳しく調査され,これらの報告から飛行時刻は

12:00-17・00であり,交尾頻度が高い時刻は 14:00-16:00と

多くの結果はほぼ一致している. 日本でのセイヨウミツバ

チ女王蜂の交尾飛行時刻は 12:/5-15:00. 交尾を確認でき

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498 T~nJ:l:d:リ1M

た女王蜂の飛行|時刻は 13:00~14:40 であった.ニホンミツ

バチ女王蜂の飛行11寺刻は 13 ・ 15~17:00,交尾を確認できた

女王蜂の飛行H寺刻は 14 :45~16:35 で,ニホンミツバチ女王

蜂の交尾飛行11寺亥Ijは雄蜂と同様にセイヨウミツバチ久今主蜂

より 1~1. 5 時間遅いことが認められた3)

交尾飛行時刻の相違については,スリランカやボルネオ

に同所的に生息する 3種ミツバチの雄蜂4.5】,タイに同所的

に生息する 4種ミツバチの雌蜂の交尾飛行H寺刻を調べ6),l

円の巾で飛行時刻に差があることにより生殖隔)~f~が行われ

ている. これら飛行時刻の相違は,長い間の共存の 1:1:1で,

交尾11寺刻を変えて時間的桜み分けをすることで,種間交約一

が未然に防がれていると推祭されているの.

卜ウヨウミツバチとセイヨウミツバチの交尾飛行に関し

ては, ヨーロッパに実験的に導入したトウヨウミツバチは

セイヨウミツバチと同時刻に飛行している. しかし,同所

的に生息している H本においては,セイヨウミツバチとニ

ホンミツバチ久ゴiの交尾i時刻は 1411寺30分を境として分自ff

しており,ニホンミツバチはセイヨウミツバチより 1.5~2

H寺間遅いことが観察されたけ. f,IJ種ftft的の混成叫において

も,種特典的な交尾飛行時間千15が維持されていることから,

それぞれが本来獲得していた飛行H与聞の相違が反映してい

るのではないかと考えられた3.7)

雄蜂の集合場所

Mt蜂が女王蜂との交尾のために空中の特別な空間に集ま

る現象が 1958年に被告 されの,その後,雌蜂の集合場所

(Drone congregation area,以下 DCAと目的己)と H子ばれる特

別な交尾主問の存,Uoが|珂らかにされた9-1t) 久:J':蜂が DCA

の近くに飛来すると,多数のMf~蜂が韮旦状になって女王的

を一斉に追L、かける(灰11). これは女-E蜂の大JJ忠JJ泉で作ら

れる女:[物質の主成分, 9仏-オキソテデ、セン酸 (ω9-0DA) がド

フエロモンとして機能するためである lロω2刀

DCAの特定は, これまで長い年ーの先やヘリウムガスをつ

めた気球に雄蜂:liH獲JTJのトラップを収り付け,その中に合

成した女王物質や未交尾久e主を付けて行われてきた.ラジ

コン飛行機に雄蜂を:lrli挫する制を取り付ーけて宅仁1:1を旋!日|さ

せ,DCAを調べたユニークな方法もある 13) それらの結果,

雄蜂がどのような場所でも均等に集合するものではないこ

とが示 された DCAのイ丁無は明確に|夫別され,地 l二から

6~ 30111 10 ),あるいは 10~4011111 ) で,集合性の高 L 、場所には

毎1:1同じように多くの雄勝が集まる.風の強い日には,地

|二 1~2111 の高さでも集合がみられる. DCAは直径にして

50~200mI4) とその範聞は限定されている.

DCAの先駆的研 究 を 進 め た Ruttnerand Ruttnerl5)は,

DCAを総括的に次のようにのべている;

(1) DCA は女主蜂の有1!!~にかかわらず,毎年同一場所が

選ばれる (2) 雌蜂は DCA 内で飛行している 11寺,女二E~草

日本j良薬学会誌:

のフェロモンに鋭敏に反応する. (3)女王蜂が DCAから離

れるとMt蜂は追従しなくなる. (4) DCAでのMf蜂の飛行高

度は風速に影響される. (5) Mf~蜂は DCA をすばやく発見し

て,そこで女正蜂と交尾する.

1972年に集合場所での雄蜂の行動解析にレーダーをJFJL、

る方法が提案され15) それが 15年後に現笑的なものとなっ

た. x バンドレーダー(周波数 8000~12400 MHz) をmい

てアリゾナの平坦な{沙漠地,iij-の 3.5X1.5 k111のそれほどjよく

ない地域で 29fllilカ所の DCAが確認された 16) レーダーで

は DCA の l庄径は 80~100m で,数佃の DCA は地 L 40~

60111の比較的高所にあり, 12~30m の低い所にある一つの

大きな DCAと 13kmの飛行経路によって相互に:iili*#されて

いることが明らかとなった.

DCA に関しては興味深い点がいくつかある.その rl'lで Mf~

蜂は繁殖11寺}引を過ぎると死んでしまい,毎年新しく生まれ

変わるのであるが, liff~蜂はどのように DCA を長LI るかという

点である. DCAは毎年変わらず,オーストリアで見つけら

れた DCAは少なくとも 12年間は同じ場所であった 雄蜂

は景観 1'.の特徴ある木や建物などを!傾りにはっきりとした

飛行経路をたどって DCAに飛来する. 空rl1にトラップを!こ

げ,集まっているMf蜂を捕獲して背1.1.1にマークを付けてコ

ロニーに戻 したところ,1 k111以上:Wれた巣箱から DCAに

飛来していることが確認された17) オーストリアでは 7km

も雌れたところから飛来することも報告されているが,先

に述べたレーダーによる観察では, DCAは北木が鋭くi11J

がっているとか,並木の終わりとか,ほかのものによって

一つの強)Jな特徴が壊されているような地理上の特徴がニ

つないしそれ以上重なっている場所が選ばれていることが

わかった. これまで DCAの場所については, 目立つ目印や

景色の+1の特徴的な地形,地表で泊められた上昇気流が市

部する場所,雄蜂がiJ.l巣11寺に感受する光分布などの諸説が

あるが, どういう条件の場所が DCAになるのかは解明され

ていない.

ミツバチのコロニーの1:1:1で,ただ一匹の女王蜂が唯一 コ

ロニーを離れる 30分ほどの交尼飛行は, ).誌などの-tHi食者,

天候の急変,その他の事ilicに遭うなどの生命の危険やエネ

ルギーの消費も大きい. もしその場所を目指して的確に飛

行し,交尾するのに卜分な数だけのliif蜂がすぐに見つける

ことがで・きる主問があれば,女王蜂が危険なコロニー外に

いる 11寺聞が ;1的成され,それだけ 1!!~若手に帰巣する可能性が高

まることになる. さらに多数のコロニーからの雄蜂が集合

していることによって,久Jミ蜂は多様な遺伝チの組合せが

でき,近親交配を避けられるという点で,女・卜ι年にとって

DCA は有利なものとなっている.

日本あるいはアジアでの DCAの発見

これまでセイヨウミツバチの DCAは,オーストリア

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Vol. 36, No.4, 497-502 (2011)

(1963),アメリカ (1963), ドイツ(1973),ベネズエラ

(1982),南アフリカ (1982),イギリス・アイルランド

(1986),オース卜ラリア(1989)で確認されている.

卜ウヨウミツノくチの DCAに関しては, スリランカのイン

ド亜種 CApisceranC/山 iica) で最初に発見された.その場所

は高さ 4-8111のヤシの樹聞から樹上にかけての空間であっ

たIS) 日本での DCAは未発見であったため DCAの探業は

玉川大学キャンパス内とその周辺で雄蜂トラップを用いて

行った. 1989年 5-6月の予備調査において,玉川大学キャ

ンパスに隣接しているZEき地の地 l二10-20111に,セイヨウ

ミツバチの雌蜂が多数集合 している場所を確認した 1989

f年にセイヨウミツバチ雄蜂の集合を確認した地点において,

1990, 1991年に再調査を行った. この調査では気球の代わ

りに長 さ 10111のグラスファイパー製のポールを凡jl、た.

ポールの先端にトラップを取り 付け,地上から約 8111の高

さにトラップを上げた.

最終的に絞り込んだ DCAは,キャンパス内の 4蜂場より

悶へ 300-750111の所にある林に閉まれた約 1,5001112の玉川

大学敷地に隣接する空き地で,近くに日印となる大 きな体

育館がある. ドイツの DCAは林に1mまれた盆地状の践闘の

|二空で,近くに 目立つ教会がある環境と類似していた. ト

ラップに捕獲された雌蜂は,胸部背板にマーキングをして

帰巣させた.その結果,雄蜂はキャンパス内蜂場の 29群や

DCAより lkm離れた住宅地内の 2群など,復数の場所か

ら飛来していることが確認され,キャンパス内での有力な

集合場所であるとともに, 1:1木であるいはアジアで最初に

発見したセイヨウミツバチの DCAであると考えられた 19)

(図 2).

ミツバチ属の 4種,セイヨウミツバチ, トウヨウミツバ

チ,コミツバチ,オオミツバチの女 U'fの大!出版からは,

性フェロモンの主成分として 9-0DAが共通して見111され,

それが 4種の雄蜂に対して誘引活性があることが椛認され

ているが, トラップにセイヨウミツバチ雄蜂が多数誘引・

捕獲された DCAでニホンミツバチi私自宅は 1990年に 6匹,

1991 fj二に 7匹のみであり,両年に捕獲された 663匹のうち

わずかに 1.9%と捕獲数が極めて少なかったため, この地点

は主にセイヨウミツバチが集合場所にしていると考えられ

た7.17)

ニホンミツバチの DCAは, 1991年 5月にキャンパス内

で目立つように生い茂る樹高 10111ほどのクヌギの樹冠から

さらに 10111ほどヒ笠,地上からは 20111の地点に多数のli.ff

蜂が集合していることを確認した ニホンミツバチは周凶

の地形の中で 目立つ木の上空部分を DCAにしていると考え

られた20)

玉川大学キャンパス内でのニホンミツバチ DCAを確認す

る l年前の 1990年 6月に岩手県感岡市でケヤキの樹上に

DCAを発見している 21) *近になり 2007年に神奈川県秦

向平 ::~ 499

野市でケヤキの樹上lこDCAが確認され,現在日木では 3伽l

所が知られている.これらの状況から判断するとニホンミ

ツバチの DCAは周囲の地形のrlコで目立つ樹の梢の上空を

DCAにしていると確信され,これまで知られていたセイヨ

ウミツノ〈チの DCAや, トウヨウミツノくチのインド1五f]llとは

異なるものであった.

Ruttner and Mau122)は, ドイツにおいて実験的に導入した

トウヨウミツバチとセイヨウミツバチの DCAは共通である

と報告 している. しかし今回の事例ではセイヨウミツバチ

とニホンミツバチ DCAが呉なる場所に独立に見つかり, 2

種間での DCAの共有性がないことが示唆された. 日本では

交尾飛行時間のキEI違に加えて,交尾場所の違いが 2程ミツ

バチの生殖陥l~jP'をより篠実なものとし,両者の共存を可能

にしていると考えられた叫.

女王蜂と雄蜂の交尾行動

女王蜂に対する雄蜂の交足行動は,地上から約 10mの高

さのポールに取り付けた俸の先に女王蜂をくくりつけ,飛

行状態を作り出すために回転させながら,その様子はビデ

オぬ影を駆使して解明されてきた24) 女王蜂を追従してい

る20-100匹の雄蜂は,互いに競争しているが,直接的な

闘L、は観察されていなく,最も速く飛ぶ雄蜂が交j毛するこ

とができる. 1t:ft蜂は女王蜂の背而から腹部の部分を六本の

JJ支でとらえて馬乗り状になると,すぐに腹部を山げ,交j歪

器を女王蜂の開,-,した腹部先端の刺主|室に押入する.柿入

後,雄蜂の交尾器は反転した形で飛び山てくるが, 半分を

反転した II~J'点 でli.ff 蜂は硬直状態になり,遡ばたきが停止し,

のけぞるように後方に倒れる. しかし,女王蜂は硬直した

雄蜂と結合したままの状態、になっており,数秒間の静止時

間の後,雄蜂は硬直しながらも交)主総を完全に反'1なさせ精

液が愉卵管に放山される.雄蜂が硬直 した状態では,精液

は女王蜂の輸卵管に放出されないのでは, と考えられるが

交尾器の反転が数秒間の静止時間の後に起こることから,

女王蜂の側が何らかの積械的な役割を果たしている可能性

が高いと考えられている.交尾器が完全に反転し,すべて

が露出すると女王蜂の腹部からぶら下がるように交足総が

長く仲ぴて死亡し,交尾器が切れて地上に落下する.

1990年に玉川大学に隣依する空き地に発見した日本てサ%

ーのセイヨウミツバチ DCAは, 2008年の調査において 18

年間変わりなく雌蜂の集合が見られた.女主蜂とt#虫干の交

尾行動は,グラスファイパー製検測梓の上端に小型モー

ターによる速度可変式(時速 2.6-8.7kl11)旋回装置を取り

付け,羽化後 6-10日目のセイヨウミツバチ未交尾女王を

士山上から 6-8mの上空で旋回させた.その結果女王蜂に対

して多数のセイヨウミツバチtm蜂が主主尾型となって追従し,

交尾することが観察された (I~l 1).

玉川大学でのセイヨウミツバチ配偶行動の観察は, DCA

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500 育問忠11百 LI本農薬学会誌

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44

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国 4. ニホンミツバチ DCA で lì!t~認されたニホンミツバチ女王

l 蜂と泌蜂の交尾

図1. 旋回装置に取り付けた久ム王蜂を主主星状になって追従する

雄蜂

図 2. ヘリウムガス人りの気球で上昇させた雄的捕獲用トラッ

プに誘引された雄蜂

図 3. ニホンミツバチ DCAに設置した観察塔

図 5. セイヨウミツバチ,ニホンミツバチ DCAでの積間交尾

(左)セイヨウミツバチ女王蜂とニホンミツバチ雄蜂, (右)ニ

ホンミツバチ女王蜂とセイヨウミツバチ縦蜂

が 10mほと、の上空であるため,地上から女王蜂とJ.i.ft蜂の行

動を線認することができる. しかしニホンミツバチの場合

は 20111と高所であるため観察は不可能であった.そのため

ニホンミツバチ DCAの真下に観察塔の設置を検討し, 2007

"1:: 11月にニホンミツバチ DCAに 16mの高さの観察塔を設

置することができた(図 3). 2008年5月の交j五時期での予

備調査の後, 2009 "1: 5月に観祭j芥から 15111ヒ空にMi蜂捕

獲トラップを上げたところ,ニホンミツバチ雄蜂が多数trH

図 6. 最後に交尾したa:ff蜂の交尾標識を付けて帰巣した女王蜂

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Vol. 36, No.4, 497-502 (201 1)

獲され,集合場所は 16年間変化していないことがわかっ

た.また, 2009 :"1ミ5月に観察溶から 8m-'二空でニホンミツ

バチ米交尾女ヨ二を取り付けたポールでの交尾行動観察を実

施し,ニホンミツバチ女王蜂と雄蜂の交J~を初めて確認す

ることに成功した.さらに 2010年 5月には,ポール上のニ

ホンミツバチ久ム王蜂に対して 3匹のニホンミツバチ雄蜂が

次々に交尾し,女王蜂と Mj~自宅の交尾状態のぬ影にも成功す

ることができた ([~14).

セイヨウミツバチの場合,人為的な条件下で交尾を成立

させるには,ポール」二の女王蜂を|回転させることが必要で

あった. しかし交尾のために飛来したと忠われるニホンミ

ツバチ女王蜂に対して,雄9!宇がホノくリング状態の集|却を形

成する行動が観察搭で度々確認された.そこで女王蜂の回

転を停止したところ, !t:it蜂との交尾が認められたことから,

セイヨウミツバチとの交尾行動に違いがあるのではないか

と考えている.

セイヨウミツバチとニホンミツバチの種間交尾

セイヨウミツバチ女王降は 14:40より以前に,ーブjニホ

ンミツバチは 14:40より以降に交尾傑識を付けて帰巣して

おり,阿種の交尾完了時刻の分離が認められリ]らかに二

山になって分かれているものの, 完全な隔離ではなく -;~I)

オーノ〈ーラップした形となっている.このオーバーラップ

した11喜一lii]帯にセイヨウミツバチ DCA,ニホンミツノくチ DCA

に兵務Mt蜂が飛来していることが般かめられ,それぞれの

DCAで権問交尾が実際に観祭された(図 5). さらに 臼然

状態で種間の交尾が起こるか否かについて,ニホンミツバ

チだけが生息しているI1ff~ーの 烏である 長崎県文打5にセイヨ

ウミツバチ米交尾女王を一時的にilliぴ実験を行った.その

結果. 2年間の笑験で 35pt;巾 28I庄がニホンミツバチ雄蜂

と交尾し,交足率 80%というかなりの頻度での極間交尾を

(椛認した25)

異様精子と受精した卵は, !J壬発育初期jの段階で死亡して

しまうことが報告されているが 22) 対局から持ち帰ったセ

イヨウミツバチ久宇王蜂の産んだ卵は解化することはなく,

すべてJB;発育は途 101-'でf宇止し雑種イ同体はできないことが明

らかとなった.

交尾標識の役割

交尾が成功した女王蜂は,刺主l笠を満たすように雄蜂の

キIlî波と ~I:.殖探から取れたキチン背板からなる交尾標識 Cmat­

ing sign) を腹部先端に付けて巣箱に戻 り(図 6),交尾標識

は低IJき蜂によって取り 去 られる. これまで交尾標識の役割

について多くの議論がなされ,交尾標識は連続的に起こる

交尾を防くための栓として機能していると考えられてい

た26) しかし空中での行動がビデオ撮影によって詳しく観

察され,交尾標識は交尾を防ぐための栓として機能してい

角平 f;l~ 501

るのではないことが確かめられた27)

女王蜂は飛行 している問,述続的にMH華と交尾する.交

尾した雄蜂は地上に落下する際に,前に交尾した雄J$が残

した交尾標識を 自分の交尾器の特殊な毛に引っかけるよう

にして取り 去り,代わりに自分の交尾襟識を践すのである.

したがって帰巣した女王蜂に付いている交尾標識は,最後

に交尾 した雄蜂のものである. この交尾標識の役割につい

ては新しい機能が提H目されている27)

女王蜂の体内に掃入されている雄蜂の交尾器の反転した

先端部は,精子と粘液,キチン質の背板でかなりの111さに

なっている そのため雌止条は役直 して女主蜂の後方にぶら

|ごがった状態を維品できるのである. Mt蜂が女ヱ蜂から :~íf

れ落下する|擦に,交尾楳識は女王蜂の刺針室を聞いた状態

で刺針を上)jに~Jlし じげている. このことから,雄勝の交

)主総を傷っけないような機能を果たしているのではなし、か

と考えられている. さらに交尾標識は次に交尾をする雄蜂

を助ける視覚的な 目標となり,続く交尾を容易にしている

交尾燃識の存在は,女王蜂と1ifs蜂の交尾をよfiめ,女王蜂の

飛行11寺聞を知新iすることができる. これにより交尾したMf

蜂遠の精子がコロニーで反映できる可能性を地すことにな

る. この協力的な特性は雄由来にとっても有利になり,雄蜂

同士の“死後の協力"として役立 っているとの仮説も述べ

られている28)

女王蜂の多回交尾

女主峰はどのくらいの雄蜂と交尾 しているかについては,

帰巣院後に女王蜂が保有 している精子数から舵定すること

ができる.セイヨウミツバチ女主的の1i-:右に分かれた輸卵

管1=1:1の精子数を制べて見ると回の交尾飛行で 8700Hの

精子を受け取っており, Jijf蜂 l目玉のキi'j-f数は約 1100万であ

ることから, 81正の雄蜂と交尾したことが推察されてい

る29) 交尾回数については,解析が進むほど、111mがあるが,

セイヨウミツバチでは 12Iι 卜ウヨウミツノ〈チでは 18匹

程度と考えられている 30) さらに 1[[1の交尾飛行で精子誌

が十分確保できない場合には,その日の内か,または 1-2

円以内に 2 回 I~I , 3旧日の飛行を行うことも認められた29)

しかし精子を貯蔵しているl直径卜1-1.3ml11,容積量約 lμL

の受精嚢内に貯えられている精子数は 500-700万である.

女王蜂は輸卵管にすべての雄的の精子を貯め, 20時間ほど

で受精嚢は精子で一杯になるが,輸卵管中の 90%以 l二の精

子は絢1~、糸状になって排出されてしまう.受精嚢内の精子

はよく混じり合っており, 3-10束の精子が中央輸卵管に放

出され卵との受精に使われる.女王蜂は l匹もしくは数日五

の雌蜂との交尾では,十分な受精卵の産卵を行うことがで

きず,そのコロニーはやがて消失するような弱群になる.

精子を 100万以下しかもっていない女王蜂は,次の分蜂期

に強群を作るのに必要な 30万の卵を受精させることができ

Page 7: ミツバチの配偶行動DOI: 10.1584/jpest山.WII-24 ミツバチの配偶行動 士口 玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センター 田忠晴* (2011 1, ド7n

502 片I:U忠lIi'i

ず, コロニーの発達は久ー王蜂の受精嚢中の精子数に直接左

右される.

女王蜂の多国交尾は, 女王蜂が後数の群からの ~m虫干と の

交配を通 じて遺伝的多様性を確保するためのものである.

DCAの選択や多回交尾の利点はまだ明確にされていないが,

この交尾行動の生物学的な特徴は,真社会性昆虫として進

化したミツバチの重要点の一つであることを示唆している.

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略歴

ff ru ,'J;,lIfi (よしだただはる)

~ 1::. l,rJ'j 1'1 : 1946 1ド6n 30 1:1

』訴さこ:f:l経.ヰ:川大学j災学官Il卒業

研究テーマ ニホンミツバチとセイヨ ウミツバチの配偶行動

に|刻する比中立~f::.態、 ''ÿ:的 IWIリj,ニホンミツバチの

益的積としての選抜荷額

他 日本:1:1宅庭先でのペットとしてのニホン ミツバチ飼育,テ

ニス